(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012468
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
A63B 37/00 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
A63B37/00 312
A63B37/00 618
A63B37/00 328
A63B37/00 418
A63B37/00 422
A63B37/00 430
A63B37/00 332
A63B37/00 340
A63B37/00 534
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115322
(22)【出願日】2023-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児島 大二郎
(72)【発明者】
【氏名】重光 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】佐嶌 隆弘
(57)【要約】
【課題】スピン性能、飛行性能、成形性及び耐擦傷性に優れたゴルフボール2の提供。
【解決手段】ゴルフボール2は、コア4、中間層6及びカバー8を有している。カバー8の基材樹脂における、ナトリウムイオン中和アイオノマー樹脂の量P(Na)は、5質量部以下である。このゴルフボール2は、下記数式(1)及び(2)を満たす。
Fm /(Hm * Tm) - Fc /(Hc * Tc) ≧ 3.0 (1)
Mc * Tc ≧ 10.0 (2)
Hm:上記中間層の硬度(ショアD)
Tm:上記中間層の厚さ(mm)
Fm:上記中間層の曲げ剛性(Mpa)
Tc:上記カバーの厚さ(mm)
Fc:上記カバーの曲げ剛性(Mpa)
Mc:上記カバーの、190℃の温度下及び2.16Kgの荷重下でのメルトフローレート(g/10min)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、このコアの外側に位置しておりその材質が樹脂組成物である中間層と、この中間層の外側に位置しておりその材質が他の樹脂組成物であるカバーとを備えたゴルフボールであって、
上記中間層の樹脂組成物の、基材樹脂の主成分が、アイオノマー樹脂であり、
上記カバーの硬度Hc(ショアD)が50以下であり、
上記カバーの樹脂組成物の、基材樹脂の主成分が、アイオノマー樹脂であり、
上記カバーの基材樹脂における、アイオノマー樹脂の量P(I)が、上記基材樹脂100質量部に対して60質量部以上であり、
上記カバーの基材樹脂における、ナトリウムイオン中和アイオノマー樹脂の量P(Na)が、上記基材樹脂100質量部に対して5質量部以下であり、
下記数式(1)及び(2)を満たすゴルフボール。
Fm /(Hm * Tm) - Fc /(Hc * Tc) ≧ 3.0 (1)
Mc * Tc ≧ 10.0 (2)
Hm:上記中間層の硬度(ショアD)
Tm:上記中間層の厚さ(mm)
Fm:上記中間層の曲げ剛性(Mpa)
Tc:上記カバーの厚さ(mm)
Fc:上記カバーの曲げ剛性(Mpa)
Mc:上記カバーの、190℃の温度下及び2.16Kgの荷重下でのメルトフローレート(g/10min)
【請求項2】
上記カバーの基材樹脂における、亜鉛イオン中和アイオノマー樹脂の量P(Zn)が、上記基材樹脂100質量部に対して60質量部以上である、請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
上記カバーの基材樹脂が、オレフィンとα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体であって中和されていない樹脂、及び/又はオレフィンとα,β-不飽和カルボン酸とα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体であって中和されていない樹脂を含んでおり、
この二元共重合体及びこの三元共重合体の合計量P(n)が、上記基材樹脂100質量部に対して10質量部以上40質量部以下である、請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
上記コアの表面硬度Hs(ショアC)と上記コアの中心硬度Ho(ショアC)との差(Hs-Ho)が28以上である、請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項5】
上記中間層の曲げ剛性Fmが300MPa以上であり、上記カバーの曲げ剛性Fcが60MPa以下である、請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項6】
上記カバーの厚さTcが1.20mm以下である、請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項7】
上記カバーのメルトフローレートMcが8.0g/10min以上である、請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項8】
上記カバーの基材樹脂における、上記アイオノマー樹脂の量P(I)に対する、亜鉛イオン中和アイオノマー樹脂の量P(Zn)の比率が、90%以上である、請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項9】
上記カバーの基材樹脂が、第一の亜鉛イオン中和アイオノマー樹脂と、第二の亜鉛イオン中和アイオノマー樹脂とを含む、請求項1に記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、コア、中間層及びカバーを有するゴルフボールを開示する。
【背景技術】
【0002】
一般的なゴルフボールは、コア、中間層及びカバーを有している。カバーの材質として、アイオノマー樹脂が知られている。特開2023-4542公報には、基材樹脂がアイオノマーであるカバーを有するゴルフボールが、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゴルフプレーヤーは、ゴルフボールのコントロール性能を重視する。このコントロール性能は、スピン性能と相関する。バックスピンの速度が大きいと、ランが小さい。高速のバックスピンが生じるゴルフボールを使用することにより、プレーヤーは、このゴルフボールを目標地点に静止させることができる。サイドスピンの速度が大きいと、ゴルフボールは曲がりやすい。高速のサイドスピンがかかるゴルフボールを使用することにより、プレーヤーは、このゴルフボールを意図的に曲げることができる。
【0005】
軟質なカバーは、大きなスピン速度に寄与しうる。このカバーが採用されたゴルフボールは、コントロール性能に優れる。しかしこのカバーは、ゴルフボールの反発性能を阻害する。反発性能が不十分であるゴルフボールは、飛行性能に劣る。薄いカバーの採用により、カバーによる飛行性能への悪影響が抑制されうる。しかし、薄いカバーの成形には、困難が伴う。軟質なカバーはさらに、耐擦傷性に劣る。
