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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012719
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】穀物の特性を評価する方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/10 20060101AFI20250117BHJP
   C12Q 1/58 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
G01N33/10
C12Q1/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115775
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】301025634
【氏名又は名称】独立行政法人酒類総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 将生
(72)【発明者】
【氏名】上用 みどり
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ16
4B063QQ67
4B063QR41
4B063QR43
4B063QR90
4B063QS36
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】現場でも簡便に実施できる穀物の酒造適性の評価方法を提供する。
【解決手段】本発明は、穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価方法であって、評価穀物、並びに以下のA及びBをそれぞれ接触させる接触工程、A:デンプン糊化作用を有する化合物及び溶媒、B:前記溶媒、前記接触工程により前記評価穀物を膨潤させる膨潤工程、前記膨潤工程後に、前記評価穀物の膨潤率を、Aと接触させた前記評価穀物の体積をBと接触させた前記評価穀物の体積で除することにより算出する膨潤率算出工程、並びに前記化合物の溶液濃度及び前記膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程を含む方法に関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価方法であって、
評価穀物、並びに以下のA及びBをそれぞれ接触させる接触工程、
A:デンプン糊化作用を有する化合物及び溶媒
B:前記溶媒
前記接触工程により前記評価穀物を膨潤させる膨潤工程、
前記膨潤工程後に、前記評価穀物の膨潤率を、Aと接触させた前記評価穀物の体積をBと接触させた前記評価穀物の体積で除することにより算出する膨潤率算出工程、並びに
前記化合物の溶液濃度及び前記膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程
を含む方法。
【請求項2】
前記評価工程は、所定の前記溶液濃度における前記膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記評価工程は、所定の前記膨潤率に至るまでの前記溶液濃度に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記評価工程は、前記膨潤率が上昇を開始する前記溶液濃度に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記デンプン糊化作用を有する化合物は、尿素、塩酸グアニジン及びジメチルスルホキシドからなる群から選択される1種以上の化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒は、水である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記デンプン糊化作用を有する化合物は尿素であり、且つ前記溶媒は水であり、
前記評価工程は、前記膨潤率が上昇を開始する前記溶液濃度に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程であり、
前記評価工程において、
前記膨潤率上昇開始濃度が2.5M未満である場合に前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が短いと評価し、
前記膨潤率上昇開始濃度が2.5M以上3.1M未満である場合に前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が普通であると評価し、
前記膨潤率上昇開始濃度が3.1M以上である場合に前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が長いと評価する、
請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記評価穀物は2以上であり、
前記評価工程は、所定の前記溶液濃度におけるそれぞれの膨潤率を比較する工程であり、
前記評価工程において、前記膨潤率が大きいほど、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が短いと評価する、
請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記評価穀物は2以上であり、
前記評価工程は、所定の前記膨潤率に至るまでのそれぞれの溶液濃度を比較する工程であり、
前記評価工程において、前記溶液濃度が低いほど、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が短いと評価する、
請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記評価工程は、前記膨潤率が上昇を開始するそれぞれの溶液濃度を比較する工程であり、
前記評価工程において、前記溶液濃度が低いほど、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が短いと評価する、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記評価穀物の少なくとも1種は、アミロペクチン側鎖構造が既知である参照穀物である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記評価穀物は米である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
2以上の同一形状の容器、及びデンプン糊化作用を有する化合物を含む、穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造を評価するためのキット。
【請求項14】
米の酒造時の蒸米溶解性を評価する方法であって、
請求項12に記載の方法で得られたデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価結果から、前記米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖の長さに基づいて、米の酒造時の蒸米溶解性を評価する
前記方法。
【請求項15】
蒸米の老化性を評価する方法であって、
請求項12に記載の方法で得られたデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価結果から、前記米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖の長さに基づいて、蒸米の老化性を評価する
前記方法。
【請求項16】
穀物の糊化老化特性を評価する方法であって、
請求項1に記載の方法で得られたデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価結果から、前記穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖の長さに基づいて、穀物の糊化老化特性を評価する
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物の特性を評価する方法及びキット、より具体的には、穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価方法、及びデンプンの老化性、米の糊化温度、蒸米の酵素消化性、蒸米の老化性、及び米の酒造時の蒸米溶解性を評価する方法、並びに当該方法を実施するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
清酒は、原料米の溶解・糖化(酵素消化)とアルコール発酵とがもろみの中で同時に起こる並行複発酵形式により製造される。原料米の糖化の程度は原料米の利用率や清酒の香味に影響を及ぼすため、清酒の製造工程では原料米の溶解性(蒸米の酵素消化性)が重要である。そのため、清酒の製造現場や酒米品種の育種では、原料米の酒造適性評価において、蒸米の酵素消化性が重要視されている。蒸米の酵素消化性を左右する要因として、原料米中のデンプンの糊化及び老化に関する性質が重要であることが明らかになっている(非特許文献1)。
【0003】
これまでに、原料米の溶解性評価方法として、例えば気象条件による推定方法(非特許文献2及び3)、及び熱分析による方法(非特許文献4)が報告されている。これらの方法は、簡便で精度が高いという利点を有する。
【0004】
また、米粒をアルカリ液に浸漬した際の崩壊性によって米の溶解性を推定できることが報告されている(非特許文献5)。この方法を基に溶解性推定の定量化を目指して検討がされている。様々な濃度のアルカリ又は尿素溶液中で米粒を崩壊反応させ、米粒の崩壊の程度とヨウ素による呈色を観察した結果、米粒が崩壊する又はヨウ素液が濃青色に変化する濃度と示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimeter)又はラピッド・ビスコ・アナライザー(RVA:Rapid Visco Analyser)で測定される糊化温度及び蒸米の酵素消化性との間には強い相関関係がみられている。これから、米粒が崩壊するアルカリ及び尿素溶液の濃度を判定することで、原料米の溶解性について低コストで簡単に定量評価できることが報告されている(特許文献1及び非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2014-534052号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Okuda,M.、Aramaki,I.、Koseki,T.、Inouchi,N.及びHashizume,K.、「Structural and retrogradation properties of rice endosperm starch affect enyme digestibility of steamed milled-rice grains used in sake production」、Cereal Chem、2006年、83巻、143頁~151頁
