(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012395
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】射出成形用金型及びそれを用いた成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/37 20060101AFI20250117BHJP
B29C 33/42 20060101ALI20250117BHJP
B29C 49/48 20060101ALI20250117BHJP
B29C 45/17 20060101ALI20250117BHJP
B29C 49/42 20060101ALI20250117BHJP
B29C 49/06 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
B29C45/37
B29C33/42
B29C49/48
B29C45/17
B29C49/42
B29C49/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115195
(22)【出願日】2023-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大久保 勇
(72)【発明者】
【氏名】三沢 勇貴
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
4F208
【Fターム(参考)】
4F202AG12
4F202AG28
4F202AM35
4F202AR07
4F202CA11
4F202CA15
4F202CB01
4F202CK12
4F202CK42
4F202CK52
4F202CK67
4F206AG12
4F206AG28
4F206AM35
4F206AR074
4F206JA06
4F206JL02
4F206JQ81
4F208LA07
4F208LB01
4F208LD16
4F208LG29
(57)【要約】
【課題】樹脂の変形を見こした製品形状に射出成形用金型をプリフォームすることで、製品機能や寸法を満足させる高品質な成形品の製造を可能にする。
【解決手段】溝部11を有する凹側金型10によって成形される成形物において、溝部の一部分(溝部41)を、凹側金型10内の収容空間内に配置された可変駒30上に形成する。第一の溝部11と第2の溝部41に樹脂を射出することで成形物が形成される。可動駒30には円弧状の摺動面35が形成され、円弧状の案内面25に沿って、可動駒30は矢印9b又はその反対方向にわずかに移動可能であるので、溝部41の溝部11に対する角度をわずかに調整することが可能となる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂注入口から供給される樹脂を挟むように配置される凹側金型と凸側金型を有し、射出成形によって成形物を製造するための金型であって、
前記凹側金型には成形物を形成するための第1の溝部が形成され、
前記凹側金型は、回転中心点を軸にして所定範囲だけ前記凹側金型に対して回転可能であって、前記第1の溝部と連続させる第2の溝部が形成された可動駒を配置し、
前記可動駒の前記凹側金型に対する回転位置を固定するための固定手段を設け、
前記射出成形時には、成形後の前記成形物の変形を見こしたプリフォーム形状になるように前記可動駒の回転位置を固定することを特徴とする金型。
【請求項2】
前記凹側金型の前記凸側金型と対面する側に、前記可動駒を収容する空間を形成する収容部が形成されることを特徴とする請求項1に記載の金型。
【請求項3】
前記可動駒には、前記回転中心点に沿った回転を案内する円弧状の摺動面が形成され、
前記凹側金型の前記摺動面に対応する位置に、円弧状の案内面が形成され、
前記摺動面が前記案内面に対して摺動するように前記可動駒を回転させることで、前記可動駒の固定位置が調整されることを特徴とする請求項2に記載の金型。
【請求項4】
前記第1の溝部は、前記案内面と交差するように形成され、
前記第2の溝部は、前記摺動面と交差するように形成され、
