(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025121736
(43)【公開日】2025-08-20
(54)【発明の名称】シミュレーションシステム及びシミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/08 20240101AFI20250813BHJP
【FI】
G06Q10/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024017402
(22)【出願日】2024-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】田邊 怜
(72)【発明者】
【氏名】松本 健介
(72)【発明者】
【氏名】市岡 佑樹
(57)【要約】
【課題】シミュレーションの規模に関係なく、ラインで行われる業務を構成するリアルタスクに携わる実務作業者の中からシミュレーションの製作協力者を適切に選任する。
【解決手段】シミュレーションの製作協力者を選出する処理が行われる。製作協力者を選出する処理では、実務作業者によるシミュレーション協力の履歴データと、実務作業者によるライン設計計画の履歴データとに基づいて、ラインで行われる業務を構成するリアルタスクに対応付けて設定されたシミュレーションタスクに対する実務作業者の適性度が計算される。また、計算された適性度に基づいて、製作協力者の有力候補が特定される。そして、特定された有力候補の情報が、シミュレーションの製作者のコンピュータに送信される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラインに関するシミュレーションを行うシステムであって、
前記ラインで行われる業務を構成する少なくとも1つのリアルタスクに携わる実務作業者に関するデータが格納された記憶装置と、
前記実務作業者に関するデータに基づいて、前記少なくとも1つのリアルタスクに対応付けて設定された少なくとも1つのシミュレーションタスクごとに、前記シミュレーションの製作協力者を選出する処理を行うように構成されたプロセッサと、を含み、
前記実務作業者に関するデータは、前記実務作業者によるシミュレーション協力の履歴データと、前記実務作業者によるライン設計計画の履歴データとを含み、
前記製作協力者を選出する処理が、
前記シミュレーション協力の履歴データと、前記ライン設計計画の履歴データとに基づいて、前記シミュレーションタスクに対する実務作業者の適性度を、前記シミュレーションタスクごとに計算する処理と、
前記適性度に基づいて、前記製作協力者の有力候補を前記シミュレーションタスクごとに特定する処理と、
前記有力候補の情報を、前記シミュレーションの製作者のコンピュータに送信する処理と、
を含むことを特徴とするシミュレーションシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって、
前記有力候補を特定する処理が、前記シミュレーションタスクごとに計算された前記適性度を実務作業者の間で比較する処理を更に含み、
前記シミュレーションタスクにおいて前記適性度の最も高い実務作業者が前記有力候補として特定される
ことを特徴とするシミュレーションシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のシステムであって、
前記少なくとも1つのリアルタスクは、少なくとも2つのリアルタスクを含み、
前記有力候補を特定する処理において、前記プロセッサは、更に、
前記少なくとも2つのリアルタスクに対応付けて設定された少なくとも2つのシミュレーションタスクの間で前記適性度の最も高い実務作業者が重複して特定された場合、前記有力候補の重複情報を生成する処理を行うように構成され、
前記重複情報が生成された場合、前記有力候補の情報を送信する処理において、前記重複情報が前記製作者のコンピュータに更に送信される
ことを特徴とするシミュレーションシステム。
【請求項4】
請求項1に記載のシステムであって、
前記有力候補を特定する処理が、前記シミュレーションタスクごとに計算された前記適性度を実務作業者の間で比較する処理を更に含み、
前記シミュレーションタスクにおいて前記適性度の上位から少なくとも2名の実務作業者が前記有力候補として特定される
ことを特徴とするシミュレーションシステム。
【請求項5】
請求項4に記載のシステムであって、
前記少なくとも1つのリアルタスクは、少なくとも2つのリアルタスクを含み、
前記有力候補を特定する処理において、前記プロセッサは、更に、
