(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012230
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】ダブルデッキエレベータの群管理制御装置およびダブルデッキエレベータの群管理制御方法
(51)【国際特許分類】
B66B 1/18 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
B66B1/18 D
B66B1/18 P
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114933
(22)【出願日】2023-07-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-08-13
(71)【出願人】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】杉原 俊雄
【テーマコード(参考)】
3F502
【Fターム(参考)】
3F502HA01
3F502HB02
3F502JA72
3F502JA78
(57)【要約】
【課題】 ダブルデッキエレベータの群管理制御において、発生した乗場呼びに対して精度良く乗りかごの割当処理を実行することが可能なダブルデッキエレベータの群管理制御装置を提供する。
【解決手段】 実施形態によればダブルデッキエレベータの群管理制御装置は、運行予測部と割当パターン評価部と割当かご決定部とを備える。運行予測部は行先階が指定された乗場呼びに対するかごの割当パターンごとの運行予測情報を生成し、生成した運行予測情報ごとに運行シミュレーションを実行して、いずれかのかごが戸開する都度、戸開した階床の待ち利用者が、登録した乗場呼びに割り当てられたかごと異なるかごに乗車して行先階に到着不可能となる残置状況の発生の有無を予測する。割当パターン評価部はかごごとの割当評価値を算出する。割当かご決定部は割当パターンごとの残置状況の発生の有無と割当評価値とに基づいて、新たな乗場呼びに対する割当かごを決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上かごと下かごとからなるダブルデッキエレベータを複数台群管理し、
利用者が乗場で行先階を指定して登録した乗場呼びの情報を登録する乗場呼び登録部と、
前記乗場呼び登録部に新たな乗場呼びが登録されると、登録された乗場呼びに対する、前記複数台のダブルデッキエレベータの中のかごの割当パターンごとの運行予測情報を生成し、生成した運行予測情報ごとに運行シミュレーションを実行して、実行した運行シミュレーション内でいずれかのかごが戸開する都度、戸開した階床の待ち利用者が、前記待ち利用者が登録した乗場呼びに割り当てられたかごと異なるかごに乗車して行先階に到着不可能となる残置状況の発生の有無を予測する運行予測部と、
前記運行シミュレーションの実行結果に基づいて、前記複数台のダブルデッキエレベータの中のかごごとの前記新たな乗場呼びに対する割り当ての適正度合いを示す割当評価値を算出する割当パターン評価部と、
前記運行予測部が予測した前記割当パターンごとの前記残置状況の発生の有無と、前記割当パターン評価部が算出した割当評価値とに基づいて、前記複数台のダブルデッキエレベータのかごの中から、前記新たな乗場呼びに対する割当かごを決定する割当かご決定部と、
を備えるダブルデッキエレベータの群管理制御装置。
【請求項2】
前記割当パターン評価部は、前記運行予測部が、前記残置状況が発生すると予測した割当パターンに対する割当評価値を下げるように調整する、請求項1に記載のダブルデッキエレベータの群管理制御装置。
【請求項3】
前記割当かご決定部は、前記運行予測部が、前記残置状況が発生する回数が最小と予測した割当パターンの中から、前記新たな乗場呼びに対する割当かごを決定する、請求項1に記載のダブルデッキエレベータの群管理制御装置。
【請求項4】
前記運行予測部は、前記運行シミュレーションを実行したときに、実行した運行シミュレーション内でいずれかのかごが戸開する都度、戸開した階床の待ち利用者が、前記待ち利用者が登録した乗場呼びに割り当てられたかごと異なるかごに乗車して行先階まで移動する誤乗状況の発生の有無を予測し、
前記割当かご決定部は、前記運行予測部が予測した前記割当パターンごとの前記残置状況の発生の有無および前記誤乗状況の発生の有無と、前記割当パターン評価部が算出した割当評価値とに基づいて、前記新たな乗場呼びに対する割当かごを決定する、請求項1に記載のダブルデッキエレベータの群管理制御装置。
【請求項5】
前記運行予測部は、前記運行シミュレーションを実行したときに、実行した運行シミュレーション内でいずれかのかごが戸開する都度、戸開した階床の待ち利用者が、前記待ち利用者が登録した乗場呼びに割り当てられたかごと同一のダブルデッキエレベータの別かごに乗車して発生する前記残置状況および前記誤乗状況の有無を予測する、請求項4に記載のダブルデッキエレベータの群管理制御装置。
【請求項6】
前記複数台のダブルデッキエレベータの中のかごごとに予め設定された不停止階の情報を記憶する不停止階情報記憶部をさらに備え、
前記運行予測部は、前記不停止階情報記憶部が記憶した不停止階の情報に基づいて、前記残置状況および前記誤乗状況の発生の有無を予測する、請求項4に記載のダブルデッキエレベータの群管理制御装置。
【請求項7】
上かごと下かごとからなるダブルデッキエレベータを複数台群管理し、利用者が乗場で行先階を指定して登録した乗場呼びの情報を登録する乗場呼び登録部を備えた群管理制御装置が、
前記乗場呼び登録部に新たな乗場呼びが登録されると、登録された乗場呼びに対する、前記複数台のダブルデッキエレベータの中のかごの割当パターンごとの運行予測情報を生成し、生成した運行予測情報ごとに運行シミュレーションを実行して、実行した運行シミュレーション内でいずれかのかごが戸開する都度、戸開した階床の待ち利用者が、前記待ち利用者が登録した乗場呼びに割り当てられたかごと異なるかごに乗車して行先階に到着不可能となる残置状況の発生の有無を予測し、
前記運行シミュレーションの実行結果に基づいて、前記複数台のダブルデッキエレベータの中のかごごとの前記新たな乗場呼びに対する割り当ての適正度合いを示す割当評価値を算出し、
