(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001262
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】レンズ及びレンズ成形型
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20241225BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20241225BHJP
C03B 11/00 20060101ALI20241225BHJP
C03B 11/08 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
G02B7/02 B
G02B3/00 Z
C03B11/00 A
C03B11/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100752
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(72)【発明者】
【氏名】山中 賢治
【テーマコード(参考)】
2H044
【Fターム(参考)】
2H044AB19
(57)【要約】
【課題】光学性能を確保しながらレンズ保持部分を小型軽量化できるレンズを提供する。
【解決手段】ガラスのプレス成形品であり、光軸方向の両側にレンズ面(43、44)を有し、プレス成形に伴う形状誤差を許容する体積吸収部(46、47)をレンズ面の周囲に有する光学機能部(41)と、光学機能部のガラスとは異なる材質からなり、光学機能部と結合されるコバ部(42)と、を備え、コバ部は、光軸を中心とする筒状をなし光学機能部の外周面を囲んで固定される筒部(42a)と、筒部の光軸方向の長さよりも光軸方向の厚みが小さく、筒部の外周面から光軸直交方向に延設された環状部(42b)と、を備え、筒部の光軸方向の長さLと、環状部の光軸直交方向の幅Wが、W/L≧0.8を満たすレンズ。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスのプレス成形品であり、光軸方向の両側にレンズ面を有し、プレス成形に伴う形状誤差を許容する体積吸収部を前記レンズ面の周囲に有する光学機能部と、
前記光学機能部の前記ガラスとは異なる材質からなり、前記光学機能部と結合されるコバ部と、を備え、
前記コバ部は、
光軸を中心とする筒状をなし、前記光学機能部の外周面を囲んで固定される筒部と、
前記筒部の光軸方向の長さよりも光軸方向の厚みが小さく、前記筒部の外周面から光軸直交方向に延設された環状部と、を備え、
前記筒部の光軸方向の長さLと、前記環状部の光軸直交方向の幅Wが、下記条件(1)を満たすことを特徴とするレンズ。
(1)W/L≧0.8
【請求項2】
前記筒部の光軸方向の長さLと、前記環状部の光軸直交方向の幅Wが、下記条件(2)を満たすことを特徴とする、請求項1に記載のレンズ。
(2)W/L≦10
【請求項3】
前記コバ部は金属製であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のレンズ。
【請求項4】
前記環状部は、前記筒部の外周面の光軸方向の一端から光軸直交方向に延設されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のレンズ。
【請求項5】
前記コバ部は、前記筒部の内周面が黒化処理されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のレンズ。
【請求項6】
前記コバ部は、前記筒部と前記環状部との外面全体が黒化処理されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のレンズ。
【請求項7】
下型と上型を接近させて、請求項1又は2に記載の前記レンズをプレス成形するレンズ成形型であって、
前記下型は、
前記光学機能部の前記レンズ面を形成するレンズ形成面の周囲に位置し、前記コバ部の前記環状部を保持する環状部保持面と、
前記環状部保持面の周囲に位置し、前記環状部保持面よりも上方に突出する環状の堰き止め凸部と、を有し、
前記下型と前記上型を接近させて前記レンズをプレス成形する際に、前記堰き止め凸部によって前記環状部の外縁位置を定めることを特徴とするレンズ成形型。
【請求項8】
前記上型は、
前記光学機能部の前記レンズ面を形成するレンズ形成面の周囲に位置し、前記コバ部の前記筒部の外周面の位置を定める筒部形成面と、
前記筒部形成面の周囲に位置し、前記下型の環状部保持面及び堰き止め凸部に対向する対向面と、を有する、請求項7に記載のレンズ成形型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ及びレンズ成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンなどの携帯型の電子機器への撮像手段の搭載が広く普及しており、撮像手段を小型で高性能なものにしたいという要求が高くなっている。そして、撮像手段を構成するレンズについては、光学的な性能が高いことや、レンズを保持する保持部材に対して高精度に位置決めできることなどを満たしつつ、できるだけ小型且つ軽量にすることが求められている。
【0003】
一般的に、レンズは、レンズ面を有して光学的に機能する本体部分の周縁にコバ部を有し、コバ部を保持部材に固定させて位置が定められる。レンズの位置は、光軸方向の位置と、光軸に垂直な方向の位置と、光学系の光軸に対する傾きとで管理される。例えば、コバ部が、光軸方向の前後の少なくとも一方に、光軸に対して垂直な平面を有しており、この平面を基準として光軸方向のレンズ位置を定める。また、コバ部が、光軸を囲む円筒状の外周面を有しており、この外周面を基準として光軸に垂直な方向(以下、光軸直交方向と呼ぶ)のレンズ位置を定める場合もある。
【0004】
レンズを位置決めする別の形態として、コバ部が、光軸に対して平行でも垂直でもないテーパ面を備えていて、このテーパ面を基準として、光軸方向の位置と光軸直交方向の位置をまとめて管理することも行われている。
【0005】
レンズの小型化や軽量化の一環として、コバ部を光軸方向に薄型化することが望まれている。しかし、以下のような理由によって、ガラスレンズにおけるコバ部の形状や構造の自由度には制約があり、コバ部を十分に薄型化することが難しかった。
【0006】
ガラスプリフォームを成形型でプレス成形して製造されるガラスモールドレンズでは、ガラスプリフォームの容量や供給位置、成形型の内部空間(型空間)の体積などに関する各種の誤差を吸収するために、コバ部に体積吸収部を設定している。体積吸収部は、上記の各種誤差に応じた形状のばらつきを許容する部分であり、変動する型空間体積の下限時であり且つガラス体積の上限時に角部コーナーR値を許容最小値になるように設定し、該体積の上下変動の中心値を設計中心となるように角部コーナーR値を設定している。
【0007】
体積吸収部は形状のばらつきを許容する部分であるため、コバ部のうち体積吸収部の領域は、保持部材に対するレンズの位置決めには使用できない。コバ部においてレンズの位置決めに使用する面積が十分に確保されないと、レンズの位置精度やレンズの安定性が悪くなる。従って、コバ部には、精度の高い位置決めを実現できる寸法を持たせた上で、さらに成形時の誤差吸収を行う体積吸収部の寸法を加える必要があり、コバ部の小型化が制約されていた。
【0008】
また、ガラスモールドレンズでは、厚みが小さく、角度変化が急峻な部分において、割れや破損が生じやすいという課題がある。そのため、コバ部自体の強度を確保する必要からコバ部の薄型化が制約されていた。
【0009】
ガラスモールドレンズの成形の際に、成形型内に狭い空間があるとガラスプリフォームを延展させにくいので、ガラスプリフォームの低粘度化のために温度を高くする必要がある。そのため、薄型化したコバ部を形成するためには、レンズ面の形成に必要な温度よりも高い温度までガラスプリフォームを加熱することになり、レンズ面の精度や外観品質が悪化するおそれがある。
【0010】
以上のような理由から、ガラスモールドレンズでのコバ部の薄型化には限界があり、その解決が求められていた。コバ部に依存せずにレンズの位置決めを行う技術として、金属などの別材料からなる枠部材(ホルダ)をレンズの外周部分に設け、プレス成形によって、レンズを成形すると共に枠部材と一体化させることが知られている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平3-167514号公報
【特許文献2】特許第3679489号公報
【特許文献3】特開2008-88027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1の発明では、ガラス製のモールドレンズにおいて非球面レンズ面の外側に、光軸に対して垂直な平面を含むコバ部を有し、コバ部の外側に金属製の枠部材が設けられている。そのため、ガラスモールドレンズの製造上の制約によってコバ部の薄型化が難しいという上記の問題を解決できるものではなかった。