前記可動駒の回転位置にかかわらずに前記第1の溝部の端部と第2の溝部の端部が連続するような位置関係とされることを特徴とする請求項3に記載の金型。
【請求項5】
前記凹側金型の外側から前記収容部に至る貫通穴が形成され、
前記貫通穴を介して外部からボルトが取り付けられ、
前記可動駒には前記ボルトの雄ネジと螺合する雌ネジ部が形成されることを特徴とする請求項4に記載の金型。
【請求項6】
前記可動駒に形成される前記雌ネジ部は、前記回転中心点から見て前記摺動面よりも遠い径方向外側であって、前記第2の溝部と干渉しない位置に形成されることを特徴とする請求項5に記載の金型。
【請求項7】
成形物には屈曲部が含まれ、前記摺動面と案内面は、屈曲部において延在方向と交差するように配置されることを特徴とする請求項6に記載の金型。
【請求項8】
樹脂注入口から供給される樹脂を挟むように配置される凹側金型と凸側金型を有し、ブロー成形によって成形物を製造する金型を用いた樹脂の成形方法であって、
前記凹側金型に、固定位置をわずかな回転角だけ移動可能な入れ子構造の可動駒を配置し、
樹脂による成形後の製品変形を見こした分だけ前記可動駒の位置を変形方向とは逆方向にずらすように調整することで、成形後の製品の寸法とわずかに異なる形状の金型による溝部を設定し、
前記可動駒の位置を固定した後に前記凸側金型を前記凹側金型に合わせてブロー成形を行うことを特徴とする成形方法。
【請求項9】
前記凹側金型には成形物を形成するための第1の溝部と前記可動駒の回転を案内する円弧状の案内面が形成され、
前記可動駒には前記第1の溝部と連続する第2の溝部と回転中心点に沿った回転を案内する円弧状の摺動面が形成され、
前記調整時には、ブロー成形後の前記成形物の変形方向に対して反対方向に前記可動駒の前記摺動面を移動させた状態にすることを特徴とする請求項8に記載の成形方法。
【請求項10】
前記可動駒の前記凹側金型に対する回転位置を任意の位置にて固定するための貫通孔と、前記貫通孔を通して前記可動駒に形成された雌ネジ部と螺合するボルトを設け、
前記摺動面が前記案内面に対して摺動させるようにして前記可動駒の回転角度を調整して前記ボルトで前記可動駒の位置を固定し、その後に前記ブロー成形を行うことを特徴とする請求項9に記載の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールド射出成形用金型において、射出成形後の樹脂の収縮差等による製品変形に応じて、製品形状をプリフォームすることを可能とする金型及びその金型を用いた成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形用金型を用いた樹脂の成形においては、高温の溶融された樹脂を金型内に流し込み、樹脂を冷却させて固化させる。特許文献1では、2つの成形金型の間にて成形物を形成する方法が開示されている。樹脂の成形の取り出し時には、成形及び冷却後の樹脂の収縮により製品がわずかに変形してしまうことがある。この対策のため、樹脂の収縮を考慮しながら射出成形用の金型を設計することが一般的である。しかしながら、同じ金型を用いて異なる樹脂材料を成形するような場合には、樹脂材料によって変形度合いが異なるため、成形後の製品機能を満足しなかったり寸法公差外となったりすることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、金型を用いた樹脂の射出成形においては、樹脂の収縮差等により製品の変形が生じ、製品機能や寸法に影響を与えることがある。
【0005】
本発明の目的は、樹脂の変形を見こした製品形状に射出成形用金型をプリフォームすることで、製品機能や寸法を満足させる高品質な成形品の製造を可能にすることにある。
本発明の別の目的は、使用する射出成型用の金型に、わずかに移動可能に配置される駒を用いて実現することで、成形後の樹脂の収縮度合いが異なる複数の材料にも容易に対応可能な射出成形用及びそれを用いた成形方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願において開示される発明のうち代表的な特徴を説明すれば次のとおりである。
