(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012672
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】腸内有機酸増進製剤
(51)【国際特許分類】
A23K 10/16 20160101AFI20250117BHJP
A23K 20/153 20160101ALI20250117BHJP
【FI】
A23K10/16
A23K20/153
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115687
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100113398
【弁理士】
【氏名又は名称】寺崎 直
(72)【発明者】
【氏名】橋本 唯史
(72)【発明者】
【氏名】杉山 慎治
(72)【発明者】
【氏名】永田 龍次
(72)【発明者】
【氏名】福島 道広
(72)【発明者】
【氏名】韓 圭鎬
【テーマコード(参考)】
2B150
【Fターム(参考)】
2B150AA02
2B150AA06
2B150AB20
2B150AC26
2B150AE03
2B150AE05
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2B150BC03
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2B150DD12
2B150DE01
2B150DF05
2B150DG40
2B150DH13
(57)【要約】
【課題】酵母を利用して新たな有用製剤を提供することにある。また、酵母を利用して、家畜などの非ヒト哺乳類の生産または育成に有用な新たな製剤を提供することにある。
【解決手段】酵母細胞壁成分および分子量5,000~100,000の核酸を含有し、非ヒト哺乳類に経口投与する製剤であって、腸内における所定の有機酸を増進させるために用いる製剤とする。ここで、所定の有機酸は炭素数2又は3の有機酸であり、例えば、酢酸、プロピオン酸、および乳酸などが挙げられる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸内有機酸増進製剤であって、前記有機酸の炭素数は2又は3であり、前記製剤は、酵母細胞壁成分および分子量5,000~100,000の核酸を含有し、非ヒト哺乳類に経口投与する、前記製剤。
【請求項2】
前記有機酸が、乳酸および/またはプロピオン酸である、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記酵母細胞壁成分は、β-グルカンを含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
前記製剤中の前記酵母細胞壁成分の含有量が、3~40重量%である、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
前記核酸が、酵母由来のリボ核酸である、請求項1に記載の製剤。
【請求項6】
前記製剤中の前記リボ核酸の含有量が、3~50重量%である、請求項5に記載の製剤。
【請求項7】
前記酵母細胞壁成分の表面に前記酵母由来のリボ核酸が付着した製剤である、請求項5に記載の製剤。
【請求項8】
更に、リグニンスルホン酸を含有する、請求項1に記載の製剤。
【請求項9】
前記腸が、盲腸である、請求項1に記載の製剤。
【請求項10】
前記非ヒト哺乳類が、家畜類に属する動物である、請求項1に記載の製剤。
【請求項11】
前記非ヒト哺乳類が、ウシ科、イノシシ科、ウマ科、ラクダ科、クマ科、シカ科、ネコ科、イヌ科、ヒトを除く霊長目、ネズミ目、ウサギ目、または海洋哺乳類に属する動物である、請求項1に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、腸内有機酸増進製剤に関し、詳しくは、非ヒト哺乳類の腸内において所定の有機酸を増進させるために用いる経口投与製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食物繊維は、ヒトの消化酵素では消化されず小腸を通過して大腸に到達する。摂取された食物繊維はヒトの大腸に構成される腸内細菌叢によって発酵され、それにより短鎖脂肪酸産生を増加させ、腸内pHの低下、有用菌の増殖促進などを誘発する(非特許文献1)。これらの変化は、腐敗代謝物を産生する細菌の増殖抑制(非特許文献2)や腸管免疫機能の向上(非特許文献3)など腸内環境の改善に寄与することが知られている。
【0003】
食品製造において、発酵の工程を必要とするパンやアルコール飲料などの製造に酵母が利用されている。また、酵母はバイオ燃料、化学物質、医薬品など幅広い分野で使用され、研究が進められている(非特許文献4)。酵母の構成成分である細胞壁はβ-グルカン29~64%、マンナン31%、タンパク質13%、脂質9%、キチン1~2%で構成されており(非特許文献5)、食物繊維が豊富である。酵母細胞壁は浸透圧ショックおよび機械的ストレスから細胞を保護し、細胞形態および生命活動を維持する上で重要な役割を果たしている(非特許文献6)。また、酵母細胞壁は発癌性物質のカビ毒を結合させる働きがあり、家畜飼料中に含ませることで飼料中に残存するカビ毒が家畜の健康に及ぼす影響を抑えることが報告された(非特許文献7)。
【0004】
β-グルカンはD-グルコースがβ-グリコシド結合によって結合した食物繊維である。酵母由来のβ-グルカンは30残基の直鎖のβ-1,3結合にβ-1,6結合を介した長い枝が混在した構造をしており、水不溶性を示す(非特許文献8)。以前の研究において高脂肪食誘発肥満マウスモデルへの酵母β-グルカン投与は、腸内細菌叢の改善、肥満による炎症誘発性サイトカイン上昇の抑制、食後血糖値の低下を示した(非特許文献9)。また、高脂肪食誘発肥満ラットへの酵母β-グルカンの長期投与は、腸内細菌叢を変化させて短鎖脂肪酸産生を増加した。さらに、腸内細菌叢の変化を介して肥満を予防した可能性が示唆された(非特許文献10)。酵母細胞壁には水溶性食物繊維のマンナンも含まれており、酵母マンナンは直鎖状のα-1,6マンノシド骨格にα-1,2およびα-1,3マンノシド結合の分岐が存在する構造をしている(非特許文献11)。ヒト糞便を用いたin vitro腸内発酵試験において、酵母マンナンは短鎖脂肪酸産生の増加を示した(非特許文献12)。
