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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012781
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】ガスクロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/12 20060101AFI20250117BHJP
   G01N 30/08 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
G01N30/12 D
G01N30/08 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115876
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】福島 大貴
(57)【要約】
【課題】試料気化室内又はスプリット流路内の充填材が充填位置からずれることを防止できるガスクロマトグラフを提供する。
【解決手段】試料気化室21では、液体試料が内部で気化されることにより試料ガスが生成される。スプリット流路4は、試料気化室21内の試料ガスを排出させる。スプリットバルブ41は、スプリット流路4に設けられ、当該スプリット流路4内を流れる試料ガスの流量を調整するために開閉される。充填材26,421は、試料気化室21内又はスプリット流路4内の充填位置に充填される。制御部7は、試料気化室21内の試料ガスをスプリット流路4から排出させる際、充填材26,421が充填位置からずれる圧力勾配よりも小さい圧力勾配で試料気化室21内の圧力が減少するようにスプリットバルブ41の開度を制御する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料が内部で気化されることにより試料ガスが生成される試料気化室と、
前記試料気化室内の試料ガスを排出させるスプリット流路と、
前記スプリット流路に設けられ、当該スプリット流路内を流れる試料ガスの流量を調整するために開閉されるバルブと、
前記試料気化室内又は前記スプリット流路内の充填位置に充填される充填材と、
前記試料気化室内の試料ガスを前記スプリット流路から排出させる際、前記充填材が前記充填位置からずれる圧力勾配よりも小さい圧力勾配で前記試料気化室内の圧力が減少するように前記バルブの開度を制御する制御部とを備える、ガスクロマトグラフ。
【請求項2】
前記試料気化室内の圧力を検知する圧力センサをさらに備え、
前記制御部は、前記圧力センサにより検知される前記試料気化室内の圧力が閾値以下になるまで、前記充填材が前記充填位置からずれる圧力勾配よりも小さい第1圧力勾配で前記試料気化室内の圧力が減少するように前記バルブの開度を制御した後、前記第1圧力勾配よりも大きい第2圧力勾配で前記試料気化室内の圧力が減少するように前記バルブの開度を制御する、請求項1に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項3】
前記第2圧力勾配は、前記バルブの流路抵抗が最小となるように前記バルブの開度を制御したときの圧力勾配である、請求項2に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項4】
前記充填材は、前記試料気化室内に設けられたインサート内の充填位置に充填される、請求項1に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項5】
前記スプリット流路内の充填位置に設けられたフィルタをさらに備え、
前記充填材は、前記フィルタに充填される、請求項1に記載のガスクロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料気化室内で液体試料を気化させることにより生成される試料ガスをスプリット流路から排出させるガスクロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフには、液体試料を内部で気化させることにより試料ガスを生成する試料気化室と、当該試料気化室内の試料ガスを排出させるスプリット流路とが備えられている。スプリット流路には、当該スプリット流路内を流れる試料ガスの流量を調整するために開閉されるバルブ(スプリットバルブ)が設けられている。
【0003】
特許文献1に開示されているガスクロマトグラフでは、試料気化室内にガラス管からなるライナー(インサート)が挿入されている。ライナー内には、所定の充填位置に充填材としての吸着剤などが充填される。
【0004】
特許文献2に開示されているガスクロマトグラフでは、スプリット流路にフィルタが設けられている。フィルタは、スプリット流路内の所定の充填位置に設けられており、フィルタに充填された粒子状の充填材により、試料ガス中の成分を捕集することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-256714号公報
【特許文献2】国際公開第2017/191673号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガスクロマトグラフの稼働時には、試料気化室内の圧力が高い状態となっている。ガスクロマトグラフを停止する際は、スプリットバルブを開くことにより、試料気化室内の試料ガスをスプリット流路から排出させることができる。このとき、スプリットバルブを全開にすると、大きな圧力勾配で試料気化室内の圧力が減少する。
【0007】
