(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025125005
(43)【公開日】2025-08-27
(54)【発明の名称】全固体電池の製造方法及び全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20250820BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250820BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20250820BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250820BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20250820BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20250820BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20250820BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20250820BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/054
H01M10/052
H01M4/58
H01M4/136
H01M4/587
H01M4/133
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024020810
(22)【出願日】2024-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池尻 純一
(72)【発明者】
【氏名】角田 啓
(72)【発明者】
【氏名】田中 歩
(72)【発明者】
【氏名】山内 英郎
(72)【発明者】
【氏名】狩野 巌大郎
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AJ11
5H029AK01
5H029AL06
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL13
5H029AM12
5H029BJ12
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029DJ13
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ12
5H050AA07
5H050AA14
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB07
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA03
5H050FA02
5H050GA02
5H050GA03
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】反りを抑制することができる、全固体電池の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る全固体電池の製造方法は、正極集電体層2と、1対の正極活物質層3と、1対の固体電解質層4と、1対の負極活物質層5と、を備える全固体電池の製造方法であって、酸化物固体電解質からなり、互いに対向している第1の主面4a及び第2の主面4bをそれぞれ有する、1対の固体電解質層4を用意する工程と、1対の固体電解質層4の各第1の主面4aに、正極活物質前駆体を含む正極合材層を形成し、1対の正極合材付き固体電解質層を得る、正極合材層形成工程と、1対の正極合材付き固体電解質層を、正極集電体層2を挟み互いに対向するように、かつ各正極合材層と正極集電体層2の各主面とが接触するように配置した後、焼成することにより、1対の正極活物質層3を形成する、正極形成工程と、1対の固体電解質層4の各第2の主面4bに負極活物質層5を形成する、負極形成工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体層と、1対の正極活物質層と、1対の固体電解質層と、1対の負極活物質層と、を備える全固体電池の製造方法であって、
酸化物固体電解質からなり、互いに対向している第1の主面及び第2の主面をそれぞれ有する、1対の前記固体電解質層を用意する工程と、
1対の前記固体電解質層の各前記第1の主面に、正極活物質前駆体を含む正極合材層を形成し、1対の正極合材付き固体電解質層を得る、正極合材層形成工程と、
1対の前記正極合材付き固体電解質層を、前記正極集電体層を挟み互いに対向するように、かつ各前記正極合材層と前記正極集電体層の各主面とが接触するように配置した後、焼成することにより、1対の前記正極活物質層を形成する、正極形成工程と、
1対の前記固体電解質層の各前記第2の主面に前記負極活物質層を形成する、負極形成工程と、
を備える、全固体電池の製造方法。
【請求項2】
前記正極活物質層の厚みが前記負極活物質層の厚みよりも厚い、請求項1に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項3】
前記正極形成工程において、1対の前記正極合材付き固体電解質層及び前記正極集電体層の積層体の焼成を、該積層体に対して積層方向に荷重を加えながら行う、請求項1に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項4】
負極集電体層と、1対の正極活物質層と、1対の固体電解質層と、1対の負極活物質層と、を備える全固体電池の製造方法であって、
酸化物固体電解質からなり、互いに対向している第1の主面及び第2の主面をそれぞれ有する、1対の前記固体電解質層を用意する工程と、
1対の前記固体電解質層の各前記第1の主面に、負極活物質前駆体を含む負極合材層を形成し、1対の負極合材付き固体電解質層を得る、負極合材層形成工程と、
1対の前記負極合材付き固体電解質層を、前記負極集電体層を挟み互いに対向するように、かつ各前記負極合材層と前記負極集電体層の各主面とが接触するように配置した後、焼成することにより、1対の前記負極活物質層を形成する、負極形成工程と、
1対の前記固体電解質層の各前記第2の主面に前記正極活物質層を形成する、正極形成工程と、
を備える、全固体電池の製造方法。
【請求項5】
前記負極形成工程において、1対の前記負極合材付き固体電解質層及び前記負極集電体層の積層体の焼成を、該積層体に対して積層方向に荷重を加えながら行う、請求項4に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項6】
前記固体電解質層が緻密層のみからなり、前記固体電解質層の厚みが70μm以下である、請求項1または4に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項7】
前記固体電解質層が、緻密層と、多孔質層と、を有し、前記緻密層及び前記多孔質層が積層されている、請求項1または4に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項8】
前記緻密層の厚みが70μm以下である、請求項7に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項9】
前記緻密層及び前記多孔質層の合計の厚みが170μm以下である、請求項7に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項10】
前記正極形成工程よりも前に、前記負極形成工程を行う、請求項1または4に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項11】
前記正極活物質層が、一般式NaxMyP2Ozにより表され、1≦x≦2.8、0.95≦y≦1.6、6.5≦z≦8、MはFe、Ni、Co、Mn、及びCrからなる群から選択される少なくとも1種である結晶を含有する、結晶化ガラスからなる正極活物質を含む、請求項1または4に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項12】
前記負極活物質層が、ハードカーボンからなる負極活物質を含む、請求項1または4に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項13】
前記酸化物固体電解質が、β-アルミナ、β”-アルミナ、及びNASICON結晶からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または4に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項14】
1層の正極集電体層と、2層の正極活物質層と、2層の固体電解質層と、2層の負極活物質層と、を備える、全固体電池であって、
前記正極集電体層は、互いに対向する第1の主面及び第2の主面を有し、
前記正極活物質層が、一般式NaxMyP2Ozにより表され、1≦x≦2.8、0.95≦y≦1.6、6.5≦z≦8、MはFe、Ni、Co、Mn、及びCrからなる群から選択される少なくとも1種である結晶を含有する、結晶化ガラスからなる正極活物質を含み、
前記固体電解質層が、β-アルミナ、β”-アルミナ、及びNASICON結晶からなる群から選択される少なくとも1種を含む酸化物固体電解質からなり、
前記負極活物質層が、ハードカーボンからなる負極活物質を含み、
前記正極集電体層の前記第1の主面及び前記第2の主面のそれぞれに、前記正極活物質層が積層されており、
それぞれの前記正極活物質層の前記正極集電体層が設けられている側とは反対側の主面に、前記固体電解質層が積層されており、
それぞれの前記固体電解質層の前記正極活物質層が設けられている側とは反対側の主面に、前記負極活物質層が積層されてなる、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池の製造方法及び全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、モバイル機器や電気自動車等に不可欠な、大容量で軽量な電源としての地位を確立している。しかしながら、従来のリチウムイオン二次電池には、電解質として可燃性の有機系電解液が主に用いられているため、発火等の危険性が懸念されている。この問題を解決する方法として、有機系電解液に代えて固体電解質を使用した全固体リチウムイオン電池の開発が進められている。また、リチウムは世界的な原材料の高騰等の問題が懸念されているため、全固体ナトリウムイオン電池の開発も進められている。
【0003】
下記の特許文献1には、全固体型のリチウム二次電池の例が開示されている。このリチウム二次電池においては、正極合材層、固体電解質層及び負極合材層がこの順序で積層されている。正極合材層の表面には、正極集電体が設けられている。負極合材層の表面には、負極集電体が設けられている。固体電解質層の材料の例としては、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物やLISICON型酸化物等が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酸化物固体電解質からなる固体電解質層上に、電極層としての合材層を形成した場合、固体電解質層及び電極層の積層体に反りが生じることがある。そのため、電極層及び集電体の密着性が損なわれるおそれがあり、全固体電池における電池特性が劣化するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、反りを抑制することができる、全固体電池の製造方法及び全固体電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する全固体電池の製造方法及び全固体電池の各態様について説明する。
【0008】
本発明の態様1に係る全固体電池の製造方法は、正極集電体層と、1対の正極活物質層と、1対の固体電解質層と、1対の負極活物質層と、を備える全固体電池の製造方法であって、酸化物固体電解質からなり、互いに対向している第1の主面及び第2の主面をそれぞれ有する、1対の前記固体電解質層を用意する工程と、1対の前記固体電解質層の各前記第1の主面に、正極活物質前駆体を含む正極合材層を形成し、1対の正極合材付き固体電解質層を得る、正極合材層形成工程と、1対の前記正極合材付き固体電解質層を、前記正極集電体層を挟み互いに対向するように、かつ各前記正極合材層と前記正極集電体層の各主面とが接触するように配置した後、焼成することにより、1対の前記正極活物質層を形成する、正極形成工程と、1対の前記固体電解質層の各前記第2の主面に前記負極活物質層を形成する、負極形成工程と、を備えることを特徴としている。
【0009】
態様2の全固体電池の製造方法は、態様1において、前記正極活物質層の厚みが前記負極活物質層の厚みよりも厚いことが好ましい。
【0010】
態様3の全固体電池の製造方法は、態様1または態様2において、前記正極形成工程において、1対の前記正極合材付き固体電解質層及び前記正極集電体層の積層体の焼成を、該積層体に対して積層方向に荷重を加えながら行うことが好ましい。
