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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012316
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】操業管理システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/04 20120101AFI20250117BHJP
【FI】
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115062
(22)【出願日】2023-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】徳田 茂史
(72)【発明者】
【氏名】門井 優文
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 吉雄
(72)【発明者】
【氏名】松本 健介
(72)【発明者】
【氏名】ショウ アンビ
(72)【発明者】
【氏名】伴 拓実
(72)【発明者】
【氏名】加賀 智之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 英男
(72)【発明者】
【氏名】宮原 謙太
(72)【発明者】
【氏名】山内 慎祐
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC04
5L050CC04
(57)【要約】
【課題】処理計画の変動、特に、処理計画の増加に対応できるようにする。
【解決手段】操業管理システム100は、複数の作業主体のそれぞれに、作業速度に応じた速度で減少し、回復行動によって回復し、且つ、下限値を与えられた強度を設定する。操業管理システム100は、作業主体の強度を下限値以上に維持しつつ目標処理計画が達成されるように、デジタルツインライン22を用いて操業計画を作成する。デジタルツインライン22は連携する複数の作業主体によって構成されるリアルライン2をモデル化したシミュレーションモデルである。操業計画は少なくとも作業速度と回復行動の時期とを含む。操業管理システム100は、目標処理計画が所定の基準値を超えたことを受けて、操業計画の作成において作業主体の強度が下限値未満まで一時的に低下することを許容する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連携する複数の作業主体によって構成されるラインの操業を管理するシステムであって、
少なくとも一つのプロセッサと、
前記少なくとも一つのプロセッサと結合される或いは前記少なくとも一つのプロセッサに内蔵される少なくとも一つのメモリと、
前記少なくとも一つのメモリに記憶された前記少なくとも一つのプロセッサで実行可能な複数のインストラクションと、を備え、
前記複数のインストラクションは前記少なくとも一つのプロセッサに、
前記複数の作業主体のそれぞれに、作業速度に応じた速度で減少し、回復行動によって回復し、且つ、下限値を与えられた強度を設定することと、
前記ラインに対する目標処理計画を受け付けることと、
前記強度を前記下限値以上に維持しつつ前記目標処理計画が達成されるように、前記ラインをモデル化したシミュレーションモデルを用いて少なくとも前記作業速度と前記回復行動の時期とを含む操業計画を作成することと、
前記目標処理計画が所定の基準値を超えたことを受けて前記操業計画の作成において前記強度が前記下限値未満まで一時的に低下することを許容することと、を実行させるように構成されている
ことを特徴とする操業管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の操業管理システムにおいて、
前記複数のインストラクションは、前記少なくとも一つのプロセッサに、前記強度が前記下限値未満に低下してから所定期間が経過するまでに前記強度を前記下限値以上まで回復させるように前記シミュレーションモデルを用いて前記操業計画を作成すること、をさらに実行させるように構成されている
ことを特徴とする操業管理システム。
【請求項3】
請求項1に記載の操業管理システムにおいて、
前記シミュレーションモデルは前記ラインを仮想空間上に再現したデジタルツインを含み、
前記強度を設定することは、現実空間において前記複数の作業主体のそれぞれから得られたデータに基づき前記複数の作業主体のそれぞれについて個別に前記強度を設定することを含む