大きな圧力勾配で試料気化室内の圧力が減少した場合、試料気化室内におけるライナー内の充填材が充填位置からずれる場合がある。この場合、試料気化室内に注入される液体試料が充填材から受ける熱的影響にばらつきが生じ、一様な気化が生じない結果、分析再現性が悪化するおそれがある。
【0008】
また、大きな圧力勾配で試料気化室内の圧力が減少した場合、スプリット流路内のフィルタが充填位置からずれる場合がある。この場合、フィルタに充填されている粒子状の充填材がフィルタからスプリット流路を介して流出するおそれがある。フィルタから流出した充填材の粒子が、下流側に配置されたスプリットバルブ内の部品に噛み込んだ場合には、スプリットバルブが故障する可能性もある。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、試料気化室内又はスプリット流路内の充填材が充填位置からずれることを防止できるガスクロマトグラフを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係るガスクロマトグラフは、試料気化室と、スプリット流路と、バルブと、充填材と、制御部とを備える。前記試料気化室では、液体試料が内部で気化されることにより試料ガスが生成される。前記スプリット流路は、前記試料気化室内の試料ガスを排出させる。前記バルブは、前記スプリット流路に設けられ、当該スプリット流路内を流れる試料ガスの流量を調整するために開閉される。前記充填材は、前記試料気化室内又は前記スプリット流路内の充填位置に充填される。前記制御部は、前記試料気化室内の試料ガスを前記スプリット流路から排出させる際、前記充填材が前記充填位置からずれる圧力勾配よりも小さい圧力勾配で前記試料気化室内の圧力が減少するように前記バルブの開度を制御する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、試料気化室内又はスプリット流路内の充填材が充填位置からずれることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るガスクロマトグラフの構成例を示した概略図である。
図2】試料導入部の具体的構成を示した概略断面図である。
図3】ガスクロマトグラフの電気的構成を示したブロック図である。
図4】スプリットバルブを制御する際の制御部による処理の一例を示したフローチャートである。
図5A】制御部による試料気化室内の圧力制御の目標値を一定の勾配で維持した場合の圧力変化の一例を示した図である。
図5B】制御部による試料気化室内の圧力制御の目標値の勾配を途中で切り替えた場合の圧力変化の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.ガスクロマトグラフの全体構成
図1は、本発明の一実施形態に係るガスクロマトグラフ100の構成例を示した概略図である。ガスクロマトグラフ100は、キャリアガスとともに試料ガスをカラム1内に供給することにより分析を行うためのものであり、上記カラム1以外に、試料導入部2、ガス供給流路3、スプリット流路4、パージ流路5及び検出器6などが備えられている。
【0014】
カラム1は、例えばキャピラリカラムからなり、分析中はカラムオーブン内で加熱される。カラム1の一端部は、試料導入部2に接続されており、カラム1内には、試料導入部2からカラム入口11を介してキャリアガスとともに試料ガスが導入される。カラム1の他端部は、検出器6に接続されている。検出器6は、例えば水素炎イオン化検出器(FID)などの各種検出器により構成することができる。
【0015】
試料導入部2の内部には、試料を気化するための空間である試料気化室21が区画されている。具体的に、試料導入部2は、中空状の筐体22と、筐体22を密閉するセプタム23とを備えている。筐体22には、図示しない開口が形成されており、可撓性を有するセプタム23によって、当該開口が塞がれている。試料気化室21には液体試料が注入され、試料気化室21内で液体試料が気化されることにより生成された試料ガスが、キャリアガスとともにカラム入口11からカラム1内に導入される。試料気化室21には、ガス供給流路3、スプリット流路4及びパージ流路5が連通している。
【0016】
ガス供給流路3は、試料導入部2の試料気化室21内にキャリアガスを供給するための流路である。ガス供給流路3には、例えば流量センサ31及び全流量バルブ32が設けられている。流量センサ31は、ガス供給流路3内のキャリアガスの流量を検出する。全流量バルブ32は、ガス供給流路3を開閉することにより、ガス供給流路3から試料導入部2にキャリアガスを供給する開状態と、キャリアガスの供給が停止された閉状態との間で、ガス供給流路3内のキャリアガスの流量を任意に調整することができる。
【0017】
スプリット流路4は、スプリット導入法によりカラム入口11からカラム1内にキャリアガス及び試料ガスを導入する際に、試料気化室21内のガス(キャリアガス及び試料ガスの混合ガス)の一部を所定のスプリット比で外部に排出するための流路である。スプリット流路4には、例えばスプリットバルブ41及びスプリットフィルタ42が設けられている。
【0018】
スプリットバルブ41は、スプリット流路4内を流れる試料ガスの流量を調整するために開閉される。具体的に、スプリットバルブ41は、スプリット流路4を開閉することにより、試料導入部2からスプリット流路4を介してガスを排出する開状態と、試料導入部2からのガスの排出が停止された閉状態との間で、スプリット流路4内のガスの流量を任意に調整することができる。スプリットフィルタ42は、スプリット流路4内の所定の充填位置に設けられており、スプリットフィルタ42に充填された粒子状の充填材421により、試料ガス中の成分を捕集することができる。充填材421を固定するための固定具は設けられていないため、充填材421に外力が加わった場合、その外力が摩擦力よりも大きければ充填材421が充填位置からずれるときがある。
