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特開2025-12776クランプ装置、該クランプ装置の製造方法、及びステアリング装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012776
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】クランプ装置、該クランプ装置の製造方法、及びステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/26 20060101AFI20250117BHJP
   B62D 1/20 20060101ALI20250117BHJP
   F16D 1/076 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
F16D3/26 X
B62D1/20
F16D1/076
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115869
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 誠一
(72)【発明者】
【氏名】根岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】萩原 渉
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DC40
(57)【要約】
【課題】ボルトの締め付け時における変形抵抗を低減でき、かつ、ボルトの締め付け時に発生する応力を緩和できる、クランプ装置を提供する。
【解決手段】クランプ装置は、筒形状を有する基部20と、1対のフランジ部21a、21bとを備え、前記基部20は、軸方向に伸長した挿通孔と、円周方向1箇所に配置され、かつ、前記軸方向に伸長した第1スリット22と、前記第1スリット22と交わるように前記円周方向に伸長し、かつ、前記第1スリット22との接続部32から前記円周方向に離れるほど前記軸方向一方側に向かう方向に傾斜した第2スリット26とを有する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形状を有する基部と、1対のフランジ部とを備え、
前記基部は、軸方向に伸長した挿通孔と、円周方向1箇所に配置され、かつ、前記軸方向に伸長した第1スリットと、前記第1スリットと交わるように前記円周方向に伸長し、かつ、前記第1スリットとの接続部から前記円周方向に離れるほど前記軸方向一方側に向かう方向に傾斜した第2スリットと、を有し、
前記1対のフランジ部は、同軸上に取付孔を有し、前記第2スリットよりも前記軸方向他方側でかつ前記円周方向に関して前記第1スリットの両側に配置されており、前記基部の前記軸方向に直交する第1方向に離隔している、
クランプ装置。
【請求項2】
前記第2スリットの前記円周方向両側の端部は、前記第1スリットの前記軸方向一方側の端部よりも前記軸方向一方側に位置している、請求項1に記載したクランプ装置。
【請求項3】
前記基部の前記軸方向及び前記第1方向のいずれにも直交する第2方向に関して、前記1対の取付孔の中心軸から前記第2スリットの前記円周方向両側の端部までの距離は、前記1対の取付孔の前記中心軸から前記挿通孔の中心軸までの距離よりも小さい、請求項1に記載したクランプ装置。
【請求項4】
前記第2スリットは、前記第1方向から見て直線形状を有し、かつ、前記基部の前記軸方向及び前記第1方向のいずれにも直交する第2方向から見て円弧形状を有する、請求項1に記載したクランプ装置。
【請求項5】
前記第2スリットは、前記挿通孔の中心軸及び前記第1スリットの中心軸を含む仮想平面に関して対称形状を有する、請求項1に記載したクランプ装置。
【請求項6】
前記挿通孔は、非円形の断面形状を有する、請求項1に記載したクランプ装置。
【請求項7】
前記基部は、内周面に雌セレーション歯を有する、請求項6に記載したクランプ装置。
【請求項8】
前記1対のフランジ部は、前記基部と一体である、請求項1に記載したクランプ装置。
【請求項9】
他の部材に対してトルク伝達可能に接続される連結部を備える、請求項1に記載したクランプ装置。
【請求項10】
前記連結部は、1対のアーム部により構成される、請求項9に記載したクランプ装置。
【請求項11】
前記1対のアーム部は、前記基部の前記軸方向及び前記第1方向のいずれにも直交する第2方向に離隔している、請求項10に記載したクランプ装置。
【請求項12】
前記第2スリットの前記円周方向両側の端部は、前記1対のアーム部の基端部よりも前記軸方向他方側に位置している、請求項10に記載したクランプ装置。
【請求項13】
請求項1~12のうちのいずれか1項に記載したクランプ装置の製造方法であって、
前記第2スリットを、カッターを用いて切削加工により形成する、クランプ装置の製造方法。
【請求項14】
前記カッターの中心軸を、前記挿通孔の中心軸と平行に配置した状態から、前記基部の前記軸方向及び前記第1方向のいずれにも直交する第2方向に向け傾斜させて加工する、請求項13に記載したクランプ装置の製造方法。
【請求項15】
ステアリングホイールの操作により回転しかつ同軸上に配置されていない、2つの回転軸と、
前記2つの回転軸の端部同士をトルク伝達可能に接続する自在継手と、を備え、
前記自在継手は、1対のヨークと、十字軸とを有し、
前記1対のヨークのうち少なくとも一方のヨークが、請求項10~12のうちのいずれか1項に記載したクランプ装置である、
ステアリング装置。
【請求項16】
ステアリングホイールの操作により回転しかつ同軸上に配置された、2つの回転軸と、
前記2つの回転軸の端部同士をトルク伝達可能に接続する、連結装置と、を備え、
前記連結装置が、請求項1~9のうちのいずれか1項に記載したクランプ装置である、
ステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クランプ装置、該クランプ装置の製造方法、及び該クランプ装置を備えたステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のステアリング装置は、操舵輪に舵角を付与するために使用される。
【0003】
ステアリング装置では、ステアリングホイールの回転は、ステアリングシャフト、中間シャフトなどを介して、ステアリングギヤユニットのピニオン軸に伝達される。ピニオン軸の回転は、ステアリングギヤユニットのラック軸の直線運動に変換される。これにより、操舵輪には、ステアリングホイールの回転操作量に応じた舵角が付与される。
