(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012209
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20250117BHJP
C08G 75/0222 20160101ALI20250117BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20250117BHJP
C08L 81/02 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
C08G75/0222
C08K7/02
C08L81/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114883
(22)【出願日】2023-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】海法 秀
(72)【発明者】
【氏名】宮原 佑一郎
(72)【発明者】
【氏名】堀内 俊輔
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
4J030
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD46
4F072AD53
4F072AH05
4F072AH12
4F072AH13
4F072AH17
4F072AH46
4F072AH49
4F072AL02
4F072AL11
4F072AL16
4J002CL062
4J002CM032
4J002CN011
4J002CN012
4J002DA016
4J002DA066
4J002DA076
4J002DA086
4J002DA096
4J002DA106
4J002DF016
4J002DJ006
4J002DL006
4J002FA042
4J002FA046
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
4J030BA04
4J030BA08
4J030BA09
4J030BA42
4J030BA43
4J030BA44
4J030BA46
4J030BA49
4J030BB29
4J030BB31
4J030BB70
4J030BC02
4J030BC08
4J030BD08
4J030BE04
4J030BF04
4J030BF06
4J030BF13
4J030BF15
4J030BG04
4J030BG21
4J030BG25
4J030BG26
4J030BG27
(57)【要約】
【課題】
高分子量と高い結晶化温度を両立するポリアリーレンスルフィド共重合体を含有し、高温での剛性に優れ、また製造時における含浸性に優れる繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を提供すること。
【解決手段】
連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に、ガラス転移点が95℃以上190℃以下であるポリアリーレンスルフィド共重合体を含浸させてなる繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材であって、ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体の重量平均分子量が50,000以上100,000以下であり、結晶化温度が165℃以上である繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に、ガラス転移点が95℃以上190℃以下であるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させてなる繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材であって、ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の重量平均分子量が50,000以上100,000以下であり、結晶化温度が165℃以上である繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
【請求項2】
酸化防止剤を含有する請求項1に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
【請求項3】
繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の融点が300℃以下である請求項1に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
【請求項4】
繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)が、数平均分子量Mnが1,000以上10,000以下であるアリーレンスルフィド単位を有する請求項1に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
【請求項5】
繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)のアリーレンスルフィド単位と共重合成分とがイミド基で連結された構造を有する請求項4に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
【請求項6】
繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)が下記式(a)~(s)から選ばれる少なくとも一つの構造を構造単位として有する請求項1に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
【化1】
(R、R
1、およびR
2は水素、炭素原子数1~12のアルキル基、炭素原子数6~24のアリーレン基、およびハロゲン基から選ばれる置換基であり、R、R
1、およびR
2は同一でも異なっていてもよい。)
【請求項7】
繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が5.0以下である請求項1に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
【請求項8】
繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の融解熱が15J/g以上である請求項1に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
【請求項9】
重量平均分子量が70,000以下であるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に含浸させるポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の製造方法であって、得られたポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の重量平均分子量と含浸させるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の重量平均分子量の比が1を超え10以下であることを特徴とする、請求項1に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の製造方法。
【請求項10】
酸化防止剤を含有するポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に含浸させる請求項9に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の製造方法。
【請求項11】
アミノ基を400μmol/g以上5,000μmol/g以下の範囲で含有し、30℃から320℃まで10℃/分の昇温速度で加熱したときの重量減少率が5wt%以下であるポリアリーレンスルフィド(C)、および下記式(a’)~(u’)から選ばれる少なくとも一つの化合物(D)を加熱してポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を得て、該ポリアリーレンスルフィド共重合体を連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に含浸させる請求項9に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の製造方法。
【化2】
(Xは隣接する二つの炭素にそれぞれ結合された二つのカルボキシル基もしくはその二つのカルボキシル基に由来する酸無水物基であり、R、R
1、およびR
2は水素、炭素原子数1~12のアルキル基、炭素原子数6~24のアリーレン基、およびハロゲン基から選ばれる置換基であり、R、R
1、およびR
2は同一でも異なっていてもよい。また、各化合物の芳香族環は2置換体または3置換体であってもよく、一つの芳香族環に置換された複数の置換基Xは同一でも異なっていてもよい。)
【請求項12】
前記加熱を酸化防止剤の存在下で行う請求項11に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の製造方法。
【請求項13】
ポリアリーレンスルフィド(C)および化合物(D)を加熱する際の、化合物(D)が有するカルボキシル基量の二分の一および酸無水物基量の合計量とポリアリーレンスルフィド(C)が有するアミノ基の合計量との比が1.02を超える、請求項11に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の製造方法。
【請求項14】
前記加熱を実質的に無溶媒条件で行う請求項11に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の製造方法。
【請求項15】
強化繊維が炭素繊維を含み、強化繊維を20~70体積%含有する請求項1に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略す場合がある)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下PASと略す場合がある)は、優れた耐熱性、バリア性、成形性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有しており、射出成形、押出成形用途を中心として各種電気・電子部品、機械部品、自動車部品、フィルム、繊維などに使用されている。ポリアリーレンスルフィドはその優れた特性ゆえに、近年使用される用途が広がっている。
【0003】
代表的なPASであるPPSは一般的に80~90℃にガラス転移点を、275~285℃に融点を有する結晶性ポリマーであり、その優れた耐熱性によって高温条件下で用いられることが多い。また、PPSは非常に限られた数の溶媒に、200~250℃という高温においてのみ溶解し、その優れた耐薬品性を利用した用途にも広く用いられている。
【0004】
各種用途では、PASの優れた特性を活かしながら機械的特性を高めるため、ガラス繊維などの充填材や添加剤と溶融混練してPAS樹脂組成物にして使用されることが一般的であるが、より高い機械特性を発現させるため、連続した強化繊維にPASを含浸させて得たペレットを射出成形して成形品を得る方法や、連続した強化繊維にPASを含浸させて基材を得る方法が知られている。また、不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材にPASを含浸させる方法も知られている。例えば特許文献1では、反応性官能化ポリアリーレンスルフィドを含む連続繊維複合体が開示されている。
【0005】
一方で、代表的なPASであるPPSのガラス転移点は一般的に80~90℃であり、上記のように高い機械特性を発現する方法であっても、ガラス転移点以上の高温に晒される環境では剛性が大きく低下する問題があった。これまでも、PASのガラス転移点を向上する検討は種々行われており、例えば特許文献2および3には、反応性官能基を有するポリアリーレンスルフィドと剛直な分子を反応させることで得られるポリアリーレンスルフィド共重合体が開示されている。特許文献4には、2~9量体のフェニレンスルフィドとアリーレン基をイミド結合で結ぶことでガラス転移点を向上させた累積フェニレンスルフィド単位を含有する結晶性ポリイミドが開示されている。特許文献5には、ポリアリーレンスルフィドブロックと、ポリエーテルイミドブロックやポリジオルガノシロキサンブロックからなる共重合体が開示されている。
【0006】
また、特許文献6には、反応性官能基を有するポリアリーレンスルフィドと剛直な分子を反応させることで得られるポリアリーレンスルフィド共重合体を含浸させてなる繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2015-519423号公報
【特許文献2】国際公開第2019/151288号
【特許文献3】国際公開第2022/045105号
【特許文献4】特開昭62-84124号公報
【特許文献5】特開昭64-45433号公報
【特許文献6】国際公開第2021/020334号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された連続繊維強化ポリアリーレンスルフィドに含まれるポリアリーレンスルフィドは、繊維との接着を向上させるために反応性官能化ジスルフィド化合物と反応させて形成した反応性官能化ポリアリーレンスルフィドであるため、比較的分子量が低く、ジスルフィド化合物に起因するガスが多い問題があることに加え、特許文献に開示されたポリアリーレンスルフィドはPPSであるため耐熱性が不十分であった。
【0009】
特許文献2および3で開示されたポリアリーレンスルフィド共重合体は、高いガラス転移点を有するものの、結晶化温度が低い、または結晶化温度を有さないなど結晶性が十分ではなく、結晶性の改良が期待されていた。また、本発明における連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に含浸をさせる方法として用いられるような、ポリアリーレンスルフィド共重合体を溶融状態とした際の分子量変化や、特性の安定化や制御に関する記載はなかった。
【0010】
特許文献4で開示された結晶性ポリイミドは、ガラス転移点は向上しているものの、フェニレンスルフィド単位の分子量が小さく、結晶性に関しては結晶化が遅いという問題があった。また、溶融状態とした際の分子量変化や、特性の安定化や制御に関する記載はなかった。
【0011】
特許文献5で開示された共重合体についても、ガラス転移点は向上しているものの、ブロック構造としてポリエーテルイミドブロックやポリジオルガノシロキサンブロックを有することから、結晶性に関しては結晶化が遅いという問題があった。また、溶融状態とした際の分子量変化や、特性の安定化や制御に関する記載はなかった。
【0012】
特許文献6で開示された繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材は、高いガラス転移点を有するものの、結晶化温度が低い、または結晶化温度を有さないなど結晶性が十分ではなく、結晶性の改良が期待されていた。また、含浸性に関する記載はないが、特許文献6で開示されたポリアリーレンスルフィド共重合体では、基材に含浸したポリアリーレンスルフィド共重合体の分子量と基材とする前の分子量とは実質的に同じであるため、より高分子量すなわち高粘度のポリアリーレンスルフィド共重合体を含浸する際には高温、高圧などの厳しい条件が必要であった。より効率よく、含浸性に優れた繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を製造する方法が望まれていた。
【0013】
本発明は、高分子量と高い結晶化温度を両立するポリアリーレンスルフィド共重合体を含有し、高温での剛性に優れ、製造時におけるポリアリーレンスルフィド共重合体の含浸性に優れる繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の内容を提供することで実現することが可能である。
1.連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に、ガラス転移点が95℃以上190℃以下であるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させてなる繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材であって、ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の重量平均分子量が50,000以上100,000以下であり、結晶化温度が165℃以上である繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
2.酸化防止剤を含有する上記1に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
3.繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の融点が300℃以下である上記1または2に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
4.繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)が、数平均分子量Mnが1,000以上10,000以下であるアリーレンスルフィド単位を有する上記1から3のいずれかに記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
5.繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)のアリーレンスルフィド単位と共重合成分とがイミド基で連結された構造を有する上記1から4のいずれかに記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
