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特開2025-12431生体試料測定支援方法、生体試料測定支援装置、及び生体試料測定支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012431
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】生体試料測定支援方法、生体試料測定支援装置、及び生体試料測定支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/493 20060101AFI20250117BHJP
   G01N 15/04 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
G01N33/493 A
G01N15/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115262
(22)【出願日】2023-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】砥綿 佑治
(72)【発明者】
【氏名】辻井 尚
(72)【発明者】
【氏名】古里 紀明
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA18
2G045JA02
(57)【要約】
【課題】遠心管に分注された生体検体の量が所定量でない場合でも、鏡検の測定精度を高めることを可能にする。
【解決手段】生体試料測定支援方法は、遠心管から生体検体の一部を除去して規定量の生体試料を残すと共に除去した生体検体の除去量を取得し、生体試料を残した規定量と、生体検体の除去量と、から得た、遠心管内の生体検体の実際量に基づき、生体試料に関する鏡検の測定値を補正する補正倍数、又は補正倍数を生体試料の鏡検の測定値に乗じた補正値を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心管から生体検体の一部を除去して規定量の生体試料を残すと共に除去した生体検体の除去量を取得し、
前記生体試料を残した規定量と、前記生体検体の除去量と、から得た、前記遠心管内の生体検体の実際量に基づき、前記生体試料に関する鏡検の測定値を補正するための補正倍数を得て当該補正倍数、又は当該補正倍数を生体試料の鏡検の測定値に乗じた補正値を出力する、生体試料測定支援方法。
【請求項2】
前記生体試料の測定値を取得する標準手順として規定されている前記生体検体の標準量と、前記除去量と、前記規定量と、から、前記補正倍数として、
補正倍数=標準量/(除去量+規定量)
を得る、請求項1に記載の生体試料測定支援方法。
【請求項3】
前記除去量を、前記遠心管から前記生体検体を除去する際に取得する、請求項1に記載の生体試料測定支援方法。
【請求項4】
前記除去量の取得を、前記遠心管から前記生体検体を吸引する吸引装置に設けた流量計にて行う、請求項3に記載の生体試料測定支援方法。
【請求項5】
前記遠心管からの前記生体検体の吸引を、前記吸引装置に備えられたノズルを前記遠心管内に挿入して行う、請求項4に記載の生体試料測定支援方法。
【請求項6】
前記ノズルの前記遠心管への挿入長が、前記ノズルによる前記生体検体の吸引により前記規定量の前記生体試料を前記遠心管に残す位置に決められている、請求項5に記載の生体試料測定支援方法。
【請求項7】
遠心管から生体検体の一部を除去して規定量の生体試料を残す除去装置と、
前記除去装置によって除去された生体検体の除去量を取得する除去量取得装置と、
前記生体試料の規定量と、前記生体検体の除去量と、から得た、前記遠心管内の生体検体の実際量に基づき、前記生体試料に関する測定値を補正するための補正倍数を得て当該補正倍数、又は当該補正倍数を生体試料の測定値に乗じた補正値を出力する補正装置と、
を有する生体試料測定支援装置。
【請求項8】
遠心管から生体検体の一部を除去して規定量の生体試料を残すと共に除去した生体検体の除去量を取得し、
