(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012508
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】次亜塩素酸型ハイドロカルマイトの製造方法、及び次亜塩素酸型ハイドロカルマイト
(51)【国際特許分類】
C01F 7/784 20220101AFI20250117BHJP
【FI】
C01F7/784
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115385
(22)【出願日】2023-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】397006793
【氏名又は名称】古手川産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 康夫
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA10
4G076AA18
4G076AA19
4G076AB05
4G076AB06
4G076BA11
4G076BC08
4G076CA02
4G076CA26
4G076DA30
(57)【要約】
【課題】 空気中、水中、土中などの広い使用環境において、即効性と安定性のある効果を有する消毒薬を提供する。
【解決手段】 次亜塩素酸型ハイドロカルマイトの製造方法であって、前記次亜塩素酸型ハイドロカルマイトの形成が、消石灰と、活性度ΔMが0.3以上の水酸化アルミニウムと、次亜塩素酸カルシウムを水中で混合、反応させて行われることを特徴とする次亜塩素酸型ハイドロカルマイトの製造方法と、化学式:2[Ca2Al(OH)6
+]・(ClO)2
-・nH2O(n=0~8)で表記され、次亜塩素酸イオンの含有量が、30mg/g以上で、SEM観察による最大粒子径が、5μm以下であることを特徴とする次亜塩素酸型ハイドロカルマイトである。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸型ハイドロカルマイトの製造方法であって、
前記次亜塩素酸型ハイドロカルマイトの形成が、消石灰と、活性度ΔMが0.3以上の水酸化アルミニウムと、次亜塩素酸カルシウムを水中で混合、反応させて行われることを特徴とする次亜塩素酸型ハイドロカルマイトの製造方法。
【請求項2】
前記次亜塩素酸型ハイドロカルマイトが、
化学式:2[Ca2Al(OH)6
+]・(ClO)2
-・nH2O(n=0~8)で表記され、
次亜塩素酸イオンの含有量が、30mg/g以上であることを特徴とする請求項1に記載の次亜塩素酸型ハイドロカルマイトの製造方法。
【請求項3】
前記次亜塩素酸型ハイドロカルマイトのSEM観察による最大粒子径が、5μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の次亜塩素酸型ハイドロカルマイトの製造方法。
【請求項4】
化学式:2[Ca2Al(OH)6
+]・(ClO)2
-・nH2O(n=0~8)で表記され、
次亜塩素酸イオンの含有量が、30mg/g以上で、
SEM観察による最大粒子径が、5μm以下で
あることを特徴とする次亜塩素酸型ハイドロカルマイト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
空気中、水中、土中などの使用環境を問わずに、災害後の環境浄化や畜産伝染病の感染防止などに用いられる防疫、消毒薬に関する。
【背景技術】
【0002】
次亜塩素酸型ハイドロカルマイトとは、化学式が「2[Ca2Al(OH)6
+]・(ClO)2
-・nH2O(n=0~8)」で示される化合物である。
本発明による次亜塩素酸型ハイドロカルマイトは白色の微細な粉末で、水害後の環境浄化や鳥インフルなどの畜産伝染病の消毒剤として期待されている。
【0003】
粉末状のまま、又は顆粒状に造粒して散布してもよく、水性スラリーにして噴霧することや塗料に配合して床や壁、天井などに塗布することも可能である。