【非特許文献2】奥田将生、橋爪克己、沼田美子代、上用みどり、後藤奈美、三上重明著、「気象データと原料米酒造適性との関係」、日本醸造協会誌、2009年、104巻、699頁~711頁
【非特許文献3】奥田将生、橋爪克己、上用みどり、沼田美子代、後藤奈美、三上重明著、「イネ登熟期気温と酒造用原料米のデンプン特性の年次・産地間変動」、日本醸造協会誌、2010年、105巻、97頁~105頁
【非特許文献4】Okuda,M.、Hashizume,K.、Aramaki,I.、Numata,M.、Joyo,M.、Goto-Yamamoto,N.及びMikami,S.、「Influence of starch characteristics on digestibility of steamed rice grains under sake making conditions, and rapid estimation methods of digestibility by physical analysis」、J.Appl.Glycosci.、2009年、56巻、185頁~192頁
【非特許文献5】奥田将生、上用みどり、高橋圭、後藤奈美、高垣幸男、池上勝、鍋倉義仁著、「イネ登熟期が記録的な猛暑となった平成22年産米のデンプン特性及び蒸米酵素消化性」、日本醸造協会誌、2013年、108巻、368頁~376頁
【非特許文献6】奥田将生、上用みどり、福田央著、「酒造用原料米のアルカリ及び尿素崩壊性による蒸米酵素消化性の推定法」、日本醸造協会誌、2018年、113巻、315頁~330頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献2及び3のような気象条件による推定では産地の正確な気象条件の入手が困難な場合があり、非特許文献4のような熱分析では装置が高価であるといった課題がある。
【0008】
さらに、非特許文献5に基づく特許文献1及び非特許文献6に記載のアルカリや尿素溶液を用いた方法では、評価対象の精米歩合や米の含水率(水分含有量又は水分ともいう)がアルカリ及び尿素による米の崩壊の程度に影響を及ぼす。また、崩壊性の観察には、例えばヨウ素などのさらなる試薬が必要である。したがって、このような方法においても、大きな労力を伴う精米歩合や米の水分の統一及びさらなる試薬の準備など、簡便さという観点から大きな課題がある。
【0009】
そこで、本発明では、現場でも簡便に実施できる穀物のデンプン特性や酒造適性の評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、米と尿素とを接触させることにより、米が膨潤し、当該膨潤性が、米の糊化温度、蒸米の酵素消化性、並びに糊化老化特性、例えば米中のデンプンの老化性及び蒸米の老化性、すなわち、米の酒造時の蒸米溶解性、さらには米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造との間に一定の関係を有することを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価方法であって、
評価穀物、並びに以下のA及びBをそれぞれ接触させる接触工程、
A:デンプン糊化作用を有する化合物及び溶媒
B:前記溶媒
前記接触工程により前記評価穀物を膨潤させる膨潤工程、
前記膨潤工程後に、前記評価穀物の膨潤率を、Aと接触させた前記評価穀物の体積をBと接触させた前記評価穀物の体積で除することにより算出する膨潤率算出工程、並びに
前記化合物の溶液濃度及び前記膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程
を含む方法。
(2)前記評価工程は、所定の前記溶液濃度における前記膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程である、(1)に記載の方法。
(3)前記評価工程は、所定の前記膨潤率に至るまでの前記溶液濃度に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程である、(1)に記載の方法。
(4)前記評価工程は、前記膨潤率が上昇を開始する前記溶液濃度に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程である、(1)又は(3)に記載の方法。
(5)前記デンプン糊化作用を有する化合物は、尿素、塩酸グアニジン及びジメチルスルホキシドからなる群から選択される1種以上の化合物である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6)前記溶媒は、水である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の方法。
(7)前記デンプン糊化作用を有する化合物は尿素であり、且つ前記溶媒は水であり、
前記評価工程は、前記膨潤率が上昇を開始する前記溶液濃度に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程であり、
前記評価工程において、
前記膨潤率上昇開始濃度が2.5M未満である場合に前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が短いと評価し、
前記膨潤率上昇開始濃度が2.5M以上3.1M未満である場合に前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が普通であると評価し、
前記膨潤率上昇開始濃度が3.1M以上である場合に前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が長いと評価する、
(1)、(3)及び(4)のいずれか1つに記載の方法。
(8)前記評価穀物は2以上であり、
前記評価工程は、所定の前記溶液濃度におけるそれぞれの膨潤率を比較する工程であり、
前記評価工程において、前記膨潤率が大きいほど、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が短いと評価する、
(1)又は(2)に記載の方法。
(9)前記評価穀物は2以上であり、
前記評価工程は、所定の前記膨潤率に至るまでのそれぞれの溶液濃度を比較する工程であり、
前記評価工程において、前記溶液濃度が低いほど、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が短いと評価する、
(1)又は(3)に記載の方法。
(10)前記評価穀物は2以上であり、
前記評価工程は、前記膨潤率が上昇を開始するそれぞれの溶液濃度を比較する工程であり、
前記評価工程において、前記溶液濃度が低いほど、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖が短いと評価する、
(1)、(3)、及び(9)のいずれか1つに記載の方法。
(11)前記評価穀物の少なくとも1つは、アミロペクチン側鎖構造が既知である参照穀物である、(1)~(10)のいずれか1つに記載の方法。
(12)前記デンプン糊化作用を有する化合物は、尿素、塩酸グアニジン及びジメチルスルホキシドからなる群から選択される1種以上の化合物である、(8)~(11)のいずれか1つに記載の方法。
(13)前記溶媒は、水である、(8)~(12)のいずれか1つに記載の方法。
(14)前記評価穀物は米である、(1)~(13)のいずれか1つに記載の方法。
(15)2以上の同一形状の容器、及びデンプン糊化作用を有する化合物を含む、穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造を評価するためのキット。
(16)デンプンの老化性を評価する方法であって、
(1)~(14)のいずれか1つに記載の方法で得られたデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価結果から、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖の長さに基づいて、デンプンの老化性を評価する
前記方法。
(17)穀物の糊化老化特性を評価する方法であって、
(1)~(14)のいずれか1つに記載の方法で得られたデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価結果から、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖の長さに基づいて、穀物の糊化老化特性を評価する
前記方法。
(18)米の酒造時の蒸米溶解性を評価する方法であって、
評価穀物を米とした場合の(1)~(14)のいずれか1つに記載の方法で得られたデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価結果から、前記米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖の長さに基づいて、米の酒造時の蒸米溶解性を評価する
前記方法。
(19)蒸米の老化性を評価する方法であって、
評価穀物を米とした場合の(1)~(14)のいずれか1つに記載の方法で得られたデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価結果から、前記米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖の長さに基づいて、蒸米の老化性を評価する
前記方法。
(20)米の糊化温度を評価する方法であって、
評価穀物を米とした場合の(1)~(14)のいずれか1つに記載の方法で得られたデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価結果から、前記米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖の長さに基づいて、米の糊化温度を評価する
前記方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、現場でも簡便に実施できる穀物の酒造適性の評価方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】試験1-1におけるシャーレを用いた平面観察による尿素水溶液の吸収及び膨潤性評価の結果を示す写真である。
