IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋製罐株式会社の特許一覧

特開2025-123089塑性加工用樹脂被覆金属板及び該金属板を用いての金属製有底筒状体の製造方法
<>
  • 特開-塑性加工用樹脂被覆金属板及び該金属板を用いての金属製有底筒状体の製造方法 図1
  • 特開-塑性加工用樹脂被覆金属板及び該金属板を用いての金属製有底筒状体の製造方法 図2
  • 特開-塑性加工用樹脂被覆金属板及び該金属板を用いての金属製有底筒状体の製造方法 図3
  • 特開-塑性加工用樹脂被覆金属板及び該金属板を用いての金属製有底筒状体の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025123089
(43)【公開日】2025-08-22
(54)【発明の名称】塑性加工用樹脂被覆金属板及び該金属板を用いての金属製有底筒状体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20250815BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20250815BHJP
   B21D 22/28 20060101ALI20250815BHJP
   B21D 51/26 20060101ALI20250815BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20250815BHJP
   B65D 25/34 20060101ALI20250815BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20250815BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20250815BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20250815BHJP
【FI】
B32B15/08 E
B21D22/20 G
B21D22/28 B
B21D51/26 Z
B21D22/20 A
B32B15/08 F
B32B15/09 A
B65D25/34 C
C10M101/02
C10N40:24
C10N30:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024018958
(22)【出願日】2024-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内野 翔太
(72)【発明者】
【氏名】金澤 清太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 芳明
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 紗代子
【テーマコード(参考)】
3E062
4E137
4F100
4H104
【Fターム(参考)】
3E062AA09
3E062AA10
3E062AC09
3E062JA01
3E062JC02
3E062JD03
3E062JD04
3E062JD08
4E137AA07
4E137BA01
4E137BA05
4E137BB01
4E137BC09
4E137CA07
4E137CA09
4E137CA24
4E137CA26
4E137DA11
4E137DA13
4E137EA02
4E137EA25
4E137GA02
4E137GB15
4E137GB16
4F100AB01B
4F100AB10B
4F100AB31B
4F100AH01C
4F100AH01E
4F100AK01A
4F100AK01D
4F100AK41A
4F100AK41D
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100BA10E
4F100EH46
4F100EJ42
4F100GB16
4F100JA04C
4F100JA04E
4F100YY00C
4F100YY00E
4H104DA02A
4H104LA03
4H104PA23
4H104QA12
(57)【要約】
【課題】樹脂被覆金属板を用いて塑性加工を行うに際し、金属板上の樹脂被覆に損傷を与えることなく、さらには、潤滑剤除去のための熱処理時での樹脂被覆の損傷が有効に抑制されるように潤滑剤が塗布されている塑性加工用樹脂被覆金属板を提供する。
