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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012613
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】制御弁式鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/541 20210101AFI20250117BHJP
   H01M 50/114 20210101ALI20250117BHJP
   H01M 50/553 20210101ALI20250117BHJP
【FI】
H01M50/541
H01M50/114
H01M50/553
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115583
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小松 慶子
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴之
【テーマコード(参考)】
5H011
5H043
【Fターム(参考)】
5H011AA01
5H011AA09
5H011CC02
5H011KK03
5H043AA01
5H043AA19
5H043BA12
5H043JA06E
5H043JA09E
5H043LA23E
(57)【要約】
【課題】
生産性の向上した制御弁式鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】
電槽、前記電槽に設けられる少なくとも1つのセル室に収容される少なくとも1つの電極群、および前記電極群の正極又は負極の耳群を接続するストラップを備える制御弁式鉛蓄電池であって、当該制御弁式鉛蓄電池を正立させた場合の上下の方向を上方、下方と呼ぶとして、前記ストラップの下方に前記平型端子が延伸するように前記ストラップと前記平型端子とが接合され、前記平型端子は、外部と電気的接続をする接合部位まで前記延伸した端子導出部と、前記耳群と接合される端子傾斜部とを含み、前記端子導出部の前記延伸方向と、前記端子傾斜部の一部または全部との曲げ角が、15度以上50度以下であることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電槽、前記電槽に設けられる少なくとも1つのセル室に収容される少なくとも1つの電極群、および前記電極群の正極又は負極の耳群を接続するストラップを備える制御弁式鉛蓄電池であって、
前記ストラップに接続される平型端子を更に備え、
当該制御弁式鉛蓄電池を正立させた場合の上下の方向を上方、下方と呼ぶとして、
前記ストラップの下方に前記平型端子が延伸するように前記ストラップと前記平型端子とが接合され、
前記平型端子は、外部と電気的接続をする接合部位まで前記延伸した端子導出部と、前記耳群と接合される端子傾斜部とを含み、
前記端子導出部の前記延伸方向と、前記端子傾斜部の一部または全部との曲げ角が、15度以上50度以下であることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池。
【請求項2】
前記曲げ角が15度以上40度以下であることを特徴とする請求項1に記載の制御弁式鉛蓄電池。
【請求項3】
前記端子傾斜部分は、前記端子傾斜部分全体の30%以上が前記ストラップの内部に埋め込まれており、埋め込まれた端子傾斜部分の両面は前記ストラップを形成している鉛又は鉛合金と接合していることを特徴とする請求項1または2に記載の制御弁式鉛蓄電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御弁式鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、制御式鉛蓄電池は、充放電時の外部との接続に使用する正負極の端子に、平型端子を用いている。平型端子は、ストラップでの溶接またははんだ付けにより、正負極の各電極群と電気的に接続されて使用される。キャストオンストラップ方式を使用する場合には、溶接またははんだ付けの際に、制御式鉛蓄電池を倒立させた状態で行うのが一般的である。倒立時の平型端子の溶接の利便のために、平型端子に曲げ加工がなされるなど、平型端子の形状には様々な工夫が施されてきた。
