(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012335
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】胎児心拍数測定装置、胎児心拍数測定システム、及び、胎児心拍数測定プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/02 20060101AFI20250117BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
A61B8/02
A61B5/0245 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115098
(22)【出願日】2023-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】391029048
【氏名又は名称】トーイツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 史景
(72)【発明者】
【氏名】南雲 潤也
(72)【発明者】
【氏名】川畑 一也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】三枝 正稔
(72)【発明者】
【氏名】小川 真史
【テーマコード(参考)】
4C017
4C601
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA10
4C017AB05
4C017AC23
4C017BB12
4C017BC11
4C017DD14
4C017FF05
4C601DD07
4C601DD09
4C601DE01
4C601EE09
4C601JB31
4C601JB34
4C601JB49
4C601KK16
(57)【要約】
【課題】胎児の心臓に向けて送信された超音波の周波数と、当該超音波の反射波の周波数と、の差分周波数を表すドプラ信号に基づいて胎児心拍数を測定する際に、測定した数値が母体の脈拍数であるか否かを判定する。
【解決手段】ドプラ信号形成部18は、胎児の心臓に向けて送信された超音波の周波数と、前記超音波の反射波の周波数との差分周波数を表すドプラ信号を形成する。学習モデル30は、母体脈拍成分を含むドプラ信号を表す特徴量を学習データとして用いて、ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれているか否かを判定して出力するように学習される。母体脈拍成分判定部32は、ドプラ信号形成部18により形成された、判定処理対象のドプラ信号である対象ドプラ信号を学習済みの学習モデル30に入力することで、対象ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれているか否かを判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胎児の心臓に向けて送信された超音波の周波数と、前記超音波の反射波の周波数との差分周波数を表すドプラ信号に基づいて、前記胎児の心拍数を測定する胎児心拍数測定装置であって、
前記ドプラ信号のうち母体の脈拍に対応する母体脈拍成分を含むドプラ信号を表す特徴量を学習データとして用いて、前記ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれているか否かを判定して出力するように学習された学習モデルに、判定処理対象の前記ドプラ信号である対象ドプラ信号を表す特徴量を入力したときの前記学習モデルの出力データに基づいて、前記対象ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれているか否かを判定する母体脈拍成分判定部と、
を備えることを特徴とする胎児心拍数測定装置。
【請求項2】
前記学習モデルは、前記ドプラ信号のうち、胎児の心拍に対応する胎児心拍成分が支配的なドプラ信号を表す特徴量をさらに含む前記学習データを用いて学習される、
ことを特徴とする請求項1に記載の胎児心拍数測定装置。
【請求項3】
前記ドプラ信号を表す特徴量は、前記ドプラ信号を音声信号として見たときの音響特徴量であり、
前記対象ドプラ信号を表す特徴量は、前記対象ドプラ信号を音声信号として見たときの音響特徴量である、
ことを特徴とする請求項1に記載の胎児心拍数測定装置。
【請求項4】
前記母体脈拍成分判定部により、前記対象ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれていると判定された場合に、前記対象ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれていることをユーザに通知する通知部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の胎児心拍数測定装置。
【請求項5】
前記対象ドプラ信号に基づいて測定された、前記胎児の心拍数又は前記母体の脈拍数の時間変化を表す出力波形を形成する波形形成部と、
をさらに備え、
前記通知部は、前記母体脈拍成分を含む前記対象ドプラ信号に基づいて形成された波形部分と、前記母体脈拍成分を含まない前記対象ドプラ信号に基づいて形成された波形部分とを識別可能な態様で前記出力波形をディスプレイに表示させる、
ことを特徴とする請求項4に記載の胎児心拍数測定装置。
【請求項6】
胎児の心臓に向けて送信された超音波の周波数と、前記超音波の反射波の周波数との差分周波数を表すドプラ信号に基づいて、前記胎児の心拍数を測定する胎児心拍数測定装置と、
母体脈拍成分判定装置と、
を備える胎児心拍数測定システムであって、
各前記胎児心拍数測定装置は、
判定処理対象の前記ドプラ信号である対象ドプラ信号を前記母体脈拍成分判定装置へ送信する測定装置側通信部と、
を備え、
前記母体脈拍成分判定装置は、
前記ドプラ信号のうち母体の脈拍に対応する母体脈拍成分を含むドプラ信号を表す特徴量を学習データとして用いて、前記ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれているか否かを判定して出力するように学習された学習モデルに、各前記胎児心拍数測定装置から送信されてきた各前記対象ドプラ信号を表す特徴量を入力したときの前記学習モデルの出力データに基づいて、各前記対象ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれているか否かを判定する母体脈拍成分判定部と、
