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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012139
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】電動車両の冷却制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20250117BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20250117BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20250117BHJP
   B60K 11/04 20060101ALI20250117BHJP
   B60K 1/04 20190101ALI20250117BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60L7/14
B60L9/18 P
B60K11/04 G
B60K1/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114733
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】川西 裕士
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
【テーマコード(参考)】
3D038
3D235
5H125
【Fターム(参考)】
3D038AB01
3D235AA01
3D235BB26
3D235BB45
3D235BB53
3D235CC12
3D235DD12
3D235DD13
3D235HH12
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125BA05
5H125BB07
5H125CA02
5H125CB02
5H125CD06
5H125EE42
5H125EE44
5H125EE53
5H125FF22
(57)【要約】
【課題】走行用のモータを冷却するオイルポンプが、急加減速時に空気を吸い込むことを防止もしくは抑制する。
【解決手段】前輪用第1モータにオイルを供給する第1オイルポンプと、後輪用第2モータにオイルを供給する第2オイルポンプと、第1オイルポンプと第2オイルポンプとを制御するコントローラ31を備え、コントローラ31は、第1モータおよび第2モータを動作させて走行している際の加速度および減速度の少なくともいずれか一方を検出する検出部31aと、検出部31aで検出された加速度と減速度とのいずれか一方が予め定めた閾値を超えていることを判定する急加減速判定部31bと、加速度と減速度とのいずれか一方が予め定めた閾値を超えていることが判定された場合に、第1モータと第2モータとのうち負荷の小さい方のモータにオイルを供給するオイルポンプによるオイルの供給量を低下させる制御を行う低減制御部31cとを備えている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪を駆動する第1モータと、前記第1モータにオイルを供給する第1オイルポンプと、後輪を駆動する第2モータと、前記第2モータにオイルを供給する第2オイルポンプとを備え、加速時には前記第2モータの負荷が前記第1モータの負荷より大きくなり、かつ減速時には前記第1モータの負荷が前記第2モータの負荷より大きくなる電動車両の冷却制御装置であって、
前記第1オイルポンプと前記第2オイルポンプとを制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記第1モータおよび前記第2モータを動作させて走行している際の加速度および減速度の少なくともいずれか一方を検出する検出部と、
前記検出部で検出された前記加速度と前記減速度とのいずれか一方が予め定めた閾値を超えていることを判定する急加減速判定部と、
前記加速度と前記減速度とのいずれか一方が予め定めた閾値を超えていることが前記急加減速判定部によって判定された場合に、前記第1モータと前記第2モータとのうち前記負荷の小さい方のモータに前記オイルを供給する前記オイルポンプによる前記オイルの供給量を低下させる制御を行う低減制御部とを備えている
ことを特徴とする電動車両の冷却制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車両の冷却制御装置であって、
前記第1モータと前記第2モータとは、発電機能を備えたモータであり、
前記負荷は、前記第1モータと前記第2モータとのそれぞれが出力するトルクと、発電することによる回生トルクとである
ことを特徴とする電動車両の冷却制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動車両の冷却制御装置であって、
前記低減制御部は、前記急加減速判定部によって、前記加速度が前記閾値を超えていることが判定された場合に、前記第1オイルポンプによる前記オイルの前記第1モータに対する前記オイルの供給量を低下させることを特徴とする電動車両の冷却制御装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の電動車両の冷却制御装置であって、
前記低減制御部は、前記急加減速判定部によって、前記減速度が前記閾値を超えていることが判定された場合に、前記第2オイルポンプによる前記オイルの前記第2モータに対する前記オイルの供給量を低下させることを特徴とする電動車両の冷却制御装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の電動車両の冷却制御装置であって、