【解決手段】樹脂被覆された樹脂被覆金属板10において、樹脂被覆金属板10の樹脂被覆3の表面には、流動パラフィンと固体パラフィンとの混合パラフィンからなるコーティング膜層5が形成されていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂被覆された塑性加工用樹脂被覆金属板において、
前記金属板の樹脂被覆表面には、流動パラフィンと固体パラフィンとの混合パラフィンからなるコーティング膜が形成されていることを特徴とする塑性加工用樹脂被覆金属板。
【請求項2】
前記混合パラフィンの融点が64℃未満である請求項1に記載の塑性加工用樹脂被覆金属板。
【請求項3】
前記混合パラフィンにおいて、前記固体パラフィン(A)と前記流動パラフィン(B)とは、A:B=80:20~95:5の質量比で混合されている請求項1に記載の塑性加工用樹脂被覆金属板。
【請求項4】
前記樹脂被覆には、ポリエステル樹脂が使用されている請求項1に記載の塑性加工用樹脂被覆金属板。
【請求項5】
前記樹脂被覆は、前記金属板の両面に形成されており、両面の樹脂被覆のそれぞれに、前記コーティング膜が形成されている請求項1に記載の塑性加工用樹脂被覆金属板。
【請求項6】
前記金属板の一方の側に形成されているコーティング膜は、前記金属板の他方の側に形成されているコーティング膜よりも厚く形成されている請求項5に記載の塑性加工用樹脂被覆金属板。
【請求項7】
前記金属板の一方の側に形成されているコーティング膜の厚みは20~120mg/mであり、他方の側に形成されているコーティング膜の厚みは、一方側のコーティング層の厚みの50~80%の範囲にある請求項6に記載の塑性加工用樹脂被覆金属板。
【請求項8】
前記金属板は、純アルミニウム製或いはアルミニウム合金製である請求項1に記載の塑性加工用樹脂被覆金属板。
【請求項9】
請求項1~8の何れかに記載の塑性加工用樹脂被覆金属板を用意し、
少なくとも前記混合パラフィンのコーティング膜が形成されている側の面が内面に存在するように、前記金属板を塑性加工して有底筒状体を得、
前記有底筒状体の上部をトリミングし、
次いで、トリミングされた前記有底筒状体を180℃~210℃の温度に加熱して付着潤滑剤を除去することを特徴とする樹脂被覆金属製有底筒状体の製造方法。
【請求項10】
前記潤滑剤の除去後に、後加工に供する請求項9に記載の樹脂被覆金属製有底筒状体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塑性加工用樹脂被覆金属板に関するものであり、さらには、該樹脂被覆金属板を用いての塑性加工により金属製有底筒状体(例えば金属缶や金属カップ)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属の塑性加工(打ち抜き、曲げ、絞り、しごきなど)によって得られる金属製有底筒状体(金属缶や金属カップなど)は、その内面や外面がポリエステルなどの樹脂により被覆されており、これにより、耐腐食性や印刷適性などが高められている。
【0003】
ところで、上記の様な樹脂被覆が施されている金属製有底筒状体は、当然のことながら、少なくとも一方の面が樹脂被覆された金属板を素材として塑性加工により得られる。このような塑性加工には、大きな曲げ加工やしぼり、しごきなどの過酷な加工が含まれるため、加工時における樹脂被覆の損傷や剥がれを回避し、さらには加工に用いる治具の引き抜きなどをスムーズに行うため、樹脂被覆の表面には潤滑剤を塗布して塑性加工が行われる(特許文献1~3参照)。潤滑剤を塗布せず、スプレーなどの手段で供給する場合には、潤滑剤が良好に機能しないためである。樹脂被覆の表面に残存している潤滑剤は、所定の加工が行われた後、加熱処理によって除去されることになる。
【0004】
しかしながら、潤滑剤が塗布された従来の樹脂被覆金属板を用いて塑性加工を行った場合、塑性加工の最中に潤滑剤が脱落してしまい、この結果、樹脂被膜の損傷や剥がれを生じ易く、さらには、塑性加工に用いる治具への潤滑剤等のビルドアップなどが生じ、治具が汚染されるという不都合を生じ易いという問題があった。このような不都合を確実に回避するためには、融点の高い潤滑剤を使用することが考えられるが、この場合には、潤滑剤除去の加熱処理により、加工品の表面に形成されている樹脂被覆が損傷を受けてしまうという問題が生じてしまい、その改善が必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2508910号公報