を備える、
ことを特徴とする胎児心拍数測定システム。
【請求項7】
前記母体脈拍成分判定装置は、
前記母体脈拍成分判定部により、前記対象ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれていると判定された場合に、当該対象ドプラ信号を送信した前記胎児心拍数測定装置に通知する判定装置側通信部と、
をさらに備え、
前記胎児心拍数測定装置は、
前記母体脈拍成分判定装置からの通知に応じて、前記対象ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれていることをユーザに通知する通知部と、
をさらに備える、
ことを特徴とする請求項6に記載の胎児心拍数測定システム。
【請求項8】
胎児の心臓に向けて送信された超音波の周波数と、前記超音波の反射波の周波数との差分周波数を表すドプラ信号に基づいて、前記胎児の心拍数を測定する胎児心拍数測定装置としてコンピュータを動作させる胎児心拍数測定プログラムであって、
前記コンピュータを、
前記ドプラ信号のうち母体の脈拍に対応する母体脈拍成分を含むドプラ信号を表す特徴量を学習データとして用いて、前記ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれているか否かを判定して出力するように学習された学習モデルに、判定処理対象の前記ドプラ信号である対象ドプラ信号を表す特徴量を入力したときの前記学習モデルの出力データに基づいて、前記対象ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれているか否かを判定する母体脈拍成分判定部と、
として動作させることを特徴とする胎児心拍数測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、胎児心拍数測定装置、胎児心拍数測定システム、及び、胎児心拍数測定プログラムの改良を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、胎児心拍数を測定することが行われている。胎児心拍数の測定方法としては、胎児心電計を用いた方法なども提案されているが、胎児の心臓に向けて超音波を送信し、胎児の心臓から反射した反射波から得られるドプラ信号に基づいて、胎児心拍数を測定する方法も提案されている。ドプラ信号は、検査対象物の動きを検出するものであるから、ドプラ信号に基づく胎児心拍数の測定は、胎児の心臓の動きの周期に基づく測定方法であると言える。
【0003】
例えば、特許文献1には、胎児に向けて超音波を送信し、胎児から反射した反射波からドプラ信号を得て、ドプラ信号に対して自己相関処理を施して、その周期性を検出することで、胎児心拍数を測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
胎児が母体内にいること、あるいは、音波は広がりながら進んでいくことなどに起因して、胎児の心臓に向けて超音波を送信しても、胎児の心臓のみに超音波を送信することはできない。これにより、胎児の心臓に向けて超音波を送信した超音波プローブは、胎児の心臓からの反射波のみならず、その周辺組織からの反射波も受信することになる。したがって、胎児心拍数を測定するためのドプラ信号には、胎児心拍を示す信号のみならず、その周辺組織の動きを示す信号が含まれてしまう。
【0006】
特に、超音波プローブが、母体の血流からの反射波を受信する場合がある。母体の血流速度は母体の脈に応じて周期的に変動するため、母体脈拍成分を含むドプラ信号は、周期的に変動する母体の血流速度(つまり母体の脈拍に対応する母体脈拍成分)が含まれることになる。このようなドプラ信号に基づいて胎児心拍数を測定しようとした場合、胎児心拍数ではなく、母体脈拍数が測定されてしまう場合がある。
【0007】
本明細書で開示される、胎児心拍数測定装置、胎児心拍数測定システム、又は、胎児心拍数測定プログラムの目的は、胎児の心臓に向けて送信された超音波の周波数と、当該超音波の反射波の周波数と、の差分周波数を表すドプラ信号に基づいて胎児心拍数を測定する際に、測定した数値が母体脈拍数であるか否かを判定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係る胎児心拍数測定装置は、胎児の心臓に向けて送信された超音波の周波数と、前記超音波の反射波の周波数との差分周波数を表すドプラ信号に基づいて、前記胎児の心拍数を測定する胎児心拍数測定装置であって、前記ドプラ信号のうち母体の脈拍に対応する母体脈拍成分を含むドプラ信号を表す特徴量を学習データとして用いて、前記ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれているか否かを判定して出力するように学習された学習モデルに、判定処理対象の前記ドプラ信号である対象ドプラ信号を表す特徴量を入力したときの前記学習モデルの出力データに基づいて、前記対象ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれているか否かを判定する母体脈拍成分判定部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
前記学習モデルは、前記ドプラ信号のうち、胎児の心拍に対応する胎児心拍成分が支配的なドプラ信号を表す特徴量をさらに含む前記学習データを用いて学習されるとよい。
【0010】
前記ドプラ信号を表す特徴量は、前記ドプラ信号を音声信号として見たときの音響特徴量であり、前記対象ドプラ信号を表す特徴量は、前記対象ドプラ信号を音声信号として見たときの音響特徴量であるとよい。
【0011】
前記母体脈拍成分判定部により、前記対象ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれていると判定された場合に、前記対象ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれていることをユーザに通知する通知部と、をさらに備えるとよい。
【0012】
