(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012226
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】プロテアーゼ共発現による組換えタンパク質の製造法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20250117BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20250117BHJP
C12N 15/50 20060101ALN20250117BHJP
C12N 15/57 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P21/02 C
C12N15/50
C12N15/57
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114926
(22)【出願日】2023-07-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】穂谷 恵
(72)【発明者】
【氏名】井上 宗宣
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B064DA16
4B064DA20
4B065AA26X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD39
4B065CA44
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】タンパク質発現系において、組換えタンパク質が含む不要なアミノ酸配列を形質転換体細胞内または分泌された培地内で除去した組換えタンパク質を生産し、かつ不要なアミノ酸配列が除去された組換えタンパク質を抽出・精製する方法を提供すること。
【解決手段】プロテアーゼと、当該プロテアーゼの消化配列を含むアミノ酸配列からなるタンパク質を共発現し、形質転換体細胞内または分泌された培地内で消化配列を消化すること、加えて、消化配列が消化された組換えタンパク質を界面活性剤および/またはアルギニンを含む溶液を用いて抽出・精製することにより、前記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアーゼの遺伝子、および当該プロテアーゼが消化可能な配列を含むアミノ酸配列からなるタンパク質の遺伝子が導入された形質転換体。
【請求項2】
プロテアーゼがコロナウイルスSARS-CoV-2のメインプロテアーゼである、請求項1に記載の形質転換体。
【請求項3】
プロテアーゼが以下の少なくとも(a)から(c)のいずれかから選択されるタンパク質である、請求項2に記載の形質転換体。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつプロテアーゼ活性を有するタンパク質;
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつプロテアーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつプロテアーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項4】
形質転換体の宿主が大腸菌(Escherichia coli)である、請求項1から3のいずれか一項に記載の形質転換体。
【請求項5】
タンパク質がストレプトアビジンまたはイクイナトキシンのアミノ酸配列のいずれか一方を少なくとも含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の形質転換体。
【請求項6】
タンパク質が以下の少なくとも(d)から(f)のいずれかから選択されるタンパク質である、請求項1から3のいずれか1項に記載の形質転換体。
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列を少なくとも含む、タンパク質;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつビオチン結合性を有するタンパク質;
(f)配列番号2に記載のアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつビオチン結合性を有するタンパク質。
【請求項7】
タンパク質が以下の少なくとも(g)から(i)のいずれかから選択されるタンパク質である、請求項1から3のいずれか1項に記載の形質転換体。
(g)配列番号3に記載のアミノ酸配列を少なくとも含む、タンパク質;
(h)配列番号3に記載のアミノ酸配列を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつスフィンゴミエリン結合性を有するタンパク質;
(i)配列番号3に記載のアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつスフィンゴミエリン結合性を有するタンパク質。
【請求項8】
少なくとも下記(1)~(4)の工程を含むタンパク質製造方法。
(1)請求項1に記載の形質転換体を培養する工程
(2)当該形質転換体細胞内で、導入された遺伝子により生産されたプロテアーゼが導入された遺伝子により生産されたタンパク質を消化する工程
(3)培養物から消化されたタンパク質を抽出する工程
(4)抽出液からタンパク質を精製する工程
【請求項9】
抽出および/または精製工程で界面活性剤またはアルギニンのいずれか一方を使用する請求項8に記載のタンパク質製造方法。
【請求項10】
界面活性剤がポリソルベートである請求項9に記載のタンパク質製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテアーゼ消化配列を有した融合タンパク質とプロテアーゼを共発現可能な形質転換体、および共発現させる方法とプロテアーゼにより消化されたタンパク質を抽出、精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は有用な高分子であり、医薬・化成品・食品産業への利用のため、様々な組換えタンパク質が生産されている。組換えタンパク質の生産において、費用と時間を節約できる点で宿主細胞は大腸菌が好ましい。しかし大腸菌による発現系において、タンパク質の種類によっては発現タンパク質の多くが不溶性の封入体となり、本来の構造を維持した組換えタンパク質を得られないことがある。組換えタンパク質の本来の構造を維持し、可溶性の組換えタンパク質を得る目的で、可溶性が高いタンパク質(可溶化タグ)と融合する方法が知られている。例えば可溶性タグとしては、SUMO(small ubiquitin-like modifier)、GST(glutathione S-transferase)、MBP(maltose binding protein)等が広く利用されているほか、大腸菌で高発現性のタンパク質である抗体結合性タンパク質Protein AのBドメインの変異型であるZドメインタンパク質も利用することもできる(特許文献1)。可溶化タグを用いた方法は、目的の組換えタンパク質を得るためには発現後に可溶化タグを除去する工程が必要とし、一般的には可溶化タグと目的タンパク質の間にプロテアーゼ消化配列を配し、発現・抽出後にプロテアーゼによる消化反応による可溶化タグの切り離しが行われる。しかし、消化反応やその後の精製工程など、操作が煩雑である点が課題であった。