【特許文献2】特許第2526725号公報
【特許文献3】特許第3794265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、樹脂被覆金属板を用いて塑性加工を行うに際し、金属板上の樹脂被覆に損傷を与えることなく、さらには、潤滑剤除去のための熱処理時での樹脂被覆の損傷が有効に抑制されるように潤滑剤が塗布されている塑性加工用樹脂被覆金属板を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記の樹脂被覆金属板を用いて金属製有底筒状体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、樹脂被覆された塑性加工用樹脂被覆金属板において、
前記金属板の樹脂被覆表面には、流動パラフィンと固体パラフィンとの混合パラフィンからなるコーティング膜が形成されていることを特徴とする塑性加工用樹脂被覆金属板が提供される。
【0008】
本発明における塑性加工用樹脂被覆金属板では、次の態様が好適に採用される。
(1)前記混合パラフィンの融点が64℃未満であること。
(2)前記混合パラフィンにおいて、前記固体パラフィン(A)と前記流動パラフィン(B)とは、A:B=80:20~95:5の質量比で混合されていること。
(3)前記樹脂被覆には、ポリエステル樹脂が使用されていること。
(4)前記樹脂被覆は、前記金属板の両面に形成されており、両面の樹脂被覆のそれぞれに、前記コーティング膜が形成されていること。
(5)前記金属板の一方の側に形成されているコーティング膜は、前記金属板の他方の側に形成されているコーティング膜よりも厚く形成されていること。
(6)前記金属板の一方の側に形成されているコーティング膜の厚みは20~120mg/mであり、他方の側に形成されているコーティング膜の厚みは、一方側のコーティング層の厚みの50~80%の範囲にあること。
(7)前記金属板は、純アルミニウム製或いはアルミニウム合金製であること。
【0009】
本発明によれば、また、上記塑性加工用樹脂被覆金属板を用意し、
少なくとも前記混合パラフィンのコーティング膜が形成されている側の面が内面に存在するように、前記金属板を塑性加工して有底筒状体を得、
前記有底筒状体の上部をトリミングし、
次いで、トリミングされた前記有底筒状体を180℃~210℃の温度に加熱して付着潤滑剤を除去することを特徴とする樹脂被覆金属製有底筒状体の製造方法が提供される。
かかる製造方法では、前記潤滑剤の除去後に、後加工に供することが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塑性加工用樹脂被覆金属板は、塑性加工に使用される従来公知の樹脂被覆金属板と同様、樹脂被覆の上に滑剤がコーティングされているが、このような潤滑剤として、流動パラフィンと固体パラフィンとの混合パラフィンが使用されていることが、本発明の大きな特徴である。
【0011】
即ち、低融点の潤滑剤を使用すれば、塑性加工に際して高い流動性を示すため、その脱落を生じ易く、この結果、十分な潤滑性が安定に発揮されず、樹脂被覆の損傷、剥がれなどが生じ易くなってしまい、場合によっては塑性加工に用いる治具に潤滑剤がビルドアップしてしまい、治具が潤滑剤で汚染されてしまう。しかし、このような低融点の潤滑剤は、低温(例えば210℃以下)での加熱により速やかに除去できるため、潤滑剤除去のための熱処理時での樹脂被覆の損傷を回避するという点では優れている。一方、高融点の潤滑剤を用いた場合には、塑性加工に際して、脱落せずに、樹脂被覆上にしっかりと保持されるため、優れた潤滑性を発揮し、塑性加工時での樹脂被覆の損傷或いは潤滑剤の治具上へのビルドアップなどの不都合が有効に回避される。しかしながら、この場合には、潤滑剤除去のための熱処理を高温で行わなければならず、従って、このような熱処理時に樹脂被覆の損傷や剥がれなどが生じ易くなってしまう。
【0012】
このように、低融点の潤滑剤及び高融点の潤滑剤の何れを使用した場合にも、塑性加工時或いは潤滑剤のための熱処理時の何れかで樹脂被覆の損傷や剥がれを生じてしまう。しかしながら、本発明では、このような不都合が、流動パラフィンと固体パラフィンとの混合パラフィンを潤滑剤として使用することにより解決されている。このような混合パラフィンの使用により、何故、上記の問題が解決されるかについて、正確な理由は不明であるが、本発明者等は次のように推定している。
