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特開2025-12710スラスト保持器付きころの製造方法、及び、封入容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012710
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】スラスト保持器付きころの製造方法、及び、封入容器
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/54 20060101AFI20250117BHJP
   F16C 19/30 20060101ALI20250117BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
F16C33/54 A
F16C19/30
F16C33/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115762
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】591071436
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトファインテック
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小▲崎▼ 彦継
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆一
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA13
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA53
3J701AA62
3J701BA35
3J701BA45
3J701BA47
3J701CA14
3J701DA09
3J701DA20
3J701EA63
3J701FA44
(57)【要約】
【課題】スラスト保持器付きころが組み立てられた後において、グリースを保持器内部に封入する。
【解決手段】封入容器50は、保持器12の第一ポケット24から露出するころ11と接触する第一面61を有する第一部51と、保持器12の軸方向第二側の一部と接触する第二面62を有する第二部52と、保持器12の径方向外側に位置する内周面64を有する第三部53とを有する。スラスト保持器付きころ10の軸方向第一側の面、及び、スラスト保持器付きころ10の軸方向第二側の面のうちの少なくとも一方に、グリースを配置する。第一面61は、第一ポケット24から露出するころ11と接触した状態、及び、第二面62は、保持器12の軸方向第二側の一部と接触した状態で、第一部51と第二部52とを、軸方向の中心軸C0回りに相対回転させる。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のころと、保持器と、を有するスラスト保持器付きころに対して、封入容器によってグリースを封入するステップを含む製造方法であって、
前記保持器は、内側環状体と、外側環状体と、複数の第一柱と、複数の第二柱と、を有し、
前記複数の第一柱は、周方向に離れて前記内側環状体と前記外側環状体とを軸方向第一側において繋ぎ、隣り合う二つの前記第一柱と前記内側環状体と前記外側環状体とに囲まれた空間が、前記ころの一部を露出させる第一ポケットであり、
前記複数の第二柱は、周方向に離れて前記内側環状体と前記外側環状体とを軸方向第二側において繋ぎ、隣り合う二つの前記第二柱と前記内側環状体と前記外側環状体とに囲まれた空間が、前記ころの一部を露出させる第二ポケットであり、
前記封入容器は、
前記第一ポケットから露出する前記ころと接触する第一面を有する第一部と、
前記第二ポケットから露出する前記ころ、又は、前記保持器の軸方向第二側の一部と接触する第二面を有する第二部と、
前記保持器の径方向外側に位置する内周面を有する第三部と、
を有し、
前記スラスト保持器付きころの軸方向第一側の面、及び、前記スラスト保持器付きころの軸方向第二側の面のうちの少なくとも一方に、グリースを配置し、
前記第一面は、前記第一ポケットから露出する前記ころと接触した状態、及び、前記第二面は、前記第一ポケットから露出する前記ころ、又は、前記保持器の軸方向第二側の一部と接触した状態で、
前記第一部と前記第二部とを、軸方向の中心軸回りに相対回転させる、
スラスト保持器付きころの製造方法。
【請求項2】
前記保持器は、軸方向第一側の第一保持器部材と、軸方向第二側の第二保持器部材と、を有し、