【0005】
酵母はタンパク質源を豊富に含むことから、大豆生産が難しい地域において家畜の代替飼料として注目されている(非特許文献13)。動物飼料の栄養食品として、トルラ酵母(Cyberlindnera jadinii)が販売されている。トルラ酵母はタンパク質源としての働きの他に、腸内細菌叢のバランスの改善、高用量では粗タンパク質の消化性の向上、腸の絨毛を高くして栄養素の吸収および腸管の健康に寄与することが報告されている(非特許文献14)。
【0006】
核酸はヌクレオチドで構成されており、多くの生物学的プロセスにおいて重要な役割を担っている。ヌクレオチドは体内合成によるものと食事由来の合成があり、内因性による合成のみでは生理学的機能を果たすには不十分とされている。食事から吸収されたヌクレオチドは免疫機能や胃腸機能を調節し、腸内微生物叢を最適化するための必須栄養素と考えられている。以前の研究において酵母由来ヌクレオチドのニワトリへの給餌は回腸の絨毛の高さを増加し、酵母ヌクレオチドは腸の発達に有用であることが示唆された(非特許文献15)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Topping, D. L. & Clifton, P. M. Short-chain fatty acids and human colonic function: roles of resistant starch and nonstarch polysaccharides. Physiol Rev 81, 1031-1064 (2001).
【非特許文献2】Gibson, G. R., McCartney, A. L. & Rastall, R. A. Prebiotics and resistance to gastrointestinal infections. Br J Nutr 93, S31-S34 (2005).
【非特許文献3】Childers, N. K., Bruce, M. G. & McGhee, J. R. Molecular mechanisms of immunoglobulin A defense. Annu Rev Microbiol 43, 503-536 (1989).
【非特許文献4】Nielsen, J. Yeast systems biology: model organism and cell factory. Biotechnol J 14, (2019).
【非特許文献5】Liu, Y. et al. Structure, preparation, modification, and bioactivities of β-glucan and mannan from yeast cell wall: A review. Int J Biol Macromol 173, 445-456 (2021).
【非特許文献6】Wang, J. et al. Cell wall polysaccharides: before and after autolysis of brewer's yeast. World J Microbiol Biotechnol 34, (2018).
【非特許文献7】Yiannikouris, A., Apajalahti, J., Siikanen, O., Dillon, G. P. & Moran, C. A. Saccharomyces cerevisiae cell wall-based adsorbent reduces aflatoxin B1 absorption in rats. Toxins (Basel) 13, (2021).
【非特許文献8】Kaur, R., Sharma, M., Ji, D., Xu, M. & Agyei, D. Structural features, modification, and functionalities of beta-glucan. Fibers 8, (2020).
【非特許文献9】Cao, Y. et al. Hypoglycemic activity of the Baker's yeast β-glucan in obese/type 2 diabetic mice and the underlying mechanism. Mol Nutr Food Res 60, 2678-2690 (2016).
【非特許文献10】Mo, X. et al. Insoluble yeast β-glucan attenuates high-fat diet-induced obesity by regulating gut microbiota and its metabolites. Carbohydr Polym 281, 119046 (2022).
【非特許文献11】Liu, H. Z., Liu, L., Hui, H. & Wang, Q. Structural characterization and antineoplastic activity of Saccharomyces cerevisiae mannoprotein. Int J Food Prop 18, 359-371 (2015).
【非特許文献12】Oba, S. et al. Prebiotic effects of yeast mannan, which selectively promotes Bacteroides thetaiotaomicron and Bacteroides ovatus in a human colonic microbiota model. Sci Rep 10, (2020).
【非特許文献13】▲Phi▼verland, M. & Skrede, A. Yeast derived from lignocellulosic biomass as a sustainable feed resource for use in aquaculture. J Sci Food Agric 97, 733-742 (2017).
【非特許文献14】Lagos, L. et al. Cyberlindnera jadinii yeast as a protein source for weaned piglets-impact on immune response and gut microbiota. Front Immunol 11, (2020).