【0013】
また、特許文献1、2及び3を含めて、ガラスモールドレンズの外周側に枠部材を設けている従来技術では、ガラスモールドレンズや枠部材の寸法関係などについて、光学性能を損なわずにレンズ保持部分の小型化や軽量化を実現するための具体的な条件が提示されていなかった。
【0014】
本発明は、以上の問題意識に基づいてなされたものであり、光学性能を確保しながらレンズ保持部分を小型軽量化できるレンズを提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、レンズ保持部分を小型軽量化したレンズを高精度に製造することができるレンズ成形型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様のレンズは、ガラスのプレス成形品であり、光軸方向の両側にレンズ面を有し、プレス成形に伴う形状誤差を許容する体積吸収部を前記レンズ面の周囲に有する光学機能部と、前記光学機能部の前記ガラスとは異なる材質からなり、前記光学機能部と結合されるコバ部と、を備え、前記コバ部は、光軸を中心とする筒状をなし、前記光学機能部の外周面を囲んで固定される筒部と、前記筒部の光軸方向の長さよりも光軸方向の厚みが小さく、前記筒部の外周面から光軸直交方向に延設された環状部と、を備え、前記筒部の光軸方向の長さLと、前記環状部の光軸直交方向の幅Wが、下記条件(1)を満たすことを特徴とする。
(1)W/L≧0.8
【0017】
前記筒部の光軸方向の長さLと、前記環状部の光軸直交方向の幅Wが、下記条件(2)を満たすことが好ましい。
(2)W/L≦10
【0018】
前記コバ部は金属製であることが好ましい。
【0019】
前記環状部は、前記筒部の外周面の光軸方向の一端から光軸直交方向に延設されていることが好ましい。
【0020】
前記コバ部は、前記筒部の内周面が黒化処理されていることが好ましい。
【0021】
前記コバ部は、前記筒部と前記環状部との外面全体が黒化処理されていてもよい。
【0022】
本発明の一態様のレンズ成形型は、下型と上型を接近させて、前記レンズをプレス成形するレンズ成形型であって、前記下型は、前記光学機能部の前記レンズ面を形成するレンズ形成面の周囲に位置し、前記コバ部の前記環状部を保持する環状部保持面と、前記環状部保持面の周囲に位置し、前記環状部保持面よりも上方に突出する環状の堰き止め凸部と、を有し、前記下型と前記上型を接近させて前記レンズをプレス成形する際に、前記堰き止め凸部によって前記環状部の外縁位置を定めることを特徴とする。
【0023】
前記上型は、前記光学機能部の前記レンズ面を形成するレンズ形成面の周囲に位置し、前記コバ部の前記筒部の外周面の位置を定める筒部形成面と、前記筒部形成面の周囲に位置し、前記下型の環状部保持面及び堰き止め凸部に対向する対向面と、を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、レンズ面及び体積吸収部を有する光学機能部と、光学機能部の外側に設けられるコバ部と、によってレンズを構成し、コバ部が、光学機能部の外周面を囲んで固定される筒部と、筒部の外周面から光軸直交方向に突出する環状部とを備え、さらに筒部の光軸方向の長さと環状部の光軸直交方向の幅について所定の条件を満たすことによって、光学性能を確保しながらレンズ保持部分を小型軽量にできるレンズを得ることが可能である。
【0025】
また、本発明によれば、上記のレンズを高精度に製造するレンズ成形型を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】従来のガラスモールドレンズをプレス成形するレンズ成形型を示す断面図である。
【
図2】従来のガラスモールドレンズをプレス成形する工程を示す断面図である。
【
図3】従来のガラスモールドレンズをプレス成形する工程を示す断面図である。
【
図4】従来のガラスモールドレンズの断面図である。
【
図5】本実施形態のレンズをプレス成形するレンズ成形型を示す断面図である。
【
図6】本実施形態のレンズをプレス成形する工程を示す断面図である。
【
図7】本実施形態のレンズをプレス成形する工程を示す断面図である。
【
図10】本実施形態のレンズを鏡筒に取り付けたレンズユニットの断面図である。
【
図11】本実施形態のレンズを鏡筒に取り付けたレンズユニットの断面図である。
【
図12】コバ部の筒部の内周面を黒化処理したレンズを示す断面図である。
【
図13】コバ部の外面全体を黒化処理したレンズを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
まず、
図1から
図4を参照して、従来のガラスモールドレンズとその製造について説明する。
図1から
図3は、レンズ成形型10の構成及び動作を示しており、
図4は、レンズ成形型10によって形成されたガラスモールドレンズ20を示している。
【0028】
レンズ成形型10は、胴型11と下型12と上型13とによって構成されている。胴型11は円筒形状であり、円筒面である内周面11aによって囲まれる内部空間を有する。レンズ成形型10の中心軸X1は、内周面11aの中心を通って上下方向に延びる軸線である。胴型11の下端面11bと上端面11cはそれぞれ、中心軸X1に対して垂直な面である。胴型11の内部空間は、上下方向に貫通して下端面11bと上端面11cに開口している。
【0029】
下型12は、胴型11の内部空間に対して下方から挿入される挿入部12aと、挿入部12aの下部に設けられて挿入部12aよりも大径の大径部12bとを有する。上型13は、胴型11の内部空間に対して上方から挿入される挿入部13aと、挿入部13aの上部に設けられて挿入部13aよりも大径の大径部13bとを有する。挿入部12aと挿入部13aのそれぞれの外周面は、胴型11の内周面11aに対して、上下方向に摺動が可能であり、中心軸X1と垂直な方向には移動が規制される。つまり、下型12と上型13の中心が中心軸X1に一致するように調芯された状態で、胴型11に対して下型12と上型13が上下方向に移動可能である。
【0030】
下型12は、挿入部12aの上端にプレス面14を有する。プレス面14は、凹型のレンズ形成面14aと、レンズ形成面14aの周囲に位置するコバ形成面14bと、を備えている。上型13は、挿入部13aの下端にプレス面15を有する。プレス面15は、凹型のレンズ形成面15aと、レンズ形成面15aの周囲に位置するコバ形成面15bと、を備えている。
【0031】
下型12は、大径部12bが下端面11bに当て付く位置まで、胴型11に挿入可能である。上型13は、大径部13bが上端面11cに当て付く位置まで、胴型11に挿入可能である。胴型11に対して下型12と上型13がそれぞれ最も挿入される位置を、プレス移動端と呼ぶ。
図1に示すように、下型12と上型13がそれぞれのプレス移動端に達した状態で、プレス面14とプレス面15が上下方向に所定の間隔を空けて対向し、プレス面14とプレス面15と内周面11aとに囲まれる型空間S1が形成される。
【0032】
レンズ成形型10を用いてガラスモールドレンズ20を成形する際には、
図2に示すように、ガラスモールドレンズ20の母材となるガラスからなる球体状のガラスプリフォームPF1を、下型12のプレス面14に載せる。レンズ形成面14aの凹み形状によって、ガラスプリフォームPF1が中心軸X1上の位置に保持される。下型12は、大径部12bを下端面11bに当接させたプレス移動端に保持され、挿入部12aが胴型11から離脱しないように下型12が下方から支持される。なお、プレス面14上へのガラスプリフォームPF1の供給は、胴型11から挿入部12aを下方に抜いた状態で行ってもよいし、胴型11に挿入部12aを挿入した状態で胴型11の上端側から行ってもよい。
【0033】
ガラスプリフォームPF1を、ガラス転移温度を超えるまで加熱して軟化させ、挿入部13aを胴型11に挿入した状態の上型13を下方に向けて押圧する。下降する上型13のプレス面15と、下降が規制された下型12のプレス面14との間でガラスプリフォームPF1がプレスされ、ガラスプリフォームPF1が変形する。
【0034】
上型13を
図3に示すプレス移動端まで下降させると、ガラスプリフォームPF1は型空間S1に対応した形状になる。そして、所定の温度まで冷却してからレンズ成形型10を分解することによって、成形後のガラスモールドレンズ20を取り出すことができる。ガラスモールドレンズ20は、プレス面14とプレス面15と内周面11aの面形状がそれぞれ転写されたレンズである。
【0035】
ガラスモールドレンズ20の光軸Xaに沿う方向を光軸方向とし、光軸Xaに対して垂直な方向を光軸直交方向とする。光軸直交方向は、ガラスモールドレンズ20の径方向と呼ぶこともできる。
【0036】