【0011】
本発明の態様4に係る全固体電池の製造方法は、負極集電体層と、1対の正極活物質層と、1対の固体電解質層と、1対の負極活物質層と、を備える全固体電池の製造方法であって、酸化物固体電解質からなり、互いに対向している第1の主面及び第2の主面をそれぞれ有する、1対の前記固体電解質層を用意する工程と、1対の前記固体電解質層の各前記第1の主面に、負極活物質前駆体を含む負極合材層を形成し、1対の負極合材付き固体電解質層を得る、負極合材層形成工程と、1対の前記負極合材付き固体電解質層を、前記負極集電体層を挟み互いに対向するように、かつ各前記負極合材層と前記負極集電体層の各主面とが接触するように配置した後、焼成することにより、1対の前記負極活物質層を形成する、負極形成工程と、1対の前記固体電解質層の各前記第2の主面に前記正極活物質層を形成する、正極形成工程と、を備えることを特徴としている。
【0012】
態様5の全固体電池の製造方法は、態様4において、前記負極形成工程において、1対の前記負極合材付き固体電解質層及び前記負極集電体層の積層体の焼成を、該積層体に対して積層方向に荷重を加えながら行うことが好ましい。
【0013】
態様6の全固体電池の製造方法は、態様1~態様5のいずれか1つの態様において、前記固体電解質層が緻密層のみからなり、前記固体電解質層の厚みが70μm以下であることが好ましい。
【0014】
態様7の全固体電池の製造方法は、態様1~態様5のいずれか1つの態様において、前記固体電解質層が、緻密層と、多孔質層と、を有し、前記緻密層及び前記多孔質層が積層されていることが好ましい。
【0015】
態様8の全固体電池の製造方法は、態様7において、前記緻密層の厚みが70μm以下であることが好ましい。
【0016】
態様9の全固体電池の製造方法は、態様7または態様8において、前記緻密層及び前記多孔質層の合計の厚みが170μm以下であることが好ましい。
【0017】
態様10の全固体電池の製造方法は、態様1~態様9のいずれか1つの態様において、前記正極形成工程よりも前に、前記負極形成工程を行うことが好ましい。
【0018】
態様11の全固体電池の製造方法は、態様1~態様10のいずれか1つの態様において、前記正極活物質層が、一般式NaxMyP2Ozにより表され、1≦x≦2.8、0.95≦y≦1.6、6.5≦z≦8、MはFe、Ni、Co、Mn、及びCrからなる群から選択される少なくとも1種である結晶を含有する、結晶化ガラスからなる正極活物質を含むことが好ましい。
【0019】
態様12の全固体電池の製造方法は、態様1~態様11のいずれか1つの態様において、前記負極活物質層が、ハードカーボンからなる負極活物質を含むことが好ましい。
【0020】
態様13の全固体電池の製造方法は、態様1~態様12のいずれか1つの態様において、前記酸化物固体電解質が、β-アルミナ、β”-アルミナ、及びNASICON結晶からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0021】
本発明の態様14に係る全固体電池は、1層の正極集電体層と、2層の正極活物質層と、2層の固体電解質層と、2層の負極活物質層と、を備える、全固体電池であって、前記正極集電体層は、互いに対向する第1の主面及び第2の主面を有し、前記正極活物質層が、一般式NaxMyP2Ozにより表され、1≦x≦2.8、0.95≦y≦1.6、6.5≦z≦8、MはFe、Ni、Co、Mn、及びCrからなる群から選択される少なくとも1種である結晶を含有する、結晶化ガラスからなる正極活物質を含み、前記固体電解質層が、β-アルミナ、β”-アルミナ、及びNASICON結晶からなる群から選択される少なくとも1種を含む酸化物固体電解質からなり、前記負極活物質層が、ハードカーボンからなる負極活物質を含み、前記正極集電体層の前記第1の主面及び前記第2の主面のそれぞれに、前記正極活物質層が積層されており、それぞれの前記正極活物質層の前記正極集電体層が設けられている側とは反対側の主面に、前記固体電解質層が積層されており、それぞれの前記固体電解質層の前記正極活物質層が設けられている側とは反対側の主面に、前記負極活物質層が積層されてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、反りを抑制することができる、全固体電池の製造方法及び全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る全固体電池を示す模式的断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の、
図1に示す実施形態とは異なる実施形態に係る全固体電池を示す模式的断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の、
図1に示す実施形態における固体電解質層を示す模式的断面図である。
【
図4】
図4(a)~
図4(c)は、本発明の第1の実施形態に係る全固体電池の製造方法における、第2の電極形成工程及び電極合材層形成工程等を説明するための、模式的断面図である。
【
図5】
図5(a)~
図5(c)は、本発明の第1の実施形態に係る全固体電池の製造方法における、第1の電極形成工程等を説明するための、模式的断面図である。
【
図6】
図6(a)及び
図6(b)は、比較例の全固体電池の製造方法を説明するための模式的断面図である。
【
図7】
図7は、比較例の製造方法により製造された全固体電池の写真である。
【
図8】
図8(a)は、本発明の一実施形態に係る全固体電池の製造方法により作製された全固体電池を、負極活物質層側から撮影した写真である。
図8(b)は、
図8(a)に示す全固体電池を、側方から撮影した写真である。
【
図9】
図9は、本発明の第1の実施形態に係る全固体電池の製造方法により作製された全固体電池において働く力が、互いに打ち消し合うことを説明するための模式的断面図である。
【
図10】
図10は、第1の電極形成工程において、1対の電極合材付き固体電解質層及び正極集電体層の積層体の焼成を、積層方向に荷重を加えながら行う例を示す模式的断面図である。
【
図11】
図11(a)~
図11(d)は、本発明の第1の実施形態の変形例に係る全固体電池の製造方法における、第2の電極形成工程、電極合材層形成工程及び第1の電極形成工程等を説明するための、模式的断面図である。
【
図12】
図12(a)及び
図12(b)は、本発明の第2の実施形態に係る全固体電池の製造方法における、電極合材層形成工程等を説明するための模式的断面図である。
【
図13】
図13(a)及び
図13(b)は、本発明の第2の実施形態に係る全固体電池の製造方法における、第1の電極形成工程及び第2の電極形成工程等を説明するための模式的断面図である。
【
図14】
図14は、本発明の第3の実施形態に係る全固体電池の製造方法において用いられる固体電解質層を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0025】
(全固体電池)
図1は、本発明の一実施形態に係る全固体電池を示す模式的断面図である。
【0026】
本実施形態の全固体電池1は全固体二次電池である。全固体電池1は、例えば、全固体ナトリウムイオン二次電池であってもよく、あるいは、全固体リチウムイオン二次電池であってもよい。
【0027】
全固体電池1は、正極集電体層2と、1対の正極活物質層3と、1対の固体電解質層4と、1対の負極活物質層5と、1対の負極集電体層6とを備える。すなわち、全固体電池1は、1層の正極集電体層2と、2層の正極活物質層3と、2層の固体電解質層4と、2層の負極活物質層5と、2層の負極集電体層6とを備える。
【0028】
本実施形態では、正極集電体層2は本発明における集電体層である。正極活物質層3は本発明における第1の電極活物質層である。負極活物質層5は本発明における第2の電極活物質層である。なお、本発明における集電体層が負極集電体層であってもよく、第1の電極活物質層が負極活物質層であってもよく、第2の電極活物質層が正極活物質層であってもよい。この場合、第2の電極活物質層上には正極集電体層が設けられている。なお、第2の電極活物質層上には、必ずしも集電体層は設けられていなくともよい。
【0029】
1対の固体電解質層4はそれぞれ、第1の主面4a及び第2の主面4bを有する。第1の主面4a及び第2の主面4bは互いに対向している。一方の固体電解質層4の第1の主面4aには、1対の第1の電極活物質層のうち一方の第1の電極活物質層である、正極活物質層3が設けられている。該固体電解質層4の第2の主面4bには、1対の第2の電極活物質層のうち一方の第2の電極活物質層である、負極活物質層5が設けられている。
【0030】
同様に、他方の固体電解質層4の第1の主面4aには、他方の第1の電極活物質層である、正極活物質層3が設けられている。該固体電解質層4の第2の主面4bには、他方の第2の電極活物質層である、負極活物質層5が設けられている。言い換えれば、それぞれの正極活物質層3の正極集電体層2が設けられている側とは反対側の主面に、固体電解質層4が積層されている。それぞれの固体電解質層4の正極活物質層3が設けられている側とは反対側の主面に、負極活物質層5が積層されている。これらにより、正極活物質層3、固体電解質層4及び負極活物質層5がそれぞれ積層された、1対の積層構造部7が構成されている。
【0031】
正極集電体層2は第1の主面2a及び第2の主面2bを有する。第1の主面2a及び第2の主面2bは互いに対向している。正極集電体層2の第1の主面2aには、1対の積層構造部7のうち一方の積層構造部7における第1の電極活物質層としての、正極活物質層3が積層されている。第2の主面2bには、他方の積層構造部7における第1の電極活物質層としての、正極活物質層3が積層されている。
【0032】
一方の積層構造部7における第2の電極活物質層としての、負極活物質層5の表面には、1対の負極集電体層6のうち一方の負極集電体層6が設けられている。負極活物質層5の表面は、具体的には、負極活物質層5の固体電解質層4側の面と対向している面である。同様に、他方の積層構造部7における第2の電極活物質層としての、負極活物質層5の表面には、他方の負極集電体層6が設けられている。なお、1対の負極集電体層6は必ずしも設けられていなくともよい。
【0033】
全固体電池1の正極集電体層2または各正極活物質層3には、引き出し電極が接続されていてもよい。同様に、各負極集電体層6または各負極活物質層5には、引き出し電極が接続されていてもよい。引き出し電極は、全固体電池1を外部に電気的に接続する。
【0034】
本実施形態の全固体電池1の特徴は、1対の固体電解質層4が、正極集電体層2を挟み互いに対向するように、かつ正極活物質層3と正極集電体層2の各主面とが接触していることにある。この場合には、全固体電池1の製造に際し、正極集電体層2を挟み互いに対向した状態において、正極活物質層3を形成することができる。それによって、全固体電池1の反りを抑制することができる。
【0035】
本実施形態の全固体電池1においては、1対の積層構造部7における正極活物質層3同士が、正極集電体層2を挟み互いに対向している。もっとも、例えば、1対の積層構造部7における負極活物質層5同士が、負極集電体層6を挟み互いに対向していてもよい。この場合には、負極活物質層5が第1の電極活物質層であり、正極活物質層3が第2の電極活物質層である。この例を、
図1に示す実施形態とは異なる本発明の実施形態として、以下において示す。
【0036】
図2は、本発明の、
図1に示す実施形態とは異なる実施形態に係る全固体電池を示す模式的断面図である。
【0037】
本実施形態では、全固体電池1Aは、負極集電体層6と、1対の負極活物質層5と、1対の固体電解質層4と、1対の正極活物質層3と、1対の正極集電体層2とを備える。
【0038】
各固体電解質層4の第1の主面4aには、負極活物質層5が設けられている。各固体電解質層4の第2の主面4bには、正極活物質層3が設けられている。これらにより、正極活物質層3、固体電解質層4及び負極活物質層5がそれぞれ積層された、1対の積層構造部7が構成されている。
【0039】
負極集電体層6は第1の主面6a及び第2の主面6bを有する。第1の主面6a及び第2の主面6bは互いに対向している。負極集電体層6の第1の主面6aには、1対の積層構造部7のうち一方の積層構造部7における負極活物質層5が積層されている。第2の主面6bには、他方の積層構造部7における負極活物質層5が積層されている。
【0040】
一方の積層構造部7における正極活物質層3の表面には、1対の正極集電体層2のうち一方の正極集電体層2が設けられている。正極活物質層3の表面は、具体的には、正極活物質層3の固体電解質層4側の面と対向している面である。同様に、他方の積層構造部7における正極活物質層3の表面には、他方の正極集電体層2が設けられている。なお、1対の正極集電体層2は必ずしも設けられていなくともよい。
【0041】
本実施形態の全固体電池1Aの製造に際しては、負極集電体層6を挟み互いに対向した状態において、負極活物質層5を形成することができる。それによって、全固体電池1Aの反りを抑制することができる。
【0042】
以下、本発明の全固体電池における各層の詳細について説明する。
【0043】
(固体電解質層)
図3は、
図1に示す実施形態における固体電解質層を示す模式的断面図である。
【0044】