前記生体試料の規定量と、前記生体検体の除去量と、から得た、前記遠心管内の生体検体の実際量に基づき、前記生体試料に関する測定値を補正するための補正倍数を得て当該補正倍数、又は当該補正倍数を生体試料の測定値に乗じた補正値を出力する処理をコンピュータに実行させる、生体試料測定支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体試料測定支援方法、生体試料測定支援装置、及び生体試料測定支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、尿中の目的粒子とは顕微鏡下に識別可能なマーカー粒子を尿に加えて遠心分離し、得られた尿沈渣中の目的粒子とマーカー粒子とを計数し、マーカー粒子の回収率により目的粒子の数を補正する、尿沈渣検査成績管理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-278460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
尿等の生体検体中の有形成分を顕微鏡で測定する、いわゆる鏡検では、遠心管に所定量の生体検体を分注し、この生体検体を遠心分離して有形成分を沈渣させる。
【0005】
しかしながら、遠心管に分注された生体検体が所定量でない場合、遠心分離によって得られる沈渣量における沈渣成分の割合が、生体検体が所定量である場合とは異なる割合となる。このため、鏡検の測定精度が低下するおそれがある。
【0006】
本開示の目的は、遠心管に分注された生体検体の量が所定量でない場合でも、鏡検の測定精度を高めることと可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の技術では、遠心管から生体検体の一部を除去して規定量の生体試料を残すと共に除去した生体検体の除去量を取得し、前記生体試料を残した規定量と、前記生体検体の除去量と、から得た、前記遠心管内の生体検体の実際量に基づき、前記生体試料に関する鏡検の測定値を補正するための補正倍数を得て当該補正倍数、又は当該補正倍数を生体試料の鏡検の測定値に乗じた補正値を出力する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術では、遠心管に分注された生体検体の量が所定量でない場合でも、鏡検の測定精度を高めることを可能にできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は開示の技術の生体試料測定支援方法を行う生体試料測定支援装置の構成を示す図である。
図2図2は生体試料の測定に用いられる遠心管を示す正面図である。
図3図3は開示の技術の生体試料測定支援方法を行う生体試料測定支援装置のハードウェア構成を示す構成図である。
図4A図4Aは開示の技術の生体試料測定支援方法を行う生体試料測定支援装置の構成を測定前の状態で示す図である。
図4B図4B図4Aに示す状態の生体試料測定支援装置に保持された遠心管を示す正面図である。
図5図5は開示の技術の生体試料測定支援方法の測定支援処理を示すフローチャートである。
図6図6は開示の技術の生体試料測定支援方法を行う生体試料測定支援装置の構成を生体試料の吸引前の状態で示す図である。
図7A図7Aは開示の技術の生体試料測定支援方法を行う生体試料測定支援装置の構成を生体試料の吸引後の状態で示す図である。
図7B図7B図7Aに示す状態の生体試料測定支援装置に保持された遠心管を示す図である。
図8図8は開示の技術の生体試料測定支援方法を行う生体試料測定支援装置におけるディスプレイの表示内容の一例を示す図である。
図9図9図4Aに示す状態の生体試料測定支援装置に保持された遠心管の図4Bとは異なる例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して第一実施形態について説明する。
【0011】
図1には、本開示の技術に係る生体試料測定支援方法が行われる生体試料測定支援装置20の構成の一部が示されている。図2には、生体試料の測定に使用される遠心管12の一例が示されている。
【0012】