前記対象ドプラ信号に基づいて測定された、前記胎児の心拍数又は前記母体の脈拍数の時間変化を表す出力波形を形成する波形形成部と、をさらに備え、前記通知部は、前記母体脈拍成分を含む前記対象ドプラ信号に基づいて形成された波形部分と、前記母体脈拍成分を含まない前記対象ドプラ信号に基づいて形成された波形部分とを識別可能な態様で前記出力波形をディスプレイに表示させるとよい。
【0013】
本実施形態に係る胎児心拍数測定システムは、胎児の心臓に向けて送信された超音波の周波数と、前記超音波の反射波の周波数との差分周波数を表すドプラ信号に基づいて、前記胎児の心拍数を測定する胎児心拍数測定装置と、母体脈拍成分判定装置と、を備える胎児心拍数測定システムであって、各前記胎児心拍数測定装置は、判定処理対象の前記ドプラ信号である対象ドプラ信号を前記母体脈拍成分判定装置へ送信する測定装置側通信部と、を備え、前記母体脈拍成分判定装置は、前記ドプラ信号のうち母体の脈拍に対応する母体脈拍成分を含むドプラ信号を表す特徴量を学習データとして用いて、前記ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれているか否かを判定して出力するように学習された学習モデルに、各前記胎児心拍数測定装置から送信されてきた各前記対象ドプラ信号を表す特徴量を入力したときの前記学習モデルの出力データに基づいて、各前記対象ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれているか否かを判定する母体脈拍成分判定部と、を備える、ことを特徴とする。
【0014】
前記母体脈拍成分判定装置は、前記母体脈拍成分判定部により、前記対象ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれていると判定された場合に、当該対象ドプラ信号を送信した前記胎児心拍数測定装置に通知する判定装置側通信部と、をさらに備え、前記胎児心拍数測定装置は、前記母体脈拍成分判定装置からの通知に応じて、前記対象ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれていることをユーザに通知する通知部と、をさらに備えるとよい。
【0015】
本実施形態に係る胎児心拍数測定プログラムは、胎児の心臓に向けて送信された超音波の周波数と、前記超音波の反射波の周波数との差分周波数を表すドプラ信号に基づいて、前記胎児の心拍数を測定する胎児心拍数測定装置としてコンピュータを動作させる胎児心拍数測定プログラムであって、前記コンピュータを、前記ドプラ信号のうち母体の脈拍に対応する母体脈拍成分を含むドプラ信号を表す特徴量を学習データとして用いて、前記ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれているか否かを判定して出力するように学習された学習モデルに、判定処理対象の前記ドプラ信号である対象ドプラ信号を表す特徴量を入力したときの前記学習モデルの出力データに基づいて、前記対象ドプラ信号に前記母体脈拍成分が含まれているか否かを判定する母体脈拍成分判定部と、として動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本明細書で開示される、胎児心拍数測定装置、胎児心拍数測定システム、又は、胎児心拍数測定プログラムによれば、胎児の心臓に向けて送信された超音波の周波数と、当該超音波の反射波の周波数と、の差分周波数を表すドプラ信号に基づいて胎児心拍数を測定する際に、測定した数値が母体脈拍数であるか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る胎児心拍数測定装置の構成概略図である。
【
図2】ドプラ信号における、自己相関処理に用いられる比較対象部分を示す概念図である。
【
図3】自己相関処理に用いられる参照信号を示す概念図である。
【
図4】比較対象部分と参照信号との間の相関係数の時間変化を示すグラフである。
【
図7】単位ドプラ信号のMFCCを示す2次元データである。
【
図8】学習モデルの処理の様子を示す概念図である。
【
図10】本実施形態に係る胎児心拍数測定システムの構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本実施形態に係る胎児心拍数測定装置10の構成概略図である。胎児心拍数測定装置10は、病院などの医療機関に設置される医用装置であり、胎児心拍数を測定する機能を発揮する装置である。胎児心拍数測定装置10としては、例えば、胎児心拍数の他、母体の子宮収縮圧も測定する分娩監視装置であってよい。
【0019】
超音波プローブ12は、胎児の心臓に向けて超音波を送信し、当該超音波の反射波を受信するものである。超音波プローブ12は、複数の振動素子を備えている。
【0020】
超音波プローブ12は、後述する送信部14からの電気信号である送信信号に基づいて、複数の振動素子から超音波が送信される。そして、当該複数の振動素子において、胎児の心臓を含む、超音波の送信領域内にある各組織などから反射された反射波を受信し、反射波を電気信号である受信信号に変換して出力する。
【0021】
超音波プローブ12は、可搬型装置であり、ベルトなどによって母体の腹部表面に装着される。この状態において、超音波プローブ12は、胎児の心臓に向けて超音波を送信し、当該超音波の反射波を受信する。
【0022】
送信部14は、超音波プローブ12(詳しくは複数の振動素子)に対して送信信号を送信する。これにより、各振動素子から胎児の心臓に向けて超音波が送信される。本実施形態では、送信部14は、複数の振動素子から1MHz程度の中心周波数を有する超音波を送信させる。本実施形態では、送信部14は、複数の振動素子に同時に超音波を送信させ、同時に超音波の送信を停止させることを繰り返す。超音波の送信停止状態において、複数の振動素子は、胎児の心臓などからの反射波を受信する。具体的には、送信部14は、超音波の送信期間及び送信停止期間(受信期間)が数KHzの周波数で繰り返すように、複数の振動素子に間欠的に送信信号を送信する。本実施形態では、1つの送信期間において100波程度の超音波が送信される。
【0023】
なお、本実施形態においては、胎児の心臓に向けて送信される超音波は、専ら、胎児心拍の測定のために用いられる。すなわち、当該超音波は、超音波画像の形成や、被検体の組織や血流などの速度を測定するためには用いられない。
