(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012186
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及びプログラム、並びに、水処理の制御方法
(51)【国際特許分類】
B01D 21/30 20060101AFI20250117BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20250117BHJP
B01D 21/02 20060101ALI20250117BHJP
G06T 7/60 20170101ALI20250117BHJP
【FI】
B01D21/30 A
B01D21/01 D
B01D21/01 H
B01D21/02 M
G06T7/60 150Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114840
(22)【出願日】2023-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(71)【出願人】
【識別番号】390014074
【氏名又は名称】前澤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山村 寛
(72)【発明者】
【氏名】石井 崇晃
(72)【発明者】
【氏名】明山 倫太郎
(72)【発明者】
【氏名】根本 雄一
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096DA02
5L096EA35
5L096FA70
(57)【要約】
【課題】良質なフロックが形成されるための凝集剤の添加量を迅速且つ簡単に判別することができる情報処理装置を提供する。
【解決手段】情報処理装置10はCPU11及びSSD14を備え、被処理水に凝集剤を注入して被処理水に含まれる濁質を凝集することによって多数のフロックを形成するフロック形成池においてフロックが成長し、成長したフロックが沈澱槽において沈澱し被処理水から除去される上水処理に用いられ、CPU11はフロック形成池の様子を示す画像データから各フロックの画像をトリミングして各フロックのトリミング画像を生成し、各フロックのトリミング画像に基づいて、各フロックのサイズ及び各フロックのトリミング画像のフラクタル次元を算出するとともに、各フロックのサイズ及び各フラクタル次元に基づいて各フロックの沈降速度を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に含まれる濁質を凝集させてフロックを形成するフロック形成池において前記フロックが成長し、前記成長したフロックが沈澱槽において沈澱し前記被処理水から除去される上水処理に用いられる情報処理装置であって、
前記フロック形成池の様子を示す画像データを2値化する2値化手段と、
前記2値化された画像データから各前記フロックの画像をトリミングして各前記フロックのトリミング画像を生成する生成手段と、
各前記フロックのトリミング画像に基づいて、各前記フロックのサイズ及び各前記フロックのトリミング画像のフラクタル次元を算出するとともに、各前記フロックのサイズ及び各前記フラクタル次元に基づいて各前記フロックの沈降速度を算出する算出手段とを備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記算出手段は、前記沈降速度を算出したフロックのうち、前記沈澱槽の表面積に対する前記沈澱槽における被処理水の流量によって算出される表面負荷率よりも小さい沈降速度を有するフロックの割合である流出率を更に算出することを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記算出手段は、前記沈降速度を算出したフロックのうち単位時間当たりの沈降距離が所定の距離よりも短いフロックの割合である流出率を更に算出することを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記所定の距離は前記沈澱槽の鉛直方向に関する長さ又は前記沈澱槽における被処理水の水深距離であることを特徴とする請求項3記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記流出率が10%以下であるか否かを判別する判別手段を備えることを特徴とする請求項3又は4記載の情報処理装置。
【請求項6】
被処理水に含まれる濁質を凝集させてフロックを形成するフロック形成池において前記フロックが成長し、前記成長したフロックが沈澱槽において沈澱し前記被処理水から除去される上水処理に用いられる情報処理方法において、
前記フロック形成池の様子を示す画像データを2値化する2値化ステップと、