前記少なくとも2つのリアルタスクに対応付けて設定された少なくとも2つのシミュレーションタスクの間で前記適性度の上位から少なくとも2名の実務作業者が重複して特定された場合、前記有力候補の重複情報を生成する処理を行うように構成され、
前記重複情報が生成された場合、前記有力候補の情報を送信する処理において、前記重複情報が前記製作者のコンピュータに更に送信される
ことを特徴とするシミュレーションシステム。
【請求項6】
ラインに関するシミュレーションの製作協力者を選出する処理をコンピュータに行わせるシミュレーションプログラムであって、
前記製作協力者を選出する処理では、前記ラインで行われる業務を構成する少なくとも1つのリアルタスクに携わる実務作業者に関するデータに基づいて、前記少なくとも1つのリアルタスクに対応付けて設定された少なくとも1つのシミュレーションタスクごとに前記製作協力者が選出され、
前記実務作業者に関するデータは、前記実務作業者によるシミュレーション協力の履歴データと、前記実務作業者によるライン設計計画の履歴データとを含み、
前記製作協力者を選出する処理が、
前記シミュレーション協力の履歴データと、前記ライン設計計画の履歴データとに基づいて、前記シミュレーションタスクに対する実務作業者の適性度を、前記シミュレーションタスクごとに計算する処理と、
前記適性度に基づいて、前記製作協力者の有力候補を前記シミュレーションタスクごとに特定する処理と、
前記有力候補の情報を、前記シミュレーションの製作者のコンピュータに送信する処理と、
を含むことを特徴とするシミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シミュレーションを行うシステム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2022-015852号公報は、シミュレーションを行う業務管理システムを開示する。このシステムのシミュレーションでは、所定業務を構成する複数のタスクの各所要時間と、複数の作業者の各稼働可能時間と、これらの作業者の各処理能力と、に基づいて、複数のタスクのうち未実行となるタスク(未実行タスク)の数が計算される。そして、未実行タスクの数が基準よりも多い場合、警告が出される。未実行タスクの数の計算に際しては、複数のタスクのそれぞれに複数の作業者を割り当てるため、これらの作業者の優先度が用いられる。
【0003】
本開示に関連する技術分野の技術水準を示す文献としては、特開2022-015852号公報の他に、特開2018-026069号公報を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-015852号公報
【特許文献2】特開2018-026069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工場、物流倉庫、物流センタとった施設のラインに関するシミュレーションを考える。このシミュレーションで設定されるタスクは、ラインで行われる業務を構成するリアルタスクに対応している。ここで、ラインに関するシミュレーションの製作は、ラインで行われる業務の内容や、この業務を構成するリアルタスクの処理の順番といった、ライン全体を俯瞰する製作者により行われる。但し、この製作者はあくまでも製作の担当者であり、リアルタスクの処理の実務に精通しているとは限らない。そのため、シミュレーションのためのタスク(以下、「シミュレーションタスク」とも称す。)の設定や、シミュレーションタスクに固有のパラメータの入力や調整には、リアルタスクに携わる実務作業者の協力が不可欠である。
【0006】
シミュレーションタスクの設定、シミュレーションタスクに固有のパラメータの入力や調整といったシミュレーションの製作に協力する人間(以下、「製作協力者」とも称す。)を、実務作業者から選任する場合を考える。シミュレーションの規模が小さい場合は、実務作業者の中から適当な製作協力者を製作者が指名することもできる。しかしながら、シミュレーションの規模が大きくなると、業務を構成するリアルタスクの総数や、この業務自体の総数の増加に伴い製作協力者の候補も多くなり、製作協力者の選任が複雑化する。この観点は従来技術にはなく、故に、改良の余地がある。
【0007】
本開示の1つの目的は、シミュレーションの規模に関係なく、ラインで行われる業務を構成するリアルタスクに携わる実務作業者の中からシミュレーションの製作協力者を適切に選任することのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の観点は、シミュレーションシステムであり、次の特徴を有する。
