IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-化粧シート及び化粧部材 図1
  • 特開-化粧シート及び化粧部材 図2
  • 特開-化粧シート及び化粧部材 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025121569
(43)【公開日】2025-08-20
(54)【発明の名称】化粧シート及び化粧部材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20250813BHJP
   B32B 3/00 20060101ALI20250813BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20250813BHJP
   E04F 15/16 20060101ALI20250813BHJP
   E04F 15/10 20060101ALI20250813BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B3/00
B32B7/022
E04F15/16 A
E04F15/10 104A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024017059
(22)【出願日】2024-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】野口 祥太
(72)【発明者】
【氏名】明石 彩
(72)【発明者】
【氏名】緒方 夢人
【テーマコード(参考)】
2E220
4F100
【Fターム(参考)】
2E220AA11
2E220AA33
2E220AB01
2E220BA19
2E220BB02
2E220BB04
2E220BB05
2E220BB12
2E220FA02
2E220GA22X
2E220GA24X
2E220GA30X
2E220GB01X
2E220GB05X
2E220GB32X
2E220GB33X
2E220GB34X
2E220GB35X
2E220GB37X
2E220GB43X
2E220GB44X
2E220GB45X
2E220GB46X
2E220GB47X
4F100AA37E
4F100AB01E
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK01E
4F100AK03A
4F100AK04A
4F100AK07C
4F100AK25D
4F100AK51B
4F100AK51D
4F100AK51E
4F100AP00E
4F100AT00E
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10D
4F100CA00B
4F100CA13A
4F100DD01D
4F100EA02B
4F100EH17C
4F100EH46A
4F100EJ17
4F100EJ17D
4F100EJ42
4F100EJ65E
4F100GB07
4F100HB00B
4F100HB00E
4F100HB31A
4F100HB31B
4F100JB14D
4F100JJ07E
4F100JK09
4F100JK12
4F100JK12D
4F100JK14
4F100JK14D
4F100JK17C
4F100JL10A
4F100JL10B
4F100JN01C
4F100JN06E
4F100JN21
4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】建材に使用される木材や石材等の表面の質感に近い質感を持ち、優れた意匠性を有する化粧シート及び化粧部材を提供する。
【解決手段】化粧シート1は、着色熱可塑性樹脂層2の一方の面に順に積層された絵柄層3と透明熱可塑性樹脂層4と表面保護層5と、着色熱可塑性樹脂層2の他方の面に積層され、絵柄層3の絵柄と同調して配置され、所定波長の光に対して光吸収性を有する材料からなるグロスマット発現用柄部6と、表面保護層5の、平面視でグロスマット発現用柄部6と重なる部分に形成されたエンボス部5aとを備え、エンボス部5aを含む表面保護層5の表面は、ホフマンスクラッチ試験を行ったときの傷が発生する荷重が1000g以上であり、且つ、コインスクラッチ試験を行ったときの傷が発生する荷重が2kg以上であり、且つ、JIS K 5600に準じた鉛筆硬度試験の硬度が2B以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色樹脂層の一方の面に順に積層された絵柄層と透明樹脂層と表面保護層と、
前記着色樹脂層の他方の面に積層され、前記絵柄層の絵柄と同調して配置され所定の波長の光に対して光吸収性を有する材料で形成されたグロスマット発現用柄部と、
前記表面保護層の、平面視で前記グロスマット発現用柄部と重なる部分に形成されたエンボス部とを備え、
前記エンボス部を含む前記表面保護層は、
前記エンボス部を含む前記表面保護層の表面を、200g~2000gの範囲内の荷重で徐々に荷重を高めて引っ掻くホフマンスクラッチ試験を行ったときの傷が発生する荷重が1000g以上であり、且つ、
10円貨を、前記エンボス部を含む前記表面保護層の表面に接触させ、1kg~5kgの範囲内で1kg毎に荷重を高めつつ荷重を加えながら引っ掻くコインスクラッチ試験を行ったときの傷が発生する荷重が2kg以上であり、且つ、
JIS K 5600に準じた鉛筆硬度試験の硬度が2B以上であることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記グロスマット発現用柄部は、カーボンブラックを有する墨インキを含んで形成されることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記エンボス部の領域は、算術平均粗さRaが5μm以上であり且つ凹部の最大深度が25μm以上であり、前記表面保護層の前記エンボス部を除く領域は、算術平均粗さRaが3μm以上であり且つ凹部の最大深度が20μm以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の化粧シート。
【請求項4】
基材と、
前記基材の少なくとも一方の面に設けられた請求項1又は請求項2に記載の化粧シートと、を備え、
