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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012716
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】穀物の特性を評価する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/10 20060101AFI20250117BHJP
   C12G 3/022 20190101ALI20250117BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20250117BHJP
【FI】
G01N33/10
C12G3/022 119B
A23L7/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115770
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】301025634
【氏名又は名称】独立行政法人酒類総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 将生
(72)【発明者】
【氏名】上用 みどり
【テーマコード(参考)】
4B023
4B115
【Fターム(参考)】
4B023LE01
4B023LE02
4B023LE26
4B023LE30
4B023LG01
4B023LG05
4B023LP02
4B023LP05
4B115CN03
4B115CN13
4B115CN15
(57)【要約】
【課題】現場でも簡便に実施できる穀物の酒造適性の評価方法を提供する。
【解決手段】本発明は、穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価方法であって、評価穀物及び溶媒を接触させる接触工程、前記接触工程により前記評価穀物を膨潤させる膨潤工程、前記膨潤工程後の前記評価穀物の体積Aを測定する第1体積測定工程、前記評価穀物に熱を加える加熱工程、前記加熱工程において、前記評価穀物の体積Bを測定する第2体積測定工程、前記体積Bを前記体積Aで除することにより前記評価穀物の加熱膨潤率を算出する加熱膨潤率算出工程、並びに前記加熱工程における前記評価穀物の温度及び前記加熱膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程を含む方法に関する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価方法であって、
評価穀物及び溶媒を接触させる接触工程、
前記接触工程により前記評価穀物を膨潤させる膨潤工程、
前記膨潤工程後の前記評価穀物の体積Aを測定する第1体積測定工程、
前記評価穀物に熱を加える加熱工程、
前記加熱工程において、前記評価穀物の体積Bを測定する第2体積測定工程、
前記体積Bを前記体積Aで除することにより前記評価穀物の加熱膨潤率を算出する加熱膨潤率算出工程、並びに
前記加熱工程における前記評価穀物の温度及び前記加熱膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程
を含む方法。
【請求項2】
前記評価工程は、所定の前記温度における前記加熱膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記評価工程は、所定の前記加熱膨潤率に至るまでの前記温度に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記評価工程は、前記加熱膨潤率が上昇を開始する前記温度に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒は、水である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記評価穀物は白米であり、前記評価工程は、前記加熱膨潤率が120%に至るまでの前記温度に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程であり、
前記評価工程において、
前記温度が58℃未満である場合に前記白米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が短いと評価し、
前記温度が58℃以上63℃未満である場合に前記白米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が普通であると評価し、
前記温度が63℃以上である場合に前記白米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が長いと評価する、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記評価穀物は2以上であり、
前記評価工程は、所定の前記温度におけるそれぞれの加熱膨潤率を比較する工程であり、
前記評価工程において、前記加熱膨潤率が大きいほど、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が短いと評価する、
請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記評価穀物は2以上であり、
前記評価工程は、所定の前記加熱膨潤率に至るまでのそれぞれの温度を比較する工程であり、
前記評価工程において、前記温度が低いほど、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が短いと評価する、
請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記評価工程は、前記加熱膨潤率が上昇を開始するそれぞれの温度を比較する工程であり、
前記評価工程において、前記温度が低いほど、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が短いと評価する、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記溶媒は、水である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
比較対照としてのアミロペクチン側鎖構造が既知である参照穀物をさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記評価穀物は米である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記溶媒はデンプン糊化作用を有する化合物を溶解している、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
2以上の同一形状の容器、2以上の同一形状の穀物配置容器、加温部、温度計測部、及び前記容器中の評価穀物の体積変化を計測するための計測部を含む、穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価装置。
【請求項15】
デンプンの老化性を評価する方法であって、
請求項1に記載の方法で得られたデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価結果から、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖の長さに基づいて、デンプンの老化性を評価する
前記方法。
【請求項16】
穀物の糊化老化特性を評価する方法であって、
請求項1に記載の方法で得られたデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価結果から、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖の長さに基づいて、穀物の糊化老化特性を評価する
前記方法。
【請求項17】
米の酒造時の蒸米溶解性を評価する方法であって、
請求項12に記載の方法で得られたデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価結果から、前記米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖の長さに基づいて、米の酒造時の蒸米溶解性を評価する
前記方法。
【請求項18】
蒸米の老化性を評価する方法であって、
請求項12に記載の方法で得られたデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価結果から、前記米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖の長さに基づいて、蒸米の老化性を評価する
前記方法。
【請求項19】
穀物の含水率又は吸水率の評価方法であって、
評価穀物の体積aを測定する第I体積測定工程、
前記第I体積測定工程後に前記評価穀物及び水を接触させる接触工程、
前記接触工程により前記評価穀物を膨潤させる膨潤工程、
前記膨潤工程後に、前記評価穀物の体積bを測定する第IIの体積測定工程、
前記評価穀物の非加熱膨潤率を、体積bを体積aで除することにより算出する非加熱膨潤率算出工程、並びに
前記非加熱膨潤率に基づいて含水率又は吸水率を評価する評価工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物の特性を評価する方法及び装置、より具体的には、穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価方法、及びデンプンの老化性、米の糊化温度、蒸米の酵素消化性、蒸米の老化性、及び米の酒造時の蒸米溶解性を評価する方法、及び穀物の含水率又は吸水率を評価する方法、並びに当該方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
清酒は、アルコール発酵と原料米の糖化(蒸米の酵素消化)がもろみ中で同時に起こる並行複発酵形式で製造される。当該製造において蒸米の酵素消化の度合いは原料利用率や味の濃淡に影響を及ぼすため、清酒醸造における清酒の製造管理において収穫された原料米の溶解性(蒸米の酵素消化性)は重要である。
【0003】
この原料米の溶解性は、元来原料米が有する特性に加え、原料米の前処理における吸水量や製造工程の品温調整などによっても変化させることが可能である。したがって、原料米の溶解性を予め知ることにより、清酒醸造時での所望する蒸米の酵素消化性を得るために、原料米の前処理や製造条件を事前に調整することができる。さらに、原料米の吸水速度や吸水率に影響を及ぼす吸水前の白米の含水率(白米の水分含有量又は白米水分ともいう)や吸水後の吸水率も製造管理において重要な醸造適性指標である。
【0004】
蒸米の酵素消化性を左右する要因として、原料米中のデンプンの糊化及び老化に関する性質が重要であることが明らかになっている(非特許文献1)。
【0005】
原料米中のデンプンの性質はデンプン中に含まれるアミロペクチンの側鎖構造に密接に関連する。そのため、デンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造が蒸米の酵素消化性の指標になる(非特許文献1、2)。
【0006】
一方で、アミロペクチン側鎖構造及びデンプンの老化特性は解析が困難で手間がかかるため、アミロペクチンの側鎖構造に密接に関連する指標が報告されている。アミロペクチン側鎖構造変化に係る酵素消化性の評価には、イネ栽培時の気象条件による推定方法(非特許文献2及び3)や示差走査熱量計(DSC)及びラピッド・ビスコ・アナライザー(RVA)といった熱分析によるデンプン糊化特性解析による方法(非特許文献4)が報告されている。
【0007】
さらに、例えば、蒸米の酵素消化性の推定法及び簡便なデンプンの性質の推定法として、米粒をアルカリ液に浸漬した際の崩壊性試験が報告されている(非特許文献5)。また、非特許文献5の方法は定量性が乏しいため、この方法を基に溶解性推定の定量化も検討されている。例えば、米粒が崩壊するアルカリ及び尿素溶液の濃度を判定することで、原料米の溶解性について低コストで簡単に定量評価できることが報告されている(特許文献1及び非特許文献6)。
【0008】
一方で、白米の含水率は、高温乾燥法(135℃3時間常圧乾燥法、105℃5時間常圧乾燥法)や電気抵抗式水分計などで測定される。なお、白米の含水率は、吸水時の最大吸水量に影響を及ぼすことが報告されている(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2014-534052号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Okuda,M.、Aramaki,I.、Koseki,T.、Inouchi,N.及びHashizume,K.、「Structural and retrogradation properties of rice endosperm starch affect enyme digestibility of steamed milled-rice grains used in sake production」、Cereal Chem、2006年、83巻、143頁~151頁
【非特許文献2】奥田将生、橋爪克己、沼田美子代、上用みどり、後藤奈美、三上重明著、「気象データと原料米酒造適性との関係」、日本醸造協会誌、2009年、104巻、699頁~711頁
【非特許文献3】奥田将生、橋爪克己、上用みどり、沼田美子代、後藤奈美、三上重明著、「イネ登熟期気温と酒造用原料米のデンプン特性の年次・産地間変動」、日本醸造協会誌、2010年、105巻、97頁~105頁
【非特許文献4】Okuda,M.、Hashizume,K.、Aramaki,I.、Numata,M.、Joyo,M.、Goto-Yamamoto,N.及びMikami,S.、「Influence of starch characteristics on digestibility of steamed rice grains under sake making conditions, and rapid estimation methods of digestibility by physical analysis」、J.Appl.Glycosci.、2009年、56巻、185頁~192頁