【0003】
出願人は、特許文献1において、平型端子をファストン端子と表記した上で、ファストン端子の上端部を極板群の耳に近接させてその上端部を溶接するに当たり、ファストン端子近傍の電槽の壁部よりファストン端子を少なくとも0.8mm隔離した状態で溶接作業を行うことを特徴とする鉛蓄電池の製造法を公開している。
特許文献1の製造方法により、熱によるプライマーの剥がれが原因の不良を防ぐことができ、鉛蓄電池の生産性が向上した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-223884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記生産性の向上に至ってなお、倒立時の平型端子の溶接の際には、一定の確率で、平型端子の先端部のストラップへの埋め込み具合が浅くなる問題があった。
平型端子の先端部のストラップへの埋め込み具合が浅いと、内部抵抗の増加等により電池性能が十分に引き出せない可能性がある。浅い場合は、はんだ付け等により接合を補強するが、生産性が低下してしまう。
【0006】
よって、本発明は、十分な接合強度を確保しながらも、生産性を向上する制御式鉛蓄電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記特許文献1記載の発明を更に改良すべく種々の検討を試みた。
その結果、第1の観点として、電槽、前記電槽に設けられる少なくとも1つのセル室に収容される少なくとも1つの電極群、および前記電極群の正極又は負極の耳群を接合するストラップを備える制御弁式鉛蓄電池において、以下を備えると、溶接時に鉛または鉛合金が平型端子をよく取り囲み、ストラップへの埋め込みが浅くなることが減り、生産性が向上することを見出した。
(1)前記ストラップに接合される平型端子を更に備える。
(2)当該制御弁式鉛蓄電池を正立させた場合の上下の方向を上方、下方と呼ぶとして、前記ストラップの下方に前記平型端子が延伸するように前記ストラップと前記平型端子とが接合される。
(3)前記平型端子は、外部と電気的接合をする接合部位まで前記延伸した端子導出部と、前記耳群と接合される端子傾斜部とを含む。
(4)前記端子導出部の前記延伸方向と、前記端子傾斜部の一部または全部との曲げ角が、15度以上50度以下である。
【0008】
さらに、第2の観点において、上記第1の観点に加えて、前記曲げ角が15度以上40度以下であることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池とするとよい。
【0009】
さらに、第3の観点において、上記第1または第2の観点に加えて、前記端子傾斜部分は、前記端子傾斜部分全体の30%以上が前記ストラップの内部に埋め込まれており、埋め込まれた端子傾斜部分の両面は前記ストラップを形成している鉛又は鉛合金と接合していることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池とするとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、十分な接合強度を確保しながらも、生産性を向上する制御式鉛蓄電池を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る制御弁式鉛蓄電池の外観図である。
図2図1に示される制御弁式鉛蓄電池のY-Z平面図である。
図3図2に示される制御弁式鉛蓄電池のIII-III断面図である。
図4】実施例1の平型端子を示す側面図である。