生体試料測定支援装置20は、遠心管12に収容された生体試料から、有形成分を測定する際の標本作成の一部を担うと共に、生体試料の測定支援を行う装置である。本実施形態では、一例として、図4Aに示すように生体試料は尿URを用い、遠心分離により生じた尿沈渣UP中の細胞、円柱、結晶などの有形成分を顕微鏡で観察する検査(いわゆる「鏡検」)を行う。以下では、日本臨床検査標準協議会により、標準手順として標準化された尿沈渣検査法GP1-P4を、説明の便宜上の例として用いることがある。ただし、本開示の技術は、この標準化された尿沈渣検査法GP1-P4に限定されない。
【0013】
図2に示すように、本実施形態において例示する遠心管12は、その底部が円錐形状であり、スピッツ型遠心管と称されることがある。遠心管12には、第一目盛14及び第二目盛16が付されている。
【0014】
第一目盛14は遠心管12に分注する尿量を示す。第一目盛14は、たとえば尿沈渣検査法GP1-P4では10mLの位置に設定されている。第一目盛14によって示される尿量は、本開示の技術に係る「標準量」の一例である。
【0015】
第二目盛16は、遠心分離後の尿URの一部(上澄み)を除去して遠心管12内に残す所定の沈渣量を示す。第二目盛16は、たとえば尿沈渣検査法GP1-P4では0.2mLの位置に設定されている。第二目盛16によって示される沈渣量は、本開示の技術に係る「規定量」の一例である。後述するように、ノズル28の吸引口28Vがこの位置にある状態で、ノズル28によって尿URを吸引すると、規定量の尿沈渣UPを遠心管12内に残すことが可能である。
【0016】
生体試料測定支援装置20は、台座22、保持部材24、支柱26、ノズル28、吸引装置30、流量計32、貯留槽34、ディスプレイ36、及び制御部38を有する。
【0017】
制御部38は、図3に示すように、コンピュータ40を有する。コンピュータ40は、プロセッサ42、メモリ44、ストレージ46、入力装置48、出力装置50、記憶媒体読取装置52、及びインターフェース(I/F)54を備えており、これらの各要素がバス56によって相互に通信可能に接続されている。コンピュータ40は、生体試料測定支援装置20を制御する。
【0018】
ストレージ46には、後述する測定支援処理を実行するための生体試料測定支援プログラム(以下「測定支援プログラム58」という)が格納されている。プロセッサ42は、各種のプログラムを実行したり、各要素を制御したりすることが可能である。具体的には、プロセッサ42は、ストレージ46からプログラムを読み出し、メモリ44を作業領域としてプログラムを実行する。すなわち、プロセッサ42は、ストレージ46に格納されているプログラムに従って、各要素の制御及び各種の演算処理を行う。
【0019】
メモリ44には、作業領域として、一時的にプログラム及び各種のデータを記憶可能である。
【0020】
ストレージ46は、たとえば、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、及びSDD(Solid State Drive)等であり、各種プログラム及び各種データが格納される。このプログラムには、上記した測定支援プログラム等のアプリケーションプログラムだけでなく、オペレーティングシステムも含まれる。
【0021】
入力装置48は、コンピュータ40に対し各種の入力を行うための装置である。入力装置48としては、操作スイッチや操作ボタン等が含まれる他、パーソナルコンピュータ等に使用されるキーボードやマウス等のポインティングデバイス等を含んでいてもよい。
【0022】
出力装置50は、コンピュータ40からの各種の情報を出力するための装置であり、たとえば、ディスプレイ36の他に、表示ランプ、スピーカー等が含まれていてもよい。出力装置50の一例としてのディスプレイ36には、タッチパネルディスプレイを用いることも可能である。この場合には、タッチパネルディスプレイが入力装置48としても機能する。特に本実施形態では、制御部38は、後述する補正倍数をディスプレイ36に表示する。
【0023】
記憶媒体読取装置52は、各種の記憶媒体に記憶されたデータの読み込み、及び、記憶媒体に対するデータの書き込みを行う装置である。記憶媒体としては、たとえば、CD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM、ブルーレイディスク、USB(Universal Serial Bus)メモリ等を挙げることができる。