【0004】
ステアリング装置では、ステアリングシャフト、中間シャフトなどの同軸上にない2つの回転軸の端部同士は、自在継手を介してトルク伝達可能に接続されている。
【0005】
自在継手は、1対のヨークと、十字軸とを備える。
【0006】
自在継手を構成するヨークは、クランプ装置の一種であり、筒形状を有する基部と、1対のフランジ部と、十字軸に接続される1対のアーム部とを有する。
【0007】
基部は、円周方向1箇所に軸方向に伸長した第1スリットを有し、縮径可能に構成されている。基部の内側には、ステアリングシャフト、ピニオン軸などの回転軸の端部が挿入される。1対のフランジ部は、円周方向に関して第1スリットの両側に備えられている。1対のフランジ部は、同軸上に配置された取付孔を有する。ヨークは、1対のフランジ部の一方のフランジ部に備えられた一方の取付孔を挿通したボルトを、他方のフランジ部に備えられた他方の取付孔に螺合しさらに締め付けることで、基部により回転軸を締め付け、回転軸に対して固定される。
【0008】
ヨークは、基部に備えられた第1スリットの構造の相違により、いわゆるオープンスリットタイプのヨークと、いわゆるクローズドスリットタイプのヨークとに大別される。
【0009】
クローズドスリットタイプのヨークは、オープンスリットタイプのヨークに比べて、強度を確保しやすいため、高トルクを伝達する用途に好ましく使用される。
【0010】
図23は、オープンスリットタイプのヨーク100aの従来構造の1例を示している。図24は、クローズドスリットタイプのヨーク100bの従来構造の1例を示している。
【0011】
オープンスリットタイプのヨーク100aは、基部101aの円周方向1箇所に、その軸方向両側の端部が開口端である第1スリット102aを有する。クローズドスリットタイプのヨーク100bは、基部101bの円周方向1箇所に、その軸方向一方側の端部が閉鎖端であり、その軸方向他方側の端部が開口端である第1スリット102bを有する。
【0012】
クローズドスリットタイプのヨーク100bは、オープンスリットタイプのヨーク100aに比べて、たわみ剛性が高く、変形抵抗が高くなりやすい。したがって、図示しないボルトを同じ大きさのトルクで締め付けた場合、クローズドスリットタイプのヨーク100bの締め付け力は、オープンスリットタイプのヨーク100aの締め付け力よりも小さくなりやすい。
【0013】
クローズドスリットタイプのヨーク100bを、高トルクが伝達されるコラムアシスト式の電動パワーステアリング装置に組み込んだ場合には、締め付け力の不足に起因して、回転軸の端部が、基部101bに対して微細に摺動する可能性がある。この結果、基部101bの内周面に備えられた雌セレーション歯、及び/又は、回転軸の外周面に備えられた雄セレーション歯などに、フレッチング摩耗、フレッチング腐食などの損傷が進行する可能性がある。
【0014】
また、クローズドスリットタイプのヨーク100bは、ボルトの締め付け時に、基部101bのうちで第1スリット102aの閉鎖端の近傍に、応力が集中することで、亀裂などの損傷が生じる可能性もある。
【0015】
このような事情に鑑み、クローズドスリットタイプのヨークを対象として、ボルトの締め付け時における変形抵抗を低減する技術、及び、ボルトの締め付け時に発生する応力を緩和する技術が考えられている。
【0016】
特開2009-299706号公報には、第1スリットの閉鎖端を円筒面により構成することで、ヨークに発生する応力を緩和する技術が記載されている。
【0017】
特開2020-85111号公報には、基部の外周面に、第1スリットに直交する直線状の補助凹溝を形成することで、ボルトの締め付け時における変形抵抗を低減する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2009-299706号公報
【特許文献2】特開2020-85111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特開2009-299706号公報に記載された従来構造のヨークは、ボルトの締め付け時に発生する応力を緩和することはできるが、ボルトの締め付け時における変形抵抗を低減することはできない。
【0020】
特開2020-85111号公報に記載された従来構造のヨークは、ボルトの締め付け時における変形抵抗を低減することはできるが、ボルトの締め付け時に発生する応力を低減する面で未だ改良の余地がある。具体的には、ボルトによる締め付け中心となる取付孔の中心軸から補助凹溝の端部までの距離が短いため、基部のうちで補助凹溝の端部の近傍部分は、変形量が大きくなり、高い応力が発生しやすくなる。
【0021】
上述したような問題は、同軸上に配置されていない2つの回転軸同士を接続する自在継手を構成するヨークに限らず、同軸上に配置された2つの回転軸同士を接続する連結装置などの、ヨーク以外のクランプ装置にも、同様に生じ得る問題である。
【0022】
本開示は、ボルトの締め付け時における変形抵抗を低減でき、かつ、ボルトの締め付け時に発生する応力を緩和できる、クランプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本開示の一態様にかかるクランプ装置は、筒形状を有する基部と、1対のフランジ部とを備える。
【0024】
前記基部は、軸方向に伸長した挿通孔と、円周方向1箇所に配置され、かつ、前記軸方向に伸長した第1スリットと、前記第1スリットと交わるように前記円周方向に伸長し、かつ、前記第1スリットとの接続部から前記円周方向に離れるほど前記軸方向一方側に向かう方向に傾斜した第2スリットとを有する。
【0025】
前記1対のフランジ部は、同軸上に取付孔を有し、前記第2スリットよりも前記軸方向他方側でかつ前記円周方向に関して前記第1スリットの両側に配置されており、前記基部の前記軸方向に直交する第1方向に離隔している。
【0026】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記第2スリットの前記円周方向両側の端部は、前記第1スリットの前記軸方向一方側の端部よりも前記軸方向一方側に位置している。
【0027】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記基部の前記軸方向及び前記第1方向のいずれにも直交する第2方向に関して、前記1対の取付孔の中心軸から前記第2スリットの前記円周方向両側の端部までの距離は、前記1対の取付孔の前記中心軸から前記挿通孔の中心軸までの距離よりも小さい。