前記第一保持器部材は、第一内側環状体と、第一外側環状体と、を有し、前記第一柱は、前記第一内側環状体と前記第一外側環状体とを連結し、前記第一内側環状体と、前記第一外側環状体と、周方向で隣り合う二つの前記第一柱とに囲まれた空間が、前記第一ポケットであり、
前記第二保持器部材は、第二内側環状体と、第二外側環状体と、を有し、前記第二柱は、前記第二内側環状体と前記第二外側環状体とを連結し、前記第二内側環状体と、前記第二外側環状体と、周方向で隣り合う二つの前記第二柱とに囲まれた空間が、前記第二ポケットであり、
前記第一外側環状体と前記第二外側環状体とが、前記外側環状体を構成し、
前記第一内側環状体と前記第二内側環状体とが、前記内側環状体を構成し、
前記第一面は、前記第一ポケットから露出する前記ころと接触した状態、及び、前記第二面は、前記第二ポケットから露出する前記ころ、又は、前記第二保持器部材と接触した状態で、
前記第一部と前記第二部とを、軸方向の中心軸回りに相対回転させる、
請求項1に記載のスラスト保持器付きころの製造方法。
【請求項3】
前記第一面は、周方向に沿って連続する平面である、
請求項1又は請求項2に記載のスラスト保持器付きころの製造方法。
【請求項4】
前記第二部は、前記保持器の軸方向第二側の一部と接触する前記第二面と、前記第二面よりも軸方向第二側に位置し前記ころと対向する第三面と、を有し、
前記第二面と前記第三面との間における軸方向の距離は、前記第二ポケットから前記ころの一部が露出する軸方向に沿った露出高さよりも大きく、
前記第二面は、前記保持器の軸方向第二側の一部と接触した状態で、
前記第一部と前記第二部とを、軸方向の中心軸回りに相対回転させる、
請求項1又は請求項2に記載のスラスト保持器付きころの製造方法。
【請求項5】
前記第二面は、前記複数のころと接触し、
前記第二面は、周方向に沿って連続する平面である、
請求項1又は請求項2に記載のスラスト保持器付きころの製造方法。
【請求項6】
複数のころと、保持器と、を有するスラスト保持器付きころに対して、グリースを封入するための封入容器であって、
前記保持器は、内側環状体と、外側環状体と、複数の第一柱と、複数の第二柱と、を有し、
前記複数の第一柱は、周方向に離れて前記内側環状体と前記外側環状体とを軸方向第一側において繋ぎ、隣り合う二つの前記第一柱と前記内側環状体と前記外側環状体とに囲まれた空間が、前記ころの一部を露出させる第一ポケットであり、
前記複数の第二柱は、周方向に離れて前記内側環状体と前記外側環状体とを軸方向第二側において繋ぎ、隣り合う二つの前記第二柱と前記内側環状体と前記外側環状体とに囲まれた空間が、前記ころの一部を露出させる第二ポケットであり、
前記封入容器は、
前記第一ポケットから露出する前記複数のころと接触する第一面を有する第一部と、
前記第二ポケットから露出する前記複数のころ、又は、前記保持器の軸方向第二側の一部と接触する第二面を有する第二部と、
前記保持器の径方向外側に位置する内周面を有する第三部と、
を有し、
前記第一部と前記第二部とは、軸方向の中心軸回りに相対回転可能であり、
前記スラスト保持器付きころの軸方向第一側の面と前記第一部との間、及び、前記スラスト保持器付きころの軸方向第二側の面と前記第二部との間のうちの少なくとも一方は、グリースを配置する領域である、
封入容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラスト保持器付きころの製造方法、及び、その製造方法に用いられる封入容器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、スラスト保持器付きころを開示する。スラスト保持器付きころは、複数のころと、保持器とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-2449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図11は、スラスト保持器付きころの断面図である。保持器90は、第一保持器部材91と、その第一保持器部材91と合体する第二保持器部材92とを有する。
【0005】
第一保持器部材91は、第一内側環状体93と、第一外側環状体94と、複数の第一柱95とを有する。第一柱95は、第一内側環状体93と第一外側環状体94とを連結する。第一内側環状体93と、第一外側環状体94と、周方向で隣り合う二つの第一柱95とに囲まれた空間が、第一ポケット96である。
【0006】
第二保持器部材92は、第二内側環状体97と、第二外側環状体98と、複数の第二柱99とを有する。第二柱99は、第二内側環状体97と第二外側環状体98とを連結する。第二内側環状体97と、第二外側環状体98と、周方向で隣り合う二つの第二柱99とに囲まれた空間が、第二ポケット100である。