【0003】
可溶化タグと融合したタンパク質をプロテアーゼと共発現し、細胞内で可溶化タグを切り離して発現する手法は、可溶化タグとしてSUMOを融合したキイロショウジョウバエの発生過程やシグナル伝達に関与するタンパク質Groucho Qと、Ulp1プロテアーゼの共発現で報告されている(非特許文献1)。プロテアーゼにより細胞内で消化された目的タンパク質が得られたものの、本手法が他のタンパク質に応用された報告はない。
【0004】
メインプロテアーゼはコロナウイルスがもつプロテアーゼであり、特にSARS-CoV-2由来のプロテアーゼは抗ウイルス薬のターゲットとして広く研究されている。SARS-CoV-2由来のメインプロテアーゼはGSTなどの可溶化タグ融合により大腸菌で発現し、可溶化タグとプロテアーゼ配列間に消化配列を配することで、細胞内で可溶化タグを消化した状態で発現することが知られている(非特許文献2)。メインプロテアーゼの消化配列は、Leu、Met,PheまたはValのいずれか一残基の次にGln、その次にSer、Ala、GlyまたはAsnのいずれか1残基が続く3残基で、GlnのC末端側を消化することが知られている(非特許文献2)。しかし、コロナウイルス由来のメインプロテアーゼを、メインプロテアーゼ以外の可溶化タグ融合タンパク質と共発現することにより、可溶化タグが培養中に除去された目的タンパク質を可溶化発現させた報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Protein Expr. Purif.,2011年,76巻, 65-71頁
【非特許文献2】Nat. Commun.,2020年,11巻,5877頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、タンパク質発現系において、タンパク質発現させる培養の工程で組換えタンパク質から不要なアミノ酸配列を除去し、かつ不要なアミノ酸配列が除去された組換えタンパク質を回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、プロテアーゼの遺伝子と、当該プロテアーゼの消化配列を含むアミノ酸配列からなるタンパク質の遺伝子が導入された形質転換体を培養することにより、導入された遺伝子により生産された組換えタンパク質内の消化配列が培養の工程で消化され、かつ消化された組換えタンパク質の可溶性を維持しながら回収・精製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の[1]から[10]に記載した発明を包含するものである。
[1]
プロテアーゼの遺伝子、および当該プロテアーゼが消化可能な配列を含むアミノ酸配列からなるタンパク質の遺伝子が導入された形質転換体。
[2]
プロテアーゼがコロナウイルスのメインプロテアーゼである、前記[1]に記載の形質転換体。
[3]
プロテアーゼが以下の少なくとも(a)から(c)のいずれかから選択されるタンパク質である、前記[2]に記載の形質転換体。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつプロテアーゼ活性を有するタンパク質;
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつプロテアーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつプロテアーゼ活性を有するタンパク質。
[4]
形質転換体の宿主が大腸菌(Escherichia coli)である、前記[1]から[3]いずれか一項に記載の形質転換体。
[5]
タンパク質がストレプトアビジンまたはイクイナトキシンのアミノ酸配列のいずれか一方を少なくとも含む、前記[1]から[3]のいずれか1項に記載の形質転換体。
[6]
タンパク質が以下の少なくとも(d)から(f)のいずれかから選択されるタンパク質である、前記[1]から[2]のいずれか1項に記載の形質転換体。
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列を少なくとも含む、タンパク質;
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつビオチン結合性を有するタンパク質;
(f)配列番号2に記載のアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつビオチン結合性を有するタンパク質。
[7]
タンパク質が以下の少なくとも(g)から(i)のいずれかから選択されるタンパク質である、前記[1]から[3]のいずれか1項に記載の形質転換体。
(g)配列番号3に記載のアミノ酸配列を少なくとも含む、タンパク質;
(h)配列番号3に記載のアミノ酸配列を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつスフィンゴミエリン結合性を有するタンパク質;
(i)配列番号3に記載のアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつスフィンゴミエリン結合性を有するタンパク質。
[8]
少なくとも下記1~4の工程を含むタンパク質製造方法。
1)請求項1に記載の形質転換体を培養する工程
2)当該形質転換体細胞内で、導入された遺伝子により生産されたプロテアーゼが導入された遺伝子により生産されたタンパク質を消化する工程
3)培養物から消化された組換えタンパク質を抽出する工程
4)抽出液からタンパク質を精製する工程
[9]
抽出および/または精製工程で界面活性剤またはアルギニンのいずれか一方を使用する前記[8]に記載のタンパク質製造方法。
[10]
界面活性剤がポリソルベートである前記[9]に記載のタンパク質回収工程。
【0010】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0011】
本発明の形質転換体は、プロテアーゼの遺伝子と、当該プロテアーゼが消化可能な配列を含むアミノ酸配列からなるタンパク質の遺伝子の両方が導入されたことを特徴とする。
【0012】
本発明プロテアーゼは、形質転換体細胞内または分泌された培地内でプロテアーゼ活性を有する限りN末端側またはC末端側に酵素活性を有しないポリペプチドや分子が付加されていてもよく、特に制限はないが、形質転換体の生育の妨げにならないよう、消化配列の特異性が高い、および/または短時間で失活するものが好ましい。一例として、コロナウイルスSARS-CoV-2由来のメインプロテアーゼのアミノ酸配列である配列番号1で示される306アミノ酸残基(Uniprot Accession number:P0DTD1,3264-3569番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチド)の他、TEVプロテアーゼ(Tobacco Etch Virus Protease)やUlp1プロテアーゼが挙げられる。中でも、コロナウイルスSARS-CoV-2由来のメインプロテアーゼは、形質転換した大腸菌細胞内でプロテアーゼで発現し、さらに短時間で失活するため形質転換体の生育への影響が小さい点で、プロテアーゼの好ましい態様といえる。
【0013】