【0024】
受信部16は、上述の受信期間において複数の振動素子が受信した反射波に基づく受信信号を超音波プローブ12(詳しくは複数の振動素子)から受け取る。上述のように、超音波プローブ12からの超音波は、胎児の心臓に向けて送信されるのではあるが、当該超音波は、胎児の心臓以外の組織からも反射され得る。特に、当該超音波は、母体の血流からも反射され得る。したがって、受信部16が受け取る受信信号には、胎児の心臓のみならず、母体の血流からの反射波に基づく信号が含まれる場合がある。反射波の周波数は、胎児の心臓を含む各組織の運動に起因して、ドプラ効果によって、送信された超音波の周波数(送信周波数)から偏移した周波数(ドプラ偏移周波数)を有している場合がある。
【0025】
受信部16は、増幅器を備えており、複数の振動素子からの受信信号を加算した上で、増幅器にて増幅させる。受信部16は、増幅した受信信号をドプラ信号形成部18に出力する。
【0026】
ドプラ信号形成部18は、ミキサを有する。ミキサは、受信部16から受け取った受信信号と、送信周波数と同じ周波数f0を有する基準信号と、を乗算する。これにより、受信信号が有するドプラ偏移周波数fd(換言すれば、送信周波数との差分周波数)を有する信号、及び、2f0+fdの周波数を有する信号が得られる。
【0027】
また、ドプラ信号形成部18は、ローパスフィルタを有する。ローパスフィルタは、異なる周波数成分を有する、ミキサが取得した上述の2つ信号のうち、高い周波数成分2f0+fdの信号を除去する。これにより、ドプラ偏移周波数fdを有する信号が抽出される。なお、このように抽出されたドプラ偏移周波数fdは、概ね、可聴周波数帯域(20Hz~20kHz)に含まれる。
【0028】
さらに、ドプラ信号形成部18は、ADコンバータを備える。ADコンバータは、ローパスフィルタにより得られたドプラ偏移周波数fdを有する信号をデジタル信号に変換する。本実施形態では、デジタル変換のサンプリング周波数は2kHz程度となっている。
【0029】
ドプラ信号形成部18によって得られた、ドプラ偏移周波数fdを有する信号が、本明細書におけるドプラ信号である。ドプラ信号は、横軸が時間、縦軸が反射波の信号強度で規定される座標空間における波形として表現することができる。受信部16が受け取る受信信号に胎児に心臓からの反射波に基づく信号が含まれる場合、ドプラ信号には、胎児の心臓の動きに対応する胎児心拍成分が含まれるが、当該受信信号に母体の血流からの反射波に基づく信号が含まれ得る場合、ドプラ信号には、母体の血流の変動に対応する母体脈拍成分が含まれる。
【0030】
心拍数測定部20は、ドプラ信号形成部18によって形成されたドプラ信号に基づいて、胎児心拍数を測定するための測定処理を実行する。具体的には、心拍数測定部20は、ドプラ信号が有する周期性に基づいて胎児心拍数を測定するための測定処理を実行する。以下、胎児心拍数を測定するための測定処理として、ドプラ信号に対する自己相関処理を用いた測定処理を説明するが、心拍数測定部20は、その他の処理によって測定処理を行ってもよい。
【0031】
図2は、ドプラ信号DSにおける、自己相関処理に用いられる比較対象部分CPを示す概念図である。また、
図3は、自己相関処理に用いられる参照信号RDSを示す概念図である。心拍数測定部20は、参照信号RDSと、ドプラ信号DSのうちの、参照信号RDSと同じ時間長の部分である比較対象部分CPとの間の相関係数(以下、単に「相関係数」と記載する場合がある)を演算する。後述するように、参照信号RDSは更新され得るが、初期の参照信号RDSは、胎児心拍成分を示すものが予め用意される。参照信号RDSが胎児心拍成分を示すものである場合、参照信号RDSは、胎児の心臓壁又は心臓弁の動きを示す信号となる。
【0032】
心拍数測定部20は、比較対象部分CPを少しずつ(例えば、ドプラ信号形成部18のADコンバータによるサンプリング周波数における1サンプル分の時間ずつ)時間方向にずらしていきながら、相関係数の演算を繰り返していく。比較対象部分CPを時間方向にずらしながら相関係数を演算することで、相関係数の時間変化が演算されることになる。
【0033】
図4は、相関係数の時間変化を示すグラフである。参照信号RDSが胎児心拍成分を示す場合、相関係数が大きくなるタイミング(例えば極大値を取るタイミング)は、胎児の心臓壁又は心臓弁が、参照信号RDSが示すのと同じように動いているタイミングを示していると言える。このことから、相関係数の時間変化の周期が、胎児心拍数を表すものであると言える。したがって、心拍数測定部20は、相関係数の時間変化の周期に基づいて、胎児心拍数を測定することができる。例えば、相関係数の極大値間の時間tは、胎児の一心拍間の時間を表すものであると言えるため、心拍数測定部20は、時間tの逆数を演算することによって1秒当たりの胎児心拍数を得る。
【0034】
上述の自己相関処理において、参照信号RDSが更新される。具体的には、相関係数が所定の条件を満たした場合(例えば、所定の閾値を超えた場合、あるいは、相関係数が極大値を取った場合)に、当該相関係数に対応する比較対象部分CPが新たな参照信号RDSとされる。参照信号RDSを更新することで、胎児心拍成分を表すドプラ信号の信号波形が徐々に変化していく場合であっても、胎児心拍数の演算精度の低下を抑制することができる。
【0035】
心拍数測定部20は、超音波プローブ12が次々に受信した受信信号に基づいて次々に形成されるドプラ信号に基づいて、上述の測定処理によって、経時的に胎児心拍数を測定していく。
【0036】
ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれている場合、測定処理によって母体脈拍数が測定される場合がある。ここで、本明細書において、母体脈拍成分が含まれているドプラ信号とは、完全に母体脈拍成分で構成されているドプラ信号のみならず、胎児心拍成分も含まれてはいるが、波形として見たときに、母体脈拍成分に胎児心拍成分が埋没してしまうなど、胎児心拍成分が読み取れないドプラ信号も含む。換言すれば、母体脈拍成分が含まれているドプラ信号とは、母体脈拍成分が支配的なドプラ信号であるといえる。一方、母体脈拍成分が含まれていないドプラ信号とは、母体脈拍成分を全く含まないドプラ信号のみならず、母体脈拍成分が含まれてはいるが、波形として見たときに、十分に胎児心拍成分が読み取れるドプラ信号も含む。換言すれば、母体脈拍成分が含まれていないドプラ信号とは、胎児心拍成分が支配的なドプラ信号であるといえる。