【0028】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記第2スリットは、前記第1方向から見て直線形状を有し、かつ、前記基部の前記軸方向及び前記第1方向のいずれにも直交する第2方向から見て円弧形状を有する。
【0029】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記第2スリットは、前記挿通孔の中心軸及び前記第1スリットの中心軸を含む仮想平面に関して対称形状を有する。
【0030】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記挿通孔は、非円形の断面形状を有することができる。
【0031】
この場合には、前記基部は、内周面に雌セレーション歯を有することができる。あるいは、前記基部は、内周面に互いに平行な2つの平面部を有することもできる。あるいは、前記基部は、内周面に3つ以上の平面部を有することもできる。
【0032】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記1対のフランジ部は、前記基部と一体である。
【0033】
あるいは、前記1対のフランジ部は、前記基部と別体であることもできる。
【0034】
本開示の一態様にかかるクランプ装置は、他の部材に対してトルク伝達可能に接続される連結部をさらに備える。
【0035】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記連結部は、前記基部の前記軸方向一方側に隣接して備えられた、1対のアーム部からなる。この場合には、該クランプ装置は、自在継手を構成するヨークからなる。
【0036】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記1対のアーム部は、前記基部の前記軸方向及び前記第1方向のいずれにも直交する第2方向に離隔して配置される。
【0037】
本開示の一態様にかかるクランプ装置では、前記第2スリットの前記円周方向両側の端部は、前記1対のアーム部の基端部よりも前記軸方向他方側に位置する。
【0038】
本発明の一態様にかかるクランプ装置では、前記連結部は、前記基部の前記軸方向一方側に隣接して前記基部と同軸に配置された、外周面に雄セレーション歯もしくは雄スプライン歯を有する雄軸部、内周面に雌セレーション歯もしくは雌スプライン歯を有する雌軸部、あるいは、キー係合部により構成されることもできる。この場合には、該クランプ装置は、前記連結部を相手部材の端部に相対回転不能に嵌合させることで、同軸上に配置された2つの回転軸の端部同士をトルク伝達可能に接続することができる。
【0039】
本開示の一態様にかかるクランプ装置の製造方法では、前記第2スリットを、カッターを用いて切削加工により形成する。
【0040】
この場合には、前記カッターの中心軸を、前記挿通孔の中心軸と平行に配置した状態から、前記基部の前記軸方向及び前記第1方向のいずれにも直交する第2方向に向け傾斜させて加工することができる。
【0041】
本開示の一態様にかかるステアリング装置は、ステアリングホイールの操作により回転しかつ同軸上に配置されていない、2つ回転軸と、前記2つの回転軸の端部同士をトルク伝達可能に接続する自在継手とを備える。
【0042】
前記自在継手は、1対のヨークと、十字軸とを有する。
【0043】
前記1対のヨークのうち少なくとも一方のヨークは、前記1対のアーム部を有する前記一態様にかかるクランプ装置である。
【0044】
本開示の一態様にかかるステアリング装置は、ステアリングホイールの操作により回転しかつ同軸上に配置された、2つ回転軸と、前記2つの回転軸の端部同士をトルク伝達可能に接続する、連結装置とを備える。
【0045】
前記連結装置は、前記連結部を有しない態様にかかるクランプ装置、あるいは、前記1対のアーム部以外の前記連結部を有する前記態様にかかるクランプ装置である。
【発明の効果】
【0046】
本開示の一態様にかかるクランプ装置によれば、ボルトの締め付け時における変形抵抗を低減でき、かつ、ボルトの締め付け時に発生する応力を緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1図1は、本開示の実施の形態の第1例のステアリング装置を示す、部分切断側面図である。
図2図2は、図1のA-A線断面に相当する図である。
図3図3は、第1例に関して、中間シャフトとピニオン軸とを接続する自在継手の側面図である。
図4図4は、クランプ装置である第1ヨークを示す図である。
図5図5は、第1例の第1ヨークを、図4に示した状態から中心軸回りに180度回転させて示す図である。
図6図6は、第1例の第1ヨークを、図4の上側から見た図である。
図7図7は、第1例の第1ヨークを、図4の下側から見た図である。
図8図8は、第1例の第1ヨークを、図4の軸方向他方側から見た端面図である。
図9図9は、第1例の第1ヨークを、図4の軸方向一方側から見た端面図である。
図10図10は、第1例の第1ヨークを、図4の軸方向他方側から見た斜視図である。
図11図11は、第1例の第1ヨークを、図10に示した状態から中心軸回りに180度回転させて示す斜視図である。
図12図12は、第1例の第1ヨークを、図4の軸方向一方側から見た斜視図である。
図13図13は、第1例の第1ヨークを、図12に示した状態から中心軸回りに180度回転させて示す斜視図である。
図14図14は、第1ヨークにカッターを用いた切削加工により第2スリットを形成する工程を示す模式図である。
図15図15は、第1例の第1ヨークに関して、ボルトの締め付け時に変形する範囲を説明するために示す、図4に相当する図である。
図16図16(A)は、第2スリットの形成方向を変更した比較例の第1例を示す図であり、図16(B)は、第2スリットの形成方向及び形成位置を変更した比較例の第2例を示す図である。
図17図17は、本開示の実施の形態の第2例についての、図7に相当する図である。
図18図18は、本開示の実施の形態の第3例についての、図4に相当する図である。
図19図19は、第3例についての、図8に相当する図である。
図20図20は、本開示の実施の形態の第4例のステアリング装置を構成する中間シャフトを示す、側面図である。
図21図21は、第4例についての、図4に相当する図である。
図22図22は、第4例についての、図7に相当する図である。
図23図23は、オープンスリットタイプのヨークの従来構造の1例を示す、斜視図である。