前記基材は、木質基材、樹脂基材、不燃基材、及び金属基材のうちいずれかであることを特徴とする化粧部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シート及び化粧部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合板や、MDF(中質繊維板)、パーティクルボード等の木質基材、樹脂基材、無機不燃基材、金属基材等に化粧シートを貼り合わせた化粧材が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。また、化粧シートの意匠としては、木材や石材等の表面を模されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5045180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、化粧シートは、本物の木材や石材等と比較すると、表面の質感が平坦になりやすい。実際の木材や石材は、表面の材質や構造等の違いによって場所ごとに凹凸に差があり質感の差が存在する。質感が違う部分では、色味も異なることが多いが、化粧シートではその表現がされておらず、意匠面では高価な本物の方が優れている。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、建材に使用される木材や石材等の表面の質感に近い質感を持ち、耐久性に優れた意匠性を有する化粧シート及び化粧部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、着色樹脂層の一方の面に順に積層された絵柄層と透明樹脂層と表面保護層と、前記着色樹脂層の他方の面に積層され、前記絵柄層の絵柄と同調して配置され所定の波長の光に対して光吸収性を有する材料で形成されたグロスマット発現用柄部と、前記表面保護層の、平面視で前記グロスマット発現用柄部と重なる部分に形成されたエンボス部とを備え、前記エンボス部を含む前記表面保護層は、前記エンボス部を含む前記表面保護層の表面を、200g~2000gの範囲内の荷重で徐々に荷重を高めて引っ掻くホフマンスクラッチ試験を行ったときの傷が発生する荷重が1000g以上であり、且つ、10円貨を、前記エンボス部を含む前記表面保護層の表面に接触させ、1kg~5kgの範囲内で1kg毎に荷重を高めつつ荷重を加えながら引っ掻くコインスクラッチ試験を行ったときの傷が発生する荷重が2kg以上であり、且つ、JIS K 5600に準じた鉛筆硬度試験の硬度が2B以上である化粧シートが提供される。
【0007】
また、本発明の他の態様によれば、基材と、前記基材の少なくとも一方の面に設けられた上記化粧シートと、を備え、前記基材は、木質基材、樹脂基材、不燃基材、及び金属基材のうちいずれかである化粧部材が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、建材に使用される木材や石材などの表面の質感に近い質感を持ち、耐久性に優れた意匠性を有する化粧シート及び化粧部材を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る化粧シートの一例を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る化粧シートの製造工程の一例を示す工程図である。
図3】本発明の一実施形態に係る化粧部材の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本技術の実施形態を説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。本開示の範囲内にあるものであれば、必ずしも図面に示す順に積層してある必要はない。またこの図面に記載されていない層が付加されていても良い。また、以下に示す実施形態は、本開示の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本開示の技術的思想は、構成部品の材質、形状、及び構造等が下記のものに特定されるものではない。本開示の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
また、以下の説明における「左右」や「上下」の方向は、単に説明の便宜上の定義であって、本開示の技術的思想を限定するものではない。よって、例えば、紙面を90度回転すれば「左右」と「上下」とは交換して読まれ、紙面を180度回転すれば「左」が「右」になり、「右」が「左」になることは勿論である
【0012】
〔化粧シートの構成〕
本発明の一実施形態に係る化粧シート1は、例えば図1に示すように、着色熱可塑性樹脂層(着色樹脂層)2と、絵柄層3と、透明熱可塑性樹脂層(透明樹脂層)4と、表面保護層5とがこの順に積層して形成され、表面保護層5には、エンボス部(エンボス形状)5aが形成されている。また、着色熱可塑性樹脂層2の、絵柄層3とは逆側の面には、グロスマット発現用柄部6が形成され、グロスマット発現用柄部6及び着色熱可塑性樹脂層2を覆うようにプライマー層7が形成されている。
【0013】
〔着色熱可塑性樹脂層〕
着色熱可塑性樹脂層2は、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル等が挙げられる。なかでも環境適合性や加工性、価格の点でポリオレフィン系樹脂を好ましく用いることができる。樹脂のグレードや組成は、その他にシーティングの容易さや印刷適性、曲げ加工に対する適性を考慮して選択することができる。
【0014】
着色熱可塑性樹脂層2は、絵柄層3の下地色として色相を適宜、選択することができる。着色熱可塑性樹脂層2は、例えば熱可塑性樹脂のシーティングに際して、顔料等の着色剤を混合、又は練りこむ等をしておくことで着色することができる。或いはグロスマット発現用柄部6を設ける前にベタインキ層として、コーティングあるいは印刷の手法を用いて着色熱可塑性樹脂層を設けることもできる。
着色熱可塑性樹脂層2の厚みは、特に限定されるものではない。
【0015】
〔絵柄層〕
絵柄層3は、化粧シート1に意匠性を付与するために、絵柄模様が印刷された印刷層である。絵柄層3の形成方法としては、既知の印刷手法を採用できる。印刷手法は、特に限定されるものではないが、生産性、絵柄の品質を考慮すれば、グラビア印刷法が好ましい。また例えば、着色熱可塑性樹脂層2が巻取りの状態で用意できる場合には、ロールツーロールの印刷装置を用いることで、絵柄層3の形成のための印刷を行うことができる。これらの他にも、印刷手法としては、例えば、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、静電印刷法、インクジェット印刷法、転写シートからの転写印刷法等が挙げられる。このような印刷手法を用いる場合、絵柄層3の絵柄模様は、通常の黄色、赤色、青色及び黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成することができる他、絵柄模様を構成する個々の色の板を用意して行う特色による多色印刷等によっても形成することができる。
【0016】
