(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012336
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用正極板、鉛蓄電池用負極板、および鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/14 20060101AFI20250117BHJP
H01M 4/73 20060101ALI20250117BHJP
H01M 10/06 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
H01M4/14 Q
H01M4/73 A
H01M10/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115099
(22)【出願日】2023-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 誠人
【テーマコード(参考)】
5H017
5H028
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA01
5H017AS02
5H017AS10
5H017CC05
5H017EE02
5H017HH04
5H028AA05
5H028CC11
5H028HH06
5H050BA09
5H050CA06
5H050CB15
5H050HA00
5H050HA07
(57)【要約】
【解決手段】開示される鉛蓄電池用正極板は、正極集電体と、前記正極集電体に保持された正極電極材料とを含み、前記正極電極材料の比コンダクタンスは1.8S/mm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池用正極板であって、
正極集電体と、前記正極集電体に保持された正極電極材料とを含み、
前記正極電極材料の比コンダクタンスは1.8S/mm以下である、鉛蓄電池用正極板。
【請求項2】
前記正極集電体は格子状部を含み、
前記正極集電体の前記格子状部の面積SP0に占める、前記格子状部の格子桟に囲まれた領域の合計の面積SP1の比率SP1/SP0は、0.68以上である、請求項1に記載の鉛蓄電池用正極板。
【請求項3】
前記正極電極材料のBET比表面積は5.8m2/g以上である、請求項1に記載の鉛蓄電池用正極板。
【請求項4】
鉛蓄電池用負極板であって、
負極集電体と、前記負極集電体に保持された負極電極材料とを含み、
前記負極電極材料の比コンダクタンスは120S/mm以下である、鉛蓄電池用負極板。
【請求項5】
前記負極集電体は格子状部を含み、
前記負極集電体の前記格子状部の面積SN0に占める、前記格子状部の格子桟に囲まれた領域の合計の面積SN1の比率SN1/SN0は、0.65以上である、請求項4に記載の鉛蓄電池用負極板。
【請求項6】
前記負極電極材料のBET比表面積は0.75m2/g以上である、請求項4に記載の鉛蓄電池用負極板。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用正極板、および、請求項4~6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用負極板の少なくとも一方を含む、鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用正極板、鉛蓄電池用負極板、および鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池には、負極板、正極板、セパレータ(またはマット)、および電解液などが含まれる。各極板は、集電体と、電極材料を備える。
【0003】
鉛蓄電池において、電極材料の導電性を向上させるために、セラミックスフレークを電極材料に添加することが試みられている。
【0004】
特許文献1は、膜厚が0.1μm~5μmであって、フレークの平均半径が50μm以上であって、比抵抗が9×10-2Ω・cm以下であることを特徴とする酸化物系導電性セラミックスフレークが添加剤として混合されている鉛蓄電池を提案している。
【0005】
また、鉛蓄電池において、電極材料の脱落による容量低下や短絡などを抑制するために、格子の形状を変更することが試みられている。
【0006】
特許文献2は、鉛合金シートを機械加工することにより、部分的に切断展開した連続エキスパンド格子を形成し、該連続エキスパンド格子にペーストを充填後、所定の大きさに切断して製造されるエキスパンド格子を用いた極板において、極板のエキスパンド格子両側部に格子棧の結節部が残らないよう切断され、格子側部と格子側部に対向する最も近い結節部との距離が、複数個の結節部を頂点とし、前記結節部と格子棧とで形成される最小単位の網目形状である多角形の連続格子進行方向に対して平行な対角距離のほぼ1/4となるよう切断されたエキスパンド格子を備えてなることを特徴とする鉛蓄電池用極板を提案している。
【0007】
特許文献3は、帯状の金属シートに厚み方向への凹凸加工と長手方向への切り込み加工を同時に施したのちに、その金属シートを幅方向に拡張したものを幅方向に沿った切断線で切断して得られる所定長さの展伸メッシュシートにおいて、線状の四つの格子骨で囲まれたほぼ菱形形状の格子体が千鳥状の配置となった結節部により結節されてなる格子縞形状を有し、前記長さ方向の両端部に、三つの前記格子骨で囲まれたほぼ三角形状の複数の変形格子体が幅方向にそれぞれ一列に連接されて、これら変形格子体における端部に位置する一つの前記各格子骨が幅方向に沿ってほぼ直線状に連結成形されていることを特徴とする展伸メッシュシートを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06-187820号公報
【特許文献2】特開平10-223232号公報
【特許文献3】特開平7-320743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
鉛蓄電池では、充電によって高濃度の電解液が極板下部に沈降する成層化が進行し、極板下部での放電量が多くなり、硫酸鉛が再結晶して粗大化するサルフェーションと呼ばれる現象が見られる。その結果、サイクル寿命性能が低下するため、サイクル寿命性能を向上のためにサルフェーションを抑制することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、鉛蓄電池用正極板であって、
正極集電体と、前記正極集電体に保持された正極電極材料とを含み、
前記正極電極材料の比コンダクタンスは1.8S/mm以下である、鉛蓄電池用正極板に関する。
【0011】
本発明の他の一側面は、鉛蓄電池用負極板であって、
負極集電体と、前記負極集電体に保持された負極電極材料とを含み、
前記負極電極材料の比コンダクタンスは120S/mm以下である、鉛蓄電池用負極板に関する。
【0012】
本発明の他の一側面は、本発明の鉛蓄電池用正極板、および、本発明の鉛蓄電池用負極板の少なくとも一方を含む、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、サルフェーション抑制効果の高い鉛蓄電池用正極板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一側面に係る鉛蓄電池の外観と内部構造とを示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
