(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001219
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】チェーン
(51)【国際特許分類】
F16G 13/06 20060101AFI20241225BHJP
【FI】
F16G13/06 B
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100695
(22)【出願日】2023-06-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】亀井 貴之
(72)【発明者】
【氏名】河口 紘明
(57)【要約】
【課題】チェーンの疲労性能を向上させる。
【解決手段】チェーンは、対向して配置される一対の内リンクプレート14と、一対の内リンクプレート14がそれぞれ有する一対の貫通孔14aに挿入される筒状のブシュと、ブシュに回転可能に挿入されるピンと、一対の内リンクプレート14を外側から挟むように配置されて、ピンの両端部に配置される一対の外リンクプレートと、を備える。一対の外リンクプレートの間に一対のピンが位置する。内リンクプレート14は、貫通孔14aにおける外リンクプレート側の開口端部にテーパ14a1を有しており、一対の貫通孔14aの中心間の距離(A)に対するテーパの深さ(B)の比率(B/A)が、0.9%以上6%以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配置される一対の内リンクプレートと、
一対の前記内リンクプレートがそれぞれ有する一対の貫通孔に挿入される筒状のブシュと、
前記ブシュに回転可能に挿入されるピンと、
一対の前記内リンクプレートを外側から挟むように配置されて、前記ピンの両端部に配置される一対の外リンクプレートと、を備え、一対の前記外リンクプレートの間に一対の前記ピンが位置するチェーンであって、
前記内リンクプレートは、前記貫通孔における前記外リンクプレート側の開口端部にテーパを有しており、
一対の前記貫通孔の中心間の距離(A)に対する前記テーパの深さ(B)の比率(B/A)が、0.9%以上6%以下であることを特徴とするチェーン。
【請求項2】
前記内リンクプレートは、前記外リンクプレート側の表面において、前記テーパに連続した凸部を有する請求項1に記載のチェーン。
【請求項3】
前記内リンクプレートは、前記開口端部の全周に前記テーパを有するとともに、
前記テーパの全周を囲む位置に前記凸部を有している請求項2に記載のチェーン。
【請求項4】
一対の前記貫通孔の中心間の距離(A)に対する前記凸部の高さ(C)の比率(C/A)が、0.05%以上0.9%以下である請求項2又は3に記載のチェーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、チェーンについて記載している。
図12に示すように、チェーン61は、一対の内リンクプレート62と、一対の内リンクプレート62に圧入嵌合した一対のブシュ63と、一対のブシュ63に遊嵌した一対の連結ピン64と、一対の連結ピン64が圧入嵌合した一対の外リンクプレート65とを備える。チェーン61は、上記の各構成部材を一単位として、複数連続して配置されることによって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1等に記載されたチェーン61は、耐久性に優れていることが望ましい。耐久性に優れたものとするために、疲労性能の向上が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
態様1のチェーンは、対向して配置される一対の内リンクプレートと、一対の前記内リンクプレートがそれぞれ有する一対の貫通孔に挿入される筒状のブシュと、前記ブシュに回転可能に挿入されるピンと、一対の前記内リンクプレートを外側から挟むように配置されて、前記ピンの両端部に配置される一対の外リンクプレートと、を備え、一対の前記外リンクプレートの間に一対の前記ピンが位置するチェーンであって、前記内リンクプレートは、前記貫通孔における前記外リンクプレート側の開口端部にテーパを有しており、一対の前記貫通孔の中心間の距離(A)に対する前記テーパの深さ(B)の比率(B/A)が、0.9%以上6%以下であることを要旨とする。
【0006】
態様2は、態様1のチェーンにおいて、前記内リンクプレートは、前記外リンクプレート側の表面において、前記テーパに連続した凸部を有する。
態様3は、態様2に記載のチェーンにおいて、前記内リンクプレートは、前記開口端部の全周に前記テーパを有するとともに、前記テーパの全周を囲む位置に前記凸部を有している。