次亜塩素酸型ハイドロカルマイトは、その原料である消石灰由来の強いアルカリ性と、次亜塩素酸カルシウム又は次亜塩素酸ナトリウムの持つ強力な殺菌作用を併せ持っている。
【0004】
次亜塩素酸カルシウムは、一般的にはプールや入浴施設の消毒薬として使用される。又、次亜塩素酸ナトリウムは、家庭用カビ落とし剤や食器用漂白剤としてよく使われている。家庭用漂白剤は一般的に5~15%の次亜塩素酸ナトリウムを含有する液体として取り扱われるが密閉容器中でも分解して有効塩素が減少していく(下記式(1)参照)。これを防ぐ目的で水酸化ナトリウムを数%入れてアルカリ性を高めているが、それでも温度や光の影響を受けやすく、数週間で有効塩素が大きく減少すると言われている(非特許文献1参照)。このように次亜塩素酸塩類は即効性を特徴とし、広く消毒剤として普及しているものの安定性の面で課題が多い。
【0005】
【0006】
一方、消石灰は安価なアルカリ剤として水害後の床下や鳥インフルエンザの防疫、消毒薬として用いられる。
消石灰のアルカリ作用は、土中の水分を強アルカリ性にすることで作用するため水分がない場合は効果が発揮されない。また病原菌やウイルスがそのアルカリに接触することで初めて不活化するため、空間に浮遊する菌やウイルスには効果を示さない。
【0007】
また、一般的な次亜塩素酸塩類は次亜塩素酸を揮発放散するため、菌やウイルスが接触せずとも不活化効果を発現することができる。
しかしながら、これらは水に非常に溶けやすく環境中に散布した場合、土中の有機物や金属、あるいは家畜の排せつ物に含まれるアンモニアによって容易に分解され効力を失う(下記式(2)参照)。
【0008】
【0009】
このような一般的な次亜塩素酸塩類に対し、下記式(3a)の化合物式で表わされる次亜塩素酸型ハイドロカルマイトは次亜塩素酸化合物であるものの、次亜塩素酸カルシウムや次亜塩素酸ナトリウムなどの次亜塩素酸塩類のようなイオン結合はなく、ハイドロカルマイト層状構造の層間に、次亜塩素酸イオンがインターカレーションされる形で固定されているため次亜塩素酸イオンの水への溶出が非常に小さく、顔料として用いることが可能となっている。この素性により使い方の応用性・自由度が格段に高くなっている。
【0010】
似たような化合物に、下記式(3b)に示す次亜塩素酸型ハイドロタルサイトがある(特許文献1参照)。これはハイドロカルマイトのカルシウムイオンがマグネシウムイオンに置き換わったものである。
その組成より次亜塩素酸型ハイドロカルマイトと同様の性質を持つと考えられるがマグネシウム由来のため、カルシウム由来のハイドロカルマイトよりもアルカリ性が弱いと推測できる。インターカレーションされた次亜塩素酸イオンにおいてもその安定性は次亜塩素酸塩類同様と考えられるため、アルカリ性の強いハイドロカルマイトの方が保存安定性の面で優位性が期待できる。
【0011】
【0012】
ところで、一般的なハイドロカルマイトの製造方法では、下記式(4)に示すように、アルミニウム源をアルミン酸ナトリウムなどの可溶性化合物から始める方法(特許文献2参照)、或いは下記式(5)に示すように、カルシウム酸化物又は水酸化物と水酸化アルミニウムを1300℃以上の超高温で焼結させて再水和させる方法(特許文献3参照)が用いられる。
しかし、このような方法は、いずれも原料コストや製造コストの面で好ましくない。
又、前者では副生塩の洗浄が必要となってくる。更には、後者では急激な水和発熱反応を伴うことから、その対応が必要となっている。
【0013】
【0014】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2022-074726号公報
【特許文献2】特開平07-033430号公報
【特許文献3】特開平07-033431号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】「次亜塩素酸の科学」P24;福崎智司著:初版発行日2012.3.9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