【0006】
本出願人の意図するところは、スピン性能、飛行性能、成形性及び耐擦傷性に優れたゴルフボールの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示するゴルフボールは、コアと、このコアの外側に位置しておりその材質が樹脂組成物である中間層と、この中間層の外側に位置しておりその材質が他の樹脂組成物であるカバーとを有する。このカバーの硬度Hc(ショアD)は、50以下である。中間層の樹脂組成物の、基材樹脂の主成分は、アイオノマー樹脂である。カバーの樹脂組成物の、基材樹脂の主成分は、アイオノマー樹脂である。カバーの基材樹脂における、アイオノマー樹脂の量P(I)は、この基材樹脂100質量部に対して60質量部以上である。カバーの基材樹脂における、ナトリウムイオン中和アイオノマー樹脂の量P(Na)は、基材樹脂100質量部に対して5質量部以下である。このゴルフボールは、下記数式(1)及び(2)を満たす。
Fm /(Hm * Tm) - Fc /(Hc * Tc) ≧ 3.0 (1)
Mc * Tc ≧ 10.0 (2)
Hm:中間層の硬度(ショアD)
Tm:中間層の厚さ(mm)
Fm:中間層の曲げ剛性(Mpa)
Tc:カバーの厚さ(mm)
Fc:カバーの曲げ剛性(Mpa)
Mc:カバーの、190℃の温度下及び2.16Kgの荷重下でのメルトフローレート(g/10min)
【発明の効果】
【0008】
このゴルフボールのカバーは、柔軟である。従ってこのゴルフボールは、アプローチショットにおけるスピン性能に優れる。ナトリウムイオン中和アイオノマー樹脂の量P(Na)が少ないので、このカバーは、軟質であっても耐擦傷性に優れる。このカバーの樹脂は流動性に優れるので、カバーの成形性に寄与しうる。厚さが小さくても、このカバーは容易に成形されうる。厚さが小さいカバーは、軟質であっても、ゴルフボールの反発性能を阻害しない。
【0009】
このゴルフボールは、スピン性能、飛行性能、成形性及び耐擦傷性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るゴルフボールが示された一部切り欠き断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態が詳細に説明される。
【0012】
図1に示されたゴルフボール2は、球状のコア4と、このコア4の外側に位置する中間層6と、この中間層6の外側に位置するカバー8とを有している。このゴルフボール2は、その表面に複数のディンプル10を有している。ゴルフボール2の表面のうちディンプル10以外の部分は、ランド12である。このゴルフボール2は、カバー8の外側にペイント層及びマーク層を備えているが、これらの層の図示は省略されている。
【0013】
このゴルフボール2の直径は、40mm以上45mm以下が好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が特に好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。
【0014】
このゴルフボール2の質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上がより好ましく、45.00g以上が特に好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が特に好ましい。
【0015】
コア4は、ゴム組成物が架橋されることで形成されている。好ましい基材ゴムとして、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体及び天然ゴムが例示される。ゴルフボール2の反発性能の観点から、ポリブタジエンが好ましい。ポリブタジエンと他のゴムとが併用される場合、ポリブタジエンが主成分であることが好ましい。具体的には、全基材ゴムに対するポリブタジエンの比率は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が特に好ましい。シス-1,4結合の比率が80%以上であるポリブタジエンが、特に好ましい。
【0016】
コア4のゴム組成物は、好ましくは、共架橋剤を含む。ゴルフボール2の耐久性及び反発性能の観点から好ましい共架橋剤は、炭素数が2から8であるα,β-不飽和カルボン酸の、1価又は2価の金属塩である。好ましい共架橋剤として、アクリル酸亜鉛、アクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛及びメタクリル酸マグネシウムが例示される。アクリル酸亜鉛及びメタクリル酸亜鉛が特に好ましい。
【0017】
ゴム組成物が、炭素数が2から8であるα,β-不飽和カルボン酸と、酸化金属とを含んでもよい。両者はゴム組成物中で反応し、塩が得られる。この塩が、共架橋剤として機能する。好ましいα,β-不飽和カルボン酸として、アクリル酸及びメタクリル酸が挙げられる。好ましい酸化金属として、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムが挙げられる。
【0018】
共架橋剤の量は、基材ゴム100質量部に対して10質量部以上45質量部以下が好ましい。この量が10質量部以上であるゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、この量は15質量部以上がより好ましく、20質量部以上が特に好ましい。この量が45質量部以下であるゴルフボール2は、打球感に優れる。この観点から、この量は40質量部以下がより好ましく、35質量部以下が特に好ましい。
【0019】
好ましくは、コア4のゴム組成物は、有機過酸化物を含む。有機過酸化物は、架橋開始剤として機能する。有機過酸化物は、ゴルフボール2の耐久性及び反発性能に寄与する。好適な有機過酸化物として、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン及びジ-t-ブチルパーオキサイドが例示される。特に汎用性の高い有機過酸化物は、ジクミルパーオキサイドである。
【0020】
有機過酸化物の量は、基材ゴム100質量部に対して0.1質量部以上3.0質量部以下が好ましい。この量が0.1質量部以上であるゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、この量は0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上が特に好ましい。この量が3.0質量部以下であるゴルフボール2は、打球感に優れる。この観点から、この量は2.5質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下が特に好ましい。
