(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012423
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】閃光放電ランプ、閃光照射装置
(51)【国際特許分類】
H01J 61/54 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
H01J61/54 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115250
(22)【出願日】2023-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 征彦
(72)【発明者】
【氏名】森 和之
(57)【要約】 (修正有)
【課題】点灯時における光出力をより高めるとともに、長期にわたってトリガ管の変色が抑制される閃光放電ランプを提供する。
【解決手段】第一方向に延伸する、光に対して透過性を示す発光管(11)と、発光管の内側において、第一方向に対向して配置された一対の電極(12p,12n)と、発光管に近接して配置されたトリガ管(13)とを備え、トリガ管は、相対的に融点が高い第一方向に沿って延伸する導電性材料からなる芯材と、芯材の外表面に形成された、白金族元素に属する少なくとも一種の元素からなる、相対的に融点が低い保護層とを有する、発光管に近接して配置された近接導体(14)と、第一方向に沿って延伸し、内側に近接導体の少なくとも一部が収容される、光に対して透過性を示す挿通管(13a)とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一方向に延伸する、光に対して透過性を示す発光管と、
前記発光管の内側において、前記第一方向に対向して配置された一対の電極と、
前記発光管に近接して配置されたトリガ管とを備え、
前記トリガ管は、
相対的に融点が高い前記第一方向に沿って延伸する導電性材料からなる芯材と、前記芯材の外表面に形成された、白金族元素に属する少なくとも一種の元素からなる、相対的に融点が低い保護層とを有する、前記発光管に近接して配置された近接導体と、
前記第一方向に沿って延伸し、内側に前記近接導体の少なくとも一部が収容される、光に対して透過性を示す挿通管とを備えることを特徴とする閃光放電ランプ。
【請求項2】
前記保護層は、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、及びイリジウム(Ir)からなる群から選択された少なくとも一種の元素からなることを特徴とする請求項1に記載の閃光放電ランプ。
【請求項3】
前記トリガ管は、前記近接導体が挿通されている空間が実質的に真空状態、又は不活性ガスが充填された状態で気密封止されていることを特徴とする請求項1に記載の閃光放電ランプ。
【請求項4】
前記保護層は、厚みが100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の閃光放電ランプ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の閃光放電ランプを備えたことを特徴とする閃光照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閃光放電ランプ、及び閃光照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板の熱処理やプリンタブルエレクトロニクス等の製造プロセスにおける熱処理として、閃光照射装置が用いられている。特に近年では、半導体プロセスの微細化に伴って、注入した不純物が長時間の加熱により拡散することを抑えつつ活性化させる方法として、閃光照射装置による瞬時の熱処理方法が注目されている。
【0003】
半導体ウェハの加熱処理装置に適した閃光放電ランプ(「フラッシュランプ」とも称される。)は、瞬間的に高出力の光を発生させて加熱を行うための点灯制御が実施される。このような制御を実現することを目的として、放電電極間に電圧を印加している状態の下で、発光管の外壁面上にトリガ電圧を印加するための電極(導体)を備えた閃光放電ランプが知られている(例えば、下記特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、半導体製造プロセスでは高密度化、精細化が飛躍的に進み、基板面積の制約から、基板上に立体的に回路を構成するプロセス等が検討されており、更には積層された各層の厚さをより小さくする検討が行われている。このような半導体製造プロセスでは、アニール工程において、処理対象となる層は十分に加熱処理できるとともに、処理対象ではない層にはできる限り影響を与えないことが要求される。このような処理の実現のために、アニール工程における入熱深さをより小さくできる閃光放電ランプが期待されている。