図5】実施例6の平型端子を示す側面図である。
図6】実施例7の平型端子を示す側面図である。
図7】実施例8の平型端子を示す側面図である。
図8】実施例9の平型端子を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施の形態に係る制御弁式鉛蓄電池の外観図であり、図2は、図1に示される制御弁式鉛蓄電池のY-Z平面図であり、図3は、図2に示される制御弁式鉛蓄電池のIII-III断面図である。
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る制御式鉛蓄電池について説明するが、本発明は、以下に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
また、本発明における上下等の方向の定義は、単に説明の便宜上の定義であって、本開示の技術的思想を限定するものではない。
【0014】
<制御弁式鉛蓄電池の形状>
図1は、本発明の第1実施の形態に係る制御弁式鉛蓄電池の外観図であり、図2は、図1に示される制御弁式鉛蓄電池のY-Z平面図であり、図3は、図2に示される制御弁式鉛蓄電池のIII-III断面図である。便宜上、明細書内では、Z軸方向に沿って上下を定義し、図1を正立させた状態とみなし、耳のある方向を上とする。
【0015】
図1図3を参照して、本実施の形態に係る制御弁式鉛蓄電池は、モノブロック電槽1(本明細書中では、単に電槽と表記することもある)、モノブロック電槽1の内部に仕切壁2により区画形成された2つのセル室3、2つのセル室3のそれぞれに収容される2つの電極群4、2つの電極群4のそれぞれの正極耳群4aどうしを溶接により接続する正極ストラップPS、負極耳群4bどうしを溶接により接続する負極ストラップNS、正極耳群4aとともに正極ストラップPSの下面において溶接により接続される正極用の平型端子6、および負極耳群4bとともに負極ストラップNSの下面において溶接により接続される負極用の平型端子6を備えている。
【0016】
モノブロック電槽1は、端壁1a、被接着壁部1bおよびL字状の保持枠8a,8bを有している。
端壁1aには、2つの極板群4のうち、一方(左側)の極板群4の正極ストラップPSに対応する正極用の平型端子6、および他方(右側)の極板群4の負極ストラップNSに対応する負極用の平型端子6をそれぞれ挿通可能に保持する2つの端子ホルダー5が設けられている。
【0017】
2つの端子ホルダー5は、2つの極板群4のそれぞれに対応して設けられる2つの保持溝枠5a、および2つの凹溝5bから形成されている。
2つの保持溝枠5aのそれぞれでは、平型端子6は係合用突部7を通して挿入されて、端子導出部6bで係合保持される。端子導出部6bの端子傾斜部とは逆の端部は、前面が開放されている凹溝5bから外方へ下向きに突出するように設けられる。
平型端子6は、例えば金属または合金からなる平板状の構造を有しており、端子傾斜部6a、および端子導出部6bから構成される。
【0018】
被接着壁部1bは、電槽蓋(図示せず)の裏面の凹部内に充填される接着剤と接着される。その際、被接着壁部1bにはプライマー処理が施されて、プライマー塗膜Pが予め塗布されてもよい。L字状の保持枠8a,8bは、電槽1の端壁1aの左側及び右側に一体成形により突出するように設けられている。
【0019】
正極ストラップPSおよび負極ストラップNSの溶接について、周知のキャストオンストラップ方式に従って正極耳群4aおよび負極耳群4bのストラップ溶接が行われるとき、正極耳群4aおよび負極耳群4bの側面、言い換えれば正極ストラップPSおよび負極ストラップNSの短手方向の右端(図3参照)には、平型端子6の端子傾斜部分6aが近接して溶接される。
このため、正極耳群4aは、正極ストラップPSにより溶接されると同時に、正極用の平型端子6の端子傾斜部分6aも鋳造ストラップにおいて一体となるように溶接される。また、負極耳群4bは、負極ストラップNSにより溶接されると同時に、負極用のファストン端子6の端子傾斜部分6aもストラップにおいて一体となるように溶接される。