即ち、流動パラフィンは低融点成分であり、固体パラフィンは高融点成分であるが、これらは相溶一体化しており、融点降下により、見かけ上、低融点成分として挙動する。このため、低温での熱処理(例えば210℃以下)により速やかに除去することができる。さらに、このような混合パラフィンでは、当然、固体パラフィンに由来する高分子量成分(鎖長の長い成分)が含まれている。従って、このような高分子量成分により、塑性加工時において、混合パラフィンが樹脂被覆から脱落せず、安定に保持され、潤滑剤として機能し、樹脂被覆の損傷や脱落が有効に防止されているものと考えられる。
【0013】
上述した本発明の塑性加工用樹脂被覆金属板では、潤滑剤として機能する混合パラフィンの脱落が有効に回避され、樹脂被覆の損傷や剥がれを有効に回避して塑性加工を行うことができ、しかも、樹脂被覆の損傷や剥がれが生じない程度の低温で、熱処理による混合パラフィンの除去を行うことができる。従って、このような混合パラフィンがコーティングされている樹脂被覆金属板を用いての塑性加工により、内面或いは外面に樹脂被覆が形成されている樹脂被覆金属製有底筒状体(例えば金属缶や金属カップ)を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の塑性加工用樹脂被覆金属板を示す側断面図。
図2図1の塑性加工用樹脂被覆金属板により製造される金属製有底筒状体の一例である金属カップの外観形状を示す概略図。
図3図1の塑性加工用樹脂被覆金属板により製造される金属製有底筒状体の一例である金属缶の外観形状を示す概略図。
図4図1の塑性加工用樹脂被覆金属板を用いての塑性加工により図2或いは図3に示す金属製有底筒状体を製造する工程を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<樹脂被覆金属板>
図1を参照して、全体として10で示されている本発明の樹脂被覆金属板は、塑性加工に供されるものであり、金属素板1と、この素板1上に形成されている樹脂被覆3と、樹脂被覆3上に形成されている潤滑剤コーティング膜層5とからなっている。
【0016】
金属素板1としては、塑性加工が可能である限り制限されないが、一般的には、各種の表面処理鋼板や、純アルミニウムやアルミ合金などのアルミニウム板など、それ自体公知の金属板である。このような金属素板1の厚みは、材質によっても異なるが、通常、0.10~0.50mm程度である。
【0017】
図1においては、素板1の両面に樹脂被覆3が設けられているが、塑性加工によって得られる成形品の用途などによっては、一方の表面にのみ樹脂被覆3が設けられていてもよい。このような樹脂被覆3により、耐腐食性、耐傷性などが向上する。
【0018】
樹脂被覆3としては、特に制限されず、熱硬化性樹脂或いは熱可塑性樹脂からなる塗料や熱可塑性樹脂フィルムなどにより形成されていてよいが、特に後述するカップや缶などの有底筒状体の成形に用いる場合には、曲げ性などの観点から熱可塑性樹脂フィルムにより形成されていることが好ましい。
【0019】
このような熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリルエステル共重合体、アイオノマー等のオレフィン系樹脂フィルム;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PET)、エチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体等のポリエステルフィルム;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミドフィルム;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の含塩素系樹脂フィルム;を挙げることができる。
本発明においては、特に柔軟性や耐熱性などの観点から、ポリエステルフィルム、中でもPETフィルムが好適である。
【0020】
また、上記の熱可塑性樹脂フィルムは、金属素板1の材質に応じて適宜の分子量を有するものが使用され、例えば、金属素板1が表面処理鋼板などのスチール製の場合には、塑性加工時の摩擦熱が大きいことから、比較的高分子量であり、高融点(例えば220℃以上)の熱可塑性樹脂からなるフィルムが使用され、金属素材1が純アルミニウムやアルミニウム合金などのアルミニウム製である場合には、大きな曲げ加工などが行われるため、大きな柔軟性が要求されることから、比較的低分子量であり、低融点(例えば220℃未満)のものが好適に使用される。勿論、このような熱可塑性樹脂フィルムは、金属素板1の隠蔽のため或いはシワの発生抑制などのために各種の顔料或いはフィラーを適宜の量で含んでいてもよい。