【
図2A】本発明の一側面に係る鉛蓄電池に用いられる集電体を模式的に示す上面図である。
【
図2B】
図2Aに示した上面図において、格子状部の格子桟に囲まれた領域を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態に係る鉛蓄電池用正極板は、正極集電体と、正極集電体に保持された正極電極材料とを含む。正極集電体の格子状部の面積を「SP0」、正極集電体の格子状部の格子桟に囲まれた領域の合計の面積を「SP1」と称する場合がある。また、面積SP0に占める面積SP1の比率を、「比率SP1/SP0」と称する場合がある。
【0016】
本実施形態に係る鉛蓄電池用負極板は、負極集電体と、負極集電体に保持された負極電極材料とを含む。負極集電体の格子状部の面積を「SN0」、負極集電体の格子桟に囲まれた領域の合計の面積を「SN1」と称する場合がある。また、面積SN0に占める面積SN1の比率を、「比率SN1/SN0」と称する場合がある。
【0017】
正極集電体および負極集電体の格子桟に囲まれた領域は、
図2に示すように各集電体の厚さ方向に対して垂直な面において、各集電体の格子状部を構成する格子桟によって囲まれた領域を意味する。なお、SP1およびSN1を算出する際には、各集電体の上部枠骨部および下部枠骨部も格子桟の一部とみなし、各集電体の格子桟に囲まれた領域を定義する。1つの観点では、格子桟によって囲まれた領域は、格子桟によって形成される閉じた環状構造で囲まれた領域である。閉じた環状構造の例には、円環状、多角環状(三角環状、四角環状、その他の多角環状)、あるいはそれに準ずる環状構造が含まれる。そのため、例えば、集電体の端部のように、各集電体を構成する格子桟によって一部が囲まれない領域は、各集電体の格子桟に囲まれた領域に含まれない。上記の方法で定義された正極集電体の格子状部の格子桟に囲まれた領域の面積が「SP1」に対応し、負極集電体の格子状部の格子桟に囲まれた領域の面積が「SN1」に対応する。
【0018】
発明者らは、硫酸鉛の粗大化は電極材料内部(電極材料表面と電解液との界面から極板への厚さ方向への深度が大きい領域)で生じやすく、その原因は、電極材料の表面近傍と電極材料内部との電流の流れやすさの違いにあると考察した。電極材料の表面近傍では、電極材料内部と比べて電流が流れやすいため、硫酸鉛が残留しにくい。一方、電極材料内部は電流が流れにくいため、硫酸鉛が残留しやすい。その結果、残留した硫酸鉛が粗大化するサルフェーションが進行しやすくなると考えられる。そこで発明者らは、電極材料内部での硫酸鉛の粗大化を抑制するために、充放電反応を電極材料の表面近傍に留めることを試みた。
【0019】
上記に鑑み、本発明の一側面に係る鉛蓄電池用正極板は、正極集電体と、前記正極集電体に保持された正極電極材料とを含み、正極電極材料の比コンダクタンスは1.8S/mm以下である。
【0020】
正極電極材料の比コンダクタンスを1.8S/mm以下にすることによって、サルフェーション抑制効果を高めることができ、サイクル寿命性能を向上させることができる。サルフェーション抑制効果が得られるメカニズムは定かではないが、以下の通り推測される。従来のように電極材料の比コンダクタンスが大きい場合、放電反応が電極材料内部まで到達しやすいため、硫酸鉛が電極材料内部に残留しやすい。それに対し、電極材料の比コンダクタンスを従来よりも小さくした場合、電極材料へ電流が流れにくくなるため、電極材料内部まで放電反応が到達しにくくなる。その結果、硫酸鉛が生成する放電反応が電極材料の表面近傍に偏り、電極材料の表面近傍に薄い硫酸鉛の層が形成されやすくなる。この場合、電極材料内部で硫酸鉛が形成されにくくなるため、電極材料内部に残留した硫酸鉛の粗大化は抑制され、硫酸鉛が電極材料内部に残留することも抑制されるため、サルフェーション抑制効果の高い鉛蓄電池用正極板を得ることができる。
【0021】
本発明の他の一側面に係る鉛蓄電池用負極板は、負極集電体と、前記負極集電体に保持された負極電極材料とを含み、負極電極材料の比コンダクタンスは120S/mm以下である。
【0022】
負極電極材料の比コンダクタンスを120S/mm以下にすることによって、サルフェーション抑制効果を高めることができ、サイクル寿命性能を向上させることができる。サルフェーション抑制効果が得られるメカニズムは鉛蓄電池用正極板と同様に、電極材料の比コンダクタンスを従来よりも小さくすることによって電極材料内部まで放電反応が到達しにくくなり、硫酸鉛が生成する放電反応が電極材料の表面近傍に偏ることによって電極材料の表面近傍に薄い硫酸鉛の層が形成されやすくなったためと考えられる。その結果、硫酸鉛が電極材料内部に残留することが抑制されるため、サルフェーション抑制効果の高い鉛蓄電池用負極板を得ることができる。
【0023】
正極電極材料の比コンダクタンスは、例えば、1.4S/mm以下であり、1.0S/mm以下であってもよい。
【0024】
正極電極材料の比コンダクタンスを0.6S/mm以上とすることによって、高率放電性能が低下するおそれを低減できる。正極電極材料の比コンダクタンスを0.6S/mm以上とすることによって、放電反応が電極材料の表面近傍へ極端に偏り、電極材料の表面の全てが硫酸鉛によって被覆され、電極材料表面-電解液間の抵抗が増大してしまうおそれを低減できる。
【0025】
負極電極材料の比コンダクタンスは、例えば、100S/mm以下であり、80S/mm以下であってもよい。
【0026】
負極電極材料の比コンダクタンスを40S/mm以上とすることによって、高率放電性能が低下するおそれを低減できる。負極電極材料の比コンダクタンスを40S/mm以上とすることによって、放電反応が電極材料の表面近傍へ極端に偏り、電極材料の表面の全てが硫酸鉛によって被覆され、電極材料表面-電解液間の抵抗が増大してしまうおそれを低減できる。
【0027】
比率SP1/SP0は、0.68以上であることが好ましい。比率SP1/SP0を0.68以上にすることによって、サルフェーション抑制効果をさらに高めることができ、サイクル寿命性能を向上させることができる。比率SP1/SP0が所定の値よりも小さい場合、電流の流れにくい集電体端部の正極集電体の格子桟に囲まれない領域が大きいため、この領域に充填されている正極電極材料は充放電されにくい。その結果、正極電極材料の充放電反応は極板中央部に集中するため、正極電極材料の比コンダクタンスを小さくしたとしても正極電極材料の表面近傍に薄い硫酸鉛の層を形成しにくく、サルフェーション抑制効果を十分に得られない。一方、比率SP1/SP0が所定の値よりも大きい場合、電流の流れにくい集電体端部の正極集電体の格子桟に囲まれない領域が小さいため、正極電極材料の充放電反応が極板全体で均一化されやすくなる。その結果、極板に水平な方向において特定の領域で充放電反応が集中しにくくなり、正極電極材料の表面近傍に薄い硫酸鉛の層を形成しやすくなる。この効果は、比率SP1/SP0が大きい正極集電体と比コンダクタンスが小さい正極電極材料を組み合わせることによって得られ、サルフェーション抑制効果の高い鉛蓄電池用正極板を得ることができる。
【0028】