図4に示すように、ガラスモールドレンズ20は、光軸方向の両側(表裏)に、レンズ形成面14aの面形状が転写された凸状のレンズ面21と、レンズ形成面15aの面形状が転写された凸状のレンズ面22とを有している。ガラスモールドレンズ20はさらに、レンズ面21及びレンズ面22の周囲に環状のコバ部23を有している。コバ部23は、コバ形成面14bの面形状が転写された第1平面23aと、コバ形成面15bの面形状が転写された第2平面23bと、胴型11の内周面11aの面形状が転写された外周面23cと、によって囲まれる部位である。第1平面23a及び第2平面23bは光軸Xaに対して垂直な平面であり、外周面23cは光軸Xaを中心とする円筒面である。
【0037】
レンズ成形型10を用いてガラスモールドレンズ20を製造する際には、ガラスプリフォームPF1の容量誤差、レンズ成形型10の型空間S1の体積誤差、ガラスプリフォームPF1の供給位置の偏り、などの各種誤差が発生する。ガラスモールドレンズ20は、これらの誤差の影響を吸収するための体積吸収部24と体積吸収部25を、コバ部23の外周角部に有している。
【0038】
具体的には、体積吸収部24は、第1平面23aと外周面23cをそのまま延長して交差させた場合の角形状よりも内側を通る角丸形状(コーナーR形状)になるように、第1平面23aと外周面23cを接続したものである。体積吸収部25は、第2平面23bと外周面23cをそのまま延長して交差させた場合の角形状よりも内側を通る角丸形状(コーナーR形状)になるように、第2平面23bと外周面23cを接続したものである。体積吸収部24と体積吸収部25は、上記の各種誤差に応じた形状のばらつきを許容する部分である。従って、
図4に示す体積吸収部24や体積吸収部25の形状は一例であり、誤差の程度によって体積吸収部24や体積吸収部25の形状が異なる。そして、体積吸収部24と体積吸収部25を備えることによって、ガラスモールドレンズ20の他の部分を高精度に形成することができる。
【0039】
その一方で、体積吸収部24と体積吸収部25の箇所では、レンズユニットの鏡筒に対してガラスモールドレンズ20の位置決めを行うことができないので、コバ部23に体積吸収部24や体積吸収部25を設けることで、コバ部23のうちガラスモールドレンズ20の位置決めの基準となる面の大きさが相対的に小さくなる。例えば、光軸直交方向でのコバ部23の幅が一定の場合、光軸直交方向での体積吸収部24や体積吸収部25の形成範囲が大きくなるほど、光軸直交方向での第1平面23aや第2平面23bの幅が小さくなる。第1平面23aや第2平面23bを用いて、光軸方向でのガラスモールドレンズ20の位置決めを行う場合、第1平面23aや第2平面23bの光軸直交方向での幅が小さくなると、ガラスモールドレンズ20をレンズユニットの鏡筒に取り付けた場合に位置決めの精度や保持の安定性が悪くなるおそれがある。また、光軸方向でのコバ部23の厚みが一定の場合、光軸方向での体積吸収部24や体積吸収部25の形成範囲が大きくなるほど、コバ部23において外周面23cの光軸方向長さが小さくなる。外周面23c用いて、光軸直交方向でのガラスモールドレンズ20の位置決めを行う場合、外周面23cの光軸方向長さが小さくなると、ガラスモールドレンズ20をレンズユニットの鏡筒に取り付けた場合に位置決めの精度や保持の安定性が悪くなるおそれがある。
【0040】
従って、コバ部23には、位置決め機能を得るための十分な寸法を持たせた上で、さらに体積吸収部24と体積吸収部25による誤差吸収機能を得るための寸法を持たせる必要があり、コバ部23の小型化が制約されていた。換言すれば、ガラスモールドレンズ20の位置決め機能と成形時の誤差吸収機能とをコバ部23に集約させていたことが、コバ部23の小型化の制約要因の一つであった。
【0041】
また、一般的に、ガラスモールドレンズでは、厚みが小さく且つ角度変化が急峻な部分において、割れや破損が生じやすい。
図4に示すガラスモールドレンズ20の場合、凸状のレンズ面21と第1平面23aとの境界部分や、凸状のレンズ面22と第2平面23bとの境界部分が、特に割れや破損の発生しやすい部分である。そのため、仮に上記の体積吸収部24や体積吸収部25による制約に関わらずコバ部23を光軸方向で薄型化したとしても、コバ部23の厚みが小さくなるほど割れや破損のリスクが高くなるという問題がある。従って、ガラスモールドレンズ20では、コバ部23自体の強度を確保する観点からも、コバ部23の小型化(特に、光軸方向での薄型化)が制約されていた。
【0042】
また、ガラスモールドレンズの成形の際には、レンズ成形型の空間内でのガラスプリフォームの流動性に留意する必要がある。
図1に示すレンズ成形型10の型空間S1では、レンズ形成面14aとレンズ形成面15aの間の中央部分ではスペースが広く、コバ形成面14bとコバ形成面15bの間の周縁部分ではスペースが狭くなっている。
【0043】
プレス時に型空間S1の周縁の狭い空間にガラスプリフォームPF1を延展させるには、ガラスプリフォームPF1を低粘度化させる必要がある。つまり、ガラスモールドレンズ20において有効径部分(レンズ面21及びレンズ面22の範囲)よりも光軸方向に薄いコバ部23を形成するためには、低粘度化させたガラスプリフォームPF1を型空間S1の周縁の狭い空間に延展させる必要がある。そして、コバ部23の形成箇所の低粘度化のために、レンズ面21やレンズ面22の形成箇所を延展させるのに必要な温度(例えば、第1温度とする)よりも高い温度(例えば、第2温度とする)までガラスプリフォームPF1の温度を高める必要がある。第1温度で形成が可能なレンズ面21やレンズ面22を、第1温度よりも高い第2温度で形成すると、成形後の熱収縮の影響が大きくなり、第1温度で形成した場合よりもレンズ面21、22の精度や外観品質が悪化する可能性がある。
【0044】
コバ部23を光軸方向で薄型化させるほど、型空間S1内でコバ部23を形成するための空間が狭くなってガラスプリフォームPF1を延展させにくくなり、成形時におけるガラスプリフォームPF1のより一層の低粘度化(すなわち高い温度への加熱)が必要になる。その結果、レンズ面21やレンズ面22の精度や外観品質の確保が難しくなる。つまり、レンズ面21やレンズ面22を含むガラスモールドレンズ20の有効径部分の品質確保の観点からも、コバ部23の小型化(特に、光軸方向での薄型化)が制約されていた。
【0045】
また、薄く割れやすいコバ部23の箇所にガラスプリフォームPF1を延展させる場合の対策として、割れを抑制する離型膜を設けることや、割れにくくさせるための表面処理をガラスプリフォームPF1に行うことが知られている。しかし、このような割れを回避するための離型膜や表面処理を施すと、ガラスモールドレンズ20の外面に曇りが生じやくなったり、ガラスモールドレンズ20の外面の面精度が不安定になったりするという問題がある。
【0046】
レンズ成形型10によってガラスモールドレンズ20を成形する際に、上型13を下降させてガラスプリフォームPF1を加圧すると、上型13のレンズ形成面15aからガラスプリフォームPF1に加えられる圧力により、ガラスプリフォームPF1の外周部が上方に向かって湾曲して、ガラスプリフォームPF1の外周部がその内周側よりも先にレンズ形成面15aに接触する場合がある。あるいは、ガラスプリフォームPF1の外周部が下方に向かって湾曲して、ガラスプリフォームPF1の外周部がその内周側よりも先にレンズ形成面14aに接触する場合がある。このような場合、ガラスプリフォームPF1とレンズ形成面15aとの間や、ガラスプリフォームPF1とレンズ形成面14aとの間に気体が封入され、いわゆるガストラップが発生してしまう。ガストラップはガラスモールドレンズ20の形状不良の原因になる。
【0047】
ガストラップを回避するためには、ガラスプリフォームPF1の曲率半径を、レンズ成形型10のレンズ形成面14aやレンズ形成面15aの曲率半径よりも所定以上小さくする必要がある。しかし、コバ部23の体積分を含むガラスモールドレンズ20を形成するためには、必要なガラスプリフォームPF1の体積が大きくなり、ガラスプリフォームPF1の曲率半径を小さく設定することが難しい。そして、上記の様々な理由から、コバ部23を小型化することには限界があり、ガラスプリフォームPF1の量を少なくしてガストラップの回避を図るという対策には限界がある。
【0048】
図4に示すガラスモールドレンズ20とは異なり、コバ部に複数の段差形状を設け、位置決め機能部と体積吸収部とを区分けしたタイプのガラスモールドレンズが知られている。また、コバ部における位置決め機能部から光軸方向に突出する形状の体積吸収部を設けたタイプのガラスモールドレンズが知られている。これらの各タイプのガラスモールドレンズでは、体積吸収部あるいは位置決め機能部が屈曲した異形状のコバ部になるため、強度的に不利になったり、位置決め機能部を高精度に成形しにくくなったりする。
【0049】
