(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012273
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】好気性微生物の培養方法および培養器
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20250117BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12M1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114996
(22)【出願日】2023-07-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行所名:公益社団法人日本農芸化学会 刊行物名:Annual Meeting of the Japan Society for Bioscience,Biotechnology,and Agrochemistry,2023 大会講演要旨集 ISSN 2186-7976 発行年月日:2023年3月5日 〔刊行物等〕 掲載年月日:2023年3月5日 掲載アドレス:https://drive.google.com/file/d/1NqvEshnyEBYvTg7CXThvFLeeBphh7fQ_/view?usp=drive_web 〔刊行物等〕 掲載年月日:2023年5月15日 掲載アドレス: https://www.jsbba.or.jp/MeetingofJSBBA/meeting_of_jsbba.html https://www.jsbba.or.jp/MeetingofJSBBA/2023/MeetingofJSBBA2023.pdf
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】秋田 求
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA27
4B029BB01
4B029CC01
4B029DB16
4B029DB19
4B029DF04
4B029DG10
4B029GB07
4B029GB09
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065BC05
4B065BC50
4B065CA24
4B065CA27
(57)【要約】
【課題】好気性微生物の培養は攪拌、振蕩といった物理的な衝撃を与える方法がとられていたが、このような方法では微生物にストレスを与え、効率の高い培養ができなかった。
【解決手段】ガス透過性を有するフィルムで形成された培養器となる袋に微生物と培地を充填する工程と、
前記培養器を液密に封止する工程と、
前記培養器を、メッシュ状支持体に載置する工程を含む好気性微生物の培養方法は、ガス透過性を有するフィルムで作製された袋に培地と好気性微生物を封入し、ガス交換が可能な面積増やした状態で静止培養を行うので、微生物にストレスがかからず、効果的な培養が可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス透過性を有するフィルムで形成された培養器となる袋に微生物と培地を充填する工程と、
前記培養器を液密に封止する工程と、
前記培養器を、メッシュ状支持体に載置する工程を含む微生物の培養方法。
【請求項2】
前記微生物と培地を充填する工程の前に、
前記培養器を脱着可能なクリップで少なくとも2区画以上に分ける工程を含み、
前記微生物と培地を充填する工程は、前記区画の内の1の区画に前記微生物と培地を充填する工程であり、
前記1の区画に前記クリップを介して隣接する区画に前記培地を充填する工程と、
前記支持体に載置する工程の後に、
培養が進んだ際に、前記クリップを外す工程を有する請求項1に記載された微生物の培養方法。
【請求項3】
前記2区画以上に分ける工程では、
前記クリップを介して隣接する前記区画の大きさが異なる区画を作り、
前記微生物と培地を充填する工程は、前記区画の小さい方の区画に充填する工程である請求項2に記載の微生物の培養方法。
【請求項4】
前記1の区画に前記クリップを介して隣接する区画に培地を充填する工程は、前記培地に加え、さらに前記培地以外の成分も充填される請求項2に記載された微生物の培養方法。
【請求項5】
ガス透過性を有するフィルムで形成され、好気性微生物と培地を封入する袋と、
前記袋を静置する支持体を有する培養器。
【請求項6】
前記袋を各区画が液密となるように、少なくとも2区画以上に分ける脱着可能なクリップを有する請求項5に記載された培養器。