【0007】
態様4は、態様2又は3に記載のチェーンにおいて、一対の前記貫通孔の中心間の距離(A)に対する前記凸部の高さ(C)の比率(C/A)が、0.05%以上0.9%以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、チェーンの疲労性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態のチェーンの一部を概略的に示す分解斜視図である。
【
図2】第1実施形態のチェーンの一部を概略的に示す断面図である。
【
図5】変更例のチェーンの一部を概略的に示す分解斜視図である。
【
図6】変更例のチェーンの一部を概略的に示す断面図である。
【
図7】第2実施形態の内リンクプレートの斜視図である。
【
図9】別の変更例の内リンクプレートの斜視図である。
【
図10】さらに別の変更例の内リンクプレートの斜視図である。
【
図11】実施例と比較例のチェーンの疲労性能を示すグラフである。
【
図12】従来技術のチェーンの一部の分解斜視図と斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
本発明のチェーンを具体化した第1実施形態について説明する。
図1、2に示すように、第1実施形態のチェーン11は、チェーン11の長さ方向Xに配置される複数の内リンク12と複数の外リンク13を備える。複数の内リンク12と複数の外リンク13は、長さ方向Xに交互に位置するように配置されている。
【0011】
内リンク12は、チェーン11の長さ方向Xと直交する幅方向Yに間隔D1をおいて対向して配置される一対の内リンクプレート14を備える。また、内リンク12は、一対の内リンクプレート14の間に位置して一対の内リンクプレート14同士を繋ぐ筒状のブシュ16と、ブシュ16に回転可能に外挿される筒状のローラ17とを備える。
【0012】
外リンク13は、チェーン11の長さ方向Xと直交する幅方向Yに間隔D2をおいて対向して配置される一対の外リンクプレート15を備える。また、外リンク13は、ブシュ16に回転可能に挿入される棒状のピン18を備える。一対の外リンクプレート15は、一対の内リンクプレート14を外側から挟むように配置されて、ピン18の両端部に配置される。一対の外リンクプレート15の間に一対のピン18が位置している。隣接するピン18同士の軸心間の距離P1は、特に制限されず、例えば1mm以上100mm以下である。長さ方向Xに隣り合う外リンクプレート15において隣接するピン18同士の軸心間の距離P2も特に制限されず、例えば1mm以上100mm以下である。以下では、隣接するピン18同士の軸心間の距離P1、P2を、チェーン11のピッチともいう。
【0013】
以下、チェーン11の詳細について説明する。
<内リンクプレート>
図1、2に示すように、内リンクプレート14は、板材で構成されている。内リンクプレート14の長手方向の両端部は、長手方向の両外側が凸となる半円形状となっている。内リンクプレート14の長手方向の中央部は、短手方向の両外側から中央部側に曲線的にくびれた形状となっている。
【0014】
内リンクプレート14は、長手方向の中央部を挟んだ長手方向の両外側に、貫通孔14aを一対有している。すなわち、内リンクプレート14は、内リンクプレート14の長手方向に沿って並列した2つの貫通孔14aを有している。
【0015】
内リンクプレート14が有する一対の貫通孔14aの中心間の距離は、上記長さ方向Xに隣り合う外リンクプレート15において隣接するピン18同士の軸心間の距離P2に等しい。以下では、内リンクプレート14が有する一対の貫通孔14aの中心間の距離を、距離(A)ともいう。
【0016】
長さ方向Xに隣り合う内リンクプレート14において隣接する貫通孔14a同士の中心間の距離は、上記外リンクプレート15における隣接するピン18同士の軸心間の距離P1に等しい。
【0017】
図2に示すように、内リンクプレート14の厚さT1は、特に制限されないが、0.1mm以上80mm以下であることが好ましい。
内リンクプレート14の板幅は、特に制限されないが、0.9mm以上80mm以下であることが好ましい。なお、内リンクプレート14の板幅は、内リンクプレート14の短手方向の長さであって、くびれた部分を除いて短手方向の長さが最も大きな箇所の寸法を意味するものとする。
【0018】
内リンクプレート14の貫通孔14aの内径は、後述するブシュ16の周壁の外径よりも若干小さく構成されている。
後述のように、ブシュ16の両端部が内リンクプレート14の貫通孔14aに圧入されることによって、一対の内リンクプレート14は、間隔D1をおいて互いに対向して配置された状態になる。
【0019】
一対の内リンクプレート14同士の間隔D1としては、特に制限されないが、0.6mm以上55mm以下であることが好ましい。