【0021】
好ましくは、コア4のゴム組成物は、有機硫黄化合物を含む。有機硫黄化合物は、ゴルフボール2の反発性能に寄与する。有機硫黄化合物には、ナフタレンチオール系化合物、ベンゼンチオール系化合物及びジスルフィド系化合物が含まれる。
【0022】
ナフタレンチオール系化合物として、1-ナフタレンチオール、2-ナフタレンチオール、4-クロロ-1-ナフタレンチオール、4-ブロモ-1-ナフタレンチオール、1-クロロ-2-ナフタレンチオール、1-ブロモ-2-ナフタレンチオール、1-フルオロ-2-ナフタレンチオール、1-シアノ-2-ナフタレンチオール及び1-アセチル-2-ナフタレンチオール並びにこれらの金属塩が例示される。好ましい金属塩は、亜鉛塩である。
【0023】
ベンゼンチオール系化合物として、ベンゼンチオール、4-クロロベンゼンチオール、3-クロロベンゼンチオール、4-ブロモベンゼンチオール、3-ブロモベンゼンチオール、4-フルオロベンゼンチオール、4-ヨードベンゼンチオール、2,5-ジクロロベンゼンチオール、3,5-ジクロロベンゼンチオール、2,6-ジクロロベンゼンチオール、2,5-ジブロモベンゼンチオール、3,5-ジブロモベンゼンチオール、2-クロロ-5-ブロモベンゼンチオール、2,4,6-トリクロロベンゼンチオール、2,3,4,5,6-ペンタクロロベンゼンチオール、2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゼンチオール、4-シアノベンゼンチオール、2-シアノベンゼンチオール、4-ニトロベンゼンチオール及び2-ニトロベンゼンチオール並びにこれらの金属塩が例示される。好ましい金属塩は、亜鉛塩である。
【0024】
ジスルフィド系化合物として、ジフェニルジスルフィド、ビス(4-クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3-クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4-ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3-ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(4-フルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(4-ヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(4-シアノフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5-ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5-ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6-ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5-ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5-ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2-クロロ-5-ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2-シアノ-5-ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2-シアノ-4-クロロ-6-ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,3,5,6-テトラクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,3,4,5,6-ペンタクロロフェニル)ジスルフィド及びビス(2,3,4,5,6-ペンタブロモフェニル)ジスルフィドが例示される。
【0025】
有機硫黄化合物の量は、基材ゴム100質量部に対して0.1質量部以上1.5質量部以下が好ましい。この量が0.1質量部以上であるゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、この量は0.2質量部以上がより好ましく、0.3質量部以上が特に好ましい。この量が1.5質量部以下であるゴルフボール2は、打球感に優れる。この観点から、この量は1.3質量部以下がより好ましく、1.1質量部以下が特に好ましい。2以上の有機硫黄化合物が、併用されてもよい。
【0026】
コア4のゴム組成物が、比重調整等を目的とした充填剤を含んでもよい。好適な充填剤として、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムが例示される。充填剤の量は、コア4の意図した比重が達成されるように適宜決定される。
【0027】
コア4のゴム組成物が、硫黄、カルボン酸、カルボン酸塩、老化防止剤、着色剤、可塑剤、分散剤等の各種添加剤を適量含んでもよい。このゴム組成物が、架橋ゴム粉末又は合成樹脂粉末を含んでもよい。
【0028】
コア4の直径は、35.0mm以上40.5mm以下が好ましい。直径が35.0mm以上であるコア4を有するゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、直径は36.0mm以上がより好ましく、36.5mm以上が特に好ましい。直径が40.5mm以下であるコア4を有するゴルフボール2は、耐久性に優れる。この観点から、直径は40.0mm以下がより好ましく、39.5mm以下が特に好ましい。
【0029】
コア4の圧縮変形量Dcは、3.0mm以上5.0mm以下が好ましい。圧縮変形量Dcが3.0mm以上であるコア4を有するゴルフボール2は、打球感に優れる。この観点から、圧縮変形量Dcは3.5mm以上がより好ましく、3.8mm以上が特に好ましい。圧縮変形量Dcが5.0mm以下であるコア4を有するゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、圧縮変形量Dcは4.7mm以下がより好ましく、4.5mm以下が特に好ましい。
【0030】
圧縮変形量Dcの測定には、YAMADA式コンプレッションテスター「SCH」が用いられる。このテスターでは、コア4が金属製の剛板の上に置かれる。このコア4に向かって金属製の円柱が徐々に降下する。この円柱の底面と剛板との間に挟まれたコア4は、変形する。コア4に98Nの初荷重がかかった状態から1274Nの終荷重がかかった状態までの円柱の移動距離が、測定される。初荷重がかかるまでの円柱の移動速度は、0.83mm/sである。初荷重がかかってから終荷重がかかるまでの円柱の移動速度は、1.67mm/sである。
【0031】