ことを特徴とする操業管理システム。
【請求項4】
請求項3に記載の操業管理システムにおいて、
前記操業計画を作成することは、前記目標処理計画が達成される限りにおいて前記複数の作業主体のそれぞれについて個別に前記操業計画を作成することを含む
ことを特徴とする操業管理システム。
【請求項5】
請求項3に記載の操業管理システムにおいて、
前記複数の作業主体のそれぞれについて個別に前記強度を設定することは、前記強度の最大値、前記作業速度に対する前記強度の減少率、及び前記下限値のうちの少なくとも一つを前記複数の作業主体のそれぞれについて個別に設定することを含む
ことを特徴とする操業管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、製造業や物流業のラインの操業を管理するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2004-127170号公報には、製造業において、離散的に発生する注文、特急オーダー、生産遅れなどのイレギュラーな出来事に対して全体最適化された生産計画の作成方法が開示される。この方法では、生産計画に付加された余裕時間を生産計画作成系の変動と連動して動的に変更することによって、生産計画の変動、新たな生産計画の割り付け、生産の遅れに対する生産計画の修正への対応を実現している。
【0003】
上記の従来技術は、生産計画に付加された余裕時間を調整することで生産計画の変動に対応する。しかし、このような方法では、生産量の増量が要求された場合、余裕時間の範囲内でしか生産量を増やすことができない。製造業や物流業ではラインの処理計画に大きな変動が生じ得る。処理計画の変動、特に、処理計画の増加に如何にして対応するかはラインの操業における検討課題の一つである。
【0004】
本開示に関連する技術分野の技術水準を示す文献としては、特開2004-127170号公報の他にも特開2007-201309号公報、特開平10-034499号公報、及び特開2005-157819号公報を例示することができる。ここに列挙するいずれの文献にも上記の課題に対する解決策は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-127170号公報
【特許文献2】特開2007-201309号公報
【特許文献3】特開平10-034499号公報
【特許文献4】特開2005-157819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものである。本開示の一つの目的は、製造業や物流業のラインにおける処理計画の変動、特に、処理計画の増加に対応できるシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一つの側面は、連携する複数の作業主体によって構成されたラインの操業を管理するシステムを含む。システムはプロセッサと、プロセッサと結合される或いはプロセッサに内蔵されるメモリと、メモリに記憶された複数のインストラクションとを含む。複数のインストラクションはプロセッサに以下の四つの処理を実行させる。第一の処理は、複数の作業主体のそれぞれに、作業速度に応じた速度で減少し、回復行動によって回復し、且つ、下限値を与えられた強度を設定する処理である。第二の処理はラインに対する目標処理計画を受け付ける処理である。第三の処理は、作業主体の強度を下限値以上に維持しつつ目標処理計画が達成されるように、ラインをモデル化したシミュレーションモデルを用いて少なくとも作業速度と回復行動の時期とを含む操業計画を作成する処理である。そして、第四の処理は、目標処理計画が所定の基準値を超えたことを受けて、操業計画の作成において作業主体の強度が下限値未満まで一時的に低下することを許容する処理である。
【0008】
上記側面によれば、操業計画の設定値に作業速度が含まれているので、目標処理計画の変動に対して作業速度の変更で対応可能となる。ただし、作業速度を速めれば強度の減少が早くなるが、操業計画の設定値には回復行動の時期が含まれるので、回復行動を適宜のタイミングでとることで強度が下限値を下回らないようにすることができる。そして、目標処理計画が基準値を超えて増大した場合には、一時的に強度が下限値を下回ることを許容することで目標処理計画の一時的な急増にも対処することができる。
【0009】