【非特許文献5】奥田将生、上用みどり、高橋圭、後藤奈美、高垣幸男、池上勝、鍋倉義仁著、「イネ登熟期が記録的な猛暑となった平成22年産米のデンプン特性及び蒸米酵素消化性」、日本醸造協会誌、2013年、108巻、368頁~376頁
【非特許文献6】奥田将生、上用みどり、福田央著、「酒造用原料米のアルカリ及び尿素崩壊性による蒸米酵素消化性の推定法」、日本醸造協会誌、2018年、113巻、315頁~330頁
【非特許文献7】熊谷知栄子、黒柳嘉弘、野白喜久雄著、「清酒原料米の吸水に関する研究(第1報)清酒原料白米の水分と吸水率の関係」、日本醸造協会誌、1976年、71巻、718頁~722頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来、前述した蒸米の酵素消化性などの原料米の酒造適性評価は、酒造用原料米全国統一分析方法によって行われることが多い。
【0012】
しかしながら、この分析方法は、米の水分調整や精米が必要であるため、時間と労力がかかり、数多くの点数を分析できないという課題があった。そのため、簡便で精度の高い原料米の溶解性の評価方法の開発が望まれている。
【0013】
また、簡便で精度が高い方法として開発された非特許文献2及び3のような方法は、気象条件による推定であるため、産地の正確な気象条件の入手が困難な場合がある。また、非特許文献4のような熱分析では、試料を糊化させることなく粉砕する工程が必要であるとともに、熱分析装置も高価である。さらに、熱分析装置は1検体ずつ測定するため、試料点数が多い場合、時間を必要とする。また、DSC及びRVAでは、試料は装置内で加熱されるため、試料変化の様子が不明である。特に、温度変化と共に生じる穀物粒状の形態変化の情報を紐付けできる装置は今までみられていない。
【0014】
さらに、特許文献1及び非特許文献3に記載の方法は、粒状の形態変化の情報は得られるものの、精米歩合や米の水分によってアルカリ及び尿素による崩壊の程度が影響されるため、精米歩合や米の水分が大きく異なる場合、補正が必要である。また、崩壊性の観察にはヨウ素などの試薬の調製が必要であり、操作が煩雑になることがある。さらに、試験操作によって糊化温度、蒸米の酵素消化性(蒸米消化性)、老化特性、及び含水率の同時推定が可能な装置は今までみられていない。
【0015】
さらに、含水率の測定における高温乾燥法の135℃3時間常圧乾燥法や105℃5時間常圧乾燥法では、米を粉砕後に数時間乾燥させて測定するため手間と労力がかかる。また、電気抵抗式水分計は、簡易であるものの別途該当水分計を入手する必要がある。
【0016】
加えて、吸水特性に関しては、小ロットで吸水試験を実施する必要があり、特殊な吸水管の必要性、多数の検体数を試験する労力、さらには遠心分離操作など、正確に測定するための熟練した技術が求められるといった課題がある。
【0017】
したがって、蒸米の酵素消化性、含水率、吸水特性の試験を1日で実施するのは不可能であり、短時間でこれら重要な特性を同時評価可能になれば酒造技術の向上に貢献できるが、そのような方法や装置は未だみられない。
【0018】
また、穀物デンプンの性質は、ビールや焼酎などの製造工程や、その他食品の品質や加工特性に影響するため簡便なデンプン熱特性の評価方法の開発はニーズが大きい。このような場合にも、アミロペクチンの側鎖構造の解析は困難なため、簡便及び迅速化を目的に、前述のDSCやRVA、尿素及び/又はアルカリ崩壊試験によるデンプンの特性評価がなされている。これらの方法には前述のように課題が多いため、より簡便な方法が求められている。
【0019】
そこで、本発明では、現場でも簡便に実施できる穀物の酒造適性の評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、米と水とを接触させて膨潤させた後、熱を加えることにより、米がさらに膨潤し、当該膨潤性が、米の糊化温度、蒸米の酵素消化性、並びに糊化老化特性、例えば米中のデンプンの老化性及び蒸米の老化性、すなわち、米の酒造時の蒸米溶解性、さらには米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造との間に一定の関係を有することを見出し、本発明を完成した。
【0021】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価方法であって、
評価穀物及び溶媒を接触させる接触工程、
前記接触工程により前記評価穀物を膨潤させる膨潤工程、
前記膨潤工程後の前記評価穀物の体積Aを測定する第1体積測定工程、
前記評価穀物に熱を加える加熱工程、
前記加熱工程において、前記評価穀物の体積Bを測定する第2体積測定工程、
前記体積Bを前記体積Aで除することにより前記評価穀物の加熱膨潤率を算出する加熱膨潤率算出工程、並びに
前記加熱工程における前記評価穀物の温度及び前記加熱膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程
を含む方法。
(2)前記評価工程は、所定の前記温度における前記加熱膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程である、(1)に記載の方法。
(3)前記評価工程は、所定の前記加熱膨潤率に至るまでの前記温度に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程である、(1)に記載の方法。
(4)前記評価工程は、前記加熱膨潤率が上昇を開始する前記温度に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程である、(1)又は(3)に記載の方法。
(5)前記溶媒は、水である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6)前記溶媒は、水であり、前記評価穀物は白米であり、前記評価工程は、前記加熱膨潤率が120%に至るまでの前記温度に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程であり、
前記評価工程において、
前記温度が58℃未満である場合に前記白米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が短いと評価し、
前記温度が58℃以上63℃未満である場合に前記白米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が普通であると評価し、
前記温度が63℃以上である場合に前記白米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が長いと評価する、
(1)、(3)のいずれか1つに記載の方法。
(7)前記評価穀物は2以上であり、
前記評価工程は、所定の前記温度におけるそれぞれの加熱膨潤率を比較する工程であり、
前記評価工程において、前記加熱膨潤率が大きいほど、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が短いと評価する、
(1)又は(2)に記載の方法。
(8)前記評価穀物は2以上であり、
前記評価工程は、所定の前記加熱膨潤率に至るまでのそれぞれの温度を比較する工程であり、
前記評価工程において、前記温度が低いほど、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が短いと評価する、
(1)又は(3)に記載の方法。
(9)前記評価工程は、前記加熱膨潤率が上昇を開始するそれぞれの温度を比較する工程であり、
前記評価工程において、前記温度が低いほど、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が短いと評価する、
(1)、(3)、及び(8)のいずれか1つに記載の方法。
(10)比較対照としてのアミロペクチン側鎖構造が既知である参照穀物をさらに含む、(1)~(9)のいずれか1つに記載の方法。
(11)前記溶媒は、水である、(7)~(10)のいずれか1つに記載の方法。
(12)前記評価穀物は米である、(1)~(11)のいずれか1つに記載の方法。
(13)前記溶媒はデンプン糊化作用を有する化合物を溶解している、(1)~(12)のいずれか1つに記載の方法。
(14)2以上の同一形状の容器、2以上の同一形状の穀物配置容器、加温部、温度計測部、及び前記容器中の評価穀物の体積変化を計測するための計測部を含む、穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価装置。
(15)デンプンの老化性を評価する方法であって、
(1)~(13)のいずれか1つに記載の方法で得られたデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価結果から、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖の長さに基づいて、デンプンの老化性を評価する
前記方法。
(16)穀物の糊化老化特性を評価する方法であって、
(1)~(13)のいずれか1つに記載の方法で得られたデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価結果から、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖の長さに基づいて、穀物の糊化老化特性を評価する
前記方法。
(17)米の酒造時の蒸米溶解性を評価する方法であって、
(1)~(13)のいずれか1つに記載の方法で得られたデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価結果から、米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖の長さに基づいて、米の酒造時の蒸米溶解性を評価する
前記方法。
(18)蒸米の老化性を評価する方法であって、
(1)~(13)のいずれか1つに記載の方法で得られたデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価結果から、米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖の長さに基づいて、蒸米の老化性を評価する
前記方法。
(19)穀物の含水率又は吸水率の評価方法であって、
評価穀物の体積aを測定する第I体積測定工程、
前記第I体積測定工程後に前記評価穀物及び水を接触させる接触工程、
前記接触工程により前記評価穀物を膨潤させる膨潤工程、
前記膨潤工程後に、前記評価穀物の体積bを測定する第II体積測定工程、
前記評価穀物の非加熱膨潤率を、体積bを体積aで除することにより算出する非加熱膨潤率算出工程、並びに
前記非加熱膨潤率に基づいて含水率又は吸水率を評価する評価工程
を含む方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、現場でも簡便に実施できる穀物の酒造適性の評価方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】1.米粒のリアルタイム加温膨潤評価における米粒の膨潤観察に用いた加温装置の模式図(A)及び写真(B)である。
図2】1.米粒のリアルタイム加温膨潤評価における溶解性の異なる2種の白米(平成30年産山田錦及び五百万石(精米歩合70%))における加温に伴う膨潤性の変化を示す写真である。矢印(白)は膨潤が開始した時点(加熱膨潤率上昇開始温度)である。
図3】1.米粒のリアルタイム加温膨潤評価における含水率の異なる2つの白米(平成30年産山田錦(精米歩合70%、含水率10%及び14%))における加温に伴う膨潤性の変化を示す写真である。矢印(白)は膨潤が開始した時点(加熱膨潤率上昇開始温度)である。
図4】1.米粒のリアルタイム加温膨潤評価における精米歩合の異なる2つの白米(平成30年産山田錦(精米歩合40%及び70%))における加温に伴う膨潤性の変化を示す写真である。矢印(白)は膨潤が開始した時点(加熱膨潤率上昇開始温度)である。
図5】2.米粒段階的加温膨潤評価における米粒の膨潤観察に用いた段階的加温装置の模式図(A)及び写真(B)である。
図6】2.米粒段階的加温膨潤評価における試験管を用いた様々な種類の白米における加温に伴う膨潤性の変化を示す写真である。矢印(白)は膨潤が開始した時点(加熱膨潤率上昇開始温度)である。
図7】2.米粒段階的加温膨潤評価における米粒膨潤温度としての加熱膨潤率上昇開始温度と、糊化温度、蒸米の酵素消化性、従来法、及び老化特性との相関関係を示すグラフである。
図8】2.米粒段階的加温膨潤評価におけるディスポーザブルマイクロチューブを用いた様々な種類の白米における加温に伴う膨潤性の変化を示す写真である。矢印(白)は膨潤が開始した時点(加熱膨潤率上昇開始温度)である。
図9】2.米粒段階的加温膨潤評価における含水率の異なる白米(平成29年産日本晴、精米歩合70%)における加温に伴う膨潤性の変化を示す写真である。矢印(白)は膨潤が開始した時点(加熱膨潤率上昇開始温度)である。
図10】2.米粒段階的加温膨潤評価における精米歩合の異なる白米(平成29年産山田錦、精米歩合40%、60%及び70%)における加温に伴う膨潤性の変化を示す写真である。矢印(白)は膨潤が開始した時点(加熱膨潤率上昇開始温度)である。
図11】3.多検体同時加熱膨潤及び白米吸水性、含水率評価における米粒の膨潤観察に用いた多検体同時加温装置の模式図(A)及び写真(B)である。
図12】3.多検体同時加熱膨潤及び白米吸水性、含水率評価における精米歩合70%白米における加温に伴う膨潤性の変化を示す写真である。矢印(白)は膨潤が開始した時点(加熱膨潤率上昇開始温度)である。
図13】3.多検体同時加熱膨潤及び白米吸水性、含水率評価における表2の結果の米粒膨潤温度としての加熱膨潤率120%の温度と、糊化温度、蒸米の酵素消化性、従来法、及び老化特性との相関関係を示すグラフである。
