(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001268
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】車両用LiDARシステム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/497 20060101AFI20241225BHJP
G01S 17/931 20200101ALI20241225BHJP
【FI】
G01S7/497
G01S17/931
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100762
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小暮 真也
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AC02
5J084CA23
5J084EA01
(57)【要約】
【課題】空中存在物がノイズとならない対策を施したLiDARシステムを提供する。
【解決手段】照射装置12から出射されたレーザー光が雨滴55(空中存在物)に当たっても、その反射光46が受光装置14に入射した時のレーザー光の入射強度Isが閾値Iref未満となる、LiDARシステム10と探索範囲17との間の最短距離Dsが、雨滴55について想定した径Ra及び反射率Eaに基づいて設定される。探索範囲17は照射装置12から最短距離Ds以上離れるように、設定されている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を所定の照射範囲に向けて出射する照射装置と、
前記照射範囲に重なる範囲を探索範囲として含む所定の受光範囲を有し、前記探索範囲の対象物に対する前記レーザー光の反射光を受光する受光装置と、
を備える車両用LiDARシステムであって、
前記照射装置から出射された前記レーザー光が空中存在物に当たって、その反射光が前記受光装置に入射したときの入射強度が閾値未満となる、前記照射装置と前記探索範囲との間の最短距離Dsが、前記空中存在物について想定した径Ra及び反射率Eaに基づいて設定され、
前記照射範囲及び前記受光範囲は、前記探索範囲が前記照射装置から前記最短距離Ds以上離れるように、設定されている、車両用LiDARシステム。
【請求項2】
前記照射装置と前記受光装置とは、鉛直方向に距離Dv1だけ離れて配置され、
前記最短距離Dsは、前記空中存在物の前記径Ra及び前記反射率Eaの他に、前記鉛直方向の前記距離Dv1に基づいて設定されている、請求項1に記載の車両用LiDARシステム。
【請求項3】
前記照射装置と前記受光装置とは、水平方向に距離Dw1だけ離れて配置され、
前記最短距離Dsは、前記空中存在物の前記径Ra及び前記反射率Eaの他に、前記照射装置との前記受光装置との前記水平方向の前記距離Dw1に基づいて設定されている、請求項1に記載の車両用LiDARシステム。
【請求項4】
前記照射装置及び前記受光装置が、車両の前部でかつ車幅方向の端部に配設されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両用LiDARシステム。
【請求項5】
前記受光装置は、前記鉛直方向に前記照射装置より下に配設され、
前記受光装置と前記探索範囲において前記車両まで車両前後方向距離が最小となる第1点とを結ぶ前記受光範囲の上側の境界線が前記受光装置から斜め上向きの角度で延在し、
前記探索範囲が前記車両の走行路面上において前記車両前後方向距離が最小となる第2点が、車幅方向に前記受光装置が配設されている端部側で前記車両の走行車線を区画している区画線上に設定され、
前記受光装置と前記第2点とを結ぶ前記受光範囲の下側の境界線が前記受光装置から斜め下向きでかつ前記車幅方向に斜め外向きで延在している、請求項4に記載の車両用LiDARシステム。
【請求項6】
前記照射範囲の下側境界線は、前記照射装置から前記第2点に延在している、請求項5に記載の車両用LiDARシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用LiDAR(Light Detection And Ranging)システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されて、車両前方の歩行者、先行車又は対向車を探知するLiDARシステムが知られている。