【非特許文献15】Wu, C. et al. Effects of dietary yeast nucleotides supplementation on intestinal barrier function, intestinal microbiota, and humoral immunity in specific pathogen-free chickens. Poult Sci 97, 3837-3846 (2018).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおり、酵母の有効活用については様々な研究がなされている。しかしながら、酵母の核酸を一旦細胞壁外へ抽出し、これを改めて酵母細胞壁と混合して調製された酵母製剤について、生体に対する生理作用や腸内細菌叢への影響は未だ詳細には解明されていない点も多い。
【0009】
以上のような状況に鑑み、解決しようとする課題の1つは、酵母を利用して新たな有用製剤を提供することにある。
また、解決しようとする更なる課題の1つは、酵母を利用して、家畜などの非ヒト哺乳類の生産または育成に有用な新たな製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示により提示される発明は、多面的に複数の態様にて把握することができ、課題を解決するための手段として、例えば、下記のように具現化される態様を含みうる。なお、本開示においては、本開示中に提示される発明のことを、包括概念的に又は個々の態様に応じて、簡潔に「本発明」ともいう。
【0011】
〔1〕 腸内有機酸増進製剤であって、前記有機酸の炭素数は2又は3であり、前記製剤は、酵母細胞壁成分および分子量5,000~100,000の核酸を含有し、非ヒト哺乳類に経口投与する、前記製剤。
〔2〕 前記有機酸が、乳酸および/またはプロピオン酸である、上記〔1〕に記載の製剤。
〔3〕 前記酵母細胞壁成分は、β-グルカンを含む、上記〔1〕または〔2〕に記載の製剤。
〔4〕 前記製剤中の前記酵母細胞壁成分の含有量が、3~40重量%である、上記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の製剤。
〔5〕 前記核酸が、酵母由来のリボ核酸である、上記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の製剤。
〔6〕 前記製剤中の前記リボ核酸の含有量が、3~50重量%である、上記〔5〕に記載の製剤。
〔7〕 前記酵母細胞壁成分の表面に前記酵母由来のリボ核酸が付着した製剤である、上記〔5〕または〔6〕に記載の製剤。
〔8〕 更に、リグニンスルホン酸を含有する、上記〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の製剤。
〔9〕 前記腸が、盲腸である、上記〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の製剤。
〔10〕 前記非ヒト哺乳類が、家畜類に属する動物である、上記〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の製剤。
〔11〕 前記非ヒト哺乳類が、ウシ科、イノシシ科、ウマ科、ラクダ科、クマ科、シカ科、ネコ科、イヌ科、ヒトを除く霊長目、ネズミ目、ウサギ目、または海洋哺乳類に属する動物である、上記〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の製剤。
【発明の効果】
【0012】
本開示中に提示される発明の一又は複数の態様において、酵母を利用して新たな有用製剤を提供することができる。
本開示中に提示される発明の一又は複数の態様において、酵母を利用して、家畜などの非ヒト哺乳類の生産または育成に有用な新たな製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
なお、本開示において、本発明に関し「一実施形態」との用語は、特に断らない限り、本発明を詳細に説明する上での任意の一実施形態のことであり、他の又は複数の実施形態の存在を否定または制限するものではない。以下に示すように、本発明には、その範疇に含まれる複数の実施形態がありうる。そして、複数の実施形態は、例えば、本開示中に示される構成要素(又は技術的特徴)の様々な組み合わせなどによる改変形態としても提供されうる。また、本開示において、単に「実施形態」と記載している場合は、特に断らない限り、一又は複数の実施形態を含む。
【0014】
本開示において、特に断らない限り、数値範囲に関し、「AA~BB」という記載は、「AA以上BB以下」を示すこととする(ここで、「AA」および「BB」は任意の数値を示す)。また、下限および上限の単位は、特に断りない限り、双方共に後者(すなわち、ここでは「BB」)の直後に付された単位と同じである。また、本開示において、数値範囲の下限値および上限値の組み合わせは、好ましい数値等として例示的に記載された下限値または上限値の数値群から任意に数値の組み合わせを選択することができる。また、「Xおよび/またはY」との表現は、XおよびYの双方、またはこれらのうちのいずれか一方のことを意味する。
【0015】
本発明の一実施形態として、腸内有機酸増進製剤が提供される。本開示において、腸内有機酸増進製剤とは、腸内の有機酸を増進させるために用いる製剤のことをいう。また、本開示において、「有機酸増進」(又は「有機酸を増進させる」)とは、有機酸の量を何らかの形態で増やすことを意味し、例えば、有機酸の生成量を増やすこと、有機酸の濃度を高めることなどの形態で具現化されうる。