6.繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)が下記式(a)~(s)から選ばれる少なくとも一つの構造を構造単位として有する上記1から5のいずれかに記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
【0015】
【0016】
(R、R1、およびR2は水素、炭素原子数1~12のアルキル基、炭素原子数6~24のアリーレン基、およびハロゲン基から選ばれる置換基であり、R、R1、およびR2は同一でも異なっていてもよい。)
7.繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が5.0以下である上記1から6のいずれかに記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
8.繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の融解熱が15J/g以上である上記1から7のいずれかに記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
9.重量平均分子量が70,000以下であるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に含浸させるポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の製造方法であって、得られたポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の重量平均分子量と含浸させるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の重量平均分子量の比が1を超え10以下であることを特徴とする、上記1から8のいずれかに記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の製造方法。
10.酸化防止剤を含有するポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に含浸させる上記9に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の製造方法。
11.アミノ基を400μmol/g以上5,000μmol/g以下の範囲で含有し、30℃から320℃まで10℃/分の昇温速度で加熱したときの重量減少率が5wt%以下であるポリアリーレンスルフィド(C)、および下記式(a’)~(u’)から選ばれる少なくとも一つの化合物(D)を加熱してポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を得て、該ポリアリーレンスルフィド共重合体を連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に含浸させる上記9または10に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の製造方法。
【0017】
【0018】
(Xは隣接する二つの炭素にそれぞれ結合された二つのカルボキシル基もしくはその二つのカルボキシル基に由来する酸無水物基であり、R、R1、およびR2は水素、炭素原子数1~12のアルキル基、炭素原子数6~24のアリーレン基、およびハロゲン基から選ばれる置換基であり、R、R1、およびR2は同一でも異なっていてもよい。また、各化合物の芳香族環は2置換体または3置換体であってもよく、一つの芳香族環に置換された複数の置換基Xは同一でも異なっていてもよい。)
12.前記加熱を酸化防止剤の存在下で行う上記11に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の製造方法。
13.ポリアリーレンスルフィド(C)および化合物(D)を加熱する際の、化合物(D)が有するカルボキシル基量の二分の一および酸無水物基量の合計量とポリアリーレンスルフィド(C)が有するアミノ基の合計量との比が1.02を超える、上記11または12に記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の製造方法。
14.前記加熱を実質的に無溶媒条件で行う上記11から13のいずれかに記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の製造方法。
15.強化繊維が炭素繊維を含み、強化繊維を20~70体積%含有する上記1から8のいずれかに記載の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、高分子量と高い結晶化温度を両立するポリアリーレンスルフィド共重合体を含有し、高温での剛性に優れ、製造時におけるポリアリーレンスルフィド共重合体の含浸性に優れる繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
[繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材]
本発明の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材は、連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に、ガラス転移点が95℃以上190℃以下であるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させてなる繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材であって、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の重量平均分子量が50,000以上100,000以下であり、結晶化温度が165℃以上であるポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材である。
【0022】
なお、本発明の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材は、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を使用して製造されるものであり、得られた繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材はポリアリーレンスルフィド共重合体(B)を含む。ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)は、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の製造工程において変化する可能性があるため、最終的に得られた繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)とポリアリーレンスルフィド共重合体(A)とは、その特性が異なる場合がある。したがって、本発明においては、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の原材料として使用されるポリアリーレンスルフィド共重合体をポリアリーレンスルフィド共重合体(A)と、得られた繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体をポリアリーレンスルフィド共重合体(B)と定義する。
【0023】
本発明の実施形態の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材は、以下二つの態様のいずれかを有する。第一の態様は、連続した強化繊維に後述のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させてなる繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材であり、第二の態様は不連続繊維の強化繊維が分散した強化繊維基材に、後述のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させてなる繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材である。
【0024】
本発明の実施形態において、第一の態様における連続した強化繊維とは、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材中で当該強化繊維が途切れのないものをいう。本発明の実施形態における強化繊維の形態および配列としては、例えば、一方向に引き揃えられたもの、織物(クロス)、編み物、組み紐、トウ等が挙げられる。中でも、特定方向の機械特性を効率よく高められることから、強化繊維が一方向に配列してなることが好ましい。
【0025】
第二の態様における不連続繊維が分散した強化繊維基材とは、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材中で当該強化繊維が切断され分散されたマット状のものをいう。本発明の実施形態における強化繊維基材は、繊維を溶液に分散させた後、シート状に製造する湿式法や、カーディング装置やエアレイド装置を用いた乾式法などの任意の方法により得ることができる。生産性の観点から、カーディング装置やエアレイド装置を用いた乾式法が好ましい。
【0026】
本発明の実施形態における強化繊維基材における不連続繊維の数平均繊維長は、3~100mmが好ましい。不連続繊維の数平均繊維長が3mm以上であれば、不連続繊維による補強効果が十分に奏され、得られる繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の機械強度をより向上させることができる。数平均繊維長は5mm以上がより好ましい。一方、不連続繊維の数平均繊維長が100mm以下であれば、成形時の流動性をより向上させることができる。不連続繊維の数平均繊維長は50mm以下がより好ましく、30mm以下がさらに好ましい。
【0027】
本発明の実施形態の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材における不連続繊維の数平均繊維長は、以下の方法により求めることができる。まず、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材から100mm×100mmのサンプルを切り出し、切り出したサンプルを600℃の電気炉中で1.5時間加熱し、マトリックス樹脂を焼き飛ばす。こうして得られた焼成後の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材中から、不連続繊維を無作為に400本採取する。取り出した不連続繊維について、ノギスを用いて1mm単位で繊維長を測定し、次式により数平均繊維長(Ln)を算出することができる。
Ln=ΣLi/400
(Li:測定した繊維長(i=1,2,3,・・・400)(単位:mm))。
【0028】
不連続繊維の数平均繊維長は、強化繊維基材製造時に繊維を所望の長さに切断することにより、上記範囲に調整することができる。強化繊維基材中の不連続繊維の配向性については特に制限は無いが、成形性の観点からは等方的に分散されている方が好ましい。
【0029】
第一および第二の形態における強化繊維の種類としては特に限定されず、炭素繊維、金属繊維、有機繊維、無機繊維が例示される。これらを2種以上用いてもよい。
【0030】
炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を原料とするPAN系炭素繊維、石油タールや石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、ビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とするセルロース系炭素繊維、炭化水素などを原料とする気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが挙げられる。これら炭素繊維のうち、強度と弾性率のバランスに優れる点で、PAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
【0031】
金属繊維としては、例えば、鉄、金、銀、銅、アルミニウム、黄銅、ステンレスなどの金属からなる繊維が挙げられる。
【0032】
有機繊維としては、例えば、アラミド、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレンなどの有機材料からなる繊維が挙げられる。アラミド繊維としては、例えば、強度や弾性率に優れるパラ系アラミド繊維と、難燃性、長期耐熱性に優れるメタ系アラミド繊維が挙げられる。パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維などが挙げられ、メタ系アラミド繊維としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維などが挙げられる。アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維に比べて弾性率の高いパラ系アラミド繊維が好ましく用いられる。
【0033】
無機繊維としては、例えば、ガラス、バサルト、シリコンカーバイト、シリコンナイトライドなどの無機材料からなる繊維が挙げられる。ガラス繊維としては、例えば、Eガラス繊維(電気用)、Cガラス繊維(耐食用)、Sガラス繊維、Tガラス繊維(高強度、高弾性率)などが挙げられる。バサルト繊維は、鉱物である玄武岩を繊維化した物で、耐熱性の非常に高い繊維である。玄武岩は、一般的に、鉄の化合物であるFeOまたはFeO2を9~25重量%、チタンの化合物であるTiOまたはTiO2を1~6重量%含有するが、溶融状態でこれらの成分を増量して繊維化することも可能である。
【0034】
本発明の第一および第二の形態における繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材は、補強材としての役目を期待されることが多いため、高い機械特性を発現することが望ましく、高い機械特性を発現するためには、強化繊維が炭素繊維を含むことが好ましい。
【0035】
本発明の第一および第二の形態における繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材において、強化繊維は、通常、多数本の単繊維を束ねた強化繊維束を1本または複数本並べて構成される。1本または複数本の強化繊維束を並べたときの強化繊維の総フィラメント数(単繊維の本数)は、1,000~2,000,000本が好ましい。生産性の観点からは、強化繊維の総フィラメント数は、1,000~1,000,000本がより好ましく、1,000~600,000本がさらに好ましく、1,000~300,000本が特に好ましい。強化繊維の総フィラメント数の上限は、分散性や取り扱い性とのバランスも考慮して、生産性と分散性、取り扱い性を良好に保てるようであれば特に制限されない。
【0036】
本発明の第一および第二の形態における1本の強化繊維束は、好ましくは平均直径5~10μmである強化繊維の単繊維を1,000~50,000本束ねて構成される。
【0037】
本発明の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材は、ガラス転移点が95℃以上190℃以下であるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させてなることを特徴とする。強化繊維と熱可塑性樹脂を溶融混練して製造する繊維強化樹脂組成物に比べ、強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸させて製造する繊維強化樹脂複合基材は、加工時の繊維の折損が少なく高い機械特性を得られる点から、自動車、電気電子、住設、航空機など、各種産業での構造部材において、従来の金属代替として利用が試みられている。ポリアリーレンスルフィドの代表であるポリフェニレンスルフィドは耐熱性、耐薬品性、高寸法精度、難燃性などの優れた特性を活かし各種産業で利用されているが、ガラス転移点が約90℃と水の沸点よりも低い。そのため、ポリフェニレンスルフィドを用いた繊維強化樹脂複合基材は、高い信頼性が求められる用途である構造部材への適用は困難とされてきた。しかしながら、構造部材への樹脂化検討が進展する近年、ポリフェニレンスルフィドの優れた特性を有しながら耐熱性の向上が期待されている。本発明では、ポリフェニレンスルフィドと同様に、耐薬品性を有しながら、ガラス転移点が95℃以上190℃以下であり、さらに高温剛性に優れたポリアリーレンスルフィド共重合体を用いることで、信頼性の高い繊維強化樹脂複合基材を提供することができる。
【0038】
本発明の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材は、酸化防止剤を含有することが好ましい。酸化防止剤を含有することで、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を製造する過程での、酸化架橋構造を例とする好ましくない副反応による架橋構造や、著しい高分子量化を抑制しやすい傾向にあり、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の結晶化温度が高く、融解熱が大きくなりやすく、それにともない繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の機械特性や耐薬品性が優れる傾向にある。
【0039】