前記シミュレーションシステムは、記憶装置と、プロセッサとを備える。前記記憶装置には、前記ラインで行われる業務を構成する少なくとも1つのリアルタスクに携わる実務作業者に関するデータが格納されている。前記プロセッサは、前記実務作業者に関するデータに基づいて、前記少なくとも1つのリアルタスクに対応付けて設定された少なくとも1つのシミュレーションタスクごとに、前記シミュレーションの製作協力者を選出する処理を行うように構成されている。
前記実務作業者に関するデータは、前記実務作業者によるシミュレーション協力の履歴データと、前記実務作業者によるライン設計計画の履歴データとを含む。
前記製作協力者を選出する処理は、前記シミュレーション協力の履歴データと、前記ライン設計計画の履歴データとに基づいて、前記シミュレーションタスクに対する実務作業者の適性度を、前記シミュレーションタスクごとに計算する処理と、前記適性度に基づいて、前記製作協力者の有力候補を前記シミュレーションタスクごとに特定する処理と、前記有力候補の情報を、前記シミュレーションの製作者のコンピュータに送信する処理と、を含む。
【0009】
本開示の第2の観点は、シミュレーションプログラムであり、次の特徴を有する。
前記シミュレーションプログラムは、ラインに関するシミュレーションの製作協力者を選出する処理をコンピュータに行わせる。
前記製作協力者を選出する処理では、前記ラインで行われる業務を構成する少なくとも1つのリアルタスクに携わる実務作業者に関するデータに基づいて、前記少なくとも1つのリアルタスクに対応付けて設定された少なくとも1つのシミュレーションタスクごとに前記製作協力者が選出される。
前記実務作業者に関するデータは、前記実務作業者によるシミュレーション協力の履歴データと、前記実務作業者によるライン設計計画の履歴データとを含む。
前記製作協力者を選出する処理が、前記シミュレーション協力の履歴データと、前記ライン設計計画の履歴データとに基づいて、前記シミュレーションタスクに対する実務作業者の適性度を、前記シミュレーションタスクごとに計算する処理と、前記適性度に基づいて、前記製作協力者の有力候補を前記シミュレーションタスクごとに特定する処理と、前記有力候補の情報を、前記シミュレーションの製作者のコンピュータに送信する処理と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、シミュレーションの製作協力者を選出する処理が行われる。この処理によれば、シミュレーションタスクに対する実務作業者の適性度に基づいて製作協力者の有力候補が特定され、この有力候補の情報がシミュレーションの製作者のコンピュータに送信される。つまり、製作協力者の有力候補が製作者に提案される。従って、シミュレーションの規模が小さい場合だけでなく、この規模が大きくなった場合であっても、製作者による製作協力者の適切な選任が可能となる。このことは、シミュレーション出力の精度向上に繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るシミュレーションシステムの概要を示す図である。
【
図2】作業者のタスクに対する適性度の一例を示す図である。
【
図3】実施形態に係るシミュレーションシステムの構成例を説明する図である。
【
図5】実施形態に特に関連するコンピュータ処理例を示すフローチャートである。
【
図6】実施形態に特に関連するコンピュータ処理例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。尚、各図において、同一又は相当する部分には同一符号を付してその説明を簡略化し又は省略する。
【0013】
1.シミュレーションシステム
図1は、本開示の実施形態に係るシミュレーションシステムの概要を示す図である。
図1に示されるシミュレーションシステム1は、ラインLNに関するシミュレーッションを行うシステムである。ラインLNは、製品の生産、保管、包装といった各種の業務を協調して実施するために一連化されたものである。ラインLNは、製品を大量生産する工場の敷地内、製品やその原材料を保管し又は製品をパッキングして出荷する物流倉庫の敷地内、商品の入荷、検品、保管、ピッキング、パッキング、出荷などを行う物流センタの敷地内に設けられる。
【0014】
ラインLNには複数の作業者が配置されている。これらの作業者は何れも、ラインLNで協調して実施される業務に携わる「実務作業者」である。
図1に示される作業者WK1、WK2、WK3、WK4、WK5及びWK6は、「実務作業者」の一例である。以下、説明の便宜上、ラインLNに配置される複数の作業者の何れか1人について言及する場合は「作業者WKz」とも称す。
【0015】