コア4の中心硬度Hoは、40以上65以下が好ましい。中心硬度Hoが40以上であるコア4を有するゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、中心硬度Hoは45以上がより好ましく、47以上が特に好ましい。中心硬度Hoが65以下であるコア4を有するゴルフボール2は、打球感に優れる。この観点から、中心硬度Hoは60以下がより好ましく、55以下が特に好ましい。
【0032】
中心硬度Hoは、自動硬度計(H.バーレイス社の商品名「デジテストII」)に取り付けられたショアC型硬度計によって測定される。この硬度計が、ゴルフボール2が切断されて得られる半球の断面中心に押しつけられる。測定は、23℃の環境下でなされる。
【0033】
コア4の表面硬度Hsは、70以上95以下が好ましい。表面硬度Hsが70以上であるコア4を有するゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、表面硬度Hsは75以上がより好ましく、77以上が特に好ましい。表面硬度Hsが95以下であるコア4を有するゴルフボール2は、打球感に優れる。この観点から、表面硬度Hsは90以下がより好ましく、85以下が特に好ましい。
【0034】
表面硬度Hsは、自動硬度計(H.バーレイス社の商品名「デジテストII」)に取り付けられたショアC型硬度計によって測定される。この硬度計が、コア4の表面に押しつけられる。測定は、23℃の環境下でなされる。
【0035】
表面硬度Hsと中心硬度Hoとの差(Hs-Ho)は、28以上が好ましい。差(Hs-Ho)が28以上であるコア4を有するゴルフボール2は、ドライバーでのショットにおいて、スピンが抑制される。このゴルフボール2は、ドライバーでのショットにおける飛行性能に優れる。この観点から、差(Hs-Ho)は29以上がより好ましく、30以上が特に好ましい。ゴルフボール2の耐久性の観点から、差(Hs-Ho)は35以下が好ましく、34以下がより好ましく、33以下が特に好ましい。
【0036】
中間層6は、コア4の外側に位置している。本実施形態では、中間層6は、コア4に接している。中間層6は、樹脂組成物から成形されている。本実施形態では、中間層6は、熱可塑性樹脂組成物から成形されている。この樹脂組成物の基材ポリマーとして、アイオノマー樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー及び熱可塑性ポリスチレンエラストマーが例示される。特に、アイオノマー樹脂が好ましい。アイオノマー樹脂は、高弾性である。アイオノマー樹脂を含む中間層6を有するゴルフボール2は、反発性能に優れる。このゴルフボール2は、ドライバーショットにおける飛行性能に優れる。
【0037】
アイオノマー樹脂と他の樹脂とが併用されてもよい。併用される場合は、反発性能の観点から、アイオノマー樹脂が基材樹脂の主成分とされる。中間層6の基材樹脂における、アイオノマー樹脂の量は、基材樹脂100質量部に対して50質量部以上が好ましく、60質量部以上がより好ましく、70質量部以上が特に好ましい。
【0038】
好ましいアイオノマー樹脂として、二元系アイオノマー樹脂及び三元系アイオノマー樹脂が挙げられる。この二元系アイオノマー樹脂は、α-オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体であって、この共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部が、金属イオンで中和されたものである。好ましい二元系アイオノマー樹脂は、80質量%以上90質量%以下のα-オレフィンと、10質量%以上20質量%以下のα,β-不飽和カルボン酸とを含む。この二元系アイオノマー樹脂は、反発性能に優れる。三元系アイオノマー樹脂は、α-オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β-不飽和カルボン酸と炭素数が2以上22以下のα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体であって、この共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部が、金属イオンで中和されたものである。好ましい三元系アイオノマー樹脂は、70質量%以上85質量%以下のα-オレフィンと、5質量%以上30質量%以下のα,β-不飽和カルボン酸と、1質量%以上25質量%以下のα,β-不飽和カルボン酸エステルとを含む。この三元系アイオノマー樹脂は、反発性能に優れる。二元系アイオノマー樹脂及び三元系アイオノマー樹脂において、好ましいα-オレフィンはエチレン及びプロピレンであり、好ましいα,β-不飽和カルボン酸はアクリル酸及びメタクリル酸である。特に好ましいアイオノマー樹脂は、エチレンとアクリル酸との共重合体であって、この共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部が、金属イオンで中和されたものである。特に好ましい他のアイオノマー樹脂は、エチレンとメタクリル酸との共重合体であって、この共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部が、金属イオンで中和されたものである。
【0039】
二元系アイオノマー樹脂及び三元系アイオノマー樹脂に含まれる、カルボキシル基の中和のための金属イオンとして、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及びネオジムイオンが例示される。中和が、2種以上の金属イオンでなされてもよい。ゴルフボール2の反発性能及び耐久性の観点から特に好適な金属イオンは、ナトリウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオン及びマグネシウムイオンである。
【0040】
アイオノマー樹脂の具体例として、三井・ダウポリケミカル社の商品名「ハイミラン1555」、「ハイミラン1557」、「ハイミラン1605」、「ハイミラン1702」、「ハイミラン1706」、「ハイミラン1707」、「ハイミラン1855」、「ハイミラン1856」、「ハイミラン8150」、「ハイミランAM7311」、「ハイミランAM7315」、「ハイミランAM7317」、「ハイミランAM7327」、「ハイミランAM7329」及び「ハイミランAM7337」;デュポン社の商品名「サーリン6120」、「サーリン6910」、「サーリン7930」、「サーリン7940」、「サーリン8140」、「サーリン8150」、「サーリン8940」、「サーリン8945」、「サーリン9120」、「サーリン9150」、「サーリン9320」、「サーリン9910」、「サーリン9945」、「サーリンAD8546」、「HPF1000」及び「HPF2000」;並びにエクソンモービル化学社の商品名「IOTEK7010」、「IOTEK7030」、「IOTEK7510」、「IOTEK7520」、「IOTEK8000」及び「IOTEK8030」が挙げられる。2種以上のアイオノマー樹脂が併用されてもよい。