上記側面の第一の態様では、複数のインストラクションは、プロセッサに、作業主体の強度が下限値未満に低下してから所定期間が経過するまでに、作業主体の強度を下限値以上まで回復させるようにシミュレーションモデルを用いて操業計画を作成させてもよい。作業主体の強度が下限値未満に低下した場合、その状態を放置するのではなく、所定期間が経過するまでに強度を下限値以上まで回復させることにより、作業主体に継続的に強い疲労が加わることを抑えることができる。また、第一の態様によれば、所定期間が経過するまでに強度を下限値以上まで回復させることにより、次の目標処理計画の増大に備えることができる。
【0010】
上記側面の第二の態様では、シミュレーションモデルはラインを仮想空間上に再現したデジタルツインを含んでもよい。その場合、作業主体の強度を設定することは、現実空間において複数の作業主体のそれぞれから得られたデータに基づき複数の作業主体のそれぞれについて個別に強度を設定することを含んでもよい。第二の態様によれば、デジタルツインの利用によって現実空間の作業主体から得られたリアルなデータを操業計画の作成に反映することができる。
【0011】
上記側面の上記第二の態様において、操業計画を作成することは、目標処理計画が達成される限りにおいて複数の作業主体のそれぞれについて個別に操業計画を作成することを含んでもよい。そうすることで、現実空間での個々の作業主体の属性や個性に合致した操業計画を作成することができ、全体として目標処理計画を達成しつつ作業主体毎に操業を最適化することができる。
【0012】
上記側面の上記第二の態様において、複数の作業主体のそれぞれについて個別に強度を設定することは、強度の最大値、作業速度に対する強度の減少率、及び下限値のうちの少なくとも一つを複数の作業主体のそれぞれについて個別に設定することを含んでもよい。強度に関係する設定値を作業主体毎に個別に設定することで、現実空間の各作業主体の状態をデジタルツインの仮想世界において再現し、操業計画の作成に反映することができる。
【0013】
上記側面の上記第二の態様において、複数の作業主体が作業者を含む場合、作業者の強度を設定することは、作業者の強度の最大値を現実空間における作業者の作業経験に応じて増大させることを含んでもよい。現実空間における作業者の成長をデジタルツインの仮想世界において再現することで、現実空間の作業者の状態が的確に反映された操業計画を作成することができる。
【0014】
上記側面の第三の態様では、回復行動は回復量及び所要時間の異なる複数種類の回復行動を含んでもよい。その場合、操業計画を作成することは、複数種類の回復行動の中から取るべき回復行動を選択することを含んでもよい。現実空間と同様の複数種類の回復行動を選択可能とすることで、無駄のない回復行動によってラインの稼働率を向上させることができる操業計画を作成することができる。
【0015】
上記側面の第四の態様では、複数の作業主体は一つの作業をグループで行う作業グループを含んでもよい。その場合、操業計画を作成することは、作業グループを構成する個々の作業主体の強度を下限値以上に維持しつつ作業グループ全体として目標処理計画が達成される操業計画を作成することを含んでもよい。第四の態様によれば、一つの作業をグループで行う場合において、作業グループを構成する個々の作業主体に必要とされる強度と目標処理計画の達成とを両立させることができる操業計画を作成することができる。
【0016】
上記側面の第五の態様では、複数の作業主体が複数の作業者を含む場合、操業計画を作成することは、作業速度のレベルに応じて複数の作業者間の連携を変更することを含んでもよい。各作業者の強度の減少具合には作業時に連携する作業者間の相性が影響する場合がある。作業速度のレベルに応じて作業者間の連携を変更した操業計画を作成することで、目標処理計画を達成しつつ特定の作業者において強度が極端に低下してしまう事態を防ぐことができる。
【0017】
上記側面の第六の態様では、複数の作業主体が複数の作業機械と複数の作業者を含む場合、操業計画を作成することは、作業速度のレベルに応じて複数の作業機械と複数の作業者の組み合わせを変更することを含んでもよい。各作業者の強度の減少具合には作業時に組み合わされる作業機械との相性が影響する場合がある。作業速度のレベルに応じて作業機械と作業者の組み合わせを変更した操業計画を作成することで、目標処理計画を達成しつつ特定の作業者において強度が極端に低下してしまう事態を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0018】
以上述べたように、本開示によれば、処理計画の変動、特に、処理計画の増加に対応できるようにラインの操業を管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】操業管理システムの概要について説明する図である。