作業者WK1及びWK2は、タスクTS1を担当する。作業者WK3及びWK4は、タスクTS2を担当する。作業者WK5及びWK6は、タスクTS3を担当する。タスクTS1、TS2及びTS3は、ラインLNで実施される業務を構成する「少なくとも1つのリアルタスク」の一例である。例えば、ラインLNが物流センタに設けられる場合、商品の入荷、検品、保管、ピッキング、パッキング、出荷などがタスクTS1、TS2及びTS3に該当する。タスクTS1、TS2及びTS3は、作業者WKによる手作業、又は、作業者WKによるロボット操作により処理される。
【0016】
シミュレーションシステム1では、デジタル空間を用いたシミュレーション(以下、「デジタルツインシミュレーション」又は「DTS」とも称す。)が実施される。このデジタル空間は、ラインLNが設けられる現実空間に基づいて再現されたものである。
図1に示されるDT(デジタルツイン)プラットフォーム2は、DTSを実施するための構成である。DTプラットフォーム2には、DTプラットフォーム2とDTSの関係者が情報をやり取りする各種コンピュータが接続されている。各種コンピュータには、メインコンピュータMCと、サブコンピュータSC1、SC2及びSC3とが含まれている。
【0017】
メインコンピュータMCは、ラインLNに関するDTSの製作を担当する製作者PRのコンピュータである。メインコンピュータMCは、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つの記憶装置とを含む。少なくとも1つのプロセッサは、各種処理を実行する。少なくとも1つのプロセッサとしては、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、等が例示される。少なくとも1つの記憶装置は、各種データを記憶(格納)する。記憶装置としては、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、等が例示される。少なくとも1つの記憶装置には、各種プログラムが格納されている。各種のプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納されていてもよい。
【0018】
製作者PRは、ラインLNで実施される業務の内容や、この業務を構成するタスクの処理の順番といった、ラインLN全体を俯瞰する人間である。製作者PRは、ラインLNで実施される業務を構成するタスク(つまり、タスクTS1、TS2及びTS3)に対応付けてDTS用のタスク(つまり、DTS用のシミュレーションタスク)を設定し、DTSの設計入力を行う。製作者PRによる設計入力に応答し、又は、この設計入力を補助するために、DTプラットフォーム2からメインコンピュータMCに各種の入力レコメンドが出力される。
【0019】
DTSを実施するためには、DTS用のタスクに固有のパラメータの入力や調整を、タスクTS1、TS2及びTS3の各タスクの実情を考慮して行う必要がある。この入力や調整を行うためのコンピュータがサブコンピュータSC1、SC2及びSC3である。サブコンピュータSC1、SC2及びSC3は、それぞれ、製作協力者PC1、PC2及びPC3のコンピュータである。これらのサブコンピュータの各構成は、メインコンピュータMCと基本的に同じである。
【0020】
製作協力者PC1、PC2及びPC3は、タスクTS1、TS2及びTS3の各タスクに携わる作業者から選任される。
図1に示される例では、製作協力者PC1は作業者WK1又はWK2であり、製作協力者PC2は作業者WK3又はWK4であり、製作協力者PC3は作業者WK5又はWK6である。製作協力者PC1、PC2及びPC3は、DTプラットフォーム2からサブコンピュータSC1、SC2及びSC3にそれぞれ出力される各種の入力レコメンドに基づいて、自らが担当するタスクに固有のパラメータの入力や調整といった設定入力を行う。
【0021】
2.適性度
タスクTS1の実務に精通した作業者(例えば、ベテランの作業者)は、製作協力者PC1の候補といえる。これは、製作協力者PC2及びPC3の候補についても同じである。DTSの規模が小さくタスクの総数も少ない場合は、このような人間を複数の作業者の中から抽出して製作協力者に任命することもできる。しかしながら、DTSの規模が大きくなると、タスクの総数や製作協力者の候補の総数が多くなる。また、タスクの実務に精通した作業者であっても、シミュレーション業務に疎いようでは製作協力者として適任ではない。一方、タスクの実務経験が浅い作業者であっても、製作協力者に向いている人間が存在する。
【0022】