【0037】
特に、自己相関処理による測定処理を行う場合、ドプラ信号に母体脈拍成分を含む部分があると、心拍数測定部20は、一定時間、胎児心拍数ではなく母体脈拍数を測定し続けてしまう場合がある。例えば、偶々、母体脈拍成分を含む比較対象部分CPと、参照信号RDSとの間の相関係数が所定の条件を満たしてしまった場合、参照信号RDSが母体脈拍成分を含むものに更新されてしまう。以後、心拍数測定部20は、母体脈拍成分を含む参照信号RDSと比較対象部分CPとの相関係数を演算し、当該相関係数の時間変化の周期を演算することになる。これは、胎児心拍数ではなく、母体脈拍数を演算していることになる。
【0038】
このように、ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれている場合、測定処理によって、胎児心拍数ではなく、母体脈拍数が測定されてしまう。したがって、詳しくは後述するように、本実施形態では、母体脈拍成分判定部32により、ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれているか否かを判定することで、測定した数値が胎児心拍数であるか、母体脈拍数であるかを判定している。
【0039】
波形形成部22は、心拍数測定部20によって経時的に測定された胎児心拍数又は母体脈拍数に基づいて、胎児心拍数又は母体脈拍数の時間変化を表す出力波形を形成する。
図5は、出力波形の例を示す図である。
図5の例では、横軸は時間を表し、縦軸は胎児心拍数又は母体脈拍数を表している。
【0040】
出力制御部24は、心拍数測定部20により測定された胎児心拍数又は母体脈拍数、並びに、波形形成部22により形成された出力波形をディスプレイ26に表示させる。出力制御部24は、例えば、胎児心拍数又は母体脈拍数を、毎分何拍というように数値でディスプレイ26に表示させる。また、出力制御部24は、胎児心拍数又は母体脈拍数を、ディスプレイ26に表示させるに加えてあるいは代えて、スピーカ(不図示)からの音声によって出力するようにしてもよい。例えば、胎児の心拍に合わせて、予め用意された心音をスピーカから出力させるようにしてもよい。
【0041】
ディスプレイ26は、例えば液晶ディスプレイを含んで構成される。ディスプレイ26には、出力制御部24からの制御に応じて、種々の画面が表示される。
【0042】
メモリ28は、eMMC(embedded Multi Media Card)やROM(Read Only Memory)などの不揮発性メモリ、及び、RAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリを含んで構成される。不揮発性メモリには、胎児心拍数測定装置10の各部を動作させるための胎児心拍数測定プログラムが記憶される。なお、胎児心拍数測定プログラムは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ又はCD-ROMなどのコンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体に格納することもできる。胎児心拍数測定装置10は、そのような記憶媒体から胎児心拍数測定プログラムを読み取って実行することができる。
【0043】
また、
図1に示すように、メモリ28(詳しくは不揮発性メモリ)には、学習モデル30が記憶される。学習モデル30としては、これに限られるものではないが、例えば、CNN(Convolutional Neural Network)などの画像認識モデル、あるいは、Transformerなどの自然言語処理モデルを利用することができる。
【0044】
学習モデル30は、母体脈拍成分を含むドプラ信号を表す特徴量を学習データとして用いて、ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれているか否かを判定して出力するように学習される。本実施形態では、胎児心拍数測定装置10以外の装置である学習処理装置において、学習モデル30を学習させる学習処理が実行される。そして、学習処理装置において学習済みの学習モデル30がメモリ28に記憶される。しかしながら、胎児心拍数測定装置10が、以下に説明する学習処理を実行する学習処理部を備えていてもよく、すなわち、胎児心拍数測定装置10が学習処理装置であってもよく、学習処理を胎児心拍数測定装置10が行ってもよい。以下、学習モデル30の学習方法の詳細を説明する。
【0045】
まず、学習処理装置からアクセス可能なドプラ信号データベースに、過去において取得されたドプラ信号を蓄積記憶させておく。その上で、学習処理を行う学習処理者は、ドプラ信号データベースに記憶されたドプラ信号のうち、母体脈拍成分を含む部分を抽出する。
【0046】
図6は、母体脈拍成分を含むドプラ信号DSを示す図である。母体脈拍成分を含むドプラ信号DSから、所定時間長の単位ドプラ信号DSUが切り出される。単位ドプラ信号DSUの切り出しも、学習処理者によって行われてよい。母体脈拍数は変動し得ることろ、単位ドプラ信号DSUの時間長としては、母体脈拍数がかなり下がった場合であっても、1心拍分が含まれ得る程度の時間が設定される。本実施形態では、単位ドプラ信号DSUの時間長は3秒に設定される。
【0047】
母体脈拍成分を含むドプラ信号DSから複数の単位ドプラ信号DSUが切り出される。
図6に示すように、前の単位ドプラ信号DSUと次の単位ドプラ信号DSUとでオーバラップ部分があるように単位ドプラ信号DSUが切り出されるとよい。これにより、ドプラ信号DSからより多くの単位ドプラ信号DSUを切り出すことができる(これにより、詳しくは後述するように、より多くの学習データを得ることができる)。
【0048】
単位ドプラ信号DSUを表す特徴量が、学習モデル30を学習させるための学習データとなる。単位ドプラ信号DSUを表す特徴量としては、単位ドプラ信号DSU自体であってもよいが、本実施形態では、以下に説明するように、ドプラ信号DSが可聴周波数帯域内にあることに鑑み、ドプラ信号DSを音声として聴いて当該ドプラ信号DSに母体脈拍成分が含まれているか否かを人間が判断する処理を、模擬的に学習モデル30に実行させるべく、単位ドプラ信号DSUを音声信号として見たときの音響特徴量を単位ドプラ信号DSUの特徴量(つまり学習モデル30を学習させるための学習データ)としている。