図2に示すように、以下では、一対の内リンクプレート14が互いに対向する方向をチェーン11の内側とし、その反対方向をチェーン11の外側という。
【0020】
図1~4に示すように、一対の内リンクプレート14がそれぞれ有する一対の貫通孔14aは、外リンクプレート15側である外側の開口端部に全周に亘ってテーパ14a1を有している。また、一対の貫通孔14aは、内側の開口端部にテーパ14a1を有していない。内リンクプレート14は、内側の表面が平坦面になっている。
【0021】
貫通孔14aの開口端部の全周にテーパ14a1を有することによって、開口端部における貫通孔14aの内径は、開口端部以外の箇所における貫通孔14aの内径よりも若干大きくなっている。
【0022】
図4に示すように、内リンクプレート14の外側の表面から、内リンクプレート14の内側に向かって延びるテーパ14a1の深さ(B)は、特に制限されない。
内リンクプレート14の厚さT1に対するテーパ14a1の深さ(B)の比率(B/T1)は、特に制限されないが、6%以上50%以下であることが好ましく、20%以上40%以下であることがより好ましい。
【0023】
内リンクプレート14の厚さ方向に対するテーパ14a1の傾斜角度、すなわち、内リンクプレート14の厚さ方向を0°とした場合のテーパ14a1の角度は、特に制限されない。テーパ14a1の角度は、10°以上70°以下であることが好ましく、20°以上60°以下であることがより好ましく、30°以上50°以下であることがさらに好ましい。テーパ14a1の角度は、例えば45°とすることができる。
【0024】
内リンクプレート14における一対の貫通孔14aの中心間の距離(A)に対するテーパ14a1の深さ(B)の比率(B/A)は、0.9%以上6%以下である。比率(B/A)は、2%以上5.5%以下であることが好ましく、3%以上5%以下であることがより好ましい。
【0025】
<外リンクプレート>
図1、2に示すように、外リンクプレート15は、板材で構成されている。外リンクプレート15の長手方向の両端部は、長手方向の両外側が凸となる半円形状となっている。外リンクプレート15の長手方向の中央部は、短手方向の両外側から中央部側に曲線的にくびれた形状となっている。
【0026】
外リンクプレート15は、長手方向の中央部を挟んだ長手方向の両外側に、ピン挿入孔15aを1つずつ有している。言い換えれば、外リンクプレート15は、外リンクプレート15の長手方向に沿って並列した2つのピン挿入孔15aを有している。
【0027】
外リンクプレート15の厚さT2は、特に制限されないが、上記内リンクプレート14の厚さT1と同じであることが好ましい。
外リンクプレート15の板幅は、特に制限されないが、上記内リンクプレート14の板幅と同じであることが好ましい。
【0028】
ピン挿入孔15aの内径は、後述するピン18の直径T5よりも若干小さく構成されている。
後述のように、ピン18の両端部が外リンクプレート15のピン挿入孔15aに圧入されることによって、一対の外リンクプレート15は、チェーン11の長さ方向Xと直交する幅方向Yに間隔D2をおいて互いに対向して配置された状態になる。なお、上記間隔D2は、一対の外リンクプレート15の離間距離ともいう。
【0029】
一対の外リンクプレート15同士の間隔D2としては、特に制限されないが、一対の内リンクプレート14の外側同士の離間距離D3よりも若干大きい。
一対の外リンクプレート15同士の間隔D2としては、例えば0.45mm以上85mm以下であることが好ましい。
【0030】
<ブシュ>
図1、2に示すように、ブシュ16は筒状に構成されている。具体的には、ブシュ16は、径方向に沿う断面において、円筒状の周壁を有している。
【0031】
ブシュ16は、一対の内リンクプレート14とは別体で構成されており、軸方向の両端部が、それぞれ内リンクプレート14の貫通孔14aに圧入されている。
ブシュ16の厚さ、すなわち、ブシュ16の周壁の厚さT3は、特に制限されないが、0.05mm以上5mm以下であることが好ましい。
【0032】
ブシュ16の外径、すなわち、ブシュ16の周壁の外径は、特に制限されないが、0.4mmm以上45mm以下であることが好ましい。
ブシュ16の内径、すなわち、ブシュ16の周壁の内径は、特に制限されないが、0.3mm以上35mm以下であることが好ましい。
【0033】
ブシュ16の長さは、特に制限されないが、一対の内リンクプレート14の外側同士の離間距離D3と同じか、離間距離D3よりも若干小さいことが好ましい。
<ローラ>
図1、2に示すように、ローラ17は筒状に構成されている。具体的には、ローラ17は、径方向に沿う断面において、円筒状の周壁を有している。
【0034】
