(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012530
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法及びこの形成方法で形成した最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜付き基板材
(51)【国際特許分類】
C25D 15/02 20060101AFI20250117BHJP
C25D 5/14 20060101ALI20250117BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20250117BHJP
C25D 5/56 20060101ALI20250117BHJP
C23C 18/52 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C25D15/02 H
C25D5/14
C25D5/50
C25D5/56 B
C23C18/52 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115420
(22)【出願日】2023-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】599141227
【氏名又は名称】学校法人関東学院
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】梅田 泰
(72)【発明者】
【氏名】本間 英夫
【テーマコード(参考)】
4K022
4K024
【Fターム(参考)】
4K022AA15
4K022BA14
4K022BA34
4K022BA36
4K022CA03
4K022CA06
4K022DA01
4K022EA01
4K024AA03
4K024AB03
4K024AB12
4K024AB17
4K024BA02
4K024BA04
4K024BA06
4K024BA09
4K024BA12
4K024CA01
4K024CA02
4K024CA03
4K024CA04
4K024CA06
4K024CB12
4K024DA03
4K024DA04
4K024DA06
4K024DA10
4K024DB01
4K024GA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本件出願に係る発明は、基板材に耐酸性を付与するための、最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法を提供することを課題とする。
【解決手段】この課題を解決するために、本件出願に係る発明は、以下の工程を備えることを特徴とする、最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法を採用する。工程1:基板材に対して、脱脂及び水洗を含む前処理を行う。工程2:当該前処理後の基板材に対して、金属めっき皮膜を形成する。工程3:当該金属めっき皮膜付き基板材に対して、めっき浴を攪拌しながらフッ素樹脂を低濃度含む複合めっき皮膜を形成する。工程4:当該フッ素樹脂を低濃度含む複合めっき皮膜付き基板材に対して、めっき浴を攪拌しながらフッ素樹脂を高濃度含む複合めっき皮膜を形成する。工程5:当該フッ素樹脂を高濃度含む複合めっき皮膜付き基板材に対して熱処理を行い、フッ素樹脂からなる最外層を形成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程1~工程5を備えることを特徴とする、金属材又は樹脂材からなる基板材に耐酸性を付与するための、最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法。
工程1: 基板材に対して、脱脂及び水洗を含む前処理を行う。
工程2: 当該前処理後の基板材に対して、金属めっき皮膜を形成する。
工程3: 当該金属めっき皮膜付き基板材に対して、めっき浴を攪拌しながらフッ素樹脂を低濃度含む複合めっき皮膜を形成する。
工程4: 当該フッ素樹脂を低濃度含む複合めっき皮膜付き基板材に対して、めっき浴を攪拌しながらフッ素樹脂を高濃度含む複合めっき皮膜を形成する。
工程5: 当該フッ素樹脂を高濃度含む複合めっき皮膜付き基板材に対して熱処理を行い、フッ素樹脂からなる最外層を形成する。
【請求項2】
前記基板材は、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼、ポリイミド樹脂の何れかである、請求項1に記載の最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法。
【請求項3】