【0041】
アイオノマー樹脂と併用されうる好ましい樹脂は、スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーである。スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックと、ソフトセグメントとを備えている。典型的なソフトセグメントは、ジエンブロックである。ジエンブロックの化合物として、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン及び2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンが例示される。ブタジエン及びイソプレンが好ましい。2以上の化合物が併用されてもよい。
【0042】
スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーには、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、SBSの水添物、SISの水添物及びSIBSの水添物が含まれる。SBSの水添物として、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)が挙げられる。SISの水添物として、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)が挙げられる。SIBSの水添物として、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)が挙げられる。
【0043】
ゴルフボール2の反発性能の観点から、スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーにおけるスチレン成分の含有率は1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上が特に好ましい。ゴルフボール2の打球感の観点から、この含有率は50質量%以下が好ましく、47質量%以下がより好ましく、45質量%以下が特に好ましい。
【0044】
本発明において、スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーには、SBS、SIS、SIBS、SEBS、SEPS及びSEEPSからなる群から選択された1種又は2種以上と、オレフィンとのアロイが含まれる。このアロイ中のオレフィン成分は、他の基材ポリマーとの相溶性向上に寄与すると推測される。このアロイは、ゴルフボール2の反発性能に寄与しうる。炭素数が2以上10以下のオレフィンが好ましい。好適なオレフィンとして、エチレン、プロピレン、ブテン及びペンテンが例示される。エチレン及びプロピレンが特に好ましい。
【0045】
ポリマーアロイの具体例として、三菱ケミカル社の商品名「テファブロックT3221C」、「テファブロックT3339C」、「テファブロックSJ4400N」、「テファブロックSJ5400N」、「テファブロックSJ6400N」、「テファブロックSJ7400N」、「テファブロックSJ8400N」、「テファブロックSJ9400N」及び「テファブロックSR04」が挙げられる。スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーの他の具体例として、ダイセル化学工業社の商品名「エポフレンドA1010」及びクラレ社の商品名「セプトンHG-252」が挙げられる。
【0046】
中間層6の樹脂組成物が、着色剤、充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等を適量含んでもよい。ゴルフボール2の色相が白である場合、典型的な着色剤は二酸化チタンである。
【0047】
中間層6の厚さTmは、0.5mm以上2.0mm以下が好ましい。厚さTmが0.5mm以上であるゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、厚さTmは0.7mm以上がより好ましく、0.8mm以上が特に好ましい。厚さTmが2.0mm以下であるゴルフボール2は、打球感に優れる。この観点から、厚さTmは1.5mm以下がより好ましく、1.3mm以下が特に好ましい。厚さTmは、ランド12の直下において測定される。
【0048】
中間層6の硬度Hmは、50以上90以下が好ましい。硬度Hmが50以上であるゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、硬度Hmは55以上がより好ましく、60以上が特に好ましい。硬度Hmが90以下であるゴルフボール2は、打球感に優れる。この観点から、硬度Hmは80以下がより好ましく、75以下が特に好ましい。
【0049】
中間層6の硬度Hmは、「ASTM-D 2240-68」の規定に準拠して測定される。自動硬度計(H.バーレイス社の商品名「デジテストII」)に取り付けられたショアD型硬度計により、硬度Hmが測定される。測定には、熱プレスで成形された、中間層6の材料と同一の材料からなる、厚さが約2mmであるシートが用いられる。測定に先立ち、シートは23℃の温度下に2週間保管される。測定時には、3枚のシートが重ね合わされる。
【0050】
中間層6の曲げ剛性Fmは、280MPa以上が好ましい。曲げ剛性Fmが280MPa以上であるゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、曲げ剛性Fmは290MPa以上がより好ましく、300MPa以上が特に好ましい。ゴルフボール2の打球感の観点から、曲げ剛性Fmは420MPa以下が好ましく、400MPa以下がより好ましく、380MPa以下が特に好ましい。
【0051】
中間層6の曲げ剛性Fmは、「JIS K 7106」の規定に準拠して測定される。厚みが2mmであり、幅が20mmであり、長さが100mmであるテストピースが、測定に供される。測定に先立ち、テストピースは、温度が23±2℃であって、相対湿度が50±5%である環境下に、14日間保持される。測定条件は、以下の通りである。
温度:23±2℃
相対湿度:50±5%
支点間距離:50mm
曲げ速度:60°/min
曲げ角度:3°、6°、9°及び12°
測定に適した試験器として、東洋精機製作所のオルゼン形剛性度試験機が挙げられる。荷重目盛が縦軸であって曲げ角度が横軸であるグラフに、測定結果がプロットされる。このプロットの一次近似曲線の傾きが求められ、この傾きに8.7078が乗じられ、さらに試験片の厚み(cm)の三乗で除されることで、曲げ剛性Fmが算出される。
【0052】