図14】3.多検体同時加熱膨潤及び白米吸水性、含水率評価における含水率の異なる白米(平成30年産山田錦、精米歩合70%)における加温に伴う膨潤性の変化を示す写真である。矢印(白)は膨潤が開始した時点(加熱膨潤率上昇開始温度)である。
図15】3.多検体同時加熱膨潤及び白米吸水性、含水率評価における精米歩合40%白米における加温に伴う膨潤性の変化を示す写真である。矢印(白)は膨潤が開始した時点(加熱膨潤率上昇開始温度)である。
図16】3.多検体同時加熱膨潤及び白米吸水性、含水率評価における米粒膨潤温度としての加熱膨潤率120%の温度と、糊化温度、蒸米の酵素消化性、従来法、及び老化特性との相関関係を示すグラフである。
図17】3.多検体同時加熱膨潤及び白米吸水性、含水率評価において用いる装置(A)及び試験スキーム(B)を示す図である。
図18】3.多検体同時加熱膨潤及び白米吸水性、含水率評価における含水率の異なる白米における時間経過に伴う膨潤性の変化を示す写真、並びに吸水後時間と吸水後の米の高さ及び吸水率を示すグラフである。
図19-1】3.多検体同時加熱膨潤及び白米吸水性、含水率評価における白米の種類ごとの吸水後の非加熱膨潤率と吸水率の関係を示すグラフである。
図19-2】3.多検体同時加熱膨潤及び白米吸水性、含水率評価における白米の種類ごとの吸水後の非加熱膨潤率と吸水率の関係を示すグラフである。
図20】3.多検体同時加熱膨潤及び白米吸水性、含水率評価における含水率の異なる試料についての吸水後の非加熱膨潤率を示す写真である。
図21】3.多検体同時加熱膨潤及び白米吸水性、含水率評価における白米の種類又は精米歩合による吸水後の非加熱膨潤率と含水率の関係を示すグラフである。
図22】4.玄米の評価における様々な種類の玄米(精米歩合90%)の加温に伴う膨潤性の変化を示す写真である。矢印(白)は膨潤が開始した時点(加熱膨潤率上昇開始温度)である。
図23】4.玄米の評価における図22の結果の米粒膨潤温度としての加熱膨潤率上昇開始温度と、糊化温度、蒸米の酵素消化性、従来法、及び老化特性との相関関係を示すグラフである。
図24】4.玄米の評価における様々な種類の玄米の微粉砕後の加温に伴う膨潤性の変化を示す写真である。矢印(白)は膨潤が開始した時点(加熱膨潤率上昇開始温度)である。
図25】4.玄米の評価における図24の結果の米粒膨潤温度としての加熱膨潤率上昇開始温度と、糊化温度、蒸米の酵素消化性、従来法、及び老化特性との相関関係を示すグラフである。
図26】5.尿素溶液を用いた多検体同時加温膨潤評価における様々な種類の白米(平成30年産、精米歩合70%)の尿素水溶液中での加温に伴う膨潤性の変化を示す写真である。矢印(白)は膨潤が開始した時点(加熱膨潤率上昇開始温度)である。
図27】5.尿素溶液を用いた多検体同時加温膨潤評価における図26の結果の米粒膨潤温度としての加熱膨潤率上昇開始温度と、糊化温度、蒸米の酵素消化性、従来法、及び老化特性との相関関係を示すグラフである。
図28】3.多検体同時加熱膨潤及び白米吸水性、含水率評価における表2の結果のアミロペクチンの短鎖割合と、糊化温度、蒸米の酵素消化性、及び老化特性との相関関係を示すグラフである。
図29】3.多検体同時加熱膨潤及び白米吸水性、含水率評価における表2の結果の米粒膨潤温度としての加熱膨潤率120%の温度、又は従来法で測定した糊化温度と、アミロペクチン短鎖割合との相関関係を示すグラフである。
図30】6.デンプン老化特性の評価における表2の結果の米粒膨潤温度としての加熱膨潤率120%の温度、又は従来法で測定した糊化温度と、デンプン老化特性との相関関係を示すグラフである。
図31】7.長粒米や麦などの穀物の評価における米粒膨潤温度としての加熱膨潤率110%の温度と従来法で測定した糊化温度との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それ故、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。なお、本発明の穀物の特性を評価する方法及び装置は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者がおこない得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0025】
<アミロペクチン側鎖構造の評価方法>
本発明の穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価方法は、評価穀物及び溶媒を接触させる接触工程、前記接触工程により前記評価穀物を膨潤させる膨潤工程、前記膨潤工程後の前記評価穀物の体積Aを測定する第1体積測定工程、前記評価穀物に熱を加える加熱工程、前記加熱工程において、前記評価穀物の体積Bを測定する第2体積測定工程、前記体積Bを前記体積Aで除することにより前記評価穀物の加熱膨潤率を算出する加熱膨潤率算出工程、並びに前記加熱工程における前記評価穀物の温度及び前記加熱膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程を含む。
【0026】
以下では、工程ごとに詳細を説明する。
【0027】
(接触工程)
接触工程では、評価穀物(以下では、単に「穀物」ともいう)と溶媒とをそれぞれ接触させる。
【0028】
ここで、本方法において使用される「穀物」とは、デンプンを主体として含む植物の種子の総称である。穀物としては、限定されないが、イネ科作物の種子、例えば米、大麦、小麦、エンバク、アワ、ヒエ、キビ、トウモロコシなどが挙げられる。本発明において、穀物は脱穀されていても、搗精されていてもよい。例えば米の場合、例えば玄米及び白米であってもよい。また、白米の精米歩合は限定されない。例えば、酒米における酒造好適米の白米を使用する場合、酒造の際の米の精米歩合と同じ精米歩合の白米を使用することができる。例えば、玄米を使用する場合、試験精米機や家庭用精米機などで炊飯用の白米まで精米してから評価を実施してもよい。また、清酒原料米以外に、焼酎原料、米飯、もち米加工用の米などの米であってもよい。穀物としては、通常単一の穀物であるが、例えば異なる種類の穀物(例えば、米及び大麦)を2種以上混合した混合物であってもよいし、同じ種類の穀物ではあるが、異なる品種のもの(例えば、米における山田錦及び日本晴)を2種以上混合した混合物であってもよいし、同じ植物及び品種ではあるが、栽培の時期、場所、及び肥料などの栽培条件が異なるもの(例えば、米における山田錦の平成29年産及び平成30年産)を2以上混合した混合物であってもよい。なお、穀物が混合物である場合、混合物中のそれぞれの穀物の割合は限定されない。穀物としては、単一の、すなわち同じ品種及び栽培条件の米が好ましい。
【0029】
穀物として米を使用することにより、米の糊化温度、蒸米の酵素消化性、糊化老化特性、例えば米中のデンプンの老化性及び蒸米の老化性、並びに米の酒造時の蒸米溶解性からなる群から選択される1つ以上の米の特性(本明細書等では、「米の糊化温度などの特性」ともいう。なお、米が白米の場合「白米の糊化温度などの特性」という。)、すなわち、米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造、特に側鎖の長さを評価することができる。
【0030】
穀物としては、1の対象を使用してもよいが、2以上の異なる対象を使用してもよい。
【0031】
例えば穀物として米を使用する場合、2種以上の品種の米、例えば山田錦及び日本晴を対象として使用してもよく、且つ/又は同品種の2以上の異なる栽培条件で栽培された米、例えば山田錦の平成29年産及び平成30年産を対象として使用してもよい。
【0032】
穀物として2以上の異なる対象を使用することにより、以下で説明するように、それぞれを比較検討することで、穀物の特性を評価することができる。
【0033】
穀物の水分は限定されない。穀物の水分は、穀物の全重量に対して、通常8重量%~17重量%である。
【0034】
「溶媒」とは、接触させた穀物中に吸収されることにより穀物を膨潤させるための化合物である。溶媒としては、水、アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。溶媒としては、2種以上の混合物であってもよい。なお、溶媒が混合物である場合、混合物中のそれぞれの化合物の割合は限定されない。溶媒としては、操作の利便性や環境面より、水が好ましい。
【0035】
溶媒は、デンプン糊化作用を有する化合物を溶解していてもよい。この場合、溶媒は、デンプン糊化作用を有する化合物を溶解するための媒体として作用する。
【0036】
「デンプン糊化作用を有する化合物」とは、デンプンと接触させることによりデンプンを糊状に変化(「α化」ともいう)させる作用を有する化合物である。デンプン糊化作用を有する化合物としては、限定されないが、尿素、塩酸グアニジン、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。デンプン糊化作用を有する化合物としては、2種以上の混合物であってもよい。なお、デンプン糊化作用を有する化合物が混合物である場合、混合物中のそれぞれの化合物の割合は限定されない。デンプン糊化作用を有する化合物としては、尿素が好ましい。
【0037】
デンプン糊化作用を有する化合物を使用することにより、下記で説明する加熱工程において、当該化合物が穀物に含まれるデンプンの糊化、さらには、デンプン中への当該化合物及び/又は溶媒の吸収を促進し、より低温において穀物が膨潤する。
【0038】
デンプン糊化作用を有する化合物を使用する場合、溶媒及びデンプン糊化作用を有する化合物を含む溶液中のデンプン糊化作用を有する化合物の濃度は、限定されない。溶液におけるデンプン糊化作用を有する化合物の濃度は、デンプン糊化作用を有する化合物の種類により適宜変更することができる。
【0039】
例えば溶液におけるデンプン糊化作用を有する化合物として尿素を使用し、溶媒として水を使用する場合、Aの水溶液中の尿素の濃度は、通常0.01mol/L(M)~4.0M、好ましくは1.0M~3.0Mである。
【0040】
穀物と溶媒との接触方法は限定されない。接触方法としては、例えば、穀物を溶媒の中に投入する、穀物中に溶媒を投入する、穀物に溶媒を噴霧するなどが挙げられる。接触方法としては、操作の利便性より、穀物を溶媒の中に投入すること、又は穀物中に溶媒を投入することが好ましい。
【0041】
穀物の量は限定されない。穀物の量は、穀物を入れる容器により変更してもよい。例えば、試験管であれば、小さじ3~4分の1程度の量であってもよく、マイクロチューブであれば数粒であってもよい。穀物の量は、1つの溶媒に接触させる穀物の量として、通常0.3g以上、好ましくは0.3g~2.0gである。
【0042】
溶媒の容量は限定されない。溶媒の容量は、通常1.5mL~20mLである。
【0043】
(膨潤工程)
膨潤工程では、前記の接触工程により、穀物を膨潤させる。
【0044】
ここで、「膨潤」とは、穀物中に溶媒及び/又は場合によりデンプン糊化作用を有する化合物が吸収されることにより、穀物の体積が増加することを意味する。なお、「膨潤」には、体積増加以外に、体積増加に伴う穀物の物理特性の変化、例えば穀物の重量増加、屈折率変化、弾力性変化などが含まれる。
【0045】
膨潤工程の時間は限定されない。膨潤工程の時間は、通常穀物の膨潤による体積の増加が鈍化する、好ましくは当該体積の増加が止まるまでの時間である。膨潤工程の時間は、通常10分~24時間、好ましくは30分間~2時間である。
【0046】
膨潤工程の温度は限定されない。膨潤工程の温度は、通常下記で説明する加熱工程においてさらなる膨潤の開始に影響を与えない温度である。膨潤工程の温度は、通常5℃~40℃、好ましくは10℃~25℃である。
【0047】
膨潤工程の前記時間及び温度以外の条件もまた限定されない。膨潤工程の前記時間及び温度以外の条件、例えば気圧や湿度は、通常評価場所の気圧や湿度であってよい。また、膨潤工程において、撹拌の有無は問わないが、撹拌はしないことが好ましい。
【0048】
なお、穀物として2以上の異なる対象を使用する場合、各穀物の膨潤工程の条件はそれぞれ合わせることが好ましい。したがって、2以上の異なる対象を評価する場合、同じ時期に、同じ場所で、同じ条件で評価を実施することが好ましい。ただし、膨潤工程の条件を変更することにより生じ得る影響が小さかったり、その影響を除くことが可能であったりする場合には、この限りではない。
【0049】
膨潤工程によって、穀物はその中に溶媒及び/又は場合によりデンプン糊化作用を有する化合物を吸収して膨潤する。
【0050】
(第1体積測定工程)
第1体積測定工程では、膨潤工程後の評価穀物の体積Aを測定する。本発明において、「体積」とは、評価穀物自体の体積であってもよいが、測定が容易であるという観点から、かさ体積であることが好ましい。したがって、膨潤工程後の評価穀物の体積Aは、例えば、膨潤工程を、メスシリンダーなどの体積を測定するための基準が記載されている容器に評価穀物及び溶媒を入れて実施した場合、膨潤後の評価穀物が到達したメスシリンダーの目盛りを読み取ることで測定することができる。
【0051】
体積Aは、目視により観察してもよいし、写真、ビデオ、カメラ、スマートフォンなどの画像をコンピューター解析してもよいし、画像解析によるAI判定により観察してもよい。
【0052】
体積Aを測定することにより、下記の加熱膨潤率算出工程において、加熱膨潤率から膨潤工程における溶媒による膨潤の影響及び溶媒にデンプン糊化作用を有する化合物を溶解させた場合におけるデンプン糊化作用における膨潤の影響を除き、加熱工程のみに起因する加熱膨潤率を算出することができる。
【0053】
(加熱工程)
加熱工程では、評価穀物に熱を加える。なお、加熱工程では、加熱により穀物の温度が上がる。したがって、加熱及び加温は、同じ意味で使用することがある。
【0054】