【0020】
<平型端子の形状>
図4は、1つの実施形態における本発明の平型端子6の側面図である。
平型端子6は、以下の特徴を備える。
(1)平型端子6は、外部と電気的接続をする接続部位まで延伸した端子導出部6bと、耳群と接合される端子傾斜部6aとを含む。
(2)前記端子導出部6bの延伸方向と、前記端子傾斜部6aの一部または全部との曲げ角が、15度以上50度以下である。
なお、端子導出部6bと端子傾斜部6aが接続される部位を便宜上成形点6cと呼ぶ。
以上の特徴を備えることが有用である理由は、上記曲げ角の面を有すると、鉛の流れが向上するとともに、ストラップの端で溶接される確率が減り、生産性が向上するためである。
また、前記端子傾斜部6aの一部または全部は、前記端子導出部6bの一部または全部から本発明の制御弁式鉛蓄電池の中心側に向けて傾いているのが良い。
【0021】
図4を参照して、端子導出部6bは、平型端子6全体の長手方向を形成する部分であり、本実施の形態では一部が鉛直方向と実質的に一致するように配置されている。また、ストラップNSの下面の短手方向(図3参照)は、本実施の形態では水平方向と実質的に一致するように配置されている。
【0022】
端子導出部6bは、成形点6cにおいて端子傾斜部6aと一体となって接続されており、この端子傾斜部6aは、成形点6cにおいて鉛直方向と所定の角度を有するようにプレス加工等により成形されている。また、端子傾斜部6aは、多くの場合、水平方向と所定の角度を有するようにストラップNSの下面からストラップNSの内部に埋め込まれている。
【0023】
さらに、第2の観点において、上記第1の観点に加えて、端子傾斜部6aの一部と端子導出部6bの一部の曲げ角が15度以上40度以下であることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池とするとよい。
以上の特徴を備えることが有用である理由は、ストラップを作成するために鉛または鉛合金を流しいれる際に、上記角度の面を有すると、より一層密着性の高い制御弁式鉛蓄電池が得られる確率が上がり、生産性が一層向上するためである。
【0024】
さらに、第3の観点において、上記第1または第2の観点に加えて前記端子傾斜部6aは、前記端子傾斜部6a全体の30%以上が前記ストラップの内部に埋め込まれており、埋め込まれた端子傾斜部6aの両面は前記ストラップを形成している鉛又は鉛合金と接合していることを特徴とする制御弁式鉛蓄電池とするとよい。
以上の特徴を備えることが有用である理由は、30%以上とすると、内部抵抗が下がり、性能の良い電池となるためである。なお、120%より大、つまり、端子傾斜部6aの全てと端子導出部6bの一部がストラップの内部に埋め込まれているようにした場合は、余分な鉛または鉛合金を使用している可能性が高まる。よって120%以下が望ましい。
【0025】
端子導出部6bの一部または全部との曲げ角が、15度以上50度以下である、端子傾斜部6aの一部または全部の面積は、端子傾斜部6aの2割以上が好ましい。より好ましくは、5割以上、さらに好ましくは8割以上である。面積が一定の割合を持つことで、鉛の流れが向上するとともに、ストラップの端で溶接される確率が減り、生産性が向上する効果が強く得られるためである。
端子傾斜部6aの一部または全部との曲げ角が、15度以上50度以下である、端子導出部6bの一部または全部は、成形点6cと隣接していることが望ましい。
【0026】
端子傾斜部6a上の、端子導出部6bの一部または全部との曲げ角が15度以上50度以下でない部分は、制御弁式鉛蓄電池の壁面や蓋と接しない程度の屈曲等を有しても良い。例えば、端子傾斜部6a上の、前記曲げ角が15度以上50度以下の部分と、成形点6cを、を最短距離でつなぐ線分を有する面の上側と下側の双方に、該線分の長さと同じ曲率半径から無限大の曲率半径内で接続する面であると良いが、階段の段差のような形状でも構わない。他の例として、端子傾斜部6aは、平型端子の端部に鉤上の屈曲部を有することもある。鉤は曲面でも良い。鉤は複数個でも良い。