前記オイルの供給量を低下させる前記制御は、前記負荷の小さい方の前記モータに前記オイルを供給する前記オイルポンプの回転数を低下させる制御であることを特徴とする電動車両の冷却制御装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の電動車両の冷却制御装置であって、
前記コントローラは、
前記第1オイルポンプによる前記オイルの前記第1モータに対する前記オイルの供給量を低下させた場合に、前記第1モータの出力トルクを低下させるトルク制御部を更に備えていることを特徴とする電動車両の冷却制御装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載の電動車両の冷却制御装置であって、
前記コントローラは、
前記第2オイルポンプによる前記オイルの前記第2モータに対する前記オイルの供給量を低下させた場合に、前記第2モータの出力トルクを低下させるトルク制御部を更に備えていることを特徴とする電動車両の冷却制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力源に電動機(モータ)を備えている車両において、モータなどの冷却を行うための制御装置に関し、特にオイルによって冷却を行う冷却制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動車両の一例が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された車両は、エンジンと発電機能のあるモータ(もしくはモータ・ジェネレータ)とを備えており、エンジンと所定のモータとによって前輪を駆動し、後輪を他のモータによって駆動するように構成されている。したがって、特許文献1に記載された車両では、前輪をエンジンと所定のモータとによって駆動して走行する二輪駆動状態と、これに加えて後輪を他のモータによって駆動して走行する四輪駆動状態とを選択することができる。また、前輪は、エンジンを停止して所定のモータのみによって駆動することが可能であり、その場合には、電動車両はいわゆる電気自動車(BEV)として機能することになる。
【0003】
一方、電動車両における駆動力源として機能するモータは、電動車両の駆動要求や回生制動要求に応じて大電流が流れることがあり、また不可避的な鉄損やジュール損などが原因となって発熱し、その発熱量は電流に応じて大きくなる。モータの温度が高くなると、モータ自体が損傷したり、その耐久性が低下するだけでなく、モータの出力が低下するので、電動車両に搭載されているモータは冷却する必要がある。特許文献2には、ハイブリッド車両がモータのみを駆動力源として走行するいわゆるEV走行時に、電動オイルポンプを駆動して、変速機と共に走行用モータにオイルを供給して冷却するように構成した油圧装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-168300号公報
【特許文献2】特開2019-123387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように前輪を駆動するモータと後輪を駆動するモータとを搭載した車両では、それらのモータを互いに独立して制御することになるから、モータの動作状態は互いに異なったものとなる。したがって、特許文献2に記載されているように、電動オイルポンプによってオイルを汲み上げて走行用のモータを冷却するとすれば、それぞれのモータに対応させてオイルポンプあるいはオイルポンプを主体とした冷却装置もしくは冷却ユニットを設けることが考えられる。
【0006】
電動車両における前側モータおよび後側モータを個別にオイルで冷却する場合、以下のような技術的な課題がある。すなわち、電動車両が走行すれば、必ず、加減速度が生じ、それに伴って、冷却もしくは潤滑のためのオイルに慣性力が作用し、その油面高さ(オイルレベル)が変化する。このような変化によってオイルパン中のオイルレベルが低下した場合、オイルポンプの吸込口もしくはストレーナが油面から大気側に露出し、その結果、オイルポンプが空気を吸い込んでしまうことがある。オイルポンプが空気を吸い込むと、モータや潤滑箇所に対するオイルの供給量が想定している量より少なくなるので、冷却不足や潤滑不足が生じる可能性がある。
【0007】
前後の車輪をそれぞれの車輪に対応させて設けたモータによって駆動し、また回生制動し、さらにそれらのモータをそれぞれに対応させて設けたオイルポンプもしくはオイルポンプを主体とする冷却装置によって冷却する電動車両における上述した技術的な課題は、従来、検討されていず、また課題解決のための好適な技術は、従来、知られていない。
【0008】
なお、上記の技術的課題に対処するために、加減速度が生じた場合であってもオイルレベルをある程度の高さに維持するべく、オイルパン中のオイル量を予め多くしておくことが考えられるかも知れない。しかしながら、オイル量を多くすると、その分、車両の全体としての重量が増大し、エネルギ効率(電費)が悪化する不都合がある。
【0009】