酸化防止剤は、連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させる際に添加してもよいし、事前にポリアリーレンスルフィド共重合体(A)に、例えば溶融混練や溶媒分散などにより添加してもよいし、ポリアリーレンスルフィド(C)、および化合物(D)を加熱してポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を得る際に酸化防止剤の存在下で加熱してもよいし、これらの組み合わせであってもよい。より前段階の工程から副反応による架橋構造や、著しい高分子量化を抑制しやすいという観点から、事前にポリアリーレンスルフィド共重合体(A)に例えば溶融混練や溶媒分散などにより添加する方がより好ましく、ポリアリーレンスルフィド(C)、および化合物(D)を加熱してポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を得る際に酸化防止剤の存在下で加熱することがさらに好ましい。
【0040】
酸化防止剤としては、代表的な一次酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤、代表的な二次酸化防止剤としてリン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが例示できる。一般的には、一次酸化防止剤は、溶融加工時の熱により発生するポリマーのラジカルと速やかに反応し安定化し、二次酸化防止剤は、過酸化物を非ラジカル的に分解することにより安定化する。フェノール系酸化防止剤には長期耐熱安定性の保持の役割もある。リン系酸化防止剤は、溶融時の加工安定性を高める。フェノール系酸化防止剤と、リン系酸化防止剤または硫黄系酸化防止剤を併用することにより熱酸化劣化を防止することや、長期耐熱安定性を向上することもある。酸化防止剤は、単独で使用してもよいし、複数の機構による酸化防止効果のために、複数の酸化防止剤を併用してもよい。高温の溶融加工での使用に際しては、耐熱性の高い、フェノール系酸化防止剤、またはリン系酸化防止剤が好ましく、フェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤の併用がより好ましい。
【0041】
酸化防止剤の含有量の下限は、副反応による架橋構造や、著しい高分子量化を抑制しやすいという観点から、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)100重量部に対する添加量として0.01重量部以上が好ましく、0.05重量部以上がより好ましく、0.1重量部以上がさらに好ましく、0.3重量部以上がよりいっそう好ましく、0.5重量部以上がさらにいっそう好ましい。また、ポリアリーレンスルフィド共重合体は、一般的なポリアリーレンスルフィドとは異なる前記式(a)~(s)で示される構造を含有し、ポリアリーレンスルフィド(C)に由来するアミノ基、化合物(D)に由来するカルボキシル基もしくは酸無水物基も含有しうるために、一般的なポリアリーレンスルフィドとは異なる機構の副反応による架橋構造や高分子量化が生じるためと推測しているが、酸化防止剤の含有量は一般的なポリアリーレンスルフィドに対する含有量に対して多い方がより効果的であり、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)100重量部に対して0.3重量部以上がより有効であり、0.4重量部以上がさらに有効であり、0.5重量部以上が特に有効である。
【0042】
酸化防止剤の含有量の上限は、酸化防止剤に起因する発生ガス量を抑制し、酸化防止剤を含有することに起因する機械特性の低下を抑制する観点から、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)100重量部に対する添加量として10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、3重量部以下がさらに好ましい。
【0043】
フェノール系酸化防止剤の例としては、フェノール性ヒドロキシ基を有し、酸化防止効果を有するものであればよいが、例えば汎用的に入手可能な製品として、BASF社製のIrganox1010、Irganox1035、Irganox1076、Irganox1098、Irganox1135、Irganox1141、Irganox1330、Irganox1425WL、Irganox1520L、Irganox245、Irganox259、Irganox3114、Irganox565、ADEKA社製アデカスタブAO-20、AO-30、AO-40、AO-50、AO-60、AO-80、AO-330などが例示できる。フェノール系酸化防止剤の耐熱性が比較的優れ、加工安定性と長期熱安定性の効果に優れる観点からは、Irganox1010、Irganox1098、Irganox245、Irganox259、AO-60、AO-80、AO-330が好ましく、ポリアリーレンスルフィドに対する効果に比較的優れる観点からAO-80がより好ましい。
【0044】
リン系酸化防止剤の例としては、リン原子を有し、酸化防止効果を有するものであればよいが、例えば汎用的に入手可能な製品として、BASF社製のIrgafos168、ADEKA社製アデカスタブPEP-8、PEP-36、HP-10、2112、1178、1500、C、135A、3010、TPPなどが例示できる。リン系防止剤の耐熱性が比較的優れ、加工安定性の効果に優れる観点からは、Irgafos168、PEP-8、PEP-36、HP-10、2112が好ましく、ポリアリーレンスルフィドに対する効果に比較的優れる観点からPEP-36がより好ましい。
【0045】
硫黄系酸化防止剤の例としては、硫黄原子を有し、酸化防止効果を有するものであればよいが、例えば汎用的に入手可能な製品として、BASF社製のIrganox PS 800 FL、Irganox PS 802 FL、ADEKA社製アデカスタブAO-412S、AO-503、AO-26などが例示できる。硫黄系防止剤の保留性に優れる観点からは、AO-412Sが好ましい。
【0046】
繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の含浸状態は、ボイド観察によって評価することが可能である。繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材のボイド観察については、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を切断し、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の厚み方向断面を以下のように観察する。繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材をエポキシ樹脂で包埋したサンプルを用意し、繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントの厚み方向断面が良好に観察できるようになるまで、前記サンプルを研磨する。デジタルマイクロスコープ(キーエンス製 VHX-7000)顕微鏡(CCD)で400倍の倍率で撮影する。撮影した断面の正常部とボイド(空隙部)の面積率を測定することで、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材のボイド率を算出することができる。ボイド率は10%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。ボイド率がこの範囲であることで、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の機械特性が優れる傾向にある。
【0047】
[繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)]
ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)のガラス転移点は、連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に含浸させるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)と実質的に同じであるが、含浸させる際の加熱条件によって高分子量化することで変化する場合もある。ガラス転移点の下限は95℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、110℃以上がさらに好ましい。ガラス転移点の下限がこの範囲であると、高温条件下において高い剛性が得られる。ガラス転移点の上限は190℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、160℃以下がさらに好ましい。ガラス転移点の上限がこの範囲であると、ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の耐薬品性が高くなる。ガラス転移点は示差走査熱量計を用いて20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した際に検出されるベースラインシフトの変曲点と定義する。ガラス転移点を検出するためには、溶融状態から急冷して得た繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を用いることが必要である。
【0048】
ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の結晶化温度は165℃以上であり、170℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましく、190℃以上がさらに好ましく、200℃以上がよりいっそう好ましい。結晶化温度が165℃未満では、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を溶融成形加工する際に、結晶化速度が不十分となることによる生産性の低下や、得られた成形体の結晶化が不十分となることによる機械特性や耐薬品性の低下が生じる。結晶化温度の上限に特に制限はないが、一般的に、235℃以下の範囲が例示できる。結晶化温度は、示差走査熱量計を用いて20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した後、340℃で1分間保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した際に検出される結晶化ピーク温度の値とする。
【0049】
ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)は、300℃以下の融点を有することが好ましい。融点が300℃以下であることによって、ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の溶融成形加工が容易になる。融点は示差走査熱量計を用いて20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した後、340℃で1分間保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した後、100℃で1分間保持し、再度20℃/分の速度で340℃まで昇温した際に検出される融解ピーク温度の値とする。融点はポリアリーレンスルフィド共重合体(B)中のアリーレンスルフィド単位の分子量を選択することによって調整することができる。アリーレンスルフィド単位については後述する。
【0050】
ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の融解熱は、15J/g以上が好ましく、20J/g以上がより好ましく、25J/g以上がさらに好ましい。融解熱の下限がこの範囲であると、ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の結晶化度が高く、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の機械特性や耐薬品性が優れる傾向にある。融解熱の上限に特に制限はないが、一般的に70J/g以下の範囲が例示できる。融解熱は、示差走査熱量計を用いて20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した後、340℃で1分間保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した後、100℃で1分間保持し、再度20℃/分の速度で340℃まで昇温した際に検出される融解ピークから算出することができ、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材中の連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材を除くポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の重量当たりの熱量として算出する。
【0051】
ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の重量平均分子量の下限は50,000以上であり、60,000以上が好ましい。重量平均分子量が50,000未満では、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の十分な機械特性が得られない。重量平均分子量の上限は100,000以下である。重量平均分子量が100,000を超えると、流動性が低くなり繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を溶融成形加工する際に十分な成形加工性が得られない。ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の重量平均分子量は、連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に含浸させるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の重量平均分子量よりも高いことが好ましい。ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の重量平均分子量とポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の重量平均分子量の比の下限は1を超えることが好ましく、1.1以上がより好ましく、1.2以上がさらに好ましく、1.3以上がよりいっそう好ましい。重量平均分子量の比の下限がこの範囲であると、比較的低粘度のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させることで、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の含浸状態が良好になりやすく、機械特性が優れる傾向にある。重量平均分子量の比の上限は10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下がさらに好ましく、4以下がよりいっそう好ましい。重量平均分子量の比の上限がこの範囲であると、連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させて繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を得る際に、ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の特性およびそれにともなう繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の特性をより安定に制御しやすい傾向にある。また、酸化架橋構造を例とする好ましくない副反応による架橋構造が少ない傾向にあり、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の機械特性や耐薬品性が優れる傾向にもあり好ましい。重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出される値である。
【0052】
ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度の上限は5.0以下が好ましく、4.0以下がより好ましい。分散度の上限がこの範囲であると、ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)に含まれる低分子量成分量や、酸化架橋構造を例とする好ましくない副反応による架橋構造が少ない傾向にあり、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の機械特性や耐薬品性が優れ、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の溶融成形加工時のガス発生量も少ない傾向にある。分散度の下限は、理論上は1.0であり、このときはポリアリーレンスルフィド共重合体(B)が単一の分子量を有することを意味するが、通常は2.0以上である。重量平均分子量および数平均分子量は、例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
【0053】
ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)とポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の構造は実質的に同じであり、ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の構造について説明する。
【0054】
ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)は、アリーレンスルフィド単位として、式、-(Ar-S)-の繰り返し単位を70モル%以上含有する共重合体であり、好ましくは80モル%以上含有する共重合体である。Arとしては下記の式(I)~式(XI)などで表される単位などがあるが、中でも式(I)で表される単位が特に好ましい。