加熱工程における穀物の加熱方法は限定されない。加熱方法は、例えば外部の加熱装置による加熱、例えばガスバーナー、電気コンロ、ホットスターラー、ヒーター、ブロックヒーター、マイクロ波加熱装置などによる加熱、媒体を介した加熱、例えば水浴や油浴による加熱などが挙げられる。なお、ブロックヒーターを使用する場合、加熱工程以降の工程において、例えば、膨潤の開始が起こる温度より少し低い温度から段階的に試験管を取り出し膨潤の度合いを観察し、観察後再度ヒートブロックに試験管を入れて加温し、温度と膨潤の様子を観察する。これを繰り返し膨潤の度合いを観察する。あるいは、予め観察する温度を決めておきその点数分試料を準備しておき、目標温度に到達した時点で試料容器を取り出し膨潤温度を観察する。
【0055】
加熱工程の温度は限定されない。例えば、加熱工程は、通常室温(10℃~30℃)から開始して、約75℃~90℃まで加温する。
【0056】
加熱工程の時間は限定されない。例えば、加熱速度は、加温装置の能力によるが、1分~2時間以内、例えば5分~40分、10分~30分で終了するようなタイムスケジュールである。
【0057】
例えば、ヒートブロック法の場合、加熱工程は、室温より加温を開始して、75℃~90℃程度まで昇温する。加熱工程は、当該ヒートブロック装置の昇温能力に依存するが、数十分~数時間程度である。
【0058】
加熱工程により穀物及び溶媒が加熱され、一定の温度になると、穀物が加熱エネルギーによる溶媒のさらなる吸収を開始し、さらに膨潤する。
【0059】
(第2体積測定工程)
第2体積測定工程では、加熱工程における所定の温度において、評価穀物の体積Bを測定する。評価穀物の体積Bは、例えば、前記同様、加熱工程における所定の温度での評価穀物が到達したメスシリンダーの目盛りを読み取ることで測定することができる。
【0060】
体積Bは、第1体積測定工程同様、目視により観察してもよいし、写真、ビデオ、カメラ、スマートフォンなどの画像をコンピューター解析してもよいし、画像解析によるAI判定により観察してもよい。
【0061】
体積Bを測定することにより、加熱工程により膨潤した後の穀物の体積を測定する。
【0062】
(加熱膨潤率算出工程)
加熱膨潤率算出工程では、体積Bを体積Aで除することにより評価穀物の加熱膨潤率を算出する。ここで、「加熱膨潤率」は、穀物の加熱工程により膨潤した割合を意味する。したがって、加熱膨潤率は、B/A、あるいはB/A×100(%)で表わされる。加熱膨潤率は、例えば本発明の方法を底面と上面の面積が同じである柱状容器を使用して実施した場合、底面から上面までの間の底面及び上面に平行な面の面積は底面及び上面と同じになるため、加熱工程前の容器中の底面から穀物までの長さと加熱工程後の容器中の底面から穀物までの長さの比率により表わすことができる。
【0063】
なお、加熱膨潤率算出工程では、加熱膨潤率を穀物の体積に基づいて算出している。一方で、穀物は、膨潤により、前記の通り、体積増加と共に、物理特性の変化、例えば穀物の重量増加、屈折率変化、弾力性変化なども引き起こし得る。したがって、加熱膨潤率は、加熱工程前後の穀物の体積以外でも、加熱工程前後の例えば穀物の重量、屈折率、弾力性などに基づいて算出することもできる。
【0064】
加熱膨潤率を前記の通り算出することにより、前記の通り、加熱膨潤率から膨潤工程における溶媒による膨潤の影響及び溶媒にデンプン糊化作用を有する化合物を溶解させた場合におけるデンプン糊化作用における膨潤の影響を除き、加熱工程のみに起因する加熱膨潤率を算出することができる。
【0065】
(評価工程)
評価工程では、前記加熱工程における評価穀物の温度及び前記加熱膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する。
【0066】
1つの態様では、1以上の評価穀物に対して、加熱工程での評価穀物の所定の温度における加熱膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する。この際、前記加熱膨潤率について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。所定の温度は、複数であってもよい。複数の温度におけるそれらの加熱膨潤率を使用することにより、前記の通り、温度変化による穀物の膨潤性を定量的に把握することが容易になり、それに応じて前記特性を定量的に評価することが可能となる。評価穀物が2以上の場合、所定の温度におけるそれぞれの加熱膨潤率を比較することによりアミロペクチン側鎖構造を評価する。この場合、評価穀物の加熱膨潤率が大きいほど、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は短いと評価する。また、評価穀物の1つとして、指標となり得る、アミロペクチン側鎖構造が既知である参照穀物を使用してもよい。これにより、1以上の評価穀物の結果を、アミロペクチン側鎖構造が既知である参照穀物の結果と比較検討することができる。例えば、評価穀物の加熱膨潤率が参照穀物の加熱膨潤率より大きい場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものよりも短いと評価する。評価穀物の加熱膨潤率が参照穀物の加熱膨潤率と同等である場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものと同等であると評価する。評価穀物の加熱膨潤率が参照穀物の加熱膨潤率より小さい場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものよりも長いと評価する。
【0067】
1つの態様では、1以上の評価穀物に対して、所定の加熱膨潤率に至るまでの加熱工程における評価穀物の温度に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する。この際、前記温度について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。所定の加熱膨潤率は、例えば体積Bが体積Aの1.05倍~2.0倍、例えば1.2倍になったときと設定してもよい。あるいは、所定の加熱膨潤率は、穀物を添加する容器として目盛り付試験管を使用する場合、例えば体積Bが、体積Aから試験管目盛りの0.5目盛り~2目盛り、例えば1目盛り増加したときと設定してもよい。なお、所定の加熱膨潤率は、複数であってもよい。複数の加熱膨潤率におけるそれらの温度を使用することにより、前記の通り、加熱膨潤率変化による穀物の温度を定量的に把握することが容易になり、それに応じて前記特性を定量的に評価することが可能となる。また、例えば所定の加熱膨潤率として、最小の加熱膨潤率(すなわち、加熱膨潤率が上昇を開始する温度(加熱膨潤率上昇開始温度)での加熱膨潤率(0%超))及び最大の加熱膨潤率(すなわち、それ以上膨潤しない加熱膨潤率の上昇が停止した温度(加熱膨潤率上昇完了温度)での加熱膨潤率)を設定し、加熱膨潤率上昇開始温度と加熱膨潤率上昇完了温度の中間点の温度で評価してもよい。評価穀物が2以上である場合、所定の加熱膨潤率に至るまでのそれぞれの前記温度を比較することによりアミロペクチン側鎖構造を評価する。この場合、評価穀物の温度が低いほど、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は短いと評価する。また、評価穀物の1つとして、指標となり得る、アミロペクチン側鎖構造が既知である参照穀物を使用してもよい。これにより、1以上の評価穀物の結果を、アミロペクチン側鎖構造が既知である参照穀物の結果と比較検討することができる。例えば、評価穀物の温度が参照穀物の温度より低い場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものよりも短いと評価する。評価穀物の温度が参照穀物の温度と同等である場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものと同等であると評価する。評価穀物の温度が参照穀物の温度より高い場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものよりも長いと評価する。
【0068】
1つの態様では、1以上の評価穀物に対して、加熱工程における評価穀物の加熱膨潤率が上昇を開始する温度(加熱膨潤率上昇開始温度)に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する。この際、加熱膨潤率上昇開始温度について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。評価穀物が2以上である場合、加熱膨潤率が上昇を開始するそれぞれの前記温度を比較することによりアミロペクチン側鎖構造を評価する。この場合、評価穀物の加熱膨潤率上昇開始温度が低いほど、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は短いと評価する。また、評価穀物の1つとして、指標となり得る、アミロペクチン側鎖構造が既知である参照穀物を使用してもよい。これにより、1以上の評価穀物の結果を、アミロペクチン側鎖構造が既知である参照穀物の結果と比較検討することができる。例えば、評価穀物の加熱膨潤率上昇開始温度が参照穀物の加熱膨潤率上昇開始温度より低い場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものよりも短いと評価する。評価穀物の加熱膨潤率上昇開始温度が参照穀物の加熱膨潤率上昇開始温度と同等である場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものと同等であると評価する。評価穀物の加熱膨潤率上昇開始温度が参照穀物の加熱膨潤率上昇開始温度より高い場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものよりも長いと評価する。
【0069】
1つの態様では、溶媒として水を使用し、評価穀物として白米を使用し、1以上の評価白米に対して、加熱工程における評価穀物の加熱膨潤率が120%に至るまでの温度(加熱膨潤率120%温度)に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する。この際、加熱膨潤率120%温度について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。例えば、加熱膨潤率120%温度が58℃未満である場合、白米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は短い、例えばイソアミラーゼ処理後に2本のゲル濾過カラム(Jorge Gel 10000 A°、1000 A°、Alltech、Deerfiled、USA)で分画したアミロペクチン側鎖の短鎖/長鎖比を3.15以上と評価するか、あるいは、イソアミラーゼ処後に理HPAEC-PADシステム(ICS-6000、ダイオネックス社製、カラム:Carbopac PA1)で測定したアミロペクチンのうちDP(グルコース重合度)6の割合を0.92以上、又はDP6+DP7の割合を2.87以上と評価する。加熱膨潤率120%温度が58℃以上63℃未満である場合、白米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は普通、例えばアミロペクチン側鎖の短鎖/長鎖比を2.81~3.14と評価するか、あるいは、アミロペクチンのうちDP6の割合を0.77~0.91、又はDP6+DP7の割合を2.60~2.86と評価する。加熱膨潤率120%温度が63℃以上である場合、白米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は長い、アミロペクチン側鎖の短鎖/長鎖比を2.80以下と評価するか、あるいは、アミロペクチンのうちDP6の割合を0.76以下、又はDP6+DP7の割合を2.59以下と評価する。
【0070】
さらに、穀物が米の場合、評価工程では、前記加熱工程における評価穀物の温度及び前記加熱膨潤率に基づいて評価された米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造に基づいて、米の糊化温度などの特性を評価することができる。なお、前記加熱工程における評価穀物の温度及び前記加熱膨潤率は、米の糊化温度などの特性とも相関関係があるため、前記加熱工程における評価穀物の温度及び前記加熱膨潤率から直接米の糊化温度などの特性を評価することもできる。下記の態様では、本発明において、穀物が米の場合について詳細を記載するが、穀物は米に限定されるものではなく米以外であってもよい。
【0071】
1つの態様では、1以上の評価対象米に対して、加熱工程での評価穀物の所定の温度における加熱膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価し、さらに当該アミロペクチン側鎖構造の評価結果に基づいて米の糊化温度などの特性を評価する。この際、前記加熱膨潤率について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。なお、所定の温度は、複数であってもよい。複数の温度を使用することにより、前記の通り、加熱工程での米の膨潤性を定量的に把握することが容易になり、それに応じて前記特性を定量的に評価することが可能となる。評価対象米が2以上の場合、加熱工程での評価穀物の所定の温度におけるそれぞれの加熱膨潤率を比較することによりアミロペクチン側鎖構造を評価し、さらに各アミロペクチン側鎖構造の評価結果に基づいて米の糊化温度などの特性を評価する。この場合、評価対象米の加熱膨潤率が大きいほど、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は短いと評価し、アミロペクチン側鎖が短いほど、米中のデンプンは糊化温度が低く遅老化性であり、蒸米の酵素消化性は良好であり、蒸米の老化性は低く、米の酒造時の蒸米溶解性は良好であると評価する。また、評価対象米の1つとして、指標となり得る、アミロペクチン側鎖構造及び/又は米の糊化温度などの特性が既知である参照米を使用してもよい。これにより、1以上の評価対象米の結果を、アミロペクチン側鎖構造及び/又は米の糊化温度などの特性が既知である参照米の結果と比較検討することができる。例えば、評価対象米の加熱膨潤率が参照米の加熱膨潤率より大きい場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものよりも短いと評価し、当該評価結果に基づいて、米中のデンプンは糊化温度が参照米のものよりも低く遅老化性であり、蒸米の酵素消化性は参照米のものよりも良好であり、蒸米の老化性は参照米のものよりも低く、米の酒造時の蒸米溶解性は参照米のものよりも良好であると評価する。評価対象米の加熱膨潤率が参照米の加熱膨潤率と同等である場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものと同等であると評価し、当該評価結果に基づいて、米の糊化温度などの特性もまた参照米のものと同等であると評価する。評価対象米の加熱膨潤率が参照米の加熱膨潤率より小さい場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものよりも長いと評価し、当該評価結果に基づいて、米中のデンプンは糊化温度が参照米のものよりも高く易老化性であり、蒸米の酵素消化性は参照米のものよりも悪く、蒸米の老化性は参照米のものよりも高く、米の酒造時の蒸米溶解性は参照米のものよりも悪いと評価する。なお、前記の通り、所定の温度における加熱膨潤率は、米の糊化温度などの特性とも相関関係があるため、前記加熱膨潤率からアミロペクチン側鎖構造の評価を省略して直接米の糊化温度などの特性を評価してもよい。