【0027】
端子導出部6bは、好ましくは、1または複数の屈曲を持つ。制御弁式鉛蓄電池に平型端子を溶接させ、制御弁式鉛蓄電池を正立させたとき、端子導出部の上方の一端には、成形点6cが存在する。
【0028】
端子導出部6bは、平板状の部分を有する。平板状とは、平板からなる状態のことである。ただし、微細な凹凸や、切り欠きが存在しても良く、位置によって平板の太さや幅の変化があっても良い。
端子傾斜部6aは、例えば平板状の部分でありうる。曲がった板状の部分でもありうる。
成形点6c近傍の端子傾斜部6aと端子導出6bが弧を描く場合もある。
端子傾斜部6aは屈曲等を有しても良いが、鉛または鉛合金に溶接されていない部分に屈曲が存在し、それが端子導出部6bの平板状の部分の中心よりストラップ側に位置するときは、鉛または鉛合金に最も近い屈曲は成形点6cとみなす。端子傾斜部6aの全てと端子導出部6bの平板状の部分の一部が鉛または鉛合金に埋め込まれている場合、端子導出部6bの鉛合金に埋め込まれていない端部に最も近い、鉛または鉛合金に溶接されている屈曲は成形点6cとみなす。鉛または鉛合金に埋め込まれている部分とは、平型端子の両側が鉛または鉛合金で融着されている部分を指す。
【0029】
本実施の形態では、端子傾斜部分6aのストラップの内部に埋め込まれている割合は端子傾斜部分6a全体の30%以上である。この30%の部分は、両面がストラップNSを形成している物質である鉛または鉛合金と接合している。また、本実施の形態では、埋込点Bからストラップの下面の短手方向の右端までの距離は5mmである。
【0030】
平型端子6の最も好ましい形態は、図4のような形態である。具体的には、凹凸等を有さない平板状の部分を有し、成形点6cは1ヶ所の屈曲であり、複数回の屈曲等を有する導出部を有するものである。この形態が好ましいのは、本発明の効果を得ながらも、単純に加工ができて経済的であり、加えて、導出部が端子を制御弁式鉛蓄電池の壁に接しながら支持することで大幅な端子の傾きを防いで破損を防ぎ、外部との接続も容易にさせるためである。
【0031】
なお、本明細書中において、特に指定のない場合、面と面の角度とは、面の双方を延長させた際、鋭角又は直角となる方の角度のことを指す。したがって、特に指定のない場合、面と面の角度の最大値は90度である。ただし、端子導出部6bの一部または全部と端子傾斜部6aの一部または全部の曲げ角とは、制御弁式鉛蓄電池を正立させたとき、端子導出部6bの一部または全部を上方に延長したときの端子導出部6bの一部または全部の上方を起点に端子傾斜部6aの一部または全部がどの程度下方に傾いているかを指す。したがって、端子導出部6bの一部または全部と端子傾斜部6aの一部または全部の曲げ角の最大値は180度である。
さらに、本明細書中において、特に指定のない場合、長さとは、曲面上の2点、曲面上の直線と曲面上の1点、曲面と交わる面と曲面上の1点を指定したどの場合でも、曲面に沿った距離を指し、曲面を無視した最短距離は意味しない。特に指定のない場合、長さは、平型端子6の、一面に沿って測るものとする。
【0032】
<電槽の製造>
本発明の平型端子6を備えた鉛蓄電池の製造に当たり、次のように電槽を用意する。
合成樹脂製の成形電槽として、例えばPPを材料とし、電槽の内部を十字状の仕切壁により長さ方向に3つのセル室が2列に並ぶ6セル室から成り、且つ長さ方向の一端の端壁の外面に長矩形板状の平型端子6の下端側を挿入し且つ保持する端子ホルダーを一体に形成されたモノブロック電槽1を作製する。一方、これに施される電槽蓋として、例えばABSを材料として成形するに当たり、電槽の周側壁及び中間の仕切壁の上端の被接着壁部と該仕切壁の上方を直交して相隣るセル室間の極板群の正極耳群4aと負極耳群4bを接続するそれぞれのストラップとを収容すると共にこれらを接着固定するための接着剤を充填するための各凹部とモノブロック電槽1の一方又は他方の端壁の上端の被接着壁部とモノブロック電槽1の端に位置するセル室内の極板群の正極耳群4aと負極耳群4bとモノブロック電槽1の端壁に沿い配設する正,負極平型端子6の上端部とを収容すると共に、これらを接着固定するための接着剤を充填するための凹部を裏面に形成した筐型の電槽蓋を用意する。この構成は、周知の構造の電槽及び電槽蓋である。