図2】操業管理システムの構成を示す図である。
図3】操業計画の第一の例を示す図である。
図4】操業計画の第二の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.操業管理システムの概要
図1は本実施形態に係る操業管理システム100について説明する図である。操業管理システム100は、製造業や物流業のライン2に適用される。操業管理システム100はライン2の操業を管理する。
【0021】
ライン2は複数の工程を含み、連携して作業する複数の作業員40と複数の作業機械50とで構成されている。作業機械50はロボットと設備とを含む。図1に示す例では、ライン2は工程A、工程B、工程C、及び工程Dを含む。そして、工程Aには一人の作業員40と一台の作業機械50、工程Bには二人の作業員40と一台の作業機械50、工程Cには一人の作業員40と一台の作業機械50、工程Dには一人の作業員40と一台の作業機械50がそれぞれ配置されている。同一工程に配置された作業員40及び作業機械50は協働して作業を行う作業グループを構成する。本明細書では、ライン2での作業を担う作業員40と作業機械50とを併せて作業主体と称する。
【0022】
操業管理システム100は、少なくとも一つのプロセッサ(以下、単にプロセッサと表記する)102と、プロセッサ102と結合された或いはプロセッサ102に内蔵された少なくとも一つのメモリ(以下、単にメモリと表記する)104とを備える。メモリ104にはプロセッサ102により実行可能なプログラムが記憶されている。プログラムは複数のインストラクション106を含む。なお、プログラムはコンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体に記憶可能である。
【0023】
複数のインストラクション106には、プロセッサ102にライン2の操業計画を作成させるインストラクションが含まれる。また、複数のインストラクション106には、プロセッサ102をシミュレータとして機能させるインストラクションが含まれる。プロセッサ102がシミュレータとして機能する場合、プロセッサ102は現実空間のライン2をデジタル空間にデジタルツインで再現する。以下、現実空間のライン2とデジタル空間にデジタルツインで再現されたライン22とを区別するために、前者をリアルライン2と呼び、後者をデジタルツインライン22と呼ぶ。デジタルツインライン22を用いたシミュレーションには、リアルライン2から取得されたリアルデータが用いられる。リアルライン2の操業計画はデジタルツインライン22から得られるシミュレーション結果に基づいて作成される。
【0024】
2.操業管理システムの構成
図2は操業管理システム100の構成を示す図である。操業管理システム100は操業計画作成装置10とシミュレータ20とを備える。操業計画作成装置10とシミュレータ20はそれぞれに対応するインストラクション106がプロセッサ102で実行されることで実現される。ただし、操業計画作成装置10とシミュレータ20は単一のプロセッサ102で実現されてもよいし、別々のプロセッサ102で実現されてもよい。
【0025】
操業計画作成装置10はリアルライン2に対して提示する操業計画を作成する装置である。操業計画の作成のための情報として、操業計画作成装置10には目標処理計画TPPが入力される。目標処理計画TPPは設定された処理期間におけるリアルライン2での処理量についての計画である。処理期間は例えば一日単位で設定される。目標処理計画TPPの操業計画作成装置10への入力は、操業管理システム100に接続された図示しない入力装置から行うことができる。オペレータは任意の値を目標値として設定することができる。
【0026】
目標処理計画TPPには基準値が定められている。基準値は目標処理計画TPPで要求されている処理量に基づいて忙しさを判断するために使用される。目標処理計画TPPが基準値以下の処理期間は通常期間であるとみなされる。目標処理計画TPPが基準値を超えた処理期間は多忙期間であるとみなされる。多忙期間は作業主体に対して通常以上の頑張りが要求される期間である。
【0027】
