IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人神奈川大学の特許一覧

特開2025-121454シクロペンタ-縮環多環芳香族炭化水素化合物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025121454
(43)【公開日】2025-08-20
(54)【発明の名称】シクロペンタ-縮環多環芳香族炭化水素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/32 20060101AFI20250813BHJP
   C07C 13/62 20060101ALI20250813BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250813BHJP
【FI】
C07C5/32
C07C13/62
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016836
(22)【出願日】2024-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】辻 勇人
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC23
4H006BA19
4H006BA22
4H006BA25
4H006BA26
4H006BA30
4H006BA37
4H006BC10
4H006BC34
4H039CA40
4H039CC10
(57)【要約】
【課題】新規なシクロペンタ-縮環多環芳香族炭化水素化合物(CP-PAH)の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のCP-PAHの製造方法は、下記式(1)で表す構造を少なくとも部分構造として備えた反応基質に対して、水熱合成条件下で白金化合物、パラジウム化合物及びイリジウム化合物からなる群より選択される少なくとも1種からなる触媒を作用させて下記式(2)で表す構造を少なくとも部分構造として備えた化合物を得ることを特徴とする。この水熱合成条件の温度としては、150℃以上を好ましく挙げることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表す構造を少なくとも部分構造として備えた反応基質に対して、水熱合成条件下で白金化合物、パラジウム化合物及びイリジウム化合物からなる群より選択される少なくとも1種からなる触媒を作用させて下記式(2)で表す構造を少なくとも部分構造として備えた化合物を得ることを特徴とする、シクロペンタ-縮環多環芳香族炭化水素化合物の製造方法。
【化1】
【請求項2】
前記白金化合物が、PtO、Pt、PtCl、K[PtCl]、H[PtCl]・6HO及びNa[PtCl]・6HOからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記パラジウム化合物がPdOであり、前記イリジウム化合物がIrClである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記水熱合成条件の温度が150℃以上である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
作用させる前記白金化合物の量が、前記反応基質に対して10モル%~70モル%である請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
さらに、Feを助触媒として加えて前記水熱条件下に付すことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロペンタ-縮環多環芳香族炭化水素化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多環式芳香族炭化水素(PAH)とは、共役二重結合を持つ炭素原子骨格の環を複数個含み、芳香族性を示す炭化水素群である。PAHに五員環を組み込んだ化合物はCP-PAH(Cyclopenta-fused PAH;シクロペンタ-縮環多環芳香族炭化水素化合物)と呼ばれ、構造が平面から歪むことで、電子受容性や特異な発光特性が知られ、機能性材料として期待されている。しかしながら、CP-PAHの汎用性のある合成法は確立されていないのが実情である。
【0003】