また、絵柄層3の絵柄模様は、床材又は建具としての意匠性を考慮して任意の絵柄模様を採用すればよい。例えば、大理石等の石材の床をイメージして、大理石の石目等を絵柄模様とすることもできる。また、例えば、木質系の絵柄であれば、各種木目、コルクを絵柄模様とすることもできる。また、例えば、天然材料の絵柄模様以外にも、これらをモチーフとした人工的絵柄模様や幾何学模様等の人工的絵柄模様も用いることができる。これらの他にも、絵柄模様としては、例えば、年輪断面の春材領域及び秋材領域、導管部等から構成される木目模様、レザー(皮シボ)模様、大理石、花崗岩、砂岩等の石材表面の石目模様、砂目模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、布目模様、幾何学図形、文字、記号、抽象模様、草花模様、風景、キャラクター等が挙げられる。
【0017】
印刷インキは、溶剤と、着色剤、バインダー樹脂等の固形分との混合物である。
溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の石油系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸-2-メトキシエチル、酢酸-2-エトキシエチル等のエステル系有機溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶剤;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;ジクロロメタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の塩素系有機溶剤;水等の無機溶剤等が挙げられる。溶剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
また、バインダー樹脂としては、塩素系樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、ニトロセルロース樹脂(硝化綿)、酢酸セルロース樹脂等が挙げられる。塩素系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、エチレン-塩化ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル-(メタ)アクリル共重合体等のポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化プロピレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリルは、アクリル又はメタクリルの意味である。バインダー樹脂は、1種の単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
【0019】
また、着色剤としては、例えば、カーボンブラック、鉄黒、チタン白(酸化チタン)、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料;キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー等の有機顔料等が挙げられる。着色剤は、1種の単独でもよいし、2種以上を組み合わせでもよい。
【0020】
ここで、印刷インキに含まれる溶剤は、最終的に揮発する。そのため、絵柄層3は、主として、着色剤、バインダー樹脂等の固形分により形成される。
【0021】
また、印刷インキは、その他の成分として、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤等を含んでもよい。印刷インキとしては、印刷方式に応じたインキを採用すればよい。特に、着色熱可塑性樹脂層2に対する密着性や印刷適性、床材又は建具としての耐候性を考慮して選択することが好ましい。絵柄層3の厚さは、絵柄層3に求められる装飾性、化粧シート1の三次元成形性等を考慮して適宜調整できる。絵柄層3の厚さは、通常1μm以上1mm以下、好ましくは2μm以上0.1mm以下、さらに好ましくは2μm以上50μm以下である。
【0022】
絵柄層3と透明熱可塑性樹脂層4との接着性向上を目的として、絵柄層3の透明熱可塑性樹脂層4と接する側の面に接着層(不図示)を設けてもよい。これらの接着を強固にすることによって、化粧シート1に対し、曲面や直角面に追随する曲げ加工性を付与することができる。接着層(不図示)に用いる樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、2液硬化型ウレタン系樹脂を採用できる。また、接着性樹脂をウレタン系接着剤により絵柄層3に接着してもよい。接着層(不図示)に用いる樹脂の塗布には、例えば、コーティング装置、グラビア印刷装置を採用できる。
【0023】
また、化粧シート1の奥行感や、輝度感といった意匠効果を好適に付与することを目的として、絵柄層3と透明熱可塑性樹脂層4との間に光輝性層(不図示)を設けてもよい。光輝性層(不図示)は、光輝性顔料及びバインダー樹脂を含むことが好ましい。光輝性顔料としては、パール顔料及び金属顔料等が挙げられる。特に、パール顔料は、光輝性層の光透過率が低下することを抑制できるため、絵柄層3の視認性を損なわないため好ましい。
【0024】
パール顔料は、真珠光沢を付与し得る顔料である。例えば、母体粒子の表面を金属酸化物で被覆したものが挙げられる。母体粒子としては、雲母等の鱗片状粒子が好ましい。金属酸化物としては、チタン、鉄、ジルコニウム、ケイ素、アルミニウム及びセリウム等金属の酸化物が挙げられる。金属酸化物は、1種単独でもよいし、2種類以上であってもよい。具体例としては、雲母チタン、酸化鉄被覆雲母、酸化鉄被覆雲母チタン、紺青被覆雲母チタン、紺青-酸化鉄被覆雲母チタン、酸化クロム被覆雲母チタン、カルミン被覆雲母チタン、有機顔料被覆雲母チタン、酸化チタン被覆雲母、酸化チタン被覆合成マイカ等の酸化物被覆雲母;酸化チタン被覆ガラス粉末、酸化鉄被覆ガラス粉末等の酸化物被覆ガラス粉末;酸化チタン被覆アルミニウム粉末等の酸化物被覆金属粒子;塩基性炭酸鉛、砒酸水素鉛、酸化塩化ビスマス等の鱗片状箔片;魚鱗粉、貝殻片、真珠片等が挙げられる。
【0025】
また、金属顔料としては、アルミニウム、真鍮、ステンレス鋼、錫、亜鉛、銅、ニッケル、金粉及び銀等の金属、これらの金属の合金等からなる顔料が挙げられる。金属顔料は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
光輝性顔料の平均粒子径は、優れた意匠効果を付与する観点から、例えば、グラビア印刷を用いて光輝性層を形成する場合には、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。同様の観点から、[光輝性顔料の平均粒子径/光輝性層の厚み]の比は、0.01以上15以下であることが好ましく、0.5以上10以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50として求めることができる値である。
【0027】