本発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、加速度ならびに減速度が生じた場合にオイルポンプを好適に制御して、オイルポンプの空気の吸い込みやそれに伴うモータの冷却の不良を回避もしくは抑制でき、かつ車両の軽量化によるエネルギ効率(電費)の改善を図ることのできる電動車両の冷却制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、前輪を駆動する第1モータと、前記第1モータにオイルを供給する第1オイルポンプと、後輪を駆動する第2モータと、前記第2モータにオイルを供給する第2オイルポンプとを備え、加速時には前記第2モータの負荷が前記第1モータの負荷より大きくなり、かつ減速時には前記第1モータの負荷が前記第2モータの負荷より大きくなる電動車両の冷却制御装置であって、前記第1オイルポンプと前記第2オイルポンプとを制御するコントローラを備え、前記コントローラは、前記第1モータおよび前記第2モータを動作させて走行している際の加速度および減速度の少なくともいずれか一方を検出する検出部と、前記検出部で検出された前記加速度と前記減速度とのいずれか一方が予め定めた閾値を超えていることを判定する急加減速判定部と、前記加速度と前記減速度とのいずれか一方が予め定めた閾値を超えていることが前記急加減速判定部によって判定された場合に、前記第1モータと前記第2モータとのうち前記負荷の小さい方のモータに前記オイルを供給する前記オイルポンプによる前記オイルの供給量を低下させる制御を行う低減制御部とを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明では、前記第1モータと前記第2モータとは、発電機能を備えたモータであり、前記負荷は、前記第1モータと前記第2モータとのそれぞれが出力するトルクと、発電することによる回生トルクとであってよい。
【0012】
本発明では、前記低減制御部は、前記急加減速判定部によって、前記加速度が前記閾値を超えていることが判定された場合に、前記第1オイルポンプによる前記オイルの前記第1モータに対する前記オイルの供給量を低下させるように構成されていてよい。
【0013】
本発明では、前記低減制御部は、前記急加減速判定部によって、前記減速度が前記閾値を超えていることが判定された場合に、前記第2オイルポンプによる前記オイルの前記第2モータに対する前記オイルの供給量を低下させるように構成されていてよい。
【0014】
本発明では、前記オイルの供給量を低下させる前記制御は、前記負荷の小さい方の前記モータに前記オイルを供給する前記オイルポンプの回転数を低下させる制御であってよい。
【0015】
本発明では、前記コントローラは、前記第1オイルポンプによる前記オイルの前記第1モータに対する前記オイルの供給量を低下させた場合に、前記第1モータの出力トルクを低下させるトルク制御部を更に備えていてよい。
【0016】
本発明では、前記コントローラは、前記第2オイルポンプによる前記オイルの前記第2モータに対する前記オイルの供給量を低下させた場合に、前記第2モータの出力トルクを低下させるトルク制御部を更に備えていてよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、加速度もしくは減速度が所定の閾値を超えている場合、負荷の小さい方のモータに対するオイルの供給量を低下させる。すなわち、いわゆる急加速の場合、第2モータの出力トルクを大きくし、第1モータの出力トルクは特には大きくしないので、第1モータの負荷が第2モータの負荷よりも小さくなる。反対に、いわゆる急減速の場合、第1モータで制動力を発生させるので、その負荷が第2モータの負荷よりも大きくなる。急加速や急減速が生じると、オイルの油面高さ(オイルレベル)が変化し、オイルポンプでオイルを汲み上げる箇所でのオイルレベルが低下することがあるが、負荷の小さいモータに対するオイルの汲み上げが低下するので、そのオイルレベルの更なる低下を抑制してオイルポンプによる空気の吸い込みを防止もしくは抑制でき、また吸込口が万が一大気に開放したとしても空気の吸い込みを少なくすることができる。したがって、オイルの量を予め多くしておく必要がないので、車体重量の軽量化やそれに伴うエネルギ効率(電費)の向上を図ることができる。
【0018】
また、本発明では、上記のトルク制御部を設けた場合、オイルの供給量が低下されるモータの出力トルクを低下させるので、オイルによる冷却の低下と共に発熱を低下させることになり、その結果、モータやオイルの温度上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態における車両の一例としての四輪独立駆動車両の駆動系統を模式的に示すブロック図である。
図2】その後輪側の駆動ユニットの一例を示すスケルトン図である。
図3】その前輪側の駆動ユニットの一例を示すスケルトン図である。
図4】車両の走行ならびに停止および旋回のための各種の機構を説明するための模式図である。
図5】コントローラの機能的構成および入力信号を例示するブロック図である。
図6】本発明の実施形態で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに、本発明の実施形態を添付の図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明を実施した場合の一例に過ぎないのであって、本発明を限定するものではない。
【0021】