そこで、実施形態では、作業者WKに関するデータ(以下、「作業者データ」とも称す。)DWKに基づいて、DTSに対する作業者WKzの適性度AL(Aptitude Level)が計算される。製作協力者はタスクごとに選任されることから、適性度ALもタスクごとに計算される。適性度ALは、例えば、作業者WKzのDTSに対する協力の履歴と、作業者WKzのラインに対する設計計画の履歴とを変数とする計算式を用いて算出される。
【0023】
DTSに対する協力の履歴は、例えば、ラインLNで実施される業務を構成するタスク、かつ、適性度ALの計算の対象となるタスクと同一のタスクについて作業者WKzが製作協力者として選任された過去の実績である。製作協力者としての経験を有する人間は、シミュレーション業務に対する理解があり、製作協力者としての役目を適切に果たすことが期待される。
【0024】
DTSに対する協力の履歴は、ラインLNで実施される業務を構成するタスク、かつ、適性度ALの計算の対象となるタスクと類似するタスクについて作業者WKzが製作協力者として選任された過去の実績でもよい。ラインLNとは別のラインで行われる業務を構成するタスク、かつ、適性度ALの計算の対象となるタスクと同一のタスクについての過去の実績を、この履歴として用いてもよい。
【0025】
ラインに対する設計計画の履歴は、例えば、ラインLN又はラインとは別のラインの設計及び計画について作業者WKzが携わった過去の実績である。設計及び計画に携わった経験は、ラインの全体を俯瞰する立場の経験に近い。そのため、このような経験を有する人間は、製作者PRによって製作されたシミュレーションの意図を理解し、製作協力者としての役目を適切に果たすことが期待される。
【0026】
DTSに対する協力の履歴がDTSに関する直接的な履歴と言えるのに対し、ラインに対する設計計画の履歴はDTSに関する間接的な履歴と言える。このような2種類の履歴を変数とする計算式を用いて適性度ALを計算することで、適性度ALの計算の対象となるタスクに対する作業者WKzの適性が評価される。
【0027】
図2は、作業者WKzのタスクTSi(iは自然数)に対する適性度AL(TSi)の一例を示した図である。
図2には、作業者WK1、WK2、WK3及びWKj(jは3よりも大きい自然数)の適性度AL(TSi)が示されている。
図2に示される例では、作業者WK1の適性度AL(TSi)が最も高く、作業者WK3のそれが最も低い。このことから、作業者WK1は、タスクTSiの製作協力者PCの有力候補であることが理解される。
【0028】
実施形態では、ラインLNで行われる業務を構成する全てのタスクについて、製作協力者PCの有力候補CDが特定される。有力候補CDが特定されたら、この有力候補CDの情報がメインコンピュータMCに送信される。製作者PRは、有力候補CDの情報に含まれる有力候補CDを製作協力者PCとして承認し、又は、有力候補CDの情報を参照して製作協力者PCを選定する。これにより製作協力者PCが選出される。
【0029】
このように、実施形態では、適性度AL(TSi)に基づいて製作協力者PCが選任される。以下、DTSの製作協力者PCの選任を行うための構成例について説明する。
【0030】
3.構成例
図3は、実施形態に係るシミュレーションシステムの構成例を説明する図である。
図3に示されるシミュレーションシステム1は、ラインLNが設けられる実工場3内の現実空間を再現したデジタル空間を用いたシミュレーション(つまり、デジタルツインシミュレーション)を行うための構成として、DTプラットフォーム2と、メインコンピュータ群MCG(複数のメインコンピュータMC)と、サブコンピュータ群SCG(複数のサブコンピュータSC)とを備えている。
【0031】
DTプラットフォーム2は、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つの記憶装置とを含むコンピュータである。少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つの記憶装置の例は、メインコンピュータMCが備えるプロセッサと記憶装置の例と同じである。但し、DTプラットフォーム2が備える記憶装置には、製作協力者PCを選出する処理、DTS、及びその他のデータ処理を実行するためのプログラムが格納されている。これらのプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納されていてもよい。
【0032】
図3に示される例では、DTプラットフォーム2が、データベース21及び22と、PC選出部23と、DT(デジタルツイン)シミュレーション部24と、を備えている。データベース21及び22は、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリの内部に形成される。データベース21には、作業者データDWKが格納されている。データベース22には、シミュレーションデータDSMが格納されている。
