(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012375
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】造水器
(51)【国際特許分類】
C02F 1/04 20230101AFI20250117BHJP
C02F 1/08 20230101ALI20250117BHJP
C02F 1/14 20230101ALI20250117BHJP
【FI】
C02F1/04 G
C02F1/08
C02F1/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115163
(22)【出願日】2023-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】山本 博輝
【テーマコード(参考)】
4D034
【Fターム(参考)】
4D034AA01
4D034BA03
4D034CA17
4D034DA01
(57)【要約】
【課題】構造の簡素化を図りながらも、造水能力の向上(単位時間当たりの造水量の増加)を図り得る造水器を提供する。
【解決手段】原水を貯留する原水タンク11と、下部が原水タンク11の原水に浸漬し下部以外の上部が原水の水面より上方にある状態で設置され且つ原水を下部から上部へ吸い上げ蒸発する吸水蒸発部20と、原水タンク11及び吸水蒸発部20を密閉状態で覆うと共に透光性を有するカバー13とを有し、太陽光をカバー13を透過させて吸水蒸発部20へ照射し、吸水蒸発部20の上部から原水を蒸発させ、カバー13の内面で凝縮させて蒸留水を製造する造水器100であって、吸水蒸発部20は、筒状の繊維部材から成る筒型繊維部材構造体であって、筒型繊維部材構造体は、少なくとも太陽光が照射される表面が黒色であり、且つ筒軸心Pを原水の水面に沿わせた姿勢で設置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を貯留する原水タンクと、下部が前記原水タンクの前記原水に浸漬し前記下部以外の上部が前記原水の水面より上方にある状態で設置され且つ前記原水を前記下部から前記上部へ吸い上げ蒸発する吸水蒸発部と、前記原水タンク及び前記吸水蒸発部を密閉状態で覆うと共に透光性を有するカバーとを有し、
太陽光を前記カバーを透過させて前記吸水蒸発部へ照射し、前記吸水蒸発部の前記上部から前記原水を蒸発させ、前記カバーの内面で凝縮させて蒸留水を製造する造水器であって、
前記吸水蒸発部は、筒状の繊維部材から成る筒型繊維部材構造体であって、
前記筒型繊維部材構造体は、少なくとも前記太陽光が照射される表面が黒色であり、且つ筒軸心を前記原水の水面に沿わせた姿勢で設置される造水器。
【請求項2】
前記筒型繊維部材構造体は、前記筒軸心に沿う方向視で円又は多角形となる円筒形状又は多角形形状の単一の筒状部材から成る請求項1に記載の造水器。
【請求項3】
前記筒型繊維部材構造体は、前記筒軸心に沿う方向視で円又は多角形となる円筒形状又は多角形形状の複数の筒状部材から成り、
互いの前記筒軸心を沿わせた姿勢において、一の前記筒状部材が、他の前記筒状部材を筒内部に収容して設置される多重筒構造体である請求項1に記載の造水器。
【請求項4】
前記筒型繊維部材構造体は、前記繊維部材が筒軸心周りに多重に巻かれて、前記筒軸心に沿う方向視で渦巻き状に成型された渦巻き構造体である請求項1に記載の造水器。
【請求項5】
前記筒型繊維部材構造体は、平面視で互いに異なる位置に少なくとも2つ以上設けられている請求項1~4の何れか一項に記載の造水器。
【請求項6】
前記筒型繊維部材構造体は、前記繊維部材の表面又は裏面に沿わせて設けられ前記繊維部材の形状を筒状に維持する形状維持体を備え、