【0024】
インターフェース54は、他の機器と通信するための装置である。通信のためには、たとえば、イーサネット(登録商標)、FDDI(Fiber Distributed Dsta Interface)等の規格が用いられる。
【0025】
図1に示すように、生体試料測定支援装置20では、保持部材24、及び支柱26は台座22の上面に設けられている。保持部材24は、遠心管12を台座22上で立てた姿勢で保持する部材である。
【0026】
支柱26は、台座22上で鉛直方向に立てた姿勢で固定されている。支柱26には、ノズルホルダ60によって、ノズル28が保持されている。ノズルホルダ60は、パルスモータ62の駆動により、支柱26に沿って上下に移動する。パルスモータ62の駆動は、コンピュータ40によって制御される。
【0027】
ノズル28は、ノズルホルダ60から下方に延在されている。ノズル28の下端は吸引口28Vである。ノズル28は、保持部材24に保持された遠心管12と同芯で、上側から遠心管12に対向している。そして、ノズルホルダ60の上下動により、吸引口28Vが遠心管12の上端から離隔している初期位置PPと、遠心管12内の所定位置に降下した吸引位置VPと、を採り得る。この吸引位置VPは、第二目盛16の位置、すなわち、吸引によって遠心管12内から尿を吸引した場合に、遠心管12内に残す沈渣量0.2mLの位置である。すなわち、吸引口28Vの位置が第二目盛16の位置となるように、遠心管12に対するノズル28の挿入長が決められている。
【0028】
さらに支柱26には、フォトインタラプタ66が備えられている。フォトインタラプタ66は、ノズルホルダ60の高さ位置を検出し、得た高さ位置の情報をコンピュータ40に送る。すなわち、フォトインタラプタ66は、ノズルホルダ60の高さ位置を検出する検出装置の一例である。
【0029】
吸引装置30は、吸引管64、及びポンプ68を有している。吸引管64の一端はノズル28の上端に接続されており、吸引管64の下端は貯留槽34に開放されている。これにより、吸引装置30がノズル28を備えている構成が実現されている。
【0030】
吸引管64には、ポンプ68が設けられている。ポンプ68は、コンピュータ40によって制御される。ポンプ68の駆動により、遠心管12から、ノズル28及び吸引管64を介して、遠心管12内の生体試料を吸引する。
【0031】
吸引管64には、流量計32が設けられている。流量計32は、吸引された生体試料の量(体積)を計測し、取得した生体試料の量の情報をコンピュータ40に送る。
【0032】
遠心管12から吸引された生体試料は、貯留槽34に一時的に貯留される。貯留槽34の底部には排出管70が接続されると共に、排出管70には開閉弁72が設けられている。開閉弁72を開弁することで、貯留槽34内の生体試料を外部に排出することができる。
【0033】
次に、本実施形態の作用、及び生体試料測定支援方法について説明する。以下においても、生体試料である尿に対し、日本臨床検査標準協議会により標準化された尿沈渣検査法GP1-P4を行う場合を例として説明する。
【0034】
まず、生体試料測定支援方法を行う前に、初期位置PPから吸引位置VPへノズル28を移動させることに対応した、パルスモータ62のパルス数を取得する。具体的には、初期位置PPから吸引位置VPへ移動するまでノズル28を降下させる場合の、パルスモータ62に送るパルス数である。
【0035】
尿中の有形成分に対し鏡検測定をする場合、遠心管12に所定量の尿URを分注する。この所定量は尿沈渣検査法GP1-P4によれば10mLであるが、実際には、10mLと異なってしまう場合がある。
【0036】
初期状態において、図4Aに示すように、ノズル28は、吸引口28Vが初期位置PPにある状態となっている。また、遠心管12内では、図4Bに示すように、所定量の尿URが遠心分離され、尿沈渣UPが生成されている。この遠心管12が、保持部材24に保持されている。
【0037】