比率SN1/SN0は、0.65以上であることが好ましい。比率SN1/SN0を0.65以上にすることによって、サルフェーション抑制効果をさらに高めることができ、サイクル寿命性能を向上させることができる。サルフェーション抑制効果が得られるメカニズムは鉛蓄電池用正極板と同様に、比率SN1/SN0が所定の値よりも大きい場合、負極電極材料の充放電反応が極板全体で均一化されて充放電反応が集中しにくくなり、負極電極材料の表面近傍に薄い硫酸鉛の層を形成しやすくなったと推測される。この効果は、比率SN1/SN0が大きい負極集電体と比コンダクタンスが小さい負極電極材料を組み合わせることによって得られ、サルフェーション抑制効果の高い鉛蓄電池用負極板を得ることができる。
【0029】
比率SP1/SP0は、例えば、0.70以上であってもよい。
【0030】
比率SP1/SP0を0.90以下とすることによって正極集電体のノードピッチ(集電体の幅方向における格子桟の結節部同士の距離)を大きくでき、集電体の製造工程におけるエキスパンド展開時に、格子桟が切れるおそれを低減できる。
【0031】
比率SN1/SN0は、例えば、0.67以上であってもよい。
【0032】
比率SN1/SN0を0.90以下とすることによって負極集電体のノードピッチ(集電体の幅方向における格子桟の結節部同士の距離)を大きくでき、集電体の製造工程におけるエキスパンド展開時に、格子桟が切れるおそれを低減できる。
【0033】
正極集電体の格子状部および負極集電体の格子状部は、エキスパンド格子であることが好ましい。エキスパンド格子では、集電体の幅方向の枠骨部が存在せず電極材料の充放電反応が極板中央部に集中しやすいため、比率SP1/SP0または比率SN1/SN0を大きくすることによって効果が得られやすい。また、エキスパンド格子の製造工程においては、集電体の切断位置や結節部同士の距離を変えることによって容易に比率SP1/SP0または比率SN1/SN0を制御できるため、本発明を適用するのに適している。
【0034】
正極電極材料のBET比表面積は、5.8m2/g以上が好ましい。BET比表面積を5.8m2/g以上とすることによって、さらにサルフェーション抑制効果を高めることができ、サイクル寿命性能を向上させることができる。BET比表面積が所定の値よりも小さい場合、放電反応を起こすことができる正極電極材料表面が限られるため、正極電極材料の比コンダクタンスを小さくしても、正極電極材料の表面近傍に厚い硫酸鉛の層が形成されやすくなる。一方、BET比表面積が所定の値よりも大きい場合、放電反応を起こすことができる正極電極材料表面の面積は大きい。そのため、正極電極材料の比コンダクタンスが小さく、かつBET比表面積が大きい場合、広い正極電極材料表面で充放電反応を行うことができるため、より薄い硫酸鉛の層を形成しやすくなる。この効果は、正極電極材料の比コンダクタンスが所定の値よりも小さいかつ、正極電極材料のBET比表面積が所定の値よりも大きいときに得られ、サルフェーション抑制効果の高い鉛蓄電池用正極板を得ることができる。
【0035】
負極電極材料のBET比表面積は、0.75m2/g以上が好ましい。BET比表面積を0.75m2/g以上とすることによって、さらにサルフェーション抑制効果を高めることができ、サイクル寿命性能を向上させることができる。サルフェーション抑制効果が得られるメカニズムは鉛蓄電池用正極板と同様に、BET比表面積が所定の値よりも大きい場合、広い負極電極材料表面で充放電反応を行うことができるため、より薄い硫酸鉛の層を形成しやすくなるためと考えられる。この効果は、負極電極材料の比コンダクタンスが所定の値よりも小さいかつ、負極電極材料のBET比表面積が所定の値よりも大きいときに得られ、サルフェーション抑制効果の高い鉛蓄電池用負極板を得ることができる。
【0036】
正極電極材料のBET比表面積は、例えば、6.4m2/g以上であり、7.0m2/g以上であり、7.6m2/g以上であってもよい。
【0037】
正極電極材料のBET比表面積は、11.0m2/g以下とすることによって正極電極材料の細孔径が非常に小さくなり、放電時に生成される硫酸鉛によって細孔閉塞を起こして放電容量が低下するおそれを低減できる。また、細孔閉塞が起きにくくなることによって、さらに広い正極電極材料の表面で充放電反応が行われやすくなる。その結果、正極電極材料表面で薄い硫酸鉛の層を形成しやすくなり、サルフェーション抑制効果の高い鉛蓄電池用正極板を得ることができる。
【0038】
負極電極材料のBET比表面積は、例えば、0.80m2/g以上であり、0.85m2/g以上であり、0.90m2/g以上であってもよい。
【0039】
負極電極材料のBET比表面積は、1.1m2/g以下とすることによって負極電極材料の細孔径が非常に小さくなり、放電時に生成される硫酸鉛によって細孔閉塞を起こして放電容量が低下するおそれを低減できる。また、細孔閉塞が起きにくくなることによって、さらに広い負極電極材料の表面で充放電反応が行われやすくなる。その結果、負極電極材料表面で薄い硫酸鉛の層を形成しやすくなり、サルフェーション抑制効果の高い鉛蓄電池用負極板を得ることができる。
【0040】
本発明の鉛蓄電池は、本発明の鉛蓄電池用正極板および本発明の鉛蓄電池用負極板の少なくとも一方を含む。これらの極板を含むことによって、鉛蓄電池のサルフェーションを抑制することができ、サイクル寿命性能を向上させることができる。本発明の鉛蓄電池は、本発明の鉛蓄電池用正極板を含んでもよいし、本発明の鉛蓄電池用負極板を含んでもよいし、それらの両方を含んでもよい。
【0041】
(満充電状態)
本明細書中、液式の鉛蓄電池の満充電状態は、JIS D 5301:2019の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、定格容量として記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧(V)または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで、鉛蓄電池を充電した状態を満充電状態とする。
【0042】
本明細書中、満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電した鉛蓄電池である。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池である。
【0043】
(電極材料)
負極電極材料および正極電極材料の各電極材料は、通常、集電体に保持されている。電極材料とは、極板から集電体を除いた部分である。極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材とも称する)は極板と一体として使用されるため、極板に含まれる。極板が貼付部材(マット、ペースティングペーパなど)を含む場合には、電極材料は、極板から集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0044】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0045】
[鉛蓄電池]
(正極板)
正極板は、正極電極材料と、正極集電体を備える。正極板の製造方法の一例では、まず、正極集電体に正極ペーストを塗布または充填し、熟成および乾燥することによって未化成の正極板を作製する。その後、未化成の正極板を化成することによって正極板を形成できる。正極電極材料となる正極ペーストは、例えば、鉛粉と、必要に応じて添加剤と、水および硫酸(または硫酸水溶液)とを混練することによって調製する。室温よりも高温かつ高湿度で、未化成の正極板を熟成させてもよい。