プロテアーゼが消化可能な配列は、プロテアーゼの種類により異なり、SARS-CoV-2由来のメインプロテアーゼの場合はLeu/Met/Phe/Val-Gln-Ser/Ala/Gly/Asn(GlnのC末端側で切断)、TEVプロテアーゼ ではGlu-Asn-Leu-Tyr-Phe-Gln-Gly/Ser(GlnのC末端側で切断)、Ulp1プロテアーゼではSUMO配列C末端のグリシンモチーフである。
【0014】
プロテアーゼが消化可能な配列を含むアミノ酸配列からなるタンパク質は、前述のプロテアーゼ消化配列が分子表面に露出し、プロテアーゼが結合・消化が可能な構造であれよく、例えば可溶化発現性が高く可溶化タグとして使用されるMBP(maltose binding protein)、GST(glutathione S-transferase)、SUMO(small ubiquitin-like modifier)、Trx(Thioredoxin)、NusA(N-utilization substance)またはStaphylococcus aureus由来Protein Aのドメインの変異型であるZドメインと、可溶化タグにより可溶化発現量が改善される組換えタンパク質の融合タンパク質のドメイン間にプロテアーゼが消化可能な配列を配したタンパク質が挙げられる。可溶化タグにより可溶化発現が改善される組換えタンパク質の一例として、配列番号2で示されるビオチン結合タンパク質である単量体ストレプトアビジン(mSA、Protein Data Bank No.6ZYT、17-135番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチド)の25番目のセリンをヒスチジンに置換(S25H、変異部位は6ZYTのポリヒスチジンから数えて25番目のセリン)した変異型配列が挙げられる。mSAおよびその変異型配列は単独では大腸菌の細胞内で可溶化発現しないが、SUMOなどの可溶化タグを融合することにより可溶化発現することが知られている(Appl. Microbiol. Biotechnol.,2014年,98巻,6285-6295頁)。なおS25H変異導入によりビオチンとの親和性が野生型より高くなることが知られている(Proteins,2013年,81巻,1621-1633頁)。また、配列番号3で示されるウメボシイソギンチャク(Actinia equina)由来の毒性タンパク質のイクイナトキシンII(EqtII)配列(UniProt Accession number:P61914の36番目から214番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチド)に無毒性2重変異(V8C/K69C、8番目のバリンと69番目のリジンをシステインに置換)を導入したものは、単独では大腸菌の細胞内での可溶化発現量は少ないが、Zドメインなどの可溶化タグとの融合型組換えタンパク質により生産性が改善される(特開2023-87936)。このほか、可溶化タグにより可溶化発現が改善される組換えタンパク質としては、ビオチン結合性タンパク質の単量体ストレプトアビジン、スフィンゴミエリン結合性タンパク質のライセニン、サイトカイン、ケモカイン、α-アミラーゼ、インターロイキンが挙げられる。また、プロテアーゼが消化可能な配列を含むアミノ酸配列からなるタンパク質は、プロテアーゼの消化の妨げにならない限り複数のタンパク質の融合型またはポリペプチドが付加されていてもよく、一例として、SpyTag配列と結合性をもつタンパク質タグSpyCatcher(Protein Data Bank No.4MLIのChain AおよびB、116アミノ酸残基)、異なるタンパク質を連結するときのスペーサーとして使われるGSリンカー(グリシン4残基とセリン1残基の繰り返しからなるリンカー)、タンパク質の分離精製用タグであるポリヒスチジン、FLAGタグ、c-mycタグが挙げられる。
【0015】
本発明においてプロテアーゼ、ストレプトアビジンおよびイクイナトキシンとは、天然に存在する配列に限らず、各タンパク質の機能性(プロテアーゼのプロテアーゼ活性、ストレプトアビジンのビオチン結合性、イクイナトキシンのスフィンゴミエリン結合性)を有する限り、前記タンパク質においてアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上有してもよい(以下、「変異体」とも表記する)。なお前記アミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加は、当業者に周知の遺伝子工学的な方法を用いて行なうことができる。
【0016】
変異体の具体例として、以下の(i)または(ii)に示す、機能性を有したタンパク質が挙げられる。
(i)配列番号1から3に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基のいずれか1つを少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有したタンパク質;
(ii)配列番号1から3に記載のアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸残基をいずれか1つを少なくとも含むタンパク質。
【0017】
前記(i)において「1もしくは数個」とは、タンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、例えば、1個以上20個以下、1個以上10個以下、1個以上5個以下、1個以上3個以下のいずれかを意味する。また前記(i)に記載の「置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上」には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いなどに基づく、天然にも生じ得る変異(mutantまたはvariant)も含まれる。
【0018】
(ii)におけるアミノ酸配列の相同性は70%以上であればよく、それ以上の相同性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上)を有してもよい。なお本発明において相同性とは、類似性(similarity)または同一性(identity)を意味してよく、特に同一性を意味してもよい。アミノ酸配列間の同一性とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。アミノ酸配列間の類似性とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率と側鎖の性質が類似したアミノ酸残基の比率の合計を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。アミノ酸配列の相同性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)やFASTA等のアラインメントプログラム(Alignment program)を利用して決定できる。
【0019】