【0016】
本発明の一実施形態である腸内有機酸増進剤は、腸のうちでも盲腸における有機酸の増進用として好適に用いることができる。
【0017】
「有機酸」との用語は、広義には、酸性を呈する有機化合物の総称として用いられているが、本開示においては、狭義に、カルボキシ基(-COOH)を有し、酸性を呈する低分子有機化合物のことを意味する。ここで「低分子」とは、いわゆる「高分子化合物」ではないという程度の意味であり、目安として分子量がおよそ10,000以下の化合物のことを意味する。本発明の好ましい一実施形態おいて、有機酸は、炭素数が2又は3の有機酸、または、カルボキシ基を1つ有し、炭素数が2又は3の有機酸であり、具体例としては、酢酸、乳酸、およびプロピオン酸などを例示することができる。本発明のより好ましい一実施形態として、乳酸および/またはプロピオン酸の増進用製剤を挙げることができる。
【0018】
本発明の一実施形態において、腸内有機酸増進製剤は、酵母細胞壁成分および分子量5,000~100,000の核酸を含有する。
【0019】
核酸は、高分子としての核酸だけではなく、核酸の構成単位であるヌクレオチドであってもよいが、ある程度大きい分子が好適である。好ましい一実施形態としては、例えば、重量分子量(Mw)5,000~100,000の範囲内である核酸分子でありうる。より具体的には、次の通りである。
核酸の重量平均分子量の下限は、好ましくは5,000以上、より好ましくは6,000、7,000、8,000、または9,000以上、更に好ましくは10,000、15,000または20,000以上でありうる。
核酸の重量平均分子量の上限は、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、更に好ましくは、70,000、60,0000、または50,000以下でありうる。
なお、核酸の分子量分布は、例えばGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により求めることができる。
【0020】
核酸を構成する糖の種類は、デオキシリボースおよびリボースのいずれでもよい。すなわち、核酸はデオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)のいずれでもよい。核酸を構成する塩基の種類としては、主にアデニン、グアニン、チミン、シトシン、ウラシルが挙げられ、すなわち核酸を構成するヌクレオシドの種類としては、アデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン、チミジンが挙げられる。ヌクレオチドを構成するリン酸は、一リン酸であっても、複数のリン酸で構成されていてもよい。核酸として、市販品を用いてもよい。核酸は、1種を単独で配合してもよいし、複数種を混合して配合してもよい。核酸として好ましくは、リボ核酸およびヌクレオチドが挙げられ、より好ましくはリボ核酸が挙げられる。
【0021】
核酸の由来は特に制限はなく、人工合成したものでもよいし、天然物由来のものであってもよい。本発明の好ましい一実施形態としては、酵母などの微生物から抽出または精製した核酸を用いうる。酵母などの微生物の体内から体外に抽出または精製された核酸は、体外に露出した状態にあり、腸内有機酸増進製剤を与えられる動物などの対象生物が摂取した際に、吸収されやすい。
【0022】
酵母由来の成分は、酵母自体を入手してもよいし、または酵母を培養して得てもよい。酵母の培養には、特に制限はなく、一般的な方法で培養しうる。本発明の好ましい一実施形態としては、例えば、廃材とされた生物資源、例えば廃材とされた木材に含まれる木質糖分を用いて酵母などの微生物を増殖してもよい。このようにして培養された酵母から核酸を得て、酵母製剤に用いることにより、廃材とされていたものを有用物質に転換することができ、持続可能な循環型社会の形成に寄与することもできる。
【0023】
腸内有機酸増進製剤中における核酸の含有量は、適宜調整してよい。腸内有機酸増進製剤中の核酸の含有量は、好ましくは3~50重量%でありうる。より具体的には、次のとおりである。
腸内有機酸増進剤中における核酸の含有量の下限は、好ましくは3重量%以上、より好ましくは5、6、または7重量%以上、さらに好ましくは8、9、または10重量%以上でありうる。
腸内有機酸増進製剤中における核酸の含有量の上限は、好ましくは50重量%以下であり、当該上限以下において適宜調整してよく、例えば、40、30、25、または20重量%以下でもよい。
【0024】
本発明の好ましい一実施形態としては、上記にて示した好ましい分子量(例えば、5,000~100,000)を有する核酸を、上記にて示した好ましい含有量含んでいる腸内有機酸増進製剤を例示しうる。この場合において、上記にて示した好ましい分子量以外の分子量を有する核酸分子が、腸内有機酸増進製剤中にまったく含まれていないということまでは要しないが、その含有量は少ないことが好ましく、具体的には、上記の好ましい分子量の核酸分子の含有量よりは少ないことが好ましく、より好ましくは1重量%以下でありうる。
【0025】