【0046】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0047】
(正極集電体)
正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造によって形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工または打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0048】
正極集電体に用いる鉛合金としては、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金などが挙げられる。鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。
【0049】
(正極電極材料)
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応によって容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0050】
(負極板)
負極板は、負極電極材料と、負極集電体とを備える。負極板の製造方法の一例では、まず、負極集電体に負極ペーストを塗布または充填し、熟成および乾燥することによって未化成の負極板を作製する。その後、未化成の負極板を化成することによって、負極板を形成できる。負極電極材料となる負極ペーストは、例えば、鉛粉と、水および硫酸(または硫酸水溶液)と、必要に応じてポリマー化合物と、他の添加剤とを混練することによって作製する。室温よりも高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させてもよい。
【0051】
化成は、例えば、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することによって行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成によって海綿状鉛が生成する。
【0052】
(負極集電体)
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造によって形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工または打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として格子状の集電体を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0053】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なってもよい。表面層は、負極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、負極集電体の耳部に形成されていてもよい。耳部の表面層は、SnまたはSn合金を含有してもよい。
【0054】
(負極電極材料)
負極電極材料は、酸化還元反応によって容量を発現する負極活物質(具体的には、鉛もしくは硫酸鉛)を含んでいる。負極電極材料は、有機防縮剤、炭素質材料および他の添加剤からなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。添加剤としては、硫酸バリウム、繊維(樹脂繊維など)などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0055】
(有機防縮剤)
有機防縮剤とは、鉛蓄電池の充放電を繰り返したときに負極活物質である鉛の収縮を抑制する機能を有する化合物のうち、有機化合物を言う。有機防縮剤としては、例えば、リグニン化合物および合成有機防縮剤からなる群より選択される少なくとも一種を用いてもよい。
【0056】
リグニン化合物としては、リグニン、リグニン誘導体などが挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)など)などが挙げられる。
【0057】
負極電極材料中の有機防縮剤の含有量は、例えば、0.005質量%以上が好ましい。
【0058】
(炭素質材料)
負極電極材料に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。ファーネスブラックには、ケッチェンブラック(商品名)も含まれる。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素質材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。負極電極材料は、炭素質材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0059】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば、0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。炭素質材料の含有量は、例えば、5質量%以下であり、3質量%以下であってもよい。
【0060】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、0.05質量%以上5質量%以下、0.05質量%以上3質量%以下(または1.2質量%以下)、0.1質量%以上5質量%以下、あるいは0.1質量%以上3質量%以下(または1.2質量%以下)であってもよい。
【0061】
(硫酸バリウム)
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば、0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば、3質量%以下であり、2質量%以下であってもよい。
【0062】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上3質量%以下、0.05質量%以上2質量%以下、0.10質量%以上3質量%以下、または0.10質量%以上2質量%以下であってもよい。
【0063】
(比コンダクタンスの測定)