【請求項7】
前記クリップを介して隣接する複数の前記区画には、互いに大きさの異なる区画が隣接している部分がある請求項6に記載された培養器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体培地を用いる培養、代表的には各種の実験室で比較的小規模に行われる培養に用いる好気性微生物の培養方法と培養器に係る。
【背景技術】
【0002】
液体培地中で好気性微生物を培養する際には、一般に、コンプレッサー等を用いた強制通気操作か、振盪操作を含む機械的拡販操作のうちの一つあるいは、両方が行われる。例えば、大量に培養する際に用いられるジャーファーメンターといった培養器は、通気しながら攪拌を行う機能が備わっている。
【0003】
しかし、これらの装置では、機械的通気・攪拌操作にともなって必然的に微生物に物理ストレスが加わるため、培養される微生物はその影響を常に受けている。したがって、物理ストレスを受けていない状態の微生物の性能を発揮させることができない。
【0004】
特許文献1は、培養される好気性微生物にストレスをかけることなく微細気泡発生装置でジャーファーメンター内に空気を供給することが提案されている。
【0005】
一方、比較的少量の培養では、回転式や往復式の振盪器がもっぱら利用される。これらは、上記の物理的ストレスに加えさらに以下の様な課題がある。
【0006】
第一に、機械通気・攪拌操作にともなって発生する熱が微生物に望ましくない場合には、培養液を冷却するために、さらに電力を必要とする。第二に、機械通気・攪拌により雑菌汚染される危険性が高まる。第三に、雑菌汚染させる危険性を防ぐための構造が必要となる。また第四に機械通気・攪拌のための装置が必要である。
【0007】
これらの問題点を解決できる提案としては、培養が完結するまで、密閉空間に培地と微生物を閉じ込め、静置することが必要と考えられる。特許文献2には、光合成微生物を培養する際にリアクターと呼ばれる3層構造の袋の中に培地と微生物を封入し、培地より比重の重い溶媒中に浮かべるという提案が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-58816号公報
【特許文献2】国際公開第2008/153202号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2は、培養液収納バッグと、水素ガスバリアー性バッグと、それらを覆う被覆バッグの3層から構成され、しかも培養液より比重の重い液体中に浮かせるため、仮に空気と触れる面から空気を取り込めたとしても、好気性微生物を培養するには、酸素の供給が不十分となる。また、培地の交換については特に考慮されていない。
【0010】
本発明は上記のような課題に鑑みて想到されたもので、好気性微生物に攪拌、振盪といった物理的なストレスを与えることなく培養でき、さらに新しい培地の追加も可能な培養方法および培養器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
より具体的に本発明に係る好気性微生物の培養方法は、
ガス透過性を有するフィルムで形成された培養器となる袋に微生物と培地を充填する工程と、
前記培養器を液密に封止する工程と、
前記培養器を、メッシュ状支持体に載置する工程を含むことを特徴とする。
【0012】
また本発明に係る培養器は、
ガス透過性を有するフィルムで形成され、好気性微生物と培地を封入する袋と、
前記袋を静置する支持体を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る培養器によれば、高い酸素透過性を有するフィルム素材からなる袋状の培養器であって、培養液を直接流動あるいはガス交換するチューブ等の構造を持たないため、容器内壁に直接接触する培養液容積を全培養液容積に対して相対的に大きくすることができる。そのため、培養中の微生物に対し十分な酸素を供給し、静置して培養することによって、培養中の微生物に加わる物理的ストレスを顕著に低下させ、代謝物生産性を向上させることができる。
【0014】
また、透過性を有する樹脂製フィルムを袋状にして、クリップを用いて液密上に区分けするので、一つの区画で培養が進んだら、クリップを外して、新たな培養液と培養空間を液密を壊すことなく与えることができ、微生物にストレスを与えることなく培養を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る培養器に第1区画と第2区画が設けられた状態を示した図である。
【