本発明の一実施形態において、腸内有機酸増進製剤は酵母細胞壁成分を含有する。「酵母細胞壁成分」との用語は、酵母に由来する細胞壁の一部若しくは全体、または繊維質成分を意味する。酵母細胞壁成分は、酵母菌体から核酸を脱核処理して得られる脱核酵母であってもよいし、酵母の外殻形状を留めた細胞壁であってもよいし、または外殻形状を留めない程度にまで細胞壁を粉砕したものであってもよい。本発明で用いられる細胞壁成分は、酵母細胞壁の一部でありうるが、少なくとも繊維質を残していることが望ましい。繊維質を留めていることにより、カビ毒吸着性に優れる。他方、繊維質が残らないほど分解が進んでしまうと、カビ毒吸着性が低下する傾向が強まる。
【0026】
腸内有機酸増進製剤中における酵母細胞壁成分の含有量は、適宜調整してよい。腸内有機酸増進製剤中の酵母細胞壁成分の含有量は、好ましくは3~40重量%でありうる。より具体的には、次のとおりである。
腸内有機酸増進製剤中における酵母細胞壁成分の含有量の下限は、好ましくは3重量%以上であり、より好ましくは5重量%以上であり、さらに好ましくは10重量%以上でありうる。
腸内有機酸増進製剤中における酵母細胞壁成分の含有量の上限は、好ましくは40重量%以下であり、より好ましくは35重量%以下であり、さらに好ましくは30重量%以下でありうる。
【0027】
腸内有機酸増進製剤における、核酸および酵母細胞壁成分の原料として、酵母を好適に用いることができる。用いうる酵母の種類は、有胞子酵母類であっても無胞子酵母類であってもよい。酵母として、具体的には下記のような種類が例示される。
【0028】
有胞子酵母類としては、例えば、シゾサッカロミセス(Shizosaccharomyces)属、サッカロミセス(Saccharomyces)属、クリヴェロミセス(Kluyveromyces)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、ピヒア(Pichia)属、デバリオミセス(Debaryomyces)属、およびリポミセス(Lipomyces)属の酵母が挙げられ、より具体的には、シゾサッカロミセス・ポンビ(Shizosaccharomyces pombe)、シゾサッカロミセス・オクトスポルス(Shizosaccharomyces octosporus);サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)、サッカロミセス・ルーキシイ(Saccharomyces rouxii);クリヴェロミセス・フラギリス(Kluyveromyces fragilis)、クリヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis);ハンゼヌラ・アノマラ(Hansenula anomala);ピヒア・メンブラネファシエンス(Pichia membranaefaciens);デバリオミセス・ハンセニ(Debaryomyces hansenii);およびリポミセス・スタルケイ(Lipomyces starkeyi)などが挙げられる。
【0029】
無胞子酵母類としては、例えば、トルロプシス(Torulopsis)属、カンジダ(Candida)属、およびロードトルラ(Rhodotorula)属の酵母が挙げられ、より具体的には、トルロプシス・ヴェルサテリス(Torulopsis versatilis);カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、カンジダ・ユチリス(Candida utilis);ロードトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)などが挙げられる。
なお、カンジダ(Candida)属の酵母は、分類学上、トルラ酵母(torula yeast)とも言われ、サイバリンドネラ(Cyberlindnera)属の酵母として分類されることがある。
【0030】
用いうる酵母として好ましくは、例えば、ビール酵母、ワイン酵母、パン酵母、トルラ酵母等が挙げられ、より具体的にはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)、サッカロミセス・ルーキシイ(Saccharomyces rouxii)、クリヴェロミセス・フラギリス(Kluyveromyces fragilis)、トルロプシス・ヴェルサテリス(Torulopsis versatilis)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、カンジダ・ユチリス(Candida utilis)、ロードトルラ・グルチニス(Rhodotorula glutinis)などが挙げられる。
なお、カンジダ・ユチリス(Candida utilis)は、分類学上、トルラ酵母の1種として、(Cyberlindnera jadinii)に分類されることがある。
【0031】
本発明の好ましい他の一実施形態において、核酸および酵母細胞壁成分に加え、更にリグニンスルホン酸を腸内有機酸増進製剤に配合しうる。リグニンスルホン酸を配合することにより、酵母を原料とする腸内有機酸増進製剤の腐敗を抑制することができる。
【0032】