【0006】
加熱処理用の閃光を照射する際の入熱深さをより小さくする方法として、一回の点灯動作においてワークに照射する光エネルギーの総量は低下させないようにしつつ、閃光放電ランプの点灯時間をより短くすることが検討されている。この検討のために、最近では、点灯時間をより短縮するとともに、一回の点灯動作における光出力がより高められた閃光放電ランプが期待されている。
【0007】
そこで、本発明者らは、点灯時間をより短縮するとともに、光出力をより高めた閃光放電ランプについて、鋭意検討をしていたところ、以下のような課題が生じることを見出した。
【0008】
閃光放電ランプは、多くの場合、上記特許文献1に記載の発明のように、発光管の外壁面上、又は発光管の近傍に、点灯開始の始動用のトリガ電極として機能する導体(以下、「近接導体」という場合がある。)が配置される。この近接導体は、一対の電極間において放電を生じさせるために、当該一対の電極間に点灯に必要な電圧が印加されている状態で、発光管内に封入された発光ガスを電離させるための高電圧のパルス印加が実行される。
【0009】
また、近接導体は、閃光が発生した際の熱によって一部が蒸発することがあり、ランプハウスやワークの汚染や、発光管外部に付着して石英ガラスの再結晶を促すことでランプの破裂を生じさせるおそれがある。このような現象への対処として、ガラスなどの誘電体容器(以下、「挿通管」という場合がある。)内に近接導体が収容されたトリガ管が始動用の機構として用いられる場合がある。
【0010】
そこで、本発明者らは、上述した背景から、トリガ管を備えた閃光放電ランプを用いて点灯時間を短縮するための検討実験を実施していたところ、従来であれば使用開始からある程度の時間が経過した段階で散見される挿通管の内壁面における黒化が比較的早期に現れることに気が付いた。
【0011】
トリガ管に現れる黒化は、閃光放電ランプから放射された光の一部を吸収してしまうため、半導体ウェハの照射面上における光強度の低下や、照度分布の均一性の低下を生じさせてしまうおそれがある。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑み、点灯時における光出力をより高めるとともに、長期にわたってトリガ管の変色が抑制される閃光放電ランプ、及び閃光照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の閃光放電ランプは、
第一方向に延伸する、光に対して透過性を示す発光管と、
前記発光管の内側において、前記第一方向に対向して配置された一対の電極と、
前記発光管に近接して配置されたトリガ管とを備え、
前記トリガ管は、
相対的に融点が高い前記第一方向に沿って延伸する導電性材料からなる芯材と、前記芯材の外表面に形成された、白金族元素に属する少なくとも一種の元素からなる、相対的に融点が低い保護層とを有する、前記発光管に近接して配置された近接導体と、
前記第一方向に沿って延伸し、内側に前記近接導体の少なくとも一部が収容される、光に対して透過性を示す挿通管とを備えることを特徴とする。
【0014】
上記閃光放電ランプにおいて、
前記保護層は、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、及びイリジウム(Ir)からなる群から選択された少なくとも一種の元素によって構成されていても構わない。
【0015】
本明細書において、「透過性を示す」とは、少なくとも可視光に対する透過率が80%以上であることを指す意図で用いられる。なお、変色が発生している状態の発光管については、変色が発生していない部分を確認し、当該部分が光に対して透過性を示していれば、「光に対して透過性を示す発光管」に相当することになる。
【0016】
また、本明細書において、「近接」とは、相互に接触している場合、又は発光管の管壁の平均厚みよりも小さい離間距離で配置されている場合を指す意図で用いられる。
【0017】
さらに、本明細書において、「からなる」とは、所定の材料のみからなる場合だけでなく、対象の部材において所定の材料の含有率が80%以上である場合をも含む意図で用いられる。
【0018】
さらに、白金族元素とは、周期表の第5周期、及び第6周期における、第8族元素、第9族元素、第10族元素に該当する貴金属元素の総称であり、具体的には、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、及びオスミウム(Os)である。