図24図24は、クローズドスリットタイプのヨークの従来構造の1例を示す、斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
[第1例]
本開示の実施の形態の第1例について、図1図15を用いて説明する。
【0049】
本例は、本開示の一態様のクランプ装置を、自動車用のステアリング装置に組み込まれた自在継手を構成するヨークに適用した例である。
【0050】
[ステアリング装置の概要]
ステアリング装置1は、図1に全体構成を示すように、コラムアシスト式の電動パワーステアリング装置である。
【0051】
ステアリング装置1は、ステアリングホイール2と、ステアリングシャフト3と、ステアリングコラム4と、2つの自在継手5a、5bと、中間シャフト6と、ステアリングギヤユニット7と、1対のタイロッド8と、電動アシスト装置9とを備える。
【0052】
ステアリングシャフト3は、車体に支持されたステアリングコラム4の内側に、回転自在に支持されている。ステアリングシャフト3の後側の端部には、運転者が操作するステアリングホイール2が固定されている。ステアリングシャフト3の前側の端部は、ステアリングコラム4に固定されたギヤハウジング10の内側に挿入されており、トーションバー11を介して、出力シャフト12に連結されている。
【0053】
前後方向とは、ステアリング装置が組み付けられる車両の前後方向をいう。
【0054】
出力シャフト12の回転は、2つの自在継手5a、5b及び中間シャフト6を介して、ステアリングギヤユニット7を構成するピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、該ピニオン軸13と噛合したラック軸の直線運動に変換され、1対のタイロッド8を押し引きする。これにより、操舵輪にステアリングホイール2の操作量に応じた舵角が付与される。
【0055】
電動アシスト装置9は、図2に示すように、トルクセンサ14と、図示しないECUと、電動モータ15と、ウォーム減速機16とを備える。
【0056】
トルクセンサ14は、出力シャフト12の周囲に配置され、ステアリングシャフト3に対する出力シャフト12の相対的なねじれ方向及びねじれ量を検出する。ECUは、トルクセンサ14の検出信号、及び、図示しない車速センサにより測定される車速信号などに基づいて、補助トルクを決定する。電動モータ15は、ギヤハウジング10に固定されており、ECUによって通電方向及び通電量が制御される。ウォーム減速機16は、電動モータ15の回転力を減速して出力シャフト12に伝達する。電動アシスト装置9は、出力シャフト12に補助トルクを付与し、運転者がステアリングホイール2を操作するのに必要な操舵力を軽減する。
【0057】
中間シャフト6及び出力シャフト12は、ステアリングホイール2の操作によって回転し、かつ、同軸上に配置されていない2つの回転軸である。自在継手5aは、中間シャフト6及び出力シャフト12のそれぞれの端部同士を、トルク伝達可能に接続する。
【0058】
中間シャフト6及びピニオン軸13は、ステアリングホイール2の操作によって回転し、かつ、同軸上に配置されていない2つの回転軸である。自在継手5bは、中間シャフト6及びピニオン軸13のそれぞれの端部同士を、トルク伝達可能に接続する。
【0059】
図3に示すように、自在継手5bは、ピニオン軸13の端部に固定されたクランプ装置に相当する第1ヨーク17と、中間シャフト6の端部に固定された第2ヨーク18と、十字軸19とにより構成される。本例では、自在継手5bを構成する第1ヨーク17及び第2ヨーク18のうちの第1ヨーク17に、本開示の一態様のクランプ装置が適用されている。
【0060】
なお、本開示の一態様のクランプ装置は、第1ヨーク17に代えて第2ヨーク18に適用することもできるし、第1ヨーク17及び第2ヨーク18の両方に適用することもできる。追加的あるいは代替的に、本開示の一態様のクランプ装置は、自在継手5aを構成する1対のヨークのうちの少なくとも一方のヨークに適用することもできる。これらの場合においても、第1ヨークと同様の構成が採られるため、その説明を本明細書では省略する。
【0061】
以下、第1ヨーク17について、図4図15を参照して説明する。
【0062】
[ヨークの構造]
第1ヨーク17は、いわゆるクローズドスリットタイプのヨークであり、筒形状を有する基部20と、1対のフランジ部21a、21bとを備える。
【0063】
基部20は、円周方向1箇所に、軸方向に伸長した第1スリット22を有し、縮径可能に構成されている。1対のフランジ部21a、21bは、基部20の円周方向に関して第1スリット22の両側に配置されており、基部20の軸方向に直交する第1方向に離隔している。第1ヨーク17は、一方のフランジ部21aに備えられた取付孔23aを挿通したボルト24(図3参照)を、他方のフランジ部21bに備えられた取付孔23bに螺合しさらに締め付けることで、基部20をピニオン軸13の端部に締め付け、ピニオン軸13に対して固定される。
【0064】
第1ヨーク17に関して、軸方向、円周方向及び径方向とは、特に断らない限り、基部20に関する軸方向、円周方向及び径方向をいう。また、基部20の軸方向に直交する方向である、図4及び図5の表裏方向、図6及び図7の上下方向、並びに、図8及び図9の左右方向を、第1方向という。基部20の軸方向及び第1方向のいずれにも直交する方向である、図4及び図5の上下方向、図6及び図7の表裏方向、並びに、図8及び図9の上下方向を、第2方向という。
【0065】
スリットとは、長さ寸法に比べて幅寸法の小さい、細長い隙間をいう。
【0066】
第1ヨーク17は、金属製の素材に、たとえば、鍛造加工及び切削加工などを施して造られる。
【0067】
本例では、基部20の筒形状は、具体的には略円筒形状である。
【0068】
基部20は、挿通孔25と、第1スリット22と、第2スリット26とを有する。
【0069】
挿通孔25は、基部20の軸方向に伸長している。本例では、挿通孔25は、基部20を軸方向に貫通する。具体的には、挿通孔25は、基部20の径方向中央部を軸方向に貫通する。すなわち、挿通孔25の中心軸O25は、基部20の中心軸に一致する。挿通孔25には、ピニオン軸13の軸方向一方側の端部が挿入される。挿通孔は、基部を軸方向に貫通した貫通孔に限らず、基部を軸方向に貫通しない有底孔に構成されることもできる。
【0070】
挿通孔25の断面形状は、クランプ装置が適用される用途、特に、トルクの伝達の有無及び伝達するトルクの大きさに応じて、任意に決定される。トルク伝達を行う用途では、挿通孔25は、非円形状の断面形状を有する。非円形状には、歯車形状、長円形状(二面幅形状)、楕円形状、多角形形状などがある。