【0021】
上述した熱可塑性樹脂フィルム(樹脂被覆3)の金属素板1上の被覆は、熱融着法、ドライラミネーション、押出コート法などにより行うことができる。また、金属素板1との接着性、熱融着性が乏しい場合には、それ自体公知の接着剤、例えば、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、酸変性オレフィン樹脂系接着剤、コポリアミド系或いはコポリエステル系の接着剤を、熱可塑性樹脂フィルム(樹脂被覆3)と金属素板1との間に介在させることができる。
【0022】
このような熱可塑性樹脂フィルムは、延伸されていてもよいし、未延伸であってもよい。熱融着法により金属素板1上に被覆させる場合には、未延伸の状態で樹脂被覆3が形成されることとなる。
【0023】
尚、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂の塗料により樹脂被覆3を形成する場合において、このような塗料としては、以下のものが代表的である。
フェノール・エポキシ塗料、アミノ-エポキシ塗料等の変性エポキシ塗料;
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体部分ケン化物、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体、エポキシ変性-、エポキシアミノ変性-或いはエポキシフェノール変性-ビニル樹脂塗料等のビニル又は変性ビニル塗料;
アクリル樹脂系塗料;
スチレン-ブタジエン系共重合体等の合成ゴム系塗料;
【0024】
上記の様な塗料は、エナメル或いはラッカー等の有機溶媒溶液の形で、或いは水性分散液又は水溶液の形で、ローラ塗装、スプレー塗装、浸漬塗装、静電塗装、電気泳動塗装等の形で金属素板1に施すことができ、熱硬化性の場合には、必要により塗料を焼付ける。
このような塗料から形成される樹脂被覆の厚みは、通常、2乃至30μm程度である。
【0025】
上述した樹脂被覆3の上には、潤滑剤のコーティング膜層5が設けられ、これにより、過酷な塑性加工に際して、樹脂被覆3の損傷や剥がれを有効に回避する。即ち、このような潤滑剤のコーティング膜層5が設けられていない場合には、塑性加工時に、潤滑剤の液をスプレー等により供給することになるが、このような手段では、加工に用いる治具と樹脂被覆金属板10との間に潤滑液を安定に存在させることが困難であり、どうしても樹脂被覆3の損傷等を生じ易くなってしまう。このような不都合を回避するために、樹脂被覆3の上に潤滑剤のコーティング膜層5を設けておき、塑性加工に際して、必ず、治具と加工面との間に潤滑剤を存在させるわけである。
【0026】
本発明においては、このような潤滑剤として、流動パラフィンと固体パラフィンとの混合パラフィンを用いてコーティング膜層5が形成されている。このような混合パラフィンの使用により、塑性加工時の樹脂被覆3の損傷や剥がれが有効に防止されると同時に、塑性加工後の熱処理により成形品の表面に残る潤滑剤(混合パラフィン)を、樹脂被覆3の損傷や剥がれを生じさせることなく、取り除くことが可能となる。
【0027】
尚、固体パラフィン(固形パラフィンとも呼ばれる)及び流動パラフィンは、何れも石油の蒸留により得られる炭化水素であり、これらは、互いに相溶する。固体パラフィンは、融点が常温(25℃)より高く、炭素数分布が20~40程度であり、俗にパラフィンワックスと呼ばれる。一方、流動パラフィンは、常温で液体であり、一般に、炭素数分布が15~35程度である。
【0028】
本発明では、塑性加工時に治具との摩擦により発生する熱で混合パラフィンからなるコーティング膜層5が脱落せずに樹脂被覆3上に安定に保持され、良好な潤滑性が発揮され、樹脂被覆3の破損が抑制され、また、治具の引き抜き等もスムーズに行われ、治具上での潤滑剤のビルドアップも有効に回避される。例えば、流動パラフィンのみでコーティング膜層5が形成されていた場合には、塑性加工時にコーティング膜層5が脱落してしまい、樹脂被覆3の損傷が生じ易くなり、治具上に潤滑剤のビルドアップも生じ易くなり、治具の引き抜きなどに支障をきたし、生産効率も低下してしまう。一方、固体パラフィンのみでコーティング膜層5を形成した場合には、塑性加工時でのコーティング膜層5の脱落は有効に回避され、樹脂被覆3の剥がれ等が防止されるものの、塑性加工後に行われるコーティング膜層5の除去のために高温で熱処理を行うことが必要となってしまい、この結果、この熱処理の段階で樹脂被覆の剥がれや、加工品表面への潤滑剤のビルドアップなどを生じてしまう。