このようなCP-PAHの合成法の一つとして、例えば非特許文献1にはテトラセン誘導体の分子内酸化的C-Hカップリング反応により、反芳香族性のピラシレンを鍵構造に含むCP-PAHを効率的に合成できることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chaokumen,Murata M.,Sugano Y.,Wakamiya A.,Murata Y.,Angew.Chem.Int.Ed.,54,9308-9312(2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、新規なシクロペンタ-縮環多環芳香族炭化水素化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、下記化学式で表すように、ベンゾ[c]フェナントレン骨格(1)を備えた化合物を白金触媒の存在下にて水熱合成条件で反応させると、ベンゾ[c]フェナントレン骨格の屈曲した「C」形状の対向する炭素間に単結合が形成されて、五員環の縮環した(2)で表す骨格に転換されることを見出した。この方法は、従来の方法では直接合成が困難である五員環構造が一段階で形成されるという優れた特徴を備える。この製造方法を用いることにより、例えば、下記化学反応式で示すように、ジベンゾ[g,p]クリセンから縮環が増えたベンゾ[p]インデノ[1,2,3,4-defg]クリセンを定量的に得ることができる。本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、以下のようなものを提供する。
【化1】
【0007】
(1)本発明は、下記式(1)で表す構造を少なくとも部分構造として備えた反応基質に対して、水熱合成条件下で白金化合物、パラジウム化合物及びイリジウム化合物からなる群より選択される少なくとも1種からなる触媒を作用させて下記式(2)で表す構造を少なくとも部分構造として備えた化合物を得ることを特徴とする、シクロペンタ-縮環多環芳香族炭化水素化合物の製造方法である。
【化2】
【0008】
(2)また本発明は、上記白金化合物が、PtO、Pt、PtCl、K[PtCl]、H[PtCl]・6HO及びNa[PtCl]・6HOからなる群より選択される少なくとも1種であり、上記パラジウム化合物がPdOであり、上記イリジウム化合物がIrClである(1)項記載の製造方法である。
【0009】
(3)また本発明は、上記水熱合成条件の温度が150℃以上である(1)項又は(2)項記載の製造方法である。
【0010】
(4)また本発明は、作用させる上記白金化合物の量が、上記反応基質に対して10モル%~70モル%である(1)項~(3)項のいずれか1項記載の製造方法である。
【0011】
(5)また本発明は、さらに、Feを助触媒として加えて上記水熱条件下に付すことを特徴とする(1)項~(4)項のいずれか1項記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新規なシクロペンタ-縮環多環芳香族炭化水素化合物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のシクロペンタ-縮環多環芳香族炭化水素化合物(以下、CP-PAHとも呼ぶ。)の製造方法の一実施態様について説明する。なお、本発明は、以下の実施態様に限定されることなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0014】
本発明のCP-PAHの製造方法は、下記式(1)で表す構造を少なくとも部分構造として備えた反応基質に対して、水熱合成条件下で白金化合物、パラジウム化合物及びイリジウム化合物からなる群より選択される少なくとも1種からなる触媒を作用させて下記式(2)で表す構造を少なくとも部分構造として備えた化合物を得ることを特徴とする。
【0015】
【化3】
【0016】
式(1)で表す構造を少なくとも部分構造として備えた化合物は、特に限定されず、その構造中に(1)で表す構造を備えていればよい。このような化合物としては、式(1)で表す化合物そのものの他、それに1個又は複数個の環が縮環したものであってもよい。本発明の製造方法によれば、そのような化合物における式(1)で表す骨格部分の屈曲した「C」形状の対向する炭素間に単結合が形成されて、その骨格部分が五員環の縮環した(2)で表す骨格に転換される。また、式(1)で表す構造を少なくとも部分構造として備えた化合物は、各種の置換基を備えていてもよいが、好ましくは炭化水素であることを挙げられる。
【0017】
式(1)で表す構造を少なくとも部分構造として備えた化合物、すなわち反応基質の一例としては、下記化学式で表すものを挙げられる。なお、本発明における基質は、これらに限定されるものではない。
【0018】
【化4】
【0019】
これらの反応基質は、本発明の製造方法により新たに五員環の縮環した下記の化合物にそれぞれ転換される。
【0020】
【化5】
【0021】
本発明では、上記の反応基質に対して水熱合成条件下で白金化合物、パラジウム化合物及びイリジウム化合物からなる群より選択される少なくとも1種からなる触媒を作用させる。水熱合成条件としては、水の存在下にて150℃以上で加熱することを挙げることができる。このような条件で反応させるには、密閉容器に水、後述する触媒及び反応基質を収容し、密閉状態で加熱すればよい。好ましい反応温度としては150~300℃程度を挙げられ、より好ましくは180~280℃程度を挙げられる。また、反応時間としては、72時間程度を挙げられる。
【0022】
触媒としては、白金化合物、パラジウム化合物及びイリジウム化合物からなる群より選択される少なくとも1種からなるものが用いられる。この触媒は、反応基質とともに水熱合成条件下に付されることで、反応基質に五員環からなる新たな縮合環を形成させる。