本発明の形質転換体の作製は、当業者が通常用いる方法でよく、原核細胞や真核細胞の形質転換に通常用いるバクテリオファージ、コスミドまたはプラスミド等を基にしたベクター中の適切な位置に前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入して当該タンパク質の発現ベクターを作製後、当該ベクターを用いて宿主を形質転換し得ればよい。前記宿主はプロテアーゼおよび当該プロテアーゼが消化可能な配列を含むアミノ酸配列からなるタンパク質が酵素活性および正しい構造を保持して発現する限り特に制限はないが、遺伝子工学に関する実験が容易な点で大腸菌(Escherichia coli)が好ましい。好ましい大腸菌の一例として、大腸菌JM109株、大腸菌BL21(DE3)株、大腸菌NiCo21(DE3)株、大腸菌W3110株が挙げられる。また、前記発現ベクターを用いて宿主を形質転換するには、当業者が通常用いる方法で行なえばよい。
【0020】
前述したプロテアーゼおよび当該プロテアーゼが消化可能な配列を含むアミノ酸配列からなるタンパク質の培養および消化方法、組換えタンパク質の抽出および精製する方法に特に制限はなく、当業者が通常用いる方法で行なえばよい。具体的には、プロテアーゼおよび当該プロテアーゼが消化可能な配列を含むアミノ酸配列からなるタンパク質の培養および消化方法に関しては、プロテアーゼおよび当該プロテアーゼが消化可能な配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現プラスミドで宿主を形質転換し得られた形質転換体を用いて、プロテアーゼおよびプロテアーゼが消化可能な配列を含む発現タンパク質が酵素活性および正しい構造に折りたたまれるような適切な培地、温度、pH、時間、IPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)などの発現誘導物質の種類・濃度下で培養することにより行えばよい。培地は宿主の種類や分泌発現の場合はプロテアーゼの至適pHや塩濃度など反応に影響する条件を考慮しつつ、組換えタンパク質の収率を確保するため、形質転換体の増殖が円滑に行われる培地を選択する必要がある。一例として宿主が大腸菌の場合は、当業者が組換えタンパク質の製造に使用する一般的な培地として、LB培地、2YT培地、TB培地が挙げられる。発現培養時の温度とpHは、宿主の生育および発現したプロテアーゼが消化反応に適した条件であり、消化対象のタンパク質については少なくとも消化を阻害しない構造を保持する必要であり、一例として宿主が大腸菌の場合でプロテアーゼがコロナウイルスのメインプロテアーゼの場合、当業者が組換えタンパク質の製造に使用する一般的な温度とpHとして、培養温度としては15℃から40℃、pHは6から9が挙げられる。培養時間については、生産するタンパク質の収率確保のため形質転換体の菌数を確保するため、当業者が組換えタンパク質の製造に使用する一般的な培養時間として、4時間から48時間が挙げられる。プロテアーゼおよび消化対象の組換えタンパク質の発現場所は、プロテアーゼによる消化を促進する点で、発現したプロテアーゼおよび消化対象のタンパク質が同じ場所に存在し、かつその場所がプロテアーゼの活性を保持し、消化対象のタンパク質については少なくとも消化を阻害しない構造を有する必要である。当業者が組換えタンパク質の製造に使用する一般的な発現場所としては細胞内発現と培地中への分泌発現が挙げられるが、プロテアーゼと消化対象のタンパク質が高濃度で存在し、消化効率が促進される点で細胞内発現が好ましい。また、プロテアーゼによる消化効率を上げるため、プロテアーゼの発現量を形質転換体の生育に影響しない程度に高める必要がある。発現量を上げる方法として、使用する発現ベクターの細胞内コピー数やプロモーターの種類、ベクターへ導入する遺伝子導入数の変更が挙げられる。一例として、大腸菌宿主を形質転換体とし、プロテアーゼとしてコロナウイルスSARS-CoV-2のメインプロテアーゼを使用した場合は、細胞内コピー数が1細胞当たり20-40個のT7プロモーターの発現ベクターにプロテアーゼの遺伝子を1から3つ導入した発現系が、消化対象のタンパク質の消化効率が高く、かつ形質転換体の顕著な生育阻害は見られない点で好ましい。
【0021】
培養工程中にプロテアーゼによりアミノ酸配列内の消化可能な配列で消化されたタンパク質を抽出・精製する方法は、培養物(培養された形質転換体自体や分泌物のほか、培養に用いた培地等も含まれる)を遠心分離して得られる形質転換体を適切な緩衝液で懸濁し、薬剤や超音波により細胞を破砕後、遠心分離による破砕残渣の除去により目的タンパク質を含む可溶性タンパク質抽出液を得る工程、得られた可溶性タンパク質抽出液をアフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、などの液体クロマトグラフィーにより精製する工程により、形質転換体細胞内または分泌された培地内でアミノ酸配列内の消化可能な配列で消化された目的タンパク質を製造すればよい。ただし、タンパク質の種類によっては、プロテアーゼにより消化された後のタンパク質構造が不安定で、精製工程の途中で立体構造が崩れ、不溶性化する場合がある。これを防ぐため、目的タンパク質を含む可溶性タンパク質抽出液以降の工程に界面活性剤および/またはアルギニンを添加してもよい。界面活性剤はタンパク質の変性を最小限にしながら凝集を防ぐ効果を有するものとして、ポリソルベートやデオキシコール酸、コール酸が挙げられる。特に変性作用が強くない点でポリソルベートが好ましく、具体的には、タンパク質溶液に一般的に使用され、入手が容易である点でTween20またはTween80が好ましく、タンパク質の凝集と非特異的吸着を防ぐ効果が期待される点で、濃度は0.01%以上0.1%以下が好ましい。アルギニンも凝集および非特異的吸着の防止が期待され、その効果を発揮し、かつニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる精製工程を阻害しない点で、濃度は10mMから200mMが好ましい。アルギニンの他にタンパク質の溶液中での安定化を促進する添加物として、ヒスチジン、リジン、グリシン、プロリン、グリセロール、ショ糖、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の形質転換体は、プロテアーゼと当該プロテアーゼが消化可能な配列を含むアミノ酸配列からなるタンパク質を共発現することにより、培養工程で発現後に消化配列を消化し、アミノ酸配列の一部を除去した組換えタンパク質を生産することができ、かつ消化された目的タンパク質の構造を維持しながら回収する工程により、発現後の不要なアミノ酸配列の消化・除去工程を省略することができ、迅速に目的タンパク質を効率的に生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】作製例1から4で作製した、発現ベクターが生産可能なポリペプチドの模式図。
【
図2】実施例1および2ならびに比較例1および2の形質転換体を用いた発現培養で得られた可溶性画分およびニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィー精製液のSDS-PAGEの結果を示す図。
【
図3】実施例3および5の形質転換体を用いた発現培養で得られた可溶性画分およびニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィー精製液のSDS-PAGEの結果を示す図。
【
図4】実施例3から5の形質転換体を用いた発現培養で得られたニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィー精製液の濃縮精製液のSDS-PAGEの結果を示す図。