予測した前記割当パターンごとの前記残置状況の発生の有無と、算出した割当評価値とに基づいて、前記複数台のダブルデッキエレベータのかごの中から、前記新たな乗場呼びに対する割当かごを決定する、ダブルデッキエレベータの群管理制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ダブルデッキエレベータの群管理制御装置およびダブルデッキエレベータの群管理制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のエレベータを統括して制御するシステムを、エレベータの群管理制御システムという。特に、各エレベータが、上かごと下かごを連結したダブルデッキエレベータから構成される群管理制御システムを、ダブルデッキ群管理制御システムと呼ぶ。
【0003】
エレベータの群管理制御システムでは、利用者が乗場呼びの登録操作を行うと、最も効率よく利用者を輸送できるように、当該乗場呼びに対して応答する乗りかご(割当かご)を決定する割当処理を行う。
【0004】
複数台のエレベータに関する乗場呼びへの割当処理を行う際には、まず発生した乗場呼びに対して様々な乗りかごを仮割当した、複数のエレベータの割当パターンを想定する。そして、想定した割当パターンごとに乗場呼びの応答までに要する時間を見積もり、乗場呼びと登録済みの呼びとに対し、全体的になるべく早く応答できる、最もよい割当パターンを選ぶ。そして、選んだ割当パターンでの情報に基づいて、実際に割当を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ダブルデッキエレベータに関する乗場呼びへの割当処理を行う場合には上かごと下かごとを区別して処理を行う。一方で、乗場での呼び登録を、乗場行先階登録装置により行先階を入力することで行う場合は、乗場行先階登録装置は、行先階を入力した利用者に対し、割当号機を表示するが、それが上かごであるか下かごであるかは報知しない。
【0007】
乗場行先階登録装置を用いて呼び登録を行った場合は、割当かごが出発階で応答すると、行先階への呼びが自動的に登録される。従って、利用者は、かご内では行先階の呼びボタンを操作しない。あるいは、そのようなエレベータでは、かご内に行先階の呼びボタンが設置されていないこともある。
【0008】
利用者が乗場呼び操作を行った階の乗場に、この利用者に対して割り当てた乗りかごと、同一号機で別のかごが先に着床して戸開すると、戸開した乗りかごに利用者が誤乗車することが考えられる。乗場行先階登録装置に行先階を入力した利用者が戸開したかごに誤乗車すると、誤乗車したかごでは、行先階への呼びが自動登録されないので、その利用者は行先階で降車することができない。
【0009】
このような事態を避けるためには、同一号機の別かごが、登録された呼びと同じ方向で先着および戸開した時点で、割当かごを先着したかごに変更する、割当変更を行えばよい。
【0010】
一方で、ダブルデッキエレベータでは、最上階のように上かごでのみサービス可能な階、または最下階のように下かごのみサービス可能な階がある。そのため、利用者によっては、上かごまたは下かごの一方でしか、行先階まで到達できないこともある。そのような利用者に対し、割当かごの同一号機別かごが先着し戸開した場合は、この先着したかごでは、その利用者の行先階への呼びを自動登録できないので、先着したかごに割当変更をすることができない。
【0011】
従って、上かごまたは下かごでのみ到達可能な行先階に移動する利用者は、先着したかごを避け、本来の割当かごの応答を待ってから乗車する必要があるが、先着したかごに間違えて乗車する可能性があり、利用しづらいという問題があった。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ダブルデッキエレベータの群管理制御において、発生した乗場呼びに対して精度良く乗りかごの割当処理を実行することが可能なダブルデッキエレベータの群管理制御装置およびダブルデッキエレベータの群管理制御方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための実施形態によればダブルデッキエレベータの群管理制御装置は、運行予測部と割当パターン評価部と割当かご決定部とを備える。運行予測部は行先階が指定された乗場呼びに対するかごの割当パターンごとの運行予測情報を生成し、生成した運行予測情報ごとに運行シミュレーションを実行して、いずれかのかごが戸開する都度、戸開した階床の待ち利用者が、登録した乗場呼びに割り当てられたかごと異なるかごに乗車して行先階に到着不可能となる残置状況の発生の有無を予測する。割当パターン評価部は、かごごとの割当評価値を算出する。割当かご決定部は、割当パターンごとの残置状況の発生の有無と割当評価値とに基づいて、新たな乗場呼びに対する割当かごを決定する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態によるダブルデッキエレベータの群管理制御装置を利用したダブルデッキ群管理制御システムのブロック図である。
【
図2A】一実施形態によるダブルデッキエレベータの群管理制御装置が実行する割当かご決定処理の動作を示すフローチャートである。
【
図2B】一実施形態によるダブルデッキエレベータの群管理制御装置が実行する割当かご決定処理の動作を示すフローチャートである。
【
図3】一実施形態によるダブルデッキエレベータの群管理制御装置が実行する、割当パターンごとの運行予測情報の生成および運行評価値の算出処理を示すフローチャートである。
【
図4】一実施形態によるダブルデッキエレベータの群管理制御装置が運行シミュレーション中に実行する処理を示すフローチャートである。
【
図5】一実施形態によるダブルデッキエレベータの群管理制御装置が実行する運行シミュレーションの一例を説明するための図である。
【
図6】一実施形態によるダブルデッキエレベータの群管理制御装置の制御による複数のエレベータの動作中に、出発階で未応答の割当要求に対して、割当かごと同一号機の別かごが同一方向で先着して戸開した際に群管理制御装置が実行する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、建物内に設置された、上かごと下かごとからなるダブルデッキエレベータを複数台群管理する群管理制御装置を利用した、ダブルデッキ群管理制御システムの実施形態について、図面を用いて説明する。
【0016】
〈一実施形態による群管理制御装置を利用したダブルデッキ群管理制御システムの構成〉
本発明の一実施形態による群管理制御装置を利用したダブルデッキ群管理制御システムの構成について、