【0003】
特許文献1は、ノイズの除去に対処する車載用レーダセンサシステムを開示する。この車載用レーダセンサシステムでは、レーダ波を送信する送信部及びターゲットによる反射波を受信する受信部は、前方を共通の透過性部材により覆われている。このため、送信部からのレーダ波が、透過性部材を通過してからターゲットに当たって戻って来たレーダ波とは別に、透過性部材に反射して直ちに受信部に受信されてしまうレーダ波(ノイズ)が生成される。この車載用レーダセンサシステムでは、このようなノイズに対処するために、遮蔽部材が、送信部と受信部との間に配設され、送信部からのレーダ波が透過性部材により反射したレーダ波が受信部に受信されることを阻んでいる。
【0004】
特許文献2は、車両に装備され、大地による強い反射や送信アンテナから受信アンテナへの直接結合による干渉がある場合においても、干渉波を効率的に抑圧するパルスレーダ用アンテナ装置を開示する。このパルスレーダ用アンテナ装置では、送信アンテナと受信アンテナとの少なくとも一方が、ビームパターンのヌル方向に大地面が位置するように設置される。そして、送信アンテナは、大地面とのなす入射角がブルースター角近傍となるように設置される。これにより、送信アンテナから大地方向に輻射される電力が弱まるとともに、大地方向から伝播して受信アンテナに入力される電力が弱まって、大地反射波による干渉が効果的に抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-361279号公報
【特許文献2】特許第5032910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LiDARシステムが、車両に搭載されていたり、野外に設置されていたりするとき、雨天時では、雨滴が発信部の直前を落下していく。レーザー光は、発信部を出た直後では強度が非常に大きいとともに、雨滴は小粒ながらレーザー光に対して大きい反射率を有している。このため、発信部を出た直後の大強度のレーザー光が、発信部の直前を落下していく雨滴に散乱して、一部の散乱光は受信部に検知され、ノイズとなる。
【0007】
特許文献1の遮蔽部材を、レーザー光のような光を遮蔽するので、LiDARシステムの雨滴対策には使用できない。
【0008】
特許文献2のパルスレーダ用アンテナ装置におけるノイズ対策は、大地による強い反射や送信アンテナから受信アンテナへの直接結合による干渉に起因するノイズ対策であり、本来の検出対象と共に前方の空間に混在する雨滴を検出対象から除外する対策にはならない。
【0009】
本発明の目的は、雨滴がノイズとなることを有功に防止することができる車両用LiDARシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の車両用LiDARシステムは、
レーザー光を所定の照射範囲に向けて出射する照射装置と、
前記照射範囲に重なる範囲を探索範囲として含む所定の受光範囲を有し、前記探索範囲の対象物に対する前記レーザー光の反射光を受光する受光装置と、
を備える車両用LiDARシステムであって、
前記照射装置から出射された前記レーザー光が空中存在物に当たって、その反射光が前記受光装置に入射したときの入射強度が閾値未満となる、前記照射装置と前記探索範囲との間の最短距離Dsが、前記空中存在物について想定した径Ra及び反射率Eaに基づいて設定され、
前記照射範囲及び前記受光範囲は、前記探索範囲が前記照射装置から前記最短距離Ds以上離れるように、設定されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、照射装置から出射されたレーザー光が空中存在物に当たって、その反射光が前記受光装置に入射したときの入射強度が閾値未満となる、車両用LiDARシステムと前記探索範囲との間の最短距離Dsが、空中存在物について想定した径Ra及び前記反射率Eaに基づいて設定される。そして、照射範囲及び受光範囲は、探索範囲が照射装置から最短距離Ds以上離れるように、設定されている。この結果、探索範囲に空中存在物が存在していても、その空中存在物は、本来の検出対象からの反射光と明確に区別することができ、空中存在物をノイズから除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】LiDARシステムを前部の右端部に装備する車両が前方に生成する照射範囲及び受光範囲について車両の側方視で示す図である。