固体電解質層4は、第1の固体電解質層8と、1対の第2の固体電解質層9とを有する。第1の固体電解質層8は第3の主面8a及び第4の主面8bを有する。第3の主面8a及び第4の主面8bは互いに対向している。第1の固体電解質層8の第3の主面8aに、1対の第2の固体電解質層9のうち一方の第2の固体電解質層9が設けられている。第1の固体電解質層8の第4の主面8bに、他方の第2の固体電解質層9が設けられている。
【0045】
図1に示す1対の固体電解質層4においてはそれぞれ、第1の固体電解質層8の両側の主面に、第2の固体電解質層9が設けられている。本実施形態では、固体電解質層4の第1の主面4aは、一方の第2の固体電解質層9の表面である。固体電解質層4の第2の主面4bは、他方の第2の固体電解質層9の表面である。
【0046】
図3に示す第1の固体電解質層8は、具体的には、緻密層である。一方で、第2の固体電解質層9は、具体的には、多孔質層である。第2の固体電解質層9は、3次元的に連通した空隙を有する。第1の固体電解質層8及び第2の固体電解質層9が一体となっていることが望ましい。
【0047】
第1の固体電解質層8は、第2の固体電解質層9よりも緻密な構造を有している。これにより、第1の固体電解質層8は、イオンを伝導する機能だけでなく、固体電解質層4の機械的強度を確保するための基材層としての機能も有する。
【0048】
本実施形態では、一方の第2の固体電解質層9上に、正極活物質層3が設けられている。他方の第2の固体電解質層9上に、負極活物質層5が設けられている。この場合、多孔質層である各第2の固体電解質層9と、正極活物質層3及び負極活物質層5との間に、アンカー効果が作用する。
【0049】
より詳細には、一方の第2の固体電解質層9の表面に正極活物質層3が形成されるに際し、正極活物質層3を構成する活物質粉末等が、空隙に入り込み易い。同様に、他方の第2の固体電解質層9の表面に負極活物質層5が形成されるに際し、負極活物質層5を構成する活物質粉末等が、空隙に入り込み易い。これらにより、各第2の固体電解質層9と、形成された正極活物質層3及び負極活物質層5との間に、アンカー効果が作用する。よって、固体電解質層4と、正極活物質層3及び負極活物質層5との間の密着性を高めることができる。これにより、固体電解質層4と、正極活物質層3及び負極活物質層5との間において、接触抵抗を低くすることができる。
【0050】
第1の固体電解質層8の空隙率は、第2の固体電解質層9の空隙率よりも小さい。なお、空隙率は下記の式(1)により定義される。式(1)中において、pはかさ密度であり、p0は真密度である。
【0051】
空隙率=(1-p/p0)×100(%)…式(1)
【0052】
第1の固体電解質層8の空隙率が、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。第1の固体電解質層8の空隙率の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.1%とすることができる。
【0053】
第2の固体電解質層9の空隙率が、25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。一方で、第2の固体電解質層9の空隙率が、97%以下であることが好ましく、95%以下であることがより好ましく、90%以下であることがさらに好ましい。第2の固体電解質層9の空隙率が上記範囲内にある場合、3次元的に連通した空隙をより一層容易に形成することができ、かつ固体電解質層4と、正極活物質層3及び負極活物質層5との密着性をより一層高くすることができる。
【0054】
第1の固体電解質層8の厚みが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましく、5μm以上であることが特に好ましい。一方で、第1の固体電解質層8の厚みが、70μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0055】
第1の固体電解質層8の厚みが薄すぎると、機械的強度が低下したり、正極活物質層3と負極活物質層5とが短絡したりするおそれがある。他方、第1の固体電解質層8の厚みが厚すぎると、第1の固体電解質層8中のイオン伝導性が低下し易くなる。加えて、全固体電池1の単位体積当たりのエネルギー密度が低くなる傾向がある。
【0056】
なお、第1の固体電解質層8の厚みが70μm以下である場合には、後述する全固体電池の反りが特に生じ易い。よって、本発明に係る製造方法が特に好適である。
【0057】
第2の固体電解質層9の厚みが、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましく、10μm以上であることが特に好ましい。一方で、第2の固体電解質層9の厚みが、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましい。
【0058】
第2の固体電解質層9の厚みが薄すぎると、正極活物質層3及び負極活物質層5を構成する材料が第2の固体電解質層9の空隙に入り込む量が少なくなる。そのため、固体電解質層4と正極活物質層3及び負極活物質層5との接触面積が小さくなり、密着性が低下し易くなる。この場合、固体電解質層4と正極活物質層3及び負極活物質層5との界面におけるイオン伝導パスが少なくなるため、全固体電池1の内部抵抗が高くなる傾向にある。結果として、全固体電池1の急速充放電特性が低下し易くなる。
【0059】
他方、第2の固体電解質層9の厚みが厚すぎると、正極活物質層3または負極活物質層5を構成する材料を、第2の固体電解質層9の空隙全体に充填することが困難となる。そのため、全固体電池1の単位体積当たりのエネルギー密度が低くなる。加えて、第2の固体電解質層9を形成する際の収縮量が大きくなり、第2の固体電解質層9が第1の固体電解質層8との界面において剥離し易くなる。
【0060】
固体電解質層4の厚み、すなわち第1の固体電解質層8及び第2の固体電解質層9の合計の厚みが、10μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがさらに好ましく、17μm以上であることが特に好ましい。一方で、第1の固体電解質層8及び第2の固体電解質層9の合計の厚みが、170μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましい。
【0061】
固体電解質層4の厚みが上記下限値以上である場合、機械的強度をより一層向上させることができる。加えて、正極活物質層3及び負極活物質層5の短絡をより生じ難くすることができる。他方、固体電解質層4の厚みが上記上限値以下である場合、固体電解質層4中のイオン伝導に要する距離がより短くなり、イオン伝導性がより一層向上する。加えて、全固体電池1の単位体積当たりのエネルギー密度をより一層高くすることができる。
【0062】
さらに、固体電解質層4の厚みが50μm以下である場合には、後述する全固体電池の反りが特に生じ易い。よって、本発明に係る製造方法が特に好適である。
【0063】
固体電解質層4における第1の固体電解質層8及び第2の固体電解質層9には、同じ材料を用いることができる。固体電解質層4は酸化物固体電解質からなる。
【0064】
全固体電池1が全固体ナトリウムイオン二次電池である場合、固体電解質層4に用いられる酸化物固体電解質は、ナトリウムイオン伝導性酸化物である。ナトリウムイオン伝導性酸化物としては、Al、Y、Zr、Si、及びPから選ばれる少なくとも1種、Na、並びにOを含有する化合物が挙げられる。ナトリウムイオン伝導性酸化物の具体例としては、ナトリウムイオン伝導性において優れる、ベータアルミナまたはNASICON結晶が挙げられる。中でも、ナトリウムイオン伝導性酸化物が、β”-アルミナ、β-アルミナ、及びNASICON結晶からなる群から選択される少なくとも1種のナトリウムイオン伝導性酸化物であることが好ましい。ナトリウムイオン伝導性酸化物が、β-アルミナまたはβ”-アルミナであることがより好ましい。これらは、ナトリウムイオン伝導性において、より一層優れている。これらのことから、固体電解質層4を構成している酸化物固体電解質が、β-アルミナ、β”-アルミナ、及びNASICON結晶からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0065】
ベータアルミナには、β-アルミナとβ”-アルミナとの2種類の結晶型が存在する。β-アルミナの理論組成式はNa2O・11Al2O3である。β”-アルミナの理論組成式はNa2O・5.3Al2O3である。β”-アルミナは、準安定物質であるため、通常、Li2OやMgOを安定化剤として添加したものが用いられる。β-アルミナよりもβ”-アルミナの方がナトリウムイオン伝導性が高いため、β”-アルミナ単独、またはβ”-アルミナとβ-アルミナの混合物を用いることが好ましく、Li2O安定化β”-アルミナまたはMgO安定化β”-アルミナを用いることがより好ましい。Li2O安定化β”-アルミナの組成式は、例えば、Na1.7Li0.3Al10.7O17である。MgO安定化β”-アルミナの組成式は、例えば、(Al10.32Mg0.68O16)・(Na1.68O)である。
【0066】
NASICON結晶としては、Na3Zr2Si2PO12、Na3.2Zr1.3Si2.2P0.8O10.5、Na3Zr1.6Ti0.4Si2PO12、Na3Hf2Si2PO12、Na3.4Zr0.9Hf1.4Al0.6Si1.2P1.8O12、Na3Zr1.7Nb0.24Si2PO12、Na3.6Ti0.2Y0.8Si2.8O9、Na3Zr1.88Y0.12Si2PO12、Na3.12Zr1.88Y0.12Si2PO12、Na3.05Zr2Si2.06P0.95O12、Na3.4Zr2Si2.4P0.6O12、Na3.4Zr1.9Zn0.1Si2.4P0.6O12、Na3.4Zr1.9Mg0.1Si2.2P0.8O12、Na2.8Zr2Si2.4P0.6O12、Na3.6Zr0.13Yb1.67Si0.11P2.9O12、Na5YSi4O12等の結晶が挙げられる。中でも、NASICON結晶が、Na3.4Zr2Si2.4P0.6O12またはNa3.05Zr2Si2.06P0.95O12であることが好ましい。この場合、ナトリウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。
【0067】
全固体電池1が全固体リチウムイオン二次電池である場合、固体電解質層4に用いられる酸化物固体電解質は、リチウムイオン伝導性酸化物である。この場合、酸化物固体電解質としては、例えば、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li7La3Zr2O12、Li1.07Al0.6Ti1.46(PO4)3、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0068】
なお、1対の第2の固体電解質層9の表面にはそれぞれ、金属層が設けられていてもよい。第2の固体電解質層9上に形成される第2の電極活物質層が金属ナトリウムや金属リチウム等からなる場合、第2の固体電解質層9、金属層及び第2の電極活物質層の間の密着性を高くすることができる。これにより、界面抵抗を低減することができる。それによって、放電容量を大きくすることができる。
【0069】
金属層を構成する金属としては、特に限定されないが、例えば、Sn、Ti、Bi、Au、Al、Cu、Sb、Pb等を用いることができる。金属層を構成するこれらの金属は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。金属層は、これらの金属の合金により構成されていてもよい。
【0070】
金属層の厚みが、3nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましく、20nm以上であることが特に好ましい。一方で、金属層の厚みが、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましく、500nm以下であることが特に好ましい。
【0071】
金属層を形成する方法としては、例えば、蒸着法またはスパッタリング法等の物理的気相法や、熱CVD法、MOCVD法またはプラズマCVD法等の化学的気相法を用いることができる。あるいは、金属層を形成する方法として、例えば、めっき、ゾルゲル法またはスピンコート等による液相成膜法を用いてもよい。中でも、金属層の形成に、蒸着法またはスパッタリング法を用いることが好ましい。この場合、金属層の薄膜化が容易であり、金属層を設けることによる上述の効果を得易い。
【0072】
図3に示すように、本実施形態では、第1の固体電解質層8の第3の主面8a及び第4の主面8bの双方に、第2の固体電解質層9が設けられている。もっとも、第2の固体電解質層9は、第1の固体電解質層8の第3の主面8a及び第4の主面8bのうち一方に設けられていてもよい。あるいは、固体電解質層4は、緻密層である第1の固体電解質層8のみからなっていてもよい。
【0073】
(正極活物質層)
図1に示す正極活物質層3に含まれる正極活物質としては、特に限定されないが、一般式Na
xM
yP
2O
zにより表され、1≦x≦2.8、0.95≦y≦1.6、6.5≦z≦8、MはFe、Ni、Co、Mn、及びCrからなる群から選択される少なくとも1種である結晶を含有する、結晶化ガラスからなる正極活物質であることが好ましい。中でも、上記正極活物質が、一般式Na