【0033】
図4は、作業者データDWKの構成例を説明する図である。
図4に示される例では、作業者データDWKが、識別データDIDと、協力履歴データDCHと、設計計画履歴データDDHと、タスク履歴データDTHと、スケジュールデータDSCと、を含んでいる。
【0034】
識別データDIDは、作業者WKzを識別するためのデータを表す。協力履歴データDCHは、作業者WKzによるDTSに対する協力の履歴に関するデータを表す。協力履歴データDCHは、協力内容データCC_Hと、協力時間データCT_Hとを含んでいる。協力内容データCC_Hは、作業者WKzが製作協力者として選任されたときのタスクの内容に関するデータを表す。協力内容データCC_Hは、ラインと関連付けて生成される。協力時間データCT_Hは、作業者WKzが製作協力者として選任された期間、又は、製作協力者として活動した時間に関するデータである。協力時間データCT_Hは、タスクの内容ごとに生成される。
【0035】
設計計画履歴データDDHは、作業者WKzによるラインの設計及び計画の履歴に関するデータを表す。設計計画履歴データDDHは、設計計画内容データDC_Hと、設計計画時間データDT_Hとを含んでいる。設計計画内容データDC_Hは、作業者WKzが携わったラインの設計計画の内容(概要)に関するデータを表す。設計計画内容データDC_Hは、作業者WKzが携わったラインと関連付けて生成される。設計計画時間データDT_Hは、作業者WKzが設計計画に携わった時間に関するデータである。設計計画時間データDT_Hは、設計計画の内容ごとに生成される。
【0036】
タスク履歴データDTHは、作業者WKzが従事したタスクの履歴に関するデータを表す。タスク履歴データDTHは、タスク内容データTC_Hと、タスク時間データTT_Hとを含んでいる。タスク内容データTC_Hは、作業者WKzが従事したタスクの内容に関するデータを表す。タスク内容データTC_Hは、ラインと関連付けて生成される。タスク時間データTT_Hは、作業者WKzが従事したタスクの時間に関するデータを表す。タスク時間データTT_Hは、作業者WKzが従事したタスクの内容ごとに生成される。
【0037】
スケジュールデータDSCは、作業者WKzのスケジュールに関するデータを表す。作業者WKzのスケジュールは、例えば、作業者WKzの一定期間(例えば、1日、1週間、1ヶ月)の勤務スケジュールである。勤務スケジュールには、ラインLNへの配置予定の時間帯、ラインLNで実施される業務を構成するタスク以外のタスクに従事する予定の時間帯、休憩予定の時間帯などの情報が含まれている。
【0038】
図3に戻り、データベース22に格納されるシミュレーションデータDSMは、DTSの実施に必要な各種のデータを含んでいる。DTSの実施に必要なデータとしては、DTS用のモデルのデータが挙げられる。DTS用のモデルの構築は、製作者PRにより行われる。DTSの実施に必要なデータには、DTS用のモデルのパラメータも含まれる。このパラメータの入力は、製作者PR及び製作協力者PCにより行われる。DTS用のモデルやこのモデルのパラメータは、DTSの結果の解析によって調整されうる。DTSの結果データや解析データもシミュレーションデータDSMに含まれる。
【0039】
PC選出部23の機能は、例えば、DTプラットフォーム2が備える少なくとも1つのプロセッサにより実現される。PC選出部23は、作業者WKzから製作協力者の選出を行う。製作協力者の選出を行うための構成として、PC選出部23は、AL計算部25と、CD特定部26と、PC決定部27とを備えている。
【0040】
AL計算部25は、データベース21に格納された作業者データDWKに基づいて、作業者WKzのタスクTSiに対する適性度AL(TSi)を計算する。適性度AL(TSi)の計算に際しては、協力履歴データDCHを構成するデータ(即ち、協力内容データCC_H及び協力時間データCT_H)が参照され、タスクTSi(即ち、ラインLNで実施される業務を構成するタスク、かつ、適性度ALの計算の対象となるタスク)に関連するデータが作業者ごとに抽出される。また、設計計画履歴データDDHを構成するデータ(即ち、設計計画内容データDC_H及び設計計画時間データDT_H)が参照され、設計計画に関連するデータが作業者ごとに抽出される。
【0041】
そして、協力履歴データDCHと設計計画履歴データDDHを変数とする計算式(AL(TSi)=f(CC_H,CT_H,DC_H,DT_H))に、作業者ごとに抽出されたデータが代入される。これにより、適性度AL(TSi)が算出される。