また、バインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂、硬化型樹脂組成物の硬化物等が挙げられ、耐久性の観点から硬化型樹脂組成物の硬化物が好ましい。硬化型樹脂組成物の硬化物としては、熱硬化型樹脂組成物の硬化物及び電離放射線硬化型樹脂組成物の硬化物が挙げられる。層間密着性の観点からは、熱硬化型樹脂組成物の硬化物が好ましい。
【0028】
光輝性層に用いられる熱硬化型樹脂組成物としては、ポリエステル樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、ポリウレタン樹脂組成物、アミノアルキッド樹脂組成物、メラミン樹脂組成物、グアナミン樹脂組成物、尿素樹脂組成物及び熱硬化型アクリル樹脂組成物等が挙げられる。これら熱硬化型樹脂組成物は、各樹脂を構成するモノマー及び/又はプレポリマーと、必要に応じて添加する硬化剤等が挙げられる。光輝性層に用いられる電離放射線硬化型樹脂組成物としては、後述する表面保護層5の電離放射線硬化型樹脂組成物と同様のものを用いることができる。
【0029】
光輝性層中における光輝性顔料の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上90質量部以下であることが好ましく、50質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。光輝性顔料の含有量を10質量部以上とすることにより、艶感を充分に付与することができ、90質量部以下とすることにより、絵柄層3の視認性が損なわれることを抑制できる。同様の観点から、光輝性層の厚みは、1μm以上30μm以下であることが好ましく、5μm以上20μm以下であることがより好ましい。
【0030】
光輝性層は、付与したい意匠によって任意のパターンを形成することができる。例えば、木目模様、レザー模様、石目模様、砂目模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、布目模様、幾何学図形、文字、記号、抽象模様、草花模様、風景、キャラクター等が挙げられる。また、任意のパターンは、意匠効果をより高めるために、濃淡を有することが好ましい。濃淡は、網点の大小や網点の厚みから形成してもよいが、網点の粗密から形成すること(つまり、網点の大きさは均一として網点の密度で濃淡を形成すること)が好ましい。
【0031】
光輝性層は、例えば、光輝性顔料及びバインダー樹脂を含む塗布液を、グラビア印刷等の汎用の印刷手段で形成できる。なお、光輝性層の濃淡を網点の粗密から形成する場合、印刷版の網点をFM(frequency modulation)スクリーンによって形成すればよい。
【0032】
〔透明熱可塑性樹脂層〕
透明熱可塑性樹脂層4は、意匠的に厚みや深みを出すとともに、化粧シート1の耐候性、耐磨耗性能が向上するように、絵柄層3を保護して良好な表面物性を付与するための樹脂層である。透明熱可塑性樹脂層4の材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂)を用いることができる。特に、環境適合性、加工性、価格の点で、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。また、樹脂のグレードや組成は、環境適合性、加工性、価格の他にも、シーティングの容易さ、印刷適性、曲げ加工に対する適性を考慮して選択することができる。曲げ加工に対する適性としては、曲げ部の白化や割れが発生しないことを考慮して選択することが重要である。
【0033】
透明熱可塑性樹脂層4の形成方法としては、ラミネート手法を採用することができる。また、例えば、透明熱可塑性樹脂層4と接着層(不図示)とを同時に形成する場合、共押し出しで両者を同時に押し出して形成する方法を採用できる。
透明熱可塑性樹脂層4の厚みは、特に限定されるものではない。
【0034】
〔表面保護層〕
表面保護層5は、化粧シート1に耐磨耗性等の表面物性を付与するための層である。また、表面保護層5は、化粧シート1の表面の光沢を調節するための層でもある。表面保護層5は、単層でもよく、多層でもよい。例えば、表面保護層5として、透明熱可塑性樹脂層4の上に、第1表面保護層(不図示)及び第2表面保護層(不図示)の2層をこの順に設けることもできる。第1表面保護層(不図示)および第2表面保護層(不図示)からなる表面保護層5を設ける場合には、それぞれの層を、硬化型樹脂の種類に応じて、既知のコーティング装置、熱乾燥装置、電離放射線照射装置を用いて塗布、塗膜の硬化を行えばよい。
【0035】
表面保護層5は、硬化型樹脂を主成分とする。すなわち、表面保護層5の樹脂成分が実質的に硬化型樹脂から構成されることが好ましい。実質的とは、例えば、樹脂全体を100質量部とした場合に80質量部以上を指す。表面保護層5には、必要に応じて、耐侯剤、可塑剤、安定剤、充填剤、分散剤、染料、顔料等の着色剤、溶剤等を含んでもよい。
【0036】
表面保護層5の材料は、特に限定されるものではなく、例えば、電離放射線硬化型樹脂、2液硬化型ウレタン系樹脂を採用できる。電離放射線硬化型樹脂としては、特に限定されるものではない。例えば、赤外線、紫外線、電子線等の電離放射線の照射により重合架橋反応可能なラジカル重合性二重結合を分子中に含むプレポリマー(オリゴマーを含む)および/又はモノマーを主成分とする透明性樹脂を採用できる。これらのプレポリマー又はモノマーは、単体又は複数を混合して使用できる。具体的には、プレポリマー又はモノマーとしては、分子中に(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基等のラジカル重合性不飽和基、エポキシ基等のカチオン重合性官能基等を有する化合物が挙げられる。また、ポリエンとポリチオールとの組み合わせによるポリエン/チオール系のプレポリマーも好ましい。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基の意味である。
【0037】
ラジカル重合性不飽和基を有するプレポリマーとしては、例えば、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの分子量としては、250~10万程度が好ましい。
【0038】
また、ラジカル重合性不飽和基を有するモノマーとしては、例えば、単官能モノマーとして、メチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、多官能モノマーとしては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイドトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0039】
また、カチオン重合性官能基を有するプレポリマーとしては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ化合物等のエポキシ系樹脂、脂肪酸系ビニルエーテル、芳香族系ビニルエーテル等のビニルエーテル系樹脂のプレポリマーが挙げられる。