【0007】
グリース潤滑が、スラスト保持器付きころの潤滑方式として採用される場合がある。この場合、グリースは、スラスト保持器付きころの製造途中で、保持器内部に封入される。
図11に示すスラスト保持器付きころの場合、その製造方法は、第一内側環状体93と第一外側環状体94とを塑性変形させて得る工程を含む。この工程は、第二内側環状体97及び第二外側環状体98に対してカシメを行うカシメ加工である。カシメ加工により、第一保持器部材91と第二保持器部材92とは合体する。グリースは、そのカシメ加工の前に、第一保持器部材91と第二保持器部材92との間に塗布される。
【0008】
前記特許文献1の場合、グリースの注入口となる穴が、保持器を構成する部材の一部に備えられる。この場合、グリースの封入は、前記カシメ加工の後、つまり、スラスト保持器付きころが組み立てられた後に実施可能である。
【0009】
そこで、本発明は、グリースの注入口となる穴が、保持器を構成する部材の一部に設けられていなくても、スラスト保持器付きころが組み立てられた後において、グリースを保持器内部に封入することが可能となるスラスト保持器付きころの製造方法、及び、その製造方法に用いられる封入容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、複数のころと、保持器と、を有するスラスト保持器付きころに対して、封入容器によってグリースを封入するステップを含む製造方法であって、
前記保持器は、内側環状体と、外側環状体と、複数の第一柱と、複数の第二柱と、を有し、
前記複数の第一柱は、周方向に離れて前記内側環状体と前記外側環状体とを軸方向第一側において繋ぎ、隣り合う二つの前記第一柱と前記内側環状体と前記外側環状体とに囲まれた空間が、前記ころの一部を露出させる第一ポケットであり、
前記複数の第二柱は、周方向に離れて前記内側環状体と前記外側環状体とを軸方向第二側において繋ぎ、隣り合う二つの前記第二柱と前記内側環状体と前記外側環状体とに囲まれた空間が、前記ころの一部を露出させる第二ポケットであり、
前記封入容器は、
前記第一ポケットから露出する前記ころと接触する第一面を有する第一部と、
前記第二ポケットから露出する前記ころ、又は、前記保持器の軸方向第二側の一部と接触する第二面を有する第二部と、
前記保持器の径方向外側に位置する内周面を有する第三部と、
を有し、
前記スラスト保持器付きころの軸方向第一側の面、及び、前記スラスト保持器付きころの軸方向第二側の面のうちの少なくとも一方に、グリースを配置し、
前記第一面は、前記第一ポケットから露出する前記ころと接触した状態、及び、前記第二面は、前記第一ポケットから露出する前記ころ、又は、前記保持器の軸方向第二側の一部と接触した状態で、
前記第一部と前記第二部とを、軸方向の中心軸回りに相対回転させる。
【0011】
前記製造方法によれば、封入容器の第一部と第二部とを、軸方向の中心軸回りに相対回転させると、複数のころは、ころ中心軸回りに自転しながら、保持器中心軸回りに公転する。グリースは、スラスト保持器付きころの軸方向第一側の面、及び、スラスト保持器付きころの軸方向第二側の面のうちの少なくとも一方に配置される。このため、ころに付着するグリースは、自転するころによって、内側環状体と外側環状体との間であって第一柱と第二柱との間の保持器内部に封入される。
【0012】
(2)好ましくは、
前記保持器は、軸方向第一側の第一保持器部材と、軸方向第二側の第二保持器部材と、を有し、
前記第一保持器部材は、第一内側環状体と、第一外側環状体と、を有し、前記第一柱は、前記第一内側環状体と前記第一外側環状体とを連結し、前記第一内側環状体と、前記第一外側環状体と、周方向で隣り合う二つの前記第一柱とに囲まれた空間が、前記第一ポケットであり、
前記第二保持器部材は、第二内側環状体と、第二外側環状体と、を有し、前記第二柱は、前記第二内側環状体と前記第二外側環状体とを連結し、前記第二内側環状体と、前記第二外側環状体と、周方向で隣り合う二つの前記第二柱とに囲まれた空間が、前記第二ポケットであり、
前記第一外側環状体と前記第二外側環状体とが、前記外側環状体を構成し、
前記第一内側環状体と前記第二内側環状体とが、前記内側環状体を構成し、
前記第一面は、前記第一ポケットから露出する前記ころと接触した状態、及び、前記第二面は、前記第二ポケットから露出する前記ころ、又は、前記第二保持器部材と接触した状態で、
前記第一部と前記第二部とを、軸方向の中心軸回りに相対回転させる。
【0013】
前記構成を有する製造方法によれば、前記グリースは、自転するころによって、第一保持器部材と第二保持器部材との間の保持器内部に封入される。
【0014】
(3)前記(1)又は(2)の製造方法において、好ましくは、前記第一面は、周方向に沿って連続する平面である。