【
図5】実施例6および比較例3の形質転換体を用いた発現培養で得られたニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィー製液のSDS-PAGEの結果を示す図。
【実施例0024】
以下、作製例、実施例、比較例および実験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
作製例1 メインプロテアーゼ発現ベクターの作製
コロナウイルスSARS-CoV-2由来のメインプロテアーゼを発現ベクター1分子あたり1コピーまたは2コピー含み、大腸菌で発現可能な発現ベクターを作製した。
【0025】
<1>SARS-CoV-2由来のメインプロテアーゼ(3CL)配列(Uniprot Accession number:P0DTD1, 3264-3569 番目のアミノ酸配列, 306アミノ酸残基)(配列番号1)のN末端側にStaphylococcus aureus由来Protein AのZドメイン(Zspa、GenBank Accession No.AL052730の4番目から61番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチド)を付加し、両配列間にメインプロテアーゼの消化配列Phe-Gln-Ser(FQS)を配したポリペプチドZ-3CL(配列番号4)をコードするポリヌクレオチド(配列番号5)を、pCDFDuet-1(+)(メルク製)のマルチクローニングサイト2(pCDFDuet-1の2つのマルチクローニングサイトのうち、下流側のマルチクローニングサイト)に挿入することで、メインプロテアーゼを含む組換えタンパク質Z-3CL(配列番号4)をコードするポリヌクレオチドを発現ベクター1分子あたり1コピー含み、大腸菌で発現可能なベクターpCDFDuet_Z-3CLを作製した。なお、メインプロテアーゼにより自身のポリペプチドZ-3CLが消化されると、Zドメインが除去されたメインプロテアーゼ配列dig3CL(配列番号6)が生成する。
【0026】
<2><1>で作製した発現ベクターpCDFDuet_Z-3CLのマルチクローニングサイト1(pCDFDuet-1の2つのマルチクローニングサイトのうち、上流側のマルチクローニングサイト)に、<1>と同様にポリペプチドZ-3CL(配列番号4)をコードするポリヌクレオチド(配列番号5)を挿入することで、組換えタンパク質Z-3CL(配列番号4)をコードするポリヌクレオチドを発現ベクター1分子あたり2コピー含み、大腸菌で発現可能なベクターpCDFDuet_2(Z-3CL)を作製した。なお、当該ベクターで挿入したポリヌクレオチド(配列番号5)は、<1>で挿入したポリヌクレオチド(配列番号5)と若干異なるが、コードするアミノ酸配列は同じである。なお、メインプロテアーゼにより自身のポリペプチドZ-3CLが消化されると、<1>と同様にZドメインが除去されたメインプロテアーゼ配列dig3CL(配列番号6)が生成する。
【0027】
作製した発現ベクターの詳細を表1および
図1に示した。
【0028】
【0029】
※1:「No.」は
図1、表2と対応する。
※2:メインプロテアーゼの消化配列FQSで消化される前後のタンパク質配列を示した。消化後の配列は、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーで精製される可能性があるポリヒスチジン配列を含む配列を示した(メインプロテアーゼを除く、※3参照)。
※3:AAはアミノ酸配列、DNAはヌクレオチド配列を示す。
※4:メインプロテアーゼのZ-3CL配列はポリヒスチジン配列を含まれないため、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる精製液に含まれない。
【0030】
作製例2 可溶性タグ融合単量体ストレプトアビジン(単量体ストレプトアビジンのC末端にポリヒスチジン配列を付与)発現ベクターの作製
単量体ストレプトアビジンのビオチンとの結合親和性改良型である変異型(mSAmut)配列(配列番号1)のN末端側に、可溶化タグSUMOまたはZドメインを融合し、可溶化タグとmSAmut配列の間にメインプロテアーゼ消化配列を配し、さらにC末端側にポリヒスチジン配列を付与した組換えタンパク質を、大腸菌で発現可能な発現ベクターを作製した。
【0031】
単量体ストレプトアビジン配列(PDB:6ZYT、17-135番目までのアミノ酸配列からなるポリペプチド)の25番目のセリンをヒスチジンに置換した変異型(mSAmut)配列(配列番号2)のN末端側に可溶化タグタンパク質のSUMO、またはZドメイン(SpAZ、GenBank Accession No.AL052730の4番目から61番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチド)を融合し、両配列間にメインプロテアーゼの消化配列FQSを配し、さらにmSAmut配列のC末端にポリヒスチジン配列を付与したポリヌクレオチドを作製し、pET28a(+)(メルク製)のマルチクローニングサイトに挿入することで、mSAmutを含む組換えタンパク質を大腸菌で発現可能なベクターを作製した。作製した発現ベクターの詳細を作製例1の表1および
図1に示した。
【0032】
作製した発現ベクターは、可溶化タグとしてSUMOを使用した発現ベクターをpET_SUMO-mSAmut-6Hとし、このベクターは組換えタンパク質SUMO-mSAmut―6H(配列番号7)を発現可能であり、その配列をコードするポリヌクレオチド(配列番号8)を含む。発現する組換えタンパク質はメインプロテアーゼにより消化されると、SUMOが除去された、ポリヒスチジン配列を含む組換えタンパク質mSAmut―6H(配列番号9)が生成する。
【0033】
可溶化タグとしてZドメインを使用したものをpET_Z-mSAmut-6Hとし、このベクターは組換えタンパク質Z-mSAmut―6H(配列番号10)を発現可能であり、その配列をコードするポリヌクレオチド(配列番号11)を含む。発現する組換えタンパク質はメインプロテアーゼにより消化されると、Zドメインが除去された、ポリヒスチジン配列を含む組換えタンパク質mSAmut―6H(配列番号9)が生成する。
作製例3 可溶性タグ融合単量体ストレプトアビジン(単量体ストレプトアビジンのN末端にポリヒスチジン配列を付与)発現ベクターの作製
単量体ストレプトアビジン配列mSAmutのN末端側に、可溶化タグSUMOまたはZドメインを融合し、可溶化タグとmSAmut配列の間にメインプロテアーゼ消化配列を配し、さらに消化配列のC末端側(mSAmut配列のN末端側)にポリヒスチジン配列を付与した組換えタンパク質を、大腸菌で発現可能な発現ベクターを作製した。作製した発現ベクターの詳細を作製例1の表1および
図1に示した。
【0034】
mSAmut配列(配列番号2)のN末端側に可溶化タグタンパク質のSUMOまたはZドメインを融合し、両配列間にメインプロテアーゼの消化配列FQSを配し、さらにmSAmut配列のN末端にポリヒスチジン配列を付与したポリヌクレオチドを作製し、pET28a(+)(メルク製)のマルチクローニングサイトに挿入することで、mSAmutを含む組換えタンパク質を大腸菌で発現可能なベクターを作製した。
【0035】