本発明の一つの特徴によれば、樹脂注入口から供給される樹脂を挟むように配置される凹側金型と凸側金型を有し、射出成形によって成形物を製造するための金型であって、凹側金型には成形物を形成するための第1の溝部が形成すると共に、回転中心点を軸にして所定範囲だけ凹側金型に対して回転可能であって、第1の溝部と連続させる第2の溝部が形成された可動駒を配置する。可動駒の凹側金型に対する回転位置は、ボルト等の固定手段によって射出成型時の可動駒が動かないように固定される。金型を用いた射出成形時には、成形後の成形物の変形度合いを見こして、成形後に曲がる方向とは逆方向に曲げた状態、即ち、プリフォーム形状になるように可動駒の回転位置を調整して凹側金型に固定する。このように成形物が成形後に変形する部分を予想し、角度を可変にできる可動駒を用いて変形方向とは逆方向に予め金型の溝部の一部を曲げておくことで、使用する樹脂材料の変形度合いに応じて金型の形状を調整することができ、容易にプリフォーム形状にてブロー成形が可能となった。
【0007】
本発明の他の特徴によれば、凹側金型の凸側金型と対面する側に、可動駒を収容する空間となる収容部が形成される。可動駒には、回転中心点に沿った回転を案内する円弧状の摺動面が形成され、この摺動面に対応する凸側金型の内壁に、円弧状の案内面を形成する。可動駒の回転時には、摺動面が案内面に対して摺動するように回転させることで可動駒の固定位置が調整される。また、第1の溝部は案内面と交差するように形成され、第2の溝部は摺動面と交差するように形成され、可動駒の回転位置にかかわらずに第1の溝部の端部と第2の溝部が連続するような位置関係とされる。
【0008】
本発明のさらに他の特徴によれば、凹側金型の外側から収容部に至る貫通穴が形成され、貫通穴を介して外部からボルトが取り付けられ、可動駒にはボルトの雄ネジと螺合する雌ネジ部が形成される。可動駒に形成される雌ネジ部は、回転中心点から見て摺動面よりも遠い径方向外側であって、第2の溝部と干渉しない位置に形成される。また、成形物には屈曲部が含まれ、摺動面と案内面は、屈曲部において延在方向と交差するように配置される。
【0009】
本発明のさらに他の特徴によれば、樹脂注入口から供給される樹脂を挟むように配置される凹側金型と凸側金型を有し、ブロー成形によって成形物を製造する金型を用いた樹脂の成形方法であって、凹側金型に、固定位置をわずかな回転角だけ移動可能な入れ子構造の可動駒を配置し、樹脂による成形後の製品変形を見こした分だけ可動駒の位置を変形方向とは逆方向にずらすように調整することで、成形後の製品の寸法とわずかに異なる形状の金型による溝部を設定し、可動駒の位置を固定した後に凸側金型を凹側金型に合わせてブロー成形を行うようにした。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明によれば、凹側金型に形成された溝部と、可動駒による溝部の位置の関係を、樹脂の収縮差等による変形を見こした製品形状にプリフォームしてから樹脂の成形が可能となるので、成形後に樹脂が収縮した際に理想的な形状とすることが容易になり、製品機能や製品寸法を満足させる高品質な成形品の提供を可能にできる。また、成形に用いる樹脂の材質が複数存在するような場合であっても、樹脂の種類に合わせて調整した複数の凹側金型を準備する必要が無くなるので、製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】金型を用いて製造される成形物1の一例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施例に係る金型10及び駒30を示す上面図である(状態1)。
【
図3】本発明の実施例に係る金型10及び駒30を示す上面図である(状態2)。
【
図4】本発明の実施例に係る金型10及び駒30の斜視図である。
【
図5】本発明の実施例に係る金型10及び駒30の別の角度から見た斜視図である。
【
図7】本発明の実施例に係る金型10の上面図である。
【
図8】本発明の実施例に係る金型10の四面図である。
【
図9】本発明の実施例に係る駒30の上面図である。
【