【0019】
本発明者らは、挿通管において変色が発生する原因について以下のように推察している。
【0020】
まず、発光管及び挿通管を構成する材料としては、以下の三つの条件が求められる。(1)ワークへの光照射効率を下げぬよう、発光管から放射される光(特に、可視光)に対してある程度の光透過性を有すること、(2)トリガ管が配置される周囲の金属部品等との通電を防ぐため、十分な絶縁性を有すること、(3)点灯動作時等の温度上昇を考慮し、ある程度の耐熱性を有すること。
【0021】
これらを満たす材料としては、例えば、酸化物を主成分とする、ガラス(石英、ホウケイ酸)や透光性アルミナなどのセラミック、さらにサファイヤ等が挙げられる。発光管から放射される光の一部を吸収して、高温状態となった近接導体と挿通管とが接触すると、当該挿通管内面の接触部分近傍の温度が局所的に上昇する。この温度上昇により活性化した挿通管の絶縁体材料から酸素が遊離する。高温となった近接導体の周囲に酸素が気体として存在する場合、近接導体は、早期に酸化しやすい。本発明者らは、近接導体と酸素との反応で生じた酸化物が挿通管の内壁面に付着することが、上述した挿通管変色の第一の主因子と推察している。
【0022】
また、酸素遊離が発生した挿通管内壁面は、分子構造が当初のSiO2からSiO、又はSiへ変化し、変色や不透明化する。本発明者らは、この現象が挿通管内面を黒化させる第二の主因子であることを種々分析により推察した。こうして生成された変色が、フラッシュ回数の増加により徐々に成長し、トリガ管が変色するとも推察している。
【0023】
さらに、閃光放電ランプに投入する電力を増加させて光出力を高めると、投入される電力の増加に伴って、発光管や挿通管の動作温度がさらに高くなりやすい。
【0024】
このように、点灯時間の短縮や、光出力を高めることは、点灯時における近接導体と挿通管の温度上昇に繋がる。このような観点から、本発明者らは、点灯時間の短縮と、光出力を高めることで、近接導体と、挿通管の温度が従来よりも高くなり、上述した反応が発生しやすくなったことで、より早期に変色が現れるようになったと推察している。
【0025】
そこで、本発明者らは、鋭意検討により、高温でも溶融しない比較的融点が高い材料からなる芯材の外表面を酸化されにくい白金族元素で覆うことで、芯材の酸化を抑制するという着想に得た。
【0026】
白金族元素は、金属元素の中でも比較的融点が高く(1700℃以上)、かつ、酸化や腐食に対する耐性が高い貴金属元素である。このため、白金族元素は、発光管及び挿通管が軟化する温度(例えば、組成や不純物濃度等にもよるが、石英ガラスであれば1000℃~1700℃程度)においても、ほとんど融解しない。なお、芯材はより確実に融解しないように、保護層に対して相対的に融点が高い材料が採用される。
【0027】
つまり、上記構成の閃光放電ランプは、点灯時間を短縮し、かつ、光出力を高めたとしても、芯材が白金族元素からなる保護層によって挿通管から脱離した酸素との接触から保護されるため、挿通管において変色が生じにくい。そして、少なくとも挿通管が使用可能な温度範囲においては、芯材が融解することはない。
【0028】
ここで、白金族元素には上述した六つの元素が属しているが、芯材となる他の金属に対して比較的高い密着性を示す材料として、保護層を形成する材料としては、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、及びイリジウム(Ir)が好適である。また、パラジウム(Pd)、及びオスミウム(Os)は、特に希少な貴金属元素であることから、製造コストの面においても、保護層を形成する材料としては、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、及びイリジウム(Ir)が好適である。
【0029】
さらに、上記閃光放電ランプにおいて、
前記トリガ管は、前記近接導体が挿通されている空間が実質的に真空状態、又は不活性ガスが充填された状態で気密封止されていても構わない。
【0030】
本明細書において、「実質的に真空状態」とは、空間内の気圧が1Pa以下である状態をいう。
【0031】
挿通管を設けることは、近接導体と発光管との間の空間に存在する空気に代えて、挿通管を構成する誘電体等が配置されることになるため、近接導体と発光管内の電極との間で放電が発生しやすくする効果がある。なお、当該効果をより高めるために、近接導体が収容されるトリガ管の内側の空間は、真空、又は不活性ガスが充填されていることが好ましい。不活性ガスとは、例えば、キセノン(Xe)ガスや、アルゴン(Ar)ガス、窒素(N)ガス等である。
【0032】