この場合、複数のころは、第一面を転がることで、ころ中心軸回りに自転しながら、保持器中心軸回りに公転する。
【0015】
(4)前記(1)から(3)のいずれかの製造方法において、好ましくは、
前記第二部は、前記保持器の軸方向第二側の一部と接触する前記第二面と、前記第二面よりも軸方向第二側に位置し前記ころと対向する第三面と、を有し、
前記第二面と前記第三面との間における軸方向の距離は、前記第二ポケットから前記ころの一部が露出する軸方向に沿った露出高さよりも大きく、
前記第二面は、前記保持器の軸方向第二側の一部と接触した状態で、
前記第一部と前記第二部とを、軸方向の中心軸回りに相対回転させる。
この場合、第二面が保持器の一部と接触した状態で、第一部と第二部とが軸方向の中心軸回りに相対回転すると、保持器が中心軸回りに供回りする。これにより、複数のころは、保持器に連れられて、ころ中心軸回りに自転しながら、保持器中心軸回りに公転する。
【0016】
(5)又は、前記(1)から(3)のいずれかの製造方法において、好ましくは、前記第二面は、前記複数のころと接触し、前記第二面は、周方向に沿って連続する平面である。
この場合、第二面が複数のころと接触した状態で、第一部と第二部とが軸方向の中心軸回りに相対回転すると、複数のころは、ころ中心軸回りに自転しながら、保持器に案内されて中心軸回りに公転する。
【0017】
(6)本発明は、複数のころと、保持器と、を有するスラスト保持器付きころに対して、グリースを封入するための封入容器であって、
前記保持器は、内側環状体と、外側環状体と、複数の第一柱と、複数の第二柱と、を有し、
前記複数の第一柱は、周方向に離れて前記内側環状体と前記外側環状体とを軸方向第一側において繋ぎ、隣り合う二つの前記第一柱と前記内側環状体と前記外側環状体とに囲まれた空間が、前記ころの一部を露出させる第一ポケットであり、
前記複数の第二柱は、周方向に離れて前記内側環状体と前記外側環状体とを軸方向第二側において繋ぎ、隣り合う二つの前記第二柱と前記内側環状体と前記外側環状体とに囲まれた空間が、前記ころの一部を露出させる第二ポケットであり、
前記封入容器は、
前記第一ポケットから露出する前記複数のころと接触する第一面を有する第一部と、
前記第二ポケットから露出する前記複数のころ、又は、前記保持器の軸方向第二側の一部と接触する第二面を有する第二部と、
前記保持器の径方向外側に位置する内周面を有する第三部と、
を有し、
前記第一部と前記第二部とは、軸方向の中心軸回りに相対回転可能であり、
前記スラスト保持器付きころの軸方向第一側の面と前記第一部との間、及び、前記スラスト保持器付きころの軸方向第二側の面と前記第二部との間のうちの少なくとも一方は、グリースを配置する領域である。
【0018】
前記封入容器によれば、第一部と第二部とを、軸方向の中心軸回りに相対回転させると、複数のころは、ころ中心軸回りに自転しながら、保持器中心軸回りに公転する。グリースは、スラスト保持器付きころと第一部との間、及び、前記スラスト保持器付きころと第二部との間のうちの少なくとも一方に配置される。このため、ころに付着する前記グリースは、自転するころによって、内側環状体と外側環状体との間であって第一柱と第二柱との間の保持器内部に封入される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、グリースの注入口となる穴が、保持器を構成する部材の一部に設けられていなくても、スラスト保持器付きころが組み立てられた後において、グリースを保持器内部に封入することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、スラスト保持器付きころの一例を示す平面図である。
図2図2は、図1に示すスラスト保持器付きころの断面図である。
図3図3は、図1におけるIII矢視の断面図である。
図4図4は、封入容器の断面図である。
図5図5は、分解状態にある封入容器の断面図である。
図6図6は、封入容器の一部を示す拡大断面図である。
図7図7は、封入容器の一部を示す拡大断面図である。
図8図8は、図7におけるVIII矢視の断面図である。
図9図9は、封入容器の一部を示す拡大断面図である。
図10図10は、封入容器の一部を示す拡大断面図である。
図11図11は、スラスト保持器付きころの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔スラスト保持器付きころ、及びその製造方法〕