図10】本発明の実施例に係る駒30の四面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0012】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、幅方向(+X)、高さ方向(+Y)、厚さ方向(+Z)、回転中心点は図中に示す方向や位置であるとして説明する。尚、以下の明細書では、広義の「金型」は、駒30を有する凹側金型10と凸側金型60の組を指すが、駒30を有する凹側金型10を単に「金型」と呼ぶ場合もある。
【0013】
図1は本実施例に係る金型を用いて製造される成形物1の一例を示す斜視図である。成形物1は合成樹脂によるJ字状の成形部材であり、例えばフック部材の一部分を形成する。成形物1の断面形状は、幅W、奥行きD、高さHの長方形であり、成形物1のXY方向のどの位置でも、奥行きDは一定の一体品である。成形物1は、Y方向が直線となる2つの柱状部分2、6と、X方向が直線となる柱状部分4と、柱状部分2と4を接続する屈曲部分3と、柱状部分4と6を接続する屈曲部分5によって構成される。これらの部分2~6の範囲は図中の両向きの矢印の範囲にて示している。
【0014】
ここで本実施例の金型の詳細を説明する前に、
図11を用いて従来の金型110を説明する。
図1で示した成形物1を製造するのに、従来は成形物1の製品形状に対応する溝部111を形成した凹側の金型(キャビティ)110を用いて成形している。溝部111の一部にはゲートと呼ばれる、外部から樹脂を注入するための樹脂注入口(図示せず)が形成され、さらに、樹脂が流し込まれる際に溝部111の中で圧縮された空気を金型の外に排出するためのエアーベント(図示せず)と呼ばれる貫通孔が設けられるが、
図11ではその図示を省略している。この金型110に対して平板状の凸部側金型(コア)にて閉鎖した後に、樹脂注入口から液状の樹脂を注入して溝部111を樹脂で満たした後に、樹脂を硬化させる。凹側金型110に組み合わせる凸側金型は
図6にて後述する凸側金型60と同一形状である。
【0015】
図1に戻る。
図11に示した金型110を用いた樹脂による成形の際には、溝部111に溶融樹脂が流し込まれて、固化する際に樹脂の収縮差等により、成形物1がわずかに変形して所望の製品形状が形成されない恐れがある。つまり、
図1に示す成形物1の形状の場合は、柱状部分6が矢印7の方向に倒れて、柱状部分6の開放端部6a側が内側(柱状部分6が平行する柱状部分2に近づく向き)に傾いてしまう虞がある。これは屈曲部分5の硬化が内周側と外周側で不均一となることが、原因の一つである。他にも、矢印7の方向に変形しやすい別の原因がありうるが、ここでの変形理由の説明は省略する。この対策のための改良された本実施例による金型を示すのが
図2である。
【0016】
図2は本発明の実施例に係る凹側の金型10と、金型10内に設けられた収容部20に配置される可動式の駒30の上面図である。本実施例では、
図1に示した成形物1の鋳型を1つの型で構成するのではなく、金型10に形成された溝部11と、溝部11に連続するものであって駒30側に形成された溝部41によって構成するようにした。これら金型10と駒30を用いて製造される成形物1の最終形状は、
図1で示したものと同形状(但し、
図1の矢印7の方向に倒れていない状態)である。本実施例では、樹脂の硬化の際に収縮しやすい部位を、金型10とは別部材であって、金型10に対してわずかに移動可能とした駒(可動駒)30を用いて、製品形状とは若干異なる形状にプリフォームした状態として、樹脂によるブロー成形を行うようにした。
【0017】
金型10には、樹脂を流し込むための第1の溝部11が形成される。第1の溝部11は、
図1に示した成形物1の柱状部分2、屈曲部分3、柱状部分4の全体と、屈曲部分5の半分を形成するための断面形状が長方形の溝であり、直線部12、曲線部13、直線部14、曲線部15が含まれる。収容部20に配置される可動式の駒30には、第1の溝部11に連続する第2の溝部41が形成される。可動駒30は金属製であって、金型10とは別体式の部材であり、