【
図2】LiDARシステムを前部の右端部に装備する車両が前方に生成する照射範囲及び受光範囲について車両の平面視で示す図である。
【
図4】照射装置が照射範囲に生成する配光パターンを示す図である。
【
図5A】LiDARシステムにおける平面視の照射範囲の全体概略図である。
【
図5B】LiDARシステムにおける平面視の受光範囲の全体概略図である。
【
図7】自動車が道路を走行中に自動車の右前部に搭載されている照射装置からのレーザー光の出射により自動車の前方を含む周囲に設定する右側の照射範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は、当業者の設計事項の範囲内で実施形態を種々変更した構成形態を包含する。なお、複数の実施形態間で共通する構成要素については、全図を通して同一の符号を使用する。
【0014】
(照射範囲、受光範囲及び探索範囲)
図1及び
図2は、LiDARシステム10を前部の右端部に装備する車両20が前方に生成する照射範囲13及び受光範囲15について車両20の側方視及び平面視でそれぞれ示す図である。典型的には、車両20は、LiDARシステム10を前部の左端部及び右端部の両方に装備している。この車両20は、右ハンドル車を想定している。LiDARシステムには、フラッシュ方式とスキャン方式とがあるが、このLiDARシステム10は、フラッシュ方式を採用している。
【0015】
前後方向中心線24は、車幅方向に車両20の中心に位置し、車高方向には、運転席の運転手の目の高さに設定している。前後方向中心線24は、路面26に対して平行に、すなわち水平に車両20の前後方向に延在している。
【0016】
LiDARシステム10は、照射装置12及び受光装置14を備えている。照射装置12は、車体22の前部に装着されている右の前照灯23のハウジング内に前照灯23の本来の光源(路面26を白色の可視光で照射する光源)と共に収容されている。受光装置14は、前照灯23の外において鉛直方向(上下方向)に前照灯23より少し下の車体22の箇所に取り付けられている。
【0017】
照射装置12からは、レーザー光が照射範囲13に向けて出射される。受光装置14は、照射装置12から出射したレーザー光の照射光45(
図3)がターゲット28(
図3)に当たって戻って来た反射光46(
図3)を受光する。受光装置14が反射光46を検出できるのは、照射装置12からの照射光45に対する反射光46に限られる。したがって、LiDARシステム10が検出できるターゲット28は、照射範囲13と受光範囲15とが重なる探索範囲17に存在するターゲット28に限られる。
【0018】
図1及び
図2の照射範囲13において、照射側中心光軸40は、照射装置12を視点として照射範囲13を見たときのFOI(Field Of Ilunination/照視野)の画角の中心線(縦画角及び横画角の共通の二等分線でもある。)に沿って延在している。照射側主光軸41は、FOIの視点から出射する最大強度のレーザー光の進路である。受光側中心光軸42は、受光装置14を視点として受光範囲1を見たときのFOV(Field Of View/受光視野)の画角の中心線(縦画角及び横画角の共通の二等分線でもある。)に沿って延在している。
【0019】
図1において、水平面25は、照射側中心光軸40及び受光側中心光軸42の傾斜角を示すために、図示されている。この水平面25は、前後方向中心線24及び路面26の両方に平行である。γa1(>0)は、水平面25に対する照射側中心光軸40の下向きの傾斜角である。γa2(>0)は、水平面25に対する受光側中心光軸42の下向きの傾斜角である。γa3(>0)は、側方視で照射側中心光軸40に対する照射側主光軸41の上向きの傾斜角である。γa1<γa2の関係がある。すなわち、車両20の側方視で、照射側中心光軸40の方が受光側中心光軸42より上向きになっている。
【0020】
γa3-γa1>0である。すなわち、照射側主光軸41は、車両20から前方を見て、水平面25に対して上向きになっている。照射装置12は、車両20において前後方向中心線24より鉛直方向の下側に配設されているものの、照射側主光軸41は、車両20から前方へ向かうに連れて少しずつ上昇し、前後方向中心線24に接近していく。
【0021】
αv1は、照射装置12を視点とするFOIの垂直画角(縦画角)である。αv2は、受光装置14を視点とするFOVの垂直画角(縦画角)である。αv1>αv2の関係がある。したがって、γa1<γa2であっても(