また、ポリエン系のプレポリマーとしては、例えば、ジオールおよびジイソシアネートによるポリウレタンの両端にアリルアルコールを付加したものが挙げられる。また、チオール系のプレポリマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート等のポリチオールが挙げられる。
【0040】
電離放射線としては、例えば、電離放射線硬化型樹脂(組成物)中の分子を硬化反応させ得るエネルギーを有する電磁波又は荷電粒子を採用できる。硬化反応としては、例えば、架橋硬化反応が挙げられる。また、紫外線源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト、メタルハライドランプ等の光源を採用できる。紫外線の波長としては、例えば、190nm以上380nm以下が好ましい。また、電子線源としては、例えば、コッククロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の電子線加速器を採用できる。特に、100keV以上1000keV以下のエネルギーをもつ電子(より好ましくは100keV以上300keV以下のエネルギーをもつ電子)を照射できるものが好ましい。
【0041】
また、2液硬化型ウレタン系樹脂は、特に限定されるものではない。例えば、主剤としてOH基を有するポリオール成分と、硬化剤成分としてイソシアネート成分とを含むものを採用できる。OH基を有するポリオール成分としては、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、エポキシポリオールが挙げられる。また、イソシアネート成分としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メタキシレンジイソシアネートが挙げられる。
【0042】
また、表面保護層5は、アクリル系樹脂組成物を主成分として形成されていてもよく、電離放射線硬化型樹脂とアクリル系樹脂組成物との両方または、電離放射線硬化型樹脂を主成分として形成されていてもよい。
表面保護層5の厚みは、特に限定されるものではない。
【0043】
〔エンボス部〕
表面保護層5の表面には、所与の意匠性を付与するために、凹凸模様からなるエンボス部5aが形成されている。凹凸模様としては、例えば、木目板導管溝、石板表面凹凸(花崗岩劈開面等)、布表面テクスチャア、梨地、砂目、ヘアライン、万線条溝が挙げられる。このエンボス部5aは、その凹凸模様が絵柄層3の絵柄と同調するように設けられる。
【0044】
凹凸模様の形成方法としては、例えば、エンボス加工を採用できる。エンボス加工の方法は、特に限定されない。例えば、公知の枚葉式のエンボス機、輪転式のエンボス機を採用できる。これにより、実際の木材や石材といった本物に近い良好な質感を化粧シート1に付与することができる。
【0045】
エンボス部5aを含む表面保護層5は、エンボス部5aを含む表面保護層5の表面を、200g~2000gの範囲内の荷重で徐々に荷重を高めて引っ掻くホフマンスクラッチ試験を行ったときの傷が発生する荷重が1000g以上であり、且つ、10円貨を、エンボス部5aを含む表面保護層5の表面に接触させ、1kg~5kgの範囲内で1kg毎に荷重を高めつつ荷重を加えながら引っ掻くコインスクラッチ試験を行ったときの傷が発生する荷重が2kg以上であり、且つ、JIS K 5600に準じた鉛筆硬度試験の硬度が2B以上であることが好ましい。
【0046】
また、エンボス部5aの領域は、算術平均粗さRaが5μm以上であり且つ凹部の最大深度が25μm以上であり、表面保護層5のエンボス部5aを除く領域は、算術平均粗さRaが3μm以上であり且つ凹部の最大深度が20μm以上であることが好ましい。より好ましくは、エンボス部5aの領域は、算術平均粗さRaが8μm以上であり且つ凹部の最大深度が50μm以上であり、表面保護層5のエンボス部5aを除く領域は、算術平均粗さRaが4μm以上であり且つ凹部の最大深度が25μm以上であることが好ましい。なお、表面保護層5のエンボス部5aを除く領域の算術平均粗さRa及び凹部の最大深度は、それぞれエンボス部5aの領域の算術平均粗さRa及び凹部の最大深度よりも小さいことが好ましい。
【0047】
〔グロスマット発現用柄部〕
グロスマット発現用柄部6は、所定波長の光に対して光吸収性を有する材料で形成され、例えば赤外線吸収作用を有する材料で形成される。つまり、グロスマット発現用柄部6として赤外線透過率が低い材料を使用しており、且つ他の層と比較して赤外線透過率が顕著に低い材料を使用している。グロスマット発現用柄部6は、例えば、カーボンブラックを有する墨インキを含む材料で形成され、ウレタン系印刷インキ等で形成される。
【0048】
グロスマット発現用柄部6は、着色熱可塑性樹脂層2の絵柄層3とは逆側の、絵柄層3の絵柄と同調する位置に配置される。例えば、木目模様の絵柄層3である場合には、平面視で絵柄層3の木目板導管溝と重なる位置にグロスマット発現用柄部6が形成される。なお、ここでいう同調とは平面視でグロスマット発現用柄部6と絵柄層3の絵柄とが重なる位置に形成されていることを言う。
【0049】
グロスマット発現用柄部6の厚みは、後述のエンボス加工時に、表面保護層5に凹凸形状を十分に形成することができる程度に透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5を軟化させることができる厚みであればよい。また、十分なグロスマット効果を得るためには、平面視でグロスマット発現用柄部6が形成された部分と、形成されていない部分との光沢度差が5以上あることが好ましく、すなわち画像濃度水準が60%以上であることが好ましい。
【0050】
〔プライマー層〕
プライマー層7は、下地となる層であって、化粧シート1を貼り付ける図示しない基材との密着性及び耐食性を向上させるための層である。プライマー層7は、着色熱可塑性樹脂層2の絵柄層3とは逆側の面に、グロスマット発現用柄部6を覆うように形成される。
【0051】
プライマー層7は、例えば、ポリエステル系樹脂、有機添加剤、顔料等を用いて形成される。プライマー層7には、耐食性を向上させる目的で防錆顔料を配合してもよい。プライマー層7の厚さは、例えば、1μm以上10μm以下の範囲内である。
【0052】
〔化粧シートの製造方法〕
次に、本実施形態に係る化粧シートの製造方法の一例を、図2を伴って説明する。
まず、着色熱可塑性樹脂層2を形成する。例えばPE(ポリエチレン)樹脂を用いて、例えば厚さ55μmで着色熱可塑性樹脂層2を形成する(図2(a))。
【0053】
次に、着色熱可塑性樹脂層2の一方の面の上に、例えばウレタン系印刷インキを用いて絵柄層3を印刷する。