図1は、スラスト保持器付きころの一例を示す平面図である。図2は、図1に示すスラスト保持器付きころの断面図である。スラスト保持器付きころ10は、複数のころ11と、複数のころ11を保持する環状の保持器12とを有する。本発明は、図1及び図2に示すスラスト保持器付きころ10に対して、封入容器50(図4参照)によってグリースGを封入するステップを含む製造方法、及び、その製造方法で用いられる封入容器50である。
【0022】
スラスト保持器付きころ10の各方向について定義する。保持器12の中心軸C1に沿った方向、及び、その中心軸C1に平行な方向は「軸方向」と定義される。中心軸C1に直交する方向は「径方向」と定義される。中心軸C1を中心とする円に沿った方向は「周方向」と定義される。
【0023】
図4に示すように、スラスト保持器付きころ10に対するグリースGの封入は、封入容器50を用いて行われる。封入容器50は、スラスト保持器付きころ10を保持する。本実施形態の場合、グリースGの封入の際、保持器12の中心軸C1と、封入容器50の中心軸C0とは一致し、これら中心軸C1及び中心軸C0は、鉛直上下方向に向く。
以下、スラスト保持器付きころ10及び封入容器50の説明において、鉛直上下方向の「下側」は「軸方向第一側」と定義され、鉛直方向の「上側」は「軸方向の第二側」と定義される。
【0024】
図1及び図2により、スラスト保持器付きころ10の構成について説明する。保持器12は、下側の第一保持器部材20と、上側の第二保持器部材30とを有する。第一保持器部材20及び第二保持器部材30それぞれは、円環板状の部材を塑性変形させることによって製造される。
【0025】
第二保持器部材30は、一つの第二内側環状体31と、一つの第二外側環状体32と、複数の第二柱33とを有する。第二内側環状体31及び第二外側環状体32は、円筒形状を有する。第二柱33は、径方向に長い形状を有する。第二柱33は、第二内側環状体31と第二外側環状体32とを連結する。第二内側環状体31と、第二外側環状体32と、周方向で隣り合う二つの第二柱33とに囲まれた空間は、第二ポケット34である。ころ11の一部は、第二ポケット34から露出する。
【0026】
第一保持器部材20は、一つの第一内側環状体21と、一つの第一外側環状体22と、複数の第一柱23とを有する。第一内側環状体21及び第一外側環状体22は、円筒形状を有する。第一柱23は、径方向に長い形状を有する。第一柱23は、第一内側環状体21と第一外側環状体22とを連結する。第一内側環状体21と、第一外側環状体22と、周方向で隣り合う二つの第一柱23とに囲まれた空間は、第一ポケット24である。ころ11の一部は、第一ポケット24から露出する。
【0027】
図3は、図1におけるIII矢視の断面図である。一つの第一柱23と一つの第二柱33とは、周方向について同じ位置に存在する。第一ポケット24と第二ポケット34とは、周方向について同じ位置に存在する。周方向で同じ位置に存在する一つの第一ポケット24と一つの第二ポケット34とにより、ころ11を保持する一つのポケット15が構成される。
【0028】
保持器12は、周方向で隣り合う二つの第一柱23の間隔E1が、ころ11の直径Dよりも小さい部分を有する。保持器12は、周方向で隣り合う二つの第二柱33の間隔E2が、ころ11の直径Dよりも小さい部分を有する。この構成により、ころ11は、ポケット15から保持器12の軸方向に脱落しない。
本実施形態の場合(図1参照)、一つのポケット15において、二つのころ11が、保持器12の径方向に並んで保持される。図示しないが、一つのころ11が、一つのポケット15に保持される構成であってもよい。
【0029】
第一保持器部材20及び第二保持器部材30それぞれは、円環板状の部材を塑性変形させることにより、図2に示す折れ曲がり形状を有する。ただし、複数のころ11及び第二保持器部材30が、第一保持器部材20の上に載せられた状態で、第一保持器部材20の外周縁部及び内周縁部が塑性変形される。これら外周縁部及び内周縁部が、第二外側環状体32及び第二内側環状体31に密着する。この塑性変形によるカシメ加工が行われることで、第一保持器部材20と第二保持器部材30とは一体となる。
【0030】
以上のようにして組み立てられる保持器12は、内側環状体14と、外側環状体13と、複数の第一柱23と、複数の第二柱33とを有する。内側環状体14は、第一内側環状体21と第二内側環状体31とによって構成される。外側環状体13は、第一外側環状体22と第二外側環状体32とによって構成される。
【0031】
複数の第一柱23は、周方向に離れて位置し、内側環状体14と外側環状体13とを下側において繋ぐ。隣り合う二つの第一柱23と内側環状体14と外側環状体13とに囲まれた空間が、ころ11の一部を露出させる第一ポケット24である。
複数の第二柱33は、周方向に離れて位置し、内側環状体14と外側環状体13とを上側において繋ぐ。隣り合う二つの第二柱33と内側環状体14と外側環状体13とに囲まれた空間が、ころ11の一部を露出させる第二ポケット34である。