ローラ17は、ブシュ16に回転可能に外挿される。すなわち、ローラ17の周壁の内径は、ブシュ16の周壁の外径よりも大きく構成されており、ブシュ16に対してローラ17は遊嵌されている。
【0035】
ローラ17の厚さ、すなわち、ローラ17の周壁の厚さT4は、特に制限されないが、0.1mm以上7mm以下であることが好ましい。
ローラ17の外径、すなわち、ローラ17の周壁の外径は、特に制限されないが、0.6mm以上55mm以下であることが好ましい。
【0036】
ローラ17の内径、すなわち、ローラ17の周壁の内径は、特に制限されないが、0.4mm以上45mm以下であることが好ましい。
ローラ17の長さ、すなわち、ローラ17の周壁における軸方向の長さは、上記一対の内リンクプレート14同士の間隔D1よりも若干小さい。
【0037】
<ピン>
図1、2に示すように、ピン18は棒状に構成されている。具体的には、ピン18は、径方向に沿う断面において、外形が円形状の円柱状になっている。なお、
図2、6では、ピン18を側面視で示している。
【0038】
ピン18は、軸方向の両端部が、それぞれ外リンクプレート15のピン挿入孔15aに挿入されて、ピン挿入孔15aに圧入された状態になっている。また、ピン18は、軸方向の両端部における先端部分が、一対の外リンクプレート15のピン挿入孔15aを貫通して、チェーン11の幅方向Yの外側に突出している。
【0039】
ピン18は、ブシュ16に回転可能に挿入される。すなわち、ピン18の直径T5は、内リンクプレート14の貫通孔14aの内径、及びブシュ16の周壁の内径よりも小さく構成されている。ピン18は、ブシュ16の内部において回転可能に構成されている。
【0040】
ピン18の直径T5は、特に制限されないが、0.3mm以上35mm以下であることが好ましい。
ピン18の長さは、特に制限されないが、1.4mm以上350mm以下であることが好ましい。
【0041】
隣接するピン18同士の軸心間の距離P1、P2の上限、すなわち、ピッチの上限は、特に制限されないが、例えば90mmであることが好ましい。また、ピッチの下限は、特に制限されないが、例えば0.9mmであることが好ましい。
【0042】
以下、チェーン11を構成する各構成部材の材質について説明する。
<チェーンの各構成部材の材質>
チェーン11の構成部材である内リンクプレート14、外リンクプレート15、ブシュ16、ローラ17、及びピン18の材質は、特に制限されず、チェーン11の材質として公知の材質を適宜採用することができる。
【0043】
公知の材質としては、例えば金属、樹脂等が挙げられる。これらの中でも、金属製であると機械的強度を向上させることができるため好ましい。
以下、チェーン11の製造方法について説明する。
【0044】
<チェーンの製造方法>
チェーン11の製造方法は、金属製等の板材を所定の形状に成形する成形工程と、成形工程で得られた各構成部材を組み付ける組付工程とを有する。以下、各工程について説明する。
【0045】
(成形工程)
成形工程では、金属製等の板材を用いて各構成部材を成形する。
内リンクプレート14や外リンクプレート15を成形する際は、例えば上記板材を所定の形状に打ち抜き成形する。内リンクプレート14の貫通孔14aや、外リンクプレート15のピン挿入孔15aも、打ち抜き成形によって設けることができる。貫通孔14aの形成と同時に、貫通孔14aの外側の開口端部にテーパ14a1を形成することができる。
図4では、開口端部をC面取りした状態でテーパ14a1を形成している。
【0046】
また、ブシュ16やローラ17を成形する際は、例えば上記板材を所定の形状に打ち抜き成形した後、筒状となるように湾曲させる。言い換えれば、筒状となるようにカールさせる。さらに、カールさせた後、板材の端部同士を接合する。ここで、板材の端部同士を接合するとは、板材の端部同士を当接した状態にすることを意味するものとする。
【0047】
ピン18を成形する際は、例えば金属製の棒材を引き抜き加工した後、所定の長さに切断する。
成形工程の後に、焼き入れ等の熱処理工程を行なってもよい。
【0048】
(組付工程)
組付工程では、成形工程で得られた各構成部材を組み付けてチェーン11を作製する。
図1、2に示すように、まず、複数の内リンクプレート14を用意して、各内リンクプレート14が有する2つの貫通孔14aにブシュ16を圧入する。
【0049】
ここで、ブシュ16は、内リンクプレート14の2つの貫通孔14aのうち、テーパ14a1が形成されていない内側の開口端部側から圧入する。ブシュ16は、軸方向の一端側の端部が貫通孔14aに圧入された状態で内リンクプレート14に取り付けられる。ブシュ16の一端側の端部は、貫通孔14a内に位置しており、外側に突出していないことが好ましい。