前記2値化された画像データから各前記フロックの画像をトリミングして各前記フロックのトリミング画像を生成する生成ステップと、
各前記フロックのトリミング画像に基づいて、各前記フロックのサイズ及び各前記フロックのトリミング画像のフラクタル次元を算出するとともに、各前記フロックのサイズ及び各前記フラクタル次元に基づいて各前記フロックの沈降速度を算出する算出ステップとを有することを特徴とする情報処理方法。
【請求項7】
前記算出ステップにおいて、前記沈降速度を算出したフロックのうち、前記沈澱槽の表面積に対する前記沈澱槽における被処理水の流量によって算出される表面負荷率よりも小さい沈降速度を有するフロックの割合である流出率を更に算出することを特徴とする請求項6記載の情報処理方法。
【請求項8】
前記算出ステップにおいて、前記沈降速度を算出したフロックのうち単位時間当たりの沈降距離が所定の距離よりも短いフロックの割合である流出率を更に算出することを特徴とする請求項6記載の情報処理方法。
【請求項9】
被処理水に含まれる濁質を凝集させてフロックを形成するフロック形成池において前記フロックが成長し、前記成長したフロックが沈澱槽において沈澱し前記被処理水から除去される上水処理に用いられる情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記情報処理方法は、
前記フロック形成池の様子を示す画像データを2値化する2値化ステップと、
前記2値化された画像データから各前記フロックの画像をトリミングして各前記フロックのトリミング画像を生成する生成ステップと、
各前記フロックのトリミング画像に基づいて、各前記フロックのサイズ及び各前記フロックのトリミング画像のフラクタル次元を算出するとともに、各前記フロックのサイズ及び各前記フラクタル次元に基づいて各前記フロックの沈降速度を算出する算出ステップとを有することを特徴とするプログラム。
【請求項10】
前記算出ステップにおいて、前記沈降速度を算出したフロックのうち、前記沈澱槽の表面積に対する前記沈澱槽における被処理水の流量によって算出される表面負荷率よりも小さい沈降速度を有するフロックの割合である流出率を更に算出することを特徴とする請求項9記載のプログラム。
【請求項11】
前記算出ステップにおいて、前記沈降速度を算出したフロックのうち単位時間当たりの沈降距離が所定の距離よりも短いフロックの割合である流出率を更に算出することを特徴とする請求項9記載のプログラム。
【請求項12】
被処理水に含まれる濁質を凝集させてフロックを形成するフロック形成池において前記フロックが成長し、前記成長したフロックが沈澱槽において沈澱し前記被処理水から除去される上水処理に用いられる水処理の制御方法において、
前記フロック形成池の様子を示す画像データを2値化する2値化ステップと、
前記2値化された画像データから各前記フロックの画像をトリミングして各前記フロックのトリミング画像を生成する生成ステップと、
各前記フロックのトリミング画像に基づいて、各前記フロックのサイズ及び各前記フロックのトリミング画像のフラクタル次元を算出するとともに、各前記フロックのサイズ及び各前記フラクタル次元に基づいて各前記フロックの沈降速度を算出する算出ステップとを有することを特徴とする水処理の制御方法。
【請求項13】
前記算出ステップにおいて、前記沈降速度を算出したフロックのうち、前記沈澱槽の表面積に対する前記沈澱槽における被処理水の流量によって算出される表面負荷率よりも小さい沈降速度を有するフロックの割合である流出率を更に算出することを特徴とする請求項12記載の水処理の制御方法。
【請求項14】
前記算出ステップにおいて、前記沈降速度を算出したフロックのうち単位時間当たりの沈降距離が所定の距離よりも短いフロックの割合である流出率を更に算出することを特徴とする請求項12記載の水処理の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は上水処理に用いられる情報処理装置、情報処理方法及びプログラム、並びに、水処理の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、河川水やダム水又は湖沼水等の原水(以下、単に「原水」という。)を飲料水にするための上水処理が知られている。上水処理は、原水に凝集剤を注入して原水を撹拌し、原水に含まれる濁質を凝集させたフロックを形成するフロック形成ステップと、フロックを沈澱させる沈澱ステップとを有する。沈澱ステップにおいて、沈降性のよいフロックは沈澱しやすく、沈降性の悪いフロックは沈澱しにくい。したがって、沈降性のよいフロックが上水処理において適当であり、フロックの沈降性が悪いとき、上水処理を管理する管理者が凝集剤を原水に追加する。
【0003】