図2】本発明に係る培養器の作製過程を示す図である。(a)はフィルムを丸めた状態を示す。(b)は、一端を封止し、袋にした状態を示す。
【
図3】微生物と培地を入れ、クリップで密閉し第1区画を作った状態を示す図である。
【
図4】メッシュ状支持体上に袋を載置した状態を示す図である。
【
図5】組換え大腸菌を使いペルオキシダーゼを産生させた場合の結果を示す図である。(a)はペルオキシダーゼ活性を示し、(b)は菌体あたりのペルオキシダーゼ活性量を示す。
【
図6】組換えB.chosinensisを使いペルオキシダーゼを産生させた場合の結果を示す図である。(a)はペルオキシダーゼ活性を示し、(b)は菌体あたりのペルオキシダーゼ活性量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明に係る培養方法および培養器について図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。なお、微生物の活性とは、単位時間あたりの増殖数若しくは産生物の量とする。
【0017】
図1に本発明に係る培養器の概要を示す。培養器1は袋10と、袋10の途中を区切ることのできるクリップ12と
図4に示す支持体20で構成される。袋10は、ガス透過性を有するフィルム9が好適に利用できる。ガス透過性という観点からはポリメチルペンテンが好適に利用できる。封止する好気性微生物に十分な酸素を供給するためである。
【0018】
図2(a)を参照する。フィルム9は、筒状にし、側面に当たる部分10sおよび一端10aを溶着することで袋状に加工できる。袋10にした状態は
図2(b)に示す。袋10の他端10bは開放されている。ここから培地と微生物等を投入する。
【0019】
袋10を構成するフィルム9の厚さは、できるだけ薄い方が望ましい。例えば、1μmから500μmの厚さが利用することができる。薄すぎると、強度がもたないし、厚すぎるとガスの透過性が低下し、好気性微生物への酸素の供給が行えないか、不十分になる。
【0020】
また、フィルム9は透明であるのが好ましい。袋10にした際に袋10内での培養の進み具合が目視で確認できるからである。
【0021】
図3を参照する。クリップ12は、袋10を液密に区分でき、さらにそれを開放できるものであれば、特に構成は問わない。
図1では、上下のバー12a、12bで袋10の途中を挟むことで、液密に区分できるクリップ12を示した。しかし、ゴムや紐のようなもので袋10の途中を縛ることで、袋10を分割してもよい。したがって、本発明においてクリップ12は、ゴムや紐といった拘束手段も含む。
【0022】
袋10に培地を充填し微生物を入れ、クリップ12で充填した部分だけを液密に封止する。微生物と培地が充填された部分を第1区画10Aと呼ぶ。また、第1区画10Aの厚さの最も大きな部分の厚みを厚みt1とする。なお、ここでは第1区画10Aを作ったクリップ12をクリップ12αとしておく。そして、第1区画10Aに隣接した部分に培地だけを注入し再びクリップ12で封止する。
図1はこの状態を示している。
【0023】
再度
図1を参照する。第1区画10Aの隣に培地だけが封入された部分ができる。ここを第2区画10Bと呼ぶ。第2区画10Bの厚さの最も厚い部分の厚みを厚みt2とする。第2区画10Bは再度クリップ12で封止される。このクリップ12をクリップ12βと呼ぶ。したがって、培養器1は、ガス透過性のあるフィルム9で形成された袋10をクリップ12で区画分けし、微生物と培地を封入した第1区画10Aと、培地だけを封入した第2区画10Bで形成されている。なお、本発明は第1区画10Aだけの場合を排除しない。
【0024】
本発明の培養方法では、微生物と培地を入れた袋10を静置させるだけで培養する。したがって、フィルム9の表面から培地の中心部分まで酸素が通る必要がある。したがって、少なくとも第1区画10Aの厚みt1は一定値以下にしておく必要がある。第1区画10Aの厚みt1は培養する微生物と使用するフィルム9の厚みで変動するが、20mm以下であるのが望ましい。なお、第1区画10Aの厚みt1の下限は、フィルム9の厚みの2倍以上であればよい。第2区画10Bについても同様の厚みt2に揃えておくのが望ましい。
【0025】
また、第2区画10Bは第1区画10Aより小さい面積(体積)であっても大きい面積であってもよい。この方法によれば、第1区画10Aで培養した後に、より大量の培地と培養空間を付与する、新たな基質を補給する、ホルモンなどの生理活性を新たに供給する、第2区画10Bに特定の物質に対する吸収剤等を存在させることにより培養中に微生物が分泌した物質を吸着させる、などの操作を容易に行うことができる。これらによって一回の培養で得られる細胞量を増やす、新たな条件を微生物に与え代謝を調節して有用物質生産性を高める、微生物が分泌し微生物に悪影響を与える物質を低減する、分泌性の有用な物質の回収を容易にする、といったことが期待できる。