次に、着色熱可塑性樹脂層2の、絵柄層3とは逆側の面に、グロスマット発現用柄部6を形成する。例えばカーボンブラックを有する墨インキを含む、ウレタン系印刷インキを用いて絵柄層3の絵柄と同調する所定の位置にグロスマット発現用柄部6を形成する(図2(b))。
【0054】
次に、グロスマット発現用柄部6を含む着色熱可塑性樹脂層2の上に、グロスマット発現用柄部6同士の隙間を埋めると共に、その上面を覆うようにして、例えばポリエステル系樹脂からなる、プライマー層7を形成する(図2(c))。
次に、絵柄層3の、着色熱可塑性樹脂層2とは逆側の面の上に透明熱可塑性樹脂層4として例えば厚さ80μmのPP(ポリプロピレン)樹脂を積層する。そして、透明熱可塑性樹脂層4の上に、例えば、アクリル系樹脂組成物とUV樹脂とを主成分とする表面保護層5を積層する。これにより、着色熱可塑性樹脂層2の一方の面に、絵柄層3と、透明熱可塑性樹脂層4と、表面保護層5とがこの順に積層される(図2(d))。
【0055】
なお、絵柄層3と透明熱可塑性樹脂層4との間に、ウレタン系接着剤を含む接着性樹脂を接着層として設けてもよい。
【0056】
続いて、これら各層が積層された図2(d)に示す積層体全体に表面保護層5側から赤外線照射を行い(図2(e))、この照射の直後に表面保護層5の表面にエンボスロール等のエンボス版を版押しする(図2(f))。これによってエンボス部5aが形成され、化粧シート1が形成される。
【0057】
ここで、グロスマット発現用柄部6は、赤外線吸収特性を有する墨インキで形成されている。また、グロスマット発現用柄部6は、他の層と比較して赤外線透過率が顕著に低い材料を使用している。そのため、平面視でグロスマット発現用柄部6が形成された領域の赤外線透過率に比較して、グロスマット発現用柄部6が形成されていない領域の赤外線透過率はより高くなり、平面視で図2(d)に示す積層体において赤外線透過率に差が生じる。そのため、積層体に赤外線照射を行うと、平面視で表面保護層5の、グロスマット発現用柄部6と重なる部分、すなわち赤外線吸収率が高い部分は、グロスマット発現用柄部6と重ならない部分と比較して透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5が軟化しやすい。つまり、赤外線照射を行った後の透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5には、軟化しやすい部分と軟化しにくい部分とが存在する。そのため、この状態で表面保護層5にエンボス版を版押しすると、軟化した部分は凹凸が形成されやすく、軟化しにくい部分は凹凸が形成されにくい。つまり、透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5の軟化した部分、すなわち、平面視でグロスマット発現用柄部6と重なる部分には凹凸が形成されやすい。その結果、平面視で透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5のグロスマット発現用柄部6と重なる位置のみにグロスマット発現用柄部6と同調した凹凸形状からなるエンボス部5aが形成され易くなる。
【0058】
これによって、絵柄層3と同調した位置にエンボス部5aを形成することができ、すなわち、高精度な位置決め操作を行うことなく、絵柄層3と同調したエンボス部5aを容易に作成することができる。そして、このように表面保護層5に、エンボス部5aが形成された領域と、エンボス部5aが形成されていない領域とが存在することから、グロスマットが発現することになる。
【0059】
なお、赤外線照射によりグロスマット発現用柄部6が保持する熱エネルギは、積層体を構成する各層の赤外線透過率や反射率により影響を受けることが考えられるが、他の層が保持する熱エネルギは、グロスマット発現用柄部6が形成された領域及び形成されていない領域に関わらず一様となる。また、赤外線照射により各層が保持する熱エネルギは、グロスマット発現用柄部6における吸収エネルギに比較して微小であり、無視できる程度である。そのため、他の層の赤外線透過率や反射率が、グロスマットの発現に与える影響は無視できる程度とみなすことができ、グロスマット発現用柄部6が形成された領域が保持する熱エネルギと、グロスマット発現用柄部6が形成されていない領域が保持する熱エネルギとの相対差によってグロスマットが発現するとみなすことができる。
【0060】
なお、赤外線照射を行った後に透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5にエンボス版を版押しするタイミングは、赤外線照射を行った直後に限るものではなく、透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5の表面に版押しすることで、赤外線照射により軟化した部分に選択的に凹凸形状を形成することができるタイミングであればよい。
【0061】
また、表面保護層5を作成する工程と、赤外線照射を行う工程との間に、他の工程が含まれていてもよく、要は、赤外線照射は、透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5が形成されている状態で行われればよい。
【0062】
〔本実施形態の効果〕
(1)本実施形態に係る化粧シート1の製造方法によれば、各層が積層された積層体に赤外線照射を行った後にエンボス版を版押しすることで、平面視で、グロスマット発現用柄部6と重なる部分に強くエンボス加工を行うことができる。つまり、エンボス版を版押しする領域の位置決め等を高精度に行わなくとも、所望の位置に容易にエンボス部を形成することができる。その結果、優れた意匠性を有する化粧シートを容易に得ることができる。
【0063】
(2)グロスマット発現用柄部6を、着色熱可塑性樹脂層2の下層に設けているため、化粧シート1を、表面保護層5側から見たときに、グロスマット発現用柄部6の視認性が低くなる。その結果、グロスマット発現用柄部6として赤外線吸収特性を有する濃度の高い墨インキを用いているが、化粧シート1を表面保護層5側から見たときに、グロスマット発現用柄部6が視認されることを抑制することができる。このため、絵柄層3として濃色柄を用いなくとも、墨インキを含むグロスマット発現用柄部6が視認されることを抑制することができ、その結果、絵柄層3として淡色柄を採用することも可能となり、グロスマット発現用柄部6を設けることにより生じる、絵柄層3による柄表現の制約を抑制することができる。
【0064】
また、赤外線吸収特性を有する濃度の高い墨インキを用いたグロスマット発現用柄部6の上に、着色熱可塑性樹脂層2及び絵柄層3、さらに、透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5を積層し、表面保護層5の平面視でグロスマット発現用柄部6と重なる位置に、エンボス部5aを形成している。そのため、墨インキを用いたグロスマット発現用柄部6の視認性を下げることができ、化粧シート1の製造過程で有用なグロスマット発現用柄部6が、化粧シート1の外観に与える影響を抑制することができ、絵柄層3の絵柄とエンボス部5aとが同調した意匠性の高い化粧シート1を得ることができる。