【0023】
白金化合物としては、PtO、Pt、PtCl、K[PtCl]、H[PtCl]・6HO及びNa[PtCl]・6HOからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。これらの中でもPtOを好ましく挙げることができる。
【0024】
パラジウム化合物としては、Pd、PdO、PdCl、Pd(OCOCH、Pd/C等が挙げられる。これらの中でもPdOを好ましく挙げることができる。また、イリジウム化合物としては、Ir、IrO、IrCl、Ir(OCOCH等を挙げることができる。これらの中でもIrClを好ましく挙げることができる。
【0025】
水熱合成反応にて作用させる触媒の量としては、反応基質のモル数に対して10モル%~70モル%程度を好ましく挙げることができ、20モル%~40モル%程度を好ましく挙げることができる。
【0026】
水熱合成反応では、上記の触媒に加えて助触媒を用いることもできる。助触媒を用いることにより、反応基質に新たな五員環の縮環した目的物を得る収率を高めることができる。このような助触媒としては、Feを好ましく挙げることができる。助触媒の添加量としては、反応基質のモル数に対して10モル%~200モル%程度を好ましく挙げることができ、100モル%程度をより好ましく挙げることができる。
【実施例0027】
以下、実施例を挙げることにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されることはない。
【0028】
[反応基質の合成]
反応基質である縮合多環炭化水素は、I.Takahashi,M.Hayashi,T.Fujita,J.Ichikawa Chem.Lett.2016,46,392で報告された方法を用いて合成した。その一例を下記に示す。下記の例で示さない反応基質についてもこれと同様の手順で合成することができる。
【0029】
・1,4-ビス{2-[(1,3-ジオキソラン-2-イル)メチル]フェニル}ナフタレン(化合物1a)の合成
【化6】
【0030】
1,4-ジブロモナフタレン(2g、7mmol)、2-{2-[(1,3-ジオキソラン-2-イル)メチル]フェニル}-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボラン(4.5g、15.2mmol)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(XPhos;171mg、5モル%)、トリス(ジベンシリデンアセトン)ジパラジウム(0)(PdCl(dba);163mg、2.5モル%)及びKPO(9.0g、42mmol)の1,4-ジオキサン(68mL)及び水(34mL)溶液を120℃で終夜反応させた。反応溶液から酢酸エチルを用いて3回抽出し、有機相を飽和食塩水で洗浄し、その後硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=30:1)で精製し、次いで酢酸エチルで洗浄することで白色固体の化合物1aを得た(収量1.26g、収率40%)。
H NMR(CDCl,400MHz) δ(ppm) 2.71-2.84(m,4H),3.71-3.85(m,8H),4.90(t,J=5.2Hz,2H),7.37-7.32(m,6H),7.39(s,2H),7.41-7.48(m,4H),7.56(d,J=7.2Hz,2H).
【0031】
・1,6-ビス{2-[(1,3-ジオキソラン-2-イル)メチル]フェニル}ナフタレン(化合物1b)の合成
【化7】
【0032】
ナフタレン-1,6-ジイルビス(トリフルオロメタンスルホン酸)(2g、4.7mmol)、2-{2-[(1,3-ジオキソラン-2-イル)メチル]フェニル}-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボラン(2.86g、9.87mmol)、[1,1-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリドジクロロメタン付加物(PdCl(dppf)・CHCl;179mg、0.22mmol)及びKPO(6.0g、28.2mmol)の1,4-ジオキサン(68mL)及び水(34mL)溶液を120℃で終夜反応させた。反応溶液から酢酸エチルを用いて3回抽出し、有機相を飽和食塩水で洗浄し、その後硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)で精製することで無色オイル状の化合物1bを得た(収量1.7g、収率81%)。
H NMR(CDCl,400 MHz) δ(ppm) 2.69-2.83(m,2H),3.00(d,J=5.4Hz,2H),3.68-3.88(m,8H),4.88(t,J=5.2Hz,1H),4.99(t,J=5.0Hz,1H),7.29-7.39(m,8H),7.41-7.49(m,4H),7.54(dt,J=8.0,3.6Hz,2H),7.84-7.87(m,2H).