前記形状維持体は、前記繊維部材に沿って設けられる網目状の樹脂から成る請求項1に記載の造水器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原水を貯留する原水タンクと、前記原水タンクに下部が前記原水に浸漬し前記下部以外の上部が前記原水の水面より上方にある状態で設置され且つ前記原水を前記下部から前記上部へ吸い上げ蒸発する吸水蒸発部と、前記原水タンク及び前記吸水蒸発部を密閉状態で覆うと共に透光性を有するカバーとを有し、太陽光を前記カバーを透過させて前記吸水蒸発部へ照射し、前記吸水蒸発部の前記上部から前記原水を蒸発させ、前記カバーの内面で凝縮させて蒸留水が製造される造水器に関する。
【背景技術】
【0002】
海水、河川水、雨水等の直接の飲用や使用に適さない原水から動力源を用いることなく蒸留水を製造するために造水器が用いられる。
このような造水器として、特許文献1には、吸水蒸発部が不織布等から成る構造体であるものが示されている。当該構造体としての不織布は、折り目が上下方向に沿って延びるプリーツ形状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の造水器では、吸水蒸発部としての不織布をプリーツ形状等の比較的複雑な形状に成型する必要があり、構造の簡素化の観点から改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、構造の簡素化を図りながらも、造水能力の向上(単位時間当たりの造水量の増加)を図り得る造水器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための造水器は、
原水を貯留する原水タンクと、下部が前記原水タンクの前記原水に浸漬し前記下部以外の上部が前記原水の水面より上方にある状態で設置され且つ前記原水を前記下部から前記上部へ吸い上げ蒸発する吸水蒸発部と、前記原水タンク及び前記吸水蒸発部を密閉状態で覆うと共に透光性を有するカバーとを有し、
太陽光を前記カバーを透過させて前記吸水蒸発部へ照射し、前記吸水蒸発部の前記上部から前記原水を蒸発させ、前記カバーの内面で凝縮させて蒸留水を製造する造水器であって、
前記吸水蒸発部は、筒状の繊維部材から成る筒型繊維部材構造体であって、
前記筒型繊維部材構造体は、少なくとも前記太陽光が照射される表面が黒色であり、且つ筒軸心を前記原水の水面に沿わせた姿勢で設置される点にある。
【0007】
本願の発明者らは、鋭意検討した結果、吸水蒸発部を、筒状の繊維部材から成る筒型繊維部材構造体とし、筒型繊維部材構造体の表面のうち少なくとも太陽光が照射される面を黒色とし、且つ筒型繊維部材構造体の筒軸心を原水の水面に沿わせた姿勢で設置することで、特許文献1に示す造水器に比べて、造水能力の向上(単位時間当たりの造水量の増加)を図ることができることを、後述する実験的に確認した。尚、当該実験では、太陽光が照射されると仮定される受光面積、及び原水の水面から吸水蒸発部の上端部までの高さの条件を揃えて行っている。
即ち、本構成によれば、吸水蒸発部を、繊維部材を筒状に成型するという簡易な構成にできるから、従来技術に比べ、構成の簡素化を図りつつも造水量の増加(造水効率の向上)を図ることができる。
【0008】
造水器の更なる特徴構成は、
前記筒型繊維部材構造体は、前記筒軸心に沿う方向視で円又は多角形となる円筒形状又は多角形形状の単一の筒状部材から成る点にある。
【0009】
造水器の造水能力(単位時間当たりの造水量)は、吸水蒸発部の下部から上部へ原水を吸い上げる吸上能力と、吸水蒸発部の上部からカバー内の空間へ原水を蒸発させる蒸発能力に依存する。従来、蒸発能力を高めるには、吸水蒸発部の上部及び下部を構成する繊維部材等の原水を吸い上げる部材の総表面積が重要であると考えられていた。
しかしながら、本願の発明者らは、鋭意検討した結果、本構成の如く、筒型繊維部材構造体を、筒軸心に沿う方向視で円又は多角形となる円筒形状又は多角形形状の単一の筒状部材から構成し、当該筒状部材の軸心を原水の水面に沿わせた姿勢で設置することで、従来技術に比べ総表面積を大きく低減しながらも、従来技術よりも高い造水能力を発揮できることを、後述する実験により確認した。これにより、吸水蒸発部の構成の簡素化を図りながらも、高い造水能力を発揮し得る造水器を実現できる。