正極電極材料および負極電極材料のそれぞれの比コンダクタンスは、以下の手順によって測定される。まず、化成が終了した満充電状態の鉛蓄電池を分解して極板(正極板、負極板)を取り出す。次に、取り出した極板を水洗することによって極板中の硫酸を除去する。水洗は、水洗した極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。水洗した極板は、60±5℃で完全に乾くまで乾燥させた後、極板のコンダクタンスG1を25±2℃でテスターにより測定する。なお、負極板の乾燥の際には、真空乾燥機を用いて乾燥する。テスターとして、HIOKI製バッテリハイテスタBT3562A(ピン型プロ―ブを使用)を用いる。テスターを用いる際、+側のプローブは上部枠骨部(集電体の上部)の中央へ、-側のプローブは下部枠骨部(集電体の下部)の中央へ、それぞれ垂直に当てることで各コンダクタンスの測定を行う。極板のコンダクタンスの測定は各極板で5回行った平均値を算出し、鉛蓄電池を分解して取り出したすべての極板のコンダクタンスの平均値を、極板のコンダクタンスG1として採用する。次に、上記手順で乾燥させた極板を用いて、極板の高さhと極板の断面積Sを測定する。極板の上端と下端との最短距離の長さを極板の高さhとし、直尺を用いて測定する。次に、極板の高さ方向に対して垂直な断面の面積を、極板の断面積Sとして測定する。具体的には、まず極板の下端からの距離が、(1/5)h、(2/5)h、(3/5)h、(4/5)hとなる4箇所の断面について、長辺(極板の幅)の長さaと短辺(極板の厚さ)の長さbをノギスでそれぞれ測定する。このとき、bの測定の際には向かい合う一対の短辺の長さbをそれぞれ測定し、平均値を採用する。そして、(1/5)h、(2/5)h、(3/5)h、(4/5)hとなる4箇所の断面積をそれぞれのa×bの値から算出し、4箇所の断面積の平均値を極板の断面積Sとして採用する。次に、極板から電極材料を除去し、電極材料を除去した集電体をアルカリ性のマンニット溶液に所定時間含浸した後、水洗することによって集電体のみの状態とし、集電体のコンダクタンスG2を25±2℃でテスターにより測定する。テスターとして、HIOKI製バッテリハイテスタBT3562A(ピン型プロ―ブを使用)を用いる。+側のプローブおよび-側のプローブはそれぞれ、上述した部分に垂直に当てる。集電体のコンダクタンスの測定は各集電体で5回行った平均値を算出し、鉛蓄電池を分解して取り出したすべての集電体のコンダクタンスの平均値を、集電体のコンダクタンスG2として採用する。
【0064】
その後、式(2)により電極材料のコンダクタンスGを算出し、式(1)により比コンダクタンスを算出する。なお、コンダクタンスGは抵抗の逆数である。式(1)で算出する比コンダクタンスを採用することによって、電極材料量に依存せずに電極材料の電気伝導性を評価することができる。比コンダクタンスを小さくする方法としては、例えばペースト充填後のフラッシュドライの炉の温度を高くすることによって、電極材料中にクラックを生じさせやすくなり、比コンダクタンスを小さくできる。フラッシュドライはペーストの熟成工程前に行われ、ペースト充填後の極板をそのままトンネル型の炉の中に通して乾燥する工程であり、短時間で極板表面のみを乾燥させることができる特徴がある。他の方法として、例えば化成時の電解液温度を高くすることによって、電極材料中の空孔が多くなるため、比コンダクタンスを小さくできる。また、例えば化成時の充電電気量を少なくすることによって、不導体である硫酸鉛が電極材料中で増加するため、比コンダクタンスを小さくできる。これらの方法により、比コンダクタンスを制御することができる。
式(1):比コンダクタンス=G×h/S(G:電極材料のコンダクタンス、h:極板の高さ、S:極板の断面積)
式(2):G=G1-G2(G1:極板のコンダクタンス、G2:集電体のコンダクタンス)
【0065】
正極電極材料の比コンダクタンスは、フラッシュドライの条件を、正極電極材料の比コンダクタンスに影響を与える他の条件(例えば正極電極材料の化成時の電解液温度など)に応じて変化させることによって制御してもよい。負極電極材料の比コンダクタンスは、フラッシュドライの条件を、負極電極材料の比コンダクタンスに影響を与える他の条件(例えば負極電極材料の化成時の電解液温度など)に応じて変化させることによって制御してもよい。正極電極材料および負極電極材料のフラッシュドライは、ペースト充填後の極板を、例えば温度300℃~450℃の範囲にある乾燥炉で10秒~50秒間の範囲にある時間だけ熱処理を行ってもよいし、例えば温度200℃~400℃の範囲にある乾燥炉で40秒~90秒間の範囲にある時間だけ熱処理を行ってもよい。上記の条件でフラッシュドライを行うと、正極電極材料の比コンダクタンスおよび負極電極材料の比コンダクタンスを低い範囲で制御しやすい。
【0066】
(比率SP1/SP0の測定)
上記手順により入手した正極集電体について、正極集電体の格子状部の面積SP0を求める。格子状部の面積SP0は、格子状部の外縁を囲む最小の矩形の面積である。例えば、上部枠骨部の下端と下部枠骨部の上端との距離と、格子状部の幅方向の長さとから面積SP0を求めることができる。次に、格子状部の格子桟に囲まれた領域の合計の面積SP1を求める。面積SP1は、格子桟で囲まれている領域を上方から見たときの面積の合計である。面積SP1は、格子桟に囲まれた各マス目の高さと、幅と、結節部の幅とから各面積を測定し、各面積を合計することによって求める。このとき、正極集電体の上部枠骨部および下部枠骨部と格子桟とによって囲まれた領域もSP1と定義する。得られたSP0およびSP1から、比率SP1/SP0を算出する。比率SP1/SP0は、正極集電体の切断位置やノードピッチ(集電体の幅方向における格子桟の結節部同士の距離)を変更することによって制御できる。
【0067】
正極集電体の上部枠骨部の下端と下部枠骨部の上端との距離は、例えば300mm以下であり、200mm以下、150mm以下、120mm以下、または80mm以下であってもよい。正極集電体の格子状部の幅方向の長さは、例えば250mm以下であり、200mm以下、150mm以下、120mm以下、または80mm以下であってもよい。正極集電体の大きさを上記の範囲とすることによって、格子桟に囲まれたマス目が大きくなりすぎて正極電極材料の充放電反応が極板全体で均一化されにくくなるおそれを低減できるため、好ましい。
【0068】
(比率SN1/SN0の測定)
負極集電体の面積SN1および面積SN0は、それぞれ、正極集電体の面積SP0および面積SP1と同様の方法で求めることができる。比率SN1/SN0は、負極集電体の切断位置やノードピッチ(集電体の幅方向における格子桟の結節部同士の距離)を変更することによって制御できる。
【0069】
負極集電体の上部枠骨部の下端と下部枠骨部の上端との距離は、例えば300mm以下であり、200mm以下、150mm以下、120mm以下、または80mm以下であってもよい。負極集電体の格子状部の幅方向の長さは、例えば250mm以下であり、200mm以下、150mm以下、120mm以下、または80mm以下であってもよい。負極集電体の大きさを上記の範囲とすることによって、格子桟に囲まれたマス目が大きくなりすぎて負極電極材料の充放電反応が極板全体で均一化されにくくなるおそれを低減できるため、好ましい。
【0070】
(BET比表面積の測定)
正極電極材料および負極電極材料のBET比表面積は、以下の方法で求められる。化成が終了した満充電状態の鉛蓄電池を分解して正極板および負極板を取り出す。次に、正極板および負極板を水洗することによって各極板中の硫酸を除去する。水洗は、極板の表面が中性になるまで行う。極板の表面が中性であるかどうかは、極板の表面にpH試験紙を押し当てることによって確認できる。水洗した各極板は、60±5℃で、完全に乾くまで乾燥する。なお、負極板の乾燥の際には、真空乾燥機を用いて乾燥する。次に、正極板から正極電極材料を分離して未粉砕の試料Aを、負極板から負極電極材料を分離して試料Bを採取する。採取された各試料は、窒素フロー中、150℃の温度で1時間加熱することによって前処理される。前処理した各試料のBET比表面積は、質量測定と、ガス吸着法による測定と、BET式を用いた計算とによって求められる。具体的には、下記の装置および条件による測定と、下記の計算とによってBET比表面積を求める。BET比表面積を大きくする方法としては、鉛粉の粒径を小さくすることや、化成時の電解液温度を低くすること、化成時の電解液比重を低くすること、といった方法が挙げられる。