図1を参照して説明する。本実施形態によるダブルデッキ群管理制御システム1は、m階建ての建物内に設置された複数台のダブルデッキエレベータ(A号機エレベータ10A、B号機エレベータ10B、およびC号機エレベータ10C)と、各階の乗場に設置された乗場行先階登録装置20-1~20-mと、群管理制御装置30とを備える。本実施形態のダブルデッキ群管理制御システム1は、建物内の各階に乗場行先階登録装置20-1~20-mが設置された行先階制御システム(DCS:Destination Control System)を用いて構成されている。本実施形態においては建物内に設置されるダブルデッキエレベータが3台の場合について説明するが、この数には限定されず、2台または4台以上であってもよい。
【0017】
A号機エレベータ10Aは、上かご11Aと、下かご12Aと、A号機制御装置13Aとを有する。A号機制御装置13Aは、上かご11Aおよび下かご12Aの位置情報、走行状況情報、戸開閉状況情報、荷重状態情報等を、エレベータ情報として群管理制御装置30に出力する。またA号機制御装置13Aは、群管理制御装置30からの割り当て指令によりA号機エレベータ10Aを呼びの登録階へ応答させ、該当する乗りかごを戸開させる。
【0018】
B号機エレベータ10BおよびC号機エレベータ10Cは、A号機エレベータ10Aと同様の構成を有するため、詳細な説明は省略する。
【0019】
乗場行先階登録装置20-1~20-mはそれぞれ、乗場の利用者が、行先階を指定して乗りかご11A~11C、12A~12Cのいずれかを呼ぶ乗場呼びを登録するための装置である。
【0020】
群管理制御装置30は、A号機エレベータ10A、B号機エレベータ10B、およびC号機エレベータ10Cを群管理する。群管理制御装置30は、乗場呼び登録部31と、不停止階情報記憶部32と、エレベータ情報取得部33と、運行予測部34と、計数部35と、割当パターン評価部36と、割当かご決定部37と、割当情報出力部38と、割当変更部39とを有する。
【0021】
乗場呼び登録部31は、乗場行先階登録装置20-1~20-mから取得した乗場呼びの情報を受け付けて登録する。
【0022】
不停止階情報記憶部32は、各エレベータのかごごとに、不停止階の情報を記憶する。例えば、ダブルデッキエレベータの下かごは最上階には停止できないため、不停止階情報記憶部32は、各A号機エレベータ10Aの下かご12A、B号機エレベータ10Bの下かご12B、C号機エレベータ10Cの下かご12Cに関し、最上階(m階)を不停止階とする情報を記憶する。
【0023】
また、ダブルデッキエレベータの上かごは最下階には停止できないため、不停止階情報記憶部32は、各A号機エレベータ10Aの上かご11A、B号機エレベータ10Bの上かご11B、C号機エレベータ10Cの上かご11Cに関し、最下階(1階)を不停止階とする情報を記憶する。
【0024】
エレベータ情報取得部33は、各制御装置13A、13B、および13Cから出力されるエレベータ情報を取得する。
【0025】
運行予測部34は、乗場呼び登録部31に新たな乗場呼びが登録されることで新たな割当要求が発生すると、発生した割当要求、および既に登録されエレベータに割当てられた呼びなどから生成された運行スケジュールに従い、各エレベータの運行予測情報を生成する。運行予測情報の生成処理においては、割当要求にどの乗りかごを仮割当するかごに応じて複数の割当パターンが想定され、それぞれの割当パターンごとに将来の運行を予測する。この割当パターンは、割当要求に割当可能なエレベータ10A、10B、10C内のかごの数分、存在し、運行予測部34は割当パターンごとに運行予測情報を生成する。
【0026】
運行予測部34は、生成した運行予測情報ごとに運行シミュレーションを実行して、実行した運行シミュレーション内でいずれかのかごが戸開する都度、利用者の残置状況の発生の有無を予測する。利用者の残置状況とは、戸開した階床の待ち利用者が、自身が登録した乗場呼びに割り当てられたかごと異なるかごに乗車して、行先階に到着不可能となる状況である。
【0027】
また運行予測部34は、運行シミュレーションを実行したときに、実行した運行シミュレーション内でいずれかのかごが戸開する都度、利用者の誤乗状況の発生の有無を予測する。利用者の誤乗状況とは、戸開した階床の待ち利用者が、自身が登録した乗場呼びに割り当てられたかごと異なるかごに乗車して行先階まで移動する状況である。
【0028】
計数部35は、運行予測部34が実行した運行シミュレーション内における残置状況の発生回数である残置回数、および誤乗状況の発生回数である誤乗回数を、運行予測情報ごとに計数する。
【0029】
割当パターン評価部36は、運行シミュレーションの実行結果、および計数部35で計数された残値回数および誤乗回数の計数値に基づいて、運行予測部34で生成した運行予測情報ごとに、割当要求への応答までに要する時間を見積もってサービス性能に関する運行評価値を算出する。また割当パターン評価部36は、算出した運行評価値に基づいて、エレベータ10A、10B、10Cの中のかごごとの割当要求に対する割り当ての適正度合いを示す割当評価値を算出する。
【0030】
割当かご決定部37は、割当パターン評価部36で算出された割当評価値に基づいて、発生した割当要求と登録済みの呼びとに対して、全体的に最も効率よく利用者を輸送できる最適な割当パターンを選択する。割当かご決定部37は、選択した割当パターンに基づいて、この割当要求に割り当てる乗りかご(割当かご)を決定する。
【0031】
割当情報出力部38は、割当かご決定部37で決定した割当かごの情報に基づいて、該当するエレベータへ割り当て指令を出力する。
【0032】
割当変更部39は、割当かご決定部37が決定した割当要求に対する割当かごと同一号機の別かごが、割当要求の登録階に割当要求と同一方向で先着して戸開した際に、割当要求に対する割当かごを先着した同一号機別かごに変更し、直ちに応答させる。ただし割当変更部39は、割当要求が乗場行先階登録装置で登録された、出発階と行先階との両方の情報を持つ呼びである場合は、先着した同一号機別かごが割当要求の行先階に停止可能(サービス可能)である場合に限り、割当要求に対する割当かごを先着して同一号機別かごに変更する。割当変更部39は、先着した同一号機別かごが割当要求の行先階に停止不可能である場合には、割当要求に対する割当かごの変更を行わない。
【0033】
〈一実施形態によるダブルデッキ群管理制御システムの動作〉
図2A、
図2Bは、本実施形態によるダブルデッキ群管理制御システム1が稼動する際に群管理制御装置30が実行する割当かご決定処理の動作を示すフローチャートである。
【0034】
建物内のいずれかの階床の乗場の乗場行先階登録装置、例えば1階乗場の乗場行先階登録装置20-1で利用者が乗場呼び登録操作を行うと、群管理制御装置30の乗場呼び登録部31に当該乗場呼び(割当要求)の情報が登録される(S1の「YES」)。割当要求の情報が登録されると、エレベータごとおよび割当パターンごとに、運行予測部34が運行予測情報の生成を行い、割当パターン評価部36が評価値算出を行うループ処理が開始される。