前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂又はパーフルオロアルコキシアルカン樹脂である、請求項1又は請求項2に記載の最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法。
【請求項4】
前記工程2で形成する金属めっき皮膜は、ニッケル又はニッケル合金からなる、請求項1に記載の最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法。
【請求項5】
前記工程3で形成する複合めっき皮膜は、フッ素樹脂を5質量%~25質量%含む、請求項1に記載の最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法。
【請求項6】
前記工程4で形成する複合めっき皮膜は、フッ素樹脂を30質量%~65質量%含む、請求項1に記載の最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法。
【請求項7】
請求項1に記載の最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法で形成した、最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜付き基板材であって、
フッ酸、硫酸、塩酸の何れかを電解液として腐食電位測定を行ったときに、当該電解液に対して腐食電位を示さないことを特徴とする、最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜付き基板材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願に係る発明は、金属材又は、ポリイミド樹脂等の樹脂材からなる基板材に対して、フッ酸、硫酸、塩酸等の酸性物質と接触しても腐食するおそれがない耐酸性を付与するための、最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法、及びこの形成方法で形成した最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜付き基板材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工程では、様々な濃度のフッ酸、硫酸、塩酸等の酸性水溶液や酸性ガスを使用している。そのため、半導体製造工程で用いる治具や各種装置には、これらの物質と接触しても表面が腐食するおそれがない耐酸性が求められる。ここで、耐酸性を有する物質として、半導体製造工程で広く用いられているものは、フッ素樹脂である。しかし、フッ素樹脂で治具や各種装置を製造すると、機械的剛性が不十分となる場合がある。
【0003】
そこで、フッ素樹脂よりも機械的剛性が優れる金属材や、半導体分野で多用されているポリイミド樹脂等の樹脂材表面の上に、フッ素樹脂とニッケル等の金属とからなる複合めっき皮膜を形成して、当該金属材又は樹脂材からなる基板材の耐酸性を向上させる技術が検討されている。しかし、このような構成の複合めっき皮膜は、ニッケル等の金属が表面の一部に露出しているため、基板材の耐酸性を著しく向上させる効果は得られない。
【0004】
一方、特許文献1には、基板材表面の上に、上述のような複合めっき皮膜を形成した後、熱処理を行い、当該複合めっき皮膜の最表面におけるフッ素樹脂の含有量を100vоl%に近づけることにより、基板材の撥水性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この特許文献1に開示の技術は、基板材の撥水性を向上させることを目的としたものであって、基板材の耐酸性を向上させる効果は不十分であった。そのため、市場では引き続き、金属材や、ポリイミド樹脂等の樹脂材からなる基板材の耐酸性を向上させる技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
A.最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法
本件出願に係る発明は、金属材又は樹脂材からなる基板材に耐酸性を付与するための、最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法であって、以下の工程1~工程5を備えることを特徴とする。
【0008】
工程1: 基板材に対して、脱脂及び水洗を含む前処理を行う。
工程2: 当該前処理後の基板材に対して、金属めっき皮膜を形成する。
工程3: 当該金属めっき皮膜付き基板材に対して、めっき浴を攪拌しながらフッ素樹脂を低濃度含む複合めっき皮膜を形成する。
工程4: 当該フッ素樹脂を低濃度含む複合めっき皮膜付き基板材に対して、めっき浴を攪拌しながらフッ素樹脂を高濃度含む複合めっき皮膜を形成する。