【0050】
次に、各内リンクプレート14に取り付けられたブシュ16に対して、ブシュ16の他端側からローラ17を外挿する。さらに、ローラ17を外挿したブシュ16に対して、ブシュ16の他端側から、別の内リンクプレート14を取り付ける。具体的には、別の内リンクプレート14が有する2つの貫通孔14aのうち、テーパ14a1が形成されていない開口端部側に、ローラ17を外挿したブシュ16の他端側の端部を圧入する。ブシュ16の他端側の端部は、貫通孔14a内に位置しており、外側に突出していないことが好ましい。
【0051】
以上の手順によって内リンク12を作製することができる。ブシュ16の一端側の端部と他端側の端部が、一対の内リンクプレート14の貫通孔14aに圧入された状態になるため、一対の内リンクプレート14に形成された貫通孔14a同士がブシュ16で繋がった状態になる。同様の手順を繰り返すことによって、複数の内リンク12を作製する。
【0052】
次に、複数の外リンクプレート15を用意して、各外リンクプレート15が有する2つのピン挿入孔15aに、ピン18を圧入する。ピン18は、軸方向の一端側の端部における先端部分がピン挿入孔15aから突出した状態で外リンクプレート15に取り付けられる。
【0053】
次に、上記で作製した2つの内リンク12を用意する。2つの内リンク12のうち一方の内リンク12に対して、この内リンク12が有するブシュ16に、外リンクプレート15に取り付けられた2つのピン18のうち一方のピン18を挿入する。
【0054】
また、2つの内リンク12のうち他方の内リンク12に対して、この内リンク12が有するブシュ16に、上記の外リンクプレート15に取り付けられた2つのピン18のうち他方のピン18を挿入する。さらに、2つの内リンク12のブシュ16に挿入した2つのピン18に、別の外リンクプレート15を取り付ける。具体的には、別の外リンクプレート15が有する2つのピン挿入孔15aに、2つの内リンク12のブシュ16に挿入された2つのピン18の他端側の端部を圧入する。
【0055】
以上の手順によって、一対の外リンクプレート15がそれぞれ有する2つのピン挿入孔15aにピン18が接合された状態になる。これによって、外リンク13を作製することができる。また、2つの内リンク12が、1つの外リンク13で接続された状態になる。
【0056】
上記の手順を繰り返し行い、複数の内リンク12と複数の外リンク13が、長さ方向Xに交互に位置するように内リンク12と外リンク13を接続する。さらに、長さ方向Xに交互に位置する内リンク12と外リンク13の両端同士を接続して、全体を環状にする。
【0057】
以上の手順によってチェーン11を作製することができる。チェーン11の各構成部材を組み付ける順番は、適宜順番を入れ替えて行うことができる。
<作用及び効果>
第1実施形態のチェーン11の作用について説明する。
【0058】
チェーン11の使用時、内リンクプレート14の貫通孔14aには、貫通孔14aに圧入されたブシュ16から直接的に、もしくはブシュ16に挿入されたピン18から間接的に応力が付与される。この応力は、内リンクプレート14の貫通孔14aにおける外リンクプレート15側の開口端部に集中しやすい。
【0059】
図3、4に示すように、第1実施形態の内リンクプレート14は、貫通孔14aにおける外側の開口端部にテーパ14a1を有することによって、貫通孔14aの開口端部に応力が集中することを抑制することができる。特に、一対の貫通孔14aの中心間の距離(A)に対するテーパ14a1の深さ(B)の比率(B/A)が0.9%以上6%以下であることによって、上記距離(A)の異なるチェーン11においても、チェーン11の疲労性能を好適に向上させることができる。
【0060】
その一方で、貫通孔14aがテーパ14a1を有すると、内リンクプレート14の貫通孔14aにおけるブシュ16の嵌合圧出力は低下しやすくなる。本実施形態のチェーン11は、内リンクプレート14の厚さT1に対するテーパ14a1の深さ(B)の比率(B/T1)が、6%以上50%以下であることによって、貫通孔14aにおけるブシュ16の嵌合圧出力の低下を好適に抑制することができる。
【0061】
第1実施形態のチェーン11の効果について説明する。
(1-1)チェーン11は、対向して配置される一対の内リンクプレート14と、一対の内リンクプレート14がそれぞれ有する一対の貫通孔14aに挿入される筒状のブシュ16とを備える。また、チェーン11は、ブシュ16に回転可能に挿入されるピン18と、一対の内リンクプレート14を外側から挟むように配置されて、ピン18の両端部に配置される一対の外リンクプレート15とを備える。一対の外リンクプレート15の間に一対のピン18が位置する。内リンクプレート14は、貫通孔14aにおける外リンクプレート15側の開口端部にテーパ14a1を有しており、一対の貫通孔14aの中心間の距離(A)に対するテーパ14a1の深さ(B)の比率(B/A)が、0.9%以上6%以下である。