【0042】
CD特定部26は、AL計算部25によって計算された適性度AL(TSi)を作業者間で比較して、有力候補CD(TSi)を特定する。有力候補CD(TSi)は、例えば、適性度AL(TSi)が最も高い作業者WKzである。別の例では、有力候補CD(TSi)が少なくとも2名特定される。この場合、有力候補CD(TSi)は、適性度AL(TSi)の上位から順に特定される。CD特定部26は、特定された有力候補CD(TSi)の情報(以下、「CD情報」とも称す。)を生成する。
【0043】
ラインLNで実施される業務を構成するタスクは複数あることから、あるタスクTSxの有力候補CD(TSx)が、別のタスクTSyの有力候補CD(TSy)と重複する場合がある(x,yは自然数)。また、有力候補CDが少なくとも2名特定される例では、この重複が発生する可能性が高くなる。このような場合、CD特定部26は、有力候補CDの重複情報を生成する。
【0044】
PC決定部27は、CD特定部26が生成したCD情報をメインコンピュータMCに送信する。重複情報が生成されている場合、PC決定部27は、この重複情報をCD情報と共にメインコンピュータMCに送信する。製作者PRは、メインコンピュータMCを操作して、CD情報に含まれる有力候補CDを製作協力者PCとして承認し、又は、CD情報を参照して製作協力者PCを選定する。メインコンピュータMCから承認又は選定情報を受信した場合、PC決定部27は、この情報に基づいて製作協力者PCを決定する。このようにして決定された製作協力者PCの情報(以下、「PC情報」とも称す。)は、DTシミュレーション部24に送信される。
【0045】
DTシミュレーション部24の機能は、例えば、DTプラットフォーム2が備える少なくとも1つのプロセッサにより実現される。DTシミュレーション部24は、DTSを行う。このDTSでは、まず、ラインLNで実施中の業務を構成するタスクに対し、作業者WKzが割り当てられる。ラインLNで実施予定の業務を構成するタスクに対して作業者WKzが割り当てられてもよい。作業者WKzの割り当てに際しては、スケジュールデータDSCと、タスク履歴データDTHとが適宜参照される。
【0046】
ラインLNで実施中又は実施予定の業務と、この業務を構成するタスクは、ラインLNの業務計画データDOPから特定される。ここで、業務計画データDOPは、例えば、実工場3が備えるコンピュータにより別途設定される。業務計画データDOPは、例えば、ラインLNで実施中の(又は実施が予定されている)業務内容OC_Pのデータと、業務内容OC_Pの業務を実施する(又は実施が予定されている)時間OT_Pのデータとを含んでいる。そのため、業務内容OC_Pのデータを参照することで、ラインLNで実施中又は実施予定の業務と、この業務を構成するタスクが特定される。
【0047】
作業者WKzの割り当てが完了したら、DTSが実行される。DTSでは、例えば、ラインLNにおける将来の状態が予測される。この将来の状態としては、ラインLNで実施される業務全体の効率、この業務を構成するタスクの各効率、タスクに携わる作業者WKzの負荷率などが挙げられる。
【0048】
4.処理例
図5及び6は、実施形態に特に関連するコンピュータ処理例を示すフローチャートである。
図5又は6に示されるルーチンは、例えば、DTプラットフォーム2が備える少なくとも1つのプロセッサによって、所定周期で繰り返し実行される。
【0049】
図5に示されるルーチンでは、まず、適性度AL(TSi)が計算される(ステップS11)。適性度AL(TSi)の計算は、データベース21に格納された協力履歴データDCHと設計計画履歴データDDHに基づいて行われる。適性度AL(TSi)の計算は、AL計算部25の説明で述べた、協力履歴データDCHと設計計画履歴データDDHを変数とする計算式を用いて行われる。適性度AL(TSi)の計算は作業者ごとに行われる。
【0050】
ステップS11の処理に続いて、有力候補CDが特定される(ステップS12)。有力候補CDの特定は、ステップS11の処理で計算された適性度AL(TSi)を作業者間で比較することにより行われる。ステップS12の処理では、適性度AL(TSi)が最も高い作業者が有力候補CDとして特定される。有力候補CDの特定は、タスクごとに行われる。
【0051】