測定装置:マイクロメリティックス社製 TriStar3000
吸着ガス:純度99.99%以上の窒素ガス
吸着温度:液体窒素沸点温度(77K)
BET比表面積の計算方法:JIS Z 8830:2013の7.2に準拠
【0071】
正極電極材料のBET比表面積は、化成時の電解液温度を、正極電極材料のBET比表面積に影響を与える他の条件(例えば正極電極材料中の鉛粉の粒径など)に応じて変化させることによって制御してもよい。負極電極材料のBET比表面積は、化成時の電解液温度を、負極電極材料のBET比表面積に影響を与える他の条件(例えば負極電極材料中の鉛粉の粒径など)に応じて変化させることによって制御してもよい。正極電極材料および負極電極材料の化成時の電解液温度は、25℃~80℃の範囲にある温度であってもよい。上記の温度範囲内において化成時の電解液温度を低くすることによって、正極電極材料のBET比表面積および負極電極材料のBET比表面積を大きい範囲で制御しやすい。
【0072】
(セパレータ)
鉛蓄電池は、通常、負極板と正極板との間に介在するセパレータを備えている。セパレータとしては、微多孔膜あるいは不織布を用いることができる。不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。不織布は、例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体(例えば、シリカ粉末、ガラス粉末、珪藻土)、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。
【0073】
繊維としては、ガラス繊維、有機繊維などを用いることができる。有機繊維としては、電解液に不溶性の繊維材料が用いられる。有機繊維としては、例えば、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維など)など)、パルプ繊維などが挙げられる。
【0074】
不織布は、少なくともガラス繊維を含むことが好ましい。ガラス繊維を含む不織布はAGM(Absorbed Glass Mat)セパレータとも称される。不織布は、ガラス繊維と有機繊維とを含んでもよい。不織布を構成する繊維全体に占めるガラス繊維の割合は、60質量%以上であることが好ましい。
【0075】
セパレータは、不織布のみで構成してもよい。セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、不織布とこれと異種または同種の素材とを貼り合わせた物、または不織布とこれと異種または同種の素材とで凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0076】
微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とする微多孔が好ましい。ポリマー成分としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)が好ましい。造孔剤としては、ポリマー粉末およびオイルからなる群より選択される少なくとも一種などが挙げられる。
【0077】
負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さは、極間距離に応じて選択すればよい。セパレータの枚数は、極間数に応じて選択すればよい。
【0078】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。
【0079】
電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、金属カチオン)、および/またはアニオン(例えば、硫酸アニオン以外のアニオン(リン酸イオンなど))を含んでいてもよい。金属カチオンとしては、例えば、Naイオン、Liイオン、Mgイオン、およびAlイオンからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0080】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上であり、1.25以上であってもよい。電解液の20℃における比重は、1.35以下であり、1.32以下であることが好ましい。
【0081】
(その他)
鉛蓄電池は、電槽のセル室に極板群と電解液とを収容する工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の各セルは、各セル室に収容された極板群および電解液を備える。極板群は、セル室への収容に先立って、正極板、負極板、およびセパレータを、正極板と負極板との間にセパレータが介在するように積層することにより組み立てられる。正極板、負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、極板群の組み立てに先立って、準備される。鉛蓄電池の製造方法は、極板群および電解液をセル室に収容する工程の後、必要に応じて、正極板および負極板の少なくとも一方を化成する工程を含んでもよい。
【0082】
1つのセルに含まれる極板群における各極板は、1枚であってもよく、2枚以上であってもよい。
【0083】
図1は、本実施形態に係る鉛蓄電池の一例の構造を模式的に示す断面図である。鉛蓄電池1は、極板群11、電解液(図示せず)、およびそれらを収容する電槽12を含む。電槽12内は、隔壁13によって複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を有する蓋15で閉じられている。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0084】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することによって構成されている。
図1には、負極板2が袋状のセパレータ4に収容されている一例を示す。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続されており、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続されており、正極棚部5に貫通接続体8が接続されている。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。負極板2および正極板3のうちの少なくとも一方は、本発明の極板である。
【0085】
図1には、液式電池(ベント型電池)の例を示したが、鉛蓄電池は、制御弁式電池(VRLA型)でもよい。液式電池では、制御弁式電池に比べて、電解液が移動しやすいため放電反応が均一化されやすい。そのため、本実施形態に係る正極板および負極板のうち少なくとも一方を用いることによって、薄い膜状の硫酸鉛が形成されやすくなり、高いサルフェーション抑制効果が得られる。以上の理由から、本実施形態に係る正極板および負極板のうち少なくとも一方は、液式電池に好ましく用いられる。
【0086】
本明細書中で性能評価に用いられる試験電池は、定格電圧2V/セル、定格5時間率容量は25Ahである。
【0087】