【0071】
本例では、挿通孔25は、歯車形状の断面形状を有する。より具体的には、挿通孔25は、基部20の内周面に雌セレーション歯27を円周方向に配置してなるセレーション孔により構成される。雌セレーション歯27は、ピニオン軸13の端部外周面に備えられた雄セレーション歯28と相対回転不能に係合する。
【0072】
基部20は、内周面の円周方向一部に、雌セレーション歯27の形成されていない欠歯部29を有する。欠歯部29は、基部20の内周面のうちで、第1スリット22を円周方向に跨ぐ範囲に設けられている。欠歯部29は、挿通孔25の中心軸O25を中心とする部分円筒面状に構成されている。欠歯部29の内径は、雌セレーション歯27の歯底円直径と同じ大きさを有する。
【0073】
挿通孔25の中心軸O25を中心とする欠歯部29の中心角は、特に限定されるものではないが、たとえば40度以上180度以下とすることができ、好ましくは60度以上120度以下とすることができる。本例では、挿通孔25の中心軸O25を中心とする欠歯部29の中心角は、およそ80度である。
【0074】
雌セレーション歯27及び欠歯部29は、基部20の内周面の軸方向一方側の端部から軸方向他方側の端部にわたる範囲に形成されている。
【0075】
挿通孔25は、たとえば、ブローチ工具を用いたブローチ加工により形成される。
【0076】
第1スリット22は、基部20の円周方向1箇所に配置され、かつ、軸方向に伸長している。第1スリット22は、軸方向に直線状に伸長している。第1スリット22の中心軸O22は、挿通孔25の中心軸O25と略平行に配置されている。第1スリット22の長さ方向は、軸方向に一致し、第1スリット22の幅方向は、第1方向に一致し、第1スリット22の深さ方向は、第2方向に一致する。
【0077】
第1スリット22は、基部20の外周面及び内周面に開口している。
【0078】
第1スリット22は、基部20の軸方向他方側の端部から軸方向中間部にわたる範囲に形成されている。
【0079】
第1スリット22の軸方向一方側の端部は、基部20の軸方向中間部に位置しており、第2スリット26に対して開口している。第1スリット22の軸方向一方側の端部の一部分は、第2スリット26よりも軸方向一方側に位置しており、軸方向に閉じた閉鎖端30となっている。
【0080】
第1スリット22の軸方向他方側の端部は、基部20の軸方向他方側の端面に開口している。このため、第1スリット22の軸方向他方側の端部は、軸方向に開口した開口端31になっている。
【0081】
第1スリット22の幅寸法は、ボルト24を締め付ける以前の状態で、第1スリット22の全長にわたり一定である。ただし、第1スリットの幅寸法は、第1スリットの軸方向位置に応じて異ならせることもできる。
【0082】
第1スリット22は、たとえば、回転切削工具であるカッターを用いた切削加工により形成される。第1スリット22の閉鎖端30は、挿通孔25の中心軸O25を含み、かつ、第1方向に直交する断面に関して、円弧形の断面形状を有する凹円筒面により構成されている。別の言い方をすれば、閉鎖端30は、径方向外側に向かうほど軸方向一方側に向かう方向に傾斜した部分円筒面により構成されている。
【0083】
ただし、本開示を実施する場合には、第1スリットは、切削加工以外のその他の方法により形成しても良い。第1スリットの閉鎖端は、挿通孔の中心軸に直交する平面により構成することもできるし、第2方向から見て略半円弧形の部分円筒面により構成することもできる。第1スリットの閉鎖端は、第2スリットを形成する際に完全に除去されて存在しない場合もある。
【0084】
第2スリット26は、第1スリット22と交わるように円周方向に伸長している。すなち、第2スリット26は、第1スリット22の軸方向一部分に連通する態様で、円周方向に伸長している。
【0085】
本例では、第2スリット26は、第1スリット22の軸方向一方側の端部と交わるように円周方向に伸長している。
【0086】
第2スリット26は、基部20の外周面及び内周面に開口している。第2スリット26の円周方向中間部は、第1スリット22に対して開口している。
【0087】
第2スリット26は、基部20の軸方向中間部の片半部(図4の下側半部、図5の上側半部)に備えられている。
【0088】
第2スリット26は、第1スリット22と接続部32にて接続されている。接続部32は、第2スリット26のうちで、第2方向に関して挿通孔25の中心軸O25から最も遠い部分に位置している。第2スリット26は、第1スリット22との交差部である接続部32から円周方向に離れるほど、軸方向一方側に向かう方向に傾斜している。換言すれば、第2スリット26は、接続部32から円周方向に離れるほど、軸方向に関して1対のフランジ部21a、21bから離れる方向に傾斜している。さらに換言すれば、第2スリット26は、第1方向に関して接続部32から離れるほど、軸方向一方側に向かう方向で、かつ、第2方向に関して挿通孔25の中心軸O25に近づく方向に伸長している。
【0089】
第1スリット22及び第2スリット26は、互いに連続している。第1スリット22及び第2スリット26は、第1スリット22の軸方向一方側の端部と第2スリット26の円周方向中間部とがつながった接続部32にて、互いに連続している。第1スリット22及び第2スリット26は、図7に示すように、第2方向から見て略Y字形状に構成されている。
【0090】
第2スリット26は、図4及び図5に示すように、第1方向から見て直線状の側面形状を有しており、かつ、図7に示すように、第2方向から見て略円弧形の平面形状を有している。ただし、本開示を実施する場合には、第2スリットは、第2方向から見て、2本の直線部からなる略V字形の平面形状を有するように構成することもできる。
【0091】
第2スリット26の円周方向両側の端部33a、33bは、円周方向に閉じている。
【0092】
第1ヨーク17を第1方向から見た場合の、挿通孔25の中心軸O25に対する第2スリット26の中心線の傾斜角度αは、これに限定されるものではないが、たとえば10度~80度の範囲、好ましくは30度~60度の範囲、より好ましくは40度~50度の範囲に設定することができる。本例では、前記傾斜角度αは、45度である。
【0093】
第2スリット26のうち、第1スリット22との接続部32は、第2スリット26のうちで最も軸方向他方側に位置している。
【0094】
第2スリット26の円周方向両側の端部33a、33bは、第1スリット22の軸方向一方側の端部よりも軸方向一方側に位置し、かつ、第2方向に関して挿通孔25の中心軸O25までは達していない。