【0035】
割当パターンとしては、運行予測情報の生成および評価値の算出処理対象とするエレベータに割当要求を仮割り当てしない割当パターンである「仮割当なし」と、割当要求を下かごに割り当てる割当パターンである「下かご仮割当」と、割当要求を上かごに割り当てる割当パターンである「上かご仮割当」とがある。
【0036】
まず、A号機エレベータ10Aに関し、割当パターン「仮割当なし」の運行予測情報の生成および運行評価値の算出処理を実行する場合について説明する(S2)。
【0037】
図3は、群管理制御装置30が実行する、割当パターンごとの運行予測情報の生成および運行評価値の算出処理を示すフローチャートである。
【0038】
運行予測部34は、エレベータ情報取得部33から取得する現在のA号機エレベータ10Aの現在の上かご11Aおよび下かご12Aの状況および呼びへの割当状況を初期状態として、運行予測処理を開始する(S21)。
【0039】
ここでは、仮割り当てなしの割当パターンに関する処理を実行しているため(S22の「YES」)、ステップS23に移行し、運行予測部34が、既に登録されエレベータに割当てられた呼びなどから生成された運行スケジュールに従い、A号機エレベータ10Aの運行予測情報を生成する(S23)。運行予測部34は、生成した運行予測情報に基づいて、運行シミュレーションを実行する(S24)。
【0040】
図4は、運行予測部34が運行シミュレーション中に実行する処理を示すフローチャートである。この運行シミュレーションでは、運行予測部34は、生成した運行予測情報に基づいて、適宜、A号機エレベータ10Aの上かご11Aおよび下かご12Aを所定方向へ所定速度で走行させながら順次呼びに応答し、進行中の方向でこれ以上応答できる呼びがなくなると走行方向を反転させてさらに呼びに応答することで、登録されたすべての呼びへの応答が完了するまでの時間を計測する。また運行予測部34は、運行シミュレーション中に、登録された各呼びに関し、登録した利用者がいずれかの乗りかごに乗車した時刻の情報、および乗りかごから降車した時刻の情報を記憶する。
【0041】
運行シミュレーション内で、A号機エレベータ10A、B号機エレベータ10B、およびC号機エレベータ10C内のいずれかのかごが戸開すると(S41の「YES」)、運行予測部34は、戸開した階を行先階とする呼びに対する降車時刻として、例えば戸開したときの時刻を取得して、取得した降車時刻およびこの呼びに対する現在状態「降車状態」を記憶する。また運行予測部34は、戸開した階を出発階とする呼びに対する乗車時刻として、例えば戸開したときの時刻を取得して、取得した乗車時刻およびこの呼びに対する現在状態「乗車中」を記憶する(S42)。
【0042】
ここで運行予測部34は、戸開したかごが、戸開した階床の待ち利用者が登録した乗場呼び、つまり戸開した階床を出発階とする乗場呼びに割り当てられたかごと異なるかごであるか否かを判定する(S43)。運行予測部34は、戸開したかごがこの階床の待ち利用者が登録した乗場呼びに割り当てられたかごと異なるかご、具体的には、この乗場呼びに割当られたかごと同一号機の別かごである場合(S43の「YES」)に、この待ち利用者が戸開したかごに乗り込むことを検討する。
【0043】
これは、乗場呼びに対して割り当てられたかごと同一号機の別かごが、割り当てられたかごよりも先に乗場呼び発生階に順方向で到着して戸開すると、利用者は、自身が登録した乗場呼びに対して応答したかごが到着したと認識して乗り込むことが想定されるためである。
【0044】
運行予測部34は、戸開したかごが、この待ち利用者の乗場呼びの行先階に停止可能か否かを判定する。運行予測部34は、この待ち利用者の乗場呼びの行先階が、戸開したかごの不停止階として不停止階情報記憶部32に記憶されている場合(S44の「YES」)には、戸開したかごが、この待ち利用者の行先階に停止不可能と判定する。この場合、運行予測部34は、かごに乗り込んだ利用者が行先階に到着できない状況である「残置状況」が発生すると予測し、これに基づいて計数部35が、この運行シミュレーション内における残置状況の発生回数である残置回数をインクリメントする(S45)。運行予測部34は、残置回数をインクリメントしたときには、この待ち利用者は、割り当てられたかごで行先階まで移動すると予測する。
【0045】
また運行予測部34は、この待ち利用者の乗場呼びの行先階が、戸開したかごの不停止階ではない場合(S44の「NO」)には、待ち利用者がこのかごに乗車して行先階まで移動すると予測する。この待ち利用者が乗車すると予測されたかごは、本来この待ち利用者の呼びに割り当てられていたかごではないため、運行予測部34は、この呼びに関して「誤乗状況」が発生すると予測し、これに基づいて計数部35が、この運行シミュレーション内における誤乗状況の発生回数である誤乗回数をインクリメントする(S46)。
【0046】
運行予測部34は、誤乗回数をインクリメントしたときには、誤乗が想定された乗場呼びに対する割り当てを、今回戸開した別かごに割り当て変更することを予測し(S47)、例えばこの別かごが戸開したときの時刻を、この乗場呼びに対する乗車時刻として取得し、取得した乗車時刻およびこの呼びに対する現在状態「乗車中」を記憶する。また、このように誤乗が発生することを予測した場合には、運行予測部34は、この乗場呼びの行先階において戸開するかごも、上かごと下かごとで入れ替えるように変更する。
【0047】
この割り当て変更は、運行シミュレーション内において、乗場呼びが発生した乗場に先着した別かごにこの乗場呼びの割り当てを変更する見込みとして予測するものであり、実際の運行中における変更ではない。
【0048】
ステップS45またはS46の処理が実行されると、乗場呼び登録部31に登録された呼びのうち未応答の呼びがある場合(S48の「YES」)、つまり現在状態が「降車状態」になっていない呼びがある場合には、ステップS41に戻り、この運行シミュレーションが終了するまでの間にいずれかのかごが戸開する都度、ステップS41~S47の処理が繰り返される。
【0049】
運行シミュレーションが終了すると、
図3に戻り、割当パターン評価部36が、この割当パターン「仮割当なし」の運行シミュレーションに関する運行評価値を算出する(S25)。運行評価値は、例えば、呼びの発生時刻から出発階におけるかごの戸開時刻までの待ち時間である。
【0050】
割当パターン「仮割当なし」の運行評価値を算出すると、