【0033】
・ジベンゾ[c,l]クリセン(化合物2a)の合成
【化8】
【0034】
原料として1,4-ジブロモナフタレンに代えて1,5-ジブロモナフタレンを用い、上記化合物1aと同様の手順で得た化合物1cを用いてジベンゾ[c,l]クリセン(化合物2a)の合成を行った。化合物1c(676mg、1.49mmol)のヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)溶液(6.7mL)に0℃にてトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH;31mg、0.22mmol)を加えた後、同温度にて15分間撹拌し、リン酸緩衝液(pH7)を加えて反応を停止させた。得られた溶液からジクロロメタンを用いて3回抽出し、有機相を飽和食塩水で洗浄し、その後硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、GPC(展開溶媒:クロロホルム)で精製することで化合物2aを得た(収量418.3mg、収率85%)。
H NMR(CDCl,400MHz) δ(ppm) 7.64-7.68(m,2H),7.69-7.73(m,2H),7.90-7.97(m,6H),8.05-8.07(m,2H),9.06(d,J=8.2Hz,2H),9.14(d,J=8.7Hz,2H).
【0035】
・ベンゾ[s]ピセン(化合物2b)の合成
【化9】
【0036】
化合物1a(311mg、0.7mmol)のヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)溶液(2.3mL)に0℃にてトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH;11mg、0.07mmol)を加えた後、同温度にて15分間撹拌し、リン酸緩衝液(pH7)を加えて反応を停止させた。得られた溶液からジクロロメタンを用いて3回抽出し、有機相を飽和食塩水で洗浄し、その後硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、粗製混合物をエタノールで洗浄した。シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:ジクロロメタン=2:1)で精製することで白色固体の化合物2bを得た(収量193mg、収率84%)。
H NMR(CDCl,400MHz) δ(ppm) 7.61-7.71(m,6H),8.03-8.07(m,4H),8.65(d,J=9.1Hz,2H),8.97(q,J=3.3Hz,2H),9.02(d,J=8.6Hz,2H).
【0037】
・ベンゾ[a]ピセン(化合物2c)の合成
【化10】
【0038】
化合物1b(322mg、0.7mmol)のヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)溶液(2.3mL)に0℃にてトリフルオロメタンスルホン酸(TfOH;11mg、0.07mmol)を加えた後、同温度にて15分間撹拌し、リン酸緩衝液(pH7)を加えて反応を停止させた。得られた溶液からジクロロメタンを用いて3回抽出し、有機相を飽和食塩水で洗浄し、その後硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、GPC(展開溶媒:1,2-ジクロロエタン)で精製し、エタノールで洗浄することで白色固体の化合物2cを得た(収量38.4mg、収率16%)。
H NMR(CDCl,400MHz) δ(ppm) 7.66-7.73(m,2H),7.74-7.79(m,2H),7.94(dd,J=14.5,8.6Hz,2H),8.03-8.11(m,4H),8.84-8.94(m,4H),9.18(d,J=8.6Hz,1H),9.31(d,J=9.5Hz,1H).
【0039】
[CP-PAHの合成]
下記に化合物3、2a又は7を原料として用いたCP-PAHの合成手順を記載する。また、同様の手順にて化合物2b又は2cを原料としてCP-PAHを合成した。なお、化合物2b又は2cを原料としたものについては詳細な合成手順の記載を省略し、化学反応式と収率のみを示す。
【0040】
・ベンゾ[p]インデノ[1,2,3,4-defg]クリセン(化合物4)の合成
【化11】
【0041】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)インナーを備えた容量25mLのステンレス容器にジベンゾ[g,p]クリセン(化合物3;150mg、0.45mmol)、PtO(20mg、20mol%)及びイオン交換水(14mL)を入れて密閉した。これを容器ごとオーブンに入れ、260℃で72時間反応させた。室温まで冷却後、1,1,2,2-テトラクロロエタンを溶媒として反応混合物から一晩にわたりソックスレー抽出を行い、得られた溶液をシリカゲルパッドへ通過させた。通過させた溶液から溶媒を減圧留去することで黄色固体の化合物3及び4の混合物を得た。H-NMRを用いて化合物4(CP-PAH)の収量及び収率を求めた結果、収量は140.9mgであり、収率は72%だった。
H NMR(CDCl,400MHz)δ(ppm) 7.81-7.86(m,6H),8.15(d,J=6.9Hz,2H),8.48(d,J=7.8Hz,2H),8.91(d,J=8.2Hz,2H),9.40(d,J=7.8Hz,2H).