このような状況に鑑み、本発明は空気中、水中、土中などの広い使用環境において、即効性と安定性のある効果を有する消毒薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第一の態様は、次亜塩素酸型ハイドロカルマイトの製造方法であって、前記次亜塩素酸型ハイドロカルマイトの形成が、消石灰と、活性度ΔMが0.3以上の水酸化アルミニウムと、次亜塩素酸カルシウムを水中で混合、反応させて行われることを特徴とする次亜塩素酸型ハイドロカルマイトの製造方法である。
【0019】
本発明の第二の態様は、第一の態様における次亜塩素酸型ハイドロカルマイトが、化学式:2[Ca2Al(OH)6
+]・(ClO)2
-・nH2O(n=0~8)で表記され、次亜塩素酸イオンの含有量が、30mg/g以上であることを特徴とする次亜塩素酸型ハイドロカルマイトの製造方法である。
【0020】
本発明の第三の態様は、第一及び第二の態様における次亜塩素酸型ハイドロカルマイトのSEM観察による最大粒子径が、5μm以下であることを特徴とする次亜塩素酸型ハイドロカルマイトの製造方法である。
【0021】
本発明の第四の態様は、化学式:2[Ca2Al(OH)6
+]・(ClO)2
-・nH2O(n=0~8)で表記され、次亜塩素酸イオンの含有量が、30mg/g以上で、SEM観察による最大粒子径が、5μm以下であることを特徴とする次亜塩素酸型ハイドロカルマイトである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、空気中、水中、土中などの広い使用環境において、即効性と安定性のある効果を有する消毒薬を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1に係る本発明品の次亜塩素酸型ハイドロカルマイトのSEM像(倍率5000倍)である、
【
図2】比較例1に係る次亜塩素酸型ハイドロカルマイトのSEM像(倍率5000倍)プロセス図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の具体的な実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0025】
[次亜塩素酸型ハイドロカルマイトの製造方法]
本発明の製造方法は基本構成であるハイドロカルマイトの合成の仕方に特徴を有する。
ハイドロカルマイトは、「Ca2Al(OH)6
+」からなる組成のため、原料は安価に入手できる水酸化カルシウム(消石灰)と水酸化アルミニウムが好ましい。しかしながら、どちらも水への溶解度は低く、しかも水酸化アルミニウムはほぼ中性といっていいほどの弱いアルカリ性しか示さないため、水中または温水中で両者を混ぜるだけでは何時間たっても反応は進行しない。
【0026】
そこで、本発明者による方法は、水酸化アルミニウムに機械的エネルギーを加え、結晶性を歪めること(結晶性の歪み)で反応活性を発現させる(メカノケミカル活性化処理)ことを特徴とし、経済性と反応制御性を両立した優れた方法である。
その反応活性を表わす指標として「活性度ΔM」を用い、その「活性度ΔM」が0.3以上を示す水酸化アルミニウムを用いた場合の反応は下記式(6)で示されるように、一段の反応で完了し、無駄な副産物の発生がない。「活性度ΔM」が0.3未満の水酸化アルミニウムでは下記式(6)に示されるような反応が起こりにくく、ハイドロカルマイトの生成が進まない。
【0027】
このように固体状の水酸化アルミニウムの反応活性(活性度ΔM)を高める手法としては、「メカノケミカル活性化処理」が適正であり、公知技術(例えば、特開2002-274842号公報、特開2002-274843号公報等参照)を用いて行われる。
【0028】
【0029】
[「結晶性の歪み」測定方法]
通常、「結晶性の歪み」はXRDにより観察可能であるが、本発明者は加熱に伴う脱水重量を測定することで簡単に精度よく評価する方法を提案している。
通常の水酸化アルミニウムは230℃付近で、下記式(7)で示される脱水反応が起き始めるが、メカノケミカル活性化された水酸化アルミニウムは100℃以下から脱水が起きるようになる。
【0030】
【0031】