工程5: 当該フッ素樹脂を高濃度含む複合めっき皮膜付き基板材に対して熱処理を行い、フッ素樹脂からなる最外層を形成する。
【0009】
本件出願に係る発明において、前記基板材は、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼、ポリイミド樹脂の何れかであることが好ましい。
【0010】
本件出願に係る発明において、前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂又はパーフルオロアルコキシアルカン樹脂であることが好ましい。
【0011】
本件出願に係る発明において、前記工程2で形成する金属めっき皮膜は、ニッケル又はニッケル合金からなることが好ましい。
【0012】
本件出願に係る発明において、前記工程3で形成する複合めっき皮膜は、フッ素樹脂を5質量%~25質量%含むことが好ましい。
【0013】
本件出願に係る発明において、前記工程4で形成する複合めっき皮膜は、フッ素樹脂を30質量%~65質量%含むことが好ましい。
【0014】
B.最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜付き基板材
本件出願に係る発明は、上述の本件出願に係る最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法で形成した、最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜付き基板材であって、フッ酸、硫酸、塩酸の何れかを電解液として腐食電位測定を行ったときに、当該電解液に対して腐食電位を示さないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本件出願に係る発明によれば、金属材又は、ポリイミド樹脂等の樹脂材からなる基板材に対して、フッ酸、硫酸、塩酸等の酸性物質と接触しても腐食するおそれがない耐酸性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(A)及び(B)は、本件出願に係る実施例の電界放出形走査電子顕微鏡観察像である。
【
図2】本件出願に係る実施例の腐食電位測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法
本件出願に係る発明は、以下の工程1~工程5を備えることを特徴とする、最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法に関する。本件出願に係る発明は、当該要件を具備することにより、金属材又は、ポリイミド樹脂等の樹脂材からなる基板材に対して、フッ酸、硫酸、塩酸等の酸性物質と接触しても腐食するおそれがない耐酸性を付与することができる。以下に、工程ごとに説明する。
【0018】
工程1: 基板材に対して、脱脂及び水洗を含む前処理を行う。
【0019】
本件出願に係る発明の基板材は、金属材又は樹脂材である。金属材の種類に特段の制限はなく、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼等を用いることができる。樹脂材は400℃以上の耐熱性を有するものであればよく、例えば、ポリイミド樹脂等が挙げられる。この基板材に対して、従来公知の方法で脱脂及び水洗を含む前処理を行う。具体的には、例えば、基板材として金属材を用いる場合は、アルカリ浸漬脱脂、アルカリ電解脱脂、酸浸漬(「酸活性」とも称する。)をこの順に行い、水洗すればよい。基板材として樹脂材を用いる場合は、アルカリ浸漬脱脂、コンディショニング処理、触媒付与処理、酸浸漬、再度の触媒付与処理、再度の酸浸漬をこの順で行い、水洗すればよい。
【0020】
工程2: 前処理後の基板材に対して、金属めっき皮膜を形成する。
【0021】
この工程2では、上述の工程1で前処理を行った基板材の表面上に、後述する複合めっき皮膜の下地層として、金属めっき皮膜を形成する。ここで、本件出願に係る発明の技術的思想を説明すると、金属材又は、ポリイミド樹脂等の樹脂材からなる基板材に対して、フッ酸、硫酸、塩酸等の酸性物質と接触しても腐食するおそれがない耐酸性を付与するためには、当該基板材表面の上に、最外層がフッ素樹脂である「複合めっき皮膜(フッ素樹脂及び金属を主成分とするめっき皮膜)」を形成すればよい。そして、最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜を形成するためには、比較的高濃度のフッ素樹脂を含む複合めっき皮膜を形成した後、これを熱処理して当該皮膜中のフッ素樹脂の一部を溶解することにより、フッ素樹脂からなる最外層を形成すればよい。しかし、基板材の表面に下地層を設けることなく、そのままフッ素樹脂を含む複合めっき皮膜を形成すると、当該基板材表面との密着性が低く、複合めっき皮膜が基板材表面から剥離するおそれがある。そのため、本工程2で、下地層として金属めっき皮膜を形成する必要がある。