図5には、生体試料測定支援方法において、測定支援処理を実行する場合のフローの一例が示されている。この測定支援処理を行う測定支援プログラム58は、たとえば予めストレージ46に格納されており、この測定支援プログラム58がメモリ44に呼び出された後、プロセッサ42において展開されて実行される。
【0038】
ステップS102において、制御部38は、パルスモータ62を駆動させる。具体的には、ストレージ46に記憶されている移動係数(パルス数)をプロセッサ42が読み出し、この移動係数に応じて、パルスモータ62へ駆動指示を送信する。これにより、図6に示すようにノズル28が初期位置PPから吸引位置VPへ降下される。
【0039】
次に、ステップS104において、制御部38は、ポンプ68を駆動させる。これにより、図7Aに示すように、ノズル28及び吸引管64を介して、遠心管12内の尿の上澄みが吸引される。
【0040】
ノズル28の吸引口28Vは第二目盛16の位置にある。したがって、ポンプ68の駆動により尿の上澄みが吸引されることで、図7Bに示すように、遠心管12内には、所定の沈渣量(規定量)0.2mLの尿沈渣UPが残る。ここで、作業者は、沈渣量0.2mLの沈渣成分を用いて鏡検を行い、測定値を取得する。
【0041】
このようにノズルを介して遠心管12の尿URの上澄みが吸引されると、吸引された尿量(体積)が流量計32により計測される。ステップS106では、制御部38は、流量計32で計測された流量、すなわちポンプ68による吸引尿量の情報を受信し、この値を取得する。
【0042】
次に、ステップS108において、制御部38は、取得した吸引尿量(XmL)を用いて、補正倍数を算出する。補正倍数の算出は、以下の式(1)により行う。
【0043】
補正倍数=10mL/(XmL+0.2mL) (1)
ここで、取得した吸引尿量(XmL)は本開示の技術における「除去量」の一例であり、所定の沈渣量0.2mLは本開示の技術における「規定量」の一例である。そして、式(1)の(XmL+0.2mL)は、遠心管12内に実際に存在していた尿(生体検体)の量、すなわち、本開示の技術における「実際量」である。
【0044】
次に、ステップS110において、制御部38は、図8に示すように、ディスプレイ36に、吸引尿量を表示させ、且つ、鏡検した試料に含まれる有形成分の個数の測定値を、補正倍数を乗じて補正する旨を表示させる。作業者は、鏡検した試料に含まれる有形成分の個数の測定値にこの補正倍数を乗じて、鏡検した試料に含まれる有形成分の個数の値を補正する。なお、ディスプレイ36には、吸引尿量と、補正倍数とを別々の画面に表示したり、異なる2つ以上のディスプレイに表示したりしてもよい。また、鏡検した試料に含まれる有形成分の個数の測定値に補正倍数を乗じて算出した補正値をディスプレイ36に表示するようにしてもよい。これらの補正倍数と補正値は、いずれか一方を表示しても、また、両方を表示してもよい。
【0045】
上記したように、日本臨床検査標準協議会により標準化された尿沈渣検査法GP1-P4では、遠心管12に分注される尿量は10mLとされている。しかしながら、実際に作業者が遠心管に10mLの尿を正確に分注することは難しい。
【0046】
また、本開示の技術に係る尿沈渣検査より前に、該当の尿を用いた他の検査、いわゆる尿定性検査等が行われることがある。この場合、遠心管12に分注した10mLの尿の一部を尿定性検査等に用いると、遠心管12には、尿沈渣検査を行う際に10mLの尿が残存していないことになる。
【0047】
加えて、検査対象者から10mL以上の尿を得られない場合もある。この場合は、遠心管12に10mLの尿を分注することができない。
【0048】
これらの各種要因により、図9に示すように、遠心管12内に10mLの尿がない状態が生じることがある。この状態で遠心管12内の尿URを遠心分離し、その後に上澄みを吸引して沈渣量0.2mLの尿沈渣UPを得た場合、この尿沈渣UPにおける有形成分の割合は、遠心管12内に10mLの尿があった場合と異なる割合となる。
【0049】
たとえば、図4Bに示したように、遠心管12に10mLの尿URが分注されていた場合を考える。この尿URを遠心分離した後に沈渣量UPを0.2mLとし、鏡検によって得られる有形成分の値が6であったとする。この値は正しい値である。