図1に示した成形物1の柱状部分6と屈曲部分5を形成するため、直線部45と曲線部46による溝部41が形成される。凹側の金型10、可動駒30、及び、凸側金型60は同一の金属材料にて製造可能である。
【0018】
収容部20は、内部で駒30をわずかな角度(例えば数度未満)だけ回転させることができるように形成される。即ち、収容部20は駒30の外形よりもわずかに大きい空間となるように形成される。
図2は、駒30を上面視において反時計回りの回転位置にて固定した状態を示している。駒30は、回転中心点8を軸にして矢印9aの方向、又は、その反対方向9b(
図3参照)に移動可能となる。
【0019】
収容部20には、直線部12に近い側に、Y及びZ方向に延在する面状の第一長辺部21が形成され、第一長辺部21とほぼ平行な第二長辺部23が対向するように形成される。第一長辺部21と第二長辺部23のうち、回転中心点8から遠い側を外側短辺部22にて接続され、回転中心点8に近い側を内側短辺部24と案内面25にて接続される。駒30には、第一長辺部21に対面する第一側面31と、第二長辺部23と対面する第二側面33と、第一側面31と第二長辺部23の回転中心点8から遠い側を接続する外端円弧面32と、第一側面31と第二長辺部23の回転中心点8に近い側を接続する内周面34及び摺動面35が形成される。
図2に示す状態では駒30の第一長辺部21と収容部20の第一側面31が密接し、第二長辺部23と収容部20の第二側面33が離間するような関係となる。
【0020】
図3は本実施例に係る金型10及び駒30を示す上面図であって、
図2に示した駒30の固定角度から、時計回り方向に矢印9b方向に最大角度だけ回転させた状態を示している。この状態では、収容部20の第二長辺部23が駒30の第二側面33と良好に面接触する。一方、収容部20の第一長辺部21は駒30の第一側面31と距離を隔てて隙間を有している。収容部20の第一長辺部21の一旦側角部22aは、駒30の対向する角部(第一側面31と先端円弧面32と接続点)との間に大きめの隙間が形成される。これは駒30が入るスペース、即ち、収容部20を切削加工する際に有用な形状に過ぎないだけで、必ずしも隙間が必要なわけでは無い。
【0021】
可動式の駒30の回転を可能にすると共に、駒30の回転中心点8に対して軸線にぶれずにスムーズに回転させることを補助するために、駒30には上面視の形状が円弧状の摺動面35が形成される。また、摺動面35に対応する金型10の部位に、円弧状の案内面25が形成される。駒30がわずかに回転する際に、摺動面35が案内面25に対して摺動することで 駒30の回転角度が調整される。
図3では、摺動面35と案内面25の接触部位を黒太線にて強調表示している。摺動面35と案内面25は、上面視で1/4弱の円形であり、回転中心点8からの半径がrである。rの大きさは任意であるが、屈曲部分5(
図1参照)の内周側の曲率半径r
1から外周側の曲率半径r
2の範囲内の大きさとすると好ましく、ここでは、r=(r
1+r
2)/2程度の大きさとしている。
【0022】
以上の凹側金型10を用いてブロー成形を行う製造方法は、以下の手順となる。
(1)固定側の凹側金型10の収容部20内に駒30を挿入し、注入する樹脂の固化後の戻り量の実験データ値から、戻り量に応じた分を逆方向に曲げたようにプリフォームした成形物となるよう溝部11に対する溝部41の位置を設定する。具体的には、駒30の回転位置を調整し、調整した位置にて駒30を凹側金型10に対して図示しないボルトにて固定する。その後、凹側金型10の上に可動側のコアとなる凸側金型60(後述の
図6参照)をかぶせる。この際、凹側金型10の溝部11だけでなく、駒30の溝部41も凸側金型60によって覆われることになる。
(2)凹側金型10及び駒30によって形成された溝部11、41による空洞部内に、加熱され液化した樹脂材料を注入する。この注入の方法は公知のブロー成形方法と同様の方法を採用できる。凹側金型10には図示しない樹脂注入口(ゲート)が設けられる。また、凹側金型10内に樹脂が流し込まれる際に、金型の中で圧縮された空気を外に排出するための図示しない穴(エアーベント)がさらに設けられる。
(3)注入後、凹側金型10と凸側金型60を開く。成形品はいずれかの側にはりつく状態にあることが多い。