図2】試験1-2におけるスチロール瓶を用いた立体観察による尿素水溶液の吸収及び膨潤性評価の結果を示す写真である。
図3】試験1-2における尿素濃度とDSC糊化温度及びRVA粘度上昇温度の関係を示すグラフである。
図4】試験1-2における尿素濃度と蒸米の酵素消化性の関係を示すグラフである。
図5】試験1-2における尿素濃度と老化速度の関係を示すグラフである。
図6】試験1-3における試験管を用いた立体観察による尿素水溶液の液量の違いに基づく吸収及び膨潤率評価の結果を示す写真である。
図7】試験1-3における試験管を用いた立体観察による尿素水溶液との反応時間の違いに基づく吸収及び膨潤率評価の結果を示す写真である。
図8-1】試験1-3における試験管を用いた立体観察による米の違いに基づく尿素水溶液の吸収及び膨潤率評価の結果を示す写真である。
図8-2】試験1-3における試験管を用いた立体観察による米の違いに基づく尿素水溶液の吸収及び膨潤率評価の結果を示す写真である。
図9-1】試験1-3における尿素濃度とアミロペクチン短鎖割合の関係を示すグラフである。
図9-2】試験1-3における尿素濃度とDSC糊化温度及びRVA粘度上昇温度の関係を示すグラフである。
図9-3】試験1-3における尿素濃度と蒸米の酵素消化性の関係を示すグラフである。
図9-4】試験1-3における尿素濃度と老化速度の関係を示すグラフである。
図10】試験1-3における白米水分の影響について検討した結果を示す写真である。
図11】試験1-3における精米歩合の影響について検討した結果を示す写真である。
図12】試験2における試験管を用いた立体観察によるDMSO水溶液及び塩酸グアニジン水溶液の吸収及び膨潤率評価の結果を示す写真である。
図13】試験3における試験管を用いた立体観察による長粒種の米、大麦及びそばの膨潤率評価の結果を示す写真である。
図14】試験1-3における尿素濃度と試験4で検討したデンプンの老化特性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それ故、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。なお、本発明の穀物の特性を評価する方法及びキットは、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者がおこない得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0015】
<アミロペクチン側鎖構造の評価方法>
本発明の穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価方法は、評価穀物、並びに以下のA及びBをそれぞれ接触させる接触工程、A:デンプン糊化作用を有する化合物及び溶媒、B:前記溶媒、前記接触工程により前記評価穀物を膨潤させる膨潤工程、前記膨潤工程後に、前記評価穀物の膨潤率を、Aと接触させた前記評価穀物の体積をBと接触させた前記評価穀物の体積で除することにより算出する膨潤率算出工程、並びに前記化合物の溶液濃度及び前記膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する評価工程を含む。
【0016】
以下では、工程ごとに詳細を説明する。
【0017】
(接触工程)
接触工程では、評価穀物(以下では、単に「穀物」ともいう)と以下に示すA及びBとをそれぞれ接触させる。ここで、Aは、デンプン糊化作用を有する化合物及び溶媒を含む溶液であり、Bは、Aにおいて使用されている溶媒と同じ溶媒である。
【0018】
ここで、本方法において使用される「穀物」とは、デンプンを主体として含む植物の種子の総称である。穀物としては、限定されないが、イネ科作物の種子、例えば米、大麦、小麦、エンバク、アワ、ヒエ、キビ、トウモロコシなどが挙げられる。本発明において、穀物は脱穀されていても、搗精されていてもよい。例えば米の場合、例えば玄米及び白米であってもよい。また、白米の精米歩合は限定されない。例えば、酒米における酒造好適米の白米を使用する場合、酒造の際の米の精米歩合と同じ精米歩合の白米を使用することができる。例えば、玄米を使用する場合、試験精米機や家庭用精米機などで炊飯用の白米まで精米してから評価を実施してもよい。また、清酒原料米以外に、焼酎原料、米飯、もち米加工用の米などの米であってもよい。穀物としては、通常単一の穀物であるが、例えば異なる種類の穀物(例えば、米及び大麦)を2種以上混合した混合物であってもよいし、同じ種類の穀物ではあるが、異なる品種のもの(例えば、米における山田錦及び日本晴)を2種以上混合した混合物であってもよいし、同じ植物及び品種ではあるが、栽培の時期、場所、及び肥料などの栽培条件が異なるもの(例えば、米における山田錦の平成29年産及び平成30年産)を2以上混合した混合物であってもよい。なお、穀物が混合物である場合、混合物中のそれぞれの穀物の割合は限定されない。穀物としては、単一の、すなわち同じ品種及び栽培条件の米が好ましい。
【0019】
穀物として米を使用することにより、米の糊化温度、蒸米の酵素消化性、糊化老化特性、例えば米中のデンプンの老化性及び蒸米の老化性、並びに米の酒造時の蒸米溶解性からなる群から選択される1つ以上の穀物の特性(本明細書等では、「米の糊化温度などの特性」ともいう)、すなわち、米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造、特に側鎖の長さを評価することができる。
【0020】
穀物としては、1の対象を使用してもよいが、2以上の異なる対象を使用してもよい。
【0021】
例えば穀物として米を使用する場合、2種以上の品種の米、例えば山田錦及び日本晴を対象として使用してもよく、且つ/又は同品種の2以上の異なる栽培条件で栽培された米、例えば山田錦の平成29年産及び平成30年産を対象として使用してもよい。
【0022】
穀物として2以上の異なる対象を使用することにより、以下で説明するように、それぞれを比較検討することで、穀物の特性を評価することができる。
【0023】
穀物の水分は限定されない。穀物の水分は、穀物の全重量に対して、通常8重量%~17重量%である。穀物の水分は事前に測定しておくことが好ましい。
【0024】
「デンプン糊化作用を有する化合物」とは、デンプンと接触させることによりデンプンを糊状に変化(「α化」ともいう)させる作用を有する化合物である。デンプン糊化作用を有する化合物としては、限定されないが、尿素、塩酸グアニジン、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。デンプン糊化作用を有する化合物としては、2種以上の混合物であってもよい。なお、デンプン糊化作用を有する化合物が混合物である場合、混合物中のそれぞれの化合物の割合は限定されない。デンプン糊化作用を有する化合物としては、尿素が好ましい。
【0025】
デンプン糊化作用を有する化合物を使用することにより、当該化合物が穀物に含まれるデンプンの糊化を促進し、その結果、デンプン中に当該化合物及び/又は溶媒が吸収され、穀物が膨潤する。
【0026】
「溶媒」とは、Aにおいてデンプン糊化作用を有する化合物を溶解するための媒体であり、且つA及びBにおいて接触させた穀物中に吸収されることにより穀物を膨潤させるための化合物である。溶媒としては、水、アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。溶媒としては、2種以上の混合物であってもよい。なお、溶媒が混合物である場合、混合物中のそれぞれの化合物の割合は限定されない。溶媒としては、操作の利便性や環境面より、水が好ましい。
【0027】
Aは、デンプン糊化作用を有する化合物及び溶媒を含む溶液である。
【0028】
Aにおけるデンプン糊化作用を有する化合物の濃度は、限定されない。Aにおけるデンプン糊化作用を有する化合物の濃度は、デンプン糊化作用を有する化合物の種類により適宜変更することができる。
【0029】
例えばAにおけるデンプン糊化作用を有する化合物として尿素を使用し、溶媒として水を使用する場合、Aの水溶液中の尿素の濃度は、通常1.0mol/L(M)~8.0M、好ましくは1.5M~5.0M、好ましくは2.0M~5.0Mである。
【0030】
Aは、2以上の異なる濃度のデンプン糊化作用を有する化合物の溶液であってもよい。
【0031】
例えばAにおけるデンプン糊化作用を有する化合物として尿素を使用し、溶媒として水を使用する場合、Aとして、2以上、好ましくは3以上、好ましくは5以上、好ましくは10以上、好ましくは100以下、好ましくは50以下の異なる濃度の尿素水溶液を用いる。2以上の尿素水溶液の各々は段階的に異なる尿素濃度に設定されており、例えば0.01M~1M、好ましくは0.05M~0.5M、好ましくは0.05M~0.2Mの濃度差で段階的に異なる尿素濃度に設定されている。2以上の尿素水溶液のうち、最も高濃度の溶液と最も低濃度の溶液との濃度差は、特に限定されないが、2.0M~5.0Mの範囲が例示できる。
【0032】
複数の濃度のデンプン糊化作用を有する化合物の溶液を使用することにより、デンプン糊化作用を有する化合物の溶液中での穀物の吸収及び膨潤性を定量的に把握することが容易になり、それに応じて前記特性を定量的に評価することが可能となる。
【0033】
Bは、Aにおいて使用されている溶媒と同じ溶媒である。
【0034】
Aと共にデンプン糊化作用を有する化合物を含まないBを使用することにより、膨潤率算出工程において、膨潤率から溶媒のみに起因する膨潤の影響を除くことができる。
【0035】
穀物とA及びBとの接触方法は限定されない。接触方法としては、例えば、穀物をA又はBの中に投入する、穀物中にA又はBを投入する、穀物にA又はBを噴霧するなどが挙げられる。接触方法としては、操作の利便性より、穀物をA又はBの中に投入すること、又は穀物中にA又はBを投入することが好ましい。
【0036】
Aと接触させる穀物と、Bと接触させる穀物は、同じ種類の別のものである。
【0037】
穀物の量は限定されない。穀物の量は、1つのA又はBに接触させる穀物の量として、それぞれ同じ量であり、通常0.3g以上、好ましくは0.3g~1.0gである。
【0038】
Aの溶液又はBの溶媒の容量は限定されない。Aの溶液又はBの溶媒の容量は、それぞれ同じ量であり、通常1.5mL~20mLである。
【0039】
Aの溶液又はBの溶媒の重量と穀物の重量との比(A又はBの溶液の重量/穀物の重量)は、限定されないが、通常10以上、好ましくは12以上である。なお、Aの溶液又はBの溶媒は、穀物が膨潤するために十分な量あればよく、当該比の上限値は限定されない。
【0040】
接触方法として、穀物をA又はBの中に投入すること、又は穀物中にA又はBを投入する穀物を入れる場合、容器としては、側面からの投影面積が底面積より小さい容器、側面からの投影面積が底面積より大きい容器などを使用することができる。容器としては、穀物の変化を観測するという観点から、側面からの投影面積が底面積より大きい容器を使用することが好ましい。