作製した発現ベクターは、可溶化タグとしてSUMOを使用した発現ベクターをpET_SUMO-6H-mSAmutとし、このベクターは組換えタンパク質SUMO-6H-mSAmut(配列番号12)を発現可能であり、その配列をコードするポリヌクレオチド(配列番号13)を含む。発現する組換えタンパク質はメインプロテアーゼにより消化されると、SUMOが除去された、ポリヒスチジン配列を含む組換えタンパク質6H-mSAmut(配列番号14)が生成する。
【0036】
可溶化タグとしてZドメインを使用したものをpET_Z-6H-mSAmutとし、このベクターは組換えタンパク質Z-6H-mSAmut(配列番号15)を発現可能であり、その配列をコードするポリヌクレオチド(配列番号16)を含む。発現する組換えタンパク質はメインプロテアーゼにより消化されると、Zドメインが除去された、ポリヒスチジン配列を含む組換えタンパク質6H―mSAmut(配列番号14)が生成する。
作製例4 可溶性タグ融合イクイナトキシンとメインプロテアーゼの共発現ベクターの作製
コロナウイルスSARS-CoV-2由来のメインプロテアーゼと、ZドメインをN末端側に融合したイクイナトキシンをそれぞれ大腸菌で発現可能な共発現ベクターを作製した。作製した発現ベクターの詳細を作製例1の表1および
図1に示した。
【0037】
<1>SARS-CoV-2由来のメインプロテアーゼ(3CL)配列のアミノ酸配列は、作製例1と同様にN末端側にZドメインを付加し、両配列間にメインプロテアーゼの消化配列FQSを配したポリペプチドZ-3CL(配列番号4)をコードするポリヌクレオチド(配列番号5)を用い、pETDuet-1(メルク製)のマルチクローニングサイト2(pETDuet-1の2つのマルチクローニングサイトのうち、下流側のマルチクローニングサイト)に挿入することで、pETDuet_Z-3CLを作製した。
【0038】
pETDuet_Z-3CLのマルチクローニングサイト1(pETDuet-1の2つのマルチクローニングサイトのうち、上流側のマルチクローニングサイト)には、以下のZドメイン、無毒性変異型イクイナトキシンII(EqtII)、タンパク質タグSpyCatcher(SpyC)配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を挿入した。ポリペプチド配列Z-EqtIImut-SpyC-6H(配列番号17)は、EqtII配列(UniProt Accession number:P61914、36-214番目のアミノ酸配列、の36番目から214番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチド)の8番目のバリンおよび69番目のリジンをシステインに置換した無毒性変異型(EqtIImut)配列のN末端側にZドメインを付加し、その両配列間にメインプロテアーゼの消化配列FQSを配し,さらにそのC末端側にSpyC配列(Protein Data Bank No.4MLIのChain AおよびB、116アミノ酸残基)を融合し、全融合タンパク質のC末端側にポリヒスチジン配列を付与したアミノ酸配列であり、それをコードするポリヌクレオチドが配列番号18に示される配列である。発現する組換えタンパク質はメインプロテアーゼにより消化されると、Zドメインが除去された、ポリヒスチジン配列を含む組換えタンパク質EqtIImut-SpyC-6H(配列番号19)が生成する。
【0039】
<2>コントロールとして、ポリペプチドZ-EqtIImut-SpyC-6Hを生産可能で、かつメインプロテアーゼを生産しない発現ベクターを、pET28a(+)(メルク製)のマルチクローニングサイトにポリペプチドZ-EqtIImut-SpyC-6H(配列番号17)をコードするポリヌクレオチド(配列番号18)を挿入することにより作製し、pET_Z-EqtIImut-SpyC-6Hとした。発現する組換えタンパク質は、別の発現ベクターによりメインプロテアーゼを共発現しない限り、メインプロテアーゼにより消化されることはなく、Zドメインが融合された組換えタンパク質Z-EqtIImut-SpyC-6H(配列番号17)のみを生成する。
作製例5 可溶性タグ融合単量体ストレプトアビジンとメインプロテアーゼの共発現
作製例1<1>で作製した、メインプロテアーゼを含む組換えタンパク質Z-3CLをコードするポリヌクレオチドを発現ベクター1分子あたり1コピー含む発現ベクターpCDFDuet_Z-3CLと、作製例2で作製したC末端にポリヒスチジン配列を付与した可溶性タグ融合単量体ストレプトアビジン発現ベクターの両方が大腸菌細胞内に導入された共形質転換体を作製し、共発現を行った。
【0040】
<1>作製例1<1>で作製された発現ベクターpCDFDuet_Z-3CLと、作製例2で作製した発現ベクターpET_SUMO-mSAmut-6HまたはpET_Z-mSAmut-6Hのいずれか1つを用いて、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、30μg/mLのカナマイシンおよび50μg/mLのストレプトマイシンを添加したLB寒天培地により選択することにより、組換え大腸菌(共形質転換体)EC_Z-3CL+SUMO-mSAmut-6H(実施例1)およびEC_Z-3CL+Z_mSAmut-6H(実施例2)を得た。作製した共形質転換体の詳細を表2に示した。
【0041】
【0042】
※1:「発現ベクター」の番号[1]~[8]は
図1、表1と対応する。
【0043】
<2>コントロールとして、可溶性タグ融合単量体ストレプトアビジン発現ベクターのみを形質転換し、30μg/mLのカナマイシンを添加したLB寒天培地で選択した組換え大腸菌(形質転換体)EC_SUMO-mSAmut-6H(比較例1)およびEC_Z-mSAmut-6H(比較例2)を得た。作製した形質転換の詳細を前述の表2に示した。
【0044】
<3>得られた形質転換体をLB液体培地(<1>の共形質転換体は30μg/mLのカナマイシンおよび50μg/mLのストレプトマイシンを含む、<2>の形質転換体は30μg/mLのカナマイシンを含む)に接種し、37℃で一晩(約18時間)振盪することで前培養を行ない、前培養液をTB液体培地(<1>の共形質転換体は30μg/mLのカナマイシンおよび50μg/mLのストレプトマイシンを含む、<2>の形質転換体は30μg/mLのカナマイシンを含む)に接種し、37℃で振盪培養した。培養液の濁度(OD600nm)が凡そ0.6になったところで、培養温度を20℃に切り替え、IPTGを0.1mM添加した後、一晩(約18時間)振盪することで本培養を行い、メインプロテアーゼおよび可溶性タグ融合単量体ストレプトアビジンを共発現させた。
【0045】
<4>本培養液から菌体を遠心分離により回収し、50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)を添加したBugBuster Protein extraction kit(メルク製)に懸濁、室温で10分間穏やかに振盪した後、16,000×gで4℃、20分間遠心分離を行い、上清を可溶性タンパク質抽出液として回収した。
【0046】