本発明は、以上のような従来のガラスモールドレンズの各種の問題点に鑑みて、光学性能を確保しながらレンズ保持部分を小型化や軽量化できるレンズを提供するものである。また、このようなレンズを高精度に製造可能なレンズ成形型を提供するものである。ガラスのプレス成形品からなりレンズ面を含む光学機能部と、光学機能部のガラスとは異なる材質からなり光学機能部の外側に設けられるコバ部と、でレンズを構成し、光学機能部には光学的な機能と成形時の誤差吸収機能を満たす必要最小限の構成を備え、レンズの位置決め機能をコバ部に担わせることで、上記の問題点を解消できるという着眼に基づく発明である。
【0050】
続いて、
図5から
図9を参照して、本発明を適用した実施形態に係るレンズとその製造について説明する。
図5から
図7は、レンズ成形型30の構成及び動作を示しており、
図8及び
図9は、レンズ成形型30によって形成された本実施形態のレンズ40を示している。レンズ40の光軸Xbに沿う方向を光軸方向とし、光軸Xbに対して垂直な方向を光軸直交方向とする。光軸直交方向は、レンズ40の径方向と呼ぶこともできる。
【0051】
レンズ成形型30は、胴型31と下型32と上型33とによって構成されている。胴型31は円筒形状であり、円筒面である内周面31aによって囲まれる内部空間を有する。レンズ成形型30の中心軸X2は、内周面31aの中心を通って上下方向に延びる軸線である。胴型31は、胴型下端面31bを下端に有し、胴型上端面31cを上端に有する。胴型下端面31bと胴型上端面31cはそれぞれ、中心軸X2に対して垂直な面である。胴型31の内部空間は、上下方向に貫通して胴型下端面31bと胴型上端面31cに開口している。
【0052】
下型32は、胴型31の内部空間に対して下方から挿入される挿入部32aと、挿入部32aの下部に設けられて挿入部32aよりも大径の大径部32bとを有する。上型33は、胴型31の内部空間に対して上方から挿入される挿入部33aと、挿入部33aの上部に設けられて挿入部33aよりも大径の大径部33bとを有する。挿入部32aと挿入部33aのそれぞれの外周面は、胴型31の内周面31aに対して、上下方向に摺動が可能であり、中心軸X2と垂直な方向には移動が規制される。つまり、下型32と上型33の中心が中心軸X2に一致するように調芯された状態で、胴型31に対して下型32と上型33が上下方向に移動可能である。
【0053】
下型32は、挿入部32aの上端に、レンズ形成面34と、環状部保持面35と、堰き止め凸部36と、を有する。レンズ形成面34が、後述する光学機能部41の形成に関与する面であり、環状部保持面35と堰き止め凸部36が、後述するコバ部42の形成に関与する面である。レンズ形成面34は、中心軸X2上の中心が最も深く、外周側に向けて浅くなる凹型の面である。環状部保持面35は、中心軸X2に対して垂直な面であり、レンズ形成面34の周囲において中心軸X2を中心とする環状の範囲に設けられた、上向きの環状面である。堰き止め凸部36は、環状部保持面35の周囲に形成されており、レンズ形成面34及び環状部保持面35に対して上方に突出する環状の突出部である。堰き止め凸部36の上面は、中心軸X2に対して垂直な環状の面である。堰き止め凸部36の内周面は、中心軸X2を中心とする円筒状の面である。
【0054】
上型33は、挿入部33aの下端に、レンズ形成面37と、筒部形成面38と、対向面39と、を有する。レンズ形成面37が、後述する光学機能部41の形成に関与する面であり、筒部形成面38と対向面39が、後述するコバ部42の形成に関与する面である。レンズ形成面37は、中心軸X2上の中心が最も深く、外周側に向けて浅くなる凹型の面である。筒部形成面38は、レンズ形成面37の外縁から下方に突出する円筒形状の面であり、中心軸X2を中心とする円筒の内周面として形成されている。対向面39は、中心軸X2に対して垂直な面であり、筒部形成面38の周囲において中心軸X2を中心とする環状の範囲に設けられている。つまり、筒部形成面38と対向面39は、レンズ形成面37の周囲において下方へ突出する環状の突出部を構成している。
【0055】
プレス成形でレンズ40を形成する際に、胴型31に対して下型32の挿入部32aと上型33の挿入部33aがそれぞれ最も挿入される位置を、下型32や上型33におけるプレス移動端と呼ぶ。
図5に示すように、下型32と上型33がそれぞれのプレス移動端に達した状態で、レンズ形成面34とレンズ形成面37が上下方向に所定の間隔を空けて対向し、下型32と上型33の間に型空間S2が形成される。型空間S2は、下型32のレンズ形成面34、環状部保持面35及び堰き止め凸部36と、上型33のレンズ形成面37、筒部形成面38及び対向面39と、によって囲まれる空間である。対向面39は、環状部保持面35と堰き止め凸部36の上面の両方に対向している。
【0056】
一例として、大径部32bが胴型下端面31bに当て付く位置を、下型32におけるプレス移動端とすることができる。また、大径部33bが胴型上端面31cに当て付く位置を、上型33におけるプレス移動端とすることができる。あるいは、上型33において、大径部33bが胴型上端面31cに当て付くこと以外の構成によって、プレス移動端を定めてもよい。
【0057】
図8及び
図9に示すように、レンズ40は、ガラス製の光学機能部41と、光学機能部41の外側を囲むコバ部42と、によって構成されている。コバ部42は光学機能部41のガラスとは異なる材質からなり、本実施形態ではコバ部42が金属製である。コバ部42を構成する金属の軟化温度は、光学機能部41を構成するガラスのガラス転移温度と同等以上である。一例として、コバ部42は銅で形成される。
【0058】
コバ部42は、レンズ成形型30を用いて光学機能部41をプレス成形する前に予め準備されており、レンズ40の光軸Xbを中心とする円筒形状の筒部42aと、筒部42aの外周面から光軸直交方向に延設された円環形状の環状部42bと、を有している。筒部42aの光軸方向の長さをL、筒部42aの光軸直交方向の厚さをt1とする。環状部42bの光軸直交方向の幅をW、環状部42bの光軸方向の厚さをt2とする。筒部42aの光軸直交方向の厚さt1は、環状部42bの光軸直交方向の幅Wよりも小さい。環状部42bの光軸方向の厚さt2は、筒部42aの光軸方向の長さLよりも小さい。環状部42bは、筒部42aの外周面の光軸方向の一端から光軸直交方向に延設されており、光軸Xbに沿う断面でコバ部42を断面視すると、
図8に示すようなL字型になっている。
【0059】
レンズ成形型30を用いてレンズ40を成形する際には、
図6に示すように、予めL字型の断面形状に形成されたコバ部42を、レンズ成形型30の内部に取り付ける。コバ部42は、環状部42bの下面を環状部保持面35に載せ、環状部42bの外縁を堰き止め凸部36の内周面に対向させた状態で、下型32に保持される。環状部42bを環状部保持面35により保持することで、中心軸X2に沿う方向でのコバ部42の位置が定まる。また、堰き止め凸部36の内側に嵌るようにコバ部42が保持されるので、中心軸X2に対して垂直な方向におけるコバ部42の取り付け位置を容易に定めることができる。下型32にコバ部42を保持させた状態で、筒部42aはレンズ形成面34の外縁から上方へ突出しており、筒部42aの先端は堰き止め凸部36の上面よりも上方に位置している。また、環状部42bの上面が、堰き止め凸部36の上面とほぼ面一の関係にある。なお、環状部42bの上面が、堰き止め凸部36の上面よりも僅かに上方に突出していてもよい。
【0060】
図6に示すように、レンズ成形型30の内部へコバ部42を設置すると共に、光学機能部41の母材となるガラスからなる球体状のガラスプリフォームPF2を、下型32のレンズ形成面34に載せる。レンズ形成面34の凹み形状によって、ガラスプリフォームPF2が中心軸X2上の位置に保持される。下型32は、大径部32bを胴型下端面31bに当接させたプレス移動端に保持され、挿入部32aが胴型31から離脱しないように下型32が下方から支持される。なお、レンズ形成面34上へのガラスプリフォームPF2の供給は、胴型31から挿入部32aを下方に抜いた状態で行ってもよいし、胴型31に挿入部32aを挿入した状態で胴型31の上端側から行ってもよい。また、
図6ではガラスプリフォームPF2を球体状としているが、球体以外の形状のガラスプリフォームを用いてもよい。
【0061】
ガラスプリフォームPF2を、ガラス転移温度を超えるまで加熱して軟化させ、挿入部33aを胴型31に挿入した状態の上型33を下方に向けて押圧する。下降する上型33のレンズ形成面37と、下降が規制された下型32のレンズ形成面34との間でガラスプリフォームPF2がプレスされ、ガラスプリフォームPF2が変形する。
【0062】
上型33を
図7に示すプレス移動端まで下降させると、ガラスプリフォームPF2は型空間S2に対応した形状の光学機能部41になる。より詳しくは、型空間S2の周縁部分にはコバ部42が配置されているので、型空間S2のうちコバ部42の内側領域で光学機能部41がプレス成形され、光学機能部41の外周部が筒部42aの内周面に密着固定されて、光学機能部41とコバ部42が結合される。