【0022】
本工程2における金属めっき皮膜の形成方法としては、例えば、基板材として金属材を用いる場合は、電気めっき法又は無電解めっき法を採用すればよい。基板材としてポリイミド樹脂等の樹脂材を用いる場合は、無電解めっき法を採用すればよい。めっき浴の組成及びめっき条件は、基板材の種類等に応じて、適宜決定すればよい。
【0023】
本工程2で形成する金属めっき皮膜は、ニッケル又は、ニッケル-リン等のニッケル合金であることが好ましい。ニッケル又は、ニッケル-リン等のニッケル合金は、金属材又は樹脂材からなる基板材の表面上に、電気めっき法又は無電解めっき法により比較的容易に密着性よく形成することができるためである。
【0024】
工程3: 金属めっき皮膜付き基板材に対して、めっき浴を攪拌しながらフッ素樹脂を低濃度含む複合めっき皮膜を形成する。
【0025】
この工程3では、上述の工程2で形成した金属めっき皮膜の表面上に、中間層として、比較的低濃度のフッ素樹脂を含む複合めっき皮膜を形成する。下地層である金属めっき皮膜の表面上に、中間層を形成することなく、そのまま比較的高濃度のフッ素樹脂を含む複合めっき皮膜を形成すると、金属めっき皮膜表面との密着性が低く、剥離するおそれがある。そのため、本工程3で、中間層として比較的低濃度のフッ素樹脂を含む複合めっき皮膜を形成する必要がある。
【0026】
また、フッ素樹脂の種類に特段の制限はなく、比較的安価且つ入手し易い、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)樹脂等を用いることができる。
【0027】
ここで、本工程3で形成する複合めっき皮膜は、フッ素樹脂を5質量%~25質量%含むことが好ましい。本工程3で形成する複合めっき皮膜におけるフッ素樹脂の含有量が5質量%未満であると、次工程で形成する比較的高濃度のフッ素樹脂を含む複合めっき皮膜の密着性が低くなり、剥離するおそれがあるため好ましくない。一方、本工程3で形成する複合めっき皮膜におけるフッ素樹脂の含有量が25質量%を超えると、下地層である金属めっき皮膜に対する密着性が低くなる傾向にあるため好ましくない。
【0028】
本工程3における、フッ素樹脂を低濃度含む複合めっき皮膜の形成方法としては、上述の工程2で形成した下地層と同じ組成の金属を析出させるためのめっき浴と、フッ素樹脂粒子の分散液とを混合し、撹拌子を用いて比較的遅い速度でこれを攪拌しながら、当該金属との共析により、電気めっき法又は無電解めっき法にて複合めっき皮膜を形成する。具体的には、例えば、濃度600g/L~900g/Lのスルファミン酸ニッケル・四水和物の水溶液、濃度40g/Lのホウ酸水溶液、濃度50g/L~200g/Lのポリテトラフルオロエチレン樹脂の分散液からなる電気めっき液を用いて、撹拌子により2cm/秒~10cm/秒の条件で攪拌を行いながら、電気めっき法によりフッ素樹脂及びニッケルからなる複合めっき皮膜を、上述の下地層の表面上に形成すればよい。ここで、攪拌を行うことなく下地層の表面上に本工程3の複合めっき皮膜を形成すると、フッ素樹脂粒子が一部沈殿する等して再現性良く均質な複合めっき皮膜が得られず、次工程で形成する比較的高濃度のフッ素樹脂を含む複合めっき被膜の密着性が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0029】
工程4: フッ素樹脂を低濃度含む金属めっき皮膜付き基板材に対して、めっき浴を攪拌しながらフッ素樹脂を高濃度含む複合めっき皮膜を形成する。
【0030】
この工程4では、上述の工程3で形成した比較的低濃度のフッ素樹脂を含む複合めっき皮膜の表面上に、比較的高濃度のフッ素樹脂を含む複合めっき皮膜を形成する。上述のとおり、基板材表面の上に、比較的高濃度のフッ素樹脂を含む複合めっき皮膜を形成した後、熱処理を行うことにより、フッ素樹脂からなる最外層が形成される。その結果、金属材又は、ポリイミド樹脂等の樹脂材からなる基板材に対して、フッ酸、硫酸、塩酸等の酸性物質と接触しても腐食するおそれがない耐酸性を付与することができる。
【0031】
ここで、本工程4で形成する複合めっき皮膜は、フッ素樹脂を30質量%~65質量%含むことが好ましい。本工程4で形成する複合めっき皮膜におけるフッ素樹脂の含有量が30質量%未満であると、次工程で熱処理を行ったときにフッ素樹脂のみからなる最外層が形成されず、金属材又は樹脂材からなる基板材の耐酸性を向上させる効果が得られない傾向にあるため好ましくない。一方、本工程4で形成する複合めっき皮膜におけるフッ素樹脂の含有量が65質量%を超えると、当該複合めっき皮膜を比較的簡便な成膜方法である電気めっき法又は無電解めっき法で形成することが困難になり、製造コストの増大を招く傾向にあるため好ましくない。