【0042】
また、化合物3から化合物4を合成する際に用いる触媒を他の白金化合物(20mol%)とし、同様の手順で反応を行って収率を求めた。その結果を表1に示す。表1に示す通り、いずれの白金化合物も化合物3から化合物4へ収率良く転換させることがわかる。
【表1】
【0043】
さらに、化合物3から化合物4を合成する別法として、PtOに加えてFeを助触媒として1当量(基質に対して100モル%)用いた場合、PtO触媒に代えてPdOを触媒として用いた場合、及びPtO触媒に代えてIrCl触媒を用いた場合の結果をそれぞれ下記に示す。下記に示す通り、助触媒としてFeを用いると収率の向上が見られた他、パラジウム化合物であるPdOやイリジウム化合物であるIrClといった化合物を触媒として用いても目的とする反応が進行すると理解できる。
【0044】
【化12】
【0045】
・ベンゾ[l]インデノ[4,3,2,1-cdef]クリセン(化合物6)の合成
【化13】
【0046】
PTFEインナーを備えた容量25mLのステンレス容器に化合物2a(150mg、0.45mmol)、PtO(20mg、20mol%)及びイオン交換水(14mL)を入れて密閉した。これを容器ごとオーブンに入れ、260℃で72時間反応させた。室温まで冷却後、1,1,2,2-テトラクロロエタンを溶媒として反応混合物から一晩にわたりソックスレー抽出を行い、得られた溶液をシリカゲルパッドへ通過させた。通過させた溶液から溶媒を減圧留去することで黄色固体の化合物6を得た(収量9.4mg、収率6%)。
H NMR(CDCl,400MHz) δ(ppm) 7.68-7.72(m,1H),7.75(dd,J=7.9,7.0Hz,1H),7.79-7.84(m,1H),7.97(dd,J=8.2,5.9Hz,2H),8.02(s,2H),8.06-8.08(m,1H),8.11(d,J=8.6Hz,1H),8.18(d,J=8.6Hz,1H),8.21(d,J=7.2Hz,1H),8.59(s,1H),9.22(d,J=9.1Hz,1H),9.48(d,J=8.6Hz,1H).
HRMS (APCI) m/z Calcd.for C2614 [M]:326.1090; Found:326.1100.
【0047】
・ベンゾ[ghi]フルオランテン(化合物8)の合成1
【化14】
【0048】
PTFEインナーを備えた容量25mLのステンレス容器にベンゾ[c]フェナントレン(化合物7;100mg、0.45mmol)、PtO(20mg、20mol%)及びイオン交換水(14mL)を入れて密閉した。これを容器ごとオーブンに入れ、260℃で72時間反応させた。室温まで冷却後、クロロホルムを溶媒として反応混合物から一晩にわたりソックスレー抽出を行い、得られた溶液をシリカゲルパッドへ通過させた。通過させた溶液から溶媒を減圧留去することで黄色固体の化合物8を得た(収量15.4mg、収率15%)。
H NMR(CDCl,400MHz) δ(ppm) 7.69(t,J=7.5Hz,2H),7.93-7.99(m,6H),8.13(d,J=6.8Hz,2H).
【0049】
・ベンゾ[ghi]フルオランテン(化合物8)の合成2及び3
【化15】
【0050】
PtOに加えて助触媒としてFeを100モル%用いた点と、PtOの量、反応温度及び反応時間を上記化学反応式のように変化させた点を除き、上記ベンゾ[ghi]フルオランテン(化合物8)の合成1と同様の手順で合成を行った。その結果、PtO(40mol%)及びFe(100mol%)を用いた系にて、200℃で168時間反応させたときには収率12%で化合物8が得られ、180℃で72時間反応させたときには収率6%で化合物8が得られた。
【0051】
以下、化合物2b又は2cを原料としたものについて、同様の手順でCP-PAHを合成した。これらについては、化学反応式と収率のみを示す。なお、これらの化合物についても上記と同様にH-NMRにて同定を行った。
【0052】
【化16】
【0053】
以上に示す通り、本発明によれば水熱合成という簡便な手法によりCP-PAHを合成できることがわかる。