xMP
2O
7により表され、1≦x≦2、MはFe、Ni、Co、Mn、及びCrからなる群から選択される少なくとも1種である結晶を含有する、結晶化ガラスからなることがより好ましい。このような正極活物質結晶としては、例えば、Na
2FeP
2O
7、Na
2CoP
2O
7、Na
2NiP
2O
7等を用いることができる。
【0074】
なお、結晶化ガラスとは、非晶質相を含有する前駆体ガラスを加熱し、結晶を析出させたものを意味する。言い換えれば、結晶化ガラスとは、非晶質相を含有する前駆体ガラスを焼成し、非晶質相を結晶化させたものを意味する。非晶質相の全てが結晶相に転移していてもよいし、非晶質相が残存していてもよい。非晶質相から、1種類の結晶を析出させてもよいし、2種類以上の結晶を析出させてもよい。結晶化ガラスであるか否かの判別は、例えば、粉末X線回折(XRD)により示されるピーク角度に基づいて行うことが可能である。
【0075】
正極活物質層3は、固体電解質や、導電助剤を含んでいてもよい。正極活物質層3における各材料の比率は、例えば、質量%で、正極活物質 30%~95%、固体電解質 5%~70%、及び導電助剤 0%~20%とすることができる。
【0076】
なお、固体電解質としては、「固体電解質層」の欄において説明した固体電解質を用いることができる。導電助剤としては、例えば、導電性炭素を用いることができる。導電性炭素としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、気相法炭素繊維炭素導電助剤(VGCF)等を挙げることができる。導電助剤が、上記のような材料からなる、炭素系導電助剤であることが好ましい。
【0077】
正極活物質層3が固体電解質を含むことが好ましい。この場合、正極活物質と固体電解質との一体化を図ることができる。あるいは、正極活物質層3が固体電解質層4と接触する場合、両者の一体化を図ることができる。これらの結果、イオン伝導パスがより良好に形成される。
【0078】
正極活物質層3の厚みが、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることがさらに好ましい。一方で、正極活物質層3の厚みが、1000μm以下であることが好ましく、700μm以下であることがより好ましい。正極活物質層3の厚みが上記下限値以上である場合、全固体電池1の充放電容量をより一層大きくすることができる。他方、正極活物質層3の厚みが厚すぎる場合、電子伝導に対する抵抗が高くなることにより、全固体電池1の放電容量が小さくなることがある。あるいは、全固体電池1の作動電圧が低下することがある。
【0079】
なお、
図1に示す実施形態のように、1対の積層構造部7における正極活物質層3同士が、正極集電体層2を挟み互いに対向している場合には、各正極活物質層3の正極活物質が結晶化ガラスからなることが好ましい。もっとも、例えば、1対の積層構造部7における負極活物質層5同士が、負極集電体層6を挟み互いに対向している場合には、正極活物質層3の正極活物質は、例えば、金属または合金からなっていてもよい。具体的には、該正極活物質は、例えば、アルミニウム、チタン、銀、銅、ステンレス鋼、またはこれらのうち少なくとも1種を含む合金等であってもよい。上記に挙げた金属または合金は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。この場合、正極活物質層3は金属膜または合金膜であってもよい。
【0080】
(負極活物質層)
負極活物質層5に含まれる負極活物質としては、特に限定されないが、例えば、ハードカーボンやソフトカーボン等の炭素電極材料を用いることができる。炭素電極材料は、ハードカーボンであることが好ましい。もっとも、全固体電池1が全固体ナトリウム二次電池である場合、負極活物質は、スズやビスマス、鉛、リン等のナトリウムを吸蔵できる合金系負極活物質や金属ナトリウムを含んでいてもよい。なお、負極活物質層5は、金属ナトリウム及び金属ナトリウムを含む負極活物質層ではないことが好ましい。
【0081】
負極活物質層5は、さらに固体電解質や導電助剤を含んでいてもよい。負極活物質層5における各材料の比率は、例えば、質量%で、負極活物質 60%~95%、固体電解質 5%~35%、及び導電助剤 0%~5%とすることができる。なお、固体電解質としては、例えば、「固体電解質層」の欄において説明した固体電解質を用いることができる。導電助剤としては、例えば、「正極活物質層」の欄において説明した導電助剤を用いることができる。
【0082】
負極活物質層5の厚みが、0.3μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。一方で、負極活物質層5の厚みが、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。負極活物質層5の厚みが上記下限値以上である場合、全固体電池1の充放電容量をより一層大きくすることができる。他方、負極活物質層5の厚みが厚すぎる場合、電子伝導に対する抵抗が高くなることにより、全固体電池1の放電容量が小さくなることがある。あるいは、全固体電池1の作動電圧が低下することがある。
【0083】
なお、
図1に示す実施形態のように、1対の積層構造部7における正極活物質層3同士が、正極集電体層2を挟み互いに対向している場合には、各負極活物質層5の負極活物質は、例えば、金属または合金からなっていてもよい。具体的には、該負極活物質は、例えば、アルミニウム、チタン、銀、銅、ステンレス鋼、またはこれらのうち少なくとも1種を含む合金等であってもよい。上記に挙げた金属または合金は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。この場合、負極活物質層5は金属膜または合金膜であってもよい。
【0084】
(正極集電体層及び負極集電体層)
正極集電体層2及び負極集電体層6は、
図1に示す実施形態においては、アルミニウム箔である。もっとも、正極集電体層2及び負極集電体層6の材料はそれぞれ、アルミニウムに限定されず、例えば、アルミニウム、チタン、銀、銅、ステンレス鋼、またはこれらのうち少なくとも1種を含む合金等を用いることができる。上記に挙げた金属または合金は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。正極集電体層2及び負極集電体層6の厚みは、特に限定されないが、それぞれ、0.01μm以上、1000μm以下とすることができる。
【0085】
以下において、本発明に係る全固体電池を製造する製造方法の一例を示す。
【0086】
(製造方法)
(製造方法の第1の実施形態)
図4(a)~
図4(c)は、本発明の第1の実施形態に係る全固体電池の製造方法における、第2の電極形成工程及び電極合材層形成工程等を説明するための、模式的断面図である。
図5(a)~
図5(c)は、第1の実施形態に係る全固体電池の製造方法における、第1の電極形成工程等を説明するための、模式的断面図である。本実施形態では、第1の電極形成工程は正極形成工程である。第2の電極形成工程は負極形成工程である。
【0087】
図4(a)に示すように、1対の固体電解質層4を用意する。次に、
図4(b)に示すように、1対の固体電解質層4の各第2の主面4bに、第2の電極活物質層としての負極活物質層5を形成する、第2の電極形成工程を行う。
【0088】
次に、
図4(c)に示すように、1対の固体電解質層4の各第1の主面4aに電極合材層13を形成する、電極合材層形成工程を行う。具体的には、まず、正極活物質前駆体を含むペーストを作製する。次に、ペーストを1対の固体電解質層4の各第1の主面4aに塗布した後、該ペーストを乾燥させる。これにより、1対の固体電解質層4の各第1の主面4aにおいて電極合材層13を形成し、1対の電極合材付き固体電解質層14を得る。なお、電極合材付き固体電解質層14とは、固体電解質層4及び電極合材層13の積層体である。
【0089】
なお、本実施形態では、電極合材層形成工程は、具体的には、正極合材層形成工程である。電極合材層13は正極合材層である。電極合材付き固体電解質層14は正極合材付き固体電解質層である。
【0090】
次に、
図5(a)に示す、正極集電体層2を用意する。次に、正極集電体層2を、正極集電体層2の両主面から、1対の電極合材付き固体電解質層14により挟み込む。具体的には、正極集電体層2の第1の主面2aに、一方の電極合材付き固体電解質層14における電極合材層13を接触させる。正極集電体層2の第2の主面2bに、他方の電極合材付き固体電解質層14における電極合材層13を接触させる。
【0091】
次に、1対の電極合材付き固体電解質層14及び正極集電体層2の積層体を焼成することにより、
図5(b)に示す1対の第1の電極活物質層としての、1対の正極活物質層3を形成する。次に、
図5(c)に示すように、1対の負極活物質層5における各表面に、負極集電体層6を形成する。以上により、全固体電池1を得る。なお、本発明においては、負極集電体層6は必ずしも形成しなくともよい。
【0092】
本発明に係る製造方法の特徴は、1対の電極合材付き固体電解質層14を、集電体層を挟み互いに対向するように、かつ各電極合材層13と集電体層の各主面とが接触するように配置した後、焼成することにより、1対の第1の電極活物質層を形成することにある。それによって、全固体電池1の反りを抑制することができる。これを、本発明の一実施形態及び第1の実施形態と、比較例とを比較することにより、以下において説明する。
【0093】
図6(a)及び
図6(b)は、比較例の全固体電池の製造方法を説明するための模式的断面図である。
図7は、比較例の製造方法により製造された全固体電池の写真である。
【0094】
比較例では、
図6(a)に示すように、第1の実施形態と同様にして、固体電解質層4を用意する。次に、固体電解質層4の第2の主面4bに負極活物質層5を、第1の実施形態と同様にして形成する。次に、固体電解質層4の第1の主面4aに電極合材層13を、第1の実施形態と同様にして形成する。電極合材層13は正極活物質前駆体を含む。次に、負極活物質層5、固体電解質層4及び電極合材層13の積層体を焼成することにより、
図6(b)に示す全固体電池を得る。
【0095】
図7に示すように、比較例の製造方法により製造された全固体電池においては、大きな反りが生じていることがわかる。この場合、全固体電池の充放電効率が劣化したり、全固体電池の動作不良が生じたりするおそれがある。上記の反りは、
図6(a)に示す電極合材層13から、
図6(b)に示す第1の電極活物質層としての正極活物質層3が形成されるに際し、正極活物質層3が収縮することによって生じる。より詳細には、正極活物質層3の収縮により、正極活物質層3における固体電解質層4側に引っ張り応力が加わり、正極活物質層3における固体電解質層から遠い側に収縮応力が加わる。これにより、全固体電池の全体に反りが生じる。これに対して、本発明の製造方法においては、全固体電池の反りを抑制することができる。
【0096】
図8(a)は、本発明の一実施形態に係る全固体電池の製造方法により作製された全固体電池を、負極活物質層側から撮影した写真である。
図8(b)は、
図8(a)に示す全固体電池を、側方から撮影した写真である。
図8(a)及び
図8(b)に示す全固体電池は、負極集電体層を形成していない点、及び正極集電体層に引き出し配線を接続した点以外においては、第1の実施形態と同様の方法により作製した。
【0097】
図8(a)及び
図8(b)に示すように、本発明の製造方法により作製された全固体電池においては、反りが抑制されていることがわかる。これは、第1の実施形態の製造方法により作製した全固体電池1を例として、
図9により模式的に示すように、1対の正極活物質層3の収縮に起因する力が、互いに打ち消し合うことによる。
【0098】
より詳細には、第1の実施形態の製造方法では、
図5(a)に示すように、1対の電極合材付き固体電解質層14を、正極集電体層2を挟み互いに対向するように、かつ各電極合材層13と正極集電体層2の各主面とが接触するように配置した後、焼成する。これにより、1対の正極活物質層3は、正極集電体層2を挟み互いに対向した状態において収縮する。
図9に示すように、一方の積層構造部7において、正極活物質層3の固体電解質層4側に引っ張り応力が加わり、該正極活物質層3の正極集電体層2側に収縮応力が加わる。同様に、他方の積層構造部7において、正極活物質層3の固体電解質層4側に引っ張り応力が加わり、該正極活物質層3の正極集電体層2側に収縮応力が加わる。
【0099】
この結果、例えば、
図9における左右方向における全固体電池1の両端部を、
図9における下方に変位させる力と、上方に変位させる力とが、全固体電池1に同時に働く。そのため、全固体電池1の上記両端部を変位させる力が互いに打ち消し合う。よって、全固体電池1の反りが抑制される。従って、第1の実施形態においては、充放電効率等の電池特性の劣化を抑制することができる。
図8(a)及び
図8(b)に示す実施形態においても同様である。
【0100】
第1の実施形態の固体電解質層4は、
図3に示すように、緻密層である第1の固体電解質層8と、多孔質層である第2の固体電解質層9とを有する。上述したように、第1の固体電解質層8の厚みが70μm以下であることが好ましい。あるいは、固体電解質層4の全体の厚みが170μm以下であることが好ましい。第1の固体電解質層8の厚みが70μm以下である場合、または固体電解質層4の全体の厚みが170μm以下である場合には、比較例のような全固体電池の反りが特に生じ易い。よって、本発明に係る製造方法が特に好適である。