上水処理を管理する管理者が、上水処理に関して高度な技量を有していればフロックが形成される様子を観察して原水に追加する凝集剤の注入量を決定するが、上水処理に関して高度な技量を有していなければ原水に追加する凝集剤の注入量を迅速に決定することができない。これに対応して、上水処理に関して高度な技量を有していない管理者が原水に追加する凝集剤の注入量を迅速に決定するために、凝集剤が注入されてから所定の時間内に取得されたフロックを示す画像データと、当該フロックが上水処理に悪影響を及ぼすか否かのカテゴリーとの関係性を事前に深層学習した情報処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1の情報処理装置は、事前に深層学習した画像データ及びカテゴリーの関係性に基づいて、凝集剤が注入されてから所定の時間内に取得されたフロックを示す画像データが新たに入力されたとき、入力された画像データが示すフロックが上水処理に悪影響を及ぼすか否かの予想カテゴリーを出力する。ところで、特許文献1の情報処理装置は、具体的に、CNN(Convolutional Neural Network)モデルにより、深層学習の際又は予想カテゴリーを出力するために新たに入力された画像データを認識する際に画像データの特徴量を出力している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、画像データの特徴量が出力されるとき、画像データにおける着目するポイントが統一されていない。例えば、
図7は、従来の情報処理装置が深層学習であるCNNに基づいて画像データの特徴量を出力するときに画像データの着目ポイントを可視化した画像図であり、CNNは画像データ全体について着目する場合があれば(
図7(a))、画像データに映りこむ特定のフロックについて着目する場合もある(
図7(b))。
図7(a)(b)の右側の図はCNNが特徴量として捉えた部分を表し、赤は最も重みが大きい部分であり、青は重みが小さい部分である。したがって、CNNが出力する特徴量の根拠が統一されていないため、凝集剤が注入されてから所定の時間内に取得されたフロックを示す画像データと、当該フロックが上水処理に悪影響を及ぼすか否かのカテゴリーとの関係性を正確に学習することができず、もって、フロックを示す画像データが入力されたとき、当該画像データに基づいてフロックが上水処理に悪影響を及ぼすか否かの予想カテゴリーを正確に出力することができない虞がある。すなわち、適当な上水処理を実行するために、沈降性のよいフロックが形成されているか否かを正確に判別することができないという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、沈降性のよいフロックが形成されているか否かを正確に判別することができる情報処理装置、情報処理方法及びプログラム、並びに、水処理の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の情報処理装置は、被処理水に含まれる濁質を凝集させてフロックを形成するフロック形成池において前記フロックが成長し、前記成長したフロックが沈澱槽において沈澱し前記被処理水から除去される上水処理に用いられる情報処理装置であって、前記フロック形成池の様子を示す画像データを2値化する2値化手段と、前記2値化された画像データから各前記フロックの画像をトリミングして各前記フロックのトリミング画像を生成する生成手段と、各前記フロックのトリミング画像に基づいて、各前記フロックのサイズ及び各前記フロックのトリミング画像のフラクタル次元を算出するとともに、各前記フロックのサイズ及び各前記フラクタル次元に基づいて各前記フロックの沈降速度を算出する算出手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の情報処理方法は、被処理水に含まれる濁質を凝集させてフロックを形成するフロック形成池において前記フロックが成長し、前記成長したフロックが沈澱槽において沈澱し前記被処理水から除去される上水処理に用いられる情報処理方法において、前記フロック形成池の様子を示す画像データを2値化する2値化ステップと、前記2値化された画像データから各前記フロックの画像をトリミングして各前記フロックのトリミング画像を生成する生成ステップと、各前記フロックのトリミング画像に基づいて、各前記フロックのサイズ及び各前記フロックのトリミング画像のフラクタル次元を算出するとともに、各前記フロックのサイズ及び各前記フラクタル次元に基づいて各前記フロックの沈降速度を算出する算出ステップとを有することを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のプログラムは、被処理水に含まれる濁質を凝集させてフロックを形成するフロック形成池において前記フロックが成長し、前記成長したフロックが沈澱槽において沈澱し前記被処理水から除去される上水処理に用いられる情