【0032】
前記のようなカシメ加工を含む組み立てステップを終えることで、組み立て品(図2参照)が得られ、その後、封入容器50(図4参照)を用いて、その組み立て品の各ポケット15を通じて、グリースGを保持器内部に封入するステップが実行される。
内側環状体14と、外側環状体13と、第一柱23と、第二柱33とで囲まれた保持器内部は、第一ポケット24、第二ポケット34、及び、第一ポケット24と第二ポケット34とにそれぞれ入るころ11を除いて、ほぼ閉じた空間となる。閉じた空間である保持器内部に、グリースGは封入される。
【0033】
〔封入容器50について〕
図4は、封入容器50の断面図である。スラスト保持器付きころ10(前記組み立て品)は、封入容器50に収容された状態にある。図5は、分解状態にある封入容器50の断面図である。
【0034】
封入容器50は、下側の第一部51と、上側の第二部52と、径方向外側の第三部53と、径方向内側の第四部54とを有する。本実施形態の場合、第一部51と第三部53と第四部54は一体構造を有する。第二部52は、複数(図例の場合、3つ)の部材を組み合わせて構成される。
【0035】
封入容器50は、上下方向に沿った中心軸C0を有する。スラスト保持器付きころ10は、保持器12の中心軸C1を封入容器50の中心軸C0と一致した状態として、封入容器50に収容される。
図6は、スラスト保持器付きころ10が収容された状態にある封入容器50の一部を示す拡大断面図である。図6は、中心軸C0を含みころ11を通過する面における断面図である。
【0036】
第一部51は、その上部に、第一面61を有する。第一面61は、スラスト保持器付きころ10を置く面となる。第一面61は、第一ポケット24から下側に露出するころ11と接触する。本実施形態の場合、第一面61は、周方向に沿って連続する環状の平面である。第一面61は、中心軸C0を中心とする環状の平面である。第一面61の径方向の寸法W1は、ころ11(径方向に並ぶ二つのころ11)の全長Lよりも僅かに大きい。
【0037】
第三部53は、内周面64を有する。内周面64は、保持器12の径方向外側に位置する。内周面64は、中心軸C0を中心とする円筒形状を有する。内周面64の直径D1は、外側環状体13(第一外側環状体22)の外径d1よりも僅かに大きい。第一面61に載るスラスト保持器付きころ10は、内周面64の内側に嵌った状態となる。
【0038】
第四部54は、中心軸C0を中心とする段付き形状である円柱状の軸59を有する(図4及び図5参照)。第四部54は、外周面65を有する。外周面65は、軸59の下部外周面の一部である。外周面65は、中心軸C0を中心とする円筒形状を有する。外周面65の直径D2は、内側環状体14(第一内側環状体21)の内径d2よりも僅かに小さい。第一面61に載るスラスト保持器付きころ10は、外周面65の外側に嵌った状態となる。
【0039】
スラスト保持器付きころ10は、第一面61に載った状態において、内周面64と外周面65との間に嵌った状態となる。この状態は、封入容器50にスラスト保持器付きころ10が取り付けられた状態であり、この状態は「装着状態」と称される。グリースGは、前記装着状態で、スラスト保持器付きころ10の保持器内部に与えられる。
【0040】
前記のとおり(図4及び図5参照)、第二部52は、複数(図例の場合、3つ)の部材により構成される。第二部52は、ガイドリング71と、円筒形状の転がし治具72と、円筒形状の押さえ治具73とを有する。ガイドリング71は、軸59の外周側に嵌まる円筒部71aを有する。転がし治具72は、円筒部71aの外周側に嵌まる内周面72aを有する。押さえ治具73は、転がし治具72の外周側に嵌まる内周面73aを有する。
【0041】
図7は、スラスト保持器付きころ10が収容された状態にある封入容器50の一部を示す拡大断面図である。図7は、中心軸C0を含み第一柱23及び第二柱33を通過する面における断面図である。図8は、図7におけるVIII矢視の断面図である。
第二部52は、第二面62を有する。第二面62は、第二ポケット34から上側に露出するころ11、又は、保持器12の上側の一部と接触する。図6及び図7に示す形態の場合、第二面62は、保持器12の上側の一部として、第二保持器部材30の第二柱33に接触する。
【0042】
第二部52は、スラスト保持器付きころ10の上面と対向する面として、第二面62の他に、図6及び図8に示すように、第三面63を有する。第三面63は、第二面62よりも上側に位置していて、ころ11の外周面と対向する。