図2Aに戻り、運行予測部34がA号機エレベータ10Aに関する割当パターン「下かご仮割当」時の運行予測情報の生成および運行評価値の算出処理を実行する(S3)。割当パターン「下かご仮割当」時の運行予測情報の生成および運行評価値の算出処理も、割当パターン「仮割当なし」の場合と同様に、
図3のフローチャートに基づいて実行する。
【0051】
割当パターン「下かご仮割当」の場合は、
図3のフローチャート内のステップS22において仮割当なしの割当パターンではないため(S22の「NO」)、ステップS32に移行する。運行予測部34は、今回発生した割当要求の出発階または行先階が、処理対象としているA号機エレベータ10Aの下かご12Aの不停止階であるか否かを、不停止階情報記憶部32に記憶された情報に基づいて判定する(S32)。
【0052】
ここで、運行予測部34が、今回発生した割当要求の出発階または行先階がA号機エレベータ10Aの下かご12Aの不停止階であると判定したときには(S32の「YES」)、この割当パターンに関する運行評価値の算出はできず、評価不能と判定して処理を終了する(S33)。
【0053】
ステップS32において、運行予測部34が、今回発生した割当要求の出発階・行先階の一方でも不停止であるかの条件が不成立と判定したとき(S32の「NO」)には、この割当要求を応答対象の呼びとして追加し(S34)、発生した割当要求、および既に登録されエレベータに割当てられた呼びなどから生成された運行スケジュールに従い、A号機エレベータ10Aの運行予測情報を生成する(S23)。
【0054】
運行予測部34は、生成した運行予測情報に基づいて、運行シミュレーションを実行する(S24)。運行予測部34が実行する運行シミュレーションの処理は、割当パターン「仮割当なし」の場合に説明した処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0055】
運行シミュレーションが終了すると、割当パターン評価部36が、この割当パターン「下かご仮割当」の運行シミュレーションに関する運行評価値を算出する(S25)。割当パターン評価部36は、割当パターン「下かご仮割当」時の運行評価値を算出すると、
図2Aに戻り、下かご12Aに対する割当評価値を算出する(S4)。
【0056】
この割当評価値は、割当要求に対する、該当するかごの割り当ての適正度合いを示す値である。割当パターン評価部36は、ステップS3で算出した割当パターン「下かご仮割当」時の運行評価値から、ステップS2で算出した割当パターン「仮割当なし」の運行評価値を差し引いた値を、下かご12Aに対する割当評価値として算出する。
【0057】
次に割当パターン評価部36は、残置状況が発生すると予測した割当パターンに対する割当評価を大きく下げるように、各割当評価値を調整する処理を行う。割当パターン評価部36は、割当パターンが「仮割当なし」の場合と「下かご仮割当」の場合とで、計数された残置回数を比較する(S5)。
【0058】
ここで、割当パターンが「仮割当なし」の場合よりも「下かご仮割当」の場合の方が残置回数の計数値が大きい場合には(S5の「YES」)、割当パターン評価部36は、このA号機エレベータ10Aの下かご12Aの割当パターンに強い割当抑制をかける(S6)。
【0059】
具体的には、割当パターン評価部36は、ステップS4で算出された割当評価値で示される、出発階におけるA号機エレベータ10Aの下かご12Aの戸開時刻までの待ち時間に、待ち時間として十分に大きな値、例えば300秒を加えることで、この下かご12Aに対する割当評価を大きく下げる。このように割当評価値を調整することで、後述する割当かご決定処理で下かご12Aが割当要求に割り当てられることを極力避けることができる。
【0060】
また、ステップS5において、割当パターンが「下かご仮割当」の場合の残置回数が、「仮割当なし」の場合の残置回数以下である場合には(S5の「NO」)、割当パターン評価部36は、割当パターンが「仮割当なし」の場合と「下かご仮割当」の場合とで、計数された誤乗回数を比較する(S7)。
【0061】
ここで、割当パターンが「仮割当なし」の場合よりも「下かご仮割当」の場合の方が誤乗回数の計数値が大きい場合には(S7の「YES」)、割当パターン評価部36は、このA号機エレベータ10Aの下かご12Aの割当パターンに弱い割当抑制をかける(S8)。
【0062】
具体的には、割当パターン評価部36は、ステップS4で算出された割当評価値で示される、出発階におけるA号機エレベータ10Aの下かご12Aの戸開時刻までの待ち時間に、待ち時間として微増する値、例えば「下かご仮割当」の場合の方が残置回数の計数値が大きいときに加える値よりも小さい値である10秒を加えることで、この下かご12Aに対する割当評価を小さく下げる。このように割当評価値を調整することで、後述する割当かご決定処理で下かご12Aが割当要求に割り当てられる可能性を残しつつ優先度が下がるようにすることができる。
【0063】
次に、運行予測部34が、A号機エレベータ10Aに関する割当パターン「上かご仮割当」時の運行予測情報の生成および運行評価値の算出処理を実行する(S9)。割当パターン「上かご仮割当」時の運行予測情報の生成および運行評価値の算出処理も、割当パターン「下かご仮割当」の場合と同様に、
図3のフローチャートに基づいて実行する。
【0064】
割当パターン評価部36が割当パターン「上かご仮割当」時の運行評価値を算出すると、
図2Bに戻り、上かご11Aに対する割当評価値を算出する(S10)。
【0065】
割当パターン評価部36は、ステップS9で算出した割当パターン「上かご仮割当」時の運行評価値から、ステップS2で算出した割当パターン「仮割当なし」の運行評価値を差し引いた値を、上かご11Aに対する割当評価値として算出する。
【0066】
次に割当パターン評価部36は、残置状況が発生すると予測した割当パターンに対する評価を大きく下げるように、各割当評価値を調整する処理を行う。割当パターン評価部36は、割当パターン「上かご仮割当」の場合の評価値を算出すると、割当パターンが「仮割当なし」の場合と「上かご仮割当」の場合とで、計数された残置回数を比較する(S9)。
【0067】
ここで、割当パターンが「仮割当なし」の場合よりも「上かご仮割当」の場合の方が残置回数の計数値が大きい場合には(S11の「YES」)、割当パターン評価部36は、ステップS6の場合と同様に、A号機エレベータ10Aの上かご11Aの割当パターンに強い割当抑制をかける(S12)。
【0068】
また、ステップS11において、割当パターンが「上かご仮割当」の場合の残置回数が、「仮割当なし」の場合の残置回数以下である場合には(S11の「NO」)、割当パターン評価部36は、割当パターンが「仮割当なし」の場合と「上かご仮割当」の場合とで、計数された誤乗回数を比較する(S13)。