<5>可溶性タンパク質抽出液に20mMのアルギニン(pH8.0)、0.05%Tween20を添加し、さらにニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーの一般的なプロトコルに従いレジンへの非特異的吸着を防ぐ目的で5mMイミダゾールと75mM塩化ナトリウムを添加した後、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーに供した。クロマトグラフィーの平衡化、洗浄、溶出用緩衝液は、50mMリン酸ナトリウム緩衝液、150mM塩化ナトリウム、20mMアルギニン、0.05%Tween20と種々の濃度のイミダゾール(平衡化:5mM、洗浄:30mM、溶出:250mM)を添加し、pHを8.0に調整したものを使用した。溶出用緩衝液により回収したタンパク質溶液をアフィニティーカラム精製液とした。
【0047】
<6><4>で得られた可溶性タンパク質抽出液および<5>で得られたアフィニティーカラム精製液をSDS-PAGE(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)に供した。タンパク質溶液の熱処理は、DTTを含むサンプルバッファーにより行った。
【0048】
実施例1および2および比較例1および2のSDS-PAGEの結果を
図2に示した。可溶性タグとしてSUMOを使用したmSAmut配列を含む発現ベクターを導入した形質転換体(比較例1)と、メインプロテアーゼとの共形質転換体(実施例1)のアフィニティーカラム精製液では、それぞれ可溶化タグ融合mSAmutタンパク質SUMO-mSAmut-6H(理論分子量27.8kDa)に相当する分子量のバンドが確認された(レーン2、4、破線矢印)。メインプロテアーゼとの共発現である実施例1では、SUMO-mSAmut-6Hタンパク質のバンドに加えて、SUMO配列とmSamut配列間のプロテアーゼ消化配列で消化されたタンパク質mSAmut-6H(理論分子量14.8kDa)に相当する分子量バンド(レーン4、実線矢印)が確認され、さらにSUMO配列が融合した状態の28kDa付近のバンド強度が、実施例1(レーン4、破線矢印)は比較例1(レーン2、破線矢印)に比べ低いことから、メインプロテアーゼとの共発現により、組換えタンパク質SUMO-mSAmut-6Hの一部でSUMO配列が除去され、組換えタンパク質mSAmut―6Hが生成したことが示された。
【0049】
可溶化タグとしてZドメインを使用したmSAmut配列を含む発現ベクターを導入した形質転換体(比較例2)およびメインプロテアーゼとの共形質転換体(実施例2)も同様に、可溶化タグ融合mSAmutタンパク質Z-mSAmut-6H(理論分子量23.5kDa)に相当する分子量のバンド(レーン6、8、破線矢印)の他に、共発現系である実施例2ではZドメイン配列が除去されたタンパク質mSAmut-6H(理論分子量14.8kDa)に相当する分子量バンド(レーン8、実線矢印)が確認され、可溶化タグが除去された組換えタンパク質mSAmut―6Hが生成したことが示された。なお、比較例2、実施例2の精製液(レーン6、8)には、SUMO融合型の実施例1(レーン4)のmSAmut-6Hのバンドと同分子量のバンドが見られるが、実施例1および2で得られるmSAmut―6Hは同分子量であることから、実施例1と同一の位置のバンド(レーン8の実線矢印)はSUMO配列が除去されて生じたバンドであり、比較例2および実施例2で見られる低分子側のバンドは、夾雑物によるものと考えられた。
【0050】
以上の結果より、メインプロテアーゼ発現ベクターと可溶化タグとしてZドメインまたはSUMOを使用した可溶性タグ融合単量体ストレプトアビジン発現ベクターの共発現により、可溶化タグが除去された可溶性単量体ストレプトアビジンが得られることが示された。なお、実施例1および2、比較例1および2において、発現培養の生育速度および菌体収量について、顕著な差はみられなかった。
作製例6 可溶性タグ融合単量体ストレプトアビジンと、発現量を増加させたメインプロテアーゼの共発現
作製例1<2>で作製した、メインプロテアーゼを含む組換えタンパク質Z-3CLをコードするポリヌクレオチドを発現ベクター1分子あたり2コピー含む発現ベクターpCDFDuet_2(Z-3CL)と、作製例3で作製したmSAmutのN末端にポリヒスチジン配列を付与した可溶性タグ融合単量体ストレプトアビジン発現ベクターの両方が大腸菌細胞内に導入された共形質転換体を作製し、共発現を行った。作製した共形質転換の詳細を作製例5の表2に示した。
【0051】
<1>作製例1<2>で作製された発現ベクターpCDFDuet_2(Z-3CL)と、作製例3で作製した発現ベクターpET_Z-6H-mSAmutまたはpET_SUMO-6H-mSAmutを用いて、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、30μg/mLのカナマイシンおよび50μg/mLのストレプトマイシンを添加したLB寒天培地により選択することにより、共形質転換体EC_2(Z-3CL)+Z-6H-mSAmut(実施例3)、およびEC_2(Z-3CL)+SUMO_6H-mSAmut(実施例4)を得た。
【0052】
<2>メインプロテアーゼ発現ベクターに含まれる組換えタンパク質Z-3CLをコードするポリヌクレオチドのコピー数とメインプロテアーゼの消化活性の比較として、Zドメインを融合した単量体ストレプトアビジン発現ベクター発現ベクターpET_Z-6H-mSAmutについては、作製例1<1>で作製した組換えタンパク質Z-3CLをコードするポリヌクレオチドを発現ベクター1分子あたり1コピー含む発現ベクターpCDFDuet_Z-3CLとの共形質転換体EC_Z-3CL+Z-6H-mSAmut(実施例5)を作製した。
【0053】
<3><1>および<2>で作製した共形質転換体(実施例3から6)を作製例5<3>に記載と同様な方法で発現培養を行った。
【0054】
<4>作製例5<4>に記載と同様な方法で可溶性タンパク質抽出液を回収した。
【0055】
<5>作製例5<5>に記載と同様な方法でアフィニティーカラム精製液を回収した。得られたアフィニティーカラム精製液は限外ろ過膜(アミコンウルトラ-0.5mL 遠心式フィルター、3Kデバイス、メルク製)により濃縮用緩衝液(50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)、300mM 塩化ナトリウム、20mM アルギニン、0.05%Tween20)に置換し、濃縮精製液とした。
<6>作製例5<6>に記載と同様な方法で<4>で得られた可溶性タンパク質抽出液および/または<5>で得られたアフィニティーカラム精製液、濃縮精製液をSDS-PAGEに供した。実施例3および5の可溶性タンパク質抽出液およびアフィニティーカラム精製液のSDS-PAGEの結果を
図3に、濃縮精製液のSDS-PAGEの結果を
図4に示した。可溶性タグとしてZドメインを融合し、mSAmut配列のN末端側にポリヒスチジン配列を付与したmSAmut配列を含む発現ベクターとメインプロテアーゼ発現ベクターを導入した共形質転換体(実施例3および5)は、ともに可溶化タグ融合mSAmutタンパク質Z-mSAmut-6H(理論分子量24.5kDa)に相当する分子量のバンド(
図3:レーン2、4、
図4:レーン1,2破線矢印)とZドメイン配列とmSAmut配列間のプロテアーゼ消化配列で消化されたタンパク質6H-mSAmut(理論分子量15.7kDa)に相当する分子量バンド(
図3:レーン2、4、