本実施形態に係る集電体(正極集電体、負極集電体)の上面図を
図2Aに示す。
図2Aに示す集電体20は、耳部21、上部枠骨部22、下部枠骨部23、および格子状部24を含む。格子状部24は、格子桟25によって構成される。格子桟25が交差する部分には、結節部26が形成される。格子状部24の面積(面積SP0、SN0)は、格子状部24の外縁を囲む最小の矩形の領域24sの面積である。なお、
図2Aでは、領域24sを点線で示す。
【0088】
格子状部24の格子桟25に囲まれた領域25sを、
図2B(集電体の上面図)においてハッチングで示す。格子桟25で構成される閉じた環状構造で囲まれている領域25sの合計が、面積SP1(または面積SN1)となる。なお、上述したように、面積SP1およびSN1の算出では、上部枠骨部22および下部枠骨部23も格子桟の一部とみなす。
図2Bに示すように、閉じた環状構造となっていない領域と、格子桟25の部分(結節部の部分を含む)とは、面積SP1(または面積SN1)には算入されない。
【0089】
<硫酸鉛量の算出方法>
まず、満充電状態の鉛蓄電池を用いて、10℃±2℃の水槽中で、下記充放電サイクルを600サイクル繰り返した後、セルを分解し、極板を取り出して水洗した後に乾燥する。なお、負極板の乾燥の際には、真空乾燥機で乾燥する。水洗乾燥後の極板を上下方向に3等分したうちの最下部の中央部から電極材料を20g程度採取して、電極材料の試料とする。試料を粉砕し、高温で燃焼させる。電極材料に含まれる硫黄はガス化されて二酸化硫黄を生成する。赤外線検出器を用いて二酸化硫黄のガス濃度を測定し、試料に含まれる硫黄量を求める。試料に含まれる鉛原子の全量に対する硫酸鉛を形成している鉛原子量の割合を求める。その割合から電極材料中に含まれる硫酸鉛量を算出する。
<充放電サイクル条件>
工程1:電流45Aで59秒間放電
工程2:電流300Aで1秒間放電
工程3:電圧2.3V/セル、最大電流100Aで60秒間定電圧充電
【0090】
<サイクル寿命試験>
満充電状態の鉛蓄電池を用いて、10℃±2℃の水槽中で、既述の工程1~工程3を寿命判定となるまで繰り返す。このとき、工程2における放電末電圧を測定し、工程2終了時の放電末電圧が1.2V/セル未満となったときを寿命判定とする。
【0091】
本発明の一側面に係る、鉛蓄電池用正極板、鉛蓄電池用負極板、および鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
【0092】
(1)鉛蓄電池用正極板であって、
正極集電体と、前記正極集電体に保持された正極電極材料とを含み、
前記正極電極材料の比コンダクタンスは1.8S/mm以下である、鉛蓄電池用正極板。
【0093】
(2)前記正極集電体は格子状部を含み、
前記正極集電体の前記格子状部の面積SP0に占める、前記格子状部の格子桟に囲まれた領域の合計の面積SP1の比率SP1/SP0は、0.68以上である、上記(1)に記載の鉛蓄電池用正極板。
【0094】
(3)前記正極電極材料のBET比表面積は5.8m2/g以上である、上記(1)または(2)に記載の鉛蓄電池用正極板。
【0095】
(4)鉛蓄電池用負極板であって、
負極集電体と、前記負極集電体に保持された負極電極材料とを含み、
前記負極電極材料の比コンダクタンスは120S/mm以下である、鉛蓄電池用負極板。
【0096】
(5)前記負極集電体は格子状部を含み、
前記負極集電体の前記格子状部の面積SN0に占める、前記格子状部の格子桟に囲まれた領域の合計の面積SN1の比率SN1/SN0は、0.65以上である、上記(4)に記載の鉛蓄電池用負極板。
【0097】
(6)前記負極電極材料のBET比表面積は0.75m2/g以上である、上記(4)または(5)に記載の鉛蓄電池用負極板。
【0098】
(7)上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の鉛蓄電池用正極板、および、上記(4)~(6)のいずれか1つに記載の鉛蓄電池用負極板の少なくとも一方を含む、鉛蓄電池。
【0099】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0100】
≪鉛蓄電池A1~A5、B1~B5、C1~15、D1~D15、E1~E12、F1~F12≫
(1)正極集電体の作製
図2Aに示すようなPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の正極集電体を準備する。正極集電体の上部枠骨部の下端と下部枠骨部の上端との距離は115mm、格子状部の幅方向の長さは100mmとした。比率SP1/SP0は、正極集電体の切断位置や結節部同士の距離を変えることによって制御し、以下の表に示す値となるように正極集電体を作製した。
【0101】
(2)負極集電体の作製
図2Aに示すようなPb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の負極集電体を準備する。負極集電体の上部枠骨部の下端と下部枠骨部の上端との距離は115mm、格子状部の幅方向の長さは100mmとした。比率SN1/SN0は、負極集電体の切断位置や結節部同士の距離を変えることによって制御し、以下の表に示す値となるように負極集電体を作製した。
【0102】
(3)正極板の作製
原料の鉛粉と硫酸水溶液と混合して、正極ペーストを得る。正極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子に充填し、フラッシュドライを行った後に熟成乾燥し、未化成の正極板を得た。このとき、正極電極材料の比コンダクタンスが以下の表に示す値となるようにフラッシュドライの炉の温度を制御した。また、化成時の電解液温度を制御することにより正極電極材料のBET比表面積を変化させた。
【0103】
(4)負極板の作製
原料の鉛粉と、有機防縮剤であるリグニンと、硫酸バリウムと、カーボンブラックとを、適量の硫酸水溶液と混合して、負極ペーストを得る。負極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子に充填し、フラッシュドライを行った後に熟成乾燥し、未化成の負極板を得た。このとき、負極電極材料の比コンダクタンスが以下の表に示す値となるようにフラッシュドライの炉の温度を制御した。また、化成時の電解液温度を制御することにより負極電極材料のBET比表面積を変化させた。
【0104】
(5)鉛蓄電池の作製
試験電池は定格電圧2V/セル、定格5時間率容量は25Ahであった。試験電池の極板群は、正極板5枚と負極板5枚で構成した。正極板と負極板とを、これらの間にセパレータを介在させた状態で交互に積層し、極板群を形成した。極板群をABS製の電槽に収容して、蓋で密閉した。セパレータとしては、ポリエチレン製の微多孔膜を用いた。電解液を注液した後、電槽内で極板群に化成を施すことにより、鉛蓄電池を作製した。化成により、鉛蓄電池は、満充電状態となった。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.33であった。また、試験電池を構成する正極板および負極板は、すべての正極板および負極板が以下の表に示す「比コンダクタンス」、「比率SP1/SP0」、「SN1/SN0」および「BET比表面積」となるように構成した。なお、表1、3および5に示した電池の負極板には、電池B1で用いた負極板と同様の負極板を用いた。表2、4および6に示した電池の正極板には、電池A1で用いた正極板と同様の正極板を用いた。