【0062】
したがって、チェーン11の疲労性能を好適に向上させることができる。疲労性能を好適に向上させることによって、耐久性に優れたチェーン11を得ることができる。
(1-2)内リンクプレート14の貫通孔14aがテーパ14a1を有することによって、テーパ14a1とブシュ16の隙間に潤滑油を溜めることができる。例えばブシュ16とピン18の間に付与された潤滑油のうち、両者の間から流れ出た潤滑油を隙間に溜めることができる。これにより、潤滑油がチェーン11の外部にまで流れ出ることを抑制することができるため、ブシュ16とピン18の摩耗を低減しやすくなる。
【0063】
<第2実施形態>
本発明のチェーンを具体化した第2実施形態について説明する。
以下では、第1実施形態のチェーン11とは異なる構成について説明し、同じ構成については説明を省略する。
【0064】
図7、8に示すように、内リンクプレート14は、テーパ14a1の近傍に凸部14a2を有している。具体的には、内リンクプレート14は、テーパ14a1に連続して、テーパ14a1の全周を囲む位置に凸部14a2を有している。なお、「テーパ14a1に連続して」とは、テーパ14a1の表面の延長線上に凸部14a2が位置することを意味するものとする。凸部14a2は、内リンクプレート14の厚さ方向に沿って内リンクプレート14の外側に突出している。
【0065】
図8に示すように、内リンクプレート14の断面視において、凸部14a2は、突出方向である外側が凸となる半円形の断面形状を有している。凸部14a2は、完全に半円形である断面形状のみでなく、外側が曲線的に凸となった略半円形の断面形状であってもよい。また、凸部14a2の断面形状は半円形に限定されず、外側が凸となる任意の断面形状を採用することができる。
【0066】
内リンクプレートにおける一対の貫通孔の中心間の距離(A)に対する凸部の高さ(C)の比率(C/A)は、特に制限されないが、0.05%以上0.9%以下であることが好ましい。比率(C/A)は、0.1%以上0.5%以下であることがより好ましく、0.15%以上0.35%以下であることがさらに好ましい。
【0067】
貫通孔14aの径方向に沿う凸部14a2の幅Eは、特に制限されないが、0.05mm以上3mm以下であることが好ましく、0.1mm以上1mm以下であることがより好ましい。
【0068】
凸部の形成方法としては、第1実施形態のチェーンの製造方法における成形工程において、打ち抜き成形によってテーパ14a1を形成する際に、テーパ14a1に連続した凸部14a2を同時に形成することができる。例えばテーパ14a1を形成する際に、テーパ14a1の周縁が盛り上がる条件で打ち抜き成形を行うことによって、テーパ14a1と凸部14a2を同時に形成することができる。凸部14a2を形成する方法は特に制限されず、例えば溶射、溶接、鍛造等によっても形成することができる。
【0069】
<作用及び効果>
第2実施形態のチェーン11の作用について説明する。
第2実施形態のチェーン11は、第1実施形態のチェーン11の作用に加えて、以下の作用を奏する。
【0070】
内リンクプレート14の厚さ方向に沿って内リンクプレート14の外側に突出する凸部14a2を有していることによって、内リンクプレート14と外リンクプレート15が過度に干渉することを抑制することができる。すなわち、内リンクプレート14の外側の表面と、外リンクプレート15の内側の表面とが面接触ではなく、凸部14a2の頂部において点接触、もしくは線接触した状態になる。これにより、内リンクプレート14の外側の表面と、外リンクプレート15の内側の表面の接触面積を減少させることができるため、両者の摩擦による発熱を抑制することができる。発熱を抑制することによって、チェーンの摩耗性能を向上させることができる。
【0071】
また、一対の貫通孔14aの中心間の距離(A)に対する凸部14a2の高さ(C)の比率(C/A)が、0.05%以上0.9%以下であることによって、距離(A)の異なるチェーン11においても、内リンクプレート14と外リンクプレート15が過度に干渉することを好適に抑制することができる。
【0072】
第2実施形態のチェーン11の効果について説明する。
(2-1)内リンクプレート14は、外リンクプレート15側の表面において、テーパ14a1に連続して凸部14a2を有する。凸部14a2を有することによって、内リンクプレート14と外リンクプレート15が過度に干渉することを抑制することができるため、チェーン11の摩耗性能を向上させることができる。また、内リンクプレート14と外リンクプレート15の摺動を低減することができるため、チェーン11の騒音を低減することもできる。