カバー8は、中間層6の外側に位置している。本実施形態では、カバー8は、中間層6に接している。ゴルフボール2が、中間層6とカバー8との間に、接着層を有してもよい。この接着層を介して、カバー8が中間層6に、堅固に接合されうる。カバー8は、樹脂組成物から成形されている。本実施形態では、カバー8は、熱可塑性樹脂組成物から成形されている。この樹脂組成物の基材ポリマーとして、アイオノマー樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー及び熱可塑性ポリスチレンエラストマーが例示される。特に、アイオノマー樹脂が好ましい。アイオノマー樹脂は、高弾性である。アイオノマー樹脂を含むカバー8を有するゴルフボール2は、反発性能に優れる。このゴルフボール2は、ドライバーショットにおける飛行性能に優れる。中間層6に関して前述されたアイオノマー樹脂が、カバー8に用いられうる。
【0053】
アイオノマー樹脂と他の樹脂とが併用されてもよい。併用される場合は、反発性能の観点から、アイオノマー樹脂が基材樹脂の主成分とされる。カバー8の基材樹脂における、アイオノマー樹脂の量P(I)は、この基材樹脂100質量部に対して60質量部以上が好ましく、65質量部以上がより好ましく、70質量部以上が特に好ましい。この量P(I)は、95質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましく、85質量部以下が特に好ましい。
【0054】
カバー8の樹脂組成物は、亜鉛イオンで中和されたアイオノマー樹脂を含む。このアイオノマー樹脂を含むカバー8は、軟質であっても、傷つきにくい。耐擦傷性に劣るという、軟質カバーの欠点を、亜鉛イオン中和アイオノマー樹脂は補いうる。従って、亜鉛イオン中和アイオノマー樹脂を含むカバー8では、低硬度が採用されうる。このカバー8は、ゴルフボール2のスピン性能及び耐擦傷性に寄与しうる。
【0055】
スピン性能及び耐擦傷性の観点から、カバー8の基材樹脂における、亜鉛イオン中和アイオノマー樹脂の量P(Zn)は、この基材樹脂100質量部に対して60質量部以上が好ましく、65質量部以上がより好ましく、70質量部以上が特に好ましい。この量P(Zn)は、95質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましく、85質量部以下が特に好ましい。
【0056】
スピン性能及び耐擦傷性の観点から、カバー8の基材樹脂における、アイオノマー樹脂の量P(I)に対する、亜鉛イオン中和アイオノマー樹脂の量P(Zn)の比率は、90%以上が好ましく、95%以上が特に好ましい。この比率は、理想的には100%である。カバー8が、互いに硬度又は流動性が異なる2種以上の亜鉛イオン中和アイオノマー樹脂を含んでもよい。
【0057】
亜鉛イオン中和アイオノマー樹脂の具体例として、前述の、商品名「ハイミラン1557」、「ハイミラン1702」、「ハイミラン1706」、「ハイミラン1855」、「ハイミランAM7327」、「ハイミランAM7329」、「サーリン9120」、「サーリン9150」、「サーリン9320」、「サーリン9945」、「IOTEK7010」、「IOTEK7030」、「IOTEK7510」及び「IOTEK7520」が、例示される。
【0058】
耐擦傷性の観点から、カバー8の基材樹脂における、ナトリウムイオン中和アイオノマー樹脂の量P(Na)は、この基材樹脂100質量部に対して5質量部以下が好ましい。この量P(Na)は、理想的は、0質量部である。
【0059】
カバー8の樹脂組成物が、アイオノマー樹脂と共に、その流動性に寄与しうる樹脂を含んでもよい。このカバー8は、薄くても、容易に成形されうる。薄いカバー8は、軟質であっても、ゴルフボール2の反発性能を阻害しない。流動性に寄与しうる樹脂として、オレフィンとα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体が挙げられる。この二元共重合体は、金属イオンによって中和されては、いない。流動性に寄与しうる他の樹脂として、オレフィンとα,β-不飽和カルボン酸とα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体が挙げられる。この三元共重合体は、金属イオンによって中和されては、いない。メルトフローレートが25g/10min以上である樹脂が、好ましい。
【0060】
この二元共重合体及びこの三元共重合体の合計量P(n)は、カバー8の基材樹脂100質量部に対して10質量部以上40質量部以下が好ましい。この合計量P(n)が10質量部以上であるカバー8は、成形性に優れる。この観点から、この合計量P(n)は13質量部以上がより好ましく、15質量部以上が特に好ましい。この合計量P(n)が40質量部以下であるカバー8は、十分な量の亜鉛イオン中和アイオノマー樹脂を含みうる。さらに、この合計量P(n)が40質量部以下であるカバー8は、耐擦傷性に優れる。これらの観点から、この合計量P(n)は35質量部以下がより好ましく、30質量部以下が特に好ましい。
【0061】
中和されていない二元共重合体の具体例として、三井・ダウポリケミカル社の商品名「ニュクレルN1050H」、「ニュクレルN2050H」、「ニュクレルN1110H」及び「ニュクレルN0200H」;並びにダウ・ケミカル社の商品名「プリマコール5980I」が挙げられる。中和されていない三元共重合体の具体例として、三井・ダウポリケミカル社の商品名「ニュクレルAN4318」及び「ニュクレルAN4319」;並びにダウ・ケミカル社の商品名「プリマコールAT310」及び「プリマコールAT320」が挙げられる。
【0062】
カバー8の樹脂組成物が、着色剤、充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等を適量含んでもよい。ゴルフボール2の色相が白である場合、典型的な着色剤は二酸化チタンである。
【0063】
カバー8の厚さTcは、0.50mm以上2.00m以下が好ましい。厚さTcが0.50mm以上であるゴルフボール2は、スピン性能に優れる。この観点から、厚さTcは0.70mm以上がより好ましく、0.90mm以上が特に好ましい。厚さTcが2.00mm以下であるゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、厚さTcは1.50mm以下がより好ましく、1.20mm以下が特に好ましい。厚さTcは、ランド12の直下において測定される。
【0064】
カバー8の硬度Hcは、50以下である。このカバー8は、アプローチショットにおけるスピン性能に寄与しうる。この観点から、硬度Hcは49以下がより好ましく、48以下が特に好ましい。ゴルフボール2の反発性能の観点から、この硬度Hcは30以上が好ましく、35以上がより好ましく、40以上が特に好ましい。カバー8の硬度Hcは、中間層6の硬度Hmの測定方法と同じ方法で、測定される。
【0065】
カバー8の曲げ剛性Fcは、80MPa以下が好ましい。曲げ剛性Fcが80MPa以下であるゴルフボール2は、アプローチショットにおけるスピン性能に優れる。この観点から、曲げ剛性Fcは70MPa以下がより好ましく、60MPa以下が特に好ましい。ゴルフボール2の反発性能の観点から、曲げ剛性Fcは20MPa以上が好ましく、30MPa以上がより好ましく、40MPa以上が特に好ましい。カバー8の曲げ剛性Fcは、中間層6の曲げ剛性Fmと同様の方法で測定されうる。