【0032】
本工程4における、フッ素樹脂を高濃度含む複合めっき皮膜の形成方法としては、上述の工程3と同様の方法を採用すればよい。具体的には、例えば、濃度200g/L~500g/Lのスルファミン酸ニッケル・四水和物の水溶液、濃度40g/Lのホウ酸水溶液、濃度400g/L~800g/Lのポリテトラフルオロエチレン樹脂の分散液からなる電気めっき液を用いて、撹拌子により2cm/秒~10cm/秒の条件で攪拌を行いながら、電気めっき法によりフッ素樹脂及びニッケルからなる複合めっき皮膜を、上述の中間層の表面上に形成すればよい。ここで、攪拌を行うことなく中間層の表面上に本工程4の複合めっき皮膜を形成すると、フッ素樹脂粒子が一部沈殿する等して再現性良く均質な複合めっき皮膜が得られない。その結果、次工程で熱処理を行ったときにフッ素樹脂からなる最外層が形成できず、基板材の耐酸性を向上させる効果が十分に得られない傾向にあるため好ましくない。
【0033】
工程5: フッ素樹脂を高濃度含む複合めっき皮膜付き基板材に対して熱処理を行い、フッ素樹脂からなる最外層を形成する。
【0034】
この工程5では、上述の工程4で形成した比較的高濃度のフッ素樹脂を含む複合めっき皮膜付き基板材に対して、大気中又は不活性ガス雰囲気下で熱処理を行う。その結果、当該皮膜中のフッ素樹脂の一部が溶解し、フッ素樹脂からなる最外層が形成される。
【0035】
ここで、本工程5で行う熱処理の方法及び条件については、基板材及びフッ素樹脂の種類等に応じて、適宜決定すればよい。具体的には、例えば、基板材が銅、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼、ポリイミド樹脂の何れかで、フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂又はパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)樹脂の場合は、市販の熱処理装置内に、上述の工程4で形成したフッ素樹脂を高濃度含む複合めっき皮膜付き基板材を静置して、窒素雰囲気下で、400℃~450℃付近で10分間~20分間程度の熱処理を行えばよい。
【0036】
B.最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜付き基板材
本件出願に係る発明は、上述の本件出願に係る最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜の形成方法で形成した、最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜付き基板材に関する。そして、本件出願に係る最外層がフッ素樹脂である複合めっき皮膜付き基板材は、フッ酸、硫酸、塩酸の何れかを電解液として腐食電位測定を行ったときに、当該電解液に対して腐食電位を示さないことを特徴とする。そのため、本件出願に係る発明によれば、フッ酸、硫酸、塩酸等の酸性物質と接触しても表面が腐食するおそれがない耐酸性を有する金属材又は、ポリイミド樹脂等の樹脂材からなる基板材を提供することができる。
【0037】
以下に、本件出願に係る発明について、実施例を示して、より具体的に説明する。但し、本件出願に係る発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0038】
この実施例1では、基板材として縦20mm、横30mm、厚さ1mmの銅板を用意して、次の方法で前処理を行った。まず、基板材である銅板を液温50℃のアルカリ浸漬脱脂浴(濃度10g/Lの水酸化ナトリウム水溶液、濃度50g/Lの炭酸ナトリウム水溶液、濃度50g/Lのオルトケイ酸ナトリウム水溶液、濃度1g/Lの非イオン性界面活性剤からなる混合液)に10分間浸漬して表面を脱脂した後、純水(イオン交換水)で水洗した。次いで、液温50℃のアルカリ電解脱脂浴(濃度10g/Lの水酸化ナトリウム水溶液、濃度50g/Lの炭酸ナトリウム水溶液、濃度50g/Lのオルトケイ酸ナトリウム水溶液、濃度1g/Lの非イオン性界面活性剤からなる混合液)により、電流密度6A/dm2で1分間電解脱脂した後、純水で水洗した。続いて、液温25℃、濃度10wt%の硫酸水溶液に30秒間浸漬して表面を酸活性処理した後、純水で水洗した。
【0039】
次いで、上述の方法で得た前処理後の銅板を、液温50℃、pH4.0のワット浴(濃度250g/Lの硫酸ニッケル・六水和物の水溶液、濃度50g/Lの塩化ニッケル水溶液、濃度40g/Lのホウ酸水溶液からなる電気めっき液)に浸漬し、当該銅板を陰極、ニッケル板を陽極として、電流密度3A/dm2で10分間の電気めっき処理を行うことにより、銅板の表面上に下地層である膜厚6μmのニッケルめっき皮膜を形成した。