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、前記情報処理方法は、前記フロック形成池の様子を示す画像データを2値化する2値化ステップと、前記2値化された画像データから各前記フロックの画像をトリミングして各前記フロックのトリミング画像を生成する生成ステップと、各前記フロックのトリミング画像に基づいて、各前記フロックのサイズ及び各前記フロックのトリミング画像のフラクタル次元を算出するとともに、各前記フロックのサイズ及び各前記フラクタル次元に基づいて各前記フロックの沈降速度を算出する算出ステップとを有することを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の水処理の制御方法は、被処理水に含まれる濁質を凝集させてフロックを形成するフロック形成池において前記フロックが成長し、前記成長したフロックが沈澱槽において沈澱し前記被処理水から除去される上水処理に用いられる水処理の制御方法において、前記フロック形成池の様子を示す画像データを2値化する2値化ステップと、前記2値化された画像データから各前記フロックの画像をトリミングして各前記フロックのトリミング画像を生成する生成ステップと、各前記フロックのトリミング画像に基づいて、各前記フロックのサイズ及び各前記フロックのトリミング画像のフラクタル次元を算出するとともに、各前記フロックのサイズ及び各前記フラクタル次元に基づいて各前記フロックの沈降速度を算出する算出ステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、沈降性のよいフロックが形成されているか否かを正確に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係る情報処理装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図2】
図1におけるデータ入力部に入力される画像データが取得される上水処理システムを概略的に示すブロック図である。
【
図3】
図1におけるCPUによって実行される画像データからフロック毎の沈降速度を算出する算出処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図2におけるフロック形成池を撮像して得られる画像データを説明するために用いられる図であり、
図4(a)は、
図2におけるフロック形成池を撮像した際に多数のフロックが混雑する様子を示す画像データであり、
図4(b)は、
図4(a)の画像データに対して2値化処理が施された画像データであり、
図4(c)は、
図4(b)の画像データにおいて決定した位置座標に基づいて、
図4(a)の画像データから所定のフロックをトリミングした画像データである。
【
図5】
図3のS38において算出された全てのフロックの沈降速度v
sから沈澱池におけるフロックの沈降性がよいか否かを判別する判別処理の手順を示すフローチャートである。
【
図6】
図3の算出処理によって算出された降雨前後におけるフロック毎の沈降速度を説明するために用いられる図であり、
図6(a)は平常時の沈降速度を示す図であり、
図6(b)は高濁度時の沈降速度を示す図である。
【
図7】従来の情報処理装置が深層学習であるCNNに基づいて画像データの特徴量を出力するときに画像データの着目ポイントを可視化した画像図であり、
図7(a)は画像データ全体について着目する画像図であり、
図7(b)は画像データに映りこむ特定のフロックについて着目する画像図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る情報処理装置10の構成を概略的に示すブロック図である。
【0016】
図1の情報処理装置10は、CPU11(2値化手段、生成手段、算出手段、判別手段)、RAM12、ROM13、SSD14及びデータ入力部15を備え、これらは内部バス16を介して互いに接続されている。また、データ入力部15には撮像装置や記録媒体等の外部デバイス17が接続され、外部デバイス17に格納されている画像データ又は外部デバイス17が取得した画像データがデータ入力部15から情報処理装置10に入力される。情報処理装置10に入力された画像データはSSD14に格納される。CPU11は、ROM13又はSSD14に格納されたプログラムをCPU11のワークメモリであるRAM12に展開して実行する。
【0017】
図2は、
図1におけるデータ入力部15に入力される画像データが取得される上水処理システム20を概略的に示すブロック図である。
【0018】