上記閃光放電ランプにおいて、
前記保護層は、厚みが100μm以下であっても構わない。
【0033】
本発明の閃光照射装置は、
上記閃光放電ランプを備えたことを特徴とする。
【0034】
本発明の閃光照射装置は、上記閃光放電ランプを一本だけ備えた構成と、複数備えた構成のいずれもが想定されている。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、点灯時における光出力をより高めるとともに、長期にわたって変色の発生が抑制される閃光放電ランプが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】閃光照射装置の一実施形態をY方向に見たときの模式的な断面図である。
【
図2】
図1の閃光放電ランプのみを図示した図面である。
【
図4】検証実験用の点灯回路の構成を示す図面である。
【
図5】別実施形態の閃光放電ランプをY方向に見たときの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の閃光放電ランプについて、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の個数は、実際の個数と必ずしも一致していない。
【0038】
図1は、閃光照射装置1の一実施形態をY方向に見たときの模式な断面図であり、
図2は、
図1の閃光放電ランプ10のみを図示した図面である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態の閃光照射装置1は、閃光放電ランプ10と、反射部材20と、ワークW1が載置される支持台30とを備える。なお、図示の都合上、
図1において、一つ閃光放電ランプ10のみが図示されているが、閃光照射装置1は、閃光放電ランプ10が複数搭載されていても構わない。
【0039】
以下説明においては、
図1に示すように、発光管11の管軸に沿う方向をX方向とし、閃光放電ランプ10とワークW1とが対向する方向をZ方向とし、X方向及びZ方向に直交する方向をY方向として説明する。なお、X方向が第一方向に相当する。
【0040】
また、上述したように、本明細書では、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+Z方向」、「-Z方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「Z方向」と記載される。
【0041】
反射部材20は、閃光放電ランプ10から発せられた光L1を反射する反射面21を備え、
図1に示すように、閃光放電ランプ10から発せられて、+Z側に向かって進行する光L1を、-Z側へと反射するように配置されている。なお、
図1及び
図2に示す反射部材20の大きさ、形状等は単なる一例である。反射部材20は、例えば、アルミニウム(Al)板である。
【0042】
支持台30は、ワークW1が載置される複数のピン30aを備えた台座である。
図1及び
図2に示すワークW1を支持する支持台30の構成は、単なる一例であって、ワークW1を所定の位置で静止、又は固定できる構成であれば、例えば、ワークW1の外縁部を引掛けて支持する構成であっても構わない。なお、閃光放電ランプ10と、ワークW1とのZ方向における離間距離は、ワークW1の種類や、処理工程等に応じて適宜調整されるが、本実施形態では30mmとしている。
【0043】
閃光放電ランプ10は、発光管11と、一対の電極(12p,12n)と、トリガ管13と、近接導体14と、第一給電線(15,15)と、第二給電線16とを備える。
【0044】
発光管11は、発光ガスが封入されたX方向に延伸する直管形状を呈し、光L1に対して透過性を示す石英ガラス製の管体である。発光管11は、内側にX方向に離間して配置された一対の電極(12p,12n)を備える。なお、本実施形態の発光管11は、X方向における長さが550mmであって、X方向に見たときの外径が25mm、内径が20mmである。
【0045】
一対の電極(12p,12n)は、X方向に関し、離間距離が500mmとなるように配置されている。なお、
図1及び
図2に示す電極(12p,12n)の形状は、単なる一例であって、これらの形状に限定されるわけではない。電極(12p,12n)は、第一給電線(15,15)を介して、不図示の点灯回路に接続される。
【0046】
図1及び
図2に示すように、発光管11の+Z側の外壁面上には、内側にX方向に延伸する近接導体14が収容された挿通管13aを備えたトリガ管13が設けられている。なお、トリガ管13を設ける位置は、発光管11の-Z側であっても構わないが、発光管11から発せられてワークW1に向かって直接進行する光L1のエネルギー損失を考慮すると、発光管11の+Z側であることが好ましい。