【0065】
(3)グロスマット発現用柄部6を、絵柄層3の絵柄と同調させて設けているため、絵柄層3の絵柄と同調した凹凸部を形成することができ、すなわち、絵柄と同調したグロスマット効果を容易に発現させることができる。
【0066】
(4)凹凸を設けることで、グロスマット表現を行っているため、グロスマットの柄取れ等が生じることを抑制することができる。つまり、例えば艶調節層を設けることでグロスマット意匠を発現させる場合等には、摩耗等により艶調節層が剥がれ、グロスマット意匠性が低下する可能性がある。
【0067】
これに対し、凹凸を設けることで、グロスマット表現を発現させており、さらにエンボス部を形成する際に、表面保護層側に赤外線照射を行い、熱を加えているため、透明熱可塑性樹脂層4の表面物性を向上させることができ、すなわち化粧シートの表面強度を向上させることができる。その結果、表面保護層側の表面は、ホフマンスクラッチ試験を行ったときの傷が発生した荷重が1000g以上であり、且つ、コインスクラッチ試験を行ったときの傷が発生した荷重が2kg以上であり、且つ、鉛筆硬度試験の硬度が2B以上となる。そのため、耐摩耗性及び耐傷性をより向上させることができ、床や外装等に適用した場合であっても、グロスマット意匠性の低下を抑制することができる。すなわち、化粧シートの長寿命化を図ることができる。
【0068】
〔変形例〕
(1)上記実施形態においては、グロスマット発現用柄部6として墨インキを含む材料を用い、赤外線照射を行うことで、透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5を部分的に軟化させる場合について説明したがこれに限るものではない。グロスマット発現用柄部6の材料として所定波長の光に対して光吸収性を有する成分からなる任意のインキを含む材料を用い、所定波長の光を照射する光源を用いることで、透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5を部分的に軟化させるようにしてもよい。
【0069】
(2)上記実施形態では、着色熱可塑性樹脂層2の一方の面に絵柄層3を積層し、続いて着色熱可塑性樹脂層2の他方の面にグロスマット発現用柄部6及びプライマー層7を形成し、その後、絵柄層3の着色熱可塑性樹脂層2とは逆側の面に、透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5を形成しているが、これに限るものではない。例えば、着色熱可塑性樹脂層2の一方の面に絵柄層3、透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5を順に形成した後、他方の面にグロスマット発現用柄部6及びプライマー層7を順に形成してもよい。
【0070】
(3)また、図3に示すように、上記実施形態による化粧シート1を化粧部材用基材である基材9に貼り合せて、化粧部材10としてもよい。化粧部材10において化粧シート1は基材9の少なくとも一方の面側に設けられていればよく、両面に設けてもよい。
【0071】
〔基材〕
基材9としては、木質基材、樹脂基材、不燃基材及び金属基材のうちのいずれかを使用することができる。木質基材としては、例えば木材単板、木材合板、集成材、パーティクルボード、中密度繊維板、硬質繊維板を採用することができる。樹脂基材としては、例えば、プラスチックなどの樹脂、またはそれらの複合材料を採用することができる。不燃基材としては、例えば不燃仕様の鋼板又は建設省告示1400号で定められた不燃材料から構成された基材を採用することができる。また、金属基材としては、鋼板・アルミ板などを採用することができる。また、基材9は、プラスチックなどの樹脂、またはそれらの複合材料であっても良い。すなわち、基材9は樹脂基材であってもよい。また基材9は、例えば不燃仕様の鋼板又は建設省告示1400号で定められた不燃材料から構成された不燃基材であってもよい。
【0072】
このように、化粧部材10は、基材9と、基材9の少なくとも一方の面側に設けられた化粧シート1と、を備える。また基材9として、木質基材、樹脂基材、不燃基材または金属基材のうちいずれかを用いることができる。
【0073】
上述のように、化粧シート1は、プライマー層7を有しており、基材9との接着性を確保することができるため、化粧部材10が、化粧シート1側と基材9側との間で剥離することを抑制することができる。また、エンボス部5aを形成する際に、熱を加えることで化粧シート1の表面強度を向上させているため、この化粧シート1を用いることで表面強度を担保しつつ、良好な曲げ加工適正を有する化粧部材10を得ることができる。
【実施例0074】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。なお、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0075】
(実施例及び比較例の化粧シートの作成)
(実施例1)
厚さ55μmのPE層からなる着色熱可塑性樹脂層2の一方の面に、ウレタン系印刷インキを用いて木目柄を印刷し絵柄層3を形成した。
【0076】
次に、着色熱可塑性樹脂層2の他方の面に、ウレタン系インキからなる墨インキを用いて、絵柄層3の柄と対応する位置に、グロスマット発現用柄部6を印刷した。
次に、着色熱可塑性樹脂層2の絵柄層3を形成した面の上に、PP樹脂を押し出しラミネートにより積層することで、厚さ80μmの透明熱可塑性樹脂層4を形成した。
【0077】
この透明熱可塑性樹脂層4の上に、アクリル系樹脂組成物及びUV樹脂を主成分とする樹脂を用いて表面保護層5を形成した後、アフターエンボス工程を行った。具体的には、着色熱可塑性樹脂層2の一方の面にグロスマット発現用柄部6が形成され、着色熱可塑性樹脂層2の他方の面に、絵柄層3、透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5が形成された積層体に対し、アフターエンボス工程を行い、絵柄層3の絵柄と同調した化粧シート1を得た。すなわち、この積層体を赤外線ヒーターにより加熱し、その後、エンボスロールを押し当てることにより、エンボス部5aを形成し(アフターエンボス工程)、図1に示す、絵柄層3の絵柄と同調したエンボス部5aを有する実施例1の化粧シートを得た。
【0078】
なお、ここでは、アクリル系樹脂組成物及びUV樹脂を主成分とする樹脂を用いて表面保護層5を形成しているが、前述のように表面保護層5の材料は特に限定されるものではなく、ウレタン系樹脂組成物を主成分とする樹脂を用いて形成してもよく、アクリル系樹脂組成物を主成分とする樹脂を用いて形成してもよい。
【0079】
(比較例1)