リグニンスルホン酸は、リグニンのヒドロキシフェニルプロパン構造の側鎖α位の炭素が開裂してスルホ基が導入された骨格を有する化合物である。リグニンスルホン酸は、塩の形態でありうる。本開示では、特に断らない限り、「リグニンスルホン酸」という用語には、リグニンスルホン酸塩の形態を含みうる。腸内有機酸増進製剤にリグニンスルホン酸を添加するために、リグニンスルホン酸塩を添加してもよい。リグニンスルホン酸塩としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、カルシウム・ナトリウム混合塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩などが挙げられる。リグニンスルホン酸は、例えば、製紙産業で生じる亜硫酸パルプ廃液などから得ることができる。また、本発明において用いられるリグニンスルホン酸は、スルホン基、カルボキシル基、およびフェノール性水酸基等の官能基を有する高分子電解質で変性されたリグニンスルホン酸であってもよい。
【0033】
リグニンスルホン酸を配合する場合、腸内有機酸増進製剤中におけるリグニンスルホン酸の含有量は、適宜調整してよい。腸内有機酸増進製剤中のリグニンスルホン酸の含有量は、好ましくは1~50重量%でありうる。より具体的には、次のとおりである。
腸内有機酸増進製剤中におけるリグニンスルホン酸の含有量の下限は、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは3重量%以上であり、さらに好ましくは5重量%以上でありうる。
腸内有機酸増進製剤中におけるリグニンスルホン酸の含有量の上限は、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下であり、さらに好ましくは30、20、または10重量%以下でありうる。
【0034】
腸内有機酸増進製剤の他の好ましい一実施形態として、更に亜硫酸塩を配合してもよい。亜硫酸塩を配合することは、酸化抑制、または雑菌の繁殖抑制などに寄与しうる。
【0035】
更に、腸内有機酸増進製剤には、必要に応じ、他の任意成分として、水分、油分、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、色材、香料、賦形剤、ビタミン類、ホルモン類、アミノ酸類、抗生物質、抗菌剤などを配合してもよい。
【0036】
腸内有機酸増進製剤は、経口投与できる形態が好ましく、一般に、飼料または飼料用添加物として採用される形状でありうる。腸内有機酸増進製剤の形状としては、例えば、粉体、顆粒、マッシュ、ペレット、クランブル、およびフレークなどが挙げられる。腸内有機酸増進製剤の形態は、単一形態であってもよいし、上記のような形態のうちの2つ以上の形態のものの混合形態、例えば、ペレットとフレークの混合物、マッシュとペレットの混合物などとしてもよい。
【0037】
本発明の一実施形態である腸内有機酸増進製剤の調製は、核酸および酵母細胞壁成分、並びにその他の任意成分としてリグニンスルホン酸などが混合すればよく、各成分を1つ1つ混ぜ合わせてもよいし、各成分を同時に加えて混ぜてもよい。核酸、酵母細胞壁成分、およびリグニンスルホン酸などについては、上述したとおりである。各成分は個別に用意しいてもよいし、酵母を培養し、当該酵母を原料として核酸および酵母細胞壁成分を用意してもよい。
【0038】
本発明の一実施形態として、例えば、酵母を脱核処理して核酸と脱核酵母とに分離して回収し、分子量5,000~100,000の核酸と酵母細胞壁成分とをそれぞれ用意してもよい。このようにして用意した核酸と酵母細胞壁成分を混合することにより、腸内有機酸増進製剤を得ることができる。
【0039】
脱核処理は、例えば、アルカリ薬品や食塩水、細胞壁溶解酵素などを酵母に接触させることにより、酵母の細胞壁を溶解し、酵母の内容物を培地中に溶出させ、細胞壁成分とその他の成分に分離するなどの方法によって、行うことができる。分離した成分は、必要に応じて、精製し、粉末化してもよい。本発明の一実施形態としては、核酸と酵母細胞壁成分とを一旦分離してから配合し直す方が、免疫活性化の効果を高めるという点でより好ましい。
【0040】
脱核処理のためのアルカリ処理の方法は、酵母抽出物を得るために用いられる通常の方法を用いてよい。すなわち、アルカリ薬品を用いて酵母の細胞壁の一部又は全部を溶解又は破損させて、酵母菌体内の成分が溶出するようにすればよい。好ましいアルカリ薬品としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0041】
また、本発明の一実施形態として、酵母から抽出した核酸をその酵母の細胞壁成分の表面に付着させて製剤としてもよい。好ましい一実施形態として、酵母細胞壁成分として、酵母の細胞壁の一部を溶解して酵母菌体内の核酸を抽出した後に残る酵母外殻(すなわち、酵母の細胞壁で構成された外殻)を用いうる。核酸を抽出した後の細胞壁殻を核酸の担体として利用しており、核酸の吸収性に優れた酵母製剤であると共に、製剤としての取り扱いが容易である。
【0042】
本開示において、「非ヒト哺乳類」との用語は、ヒトを除く哺乳類のことを意味する。非ヒト哺乳類としては、例えば、ウシ科、イノシシ科、ウマ科、ラクダ科、クマ科、シカ科、ネコ科、イヌ科、ヒトを除く霊長目、ネズミ目、ウサギ目、および海洋哺乳類などが挙げられる。本発明の実施形態において、非ヒト哺乳類の対象として好ましくは、例えば、家畜類が挙げられ、より好ましくは、ウシ、ヒツジ、ヤギ、およびブタなどが挙げられる。本発明の一実施形態である腸内有機酸増進製剤は、家畜の健全な生育に寄与しうるため、家畜の生産において好適に用いることができる。
【0043】