【0050】
これに対し、図9に示すように、遠心管12に分注されていた尿URの量が、例えば5mLであった場合を考える。この場合、遠心管12に分注されている尿URの量は、図4Bに示す場合の半分であるので、鏡検によって得られる有形成分の測定値も半分、すなわち図4Bに示す場合の3になってしまう。
【0051】
本開示の技術では、流量計32から受信した吸引尿量(XmL)を用いて、補正倍数を算出している。この補正倍数は、所定量である10mLの尿URが遠心管12にない場合において、鏡検によって測定した有形成分の値(測定値)を何倍すれば正しい値になるか、を示す比率である。したがって、本開示の技術によれば、遠心管12に所定量(標準量)である10mLの尿URがない場合であっても、鏡検によって得られた有形成分の測定値にこの補正倍数を乗じて補正値を得ることにより、有形成分の値の正確性を高めることが可能である。
【0052】
特に本実施形態では、上記式(1)の数式により、補正倍数を得ている。したがって、検体資料として尿を用い、日本臨床検査標準協議会により標準化された尿沈渣検査法GP1-P4の鏡検を行う場合に、有形成分の値の正確性を高めることが可能である。
【0053】
なお、日本臨床検査標準協議会により標準化された尿沈渣検査法GP1-P4以外の方法で鏡検を行う場合には、式(1)における各数値を、該当の鏡検方法に対応した数値に置き換えればよい。これにより、それぞれの鏡検方法に応じて、有形成分の値の正確性を高めることが可能である。
【0054】
本開示の技術では、遠心管12から尿URを除去する吸引装置30に流量計32が設けられている。そして、遠心管12から尿URを吸引する際に、遠心管12から除去した尿量(除去量)を取得している。遠心管12から除去した尿量を、吸引とは別の工程で(たとえば貯留槽34に貯留した後に)行う場合と比較して、吸引と同時に簡易に除去量を取得できる。
【0055】
本開示の技術では、遠心管12からの一部の尿URの除去を、吸引装置30に備えられたノズル28を遠心管12内に挿入し、尿URを吸引することにより行っている。遠心管12を傾ける必要がないので、遠心管12からの一部の尿の除去が容易である。
【0056】
特に上記実施形態では、遠心管12の下端の吸引口28Vを、第二目盛16の位置とした状態で、ポンプ68を駆動して遠心管12の尿URの一部を吸引する。これにより、ポンプ68の駆動時間や吸引力を調整することなく、所定の沈渣量を残して尿URを吸引できる。
【0057】
しかも、本実施形態では、所定のパルス数のパルスをパルスモータ62に送ることで、ノズル28の吸引口28Vが、第二目盛16の位置まで降下するようになっている。すなわち、吸引口28Vを、遠心管12内での尿の沈渣量に対応した位置まで自動で降下させることが可能である。
【0058】
なお、本開示の技術において、ノズル28の降下を制御する方法、すなわち吸引口28Vの位置を第二目盛16の位置に合わせる方法は、上記した方法に限定されない。たとえば、モータの駆動時間とノズル28の降下量との関係を予め取得しておき、モータの駆動時間を調整することで、ノズル28の吸引口28Vの位置が第二目盛16の位置と一致するようにノズル28を降下させてもよい。さらに、吸引口28Vの位置をセンサで検出し、吸引口28Vの位置が第二目盛16の位置に達した状態でノズル28の降下を止めるようにモータを制御してもよい。この場合には、ノズル28を上下方向に移動させるモータとしては、パルスモータ62に限定されない。
【0059】
本開示の技術において、複数種の遠心管12に対応して、ノズル28の吸引口28Vの降下位置を調整することも可能である。例えば、複数種の遠心管12について、第二目盛16の位置が予め分かっている場合には、それぞれの遠心管12の第二目盛16の位置に対応したパルス数をストレージ46等に記憶しておけばよい。また、使用する遠心管12を事前に保持部材24に保持させ、初期位置PPから吸引位置VPまでノズル28を移動させることにより、吸引口28Vの降下位置を第二目盛16の位置に合わせるためのパルス数を得て、結果をストレージ46に記録してもよい。さらには、ノズル28の降下距離とパルス数との関係が予め分かっている場合には、作業者がパルス数を設定することで、ノズル28の降下時に吸引口28Vの位置が第二目盛16の位置と一致するようにしてもよい。