【0101】
第1の電極活物質層としての正極活物質層3の厚みが、第2の電極活物質層としての負極活物質層5の厚みよりも厚いことが好ましい。この場合、正極活物質層3が形成される際の収縮による応力の影響が、全固体電池に対して特に大きい。そのため、比較例のような全固体電池の反りが特に生じ易い。よって、本発明に係る製造方法が特に好適である。
【0102】
なお、
図10に示すように、第1の電極形成工程において、1対の電極合材付き固体電解質層14及び正極集電体層2の積層体の焼成を、該積層体に対して積層方向に荷重Fを加えながら行うことが好ましい。これにより、
図1に示す正極集電体層2と、1対の第1の電極活物質層としての正極活物質層3との密着性を、より確実に高くすることができる。加える荷重Fとしては、500g以下であることが好ましい。この場合、全固体電池1がより確実に破損し難い。
【0103】
ところで、本発明においては、電極合材層形成工程は、負極合材層形成工程であってもよい。電極合材層は負極合材層であってもよい。電極合材付き固体電解質層は負極合材付き固体電解質層であってもよい。第1の電極形成工程は負極形成工程であってもよい。第2の電極形成工程は正極形成工程であってもよい。この例を、第1の実施形態の変形例として示す。
【0104】
(製造方法の第1の実施形態の変形例)
図11(a)~
図11(d)は、第1の実施形態の変形例に係る全固体電池の製造方法における、第2の電極形成工程、電極合材層形成工程及び第1の電極形成工程等を説明するための、模式的断面図である。
【0105】
本変形例においては、まず、第1の実施形態と同様に、
図11(a)に示すように、固体電解質層4を用意する。次に、1対の固体電解質層4の各第2の主面4bに正極活物質層3を形成する。
【0106】
次に、
図11(b)に示すように、1対の固体電解質層4の各第1の主面4aに、電極合材層15を形成する。これにより、1対の電極合材付き固体電解質層14Aを得る。なお、電極合材層15は、具体的には、負極活物質前駆体を含む負極合材層である。電極合材付き固体電解質層14Aは、具体的には、負極合材付き固体電解質層である。
【0107】
次に、
図11(c)に示す、負極集電体層6を用意する。次に、負極集電体層6を、負極集電体層6の両主面から、1対の電極合材付き固体電解質層14Aにより挟み込む。具体的には、負極集電体層6の第1の主面6aに、一方の電極合材付き固体電解質層14Aにおける電極合材層15を接触させる。負極集電体層6の第2の主面6bに、他方の電極合材付き固体電解質層14Aにおける電極合材層15を接触させる。
【0108】
次に、1対の電極合材付き固体電解質層14A及び負極集電体層6の積層体を焼成することにより、
図11(d)に示す1対の負極活物質層5を形成する。
【0109】
図示しないが、その後、1対の正極活物質層3における各表面に、
図2に示す正極集電体層2を形成してもよい。
【0110】
本変形例においても、第1の電極形成工程としての負極形成工程において、1対の電極合材付き固体電解質層14A及び負極集電体層6の積層体の焼成を、該積層体に対して積層方向に荷重を加えながら行うことが好ましい。これにより、負極集電体層6と、1対の第1の電極活物質層としての負極活物質層5との密着性を、より確実に高くすることができる。
【0111】
以下、本発明の全固体電池における各層を形成する方法をより詳細に説明する。
【0112】
(固体電解質層の形成)
(a)第1の固体電解質層形成用グリーンシートの作製
まず、第1の固体電解質粉末及び第1の固体電解質粉末の原料粉末のうち少なくとも一方の粉末に対して、バインダーを含む有機ビークルを添加してスラリーを作製する。ここでいう原料粉末とは、後の焼成工程において反応して、固体電解質になる粉末である。バインダーは、粉末状等の材料同士を繋ぎ合わせるための材料である。
【0113】
次に、スラリーを基材上に塗布して乾燥することにより、第1の固体電解質層形成用グリーンシートを作製する。スラリーの乾燥温度としては、例えば、40℃以上、100℃以下とすることができる。スラリーの乾燥時間としては、例えば、3分以上、24時間以下とすることができる。その後、基材から第1の固体電解質層形成用グリーンシートを剥離する。
【0114】
全固体電池1として全固体ナトリウムイオン二次電池を製造する場合には、第1の固体電解質粉末として、例えば、β”-アルミナ、β-アルミナ、及びNASICON結晶からなる群から選択される少なくとも1種を用意することができる。β”-アルミナ、β-アルミナ、及びNASICON結晶としては、上述した「第1の固体電解質層」の欄において説明した各材料と同じ材料を用いることができる。
【0115】
全固体電池1として全固体リチウムイオン二次電池を製造する場合には、第1の固体電解質粉末として、例えば、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li7La3Zr2O12、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO4)3、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3から選ばれる少なくとも1種を用意することができる。
【0116】
第1の固体電解質粉末の原料粉末としては、例えば、β”-アルミナの原料粉末である場合には、モル%で、Al2O3 65%~98%、Na2O 2%~20%、MgO+Li2O 0.3%~15%、ZrO2 0%~20%、Y2O3 0%~5%を含有するものを用意することができる。組成を上記のように限定した理由を以下において説明する。
【0117】
Al2O3は、β”-アルミナを構成する主成分である。Al2O3の含有量が、モル%で、65%~98%であることが好ましく、70%~95%であることがより好ましい。Al2O3が少なすぎると、固体電解質のイオン伝導性が低下し易くなる。一方で、Al2O3が多すぎると、ナトリウムイオン伝導性を有さないα-アルミナが残存し、固体電解質のイオン伝導性が低下し易くなる。
【0118】
Na2Oは、固体電解質にナトリウムイオン伝導性を付与する成分である。Na2Oの含有量が、モル%で、2%~20%であることが好ましく、3%~18%であることがより好ましく、4%~16%であることがさらに好ましい。Na2Oが少なすぎると、上記効果を得難くなる。一方で、Na2Oが多すぎると、余剰のナトリウムがNaAlO2等のイオン伝導性に寄与しない化合物を形成するため、固体電解質のイオン伝導性が低下し易くなる。
【0119】
MgO及びLi2Oは、β”-アルミナの構造を安定化させる成分、すなわち安定化剤である。MgO+Li2Oの含有量が、モル%で、0.3%~15%であることが好ましく、0.5%~10%であることがより好ましく、0.8%~8%であることがさらに好ましい。MgO+Li2Oが少なすぎると、固体電解質中にα-アルミナが残存してイオン伝導性が低下し易くなる。一方で、MgO+Li2Oが多すぎると、安定化剤として機能しなかったMgOまたはLi2Oが固体電解質中に残存して、イオン伝導性が低下し易くなる。
【0120】
ZrO2及びY2O3は、焼成時におけるβ”-アルミナの異常粒成長を抑制し、β”-アルミナの各粒子の密着性を向上させる効果がある。その結果、固体電解質のイオン伝導性が向上し易くなる。ZrO2の含有量が、モル%で、0%~20%であることが好ましく、0%~15%であることがより好ましく、1%~13%であることがさらに好ましく、2%~10%であることが特に好ましい。Y2O3の含有量が、モル%で、0%~5%であることが好ましく、0.01%~4%であることがより好ましく、0.02%~3%であることがさらに好ましい。ZrO2またはY2O3が多すぎると、β”-アルミナの生成量が低下して、固体電解質のイオン伝導性が低下し易くなる。
【0121】
第1の固体電解質粉末の原料粉末としては、例えば、NASICON結晶の原料粉末である場合には、モル%で、Na2O 17.5%~50%、Al2O3+Y2O3+Yb2O3+Nd2O3+Nb2O5+TiO2+HfO2+ZrO2 12%~45%、SiO2+P2O5 24%~54%を含有するものを用意することができる。
【0122】
第1の固体電解質粉末及び第1の固体電解質粉末の原料粉末のうち少なくとも一方の粉末の平均粒子径が、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることがさらに好ましい。一方で、第1の固体電解質粉末及び第1の固体電解質粉末の原料粉末のうち少なくとも一方の粉末の平均粒子径が、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることがさらに好ましく、1μm以下であることがより一層好ましく、0.6μm以下であることが特に好ましい。この場合には、後の焼成工程において、多孔質層である第2の固体電解質層9の、第1の固体電解質層8からの剥離をより生じ難くすることができる。
【0123】
なお、本明細書においては、平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した平均粒子径D50を指す。
【0124】
バインダーとしては、例えば、ポリプロピレンカーボネート等の樹脂バインダーを用いることができる。また、樹脂バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂、エチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、アルギン酸、ポリエチレングリコール、ポリエチレンカーボネートもしくはポリプロピレンカーボネート等のポリカーボネート樹脂、またはそれらの共重合体等を用いることができる。これらのバインダーは、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。中でも、バインダーとしては、ポリビニルブチラール(PVB)、アクリル樹脂、ポリエチレンカーボネートまたはポリプロピレンカーボネート等のポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
【0125】
あるいは、全固体電池1として全固体ナトリウムイオン二次電池を製造する場合には、バインダーはガラスバインダーであってもよい。ガラスバインダーとしては、例えば、ナトリウムイオン伝導性ガラス粉末を用いることができる。
【0126】
有機ビークルは、バインダー以外に溶剤や可塑剤等を含んでいてもよい。溶剤としては、例えば、水、あるいはエタノールやアセトン等の有機溶媒を用いることができる。もっとも、溶剤として水を用いる場合は、ナトリウム等のアルカリ成分が原料粉末から溶出してスラリーのpHが上昇し、原料粉末が凝集するおそれがある。そのため、溶剤としては、有機溶媒を用いることが好ましい。
【0127】
なお、スラリー中に含まれる第1の固体電解質粉末及び第1の固体電解質粉末の原料粉末のうち少なくとも一方の粉末の含有量が、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。一方で、スラリー中に含まれる第1の固体電解質粉末及び第1の固体電解質粉末の原料粉末のうち少なくとも一方の粉末の含有量が、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。スラリー中に含まれるバインダーの含有量は、例えば、5質量%以上、50質量%以下とすることができる。
【0128】
スラリーを塗布する基材としては、特に限定されないが、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等の樹脂フィルムを用いることができる。
【0129】
(b)第2の固体電解質層形成用グリーンシートの作製
まず、第2の固体電解質粉末及び第2の固体電解質粉末の原料粉末のうち少なくとも一方の粉末と、高分子粉末とを含む混合粉末に対して、バインダーを含む有機ビークルを添加してスラリーを作製する。なお、高分子粉末は、第2の固体電解質層9内に空隙を形成するための材料である。具体的には、後の焼成工程において高分子粉末が燃焼除去されることにより、上記空隙が形成される。
【0130】
次に、スラリーを基材上に塗布して乾燥することにより、第2の固体電解質層形成用グリーンシートを作製する。スラリーの乾燥温度としては、例えば、40℃以上、100℃以下とすることができる。スラリーの乾燥時間としては、例えば、5分以上、24時間以下とすることができる。その後、基材から第2の固体電解質層形成用グリーンシートを剥離する。
【0131】
第2の固体電解質粉末及び第2の固体電解質粉末の原料粉末のうち少なくとも一方の粉末としては、上述した、第1の固体電解質粉末及び第1の固体電解質粉末の原料粉末と同様の粉末を用いることができる。
【0132】