本発明で対象とする車両は、前側の二輪および後側の二輪の合計四輪の車両であって、前側の二輪および後側の二輪のそれぞれに駆動力源を設けて、前側の二輪および後側の二輪のそれぞれを互いに独立して駆動できる車両である。なお、前側の二輪は適宜の差動機構を介して前輪用の駆動力源に連結され、また後側の二輪は、適宜の他の差動機構を介して後輪用の駆動力源に連結されていてもよい。さらには本発明で対象とする車両は、前後四輪のそれぞれに対応させて駆動力源を設けて、四輪のそれぞれの駆動トルクや回生制動トルク(回生トルク)を互いに独立して制御できるように構成した車両であってもよい。図1には、前輪と後輪との駆動トルクあるいは回生制動トルクを互いに独立して制御できることに加えて、四輪全てを互いに独立して駆動できるように構成した四輪独立駆動車両の例を模式的に示している。ここに示す車両Veは、左右の前輪1r,1lと左右の後輪2r,2lとを備え、前輪1r,1lと後輪2r,2lとのそれぞれに対応して駆動力源としての駆動ユニットPf,Prが設けられている。これらの駆動ユニットPf,Prは、それぞれ、モータおよび歯車減速機構(伝動機構)を主体として構成されている。
【0022】
図2に後輪2r,2l側の駆動ユニットPrの一例をスケルトン図で示してある。この駆動ユニットPrは、左右の後輪2r,2lを互いに独立して制御する一対の駆動系統によって構成されており、それらの駆動系統は左右対称な構成であるから、特に「右」、「左」と断らずにまとめて説明する。なお、以下の説明では、参照符号のうちの添え字(サフィクス)が1文字の場合、「f」は前輪用、「l」は左車輪用、「r」は右車輪用もしくは後輪用であることを示し、2文字である場合には、1文字目の「f」が前輪用、「r」が後輪用であること、2文字目の「r」が右車輪用、「l」が左車輪用であることを示す。
【0023】
後輪2r,2lの駆動ユニットPrには、モータMrr,Mrlがその回転中心軸線を車両Veの前後方向に向けて搭載されており、そのロータ軸にドライブギヤ3rr,3rlが取り付けられ、このドライブギヤ3rr,3rlがカウンタドリブンギヤ4rr,4rlに噛み合っている。そのドライブギヤ3rr,3rlよりもカウンタドリブンギヤ4rr,4rlが大径であり、したがってこれらのギヤ対が減速機構を構成している。カウンタドリブンギヤ4rr,4rlと同一軸上にベベルギヤであるカウンタドライブギヤ5rr,5rlが一体回転するように設けられており、このカウンタドライブギヤ5rr,5rlが、後輪2r,2lに連結されているドライブシャフト6rr,6rlと一体のベベルギヤであるドリブンギヤ7rr,7rlに噛み合っている。カウンタドライブギヤ5rr,5rlよりもドリブンギヤ7rr,7rlを大径にすることにより、これらのギヤ対を減速機構とすることができる。
【0024】
これらのモータMrr,Mrlや減速機構ならびに各ベベルギヤはケーシング8の内部に液密状態で収容されている。このケーシング8の内部のモータMrr,Mrlに対して、冷却や潤滑のためのオイルを供給する電動式のオイルポンプOPrr,OPrlが設けられている。なお、後輪2r,2l側のオイルポンプは、左右のモータMrr,Mrlに一括してオイル10rを供給する単一のオイルポンプであってもよい。これらのオイルポンプOPrr,OPrlはケーシング8の外部で車両Veの適宜の箇所に設けられており、オイル溜まり9rからオイル10rを汲み上げて、ケーシング8を貫通して設けた冷却油路11rr,11rlを介してモータMrr,Mrlにオイル10rを供給するように構成されている。なお、特には図示していないが、ケーシング8の内部からオイル溜まり9rにオイル10rが還流するように構成されている。また、冷却油路11rr,11rlの途中にオイルクーラを設けてもよい。
【0025】
図3に前輪1r,1l側の駆動ユニットPfの一例をスケルトン図で示してある。この駆動ユニットPfは左右対称な構成であるから、特に「右」、「左」と断らずにまとめて説明する。モータMfr,Mflがその回転中心軸線を車両Veの幅方向(横方向)に向けて搭載されており、そのロータ軸にドライブギヤ12fr,12flが取り付けられ、このドライブギヤ12fr,12flがアイドルギヤ13r,13lに噛み合っている。このアイドルギヤ13r,13lの回転中心軸線と平行にカウンタシャフト14r,14lが設けられており、このカウンタシャフト14r,14lに取り付けられているカウンタドリブンギヤ15fr,15flにアイドルギヤ13r,13lが噛み合っている。モータMfr,Mrlに取り付けられているドライブギヤ12fr,12flによりもカウンタドリブンギヤ15fr,15flが大径であることにより、これらのギヤ対によって減速機構が構成されている。カウンタシャフト14r,14lにはカウンタドライブギヤ16fr,16flが取り付けられており、このカウンタドライブギヤ16fr,16flが前輪1r,1lに連結されているドライブシャフト17fr,17flと一体のドリブンギヤ18fr,18flに噛み合っている。このカウンタドライブギヤ16fr,16flよりもドリブンギヤ18fr,18flが大径であることにより、これらのギヤ対によって減速機構が構成されている。
【0026】
前輪1r,1l側のモータMfr,Mflは、後輪2r,2l側のモータMrr,Mrlと同様にオイル10fによって冷却するように構成されている。すなわち、前輪1r,1l側のモータMfr,Mflに対応して電動式のオイルポンプOPfr,OPflが設けられており、これらのオイルポンプOPfr,OPflがオイル溜まり9fからオイル10fを汲み上げて、冷却油路19fr,19flを介してモータMfr,Mflにオイル10fを供給するように構成されている。なお、特には図示していないが、モータMfr,Mflを冷却したオイルはオイル溜まり9rに還流するように構成されている。また、冷却油路19fr,19flの途中にオイルクーラを設けてもよい。なお、前輪1r,1l側のオイルポンプを、前述した後輪2r,2l側のオイルポンプと同様に、左右のモータMfr,Mflに一括してオイル10fを供給する1つのオイルポンプとしてもよい。
【0027】