【0033】
<端子の製造>
本発明に用いる平型端子6を用意する。
平型端子6は、導電性を有する金属または合金からなり、1枚の金属または合金の板を複数回屈曲させて作成されたものが一般的であるが、鋳造されたものでも良い。導電性を有する金属または合金の例として、鉛、鉛合金、銅、黄銅などが挙げられる。中でも黄銅が好ましい。平型端子6の厚みは0.4mm~1.0mmであるのが好ましい。平型端子6の幅は2.5mm~5mmであるのが好ましい。平型端子6の長さは、曲面上の距離ではなく、一方の端部から他方の端部までの全長で、15mm~35mmであるのが好ましい。
平型端子6は、後述のように、鉛または鉛合金により、電槽1の蓋部で電極群と溶接され、電極群と電気的に接続されることが予定されている。その際、1個の制御弁式鉛蓄電池に対し、正極の端子として利用される平型端子6と、負極の端子として利用される平型端子6の2種が必要とされるため、1個の制御弁式鉛蓄電池には最低でも2個の平型端子6が配置される。また、電池サイズによっては、1個の制御弁式鉛蓄電池に対し、端子が3個以上存在する場合もあるが、偶数個であることが好ましい。
本発明では、平型端子の全てが前述のとおりの形状となっていることが望ましいが、全てが前述の通りの形状でなくとも構わない。
【0034】
<制御弁式鉛蓄電池の製造>
鉛または鉛合金から成る格子基板にペースト状活物質を充填して成る正極板と、鉛または鉛合金から成る格子基板にカーボンを含むペースト状活物質を充填して成る負極板とを即用化成したものをガラス繊維を主とするリテーナマットを介して積層して極板群を形成し、次いで、該極板群を高圧迫状態で電槽1内に収納して施蓋封口した後、該電槽1内に、上記のように、希硫酸電解液を注入して充電し、最後に、蓋に設けられた注液や排気用の開口部に制御弁を覆い被せることによって、制御弁式鉛蓄電池が製造される。制御弁は、通常は、蓄電池内部の気密を保つために閉じており、充電時等に蓄電池の内圧が上昇したときに開いて圧を逃がすものである。
【0035】
ここで、極板群の電槽1内への収納は極板群を高圧迫状態、即ち、40~100kPa、好ましくは40~70kPaに保持して実施される。上記下限未満では、正極活物質の軟化抑制効果が弱くなり、一方、上記上限を超えては、電槽1への極板群の挿入が困難になり、また、正極板及び負極板間の距離が短くなって短絡し易くなる。
なお、極板群の圧縮(圧迫)については、極板群の最外部極板の両面を平滑な板を用いて平行に挟み、その外側からプレス機を用いて極板群を挟んだ板に対して垂直に圧をかけ、極板群の厚さを挿入する電槽1内寸と同じ幅となるように圧迫し、この状態で極板群のみを電槽1内に挿入する。
【0036】
本発明において、鉛又は鉛合金から成る格子基板にペースト状活物質を充填して成る正極板、鉛又は鉛合金から成る格子基板にカーボンを含むペースト状活物質を充填して成る負極板、及び、ガラス繊維を主とするリテーナマットとしては、公知の方法で製造した公知のものを使用することができる。ここで、負極板に充填されるペースト状活物質に含まれるカーボン量は、負極活物質量に対して、好ましくは0.01~5.0質量%である。上記上限を超えては、電槽1化成中におけるカーボンの流出を十分に抑制し得ないことがあると共に、負極活物質の強度が低下し活物質が負極から脱落して短絡を生ずることがある。一方、上記下限未満では、負極の充電受入性の向上を十分に達成し得ない。また、これら正極板及び負極板は、常法に従って、リテーナマットを介して交互に積層して極板群を形成し、上記の群圧で電槽1に組み込む。
【0037】
その後、キャストオンストラップ方式により、制御式鉛蓄電池を倒立させた状態で、平型端子6と電槽1と蓋と極板群の耳とを正極、負極双方で溶接し、ストラップとする。溶接の際の鉛または鉛合金の量は倒立時の下部から2~5mmとなる量とするのが良い。ストラップの材質は鉛または鉛合金であり、最も好ましいのは、鉛合金である。