(4)張り付いた側の金型から成形品を引き離す。
【0023】
以上、本実施例では凹側金型10を2つ以上の部品に分割して組み合わせる構成ではなくて、凹側金型10を入れ子構造として可動駒30を内側に設けることで、成形後の樹脂の変形量に対応するためのプリフォーム補正を金型に施すことを可能とした。
【0024】
図4は本発明の実施例に係る凹側金型10及び駒30の斜視図である。
図4(A)は、凹側金型10から駒30を取り外した状態の斜視図であり、(B)は駒30の単体の斜視図である。凹側金型10には成形物1の形状に対応する溝部11が形成される。この溝部11の長手方向(延在方向)と直交する断面形状は長方形であり、
図1に示した成形物1の柱状部分2、4に相当する直線部12、14と、直線部12と14を接続する曲線部13と、
図1で示した屈曲部5のうち約半分に対応する曲線部15が形成される。曲線部15の端部であって直線部14から離れた側は収容部20に接続され、接続部分には、成形物1の断面形状に対応する切り欠き部25aが形成される。
【0025】
収容部20は、水平かつ平坦な底面部27が形成され、底面27の上に駒30が載置される。底面27の一部には駒30の回転位置を固定するためのボルト穴28が形成される。尚、本明細書の図面では記載を省略しているが、凹側金型10の溝部11には成形物1を形成する樹脂注入孔(図示せず)が形成される。
【0026】
図4(B)は駒30を凹側金型10から取り外した状態を示す斜視図である。駒30は、金属の一体品であり、鍛造等で作成された部材に切削加工を施すことで製造される。駒30は凹側金型10の厚さ(D
1)より小さい厚さ(D
2)にて製造され、
図1で示した成形物1の柱状部分6と、屈曲部分5の約半分を含む大きさに相当する溝部41が形成される。溝部41と先端円弧面32との間であって、溝部41とは干渉しない領域には、図示しない固定用のボルトと螺合するための雌ネジ部38が形成される。
図4(B)では視認しにくいが、雌ネジ部38は裏面側に開口38bが形成され、孔部は表面まで到達しない非貫通孔にて形成される。非貫通孔の内周面には図示しない雌ネジが形成される。この雌ネジの大きさは、駒30の固定に使用される図示しないボルトの雄ネジ部と螺合する大きさにて形成される。
【0027】
駒30の径方向の先端部分では、収容部20と接触する先端円弧面32をゆるやかなR形状とすることで、駒30の角度を変更しても外側短辺部22と先端円弧面32の間に不必要な隙間が空かないため、駒30の±Y方向のがたつきを抑制できる。駒30の第一側面31、第二側面33は共に平面状であり、ほぼ平行な面となる。しかしながら、駒30をわずかに回転可能とするために、第一側面31、第二側面33は回転中心点8(
図3参照)に近い側から遠い側に行くにつれて2つの面がわずかに離れるような位置関係としても良い。内周面34は、-Y方向に突出するゆるやかなR形状の円筒面とされる。内周面34よりも、-X側(回転中心点8に近い側)には、円筒面状の摺動面35が形成される。摺動面35は、回転中心点8から一定距離の円筒面であり、溝部41の開口端面となる切り欠き部35aが形成される。案内面25(
図3又は後述の
図5(A)参照)と摺動面35は、ほぼ同一寸法の内面と外面の組で形状とされるので、回転角度が変わってもこれらの接触状況は良好に保たれ、凹側金型10と駒30との接続部分(摺動面25と摺動面35)付近における密着度を高め、成形物1のバリ発生の恐れを大幅に抑制できる。
【0028】
図5は
図4と同一対象である金型10及び駒30を、別の角度から見た斜視図である。
図5(A)から凹側金型10に形成された案内面25の円弧状の形状と、そこに形成された溝部11の端部となる切り欠き部15aの形状が理解できるであろう。駒30を収容する収容部20は、底面部27が平坦に形成され、底面部27の外縁には、底面部27と直角に交差するように形成される第一長辺部21と外側短辺部22と第二長辺部23と内側短辺部24と案内面25が接続され、いわば上側(+Z側)に開口を有する大きな収容空間となっている。底面部27の一部には、駒30の回転位置を固定するためのボルト穴28が形成される。
【0029】