【0055】
【0056】
(R3,R4は水素、炭素原子数1~12のアルキル基、炭素原子数1~12のアルコキシ基、炭素数6~24のアリール基、ハロゲン基および反応性官能基から選ばれた置換基であり、R3とR4は同一でも異なっていてもよい。)
【0057】
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(XII)~式(XIV)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、-(Ar-S)-の単位1モルに対して0~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0058】
【0059】
(ここで、Arは先の式(I)~式(XI)で表される単位である。)
【0060】
アリーレンスルフィド単位は、上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0061】
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位として下記式(XV)で表されるp-フェニレンスルフィド単位
【0062】
【0063】
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
【0064】
アリーレンスルフィド単位の数平均分子量の下限は1,000以上が好ましく、1,500以上がより好ましく、2,000以上がさらに好ましい。アリーレンスルフィド単位の数平均分子量の下限がこの範囲であると、ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の耐薬品性が高くなりやすい。アリーレンスルフィド単位の数平均分子量の上限は10,000以下が好ましく、6,000以下がより好ましく、4,000以下がさらに好ましい。アリーレンスルフィド単位の数平均分子量の上限が10,000以下であると、ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の耐熱性が高くなりやすい。ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)中のアリーレンスルフィド単位の数平均分子量は、例えば、ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)を10%の水酸化ナトリウム水溶液中で還流条件下、5時間処理した後の残渣を分子量測定することで求めることができる。ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)中のアリーレンスルフィド単位の数平均分子量を上記の範囲とするためには、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の製造において、後述する、数平均分子量Mnが1,000以上10,000以下であるポリアリーレンスルフィド(C)を用いることが好ましい。重量平均分子量および数平均分子量は、例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
【0065】
共重合成分としてポリアリーレンスルフィド共重合体(B)に含有される構造としては、芳香環を含む構造が例示され、好ましくは前記式(a)~(s)で示される構造であり、より好ましくは前記式(a)~(e)、(i)および(j)で示される構造であり、中でも前記式(i)で示される構造が特に好ましい。これらの構造を含むことで、得られるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の結晶性が優れる傾向にある。
【0066】
ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)中の、-(Ar-S)-の繰り返し単位からなるアリーレンスルフィド単位と共重合成分とは、イミド基で連結されることが好ましい。イミド基で連結されることにより、高温において高い剛性が発現する。イミド基量の下限は、ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)中の硫黄原子に対して1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましく、4モル%以上がさらに好ましい。上記のような範囲とすることで、高温条件下における剛性低下を十分に抑制できる傾向にある。イミド基量の上限は、60モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下がさらに好ましく、20モル%以下がよりいっそう好ましい。イミド基量が多くなると、得られるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の耐薬品性が低下する傾向にあるが、上記のような範囲とすることで、十分な耐薬品性や機械特性を発現するポリアリーレンスルフィド共重合体(B)が得られる傾向にある。なお、ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)中のイミド基の量は、例えば、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を250℃の1-クロロナフタレンに浸漬させ、5分間振盪した後にポアサイズ1μmのメンブレンフィルターでろ過し、濾液を冷却することでポリアリーレンスルフィド共重合体(B)を析出させ、1-クロロナフタレンを洗浄除去した試料の、FT-IRスペクトルあるいはNMRスペクトルを用いて求めることが可能である。
【0067】
[連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に含浸させるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)]
ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)とポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の構造は実質的に同じであるが、ここではポリアリーレンスルフィド共重合体(B)とは異なるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の特徴について説明する。
【0068】
ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)のガラス転移点の下限は95℃以上であり、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましい。ガラス転移点が95℃未満では高温条件下において高い剛性が得られない。ガラス転移点の上限は190℃以下であり、180℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましい。ガラス転移点が190℃を超えると成形品の耐薬品性が不足する。ガラス転移点は示差走査熱量計を用いて20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した際に検出されるベースラインシフトの変曲点と定義する。
【0069】
ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の重量平均分子量の下限は、10,000以上が好ましく、20,000以上がより好ましく、30,000以上がさらに好ましく、40,000以上がよりいっそう好ましい。重量平均分子量の下限がこの範囲であると、ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の重量平均分子量が比較的高くなり、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の機械特性が優れる傾向にある。重量平均分子量の上限は100,000未満が例示でき、70,000以下が好ましい。重量平均分子量の上限がこの範囲であると、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の粘度が比較的低く、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の含浸状態が良好になりやすく、機械特性が優れる傾向にある。重量平均分子量は、例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
【0070】
ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)は酸化防止剤を含有することが好ましい。酸化防止剤の種類および例に関しては前述の通りである。酸化防止剤は、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)に、例えば溶融混練や溶媒分散などにより添加してもよいし、ポリアリーレンスルフィド(C)、および化合物(D)を加熱してポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を得る際に酸化防止剤の存在下で加熱してもよいし、これらの組み合わせであってもよい。より前段階の工程から副反応による架橋構造や、著しい高分子量化を抑制しやすいという観点からは、ポリアリーレンスルフィド(C)、および化合物(D)を加熱してポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を得る際に酸化防止剤の存在下で加熱することがさらに好ましい。
【0071】
ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)に、例えば溶融混練や溶媒分散などにより添加する場合の、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)100重量部に対する添加量は前述のとおりである。
【0072】
[ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の製造方法]
本発明のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)は、アミノ基を400μmol/g以上5,000μmol/g以下の範囲で含有し、30℃から320℃まで10℃/分の昇温速度で加熱したときの重量減少率が5wt%以下であるポリアリーレンスルフィド(C)、および式(a’)~(u’)から選ばれる少なくとも一つの化合物(D)を加熱する方法により製造することが好ましい。以下、ポリアリーレンスルフィド(C)および化合物(D)について説明する。
【0073】
[ポリアリーレンスルフィド(C)]
ポリアリーレンスルフィド(C)とは、式、-(Ar-S)-の繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマーまたはコポリマーである。ここで、主要構造単位とするとは、当該繰り返し単位を70モル%以上含有することをいう。Arとしては前記式(I)~式(XI)などで表される単位などがあるが、中でも式(I)で表される単位が特に好ましい。
【0074】
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、前記式(XII)~式(XIV)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、-(Ar-S)-の単位1モルに対して0~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0075】
ポリアリーレンスルフィド(C)は、上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0076】
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位として前記式(XV)で表されるp-フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
【0077】
ポリアリーレンスルフィド(C)は官能基としてアミノ基を含有する。アミノ基の位置はポリアリーレンスルフィドの主鎖中であっても末端であってもよいが、末端導入の方が官能基を有する他のポリマーや化合物との反応制御が容易であるため好ましく、後述するように化合物(D)との共重合反応を行う観点でも好ましい。末端導入の場合はArと結合するSに対してp位であることが好ましい。また、上記Arと結合したアミノ基を有するポリアリーレンスルフィドも好ましい形態として例示できる。上記アミノ基は、化合物(E)に由来する構造であることが好ましく、詳細については後述する。
【0078】
ポリアリーレンスルフィド(C)が含有するアミノ基量の下限は400μmol/g以上が好ましく、500μmol/g以上がより好ましく、700μmol/g以上がさらに好ましい。アミノ基量の下限がこの範囲であることで、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)およびポリアリーレンスルフィド共重合体(B)のガラス転移点が十分に高くなる傾向にあるため好ましい。また、アミノ基量の上限は5,000μmol/g以下が好ましく、4,000μmol/g以下がより好ましく、3,000μmol/g以下がさらに好ましい。アミノ基量の上限がこの範囲であると、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)およびポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の耐薬品性が低下することを防止できるため好ましい。ポリアリーレンスルフィド(C)中のアミノ基はポリアリーレンスルフィド(C)をFT-IR分析することによって、例えばベンゼン環由来の1901cm-1における吸収に対するアミノ基由来の3382cm-1の吸収の強度を比較することで定量することができる。
【0079】
ポリアリーレンスルフィド(C)の数平均分子量は1,000以上が好ましく、2,000以上がより好ましい。数平均分子量の下限がこの範囲であると、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)およびポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の耐薬品性が高くなり、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の耐薬品性が高くなる。数平均分子量の上限は10,000以下が好ましく、6,000以下がより好ましく、4,000以下がさらに好ましい。数平均分子量の上限がこの範囲であると、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)およびポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の耐熱性が高くなり、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の耐熱性が高くなる。数平均分子量は、例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
【0080】
ポリアリーレンスルフィド(C)は30℃から320℃まで10℃/分の昇温速度で加熱したときの重量減少率が5wt%以下であることが好ましく、4wt%以下であることがより好ましく、3wt%以下であることがさらに好ましい。重量減少率は小さいほど好ましいが、下限としては、例えば0.01wt%以上が例示できる。ポリアリーレンスルフィド(C)の製造方法として、後述する例を用いれば、ポリアリーレンスルフィド(C)中に多量のアミノ基を導入しても、加熱時のガス成分となりやすい成分が残存しにくい傾向にある。
【0081】
上記重量減少率は、一般的な熱重量分析によって求めることが可能である。この分析における雰囲気は通常、常圧の非酸化性雰囲気を用いる。非酸化性雰囲気とは試料が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気であり、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気を用いることが好ましい。この中でも経済性および取扱い性の容易さの面からは窒素雰囲気が特に好ましい。また、常圧とは大気圧、すなわち絶対圧で101.3kPa近傍の圧力条件のことである。また、重量減少率の測定においては室温から320℃以上の任意の温度まで昇温速度10℃/分で昇温して熱重量分析を行う。この温度範囲はポリフェニレンスルフィドに代表されるポリアリーレンスルフィドを実使用する際や溶融させ成形や反応を行う際に頻用される温度領域である。このような実使用温度領域における重量減少率は、実使用時のポリアリーレンスルフィドからのガス発生量や成形加工・反応時の機器の汚染度の指標となる。したがって、このような温度範囲における重量減少率が少ないポリアリーレンスルフィドは、品質の高い優れたポリアリーレンスルフィドであるといえる。
【0082】
また、ポリアリーレンスルフィド(C)の製造方法として、後述する例を用いると、そのポリアリーレンスルフィド(C)を用いて得らえるポリアリーレンスルフィド共重合体の結晶性も優れる傾向にあるため好ましい。これも、後述する製造方法でポリアリーレンスルフィド(C)を製造すると、加熱時のガス成分となりやすい成分が残存しにくいことによるものと考えられる。
【0083】
以下に本発明のポリアリーレンスルフィド(C)の製造方法について具体的に述べる。下記方法に限定されるものではないが、本発明においては、有機極性溶媒中で、少なくともジハロゲン化芳香族化合物、無機スルフィド化剤および化合物(E)をアルカリ金属水酸化物の存在下で反応させるポリアリーレンスルフィドの製造方法であって、反応容器中で無機スルフィド化剤1モルに対して化合物(E)を0.04モル以上0.5モル以下の範囲で存在させる方法が好ましい。ここで、化合物(E)は少なくとも1つの芳香環を有し、該1つの芳香環上にアミノ基と、水酸基、水酸基の塩、チオール基、およびチオール基の塩から選ばれる少なくとも1種類の官能基とを有する化合物である。このような製造方法を選択する場合、不純物の少ない官能基含有ポリアリーレンスルフィド(C)が得られ、それを用いて製造するポリアリーレンスルフィド共重合体(A)およびポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の結晶化温度が高くなりやすい。