【0040】
続いて、このニッケルめっき皮膜付き銅板をワット浴内から引き上げて純水で水洗し、液温40℃、pH4.0の、低濃度のフッ素樹脂を含む複合めっき皮膜を形成するための複合めっき浴(濃度720g/Lのスルファミン酸ニッケル・四水和物の水溶液、濃度40g/Lのホウ酸水溶液、濃度100g/Lのポリテトラフルオロエチレン樹脂の分散液からなる電気めっき液)に浸漬し、当該銅板を陰極、ステンレス鋼板を陽極として、電流密度1A/dm2で30分間の電気めっき処理を行うことにより、ニッケルめっき皮膜の表面上に低濃度のポリテトラフルオロエチレン樹脂(フッ素樹脂)を含む複合めっき皮膜(フッ素樹脂及びニッケルからなる中間層)を形成した。なお、当該複合めっき皮膜を形成する間、容器内に入れた当該複合めっき浴は、撹拌子を用いて5cm/秒の条件で攪拌した。
【0041】
更に、この低濃度のフッ素樹脂を含む複合めっき皮膜付き銅板を、液温40℃、pH4.0の、高濃度のフッ素樹脂を含む複合めっき皮膜を形成するための複合めっき浴(濃度180g/Lのスルファミン酸ニッケル・四水和物の水溶液、濃度40g/Lのホウ酸水溶液、濃度500g/Lのポリテトラフルオロエチレン樹脂の分散液からなる電気めっき液)に浸漬し、当該銅板を陰極、ステンレス鋼板を陽極として、電流密度1A/dm2で30分間の電気めっき処理を行うことにより、上述の中間層の表面上に高濃度のポリテトラフルオロエチレン樹脂(フッ素樹脂)を含む複合めっき皮膜(フッ素樹脂及びニッケルからなる層)を形成した。なお、当該複合めっき皮膜を形成する間、容器内に入れた当該複合めっき浴は、撹拌子を用いて5cm/秒の条件で攪拌した。
【0042】
次に、この高濃度のフッ素樹脂を含む複合めっき皮膜付き銅板を、上述の複合めっき浴内から引き上げて純水で水洗した後、市販のエアブロー装置を用いて表面を乾燥させた。これを、市販の熱処理装置内に静置して、窒素雰囲気下で420℃、15分間の熱処理を行い、最外層がフッ素樹脂からなる複合めっき皮膜付き銅板を得た。
【0043】
(評価方法)
実施例1で得た、最外層がフッ素樹脂からなる複合めっき皮膜付き銅板について、その表面をFE-SEM(電界放出形走査電子顕微鏡)で観察した。
図1の(A)及び(B)に、その結果を示す。比較的低倍率である
図1の(A)によれば、表面に亀裂等の不具合はなく、概ね平坦な形状であった。また、比較的高倍率である
図1の(B)によれば、表面は微細な隆起物で覆われており、概ね均質な形状であった。
【0044】
次いで、実施例1で得た、最外層がフッ素樹脂からなる複合めっき皮膜付き銅板について、濃度98wt%の硫酸を電解液として、腐食電位測定を行った。測定条件としては、陰極は、実施例1で得た最外層がフッ素樹脂からなる複合めっき皮膜付き銅板、陽極は白金、参照電極は塩化銀とし、走査速度は2mV/秒とした。この腐食電位測定の結果を
図2に示す。ここで、
図2には、比較基準として、実施例1で用いたものと同じ銅板を陰極として、実施例1と同じ条件で腐食電位測定を行った結果も併せて記載した。また、参考基準として、ニッケル板を陰極として、実施例1と同じ条件で腐食電位測定を行った結果も併せて記載した。
【0045】
図2のグラフから理解できるとおり、比較基準である銅板の電流密度の数値は電位0.10V付近から急速に増大し、硫酸電解液に対して明確な腐食電位を示した。また、参考基準であるニッケル板についても、電流密度の数値は電位0.03V付近から徐々に増大し、硫酸電解液に対して明確な腐食電位を示した。一方、実施例1で得た、最外層がフッ素樹脂からなる複合めっき皮膜付き銅板の電流密度の数値はほぼ変化せず、硫酸電解液に対して腐食電位を示さなかった。なお、
図2への記載は省略するが、ニッケル板を基板材として、実施例1と同様の条件で最外層がフッ素樹脂からなる複合めっき皮膜付きニッケル板を形成し、実施例1と同様の条件で、当該試料片(最外層がフッ素樹脂からなる複合めっき皮膜付きニッケル板)について腐食電位測定を行ったところ、実施例1の試料片(最外層がフッ素樹脂からなる複合めっき皮膜付き銅板)とほぼ同様の結果となった。結論として、基板材である銅板表面の上に最外層がフッ素樹脂からなる複合めっき皮膜を形成することにより、酸性物質である硫酸に対する銅板の腐食は著しく抑制された。そのため、実施例1で得た、最外層がフッ素樹脂からなる複合めっき皮膜付き銅板は、酸性物質である硫酸と接触しても、表面が腐食するおそれはないと判断できる。
本件出願に係る発明は、金属材又は、ポリイミド樹脂等の樹脂材からなる基板材に対して、フッ酸、硫酸、塩酸等の酸性物質と接触しても腐食するおそれがない耐酸性を付与する方法として、好適に利用することができる。また、本件出願に係る発明は、半導体製造工程で用いる治具や各種装置、半導体分野で使用する樹脂基板材等に好適に利用できる。