第二面62と第三面63との間における軸方向の距離Hは、第二ポケット34からのころ11の露出高さhよりも大きい(H>h)。露出高さhは、第二ポケット34から、ころ11の一部が上側に露出する軸方向に沿った寸法である。このH>hの関係により、第三面63は、ころ11と非接触である。
【0043】
第二部52(図4参照)を構成するガイドリング71と、転がし治具72と、押さえ治具73とは、一体となる。第二部52は、第一部51に対して回転可能である。第二部52は、軸59をガイド部材として回転可能である。第二部52の回転は、図示しないモータ等によって電動回転であってもよく、作業者による手動回転であってもよい。グリースGを保持器内部に封入するために、規定の回転数によって回転する。
【0044】
本実施形態の場合、第一部51は、作業台70の上に設置され、第二部52は、回転する。図示しないが、第二部52が静止部材であり、第一部51が回転部材であってもよい。
つまり、第一部51と、第二部52とは、軸方向の中心軸C0回りに相対回転可能であればよい。
【0045】
図6に示すように、第二部52は、円環状である外壁56と、円環状である内壁57とを有する。前記装着状態で、外壁56は、ころ11のうち、第二ポケット34から上側に突出している部分の径方向外側に位置する。前記装着状態で、内壁57は、ころ11のうち、第二ポケット34から上側に突出している部分の径方向内側に位置する。外壁56及び内壁57は、保持器12の上面に接触してもよく、保持器12の上面に非接触であってもよい。
【0046】
後に説明するように、保持器内部にグリースGを封入するために、スラスト保持器付きころ10の上側の面にグリースGが配置され、第二部52が回転する。この回転の際、外壁56は、前記グリースGが径方向外側に逃げることを防ぎ、内壁57は、グリースGが径方向内側に逃げることを防ぐ。
【0047】
第一部51は(図4参照)、スラスト保持器付きころ10を第一部51から取り外すための穴67を有する。グリースGが保持器内部に封入された後、第一部51と第二部52とは分離した状態となる。スラスト保持器付きころ10は、穴67に挿入される図外の軸によって押されることで、第一部51から取り外される。
【0048】
〔第二部52が有する第二面62の変形例〕
図9は、スラスト保持器付きころ10が収容された状態にある封入容器50の一部を示す拡大断面図である。図9は、中心軸C0を含みころ11を通過する面における断面図である。図10は、スラスト保持器付きころ10が収容された状態にある封入容器50の一部を示す拡大断面図である。図10は、中心軸C0を含み第一柱23及び第二柱33を通過する面における断面図である。
【0049】
図9及び図10に示す第二の形態は、図6及び図7に示す第一の形態と比較して、第二部52の下面形状が異なるが、その他については同じである。第一の形態と第二の形態とで同じ構成については、同じ符号が付されている。
【0050】
図9及び図10に示す第二の形態の場合、第二部52が有する第二面62は、第二ポケット34から上側に露出するころ11と接触する。第二面62は、複数のころ11と接触する面であり、周方向に沿って連続する環状の平面である。第二面62は、中心軸C0を中心とする環状の平面である。第二面62の径方向の寸法W2は、ころ11(径方向に並ぶ二つのころ11)の全長Lよりも僅かに大きい。第二部52は、その下面に、ころ11と接触する第二面62を有するが、保持器12(第二柱33)の上側の面と接触する面を有しない。
【0051】
前記各形態において、スラスト保持器付きころ10の下側の面と第一部51との間、及び、スラスト保持器付きころ10の上側の面と第二部52との間のうちの少なくとも一方は、グリースGを配置する領域である。
【0052】
〔グリースGを保持器内部に封入するステップ〕
前記構成を有する封入容器50(図4参照)が用いられて、グリースGをスラスト保持器付きころ10の保持器内部に封入する方法について説明する。
封入容器50が有する第一部51は、作業台70に設置される。ガイドリング71と、転がし治具72と、押さえ治具73とは一体とされ、これらにより第二部52が構成される。その第二部52は、第一部51と分離可能である。
【0053】
グリースGは、スラスト保持器付きころ10の下側の面、及び、スラスト保持器付きころ10の上側の面のうちの少なくとも一方に配置される。グリースGは、第一部51の上面に塗布されてもよく、第二部52の下面に塗布されてもよい。
スラスト保持器付きころ10は、第一部51の第一面61の上に載せられる。第二部52は、軸59に上から嵌められ、第一部51及びスラスト保持器付きころ10の上に載せられ、前記装着状態となる。
【0054】
図6図7及び図8に示す形態の場合、グリースGは、次に挙げる位置の少なくとも1つに配置される。
・スラスト保持器付きころ10と、第一面61との間の位置。