[「結晶性の歪み」からの活性度ΔMの算出方法]
そこで、脱水状態を連続観測することで式(7)の脱水反応を捉えることにより、「結晶性の歪み」を脱水反応に伴う蒸発水分の割合である「蒸発水分%値」を求め、「活性度ΔM」の算出が可能となっている。
その測定には電子天秤とハロゲンヒーターが組み合わさった市販の水分計が使用可能である。
【0032】
<測定条件>
試料:粉末(水酸化アルミニウム)7.5±0.5gを秤量皿に出来るだけ均一に乗せる
加熱条件:
加熱温度/150℃
加熱時間/10分間
(備考)
・単位は「蒸発水分%値」を使用する。
・付着水分の影響を除去するため10分値から1分値を差し引く。
・差し引いた値を%なしで用いる。 例 1.50%-0.65%=ΔM 0.85
この値を、「活性度ΔM」とする。
【0033】
この水酸化アルミニウムの反応活性を表わす活性度ΔMが0.3以下では、水酸化アルミニウムの反応活性が弱くなるため、未反応の原料成分が残留し、結果として生成物中の次亜塩素酸イオンの含有量が小さくなる。また反応速度が遅くなるため生産性が下がるばかりか生成物の粒子サイズも粗大化してしまう。
【0034】
[次亜塩素酸イオン含有量の測定方法]
<試料の調整方法>
次亜塩素酸型ハイドロカルマイトを含む粉末1.0gをビーカーに秤量し10mlのイオン交換水に懸濁し撹拌する。これに試薬炭酸ナトリウムを1.0g添加し30分撹拌することでイオン交換によりハイドロカルマイト中の次亜塩素酸イオンを液相に移行させる。
この懸濁液をろ過、固相をイオン交換水で十分に洗浄し液相に移行した次亜塩素酸を定量する。
【0035】
<分析方法>
ろ液全量を撹拌しながら試薬ヨウ化カリウムを2.0g添加、続けて試薬酢酸原液3mlを添加する。下記式(8)に示すような反応が生じ、次亜塩素酸が含まれていればこの時点でヨウ素由来の濃褐色を帯びる。
次にでんぷん水溶液3mlを添加する。ヨウ素が生成している場合はヨウ素でんぷん反応により青紫色に変化する。
この溶液を下記式(9)に示すように、0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウムで滴定する。遊離要素が反応に消費されることで透明になった時点が終点である。
【0036】
【0037】
[次亜塩素酸型ハイドロカルマイト]
上記製造方法で作られた「次亜塩素酸型ハイドロカルマイト」は、化学式が「2[Ca2Al(OH)6
+]・(ClO)2
-・nH2O(n=0~8)」で表記され、含まれる次亜塩素酸イオンの含有量が、30mg/g以上で、5000倍の倍率のSEM観察による最大粒子径が5μm以下であることを特徴としている。
【0038】
ところで、次亜塩素酸イオンの含有量が、30mg/g未満では、本発明における防カビ、殺菌、消毒などの効果持続の安定性が得られない。
更に、最大粒径が5μmより大きくなると顔料として使い勝手(分散性・流動性・伸び)のよい標準的サイズから外れ、塗料化やフィルム化などの実用面・応用面での加工の自由度が大幅に制限される可能性がある。ここで、別の考え方として、粗大粒子を機械的に微粉砕する方法もなくはないが、粉砕時の熱や衝撃で次亜塩素酸イオンが散逸してしまうことが考えられる。従って合成反応の段階で微細な粒子が得られる本発明には優位性がある。
これらの特徴により、本発明に係る次亜塩素酸型ハイドロカルマイトは、空中、水中、土中と、その使用環境にかかわらず即効性を持ちつつ、その消毒薬としての薬効を安定的に発揮するものである。
【実施例0039】
以下、実施例を用いて本発明を詳述する。
1Lビーカーに水600g、消石灰(古手川産業株式会社、特号粉末状)107gを入れ撹拌して作製した消石灰スラリーに、撹拌しながら次亜塩素酸カルシウム(日本曹達株式会社、「高度さらし粉」、顆粒状)を69g添加、溶解した。
これに、メカノケミカル活性化処理により活性度を調節した「活性度ΔM」が0.74、平均粒子径5.5μmの水酸化アルミニウム(原粉:住友化学株式会社製、C-31由来、粉末状)を75g添加して混合物のスラリーを作製した。これを15分間撹拌したのち密閉容器に移し棚式保温機で撹拌せずに70℃で30時間保温した。