【0047】
本実施形態の挿通管13aは、X方向に見たときの外径が4mm、内径が2mmであって、全長が530mmである。近接導体14は、X方向に見たときの外形が1mmであって、全長が520mmである。そして、挿通管13aは、一端部が切削された近接導体14が内側の空間内に収容されており、当該空間内が実質的に真空状態となるように、当該端部が溶接された封止用のモリブデン箔(不図示)が配置された部分においてシュリンクシールされている。
【0048】
なお、挿通管13aの内側の空間は、不活性ガスが充填されて気密封止されていても構わない。また、問題なく点灯動作が行えるのであれば、挿通管13aの内側の空間は、気密封止されていなくてもよい。
【0049】
シュリンクシール部を介して近接導体14に接続されている第二給電線16は、不図示のトリガ用回路に接続される。
【0050】
本実施形態における挿通管13aは、発光管11と同じく石英ガラス製であって、発光管11と溶接されている。ただし、発光管11と挿通管13aは、異なる材料で作製されていてもよく、近接して配置されていれば相互に離間していても構わない。なお、発光管11及び挿通管13aは、いずれも石英ガラス製でなくてもよい。
【0051】
図3は、
図2の領域A1を拡大した図面である。
図3に示すように、本実施形態の近接導体14は、導電性材料からなる芯材14aと、芯材14aの外表面上に形成された保護層14bとを備える。本実施形態における近接導体14の芯材14aは、タングステン(W)からなる線材である。
【0052】
本実施形態における近接導体14の保護層14bは、白金(Pt)からなる、厚さが0.03μm~3.5μmの範囲内となるように調整されている。保護層14bの厚さは、芯材14aが酸化されることを防止する観点と、不必要に近接導体14を大型化しない観点から、0.03μm以上100μm以下であることが好ましく、0.05μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【0053】
なお、保護層14bの材料としては、白金族元素のいずれか、又は複数の白金族元素を含む材料を採用し得るが、芯材14aとの密着性や、製造コストの観点から、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、及びイリジウム(Ir)が好ましく、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、及び白金(Pt)が特に好ましい。
【0054】
ここで、芯材14aの材料は、保護層14bの材料に比べて融点が高い材料である。本実施形態では、芯材14aの材料であるタングステン(W)の融点が3422℃であって、保護層14bの材料である白金(Pt)の融点が1768℃である。融点に関し、上記関係を満たすのであれば、芯材14aの材料としては、タングステン(W)に限られず、例えば、融点が2623℃のモリブデン(Mo)を採用し得る。
【0055】
近接導体14は、例えば、芯材14aを準備し、金属蒸着法やメッキによって、芯材14aの外表面上に保護層14bとなる白金族元素の薄膜を生成する方法や、るつぼで融解させた白金族元素からなる材料に、白金族元素より融点が高い芯材14aを浸漬する方法によって作製される。
【0056】
次に、芯材14aと保護層14bとを備えた近接導体14が搭載された閃光放電ランプ10と、従来構成の閃光放電ランプとで、トリガ管13における変色の発生を比較する検証実験を実施したので、その詳細について説明する。
【0057】
(実施例1)
実施例1は、上述した実施形態の閃光放電ランプ10である。
【0058】
(実施例2)
実施例2は、白金(Pt)からなる保護層14bに代えて、ロジウム(Rh)からなる保護層14bとした点を除いて、実施例1と同様である。
【0059】
(実施例3)
実施例3は、白金(Pt)からなる保護層14bに代えて、ルテニウム(Ru)からなる保護層14bとした点を除いて、実施例1と同様である。
【0060】
(比較例1)
比較例1は、従来構成の閃光放電ランプであって、構成としては、保護層14bを備えていない芯材14a単体からなる近接導体14を備える点を除いて、実施例1と同様である。
【0061】
(比較例2)
比較例2は、900℃で3時間にわたって真空加熱を行い、発光管11内及び挿通管13a内に存在すると水分(H2O)の含有率をできる限り低減させた発光管11及び挿通管13aを備える点を除いて、比較例1と同様である。
【0062】
(比較例3)