【0066】
カバー8のメルトフローレートMcは、8.0g/10min以上が好ましい。このカバー8の樹脂組成物は、流動性に優れる。この樹脂組成物から、薄いカバー8が容易に成形されうる。この観点から、このメルトフローレートMcは9.0g/10min以上がより好ましく、10.0g/10min以上が特に好ましい。メルトフローレートMcは、16.0以下が好ましい。
【0067】
このメルトフローレートMcは、「JIS K 7210-1:2014」の規定に準拠して測定される。測定条件は、以下の通りである。
基準:マス(A法)
温度:190℃
荷重:2.16Kg
ダイ:標準
測定に適した装置として、島津製作所社の「フローテスターCFT-100C」が例示される。
【0068】
このゴルフボール2は、下記の数式(2)を満たす。
Mc * Tc ≧ 10.0 (2)
換言すれば、カバー8における、厚さTcとメルトフローレートMcの積(Mc*Tc)は、10.0以上である。このカバー8は、薄いにもかかわらず、成形性に優れる。成形性の観点から、この積(Mc*Tc)は10.1以上がより好ましく、10.2以上が特に好ましい。積(Mc*Tc)は、20.0以下が好ましく、18.0以下がより好ましく、16.0以下が特に好ましい。
【0069】
このゴルフボール2は、下記の数式(1)を満たす。
Fm /(Hm * Tm) - Fc /(Hc * Tc) ≧ 3.0 (1)
換言すれば、差(Fm/(Hm*Tm)-Fc/(Hc*Tc))は、3.0以上である。このゴルフボール2では、中間層6が飛行性能に寄与し、カバー8がスピン性能に寄与しうる。この観点から、この差(Fm/(Hm*Tm)-Fc/(Hc*Tc))は3.2以上がより好ましく、3.4以上が特に好ましい。差(Fm/(Hm*Tm)-Fc/(Hc*Tc))は、6.0以下が好ましく、5.5以下がより好ましく、5.0以下が特に好ましい。
【0070】
ゴルフボール2の圧縮変形量Dbは、2.5mm以上4.0mm以下が好ましい。圧縮変形量Dbが2.5mm以上であるゴルフボール2は、打球感に優れる。この観点から、圧縮変形量Dbは2.8mm以上がより好ましく、3.0mm以上が特に好ましい。圧縮変形量Dbが4.0mm以下であるゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、圧縮変形量Dbは3.7mm以下がより好ましく、3.5mm以下が特に好ましい。
【0071】
圧縮変形量Dbの測定には、前述のYAMADA式コンプレッションテスター「SCH」が用いられる。このテスターでは、ゴルフボール2が金属製の剛板の上に置かれる。このゴルフボール2に向かって金属製の円柱が徐々に降下する。この円柱の底面と剛板との間に挟まれたゴルフボール2は、変形する。ゴルフボール2に98Nの初荷重がかかった状態から1274Nの終荷重がかかった状態までの円柱の移動距離が、測定される。初荷重がかかるまでの円柱の移動速度は、0.83mm/sである。初荷重がかかってから終荷重がかかるまでの円柱の移動速度は、1.67mm/sである。
【実施例0072】
[実施例1]
100質量部のハイシスポリブタジエン(JSR社の商品名「BR-730」)、27.7質量部のアクリル酸亜鉛(日触テクノファインケミカル社の商品名「ZN-DA90S」)、10質量部の酸化亜鉛(東邦亜鉛社の商品名「銀嶺R」)、適量の硫酸バリウム(堺化学社の品番「BD」)、0.9質量部のジクミルパーオキサイド(日油社の商品名「パークミルD」)、3質量部の安息香酸(東京化成工業社、純度:98%以上)、及び1.2質量部のペンタクロロチオフェノール亜鉛塩(東京化成工業社)を混練し、ゴム組成物を得た。このゴム組成物を共に半球状キャビティを備えた上型及び下型からなる金型に投入して加熱し、直径が38.6mmであるコDを得た。架橋温度は、160℃であった。架橋時間は、20分であった。このコアDの硬度分布が、下記の表1に示されている。
【0073】
50質量部のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミランAM7329」)、50質量部の他のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミラン7337」)、6質量部の硫酸バリウム及び4質量部の二酸化チタンを二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物M1を得た。それぞれが半球状キャビティを備えた上型及び下型からなる金型に、コアを投入した。溶融した樹脂組成物M1を射出成形機にてコアの周りに射出し、中間層を形成した。この中間層の厚さは、1.00mmであった。
【0074】
35質量部のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミラン1855」)、40質量部の他のアイオノマー樹脂(前述の「ハイミランAM7327」)、25質量部の中和されていない二元共重合体(前述の「ニュクレルN1050H」)及び4質量部の二酸化チタンを二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物C2を得た。それぞれが半球状キャビティを備えた上型及び下型からなる金型に、コア及び中間層からなる球を投入した。溶融した樹脂組成物C2を射出成形機にてこの球の周りに射出被覆し、カバーを形成した。このカバーの厚さは、1.05mmであった。
【0075】
このカバーの周りに二液硬化型ポリウレタンを基材とするクリアー塗料を塗装し、直径が約42.7mmであり質量が約45.5gである実施例1のゴルフボールを得た。
【0076】
[実施例2-7及び比較例1-13]
コア、中間層及びカバーの仕様を下記の表6-9に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2-7及び比較例1-13のゴルフボールを得た。コアの仕様が、下記の表1及び2に示されている。中間層の組成が、下記の表3に示されている。カバーの組成が、下記の表4及び5に示されている。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
[耐擦傷性]
ゴルフラボラトリー社のスイングマシンに、サンドウェッジ(住友ゴム工業社の商品名「XXIO12(2021年製)」、シャフト硬度:R)を装着した。このサンドウェッジにてゴルフボールを、ヘッド速度が36m/secである条件で打撃した。カバーの外観を目視観察し、下記の基準に基づいて格付けした。
Fe:良好
IF:ささくれが見られる。
この結果が、下記の表6-9に示されている。
【0083】
[成形性]
射出成形機の射出圧を10%低い値に設定して、ゴルフボールを得た。カバーの外観を目視観察し、下記の基準に基づいて格付けした。