腸内有機酸増進製剤は、(1)基本飼料に添加して混合飼料として給餌する形態を採用してもよいし、または、(2)腸内有機酸増進製剤と他の飼料成分とを直接混合せずに、別々に用意しておき、腸内有機酸増進製剤と基本飼料とをそれぞれ別々に与えて、これらを併用する形態を採用してもよい。なお、本開示において、特に限定なく単に「併用」という場合、上記(1)および(2)の両方の形態を包含する用語として用いる。
【0044】
本開示において「基本飼料」との用語は、非ヒト哺乳類に対する主要な栄養成分を提供するために給与される飼料のことを意味する。非ヒト哺乳類に対する主要な栄養成分を含有する基本飼料の成分としては、植物性飼料および/または動物性飼料などが挙げられる。植物性飼料は、植物由来の飼料であり、例えば、トウモロコシ、マイロ、大麦、小麦、キャッサバ、米ぬか、ふすま、大豆かす、菜種かす、米、米ぬか、およびビート、並びにこれらの加工品などが挙げられる。また、動物性飼料は、動物由来の飼料であり、例えば、魚粉、ポークミール、チキンミール、脱脂粉乳、および濃縮ホエーなどが挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
上述のとおり、本発明の好ましい一実施形態として、対象とする非ヒト哺乳類に対し腸内有機酸増進剤および基本飼料を併用して給餌してもよい。対象とする非ヒト哺乳類の種類や成長段階などの諸条件にもよるが、基本飼料と併用する場合、腸内有機酸増進製剤は、腸内有機酸増進製剤および基本飼料の総量に対して、好ましくは0.4~20.0重量%の割合となるようにして給餌しうる。より具体的には次のとおりである。
腸内有機酸増進製剤および基本飼料の総量に対する腸内有機酸増進製剤の下限は、好ましくは0.4または0.5重量%以上、より好ましくは0.8、1.0、1.5、1.8、または2.0重量%以上、更に好ましくは、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、または5.0重量%以上でありうる。上記のような下限以上とすることにより、腸内において所定の有機酸を増進しやすい。
腸内有機酸増進製剤および基本飼料の総量に対する腸内有機酸増進製剤の上限は、任意でありうるが、他の栄養成分とのバランスの観点から、好ましくは20.0重量%以下、より好ましくは15重量%以下、更に好ましくは10重量%以上でありうる。
【実施例0046】
以下に実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明するが、本開示により提示される発明の技術的範囲(または技術的な射程)は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0047】
1.試料
試料とする酵母製剤として、トルラプラス(登録商標、日本製紙株式会社製)を用いた。トルラプラスは、重量平均分子量(Mw)が約20,000のリボ核酸と、脱核酵母と、リグニンスルホン酸とを含有する。脱核酵母は、酵母の細胞内容物を取り除いたものであり、ほぼ細胞壁で構成される。乾燥状態のトルラプラスにおいて、リボ核酸は、脱核酵母の外殻に付着している。トルラプラスにおける各成分の含有量は、リボ核酸が約8%、脱核酵母由来の細胞壁製品が約10%、リグニンスルホン酸またはその塩が約15%程度である。
【0048】
トルラプラスの水分(常圧加熱乾燥法)、粗タンパク質(燃焼法)、粗脂肪(ソックスレー抽出法)、粗灰分(直接灰化法)、食物繊維(プロスキー法)の測定は、一般財団法人日本食品分析センターに依頼した。RNAは簡易STS法、β-グルカンはβ-グルカン分析キット(酵母キノコ型;Megazyme, Wicklow, Ireland)で測定した。測定結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
2.動物実験および試験食餌
動物実験は、帯広畜産大学動物実験委員会より承認(承認番号:第22-159号)を得て行われた。36匹の雄性Fischer 344ラット(7週齢、130~160g)を、日本チャールス・リバー株式会社から購入した。全てのラットは、室温23±1°C、湿度60±5%、明暗周期12時間の環境下で個別のプラスチックケージで飼育された。ラットは“Guide for the Care and Use of Laboratory Animals”に則って扱われた。7日間の馴化期間後、ラットを無作為に6群に分けて(1群6匹)、AIN-93G準拠の試験食(オリエンタル酵母工業株式会社製)をそれぞれ4週間給餌した。試験食はAIN-93G準拠食をコントロール(CON)食とし、それにトルラプラスを0.2%(T0.2)、0.5%(T0.5)、1%(T1)、2%(T2)、5%(T5)添加したものをそれぞれ調製した。トルラプラス中の食物繊維およびタンパク質量に応じて試験食中のセルロースおよびカゼイン量を調製した。試験食組成を表2に示す。
【0051】
【0052】
試験期間中ラットは餌と水を自由摂取とし、摂食量を毎日測定して体重を週に1度測定した。試験期間最終2日分の糞便を回収し、凍結乾燥後に重量を測定した。試験最終日にイソフルラン吸引麻酔下で安楽死させ、肝臓、脂肪、盲腸を切除して重量を測定した。盲腸内容物の一部を細菌DNA抽出まで-80℃に保存した。盲腸内容物に蒸留水を添加して懸濁液を調製し(内容物1g+蒸留水5g)、そのpHを測定した。残りの懸濁液は他の分析まで-30℃で保存された。
【0053】
3.盲腸内細菌叢解析