潤滑のためのオイルを汲み上げるオイルポンプOPmが設けられている。このオイルポンプOPmは、機械式のポンプであって、図3に示す例では、左前輪1l側のカウンタシャフト14lに連結されている。したがって、このオイルポンプOPmは車両Veが走行している場合に駆動されて、オイル溜まり9fからオイル10fを汲み上げるとともに、歯車や軸受などの所定の潤滑箇所にオイル10fを供給するように構成されている。
【0028】
上記の各モータMfr,Mfl,Mrr,MrlやオイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlとの間で電力を授受する蓄電装置(Bat)20が設けられている。この蓄電装置20は、リチウムイオン電池や全固体電池などの二次電池を主体として構成されている。各モータMfr,Mfl,Mrr,Mrlは例えば永久磁石式の同期電動機であり、これらのモータMfr,Mfl,Mrr,Mrlはインバータを主体とするパワーコントローラPCf,PCrを介して蓄電装置20に接続されている。したがって各モータMfr,Mfl,Mrr,Mrlはその出力トルクやエネルギ回生時の制動トルクを互いに独立して個別に制御される。なお、パワーコントローラPCf,PCrは機能が互いに独立していればよく、全体として一体のユニットとして構成してあってもよい。
【0029】
車両Veは、走行ならびに停止および旋回のための各種の機構を、通常の車両と同様に備えている。その主な構成を図4に模式的に記載してある。各車輪1r,1l,2r,2lにブレーキ機構Bfr,Bfl,Brr,Brlが設けられている。これらのブレーキ機構Bfr,Bfl,Brr,Brlは、ブレーキペダル21を操作することにより制動力を発生することに加えて、電気的に制御されて制動力を発生するように構成されている。その制動力を電気的に制御するシステムとして、ビークルスタビリティコントロール(VSC)22が設けられている。VSC22は従来知られている構成と同様の構成であってよく、例えば各車輪の駆動力を制限するようにブレーキ機構Bfr,Bfl,Brr,Brlを動作させるトラクションコントロールシステム(TCS)23や、各車輪のロックを回避するようにブレーキ機構Bfr,Bfl,Brr,Brlの制動力を低減もしくは解放するアンチロックブレーキシステム(ABS)24を統合したシステムである。したがって、VSC22による制御が実行された場合には、車両Veに加減速度が生じる。
【0030】
図4に示す車両Veは、前輪1r,1lが転舵輪であって、ステアリングホイール25およびステアリングリンケージ26ならびに操舵力をアシストするアクチュエータ27などからなるパワーステアリング機構(PSもしくはEPS)が設けられている。
【0031】
さらに、車両Veには、加減速操作を行うためのアクセルペダル28や、変速段もしくは走行レンジを選択するためのシフト装置29、走行モードを選択するためのモード選択スイッチ30などが設けられている。これらのシフト装置29やモード選択スイッチ30は、フロアーやセンターコンソールなどに設けられたレバーによって変速段(変速比)を選択する構成のもの、あるいはシフトレンジを選択する構成のもの、さらにはマニュアルポジションでアップ操作もしくはダウン操作することにより1段ずつ変速段を切り替える構成のものであってよく、あるいはインストルメントパネルやステアリングホイールもしくはステアリングコラムなどに設けられたボタンスイッチを操作することによりシフトレンジを順に切り替え、あるいは変速段(変速比)を1つずつ切り替える構成のものであってもよい。
【0032】
なお、走行モードは、主として、駆動トルクを所定の基準に基づいて制御する制御形態であって、加速性やエネルギ効率(電費)が標準的な値となるノーマルモードや、電費を加速性よりも優先して制御するエコノミーモード、加速性もしくは動力性能を高めたスポーツモード、旋回性能を高めたトラックモード、ドライビング精度を更に向上させるドリフトモードなどである。これらの走行モードは、上記のシフト装置29やモード選択スイッチ30を操作することにより選択される。また、ノーマルモードやエコノミーモード以外の走行モードは、一般的には、運転者がより大きい駆動力や制動力を求めて選択するので、前後の車輪1r,1l,2r,2lを駆動輪とする四輪駆動状態が設定される。なお、ノーマルモードであっても、急加速操作もしくは急減速操作が行われた場合には、四輪駆動状態が設定されることがある。
【0033】
車両Veの車速を含む各種の動作状態あるいは走行要求状態は、センサによって検出されている。そのセンサの例を挙げると、特には図示しないが、車速センサ、アクセル開度センサ、油温センサ、操舵角センサ、シフトポジションセンサ、ブレーキセンサ、走行モードセンサ、モータ回転数センサ、モータ温度センサなどである。
【0034】
これらのセンサで検出された動作状態や走行要求状態などに基づいて、上述した各電動式のオイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlの回転数あるいはこれらのオイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlから各モータMfr,Mfl,Mrr,Mrlに対するオイル10f,10rの供給量、さらには各モータMfr,Mfl,Mrr,Mrlによる駆動トルクや発電することによる回生制動トルク(回生トルク)を制御するコントローラ31が設けられている。コントローラ31は、マイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータを使用して、所定のプログラムに従って演算を行い、その演算の結果を、前述したオイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlやパワーコントローラPCf,PCrなどに、制御指令信号として出力するように構成されている。