図1)、車両20の側方視で照射側中心光軸40の方が受光側中心光軸42より上向きであっても、車両20の側方視で照射範囲13の下側境界線の下向きの傾斜角は、受光範囲15の下側境界線の下向きの傾斜角より大となる。
【0022】
L0は、照射装置12から照射範囲13に出射するレーザー光の起点位置に引いた鉛直補助線である。L1は、受光範囲15が車両20の前方において路面26に到達する地点に引いた鉛直補助線である。照射範囲13は、少なくとも鉛直補助線L1を含む、鉛直補助線L1より手前、すなわち車両20側において路面26に到達する。鉛直補助線L1は、また、路面26上の探索範囲17において車両20の前後方向に車両20に最短距離となる地点である。好ましくは、照射範囲13も、受光範囲15と同じく鉛直補助線L1において路面26に到達する。その方が照射範囲13内で探索範囲17が占める割合が増え、照射範囲13の消費総光量を低減することができるからである。
【0023】
図2において、受光装置14は、照射装置12の下に隠れているが、受光装置14は、車幅方向に照射装置12とほぼ同一位置にある。同一位置にある方が、探索範囲17を広くすることができるからである。
【0024】
αh1は、FOIの水平画角(横画角)である。αh2は、FOVの水平画角(横画角)である。αh1≒αh2であるものの、αh1>αh2の関係がある。照射装置12より受光装置14の方が高価であり、FOVを増大するより、FOIを増大して探索範囲17を拡大する方がコスト的に有利となるからである。
【0025】
γb1(>0)は、平面視で照射側中心光軸40に対する前後方向中心線24側への照射側主光軸41の傾斜角である。照射側中心光軸40は、車両20から見て車幅方向外向きであるのに対し、照射側主光軸41は、前後方向中心線24に接近するように、内向きになっている。照射装置12から照射範囲13に出射されるレーザー光の強度は、平面視における方向によって相違するので、照射範囲13の遠方境界線は、
図6Aに図示するように、照射側主光軸41の方向が最大遠方距離となる。
【0026】
(LiDARシステム)
図3は、LiDARシステム10のブロック図である。LiDARシステム10は、LiDARシステム10の外の制御装置30により制御される。制御装置30は、LiDARシステム10とは別に車両20に搭載されている。この制御装置30は、LiDARシステム10の制御だけでなく、車両20に搭載されているその他の電子機器(図示せず)の制御(例:ADB(Adaptive Driving Beam)、AFS(Adaptive Front-Lighting System)又は空調温度制御)も併せて実施可能な統括的な制御装置である。
【0027】
照射装置12は、光源装置32及び照射側光学系36を備えている。光源装置32は、さらに、少なくとも1つ(図示の例では2つ)の光源33を有している。このLiDARシステム10は、フラッシュ型のLiDARシステムであるため、制御装置30は、所定の周期で複数の光源33を同時に発光させる。各光源33は、レーザー光を照射側光学系36に向けて出射する。複数の光源33の光軸34は、相互に平行である。
【0028】
照射側光学系36は、光源装置32からのレーザー光の入射光を所定の強度分布(所定の配光パターンでもある。)で照射範囲13に出射する。強度の大きいレーザー光程、照射光45として遠方のターゲット28に到達して、ターゲット28から所定値以上の強度の反射光46をLiDARシステム10に戻すことができる。
【0029】
受光装置14は、受光側光学系50及びセンサ52を備えている。センサ52は、格子状に配列された複数のセンサ素子を有している。受光側光学系50は、探索範囲17から受光した反射光46を、反射光46の入射方向に対応するセンサ52のセンサ素子に入射させる。制御装置30は、反射光46がセンサ52のどのセンサ素子に入射したかに基づき各反射光46の入射方向を検出することができる。
【0030】
制御装置30は、また、光源33のフラッシュ点灯時刻と、受光装置14におけるセンサ52の各センサ素子における反射光46の受光時刻との差分に基づいてTOF(Time of Flight)に従ってターゲット28までの距離を測距する。こうして、制御装置30は、反射光46の入射方向と各反射光46の反射元のターゲット28までの測距に基づいて各ターゲット28の位置を検出する。
【0031】