また、操業計画作成装置10には、操業計画の作成のための情報として、リアルライン2から取得したリアルデータRDが入力される。リアルデータRDは、工場又は物流センタに設置されたカメラや、個々の作業者40が装着するウェアラブルデバイス等のセンサで取得される観測データを含む。また、リアルデータRDは、一日、一週間、一か月等の単位期間におけるリアルライン2の作業実績値を含む。操業計画作成装置10は、リアルライン2に設置されたデータ収集用のコンピュータとネットワークによって接続されている。リアルデータRDは、データの内容に応じてリアルタイムで操業計画作成装置10に送信されてもよいし、一定時間ごとに操業計画作成装置10に送信されてもよい。
【0028】
操業計画作成装置10はシミュレータ20を用いて操業計画のシミュレーションを行う。操業計画作成装置10は、シミュレーション条件を定める設定値SVとともに、オペレータにより入力された目標処理計画TPPと、リアルライン2から取得したリアルデータRDとをシミュレータ20に入力する。
【0029】
シミュレータ20は操業計画のシミュレーションにデジタルツインライン22を使用する。デジタルツインライン22はリアルライン2を仮想空間上に再現したシミュレーションモデルである。ゆえに、図2に示す例では、デジタルツインライン22は工程A、工程B、工程C、及び工程Dを含む。そして、デジタルツインライン22の各工程には、リアルライン2の各工程に配置されている作業員40及び作業機械50と同数の作業員40及び作業機械50が配置されている。
【0030】
デジタルツインライン22を構成する作業主体には、評価値として強度が定義されている。作業主体が作業者40である場合、強度とは肉体的強度又は精神的強度を意味する。作業主体が作業機械50である場合、強度とは機械的強度を意味する。
【0031】
肉体的強度は体力と読み替えることもできる。疲労が全くないとき作業者40の体力は最大であり、疲労が溜まるにつれて作業者40の体力は減少していく。そして、体力が最大のときに作業者40が処理可能な作業量は最大となり、体力が低下するにつれて処理可能な作業量も減少していく。ゆえに、体力は作業者40が処理可能な作業量、すなわち、作業可能量で表すことができる。作業可能量は体力と同じく作業者40が休憩や休息などの回復行動をとることで回復する。本実施形態では、作業者40の肉体的強度として、平均的な作業者の最大作業可能量を基準にして当該作業者40の作業可能量を正規化した数値が用いられる。
【0032】
精神的強度はストレス許容量と読み替えることもできる。作業の開始時点では作業者40のストレス許容量は最大であり、作業時間が長くなるにつれて作業者40のストレス許容量は低下していく。言い換えれば、ストレス許容量が低下するにつれて作業を継続可能な時間も減少していく。ゆえに、ストレス許容量は作業を継続可能な時間、すなわち、作業継続可能時間で表すことができる。作業継続可能時間はストレス許容量と同じく作業者40が休憩や休息などの回復行動をとることで回復する。本実施形態では、作業者40の精神的強度として、平均的な作業者の最大作業継続可能時間を基準にして当該作業者40の作業継続可能時間を正規化した数値が用いられる。
【0033】
機械的強度は運転可能時間と読み替えることもできる。作業機械50は作業者40とは異なり体力が低下したり集中力が低下したりすることはない。しかし、作業機械50は定期的なメンテナンスを必要とする。メンテナンスにはバッテリの交換が含まれる場合もある。運転可能時間は作業機械50に回復行動としてのメンテナンスを施すことで回復する。本実施形態では、作業機械50の機械的強度として、作業機械50の次回メンテナンスまでの運転可能時間を最大運転可能時間で正規化した数値が用いられる。
【0034】
操業計画作成装置10からシミュレータ20に入力される設定値SVには、作業主体の強度に関する設定値が含まれる。具体的には、作業主体毎の強度の最大値、作業主体毎の作業速度に対する強度の減少率、及び作業主体毎の強度の下限値がデジタルツインライン22に対して設定される。強度に関係する設定値を作業主体毎に個別に設定することで、現実空間の各作業主体の状態をデジタルツインライン22において再現し、操業計画の作成に反映することができる。なお、これらの設定値は予め操業計画作成装置10に登録されている。
【0035】
強度が作業者40の肉体的強度を意味する場合、強度の最大値は作業者40の最大作業可能量に対応する。また、この場合、作業速度に対する強度の減少率は作業速度に対する作業可能量の減少率に対応する。作業可能量は作業者40が作業を行うたびに低下し、作業速度が速いほど作業可能量の減少量は大きくなる。強度の下限値は残しておくべき最低作業可能量に対応する。最大作業可能量と回復行動により回復できる作業可能量との差が残しておくべき最低作業可能量である。
【0036】