【0041】
(膨潤工程)
膨潤工程では、前記の接触工程により、穀物を膨潤させる。
【0042】
ここで、「膨潤」とは、穀物中にデンプン糊化作用を有する化合物及び/又は溶媒が吸収されることにより、穀物の体積が増加することを意味する。なお、「膨潤」には、体積増加以外に、体積増加に伴う穀物の物理特性の変化、例えば穀物の重量増加、屈折率変化、弾力性変化などが含まれる。
【0043】
膨潤工程の時間は限定されない。膨潤工程の時間は、通常穀物の膨潤による体積の増加が鈍化する、好ましくは当該体積の増加が止まるまでの時間である。膨潤工程の時間は、通常3時間~48時間、好ましくは6時間~24時間である。
【0044】
膨潤工程の温度は限定されない。膨潤工程の温度は、通常穀物のデンプン糊化作用を有する化合物に由来する膨潤に影響を与えない温度である。膨潤工程の温度は、通常10℃~40℃、好ましくは20℃~30℃である。
【0045】
膨潤工程の前記時間及び温度以外の条件もまた限定されない。膨潤工程の前記時間及び温度以外の条件、例えば気圧や湿度は、通常評価場所の気圧や湿度であってよい。また、膨潤工程において、撹拌の有無は問わないが、撹拌はしないことが好ましい。
【0046】
なお、穀物として2以上の異なる対象を使用する場合、各穀物の膨潤工程の条件はそれぞれ合わせることが好ましい。したがって、2以上の異なる対象を評価する場合、同じ時期に、同じ場所で、同じ条件で評価を実施することが好ましい。ただし、膨潤工程の条件を変更することにより生じ得る影響が小さかったり、その影響を除くことが可能であったりする場合には、この限りではない。
【0047】
膨潤工程によって、穀物はその中にデンプン糊化作用を有する化合物及び/又は溶媒を吸収して膨潤する。
【0048】
(膨潤率算出工程)
膨潤率算出工程では、前記膨潤工程後に、前記評価穀物の膨潤率を、Aと接触させた前記評価穀物の体積をBと接触させた前記評価穀物の体積で除することにより算出する。したがって、膨潤率は、(A中の評価穀物の体積)/(B中の評価穀物の体積)、あるいは{(A中の評価穀物の体積)/(B中の評価穀物の体積)}×100(%)で表わされる。
【0049】
本発明において、「体積」とは、評価穀物自体の体積であってもよいが、測定が容易であるという観点から、かさ体積であることが好ましい。したがって、A中の評価穀物の体積及びB中の評価穀物の体積は、例えば、膨潤工程を、メスシリンダーなどの体積を測定するための基準が記載されている容器に評価穀物及びA又はBを入れて実施した場合、膨潤後の評価穀物が到達したメスシリンダーの目盛りを読み取ることで測定することができる。
【0050】
なお、例えば膨潤工程を、底面と上面の面積が同じである柱状容器に評価穀物及びAを入れ、さらに当該容器と同一形状の別の容器に評価穀物及びBを入れて実施した場合、当該容器では、底面から上面までの間の底面及び上面に平行な面の面積は底面及び上面と同じになるため、膨潤率は、膨潤後のA中の評価穀物が到達した容器中の底面から穀物までの長さと膨潤後のB中の評価穀物が到達した容器中の底面から穀物までの長さの比率により表わすことができる。
【0051】
体積は、目視により観察してもよいし、写真、ビデオ、カメラ、スマートフォンなどの画像をコンピューター解析してもよいし、画像解析によるAI判定により観察してもよい。
【0052】
なお、膨潤率算出工程では、膨潤率を膨潤工程後の穀物の体積に基づいて算出している。一方で、穀物は、膨潤により、前記の通り、体積増加と共に、物理特性の変化、例えば穀物の重量増加、屈折率変化、弾力性変化なども引き起こし得る。したがって、膨潤率は、膨潤工程後の穀物の体積以外でも、例えば穀物の重量、屈折率、弾力性などに基づいて算出することもできる。
【0053】
膨潤率を前記の通り算出することにより、前記の通り、膨潤率から溶媒のみに起因する膨潤の影響を除くことができる。
【0054】
(評価工程)
評価工程では、前記化合物の溶液濃度及び前記膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する。
【0055】
1つの態様では、1以上の評価穀物に対して、所定のデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度における膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する。この際、前記膨潤率について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。所定のデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度は、複数であってもよい。複数の溶液を使用することにより、前記の通り、デンプン糊化作用を有する化合物の溶液中での穀物の膨潤性を定量的に把握することが容易になり、それに応じて前記特性を定量的に評価することが可能となる。評価穀物が2以上の場合、所定のデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度におけるそれぞれの膨潤率を比較することによりアミロペクチン側鎖構造を評価する。この場合、評価穀物の膨潤率が大きいほど、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は短いと評価する。また、評価穀物の1つとして、指標となり得る、アミロペクチン側鎖構造が既知である参照穀物を使用してもよい。これにより、1以上の評価穀物の結果を、アミロペクチン側鎖構造が既知である参照穀物の結果と比較検討することができる。例えば、評価穀物の膨潤率が参照穀物の膨潤率より大きい場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものよりも短いと評価する。評価穀物の膨潤率が参照穀物の膨潤率と同等である場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものと同等であると評価する。評価穀物の膨潤率が参照穀物の膨潤率より小さい場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものよりも長いと評価する。
【0056】
1つの態様では、1以上の評価穀物に対して、所定の膨潤率に至るまでのデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する。この際、前記溶液濃度について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。所定の膨潤率は、例えばAと接触させた前記評価穀物の体積が、Bと接触させた前記評価穀物の体積の1.1倍~2.0倍、例えば1.2倍になったときと設定してもよい。あるいは、所定の膨潤率は、穀物を添加する容器として目盛り付試験管を使用する場合、Aと接触させた前記評価穀物の体積が、Bと接触させた前記評価穀物の体積から試験管目盛りの0.5目盛り~2目盛り、例えば1目盛り増加したときと設定してもよい。なお、所定の膨潤率は、複数であってもよい。複数の膨潤率を使用することにより、前記の通り、膨潤率変化によるデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度を定量的に把握することが容易になり、それに応じて前記特性を定量的に評価することが可能となる。また、例えば所定の膨潤率として、最小の膨潤率(すなわち、膨潤率が上昇を開始する溶液濃度(膨潤率上昇開始濃度)での膨潤率(0%超))及び最大の膨潤率(すなわち、それ以上膨潤しない膨潤率の上昇が停止した溶液濃度(膨潤率上昇完了濃度)での膨潤率)を設定し、当該膨潤率上昇開始濃度と膨潤率上昇完了濃度の中間点の溶液濃度で評価してもよい。評価穀物が2以上である場合、所定の膨潤率に至るまでのそれぞれのデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度を比較することによりアミロペクチン側鎖構造を評価する。この場合、評価穀物の溶液濃度が低いほど、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は短いと評価する。また、評価穀物の1つとして、指標となり得る、アミロペクチン側鎖構造が既知である参照穀物を使用してもよい。これにより、1以上の評価穀物の結果を、アミロペクチン側鎖構造が既知である参照穀物の結果と比較検討することができる。例えば、評価穀物の溶液濃度が参照穀物の溶液濃度より低い場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものよりも短いと評価する。評価穀物の溶液濃度が参照穀物の溶液濃度と同等である場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものと同等であると評価する。評価穀物の溶液濃度が参照穀物の溶液濃度より高い場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものよりも長いと評価する。
【0057】
1つの態様では、1以上の評価穀物に対して、膨潤率が上昇を開始するデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度(膨潤率上昇開始濃度)に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する。この際、膨潤率上昇開始濃度について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。評価穀物が2以上である場合、膨潤率が上昇を開始するそれぞれのデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度を比較することによりアミロペクチン側鎖構造を評価する。この場合、評価穀物の膨潤率上昇開始濃度が低いほど、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は短いと評価する。また、評価穀物の1つとして、指標となり得る、アミロペクチン側鎖構造が既知である参照穀物を使用してもよい。これにより、1以上の評価穀物の結果を、アミロペクチン側鎖構造が既知である参照穀物の結果と比較検討することができる。例えば、評価穀物の膨潤率上昇開始濃度が参照穀物の膨潤率上昇開始濃度より低い場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものよりも短いと評価する。評価穀物の膨潤率上昇開始濃度が参照穀物の膨潤率上昇開始濃度と同等である場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものと同等であると評価する。評価穀物の膨潤率上昇開始濃度が参照穀物の膨潤率上昇開始濃度より高い場合、評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照穀物のものよりも長いと評価する。