【0072】
1つの態様では、1以上の評価対象米に対して、所定の加熱膨潤率に至るまでの加熱工程における評価穀物の温度に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価し、さらに当該アミロペクチン側鎖構造の評価結果に基づいて米の糊化温度などの特性を評価する。この際、前記温度について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。所定の加熱膨潤率は、例えば体積Bが体積Aの1.05倍~2.0倍、例えば1.2倍になったときと設定してもよい。あるいは、所定の加熱膨潤率は、穀物を添加する容器として目盛り付試験管を使用する場合、例えば体積Bが、体積Aから試験管目盛りの0.5目盛り~2目盛り、例えば1目盛り増加したときと設定してもよい。なお、所定の加熱膨潤率は、複数であってもよい。複数の加熱膨潤率におけるそれらの温度を使用することにより、前記の通り、加熱膨潤率変化による穀物の温度を定量的に把握することが容易になり、それに応じて前記特性を定量的に評価することが可能となる。また、例えば所定の加熱膨潤率として、最小の加熱膨潤率(すなわち、加熱膨潤率が上昇を開始する温度(加熱膨潤率上昇開始温度)での加熱膨潤率(0%超))及び最大の加熱膨潤率(すなわち、それ以上膨潤しない加熱膨潤率の上昇が停止した温度(加熱膨潤率上昇完了温度)での加熱膨潤率)を設定し、加熱膨潤率上昇開始温度と加熱膨潤率上昇完了温度の中間点の温度で評価してもよい。評価対象米が2以上である場合、所定の加熱膨潤率に至るまでのそれぞれの前記温度を比較することによりアミロペクチン側鎖構造を評価し、さらに各アミロペクチン側鎖構造の評価結果に基づいて米の糊化温度などの特性を評価する。この場合、評価対象米の前記温度が低いほど、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は短いと評価し、アミロペクチン側鎖が短いほど、米中のデンプンは糊化温度が低く遅老化性であり、蒸米の酵素消化性は良好であり、蒸米の老化性は低く、米の酒造時の蒸米溶解性は良好であると評価する。また、評価対象米の1つとして、指標となり得る、アミロペクチン側鎖構造及び/又は米の糊化温度などの特性が既知である参照米を使用してもよい。これにより、1以上の評価対象米の結果を、アミロペクチン側鎖構造及び/又は米の糊化温度などの特性が既知である参照米の結果と比較検討することができる。例えば、評価対象米の前記温度が参照米の対応する温度より低い場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものよりも短いと評価し、当該評価結果に基づいて、米中のデンプンは糊化温度が参照米のものよりも低く遅老化性であり、蒸米の酵素消化性は参照米のものよりも良好であり、蒸米の老化性は参照米のものよりも低く、米の酒造時の蒸米溶解性は参照米のものよりも良好であると評価する。評価対象米の前記温度が参照米の対応する温度と同等である場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものと同等であると評価し、当該評価結果に基づいて、米の糊化温度などの特性もまた参照米のものと同等であると評価する。評価対象米の前記温度が参照米の対応する温度より高い場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものよりも長いと評価し、当該評価結果に基づいて、米中のデンプンは糊化温度が参照米のものよりも高く易老化性であり、蒸米の酵素消化性は参照米のものよりも悪く、蒸米の老化性は参照米のものよりも高く、米の酒造時の蒸米溶解性は参照米のものよりも悪いと評価する。なお、前記の通り、所定の加熱膨潤率に至るまでの前記温度は、米の糊化温度などの特性とも相関関係があるため、前記温度からアミロペクチン側鎖構造の評価を省略して直接米の糊化温度などの特性を評価してもよい。
【0073】
1つの態様では、1以上の評価対象米に対して、加熱工程における評価穀物の加熱膨潤率が上昇を開始する温度(加熱膨潤率上昇開始温度)に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価し、さらに当該アミロペクチン側鎖構造の評価結果に基づいて米の糊化温度などの特性を評価する。この際、加熱膨潤率上昇開始温度について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。評価対象米が2以上である場合、加熱工程における評価穀物の加熱膨潤率が上昇を開始するそれぞれの温度を比較することによりアミロペクチン側鎖構造を評価し、さらに各アミロペクチン側鎖構造の評価結果に基づいて、米の糊化温度などの特性を評価する。この場合、評価対象米の加熱膨潤率上昇開始温度が低いほど、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は短いと評価し、アミロペクチン側鎖が短いほど、米中のデンプンは糊化温度が低く遅老化性であり、蒸米の酵素消化性は良好であり、蒸米の老化性は低く、米の酒造時の蒸米溶解性は良好であると評価する。また、評価対象米の1つとして、指標となり得る、アミロペクチン側鎖構造及び/又は米の糊化温度などの特性が既知である参照米を使用してもよい。これにより、1以上の評価対象米の結果を、アミロペクチン側鎖構造及び/又は米の糊化温度などの特性が既知である参照米の結果と比較検討することができる。例えば、評価対象米の加熱膨潤率上昇開始温度が参照米の加熱膨潤率上昇開始温度より低い場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものよりも短いと評価し、当該評価結果に基づいて、米中のデンプンは糊化温度が参照米のものよりも低く遅老化性であり、蒸米の酵素消化性は参照米のものよりも良好であり、蒸米の老化性は参照米のものよりも低く、米の酒造時の蒸米溶解性は参照米のものよりも良好であると評価する。評価対象米の加熱膨潤率上昇開始温度が参照米の加熱膨潤率上昇開始温度と同等である場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものと同等であると評価し、当該評価結果に基づいて、米の糊化温度などの特性もまた参照米のものと同等であると評価する。評価対象米の加熱膨潤率上昇開始温度が参照米の加熱膨潤率上昇開始温度より高い場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものよりも長いと評価し、当該評価結果に基づいて、米中のデンプンは糊化温度が参照米のものよりも高く易老化性であり、蒸米の酵素消化性は参照米のものよりも悪く、蒸米の老化性は参照米のものよりも高く、米の酒造時の蒸米溶解性は参照米のものよりも悪いと評価する。なお、前記の通り、加熱膨潤率上昇開始温度は、米の糊化温度などの特性とも相関関係があるため、加熱膨潤率上昇開始温度からアミロペクチン側鎖構造の評価を省略して直接米の糊化温度などの特性を評価してもよい。
【0074】
1つの態様では、溶媒として水を使用し、1以上の評価白米に対して、加熱工程における評価穀物の加熱膨潤率が120%に至るまでの温度(加熱膨潤率120%温度)に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する。この際、加熱膨潤率120%温度について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。例えば、加熱膨潤率120%温度が58℃未満である場合、白米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は短い、例えばイソアミラーゼ処理後に2本のゲル濾過カラム(Jorge Gel 10000 A°、1000 A°、Alltech、Deerfiled、USA)で分画したアミロペクチン側鎖の短鎖/長鎖比を3.15以上と評価するか、あるいは、イソアミラーゼ処理後にHPAEC-PADシステム(ICS-6000、ダイオネックス社製、カラム:Carbopac PA1)で測定したアミロペクチンのうちDP(グルコース重合度)6の割合を0.92以上、又はDP6+DP7の割合を2.87以上と評価し、当該評価結果に基づいて、白米中のデンプンは糊化温度が低く遅老化性であり、蒸米の酵素消化性は良好であり、蒸米の老化性は低く、白米の酒造時の蒸米溶解性は良好であると評価する。加熱膨潤率120%温度が58℃以上63℃未満である場合、白米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は普通、例えばアミロペクチン側鎖の短鎖/長鎖比を2.81~3.14と評価するか、あるいは、アミロペクチンのうちDP6の割合を0.77~0.91、又はDP6+DP7の割合を2.60~2.86と評価し、当該評価結果に基づいて、白米の糊化温度などの特性もまた普通であると評価する。加熱膨潤率120%温度が63℃以上である場合、白米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は長い、例えばアミロペクチン側鎖の短鎖/長鎖比を2.80以下と評価するか、あるいは、アミロペクチンのうちDP6の割合を0.76以下、又はDP6+DP7の割合を2.59以下と評価し、当該評価結果に基づいて、白米中のデンプンは糊化温度が高く易老化性であり、蒸米の酵素消化性は悪く、蒸米の老化性は高く、白米の酒造時の蒸米溶解性は悪いと評価する。なお、前記の通り、加熱膨潤率120%温度は、白米の糊化温度などの特性とも相関関係があるため、加熱膨潤率120%温度からアミロペクチン側鎖構造の評価を省略して直接白米の糊化温度などの特性を評価してもよい。
【0075】
本発明における前記加熱工程における評価穀物の温度及び前記加熱膨潤率と相関関係がある米の糊化温度、蒸米の酵素消化性、及び蒸米の老化性は、以下の通り測定することができる。
【0076】
前記の米の糊化温度は、典型的には、示差走査熱量計(DSC)又はラピッド・ビスコ・アナライザー(RVA)で測定される糊化温度を意味する。
【0077】
DSCによる糊化温度は、次の方法により求めることができる。具体的には、試料数mgを精秤し、2倍重量~4倍重量の蒸留水を加え混合し、測定セルに密封する。レファレンスセルには蒸留水又は酸化アルミナを入れ基準物質とする。DSCの測定条件は、1分間に5℃~10℃程度の加熱速度で約20℃から約120℃まで昇温する。昇温していくとデンプンの糊化が始まり、吸熱反応によりピークが観察され、制御解析システムにより、糊化開始温度、糊化ピーク温度、及び糊化終了温度を求めることができる。糊化温度としては、糊化開始温度を採用してもよいし、測定者の判断によらない糊化ピーク温度を糊化温度としてもよい。DSCによる老化特性は、昇温後のセルを1~2週間程度4℃~室温程度で保存した後再びDSC解析を行うか、又は老化させた試料を上記の条件でDSC解析を行い、吸熱反応により観察されたアミロペクチン再結晶化ピークから、制御解析システムにより求めた吸熱エンタルピー量を老化量として求めることができる。
【0078】
RVAによる糊化温度は、次の方法により求めることができる。具体的には、RVA(ラピッド・ビスコ・アナライザー)を用いて、米粉懸濁液を、パドルを一定回転させながら、約50℃から約95℃まで昇温し、約95℃で数分間保持し、その後、約50℃まで降温し、約50℃で数分間保持するというプログラムで試料の粘度変化を測定する。昇温していくとデンプンの糊化が始まり、粘度の上昇が観察され、制御解析システムにより、粘度上昇開始温度、ピーク粘度、ブレイクダウン、及びセットバック値を求めることができる。糊化温度としては、Pasting temperature(粘度上昇開始温度)を糊化温度としている。
【0079】
前記蒸米の酵素消化性は、蒸米とした状態での酵素による消化されやすさを意味する。ここで、酵素は糖化系酵素であり、典型的にはα-アミラーゼ及びグルコアミラーゼから選択される1種以上の糖化系酵素を含む。したがって、蒸米の酵素消化性は、α-アミラーゼを含み、その他糖化系酵素としてグルコアミラーゼや、タンパク質分解酵素としてプロテアーゼ及びペプチダーゼを含む粗酵素を用いて評価することができる。あるいは、麹から抽出した酵素や麹そのものを用いて試験してもよい。
【0080】
当該粗酵素を用いた蒸米の酵素消化性の評価は次の手順で行うことができる。まず、白米10gを一晩水に浸漬し、翌日水切りし、45分間蒸した後、蒸米を室温まで冷却し、チャック付きビニル袋に入れ、15℃で一定時間放置する。その後、前記粗酵素の酵素液で反応させる。反応条件は、15℃で24時間とする。反応させた後、遠心分離などで固液を分離し、液体部分について糖度計でBrix値(単位:°又は%)を測定する。得られたBrix値を蒸米の酵素消化性とする。