【0105】
(6)評価
(a)正極下部硫酸鉛量および負極下部硫酸鉛量
既述の方法で正極下部硫酸鉛量および負極下部硫酸鉛量を算出した。
【0106】
(b)サイクル寿命性能
既述の方法でサイクル寿命試験を実施し、サイクル寿命性能を評価した。
【0107】
結果を表1~6に示す。「正極下部硫酸鉛量」、「負極下部硫酸鉛量」および「サイクル寿命性能」は、表1、3および5は電池A1の値を100としたときの相対値で表し、表2、4および6は電池B1の値を100としたときの相対値で表す。
【0108】
【0109】
表1に示した電池のうち、電池A1および電池A2は比較例であり、電池A3~A5は実施例である。また、表1に示した電池の正極電極材料のBET比表面積は4.6m2/gである。表1より、正極電極材料の比コンダクタンスを小さくすることによって正極下部硫酸鉛量が減少する傾向が見られ、正極電極材料の比コンダクタンスが1.8S/mm以下で正極下部硫酸鉛量は大きく減少した。この理由として、正極電極材料内部まで放電反応が到達しにくくなり、硫酸鉛が生成する放電反応が電極材料の表面近傍に偏り、電極材料の表面近傍に薄い硫酸鉛の層が形成されやすくなったからと考えられる。そして、正極電極材料内部で硫酸鉛が形成されにくくなり、正極電極材料内部に残留した硫酸鉛の粗大化は抑制されることによって硫酸鉛が正極電極材料内部に残留することも抑制されたと推測される。その結果、正極板でのサルフェーションが抑制され、サイクル寿命性能が向上したと考えられる。以上のことから、正極電極材料の比コンダクタンスは1.8S/mm以下が好ましい。
【0110】
【0111】
表2に示した電池のうち、電池B1および電池B2は比較例であり、電池B3~B5は実施例である。また、表2に示した電池の負極電極材料のBET比表面積は0.65m2/gである。表2より、負極電極材料の比コンダクタンスを小さくすることによって負極下部硫酸鉛量が減少する傾向が見られ、負極電極材料の比コンダクタンスが120S/mm以下で負極下部硫酸鉛量は大きく減少した。この理由は、上記した正極電極材料で推測されるメカニズムと同様に、電極材料の表面近傍に薄い硫酸鉛の層が形成されやすくなり、硫酸鉛が負極電極材料内部に残留することも抑制されたと推測される。以上のことから、負極電極材料の比コンダクタンスは120S/mm以下が好ましい。
【0112】
【0113】
表3に示した電池のうち、電池A3~A5、電池C3~C5、電池C8~C10、および電池C13~C15は実施例であり、それ以外は比較例である。表3より、正極集電体の比率SP1/SP0を大きくすることによって正極下部硫酸鉛量が減少する傾向が見られ、加えて正極電極材料の比コンダクタンスを小さくすることによって、さらに正極下部硫酸鉛量が減少する傾向が見られた。具体的には、正極集電体の比率SP1/SP0を0.68以上かつ正極電極材料の比コンダクタンスを1.8S/mm以下とすることによって、相乗的に正極下部硫酸鉛量が減少し、サイクル寿命性能は相乗的に向上した。この理由は、電流の流れにくい集電体端部の正極集電体の格子桟に囲まれない領域が小さくなるため、正極電極材料の充放電反応が極板全体で均一化されやすくなるためと考えられる。その結果、極板上の特定の領域で充放電反応が集中しにくくなり、正極電極材料の表面近傍に薄い硫酸鉛の層を形成しやすくなったと推測される。以上のことから、正極集電体の比率SP1/SP0を0.68以上かつ正極電極材料の比コンダクタンスを1.8S/mm以下とすることが好ましい。
【0114】
【0115】
表4に示した電池のうち、電池B3~B5、電池D3~D5、電池D8~D10、および電池D13~D15は実施例であり、それ以外は比較例である。表4より、負極集電体の比率SN1/SN0を大きくすることによって負極下部硫酸鉛量が減少する傾向が見られ、加えて負極電極材料の比コンダクタンスを小さくすることによって、さらに負極下部硫酸鉛量が減少する傾向が見られた。具体的には、負極集電体の比率SN1/SN0を0.65以上かつ負極電極材料の比コンダクタンスを120S/mm以下とすることによって、相乗的に負極下部硫酸鉛量が減少し、サイクル寿命性能は相乗的に向上した。この理由は、上記した正極集電体で推測されるメカニズムと同様に、電流の流れにくい集電体端部の負極集電体の格子桟に囲まれない領域が小さくなることによって極板上の特定の領域で充放電反応が集中しにくくなり、負極電極材料の表面近傍に薄い硫酸鉛の層を形成しやすくなったと推測される。以上のことから、負極集電体の比率SN1/SN0を0.65以上かつ負極電極材料の比コンダクタンスを120S/mm以下とすることが好ましい。
【0116】
【0117】
表5に示した電池のうち、正極電極材料の比コンダクタンスが1.8S/mm以下である電池が実施例であり、それ以外は比較例である。表5より、正極電極材料のBET比表面積を大きくすることによって正極下部硫酸鉛量が減少する傾向が見られ、加えて正極電極材料の比コンダクタンスを小さくすることによって、さらに正極下部硫酸鉛量が減少する傾向が見られた。具体的には、正極電極材料のBET比表面積を5.8m2/g以上かつ正極電極材料の比コンダクタンスを1.8S/mm以下とすることによって、相乗的に正極下部硫酸鉛量が減少し、サイクル寿命性能は相乗的に向上した。この理由は、BET比表面積が所定の値よりも大きい場合、広い正極電極材料の表面において充放電反応を行うことができるため、より薄い硫酸鉛の層を形成しやすくなったためと推測される。以上のことから、正極電極材料のBET比表面積を5.8m2/g以上かつ正極電極材料の比コンダクタンスを1.8S/mm以下とすることが好ましい。
【0118】
【0119】
表6に示した電池のうち、負極電極材料の比コンダクタンスが120S/mm以下である電池が実施例であり、それ以外は比較例である。表6より、負極電極材料のBET比表面積を大きくすることによって負極下部硫酸鉛量が減少する傾向が見られ、加えて負極電極材料の比コンダクタンスを小さくすることによって、さらに負極下部硫酸鉛量が減少する傾向が見られた。具体的には、負極電極材料のBET比表面積を0.75m2/g以上かつ負極電極材料の比コンダクタンスを120S/mm以下とすることによって、相乗的に負極下部硫酸鉛量が減少し、サイクル寿命性能は相乗的に向上した。この理由は、上記した正極電極材料で推測されるメカニズムと同様に、BET比表面積が所定の値よりも大きい場合、広い負極電極材料の表面において充放電反応を行うことができるため、より薄い硫酸鉛の層を形成しやすくなったためと推測される。以上のことから、負極電極材料のBET比表面積を0.75m2/g以上かつ負極電極材料の比コンダクタンスを120S/mm以下とすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、鉛蓄電池用正極板、鉛蓄電池用負極板、および鉛蓄電池に利用できる。
【符号の説明】
【0121】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
11:極板群
12:電槽
20:集電体(正極集電体、負極集電体)
21:耳部
22:上部枠骨部
23:下部枠骨部
24:格子状部
24s:格子状部の外縁を囲む領域
25:格子桟
25s:格子状部の格子桟に囲まれた領域
26:結節部