図4:レーン1,2実線矢印)が確認され、ポリヒスチジン配列の位置がmSAmut配列のN末端側にした場合も、C末端側の発現ベクターpET_Z-mSAmut-6Hの場合と同様にメインプロテアーゼ発現ベクターとの共発現系でZドメイン融合mSAmutタンパク質の可溶化発現およびメインプロテアーゼによるZドメイン配列が除去された組換えタンパク質が生成したことが示された。さらに、共発現したメインプロテアーゼ発現ベクターに含まれるメインプロテアーゼ配列をコードするポリヌクレオチドのコピー数が発現ベクター1分子あたり1コピーの発現ベクターpCDFDuet_Z-3CLを含む共形質転換体(実施例5)に比べ、2コピーを含む発現ベクターpCDFDuet_2(Z-3CL)を含む共形質転換体(実施例3)の方が、可溶化タグが融合したバンド(
図3:レーン2、4、
図4:レーン1,2破線矢印)の強度が低くプロテアーゼ消化配列で消化されたタンパク質6H-mSAmut(理論分子量15.7kDa)のバンド(
図3:レーン2、4、
図4:レーン1,2実線矢印)の強度が高いことから、メインプロテアーゼ配列をコードするポリヌクレオチドのコピー数が1コピーより2コピーで消化効率が高かった。なお、抽出液中のメインプロテアーゼに該当するバンドとして、メインプロテアーゼ配列を2コピー導入した実施例3では、Zドメインが消化されたメインプロテアーゼ配列dig3CL(理論分子量34.2kDa)付近にシグナル強度の高いバンドがあり、1コピー導入の実施例3では見られないことから、2コピー導入により1コピーよりも多くのメインプロテーゼが発現した可能性がある。
【0056】
可溶化タグとしてSUMOを融合した場合もZドメインと同様に、メインプロテアーゼ配列をコードするポリヌクレオチドのコピー数が2コピーの発現ベクターと共発現した実施例4で、SUMOが融合した状態の組換えタンパク質SUMO-6H―mSAmutの分子量(理論分子量28.7kDa、配列番号12)に相当するバンド(
図4、レーン3、破線矢印)よりメインプロテアーゼによりSUMO配列が除去された組換えタンパク質バンド6H-mSAmut(理論分子量15.7kDa)に相当するバンド(
図4、レーン3、破線矢印)のバンド強度が高く、消化されたタンパク質の方が多く含まれることが示された。ポリヒスチジン配列の位置は異なるが、メインプロテアーゼ発現ベクターのコピー数が1コピーの発現ベクターと共発現した実施例1(
図2、レーン8)では、SUMO配列が除去された組換えタンパク質(
図2、レーン4、実線矢印)より未消化のSUMO融合型(
図2、レーン4、破線矢印)のバンド強度が高いことから、メインプロテアーゼをコードするヌクレオチド配列のコピー数を1から2に増やすことで、SUMO配列の消化効率が上がったことが示唆された。
【0057】
以上の結果より、メインプロテアーゼ発現ベクターと可溶化タグとしてZドメインまたはSUMOを使用した可溶性タグ融合単量体ストレプトアビジン発現ベクターの共発現において、メインプロテアーゼ発現ベクターが含むメインプロテアーゼをコードするヌクレオチド配列のコピー数を発現ベクター1分子あたり1コピーから2コピーに増やすことで、より効率的に可溶化タグが除去され、得られるタンパク質溶液中の可溶性単量体ストレプトアビジンの割合が高まることが示された。なお、実施例3から6において、発現培養の生育速度および菌体収量について、顕著な差はみられなかった。
作製例7 可溶性タグ融合イクイナトキシンとメインプロテアーゼの共発現
作製例4で作製した、Zドメイン融合イクイナトキシンにさらにタンパク質タグSpyC配列を付与した配列と、メインプロテアーゼをそれぞれコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターと、Zドメイン融合イクイナトキシン―SpyCのヌクレオチド配列のみを含む発現ベクターが大腸菌細胞内に導入された形質転換体をそれぞれ作製し、発現を行った。作製した共形質転換体/形質転換の詳細を作製例5の表2に示した。
【0058】
<1>作製例4<1>で作製した発現ベクターpETDuet_Z-EqtIImut-SpyC-6H/Z-3CLまたは、作製例4<2>で作製した発現ベクターpET_Z-EqtIImut-SpyC-6Hを用いて、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。形質転換体の選択は、発現ベクターpETDuet_Z-EqtIImut-SpyC-6H/Z-3CLで60μg/mLのカルベニイシリンを添加したLB寒天培地により、発現ベクターpET_Z-EqtIImut-SpyC-6Hでは30μg/mLのカナマイシンを添加したLB寒天培地により行い、共形質転換体EC_Z-3CL+Z-EqtIImut-SpyC-6H(実施例6)および形質転換体EC_Z-EqtIImut-SpyC-6H(比較例3)を得た。
【0059】
<2><1>で作製した共形質転換体(実施例6)および形質転換体(比較例3)を作製例5<3>に記載と同様な方法で発現培養を行った。ただし培地中に添加する抗生物質は、共形質転換体EC_Z-3CL+Z-EqtIImut-SpyC-6Hは60μg/mLのカルベニイシリン、形質転換体EC_Z-EqtIImut-SpyC-6Hは30μg/mLのカナマイシンとした。
【0060】
<3>作製例5<4>に記載と同様な方法で可溶性タンパク質抽出液を回収した。
【0061】
<4>作製例5<5>に記載と同様な方法でアフィニティーカラム精製液を回収した。
【0062】
<5>作製例5<6>に記載と同様な方法で<4>で得られたアフィニティーカラム精製液をSDS-PAGEに供した。実施例5および比較例3のSDS-PAGEの結果を
図5に示した。Zドメイン融合イクイナトキシンを含むアミノ酸配列Z-EqtIImut-SpyC-6Hをコードするヌクレオチド配列のみを含む発現ベクターによる形質転換体(比較例3)と、Zドメイン融合イクイナトキシンを含むアミノ酸配列とメインプロテアーゼのヌクレオチド配列の両方を持つ発現ベクターによる形質転換体(実施例6)ではそれぞれZドメインが融合した状態のZ-EqtIImut-SpyC-6H(理論分子量44.3kDa)に相当する分子量のバンドが確認された(レーン1,2、破線矢印)。さらに、当該バンド強度はメインプロテアーゼとの共発現形質転換体(実施例6、レーン2、破線矢印)で低く、Zドメイン配列とEqtII配列間のプロテアーゼ消化配列で消化されたタンパク質EqtIImut-SpyC-6H(理論分子量35.3kDa)に相当する分子量のバンド(レーン2、実線矢印)の強度が高いことから、メインプロテアーゼとの共発現によりZドメイン配列が除去されたタンパク質EqtIImut-SpyC-6Hが生成したことが示された。なお、タンパク質EqtIImut-SpyC-6Hと同分子量のバンドが比較例3でも見られるが、実施例6に比べバンド強度が低く、かつ実施例6のバンドよりやや分子量が小さいことから、夾雑物によるものと考えられた。比較例3および実施例6の両方に見られる30kDa付近のバンドも同様に夾雑物によるものと考えられた。
【0063】
以上の結果より、メインプロテアーゼとZドメイン融合イクイナトキシンにさらにタンパク質タグSpyC配列を付与した配列をそれぞれコードするヌクレオチド配列を含む共発現ベクターによる共発現により、可溶化タグのZドメインが除去されたイクイナトキシンとタンパク質タグSpyC配列からなる可溶性の組換えタンパク質が得られることが示された。なお、実施例6および比較例3において、発現培養の生育速度および菌体収量について、顕著な差はみられなかった。