【0069】
ここで、割当パターンが「仮割当なし」の場合よりも「上かご仮割当」の場合の方が誤乗回数の計数値が大きい場合には(S13の「YES」)、割当パターン評価部36はステップS8の場合と同様に、このA号機エレベータ10Aの上かご11Aの割当パターンに弱い割当抑制をかける(S14)。群管理制御装置30は、以上のステップS2~S14の処理を、B号機エレベータ10BおよびC号機エレベータ10Cに関しても実行する。
【0070】
図5は、A号機エレベータ10AおよびB号機エレベータ10Bに関して実行する運行シミュレーションの一例を説明する図である。
【0071】
この例では、初期状態では、A号機エレベータ10A、B号機エレベータ10Bともに、上かご11A、11Bが2階に停車し、下かご12A、12Bが1階に停車している。また、下かご12A、12Bには既に多くの利用者が乗車しており、所定値以上の混雑度を有している。群管理制御装置30は、所定値以上の混雑度を有するかごに関しては、以降に発生する新たな呼びを割り当てることができない旨の制約条件を有している。
【0072】
また、乗場呼び登録部31には、利用者P1による乗場呼びQ1および利用者P2による乗場呼びQ2が登録されている。乗場呼びQ1は、出発階が5階、行先階が9階であり、この乗場呼びQ1に対して割当かご決定部37によりA号機エレベータ10Aの下かご12Aが割り当てられている。乗場呼びQ2は、出発階が5階、行先階が13階であり、この乗場呼びQ2に対して割当かご決定部37によりB号機エレベータ10Bの下かご12Bが割り当てられている。
図5内で、△印は各乗場呼びの出発階を示し、〇印は降車階を示す。
【0073】
また、利用者P1には乗場呼びQ1の割当号機の情報として「A号機」が報知され、利用者P2には乗場呼びQ2の割当号機の情報として「B号機」が報知されている。これにより、利用者P1は5階乗場でA号機エレベータ10Aのかごの到着を待っており、利用者P2は5階乗場でB号機エレベータ10Bのかごの到着を待っている。
【0074】
またこの例では、9階は下かご専用の階床であり、不停止階情報記憶部32には上かご11A、11Bの不停止階として9階が記憶されている。
【0075】
ここで新たに、利用者Q3の操作により、出発階が3階であり行先階が5階である乗場呼び(割当要求)P3が乗場呼び登録部31に登録されると、運行予測部34がまず、A号機エレベータ10Aに対する運行予測情報を生成、運行シミュレーションを実行する。
【0076】
運行予測部34は、A号機エレベータ10Aに対し、割当てパターン「仮割当なし」、「下かご仮割当」、および「上かご仮割当」ごとに運行予測情報の生成を行うことが考えられる。しかし、A号機エレベータ10Aの下かご12Aは所定値以上の混雑度を有しており呼びを割り当てることができないため、ここでは上かご11Aのみに割り当てる可能性があるものとする。これにより、A号機エレベータ10Aに対して、まず割当パターン「仮割当なし」の場合の運行予測情報の生成および運行シミュレーションの実行を行い、次に割当パターン「上かご仮割当」の場合の運行予測情報の生成および運行シミュレーションの実行を行う。
【0077】
割当パターン「上かご仮割当」に関しては、A号機エレベータ10Aの上かご11Aが乗場呼びP3に応答して3階に着床して利用者Q3が乗車し、その後、上かご11Aが利用者Q3の行先階である5階に着床して利用者Q3が降車する運行予測情報が生成され、運行シミュレーションが実行される。この運行シミュレーション内で、乗場呼びQ1に割り当てられたかごはA号機エレベータ10Aの下かご12Aであるが、利用者P1には割当号機の情報として「A号機」のみが報知されているため、運行予測部34は、上かご11Aが5階で戸開したときに、利用者P1が乗場呼びQ1に割り当てられたかごが戸開したものと認識して乗り込むと予測する。
【0078】
しかし、利用者P1の行先階は9階であり、9階は下かご専用の階床であるため上かご11Aは着床および戸開できない。この場合、運行予測部34は、乗場呼びQ1に対して割り当てられた下かご12Aと同一号機(A号機)の別かごである上かご11Aが、割り当てられた下かご12Aよりも先に乗場呼び発生階である5階に順方向で到着して戸開し、利用者P1が乗り込むが、この上かご11Aがこの乗場呼びQ1の行先階である9階に停止不可能であり利用者P1が行先階に到着できない残置状況になる判定し、計数部35が残置回数をインクリメントする。
【0079】
また、乗場呼びP3が登録されたときに、運行予測部34がB号機エレベータ10Bに対する運行予測情報を生成、運行シミュレーションを実行する場合について説明する。
【0080】
この場合も運行予測部34は、B号機エレベータ10Bに対し、割当てパターン「仮割当なし」、「下かご仮割当」、および「上かご仮割当」ごとに運行予測情報の生成を行うことが考えられる。しかし、B号機エレベータ10Bの下かご12Bは所定値以上の混雑度を有しており呼びを割り当てることができないため、ここでは上かご11Bのみに割り当てる可能性があるものとする。これにより、B号機エレベータ10Bに対して、まず割当パターン「仮割当なし」の場合の運行予測情報の生成および運行シミュレーションの実行を行い、次に割当パターン「上かご仮割当」の場合の運行予測情報の生成および運行シミュレーションの実行を行う。
【0081】
割当パターン「上かご仮割当」に関しては、B号機エレベータ10Bの上かご11Bが乗場呼びP3に応答して3階に着床して利用者Q3が乗車し、その後、上かご11Bが利用者Q3の行先階である5階に着床して利用者Q3が降車する運行予測情報が生成され、運行シミュレーションが実行される。この運行シミュレーション内で、乗場呼びQ2に割り当てられたかごはB号機エレベータ10Bの下かご12Bであるが、利用者P2には割当号機の情報として「B号機」のみが報知されているため、運行予測部34は、上かご11Bが5階で戸開したときに、利用者P2が乗場呼びQ2に割り当てられたかごが戸開したものと認識して乗り込むと予測する。
【0082】
このとき、利用者P2の行先階は13階であり、13階は上かご11Bが着床および戸開可能な階であるため、運行予測部34は、利用者P2が乗り込んだ上かご11Bで行先階の13階まで移動すると予測する。この場合、運行予測部34は、乗場呼びQ2に対して割り当てられた下かご12Bと同一号機(B号機)の別かごである上かご11Bが、割り当てられた下かご12Bよりも先に割当要求発生階である5階に順方向で到着して戸開し、利用者P2が乗り込み、この上かご11Bがこの乗場呼びQ2の行先階である13階に誤乗状況で移動すると判定し、誤乗回数をインクリメントする。