第2の固体電解質粉末及び第2の固体電解質粉末の原料粉末のうち少なくとも一方の粉末の平均粒子径が、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましく、0.8μm以上であることが特に好ましい。一方で、第2の固体電解質粉末及び第2の固体電解質粉末の原料粉末のうち少なくとも一方の粉末の平均粒子径が、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましく、5μm以下であることがより一層好ましく、3μm以下であることが特に好ましい。この場合、後の焼成工程において、多孔質層である第2の固体電解質層9の、第1の固体電解質層8からの剥離をより生じ難くすることができる。
【0133】
高分子粉末の材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、またはポリスチレン等が挙げられる。これらの材料のうち1種からなる高分子粉末を単独で用いてもよく、これらの材料のうち互いに異なる材料からなる複数種の高分子粉末を併用してもよい。
【0134】
高分子粉末の平均粒子径が、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましく、10μm以上であることが特に好ましい。一方で、高分子粉末の平均粒子径が、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、70μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下であることが特に好ましい。高分子粉末の平均粒子径が小さすぎると、得られる第2の固体電解質層9において、3次元的に連通した空隙が形成され難くなる。他方、高分子粉末の平均粒子径が大きすぎると、得られる第2の固体電解質層9の焼結が不十分になり、イオン伝導性が低下することがある。
【0135】
第2の固体電解質粉末及び第2の固体電解質粉末の原料粉末のうち少なくとも一方の粉末と、高分子粉末との配合比が、体積比で、75:25~3:97であることが好ましく、60:40~6:94であることがより好ましく、40:60~9:91であることがさらに好ましい。高分子粉末の含有量が少なすぎると、得られる第2の固体電解質層9において、3次元的に連通した空隙が形成され難くなる。一方で、高分子粉末の含有量が多すぎると、得られる第2の固体電解質層9の焼結が不十分になり、イオン伝導性が低下することがある。
【0136】
なお、第2の固体電解質粉末及び前記第2の固体電解質粉末の原料粉末のうち少なくとも一方の粉末と、高分子粉末との配合比が、質量比で、95:5~20:80であることが好ましく、90:10~30:70であることがより好ましく、80:20~40:60であることがさらに好ましい。
【0137】
有機ビークルにおけるバインダー、溶剤や可塑剤等の成分としては、「第1の固体電解質層形成用グリーンシートの作製」の欄において説明した各成分と同じ成分を用いることができる。
【0138】
なお、スラリー中に含まれる第2の固体電解質粉末及び第2の固体電解質粉末の原料粉末のうち少なくとも一方の粉末の含有量が、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。一方で、スラリー中に含まれる第2の固体電解質粉末及び第2の固体電解質粉末の原料粉末のうち少なくとも一方の粉末の含有量が、80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。スラリー中に含まれるバインダーの含有量は、例えば、5質量%以上、30質量%以下とすることができる。
【0139】
スラリーを塗布する基材としては、特に限定されないが、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等の樹脂フィルムを用いることができる。
【0140】
(c)積層シートの作製
次に、第1の固体電解質層形成用グリーンシートの両側の主面にそれぞれ、第2の固体電解質層形成用グリーンシートを積層することにより、積層シートを得る。なお、各グリーンシートを積層し、加熱プレス等のプレスを行うことにより、積層シートを得てもよい。この場合、各グリーンシートの間の密着性をより一層向上させることができる。
【0141】
なお、第2の固体電解質粉末及び第2の固体電解質粉末の原料粉末のうち少なくとも一方の粉末と高分子粉末とを含有する混合粉末と、バインダーを含有する有機ビークルとを含むスラリーを、第1の固体電解質層形成用グリーンシートの両主面に塗布してもよい。その後、該スラリーを乾燥させることにより、積層シートを得てもよい。
【0142】
(d)積層シートの焼成
次に、得られた積層シートを焼成する。これにより、第1の固体電解質層8を形成すると共に、第2の固体電解質層9を形成する。このようにして、緻密層である第1の固体電解質層8の両側の主面に、多孔質層である第2の固体電解質層9が設けられてなる、固体電解質層4を得ることができる。
【0143】
なお、第1の固体電解質層8を形成するに際しては、第1の固体電解質層形成用グリーンシートにおけるバインダーを除去することが望ましい。第2の固体電解質層9を形成するに際しては、第2の固体電解質層形成用グリーンシートにおけるバインダー及び高分子粉末を除去することが望ましい。
【0144】
焼成温度は、使用する固体電解質粉末または原料粉末の種類に応じて適宜選択すればよい。固体電解質粉末がβ-アルミナまたはβ”-アルミナを含有する場合、焼成温度が、1400℃以上であることが好ましく、1450℃以上であることがより好ましく、1500℃以上であることがさらに好ましい。一方で、当該焼成温度が、1750℃以下であることが好ましく、1700℃以下であることがより好ましい。焼成温度が低すぎると、焼結が不十分になる傾向がある。あるいは、原料粉末の反応が不十分となり、所望の結晶が生成され難くなる。他方、焼成温度が高すぎると、ナトリウム成分等の蒸発量が多くなり、異種結晶が析出することにより、得られる固体電解質層4のイオン伝導性が低下し易くなる。
【0145】
固体電解質粉末が、NASICON結晶を含有する場合、焼成温度が、1200℃以上であることが好ましく、1210℃以上であることがより好ましい。一方で、当該焼成温度が、1400℃以下であることが好ましく、1300℃以下であることがより好ましい。焼成温度が低すぎると、焼結が不十分になる傾向がある。あるいは、原料粉末の反応が不十分となり、所望の結晶が生成され難くなる。他方、焼成温度が高すぎると、ナトリウム成分等の蒸発量が多くなり、異種結晶が析出することにより、固体電解質層4のイオン伝導性が低下し易くなる。
【0146】
焼成時間は、焼結が十分に進行するよう適宜調整される。具体的には、例えば、焼結時間を10分間~120分間としてもよい。なお、焼結時間が、20分間~80分間であることが特に好ましい。
【0147】
なお、固体電解質層4の形成に際し、必ずしも積層シートを形成しなくともよい。例えば、第2の固体電解質粉末及び第2の固体電解質粉末の原料粉末のうち少なくとも一方の粉末と高分子粉末とを含有する混合粉末と、バインダーを含有する有機ビークルとを含むスラリーを、第1の固体電解質層8の両主面に塗布してもよい。その後、該スラリーを乾燥することにより、第1の固体電解質層8及び第2の固体電解質層形成用グリーンシートの積層体を得てもよい。その後、該積層体を焼成することにより固体電解質層4を得てもよい。
【0148】
第1の実施形態では、緻密層である第1の固体電解質層8の両主面に、多孔質層である第2の固体電解質層9を形成する。もっとも、第1の固体電解質層8の一方主面のみに第2の固体電解質層9を形成してもよい。
【0149】
(正極活物質層の形成)
正極活物質前駆体を含み、必要に応じて固体電解質粉末及び導電助剤を含んだペーストを作製する。ペーストには、必要に応じて、バインダー、可塑剤、または溶剤等が含まれていてもよい。
【0150】
ペーストがバインダーを含む場合、バインダーとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体またはポリビニルアルコール等の水溶性高分子;熱硬化性ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;ポリプロピレンカーボネート等のポリカーボネート樹脂;ポリフッ化ビニリデン等を用いることができる。
【0151】
次に、ペーストを固体電解質層4の一方主面に塗布し、該ペーストを乾燥させる。ペーストの乾燥温度としては、特に限定されないが、例えば、30℃以上、150℃以下とすることができる。ペーストの乾燥時間としては、特に限定されないが、例えば、5分以上、600分以下とすることができる。ペーストを乾燥させることによって、固体電解質層4の一方主面に電極合材層を形成する。これにより、電極合材付き固体電解質層を得る。なお、電極合材層は圧粉体であってもよい。
【0152】
その後、電極合材付き固体電解質層を焼成する。焼成時の雰囲気が還元雰囲気であることが好ましい。焼成時の最高温度は、例えば、400℃~600℃とすることができる。当該温度においての保持時間は、例えば、5分以上、3時間未満とすることができる。上記焼成によって、第1の電極活物質層としての正極活物質層3を得る。
【0153】
ところで、
図1に示す実施形態とは異なり、1対の積層構造部7における負極活物質層5同士が、負極集電体層6を挟み互いに対向する全固体電池を製造する場合、正極活物質層3は、例えば、金属膜または合金膜であってもよい。この場合、例えば、蒸着法またはスパッタリング法等の物理的気相法や、熱CVD法、MOCVD法またはプラズマCVD法等の化学的気相法、あるいは、めっき、ゾルゲル法またはスピンコート等による液相成膜法を用いて正極活物質層3を形成することができる。中でも、正極活物質層3の形成に、蒸着法またはスパッタリング法を用いることが好ましい。この場合、正極活物質層3の、固体電解質層4に対する密着性を向上させ易い。
【0154】
(正極活物質前駆体及びその作製)
正極活物質前駆体は、具体的には、例えば、正極活物質前駆体粉末である。正極活物質前駆体粉末が、焼成により活物質結晶を生成する非晶質酸化物材料からなることが好ましい。正極活物質前駆体粉末が非晶質酸化物材料からなる場合、焼成時に活物質結晶が生成されると共に、軟化流動して緻密な正極活物質層3を形成することが可能となる。
【0155】
なお、本発明においては、「非晶質酸化物材料」は、完全に非晶質の酸化物材料に限定されず、一部結晶を含有している酸化物材料も含むものとする。一部結晶を含有している酸化物材料とは、例えば、結晶化度10%以下の酸化物材料である。
【0156】
正極活物質前駆体粉末が、下記酸化物換算のモル%で、Na2O 25%~55%、Fe2O3+Cr2O3+MnO+CoO+NiO 10%~30%、及びP2O5 25%~55%を含有することが好ましい。組成をこのように限定した理由を以下において説明する。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0157】
Na2Oは、一般式NaxMyP2Ozにより表され、1≦x≦2.8、0.95≦y≦1.6、6.5≦z≦8、MはCr、Fe、Mn、Co及びNiから選択される少なくとも1種の遷移金属元素である活物質結晶の主成分である。Na2Oの含有量が、25%~55%であることが好ましく、30%~50%であることがより好ましい。Na2Oの含有量が上記範囲内にある場合には、全固体電池1の充放電容量をより一層大きくすることができる。
【0158】
Fe2O3、Cr2O3、MnO、CoO及びNiOも、一般式NaxMyP2Ozにより表される上記活物質結晶の主成分である。Fe2O3+Cr2O3+MnO+CoO+NiOの含有量が、10%~30%であることが好ましく、15%~25%であることがより好ましい。Fe2O3+Cr2O3+MnO+CoO+NiOの含有量が上記下限値以上である場合、全固体電池1の充放電容量をより一層大きくすることができる。他方、Fe2O3+Cr2O3+MnO+CoO+NiOの含有量が上記上限値以下である場合、望まないFe2O3、Cr2O3、MnO、CoOまたはNiO等の結晶を析出し難くすることができる。なお、本明細書において、例えば、a+b+c+…の含有量と記載する場合、a、b及びcの合量であることを意味する。
【0159】
全固体電池1のサイクル特性をより向上させるためには、Fe2O3を積極的に含有させることが好ましい。Fe2O3の含有量が、1%~30%であることが好ましく、5%~30%であることがより好ましく、10%~30%であることがさらに好ましく、15%~25%であることが特に好ましい。Cr2O3、MnO、CoO及びNiOの各成分の含有量が、それぞれ、0%~30%であることが好ましく、10%~30%であることがより好ましく、15%~25%であることがさらに好ましい。Fe2O3、Cr2O3、MnO、CoO及びNiOから選択される少なくとも2種以上の成分を含有させる場合には、その合量が10%~30%であることが好ましく、15%~25%であることがより好ましい。
【0160】
P2O5も、一般式NaxMyP2Ozにより表される上記活物質結晶の主成分である。P2O5の含有量が、25%~55%であることが好ましく、30%~50%であることがより好ましい。P2O5の含有量が上記範囲内にある場合、全固体電池1の充放電容量をより一層大きくすることができる。
【0161】