・スラスト保持器付きころ10が有するころ11と、ころ11と対向する第三面63との間の位置。
・スラスト保持器付きころ10が有する保持器12の第二柱33と、第二柱33に接触する第二面62との間の位置。
【0055】
前記装着状態において、第一面61は、下側の第一ポケット24から露出するころ11と接触した状態となり、第二面62は、保持器12の上側の一部(第二柱33)と接触した状態となる。第二面62は、第二柱33に対して下方向に押し付けた状態で接触する。
この状態で、第一部51と第二部52とを、軸方向の中心軸C0回りに相対回転させる。本実施形態の場合、第二部52が回転する。
【0056】
図9及び図10に示す形態の場合、グリースGは、次に挙げる位置の少なくとも1つに配置される。
・スラスト保持器付きころ10と、第一面61との間の位置。
・スラスト保持器付きころ10と、第二面62との間の位置。
【0057】
前記装着状態において、第一面61は、下側の第一ポケット24から露出するころ11と接触した状態となり、第二面62は、上側第一ポケット24から露出するころ11と接触した状態となる。第二面62は、ころ11に対して下方向に押し付けた状態で接触し、ころ11は、第一面61に対して下方向に押し付けた状態で接触する。
この状態で、第一部51と第二部52とを、軸方向の中心軸C0回りに相対回転させる。本実施形態の場合、第二部52が回転する。
【0058】
以上のように、封入容器50の第二部52を、第一部51に対して、中心軸C0回りに回転させると、複数のころ11は、第一面61を転がることで、ころ中心軸c回りに自転しながら、保持器12の中心軸C1回りに公転する。
【0059】
図6図7及び図8に示す形態の場合、第二面62が保持器12の上側の一部(第二柱33)と接触した状態で、第二部52が中心軸C0回りに回転すると、保持器12は中心軸C0回りに供回りする。これにより、複数のころ11は、保持器12に連れられて、ころ中心軸c回りに自転しながら、中心軸C0回りに公転する。
第二部52が回転することで、保持器12が中心軸C1を中心に回転し、ころ11は第一面61の上を転走する。ころ11の回転に伴い、ころ11に付着したグリースGは保持器内部に取り込まれる。
【0060】
図9及び図10に示す形態の場合、第二面62が複数のころ11と接触した状態で、第二部52が中心軸C0回りに回転すると、複数のころ11は、ころ中心軸c回りに自転しながら、保持器12に案内されて中心軸C回りに公転する。
第二部52が回転することで、第二面62はころ11を回転させ、ころ11は第一面61の上を転走する。ころ11の回転に伴い、ころ11に付着したグリースGは保持器内部に取り込まれる。
【0061】
前記各形態において、グリースGは、スラスト保持器付きころ10の下側の面、及び、スラスト保持器付きころ10の上側の面のうちの少なくとも一方に配置される。このため、ころ11に付着するグリースGは、自転するころ11によって、内側環状体14と外側環状体13との間であって第一柱23と第二柱33との間の保持器内部に封入される。
【0062】
グリースGが保持器内部に封入された後、封入容器50の第一部51と第二部52とは分離した状態となる。スラスト保持器付きころ10は、穴67に挿入される図外の軸によって押されることで、第一部51から取り外される。
【0063】
以上のように、グリースGの注入口となる穴が、保持器12を構成する部材の一部に設けられていなくても、スラスト保持器付きころ10が組み立てられた後において、グリースGを保持器内部に封入することが可能となる。
グリースGの封入工程は、スラスト保持器付きころ10の製造工程の途中に割り込まないので、製造ラインの変更が不要であり、コスト低減に寄与する。
封入容器50が用いられることにより、作業者による作業ばらつきを抑制することが可能となる。
【0064】
〔その他〕
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものでない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0065】
10 スラスト保持器付きころ
11 ころ
12 保持器
13 外側環状体
14 内側環状体
20 第一保持器部材
21 第一内側環状体
22 第一外側環状体
23 第一柱
24 第一ポケット
30 第二保持器部材
31 第二内側環状体
32 第二外側環状体
33 第二柱
34 第二ポケット
50 封入容器
51 第一部
52 第二部
53 第三部
61 第一面
62 第二面
63 第三面
64 内周面
C1 保持器の中心軸
C0 封入容器の中心軸
G グリース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11