【0083】
このようにして計数された残置回数および誤乗回数の値を用いて、割当パターン評価部36が、エレベータごとおよび割当パターンごとの運行評価値を算出し、算出した運行評価値に基づいてかごごとの割当評価値を算出する。以上で、
図5を用いた運行シミュレーションの例の説明を終了する。
【0084】
ダブルデッキ群管理制御システム1内のすべてのエレベータに関するステップS2~S12のループが終了すると、割当かご決定部37が、割当パターン評価部36で算出された割当評価値に基づいて、最適なエレベータの割当パターンを選択し、選択したエレベータの割当パターンに基づいて処理対象の割当要求に割り当てる乗りかごを決定する(S13)。
【0085】
具体的には、割当かご決定部37は、各呼びに対する待ち時間の合計が最も短いエレベータの割当パターンを、評価値が高く最適なエレベータの割当パターンとして選択する。このとき、残置が発生することが予測される割当パターンは待ち時間が十分に大きく設定されているため、選択される可能性が低くなる。また、誤乗が発生することが予測される割当パターンは待ち時間が増加しているため、選択の可能性はあるものの優先度が低くなっている。これにより、割当かご決定部37は、残置が発生することが予測される割当パターンはなるべく選択を避け、誤乗が発生することが予測される割当パターンは優先度を下げるようにしつつ、算出された評価値から最適なエレベータの割当パターンを選択する。
【0086】
そして、割当情報出力部38が、割当かご決定部37で決定した割当要求への割当かごの情報に基づいて、割り当て対象のエレベータの制御装置へ割り当て指令を出力する。各制御装置13A、13B、13Cは、取得した割当指令に基づいて該当する乗場呼びに応答するように、各エレベータ10A、10B、10C内の機器を制御する。
【0087】
図6は、群管理制御装置30の制御によるエレベータ10A、10B、10Cの動作中、出発階で未応答の割当に対して、割当かごと同一号機の別かごが同一方向で先着して戸開した際に群管理制御装置30が実行する処理を示すフローチャートである。
【0088】
エレベータ10A、10B、10Cが動作しているときに、出発階で未応答の割当に対して、割当かごと同一号機の別かごが同一方向で先着して戸開すると(S51の「YES」)、割当変更部39は、この割当が、乗場行先階登録装置で登録された、出発階と行先階との両方の情報を持つ割当であるか否かを判定する(S52)。
【0089】
割当変更部39は、この割当が乗場行先階登録装置で登録された呼びに対する割当であると判定した場合には(S52の「YES」)、先着した同一号機別かごが、割当の行先階に停止可能(サービス可能)であるか否かを判定する(S53)。
【0090】
ここで割当変更部39は、先着した同一号機別かごが、割当の行先階に停止可能(サービス可能)である場合には(S53の「YES」)、この割当に対する割当かごを先着した同一号機別かごに変更する(S54)。割当変更部39は、ステップS52において、この割当が行先階の情報を持たない割当であると判定した場合にも(S52の「NO」)、この割当に対する割当かごを先着した同一号機別かごに変更する(S54)。
【0091】
割当変更部39は、割当かごを変更すると、割当情報出力部38に対し、該当するエレベータの制御装置に割当変更指令を出力することで、直ちに変更後の割当かごを応答させる。各制御装置13A、13B、13Cは、取得した割当変更指令に基づいて該当する割当に応答するように、各エレベータ10A、10B、10C内の機器を制御する。これにより利用者は、先着したかごに乗車して行先階まで移動し、行先階で降車することができる。
【0092】
割当変更部39は、ステップS53において先着した同一号機別かごが、割当の行先階に停止不可能であると判定した場合には(S53の「NO」)、この割当に対する割当かごの変更を行わない。
【0093】
以上の実施形態によれば、ダブルデッキエレベータの群管理制御装置は、発生した割当要求に対して乗りかごの割当処理を実行する際に、運行シミュレーションによりこの割当要求に割り当てられたかごと同一号機の別かごが、割り当てられたかごよりも先に乗場呼び発生階に到着して戸開することを予測した際に、利用者の残置または誤乗が発生するか否かを判定し、この判定に基づいて割当パターンごとのサービス評価を行って割当かごを決定する。このように処理を行うことで、群管理制御装置は、発生した割当要求に対してなるべく残置状況および誤乗状況が発生せず、実際の運用に則した精度の良い割当かご決定処理を実行することができる。
【0094】
上述した実施形態では、A号機エレベータ10A、B号機エレベータ10B、およびC号機エレベータ10C内の各かごに関する運行シミュレーションにおいて、割当要求を仮割当したことにより残置回数が増加するか否か、また、割当要求を仮割当したことにより誤乗回数が増加するか否かにより、各かごに対する割当評価値を調整し、調整後の割当評価値に基づいて、割当要求に対する割当かごを決定する場合について説明した。しかしこれには限定されず、なるべく残置状況および誤乗状況が発生しないかごを割当要求に割り当てることができれば、他の形態により割当かご決定処理を行ってもよい。
【0095】
他の形態による割り当てかご決定処理について説明する。この形態では、群管理制御装置30の運行予測部34が、各かごに関して行った運行シミュレーションにおいて、割当要求を仮割当したことによる残置回数の増加数、および割当要求を仮割当したことによる誤乗回数の増加数を算出する。
【0096】
そして運行予測部34は、まず、算出した残置回数の増加数が最小のかごを抽出し、次にこの抽出した中で、算出した誤乗回数の増加数が最小のかごをさらに抽出し、次にこの抽出した中で、割当要求を仮割当したことによる運行評価値(待ち時間)の増加分が最小のかごを、割当要求に対する割当かごとして決定する。このような実施形態によっても、なるべく残置状況および誤乗状況が発生せず、実際の運用に則した精度の良い乗りかごの割当処理を実行することができる。
【0097】
また、上述した実施形態では、建物内の各階の乗場に乗場行先階登録装置20-1~20-mを設置することで、行先階制御システム(DCS)を用いてダブルデッキ群管理制御システム1を構成する場合について説明した。しかしこれには限定されず、一部の階のみの乗場に乗場行先階登録装置を設置し、他の階には、行先階を指定せずに行先方向(上下方向)のみを指定して乗場呼び操作を行う乗場呼び登録装置を設置するハイブリッドDCSを用いてダブルデッキ群管理制御システムを構成してもよい。