【0084】
[無機スルフィド化剤]
ポリアリーレンスルフィド(C)の製造方法で用いられる無機スルフィド化剤とは、ジハロゲン化芳香族化合物にスルフィド結合を導入できるものであればよく、例えばアルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0085】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種類以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化リチウムおよび/または硫化ナトリウムが好ましく、硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。なお、水性混合物とは水溶液、もしくは水溶液と固体成分の混合物、もしくは水と固体成分の混合物のことを指す。一般的に入手できる安価なアルカリ金属硫化物は水和物または水性混合物であるので、この様な形態のアルカリ金属硫化物を用いることが好ましい。
【0086】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種類以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化リチウムおよび/または水硫化ナトリウムが好ましく、水硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。
【0087】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系中で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を接触させて調製したアルカリ金属硫化物も用いることができる。これらのアルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属水酸化物は水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができ、水和物または水性混合物が入手のしやすさ、コストの観点から好ましい。
【0088】
さらに、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系内で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめ水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素を接触させて調製したアルカリ金属硫化物を用いることもできる。硫化水素は気体状態、液体状態、水溶液状態のいずれの形態で用いても差し障りない。
【0089】
[化合物(E)]
ポリアリーレンスルフィド(C)の製造方法で用いられる化合物(E)は、少なくとも1つの芳香環を有し、該1つの芳香環上にアミノ基と、水酸基、水酸基の塩、チオール基、およびチオール基の塩から選ばれる少なくとも1種類の官能基とを有する化合物である。化合物(E)はポリアリーレンスルフィドに官能基として導入されるアミノ基と、後述する重合反応工程でジハロゲン化芳香族化合物と反応する水酸基、または水酸基の塩、またはチオール基、またはチオール基の塩を有する芳香族化合物であればよい。その具体例として、2-アミノフェノール、4-アミノフェノール、3-アミノフェノール、2-アミノチオフェノール、4-アミノチオフェノール、3-アミノチオフェノールおよびこれらの化合物の水酸基またはチオール基がアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩となっている化合物を好ましい化合物として例示することができる。反応性の観点から4-アミノフェノール、4-アミノチオフェノールを特に好ましい化合物として例示することができる。上記の特徴を有していれば、異なる2種類以上の化合物(E)を組み合わせて用いることも可能である。化合物(E)として水酸基またはチオール基を有する化合物を用いる場合、等量のアルカリ金属水酸化物を同時に使用することが好ましい実施形態である。また、化合物(E)として水酸基またはチオール基が塩の形態をとる化合物を用いる場合、あらかじめ塩を形成してからポリアリーレンスルフィド(C)の製造に使用することも可能であるし、反応容器内の反応で塩を形成することも可能である。
【0090】
化合物(E)の使用量の下限は仕込み無機スルフィド化剤1モルに対し、0.04モル以上であり、0.05モル以上が好ましく、0.06モル以上がより好ましく、0.08モル以上がさらに好ましく、0.1モル以上がよりいっそう好ましい。使用量がこの値以上であることでアミノ基をポリアリーレンスルフィドに十分に導入できるため好ましい。また、化合物(E)の使用量の上限は仕込み無機スルフィド化剤1モルに対して0.5モル以下であり、0.45モル以下がより好ましく、0.4モル以下がさらに好ましい。使用量がこの値以下であることでポリアリーレンスルフィドの分子量低下を防止し、機械特性の低下を防止できるため好ましい。
【0091】
化合物(E)の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合反応工程のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、効率よくジハロゲン化芳香族化合物と反応させる観点から、ジハロゲン化芳香族化合物を反応容器に添加するのと同じ段階で添加することがより好ましい。
【0092】
[ジハロゲン化芳香族化合物]
ポリアリーレンスルフィド(C)の製造方法で用いられるジハロゲン化芳香族化合物としては、p-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジブロモベンゼン、o-ジブロモベンゼン、m-ジブロモベンゼン、1-ブロモ-4-クロロベンゼン、1-ブロモ-3-クロロベンゼンなどのジハロゲン化ベンゼン、および1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼン、1-メチル-2,5-ジクロロベンゼン、1,4-ジメチル-2,5-ジクロロベンゼン、1,3-ジメチル-2,5-ジクロロベンゼン、2,5-ジクロロ安息香酸、3,5-ジクロロ安息香酸、2,5-ジクロロアニリン、3,5-ジクロロアニリン、ビス(4-クロロフェニル)スルフィドなどのハロゲン以外の置換基を有する化合物も含むジハロゲン化芳香族化合物などを挙げることができる。なかでも、p-ジクロロベンゼンに代表されるp-ジハロゲン化ベンゼンを主成分とするジハロゲン化芳香族化合物が好ましい。特に好ましくは、p-ジクロロベンゼンを80~100モル%含むものであり、さらに好ましくは90~100モル%含むものである。また、異なる2種類以上のジハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて用いることも可能である。
【0093】
ジハロゲン化芳香族化合物の使用量の下限は特に制限はないが、下記式で表現される[モノマー比]を0.8以上とすることが好ましく、0.9以上とすることがより好ましく、0.95以上とすることがさらに好ましい。[モノマー比]を上記の範囲とすることで重合反応系を安定化し、副反応を防止することができるため、好ましい。また、使用量の上限は特に制限はないが、[モノマー比]を1.2以下とすることが好ましく、1.1以下とすることがさらに好ましく、1.05以下とすることがより好ましい。[モノマー比]を上記の範囲とすることでポリアリーレンスルフィド中に残存するハロゲン量を低減することができるため好ましい。なお、下記式における[ジハロゲン化芳香族化合物物質量]、[無機スルフィド化剤物質量]、および[化合物(E)物質量]は、ポリアリーレンスルフィドを製造する際における各化合物の使用量を示す。
[モノマー比]=[ジハロゲン化芳香族化合物物質量]/([無機スルフィド化剤物質量]+[化合物(E)物質量])
【0094】
[有機極性溶媒]
本発明のポリアリーレンスルフィド(C)の製造方法で用いられる有機極性溶媒として、有機アミド溶媒が好ましく例示できる。具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン類、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機溶媒およびこれらの混合物などが反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでもN-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがより好ましく用いられる。
【0095】
有機極性溶媒の使用量は仕込み無機スルフィド化剤1モルに対し、2.0モル以上が好ましく、2.2モル以上がより好ましく、2.3モル以上がさらに好ましい。使用量がこの値以上であることで収率良くポリアリースルフィドを合成できるため好ましい。また、有機極性溶媒の使用量は仕込み無機スルフィド化剤1モルに対して6.0モル以下が好ましく、5.0モル以下がより好ましく、4.0モル以下がさらに好ましい。使用量がこの値以下であることで、得られるポリアリーレンスルフィド(C)を加熱した際の発生ガスを低減できるため好ましい。
【0096】
[重合助剤]
比較的に高重合度のポリアリーレンスルフィドをより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは、得られるポリアリーレンスルフィドの粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、さらに有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
【0097】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1~20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1~3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0098】
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩からなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより合成してもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価である。一方、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
【0099】
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込み無機スルフィド化剤1モルに対し、通常0.01モル~2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1モル~0.6モルの範囲が好ましく、0.2モル~0.5モルの範囲がより好ましい。
【0100】
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込み無機スルフィド化剤1モルに対し、通常0.3モル~15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6モル~10モルの範囲が好ましく、1モル~5モルの範囲がより好ましい。
【0101】
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、より少量のアルカリ金属カルボン酸塩と水で高分子量化が可能となる。
【0102】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合反応工程のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよい。重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時あるいは重合開始時に他の添加物と同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ジハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応工程の途中で添加することが効果的である。
【0103】
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられる。重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、重合安定剤の一つに入る。また、無機スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0104】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込み無機スルフィド化剤1モルに対して、通常0.02モル~0.2モル、好ましくは0.03モル~0.1モル、より好ましくは0.04モル~0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
【0105】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合反応工程のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時あるいは重合開始時に同時に添加することが容易である点からより好ましい。
【0106】
次に、本発明のポリアリーレンスルフィド(C)の好ましい製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明するが、もちろんこの方法に限定されるものではない。
【0107】
[前工程]
ポリアリーレンスルフィド(C)の製造方法において、通常、無機スルフィド化剤は水和物の形で使用されるが、ジハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒と無機スルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
【0108】
また、上述したように、無機スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製される無機スルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温~150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180℃~260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよいし、化合物(E)を加えておいてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0109】
前工程の終了時、すなわち重合反応工程の前における系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3モル~10.0モルであることが好ましい。ここで系内の水分量とは、重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0110】
[重合反応工程]
有機極性溶媒中で少なくとも無機スルフィド化剤、ジハロゲン化芳香族化合物および化合物(E)を200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりポリアリーレンスルフィド(C)を製造する。
【0111】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下において、常温~240℃、好ましくは100℃~230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で化合物(E)および重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0112】
この混合物を通常200℃~290℃未満の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01℃/分~5℃/分の速度が選択され、0.1℃/分~3℃/分の範囲がより好ましい。
【0113】
一般的に、最終的には250℃~290℃未満の温度まで昇温し、その温度で通常0.25時間~50時間、好ましくは0.5時間~20時間反応させる。
【0114】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃~260℃で一定時間反応させた後、270℃~290℃未満に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃~260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25時間~10時間の範囲が選ばれる。
【0115】
なお、ポリマーの分子量を調整するため、重合途中で化合物(E)の添加を行うことも可能であるが、化合物(E)の効率的な反応の観点からは化合物(E)の少なくとも一部はジハロゲン化芳香族化合物と同じ段階で添加することがより好ましい。
【0116】
[回収工程]
ポリアリーレンスルフィド(C)の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法については、公知の如何なる方法を採用してもよい。
【0117】