尚、発明者らは、太陽光を受ける受光面積が造水能力に大きく影響しているため、本構成の如く、総表面積が低い構成であっても、造水能力の向上(単位時間当たりの造水量の増加)を図ることができると考えている。
【0010】
造水器の更なる特徴構成は、
前記筒型繊維部材構造体は、前記筒軸心に沿う方向視で円又は多角形となる円筒形状又は多角形形状の複数の筒状部材から成り、
互いの前記筒軸心を沿わせた姿勢において、一の前記筒状部材が、他の前記筒状部材を筒内部に収容して設置される多重筒構造体である点にある。
【0011】
発明者らは、本構成の如く、筒型繊維部材構造体を複数の筒状部材から構成し、且つ互いの筒軸心を沿わせた姿勢において、一の筒状部材が、他の筒状部材を筒内部に収容して設置される多重筒構造体とした場合であっても、従来技術に比べて、造水能力の向上(単位時間当たりの造水量の増加)を図ることができることを確認している。
【0012】
造水器の更なる特徴構成は、
前記筒型繊維部材構造体は、前記繊維部材が筒軸心周りに多重に巻かれて、前記筒軸心に沿う方向視で渦巻き状に成型された渦巻き構造体である点にある。
【0013】
発明者らは、本構成の如く、筒型繊維部材構造体を、繊維部材が筒軸心周りに多重に巻かれて、筒軸心に沿う方向視で渦巻き状に成型された渦巻き構造体とした場合であっても、従来技術に比べて、造水能力の向上(単位時間当たりの造水量の増加)を図ることができることを確認している。
【0014】
造水器の更なる特徴構成は、
前記筒型繊維部材構造体は、平面視で互いに異なる位置に少なくとも2つ以上設けられている点にある。
【0015】
本構成の如く、筒型繊維部材構造体を、平面視で互いに異なる位置に少なくとも2つ以上設けることで、受光面積の増加を図ることができつつも、総表面積の少ない比較的簡易な構成を維持しつつ、造水能力の向上(単位時間当たりの造水量の増加)を容易に図ることができる。
【0016】
造水器の更なる特徴構成は、
前記筒型繊維部材構造体は、前記繊維部材の表面又は裏面に沿わせて設けられ前記繊維部材の形状を筒状に維持する形状維持体を備え、
前記形状維持体は、前記繊維部材に沿って設けられる網目状の樹脂から成る点にある。
【0017】
本構成の如く、筒型繊維部材構造体の繊維部の表面又は裏面に沿わせて設けられ繊維部材の形状を筒状に維持する形状維持体を備えると共に、形状維持体を、繊維部材に沿って設けられる網目状の樹脂から構成することで、例えば、繊維部材として濾紙等を用いる場合であって長期間に亘る繊維部材の形状の維持が難しい場合であっても、当該繊維部材の形状を形状維持体により適切に維持して、受光面積を良好に保つことができる。また、形状維持体は、網目状の樹脂から構成されるため、当該形状維持体を繊維部材の表面又は裏面に沿わせて設ける場合であっても、繊維部材の表面からの原水の蒸発を妨げることなく、蒸発能力を良好に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】第1実施形態(実施例1)に係る吸水蒸発部の斜視図である。
【
図3】第2実施形態(実施例2)に係る吸水蒸発部の斜視図である。
【
図4】第3実施形態(実施例3)に係る吸水蒸発部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る造水器は、構造の簡素化を図りながらも、造水能力の向上(単位時間当たりの造水量の増加)を図り得るものに関する。以下、図面に基づいて実施形態に係る造水器を説明する。
【0020】
図1に示すように、造水器100は、下部が原水タンク11の原水に浸漬し下部以外の上部が原水の水面より上方にある状態で設置され且つ原水を下部から上部へ吸い上げ蒸発する吸水蒸発部20と、原水タンク11及び吸水蒸発部20を密閉状態で覆うと共に透光性を有するカバー13とを有し、太陽光をカバー13を透過させて吸水蒸発部20へ照射し、吸水蒸発部20の上部から原水を蒸発させ、カバー13の内面で凝縮させて蒸留水を製造する。