【0063】
また、上型33を下降させると、上型33の筒部形成面38がコバ部42の筒部42aの外周面に接し、対向面39がコバ部42の環状部42bの上面に接する。上型33をプレス移動端まで移動させると、上型33からコバ部42に押圧力が作用し、コバ部42が僅かに塑性変形する。詳しくは、上型33の筒部形成面38によって、筒部42aの外周面の位置が定められて、筒部42aの形状が整えられる。環状部42bは、下型32の環状部保持面35と上型33の対向面39とに挟まれて光軸方向の表裏の面が形成されると共に、堰き止め凸部36の内周面によって外縁位置が定められる。このように、型空間S2において、光学機能部41に加えてコバ部42もプレス成形されて最終的な形状に仕上げられる。
【0064】
以上のように光学機能部41とコバ部42をプレス成形したら、所定の温度まで冷却してからレンズ成形型30を分解することによって、成形後のレンズ40を取り出すことができる。
【0065】
レンズ成形型30を構成する材質よりも熱膨張率が大きい金属によってコバ部42を構成し、ガラスプリフォームPF2を軟化させるために加熱する前の状態で、コバ部42の環状部42bの外縁が、下型32の堰き止め凸部36の内側に僅かなクリアランスをもって配置されてもよい。この場合、加熱でコバ部42が膨張し、熱膨張率の差を利用してコバ部42がレンズ成形型30に密着する。具体的には、コバ部42の膨張によって、コバ部42の環状部42bの外縁が堰き止め凸部36の内周面に密着する。レンズ成形型30の中心軸X2と成形後のレンズ40の光軸Xbとが高精度で合致するようにレンズ成形型30を構成しておくことで、加熱によって膨張するコバ部42が等方的に堰き止め凸部36の内周面に密着して、レンズ成形型30に対する偏心精度が向上し、コバ部42の中心位置を高精度に光学機能部41と同軸化させたレンズ40を得ることができる。
【0066】
以上のようにして、ガラスのプレス成形品である光学機能部41と金属製のコバ部42とからなるハイブリッド構造のレンズ40が形成される。
図8に示すように、レンズ40の光学機能部41は、光軸方向の両側(表裏)に、レンズ形成面34の面形状が転写された凸状のレンズ面43と、レンズ形成面37の面形状が転写された凸状のレンズ面44とを有している。本実施形態のレンズ40は、レンズ面43とレンズ面44がそれぞれ非球面の非球面レンズである。なお、本発明によるレンズは非球面レンズに限定されるものではなく、球面レンズに適用することも可能である。
【0067】
光学機能部41の外周部分は、コバ部42の筒部42aの内周面に密着固定した外周面45になっている。外周面45は、筒部42aの内周面に沿うことで、光軸Xbを中心とする円筒面になっている。筒部42aの光軸方向の長さLは、光学機能部41の外周面45の光軸方向の長さ全体をカバーしており、光学機能部41を成形する際に、筒部42aを超えて光軸直交方向の外側(コバ部42の環状部42b側)にガラスが流出することを防いでいる。従って、筒部42aによって光学機能部41の外周面45の形状が高精度に管理されている。
【0068】
光学機能部41の外周角部には、レンズ成形型30による成形時の誤差の影響を吸収するための体積吸収部46と体積吸収部47とを有している。成形時の誤差とは、ガラスプリフォームPF2の容量誤差、レンズ成形型30の型空間S2の体積誤差、レンズ成形型30へのガラスプリフォームPF2の供給位置の偏り、などである。
【0069】
体積吸収部46は、レンズ面43を設計上のレンズ面形状のまま延長して外周面45と交差させた場合の角形状よりも内側を通る角丸形状(コーナーR形状)になるように、レンズ面43と外周面45の境界部分を接続したものである。体積吸収部47は、レンズ面44を設計上のレンズ面形状のまま延長して外周面45と交差させた場合の角形状よりも内側を通る角丸形状(コーナーR形状)になるように、レンズ面44と外周面45の境界部分を接続したものである。体積吸収部46と体積吸収部47は、上記の各種誤差に応じた形状のばらつきを許容する部分である。従って、
図8に示す体積吸収部46や体積吸収部47の形状は一例であり、誤差の程度によって体積吸収部46や体積吸収部47の形状が異なる。
【0070】
体積吸収部46と体積吸収部47を備えることによって、光学機能部41の他の部分にプレス成形時の誤差の影響が及ぶのを防いで、レンズ面43及びレンズ面44を高精度に形成することができる。また、体積吸収部46と体積吸収部47は、光学機能部41から急峻に突出したり凹んだりする形状ではなく、各レンズ面43、44と外周面45とを滑らかに接続する形状であるため、体積吸収部46と体積吸収部47を起因とする光学機能部41の割れや破損が生じにくい。
【0071】
このように、体積吸収部46及び体積吸収部47によって、光学機能部41のプレス成形に伴う誤差を吸収可能である。また、レンズ40の位置決めのための位置基準面は、光学機能部41ではなくコバ部42が備えている。つまり、レンズ40では、コバ部42が位置決め機能を備え、光学機能部41がプレス成形時の誤差吸収機能を備えるという役割分担がなされている。
【0072】
図10は、レンズ40を組み込んだレンズユニット50を示している。レンズユニット50は、円筒状の鏡筒51を備え、鏡筒51の内部に、光軸方向へ貫通する鏡筒内空間52が形成されている。鏡筒内空間52には、光軸直交方向に延びる位置規制面53と、位置規制面53の外縁から光軸方向に延びる大径円筒面54と、位置規制面53の内縁から光軸方向に延びる小径円筒面55と、が形成されている。大径円筒面54の内径の大きさは、コバ部42における環状部42bの外径(すなわちレンズ40の直径)以上である。
【0073】
レンズ40は、レンズ面44を挿入方向前方に向けて、大径円筒面54の開口端部(位置規制面53とは反対側の端部)から鏡筒51の内部に挿入される。コバ部42の環状部42bが位置規制面53に当接すると、光軸方向へのレンズ40の挿入が規制されて、光軸方向でのレンズ40の位置が定まる。つまり、環状部42bがレンズ40の光軸方向位置を定める位置基準面を構成している。光軸直交方向に延びる環状部42bを介して光軸方向の位置を定めることによって、安定性に優れた精度の高い位置決めを実現できる。
【0074】
鏡筒51に対する光軸直交方向のレンズ40の位置については、コバ部42の筒部42aの外周面と鏡筒51の小径円筒面55との当接によって定めることができる。光軸方向に延びる筒部42aを介して光軸直交方向の位置を定めることによって、安定性に優れた精度の高い位置決めを実現できる。
【0075】
別の形態として、コバ部42の環状部42bの外縁と鏡筒51の大径円筒面54との当接によって、鏡筒51に対する光軸直交方向のレンズ40の位置を定めることも可能である。
【0076】
さらに別の形態として、小径円筒面55や大径円筒面54とコバ部42の外周部分との間に、光軸直交方向の位置を調整可能なクリアランスを設けた上で、鏡筒51に対してレンズ40を固定する際に、光軸直交方向でのレンズ40の位置を定めるような調芯構造を持たせてもよい。
【0077】
このようにして位置を定めたレンズ40を、鏡筒51の内部に固定する。鏡筒51に対するレンズ40の固定は、様々な手段で行うことができる。例えば、位置規制面53に対してコバ部42を接着することが可能である。
【0078】
図11に示すように、鏡筒51の位置規制面53上にネジ孔56を形成し、コバ部42の環状部42bに光軸方向に貫通する貫通孔57を形成し、環状部42bの貫通孔57を通して位置規制面53上のネジ孔56に固定用のネジ58を螺合させて、レンズ40を鏡筒51に固定(ネジ止め)することも可能である。
【0079】
あるいは、鏡筒51にレンズ40を挿入した後に、別の固定部材を鏡筒内空間52に挿入して、位置規制面53と固定部材との間にコバ部42の環状部42bを挟持させてレンズ40を固定することも可能である。
【0080】
図10及び
図11のレンズユニット50では、鏡筒51内にレンズ40だけを配置した例を示しているが、複数枚のレンズによってレンズユニット50の光学系を構成してもよい。この場合、レンズ40の次に鏡筒51へ挿入される別のレンズの光軸方向の位置決めを、コバ部42の環状部42bを基準として(コバ部42の環状部42bに当接させて)行うことも可能である。
【0081】
図4に示すガラスモールドレンズ20のコバ部23は、光学有効径最外周(レンズ面21、22の外縁部分)の厚さを基準としており、当該厚さを維持して光軸直交方向に延設した構造である。コバ部23を含む全体がガラスで形成されるガラスモールドレンズ20では、レンズ面21、22からコバ部23にかけて急峻に形状を変化させると、割れや破損が生じやすくなるので、このように、光学有効径最外周の形状をベースにしてコバ部23全体を形成するという制約がある。さらに、コバ部23では、光軸方向で外周面23cの両側に体積吸収部24と体積吸収部25の分の厚みを必要とする。従って、ガラスモールドレンズ20では、コバ部23の光軸方向厚さを小さくすることが難しい。また、光軸直交方向の途中でコバ部23の光軸方向厚さが急に変化すると、ガラスで形成されたコバ部23の割れや破損が生じやすくなるので、コバ部23の光軸方向厚さは全体的に均一にせざるを得ない。従って、ガラスモールドレンズ20のコバ部23は、部分的に薄型化や肉抜きを行って軽量化を図ることが難しい。