【0058】
1つの態様では、デンプン糊化作用を有する化合物として尿素を使用し、且つ溶媒として水を使用し、1以上の評価穀物に対して、膨潤率が上昇を開始する尿素の水溶液濃度(膨潤率上昇開始濃度)に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する。この際、前記膨潤率上昇開始濃度について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。例えば、穀物が白米で前記膨潤率上昇開始濃度が2.5M未満である場合、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は短い、例えばイソアミラーゼ処理後に2本のゲル濾過カラム(Jorge Gel 10000 A°、1000 A°、Alltech、Deerfiled、USA)で分画したアミロペクチン側鎖の短鎖/長鎖比を3.15以上と評価するか、あるいは、イソアミラーゼ処理後にHPAEC-PADシステム(ICS-6000、ダイオネックス社製、カラム:Carbopac PA1)で測定したアミロペクチンのうちDP(グルコース重合度)6の割合を0.92以上、又はDP6+DP7の割合を2.87以上と評価する。前記膨潤率上昇開始濃度が2.5M以上3.1M未満である場合、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は普通、例えばアミロペクチン側鎖の短鎖/長鎖比を2.81~3.14と評価するか、あるいは、アミロペクチンのうちDP(グルコース重合度)6の割合を0.77~0.91、又はDP6+DP7の割合を2.60~2.86と評価する。前記膨潤率上昇開始濃度が3.0M以上である場合、前記評価穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は長い、例えばアミロペクチン側鎖の短鎖/長鎖比を2.80以下と評価するか、あるいは、アミロペクチンのうちDP(グルコース重合度)6の割合を0.76以下、又はDP6+DP7の割合を2.59以下と評価する。
【0059】
さらに、穀物が米の場合、評価工程では、前記化合物の溶液濃度及び前記膨潤率に基づいて評価された米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造に基づいて、米の糊化温度などの特性を評価することができる。なお、前記化合物の溶液濃度及び前記膨潤率は、糊化温度などの特性とも相関関係があるため、前記化合物の溶液濃度及び前記膨潤率から直接米の糊化温度などの特性を評価することもできる。下記の態様では、本発明において、穀物が米の場合について詳細を記載するが、穀物は米に限定されるものではなく米以外であってもよい。
【0060】
1つの態様では、1以上の評価対象米に対して、所定のデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度における膨潤率に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価し、さらに当該アミロペクチン側鎖構造の評価結果に基づいて米の糊化温度などの特性を評価する。この際、前記膨潤率について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。なお、所定のデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度は、複数であってもよい。複数の溶液を使用することにより、前記の通り、デンプン糊化作用を有する化合物の溶液中での米の膨潤性を定量的に把握することが容易になり、それに応じて前記特性を定量的に評価することが可能となる。評価対象米が2以上の場合、所定のデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度におけるそれぞれの膨潤率を比較することによりアミロペクチン側鎖構造を評価し、さらに各アミロペクチン側鎖構造の評価結果に基づいて米の糊化温度などの特性を評価する。この場合、評価対象米の膨潤率が大きいほど、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は短いと評価し、アミロペクチン側鎖が短いほど、米中のデンプンは糊化温度が低く遅老化性であり、蒸米の酵素消化性は良好であり、蒸米の老化性は低く、米の酒造時の蒸米溶解性は良好であると評価する。また、評価対象米の1つとして、指標となり得る、アミロペクチン側鎖構造及び/又は米の糊化温度などの特性が既知である参照米を使用してもよい。これにより、1以上の評価対象米の結果を、アミロペクチン側鎖構造及び/又は米の糊化温度などの特性が既知である参照米の結果と比較検討することができる。例えば、評価対象米の膨潤率が参照米の膨潤率より大きい場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものよりも短いと評価し、当該評価結果に基づいて、米中のデンプンは糊化温度が参照米のものよりも低く遅老化性であり、蒸米の酵素消化性は参照米のものよりも良好であり、蒸米の老化性は参照米のものよりも低く、米の酒造時の蒸米溶解性は参照米のものよりも良好であると評価する。評価対象米の膨潤率が参照米の膨潤率と同等である場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものと同等であると評価し、当該評価結果に基づいて、米の糊化温度などの特性もまた参照米のものと同等であると評価する。評価対象米の膨潤率が参照米の膨潤率より小さい場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものよりも長いと評価し、当該評価結果に基づいて、米中のデンプンは糊化温度が参照米のものよりも高く易老化性であり、蒸米の酵素消化性は参照米のものよりも悪く、蒸米の老化性は参照米のものよりも高く、米の酒造時の蒸米溶解性は参照米のものよりも悪いと評価する。なお、前記の通り、所定のデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度における膨潤率は、米の糊化温度などの特性とも相関関係があるため、前記膨潤率からアミロペクチン側鎖構造の評価を省略して直接米の糊化温度などの特性を評価してもよい。
【0061】
1つの態様では、1以上の評価対象米に対して、所定の膨潤率に至るまでのデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価し、さらに当該アミロペクチン側鎖構造の評価結果に基づいて米の糊化温度などの特性を評価する。この際、前記溶液濃度について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。所定の膨潤率は、例えばAと接触させた前記評価穀物の体積が、Bと接触させた前記評価穀物の体積の1.1倍~2.0倍、例えば1.2倍になったときと設定してもよい。あるいは、所定の膨潤率は、穀物を添加する容器として目盛り付試験管を使用する場合、Aと接触させた前記評価穀物の体積が、Bと接触させた前記評価穀物の体積から試験管目盛りの0.5目盛り~2目盛り、例えば1目盛り増加したときと設定してもよい。なお、所定の膨潤率は、複数であってもよい。複数の膨潤率を使用することにより、前記の通り、膨潤率変化によるデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度を定量的に把握することが容易になり、それに応じて前記特性を定量的に評価することが可能となる。また、例えば所定の膨潤率として、最小の膨潤率(すなわち、膨潤率が上昇を開始する溶液濃度(膨潤率上昇開始濃度)での膨潤率(0%超))及び最大の膨潤率(すなわち、それ以上膨潤しない膨潤率の上昇が停止した溶液濃度(膨潤率上昇完了濃度)での膨潤率)を設定し、当該膨潤率上昇開始濃度と膨潤率上昇完了濃度の中間点の溶液濃度で評価してもよい。評価対象米が2以上である場合、所定の膨潤率に至るまでのそれぞれのデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度を比較することによりアミロペクチン側鎖構造を評価し、さらに各アミロペクチン側鎖構造の評価結果に基づいて米の糊化温度などの特性を評価する。この場合、評価対象米の溶液濃度が低いほど、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は短いと評価し、アミロペクチン側鎖が短いほど、米中のデンプンは糊化温度が低く遅老化性であり、蒸米の酵素消化性は良好であり、蒸米の老化性は低く、米の酒造時の蒸米溶解性は良好であると評価する。また、評価対象米の1つとして、指標となり得る、アミロペクチン側鎖構造及び/又は米の糊化温度などの特性が既知である参照米を使用してもよい。これにより、1以上の評価対象米の結果を、アミロペクチン側鎖構造及び/又は米の糊化温度などの特性が既知である参照米の結果と比較検討することができる。例えば、評価対象米の溶液濃度が参照米の溶液濃度より低い場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものよりも短いと評価し、当該評価結果に基づいて、米中のデンプンは糊化温度が参照米のものよりも低く遅老化性であり、蒸米の酵素消化性は参照米のものよりも良好であり、蒸米の老化性は参照米のものよりも低く、米の酒造時の蒸米溶解性は参照米のものよりも良好であると評価する。評価対象米の溶液濃度が参照米の溶液濃度と同等である場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものと同等であると評価し、当該評価結果に基づいて、米の糊化温度などの特性もまた参照米のものと同等であると評価する。評価対象米の溶液濃度が参照米の溶液濃度より高い場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものよりも長いと評価し、当該評価結果に基づいて、米中のデンプンは糊化温度が参照米のものよりも高く易老化性であり、蒸米の酵素消化性は参照米のものよりも悪く、蒸米の老化性は参照米のものよりも高く、米の酒造時の蒸米溶解性は参照米のものよりも悪いと評価する。なお、前記の通り、所定の膨潤率に至るまでのデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度は、米の糊化温度などの特性とも相関関係があるため、前記溶液濃度からアミロペクチン側鎖構造の評価を省略して直接米の糊化温度などの特性を評価してもよい。