【0035】
特にコントローラ31は、各オイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlからモータMfr,Mfl,Mrr,Mrlに供給するオイル10f,10rの量を、加減速度の状態に応じて制御するように構成されている。具体的には、加速度もしくは減速度が大きい場合には、各オイル溜まり9f,9rでの油面高さ(オイルレベル)が変化し、オイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlがオイル10f,10rを吸い上げる吸入口もしくはストレーナ(それぞれ図示せず)の箇所でのオイルレベルが低くなる場合があり、また各モータMfr,Mfl,Mrr,Mrlの負荷が異なるので、そのような状況に合わせて、オイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlが汲み上げるオイル量を制御する。コントローラ31は、そのような制御を行うために図5に例示する機能的構成(もしくは機能的手段)を備えている。
【0036】
コントローラ31は、車両Veの加速度や減速度を検出する検出部31aを備えている。車両Veの車速は、車速センサによって常時検出されているので、検出部31aはその車速信号を時間微分することにより加速度や減速度を検出する。あるいは車両Veが加速度センサを備えている場合には、検出部31aは、その加速度センサによって検出された加速度もしくは減速度を読み込む。検出部31aで得られた加速度もしくは減速度に基づいて、急加速が生じたこと、もしくは急減速が生じたことを判定する急加減速判定部31bが設けられている。ここで、急加速や急減速とは、慣性力によるオイルレベルの変化がオイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlによるオイル10f,10rの汲み上げに影響を及ぼすことが想定される加速度もしくは減速度が生じる車速の変化である。その判定は、加速度や減速度についての閾値を予め用意しておき、検出部31aによって検出された加速度もしくは減速度がその閾値を超えたか否かを判定することにより行うことができる。
【0037】
各オイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlによるオイル10f,10rの汲み上げ量もしくは各モータMfr,Mfl,Mrr,Mrlに対するオイル10f,10rの供給量を減少させる低減制御部31cが設けられている。汲み上げ量あるいは供給量を減少させるオイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlは、急加速と急減速とに応じて予め定めてあり、急加速が判定された場合に、前輪1r,1l側のオイルポンプOPfr,OPflによる汲み上げ量もしくは供給量を低下させる。これとは反対に急減速が判定された場合には、後輪2r,2l側のオイルポンプOPrr,OPrlによる汲み上げ量もしくは供給量を低下させる。汲み上げ量あるいは供給量の低下は、量を減少させることと、供給を停止することとのいずれであってもよく、具体的には、オイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlの回転数を低下させることにより行う。また、その低下量は一定値あるいは加速度もしくは減速度に応じた値など、予め適宜に定めておくことができる。低減制御部31cは、算出した低下量を指令信号としてオイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlに出力する。
【0038】
オイルの供給量が低下させられるモータの負荷(出力トルクもしくは回生制動トルク)を低下させるトルク制御部31dが設けられている。急加速の場合、前輪1r,1lの接地荷重が低下するので、前輪1r,1lの駆動トルク(モータMfr,Mflの出力トルク)は後輪2r,2lの駆動トルク(モータMrr,Mrlの出力トルク)より小さいトルクに制御される。それに併せて前輪1r,1l側のオイルポンプOPfr,OPflからのオイル供給量が減少させられるので、冷却の低下に基づいて、トルク制御部31dが前輪1r,1lの駆動トルク(モータMfr,Mflの出力トルク)を低下させる。反対に急減速の場合、後輪2r,2lの接地荷重が低下するので、後輪2r,2lの制動トルク(モータMrr,Mrlの回生トルク)は前輪1r,1lの制動トルク(モータMfr,Mflの回生トルク)より小さいトルクに制御される。すなわち負荷が小さくなる。それに併せて後輪2r,2l側のオイルポンプOPrr,OPrlからのオイル供給量が減少させられるので、冷却の低下に基づいて、トルク制御部31dが後輪2r,2lの制動トルク(モータMrr,Mrlの回生トルク)を低下させる。なお、各モータMfr,Mfl,Mrr,Mrlのトルクの低下量は、予め一定値に定めておいてもよく、あるいはオイル10f,10rによる冷却の低下の程度に応じた低下量に設定してもよい。トルク制御部31dは、こうして算出したトルクの低下量を前述したパワーコントローラPCf,PCrに出力する。
【0039】