さらに、反射光46の強度は、LiDARシステム10からターゲット28までの距離だけでなく、ターゲット28の反射率にも関係する。そして、ターゲット28の反射率は、ターゲット28の種別に関係する。例えば、ターゲット28の種別として路面26上で車両20の走行車線を区画する区画線(例:白線)があり、路面26上の区画線の場所を反射率から判別することができる。こうして、制御装置30は、路面26上の区画線の位置を反射光46に基づいて検出することができる。
【0032】
従来のLiDARシステムでは、照射側主光軸41は照射側中心光軸40に一致している。これに対し、このLiDARシステム10では、照射側光学系36からのレーザー光の出射により生成される照射範囲13において照射側主光軸41が照射側中心光軸40から偏倚している。照射側主光軸41を照射側中心光軸40に対して偏倚させるために、照射装置12の具体例は、次のとおりである。
【0033】
(a)光源装置32は、少なくとも1つの光源33を備えている。光源33が複数であるときは、複数の光源33の光軸は相互に平行になっている。一方、照射側光学系36は、照射側主光軸41の方に出射するレーザー光の強度が照射側中心光軸40の方に出射するレーザー光の強度より強まるように変換する光学素子を有している。具体的な光学素子としては、例えば、光源装置32からのレーザー光の入射光を末広がりに出射した光路の横断面の複数の区画に分割してから、区画ごとに相互に相違する区画別照射範囲を生成するディフューザとすることができる。光学素子としてのディフューザは、受光範囲15において、照射側主光軸41の方向には、照射側中心光軸40の方向より区画別照射範囲の重なり数が増大するように、すなわち、レーザー光の強度が増大するように、設定されている。
【0034】
(b)光源装置32は、複数の光源33を備えている。複数の光源33の配置位置又は配置密度は、照射側中心光軸40に対する照射側主光軸41の偏倚に対応するように設定される。これにより、複数の光源33からのレーザー光は、例えば1つの共通レンズを通過後、照射側中心光軸40より照射側主光軸41の方向に集めることができる。
【0035】
(配光パターン)
図4は、照射装置12が照射範囲13に生成する配光パターンを示す図である。
図4の配光パターンは、
図2に示すように、車両20の前部の右端部に配備されたLiDARシステム10が生成するものを想定している。この配光パターンは、また、車両20の前方の所定距離離れた箇所に車両20に正対して立設された仮想スクリーン上に生成されるものを示している。
【0036】
図4は、カラーの配光パターンをモノクロのグレースケールに表示変換している。カラーの配光パターンでは、レーザー光の強度の大から小へ赤(暖色)から青(寒色)に変化している。このため、
図4のグレースケールでは、最大強度の赤が、最小強度の群青と同様に黒っぽく表示されて、中間の黄色が白っぽく表示されている。すなわち、濃淡がかならずしも照度に対応していない。
【0037】
図4において、横軸は方位角、縦軸は仰角である。すなわち、仮想スクリーンにおける横方向及び縦方向の長さを、車両20に搭載されたLiDARシステム10からの方位角(左右方向の角度)及び仰角(上下方向の角度)に換算している。原点O(方位角=0°及び仰角=0°)は、前後方向中心線24に平行な方向を意味する。
【0038】
補助線V0,H0は、
図4において原点Oで交差している。補助線V0に対し左側及び右側は車幅方向の左側(l:left)及び右側(r:right)に対応する。補助線H0に対して上側及び下側は、前後方向中心線24を通る水平面に対して上側(u:up)及び下側(d:down)に対応する。
【0039】
図4では、補助線V0,H0の他に、複数の補助線Vl2,Vl1,Vh1,Vh2,Hd,Huを示すとともに、補助線間の角度間隔が記入されている。照射範囲13は、仰角で上側20°~下側20°の範囲、方位角で左側65°~右側75°の範囲を占めている。なお、一般的には、照射範囲13の方位角範囲は、120°~140°である。
【0040】
図5A及び
図5Bは、LiDARシステム10における平面視の照射範囲13及び受光範囲15の全体概略図である。
図5Aの照射範囲13では、各方向へレーザー光の出射強度がモノクロの濃淡で示されている。この濃淡では、濃い(黒っぽい)場所ほど、LiDARシステム10から強度の大きいレーザー光が出射されたことを意味している。なお、前述の
図4のグレースケールでは、濃い場所ほど、LiDARシステムの強度が低い場所を示しており、