より詳細には、造水器100は、原水タンク11と吸水蒸発部20とカバー13を収容する蒸留水バット14を有し、当該蒸留水バット14はカバー13の内面で凝縮して伝い落ちる蒸留水を貯留可能であり、且つ取水管15を介して蒸留水を蒸留水バット14から取り出し可能に構成されている。因みに、カバー13は下方が開口した形状であると共に、蒸留水バット14は上方が開口した形状であり、カバー13は、その下端部が蒸留水バット14の上端部に密接する形態で、カバー13と蒸留水バット14との内部に気密空間を形成する。
【0021】
原水タンク11は、原水を貯留するためのタンクであり、プラスチックなどの樹脂により構成されている。
【0022】
カバー13は、原水タンク11及び吸水蒸発部20を密閉状態で全体的に覆うものであって、直方体状、円錐状、多角錐状、半球状などの形状を有した、透光性のある材料から構成されている。例えば、透光性を有する材料として、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アモルファスポリエステル、アクリル、ポリカーボネート、ポリアミド、アクリル、ガラス等が例示される。
【0023】
カバー13の内面は、水接触角が10°以下となるような親水性コーティングが施されている。したがって、カバー13の内面において凝縮した蒸留水は、当該カバー13の内面を伝って下方へ流れやすい。
【0024】
造水器100は、屋外に設置されることから、カバー13は雨風に対して当該カバー13の形状を維持するのに十分な剛性が確保できるように構成されていればよい。また、カバー13には、一体的又は別に形成された枠体が設けられていてもよい。
【0025】
カバー13は、凹凸形状を有していてもよく、この場合は、当該凹凸形状が凸レンズや凹レンズとして機能することによって、集光された太陽光が吸水蒸発部20に照射されるため発熱効率が良い。また、カバー13の内面において凝縮した蒸留水は、当該内面の凸部ないし凹部を伝って下方へ流れやすい。
【0026】
吸水蒸発部20において蒸発した水は、カバー13の内面で凝縮し、当該内面を伝って下方へ流れ、流れ落ちた蒸留水は、蒸留水バット14により回収される。
【0027】
蒸留水バット14の材質は、回収した蒸留水の品質に悪影響を及ぼさないものであればよい。
【0028】
取水管15は、蒸留水バット14に貯留された蒸留水を外部に取り出すための、例えば樹脂製の配管であって、蒸留水バット14に接続されている。取水管15には、バルブが設けられており開閉することによって、通水と止水とが容易に可能となっている。なお、取水管15は設けられていなくてもよい。
【0029】
上述の実施形態においては、蒸留水バット14は、原水タンク11、吸水蒸発部20及びカバー13を収容するように構成されていたが、これに限らない。カバー13の内面を伝って下方へ流れ落ちた蒸留水を回収できる形状であればよく、例えばカバー13の下縁のみを収容するような形状であってもよい。
【0030】
以下、第1実施形態に係る吸水蒸発部20、第2実施形態に係る吸水蒸発部20、第3実施形態に係る吸水蒸発部20の夫々について、記載の順に説明する。
【0031】
<第1実施形態に係る吸水蒸発部20>
第1実施形態に係る吸水蒸発部20は、
図2に示すように、筒状の濾紙(三菱製紙製:繊維部材の一例)から成る筒型繊維部材構造体であって、筒型繊維部材構造体は、少なくとも太陽光が照射される表面が黒色であり、且つ筒軸心Pを原水(
図1に図示)の水面に沿わせた姿勢で設置される。説明を追加すると、筒型繊維部材構造体は、筒軸心Pに沿う方向視で円形となる円筒形状の単一の筒状部材20aから成る。尚、ここで円形とは、
図2に示すような正円に限らず、楕円等の形状であっても構わない。
筒状部材20aは、平面形状の濾紙を筒軸心P周りで丸めて円筒形状に成型されて成る。説明を追加すると、筒状部材20aは、濾紙の裏面(筒内面)に沿わせて設けられ濾紙の形状を円筒状に維持する形状維持体30を備える。当該形状維持体30は、平面状のものを丸めて、図示しない樹脂ネジ(ブッシュリベット:廣杉計器、NP-0000)により固定して円筒形状とされ、当該形状維持体30の表面に濾紙がステンレス製のホッチキス針により固定される。尚、形状維持体30の固定形態、及び当該形状維持体30への濾紙の固定形態は、他の種々の形態を採用しても構わない。