【0073】
(2-2)凸部14a2は、テーパ14a1に連続している。したがって、凸部14a2を、テーパ14a1の一部として活用することができる。また、凸部14a2とテーパ14a1を同時に成形することができるため、チェーン11の生産効率を向上させることができる。
【0074】
(2-3)内リンクプレート14は、貫通孔14aにおける外リンクプレート15側の開口端部の全周にテーパ14a1を有するとともに、テーパ14a1の全周を囲む位置に凸部14a2を有している。貫通孔14aの全周にテーパ14a1と凸部14a2を有することによって、貫通孔14aの全周に亘って、第2実施形態の効果を奏することができる。
【0075】
(2-4)一対の貫通孔14aの中心間の距離(A)に対する凸部14a2の高さ(C)の比率(C/A)が、0.05%以上0.9%以下である。したがって、内リンクプレート14と、内リンクプレート14の外側に位置する外リンクプレート15とが過度に干渉することを好適に抑制することができるため、チェーン11の摩耗性能を向上させることができる。
【0076】
<変更例>
第1実施形態、及び第2実施形態(以下、まとめて本実施形態ともいう。)は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0077】
・本実施形態において、チェーン11はローラ17を有していたが、ローラ17は省略されていてもよい。
図5、6に示すように、例えばチェーン11は、ローラ17が省略されており、チェーン11の内リンク12が、一対の内リンクプレート14と、一対の内リンクプレート14の間に位置するブシュ16とによって構成されていてもよい。
【0078】
・本実施形態において、内リンクプレート14は、外リンクプレート15側の表面において、テーパ14a1に連続して凸部14a2を有していたが、この態様に限定されない。
【0079】
図9に示すように、内リンクプレート14は、外リンクプレート15側の表面において、テーパ14a1の近傍であるものの、テーパ14a1の周縁から間隔をおいて凸部14a2を有していてもよい。テーパ14a1の周縁から間隔をおいて凸部14a2を有していることによって、テーパ14a1と凸部14a2を、個別に形成することが容易になる。テーパ14a1と凸部14a2を個別に形成することによって、それぞれの寸法精度を向上させやすくなる。
【0080】
・凸部14a2は、テーパ14a1の周縁に沿って連続して形成されていなくてもよい。
図10に示すように、例えば凸部14a2は、テーパ14a1の周縁から間隔をおいて、さらに非連続的に形成されていてもよい。
図10では、凸部14a2は、ドーム状、言い換えれば半球状に形成されている。凸部14a2が非連続で形成されていることによって、凸部14a2をより効果的な位置に選択的に配置することができる。
【0081】
図10に示すように、凸部14a2は、内リンクプレート14の長手方向において、テーパ14a1を含めた貫通孔14aの内径を含む領域で、且つ、内リンクプレート14の短手方向の両側を含む領域(
図10に矢印で示す破線の内側)にあることが好ましい。この領域は、チェーン11の使用時に摩耗しやすい領域であるため、少なくとも上記の領域に凸部14a2を有することによって、内リンクプレート14と外リンクプレート15の摩耗を抑制しやすくなる。
【0082】
・本実施形態において、内リンクプレート14の貫通孔14aは、外側の開口端部のみにテーパ14a1と凸部14a2を有していたが、この態様に限定されない。外側の開口端部に加えて、内側の開口端部にもテーパ14a1と凸部14a2を有していてもよい。すなわち、内リンクプレート14は、外側と内側の形状が同一であってもよい。
【0083】
・内リンクプレート14の貫通孔14aが、打ち抜き成形によって形成されている場合、貫通孔14aの破断面にテーパ14a1を設けてもよいし、貫通孔14aの剪断面にテーパ14a1を設けてもよい。
【0084】
・本実施形態において、テーパ14a1は、貫通孔14aの外側の開口端部の全周に形成されていたがこの態様に限定されない。テーパ14a1は、貫通孔14aの外側の開口端部の一部に形成されていてもよい。
【0085】
・内リンクプレート14の厚さT1に対するテーパ14a1の深さ(B)の比率(B/T1)は、6%以上50%以下に限定されない。比率(B/T1)は10%未満であってもよいし、50%を超えていてもよい。
【0086】
・本実施形態において、テーパ14a1は、貫通孔14aの開口端部がC面取りされた形状を有していたが、この態様に限定されない。テーパ14a1の形状は適宜選択することができる。例えば、テーパ14a1は、貫通孔14aの開口端部がR面取りされた形状であってもよいし、階段状であってもよい。