【0026】
図4を参照する。
図1の様に準備された培養器1を支持体20上に載置する。
図4では、袋10の全表面のうち、できるだけ多くの面積をガス交換に使用するためにメッシュ支持体20上に培養器1を載置している。支持体20は袋10が投影されるエリアにおいてガス交換が妨げられないように通気可能な素材あるいは形状のものとし、袋10の表面の気相への露出面積を多くすることが望ましい。
【0027】
支持体20は培地および微生物が封入された袋10を載置した際に水平に載置できるものが好ましい。培養の期間袋10はほぼ動かされることがないため、袋10に機械的歪ができるだけ少ないようにするためである。
【0028】
また、支持体20は開口が大きすぎると、開口から袋10が弛んで下がる。袋10の部分的落下部(最下部)が最上部から20mm未満となるように支持体20の開口部の形状を決定するのが望ましい。
【0029】
なお、支持体20は、いわば袋10の下面に空気と接する部分を増やすことが目的であるので、メッシュ状、格子状、剣山状や、その他の幾何的およびランダムな開口の組み合わせであってもよい。このように開口が形成された支持体20をここではメッシュ状支持体20と呼ぶ。なお、袋10を支持するために、袋10の下面に接する支持体20の面積に対して、接していない部分の面積が袋10の裏面全面積に対する割合を開口率と呼ぶ。メッシュ状支持体20の開口率は50%以上であるのが好ましい。
【0030】
また、支持体20の下方は空気が十分に通過できる程度の空間が設けられているのがよい。また、支持体20は、棚状になっており、複数の袋10が載置される状態であってもよい。
【0031】
本発明に係る好気性微生物の培養方法は以下の手順による。まず、ガス透過性のフィルム9を用いて袋10を作製する。封じるためには、フィルムを溶着する、接着する、クリップ留めする方法のいずれかあるいは組み合わせることができる。
図2で説明したように、筒状体を作って一端10aを液密に封じるようにして袋10を形成する他、筒状体を作って一端10aをまずクリップ12で密封することで袋10を作ってもよい。あるいは2枚のガス透過性のフィルム9を重ね、その3辺を溶着あるいは接着してもよい。
【0032】
培地と好気性微生物は、この状態で袋10に入れられ、次にクリップ12αを使用、あるいは溶着・接着して液密に封じ込める。この際、この封じ込めた空間には空気は入らない方が好ましい。ガス交換は液体との間で行われるため、空気が入ると、ガス交換の面積が実質的に減り、あるいは、液厚にむらが生じ、再現性が低下するからである。好気性微生物と培地が封止された区画が第1区画10Aである。
【0033】
次に第1区画10Aに、クリップ12αを介して隣接する部分に培地だけを入れ、袋10の他端10bをクリップ12βあるいは溶着・接着して密閉し、第2区画10Bを形成する。培地だけが入った部分は第2区画10Bである。この状態で、支持体20の上に載置する。
【0034】
培養は、支持体20上に培地および微生物が封入された袋10を載置したら、そのまま放置で行われる。なお、袋10の周囲の湿度は80%~100%であるのが望ましい。ガス透過性フィルムは、水分子も通過させるので、本発明のようにガス透過性フィルムで構成された袋10に微生物と培地を入れて静置させるだけの方法では、周囲の湿度が低いと、培地中の水分がどんどん抜けていってしまうからである。
【0035】
培養の進行は、好気性微生物の増殖具合や、産生物の量などが目安になるが、透過率や時間で決めることができる。増殖具合を濁度で求める場合は、フィルム9ごしに観測することができる。一定の培養期間が経過したら、第1区画10Aと第2区画10Bの間のクリップ12αを取り去る。すると第2区画10B中の培地が第1区画10Aの培地と混じり、微生物にとっては新たな成分を得ることができる。
【0036】
また、微生物が増加している場合は、第2区画10B分だけ占有できる空間が増える。このように培養の進みに応じて新たな培地と培養空間を得ることで、微生物はさらにストレスなく培養される。
【0037】
なお、第2区分10Bは、培地以外の成分が含まれていてもよい。培養が進むに従って与える栄養の種類を変えることができるからである。
【0038】
以上のように本発明に係る好気性微生物の培養方法では、袋10に封入した微生物と培地を静置させておくだけであるので、微生物に物理的ストレスがかからない。また、培養が進んだ際に、新たな培地および培養空間はクリップ12を取り去るだけで供給されるので、ほとんどストレスなく操作することができる。