強度が作業者40の精神的強度を意味する場合、強度の最大値は作業者40の最大作業継続可能時間に対応する。また、この場合、作業速度に対する強度の減少率は作業速度に対する作業継続可能時間の減少率に対応する。作業継続可能時間は作業者40が作業を行うたびに低下し、作業速度が速いほど作業継続可能時間の減少量は大きくなる。強度の下限値は残しておくべき最低作業継続可能時間に対応する。最大作業継続可能時間と回復行動により回復できる作業継続可能時間との差が残しておくべき最低作業継続可能時間である。
【0037】
強度が作業機械50の機械的強度を意味する場合、強度の最大値は作業機械50の最大運転可能時間に対応する。また、この場合、作業速度に対する強度の減少率は作業速度に対する運転可能時間の減少率に対応する。運転可能時間は作業機械50が作業を行うたびに低下し、作業速度が速いほど運転可能時間の減少量は大きくなる。強度の下限値は残しておくべき運転可能時間に対応する。最大運転可能時間と回復行動により回復できる運転可能時間との差が残しておくべき最低運転可能時間である。
【0038】
シミュレータ20は、デジタルツインライン22に対して与えられた制約条件の下で、目標処理計画TPPを達成できる操業計画を探索する。与えられた制約条件には、作業主体毎に設定された強度の下限値が含まれる。つまり、シミュレータ20は、各作業主体の強度を下限値以上に維持しつつ、目標処理計画TPPを達成できる操業計画をデジタルツインライン22を用いたシミュレーションで探索する。ただし、目標処理計画TPPが基準値を超える多忙期間では、作業主体に対して頑張りを要求するため、操業計画の作成において強度が下限値未満まで一時的に低下することが許容される。その場合であっても、強度が下限値未満に低下してから所定期間が経過するまでには、強度を下限値以上まで回復させるように操業計画は作成される。
【0039】
シミュレーションでの操業計画の探索では、作業速度と回復行動の時期とがデジタルツインライン22のパラメータとして用いられる。詳しくは、作業速度と回復行動の時期は作業主体の強度に影響するパラメータである。作業速度を大きくするほど処理量は増大する反面、強度の減少速度が増大し、下限値に達するまでの時間が短くなる。しかし、回復行動の時期を適宜設定することで、作業主体の強度が下限値未満まで低下することを防ぐことができる。また、強度が下限値未満まで一時的に低下することが許容されている場合であっても、回復行動を適宜な時期にとることで、作業主体に想定以上の強い疲労が加わることを抑えることができる。なお、回復行動の種類については、現実空間と同様、シミュレーションにおいても複数種類の回復行動を選択することができる。無駄のない回復行動を選択することによってリアルライン2の稼働率を向上させることができる操業計画を作成することができる。
【0040】
操業計画作成装置10は、シミュレータ20から供給されるシミュレーション結果SRに基づき、リアルライン2の操業計画OPを作成する。作成された操業計画OPは、例えば、リアルライン2の管理コンピュータに送信される。管理コンピュータは操業計画OPに従いリアルライン2の操業を管理する。操業計画OPには少なくともリアルライン2の作業速度と回復行動の時期とが含まれる。操業計画OPに従いリアルライン2上の操業を管理することによって、各作業主体の強度を下限値以上に維持しながら、リアルライン2に対して課せられた目標処理計画TPPを達成することが可能となる。
【0041】
以下、操業計画作成装置10による操業計画の作成について具体的に説明する。
【0042】
3.操業計画の作成
操業計画はリアルライン2に全体について作成することができる。その場合、リアルライン2を構成する個々の作業主体の強度を下限値以上に維持しつつ、リアルライン2全体として目標処理計画が達成されるように操業計画が作成される。
【0043】
また、操業計画は同一工程を担当する作業グループごとに作成することもできる。その場合、作業グループを構成する個々の作業主体の強度を下限値以上に維持しつつ、作業グループ全体として目標処理計画が達成されるように操業計画が作成される。この方法によれば、一つの作業をグループで行う場合において、作業グループを構成する個々の作業主体に必要とされる強度と目標処理計画の達成とを両立させることができる操業計画を作成することができる。
【0044】