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いてもよい。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分程度である。徐冷工程の全工程において同一速度で徐冷する必要はなく、ポリマー粒子が結晶化し析出するまでは0.1℃/分~1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用してもよい。
【0118】
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つである。この回収方法のうち、好ましい方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm2以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法である。ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には、常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃~250℃の範囲が選ばれる。
【0119】
[後処理工程]
ポリアリーレンスルフィド(C)は、上記重合反応工程、回収工程を経て生成した後、後処理工程として酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄を施すことが可能である。不純物除去の観点からは、後処理工程は、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄のいずれかを施すことが好ましく、2種以上の処理を併用することがより好ましい。
【0120】
酸処理を行う場合は次の通りである。酸処理に用いる酸は、ポリアリーレンスルフィド(C)を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられる。なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられる。一方、硝酸のようなポリアリーレンスルフィド(C)を分解、劣化させるものは好ましくない。酸処理の方法は、例えば、酸または酸の水溶液にポリアリーレンスルフィド(C)を浸漬せしめる方法があり、必要により撹拌または加熱することも可能である。酸の溶液を用いる場合、溶液は有機溶媒を用いた溶液でも水溶液でもよいが、酸の混和性、ポリアリーレンスルフィドに含まれる塩や塩基性成分の溶解性が比較的高い傾向にある観点からは水溶液が好ましく、用いる水は、ポリアリーレンスルフィドの好ましい化学的変性の効果を損なわないために蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。例えば、酢酸を用いる場合、pH4の酢酸水溶液を80℃~200℃に加熱した中にポリアリーレンスルフィド(C)粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のpHは4以上となってもよく、例えばpH4~8程度となってもよい。酸処理を施されたポリアリーレンスルフィド(C)に残留している酸または塩などを除去するため、さらに水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、ポリアリーレンスルフィド(C)の好ましい化学的変性の効果を損なわないために、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。酸処理を行う場合、ポリアリーレンスルフィド(C)を用いてポリアリーレンスルフィド共重合体を得る際に、より高分子量のポリアリーレンスルフィド共重合体が得られる傾向にあるため好ましい。
【0121】
熱水処理を行う場合は次の通りである。ポリアリーレンスルフィド(C)を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満ではポリアリーレンスルフィドの好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。熱水処理によるポリアリーレンスルフィド(C)の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限はない。所定量の水に所定量のポリアリーレンスルフィド(C)を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法や、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。ポリアリーレンスルフィド(C)と水との割合は、水が多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、ポリアリーレンスルフィド(C)200g以下の浴比(乾燥ポリアリーレンスルフィド(C)重量に対する洗浄液重量)が選ばれる。また、末端の反応性官能基の好ましくない分解を回避するため、処理の雰囲気は不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、残留している成分を除去するため、この熱水処理操作を終えたポリアリーレンスルフィド(C)は、温水で数回洗浄するのが好ましい。
【0122】
有機溶媒で洗浄する場合は次の通りである。ポリアリーレンスルフィド(C)の洗浄に用いる有機溶媒は、ポリアリーレンスルフィドを分解する作用などを有しないものであれば特に制限はない。例えばN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などがポリアリーレンスルフィド(C)の洗浄に用いる有機溶媒として挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N-メチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が好ましい。また、アリーレンスルフィド構造を有する不純物を除去する観点からは、比較的高い溶解性が得られやすい含窒素極性溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、およびクロロホルムが特に好ましい。これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用されてもよいし、水と混合されて使用されてもよい。有機溶媒による洗浄の方法としては、例えば、有機溶媒中にポリアリーレンスルフィド(C)を浸漬せしめる方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でポリアリーレンスルフィド(C)を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温~300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温~150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。有機溶媒での洗浄により、ポリアリーレンスルフィド(C)の加熱時の発生ガス量が少なくなり、また、ポリアリーレンスルフィド(C)を用いて後述するポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を得る際に、高分子量体が容易に得られる傾向にあるため好ましい。
【0123】
[熱酸化架橋処理]
ポリアリーレンスルフィド(C)は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱や過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。ただし、ポリアリーレンスルフィド(C)の数平均分子量は10,000以下であることが好ましい。
【0124】
[化合物(D)]
化合物(D)は、前記式(a’)~(u’)から選ばれる少なくとも一つである。
【0125】
Xは隣接する2つの炭素にそれぞれ結合された2つのカルボキシル基、もしくはその2つのカルボキシル基に由来する酸無水物基から選択されるいずれかである。前述したポリアリーレンスルフィド(C)と化合物(D)とを加熱する際の反応性の観点から、Xは隣接する2つの炭素にそれぞれ結合された2つのカルボキシル基に由来する酸無水物基であることが好ましい。R、R1、およびR2は水素、炭素原子数1~12のアルキル基、炭素原子数6~24のアリーレン基、およびハロゲン基から選ばれる置換基であり、R、R1、およびR2は同一でも異なっていてもよい。入手の容易性から水素、メチル基、エチル基、またはプロピル基が好ましい。また、各化合物の芳香族環は2置換体または3置換体であってもよく、一つの芳香族環に置換された複数の置換基Xは同一でも異なっていてもよい。
【0126】
化合物(D)の具体例としては、ピロメリット酸、3,3’,4,4’-チオジフタル酸、3,3’,4,4’-スルホニルジフタル酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-スルフィニルジフタル酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-テトラカルボキシルジフェニルメタン、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸、ピロメリット酸無水物、3,3’,4,4’-チオジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-スルホニルジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-スルフィニルジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-テトラカルボキシルジフェニルメタン二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、グリセリンビスアンヒドロトリメリテートモノアセテート、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-チオジ安息香酸、4,4’-ジカルボキシルベンゾフェノン、4,4’-スルフィニルジ安息香酸、4,4’-ジカルボキシルビフェニルが挙げられ、反応性の観点から3,3’,4,4’-チオジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-スルフィニルジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、4,4’-チオジ安息香酸、4,4’-ジカルボキシルベンゾフェノン、4,4’-スルフィニルジ安息香酸、4,4’-ジカルボキシルビフェニルピロメリット酸、ピロメリット酸無水物が好ましく用いられる。
【0127】
[ポリアリーレンスルフィド(C)および化合物(D)の加熱条件]
ポリアリーレンスルフィド共重合体は、ポリアリーレンスルフィド(C)および化合物(D)を加熱することで製造できる。
【0128】
ポリアリーレンスルフィド(C)および化合物(D)を加熱する際の、化合物(D)が有するカルボキシル基量の二分の一および酸無水物基量の合計量とポリアリーレンスルフィド(C)が有するアミノ基の合計量との比は、0.75以上1.25以下であることが好ましい。この範囲とすることで、得られるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)が高分子量になりやすく、十分な機械物性や耐薬品性を発現する傾向にある。化合物(D)が有するカルボキシル基量の二分の一および酸無水物基量の合計量とポリアリーレンスルフィド(C)が有するアミノ基の合計量との比の下限は、0.75以上が好ましいが、0.8以上がより好ましく、0.9以上がさらに好ましく、1.0以上がよりいっそう好ましく、1.02を超えることが特に好ましい。現時点で理由は定かではないが、比の下限がこの範囲であると、ガラス転移点が十分に高く、かつポリアリーレンスルフィド共重合体(A)が結晶性に優れ、高い結晶化温度を示す傾向、優れた機械特性や耐薬品性を示す傾向にある。
【0129】
ポリアリーレンスルフィド(C)および化合物(D)の加熱は、初めから全量を混合して加熱してもよいし、ポリアリーレンスルフィド(C)の少なくとも一部、および化合物(D)の少なくとも一部を混合して加熱した後、残りのポリアリーレンスルフィド(C)および/または化合物(D)を混合して加熱してもよい。後者の場合、ポリアリーレンスルフィド(C)の少なくとも一部、および化合物(D)の少なくとも一部を混合して加熱した後、引き続き残りのポリアリーレンスルフィド(C)および/または化合物(D)を混合して加熱してもよいし、ポリアリーレンスルフィド(C)の少なくとも一部、および化合物(D)の少なくとも一部を混合して加熱した後、生成物を一度取り出し、さらに残りのポリアリーレンスルフィド(C)および/または化合物(D)を混合して加熱してもよい。ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)が効率的に得られる観点からは、初めからポリアリーレンスルフィド(C)および化合物(D)の全量を混合して加熱することが好ましい。一方で、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の、ガラス転移点、結晶化温度、融点などの熱特性や、分子量、用途に応じた末端種およびその量を制御しやすく調整しやすいという観点からは、ポリアリーレンスルフィド(C)の少なくとも一部、および、化合物(D)の少なくとも一部を混合して加熱した後、残りのポリアリーレンスルフィド(C)および/または化合物(D)を混合して加熱することが好ましい。
【0130】
加熱の温度の下限は200℃以上が例示でき、230℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。加熱温度の下限をこのような範囲とすることで、容易にポリアリーレンスルフィド(C)と化合物(D)との反応を促進することができ、ポリアリーレンスルフィド(C)が溶融解する温度以上とすることでより短時間で反応を促進できる傾向にある。ポリアリーレンスルフィド(C)が溶融解する温度は、ポリアリーレンスルフィド(C)の組成や分子量、また、加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、例えばポリアリーレンスルフィド(C)を示差走査型熱量計で分析することで把握することが可能である。加熱温度の上限としては400℃以下が例示でき、好ましくは380℃以下、より好ましくは360℃以下である。加熱温度の上限をこのような範囲とすることで、ポリアリーレンスルフィド(C)間などでの架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応を抑制でき、得られるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の特性低下を抑制できる傾向にある。
【0131】
加熱を行う時間はポリアリーレンスルフィド(C)の組成や分子量、また、加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、前記した好ましくない副反応がなるべく起こらないように設定することが好ましい。加熱時間の下限としては、0.1分以上が例示でき、1分以上が好ましく、2分以上がより好ましく、3分以上がさらに好ましい。加熱時間の下限をこのような範囲とすることで、ポリアリーレンスルフィド(C)と化合物(D)との反応をより十分に進めることができる。加熱時間の上限としては、100時間以内が例示でき、20時間以内が好ましく、10時間以内がより好ましく、1時間以内がさらに好ましい。加熱時間の上限をこのような範囲とすることで、経済性に優れ、かつ前記した好ましくない副反応を避けられる傾向にある。
【0132】
加熱は、溶媒の非存在下で行うことも、溶媒の存在下で行うことも可能である。溶媒の存在下で行う場合、溶媒としては、生成したポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の分解や架橋などの好ましくない副反応を実質的に引き起こさないものであれば特に制限はない。溶媒は1種類または2種類以上の混合物として使用することができる。一方で、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)が効率的に得られる観点からは、実質的に無溶媒条件で行うことが好ましい。また、得られるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材に含浸させる際、および繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を溶融成形加工する際の、発生ガスによる汚染や特性低下を防ぐ観点からも、実質的に無溶媒条件で行うことが好ましい。ここで、実質的な無溶媒条件とは、ポリアリーレンスルフィド(C)および化合物(D)を加熱する系内の溶媒が10重量%以下であることを指し、3重量%以下が好ましい。
【0133】
本発明のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の製造方法における加熱は、通常の重合反応装置を用いる方法で行うのはもちろんのこと、成形品を製造する型内で行ってもよいし、押出機や溶融混練機を用いて行うなど、加熱機構を具備した装置であれば特に制限なく行うことが可能であり、バッチ方式、連続方式など公知の方法が採用できる。
【0134】