【0029】
このように、本発明においては、混合パラフィンによりコーティング膜層5を形成することにより、樹脂被覆3の剥がれや損傷等に起因する不都合を有効に防止することができる。
【0030】
本発明において、上記混合パラフィンにおける流動パラフィンと固体パラフィンとの混合比は、両者が相溶することから、融点により決定することができる。例えば、DSCなどの熱分析により測定される融点(ピークトップ温度)が、64℃未満、特に好ましくは50~62℃の範囲となるように、両者の混合比が決定される。この融点が高すぎる場合には、固体パラフィン量が過剰となっているため、この結果、コーティング膜層5を除去するための加熱温度が高温となってしまい、塑性加工後における熱処理によるコーティング膜層5の除去に際して、樹脂被覆3の剥がれ等による不都合が発生し易くなってしまう。また、塑性加工時におけるコーティング膜層5の流動性が乏しくなり、十分な潤滑性が発揮されず、やはり樹脂被覆3の剥がれや損傷が生じ易くなる傾向がある。一方、融点が低すぎると、今度は流動パラフィンの量が過剰となっているため、塑性加工に際してコーティング膜層5の脱落が生じ、樹脂被覆3の剥がれ等による不都合が発生し易くなってしまう。
【0031】
尚、上記の範囲に融点を設定するための混合比率は、用いる流動パラフィンと固体パラフィンの炭素数等に影響されるので一概に決定することはできないが、炭素数が大きな固体パラフィンを用いるほど、流動パラフィンを多く配合することになる。一般的には、固体パラフィン(A)と流動パラフィン(B)とは、A:B=80:20~95:5、特に90:10~95:5の質量比で混合すればよい。両者の混合は、固体パラフィンの融点以上に加熱することにより行われ、溶融状態の混合パラフィンを樹脂被覆3上に塗布し、冷却することにより、コーティング膜層5を形成することができる。
【0032】
尚、固体パラフィンの中には、上述した範囲の融点を有するものも存在する。従って、このような固体パラフィンは、流動パラフィンを混合することなく、上記のような融点を示すが、この場合には、炭素数の小さな低分子量の流動パラフィンを含んでいないため、流動性が乏しく、塑性加工に際しての潤滑性が乏しくなってしまい、樹脂被覆3の剥がれや損傷が生じ易くなってしまう。
【0033】
また、本発明において、コーティング膜層5が流動パラフィンと固体パラフィンとの混合パラフィンとから形成されていることは、GPC等による公知の方法により分子量分布を測定することにより認識することができる。即ち、混合パラフィンでは、分子量分布曲線が、液体状態である低分子量範囲から固体状態である高分子量範囲にわたって非常にブロードなものとなっているか、或いは固体状態の高分子量範囲と液体状態の低分子量範囲のそれぞれにシャープなピークを示す。一方、固体パラフィン或いは流動パラフィンのみでは、融点が混合パラフィンと同じであっても、固体状態の高分子量範囲或いは液体状態の低分子量範囲にのみ分子量のピークが示される。従って、これらの相違から、混合パラフィンの使用を確認することができる。
【0034】
上述した本発明の樹脂被覆金属板10において、コーティング膜層5は、樹脂被覆3上に設けられるものであり、図1に示されているように、樹脂被覆3が金属素板1の両面に設けられている場合には、樹脂被覆3のそれぞれの上にコーティング膜層5が形成されるが、樹脂被覆3が金属素板1の一方側の面にのみ設けられている場合には、一方の樹脂被覆3の上にのみ、コーティング膜層5が形成されることとなる。
【0035】
さらに、上述したコーティング膜層5の厚みは、金属素板の材質や塑性加工の程度に応じて適宜の範囲に設定される。例えば、金属素板1がスチール製のように変形し難い材質の場合には、コーティング膜層5の厚みは比較的厚く、40~120mg/m程度でよいが、金属素板5が純アルミニウムやアルミニウム合金などの比較的変形し易い場合には、コーティング膜層5の厚みはより薄くてよい。
【0036】