図2の上水処理システム20は、原水に凝集剤、例えば、ポリ塩化アルミニウムを注入して急速に撹拌し、原水の濁質が凝集する核であるマイクロフロックを形成する急速混和池21と、緩速に撹拌し、濁質がマイクロフロックに凝集したフロックを形成する複数のフロック形成池22と、フロックが沈澱する沈澱池23(沈澱槽)と、を備え、フロック形成池22は急速混和池21から沈澱池23の方向に沿ってフロック形成池22a,22b,22cを順次有する。急速混和池21、フロック形成池22a,22b,22c及び沈殿池23の間の被処理水の移送は、例えば、配管を用いて行うことができる。急速混和池21において形成され、原水の濁質が凝集する核であるマイクロフロックの大きさは、通常、10μm程度である。フロック形成池は通常2~5個設置することができ、好ましくは3~4個設置される。フロック形成池22のフロックはフロック形成池22a,22b,22cを順次経由して成長(粗大化)する。フロック形成池22cは沈澱池23に隣接し、成長したフロックを含む被処理水を沈澱池23に供給する。本実施の形態において、撮像装置17aが外部デバイス17としてフロック形成池22cに配設され、フロック形成池22cの被処理水において多数のフロックが混雑する様子を撮像する。フロック形成池22c内における撮像装置17aの設置場所は特に限定されるものではない。また、原水に注入された凝集剤注入量及び凝集剤注入率はSSD14に記録される。
【0019】
急速混和池21は撹拌機24を有し、撹拌機24は急速混和池21における被処理水を撹拌し、急速混和池21における被処理水の流速は撹拌機24の周辺において、1.5m/s以上に制御される。フロック形成池22aは撹拌機25を有し、撹拌機25は、例えば、回転数30rpmでフロック形成池22aにおける被処理水を撹拌し、フロック形成池22bは撹拌機26を有し、撹拌機26は、例えば、回転数20rpmでフロック形成池22bにおける被処理水を撹拌し、フロック形成池22cは撹拌機(不図示)を有し、撹拌機(不図示)はフロック形成池22cにおける被処理水の流速を制御する。フロック形成池22cにおける被処理水の流速は、撹拌機を用いなくても、水流の力を利用する迂流式及びパイプ式の撹拌方式により制御することができる。フロック形成池22a,22b,22cの流速は0.1~0.8m/sに制御されるとともに、順次低速化する。例えば、フロック形成池22aにおける被処理水の流速は撹拌機25の周辺において、0.6~0.8m/sに制御され、フロック形成池22bにおける被処理水の流速は撹拌機26の周辺において、0.2~0.6m/sに制御され、フロック形成池22cにおける被処理水の流速は0.1~0.2m/sに制御される。ここで、各フロック形成池で制御される被処理水の流速は、例えば、撹拌翼の直径と回転数から求めることができる。
【0020】
上水処理システム20は不図示の濁度計を有し、濁度計は急速混和池21に流入する原水の濁度を測定している。また、フロック形成池22cは不図示の水温計を有し、水温計はフロック形成池22cの水温を測定する。なお、不図示の水温計は必ずしもフロック形成池22cに配設されている必要はなく、上水処理システム20内に配設され、配設された場所の水温が測定されればよい。測定された水温の情報は後述の水の粘性係数を算出するために用いられる。
【0021】
上水処理システム20は、急速混和池21においてマイクロフロックを形成し、フロック形成池22においてフロックを形成するとともに当該フロックを成長させ、沈澱池23においてフロックを静置条件下で沈澱させる。上水処理システム20において形成されるフロックのうち沈澱池23において速やかに沈澱して除去されるフロック、すなわち、沈降性のよいフロックが所望されている。沈降性のよいフロックを示す指標として沈降速度があり、フロック形成池22cにおけるフロック毎の沈降速度が把握されれば、これに基づいて沈澱池23において沈降性のよいフロックが形成されているか否かが正確に判別される。したがって、画像データに映りこむフロック毎の沈降速度v
sを画像データから直接算出する処理について
図3及び
図4を用いて説明する。
【0022】
図3は、
図1におけるCPU11によって実行される画像データからフロック毎の沈降速度v
sを算出する算出処理の手順を示すフローチャートである。
【0023】
図3の算出処理(情報処理方法、水処理の制御方法)において、まず、撮像装置17aは、フロック形成池22cの被処理水において多数のフロックが混雑する様子を撮像して画像データI(
図4(a))を生成する(S31)。画像データIのサイズはカメラ(撮像装置)の解像度に応じて設定され、本実施の形態では、カメラ(撮像装置)の解像度はフルハイビジョン(1,920×1,080)を用いた。生成された画像データIはデータ入力部15を経由してSSD14に格納される。次いで、CPU11は画像データIに対して2値化処理を実行する(S32)。CPU11は画像データIを構成する各画素の輝度に基づく輝度ヒストグラムを生成し、輝度ヒストグラムを参照しながら2値化の基準となる閾値を設定する。CPU11は設定された閾値よりも大きい輝度を有する画素を白色とし、設定された閾値よりも小さい輝度を有する画素を黒色とし、画像データIに対して2値化処理、例えば、Otsuを用いた2値化処理を施した画像データJを生成する(