【0039】
また、植物の不定根、糸状菌の菌糸など、培養中に塊をなすことが起こりやすい微生物にあっては、定期的にフィルム9ごしに当該微生物の塊をほぐし、培地中に常に分散させられるので、当該微生物塊の内部への基質供給が妨げられることによる培養効率の低下を防ぐことができる。
【実施例0040】
(実施例1)
<ペルオキシダーゼを生産する組換え大腸菌の培養>
フィルム厚さ50μmのTPX製フィルムを用いて、縦4cm、横7cmの袋状の容器を作った。組換え大腸菌として、IPTGで誘導可能であって、植物由来のペルオキシダーゼ遺伝子発現カセットを連結したプラスミドを有する株を用いた。
【0041】
TB培地100mLを入れた500mLフラスコで37℃で振とう培養し、濁度(OD600)が2.1に達した時点で、その培養液2mLを当該容器に入れ、終濃度0.05mMのIPTGを添加してから開口部を融着することによって完全に密閉した。そのまま37℃で16時間静置した(TPX区)。TPX区は本発明の実施例サンプル1-1に当たる。
【0042】
対照区サンプル1-1として、低密度ポリエチレン製フィルム(酸素透過性はTPXの1/8程度とされる)をTPX製フィルムの場合と同様に静置培養に用いた(LDPE区)。
【0043】
対照区サンプル1-2として、外径30mm、長さ115mmのポリプロピレン製コニカルチューブに培養液2mLを入れ、同様にIPTG添加後37℃で16時間静置した(S-T区)。
【0044】
対照区サンプル1-3は常法の振とう培養である。外径30mm、長さ115mmのポリプロピレン製コニカルチューブに培養液2mLを入れ、振とう培養器を使用して200rpm、37℃で16時間振とう培養した(200R-T区)。
【0045】
図5(a)は培養液あたりのペルオキシダーゼ総活性量(U/mL:縦軸)であり、
図5(b)は菌体あたりのペルオキシダーゼ総活性量(U/OD
600・10:縦軸)を示している。それぞれ横軸はサンプル種を表す。
【0046】
有意差検定の結果、培養液あたりのペルオキシダーゼ総活性量はTPX区と200R-T区に差が無く(
図5(a))、菌体あたりのペルオキシダーゼ総活性量は、TPX区で有意に大きかった(
図5(b))。なお、
図5(b)でLDPE区が高いのは、菌体量が少なかったことに起因するのであって生産効率は低い。したがって、本発明により、微生物静置培養において常法と同等以上の生産効率を達成した。これは十分な酸素供給が行われる状況で静置培養した結果、ストレスなく培養され、活性効率が高まった結果であると言える。
【0047】
(実施例2)
<ペルオキシダーゼを生産する組換えBrevibacillus chosinensisの培養>
植物由来のペルオキシダーゼを分泌生産する組換えB.chosinensisを用いた。B.chosinensisは、実施例1に示した大腸菌よりも酸素濃度の低下に敏感である。フィルム厚さ50μmのTPX製フィルムを用いて、縦4cm、横7cmの袋状の容器を作った。
【0048】
MT培地100mLを入れた500mLフラスコでB.chosinensisを37℃で16時間振とう培養し、その培養液2mLを当該容器に分注し、開口部を融着することによって完全に密閉した。そのまま37℃で72時間静置した(TPX区)。TPX区は本発明の実施例サンプル2-1に当たる。
【0049】
対照区サンプル2-1として、低密度ポリエチレン製フィルムをTPX製フィルムの場合と同様に静置培養に用いた(LDPE区)。
【0050】
対照区サンプル2-2として、外径30mm、長さ115mmのポリプロピレン製コニカルチューブに培養液2mLを入れ、37℃で72時間静置した(S-T区)。
【0051】
対照区サンプル2-3は振とう培養とした。外径30mm、長さ115mmのポリプロピレン製コニカルチューブに培養液2mLを入れ、振とう培養器を使用して180rpm、37℃で72時間振とう培養した(180R-T区)。
【0052】
図6(a)は培地中のペルオキシダーゼ総活性量(U/mL:縦軸)、
図6(b)は、菌体あたりのペルオキシダーゼ総活性量(U/OD
600・10:縦軸)を示している。いずれのグラフも横軸はサンプル種類である。
図6(a)および
図6(b)のいずれにおいても本発明によるもの(TPX)が有意に大きかった。したがって、本発明により、微生物静置培養において常法以上の生産効率を達成した。これは十分な酸素供給が行われる状況で静置培養した結果、ストレスなく培養され、活性効率が高まった結果であると言える。