【0062】
1つの態様では、1以上の評価対象米に対して、膨潤率が上昇を開始するデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度(膨潤率上昇開始濃度)に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価し、さらに当該アミロペクチン側鎖構造の評価結果に基づいて米の糊化温度などの特性を評価する。この際、膨潤率上昇開始濃度について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。評価対象米が2以上である場合、膨潤率が上昇を開始するそれぞれのデンプン糊化作用を有する化合物の溶液濃度を比較することによりアミロペクチン側鎖構造を評価し、さらに各アミロペクチン側鎖構造の評価結果に基づいて、米の糊化温度などの特性を評価する。この場合、評価対象米の膨潤率上昇開始濃度が低いほど、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は短いと評価し、アミロペクチン側鎖が短いほど、米中のデンプンは糊化温度が低く遅老化性であり、蒸米の酵素消化性は良好であり、蒸米の老化性は低く、米の酒造時の蒸米溶解性は良好であると評価する。また、評価対象米の1つとして、指標となり得る、アミロペクチン側鎖構造及び/又は米の糊化温度などの特性が既知である参照米を使用してもよい。これにより、1以上の評価対象米の結果を、アミロペクチン側鎖構造及び/又は米の糊化温度などの特性が既知である参照米の結果と比較検討することができる。例えば、評価対象米の膨潤率上昇開始濃度が参照米の膨潤率上昇開始濃度より低い場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものよりも短いと評価し、当該評価結果に基づいて、米中のデンプンは糊化温度が参照米のものよりも低く遅老化性であり、蒸米の酵素消化性は参照米のものよりも良好であり、蒸米の老化性は参照米のものよりも低く、米の酒造時の蒸米溶解性は参照米のものよりも良好であると評価する。評価対象米の膨潤率上昇開始濃度が参照米の膨潤率上昇開始濃度と同等である場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものと同等であると評価し、当該評価結果に基づいて、米の糊化温度などの特性もまた参照米のものと同等であると評価する。評価対象米の膨潤率上昇開始濃度が参照米の膨潤率上昇開始濃度より高い場合、評価対象米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は、参照米のものよりも長いと評価し、当該評価結果に基づいて、米中のデンプンは糊化温度が参照米のものよりも高く易老化性であり、蒸米の酵素消化性は参照米のものよりも悪く、蒸米の老化性は参照米のものよりも高く、米の酒造時の蒸米溶解性は参照米のものよりも悪いと評価する。なお、前記の通り、膨潤率上昇開始濃度は、米の糊化温度などの特性とも相関関係があるため、前記膨潤率上昇開始濃度からアミロペクチン側鎖構造の評価を省略して直接米の糊化温度などの特性を評価してもよい。
【0063】
1つの態様では、デンプン糊化作用を有する化合物として尿素を使用し、且つ溶媒として水を使用し、1以上の評価対象米に対して、膨潤率が上昇を開始する尿素の水溶液濃度(膨潤率上昇開始濃度)に基づいてアミロペクチン側鎖構造を評価する。この際、前記膨潤率上昇開始濃度について、多段階評価、例えば3段階又はそれ以上の段階での評価で評価してもよい。例えば、穀物が白米で前記膨潤率上昇開始濃度が2.5M未満である場合、前記評価米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は短い、例えばイソアミラーゼ処理後に2本のゲル濾過カラム(Jorge Gel 10000 A°、1000 A°、Alltech、Deerfiled、USA)で分画したアミロペクチン側鎖の短鎖/長鎖比を3.15以上と評価するか、あるいは、イソアミラーゼ処理後にHPAEC-PADシステム(ICS-6000、ダイオネックス社製、カラム:Carbopac PA1)で測定したアミロペクチンのうちDP(グルコース重合度)6の割合を0.92以上、又はDP6+DP7の割合を2.87以上と評価し、当該評価結果に基づいて、白米中のデンプンは糊化温度が低く遅老化性であり、蒸米の酵素消化性は良好であり、蒸米の老化性は低く、白米の酒造時の蒸米溶解性は良好であると評価する。前記膨潤率上昇開始濃度が2.5M以上3.1M未満である場合、前記評価米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は普通、例えばアミロペクチン側鎖の短鎖/長鎖比を2.81~3.14と評価するか、あるいは、アミロペクチンのうちDP(グルコース重合度)6の割合を0.77~0.91、又はDP6+DP7の割合を2.60~2.86であると評価し、当該評価結果に基づいて、米の糊化温度などの特性もまた普通であると評価する。前記膨潤率上昇開始濃度が3.1M以上である場合、前記評価米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖は長い、例えばアミロペクチン側鎖の短鎖/長鎖比を2.80以下と評価するか、あるいは、アミロペクチンのうちDP(グルコース重合度)6の割合を0.76以下、又はDP6+DP7の割合を2.59以下と評価し、当該評価結果に基づいて、白米中のデンプンは糊化温度が高く易老化性であり、蒸米の酵素消化性は悪く、蒸米の老化性は高く、白米の酒造時の蒸米溶解性は悪いと評価する。なお、前記の通り、膨潤率上昇開始濃度は、米の糊化温度などの特性とも相関関係があるため、前記膨潤率上昇開始濃度からアミロペクチン側鎖構造の評価を省略して直接米の糊化温度などの特性を評価してもよい。
【0064】
本発明における前記化合物の溶液濃度及び前記膨潤率と相関関係がある米の糊化温度、蒸米の酵素消化性、及び蒸米の老化性は、以下の通り測定することができる。
【0065】
前記の米の糊化温度は、典型的には、示差走査熱量計(DSC)又はラピッド・ビスコ・アナライザー(RVA)で測定される糊化温度を意味する。
【0066】
DSCによる糊化温度は、次の方法により求めることができる。具体的には、試料数mgを精秤し、2倍重量~4倍重量の蒸留水を加え混合し、測定セルに密封する。参照セルには蒸留水を入れ基準物質とする。DSCの測定条件は、1分間に5℃~10℃程度の加熱速度で約20℃から約120℃まで昇温する。昇温していくとデンプンの糊化が始まり、吸熱反応によりピークが観察され、制御解析システムにより、糊化開始温度、糊化ピーク温度、及び糊化終了温度を求めることができる。糊化温度としては、糊化開始温度を採用してもよいし、測定者の判断によらない糊化ピーク温度を糊化温度としてもよい。DSCによる老化特性は、昇温後のセルを1~2週間程度4℃~室温程度で保存した後再びDSC解析を行うか、又は老化させた試料を上記の条件でDSC解析を行い、吸熱反応により観察されたアミロペクチン再結晶化ピークから、制御解析システムにより求めた吸熱エンタルピー量を老化量として求めることができる。
【0067】
RVAによる糊化温度は、次の方法により求めることができる。具体的には、RVA(ラピッド・ビスコ・アナライザー)を用いて、米粉懸濁液を、パドルを一定回転させながら、約50℃から約95℃まで昇温し、約95℃で数分間保持し、その後、約50℃まで降温し、約50℃で数分間保持するというプログラムで試料の粘度変化を測定する。昇温していくとデンプンの糊化が始まり、粘度の上昇が観察され、制御解析システムにより、粘度上昇開始温度、ピーク粘度、ブレイクダウン、及びセットバック値を求めることができる。糊化温度としては、Pasting temperature(粘度上昇開始温度)を糊化温度としている。
【0068】
前記蒸米の酵素消化性は、蒸米とした状態での酵素による消化されやすさを意味する。ここで、酵素は糖化系酵素であり、典型的にはα-アミラーゼ及びグルコアミラーゼから選択される1種以上の糖化系酵素を含む。したがって、蒸米の酵素消化性は、α-アミラーゼを含み、その他糖化系酵素としてグルコアミラーゼや、タンパク質分解酵素としてプロテアーゼ及びペプチダーゼを含む粗酵素を用いて評価することができる。あるいは、麹から抽出した酵素や麹そのものを用いて試験してもよい。
【0069】
当該粗酵素を用いた蒸米の酵素消化性の評価は次の手順で行うことができる。まず、白米10gを一晩水に浸漬し、翌日水切りし、45分間蒸した後、蒸米を室温まで冷却し、チャック付きビニル袋に入れ、15℃で一定時間放置する。その後、前記粗酵素の酵素液で反応させる。反応条件は、15℃で24時間とする。反応させた後、遠心分離などで固液を分離し、液体部分について糖度計でBrix値(単位:°又は%)を測定する。得られたBrix値を蒸米の酵素消化性とする。
【0070】
前記蒸米の老化性は、蒸米とした状態での老化のしやすさを意味する。蒸米の老化性は、具体的には、次式のように求めることができる。
蒸米の老化性(%)=100-(蒸米6時間老化の蒸米酵素消化性/蒸米1時間老化の蒸米酵素消化性)×100
【0071】
ここで、式中、「蒸米6時間老化の蒸米酵素消化性」は、前記蒸米の酵素消化性における、粗酵素の酵素液で反応させる前の15℃で一定時間放置する時間を6時間に設定したときの蒸米の酵素消化性を指す。具体的には、「蒸米6時間老化の蒸米酵素消化性」は、次の手順で求めることができる。まず、白米10gを一晩水に浸漬し、翌日水切りし、45分間蒸した後、蒸米を室温まで冷却しチャック付きビニル袋に入れ、15℃で6時間放置する。その後、前記粗酵素の酵素液を用いて15℃で24時間反応させた後に、遠心分離などで固液を分離し、液体部分について糖度計でBrix値を測定する。得られたBrix値を「蒸米6時間老化の蒸米酵素消化性」とする。
【0072】
同様に、「蒸米1時間老化の蒸米酵素消化性」もまた次の手順で求めることができる。まず、白米10gを一晩水に浸漬し、翌日水切りし、45分間蒸した後、蒸米を室温まで冷却しチャック付きビニル袋に入れ、15℃で1時間放置する。その後、前記粗酵素の酵素液を用いて15℃で24時間反応させた後に、遠心分離などで固液を分離し、液体部分について糖度計でBrix値を測定する。得られたBrix値を「蒸米1時間老化の蒸米酵素消化性」とする。
【0073】
なお、前記酒造時の蒸米溶解性とは、米を原料として用いた酒造の際に形成されるもろみ中での米の溶解性である。もろみには蒸米が用いられる。溶解性が高いほど、蒸米がもろみ中で溶解しやすく、溶解性が低いほど、蒸米はもろみ中で溶解しにくく粒形状が残存しやすい。米の酒造時の蒸米溶解性は、米中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造、ひいては、米の糊化温度、蒸米の老化性、蒸米の酵素消化性などの因子に依存している。