図4(b))。画像データJのサイズは画像データIのサイズと同じである。
【0024】
CPU11は2値化処理を施した画像データJから、例えば、cv2.findcontours関数を用いてエッジを検出するエッジ検出処理を実行する(S33)。検出されたエッジはフロックのエッジ(輪郭)を示し、CPU11はフロックのエッジを示す位置座標を出力する。続いて、CPU11は、出力された位置座標に基づき、フロック毎に、フロックのエッジで囲まれた白色部分全体を含み且つ最小限の黒色部分からなる正方形をトリミングしてトリミング画像K(
図4(c))を生成し(S34、生成ステップ)、画像データJに含まれる全てのフロックの各々についてトリミングする。ここで、エッジで囲まれた複数の白色部分が接合している場合には、接合している全ての白色部分を1つのフロックとしてトリミングすることとする。画像データJに含まれるフロックの数は凝集条件によって変わり得るが、通常20~100個であり、フロックの沈降速度v
sを精確に算出するためには、30~50個であるのが好ましい。沈降速度を精確に算出するためには、画像データJに含まれるフロックの数はフロック同士が重ならない程度の数が好ましい。続くS35~S37は所定のフロックのトリミング画像Kを用いて当該フロックの沈降速度を算出する処理について説明する。
【0025】
画像データJからトリミングされたトリミング画像Kは正方形であるため、本実施の形態において、フロックのサイズはトリミング画像Kの一辺の長さdであり、その長さdはトリミング画像Kの一辺を構成する画素数と、トリミング画像Kの解像度とに基づく下記式(1)によって算出される(S35)。
【0026】
【0027】
本実施の形態おいて算出されたフロックのサイズdは、フロックが画像で確認できれば特に限定されないが、成長したフロックの場合、通常0.5~3.5mmである。
【0028】
次いで、CPU11は、トリミング画像Kのフラクタル次元Dを算出する(S36)。ここで、フラクタル次元Dは、図形全体が全体の図形に相似する図形を含むフラクタル図形に用いられ、フロック密度ρfに関連する次元であり、例えば、スケール変換法、カバー法、ボックスカウント法、視野拡大法、回転半径法又は密度相関関数法によって算出される。本実施の形態において、トリミング画像Kのフラクタル次元Dはボックスカウント法によって算出する。具体的に、トリミング画像Kのフラクタル次元Dは、トリミング画像Kを格子状に区切ることによって複数の正方形のボックスδが形成された場合において、正方形のボックスδの一辺の画素数をボックスδのサイズnとするとともに、フロックのフラクタル図形を含むボックスδの個数をN(n)とする下記式(2)を用いて算出する。
【0029】
【0030】
本実施の形態おいて算出されたトリミング画像Kのフラクタル次元Dは、良好な沈降性を考慮すると、通常1.2~2である。
【0031】
ところで、従来より、粒子が流体中を沈降するときの沈降速度vsを算出する算出式としてストークスの法則に基づくストークスの式(下記式(3))が知られている。下記式(3)によれば、沈降速度vs(cm/s)は、フロック径d(cm)、重力定数g(cm/s2)、抗力係数Cd、フロック密度ρf(g/cm3)及び水の密度ρw(g/cm3)のパラメータによって算出される。また、抗力係数Cdは、流体の粘性力と慣性力の比率を示すレイノルズ数Reが1よりも極めて小さい場合に、下記式(4)の関係が成立することが知られている。さらに、レイノルズ数Reは、沈降速度vs(cm/s)、フロック径d(cm)及び水の粘性係数μ(g/cm・s)のパラメータによって下記式(5)の関係を有する。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
また、フロック密度ρf(g/cm3)、水の密度ρw(g/cm3)、フロック径d(cm)及びフラクタル次元Dの関係を示す関係式として、実測値に基づいて導出されたフロック密度関数(下記式(6))が知られている。ところで、式(6)には定数a(g/cm3)が用いられている。定数aは2.5×10-4<a<4×10-4の範囲であり、フロックの形状に依存する。凝集剤にポリ塩化アルミニウムを用いた場合には、通常、a=3.0×10-4を用いる。また、他の凝集剤を用いた場合には、定数aは沈降速度の実測値からストークスの式を逆算して適正範囲を絞ることにより設定することができる。
【0036】