正極活物質前駆体粉末は、上記成分以外にも、V2O5、Nb2O5、MgO、Al2O3、TiO2、ZrO2、またはSc2O3を含有していてもよい。これらの成分は、導電性を高くする効果を有する。ここでいう導電性は、具体的には、電子伝導性である。よって、正極活物質前駆体粉末がこれらの成分を含むことにより、全固体電池1の急速充放電特性が向上し易くなる。上記成分の含有量が合量で、0%~25%であることが好ましく、0.2%~10%であることがより好ましい。上記成分の含有量が上記上限値以下である場合、電池特性に寄与しない異種結晶が生じ難く、全固体電池1の充放電容量をより一層大きくすることができる。
【0162】
正極活物質前駆体粉末は、上記成分以外にも、SiO2、B2O3、GeO2、Ga2O3、Sb2O3、またはBi2O3を含有していてもよい。正極活物質前駆体粉末の原料がこれらの成分を含む場合には、正極活物質前駆体粉末を得るに際し、ガラス形成能がより向上する。それによって、より均質な正極活物質前駆体粉末を得易くなる。正極活物質前駆体粉末における上記成分の含有量が合量で、0%~25%であることが好ましく、0.2%~10%であることがより好ましい。これらの成分は電池特性に寄与しないため、その含有量が多すぎると、全固体電池1の充放電容量が小さくなる傾向にある。
【0163】
正極活物質前駆体粉末は、原料バッチを溶融、成形することにより作製することが好ましい。この作製の方法によれば、均質性に優れた非晶質の正極活物質前駆体粉末を得易くなる。具体的には、正極活物質前駆体粉末は以下のようにして作製することができる。
【0164】
まず、所望の組成となるように原料を調製して原料バッチを得る。次に、得られた原料バッチを溶融させる。溶融温度は、原料バッチが均質に溶融されるよう適宜調整すればよい。例えば、溶融温度が800℃以上であることが好ましく、900℃以上であることがより好ましい。溶融温度の上限は、特に限定されない。もっとも、溶融温度が高すぎるとエネルギーロスや、ナトリウム成分等の蒸発につながる。このことから、溶融温度が1500℃以下であることが好ましく、1400℃以下であることがより好ましい。
【0165】
次に、得られた溶融物を成形する。成形方法としては特に限定されず、例えば、溶融物を1対の冷却ロール間に流し込み、急冷しながらフィルム状に成形してもよい。あるいは、溶融物を鋳型に流し出し、インゴット状に成形してもよい。
【0166】
続いて、得られた成形体を粉砕することにより正極活物質前駆体粉末を得る。正極活物質前駆体粉末の平均粒子径は、0.01μm以上、0.7μm未満であることが好ましく、0.03μm以上、0.6μm以下であることがより好ましく、0.05μm以上、0.6μm以下であることがさらに好ましく、0.1μm以上、0.5μm以下であることが特に好ましい。
【0167】
(負極活物質層の形成)
負極活物質層5は、例えば、負極活物質前駆体粉末を含み、必要に応じて、固体電解質粉末や導電助剤を含むペーストを用いて作製することができる。ペーストには、必要に応じて、バインダー、可塑剤、溶剤等が添加される。
【0168】
なお、全固体電池1として全固体ナトリウムイオン二次電池を製造する場合には、ペーストを得るに際し、ナトリウムイオン伝導性固体電解質前駆体溶液を用いることが好ましい。具体的には、ナトリウムイオン伝導性固体電解質前駆体溶液及び負極活物質前駆体を混合し、その後乾燥させる。これにより、ナトリウムイオン伝導性固体電解質前駆体及び負極活物質前駆体の混合物の粉末を得る。もっとも、ナトリウムイオン伝導性固体電解質前駆体及び負極活物質前駆体を混合することにより、乾燥の工程を経ることなく、ナトリウムイオン伝導性固体電解質前駆体及び負極活物質前駆体の混合物の粉末を得てもよい。
【0169】
次に、得られた混合物の粉末を粉砕し、さらに、有機溶媒中において、導電助剤及びバインダーと混合する。なお、形成する負極活物質層5の負極活物質がハードカーボンである場合、上記混合物の粉末等に、さらにハードカーボンを加えて混合してもよい。有機溶媒には、例えばN-メチル-2-ピロリドン等を用いることができる。これにより、ペーストを得る。
【0170】
バインダーとしては、「正極活物質層の形成」の欄において説明したバインダーを用いることができる。
【0171】
ペーストを固体電解質層4の一方主面に塗布した後、乾燥し、これを焼成することによって、負極活物質層5を形成することができる。
【0172】
固体電解質層4及びペーストの積層体を焼成するに際し、例えば、N2雰囲気下において、600℃超、1300℃以下において焼成することが好ましい。上記焼成は、不活性雰囲気下において行うことが好ましい。例えば、上記焼成を、Ar、NeまたはHe雰囲気下において行ってもよく、真空中において行ってもよい。あるいは、上記焼成を、H2を含む還元雰囲気下において行うことが好ましい。不活性雰囲気下または還元雰囲気下において焼成を行う場合には、全固体電池1の初回充放電効率をより一層向上させることができる。
【0173】
なお、焼成中に負極活物質が酸化、または酸化分解しない範囲において、雰囲気中に少量の酸素が含まれていてもよい。酸素濃度は、例えば、1000ppm以下とすることができるが、これに限定されるものではない。
【0174】
あるいは、負極活物質層5は、ペーストをPET(ポリエチレンテレフタレート)等の基材上に塗布した後乾燥し、グリーンシートを作製し、このグリーンシートを焼成することにより形成してもよい。
【0175】
上述したように、負極活物質層5は金属膜または合金膜であってもよい。この場合、例えば、蒸着法またはスパッタリング法等の物理的気相法や、熱CVD法、MOCVD法またはプラズマCVD法等の化学的気相法、あるいは、めっき、ゾルゲル法またはスピンコート等による液相成膜法を用いて負極活物質層5を形成することができる。中でも、負極活物質層5の形成に、蒸着法またはスパッタリング法を用いることが好ましい。この場合、負極活物質層5の、固体電解質層4に対する密着性を向上させ易い。
【0176】
(負極活物質前駆体)
負極活物質前駆体に糖を用いる場合、例えば、セルロース、D-グルコース、スクロース等を挙げることができる。負極活物質前駆体にバイオマスを用いる場合、例えば、コーンの茎、ソルガムの茎、松かさ、マンゴスチン、アルガン殻、籾殻、タンポポ、穀物藁の芯、ラミーの繊維、コットン、昆布、ココナッツの内果皮等を挙げることができる。負極活物質前駆体にポリマーを用いる場合、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ピッチ、ポリ塩化ビニル(PVC)、ナノファイバー、ポリアニリン、ポリアクリル酸ナトリウム、タイヤ(タイヤ用ポリマー)、リンドープPAN等を挙げることができる。
【0177】
(ナトリウムイオン伝導性固体電解質前駆体及びその溶液)
ナトリウムイオン伝導性固体電解質がベータアルミナである場合、ナトリウムイオン伝導性固体電解質前駆体は、例えば、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸リチウムを混合することによって得ることができる。このとき、上記各材料の比率を、目的とするナトリウムイオン伝導性固体電解質の組成比となるように調整する。
【0178】
ナトリウムイオン伝導性固体電解質がNASICON結晶、またはNa5XSi4O12型結晶であって、Xが第3族遷移金属元素もしくは希土類元素から選択される少なくとも1種である結晶である場合、ナトリウム伝導性固体電解質前駆体溶液としては、ナトリウムイオン伝導性固体電解質を構成するナトリウム元素及び遷移金属元素と、炭酸イオンとを含む溶液が挙げられる。当該溶液中において、ナトリウム元素はナトリウムイオンの状態で含まれており、遷移金属元素は遷移金属イオンの状態で含まれている。ナトリウムイオン伝導性固体電解質前駆体は、例えば、ナトリウムイオン伝導性固体電解質前駆体溶液のゲル化物または乾燥物からなる。そして、上記ナトリウムイオン伝導性固体電解質は、ナトリウムイオン伝導性固体電解質前駆体の焼成物からなる。なお、ナトリウムイオン伝導性固体電解質がNa5XSi4O12型結晶である場合、Xが希土類元素から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0179】
ナトリウムイオン伝導性固体電解質前駆体溶液としては、炭酸イオンの代わりに硝酸イオンを含む溶液を用いることもできる。
【0180】
ナトリウムイオン伝導性固体電解質前駆体溶液中において、炭酸イオンが遷移金属元素に対して二座配位していることが好ましい。この場合、遷移金属元素が溶液中において安定して存在し易くなる。
【0181】
ナトリウムイオン伝導性固体電解質前駆体溶液中において、ナトリウムイオンの対イオンとして、一般式NR4
+により表され、各Rが互いに独立してH、CH3、C2H5及びCH2CH2OHからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の置換基であるイオンが含まれていることが好ましい。この場合には、遷移金属元素が溶液中において安定して存在し易くなる。
【0182】
ナトリウムイオン伝導性固体電解質前駆体溶液は、例えば、水ガラス、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ジルコニウムアンモニア水溶液を混合することによって得ることができる。なお、上記水ガラスは、具体的には、ケイ酸ナトリウムである。
【0183】
(正極集電体層及び負極集電体層)
正極集電体層2及び負極集電体層6を形成する方法は、特に限定されず、例えば、蒸着法またはスパッタリング法等の物理的気相法や、熱CVD法、MOCVD法またはプラズマCVD法等の化学的気相法を用いることができる。あるいは、正極集電体層2及び負極集電体層6を形成する方法として、例えば、めっき、ゾルゲル法またはスピンコート等による液相成膜法を用いてもよい。
【0184】
正極集電体層2は、例えば、基材上に上記に挙げた方法によって形成すればよい。その後、正極集電体層2を基材から剥離すればよい。他方、負極集電体層6は、負極活物質層5上に、上記に挙げた方法によって形成すればよい。もっとも、負極集電体層6は、負極活物質層5上にスパッタリング法により形成することが、密着性に優れるため好ましい。
【0185】
なお、
図1に示す実施形態とは異なり、1対の積層構造部7における負極活物質層5同士が、負極集電体層6を挟み互いに対向する全固体電池を製造する場合、負極集電体層6は、例えば、基材上に上記に挙げた方法によって形成すればよい。その後、負極集電体層6を基材から剥離すればよい。他方、正極集電体層2は、正極活物質層3上に、上記に挙げた方法によって形成すればよい。もっとも、この場合、正極集電体層2は、正極活物質層3上にスパッタリング法により形成することが、密着性に優れるため好ましい。
【0186】
ところで、第1の実施形態においては、正極活物質層3を形成する第1の電極形成工程の前に、負極活物質層5を形成する第2の電極形成工程を行っている。もっとも、第1の電極形成工程の後に、第2の電極形成工程を行ってもよい。この例を、第2の実施形態により示す。
【0187】
(製造方法の第2の実施形態)
図12(a)及び
図12(b)は、第2の実施形態に係る全固体電池の製造方法における、電極合材層形成工程等を説明するための模式的断面図である。
図13(a)及び
図13(b)は、第2の実施形態に係る全固体電池の製造方法における、第1の電極形成工程及び第2の電極形成工程等を説明するための模式的断面図である。
【0188】
本実施形態は、第1の電極形成工程の後に、第2の電極形成工程を行う点において、第1の実施形態と異なる。本実施形態は、第2の電極活物質層としての負極活物質層25が、金属膜である点においても、第1の実施形態と異なる。
【0189】
図12(a)に示すように、1対の固体電解質層4を、第1の実施形態と同様に用意する。次に、1対の固体電解質層4の各第1の主面4aに、第1の実施形態と同様に電極合材層13を形成する。これにより、1対の電極合材付き固体電解質層14を得る。
【0190】
次に、
図12(b)に示す、正極集電体層2を用意する。次に、正極集電体層2を、正極集電体層2の両主面から、1対の電極合材付き固体電解質層14により挟み込む。具体的には、正極集電体層2の第1の主面2aに、一方の電極合材付き固体電解質層14における電極合材層13を接触させる。正極集電体層2の第2の主面2bに、他方の電極合材付き固体電解質層14における電極合材層13を接触させる。
【0191】
次に、1対の電極合材付き固体電解質層14及び正極集電体層2の積層体を焼成することにより、
図13(a)に示す1対の第1の電極活物質層としての、1対の正極活物質層3を形成する。次に、
図13(b)に示すように、1対の固体電解質層4の各第2の主面4bに、負極活物質層25を形成する。本実施形態では、負極活物質層25は金属膜である。この場合には、スパッタリング法や蒸着法等により負極活物質層25を形成することができる。
【0192】
なお、負極活物質層25は、第1の実施形態における負極活物質層5と同様の構成を有していてもよい。この場合、負極活物質前駆体粉末を含むペーストを固体電解質層4の第2の主面4bに塗布した後、乾燥し、これを焼成することによって、負極活物質層25を得てもよい。
【0193】
次に、第1の実施形態と同様に、1対の負極活物質層25における各表面に、第1の実施形態と同様にして、負極集電体層を形成する。なお、負極集電体層は必ずしも形成しなくともよい。
【0194】
本実施形態においても、1対の電極合材付き固体電解質層14を、集電体層を挟み互いに対向するように、かつ各電極合材層13と集電体層の各主面とが接触するように配置した後、焼成することにより、1対の第1の電極活物質層を形成する。それによって、第1の実施形態と同様に、全固体電池の反りを抑制することができる。