【0082】
本実施形態のレンズ40は、所望の光学性能を得るために、光学機能部41における光学有効径最外周(レンズ面43、44の外縁部分)において、光軸方向の厚みが所定量必要である。つまり、光学機能部41の外周面45の光軸方向の最小厚さは、レンズ40の光学性能による制約を受ける。しかし、ガラスで成形されるのは光学機能部41の部分までであり、光学機能部41の外側のコバ部42については、光学機能部41とは別の材質である金属で形成されるため、光学機能部41の割れや破損のリスクを考慮することなく、コバ部42を高い形状自由度で形成することができる。
【0083】
例えば、レンズ40のコバ部42は、体積吸収部46や体積吸収部47のようなレンズ成形時の誤差吸収用の形状を要さないため、光軸方向でコバ部42を薄型化させやすい。
【0084】
さらに、レンズ40のコバ部42は、光学機能部41の外周面45に沿って光軸方向に延設される筒部42aと、筒部42aの外周面から光軸直交方向に延設される環状部42bと、によって構成されている。光軸直交方向における筒部42aの厚さt1は、光軸直交方向におけるコバ部42全体のサイズ(光学機能部41の外周面45から環状部42bの外縁までの環状部42bの幅W)よりも小さい。また、光軸方向における環状部42bの厚さt2は、光軸方向におけるコバ部42全体のサイズ(筒部42aの光軸方向の長さL)よりも小さい。つまり、コバ部42は、光軸直交方向に薄型の筒部42aと光軸方向に薄型の環状部42bとによって構成されている。従って、光学機能部41の外周面45の光軸方向厚さと同じ厚みのコバ部を光軸直交方向に突出させた構成(ガラスモールドレンズ20のコバ部23のような構成)に比べて、筒部42aと環状部42bからなるL字断面構造のコバ部42は、コンパクトで軽量に構成されている。
【0085】
図8に示す本実施形態のレンズ40のコバ部42と、
図4に示すガラスモールドレンズ20のコバ部23との比較から分かるように、本実施形態のコバ部42は、矩形状断面のコバ部23の一部(二辺)だけを残したような肉抜き構造になっており、コバ部23に比して顕著な軽量化を実現できる。例えば、レンズ40の光学機能部41を、ガラスモールドレンズ20と同じガラス材料で形成した場合に、レンズ40はガラスモールドレンズ20よりも5~10%程度の軽量化を実現できた。
【0086】
その一方で、
図10及び
図11に示すように、レンズ40のコバ部42は、鏡筒51に当接してレンズ40の位置決めを行う部分については、ガラスモールドレンズ20のコバ部23と同等以上の面積が確保されており、コバ部42によってレンズ40を高精度に位置決めすることができる。
【0087】
従って、ガラスモールドレンズ20とレンズ40とで同等の位置精度や安定性を得ようとした場合、ガラスモールドレンズ20のコバ部23よりも、レンズ40のコバ部42の方が小型で軽量に構成することができる。
【0088】
金属製のコバ部42は、ガラスモールドレンズ20に一体形成されるガラス製のコバ部23では加工が困難なレベルの薄型化を容易に実現できる。例えば、光軸直交方向に薄型の筒部42aや、光軸方向に薄型の環状部42bのような構造は、ガラスで高精度に形状することは困難であり、仮にガラスで形成できたとしても破損しやすくなってしまう。これに対して、金属製のコバ部42は、金属板に対するプレス加工などによって、薄型且つ高精度な形状に形成しやすいという利点がある。また、金属製のコバ部42は、ある程度の外力に対しては弾性変形によって形状の復元が可能であるため、コバ部42を薄型化しても割れや回復不能な変形が発生するリスクが少ない。
【0089】
上記のレンズ成形型30によるレンズ40の製造では、筒部42aと環状部42bを予め有するコバ部42を下型32に保持させ、光学機能部41をプレス成形する際に、コバ部42を塑性変形させて最終的な形状に仕上げている。この製造方法によれば、光学機能部41のレンズ面43、44の形状精度と、コバ部42の筒部42a及び環状部42bの形状精度とが、いずれも下型32のプレス面(レンズ形成面34、環状部保持面35、堰き止め凸部36)及び上型33のプレス面(レンズ形成面37、筒部形成面38、対向面39)によってまとめて管理されるので、光学機能部41とコバ部42の相対的な形状精度と、レンズ40全体の形状精度を向上させることができる。
【0090】
さらに、金属製のコバ部42は光透過性を有しないので、レンズ40におけるレンズ面43、44の外側を通る有害光を遮断する遮光効果を得ることができる。例えば、
図4のガラスモールドレンズ20においては、コバ部23が光透過性を有するので、コバ部23に遮光用の塗装を行ったり、遮光部材を貼り付けたりする必要がある。これに対して、レンズ40では、コバ部42自体が遮光性を有することで、そのような手間がかからないという利点がある。
【0091】
なお、コバ部42による遮光性を高めるために、コバ部42の外面に光の反射を抑制する黒化処理を行ってもよい。コバ部42の外面とは、コバ部42が単体の状態(光学機能部41と組み合わされる前の状態)で外観に現れる部分であり、レンズ40が完成した状態で光学機能部41の外周面45と固定される筒部42aの内周面についても、コバ部42の外面に含まれる。外面の黒化処理は、コバ部42の素材である金属(地金)の色や光沢がそのまま外面に露出することを防いで光の反射を低減させるための加工である。なお、黒化処理は、コバ部42の外面を完全に黒色にすることには限定されず、コバ部42の地金が露出する場合に比して所定以上の反射低減効果を発揮するものであればよい。
図12及び
図13は、コバ部42の外面において黒化処理を施した箇所を太線で示している。
【0092】
図12は、コバ部42のうち、筒部42aの内周面に黒化処理を行った例である。光学機能部41を囲む光路の内面を構成する筒部42aの内周面を黒化処理することによって、筒部42aの内周面での内面反射を抑制してレンズ40の光学性能を向上させることができる。
【0093】
図13は、コバ部42の外面全体に黒化処理を行った例であり、筒部42aの内周面、外周面、先端面と、環状部42bの表面、裏面、外縁が、全て黒化処理されている。つまり、コバ部42の全体において、黒化処理されていない部分(地金)が外面に露出しないように構成している。薄型化したコバ部42では、有害な迷光を抑制する効果を高めるために、このように外面全体を黒化処理してもよい。
【0094】
なお、
図10や
図11のようにレンズ40を鏡筒51に組み込んだ際に、コバ部42の筒部42aの外周面と鏡筒51の小径円筒面55が密着して筒部42aの外周面の箇所に光が入り込まない場合においては、筒部42aの内周面と、環状部42bの全体とを黒化処理し、筒部42aの外周面を黒化処理しないという選択も可能である。
【0095】
筒部42aの内周面については、光学機能部41とコバ部42を結合した後では黒化処理を行うのが難しい。そのため、レンズ成形型30を用いて光学機能部41をプレス成形する前の段階、つまりコバ部42が単体の状態で、筒部42aの内周面を黒化処理するとよい。
【0096】
コバ部42のうち、筒部42aの外周面及び先端面と、環状部42bの全体については、光学機能部41とコバ部42を結合した後でも黒化処理が可能である。従って、筒部42aの内周面以外の部分は、レンズ成形型30による光学機能部41のプレス成形の前に黒化処理を行ってもよいし、プレス成形後に黒化処理を行ってもよい。
【0097】
コバ部42の外面に行う黒化処理の方法として、例えば、金属の加熱による酸化、化成処理、メッキ処理、などを適用することができる。金属の加熱による酸化は、酸素を含む雰囲気下で加熱することによって、コバ部42の外面を酸化させ、金属光沢を無くして黒化させる。化成処理の一例として、コバ部42をアルカリ水溶液に浸漬して、コバ部42の外面に黒色の酸化被膜(四三酸化鉄被膜)を形成する。メッキ処理の例として、コバ部42の外面に黒色ニッケルメッキや黒色クロムメッキなどのメッキ加工を行う。また、レンズ成形型30による光学機能部41のプレス成形後は、光学機能部41を軟化させるための加熱を行わず耐熱性の条件が緩和されるので、プレス成形後の黒化処理では、合成樹脂製の黒色塗料の塗布などの方法を用いることも可能である。
【0098】
図9に示すように、コバ部42に情報表示部48を設けてもよい。情報表示部48の例として、レンズ40の周方向の方位など示す基準マーク、製品のシリアル番号、レンズ40のスペックなどの情報を含む二次元コード、などが適用可能である。金属製のコバ部42は情報表示部48を設けやすく、情報表示部48の視認性も高めやすい。情報表示部48を設ける位置は、環状部42bの光軸方向の表面や裏面、筒部42aの外周面などが適している。