当該形状維持体30は、濾紙よりも剛性が高く、濾紙単体で筒状部材20aを構成する場合に比べ、長期間に亘って円筒形状を維持することができる。尚、形状維持体30は、例えば、網目状の樹脂から成る。
【0032】
<第2実施形態に係る吸水蒸発部20>
第2実施形態に係る吸水蒸発部20は、筒状の濾紙(繊維部材の一例)から成る筒型繊維部材構造体であって、
図3に示すように、筒軸心(図示せず)に沿う方向視で円形となる円筒形状の複数の筒状部材20b、20c、20d(当該第2実施形態では3つ)から成る。より詳細には、当該第2実施形態では、複数の筒状部材20b、20c、20dは、大径の第1筒状部材20bと、第1筒状部材20bよりも小径の第2筒状部材20cと、第2筒状部材20cよりも小径の第3筒状部材20dとから成り、筒軸心方向での長さは同一である。
尚、ここで円形とは、
図3に示すような正円に限らず、楕円等の形状であっても構わず、複数の筒状部材20b、20c、20dの軸心方向視での形状は、互いに異なる形状であっても良い。
第1筒状部材20bと第2筒状部材20cと第3筒状部材20dは、互いの筒軸心を沿わせた姿勢において、第1筒状部材20bが第2筒状部材20cを筒内部に収容し、第2筒状部材20cが第3筒状部材20dを筒内部に収容して設置される多重筒構造体である。
第1筒状部材20bと第2筒状部材20cと第3筒状部材20dの夫々は、第1実施形態の筒状部材20aと同様に、形状維持体30を備えると共に、第1実施形態の筒状部材20aと同様の固定形態をとる。
【0033】
<第3実施形態に係る吸水蒸発部20>
第3実施形態に係る吸水蒸発部20は、筒状の濾紙(繊維部材の一例)から成る筒型繊維部材構造体であって、
図4に示すように、平面形状の濾紙が筒軸心(図示せず)周りに多重に巻かれて、筒軸心に沿う方向視で渦巻き状に成型された渦巻き構造体20eである。
尚、渦巻き構造体20eは、第1実施形態の筒状部材20aと同様に、形状維持体30を備えると共に、第1実施形態の筒状部材20aと同様の固定形態をとる。
尚、第1~3実施形態に係る吸水蒸発部20は、その表面がカーボンブラック等により黒色に着色されている。
【0034】
以下、実施形態に係る構成ではないが、比較例1、2に係る吸水蒸発部40、50に係る構成を、
図5、6に基づいて説明する。尚、説明の都合上、比較例2に係る吸水蒸発部に係る構成を説明した後、比較例1に係る吸水蒸発部に係る構成を説明する。
<比較例2に係る吸水蒸発部>
比較例2に係る吸水蒸発部40は、
図5に示すように、不織布から構成された構造体であって、折り目が上下方向(矢印Zに沿う方向)に沿って延びたプリーツ形状に形成されるプリーツ部PBを有し、表面が黒色である。
当該吸水蒸発部40は、プリーツ部PBの面が矢印Y方向に略沿う形で配設されている場合、矢印Xの矢示方向視での端面、矢印Xの矢示逆方向視での端面、矢印Zの矢示方向視での端面、矢印Zの矢示逆方向視での端面の夫々を、不織布から成る外囲布Gにて外囲されて構成され、プリーツ部PBと外囲布Gとがホットメルト等により固定されている。その後、全面が炭素粉末を含む着色料により黒色に着色される。
【0035】
<比較例1に係る吸水蒸発部>
比較例1に係る吸水蒸発部50は、
図6に示すように、比較例1に係る吸水蒸発部40と同一構造の吸水蒸発部50aの複数を、プリーツ部PBの折目が形成される部分を互いに対向する状態で当接して設けられる。その他、外囲布G等に係る構成は、比較例2と同一であるので、ここではその説明を省略する。
【0036】
〔実験結果〕
以下、上述した実施形態1に係る吸水蒸発部20を実施例1とし、実施形態2に係る吸水蒸発部20を実施例2とし、実施形態3に係る吸水蒸発部20を実施例3として、造水に係る実験を行った結果を以下に示す。
尚、以下の説明では、平面を矢印Zの先端から基端側への方向視の面とし、正面を矢印Xの先端から基端側への方向視の面とし、背面を矢印Xの基端から先端側への方向視の面とし、左面を矢印Yの基端から先端側への方向視の面とし、右面を矢印Yの先端から基端側への方向視の面とする。また、太陽光の受光面積は、平面の面積と仮定した。