また、本発明の樹脂被覆金属板10は、金属製有底筒状体の製造に好適に使用されるが、この金属製有底筒状体の形態によっては、一方の面と他方の面とで塑性加工の程度が大きく異なる場合がある。即ち、成形される金属製有底筒状体の内面と外面とでは、塑性加工に際して加わる負荷が異なる場合がある。このような場合には、樹脂被覆金属板10の大きな負荷がかかる側の面に(例えば内面となる面)、厚みの厚いコーティング膜層5を形成することが好ましい。厚みの厚いコーティング膜層5の膜厚としては、20~120mg/m、特に、20~100mg/m、40~90mg/mの範囲に設定することが好ましい。例えば、大きな負荷が加わる一方側の面でのコーティング膜層5の厚みを20~120mg/m程度に設定したとき、反対側の他方の面でのコーティング膜層5の厚みは、一方側のコーティング膜層5の厚みの50~80%、特に50~60%の範囲に設定することが好ましい。特にアルミニウム製(純アルミニウム或いはアルミニウム合金)の金属素板1が使用されている場合には、上記のように、コーティング層5の厚みを変えることが最適である。
【0037】
<金属製有底筒状体>
上述した本発明の樹脂被覆金属板10は、これを塑性加工に供することにより、金属製有底筒状体の製造に好適に使用される。
このような金属製有底筒状体の代表的な例は、図2に示す金属カップ20や図3に示す金属缶30である。
【0038】
図2の金属カップ20は、胴部21と底部23とを備え、上端にはカール部25が形成されている。このような形態の金属カップ20は、通常、蓋を装着せず、空の状態で販売され、一般の需要者は、これに飲料を充填し、飲料の喫飲に使用される。このため、胴部21の上端には、カール部25が形成され、飲み易いような形態となっているわけである。また、多数の金属カップ20を積み重ねて保管できるように、胴部21の上端の開口径d1が底部23の外径d2よりも大きく、胴部21が底部に向かって縮経された傾斜壁となっており、積み重ねて保管し易いような形態となっている。
【0039】
このような形態の金属カップ20では、通常、両面に樹脂被覆3を有する樹脂被覆金属板10を用いて成形されるが、底部23側が縮経されているため(繰り返し絞り加工が行われる)、塑性加工に際して外面側よりも内面側に大きな負荷がかかり、このため、前述した樹脂被覆金属板10の内面側の面のコーティング膜層5が外面側よりも厚く形成されている。
【0040】
一方、図3の金属缶30は、胴部31と底部33とを備えているが、胴部31はほぼ直胴状態となっており、その上部には、縮経されたネックイン35とフランジ37とが形成されている。このような金属缶30は、通常、内容液が充填された後に、上端に蓋(図示せず)が装着して販売に供され、内容物が取り出された後は、廃棄され、適宜回収される。このため、蓋を装着するためにフランジ37が形成され、フランジ37を形成するための過程でネックイン35が形成されるわけである。
【0041】
このような形態の金属缶30では、胴部31が大きく薄肉化され、特にアルミニウム缶では極端に薄肉化され(繰り返ししごき加工が行われる)、ハイトHが高くなっている。このような金属缶30では、塑性加工(しごき加工)に際して内面側に大きな負荷がかかり、このため、前述した樹脂被覆金属板10の内面側の面のコーティング膜層5が外面側よりも厚く形成されている。先にも述べたように、特にアルミニウム缶では、過酷なしごき加工による極薄肉化により缶のハイトHが高く設定されるため、内面側の面のコーティング膜層5をより厚肉に設定される。
【0042】
<金属製有底筒状体の製造>
本発明の樹脂被覆金属板10を用いての金属製有底筒状体の製造は、図2の金属カップ20或いは図3の金属缶30を例にとれば、図4に示すプロセスにより行われる。
【0043】
図4を参照して、本発明の樹脂被覆金属板10は、先ず、打ち抜き加工に供せられる。即ち、打抜きパンチ51と打抜きダイ53によって、樹脂被覆金属板10を打ち抜き、円板55と打ち抜き残渣57とを得る(図4(a)参照)。
【0044】
次いで、図4(b)に示すように、絞り加工により、上記の円板55から絞りカップ(有底筒状基体)60を得る。即ち、抑え61によって絞りダイ63上に上記の円板55を保持し、この状態で円板55に絞りパンチ65を通すことにより、絞りカップ(有底筒状体)60が得られる。
【0045】
このようにして得られた絞りカップ(有底筒状体)60を、図4(c)に示すように、再絞り及びしごき加工に供することにより、前述した金属カップ20或いは金属缶30の前駆体となる有底筒状中間体70を得る。即ち、上記で得られた絞りカップ60を、抑え71によりリドローダイ73に保持した状態で、しごきパンチ75を用いて下方に押し出していき、さらに、所定のフレーム76に保持されている複数のしごきダイ77(77-1~77-3)を通してしごき加工を行うことにより、有底筒状中間体70が得られる。