加熱の際の雰囲気は、非酸化性雰囲気であることが好ましく、減圧条件下で行うことも好ましい。また、減圧条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。これにより、ポリアリーレンスルフィド(C)間や生成するポリアリーレンスルフィド共重合体(A)間などでの架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応を抑制できる傾向にある。なお、非酸化性雰囲気とは気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、より好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、すなわち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性および取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。また、減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、圧力の上限としては50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下がさらに好ましい。圧力の上限をこのような範囲とすることで、架橋反応など好ましくない副反応が抑制できる傾向にある。圧力の下限としては0.1kPa以上が例示できる。圧力の下限を0.1kPa以上とすることで、必要以上に減圧にすることによる反応装置への負荷を避けることができる。
【0135】
加熱は酸化防止剤の存在下で行うことが好ましい。酸化防止剤の種類および例に関しては前述の通りである。
【0136】
加熱を酸化防止剤の存在下で行う場合の酸化防止剤の添加量の下限は、加熱中および加熱により得るポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を使用する際の、副反応による架橋構造や、著しい高分子量化を抑制しやすいという観点から、ポリアリーレンスルフィド(C)100重量部に対して0.01重量部以上が好ましく、0.05重量部以上がより好ましく、0.1重量部以上がさらに好ましく、0.3重量部以上がよりいっそう好ましく、0.5重量部以上がさらにいっそう好ましい。また、加熱により得るポリアリーレンスルフィド共重合体(A)は、一般的なポリアリーレンスルフィドとは異なる前記式(a)~(s)で示される構造を含有し、ポリアリーレンスルフィド(C)に由来するアミノ基、化合物(D)に由来するカルボキシル基もしくは酸無水物基も含有しうるために、一般的なポリアリーレンスルフィドとは異なる機構の副反応による架橋構造や高分子量化が生じるためと推測しているが、酸化防止剤の含有量は一般的なポリアリーレンスルフィドに対する含有量に対して多い方がより効果的であり、添加量はポリアリーレンスルフィド(C)100重量部に対して0.3重量部以上がより有効であり、0.4重量部以上がさらに有効であり、0.5重量部以上が特に有効である。
【0137】
加熱を酸化防止剤の存在下で行う場合の酸化防止剤の添加量の上限は、酸化防止剤に起因する発生ガス量を抑制し、酸化防止剤を含有することに起因するポリアリーレンスルフィド共重合体の機械特性の低下を抑制する観点から、ポリアリーレンスルフィド(C)100重量部に対して10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、3重量部以下がさらに好ましい。
【0138】
酸化防止剤の、ポリアリーレンスルフィド(C)100重量部に対する添加量と、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)100重量部に対する含有量の関係は、生成したポリアリーレンスルフィド共重合体(A)重量がわかる場合は、以下のように換算することが可能である。
[ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)100重量部に対する含有量]=[ポリアリーレンスルフィド(C)100重量部に対する添加量]×[ポリアリーレンスルフィド(C)重量]/[生成したポリアリーレンスルフィド共重合体(A)重量]
(生成したポリアリーレンスルフィド共重合体(A)重量は、理論上は、生成物の重量を秤量し、添加した酸化防止剤の重量を差し引くことで、算出することが可能である。)。
【0139】
[繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の製造方法]
本発明の実施形態の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材は、連続した強化繊維にポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させることにより得ることができる(第一の態様)。または不連続繊維の強化繊維が分散した強化繊維基材にポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させることにより得ることができる(第二の態様)。
【0140】
第一の態様における、連続した強化繊維にポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させる方法としては、例えば、フィルム状のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を溶融し、加圧することで強化繊維束にポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させるフィルム法、繊維状のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)と強化繊維束とを混紡した後、繊維状のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を溶融し、加圧することで強化繊維束にポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させるコミングル法、粉末状のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を強化繊維束における繊維の隙間に分散させた後、粉末状のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を溶融し、加圧することで強化繊維束にポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させる粉末法、溶融したポリアリーレンスルフィド共重合体(A)中に強化繊維束を浸し、加圧することで強化繊維束にポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させる引き抜き法が挙げられ、いずれの方法を用いてもよい。
【0141】
本発明の第一の態様における繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の厚さは、0.1~10mmが好ましい。厚さが0.1mm以上であれば、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を用いて得られる成形品の強度を向上させることができる。0.2mm以上がより好ましい。一方、厚さが1.5mm以下であれば、強化繊維にポリアリーレンスルフィド共重合体(A)をより含浸させやすい。1mm以下がより好ましく、0.7mm以下がさらに好ましく、0.6mm以下がよりいっそう好ましい。
【0142】
また、本発明の第一の態様における、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の強化繊維の体積含有率は20~70体積%が好ましい。言い換えると、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材全体(100体積%)に対して、強化繊維を20~70体積%(20体積%以上70体積%以下)含有することが好ましい。強化繊維を20体積%以上含有することにより、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を用いて得られる成形品の強度をより向上させることができる。30体積%以上がより好ましく、40体積%以上がさらに好ましい。一方、強化繊維を70体積%以下含有することにより、強化繊維にポリアリーレンスルフィド共重合体(A)をより含浸させやすい。60体積%以下がより好ましく、55体積%以下がさらに好ましい。体積含有率は強化繊維とポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の投入量を調整することにより、所望の範囲に調整することが可能である。
【0143】
繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材における強化繊維の体積含有率(Vf)は、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の質量W0を測定したのち、250℃の1-クロロナフタレンに浸漬し、ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)を溶出させた後の残渣として残った強化繊維の質量W1を測定し、次式により算出することができる。
Vf(体積%)=(W1/ρf)/{W1/ρf+(W0-W1)/ρr}×100
ρf:強化繊維の密度(g/cm3)
ρr:ポリアリーレンスルフィド共重合体の密度(g/cm3)
【0144】
また、本発明の実施形態の繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材は、その用法や目的に応じて、所望の含浸性を選択することができる。例えば、より含浸性を高めたプリプレグや、半含浸のセミプレグ、含浸性の低いファブリックなどが挙げられる。一般的に、含浸性の高い成形材料ほど、短時間の成形で力学特性に優れる成形品が得られるため好ましい。
【0145】
本発明の第二の態様における、不連続繊維が分散した強化繊維基材にポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させる方法としては、例えば、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を押出機により供給して強化繊維基材に含浸させる方法、粉末のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を強化繊維基材の繊維層に分散し溶融して含浸させる方法、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)をフィルム化して強化繊維基材とラミネートし溶融して含浸させる方法、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を溶剤に溶かし溶液の状態で強化繊維基材に含浸させた後に溶剤を揮発させる方法、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を繊維化して不連続繊維との混合糸にする方法、メルトブロー不織布を用いてラミネートする方法などが挙げられる。いずれの方法を用いてもよいが、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を押出機により供給して強化繊維基材に含浸させる方法は、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を加工する必要がないという利点があり、粉末のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を強化繊維基材の繊維層に分散し溶融させる方法は、含浸がしやすいという利点があり、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)をフィルム化して強化繊維基材とラミネートする方法は、比較的品質の良いものが得られるという利点がある。
【0146】
本発明の第二の態様における繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の厚さは、0.1~10mmが好ましい。厚さが0.1mm以上であれば、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を用いて得られる成形品の強度を向上させることができる。1mm以上がより好ましい。一方、厚さが10mm以下であれば、強化繊維にポリアリーレンスルフィド共重合体(A)をより含浸させやすい。7mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましい。
【0147】
また、本発明の第二の態様における繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の体積含有率は20~70体積%が好ましい。言い換えると、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材全体(100体積%)中、不連続繊維を20体積%以上70体積%以下含有することが好ましい。不連続繊維を20体積%以上含有することにより、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を用いて得られる成形品の強度をより向上させることができる。30体積%以上がより好ましい。一方、不連続繊維を70体積%以下含有することにより、不連続繊維にポリアリーレンスルフィド共重合体(A)をより含浸させやすい。60体積%以下がより好ましく、50体積%以下がさらに好ましい。前記体積含有率は、前記した式により算出することができる。
【0148】
本発明の第二の態様における繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を製造するに際し、前記基材を所望の厚みや体積含有率に調整する方法としてはプレス機を用いて加熱加圧する方法が挙げられる。プレス機としては、ポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の含浸に必要な温度、圧力を実現できるものであれば特に制限はなく、上下する平面状のプラテンを有する通常のプレス機や、1対のエンドレススチールベルトが走行する機構を有するいわゆるダブルベルトプレス機を用いることができる。
【0149】
本発明の第一および第二の形態における繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を、任意の構成で1枚以上積層後、必要に応じて熱および/または圧力を付与しながら成形することにより成形品が得られる。
【0150】
熱および/または圧力を付与する方法としては、例えば、任意の構成で積層した繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を型内もしくはプレス板上に設置した後、型もしくはプレス板を閉じて加圧するプレス成形法、任意の構成で積層した成形材料をオートクレーブ内に投入して加圧・加熱するオートクレーブ成形法、任意の構成で積層した成形材料をフィルムなどで包み込み、内部を減圧にして大気圧で加圧しながらオーブン中で加熱するバッギング成形法、任意の構成で積層した繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に張力をかけながらテープを巻き付け、オーブン内で加熱するラッピングテープ法、任意の構成で積層した繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を型内に設置し、同じく型内に設置した中子内に気体や液体などを注入して加圧する内圧成形法等が挙げられる。とりわけ、得られる成形品内のボイドが少なく、外観品位にも優れる成形品が得られることから、金型を用いてプレスする成形方法が好ましく用いられる。
【0151】
プレス成形法としては、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を型内に予め配置しておき、型締めとともに加圧、加熱を行い、次いで型締めを行ったまま、金型の冷却により繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の冷却を行い成形品を得るホットプレス法や、予め繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材をポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の溶融温度以上に、遠赤外線ヒーター、加熱板、高温オーブン、誘電加熱などの加熱装置で加熱し、ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)を溶融・軟化させた状態で、前記成形型の下面となる型の上に配置し、次いで型を閉じて型締めを行い、その後加圧冷却する方法であるスタンピング成形を採用することができる。プレス成形方法については特に制限はないが、成形サイクルを早めて生産性を高める観点からは、スタンピング成形であることが望ましい。本発明の第一および第二の形態における繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材および成形品は、インサート成形、アウトサート成形などの一体化成形や、加熱による矯正処置、熱溶着、振動溶着、超音波溶着などの生産性に優れた接着工法や接着剤を用いた一体化を行うことができ、複合体を得ることができる。
【0152】
本発明の第一および第二の形態における繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材と、熱可塑性樹脂を含む成形品とが少なくとも一部で接合された複合成形品が好ましい。
【0153】
本発明の第一および第二の形態における繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材と一体化される熱可塑性樹脂を含む成形品(成形用基材および成形品)には特に制限はなく、例えば、樹脂材料および成形品、金属材料および成形品、無機材料および成形品などが挙げられる。なかでも、樹脂材料および成形品が、本発明における繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)との接着強度の点で好ましい。
【0154】