カバー13は、エクセルピュア(中央自動車工業、BD-P01)の内面を親水コーティングしたものとし、蒸留水バット14は、当該エクセルピュアに適合する大きさのものを採用した。
実験では、最初に、造水器100の原水タンク11に2Lの水を入れ、吸水蒸発部20を十分に浸漬させた。次に、造水器100を、日当たりの良い場所にセットし、蒸留水バット14に所定の凝縮水が貯留されるまでの期間(後述する実験では、24時間)放置し、得られた凝縮水の量を造水量とした。尚、当該実験では、実験中において、造水器100から外部へ原水又は凝縮水の漏れはないものとし、蒸発量と造水量とは同一であるとした。
尚、原水深度Lw(
図1に図示)は、実験当初に0.5cmに設定し、すべての実施例、比較例において、吸水蒸発部20の原水タンク11の底面からの高さは10cmに設定した。
【0037】
<実施例1に係る吸水蒸発部20>
実施例1に係る吸水蒸発部20の寸法関係、即ち、
図2に示す直径L2、筒軸心Pに沿う長さL1、円筒の筒周囲L3、筒周囲L3のうち原水に浸漬している部分の長さLx、筒周囲補正値L3-Lxは、以下の〔表1〕に示す通りである。
【0038】
【0039】
当該実験においては、当該実施例1に係る吸水蒸発部20は、
図2に示す筒状部材20aが2つ原水タンク11に浸漬されて行われるため、その受光面積AL及び総表面積ATは、夫々以下の〔式1〕〔式2〕で表され、その具体的数値は、以下の〔表6〕に示される。
【0040】
〔式1〕
AL=L1×L2×2
【0041】
〔式2〕
AT=L1×(L3-Lx)×2
【0042】
<実施例2に係る吸水蒸発部20>
実施例2に係る吸水蒸発部20の寸法関係は、〔表2〕に示す通りである。尚、夫々の指標は、実施例1で説明したものと同一であるため、ここではその説明を省略すると共に、
図3への図示も省略する。
当該実施例2に係る吸水蒸発部20の受光面積AL及び総表面積ATの具体的数値は、以下の〔表6〕に示される。受光面積AL及び総表面積ATの算出方法(算出式)の概念は、実施例1と同一であるため、ここではその説明を省略する。
尚、実施例2における受光面積ALは、最大径の第1筒状部材20bの受光面積のみであるとする。
【0043】
【0044】
<実施例3に係る吸水蒸発部20>
実施例3に係る吸水蒸発部20の寸法関係、即ち、
図4に示す最外筒部分の直径相当長さLα、筒軸心に沿う長さLγ、筒軸心方向視(矢印Yに沿う方向視)での渦巻きの長さLβ、渦巻きLβのうち原水に浸漬している部分の長さLx(
図1に図示)、補正渦巻き長さLβ―Lxは、以下の〔表3〕に示す通りである。
【0045】
【0046】
当該実験においては、当該実施例3に係る吸水蒸発部20は、
図4に示す渦巻き構造体20eが2つ原水タンク11に浸漬されて行われるため、その受光面積AL及び総表面積ATは、夫々以下の〔式3〕〔式4〕で表され、その具体的数値は、以下の〔表6〕に示される。
【0047】
〔式3〕
AL=Lα×Lγ×2
【0048】
〔式4〕
AT=Lγ×(Lβ-Lx)×2
【0049】
<比較例2に係る吸水蒸発部40>
比較例2に係る吸水蒸発部40の寸法関係、即ち、
図5に示す矢印Xに沿う幅L6、矢印Zに沿う高さL7、矢印Yに沿う厚さL8、矢印Z方向視(平面視)でのプリーツ部PBの長さL9、補正高さL7-Lwは、以下の〔表4〕に示す通りである。ここで、平面視でのプリーツ部PBの長さとは、プリーツ部PBを折り畳まずに伸ばした場合の長さを意味する。
【0050】
【0051】
当該比較例2に係る吸水蒸発部20の受光面積AL及び総表面積ATは、夫々以下の〔式5〕〔式6〕で表され、その具体的数値は、以下の〔表6〕に示される。
ちなみに、当該比較例2に係る吸水蒸発部40は、加湿フィルター(三菱製紙)にカーボンブラック系顔料を塗布したものを用いた。
【0052】
〔式5〕
AL=L6×L8
【0053】
〔式6〕