【0049】
具体的には、本実施形態では、単位ドプラ信号DSUの音響特徴量として、単位ドプラ信号DSUをMFCC(Mel Frequency Cepstral Coefficient;メル周波数ケプストラム係数)で表現した2次元データを用いる。MFCCは既知の技術であるため、詳細な説明は省略するが、以下、単位ドプラ信号DSUからMFCCを得る処理を簡単に説明する。
【0050】
まず、学習処理装置のプロセッサは、単位ドプラ信号DSUに対してフーリエ変換を施し、単位ドプラ信号DSUの周波数スペクトルを得る。また、学習処理装置のプロセッサは、得られた周波数スペクトルに対してメルフィルタバンクを施し、単位ドプラ信号DSUの周波数がメル尺度(メル周波数)に変換され、低周波成分ほど分解能が高く、高周波成分ほど分解能が低くなる処理が施された、メル周波数スペクトラムを得る。ここで、メル尺度とは、可聴周波数帯域の下限に近い音は高めに聴こえ、上限に近い音は低めに聴こえるという人間の知覚が考慮された周波数の尺度である。さらに、学習処理装置のプロセッサは、メル周波数スペクトラムの対数を取ることで対数メル周波数スペクトラムを得る。
【0051】
次いで、学習処理装置のプロセッサは、対数メル周波数スペクトラムに対してDCT(Discrete Cosine Transform;離散コサイン変換)を施す。対数メル周波数スペクトラムに対するDCTにより得られた信号は、(対数)メル周波数ケプストラムと呼ばれる。
【0052】
最後に、学習処理装置のプロセッサは、得られたメル周波数ケプストラムの低次側の所定個(例えば12個)の信号成分を取り出す。そして、取り出された信号成分に対して正規化処理が行われて得られた信号成分がMFCCである。
【0053】
図7は、単位ドプラ信号DSUのMFCCを示す2次元データである。
図7に示す2次元データにおいて、横軸が時間を表し、縦軸が周波数(メル尺度)を表す。時間と周波数の2次元マップにおいて、MFCCの値が(本来)色で表現される。
【0054】
学習処理装置のプロセッサは、単位ドプラ信号DSUの特徴量(本実施形態ではMFCC)を学習データとして学習モデル30に入力する。単位ドプラ信号DSUのMFCCを示す2次元データを学習データとして用いる場合、学習モデル30はCNNであり、当該2次元データを2次元画像データとして学習モデル30に入力するとよい。学習モデル30は、入力された単位ドプラ信号DSUの特徴量に基づいて、当該単位ドプラ信号DSUに母体脈拍成分が含まれているか否かを予測して予測結果を出力する。学習処理装置のプロセッサは、予測結果と、当該単位ドプラ信号DSUが母体脈拍成分を含むことを示す教師データとの差分が小さくなるように、学習モデル30のパラメータを調整する。このような処理を繰り返すことで、十分に学習された学習モデル30は、入力された単位ドプラ信号DSUに母体脈拍成分が含まれているか否かを高精度の予測して出力することができるようになる。
【0055】
学習モデル30は、胎児心拍成分が支配的なドプラ信号を表す特徴量をさらに含む学習データを用いて、ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれているか否かを判定して出力するように学習されてもよい。この場合、学習処理を行う学習処理者によって、ドプラ信号データベースから、母体脈拍成分を含む部分と共に、胎児心拍成分が支配的な部分が抽出される。そして、胎児心拍成分が支配的なドプラ信号DSからも、複数の単位ドプラ信号DSUが切り出され、各単位ドプラ信号DSUの特徴量(例えばMFCC)が取得される。この場合、学習データとしての、母体脈拍成分を含むドプラ信号DSから切り出された単位ドプラ信号DSUの特徴量には、それが母体脈拍成分を含む単位ドプラ信号DSUであることを示すラベルが付され、学習データとしての、胎児心拍成分が支配的なドプラ信号DSから切り出された単位ドプラ信号DSUの特徴量には、それが胎児心拍拍成分が支配的な単位ドプラ信号DSUであることを示すラベルが付される。このようなラベルは教師データとして用いられる。学習モデル30は、母体脈拍成分を含む単位ドプラ信号DSUの特徴量のみならず、胎児心拍成分が支配的な単位ドプラ信号DSUの特徴量を含む学習データを用いて学習モデル30を学習させることで、学習済みの学習モデル30の予測精度、あるいは、学習モデル30の学習効率を向上させることができる。
【0056】
図1に戻り、母体脈拍成分判定部32は、ドプラ信号形成部18により形成された、判定処理対象のドプラ信号(本明細書では対象ドプラ信号と呼ぶ)に母体脈拍成分が含まれているか否かを判定する。具体的には、母体脈拍成分判定部32は、対象ドプラ信号を所定時間毎(例えば、学習データの元となった単位ドプラ信号DSU(
図6参照)と同じ時間)に切り出す。本明細書では、対象ドプラ信号から切り出された信号を単位対象ドプラ信号と呼ぶ。そして、母体脈拍成分判定部32は、
図8に示すように、切り出した単位対象ドプラ信号の特徴量を学習済みの学習モデル30に入力し、学習モデル30の出力データに基づいて、当該単位対象ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれているか否かを判定する。
【0057】
母体脈拍成分判定部32は、学習モデル30の学習データとして用いた単位ドプラ信号DSUの特徴量に応じた、単位対象ドプラ信号の特徴量を学習モデル30に入力する。例えば、単位ドプラ信号DSUを音声信号としてみたときの特徴量(例えばMFCC)を学習モデル30の学習データとして用いた場合、母体脈拍成分判定部32は、単位対象ドプラ信号を音声信号としてみたときの特徴量(例えばMFCC)を学習済みの学習モデル30に入力する。
【0058】
母体脈拍成分判定部32は、対象ドプラ信号から次々と対象単位ドプラ信号を切り出して、順次、学習モデル30に入力していく。これにより、母体脈拍成分判定部32は、経時的に、ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれているか否かを判定していく。
【0059】
母体脈拍成分判定部32の判定結果は、順次、出力制御部24に渡される。
【0060】