盲腸内細菌DNAは、盲腸内容物からの「phenol-free repeated beads beating plus column法」(Yu, Z. & Morrison, M. Improved extraction of PCR-quality community DNA from digesta and fecal samples. Biotechniques 36, 808-812 (2004).)によって抽出され、Maxwell(R) RSC Blood DNA kit(Promega, Madison, WI, USA)により精製された。DNA濃度および純度は、NanoDrop 2000c(Thermo Fischer Scientific社)を用いて測定した。
【0054】
ペアエンドシークエンシングは、Illumina MiSeqシステム(Illumina SanDiego, CA, USA)を用いて行われた。MiSeqシステム(Illumina社)への16S rRNA遺伝子アンプリコン(V3-V4領域)は、「16S Metagenomic Sequencing Library Preparation Guide(Part#15044223Rev.B)」に従って調製した。
【0055】
16S rRNA遺伝子塩基配列データ解析は、QIIME2 ver. 2022.08を用いてTamuraらの方法を参考にして行われた(Tamura, M. et al. Effects of a high-γ-polyglutamic acid-containing natto diet on liver lipids and cecal microbiota of adult female mice. Biosci Microbiota Food Health 40, 176-185 (2021).)。細菌分類は、Silvaデータベースを用いて行われた。αおよびβ多様性を、配列数8、168で標準化されて解析した(不図示)。β多様性は「weighted UniFrac distance metric」により算出され、主座標分析プロットはRソフトウェア(version 4.1.1; R Core Teams 2021, Vienna, Austria)を用いて作成した。ラットの盲腸内細菌叢における門、科、属レベルでの細菌分類群の占有率を表3に示す。
【0056】
4.盲腸内有機酸分析
ラット盲腸内有機酸濃度は、HPLC(LC-10AD、島津製作所社)を用いて測定した。HPLC用試料は、以前の方法(Han, K. H. et al. Spent turmeric reduces fat mass in rats fed a high-fat diet. Food Funct 7, 1814-1824 (2016))を参考にして、一部修正して調製した。盲腸内容物懸濁液の上清450μLに5%過塩素酸水溶液50μLを添加して撹拌した。遠心分離(12,000g、4℃、10分)により上清を採取し、セルロースアセテート膜フィルター(0.45μm、東洋濾紙社)を通してHPLC用試料とした。分析条件は以前の報告(Nagata, R. et al. Chemical modification of cornstarch by hydroxypropylation enhances cecal fermentation-mediated lipid metabolism in rats. Starch/St▲a▼rke 72, 1900050 (2020).)に従った。
カラム:RSpakKC-811(8.0mm×300mm,Shodex)
カラム温度:47℃、
移動相:2mM 過塩素酸水溶液 1.0mL/min
反応試薬:ST3-R(Shodex) 0.5mL/min
測定波長 430nm
【0057】
ラットの盲腸内有機酸濃度の測定結果を表4に示す。
【0058】
5.統計解析
データは平均値±標準誤差で表した。6群間の有意差検定は、一元配置分散分析後にDunnettの多重検定によりCON群と比較して行われた(SPSS version 17, SPSS Inc., Chicago, IL, USA)。データ間の相関は,ピアソンの相関分析によって評価された。全ての統計解析において、p<0.05を統計的有意水準とした。
【0059】
【0060】
【0061】
表3に示されるように、盲腸内細菌叢において、トルラプラスの摂取でOscillospiraceae UCG-005属およびLachnospiraceae NK4A136属などの細菌について増加が確認された。
【0062】
表4に示されるように、盲腸内有機酸において、トルラプラスの摂取は乳酸、プロピオン酸、および総短鎖脂肪酸濃度の増加が確認された。また、有意差はみられなかったもののT5群で酢酸濃度も高い値を示した。トルラプラスの摂取により特に増加したOscillospiraceae UCG-005属およびLachnospiraceae NK4A136属の細菌は、短鎖脂肪酸産生菌とされている。本開示において、ピアソンの相関分析によりOscillospiraceae UCG-005属は、酢酸(r=0.47, p<0.01)および総短鎖脂肪酸(r=0.43, p<0.01)と有意な正の相関を示し、Lachnospiraceae NK4A136属は、乳酸(r=0.37, p<0.05)、プロピオン酸(r=0.35, p<0.05)、n-酪酸(r=0.48, p<0.01)および総短鎖脂肪酸(r=0.30, p=0.073)と正の相関を示した。したがって、本開示において、Oscillospiraceae UCG-005属およびLachnospiraceae NK4A136属が有機酸産生に大きく寄与した可能性が考えられる。