【0060】
また、本開示の技術において、ノズル28の吸引口28Vを第二目盛16の位置よりも下にして、尿の一部を吸引するようにしてもよい。この場合には、遠心管12内の尿の液面位置をセンサで検出し、液面位置が第二目盛16の位置に達した状態で、ポンプ68の駆動を止めるように制御すればよい。
【0061】
本開示の技術において、制御部38は、上記したコンピュータ40のように、生体試料測定支援装置20の一部を成していてもよい。これに代えて、たとえば、生体試料測定支援装置20とは別部材で設けられた制御装置が、制御部38としてリモートで生体試料測定支援装置20を制御するようになっていてもよい。
【0062】
さらに、以下の付記を開示する。
(付記1)
遠心管から生体検体の一部を除去して規定量の生体試料を残すと共に除去した生体検体の除去量を取得し、
前記生体試料を残した規定量と、前記生体検体の除去量と、から得た、前記遠心管内の生体検体の実際量に基づき、前記生体試料に関する鏡検の測定値を補正するための補正倍数を得て当該補正倍数、又は当該補正倍数を生体試料の鏡検の測定値に乗じた補正値を出力する、生体試料測定支援方法。
(付記2)
前記生体試料の測定値を取得する標準手順として規定されている前記生体検体の標準量と、前記除去量と、前記規定量と、から、前記補正倍数として、
補正倍数=標準量/(除去量+規定量)
を得る、付記1に記載の生体試料測定支援方法。
(付記3)
前記除去量を、前記遠心管から前記生体検体を除去する際に取得する、付記1又は付記2に記載の生体試料測定支援方法。
(付記4)
前記除去量の取得を、前記遠心管から前記生体検体を吸引する吸引装置に設けた流量計にて行う、付記3に記載の生体試料測定支援方法。
(付記5)
前記遠心管からの前記生体検体の吸引を、前記吸引装置に備えられたノズルを前記遠心管内に挿入して行う、付記4に記載の生体試料測定支援方法。
(付記6)
前記ノズルの前記遠心管への挿入長が、前記ノズルによる前記生体検体の吸引により前記規定量の前記生体試料を前記遠心管に残す位置に決められている、付記5に記載の生体試料測定支援方法。
(付記7)
前記生体検体が尿であり、前記生体試料が前記尿の有形成分の尿沈渣である、付記1~付記6のいずれか一項に記載の生体試料測定支援方法。
(付記8)
前記標準量が10mLであり、前記規定量が0.2mLである、付記2に記載の生体試料測定支援方法。
(付記9)
遠心管から生体検体の一部を除去して規定量の生体試料を残す除去装置と、
前記除去装置によって除去された生体検体の除去量を取得する除去量取得装置と、
前記生体試料の規定量と、前記生体検体の除去量と、から得た、前記遠心管内の生体検体の実際量に基づき、前記生体試料に関する測定値を補正するための補正倍数を得て当該補正倍数、又は当該補正倍数を生体試料の測定値に乗じた補正値を出力する補正装置と、
を有する生体試料測定支援装置。
(付記10)
前記補正装置が、前記補正倍数を表示するディスプレイを含む付記9に記載の生体試料測定支援装置。
(付記11)
遠心管から生体検体の一部を除去して規定量の生体試料を残すと共に除去した生体検体の除去量を取得し、
前記生体試料の規定量と、前記生体検体の除去量と、から得た、前記遠心管内の生体検体の実際量に基づき、前記生体試料に関する測定値を補正するための補正倍数を得て当該補正倍数、又は当該補正倍数を生体試料の測定値に乗じた補正値を出力する処理をコンピュータに実行させる、生体試料測定支援プログラム。
【符号の説明】
【0063】
12 遠心管
14 第一目盛
16 第二目盛
20 生体試料測定支援装置
28 ノズル
28V 吸引口
30 吸引装置
32 流量計
36 ディスプレイ
38 制御部
40 コンピュータ
42 プロセッサ
44 メモリ
46 ストレージ
58 測定支援プログラム
60 ノズルホルダ
62 パルスモータ
64 吸引管
66 フォトインタラプタ
68 ポンプ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9