図5Aの濃淡とは逆になっている。
【0041】
図5Aでは、照射範囲13において照射装置12から各方位への終端側の境界線は、各出射方向のレーザー光の最大到達距離点(レーザー光が定格値以上の照度で到達できる最大遠方点)を意味している。照射範囲13では、照射装置12からのレーザー光の出射強度は、照射側主光軸41の方向が最大で、照射側主光軸41の方向からずれた方向ほど、低下している。このため、レーザー光の到達点側の照射範囲13の境界線も、照射側主光軸41の方向が照射側光学系36から最も遠方となり、照射側主光軸41の方向からずれた方向ほど、照射側光学系36に近づいている。
【0042】
図5Bでは、受光範囲15は、平面視で受光側光学系50を中心とする扇形になっている。この扇形の半径は、
図5Aにおいて照射側主光軸41の長さに等しく設定されている。すなわち、受光装置14は、
図5Aにおいて最遠方地点からの反射光46も検知可能になっている。
【0043】
(雨滴対策)
図6は、
図1に雨滴55を付加した要部の拡大図である。鉛直補助線L0-L2間の前後方向水平距離はDh1である。また、鉛直補助線L0-L1間の前後方向水平距離はDh2である。最短距離Dsについては、後述するが、Dh1≧Dsとなっている。
【0044】
雨滴55は、照射装置12から遠くなるほど、照射装置12から出射してくるレーザー光に対して単位径又は単位表面積当たりの照射量が減少するので、レーザー光に当てられたときの散乱光(反射光でもある。)が弱まる。一方、LiDARシステム10は、受光装置14における入射時の反射光46(
図3)の強度(以下、「入射強度Is」という。)が閾値Iref未満であるときは、ターゲット28からの反射光46ではないとして、検出対象から除外する。具体的には、LiDARシステム10は、雨滴55を除外するために、例えば入射強度Isと閾値Irefとを対比する比較器を用いる。したがって、雨滴55からの反射光46のうち、入射強度Isが閾値Iref未満であるときは、本来のターゲット28と雨滴55とが混在する探索範囲17において、本来のターゲット28からの反射光46とは明確に区別することができる。すなわち、探索範囲17の雨滴55は、簡単に除去できるノイズであるか、又は、ノイズとしてLiDARシステム10の処理に影響を及ぼさない。
【0045】
このことを踏まえ、LiDARシステム10には、探索範囲17におけるターゲット28からの反射光46の入射強度Isは、入射強度Is≧閾値Irefとなることを保証しつつ、入射強度Isが閾値Iref以上となる雨滴55は、探索範囲17内にターゲット28と混在しないようにする。詳細には、探索範囲17において照射装置12までの距離が最小となる箇所を最短距離点Psと定義する。また、照射装置12から出射したレーザー光が雨滴55に当たっても、その雨滴55からの反射光46が受光装置14に入射した時の強度としての入射強度Isが閾値Iref未満となる、照射装置12からの最短距離Dsが雨滴55の設定径等に基づいて計算される。そして、照射範囲13及び受光範囲15は、探索範囲17の最短距離点Psが照射装置12から最短距離Ds以上離れるように、設定される。最短距離Dsは、照射装置12から出射されるレーザー光が探索範囲17内の任意の雨滴55に当たったとしても、その反射光46の入射強度Isが閾値Iref未満であること(Is<Iref)を保証する距離となる。
【0046】
最短距離点Psは、
図6から分かるように、探索範囲17の境界線上の箇所であるとともに、車両20の前後方向に照射範囲13と受光範囲15とが重なり開始する箇所となっている。
図6では、最短距離点Psは、前後方向水平距離Dh1と同じく、車両20の前後方向の水平距離として図示されている。実際には、最短距離Dsは、三次元的な距離として算出されるので、照射装置12から最短距離Ds、離れた最短距離点Psは、図示のものより車両20に近づいた箇所になる。
する。
【0047】
しかしながら、最短距離点Psを車両20の前後水平方向に車両20から前後方向水平距離Dh1(≧Ds)以上離せば、最短距離点Psが照射装置12から任意の方向に存在していても、雨滴55の反射光46が受光装置14に入射した時の入射強度Isについて、入射強度Is<閾値Irefを保証して、雨滴55がノイズになることを防止することができる。
【0048】