【0095】
本例では、第2スリット26は、挿通孔25の中心軸O25及び第1スリット22の中心軸O22をそれぞれ含む仮想平面βに関して、対称形状を有する。
【0096】
このため、第2スリット26の円周方向一方側の端部33aと第2スリット26の円周方向他方側の端部33bとは、軸方向位置、第1方向に関する位置及び第2方向に関する位置が互いに同じである。また、接続部32から第2スリット26の円周方向一方側の端部33aまでの円周方向長さは、接続部32から第2スリット26の円周方向他方側の端部33bまでの円周方向長さに等しい。
【0097】
ただし、本開示を実施する場合に、第2スリットを、挿通孔の中心軸及び第1スリットの中心軸をそれぞれ含む仮想平面に関して、非対称形状とすることもできる。
【0098】
第2スリット26の幅寸法は、第2スリット26の全長にわたり一定であり、かつ、第1スリット22の幅寸法と同じである。ただし、本開示を実施する場合に、第2スリットの幅方向を、第2スリットの円周方向位置に応じて異ならせることもできる。追加的あるいは代替的に、第2スリットの幅寸法を、第1スリットの幅寸法と異ならせることもできる。
【0099】
第2スリット26は、たとえば、図14に示すように、回転切削工具である円盤状のカッター34を用いた切削加工により形成できる。第2スリット26をカッター34により形成する場合には、カッター34の回転の中心軸O34を、挿通孔25の中心軸O25に対して平行に配置した状態から第2方向に向け傾斜させる。そして、カッター34の外周縁部に備えられた刃部を基部20の外周面に近づけるようにカッター34を移動させることで、第2スリット26を切削加工により形成することができる。ただし、本開示を実施する場合には、切削加工以外のその他の方法により、第2スリットを形成しても良い。
【0100】
1対のフランジ部21a、21bは、第2スリット26よりも軸方向他方側で、かつ、円周方向に関して第1スリット22の両側に配置されており、第1方向に離隔している。
【0101】
1対のフランジ部21a、21bは、基部20の軸方向他方側の端部外周面に備えられている。1対のフランジ部21a、21bは、基部20の外周面のうちで円周方向に関して第1スリット22の両側に位置する部分から、第2方向にそれぞれ張り出している。1対のフランジ部21a、21bは、それぞれ板形状を有する。
【0102】
本例では、1対のフランジ部21a、21bは、第1方向から見て、第2スリット26の延長線とは接触しない位置に配置されている。
【0103】
本例では、1対のフランジ部21a、21bのそれぞれは、第1方向から見て、略オーバル状の側面形状を有している。
【0104】
本例では、1対のフランジ部21a、21bは、基部20と一体である。
【0105】
1対のフランジ部21a、21bは、略平行に配置されている。第1方向に関して1対のフランジ部21a、21bの内側面同士の間には、隙間35が備えられている。隙間35は、第1スリット22と第2方向に連続している。隙間35は、ボルト24を締め付ける以前の状態で、第1スリット22の幅寸法と同じ大きさを有する。隙間35は、回転切削工具であるカッターを用いて、第1スリット22と同時に切削加工により形成することができる。
【0106】
第1方向に関する1対のフランジ部21a、21bの第1方向における外側面同士の寸法は、ボルト24を締め付ける以前の状態で、基部20の外径とほぼ同じである。
【0107】
1対のフランジ部21a、21bは、同軸上に取付孔23a、23bを有する。取付孔23a、23bの中心軸O23は、第1方向を向いている。取付孔23a、23bの中心軸O23は、挿通孔25の中心軸O25に対し、ねじれの位置に配置されている。
【0108】
本例では、1対の取付孔23a、23bのうちの一方の取付孔23aは、円筒孔であるボルト挿通孔であり、1対の取付孔23a、23bのうちの他方の取付孔23bは、ねじ穴である。
【0109】
ただし、本開示を実施する場合には、1対の取付孔を円筒孔とすることもできる。この場合、1対の取付孔を挿通したボルトの先端部にナットを螺合することにより、基部が縮径される。
【0110】
本例では、ボルト24の締め付け中心となる1対の取付孔23a、23bの中心軸O23から、第2スリット26の円周方向両側の端部33a、33bまでの第2方向に関する距離D1が、1対の取付孔23a、23bの中心軸O23から挿通孔25の中心軸O25までの第2方向に関する距離D2よりも小さい(D1<D2)。
【0111】
第1ヨーク17は、他の部材に対してトルク伝達可能に接続するための連結部36をさらに備える。
【0112】
本例では、連結部36は、1対のアーム部37a、37bにより構成される。1対のアーム部37a、37bは、軸方向にそれぞれ伸長し、かつ、互いに離隔して配置されている。
【0113】
1対のアーム部37a、37bは、それぞれ略板状に構成されている。1対のアーム部37a、37bは、基部20の軸方向一方側に隣接して配置されている。1対のアーム部37a、37bの基端部は、基部20の軸方向一方側の端部のうち、基部20の径方向反対側となる2箇所位置に接続されている。
【0114】
図示の例では、1対のアーム部37a、37bは、第2方向に離隔して配置されている。換言すれば、1対のアーム部37a、37bは、1対のフランジ部21a、21bに対して円周方向に関する位相を90度ずらした位置に配置されている。
【0115】
ただし、本開示を実施する場合には、1対のアーム部は、第1方向に離隔して配置されてもよいし、その他の方向に離隔して配置されてもよい。
【0116】
1対のアーム部37a、37bのうちの一方のアーム部37aの円周方向に関する位相は、第1スリット22の円周方向に関する位相と一致している。
【0117】
第2スリット26の円周方向両側の端部33a、33bは、1対のアーム部37a、37bの基端部よりも軸方向他方側に位置している。
【0118】
本例では、1対のアーム部37a、37bは、基部20と一体に構成されている。
【0119】
1対のアーム部37a、37bは、同軸上に配置された貫通孔である通孔38をそれぞれ有する。通孔38には、十字軸19を構成する軸部が軸受カップを介して回転自在に軸支される。
【0120】