【0099】
レンズ40の光学機能部41については、レンズ40の位置決め機能を有さず、光学面として機能するレンズ面43及びレンズ面44をシンプルな外周形状(外周面45、体積吸収部46及び体積吸収部47)で接続した構造である。そのため、光学機能部41では、
図4のガラスモールドレンズ20におけるコバ部23のような薄型の突出部分が存在せず、且つ、ガラスモールドレンズ20におけるレンズ面21と第1平面23aの境界のように面の角度が急峻に変化する箇所が存在せず、ガラスモールドレンズ20に比して割れや破損のリスクが抑えられ、強度的に有利である。
【0100】
また、レンズ成形型30において型空間S2の外周側領域にはコバ部42が配置されており、型空間S2の外周側へのガラスプリフォームPF2の延展を筒部42aが堰き止めるので、成形時に型空間S2の外周側の狭い空間にガラスプリフォームPF2を延展させる必要がない。そのため、外観や面精度において高品質を要求される光学有効エリア(レンズ形成面34、レンズ形成面37によって形成されるレンズ面43、レンズ面44)内のガラスプリフォームPF2の延展を、比較的低い温度(ガラスプリフォームPF2のガラス転移温度に近い値)で実現することができ、光学機能部41における外観や面精度の高品質化に有利となる。
【0101】
さらに、光学機能部41にはコバ部23のような割れやすい部分が無いので、レンズ成形型30で光学機能部41を成形する際に、割れを抑制するための離型膜の設置やガラスプリフォームPF2の特殊な表面処理などの対策が不要である(あるいは対策を軽減できる)。その結果、離型膜や表面処理を起因とする光学機能部41の外面の曇りや面精度の不安定化が発生せず、この点においても、光学機能部41における外観や面精度の高品質化に有利となる。
【0102】
図4のガラスモールドレンズ20におけるレンズ面21及びレンズ面22と、
図8のレンズ40におけるレンズ面43及びレンズ面44は、ほぼ同一の設計形状であるが、
図2と
図6との比較から分かる通り、レンズ40の光学機能部41の形成に用いるガラスプリフォームPF2は、ガラスモールドレンズ20の形成に用いるガラスプリフォームPF1よりも少量で済む。また、少量であるガラスプリフォームPF2は、ガラスプリフォームPF1に比して曲率半径が小さい球状体であるため、ガラスプリフォームPF1からガラスモールドレンズ20のレンズ面21及びレンズ面22を作成するよりも、ガラスプリフォームPF2からレンズ40のレンズ面43及びレンズ面44を作成する方が、プレス時のガストラップの発生リスクが軽減される。また、ガラスプリフォームPF1よりも小さいガラスプリフォームPF2を用いることによって、レンズ設計形状の自由度を高めることができる。
【0103】
以上のように、本実施形態のレンズ40は、ガラス製の光学機能部41と、光学機能部41のガラスとは異なる材質(金属製)からなるコバ部42とを組み合わせて構成したことにより、光学機能部41における光学性能の高さ及び強度の確保と、コバ部42の小型軽量化とを両立させることができ、比較対象として示したガラスモールドレンズ20に比べて様々な利点が得られる。
【0104】
さらに、上記のように、コバ部42を筒部42aと環状部42bにより構成にしたことにより、レンズ40の位置決め性能を損なうことなく、コバ部42を薄型且つ軽量にすることができる。
【0105】
より詳しくは、レンズ40において以下の条件を満たすことが好ましい。まず、レンズユニット50の鏡筒51のような保持部材に対してレンズ40の位置を定める機能については、コバ部42のみが備えるものとする。
【0106】
光学機能部41は、光学的に機能する部分であるレンズ面43及びレンズ面44を含む領域と、コバ部42に対して固定される外周面45と、光学機能部41のプレス成形時の誤差を吸収するための体積吸収部46及び体積吸収部47だけを備えており、鏡筒51のような保持部材に対してレンズ40の位置を定める機能を備えない。光学機能部41の形状的な条件として、単にレンズ位置を定める機能を備えないというだけではなく、コバ部42の環状部42bにおける表面や裏面のような光軸に直交する面を含まない。つまり、光学機能部41は、既存のガラスモールドレンズにおけるコバ部に類する形状を含んでいない。
【0107】
図8に示すように、コバ部42において、筒部42aの光軸方向の長さをL、環状部42bの光軸直交方向の幅をWとする。ここで、以下の条件(1)、(2)を満たすことが望ましい。
(1)W/L≧0.8
(2)W/L≦10
【0108】
コバ部42の筒部42aは、光学機能部41の外周面45と結合して、光学機能部41とコバ部42を同軸化させる役割を有しているため、高精度な結合を実現するべく、筒部42aは所定以上の光軸方向の長さLを備えることが求められる。詳しくは、筒部42aの光軸方向の長さLは、光学機能部41の外周面45の光軸方向の長さと同程度であることが好ましい。光学機能部41の外周面45に対して筒部42aが短すぎると、互いの結合精度が確保できず、光学機能部41とコバ部42が適切に同軸化されなくなるおそれがある。あるいは、レンズ成形型30でのプレス成形時に、ガラスプリフォームPF2の一部が筒部42aよりも外周側に流出して、光学機能部41の形状精度が低下するおそれがある。
【0109】
ここで、条件(1)を外れると、筒部42aの光軸方向の長さLに比べて、光軸直交方向での環状部42bの幅Wが不足して、環状部42bを鏡筒51の位置規制面53に当接させた際に姿勢が不安定になり、レンズ40の正確な位置を定めることができなくなるおそれがある。従って、筒部42aに関して必要十分な光軸方向の長さLを確保した上で、条件(1)を満たすことが求められる。
【0110】
条件(1)について、より好ましくは、W/L≧1.5を満たすとよい。本実施形態のレンズ40では、W/Lの値が約1.5である。
【0111】
環状部42bの外縁がレンズ40の最外周であるため、環状部42bの光軸直交方向の幅Wは、レンズ40の径に影響を及ぼす。条件(2)を外れると、筒部42aの光軸方向の長さLに対して、環状部42bの光軸直交方向の幅Wが非常に大きく、コバ部42を含めたレンズ40の径が大きくなり過ぎて、レンズ40を収容する光学機器(鏡筒51など)の小型化を妨げるおそれがある。あるいは、光軸直交方向での環状部42bの面積が広すぎると、環状部42bにおける位置決め用の面の精度管理(平面度の確保など)の難度が高くなり、環状部42bを用いたレンズ40の位置決めの精度に悪影響を及ぼすおそれがある。従って、レンズ40を搭載する光学機器の小型化や、光学機器内でのレンズ40の位置精度の管理のしやすさを考慮した場合、条件(2)を満たすことが好ましい。
【0112】
条件(2)について、より好ましくは、W/L≦5を満たすとよい。
【0113】
但し、光学機器の内部に十分なスペースの余裕があり、レンズ40の径寸法に関する制約が厳しくない場合は、条件(2)を満たしていなくてもよい。
【0114】
また、光軸直交方向での環状部42bの面積が広い場合に、環状部42bのうち特定の箇所に位置決め用の突起などを追加で設けることによって、位置決め用の部位の精度管理を行いやすくできる。よって、このような対策が可能である場合にも、条件(2)を除外することが可能である。
【0115】
このように、本実施形態のレンズ40の構成を採用し、且つ条件(1)や条件(2)を満たすことによって、光学性能を損なわずに、従来のガラスモールドレンズに比べてコバ部42の小型化及び大幅な軽量化を実現できる。
【0116】
コバ部42を構成する筒部42aと環状部42bの厚さt1、t2(板厚)は、加工のしやすさや強度などを考慮して適切な値に設定される。本実施形態のレンズ40は、筒部42aの光軸直交方向の厚さt1と、環状部42bの光軸方向の厚さt2が、いずれも約0.5mmである。
【0117】
筒部42aの厚さt1や環状部42bの厚さt2が大きすぎると、コバ部42をL字型断面の肉抜き構造にしたことによる軽量化の効果が少なくなってしまう。また、レンズ成形型30によるプレス成形でコバ部42を塑性変形させる場合に、筒部42aの厚さt1や環状部42bの厚さt2が大きすぎると、変形させにくかったり、不規則な変形(ヒケなど)が発生したりして、プレス成形後のコバ部42の形状精度が悪くなるおそれがある。
【0118】
筒部42aの厚さt1や環状部42bの厚さt2が小さすぎると、コバ部42の剛性が不足して、光学機能部41の保持やレンズ40の位置決めに必要な精度や強度が得られなくなるおそれがある。例えば、筒部42aが薄すぎると、不規則に変形して光学機能部41との同軸化が損なわれてしまうおそれがある。環状部42bが薄すぎると、不規則に変形してレンズ40を適切に位置決めできなくなるおそれがある。
【0119】