【0081】
前記蒸米の老化性は、蒸米とした状態での老化のしやすさを意味する。蒸米の老化性は、具体的には、次式のように求めることができる。
蒸米の老化性(%)=100-(蒸米6時間老化の蒸米酵素消化性/蒸米1時間老化の蒸米酵素消化性)×100
【0082】
ここで、式中、「蒸米6時間老化の蒸米酵素消化性」は、前記蒸米の酵素消化性における、粗酵素の酵素液で反応させる前の15℃で一定時間放置する時間を6時間に設定したときの蒸米の酵素消化性を指す。具体的には、「蒸米6時間老化の蒸米酵素消化性」は、次の手順で求めることができる。まず、白米10gを一晩水に浸漬し、翌日水切りし、45分間蒸した後、蒸米を室温まで冷却しチャック付きビニル袋に入れ、15℃で6時間放置する。その後、前記粗酵素の酵素液を用いて15℃で24時間反応させた後に、遠心分離などで固液を分離し、液体部分について糖度計でBrix値を測定する。得られた°Brix値を「蒸米6時間老化の蒸米酵素消化性」とする。
同様に、「蒸米1時間老化の蒸米酵素消化性」もまた次の手順で求めることができる。まず、白米10gを一晩水に浸漬し、翌日水切りし、45分間蒸した後、蒸米を室温まで冷却しチャック付きビニル袋に入れ、15℃で1時間放置する。その後、前記粗酵素の酵素液を用いて15℃で24時間反応させた後に、遠心分離などで固液を分離し、液体部分について糖度計でBrix値を測定する。得られたBrix値を「蒸米1時間老化の蒸米酵素消化性」とする。
【0083】
なお、前記酒造時の蒸米溶解性とは、米を原料として用いた酒造の際に形成されるもろみ中での米の溶解性である。もろみには蒸米が用いられる。溶解性が高いほど、蒸米がもろみ中で溶解しやすく、溶解性が低いほど、蒸米はもろみ中で溶解しにくく粒形状が残存しやすい。米の酒造時の蒸米溶解性は、米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造、ひいては、米の糊化温度、蒸米の老化性、蒸米の酵素消化性などの因子に依存している。
【0084】
さらに、本発明は、本発明の穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造を評価するための評価装置にも関する。前記の通り、本発明の評価装置は、米の糊化温度、蒸米の酵素消化性、蒸米の老化性、及び米の酒造時の蒸米溶解性を評価するためにも使用することができる。
【0085】
本発明の評価装置は、2以上の同一形状の容器、2以上の同一形状の穀物配置容器、加温部、温度計測部、及び前記容器中の評価穀物の体積変化を計測するための計測部を含む。
【0086】
2以上の同一形状の容器は、そこに含まれることになる穀物の体積変化を観察することができる限り、限定されない。2以上の同一形状の容器は、例えばメスシリンダーのように、体積を測定するための基準が記載されていることが好ましい。2以上の同一形状の容器は、好ましくは、試験管、スチロール瓶、マイクロチューブなどの透明な管状容器が好ましい。容器は、ディスポーザブルであってもよい。
【0087】
2以上の同一形状の穀物配置容器は、溶媒を入れる容器とは別のもので、2以上の穀物が同時に溶媒と接触し膨潤開始するための穀物を配置する容器である。2以上の同一形状の穀物配置容器は、2以上の穀物が同時に溶媒と接触し膨潤開始することができる限り、限定されない。例えば、シャッター部を装着した穀物を配置する容器が挙げられる。2以上の溶媒を入った容器のそれぞれの上部に同数の同一形状の穀物配置容器を取り付け、シャッター部を閉じた状態で穀物配置容器に穀物をいれておき、シャッター部を開くと2以上の穀物が溶媒を入った容器内に同時に自然落下し、2以上の穀物が溶媒と同時接触及び膨潤開始することができるものが例に挙げられる。2以上の同一形状の穀物配置容器は、透明な管状容器が好ましい。容器は、ディスポーザブルであってもよい。なお、加温膨潤率測定のみの場合は必ずしも当該容器を備え付ける必要はない。
【0088】
加温部は、穀物及び溶媒が加えられた容器を加温するための装置である。加温部としては、例えば、外部の加熱装置、例えばガスバーナー、電気コンロ、ホットスターラー、ヒーター、ブロックヒーター、マイクロ波加熱装置など、媒体を介する加熱装置、例えば水浴や油浴などが挙げられる。
【0089】
温度計測部は、穀物及び溶媒、特に穀物の温度を測定するための装置である。温度計測部としては、例えば、接触式温度計、例えば温度計、デジタル温度計、熱電対、非接触式温度計、例えば放射温度計などが挙げられる。
【0090】
計測部は、穀物の体積変化を計測するための装置である。計測部としては、例えば、ビデオ、カメラ、スマートフォンなどが挙げられる。
【0091】
本発明の評価装置を使用することにより、本発明の穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価をすることができ、さらに、米の糊化温度、蒸米の酵素消化性、蒸米の老化性、及び米の酒造時の蒸米溶解性もまた評価することができる。
【0092】
本発明はさらに、穀物の含水率又は吸水率の評価方法であって、評価穀物の体積aを測定する第I体積測定工程、前記第I体積測定工程後に前記評価穀物及び水を接触させる接触工程、前記接触工程により前記評価穀物を膨潤させる膨潤工程、前記膨潤工程後に、前記評価穀物の体積bを測定する第II体積測定工程、前記評価穀物の非加熱膨潤率を、体積bを体積aで除することにより算出する非加熱膨潤率算出工程、並びに前記非加熱膨潤率に基づいて含水率又は吸水率を評価する評価工程を含む方法にも関する。
【0093】
以下では、工程ごとに詳細を説明する。
【0094】
(第I体積測定工程)
第I体積測定工程では、評価穀物の体積aを測定する。評価穀物の体積aは、例えば、前記同様、第I体積測定工程を、メスシリンダーなどの体積を測定するための基準が記載されている容器に評価穀物を入れて実施した場合、評価穀物が到達したメスシリンダーの目盛りを読み取ることで測定することができる。
【0095】
評価穀物は、前記アミロペクチン側鎖構造の評価方法における穀物の定義の通りである。
【0096】
体積aは、目視により観察してもよいし、写真、ビデオ、カメラ、スマートフォンなどの画像をコンピューター解析してもよいし、画像解析によるAI判定により観察してもよい。
【0097】
体積aを測定することにより、下記の非加熱膨潤率算出工程において、接触工程及び膨潤工程のみに基づく非加熱膨潤率を算出することができる。
【0098】
(接触工程)
接触工程では、第I体積測定工程後に評価穀物及び水を接触させる。
【0099】
接触工程は、前記アミロペクチン側鎖構造の評価方法における接触工程と同様に実施することができる。
【0100】
なお、第I体積測定工程における体積aは、下記で説明する膨潤工程前の穀物の体積、すなわち、膨潤前の穀物の体積である。したがって、第I体積測定工程及び接触工程は、第I体積測定工程後に接触工程を実施しても、接触工程後、好ましくは接触工程直後に第I体積測定工程を実施してもよい。接触工程は、第I体積測定工程後に実施することが好ましい。
【0101】
(膨潤工程)
膨潤工程では、接触工程により評価穀物を膨潤させる。
【0102】
膨潤工程は、前記アミロペクチン側鎖構造の評価方法における膨潤工程と同様に実施することができる。
【0103】
なお、穀物として2以上の異なる対象を使用する場合、各穀物の膨潤工程の条件はそれぞれ合わせることが好ましい。したがって、2以上の異なる対象を評価する場合、同じ時期に、同じ場所で、同じ条件で評価を実施することが好ましい。ただし、膨潤工程の条件を変更することにより生じ得る影響が小さかったり、その影響を除くことが可能であったりする場合には、この限りではない。
【0104】
(第II体積測定工程)
第II体積測定工程では、膨潤工程後に、評価穀物の体積bを測定する。評価穀物の体積bは、例えば、前記同様、膨潤工程を、メスシリンダーなどの体積を測定するための基準が記載されている容器に評価穀物及び溶媒を入れて実施した場合、膨潤工程後に評価穀物が到達したメスシリンダーの目盛りを読み取ることで測定することができる。
【0105】
体積bは、体積aの測定と同様にして測定することができる。
【0106】
体積bを測定することにより、膨潤工程により膨潤した後の穀物の体積を測定する。
【0107】
(非加熱膨潤率算出工程)
非加熱膨潤率算出工程では、評価穀物の非加熱膨潤率を、体積bを体積aで除することにより算出する。ここで、「非加熱膨潤率」は、穀物の接触工程及び膨潤工程により膨潤した割合を意味する。「非加熱膨潤率」の「非加熱」は、接触工程及び膨潤工程が通常非加熱、例えば4℃~25℃で実施されることを示し、前記アミロペクチン側鎖構造の評価方法における加熱膨潤率と区別するために膨潤率の前に付随されている。したがって、非加熱膨潤率は、b/a、あるいは、b/a×100(%)で表わされる。なお、非加熱膨潤率は、前記同様、例えば本発明の方法を底面と上面の面積が同じである柱状容器を使用して実施した場合、底面から上面までの間の底面及び上面に平行な面の面積は底面及び上面と同じになるため、溶媒投入前の容器中の底面から穀物までの長さと膨潤工程後の容器中の底面から穀物までの長さの比率により表わすことができる。
【0108】
なお、非加熱膨潤率算出工程では、非加熱膨潤率を穀物の体積に基づいて算出している。一方で、穀物は、膨潤により、前記の通り、体積増加と共に、物理特性の変化、例えば穀物の重量増加、屈折率変化、弾力性変化なども引き起こし得る。したがって、非加熱膨潤率は、接触工程前及び膨潤工程後の穀物の体積以外でも、接触工程前及び膨潤工程後の例えば穀物の重量、屈折率、弾力性などに基づいて算出することもできる。
【0109】
非加熱膨潤率を前記の通り算出することにより、前記の通り、接触工程及び膨潤工程のみに起因する非加熱膨潤率を算出することができる。
【0110】
(評価工程)
評価工程では、非加熱膨潤率に基づいて含水率又は吸水率を評価する。ここで、「含水率」とは、穀物に含まれる水分の割合を示したもの(重量含水率)を示し、「吸水率」とは、穀物が吸収することができる水分の割合を示したもの(重量吸収率)を示す。
【0111】
1つの態様では、1以上の評価対象米に対して、非加熱膨潤率に基づいて含水率又は吸水率を評価する。この際、非加熱膨潤率について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。白米の吸水率に関して、例えば、非加熱膨潤率が136%超である場合、吸水率は大きく、吸水率34%以上であると評価する。非加熱膨潤率が126%以上136%以下(126%~136%)である場合、吸水率は普通であり、例えば吸水率27%~33%であると評価する。非加熱膨潤率が126%未満である場合、吸水率は小さく、例えば、吸水率26%以下であると評価する。白米の含水率に関して、例えば、非加熱膨潤率が124%未満である場合、含水率は大きく、含水率14%超であると評価する。非加熱膨潤率が124%以上147%以下(124%~147%)である場合、含水率は普通であり、例えば含水率10%以上14%以下(10%~14%)であると評価する。非加熱膨潤率が147%超である場合、含水率は小さく、例えば含水率10%未満であると評価する。
【0112】
本発明により、非加熱膨潤率から含水率又は吸水率を評価することができる。
【0113】
本発明における非加熱膨潤率と相関関係がある穀物の含水率及び吸水率は、以下の通り測定することができる。
【0114】
前記の穀物、特に米の含水率とは、高温乾燥法(135℃3時間常圧乾燥法、105℃5時間常圧乾燥法)や電気抵抗式水分計などで測定される。中でも135℃3時間常圧乾燥法は、バイブレーティングサンプルミルを用い、容器(アルミナ製)1個当たり約10gの試料を入れ、5分間処理した粉砕試料約2gをフタ付秤量器(直径50mm、深さ25mm)に精秤し135℃で3時間乾燥し、デシケーター中で放冷し、乾燥して減少した重量を乾燥前の米の重量から除することによって水分%を算出したものである。
【0115】
前記の吸水特性とは、穀物が白米の場合、白米10gを精秤し、あらかじめ重量を測った浸漬管にとり、15℃の水に浸漬し、15℃で放置後、直ちに浸漬管ごと遠心分離器を用いてRCF(遠心力)×t(回転時間(分))=2,500gt~3,000gt(1,500rpm以上にする)で遠心分離した後直ちに精秤し、次式により吸水率(%)を求めたものである。
吸水率(%)=(遠心分離後の試料の重量(g)-採取試料(g))/採取試料(g)×100
【0116】
本発明の方法により、判定に労力を要した穀物、特に原料米の溶解性、含水率、及び吸水特性を同時に、少量の試料により安価で簡便に精度よく判定できる。すなわち、醸造後しか知り得なかった酒米の酒造適性を事前に知ることができ、清酒の製造管理に大きく貢献できるとともに清酒の品質向上に役立てることができる。また、酒米の育種及び栽培現場では、高額な分析装置を導入するまでもなく、本方法を目的の溶解性を有する酒米の選抜や栽培法の改良に応用できる。その他、焼酎原料など清酒原料米以外の穀物の評価方法として活用可能である。さらに、米とともに、デンプンを含有する穀物の学術研究や食品分野におけるデンプン膨潤特性や吸水特性の解析装置としての活用も可能である。
【実施例0117】
<1.米粒のリアルタイム加温膨潤評価>
(方法)
以下の試料を用いた。
溶解性の異なる試料として、水分13.5%の溶解性の良好な山田錦(6時間気中放置蒸米消化性°Brix値9.6)と山田錦より溶解性の悪い五百万石(6時間気中放置蒸米消化性°Brix値7.1)(いずれも平成30年産、精米歩合70%)を用いた。含水率の異なる試料として、含水率10%及び14%(平成30年産山田錦、精米歩合70%)を用いた。精米歩合が異なる試料として、精米歩合40%及び70%の白米(平成30年産山田錦)を用いた。
【0118】
米粒の膨潤観察には、図1の加温装置を用いた。試料容器は、試験管(外寸φ18mm×105mm)又は2mLマイクロチューブを用いた。試験管を用いた場合、小サジスプーン1/3量(1.3g~1.4g)の米に対して、水8mLを加えた。2mLマイクロチューブの場合、米15粒に対して、水1.6mLを加えた。水浴槽は300mLのビーカーに試験管中の試料が十分浸かる程度の水を満たしたものとした。