Fe(Ferior):良好
IF(Inferior):ベアが見られる。
この結果が、下記の表6-9に示されている。
【0084】
[飛行性能]
ゴルフラボラトリー社のスイングマシンに、ドライバー(W#1、住友ゴム工業社の商品名「XXIO1(2021年製)、シャフト硬度:R)を装着した。このドライバーにてゴルフボールを、ヘッド速度が40m/secである条件で打撃して、発射地点から静止地点までの距離を測定した。テスト時は、ほぼ無風であった。12回の測定で得られた飛距離の平均値を、算出した。さらに、この平均値を、下記の基準に基づいて格付けした。
A:199.0m以上
B:198.0m以上199.0m未満
C:198.0m未満
これらの結果が、下記の表6-9に示されている。
【0085】
[スピン性能]
ゴルフラボラトリー社のスイングマシンに、サンドウェッジ(住友ゴム工業社の商品名「XXIO12(2021年製)」、シャフト硬度:R)を装着した。このサンドウェッジにてゴルフボールを、ヘッド速度が16m/secである条件で打撃した。打撃直後のゴルフボールを連続で写真撮影し、バックスピンの速度を測定した。12回の測定で得られたスピン速度の平均値を、算出した。さらに、この平均値を、下記の基準に基づいて格付けした。
A:2250rpmm以上
B:2150rpm以上2250rpm未満
C:2150rpm未満
これらの結果が、下記の表6-9に示されている。
【0086】
[総合評価]
耐擦傷性、成形性、飛行性能及びスピン性能に基づく総合性能を、下記基準に基づいて格付けした。
A:「IF」及び「C」がなく、「B」の数が1又は0である。
B:「IF」及び「C」がなく、「B」の数が2である。
C:「IF」又は「C」があり、これらの合計数が1である。
D:「IF」又は「C」があり、これらの合計数が2以上である。
この結果が、下記の表6-9に示されている。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
表6-9に示されるように、各実施例のゴルフボールは、総合性能に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【0092】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態を開示する。
【0093】
[項目1]
コアと、このコアの外側に位置しておりその材質が樹脂組成物である中間層と、この中間層の外側に位置しておりその材質が他の樹脂組成物であるカバーとを備えたゴルフボールであって、
上記中間層の樹脂組成物の、基材樹脂の主成分が、アイオノマー樹脂であり、
上記カバーのカバーの硬度Hc(ショアD)が50以下であり、
上記カバーの樹脂組成物の、基材樹脂の主成分が、アイオノマー樹脂であり、
上記カバーの基材樹脂における、アイオノマー樹脂の量P(I)が、上記基材樹脂100質量部に対して60質量部以上であり、
上記カバーの基材樹脂における、ナトリウムイオン中和アイオノマー樹脂の量P(Na)が、上記基材樹脂100質量部に対して5質量部以下であり、
下記数式(1)及び(2)を満たすゴルフボール。
Fm /(Hm * Tm) - Fc /(Hc * Tc) ≧ 3.0 (1)
Mc * Tc ≧ 10.0 (2)
Hm:上記中間層の硬度(ショアD)
Tm:上記中間層の厚さ(mm)
Fm:上記中間層の曲げ剛性(Mpa)
Tc:上記カバーの厚さ(mm)
Fc:上記カバーの曲げ剛性(Mpa)
Mc:上記カバーの、190℃の温度下及び2.16Kgの荷重下でのメルトフローレート(g/10min)
【0094】
[項目2]
上記カバーの基材樹脂における、亜鉛イオン中和アイオノマー樹脂の量P(Zn)が、上記基材樹脂100質量部に対して60質量部以上である、項目1に記載のゴルフボール。
【0095】
[項目3]
上記カバーの基材樹脂が、オレフィンとα,β-不飽和カルボン酸との二元共重合体であって中和されていない樹脂、及び/又はオレフィンとα,β-不飽和カルボン酸とα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体であって中和されていない樹脂を含んでおり、
この二元共重合体及びこの三元共重合体の合計量P(n)が、上記基材樹脂100質量部に対して10質量部以上40質量部以下である、項目1又は2に記載のゴルフボール。
【0096】
[項目4]
上記コアの表面硬度Hs(ショアC)と上記コアの中心硬度Ho(ショアC)との差(Hs-Ho)が28以上である、項目1から3のいずれかに記載のゴルフボール。
【0097】
[項目5]
上記中間層の曲げ剛性Fmが300MPa以上であり、上記カバーの曲げ剛性Fcが60MPa以下である、項目1から4のいずれかに記載のゴルフボール。
【0098】
[項目6]
上記カバーの厚さTcが1.20mm以下である、項目1から5のいずれかに記載のゴルフボール。
【0099】
[項目7]
上記カバーのメルトフローレートMcが8.0g/10min以上である、項目1から6のいずれかに記載のゴルフボール。
【0100】
[項目8]
上記カバーの基材樹脂における、上記アイオノマー樹脂の量P(I)に対する、亜鉛イオン中和アイオノマー樹脂の量P(Zn)の比率が、90%以上である、項目1に記載のゴルフボール。
【0101】
[項目9]
上記カバーの基材樹脂が、第一の亜鉛イオン中和アイオノマー樹脂と、第二の亜鉛イオン中和アイオノマー樹脂とを含む、項目1に記載のゴルフボール。
【0102】
[項目10]
コアと、このコアの外側に位置しておりその材質が樹脂組成物である中間層と、この中間層の外側に位置しておりその材質が他の樹脂組成物であるカバーとを備えており、このカバーの厚さTcが1.20mm以下であり、このカバーの硬度Hc(ショアD)が50以下であるゴルフボールであって、
上記中間層の樹脂組成物の、基材樹脂の主成分が、アイオノマー樹脂であり、
上記カバーの樹脂組成物の、基材樹脂の主成分が、アイオノマー樹脂であり、
上記カバーの基材樹脂における、アイオノマー樹脂の量P(I)が、上記基材樹脂100質量部に対して60質量部以上であり、
上記カバーの基材樹脂における、上記アイオノマー樹脂の量P(I)に対する、亜鉛イオン中和アイオノマー樹脂の量P(Zn)の比率が、90%以上であり、
下記数式(1)及び(2)を満たすゴルフボール。
Fm /(Hm * Tm) - Fc /(Hc * Tc) ≧ 3.0 (1)
Mc * Tc ≧ 10.0 (2)
Hm:上記中間層の硬度(ショアD)
Tm:上記中間層の厚さ(mm)
Fm:上記中間層の曲げ剛性(Mpa)
Tc:上記カバーの厚さ(mm)
Fc:上記カバーの曲げ剛性(Mpa)
Mc:上記カバーの、190℃の温度下及び2.16Kgの荷重下でのメルトフローレート(g/10min)
【0103】
[項目11]
上記量P(I)に対する上記量P(Zn)の比率が、100%である、項目10に記載のゴルフボール。