図8に示すように、コバ部42の環状部42bの外縁によって規定されるレンズ40全体の直径を外径Dと定義する。コバ部42の筒部42aの内周面(光学機能部41の外周面45)によって規定される光学機能部41の直径を面径dと定義する。光学機能部41のうち、体積吸収部46と体積吸収部47が形成される径方向領域を除いた部分の直径(光学的に有効なレンズ面43、44の直径)を有効径eと定義する。体積吸収部46と体積吸収部47が形成される径方向領域の光軸直交方向の寸法を誤差吸収幅Rとする。コバ部42の光軸方向の最大の厚みは、筒部42aの光軸方向の長さLによって規定される。
【0120】
外径Dと筒部42aの光軸方向の長さL(コバ部42の光軸方向の最大厚)ついて、以下の条件(3)又は(4)を満たすことが望ましい。
(3)2mm≦D≦5mmにおいて、
0.15≦L≦0.35
(4)D>5mmにおいて、
0.15+(D-5)×0.03≦L≦0.15+(D-5)×0.07
【0121】
条件(3)、(4)は、レンズ40の直径に対するコバ部42の光軸方向の適正な最大厚の範囲を示したものである。条件(3)、(4)の下限値を下回ると、レンズ40の位置決め精度や保持の安定性、コバ部42の強度などに影響が生じるおそれがある。
【0122】
条件(3)、(4)の上限値を上回ると、コバ部42が光軸方向に厚くなり薄型化の要求を満たさない。例えば、筒部42aの光軸方向の長さLが大きすぎると、レンズユニット50の鏡筒51に組み込んだ場合に、コバ部42が占める光軸方向のスペースが大きくなりすぎて、レンズユニット50を大型化させてしてしまうおそれがある。
【0123】
このように、条件(3)、(4)を満たすことで、コバ部42の強度や精度を確保し且つコバ部42を薄型化できる。換言すれば、光学機能部41とコバ部42からなるレンズ40を採用することによって、無理なく条件(3)、(4)を満たすことができる。
【0124】
レンズ40のレンズ面43、44と同等形状のレンズ面21、22を有するガラスモールドレンズ20(
図4)では、条件(3)、(4)に相当する範囲の厚みでコバ部23を形成すると、コバ部23又はその周囲で割れや形状不良が生じる確率が高まる、あるいは、コバ部23を介したレンズの位置決め精度が低下する確率が高まる。
【0125】
このように、本実施形態のレンズ40の構成を採用し、且つ条件(3)又は(4)を満たすことによって、光学性能を損なわずに、従来のガラスモールドレンズに比べてコバ部42の薄型化を実現できる。
【0126】
なお、上記条件(3)、(4)とは異なる付加的条件として、プレス成形時のレンズ成形型30の動作精度や安定性の観点から、レンズ40における筒部42aの光軸方向の長さLの上限値は、外径Dの40%以下であることが好ましい。この上限値を超える厚みをコバ部42が有している場合、レンズ成形型30の内部にコバ部42を配置した際に、上型33の挿入部33aと胴型31の内周面31aとの嵌合長や、下型32の挿入部32aと胴型31の内周面31aとの嵌合長が小さくなり、プレス成形時に中心軸X2に対する上型33や下型32の傾きが発生するリスクが高くなる。特に、外径Dが小さいレンズ40ほど、レンズ成形型30の各部が小型になるので、その傾向が強まる。従って、上記の上限値以下に筒部42aの光軸方向の長さLを設定することで、レンズ成形型30の各部の嵌合長を確保して、プレス成形の加工精度を向上させる効果が得られる。
【0127】
また、レンズ40の光学機能部41について、面径dと有効径eが以下の条件(5)、(6)、(7)、(8)のいずれかを満たすことが望ましい。
(5)2mm≦e≦5mmにおいて、(d-e)≦0.5mm
(6)5mm<e≦10mmにおいて、(d-e)≦0.7mm
(7)10mm<e≦15mmにおいて、(d-e)≦0.9mm
(8)15mm<e≦20mmにおいて、(d-e)≦1.1mm
【0128】
条件(5)、(6)、(7)、(8)は、光学機能部41における面径dと有効径eの差の適正値を示したものである。条件(5)、(6)、(7)、(8)のいずれかを満たすことによって、所定の有効径eの光学機能部41をプレス成形する際に想定される範囲の体積誤差を、体積吸収部46及び体積吸収部47によって確実に吸収可能であり、成形不良を生じずに、高い精度や外観品質のレンズ面43及びレンズ面44を備えた光学機能部41を作ることができる。
【0129】
なお、
図8に示すように、レンズ40における面径dと有効径eの差は、誤差吸収幅R×2とほぼ等しい。そして、誤差吸収幅Rについて、以下の条件(9)、(10)、(11)又は(12)を満たすことが望ましい。
(9)2mm≦D≦5mmにおいて、R≦0.23mm
(10)5mm<D≦10mmにおいて、R≦0.35mm
(11)10mm<D≦15mmにおいて、R≦0.45mm
(12)15mm<D≦20mmにおいて、R≦0.55mm
【0130】
光軸直交方向のコバ部42の寸法(
図8に示す環状部42bの光軸直交方向の幅W)は、(D-d)/2で求められる。本実施形態のレンズ40は、コバ部42の薄型化を実現しつつ、環状部42bの光軸直交方向の幅Wと筒部42aの光軸方向の長さLの寸法関係について高い自由度を得ることが可能であるが、以下の条件(13)を満たすことにより、レンズ40の軽量化や、鏡筒51に組み込む際のレンズ40の姿勢安定性が達成されやすくなる。
(13)0.5≦{(D-d)/2}/L≦30
【0131】
条件(13)の範囲内における{(D-d)/2}/Lの下限値は、好ましくは1.0、より好ましくは1.5、さらに好ましくは2.0である。また、条件(13)の範囲内における{(D-d)/2}/Lの上限値は、好ましくは20、より好ましくは10、さらに好ましくは5である。
【0132】
上記実施形態のレンズ40では、コバ部42の材質を金属としたが、本発明を適用するレンズのコバ部の材質として金属以外を選択することも可能である。例えば、コバ部をセラミックスで構成してもよい。この場合、コバ部を構成するセラミックスの熱膨張率は、レンズ成形型を構成する材質の熱膨張率を上回っていることが好ましい。これにより、レンズの光学機能部を成形する際に、セラミックス製のコバ部が膨張してレンズ成形型に密着して、レンズ成形型に対する偏心精度が向上し、コバ部と光学機能部を高精度に同軸化させたレンズを得ることができる。
【0133】
上記実施形態のコバ部42は、L字型の断面構造であり、筒部42aの光軸方向の一端から環状部42bが延設されており、筒部42aの光軸方向の他端は、光軸方向に向く端面として完結した形状になっている。当該形状のコバ部42は、プレス加工によって製造しやすいという利点がある。しかし、上記実施形態のコバ部42とは異なる形状のコバ部を適用することも可能である。
【0134】
例えば、変形例として、筒部42aの光軸方向の他端(環状部42bが延設する一端側とは反対の端部)から、レンズ40の径方向の中心側(光軸Xbに近付く側)に突出する環状のフランジを設けてもよい。つまり、コバ部の断面形状は、
図8のようなL字型ではなく、クランク型(S字型)であってもよい。このフランジは、光学機能部41の周縁の一部(体積吸収部47付近)を覆う形状になり、筒部42aの内面で反射する光線の進行を遮る遮光部として機能させることができる。
【0135】
別の変形例として、筒部42aの光軸方向の途中の位置から環状部42bが光軸直交方向に突出する構造(T字型の断面構造)のコバ部を適用することも可能である。このようなT字型の断面構造のコバ部であっても、
図4に示すガラスモールドレンズ20のコバ部23に比べて、小型軽量化の効果を得ることができる。
【0136】
また、上記実施形態のコバ部42の環状部42bは、光軸方向の両側の面(表面、裏面)が互いに平行な平面であるが、環状部42bの一部に凹みや切り欠きが存在してもよい。また、上記実施形態のコバ部42の筒部42aは、光軸Xbを中心とする周方向の全体に連続する完全な筒形状であるが、筒部42aの途中に凹みや切り欠きが存在してもよい。これらの場合、凹みや切り欠きを除いたコバ部42の各部の残存部分を基準として、レンズ40の外径やコバ部42の寸法が規定される。
【0137】
本発明の実施の形態は上記実施形態やその変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施形態をカバーしている。
【符号の説明】
【0138】
30 :レンズ成形型
31 :胴型
32 :下型
33 :上型
34 :レンズ形成面
35 :環状部保持面
36 :堰き止め凸部
37 :レンズ形成面
38 :筒部形成面
39 :対向面
40 :レンズ
41 :光学機能部
42 :コバ部
42a :筒部
42b :環状部
43 :レンズ面
44 :レンズ面
45 :外周面
46 :体積吸収部
47 :体積吸収部
48 :情報表示部
50 :レンズユニット
51 :鏡筒
52 :鏡筒内空間
53 :位置規制面
54 :大径円筒面
55 :小径円筒面
56 :ネジ孔
57 :貫通孔
58 :ネジ
L :筒部の光軸方向の長さ
PF2 :ガラスプリフォーム
S2 :型空間
W :環状部の光軸直交方向の幅
X2 :レンズ成形型の中心軸
Xb :光軸
t1 :筒部の光軸直交方向の厚さ
t2 :環状部の光軸方向の厚さ