本発明の第一および第二の形態における繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材と一体化される成形材料および成形品のマトリックス樹脂は、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材およびその成形品と同種の樹脂であってもよいし、異種の樹脂であってもよい。接着強度をより高めるためには、同種の樹脂であることが好ましい。異種の樹脂である場合は、界面に樹脂層を設けるとより好適である。
【0155】
本発明により得られる繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気的性質並びに機械的性質に優れ、電気・電子部品、音声機器部品、家庭、事務電気製品部品、機械関連部品、光学機器、精密機械関連部品、水廻り部品、自動車・車両関連部品、航空・宇宙関連部品その他の各種用途が例示できる。
【実施例0156】
以下、本発明の方法を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0157】
[ガラス転移点、融点、融解熱および結晶化温度の測定]
ガラス転移点(Tg)、融点(Tm)、融解熱(ΔHm)および結晶化温度(Tmc)は、溶融状態から急冷して作成した非晶サンプル約10~20mgを用い、示差走査熱量計(DSC)により測定した。ガラス転移点は、20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した際に検出されるベースラインシフトの変曲点とした。結晶化温度は、20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した後、340℃で1分間保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した際に検出される結晶化ピーク温度の値とした。融点は、20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した後、340℃で1分間保持し、20℃/分の速度で100℃まで降温した後、100℃で1分間保持し、再度20℃/分の速度で340℃まで昇温した際に検出される融解ピーク温度の値とした。融解熱は、融解ピークから算出される熱量とした。繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材中のポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の融解熱は、融解ピークから算出される熱量を、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材中の連続した強化繊維、または不連続の強化繊維が分散した強化繊維基材を除くポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の重量当たりの熱量に換算することで算出した。
装置:TAインスツルメントTA-Q200
キャリアーガス:窒素
サンプルパージ流量:50mL/分。
【0158】
[分子量測定]
数平均分子量Mnおよび重量平均分子量Mwは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の分子量を測定する場合は、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を250℃の1-クロロナフタレンに浸漬させ、5分間振盪した後にポアサイズ1μmのメンブレンフィルターでろ過し、濾液を回収して分析した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC-7110
カラム名:Shodex UT806M×2
溶離液:1-クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL。
【0159】
[アミノ基量の分析]
ポリアリーレンスルフィド(C)が有するアミノ基量は、320℃での加熱による溶融状態から急冷して作製した非晶フィルムをFT-IR(日本分光(株)製IR-810型赤外分光光度計)測定し、アリーレンスルフィド単位のベンゼン環由来の1901cm-1における吸収強度に対する、アミノ基由来の3382cm-1における吸収強度を比較することによって見積もった。
【0160】
[加熱時の重量減少率の測定]
ポリアリーレンスルフィド(C)の加熱時の重量減少率は、熱重量分析機を用いて下記条件で行った。
装置:パーキンエルマー社製 TGA7
測定雰囲気:窒素気流下
試料仕込み重量:約5mg
測定条件
(a)プログラム温度30℃で1分保持
(b)プログラム温度30℃から340℃まで昇温。この際の昇温速度10℃/分。
上記の条件で測定した320℃時点の重量と30℃時点の重量から、以下の式により重量減少率を求めた。
重量減少率(%)=((30℃時点の重量(mg)-320℃時点の重量(mg))/30℃時点の重量(mg))×100。
【0161】
[ボイド観察による含浸状態の評価]
繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を切断し、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材の厚み方向断面を以下のように観察した。繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材をエポキシ樹脂で包埋したサンプルを用意し、繊維強化熱可塑性樹脂フィラメントの厚み方向断面が良好に観察できるようになるまで、前記サンプルを研磨した。デジタルマイクロスコープ(キーエンス製 VHX-7000)顕微鏡(CCD)で400倍の倍率で撮影した。撮影した断面の正常部とボイド(空隙部)の面積率を測定することで、繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材のボイド率を算出した。ボイド率が3%以下のものを○、3%を超え10%以下のものを△、10%を超えるものを×と判定した。
【0162】
[参考例1]
撹拌機および底栓弁付きのオートクレーブに、47.9%水硫化ナトリウム10.33kg(90.0モル)、97%水酸化ナトリウム4.10kg(99.4モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)20.82kg(210モル)およびイオン交換水5.95kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水11.44kgおよびNMP0.025kgを留出した時点で加熱を終え冷却を開始した。この時点で硫化水素の飛散量は2.2モルであったため、本工程後の系内の無機スルフィド化剤は87.8モルであった。
【0163】
その後、200℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)13.63kg(92.7モル)、4-アミノチオフェノール(4-ATP)1.24kg(9.78モル)、NMP13.88kg(140モル)を加えた後に反応容器を窒素ガス下に密封し、撹拌しながら0.6℃/分の速度で260℃まで昇温し、260℃で120分反応した。
【0164】
反応終了後、直ちにオートクレーブ底栓弁を開放し、内容物を撹拌機付き装置にフラッシュさせ、230℃の撹拌機付き装置内で1.5時間乾固し、PPSと塩類を含む固形物を回収した。
【0165】
得られた回収物およびイオン交換水を撹拌機付きオートクレーブに入れ、75℃で15分洗浄した後、フィルターでろ過する作業を3回行い、ケークを得た。得られたケークおよびイオン交換水30リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、195℃まで昇温した。その後、オートクレーブを冷却し、内容物をフィルターでろ過しケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥した。
【0166】
得られた乾燥ケーク3kgおよびN-メチル-2-ピロリドン(NMP)30kgを撹拌機付きの容器に投入し、30分間撹拌を行った後、フィルターでろ過しケークを得た。得られたケークをイオン交換水30リットルで15分洗浄、ろ過する操作を3回行った後、窒素気流下、120℃で4時間乾燥することで乾燥PPSを得た。
【0167】
得られたPPSは、アミノ基量は650μmol/g、数平均分子量は3,100、重量平均分子量は6,200、分散度は2.0、30℃から320℃まで10℃/分の昇温速度で加熱したときの重量減少率は2.3%であった。
【0168】
[参考例2]
撹拌翼付きの反応容器に、参考例1で得られたPPSとピロメリット酸無水物を、ピロメリット酸無水物が有する酸無水物基量/PPSが有するアミノ基量の比が1.2となるように、フェノール系酸化防止剤として3,9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1―ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(ADEKA製“アデカスタブ”AO80)をPPS100重量部に対して0.5重量部(得られるPPS共重合体100重量部に対して0.47重量部と換算できる)、リン系酸化防止剤として3,9-ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシ)2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファピロ[5.5]ウンデカン(ADEKA製“アデカスタブ”PEP36)をPPS100重量部に対して0.5重量部(得られるPPS共重合体100重量部に対して0.47重量部と換算できる)投入した。300℃に温調して撹拌しながら3分間加熱し、さらに380℃に温調して撹拌しながら6分間加熱した後、室温まで冷却してPPS共重合体を得た。
【0169】
FT-IRスペクトルより、得られたPPS共重合体はフェニレンスルフィド単位を構造単位として含有しており、イミド基が導入されていることを確認した。DSC測定の結果、ガラス転移点は114℃、結晶化温度は206℃、融点は263℃、融解熱は32J/gであった。GPC測定の結果、Mwは48,600、Mnは14,900、Mw/Mnは3.3であった。
【0170】
[参考例3]
撹拌翼付きの反応容器に、参考例1で得られたPPSとピロメリット酸無水物を、ピロメリット酸無水物が有する酸無水物基量/PPSが有するアミノ基量の比が1.25となるように投入した。300℃に温調して撹拌しながら3分間加熱し、さらに380℃に温調して撹拌しながら3分間加熱した後、室温まで冷却してPPS共重合体を得た。
【0171】
FT-IRスペクトルより、得られたPPS共重合体はフェニレンスルフィド単位を構造単位として含有しており、イミド基が導入されていることを確認した。DSC測定の結果、ガラス転移点は113℃、結晶化温度は172℃、融点は259℃、融解熱は21J/gであった。GPC測定の結果、Mwは76,700、Mnは10,300、Mw/Mnは7.5であった。
【0172】
[実施例1]
炭素繊維束(東レ(株)製 T700S-12K)が巻かれたボビンを16本準備し、それぞれボビンから連続的に糸道ガイドを通じて炭素繊維束を送り出した。連続的に送り出された炭素繊維束に、含浸ダイ内において、充填したフィーダーから定量供給された参考例2のPPS共重合体を含浸させた。含浸ダイ内で参考例2のPPS共重合体を含浸した炭素繊維を、引取ロールを用いて含浸ダイのノズルから1m/minの引き抜き速度で連続的に引き抜いた。炭素繊維を引き抜く際の温度は340℃とした。引き抜かれた炭素繊維束は、冷却ロールを通過してPPS共重合体が冷却固化され、巻取機に巻き取られた。ポリアリーレンスルフィド共重合体を含有する炭素繊維束をさらに300℃で30分間プレスすることで、厚み0.2mm、強化繊維の体積含有率47%の繊維強化PPS共重合体複合基材を得た。得られた繊維強化PPS共重合体複合基材の評価結果を表1に示す。なお、PPS共重合体(B)の分子量測定のために繊維強化PPS共重合体複合基材を250℃の1-クロロナフタレンに浸漬させ、5分間振盪した後にポアサイズ1μmのメンブレンフィルターでろ過した際、不溶の樹脂成分は観察されなかった。
【0173】
[実施例2]
プレス温度を340℃に変更した以外は実施例1と同様の条件で実施し、厚み0.2mm、強化繊維の体積含有率47%の繊維強化PPS共重合体複合基材を得た。得られた繊維強化PPS共重合体複合基材の評価結果を表1に示す。なお、PPS共重合体(B)の分子量測定のために繊維強化PPS共重合体複合基材を250℃の1-クロロナフタレンに浸漬させ、5分間振盪した後にポアサイズ1μmのメンブレンフィルターでろ過した際、不溶の樹脂成分は観察されなかった。
【0174】
[比較例1]
用いるポリアリーレンスルフィド共重合体を参考例3のPPS共重合体に変更し、フェノール系酸化防止剤として3,9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1―ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(ADEKA製“アデカスタブ”AO80)をPPS共重合体100重量部に対して0.1重量部、リン系酸化防止剤として3,9-ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシ)2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファピロ[5.5]ウンデカン(ADEKA製“アデカスタブ”PEP36)をPPS共重合体100重量部に対して0.1重量部加えた以外は実施例1と同様の条件で実施し、厚み0.2mm、強化繊維の体積含有率47%の繊維強化PPS共重合体複合基材を得た。得られた繊維強化PPS共重合体複合基材の評価結果を表1に示す。なお、PPS共重合体(B)の分子量測定のために繊維強化PPS共重合体複合基材を250℃の1-クロロナフタレンに浸漬させ、5分間振盪した後にポアサイズ1μmのメンブレンフィルターでろ過した際、一部不溶の樹脂成分がフィルター上に残存した。
【0175】
[比較例2]
プレス温度を340℃に変更した以外は比較例1と同様の条件で実施し、厚み0.2mm、強化繊維の体積含有率47%の繊維強化PPS共重合体複合基材を得た。得られた繊維強化PPS共重合体複合基材の評価結果を表1に示す。なお、PPS共重合体(B)の分子量測定のために繊維強化PPS共重合体複合基材を250℃の1-クロロナフタレンに浸漬させ、5分間振盪した後にポアサイズ1μmのメンブレンフィルターでろ過した際、一部不溶の樹脂成分がフィルター上に残存した。
【0176】
【0177】
実施例1および2に示すように、本発明では、ガラス転移点が95℃以上190℃以下であるポリアリーレンスルフィド共重合体を含浸させ、ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材に含まれるポリアリーレンスルフィド共重合体の重量平均分子量が50,000以上100,000以下であり、結晶化温度が165℃以上である繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を得ることができる。また、重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が小さく、融解熱すなわち結晶化度が高い特徴を有する。優れた熱特性、小さい分散度は、酸化防止剤の寄与があるためと推測している。参考例2のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の重量平均分子量と実施例1および2のポリアリーレンスルフィド共重合体(B)の重量平均分子量の比較から、実施例1および2では比較的低粘度のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させ、高分子量のポリアリーレンスルフィド共重合体(B)を含有する繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材が得られていることがわかる。比較的低粘度のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させることで、含浸状態が良好な繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材が得られている。
【0178】
比較例1および2に示すように、重量平均分子量が70,000を超えるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を含浸させた場合には、より高分子量のポリアリーレンスルフィド共重合体を含有する繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材が得られるものの、含浸させるポリアリーレンスルフィド共重合体(A)が高粘度であるため炭素繊維への含浸状態が不十分であった。
【0179】
参考例2のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)と参考例3のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)の比較から、ポリアリーレンスルフィド(C)および化合物(D)を酸化防止剤の存在下で加熱する方が、比較的低粘度のポリアリーレンスルフィド共重合体(A)を得ることができ、結晶化温度が高く、重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が小さく、融解熱すなわち結晶化度が高いポリアリーレンスルフィド共重合体(B)を含有する繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を得やすいことがわかる。
【0180】
実施例1および2と、比較例1および2の比較から、いずれも繊維強化ポリアリーレンスルフィド共重合体複合基材を製造する際に酸化防止剤を含有しているが、酸化防止剤の含有量が多い実施例1および2の方が、ポリアリーレンスルフィド共重合体(B)中に250℃の1-クロロナフタレンへの不溶樹脂成分が存在していないことから、副反応による架橋構造や、著しい高分子量化をより抑制できていると考えている。