【0195】
第1の実施形態及び第2の実施形態においては、固体電解質層4は、
図3に示すように、緻密層である第1の固体電解質層8と、多孔質層である第2の固体電解質層9とを有する。なお、固体電解質層4の構成はこれに限定されるものではない。固体電解質層4が多孔質層を有しない例を、第3の実施形態により示す。
【0196】
(製造方法の第3の実施形態)
図14は、第3の実施形態に係る全固体電池の製造方法において用いられる固体電解質層を示す図である。
【0197】
本実施形態は、固体電解質層34が緻密層のみからなる点において第1の実施形態と異なる。言い換えれば、固体電解質層34は、
図3に示す第1の実施形態における、第1の固体電解質層8からなる。
【0198】
固体電解質層34を用意する工程においては、上述した第1の固体電解質層8の形成の方法と同様の方法を用いることができる。あるいは、固体電解質層34は、ゾルゲル法により形成してもよい。この後の工程は、第1の実施形態と同様にして行うことができる。よって、第1の実施形態と同様に、全固体電池の反りを抑制することができる。
【0199】
固体電解質層34の厚みが、70μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。一方で、固体電解質層34の厚みが、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。固体電解質層34の厚みが薄すぎると、機械的強度が低下して破損し易くなるため、内部短絡が起こり易くなる。固体電解質層34の厚みが厚すぎると、充放電に伴うイオン伝導の距離が長くなるため、内部抵抗が高くなる。そのため、放電容量が小さくなり易くなる。あるいは、全固体電池の作動電圧が低下し易くなる。加えて、全固体電池の単位体積当たりのエネルギー密度も低下し易くなる。
【0200】
なお、固体電解質層34の厚みが70μm以下である場合には、
図6(b)や
図7に示した比較例のような全固体電池の反りが特に生じ易い。よって、本発明に係る製造方法が特に好適である。
【0201】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0202】
(実施例1)
(a)第1の固体電解質層形成用グリーンシートの作製
炭酸ナトリウム(Na2CO3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、及び酸化イットリウム(Y2O3)を原料とし、モル%で、Na2O 14.2%、Al2O3 75.4%、MgO 5.4%、ZrO2 4.9%、Y2O3 0.1%となるように原料粉末を調製し、1250℃で4時間仮焼成した後、平均粒子径2μmになるよう粉砕した。次に、この粉末100質量部に対して、バインダーとしてのポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業社製、商品名「BM-SZ」)を12.5質量部添加し、N-メチルピロリドンに分散させた後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化した。
【0203】
得られたスラリーをポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)上に、ドクターブレードを用いて塗布し、70℃で乾燥した後、PETフィルムから剥離することによって、第1の固体電解質層形成用グリーンシートを得た。
【0204】
(b)第2の固体電解質層形成用グリーンシートの作製
炭酸ナトリウム(Na2CO3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、及び酸化イットリウム(Y2O3)を原料とし、モル%で、Na2O 14.2%、Al2O3 75.4%、MgO 5.4%、ZrO2 4.9%、Y2O3 0.1%となるように原料粉末を調製し、1250℃で4時間仮焼成した後、平均粒子径2μmになるように粉砕した。次に、この粉末35質量部と、高分子粒子としての、平均粒子径50μmの架橋ポリメタクリル酸メチル粒子(積水化成品工業社製、品番「MBX-50」)65質量部とを混合した。得られた混合物100質量部に対して、バインダーとしてのポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業社製、商品名「BM-SZ」)12.5質量部を添加し、N-メチルピロリドンに分散させた後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化した。
【0205】
得られたスラリーをPETフィルム上に、ドクターブレードを用いて塗布し、70℃で乾燥した後、PETフィルムから剥離することによって、第2の固体電解質層形成用グリーンシートを得た。
【0206】
(c)積層シートの作製
得られた第1の固体電解質層形成用グリーンシートの両主面に、得られた第2の固体電解質層形成用グリーンシートを積層し、90℃において40MPaで5分間等方圧プレスすることにより、積層シートを作製した。
【0207】
(d)積層シートの焼成
得られた積層シートを、□47.25mmとなるように打ち抜いた後、1550℃で30分間焼成した。これにより、緻密層である第1の固体電解質層の両主面に、多孔質層である第2の固体電解質層が設けられてなる固体電解質層を作製した。得られた固体電解質層は□38mmであり、該固体電解質層の厚みは70μmであった。
【0208】
なお、得られた固体電解質層において、第1の固体電解質層の厚みは20μmであった。1対の第2の固体電解質層の厚みはそれぞれ、25μmであった。第1の固体電解質層の空隙率は5%であり、第2の固体電解質層の空隙率は78%であった。この固体電解質層を2層作製した。
【0209】
(e)正極活物質層形成用のペーストの作製
ガラス組成として、モル比で40Na2O-20Fe2O3-40P2O5となるように調製した原料を、1250℃で45分間大気中にて溶融させ、冷却したツインローラーで成形することにより、ガラスフィルムを作製した。得られたガラスフィルムを、ボールミル及び遊星ボールミルで粉砕することにより、平均粒子径D500.2μm、BET比表面積30m2/gのガラス粉末である、正極活物質前駆体粉末を得た。
【0210】
得られたガラス粉末86.5質量%と、固体電解質としての、比表面積45m2/gであるβ”-アルミナ12.9質量%と、導電助剤としての、BET比表面積300m2/g、径10nm、長さ20μmのカーボンナノチューブ(C-nano社製、品番「LB116」)0.6質量%とを混合した。これにより、正極合材粉末を得た。次に、正極合材粉末100質量部に対して、バインダーとしてのポリプロピレンカーボネート(PPC)20質量部を加え、正極合材粉末の濃度が50質量%となるように、溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドンを加えた。これを自転・公転ミキサーで混合することにより、正極活物質層形成用のペーストである、正極ペーストを作製した。
【0211】
(f)負極活物質層形成用のペーストの作製
負極活物質前駆体である、ハードカーボン源のショ糖、すなわちスクロースと、βアルミナ粉末とを、重量比で4:1となるように、スターラ中で1時間混合することにより、混合物を得た。次に、得られた混合物を、60℃の恒温槽において12時間乾燥させた。その後、100℃において6時間真空乾燥させることにより、ナトリウムイオン伝導性固体電解質前駆体及び負極活物質前駆体の混合物の粉末を得た。次に、得られた混合物の粉末をメノウ乳鉢で粉砕して粉末状とした。
【0212】
ナトリウムイオン伝導性固体電解質前駆体及び負極活物質前駆体の混合物の粉末と、平均粒子径D501μmのハードカーボン粉末と、導電助剤としてのアセチレンブラックとを、重量比で57:40:3となるように秤量し、混合した。これにより、負極合材粉末を得た。次に、負極合材粉末100質量部に対して、バインダーとしてのポリプロピレンカーボネート(PPC)を15質量部加え、負極合材粉末の濃度が50質量%となるように、溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドンを加えた。これを自転・公転ミキサーで混合することにより、負極活物質層形成用のペーストである、負極ペーストを作製した。
【0213】
(g)負極活物質層の形成
固体電解質層における一方主面の中央に、□33mm、厚み70μmになるように、負極ペーストを塗布した。次に、負極ペーストを80℃の恒温槽で1時間乾燥させた。その後、固体電解質層及び負極ペーストの積層体を、N299.99%雰囲気下において、800℃、2時間の条件で焼成を行うことにより、負極活物質層を形成した。負極活物質層の担持重量は、(負極活物質層の形成後における積層体の重量)-(固体電解質層の重量)から求めた。求めた担持重量に、負極活物質層中の負極活物質の比率0.8をかけて、負極活物質としてのハードカーボン活物質の重量を算出した。加えて、ハードカーボン1g当たりの容量を385mAh/gとして、負極活物質層の容量を算出した。その結果、負極活物質層の単位面積当たりの容量は0.3mAh/cm2であった。
【0214】
なお、2層の固体電解質層の一方主面にそれぞれ、負極活物質層を形成した。
【0215】
(h)正極活物質層の形成
上記の工程において、固体電解質層の一方主面に負極活物質層を形成した後、固体電解質層の他方主面の中央に、□33mm、厚み300μmになるように、正極ペーストを塗布した。次に、正極ペーストを80℃の恒温槽で2時間乾燥させた。これにより、電極合材層を形成した。なお、2層の固体電解質層の上記他方主面にそれぞれ、電極合材層を形成した。これにより、2枚の電極合材付き固体電解質層を得た。なお、2枚の電極合材付き固体電解質層にはそれぞれ、負極活物質層が積層されている。
【0216】
一方で、正極集電体層として、厚み20μmのアルミニウム箔を1枚用意した。次に、2枚の電極合材付き固体電解質層とアルミニウム箔とを、2枚の電極合材付き固体電解質層によりアルミニウム箔を挟み込み、重ねた。このとき、各電極合材層がアルミニウム箔の各主面と接触するように、2枚の電極合材付き固体電解質層とアルミニウム箔とを重ねた。次に、2層の負極活物質層、2枚の電極合材付き固体電解質層及び1枚のアルミニウム箔の積層体の上に、500gの重りを載せた。このように、該積層体に対して積層方向に荷重しながら、体積%でN2/H2=96/4の雰囲気下、500℃、30分間保持の条件において焼成を行った。これにより、正極活物質層を形成し、1枚のアルミニウム箔に対して2層の正極活物質層が形成された全固体電池を作製した。
【0217】
なお、正極活物質層の担持重量は、(正極活物質層の形成後における積層体の重量)-(正極活物質層の形成前における積層体の重量)-(アルミニウム箔の重量)から求めた。求めた担持重量に、正極活物質層中の正極活物質の比率0.865をかけて、正極活物質としてのNa2FeP2O7活物質の重量を算出した。Na2FeP2O7活物質としてのNa2FeP2O7結晶化ガラス1g当たりの容量を理論容量の97mAh/gとして、正極活物質層の容量を算出した。その結果、正極活物質層の単位面積当たりの容量は0.5mAh/cm2であった。加えて、負極活物質層の容量を正極活物質層の容量で除すことによりN/P比を求めたところ、N/P比は0.6であった。
【0218】
(比較例1)
実施例1における、負極活物質層が積層された電極合材付き固体電解質層を1枚、及び厚み20μmアルミニウム箔を1枚用意し、これらを重ねた。このとき、電極合材層がアルミニウム箔の主面と接触するように、電極合材付き固体電解質層とアルミニウム箔とを重ねた。次に、1層の負極活物質層、1枚の電極合材付き固体電解質層及び1枚のアルミニウム箔の積層体の上に、500gの重りを載せた。このように、該積層体に対して積層方向に荷重しながら、体積%でN2/H2=96/4の雰囲気下、500℃、30分間保持の条件において焼成を行った。これにより、正極活物質層を形成し、全固体電池を作製した。
【0219】
実施例1と同様にして正極活物質層の単位面積当たりの容量を算出した結果、該容量は0.5mAh/cm2であった。加えて、負極活物質層の容量を正極活物質層の容量で除すことによりN/P比を求めたところ、N/P比は0.6であった。
【0220】
(充放電特性)
全固体電池を、アルミラミネートを用いて封入した。なお、正極活物質層及び負極活物質層にそれぞれ、引き出し電極が電気的に接続された状態とした。次に、60℃及び0.02Cの条件において全固体電池の充放電を行った。
【0221】
(評価)
実施例1の全固体電池の反りは抑制されていた。そして、実施例1の全固体電池は正常に動作した。他方、比較例1の全固体電池は大きく沿っており、動作しなかった。
【符号の説明】
【0222】
1,1A…全固体電池
2…正極集電体層
2a,2b…第1,第2の主面
3…正極活物質層
4…固体電解質層
4a,4b…第1,第2の主面
5…負極活物質層
6…負極集電体層
6a,6b…第1,第2の主面
7…積層構造部
8…第1の固体電解質層
8a,8b…第3,第4の主面
9…第2の固体電解質層
13…電極合材層
14,14A…電極合材付き固体電解質層
15…電極合材層
25…負極活物質層
34…固体電解質層