ステップS12の処理に続いて、タスク間で有力候補CDが重複するか否かが判定される(ステップS13)。タスクTSxについての製作協力者PCの有力候補CD(TSx)とタスクTSyについての製作協力者PCの有力候補CD(TSy)が重複する場合、重複情報が生成される。重複情報は、タスクTSx及びTSyの情報と、これらのタスクに共通する有力候補CDの情報を含む。重複情報には、ステップS11の処理で計算された適性度AL(TSx)及びAL(TSy)の情報が含まれてもよい。適性度AL(TSx)及びAL(TSy)の情報が重複情報に含まれる場合は、適性度AL(TSx)及びAL(TSy)の上位数名の作業者の情報が、製作協力者PCの予備候補の情報として重複情報に追加されてもよい。
【0052】
ステップS13の判定結果が肯定的な場合、有力候補CDの情報(CD情報)がメインコンピュータMCに送信される(ステップS14)。そうでない場合、有力候補CDの情報に加えて重複情報がメインコンピュータMCに送信される(ステップS15)。
【0053】
ステップS14又はS15の処理に続いて、メインコンピュータMCから応答情報(即ち、承認又は選定情報)を受信したか否かが判定される(ステップS16)。ステップS16の処理は、応答情報を受信するまで繰り返して行われる。ステップS16の判定結果が肯定的な場合、製作協力者PCが決定される(ステップS17)。製作協力者PCの決定は、ステップS16の処理で受信した応答情報に基づいて行われる。
【0054】
図6に示されるルーチンの処理では、まず、適性度AL(TSi)が計算される(ステップS21)。ステップS21の処理の内容は、
図5のステップS11の処理のそれと同じである。
【0055】
ステップS21の処理に続いて、有力候補CDが特定される(ステップS22)。有力候補CDの特定は、ステップS21の処理で計算された適性度AL(TSi)を作業者間で比較することにより行われる。ステップS22の処理では、適性度AL(TSi)の上位2名の作業者が有力候補CDとして特定される。有力候補CDの特定は、タスクごとに行われる。
【0056】
ステップS22の処理に続いて、タスク間で有力候補CDが重複するか否かが判定される(ステップS23)。ステップS23の処理の内容は、
図5のステップS13の処理のそれと基本的に同じである。但し、ステップS23の処理では、重複情報に、複数のタスクに共通する有力候補CDの順位情報が追加されることが望ましい。適性度AL(TSx)及びAL(TSy)の情報が重複情報に含まれてもよいこと、及び、適性度AL(TSx)及びAL(TSy)の上位数名(有力候補CDを除く)の予備候補の情報が重複情報に追加されてもよいことはステップS13の処理と同じである。
【0057】
ステップS23の判定結果が肯定的な場合、有力候補CDの情報(CD情報)がメインコンピュータMCに送信される(ステップS24)。そうでない場合、有力候補CDの情報に加えて重複情報がメインコンピュータMCに送信される(ステップS25)。
【0058】
ステップS24又はS25の処理に続いて、メインコンピュータMCから応答情報(即ち、承認又は選定情報)を受信したか否かが判定される(ステップS26)。ステップS26の処理の内容は、
図5のステップS16の処理のそれと同じである。ステップS16の判定結果が肯定的な場合、製作協力者PCが決定される(ステップS27)。製作協力者PCの決定は、ステップS26の処理で受信した応答情報に基づいて行われる。
【0059】
5.効果
以上説明された実施形態によれば、製作協力者PCを選出する処理が行われる。この処理によれば、DTSに対する作業者WKzの適性度ALに基づいて有力候補CDが特定され、この有力候補CDの情報がメインコンピュータMCに送信される。つまり、有力候補CDが製作者PRに提案される。従って、シミュレーションの規模が小さい場合だけでなく、この規模が大きくなった場合であっても、製作者PRによる製作協力者CPの適切な選任が可能となる。このことは、DTS出力の精度向上に繋がる。
【符号の説明】
【0060】
1…シミュレーションシステム、2…DTプラットフォーム、3…実工場、21,22…データベース、23…PC選出部、24…DTシミュレーション部、25…AL計算部、26…CD特定部、27…PC決定部、AL…適性度、CD…有力候補、CP…製作協力者、LN…ライン、MC…メインコンピュータ、PC,PC1,PC2,PC3…製作協力者、PR…製作者、SC1,SC2,SC3…サブコンピュータ、TS1,TS2,TS3,TSi,TSx,TSy…タスク、WK1,WK2,WK3,WK4,WK5,WK6,WKz…作業者、DCH…協力履歴データ、CC_H…協力内容データ、CT_H…協力時間データ、DDH…設計計画履歴データ、DC_H…設計計画内容データ、DT_H…設計計画時間データ、DTH…タスク履歴データ、TC_H…タスク内容データ、TT_H…タスク時間データ、DID…識別データ、DOP…業務計画データ、DSC…スケジュールデータ、DSM…シミュレーションデータ、DWK…作業者データ