上述した制御を行うためのデータとして各種のデータがコントローラ31に入力されており、その入力信号の例を挙げると、以下のとおりである。車速信号と、アクセル開度信号と、シフト位置信号と、操舵角信号とがコントローラ31に入力されている。車速信号は、ドライブシャフトなどの走行中に回転する部材の回転数を検出して得られる信号であり、またアクセル開度信号は、前述したアクセルペダル28の踏み込み角度あるいは踏力から得られる信号であり、駆動要求量を表す信号となっている。シフト位置信号は、前述したシフト装置29を操作することにより選択されたシフトポジションを表す信号であり、ノーマルモードで制御するドライブ(D)ポジション、手動操作でアップシフトおよびダウンシフトが可能なマニュアルポジションもしくはブレーキ(B)ポジション、さらには高車速で駆動トルクを大きいトルクに維持するLレンジや「2」レンジなどのポジションを示す信号である。駆動トルクの上限やエンジンブレーキ(駆動力源ブレーキ)を適宜に効かせるなどのポジションが選択された場合に、四輪駆動状態とするために、シフト位置信号が入力されている。操舵角信号は、前述したステアリングホイール25の回転角度を検出して得られる信号であり、車両Veが旋回走行することを示す信号として入力されている。四輪のトルクを個別に制御できる車両においては、旋回性能を向上させるために四輪のトルクを制御することがあるので、その制御を実行するために操舵角信号が入力されている。
【0040】
さらに、モード選択信号と、ブレーキ信号と、アップ(+)信号と、ダウン(-)信号とがコントローラ31に入力されている。モード選択信号は、前述したモード選択スイッチ30によって選択して走行モードを表す信号であり、前述したように、ノーマルモードやエコノミーモード以外の走行モードでは、加速性(動力性能)や旋回性能などを優先的に向上させるように制御するために、各車輪1r,1l,2r,2lの駆動トルクや制動トルクを個別にかつ積極的に制御することがあるので、このような制御を実行する走行モードであるか否かを判定するためにモード選択信号が入力されている。ブレーキ信号は、前述したブレーキペダル21が踏み込まれた場合にその踏み込み量や踏力に応じて出力される信号であり、またVSC22によってブレーキ機構Bfr,Bfl,Brr,Brlによる制動力を制御した場合に出力される信号である。前述した急減速の判定は、このブレーキ信号に基づいて行うこともできる。
【0041】
アップ(+)信号やダウン(-)信号は、シフトレンジや変速段を手動操作によって切り替える場合に出力される信号であり、例えば前述したシフト装置29でマニュアルポジションを選択し、その位置からアップ(+)側もしくはダウン(-)側にシフトレバー(図示せず)を操作することにより出力される。あるいはマニュアルレンジが選択されていいる状態で、例えばステアリングホイール25もしくはその付近に設けられているアップ(+)スイッチやダウン(-)スイッチもしくはパドルを操作することにより出力される信号である。このような手動操作によってシフトレンジや変速段を切り替える走行状態は、ノーマルモードよりも大きい加速性もしくは動力性能が要求され、さらには旋回性能が求められている状態であるので、四輪駆動状態を設定することが望ましく、そのためにアップ(+)信号やダウン(-)信号がコントローラ31に入力されている。さらに、オイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlによるオイル10f,10rの供給量もしくはオイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlの回転数を制御するためのデータとして油温信号が入力されている。
【0042】
急加速時ならびに急減速時に上記のコントローラ31によって実行される制御の一例を図6にフローチャートで示してある。ここに示す制御ルーチンは、車両Veが四輪駆動状態、すなわち前後のオイルポンプOPfr,OPfl,OPrr,OPrlのいずれもが動作してオイル10f,10rを汲み上げて走行している状態で繰り返し実行される。その場合、前輪1r,1l,2r,2lの駆動トルクや回生制動トルクは、四輪駆動車に通常備えられている駆動制御装置により、車速や駆動要求量などに応じて制御されている。図6に示す制御では、先ず、制御に必要なデータを取り込む(ステップS1)。取り込むデータの例を挙げると、アクセル開度、車速、モータ温度、油温、シフトレンジなどが取り込まれる。次いで、急加速状態か否か(ステップS2)ならびに急減速状態か否か(ステップS3)が判断される。急加速状態か否かの判断は、前述したように、検出された加速度が所定の閾値を超えているか否かによって判断することができ、また同様に、急減速状態か否かの判断は、検出された減速度が所定の閾値を超えているか否かによって判断することができる。なお、急加速と急減速とを判断するための閾値は、絶対値が同じであってもよく、あるいは異なっていてもよい。また、急加速状態と急減速状態との判断の順序はいずれが先であってもよい。
【0043】
車両Veが加速していてその加速度が閾値を超える急加速状態であることによりステップS2での判断結果が「イエス」であれば、前輪1r,1l側のオイルポンプOPfr,OPflの回転数を低下させる制御を実行する(ステップS4)。すなわち、前輪1r,1l側のオイルポンプOPfr,OPflによるオイルパン9fからのオイル10fの汲み上げ量もしくは前輪1r,1lを駆動するモータMfr,Mflに対するオイル10fの供給量を減少させる。
【0044】