本実施の形態において、フロックの沈降速度vsが要求される沈澱池23のレイノルズ数Reは1よりも極めて小さく、また、水の密度ρwは限りなく1に近いので、式(3)~式(6)に基づいて下記式(7)が導出される。下記式(7)によれば、沈降速度vs(cm/s)は、フロック径d(cm)、フラクタル次元D、定数a(g/cm3)、重力定数g(cm/s2)及び水の粘性係数μ(g/cm・s)のパラメータによって算出され、水の粘性係数μ(g/cm・s)は水温によって決まる。水の粘性係数μは、例えば、理科年表2023(第400頁)を参照することにより水温に基づいて設定することができる。
【0037】
【0038】
【0039】
図3に戻り、CPU11はS35の処理において算出されたフロック径d及びS36の処理において算出されたフラクタル次元D、並びに、上記式(7)を用いてトリミング画像Kにおけるフロックの沈降速度v
sを算出する(S37)。CPU11は、S35~S37の処理を画像データJからトリミングされた全てのトリミング画像について実行し、全てのフロックの沈降速度v
sを算出し(S38、算出ステップ)、本処理を終了する。
【0040】
フロックの沈降速度vsを具体的に算出すると、例えば、フロックのサイズ(フロック径d)が1.19×10-1cm、トリミング画像Kのフラクタル次元Dが1.67、凝集剤にポリ塩化アルミニウムを用いた場合の定数aが3.0×10-4g/cm3、重力定数gが980cm/s2、水温が24.56℃の場合の水の粘性係数μが0.90g/cm・sである場合には、フロックの沈降速度vsは0.020cm/sとなる。
【0041】
図3の算出処理によれば、フロック形成池22cにおける被処理水に多数のフロックが混雑する様子を示す画像データIに2値化処理及びエッジ検出処理が施され、フロック毎に画像がトリミングされてトリミング画像Kが形成される(S32~S34)。トリミング画像Kに基づいて各フロックのフロック径d(cm)及びフラクタル次元Dが算出される(S35,S36)。フロック形成池22において沈降性のよいフロックを形成し、沈澱池23において当該フロックが沈澱しやすい必要があり、沈降性のよいフロックを示す指標として沈降速度v
sがあるが、フロックの沈降速度v
sは、フロックのサイズが同一であってもフロック密度ρ
fが異なるため、必ずしもフロックのサイズに比例しない。
【0042】
したがって、従来、フロックの沈降速度vsは、フロックが鉛直方向において下向きに移動した際の移動距離と、移動に要した時間とから算出されていたので、沈澱池23におけるフロックの沈降速度vsは沈澱池23におけるフロックの変位からしか得ることができなかった。これに対応して、フロック密度ρfに関係のあるフラクタル次元Dがフロック毎にトリミング画像Kに基づいて算出され、フロック毎の沈降速度vsがフラクタル次元Dを用いて算出されるので、フロック形成池22cにおいて画像データIが形成されるとほぼ同時に画像データIに映りこむフロック毎の沈降速度vsを取得することができる。
【0043】
また、従来、フロックの沈降速度vsは、静置条件下である沈澱池23において測定されていた。すなわち、沈澱池23の被処理水は流動性を有しない。一方、本実施の形態において、フロック形成池22cにおける被処理水は沈澱池23に送水される影響を受けて流動性を有するため、フロック形成池22cにおけるフロックは四方八方に移動するが、フロックの沈降速度vsはフロック形成池22cの多数のフロックが混雑する様子を示す画像データに基づいて算出されるので、フロックの移動方向に関係なくフロックの沈降速度vsを算出することができ、もって、沈澱池23におけるフロックの沈降性を事前に予測することができる。
【0044】
図5は、
図3のS38において算出された全てのフロックの沈降速度v
sから沈澱池23におけるフロックの沈降性がよいか否かを判別する判別処理の手順を示すフローチャートである。
【0045】
本実施の形態において、沈澱池23の表面負荷率V0が事前にSSD14に格納されていることを前提とする。表面負荷率V0はフロックの沈降性を示す指標であり、表面負荷率V0よりも小さい沈降速度vsを有するフロックは沈澱池23において沈澱せず被処理水に滞留することを示し、表面負荷率V0よりも大きい沈降速度vsを有するフロックは沈澱池23において沈澱することを示す。したがって、表面負荷率V0が小さいほどフロックの沈降性がよいことを示す。表面負荷率V0(cm/s)は、沈澱池23の底面積又は水面の表面積A(cm2)に対する沈澱池23に流入する流量Q(cm3/s)である(下記式(8))。表面負荷率V0は沈澱池23の構成や原水の濁質分布等に基づいて変化するが、通常4~30mm/分である。
【0046】
【0047】
図5において、CPU11は、沈降速度v
sが算出された全てのフロック数N
1をカウントし(S51)、SSD14に格納されている沈澱池23の表面負荷率V
0よりも小さい沈降速度v
sを有するフロック数N
2をカウントする(S52)。次いで、CPU11は、カウントされたフロック数N
1に対するフロック数N