常法に従って希硫酸電解液を注入し、所定の充電電流で電槽化成を行い、その後、電解液量が目標液量、例えば、極板群の高さの110%となるように電解液を補液し、補充電を行い制御弁式鉛蓄電池が製造される。
【0038】
(実施例1)
図4に示す形状の平型端子、つまり、曲がり部は屈曲を1ヶ所のみ有し、端子傾斜部の全部と端子導出部の一部の曲げ角が20度であり、複数回の屈曲を有する導出部を有する平型端子を用意した。このとき、平型端子の成形点から平型端子の溶接側の端部までの長さが4mmであった。厚みは0.5mm、幅は4.4mm、全長は28mm、材質は黄銅であった。
【0039】
正極板用としての鉛を主成分とする格子基板に、常法に従って作製した正極活物質ペーストを充填した。一方、負極板用としての鉛を主成分とする格子基板には、常法に従って作製した負極活物質ペーストに、カーボンを負極活物質量に対して1.0質量%添加した負極活物質ペーストを充填した。次いで、常法に従って、これらを熟成及び乾燥、化成をして、正極板及び負極板を作製した。これら正極板1枚及び負極板2枚を、主にガラス繊維を抄造して成るリテーナマットを介して交互に積層して、同極性同士の極板の耳部を溶接によって接続することにより極板群を形成した。このときの正極活物質の理論容量は負極活物質の理論容量の1.5倍であった。次いで、該極板群を、電池1つにつき6個、モノブロック電槽1に組み込んだ。
次いで、キャストオンストラップ方式により、制御式鉛蓄電池を倒立させた状態で、平型端子6と電槽1と蓋と極板群の耳とを、正極、負極双方に1回ずつ鉛で溶接し、ストラップとした。正極、負極にそれぞれに、平型端子は1個ずつとした。溶接の際の鉛の量は倒立時の下部から厚さ3.5mmとなる量とした。
以上の通りの作成途中の制御式鉛蓄電池を計100個作成した。
【0040】
100個の作成途中の制御式鉛蓄電池を用意した後、埋め込みの浅い電池と良品とを選別した。その際、平型端子6の成形点が溶接の際に使用した鉛等に埋め込まれているか、埋め込まれていないにしても、曲がり部と前記平板部の堺から、埋め込まれている部分と埋め込まれていない部分の境界までの長さが2.8mm未満のものを良品とした。成形点が溶接の際に使用した鉛等に埋め込まれておらず、成形点から埋め込まれている部分と埋め込まれていない部分の境界までの長さが2.8mm以上のものを埋め込みの浅い電池とした。良品は、B面を含む前記平型端子の一面において、溶接側の平型端子の一端から成形点の長さに対し、該一端から溶接部の鉛または鉛合金で溶接されている部分と溶接されていない部分との境界までの長さが、30%以上である制御弁式鉛蓄電池である。また、鉛量が適していたため、全ての制御弁式鉛蓄電池は、溶接部側の平型端子の一端から曲がり部と前記平板部の堺までの長さに対し、該一端から溶接部の鉛または鉛合金で溶接されている部分と溶接されていない部分との境界までの長さが120%未満であった。
結果、2個が埋め込みの浅い電池であった。
なお、作成途中の制御式鉛蓄電池に対し、上述の工程を経て制御弁式鉛蓄電池を完成させることができる。具体的には、制御式鉛蓄電池を正立させて所定の濃度の希硫酸電解液を注入し、充電を実施して、12V-2Ahの制御弁式鉛蓄電池を製造する。
【0041】
(実施例2)
端子傾斜部の全部と端子導出部の一部の曲げ角を図1の通りとせずに30度とした平型端子を用いたことと以外は、実施例1と同様の制御式鉛蓄電池を100個作成した。
結果、7個が埋め込みの浅い電池であった。
【0042】
(実施例3)
端子傾斜部の全部と端子導出部の一部の曲げ角を図1の通りとせずに40度とした平型端子を用いたこと以外は、実施例1と同様の制御式鉛蓄電池を100個作成した。
結果、15個が埋め込みの浅い電池であった。
【0043】
(実施例4)
端子傾斜部の全部と端子導出部の一部の曲げ角を図1の通りとせずに50度とした平型端子を用いたこと以外は、実施例1と同様の制御式鉛蓄電池を100個作成した。