【0074】
本発明により、判定に労力を要した穀物、例えば原料米の糊化温度などの特性を、少量の試料により安価で簡便に精度よく判定できる。すなわち、仕込み後しか知り得なかった酒米の酒造適性を事前に知ることができ、清酒の製造管理に大きく貢献できるとともに清酒の品質向上に役立てることができる。また、酒米の育種及び栽培現場では、高額な分析装置を導入するまでもなく、本発明を目的の特性、例えば溶解性を有する酒米の選抜や栽培法の改良に応用できる。さらに、この評価法によって得られる膨潤率などの特性は、米の品種特性評価における新たな学術的知見を蓄積できることになり、穀物科学分野に対し貢献できる。
【0075】
さらに、本発明は、本発明の穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造を評価するためのキットにも関する。前記の通り、本発明のキットは、米の糊化温度、蒸米の酵素消化性、蒸米の老化性、及び米の酒造時の蒸米溶解性を評価するためにも使用することができる。
【0076】
本発明のキットは、2以上の同一形状の容器、及びデンプン糊化作用を有する化合物を含む。
【0077】
2以上の同一形状の容器は、そこに含まれることになる穀物の体積変化を観察することができる限り、限定されない。2以上の同一形状の容器は、例えばメスシリンダーのように、体積を測定するための基準が記載されていることが好ましい。2以上の同一形状の容器は、好ましくは、試験管やスチロール瓶などの透明な管状容器が好ましい。
【0078】
デンプン糊化作用を有する化合物は、前記で説明する通りである。デンプン糊化作用を有する化合物の量は、穀物を膨潤させるために必要な量である限り、限定されない。デンプン糊化作用を有する化合物は、例えば前記容器中に加えて、さらに溶媒を添加することにより、一定の濃度が確保できるように調製、例えば錠剤化、小分けされていることが好ましい。
【0079】
本発明のキットを使用することにより、本発明の穀物中のデンプンに含まれるアミロペクチン側鎖構造の評価をすることができ、さらに、米の糊化温度、蒸米の酵素消化性、蒸米の老化性、及び米の酒造時の蒸米溶解性もまた評価することができる。
【実施例0080】
<試験1.尿素を用いた膨潤性による蒸米の酵素消化性の評価>
(試験1-1)シャーレを用いた平面観察による尿素水溶液の吸収及び膨潤性評価
(方法)
評価穀物として、精米歩合70%、水分13.5%の2009年産及び2010年産の山田錦(広島)、2018年産の五百万石(新潟)を用いた。
【0081】
前記の各酒米について、既存の蒸米の酵素消化性の評価指標であるDSC糊化温度(℃)、RVA糊化温度(℃)、1時間、3時間、又は6時間気中放置した蒸米の酵素消化性(1時間、3時間、又は6時間気中放置蒸米消化性)(°Brix)、及び老化性(%)を測定した。各測定は以下の条件で行った。
【0082】
DSC糊化温度(℃)は、株式会社日立ハイテクサイエンス製のDSC7000Xを用いて解析した。まず、試料約3.5mgを精秤し、12μLの蒸留水を加えて混合し、耐圧セルに密封した。次に、1分間に5℃の加熱速度で20℃から120℃まで昇温した。基準物質としては、酸化アルミナ20mgを用いた。コンピューターの自動計算により、糊化開始温度(T)、糊化ピーク温度(T)を求めた。
【0083】
RVA糊化温度は、Perten社製のRVA-TecMasterを用いて解析した。米粉懸濁液(9%(W/W)、全重量28g)を、50℃で1分保持し、その後95℃まで5℃/分で昇温し、95℃で5分保持し、その後50℃まで5℃/分で降下し、50℃で6分保持した。パドルの回転数は160rpmの一定回転で行った。コンピューターの自動計算により、Pasting temperature(粘度上昇開始温度)を求めた。
【0084】
1時間、3時間、又は6時間気中放置蒸米消化性(°Brix)は、以下の通り測定した。まず、70%に搗精した白米10gを金網かごにいれ15℃の水中で15~20時間浸漬した後、浸漬した米を水切りした。浸漬した米を、小型こしき(M-11、エイシン電気株式会社製)を用いて45分間蒸きょうした。蒸した後、こしきから蒸米をとりだし、室温まで放冷し、チャック付きビニル袋にいれ15℃で1時間、3時間、又は6時間放置した。放置した蒸米を、50mLの酵素液(α-アミラーゼ 60U/mL、グルコアミラーゼ 24U/mL、peptidase(ペプチダーゼR、天野エンザイム株式会社製) 3U/mL、0.1Mコハク酸緩衝液pH4.3)に投入し、15℃で24時間酵素消化した。反応終了後、2000×gで10分間遠心分離を行い、上澄み液についてデジタル糖度計(DIGITAL REFRACTOMETER PR-100、株式会社アタゴ製)を用いて°Brixを測定した。
【0085】
老化性(%)は、老化速度として、前記の1時間気中放置蒸米消化性を蒸米1時間老化の蒸米酵素消化性(°Brix)として、前記の6時間気中放置蒸米消化性を蒸米6時間老化の蒸米酵素消化性(°Brix)として、以下の式から求めた。
蒸米の老化性(%)=
100-(蒸米6時間老化の蒸米酵素消化性/蒸米1時間老化の蒸米酵素消化性)×100
【0086】
デンプン糊化作用を有する化合物として尿素を使用し、前記の各酒米について、尿素水溶液の吸収及び膨潤性(尿素吸収及び膨潤率)を次の手順で評価した。
【0087】
以下の尿素吸収及び膨潤率の試験では、酒米試料として、精米歩合70%、水分13.5%に調整したものを用いた。
【0088】
尿素水溶液として、0.1M刻みで2.2M~4.4Mの範囲の尿素濃度の水溶液を用意した。
【0089】
平面観察による尿素吸収及び膨潤率の判定は、12穴プレートを用いる平面観察による評価で行った。なお、膨潤率上昇開始濃度は、尿素水溶液と接触させた対象米の体積を水と接触させた対象米の体積で除することにより算出される膨潤率が上昇を開始する濃度とした。
【0090】
内径25mm、高さ17mmのポリスチレン製の円形ディッシュに、尿素水溶液を1.5mL~3.5mL入れ、精米歩合70%、水分13.5%の溶解性の良好である2009年産の山田錦と、2009年産の山田錦より溶解性の悪い2010年産の山田錦及び2018年産の五百万石とを評価した。各ディッシュに酒米試料をシャーレ底面に敷き詰めて、尿素水溶液に浸漬させ、30℃で1日間静置した。
【0091】
(結果)
図1に結果を示す。図1より、どの試料でも濃度が高くなるにつれデンプンが糊化し米粒の膨潤が観察された。溶解性の良好である2009年産山田錦の膨潤率上昇開始濃度は、2.6Mであったのに対し、2010年産山田錦及び2018年産五百万石の膨潤率上昇開始濃度は3.4Mであった。すなわち、低濃度で膨潤を開始すると溶解しやすく、高濃度で膨潤を開始すると溶解しにくい原料米であると評価可能であった。液量については、1.5mL~3.5mLでは糊化に伴い、液を完全に吸いきる様子が観察されたが、いずれの液量でも2010年産より2009年産の方が膨潤開始濃度及び完全に液を吸いきる濃度は低かった。
【0092】
したがって、米をシャーレ底面に敷き詰め平面観察することで、デンプン糊化に伴い生じる米粒の膨潤及び溶液の吸水の度合いにより米の糊化特性及び米の溶解性を判定できることがわかった。
【0093】
(試験1-2)スチロール瓶を用いた立体観察による尿素水溶液の吸収及び膨潤性評価
(方法)
異なる年次・品種・産地の試料として、2017年及び2018年産の吟風(北海道)、山田錦(兵庫、広島)、吟ぎんが(岩手)、出羽燦々(山形)、日本晴(滋賀、広島)、五百万石(福島、栃木、新潟、福井)、日本晴(滋賀)、2018年産のおくほまれ(福井)、2014年~2016年産山田錦(広島)を用いた。
【0094】
水分含有量の異なる試料としては、水分含有量10.1%~14.9%までの2014年産の日本晴及び山田錦の精米歩合70%の白米試料を用いた。
【0095】
前記の各試料米について、既存の蒸米酵素消化性の評価指標であるDSC糊化温度(℃)、老化速度(%)、6時間気中放置した蒸米の酵素消化性(°Brix)を測定した。各測定は前述の条件で行った。
【0096】
前記の各試料米について尿素水溶液の吸収及び膨潤性(尿素吸収及び膨潤率)を次の手順で評価した。
【0097】
以下の尿素吸収及び膨潤性試験では、酒米試料として、精米歩合70%、水分13.5%に調整したものを用いた。
【0098】
尿素水溶液として、0.1M刻みで2.2M~4.2M又は2.2M~5.0Mの範囲の尿素濃度の水溶液を用意した。
【0099】
米の膨潤率は、15mLの透明スチロール瓶に白米1g及び尿素水溶液5mLを入れ30℃で一晩放置し、尿素吸収及び膨潤率を評価した。
【0100】
(結果)
15mLスチロール瓶を用いることで、膨潤を立体的に観察することができた。蒸米の酵素消化性及びDSC糊化温度の異なる試料を用いた結果、試料によって尿素濃度は異なるが、どの試料も、尿素濃度が高くなるにつれ米粒が尿素水溶液を吸収し、膨潤する様子が観察された(図2)。また、どの試料でも5mLの溶液を完全に吸収する濃度(完全吸収濃度)がみられた。試料間を比較すると、糊化温度が低く消化性の高い試料で膨潤率上昇開始濃度及び完全吸収濃度が低く、糊化温度が高く消化性の低い試料で膨潤率上昇開始濃度及び完全吸収濃度が高かった(図2)。
【0101】
定量性を見いだすため、尿素吸収及び膨潤率について判定した。米が半分まで到達した濃度、横からみて液が見えない濃度(完全吸収濃度(1))、スチロール瓶を横に倒して液が米からたれてこない濃度(完全吸収濃度(2))を判定した。判定した濃度によって、米の溶解性を評価できるかを検討するため、DSC糊化温度、RVA粘度上昇温度及び蒸米の酵素消化性との関係を解析した。
【0102】
判定した3つの濃度間は、互いに相関があった。判定した濃度はいずれも、図3~5のようにDSC糊化温度、RVA粘度上昇温度、蒸米の酵素消化性、及び蒸米の老化性と高い相関関係がみられた。したがって、米の膨潤性は米中のデンプンに含まれるアミロペクチンの分子構造、特に側鎖構造に相関し、その結果、蒸米の酵素消化性を高い精度で推定できることがわかった。
【0103】
(試験1-3)試験管を用いた立体観察による尿素水溶液の吸収及び膨潤率評価
(方法)
異なる年次・品種・産地の試料として、2009年、2010年、2014年~2016年産の山田錦(広島)、2017年及び2018年産の吟風(北海道)、山田錦(兵庫、広島)、吟ぎんが(岩手)、出羽燦々(山形)、日本晴(滋賀、広島)、五百万石(福島、栃木、新潟、福井)、日本晴(滋賀)、2018年産のおくほまれ(福井)を用いた。
水分含有量の異なる試料として、2018年産山田錦の水分10.2%~15.0%の精米歩合70%の白米を用いた。
精米歩合が異なる試料として、2017年及び2018年産の山田錦の精米歩合40%及び精米歩合70%の白米を用いた。
【0104】