【0119】
米に水を加えた後、30分~1時間置いた後にガスバーナーにより加温を開始した。膨潤の判定は、目視で直接、又はビデオカメラやデジタルカメラにより撮影した保存画像をみながら、膨潤が開始する温度を読み取った。加熱膨潤率上昇開始温度を米粒膨潤温度として米の糊化特性及び蒸米の酵素消化性の評価が可能かを検討した。なお、「米粒膨潤温度」とは、所定の加熱膨潤率に至るまでの温度を意味する。また、一連の試験操作は、16℃~26℃程度の室温、湿度制御なしの環境下で実施した。
【0120】
(結果)
図2のように両品種ともに温度が高くなるにつれデンプンが糊化し米粒の膨潤が観察された。山田錦では57℃以降に急激な膨潤が観察されはじめ、58℃に到達すると矢印で示したように明らかな膨潤が確認できるようになった。それに対し、五百万石は山田錦と比較して高温で膨潤し、明確な膨潤がみられたのは矢印のように62℃付近であった。すなわち、溶解しやすい山田錦は低温で膨潤し、山田錦より溶解しにくい五百万石は高温で膨潤した。他の品種でも同様な傾向であったことから、米粒膨潤温度によって酒造原料米の溶解性について、評価可能であった。なお、加熱時間は80℃まで概ね20分以内と短く、米の前処理から通算しても、これまでにない短時間での溶解性評価が可能となった。
【0121】
次に、本方法に対して含水率が及ぼす影響について、含水率10%及び14%(平成30年産山田錦、精米歩合70%)で評価を実施した。図3のように加温前の吸水量は異なるものの、米粒膨潤温度については、どちらも矢印で示した57℃以降で膨潤が急激に起こりはじめ、両試料とも58℃では明確な膨潤が観察された。このように本方法は米の含水率の影響を受けなかった。
【0122】
さらに、本方法への精米歩合が及ぼす影響について、精米歩合40%及び70%の白米(平成30年産山田錦)で評価を実施した。図4のように加温前の吸水量は異なるものの、米粒膨潤温度については、どちらも矢印で示した57℃以降で膨潤が急激に起こりはじめ、両試料とも58℃では明確な膨潤が観察された。このように本方法は、精米歩合の影響を受けにくいことが明らかとなった。
【0123】
以上から、本方法は、含水率及び精米歩合の影響を受けにくく、安価・迅速・簡便に米の糊化特性、及び蒸米の酵素消化性を評価可能であった。
【0124】
<2.米粒段階的加温膨潤評価>
(方法)
以下の試料を用いた。
溶解性の異なる試料として、表1の糊化温度及び蒸米の酵素消化性値を示す水分13.5%、精米歩合70%の白米(平成30年産)を用いた。含水率の異なる試料として、水分11.0%~15.5%の白米試料を用いた。精米歩合が異なる試料として、精米歩合40%、60%、及び70%の白米を用いた。
【0125】
【表1】
【0126】
前記の各酒米について、既存の蒸米酵素消化性の評価指標であるDSC(示差走査熱量計)糊化温度(℃)、1、3、及び6時間気中放置蒸米消化性(Brix)、老化速度(%)を測定した。各測定は以下の条件で行った。
【0127】
DSC(DSC=Differential Scanning Calorimeter=示差走査熱量計)糊化温度(℃)は、DSC7000X(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて解析した。試料約3.5mgを精秤し、12μLの蒸留水を加え混合し、耐圧セルに密封した。1分間に5℃の加熱速度で20℃から120℃まで昇温した。酸化アルミナ20mgを基準物質とした。コンピューターの自動計算により、糊化開始温度(T)、糊化ピーク温度(T)を求めた。
【0128】
RVA(ラピッド・ビスコ・アナライザー=Rapid Visco Analyser)糊化温度は、RVA-TecMaster(Perten社製)を用いて解析した。米粉懸濁液(9%(W/W)、全重量28g)を、50℃で1分、95℃まで5℃/分で昇温し、95℃で5分保持し、その後50℃まで5℃/分で降下し、50℃で6分保持を行った。パドルの回転数は160rpm一定回転で行った。コンピューターの自動計算により、Pasting temperature(粘度上昇開始温度)を求めた。
【0129】
1時間、3時間、又は6時間気中放置蒸米消化性(Brix)は、蒸米の酵素消化性に基づいて測定した。まず、70%に搗精した白米10gを金網かごにいれ15℃の水中で15~20時間浸漬した後、浸漬した米を水切りした。浸漬した米を、小型こしき(M-11、エイシン電機株式会社製)を用いて45分間蒸きょうした。蒸した後、こしきから蒸米をとりだし、室温まで放冷し、チャック付きビニル袋にいれ15℃で1時間、3時間、又は6時間放置した。放置した蒸米を、50mLの酵素液(α-アミラーゼ 60U/mL、グルコアミラーゼ 24U/mL、peptidase(ペプチダーゼR、天野エンザイム株式会社製)3U/mL、0.1Mコハク酸緩衝液pH4.3)に投入し、15℃で24時間酵素消化した。反応終了後、2000×gで10分間遠心分離を行い、デジタル糖度計(DIGITAL REFRACTOMETER PR-100、株式会社アタゴ製)を用いて上澄み液の°Brixを測定した。
【0130】
蒸米の老化性(%)は、老化速度として、前記の1時間気中放置蒸米消化性を蒸米1時間老化の蒸米酵素消化性(Brix)として、前記の6時間気中放置蒸米消化性を蒸米6時間老化の蒸米酵素消化性(Brix)として、以下の式から求めた。
蒸米の老化性(%)=
100-(蒸米6時間老化の蒸米酵素消化性/蒸米1時間老化の蒸米酵素消化性)×100
【0131】
米粒の膨潤観察には、図5の段階的加温装置を用いた。試料容器は、試験管(外寸φ18mm×105mm)及び2mLマイクロチューブを用いた。試験管を用いた場合、小サジスプーン1/3量(1.7g~1.8g)の米に対して、水8mLを加えた。参照試験管には9mLの水を加えた。30℃で1時間放置後加温を開始した。膨潤の判定は、温度は設定温度とともに水のみの試料の温度を測定した。設定温度50℃以降、2℃ずつ段階的に加温して膨潤が開始する温度を膨潤温度として読み取った。膨潤温度によって米の糊化特性及び蒸米の酵素消化性の評価が可能かを検討した。なお、一連の試験操作は、16℃~26℃程度の室温、湿度制御なしの環境下で実施した。
【0132】
(結果)
試験管を用いて、表1に示す精米歩合70%、水分13.5%の糊化温度及び蒸米の酵素消化性値の異なる白米(平成30年産)の評価を実施した。図6のようにどの試料でも温度が高くなるにつれ米粒の膨潤が観察されたが、膨潤の開始が観察される温度は試料間で異なった。加熱膨潤率上昇開始温度を矢印の温度で米粒膨潤温度として読み取った。読み取った値は、表1のように、吟風(北海道)や山田錦の55℃から、五百万石やおくほまれの67℃までであった。本装置で評価した米粒膨潤温度は、図7のようにDSCやRVAで測定した糊化温度(図7A)、蒸米の酵素消化性(図7B及び図7C)、並びに蒸米老化特性(図7D)と極めて高い相関を示した。溶解性の良好な試料は低温で膨潤し、溶解性の悪い試料は高温で膨潤することから、本法によりデンプン糊化温度とともに蒸米の酵素消化性を評価できた。図7Cと7Dのように、従来からの熱分析装置と比較してもその精度は同等であり、本装置の精度は高かった。
【0133】
次に、図8のようにディスポーザブルの2mLマイクロチューブを用いて同様に実施した。ディスポーザブルの2mLチューブを用いても、試験管同様に膨潤を観察できた。ディスポーザブルチューブを使うことにより試験後に試験管の洗浄が必要なくなるため、試験の手間が軽減される。また、水の量が少ないため昇温時間が短くて良好であるなどの利点もある。
【0134】
次に、本装置について水分の及ぼす影響について、含水率11.0%~15.5%の白米試料で評価を実施した。図9のように加温前の吸水量は異なるものの米粒膨潤温度としての加熱膨潤率上昇開始温度は矢印で示したように含水率に関わらず一致し、水分の影響を受けなかった。
【0135】
また、本方法について精米歩合の及ぼす影響について、精米歩合40%、60%、及び70%の白米で評価を実施したところ、図10のように吸水量は異なるものの米粒膨潤温度としての加熱膨潤率上昇開始温度はいずれも精米歩合に関わらず一致し、精米歩合の影響を受けなかった。
【0136】
以上から、本法は白米の含水率及び精米歩合の影響を受けずに、安価・迅速・簡便に米の糊化特性及び蒸米の酵素消化性、老化特性を評価可能であった。
【0137】
<3.多検体同時加熱膨潤及び白米吸水性、含水率評価>
(方法)
以下の試料を用いた。
溶解性の異なる試料として、表2に示す精米歩合70%、水分13.5%の糊化温度及び蒸米の酵素消化性値の異なる白米(平成30年産)を用いた。含水率の異なる試料として、水分9.5%~15.8%の白米を用いた。精米歩合が異なる試料として、精米歩合40%、60%、70%の白米を用いた。
【0138】
【表2】
【0139】
アミロペクチンの側鎖構造は以下のように解析した。メタノールで脱脂した米粉20mgを蒸留水5mLに混合して沸騰水で1時間糊化した。糊化液1mLに600mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.0)50μLと、2%アジ化ナトリウム10μLと、500Uイソアミラーゼ25μLとを加え、40℃で24時間酵素反応を行った。還元剤(3%アンモニア、0.5%テトラヒドロホウ酸ナトリウム)120μLを加え一晩反応後、再度還元剤を加えさらに7時間反応して還元処理を行った。還元処理後凍結乾燥して、1N NaOH100μLを加え溶解し、蒸留水900μLを加えフィルターでろ過しHPLC分析に供した。HPLCはHPAEC-PADシステム(ICS-6000、ダイオネックス社製、カラム:Carbopac PA1)で測定した。移動相は100mM NaOHをB液、100mM NaOH+600mM AcONaをC液とし、0分:B液:C液=5:95~120分:B液:C液=20:80のグラジエントプログラムで行った。グルコース重合度(DP、Degree of Polymerization)DP6からDP61までのピーク面積の相対値から、アミロペクチンの短鎖の割合の指標として、グルコース重合度DP6、DP7、DP6+DP7、DP6/DPΣ(6-24)、(DP6+DP7)/Σ(DP6-DP24)、Σ(DP6-DP8)をアミロペクチンの短鎖割合の指標値として評価した。
【0140】
米粒の膨潤観察には、図11の多検体同時加温装置を用いた。試料容器は、試験管(外寸φ12mm×105mm)を用いた。小サジスプーン1/4量(1.3g~1.5g)の米に対して、水を試験管の9割5分程度の高さまで加え、30分~1時間後に加温を開始した。加温前に吸水率の評価も行う場合は以下のように行った。
【0141】
(1)加温による膨潤の判定
ビデオカメラやデジタルカメラにより撮影した保存画像をみながら、膨潤が開始する温度を米粒膨潤温度として読み取った。米粒膨潤温度によって前述した米の糊化特性及び蒸米の酵素消化性の評価が可能かを検討した。なお、前記一連の試験操作は、16℃~26℃程度の室温、湿度制御なしの環境下で実施した。
【0142】
(2)加熱前の吸水特性及び含水率の解析
図11Aの試験管の部分のみを用いて、図17のように米が同時に水に浸かるような装置を取り付けた。まず、図17のように、水をいれた試験管にシャッター部を閉じた米配置容器に米をいれ(図17(i))、吸水開始時にシャッター部を開き(図17(ii))、多検体が同時に水に浸る(図17(iii))ようにし、米が水に浸かった時点から時間経過とともに膨潤する米粒の様子を観察した(図17(iv))。試料は前記の米を用いた。また、操作は15℃恒温室内において湿度制御なしの環境下で行った。加熱を行う前の米の吸水工程の観察は、浸漬前、浸漬中及び浸漬終了後の米の画像から、各工程中の米粒の高さを測定し非加熱膨潤率を求め、前述した酒造用原料米全国統一分析方法に基づいた方法で予め測定した米の吸水率や白米の水分値との関係を調べた。
【0143】
(結果)
表2のうち10試料についてアミロペクチン側鎖構造を調べた。アミロペクチン短鎖の割合は図28のように澱粉の糊化温度や蒸米の酵素消化性や蒸米老化特性と高い相関を示した。すなわち、アミロペクチンの短鎖割合が高いと糊化温度が低く蒸米の酵素消化性が高く、老化速度が緩やかであった。
【0144】
次に、表2の全試料について図11の多検体同時膨潤評価装置で試験した。試験管等に米及び水を入れホットスターラーにより加温しながら水浴中で膨潤を観察した。
【0145】
図12は、精米歩合70%白米を多検体同時加温膨潤評価したものの一例である。米粒が膨潤を始めた試験管に矢印を付している。試験管目盛りを目安に元の米の高さを基準として5分の1ほど膨潤した時点(加熱膨潤率120%)の温度を米粒膨潤温度として表2に示すように読み取った。本装置で読み取った米粒膨潤温度は、DSCやRVAで測定した糊化温度と同様に、図29のようにアミロペクチンの短鎖割合と極めて高い相関関係を示した。
【0146】
また、本装置で読み取った米粒膨潤温度は図13のようにDSCやRVAで測定した糊化温度(図13A)、蒸米の酵素消化性(図13B及び13C)、蒸米老化特性(図13D)と極めて高い相関を示した。アミロペクチンの短鎖割合が高く、溶解性の良好な試料は低温で膨潤し、溶解性の悪い試料は高温で膨潤することから、本装置によってアミロペクチン側鎖構造とともにデンプン糊化温度、蒸米の酵素消化性及び老化特性を多検体同時評価できることが明らかになった。本装置の精度は、図13C及び13Dのように、従来からの評価装置であるDSCやRVAと比較しても同等で優れていた。この装置での測定の場合、加温前の吸水時間は30分~60分程度でよく、加温は1時間以内で測定が終了するためトータルで1時間~2時間もあれば、多検体同時に溶解性を評価できたことになる。この評価時間は、これまでにない迅速性であった。装置は安価であるため装置を増設すれば、連続的により多検体の同時計測が行えるようになる。
【0147】
次に含水率の加熱膨潤への影響を水分10.3%~15.0%の白米試料を用いて検討した。図14のように加温前の吸水量は異なるものの加熱膨潤率上昇開始温度は矢印で示したように含水率に関わらず一致し、水分の影響を受けにくかった。
【0148】