【0098】
ハイブリッドDCSを用いてダブルデッキ群管理制御システムを構成した場合には、乗場呼び登録装置で登録された乗場呼びでは行先階が不明であるため、この乗場呼びに対しては、残置状況および誤乗状況の発生の有無の判定を行なわない。また、ハイブリッドDCSでは、乗場呼び登録装置で登録された乗場呼びに対して仮の行先階である派生かご呼びを設定して運行予測を行う場合があるが、派生かご呼びは乗りかごが停車することが確実でない呼びであるため、この派生かご呼びに対しても残置状況および誤乗状況の発生の有無の判定を行なわない。つまりハイブリッドDCSでは、乗場行先階登録装置で登録された乗場呼びに対してのみ、残置状況および誤乗状況の発生の有無の判定を行い、これに基づいて割当評価値の調整を行う。このように処理を行うことで、ハイブリッドDCSを用いたダブルデッキ群管理制御システムにおいても、なるべく残置状況および誤乗状況が発生せず、実際の運用に則した精度の良い乗りかごの割当処理を実行することができる。
【0099】
また、上述した実施形態では、発生した割当要求に対して、残置状況の発生が予測されるかごが割り当てられることを極力避けるとともに、誤乗状況の発生が予測されるかごは割り当てられる可能性を残しつつ優先度が下がるようにして割当かご決定処理を行う場合について説明した。しかし、誤乗状況は発生しても利用者の不都合になる可能性は低いため、誤乗状況の発生回数は考慮せずに、残置状況の発生回数のみを考慮して割当かごを決定してもよい。
【0100】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
1…ダブルデッキ群管理制御システム、10A,10B,10C…エレベータ、11A,11B,11C…上かご、12A,12B,12C…下かご、13A,13B,13C…制御装置、20-1~20-m…乗場行先階登録装置、30…群管理制御装置、31…乗場呼び登録部、32…不停止階情報記憶部、33…エレベータ情報取得部、34…運行予測部、35…計数部、36…割当パターン評価部、37…割当かご決定部、38…割当情報出力部、39…割当変更部
【手続補正書】
【提出日】2024-03-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上かごと下かごとからなるダブルデッキエレベータを複数台群管理し、
利用者が乗場で行先階を指定して登録した乗場呼びの情報を登録する乗場呼び登録部と、
前記乗場呼び登録部に新たな乗場呼びが登録されると、登録された乗場呼びに対する、前記複数台のダブルデッキエレベータの中のかごの割当パターンごとの運行予測情報を生成し、生成した運行予測情報ごとに運行シミュレーションを実行して、実行した運行シミュレーション内でいずれかのかごが戸開する都度、戸開した階床の待ち利用者が、前記待ち利用者が登録した乗場呼びに割り当てられたかごと同一号機の別かごに乗車して行先階に到着不可能となる残置状況の発生の有無を予測する運行予測部と、
前記運行シミュレーションの実行結果に基づいて、前記複数台のダブルデッキエレベータの中のかごごとの前記新たな乗場呼びに対する割り当ての適正度合いを示す割当評価値を算出する割当パターン評価部と、
前記運行予測部が予測した前記割当パターンごとの前記残置状況の発生の有無と、前記割当パターン評価部が算出した割当評価値とに基づいて、前記複数台のダブルデッキエレベータのかごの中から、前記新たな乗場呼びに対する割当かごを決定する割当かご決定部と、を備えるダブルデッキエレベータの群管理制御装置。
【請求項2】
前記割当パターン評価部は、前記運行予測部が、前記残置状況が発生すると予測した割当パターンに対する割当評価値を下げるように調整する、請求項1に記載のダブルデッキエレベータの群管理制御装置。
【請求項3】
前記割当かご決定部は、前記運行予測部が、前記残置状況が発生する回数が最小と予測した割当パターンの中から、前記新たな乗場呼びに対する割当かごを決定する、請求項1に記載のダブルデッキエレベータの群管理制御装置。
【請求項4】
前記運行予測部は、前記運行シミュレーションを実行したときに、実行した運行シミュレーション内でいずれかのかごが戸開する都度、戸開した階床の待ち利用者が、前記待ち利用者が登録した乗場呼びに割り当てられたかごと同一号機の別かごに乗車して行先階まで移動する誤乗状況の発生の有無を予測し、
前記割当かご決定部は、前記運行予測部が予測した前記割当パターンごとの前記残置状況の発生の有無および前記誤乗状況の発生の有無と、前記割当パターン評価部が算出した割当評価値とに基づいて、前記新たな乗場呼びに対する割当かごを決定する、請求項1に記載のダブルデッキエレベータの群管理制御装置。
【請求項5】
前記運行予測部は、前記運行シミュレーションを実行したときに、実行した運行シミュレーション内でいずれかのかごが戸開する都度、戸開した階床の待ち利用者が、前記待ち利用者が登録した乗場呼びに割り当てられたかごと同一のダブルデッキエレベータの別かごに乗車して発生する前記残置状況および前記誤乗状況の有無を予測する、請求項4に記載のダブルデッキエレベータの群管理制御装置。
【請求項6】
前記複数台のダブルデッキエレベータの中のかごごとに予め設定された不停止階の情報を記憶する不停止階情報記憶部をさらに備え、
前記運行予測部は、前記不停止階情報記憶部が記憶した不停止階の情報に基づいて、前記残置状況および前記誤乗状況の発生の有無を予測する、請求項4に記載のダブルデッキエレベータの群管理制御装置。
【請求項7】
上かごと下かごとからなるダブルデッキエレベータを複数台群管理し、利用者が乗場で行先階を指定して登録した乗場呼びの情報を登録する乗場呼び登録部を備えた群管理制御装置が、
前記乗場呼び登録部に新たな乗場呼びが登録されると、登録された乗場呼びに対する、前記複数台のダブルデッキエレベータの中のかごの割当パターンごとの運行予測情報を生成し、生成した運行予測情報ごとに運行シミュレーションを実行して、実行した運行シミュレーション内でいずれかのかごが戸開する都度、戸開した階床の待ち利用者が、前記待ち利用者が登録した乗場呼びに割り当てられたかごと同一号機の別かごに乗車して行先階に到着不可能となる残置状況の発生の有無を予測し、
前記運行シミュレーションの実行結果に基づいて、前記複数台のダブルデッキエレベータの中のかごごとの前記新たな乗場呼びに対する割り当ての適正度合いを示す割当評価値を算出し、
予測した前記割当パターンごとの前記残置状況の発生の有無と、算出した割当評価値とに基づいて、前記複数台のダブルデッキエレベータのかごの中から、前記新たな乗場呼びに対する割当かごを決定する、ダブルデッキエレベータの群管理制御方法。