比較例1の化粧シートは、実施例1の化粧シートにおいて、エンボス部5aを設ける代わりに艶調節層を設けたものである。
すなわち、上記実施例1の化粧シートと同様に、厚さ55μmのPE層からなる着色熱可塑性樹脂層2の一方の面に、ウレタン系印刷インキを用いて木目柄からなる絵柄層3を形成した。この上にPP樹脂を押し出しラミネートにより厚さ80μmの透明熱可塑性樹脂層4を形成し、さらにアクリル系樹脂組成物及びUV樹脂を主成分とする樹脂を用いて表面保護層5を形成した。その後、絵柄層3の絵柄と同調する位置に、グロスマット意匠表現可能な艶調節層を形成し、グロスマット表現可能な比較例1の化粧シートを得た。艶調節層は、シリカを含有したウレタン樹脂を用いて形成した。
【0080】
〔評価1〕
実施例1の化粧シートについて、グロスマット表現の見え方に影響する、エンボス部の領域と、表面保護層のエンボス部を除く領域とについて、算術平均粗さRaと最大深度とを測定した。
エンボス部の領域の算術平均粗さRaは11.21μm、エンボス部における凹部の最大深度は68.73μmであった。また、表面保護層のエンボス部を除く領域の算術平均粗さRaは4.65μm、表面保護層のエンボス部を除く領域の凹部の最大深度は30.221μmであった。
【0081】
〔評価2〕
実施例1及び比較例1の化粧シートについて、光沢度の測定及びこれに基づくグロスマット意匠性の評価を行い、さらに、磨耗試験(スチールウール試験)、コインスクラッチ試験、ホフマンスクラッチ試験及び鉛筆硬度試験を行った。評価方法及び試験方法は、以下の通りである。
【0082】
(光沢度の測定)
実施例1及び比較例1の化粧シートについて、エンボス部又は艶調整層を形成した後、85°光沢度測定を行った。実施例1については、表面保護層のエンボス部の領域の光沢度と表面保護層のエンボス部を除く領域の光沢度とを測定し、これらの光沢度差を取得した。比較例1については、艶調整層の領域の光沢度と表面保護層の艶調整層を除く領域の光沢度とを測定し、これらの光沢度差を取得した。これら85°光沢度測定は、鏡面光沢計(micro-TRI-gloss BYK社製)を用いて行った。
【0083】
(グロスマット意匠性の評価)
表面保護層の、エンボス部の領域の光沢度と、表面保護層のエンボス部を除く領域の光沢度との光沢度差が、グロスマット表現が可能な「3」よりも大きいか否かに基づき評価した。評価基準は以下の通りである。
【0084】
◎:光沢度差が「3」よりも大きく、生産上でのブレを加味しても安定してグロスマットが発現している。
○:光沢度差が「3」よりも大きくグロスマット表現が視認可能である。
△:光沢度差が「3」よりも小さいがグロスマット表現が視認可能である。
×:グロスマット表現が視認不可である。
【0085】
(摩耗試験(スチールウール試験)方法)
実施例1及び比較例1の化粧シートについて、表面保護層側の表面を、スチールウール(日本スチールウール株式会社製 ボンスター)に荷重をかけて20往復擦った。200g/cmの荷重をかけた場合と、500g/cmの荷重をかけた場合とのそれぞれについて行った。
その後、上記と同様の手順で、光沢度の測定及びグロスマット意匠性の評価を行った。
【0086】
(ホフマンスクラッチ試験)
実施例1及び比較例1の化粧シートについて、米国BYK-GARDNER社製のホフマンスクラッチ試験機を用いて試験を行った。具体的には、化粧シートの表面保護層側の表面に対して、45°の角度で接するようにスクラッチ刃(φ7mmの円柱形の刃)をセットし、試験機を化粧板上で移動させた。200g~2000gの範囲内の荷重で200g刻みで徐々に荷重を高めて引っ掻き、表面状態を観察し、連続的な傷が発生したときの荷重を取得した。
【0087】
(コインスクラッチ試験)
実施例1及び比較例1の化粧シートについて、表面保護層側の表面に、10円貨を接触させ、1kg~5kgの範囲内で、1kg毎に荷重を高めて荷重を加えながら引っ掻き、表面状態を観察し、連続的な傷が発生したときの荷重を取得した。
【0088】
(鉛筆硬度試験)
実施例1及び比較例1の化粧シートについて、表面保護層側の表面に対し、JIS K 5600に準じた鉛筆硬度試験を行った。
評価及び試験結果を、表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示すように、実施例1の化粧シートは、摩耗試験を行った場合であっても、摩耗試験の前後で光沢度差に変化はなく、良好なグロスマット意匠性を発現できることが確認された。一方、比較例1の化粧シートは、ホフマンスクラッチ試験、コインスクラッチ試験及び鉛筆硬度試験において、化粧シートの表面保護層側の表面の硬度が実施例1の化粧シートに比較して小さく、そのため、摩耗試験前には良好なグロスマット意匠性を発現できているが、摩耗試験後は、十分な光沢度差を得ることができず、グロスマット表現を視認できなかった。
【0091】
なお、本発明は、例えば、以下のような構成をとることができる。
(1)
着色樹脂層の一方の面に順に積層された絵柄層と透明樹脂層と表面保護層と、
前記着色樹脂層の他方の面に積層され、前記絵柄層の絵柄と同調して配置され所定の波長の光に対して光吸収性を有する材料で形成されたグロスマット発現用柄部と、
前記表面保護層の、平面視で前記グロスマット発現用柄部と重なる部分に形成されたエンボス部とを備え、
前記エンボス部を含む前記表面保護層は、
前記エンボス部を含む前記表面保護層の表面を、200g~2000gの範囲内の荷重で徐々に荷重を高めて引っ掻くホフマンスクラッチ試験を行ったときの傷が発生する荷重が1000g以上であり、且つ、
10円貨を、前記エンボス部を含む前記表面保護層の表面に接触させ、1kg~5kgの範囲内で1kg毎に荷重を高めつつ荷重を加えながら引っ掻くコインスクラッチ試験を行ったときの傷が発生する荷重が2kg以上であり、且つ、
JIS K 5600に準じた鉛筆硬度試験の硬度が2B以上であることを特徴とする化粧シート。
(2)
前記グロスマット発現用柄部は、カーボンブラックを有する墨インキを含んで形成されることを特徴とする上記(1)に記載の化粧シート。
(3)
前記エンボス部の領域は、算術平均粗さRaが5μm以上であり且つ凹部の最大深度が25μm以上であり、前記表面保護層の前記エンボス部を除く領域は、算術平均粗さRaが3μm以上であり且つ凹部の最大深度が20μm以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の化粧シート。
(4)
基材と、
前記基材の少なくとも一方の面に設けられた上記(1)から(3)のうちのいずれか一つに記載の化粧シートと、を備え、
前記基材は、木質基材、樹脂基材、不燃基材、及び金属基材のうちいずれかであることを特徴とする化粧部材。
【符号の説明】
【0092】
1 化粧シート
2 着色熱可塑性樹脂層
3 絵柄層
4 透明熱可塑性樹脂層
5 表面保護層
6 グロスマット発現用柄部
7 プライマー層
9 基材
10 化粧部材
図1
図2
図3