酒造用原料米では、高度に精米されるため精米歩合40%まで精米した白米を用いて同様な評価を図15のように実施した。加温に伴い精米歩合70%の場合と同様に溶解性の良好な試料は低温で膨潤し、溶解性の悪い試料は高温で膨潤した。精米歩合70%の場合と同様に本法で読み取った米粒膨潤温度(加熱膨潤率120%に至る温度)は図16のようにDSCやRVAで測定した糊化温度(図16A)、蒸米の酵素消化性(図16B及び16C)、蒸米老化特性(図16D)と極めて高い相関を示した。精米歩合40%試料でも精米歩合70%の場合と同様に溶解性の良好な試料は低温で膨潤し、溶解性の悪い試料は高温で膨潤することから、酒造に用いられる程度の精米歩合の範囲では精米歩合に関わらず本装置によってデンプン糊化温度とともに蒸米の酵素消化性及び老化特性を多検体同時評価できることが明らかになった。本装置の精度は、図16C及び16Dのように、従来からの評価装置であるDSCやRVAと比較しても同等で優れていた。
【0149】
白米の含水率は吸水時の最大吸水量に影響を及ぼすことが報告されている(非特許文献7)。図14の膨潤前の米粒を見ると加温前の吸水量は含水率が低いものほど米が膨潤していることがわかる。このことから、米の膨潤度合いを評価すれば米の吸水率を評価出来る可能性が示された。すなわち、加温膨潤前に吸水させるが、この吸水時の膨潤も評価すれば、白米の吸水特性、含水率も評価可能であると考えられた。そのスキームを示したのが、図17Bである。
【0150】
図17Aの装置により、前記の山田錦の異なる精米歩合の試料と異なる水分の試料を用いて、吸水中の米粒の体積増加を測定した。米粒を水に浸漬すると米粒が膨潤し図18Aのように米粒の体積が経時的に変化することが明らかになった。しかも、白米の水分が低い米ほど大きく膨潤していることが観察された。この膨潤変化として、米粒の非加熱膨潤率を経時的に計測したのが図18Bである。一方、これらの試料を酒造用原料米の全国統一分析法に基づき予め同じ時間吸水させて求めておいた吸水率が図18Cである。図18A~18Cをみると、白米の水分が低く吸水の良好な米ほど大きく膨潤することが観察された。
【0151】
そこで、水分、精米歩合、品種の異なる米を用いてこの方法で吸水させ、吸水時の米の膨潤変化と酒造用原料米の全国統一分析法に基づき予め同じ時間吸水させて求めておいた吸水率との関係を調べた。図19図19-1及び19-2)には、全ての試料(図19-1A)、精米歩合70%の山田錦(図19-1B)、日本晴(図19-1C)、五百万石(図19-1D)、精米歩合40%の山田錦(図19-2E)、精米歩合60%の山田錦(図19-2F)、精米歩合40%~70%の山田錦(図19-2G)、日本晴(図19-2H)での関係を示した。なお、各米の含水率は、9.6%~15.1%であった。吸水による米粒の非加熱膨潤率と吸水率との間には、図19-1Aの全ての試料ではやや関係性にバラツキがみられるが、図19-1B~19-2Hのように品種を限定すれば、極めて高い相関関係がみられた。非加熱膨潤率は底面積一定の容器を用いれば米粒の高さの計測で求めることができる。すなわち、浸漬時の米粒の膨潤による試験管中の米粒の底面からの高さ変化を計測することで、吸水率の推定ができることを見いだした。この知見を吸水時間の目標値の決定に応用するには、例えば吸水率30%目標の吸水時間にする場合、図19に示した回帰式から吸水率30%の米の高さを求め、この高さになる時間を図17Aの装置で測定すれば目標とする吸水時間を決定することができる。
【0152】
含水率の異なる試料について、吸水後に米粒の非加熱膨潤率を観測した。平成29年及び平成30年産の山田錦と日本晴の白米(精米歩合70%)について、含水率9.6%~15.8%の白米試料を用いて検討したのが図20である。いずれの試料も米が吸水し米粒が膨潤し試験管内で非加熱膨潤率が高くなったが、含水率により非加熱膨潤率が異なった。含水率が低いほど、米粒が膨らみ非加熱膨潤率が高く、含水率が高いほど米粒の膨らみは抑えられ非加熱膨潤率は低かった。吸水後の非加熱膨潤率と含水率との関係性を調べたのが図21である。両品種ともに含水率と吸水後の非加熱膨潤率との間には極めて高い相関関係がみられた。すなわち品種毎に非加熱膨潤率と含水率の関係式を求めておけば、加熱膨潤評価の前に非加熱膨潤率から原料処理時に重要視される吸水特性とともに白米の水分値まで推定できることが明らかになった。
【0153】
以上から、図17Bのスキームにより、白米を水に吸水させる段階の膨潤度合いから吸水特性と含水率が評価でき、その後加温すると加熱膨潤率上昇開始温度からデンプン糊化温度とともに蒸米の酵素消化性及び老化特性を多検体同時評価できることが明らかになった。一連の操作工程は最速2時間以内で終了でき、これまでの装置ではみられない迅速なものである。
【0154】
<4.玄米の評価>
(方法)
以下の試料を用いた。
糊化温度及び蒸米の酵素消化性値の異なる試料として、表2に示す品種のうち吟風(北海道)、山田錦(広島)、出羽燦々(山形)、吟ぎんが(岩手)、五百万石(栃木)、五百万石(新潟)、五百万石(福井)、おくほまれ(福井)の玄米(平成30年産)の評価を実施した。玄米は少量試験精米機(Kett科学、パーレスト)で精米歩合91%まで精米するか、ミルサーで10秒間粉砕した後に用いた。
【0155】
米粒の膨潤観察には、図11の多検体同時加温装置を用いた。膨潤の判定は、ビデオカメラやデジタルカメラにより撮影した保存画像をみながら、膨潤が開始する温度を読み取った。膨潤温度によって米の糊化特性及び蒸米の酵素消化性の評価が可能かを検討した。試料容器は、試験管(外寸φ12mm×105mm)を用いた。小サジスプーン1/4量(1.3g~1.5g)の米に対して、水を試験管の高さで9割5分程度まで加え、1時間後に加温を開始した。なお、一連の試験操作は、16℃~26℃程度の室温、湿度制御なしの環境下で実施した。
【0156】
(結果)
玄米は、水に浸漬しても吸水が起こりにくい。そのため試料が玄米である場合、炊飯用の精米機又は試験用の精米機を用いて飯米程度~酒造用原料米の程度まで精米した後に試験するか、あるいは、半粒に切断するか、簡易なミルサーにより微粉砕し粉砕物を用いて試験することが好ましい。
【0157】
図22は、玄米8品種を家庭用の精米機で飯米用に精米した後に加温膨潤評価を行ったものである。飯米用の精米歩合の試料の本装置での測定結果は、図23のようにDSCやRVAで測定した糊化温度(図23A)、蒸米の酵素消化性(図23B及び23C)、蒸米老化特性(図23D)と極めて高い相関を示した。精米歩合90%試料の場合、精米歩合40%~70%の場合よりも加温膨潤温度は高くシフトするが、試料間差異の傾向は精米歩合40%~70%の場合と同様で、溶解性の良好な試料は低温で膨潤し、溶解性の悪い試料は高温で膨潤した。
【0158】
図24は玄米8品種を簡易なミルサーにより10秒間微粉砕した後に加温膨潤評価を行ったものである。玄米粉砕試料も、図25のようにDSCやRVAで測定した糊化温度(図25A)、蒸米の酵素消化性(図25B及び25C)、蒸米老化特性(図25D)と極めて高い相関を示した。
【0159】
玄米粉砕試料の場合でも、精米歩合40%~70%の場合よりも加温膨潤温度は高くシフトするが、試料間差異の傾向は精米歩合40%~70%の場合と同様で溶解性の良好な試料は低温で膨潤し、溶解性の悪い試料は高温で膨潤した。
【0160】
すなわち、玄米からであっても、簡易な処理により図12の白米の結果と同様な傾向を得ることが可能であった。すなわち、玄米からの場合、酒造用のように高度に精米しなくても、短時間の精米や粉砕により本装置での評価が可能である。
【0161】
このことより、米以外の穀物デンプンにおいても吸水が悪い試料を評価する場合、粉砕等により吸水膨潤が起こりやすい状態に処理すれば、本装置で膨潤評価が可能であることがわかる。
【0162】
<5.尿素溶液を用いた多検体同時加温膨潤評価>
(方法)
以下の試料を用いた。
糊化温度及び蒸米の酵素消化性値の異なる試料として、表2に示す品種のうち吟風(北海道)、山田錦(広島)、出羽燦々(山形)、吟ぎんが(岩手)、五百万石(栃木)、五百万石(新潟)、五百万石(福井)、おくほまれ(福井)の精米歩合70%、水分13.5%の白米(平成30年産)の評価を実施した。
【0163】
米粒の膨潤観察には、図11の多検体同時加温装置を用いた。膨潤の判定は、ビデオカメラやデジタルカメラにより撮影した保存画像をみながら、膨潤が開始する温度を読み取った。膨潤温度によって米の糊化特性及び蒸米の酵素消化性の評価が可能かを検討した。
試料容器は、試験管(外寸φ12mm×105mm)を用いた。小サジスプーン1/4量(1.3g~1.5g)の米に対して、水を試験管の高さで9割5分程度まで加え、30分~1時間後に加温を開始した。なお、一連の試験操作は、16℃~26℃程度の室温、湿度制御なしの環境下で実施した。
【0164】
(結果)
加温膨潤評価に水を用いた場合、加熱を続けると水浴中の水の沸騰が始めるため、80℃~90℃程度までの測定が無難である。高温まで加温しないと十分に膨潤しない試料の場合や、あるいは測定時間の短縮化を図る場合、尿素や塩酸グアニジン溶液を用いると膨潤温度が低下するとともに測定時間を短縮できる。
【0165】
図26は、2.0M尿素溶液を用いて加温膨潤評価を行った例を示す。水を用いた場合より10℃以下も低い温度で膨潤したことがわかる。膨潤温度は、図27のようにDSCやRVAで測定した糊化温度(図27A)、蒸米の酵素消化性(図27B及び27C)、蒸米老化特性(図27D)と極めて高い相関を示した。尿素溶液を用いた場合、水を用いた場合よりも膨潤温度は低くなったが、試料間差異の傾向は水を用いた場合と同様で、溶解性の良好な試料は低温で膨潤し、溶解性の悪い試料は高温で膨潤した。このことより尿素溶液を用いてもデンプン特性及び蒸米の溶解性は評価可能であった。
【0166】
したがって、尿素溶液に限らずジメチルスルホキシド溶液、塩酸グアニジン溶液などデンプンに糊化作用を示す溶液を用いれば、加熱温度の低下とともに測定時間を短縮できる。
【0167】
<6.デンプン老化特性の評価>
(方法)
表2に示す品種のうちから8又は10試料を用いた。米粒の膨潤観察は、図11の多検体同時加温装置を用いた。
デンプンの老化特性は、老化したデンプンのアミロペクチンの再結晶化に由来するピークをDSCで解析した。試料は以下の2通りで老化させたデンプンを評価した。一つ目は、白米粉(10試料)をDSCにより1分間に5℃の加熱速度で20℃から120℃まで昇温した。測定後のセルを13日間4℃で保存した後、再度同条件でDSC解析した。酸化アルミナ20mgを基準物質とした。コンピューターの自動計算により、アミロペクチンの再結晶化によるピークの吸熱エンタルピー量(J/g)を求めた。デンプンの老化度は老化後の吸熱エンタルピー量をデンプンの老化指標とした。老化後のエンタルピー量を生デンプンのアミロペクチン融解熱量で除した比率をアミロペクチンの老化度とした。二つ目は、蒸米(8試料)を15℃で24時間放置後、エタノール3回とアセトン1回で脱水した試料をDSCで評価した。老化後の吸熱エンタルピー量をデンプンの老化指標とした。
【0168】
(結果)
図30A及びBに白米粉をDSC測定した試料を13日間保存した試料のデンプンの老化特性及びデンプンの老化の大半を占めるアミロペクチンの老化特性を評価した結果を示した。図30Cに蒸米保存時におけるデンプンの老化特性を評価した結果を示した。図30A~Cのように、いずれの場合でもデンプンの老化特性は、米粒膨潤温度と極めて高い相関を示した。この相関関係はDSC測定による糊化温度との相関関係と同程度であった。すなわち、膨潤温度が高いほど老化が進みやすい性質を持つと評価できることが明らかとなった。
【0169】
老化特性の評価は、実際に老化させてからその老化度を評価することも可能であるが、予め老化条件にあわせたデータを蓄積していれば、本測定方法により膨潤率開始温度から老化特性を短時間で評価可能であることがわかる。
【0170】
<7.長粒米及び麦などの穀物の評価>
(方法)
長粒種の米(長粒米)及び麦などの穀物の評価を行った。糊化温度の異なる試料として、長粒種の白米7試料(品種:サリクィーン、バスマティ、カラサス、ホシユタカ2試料、夢十色2試料、精米歩合91%程度)、大麦4試料(搗精大麦)、穀物デンプン粉7試料(馬鈴薯デンプン3試料、コーンスターチ2試料、サツマイモデンプン1試料)の糊化特性の評価を実施した。長粒米はそのまま用いた。大麦は、ミルサーで10秒~15秒間粉砕した後に用いた。
【0171】
膨潤観察には、図11の多検体同時加温装置を用いた。膨潤の判定は、ビデオカメラにより撮影した保存画像をみながら、膨潤率が110%に到達する温度を読み取った。膨潤温度によって長粒米や麦などの穀物の糊化特性の評価が可能かを検討した。試料容器は、試験管(外寸φ12mm×105mm)を用いた。長粒種の米及び大麦は小サジスプーン1/4量(1.3g~1.5g)、デンプン粉は1gに対して、水を試験管の高さで9割5分程度まで加え、2時間以上経過後に加温を開始した。なお、一連の試験操作は、16℃~26℃程度の室温、湿度制御なしの環境下で実施した。
【0172】
(結果)
図31は、長粒米、精麦した大麦、穀物デンプン粉の加温膨潤評価の結果である。長粒種は短粒種と同様に粒のまま膨潤評価が可能であったが、米以外の穀物の場合は、粒のままでは玄米での評価時と同様に膨潤の度合いが低かったため、簡易的に粉砕した後に評価した。また、穀物では抽出したデンプンや粉末試料での利用も多いため、デンプンや粉末試料の評価も実施した。
【0173】
膨潤の程度は試料により異なったが、膨潤の開始温度を本装置で測定した結果は、長粒種の米や大麦でそれぞれ、図31のようにDSCで測定した糊化温度と極めて高い相関を示した。また、抽出されたデンプン粉では、穀物の種類に関わらず膨潤開始温度とDSCで測定した糊化温度は高い相関関係を示した。すなわち、長粒種の米や麦などの穀物であっても、簡易な処理により糊化特性の傾向を把握することが可能であった。すなわち、米だけでなくデンプンを含有する穀物では、本装置でデンプンの糊化特性の評価が可能である。
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図19-2】
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