最短距離Dsの決定のために、決定因子として次のものを採用することができる。決定因子は、いずれも雨滴55の反射光46の入射強度Isに影響を与える因子となる。例として、雨滴55の径Ra、レーザー光に対する雨滴55の反射率Ea、照射装置12-受光装置14間の水平方向距離Dw1、照射装置12-受光装置14間の鉛直方向距離Dv1、及び照射側主光軸41(
図1)の方向への照射装置12からのレーザー光の出射強度が挙げられる。最短距離Dsの決定因子は、これら因子のうちのいずれか1つ、又は少なくとも1つを選択することができる。決定因子を複数、選択する場合は、複数の決定因子の組み合わせを任意に設定することができる。
【0049】
雨滴55の径Raは、大きいほど、レーザー光の照射面積が増大して、雨滴55の反射光46の入射強度Isが増大する。雨滴55は、その反射率Eaが大きいほど、反射光46の強度が増大し、この結果、受光装置14へ入射時の入射強度Isも増大する。入射強度Isが増大するほど、最短距離Dsを増大させる必要がある。一方、雨滴55の径Ra及びレーザー光に対する反射率Eaは、雨天時の状況によって相違するので、最短距離Ds決定用の雨滴55の径Ra及び反射率Eaを設定径及び設定反射率として決めておき、最短距離Dsは、設定径及び設定反射率に基づいて決定する。設定値は、平均値とすることができる。
【0050】
照射装置12から照射側主光軸41へのレーザー光の出射時の強度Ioが大きいほど、入射強度Isも増大する。したがって、強度Ioが大きいほど、最短距離Dsは増大する。
【0051】
LiDARシステム10は、車両20の前部の車幅方向の左右の端部にそれぞれ配備される。しかしながら、LiDARシステム10は、車両20の前部の車幅方向の左右の端部のいずれか一方、例えば車両20の運転席のハンドル側の端部にのみ、配備してもよい。照射範囲13のFOIの鉛直方向及び水平方向の画角、並びに受光範囲15のFOVの鉛直方向及び水平方向の画角は、固定されている。したがって、照射装置12-受光装置14間の鉛直方向距離Dv1及び水平方向距離Dw1が増大するほど、照射装置12からの照射光45が雨滴55に当たって、その反射光46が受光装置14に入射するまでの光路が長くなり、入射強度Isが弱まる。この結果、車両20の前後水平方向の最短距離点Psの位置は、照射装置12-受光装置14間の鉛直方向距離Dv1及び水平方向距離Dw1が増大するほど、最短距離点Psは、車両20に接近した位置になる。
【0052】
(設定探索範囲)
図7は、自動車20が道路を走行中に自動車20の右前部に搭載されている照射装置12rからのレーザー光の出射により自動車20の前方を含む周囲に設定する右側の照射範囲13rを示している。実際に、LiDARシステム10は、車両20の前部の右端部に搭載されて、照射範囲13rを生成するように、例えば
図4に示した配光バターンを生成するように設定されている。
【0053】
図7において時計回りに放射方向に延在している補助線Vl2,V0,Vr1,Vr2は、
図4において縦方向に延在している補助線Vl2,V0,Vr1,Vr2に対応している。
【0054】
図7に記入されている”数値+m”は、照射装置12lからのレーザー光が定格強度以上で到達する距離を単位をm(メートル)として示している。”deg”は、角度の単位の”°”を意味する。
【0055】
(作用・効果)
探索範囲17の最短距離点Psが、照射装置12から最短距離Ds以上離されている結果、照射装置12から出射された照射光45が、探索範囲17内の雨滴55に当たって、その反射光46が受光装置14に入射した時の入射強度Isは、閾値Iref未満となる。この結果、探索範囲17に雨滴55が存在していても、その雨滴55は、受光装置14に達した時には、入射時の入射強度が閾値Iref未満の反射光46となる。制御装置30は、比較器等により、入射強度Is<閾値Irefの入力信号を除外するので、雨滴55がノイズとなることが防止される。
【0056】
照射装置12が出射するレーザー光及び受光装置14が検知する反射光46は、赤外光である。したがって、昼夜に関係なく、探索範囲17内に存在するターゲット28を的確に検出することができる。最短距離Dsの決定因子として、雨滴55の径Raやレーザー光に対する反射率Eaも、太陽光からの影響は小さい。
【0057】
LiDARシステム10では、最短距離Dsの決定因子として、照射装置12-受光装置14間の鉛直方向距離Dv1及び/又は水平方向距離Dw1を含めることができる。車両20によっては、距離Dv1及び距離Dw1を十分に大きくして、車両前後方向の照射装置12-最短距離点Ps間の距離を短縮できる。また、車両20によっては、距離Dv1及び距離Dw1を十分に大きく取れない場合がある。そのような場合には、ミリ波レーダを併用することができる。ミリ波レーダは、雨滴55からの妨害がないので、車両前後方向に最短距離点Psより車両20側の範囲のターゲット28の検出は、ミリ波レーダに代替させることができる。