AT=L6×L8+(L7-Lw)×L8×2+L9×(L7-Lw)
【0054】
<比較例1に係る吸水蒸発部50>
比較例1に係る吸水蒸発部40の寸法関係、即ち、
図6に示す矢印Xに沿う幅L10、矢印Zに沿う高さL11、矢印Yに沿う厚さL12、矢印Z方向視(平面視)でのプリーツ部PBの長さL13、補正高さL11-Lwは、以下の〔表5〕に示す通りである。
当該比較例1に係る吸水蒸発部20の受光面積AL及び総表面積ATは、夫々以下の〔式7〕〔式8〕で表され、その具体的数値は、以下の〔表6〕に示される。
【0055】
【0056】
ちなみに、当該比較例2に係る吸水蒸発部40は、加湿フィルター(三菱製紙)にカーボンブラック系顔料を塗布したものを用いた。ここで、比較例1に係る吸水蒸発部50は、比較例2に係る吸水蒸発部40と同一構成の吸水蒸発部50bの複数を組み合わせたものであり、一の吸水蒸発部50bの左面と他の吸水蒸発部50bの右面とが当接した構成である。ただし、比較例1に係る吸水蒸発部50を構成する16個の吸水蒸発部50aの夫々の寸法は、実験の都合上、比較例2に係る吸水蒸発部40の寸法とは異なっている。
【0057】
〔式7〕
AL=L10×L12
【0058】
〔式8〕
AT=L10×L12+(L11-Lw)×L12×2+L13×(L11-Lw)
【0059】
【0060】
〔表6〕に示されるように、実施例1~3の受光面積を同一とし、当該受光面積に大凡一致するように、比較例1の吸水蒸発部50aの数を調整した。この結果、比較例1に比べ、実施例1~3では、何れも相対造水量を増加できていることがわかる。ちなみに、総表面積については、比較例1に比して、実施例1~3を大幅に低減しているのにも関わらず、相対造水量の増加を図ることができている。尚、比較例2のように、実施例1~3に比べて受光面積を大幅に減少させた場合には、相対造水量も減少していることがわかる。
【0061】
〔別実施形態〕
(1)上記第1実施形態において、吸水蒸発部20としての筒状部材20aは、筒軸心Pに沿う方向視で円形の円筒形状である構成例を示した。しかしながら、当該構成に限定されることなく、筒状部材20aは、筒軸心Pに沿う方向視で多角形の多角形形状として良い。
また、第2実施形態における第1筒状部材20b、第2筒状部材20c、第3筒状部材30dについても、同様の形状として良い。
【0062】
(2)上記実施形態において、吸水蒸発部20としての筒型繊維部材構造体の繊維部材は、濾紙である例を示した。しかしながら、繊維部材は、当該材料に限定されることなく、炭素繊維、天然繊維、合成繊維を原料としたものとして良い。具体的には、ポリエチレンテレフタラート、ポリウレタン、ポリエステルなどの原料をスパンボンド法などによってシート状の不織布として良い。
【0063】
(3)第1~第3実施形態に示す吸水蒸発部20としての筒型繊維部材構造体は、一つに限らず、原水タンク11の容積が許す限り、2つ以上の複数備える構成としても良い。
【0064】
(4)上記第1~3実施形態に係る吸水蒸発部20としては、その表面の全体が黒色に着色されている構成を示した。しかしながら、そのような構成に限定されず、少なくとも太陽光が照射される表面(受光面積として定義した部分)が黒色に着色されている構成として良い。
【0065】
(5)上記実施形態では、吸水蒸発部20は、形状維持体30を備える構成例を例示したが、当該形状維持体30は、省略することができる。
【0066】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の造水器は、構造の簡素化を図りながらも、造水能力の向上(単位時間当たりの造水量の増加)を図り得る造水器として、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
11 :原水タンク
13 :カバー
20 :吸水蒸発部
20a :筒状部材
20b :第1筒状部材(多重筒構造体)
20c :第2筒状部材(多重筒構造体)
20d :第3筒状部材(多重筒構造体)
20e :渦巻き構造体
30 :形状維持体
100 :造水器
P :筒軸心