第1ヨーク17をピニオン軸13の端部に固定するには、挿通孔25にピニオン軸13の端部を挿入し、雄セレーション歯28と雌セレーション歯27とをセレーション係合させる。また、一方のフランジ部21aに備えられた取付孔23aを挿通したボルト24を、他方のフランジ部21bに備えられた取付孔23bに螺合する。そして、さらにボルト24を締め付けることで、第1スリット22及び隙間35の幅寸法を小さくし、基部20を縮径させて、基部20によりピニオン軸13の端部を締め付ける。この際、本例の第1ヨーク17は、円周方向に関して第1スリット22の両側に位置し、かつ、第2スリット26よりも軸方向他方側に位置する部分が主に変形する。つまり、基部20及び1つのフランジ部21a、21bのうち、第1方向から見て、図15に斜格子模様で示した三角形の内側にある部分が主に変形する。これにより、第1ヨーク17をピニオン軸13の端部に固定する。また、必要に応じて、ボルト24の中間部をピニオン軸13の外周面に係合させる。
【0121】
本例の第1ヨーク17によれば、ボルト24の締め付け時における変形抵抗を低減でき、かつ、ボルト24の締め付け時に発生する応力を緩和できる。
【0122】
本例の第1ヨーク17の基部20は、第1スリット22と交わるように円周方向に伸長した第2スリット26を有する。このため、本例の第1ヨーク17では、円周方向に関して第1スリット22の両側に位置し、かつ、第2スリット26よりも軸方向他方側に位置する部分のたわみ剛性が低下し、ボルト24の締め付け時における第1ヨーク17の変形抵抗が低減される。
【0123】
さらに、第2スリット26は、第1スリット22との接続部32から円周方向に離れるほど軸方向一方側に向かう方向、すなわち、1対のフランジ部21a、21bから離れる方向に傾斜している。このため、ボルト24の締め付け中心となる取付孔23a、23bの中心軸O23から第2スリット26の円周方向両側の端部33a、33bまでの距離L1を長くできる。したがって、本例の第1ヨーク17によれば、ボルト24を締め付けた際に生じる、第2スリット26の円周方向両側の端部33a、33bの近傍部分の変形量が小さくなり、ボルト24の締め付け時に発生する応力が緩和される。
【0124】
たとえば、図16(A)に二点鎖線で示すように、第1スリット22との接続部32の軸方向位置を変えずに、第1方向から見て、第2スリット26xを、第1スリット22に直交するように形成した場合、取付孔23a、23bの中心軸O23から第2スリット26xの円周方向両側の端部まで距離Lxは、前記距離L1よりも小さくなる(Lx<L1)。このため、ボルト24を締め付けた際に生じる、第2スリット26xの円周方向両側の端部の近傍部分の変形量が大きくなり、本例の第1ヨーク17のように、ボルト24の締め付け時に発生する応力は緩和されない。
【0125】
さらに、図16(B)に二点鎖線で示すように、第1スリット22に直交する第2スリット26yの円周方向両側の端部の軸方向位置が、本例の第2スリット26の円周方向両側の端部33a、33bの軸方向位置と同じになるように、第2スリット26yを形成した場合、取付孔23a、23bの中心軸O23から第2スリット26yの円周方向両側の端部まで距離は、前記距離L1と同じになる。ただし、本例の第1ヨーク17に比べて、ボルト24の締め付け時に変形させる範囲が大きくなる。具体的には、図16(B)に斜格子模様で示した範囲分だけ、変形させる範囲が大きくなる。したがって、第2スリット26yが形成された構造では、本例の第1ヨーク17のように、基部20の変形抵抗が低くなることはない。
【0126】
以上のように、本例の第1ヨーク17によれば、ボルト24の締め付け時における変形抵抗を低減でき、かつ、ボルト24の締め付け時に発生する応力を緩和できる。
【0127】
本例の第1ヨーク17は、ボルト24の締め付け時における変形抵抗が低減されるため、基部20の締め付け力が十分に確保される。したがって、本例の第1ヨーク17は、運転者がステアリングホイール2を操作することによるトルクだけでなく、電動アシスト装置9による高トルクのアシストトルクが伝達される、コラムアシスト式のステアリング装置1に組み込まれた場合にも、基部20に対するピニオン軸13の微細摺動が抑制される。このため、雌セレーション歯27及び/又は雄セレーション歯28に、フレッチング摩耗やフレッチング腐食などの損傷が進行するのを抑制できる。
【0128】
本例の第1ヨーク17は、ボルト24の締め付け時に基部20に発生する応力が緩和されるため、基部20に亀裂などの損傷が発生することを防止される。
【0129】
本例の第1ヨーク17は、第2方向に関して、1対の取付孔23a、23bの中心軸O23から第2スリット26の円周方向両側の端部33a、33bまでのそれぞれの距離D1が、1対の取付孔23a、23bの中心軸O23から挿通孔25の中心軸O25までの距離D2よりも小さい。このため、基部20のねじれ剛性(強度)が十分に確保される。このため、第1ヨーク17による高トルクの伝達が可能になる。
【0130】
第2スリット26の円周方向両側の端部33a、33bが、第1スリット22の軸方向一方側の端部よりも軸方向一方側に位置しているため、ボルト24を締め付けた際に、基部20のうちでピニオン軸13を締め付ける範囲が大きくなる。したがって、高トルクを伝達する面で有利になる。
【0131】
本例の第1ヨーク17は、基部20の内周面のうちで第1スリット22を円周方向に跨ぐ範囲に欠歯部29を有しているため、ボルト24を締め付けた際に、雌セレーション歯27が雄セレーション歯28に第1方向に強く押し付けられる。したがって、高トルクを伝達する面で有利になる。
【0132】
本例の第1ヨーク17は、ボルト24の締め付け時に変形する部分が、第1方向から見て三角形の内側に位置しているため、応力分布の平均化を図れる。
【0133】
第2スリット26の円周方向両側の端部33a、33bは、1対のアーム部37a、37bの基端部よりも軸方向他方側に位置しているため、基部20のねじれ剛性を確保する面で有利になる。
【0134】
第2スリット26は、挿通孔25の中心軸O25及び第1スリット22の中心軸O22をそれぞれ含む前記仮想平面βに関して対称形状を有しているため、基部20のうちで円周方向に関して第1スリット22の両側部分のたわみ剛性が、同程度だけ低減される。
【0135】
第2スリット26は、第1方向から見て直線形状を有しており、かつ、第2方向から見て円弧形状を有しているため、円盤状のカッター34を用いた切削加工により第2スリット26を形成できる。したがって、加工コストの低減が図れる。
【0136】
1対のフランジ部21a、21bは、第1方向から見て、第2スリット26の延長線に接触しない位置に配置されているため、1対のフランジ部21a、21bが、カッター34と干渉することを防止できる。
【0137】