通知部としての出力制御部24は、母体脈拍成分判定部32により、対象ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれていると判定された場合に、対象ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれていることを、胎児心拍数測定装置10のユーザ(例えば医師や技師など)に通知する。
【0061】
出力制御部24が対象ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれていることをユーザに通知する方法は、種々の方法であってよい。例えば、出力制御部24は、母体脈拍成分を含む対象ドプラ信号に基づいて形成された波形部分(以下、母体脈拍波形部分と記載する)と、母体脈拍成分を含まない対象ドプラ信号に基づいて形成された波形部分(以下、胎児心拍波形部分と記載する)とを識別可能な態様で、波形形成部22が形成した出力波形40をディスプレイ26に表示させる。
【0062】
具体的には、
図9に示すように、出力制御部24は、出力波形40と共にインジケータ42を表示させるとよい。インジケータ42は、時間方向(
図9の例では横軸方向)に延びるバー状の形状を呈しており、母体脈拍波形部分の期間と、胎児心拍波形部分の期間とを互いに識別可能な態様で表示する。例えば、
図9の例では、インジケータ42において、母体脈拍波形部分の期間は斜線で表示され、胎児心拍波形部分の期間は網掛けで表示されている。
【0063】
また、出力制御部24は、インジケータ42に代えてあるいは加えて、出力波形40自体の表示態様を、母体脈拍波形部分と胎児心拍波形部分とを互いに識別可能な態様とする(例えば色分け表示する)ようにしてもよい。
【0064】
さらに、出力制御部24は、インジケータ42に代えてあるいは加えて、母体脈拍成分が含まれた対象ドプラ信号が検出されたタイミング(あるいは、母体脈拍成分が含まれた対象ドプラ信号に基づいて形成された波形部分がディスプレイ26に表示されたタイミング)でアラートを出力するようにしてもよい。アラートは、例えば、ディスプレイ26への表示、胎児心拍数測定装置10に設けられた発光部(例えばLED(Light-Emitting Diode)など)を発光させること、あるいは、胎児心拍数測定装置10に設けられたスピーカから音声を出力させることなどによって行うことができる。
【0065】
短い期間のみ、対象ドプラ信号が母体脈拍成分を含む、と判定される場合も考えられる。このような場合、すぐに測定対象が胎児心拍数に戻るのであるから、実質的に問題ないと考えられる。したがって、出力制御部24は、予め定められた所定時間連続して、対象ドプラ信号が母体脈拍成分を含むと判定された場合にアラートを出力するようにしてもよい。
【0066】
なお、出力制御部24は、出力波形40と共に、母体の子宮収縮圧の時間変化を示す子宮収縮圧波形44をディスプレイ26に表示するとよい。子宮収縮圧も、胎児心拍数測定装置10で測定される。例えば、母体の腹部表面に装着された超音波プローブ12に感圧センサを設け、感圧センサが検出した圧力に基づいて子宮収縮圧を測定することができる。
【0067】
本実施形態に係る胎児心拍数測定装置10の概要は以上の通りである。胎児心拍数測定装置10が有する上述の各部のうち、送信部14、受信部16、ドプラ信号形成部18、心拍数測定部20、波形形成部22、出力制御部24、及び、母体脈拍成分判定部32は、プロセッサによって構成される。プロセッサとは、汎用的な処理装置(例えばCPU(Central Processing Unit)など)、及び、専用の処理装置(例えばGPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、あるいは、プログラマブル論理デバイスなど)の少なくとも1つを含んで構成される。プロセッサとしては、1つの処理装置によるものではなく、物理的に離れた位置に存在する複数の処理装置の協働により構成されるものであってもよい。また、上記の各部は、プロセッサなどのハードウェアとソフトウエアとの協働により実現されてもよい。
【0068】
胎児心拍数測定装置10によれば、母体脈拍成分判定部32により、対象ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれていることを判定することができる。これにより、例えば、心拍数測定部20が胎児心拍数ではなく母体脈拍数を測定した場合であっても、ユーザは、それを容易に把握することができるようになる。母体脈拍数が測定されていることをユーザが把握できれば、例えば、胎児心拍数が誤って低下しているとユーザが判断することが抑制される。また、正常時においては母体脈拍数は胎児心拍数よりも小さいところ、母体脈拍数が測定されていることをユーザが把握できれば、仮に、母体脈拍数が胎児心拍数と同等程度に上昇しているような場合、ユーザは胎児心拍数測定装置10においてそれを検知することができる。さらに、母体の腹部表面に装着された超音波プローブ12の装着状態に起因して母体脈拍数が測定されているならば、母体脈拍数が測定されていることをユーザが把握できれば、ユーザが超音波プローブ12の装着状態を確認する契機となる。
【0069】
図10は、本実施形態に係る胎児心拍数測定システム50の構成概略図である。
図1に示す胎児心拍数測定装置10においては、対象ドプラ信号の形成処理及び胎児心拍数の測定処理と、対象ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれているか否かの判定処理とが1つの装置内で行われていたが、対象ドプラ信号の形成処理及び胎児心拍数の測定処理と、対象ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれているか否かの判定処理と、が互いに異なる装置で行われてもよい。
【0070】
図10に示される胎児心拍数測定システム50は、胎児心拍数測定装置52、及び、母体脈拍成分判定装置54とを含んで構成される。胎児心拍数測定装置52と母体脈拍成分判定装置54は、LAN(Local Area Network)又はWAN(Wide Area Network)などの通信回線56によって、互いに通信可能に接続される。胎児心拍数測定システム50は、複数の胎児心拍数測定装置52を有していてよい。すなわち、母体脈拍成分判定装置54は、複数の胎児心拍数測定装置52と通信可能に接続されてよい。