アミロペクチンの側鎖構造は以下のように解析した。メタノールで脱脂した米粉20mgを蒸留水5mLに混合して沸騰水で1時間糊化した。糊化液1mLに600mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.0)50μLと、2%アジ化ナトリウム10μLと、500Uイソアミラーゼ25μLとを加え、40℃で24時間酵素反応を行った。還元剤(3%アンモニア、0.5%テトラヒドロホウ酸ナトリウム)120μLを加え一晩反応後、再度還元剤を加えさらに7時間反応して還元処理を行った。還元処理後凍結乾燥して、1N NaOH100μLを加え溶解し、蒸留水900μLを加えフィルターでろ過しHPLC分析に供した。HPLCはHPAEC-PADシステム(ICS-6000、ダイオネックス社製、カラム:Carbopac PA1)で測定した。移動相は100mM NaOHをB液、100mM NaOH+600mM AcONaをC液とし、0分:B液:C液=5:95~120分:B液:C液=20:80のグラジエントプログラムで行った。グルコース重合度(DP、Degree of Polymerization)DP6からDP61までのピーク面積の相対値から、アミロペクチンの短鎖の割合の指標として、グルコース重合度DP6、DP7、DP6+DP7、DP6/DPΣ(6-24)、(DP6+DP7)/Σ(DP6-DP24)、Σ(DP6-DP8)をアミロペクチンの短鎖割合の指標値として評価した。
【0105】
前記の各酒米について、既存の蒸米の酵素消化性の評価指標であるDSC糊化温度(℃)、老化速度(%)、6時間気中放置蒸米消化性(°Brix)を測定した。各測定は前述の条件で行った。
【0106】
米の膨潤率は、米粒の形状変化をより容易に観察可能となるよう細長形状である13mLディスポチューブを用いて、米粒重量を0.8gとして溶液量を4mL~12mLを入れ30℃で一晩放置し、尿素吸収及び膨潤率を評価した。
【0107】
(結果)
まず溶液の量について、溶解性の良好である2009年産と溶解性の悪い2010年産の山田錦を用いて液量を4mL、8mL、12mLで検討した。図6に示すように、糊化を開始して完全に液を吸いきるまでの濃度(完全吸収濃度)範囲は、4mLに対して8mL及び12mLでは広がった。溶液8mL及び12mLのディスポチューブの場合、15mLスチロール瓶の場合と比較して、高さ方向の変化が明確になり、膨潤率上昇開始濃度から始まり完全吸収濃度に至るまで、中間濃度を含めて判定が容易となった。ディスポチューブ内の米の高さでみると、ディスポチューブの目盛りでは米が膨潤していない濃度では1.5mL~2mLであったが、尿素水溶液を完全に吸いきった濃度では6.0mL~8.5mLとなり、比較すると米の高さ方向に4倍程度膨潤していた。
【0108】
次に同じ試料を用いて、溶液12mLで反応時間について検討した。図7のように溶解性の良好である2009年産では1時間後には明確に膨潤が観察されはじめ、5時間後以降はほぼ一定となった。溶解性の悪い2010年産は1時間では膨潤が進んでいないが、5時間になるとほぼ明確となり、8.5時間以降でほぼ一定となった。したがって、6時間~9時間程度あれば判定は可能であり、1日後、さらには2日後でも問題なく判定可能であった。
【0109】
この設定した方法により、精米歩合70%で水分13.5%の異なる品種産地の試料について、試料間を比較すると、図8図8-1~8-2)のように糊化温度が低く消化性の高い試料で膨潤率上昇開始濃度及び完全吸収濃度が低く、糊化温度が高く消化性の低い試料で膨潤率上昇開始濃度及び完全吸収濃度が高かった。
【0110】
当該実験では、矢印で示したように、各試料の米の高さが尿素を含まない水中の米の高さを基準にして10%程度膨潤した尿素濃度、すなわち膨潤率110%に達したときの尿素濃度(膨潤率110%濃度)を測定した。完全吸収濃度は、水溶液を吸いきった濃度とした。また、膨潤率110%濃度と完全吸収濃度の平均値を膨潤中間濃度とした。
【0111】
尿素濃度とアミロペクチンの短鎖割合との関係を解析した。その結果、図9-1に示すように膨潤率110%濃度、膨潤中間濃度、完全吸収濃度のいずれでもアミロペクチン短鎖割合と極めて高い負の相関関係を示し、アミロペクチン短鎖割合が低いほど、これらの濃度は高かった。すなわち、尿素膨潤濃度によりアミロペクチンの側鎖構造を評価できることがわかった。
【0112】
次に、尿素濃度による米の溶解性を検討するため、DSC糊化温度、RVA粘度上昇温度及び蒸米の酵素消化性との関係を解析した。その結果、図9図9-2~9-4)に示すように、いずれの濃度でもDSC糊化温度、RVA粘度上昇温度、蒸米の酵素消化性、及び蒸米の老化性と高い相関関係がみられた。酵素消化性は、蒸米の気中放置時間を1時間、3時間、又は6時間としたときで測定したが、気中放置時間が長いほど相関性が高かった。気中放置時間を長くするとデンプン分子構造の影響が大きくなるため、本発明の方法ではデンプン分子構造によって影響を受ける酵素消化性を推定できるものと考えられる。酵素消化性を推定できるDSC糊化温度及びRVA粘度上昇開始温度と比較しても、本発明の方法による酵素消化性の推定は同程度に精度がよかった。
【0113】
次に、白米含水率の影響について検討した(図10)。膨潤率の上昇度合いは白米含水率によって異なり、同じ尿素濃度の溶液で比較すると、含水率の低い白米で膨潤率が高く、含水率の高い白米で膨潤率が低い傾向がみられた。一方、膨潤率上昇開始濃度は日本晴の15.5%程度では吸水性が悪いためか、14%以下と比較して0.2M程度高めで判定されたが、14%以下では含水率に関わらずほぼ一定であった。
【0114】
続いて、精米歩合の影響について精米歩合40%及び精米歩合70%で検討した。その結果、精米歩合に関わらず膨潤率上昇開始濃度及び完全吸収濃度は一致していた(図11)。
【0115】
したがって、本発明の方法により白米含水率及び精米歩合に関わらず、膨潤率上昇開始濃度を判定することにより蒸米の酵素消化性を高精度で推定できることがわかった。
【0116】
<試験2.塩酸グアニジン及びDMSOによる膨潤率判定による蒸米消化性の評価>
(方法)
試料は、精米歩合70%、水分13.5%の溶解性の良好である2009年産山田錦と2009年産山田錦より溶解性の悪い2010年産山田錦及び2018年産五百万石を用いた。13mLディスポチューブに、米粒0.8gと濃度を段階的に変えた塩酸グアニジン及びDMSOの水溶液12mLを加えて混合し、30℃で2日間保温後、米の膨潤性を観察し、膨潤率上昇開始濃度を判定した。
【0117】
(結果)
図12のようにどの試料でも濃度が高くなるにつれ米粒の膨潤が観察されたが、溶解性の良好である2009年産山田錦が低い塩酸グアニジン及びDMSOの濃度で膨潤率の上昇を開始したのに対し、溶解性の悪い2010年産山田錦及び2018年産五百万石はそれよりも高い溶液濃度で膨潤率の上昇を開始した。すなわち、デンプン糊化作用を有する化合物として塩酸グアニジン又はDMSOを使用した場合であっても、尿素と同様に、低濃度で膨潤率の上昇を開始する場合には、蒸米が溶解しやすく、高濃度で膨潤率の上昇を開始する場合には、蒸米が溶解しにくい原料米であると評価可能であった。すなわち、デンプン糊化作用を有する化合物としては、尿素のみならず、塩酸グアニジン及びDMSOのようなデンプン糊化作用を有する化合物を使用しても、蒸米の溶解性の評価が可能であった。
【0118】
<試験3.長粒米及び麦などの穀物の評価>
(方法)
長粒種の米及び麦などの穀物の評価を行った。糊化温度の異なる試料として、長粒種の白米4試料(品種:サリクィーン、バスマティ、ホシユタカ、夢十色、精米歩合91%程度)、大麦4試料(搗精大麦1試料、そば)の糊化特性の評価を実施した。
前記の各試料について、DSC糊化温度(℃)を測定した。各測定は前述の条件で行った。
【0119】
膨潤率は、穀物粒の形状変化をより容易に観察可能となるよう細長形状である13mLディスポチューブを用いて、穀物重量を0.8gとして、溶液量を12mLとして当該ディスポチューブに入れ30℃で一晩放置し、尿素吸収及び膨潤率を評価した。
【0120】
(結果)
膨潤の程度は試料により異なったが、膨潤の開始濃度を本キットで測定した結果は、長粒種の米では、図13の試料A~DのようにDSC糊化温度の低い試料で膨潤開始濃度が低く、DSC糊化温度が高いと膨潤開始濃度が高かった。大麦やそばにおいても、図13の試料E~Hのように糊化温度の低い試料で膨潤開始濃度が低く、糊化温度が高いと膨潤開始濃度が高かった。
【0121】
すなわち、ジャポニカ米以外の長粒種の米や大麦であってもそれぞれ、膨潤開始濃度とDSCで測定した糊化温度との間の相関係数は、0.95と極めて高い相関を示した。
【0122】
すなわち、デンプンを含有する穀物では、本発明により糊化特性の傾向を把握することが可能であった。すなわち、米だけでなくデンプンを含有する穀物では、本キットでデンプンの糊化特性の評価が可能である。
【0123】
<試験4.デンプン老化特性の評価>
(方法)
試験1-3で米粒の膨潤観を行った試料のうちから8試料又は10試料を用いてデンプンの老化特性を評価した。デンプンの老化特性は、老化したデンプンのアミロペクチンの再結晶化に由来するピークをDSCで解析した。試料は以下の2通りで老化させたデンプンを評価した。一つ目は、白米粉(10試料)をDSCにより1分間に5℃の加熱速度で20℃から120℃まで昇温した。測定後のセルを13日間4℃で保存した後、再度同条件でDSC解析した。酸化アルミナ20mgを基準物質とした。コンピューターの自動計算により、アミロペクチンの再結晶化によるピークの吸熱エンタルピー量(J/g)を求めた。デンプンの老化度は老化後の吸熱エンタルピー量をデンプンの老化指標とした。老化後のエンタルピー量を生デンプンのアミロペクチン融解熱量で除した比率をアミロペクチンの老化度とした。二つ目は、蒸米(8試料)を15℃で24時間放置後、エタノール3回とアセトン1回で脱水した試料をDSCで評価した。老化後の吸熱エンタルピー量をデンプンの老化指標とした。
【0124】
(結果)
図14A及びBに白米粉をDSC測定した試料を13日間保存した試料のデンプンの老化特性及びデンプンの老化の大半を占めるアミロペクチンの老化特性を評価した結果を示した。図14Cに蒸米保存時におけるデンプンの老化特性を評価した結果を示した。図14A~Cのように、いずれの場合でもデンプンの老化特性は、膨潤率110%濃度、膨潤中間濃度、完全吸収濃度のいずれでも極めて高い相関を示した。すなわち、尿素膨潤濃度が高いほど老化が進みやすい性質を持つと評価できることが明らかとなった。
【0125】
老化特性の評価は、実際に老化させてからその老化度を評価することも可能であるが、予め老化条件にあわせたデータを蓄積していれば、尿素膨潤濃度から老化特性を評価可能であることがわかる。
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