【0046】
上記の有底筒状中間体70は、適宜、ホールドダウンリング(環状保持型)79上に押し出され、ここで、安定に接地できるような形態に底部が賦形される。
【0047】
このようにして得られる有底筒状中間体70は、直胴状態となっているが、図2に示されている金属カップ20を製造する場合には、薄肉化を伴わない絞りを繰り返し、上部径が底部側の径よりも大きいカップ形状に賦形される。
【0048】
上記のようにして得られた有底筒状中間体70は、図4(d)に示すように、トリミングに供され、上端がカットされる。これにより、上端が切り揃えられ、上端にまで樹脂被覆3を存在させることができる。
【0049】
トリミングが行われた後は、図4(e)に示すように、熱処理が行われ、コーティング膜層5の残渣(混合パラフィン)が除去される。このような熱処理は、加熱オーブン中にトリミングされた有底筒状中間体70を導入することにより行われる。加熱オーブン中への中間体70の搬送は、通常、開放端が上向きとなっている正立状態での搬送により行われるが、有底筒状中間体70の底部での溶着などが問題となる場合には、倒立状態で有底筒状中間体70を搬送して加熱オーブン中に導入することもできる。
【0050】
本発明において、加熱オーブン中での加熱温度は、180℃~210℃、特に195~205℃の温度で行うことが重要である。従来では、この加熱を210℃よりも高い温度で行われていたが、本発明では、流動パラフィンを含む混合パラフィンによりコーティング膜層5を形成していたため、前述したトリミングされた有底筒状中間体70の成形までの塑性加工に際して樹脂被覆3の脱落や損傷を有効に防止すると同時に、210℃よりも低い温度で残存する混合パラフィンの除去を行うことが可能となっている。これにより、この熱処理工程での加熱により、有底筒状中間体70の内外面に形成されている樹脂被覆3の剥離や損傷、例えばトリミングされた端部から樹脂被覆3の後退による金属露出或いは底部への樹脂の溶融落下などを確実に防止することができる。
【0051】
特に胴部が極薄肉化されているアルミニウム若しくはアルミニウム合金製の金属缶30を製造する場合には、樹脂被膜3を形成するポリマーとして融点が低い(例えば220℃以下)のポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートが使用されているため、この加熱工程での樹脂被覆3の剥離や損傷がより生じ易い。しかるに、本発明では、この熱処理工程での加熱温度を200℃より低い温度、特に195℃以下にすることもできるため、このような場合にも樹脂被覆3の剥離や損傷を確実に防止することができる。
【0052】
本発明において、上記熱処理工程において、加熱オーブン中での加熱時間は、熱処理に供する有底筒状中間体70の大きさ等によっても異なるが、一般的には30~60秒程度である。
【0053】
上記の様な熱処理によってトリミングされた有底筒状中間体70の内外面に残存するコーティング膜層5の残渣(混合パラフィン)が除去された後は、それ自体公知の後加工がなされ(図4(f))、図2に示す金属カップ20や図3に示す金属缶30が得られる。
【0054】
例えば、金属カップ20を得る場合には、上記中間体70の上方部分についてカール加工を行い、カール部25を形成した後、上記熱処理工程を行い、外面に印刷等が行われて販売に供される。
【0055】
また、金属缶30を得る場合には、ネックイン加工及びフランジ加工を行い、ネックイン35及びフランジ37を形成し、この後に、外面印刷等が行われる。このような後加工が行われた後、金属缶30内に内容物が充填され、さらにフランジ37を利用しての巻締等により蓋材を装着して販売に供される。
【0056】
このような本発明によれば、金属カップ20や金属缶30の内外面に存在している樹脂被覆3を損なうことなく、潤滑剤(混合パラフィン)が除去されているため、上記の後加工も速やかに効率よくおこなうことができる。
【符号の説明】
【0057】
1:金属素板
3:樹脂被覆
5:潤滑剤のコーティング膜層
10:樹脂被覆金属板
20:金属カップ
21:胴部
23:底部
25:カール部
30:金属缶
31:胴部
33:底部
35:ネックイン
37:フランジ
55:円板
57:打ち抜き残渣
60:絞りカップ
70:有底筒状中間体
図1
図2
図3
図4