結果、17個が埋め込みの浅い電池であった。
【0044】
(実施例5)
端子傾斜部の全部と端子導出部の一部の曲げ角を図1の通りとせずに15度とした平型端子6を用いたこと以外は、実施例1と同様の制御式鉛蓄電池を100個作成した。
結果、5個が埋め込みの浅い電池であった。
【0045】
(実施例6)
図5に示すような、平型端子が屈曲を2ヶ所有し、端子導出部の一部と、最も端子導出部の溶接側の端部に近い屈曲と最も端子傾斜部の端部に近い屈曲との間の面との角度が10度であり、最も端子導出部の溶接側の端部に近い屈曲と最も端子傾斜部の端部に近い屈曲との間の面と端子傾斜部の一部の角度が10度であり、端子傾斜部の一部と端子導出部の一部の曲げ角が20度の平型端子を用いたこと以外は、実施例1と同様の制御式鉛蓄電池を100個作成した。なお、最も平板部の端部に近い屈曲部と最も溶接部の端部に近い屈曲部との距離は、2mmであった。
結果、10個が埋め込みの浅い電池であった。
【0046】
(実施例7)
図6に示すような、平型端子が屈曲を2ヶ所有し、端子導出部の一部と、最も端子導出部の溶接側の端部に近い屈曲と最も端子傾斜部の端部に近い屈曲との間の面との角度が90度であり、最も端子導出部の溶接側の端部に近い屈曲と最も端子傾斜部の端部に近い屈曲との間の面と端子傾斜部の一部の角度が70度であり、端子傾斜部の一部と端子導出部の一部の曲げ角が20度の平型端子を用いたこと以外は、実施例1と同様の制御式鉛蓄電池を100個作成した。なお、最も端子導出部の端部に近い屈曲と最も端子傾斜部の端部に近い屈曲との距離は、1.3mmであった。
結果、8個が埋め込みの浅い電池であった。
【0047】
(実施例8)
図7に示すような、成形点周辺が曲面であり、端子傾斜部の一部と端子導出部の一部の曲げ角が20度となる平型端子6を用いたこと以外は、実施例1と同様の制御式鉛蓄電池を100個作成した。
結果、10個が埋め込みの浅い電池であった。
【0048】
(実施例9)
図8に示すような、端子導出部の一部に鉤を有し、端子傾斜部の一部と端子導出部の一部の曲げ角が20度となる平型端子6を用いたこと以外は、実施例1と同様の制御式鉛蓄電池を100個作成した。
結果、7個が埋め込みの浅い電池であった。
【0049】
(比較例1)
端子傾斜部の全部と端子導出部の一部の曲げ角を図1の通りとせずに10度とした以外は、実施例1と同様の制御式鉛蓄電池を100個作成した。
結果、5個が埋め込みの浅い電池であった。また、ストラップとの接触がとれず、外れる現象が30個に確認された。
【0050】
(比較例2)
端子傾斜部の全部と端子導出部の一部の曲げ角を図1の通りとせずに55度とした以外は、実施例1と同様の制御式鉛蓄電池を100個作成した。
結果、20個が埋め込みの浅い電池であった。
【0051】
<考察>
比較例1、2においては、実施例1~9の最小値5個よりも多い20個以上の埋め込み具合の浅い電池が確認された。本発明の提案する角度である20度~50度の範囲から外れた結果、溶接時の鉛または鉛合金の流れが悪く、良好な埋め込みが行われなかったためであると考えられる。
また、実施例6、7により、複数の屈曲部を有しても本発明の効果は得られることが示された。さらに、実施例8、9により、端子傾斜部の全てが平板状でなくとも本発明の効果は得られることが示された。
以上より、本発明の構成による制御弁式鉛蓄電池によって、生産性の向上が図れることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、生産性の向上した制御弁式鉛蓄電池が生産できる。
【符号の説明】
【0053】
1: 電槽
2: 仕切壁
3: セル室
4: 極板群
4a: 正極耳群
4b: 負極耳群
5: 端子ホルダー
6: 平型端子
6a: 端子傾斜部
6b: 端子突出部
6c: 成形点
PS: 正極ストラップ
NS: 負極ストラップ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8