比較例3は、近接導体14を、水酸化ナトリウム(NaOH)を用いて表面研磨した芯材14aとした点を除いて、比較例1と同様である。
【0063】
(条件)
図4は、検証実験用の点灯回路の構成を示す図面である。検証実験用の点灯回路は、閃光放電ランプ10の電極(12p,12n)に接続された点灯回路C1と、近接導体14に接続されたトリガ回路C2と、各回路(C1,C2)のスイッチング素子(4,8)を制御する制御部5とを備える。なお、
図4において図示されてはいないが、各コンデンサ(2,7)と並列に、それぞれ直流電源が接続されている。
【0064】
動作開始時は、制御部5は、スイッチング素子(4,8)をいずれもOFF状態が維持している。このとき、各コンデンサ(2,7)は、直流電源によって充電される。
【0065】
コンデンサ(2,7)が充電された後は、制御部5がスイッチング素子4をOFF状態からON状態に切り替える。
【0066】
その後、制御部5が、スイッチング素子8をOFF状態からON状態に切り替えることで、コンデンサ7に蓄えられた電荷が放電される。コンデンサ7に蓄えられた電荷の放電によって、トランス6の近接導体14に接続された巻線側に起電力が発生する。そして、近接導体14にトリガ電圧が印加される。
【0067】
近接導体14にトリガ電圧が印加されると、発光管11内に放電が発生し、電極(12p,12n)間に放電が発生し、コンデンサ2に蓄えられた電荷の放電により、閃光が発生する。
【0068】
そして、閃光放電ランプ10の発光が停止することで、一連の点灯動作が完了する。
【0069】
本検証実験では、上述した点灯動作を二万回繰り返し、発光管11及びトリガ管13において変色が発生したかどうかを目視確認した。
【0070】
(結果)
比較例1~比較例3においては、点灯動作を二万回繰り返すと、いずれも発光管11において変色が確認された。これに対し、実施例1~実施例3においては、点灯動作を二万回繰り返しても、トリガ管13に変色が確認されなかった。
【0071】
なお、実施例1~実施例3については、保護層14bの厚さを0.05μm、1.26μm、1.80μm、56.2μmの四パターンでも同様の検証実験を行ったが、いずれもトリガ管13に変色は確認されなかった。
【0072】
以上より、上記構成の閃光放電ランプ10は、点灯時間を短縮し、かつ、光出力を高めたとしても、芯材14aが保護層14bによって挿通管13aから脱離した酸素に接触しないように保護されるため、挿通管13aにおいて変色が生じにくい。したがって、本実施形態における閃光放電ランプ10は、長寿命、かつ、高い信頼性が実現される。
【0073】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
〈1〉
図5は、別実施形態の閃光放電ランプ10をY方向に見たときの模式的な断面図である。
図5に示すように、閃光放電ランプ10は、X方向において分離された近接導体(14p,14n)が搭載されていても構わない。本実施形態における近接導体(14p,14n)は、一対の電極(12p,12n)に対応して配置されているが、点灯回路において同じノードに接続されて同電位となるように制御される。
【0074】
上記構成とすることで、発光管11の主たる発光領域である、X方向における中央部側には近接導体(14p,14n)が配置されないため、トリガ管13の当該領域周辺には変色が発生しにくくなる。
【0075】
また、
図1に示すような、反射部材20が搭載された閃光照射装置1においては、反射部材20によって反射されて、ワークW1に向かう光L1が、近接導体(14p,14n)によって遮られない。
【0076】
したがって、上記構成によれば、閃光放電ランプ10の長寿命化が実現されるとともに近接導体(14p,14n)による光L1の遮光が抑制される。さらに、変色が発生したとしても、ワークW1に対して照射される光L1の照度の変動を抑制することができる。つまり、上記構成の閃光放電ランプ10は、光出力の向上とともに、信頼性がより高められる。
【0077】
〈2〉 上述した閃光照射装置1及び閃光放電ランプ10が備える構成は、あくまで一例であり、本発明は、図示された各構成に限定されない。
【符号の説明】
【0078】
1 : 閃光照射装置
2 : コンデンサ
4 : スイッチング素子
5 : 制御部
6 : トランス
7 : コンデンサ
8 : スイッチング素子
10 : 閃光放電ランプ
11 : 発光管
12n,12p : 電極
13 : トリガ管
13a : 挿通管
14,14p,14n : 近接導体
15 : 第一給電線
16 : 第二給電線
20 : 反射部材
21 : 反射面
C1 : 点灯回路
C2 : トリガ回路
L1 : 光
W1 : ワーク
W1a : 主面