【0058】
LiDARシステム10が車両20に搭載されている場合、車両20からターゲット28までの必要探索距離は、車両20の走行車線の中心線(
図2の前後方向中心線24は、この中心線上にある。)上で、最大となる(例:100m)。一方、LiDARシステム10は、車幅方向にLiDARシステム10が搭載されている端部側(
図2の例では右側)で車両20の走行車線を区画している区画線(例:黄色や白の線。センターラインも区画線の1つである。)を探知することが要求される。
【0059】
このため、受光装置14と探索範囲17において車両20まで車両前後方向距離が最小となる第1点(
図5では、最短距離点Ps)とを結ぶ受光範囲15の上側の境界線が受光装置14から斜め上向きの角度で延在し、これにより、探索範囲17の最遠方点から受光を確保している。また、探索範囲17が車両20の走行している路面26上において車両前後方向距離が最小となる第2点(補助線L1が立ち上がっている路面26上の地点)が、車幅方向に受光装置14が配設されている端部側で車両20の走行中の車線を区画している区画線上(例えば、車両20から前方に3m~10mの区画線上の地点)に設定される。
【0060】
そして、受光装置14と第2点とを結ぶ受光範囲15の下側の境界線が受光装置14から斜め下向きでかつ車幅方向に斜め外向きで延在している。これにより、受光装置14は、雨滴55によるノイズを排除しつつ、車両前方における必要探索方向別の必要探索距離を網羅した反射光46の受光を確保することができる。
【0061】
第2点は、車両20の前方において照射範囲13の下側境界線が路面26に最初に到達する地点にもなっている。このように、車両20の前方において照射範囲13の下側境界線と受光範囲15の下側境界線が路面26に最初に到達する地点が同一となることが好ましい。理由は、必要な探索範囲17を確保するときの照射範囲13と受光範囲15とを必要最小限の範囲にして、探索範囲17を作り上げる効率を高めることができるからである。
【0062】
(変形例及び補足)
LiDARシステム10では、空中存在物の例として雨滴55について説明している。本発明の空中存在物は、雨滴に限定されず、ひょうや、あられ等の空中落下物や、昆虫やちり等の空中浮遊物を含むことができる。
【0063】
実施形態のLiDARシステム10では、フラッシュ方式が採用されているが、本発明の車両用LiDARシステムにおける照射方式は、フラッシュ方式に限定されず、スキャン方式やその他であってもよい。
【0064】
LiDARシステム10では、雨滴55の設定径及び設定反射率として設計者が任意に設定できることになっている。雨滴55の平均径や平均反射率は、地域や国ごとに相違することが多いので、設定径及び設定反射率は、地域等に応じて設定することが好ましい。
【0065】
照射装置12は、最初から前照灯23のハウジング内に組み込まれていてもよい。車両20の製造者は、受光装置14と照射装置12入りの前照灯23とを1セットではなく、別々に用意することもできる。
【0066】
図6の側方視において、水平面に対する照射範囲13の下側境界線の下向き角度を15°、また、水平面に対する受光範囲15の上側境界線の上向き角度を15°と想定するとともに、照射範囲13及び受光範囲15の起点位置(
図5の左端位置)が、車幅方向に同一位置にあると想定する。その場合、Dh1=1mに設定すると、Dv1は、次の式(1)から0.5mと計算される。
【0067】
式(1):Dv1=照射範囲13の側方視の下側境界線が最短距離点Psまでに下降する距離+受光範囲15の側方視の上側境界線が最短距離点Psまでに上昇する距離=1m×tan15°+1m×tan15°=0.5m
【符号の説明】
【0068】
10・・・LiDARシステム、12・・・照射装置、13・・・照射範囲、14・・・受光装置、15・・・受光範囲、17・・・探索範囲、20・・・車両、23・・・前照灯、26・・・路面、28・・・ターゲット、32・・・光源装置、36・・・照射側光学系、40・・・照射側中心光軸、41・・・照射側主光軸、42・・・受光側中心光軸、45・・・照射光、46・・・反射光、50・・・受光側光学系、55・・・雨滴(空中存在物)。