図5(B)は駒30の斜視図だる。駒30の外端円弧面32は、径方向外がw(+Y方向)に突出するする緩やかな円筒面であり、その両側の第一側面31との角部32a及び第二側面との角部32bは、それぞれ小さめの曲率半径の円筒面で接続される。これら角部32a、32bと、
図5(A)にて示す収容部の円筒状の角部22a、22bを比べると、角部22a、22bの曲率半径の方が小さく形成されるため、角部22a、22bと角部32a、32bには隙間が生ずることになる。しかしながら、これらの曲率半径の違いは収容部20の切削加工時の加工のしやすさに起因するものにすぎず、隙間が必要という訳ではない。
【0030】
図6は凸側金型60を裏側から見た斜視図である。本実施例の成形物1(
図1参照)は形状が単純であるため、凸側金型60のうち、凹側金型10に対向する裏面(
図6にて見えている面)は平坦な形状とされる。基準点60aが、凹側金型10の基準点10a(
図2参照)に接合される。尚、成形物1の型取りに影響しない目的で形成される付加形状や、付加物を凸側金型60に設けることは任意である。また、成形物1の形状が複雑な場合は、凸側金型60側に突起や溝部などを形成することも任意である。
【0031】
図7は、本発明の実施例に係る凹側金型10の、駒30を取り外した状態の上面図である。ボルト穴28は、揺動方向に長円状であって、駒30が
図2で示す反時計回り位置から
図3で示時計回り位置の任意の位置にて固定できるように長円状に形成される。
【0032】
図8は本発明の実施例に係る凹側金型10の複数の断面位置における断面図である。
図8(A)は
図7のA-A部の断面である。図からわかるように、収容部20の深さはD
2であり、溝部11の深さDよりも深く形成される。また、収容部20の一部には、底面部27から裏面27に貫通するボルト穴28が形成される。ボルト穴28は駒30の回転方向に長い長円穴28aにて形成され、図示しない六角穴付ボルトが駒30の回転方向にわずかに移動可能なように構成される。ボルト穴28の下側(裏面17に近い側)には、図示しない六角穴付ボルトの頭部を収容するための大径穴28bが形成される。大径穴28bも長円状に形成しても良い。
【0033】
図8(B)は
図7のB-B部の断面である。溝部11の直線部12と曲線部13の溝の深さDは、どの位置でも一定の深さである。
図8(C)は
図7のC-C部の断面である。収容部20の深さはD
2であって、溝部11の深さDよりも大きい。
図8(D)は
図7のD-D部の断面である。
図7のD-D断面では、収容部20と溝部11が連続しているので、それらの深さD
2と深さDの違いが理解できるであろう。このように、本実施例の凹側金型10では、D<D
2<D
1の関係(但しD1は凹側金型の+Z方向の大きさ(高さ))となる。
【0034】
図9は本発明の実施例に係る駒30の上面図であり、
図10は駒30の四面図である。
図10(A)は、駒30を
図9に示す-Y方向に見た側面図(上面図)であり、(B)は+X方向に見た側面図(左側面図)、(C)は-X方向に見た側面図(右側面図)であり、(D)は+Y方向に見た側面図(底面図)である。
【0035】
図10(A)~(C)では、駒30に形成された雌ネジ部38の位置を破線にて示している。
図10(A)からわかるように、雌ネジ部38は駒30の裏面37に開口を有するが、表面36まで到達しない非貫通孔になっている。また、
図10(B)、(C)及び
図4、5等で理解できるように、雌ネジ部38は駒30の溝部41とは干渉しない位置に形成されている。
【0036】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例では成形物1の形状を、複数の直線的な柱状部分2、4、6と、2つの屈曲部分3、5を有する部材を例にして説明したが、成形物1の形状は任意であり、内側の曲率半径r1と外側の曲率半径r2を有するような屈曲部分を有するその他の成形物において、屈曲部分の一方側を凹側金型10側に形成し、他方側を可動駒30側に形成するようにしても良い。また、凹側金型10に複数の収容部を設けて、それら収容部内でわずかに回転可能な駒をそれぞれ設けるように構成しても良い。