2の比率Rを算出する(S53)。算出された比率Rは、沈降しにくいフロックの割合を示し、沈澱池23から流出する可能性のあるフロックの割合N
2/N
1(以下、「流出率」という。)を示す。
【0048】
フロックを効率的に除去するためには流出率は低いほどよく、例えば、10%以下であればよく、7%以下であればなおよく、5%以下であればさらによい。流出率の制御基準は事前にSSD14に格納されていることを前提とし、CPU11は実際の流出率が流出率の制御基準を超えたか否かを判別する(S54)。流出率の制御基準は、上水処理に要求される精度に応じて、例えば、10%、8%、6%、又は4%とすることができる。S54の判別の結果、実際の流出率が流出率の制御基準を超えたとき、CPU11はフロックの沈降性がよくないことを情報処理装置10に接続されている不図示の表示装置に表示し、又は音声によって通知し(S55)、本処理を終了する。このような通知によりフロックの沈降性がよくないことを速やかに把握することができるため、凝集剤を添加すべきタイミングを迅速に確認することができる。一方、S54の判別の結果、実際の流出率が流出率の制御基準を超えていないとき、CPU11はフロックの沈降性がよいとしてS55をスキップし、本処理を終了する。
【0049】
図5の判別処理において、流出率は、各フロックの沈降速度v
s及び沈澱池23の表面負荷率V
0を用いて算出されたが、各フロックの沈降速度v
sから算出される単位時間当たりの沈降距離に基づいて算出されてもよい。例えば、沈澱池23におけるフロックの滞留時間が1時間の場合、各フロックの移動距離が各フロックの沈降速度v
s及び滞留時間から算出される。算出された各フロックの移動距離のうち沈澱池23の底部から水面の距離である水深距離(cm)よりも短い移動距離のフロック数N
3がカウントされる。このとき、カウントされたフロック数N
1に対するフロック数N
3の比率Sが流出率として用いられてもよい。この比率Sを流出率として用いることにより、表面負荷率V
0を用いて算出した比率Rを用いる場合に比べてより簡便にフロックの沈降性を判別することができる。
【0050】
図5の判別処理によれば、全てのフロック数N
1がカウントされ(S51)、沈澱池23の表面負荷率V
0よりも小さい沈降速度v
sを有するフロック数N
2がカウントされ(S52)、フロック数N
1に対するフロック数N
2の比率Rである流出率が算出される(S53)。算出された流出率がSSD14に格納されている流出率の制御基準を超えたか否かが判別される(S54)。これにより、
図3の算出処理によって算出されたフロック形成池22cにおけるフロック毎の沈降速度v
sに基づいて、沈降しにくいフロックの割合を示す流出率が把握されるので、フロック形成池22cを撮像した際に多数のフロックが混雑する様子を示す画像データから沈降性のよいフロックが形成されているか否かを正確に判別することができる。
【0051】
図6は、
図3の算出処理によって算出された降雨前後におけるフロック毎の沈降速度を説明するために用いられる図であり、
図6(a)は降雨前の平常時(濁度:12.5~20度)の沈降速度を示す図であり、
図6(b)は降雨後の高濁度時(濁度:60~142度)の沈降速度を示す図である。
【0052】
ところで、従来は、沈降性のよいフロックが形成されているか否かは、ジャーテストを用いた試験、又は、濁度及びアルカリ度を用いた経験式に基づいて判別されていた。したがって、雨が降り、原水の濁度が上昇した場合、凝集剤が機械的に追加されていた。本実施の形態において、沈降性のよいフロックが形成されているか否かは、画像データからフロック毎に算出されたフラクタル次元Dを用いてフロック毎の沈降速度v
sに基づいて判別されている。これにより、雨が降り、原水の濁度が上昇した場合のフロック毎の沈降速度v
sは、雨が降る前のフロック毎の沈降速度v
sよりも全体的に速い(
図6)。したがって、この場合、フロックの沈降性はフロック毎の沈降速度に基づいて判別されるので、凝集剤を追加する必要はないと決定することができ、もって、凝集剤の無駄な追加を防止することができる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらの実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0054】
本発明は上述の実施の形態の1以上の機能を実現するプログラムをネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1以上のプロセッサーがプログラムを読み出して実行する処理でも実現可能であり、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 情報処理装置
11 CPU
14 SSD
15 データ入力部
17a 撮像装置
22 フロック形成池
23 沈澱池