急加速状態では、前輪1r,1lの接地荷重が低下するので、前輪1r,1lの駆動トルクすなわち前輪1r,1l側のモータMfr,Mflの出力トルクは、後輪2r,2l側のモータMrr,Mrlの出力トルクより小さいトルクに制御される。すなわち、前輪1r,1l側のモータMfr,Mflの負荷は、後輪2r,2l側のモータMrr,Mrlの負荷より小さくなる。したがって、前輪1r,1l側のモータMfr,Mflの冷却の必要性あるいは冷却要求が後輪2r,2l側のモータMrr,Mrlよりも低いので、冷却ならびに潤滑のためのオイル10fの供給量を減少させる。その場合、急加速状態であることによりオイルパン9f内のオイルレベルが慣性力によって変化し、オイルポンプOPfr,OPflがオイル10fを汲み上げる箇所でのオイルレベルが低下していることがある。しかしながら、オイルポンプOPfr,OPflによるオイル10fの汲み上げ量を減少させるので、オイルレベルが更に低下することが回避もしくは抑制され、その結果、オイルポンプOPfr,OPflが空気を吸い込むことを回避でき、万が一、吸い込むとしても少量に制限できる。
【0045】
ステップS4の制御と併せて、前輪1r,1lの駆動トルクを低下させる(ステップS5)。すなわち、前輪1r,1l側のモータMfr,Mflの出力トルクを低下させる。その後、リターンする。その結果、モータMfr,Mflの発熱量が低下するので、オイル10fの供給量が減少してもモータ温度が上昇することを回避もしくは抑制することができる。なお、車両Veの全体としての要求駆動力は、車速やアクセル開度などに基づいて求められ、その要求駆動力を充足するように前後の車輪1r,1l,2r,2lの駆動トルクを制御するから、前輪1r,1lの駆動トルクを低下させると、それに応じて後輪2r,2lの駆動トルクが増大させられるから、車両Veの全体としての駆動力は要求駆動力を充足するように維持される。
【0046】
一方、車両Veが減速していてその減速度が閾値を超える急加速状態であることによりステップS3での判断結果が「イエス」であれば、後輪2r,2l側のオイルポンプOPrr,OPrlの回転数を低下させる制御を実行する(ステップS6)。すなわち、後輪2r,2l側のオイルポンプOPrr,OPrlによるオイルパン9rからのオイル10rの汲み上げ量もしくは後輪2r,2lを駆動するモータMrr,Mrlに対するオイル10rの供給量を減少させる。
【0047】
急減速状態では、後輪2r,2lの接地荷重が低下するので、また前輪1r,1lによるエネルギ回生をより効果的に行うために、後輪2r,2lの制動トルクすなわち後輪2r,2l側のモータMrr,Mrlの回生制動トルクは、前輪1r,1l側のモータMfr,Mflの回生制動トルクより小さいトルクに制御される。すなわち、後輪2r,2l側のモータMrr,Mrlの負荷は、前輪1r,1l側のモータMfr,Mflの負荷より小さくなる。したがって、後輪2r,2l側のモータMrr,Mrlの冷却の必要性あるいは冷却要求が前輪1r,1l側のモータMfr,Mflよりも低いので、冷却ならびに潤滑のためのオイル10rの供給量を減少させる。その場合、急減速状態であることによりオイルパン9r内のオイルレベルが慣性力によって変化し、オイルポンプOPrr,OPrlがオイル10rを汲み上げる箇所でのオイルレベルが低下していることがある。しかしながら、オイルポンプOPrr,OPrlによるオイル10rの汲み上げ量を減少させるので、オイルレベルが更に低下することが回避もしくは抑制され、その結果、オイルポンプOPrr,OPrlが空気を吸い込むことを回避でき、万が一、吸い込むとしても少量に制限できる。
【0048】
ステップS6の制御と併せて、後輪2r,2lの制動力を低下させる(ステップS7)。すなわち、後輪2r,2l側のモータMrr,Mrlの回生制動トルクを低下させる。その後、リターンする。その結果、モータMrr,Mrlの発熱量が低下するので、オイル10rの供給量が減少してもモータ温度が上昇することを回避もしくは抑制することができる。なお、車両Veの全体としての要求制動力は、ブレーキ操作量などに基づいて求められ、その要求制動力を充足するように前後の車輪1r,1l,2r,2lの制動力を制御するから、後輪2r,2lの制動力を低下させると、それに応じて前輪1r,1lの制動力が増大させられるから、車両Veの全体としての制動力は要求制動力を充足するように維持される。
【0049】
なお、急加速および急減速のいずれの状態でもないことによりステップS3での判断結果が「ノー」の場合には、特に制御を行うことなくリターンする。この場合、車速やアクセル開度もしくはブレーキ操作量などの車両Veの走行状態あるいは駆動要求状態に基づいて、二輪駆動状態あるいは四輪駆動状態が選択され、また各車輪1r,1l,2r,2lの駆動力や制動力すなわち各モータMfr,Mfl,Mrr,Mrlの出力トルクや回生制動トルクが制御される。これは、電動車両が通常備えている走行のための制御システムで実行することができる。
【符号の説明】
【0050】
1r,1l 前輪
2r,2l 後輪
9f,9r オイルパン
10f,10r オイル
11rr,11rl,19fr,19fl 冷却油路
20 蓄電装置
21 ブレーキペダル
22 ビークルスタビリティコントロール(VSC)
23 トラクションコントロールシステム(TCS)
24 アンチロックブレーキシステム(ABS)
28 アクセルペダル
29 シフト装置
30 モード選択スイッチ
31a 検出部
31b 急加減速判定部
31c 低減制御部
31d トルク制御部
31 コントローラ
Bfr,Bfl,Brr,Brl ブレーキ機構
Mfr,Mfl,Mrr,Mrl モータ
OPfr,OPfl,OPrr,OPrl (電動式の)オイルポンプ
OPm (機械式の)オイルポンプ
Pf,Pr 駆動ユニット
PCf,PCr パワーコントローラ
Pf,Pr 駆動ユニット
Ve 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6