【0071】
胎児心拍数測定装置52は、病院内の検査室や分娩室などに設置され、母体脈拍成分判定装置54は、検査室や分娩室と異なる、病院内のナースセンタや中央管制室などに設置される。あるいは、胎児心拍数測定装置52は、例えば妊婦の自宅などに設置され、母体脈拍成分判定装置54は、妊婦の自宅から遠隔して設けられるサーバであってもよい。この場合、母体脈拍成分判定装置54が発揮する機能は、クラウドサービスにより提供されてもよい。
【0072】
胎児心拍数測定装置52は、超音波プローブ12、送信部14、受信部16、ドプラ信号形成部18、心拍数測定部20、波形形成部22、出力制御部24、ディスプレイ26、及び、通信部60を有する。胎児心拍数測定装置52が有する超音波プローブ12、送信部14、受信部16、ドプラ信号形成部18、心拍数測定部20、波形形成部22、出力制御部24、及びディスプレイ26の構成及び機能は、
図1における超音波プローブ12、送信部14、受信部16、ドプラ信号形成部18、心拍数測定部20、波形形成部22、出力制御部24、及びディスプレイ26と同様であるため、説明は省略する。
【0073】
通信部60は、例えばネットワークカードなどから構成され、通信回線56を介して母体脈拍成分判定装置54と通信する機能を発揮する。測定装置側通信部としての通信部60は、ドプラ信号形成部18が形成した対象ドプラ信を母体脈拍成分判定装置54に送信する。
【0074】
母体脈拍成分判定装置54は、母体脈拍成分判定部32、学習モデル30が記憶されたメモリ62、及び、ディスプレイ64、及び通信部66を有する。母体脈拍成分判定装置54が有する母体脈拍成分判定部32及び学習モデル30の構成及び機能は、
図1における母体脈拍成分判定部32及び学習モデル30と同様であるため、説明は省略する。
【0075】
メモリ62は、HDD(Hard Disk Drive)、eMMC、ROMなどの不揮発性メモリ、及び、RAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリを含んで構成される。ディスプレイ64は、例えば液晶ディスプレイを含んで構成される。ディスプレイ64には、母体脈拍成分判定装置54のプロセッサ(不図示)からの制御に応じて、種々の画面が表示される。
【0076】
母体脈拍成分判定装置54の母体脈拍成分判定部32は、胎児心拍数測定システム50に含まれる各胎児心拍数測定装置52から送信されてきた各対象ドプラ信号を表す特徴量を学習モデル30に入力し、学習モデル30の出力データに基づいて、各対象ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれているか否かを判定する。
【0077】
学習モデル30を用いた母体脈拍成分判定部32による判定処理は、演算量が多くなる。したがって、母体脈拍成分判定部32及び学習モデル30を有する装置のプロセッサは、高い演算能力が要求される。胎児心拍数測定システム50においては、母体脈拍成分判定部32及び学習モデル30は、母体脈拍成分判定装置54に設けられており、各胎児心拍数測定装置52には設けられていない。したがって、胎児心拍数測定システム50によれば、母体脈拍成分判定装置54にのみ高い演算能力を有するプロセッサを設ければよく、各胎児心拍数測定装置52のプロセッサには、高い演算能力を有するプロセッサを設ける必要がない。これにより、各胎児心拍数測定装置52のコストを上げることなく、各胎児心拍数測定装置52で形成された各対象ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれているか否かを判定することができる。
【0078】
また、各胎児心拍数測定装置52で形成された各対象ドプラ信号についての、母体脈拍成分判定部32の判定結果をディスプレイ64に表示すれば、ユーザは、各各胎児心拍数測定装置52からの各対象ドプラ信号についての判定結果をディスプレイ64にて集約して確認することができる。
【0079】
通信部66は、例えばネットワークカードなどから構成され、通信回線56を介して各胎児心拍数測定装置52と通信する機能を発揮する。判定装置側通信部としての通信部66は、母体脈拍成分判定部32により、対象ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれていると判定された場合に、当該対象ドプラ信号を送信した胎児心拍数測定装置52に通知してもよい。胎児心拍数測定装置52の通知部としての出力制御部24は、母体脈拍成分判定装置54からの通知を受けた場合、自装置で形成した対象ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれていることをユーザに通知する。
【0080】
このように、対象ドプラ信号の形成処理を胎児心拍数測定装置52で行い、当該対象ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれているか否かを判定する判定処理を母体脈拍成分判定装置54で行い、対象ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれる場合におけるユーザへの通知を胎児心拍数測定装置52で行うようにしてもよい。これにより、胎児心拍数測定装置52のコストを上げることなく、ユーザは、胎児心拍数測定装置52によって、対象ドプラ信号に母体脈拍成分が含まれているか否かを確認することができる。
【0081】
以上、本実施形態に係る胎児心拍数測定装置、胎児心拍数測定システム、及び、胎児心拍数測定プログラムを説明したが、本実施形態に係る胎児心拍数測定装置、胎児心拍数測定システム、及び、胎児心拍数測定プログラムは、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0082】
10,52 胎児心拍数測定装置、12 超音波プローブ、14 送信部、16 受信部、18 ドプラ信号形成部、20 心拍数測定部、22 波形形成部、24 出力制御部、26,64 ディスプレイ、28,62 メモリ、30 学習モデル、32 母胎脈拍成分判定部、40 出力波形、42 インジケータ、44 子宮収縮圧波形、50 胎児心拍数測定システム、54 母胎脈拍成分判定装置、56 通信回線、60,66 通信部。