さらに、操業計画は作業主体ごとに作成してもよい。その場合、対象の作業主体の強度を下限値以上に維持しつつ、対象の作業主体の目標処理計画が達成されるように操業計画が作成される。この方法によれば、現実空間での個々の作業主体の属性や個性に合致した操業計画を作成することができ、全体として目標処理計画を達成しつつ作業主体毎に操業を最適化することができる。また、作業主体が作業者40である場合、作業経験による成長を考慮し、現実空間において作業者40が作業経験を積むほど強度の最大値を大きくしてもよい。ただし、強度には成長の限界に対応する上限値が設定される。
【0045】
図3及び図4は作業主体が作業者である場合の操業計画の例を示す。図3に示す操業計画例1と図4に示す操業計画例2では、以下の前提条件のもとで操業計画が作成されている。
前提条件1:目標処理計画は処理期間内で達成されればよい。
前提条件2:一回の処理期間は二日とする。
前提条件3:処理期間内には一回の回復行動Aと二回の回復行動Bが実行される。
前提条件4:回復行動Aは所要時間が短時間の行動であり(例えば昼休みの休憩に相当する)、回復行動Aによる一回当たりの強度の回復量は少ない。
前提条件5:回復行動Bは所要時間が長時間の行動であり(例えば帰宅後の休養に相当する)、回復行動Bによる一回当たりの強度の回復量は大きい。
【0046】
図3に示す操業計画例1では、目標処理計画は第二処理期間において第一処理期間よりも増大し、再び第三処理期間において第一処理期間と同水準まで低下している。しかし、第二処理期間において増大したときでも、目標処理計画は基準値以内に収まっている。したがって、操業計画例1では、第一処理期間から第三処理期間までの全ての処理期間において、作業主体の強度を下限値以上に維持しつつ目標処理計画が達成されるように、作業速度と回復行動の時期が決定される。
【0047】
図4に示す操業計画例2では、操業計画例1と同様に、目標処理計画は第二処理期間において第一処理期間よりも増大し、再び第三処理期間において第一処理期間と同水準まで低下している。ところが、操業計画例1では第二処理期間における目標処理計画は基準値以内に収まっているのに対し、操業計画例2では第二処理期間における目標処理計画は基準値を超えている。このため、第二処理期間における目標処理計画の達成のためには、強度が下限値を下回ることが一時的に許容される。
【0048】
図4には、第二処理期間において目標処理計画を達成可能な二つの作業速度のパターンが示されている。第一のパターンは前半よりも後半の作業速度を大きくするパターンである。第一のパターンによる強度及び処理量の変化は実線で示されている。第一のパターンでは、第二処理期間の後半でのみ強度が下限値を下回っている。一方、第二のパターンは後半よりも前半の作業速度を大きくするパターンである。第二のパターンによる強度及び処理量の変化は破線で示されている。第二のパターンでは、第二処理期間の前半で強度が下限値を下回り、さらに、第二処理期間の後半で強度が下限値を下回っている。
【0049】
いずれのパターンにおいても、強度が下限値未満に低下した場合、その状態を放置するのではなく、適正な回復行動によって次の日までには最大値まで強度を回復させている。これにより、作業主体に継続的に強い疲労が加わることを抑えることができるとともに、次の目標処理計画の増大に備えることができる。なお、第一のパターンと第二のパターンのどちらのパターンを採用してもよいが、第一のパターンであれば作業者に継続的に強い疲労が加わることを抑えることができる。
【0050】
4.その他の実施形態
リアルライン2を構成する作業主体が作業者40のみである場合、作業速度のレベルに応じて作業者40間の連携を変更するように操業計画を作成してもよい。作業者40の強度の減少具合には、作業速度だけでなく作業時に連携する作業者40間の相性も影響する。作業速度のレベルに応じて作業者40間の連携を変更した操業計画を作成することで、目標処理計画を達成しつつ特定の作業者40において強度が極端に低下してしまう事態を防ぐことができる。
【0051】
また、ラインを構成する作業主体に作業機械50と作業者40の両方が含まれる場合、作業速度のレベルに応じて作業機械50と作業者40の組み合わせを変更するように操業計画を作成してもよい。作業者40の強度の減少具合には、作業速度だけでなく作業時に組み合わされる作業機械50との相性も影響する。作業速度のレベルに応じて作業機械50と作業者40の組み合わせを変更した操業計画を作成することで、目標処理計画を達成しつつ特定の作業者40において強度が極端に低下してしまう事態を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0052】
2 リアルライン
10 操業計画作成装置
20 シミュレータ
22 デジタルツインライン
100 操業管理システム
図1
図2
図3
図4