さらに、第2スリット26及び第1スリット22(及び隙間35)を、共通のカッター34を用いて加工できるため、加工コストの上昇を効果的に抑えられる。
【0138】
[第2例]
本開示の実施の形態の第2例について、図17を用いて説明する。
【0139】
本例の第1ヨーク17aでは、基部20に備えられた第2スリット26aが、挿通孔25の中心軸O25及び第1スリット22の中心軸O22をそれぞれ含む仮想平面βに関して、非対称形状を有する。
【0140】
本例では、接続部32から第2スリット26aの円周方向一方側の端部33aまでの円周方向長さが、接続部32から第2スリット26aの円周方向他方側の端部33bまでの円周方向長さよりも長い。
【0141】
本例では、基部20のうちで、第2スリット26aの円周方向一方側部分の軸方向他方側に位置する部分の変形抵抗が、基部20のうちで、第2スリット26aの円周方向他方側部分の軸方向他方側に位置する部分の変形抵抗よりも小さくなる。つまり、第2スリット26aにより、基部20の変形抵抗が、円周方向に関して第1スリット22の両側部分で異なる。
【0142】
第2例についてのその他の構成及び作用効果については、第1例と同じである。
【0143】
[第3例]
本開示の実施の形態の第3例について、図18及び図19を用いて説明する。
【0144】
本例の第1ヨーク17bでは、1対のフランジ部21c、21dは、基部20aと別体である。
【0145】
本例では、1対のフランジ部21c、21dは、締め付け部材39の一部に備えられている。
【0146】
締め付け部材39は、全体が欠円筒形状を有しており、略U字状の端面形状を有している。締め付け部材39は、1対のフランジ部21c、21dと、連結筒部40とを有する。
【0147】
連結筒部40は、半円筒形状を有し、1対のフランジ部21c、21dを連結する。
【0148】
締め付け部材39は、1対のフランジ部21c、21dと連結筒部40とにより囲まれた部分に、嵌合孔41を有する。
【0149】
締め付け部材39は、嵌合孔41に基部20aの軸方向他方側の端部を挿入することで、基部20aに対して取り付けられる。
【0150】
本例の第1ヨーク17bでは、1対のフランジ部21c、21dが、基部20aと別体に構成されているため、第1ヨーク17bの製造工程を簡略化できる。このため、第1ヨーク17bの製造コストの低減を図れる。
【0151】
第3例についてのその他の構成及び作用効果については第1例と同じである。
【0152】
[第4例]
本開示の実施の形態の第4例について、図20図22を用いて説明する。
【0153】
本例は、本開示の一態様のクランプ装置を、自動車用のステアリング装置に組み込まれた中間シャフトを構成する連結装置に適用した例である。
【0154】
本例の中間シャフト6aは、大型の自動車用のステアリング装置を構成し、ステアリングシャフトとステアリングギヤユニットのピニオン軸とをトルク伝達可能に接続する。
【0155】
中間シャフト6aは、第1シャフト42と、第2シャフト43と、連結装置44とを有する。
【0156】
第1シャフト42は、コラプシブルシャフトであり、自動車に衝突事故が発生して、所定値以上の大きさの衝撃荷重が加わった場合にのみ、全長が収縮可能な構成を有する。
【0157】
第2シャフト43は、自動車に衝突事故が発生していない定常状態においても、全長が伸縮可能な構成を有する。
【0158】
第1シャフト42及び第2シャフト43は、ステアリングホイール2(図1参照)の操作により回転しかつ同軸上に配置された、2つ回転軸である。
【0159】
連結装置44は、第1シャフト42の端部と第2シャフト43の端部とをトルク伝達可能に接続する。
【0160】
連結装置44は、基部20と1対のフランジ部21a、21bとを有する。本例の連結装置44は、第1例の第1ヨーク17とは異なり、連結部を備えていない。本例の連結装置44は、1対のアーム部を備えていない以外、第1例の第1ヨーク17と同じ構成を有する。
【0161】
本例では、基部20に備えられた挿通孔25(図8参照)の内側に、第2シャフト43の軸方向一方側の端部が挿入されている。これにより、基部20の内周面に備えられた雌セレーション歯27と、第2シャフト43の端部外周面に備えられた雄セレーション歯28とがセレーション係合している。
【0162】
基部20の軸方向一方側の端部には、第1シャフト42の軸方向他方側の端部が外嵌されている。基部20の軸方向一方側の端部と第1シャフト42の軸方向他方側の端部とは、溶接ビード部45により溶接固定されている。
【0163】
本例の連結装置44の基部20は、第1スリット22と交わるように円周方向に伸長し、かつ、第1スリット22との交差部である接続部32から円周方向に離れるほど軸方向一方側に向かう方向に傾斜した、第2スリット26を有している。このため、本例の連結装置44によれば、ボルト24(図3参照)の締め付け時における変形抵抗を低減でき、かつ、ボルト24の締め付け時に発生する応力を緩和できる。
【0164】
第4例についてのその他の構成及び作用効果については、第1例と同じである。
【0165】
以上、本開示の実施の形態の第1例~第4例について説明したが、第1例~第4例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0166】
1 ステアリング装置
2 ステアリングホイール
3 ステアリングシャフト
4 ステアリングコラム
5a、5b 自在継手
6、6a 中間シャフト
7 ステアリングギヤユニット
8 タイロッド
9 電動アシスト装置
10 ギヤハウジング
11 トーションバー
12 出力シャフト
13 ピニオン軸
14 トルクセンサ
15 電動モータ
16 ウォーム減速機
17、17a、17b 第1ヨーク
18 第2ヨーク
19 十字軸
20、20a 基部
21a、21b、21c、21d フランジ部
22 第1スリット
23a、23b 取付孔
24 ボルト
25 挿通孔
26、26a、26x、26y 第2スリット
27 雌セレーション歯
28 雄セレーション歯
29 欠歯部
30 閉鎖端
31 開口端
32 接続部
33a、33b 端部
34 カッター
35 隙間
36 連結部
37a、37b アーム部
38 通孔
39 締め付け部材
40 連結筒部
41 嵌合孔
42 第1シャフト
43 第2シャフト
44 連結装置
45 溶接ビード部
100a、100b ヨーク
101a、101b 基部
102a、102b 第1スリット
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