【0087】
・本実施形態において、ブシュ16は、内リンクプレート14の貫通孔14aに圧入された状態で取り付けられていたが、この態様に限定されない。ブシュ16は、内リンクプレート14の貫通孔14aに溶接されて取り付けられていてもよいし、接着材を用いて取り付けられていてもよい。ピン18も同様の方法で外リンクプレート15のピン挿入孔15aに取り付けられていてもよい。
【0088】
・本実施形態のチェーン11とは別態様のチェーンとして、内リンクプレート14の貫通孔14aの外側の開口端部においてテーパ14a1が省略されており、開口端部に連続して、もしくは開口端部の近傍に凸部14a2を有していてもよい。
【実施例0089】
以下、本発明の構成、及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。
(実施例1)
厚さT1が3.15mm、一対の貫通孔14aの内径が11.25mm、一対の貫通孔14aの中心間の距離(A)が25.4mm、貫通孔14aの外側の開口端部にテーパ14a1を有している内リンクプレート14を作製した。テーパ14a1の深さ(B)は0.24mm、比率(B/A)は0.94%であった。内リンクプレート14は、テーパ14a1に連続する凸部14a2を有しており、凸部14a2の高さ(C)は0.025mm、比率(C/A)は0.1%、凸部14a2の幅Eは1.6mmであった。
【0090】
厚さT2が3.15mm、一対のピン挿入孔15aの内径が7.85mm、一対のピン挿入孔15aの中心間の距離が25.4mmである外リンクプレート15を作製した。
周壁の厚さ1.65mm、内径8.1mm、外径11.4mm、長さ22.6mmのブシュ16を作製した。
【0091】
周壁の厚さ2.2mm、内径11.5mm、外径15.9mm、長さ15.6mmのローラ17を作製した。
直径7.9mm、長さ32.5mmのピン18を作製した。
【0092】
上記の構成部材を複数組み付けることによってチェーン11を作製した。
(実施例2~12、比較例1~6)
テーパ14a1の深さ(B)と、比率(B/A)を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の手順によってチェーンを作製した。
【0093】
(疲労性能の評価)
実施例1~7、9~12、比較例1~5のチェーンについて、疲労性能を評価した。具体的には、内リンクプレート14の一対の貫通孔14aの中心間の距離(A)に対するテーパ14a1の深さ(B)の比率(B/A)が、内リンクプレート14の疲労性能に及ぼす影響を評価した。
【0094】
疲労性能の評価方法としては、公知の疲労試験機を用いて、JIS1811 B 2018に記載された「伝動用ローラチェーン及びリーフチェーンの疲労試験方法」に準拠して行った。解析疲労安全率を測定して、次の評価基準で評価した。結果を表1、
図11に示す。
【0095】
・疲労性能の評価基準
◎(良好):解析疲労安全率が2.1以上である場合
○(可):解析疲労安全率が2.0以上2.1未満である場合
×(不可):解析疲労安全率が2.0未満である場合
(ブシュの嵌合圧出力の評価)
実施例1~12、比較例1~6のチェーンについて、ブシュの嵌合圧出力を評価した。具体的には、内リンクプレート14の厚さ(T1)に対するテーパ14a1の深さ(B)の比率(B/T1)が、ブシュの嵌合圧出力に及ぼす影響を評価した。
【0096】
ブシュの嵌合圧出力の評価方法としては、公知の引張試験機を用いて、内リンクプレート14の貫通孔14aに圧入されたブシュ16を押し出す際の力である嵌合圧出力を測定した。次の評価基準で評価した。結果を表1に示す。
【0097】
・ブシュの嵌合圧出力の評価基準
◎(良好):嵌合圧出力が4.0kN以上である場合
○(可):嵌合圧出力が3.0kN以上4.0kN未満である場合
×(不可):嵌合圧出力が3.0kN未満である場合
【0098】
【表1】
(評価結果)
表1、
図11より、比較例1~5は、比率(B/A)が0.9%未満、もしくは6%を超えており、疲労性能は「不可」であった。これに対し、実施例1~7、9~12は、比率(B/A)が0.9%以上6%以下であり、疲労性能は「可」以上であった。特に実施例5~7、9~11は、比率(B/A)が2%以上5.5%以下であり、疲労性能は「良好」であった。
【0099】
また、表1より、比較例5、6は、比率(B/T1)が50%を超えており、嵌合圧出力は「不可」であった。これに対し、実施例1~12は、比率(B/T1)が6%以上50%以下であり、嵌合圧出力は「可」以上であった。嵌合圧出力が「可」以上、すなわち、嵌合圧出力が3.0kN以上であると、ブシュ16が内リンクプレート14の貫通孔14aから抜け落ちることを好適に抑制することができる。