【0019】
この例では、スプリットフィルタ42は、スプリットバルブ41よりも試料導入部2側に設けられており、スプリットバルブ41を劣化させるような試料由来の成分を捕集することができる。充填材421が充填位置からずれてスプリットフィルタ42から流出した場合には、その下流側に配置されているスプリットバルブ41などの構成部材が充填材421の粒子を噛み込んで故障するおそれがある。
【0020】
パージ流路5は、セプタム23などから生じる所望しない成分を外部に排出するための流路である。パージ流路5には、例えば入口圧センサ51、パージバルブ52、パージ圧センサ53及び流路抵抗54が設けられている。入口圧センサ51は、パージバルブ52よりも上流側(試料導入部2側)に設けられ、試料気化室21内のガスの圧力、すなわち、カラム入口11におけるガスの圧力(入口圧)を検出する。パージバルブ52は、パージ流路5を開閉することにより、試料導入部2からパージ流路5を介してガスを排出する開状態と、試料導入部2からのガスの排出が停止された閉状態との間で、パージ流路5内のガスの流量を任意に調整することができる。パージ圧センサ53は、パージバルブ52よりも下流側におけるパージ流路5内の圧力を検出する。流路抵抗54は、パージ圧センサ53よりも下流側に設けられ、パージ流路5内のガスの流量を一定値に制限する。
【0021】
パージ流路5は、ガスの流量が少なく、ほぼ一定の流量でガスが流れるという特性により、圧力損失が生じにくいため、当該パージ流路5に入口圧センサ51を設けることにより、入口圧をより正確に検出することができる。ただし、入口圧センサ51は、パージ流路5に限らず、カラム入口11に連通する他の任意の部分(例えばスプリット流路4など)に設けられていてもよい。
【0022】
流量センサ31、全流量バルブ32、スプリットバルブ41、入口圧センサ51、パージバルブ52、パージ圧センサ53及び流路抵抗54などは、フローコントローラ200を構成している。フローコントローラ200は、ガス供給流路3、スプリット流路4及びパージ流路5におけるガスの流量を制御するためのものであり、後述する制御部7及び記憶部8を含む。
【0023】
このガスクロマトグラフ100を用いた分析中は、全流量バルブ32によりガス供給流路3の開閉状態が調整され、スプリットバルブ41によりスプリット流路4の開閉状態が調整され、パージバルブ52によりパージ流路5の開閉状態が調整される。試料導入部2の試料気化室21内には、全流量バルブ32の開度に応じた流量でガス供給流路3からキャリアガスが供給される。
【0024】
分析対象となる液体試料は、シリンジ10により試料気化室21内に注入される。このとき、シリンジ10が、セプタム23を貫通して試料気化室21内に挿入される。この状態で、シリンジ10から試料気化室21内に液体試料が注入され、試料気化室21内で液体試料が気化することにより試料ガスが生成される。生成された試料ガスは、キャリアガスとともにカラム1内に供給され、カラム1内を通過する過程で試料ガス中の成分が分離される。分離された試料ガス中の成分は、検出器6により検出される。
【0025】
2.試料導入部の具体的構成
図2は、試料導入部2の具体的構成を示した概略断面図である。試料導入部2内に形成された試料気化室21は、鉛直方向に縦長の形状を有している。試料気化室21内には、円筒状に形成されたガラス製のインサート24が挿入されている。
【0026】
インサート24は、試料気化室21内に対して着脱可能である。インサート24を試料気化室21内に挿入した状態では、試料気化室21の内面とインサート24の外面との間に空間25が形成されており、当該空間25がガスの流路を構成している。すなわち、ガス供給流路3から試料気化室21内に供給されるキャリアガスは、インサート24内を上端から下端まで通過した後、インサート24の下端から当該インサート24の外側の空間25を通って上方に向かい、スプリット流路4へと流出する。
【0027】
インサート24内の所定の充填位置(例えば中央部)には、吸着剤からなる充填材26が充填されている。充填材26は、例えばウールなどの吸着性が高い材料により形成されている。シリンジ10により液体試料を注入する際には、試料気化室21内に挿入されるシリンジ10の先端が充填材26に近接又は接触し、シリンジ10の先端から充填材26に液体試料が注入される。
【0028】
充填材26を固定するための固定具は設けられていないため、充填材26に外力が加わった場合、その外力が摩擦力よりも大きければ充填材26が充填位置からずれるときがある。充填材26が充填位置からずれることに起因して、液体試料注入時、試料気化室21内に挿入されるシリンジ10の先端が充填材26に対して十分に近接又は接触していない場合には、液体試料が一様に気化せず、分析再現性が低下するおそれがある。また、試料気化室21内には、加熱脱着チューブ又はメタナイザなどに用いられる触媒が充填材として充填される場合があり、そのような構成においても、充填材のずれに起因して分析再現性が低下するおそれがある。
【0029】
3.ガスクロマトグラフの電気的構成
図3は、ガスクロマトグラフ100の電気的構成を示したブロック図である。フローコントローラ200は、例えばCPU(Central Processing Unit)を含む制御部7を備えており、当該制御部7に、流量センサ31、全流量バルブ32、スプリットバルブ41、入口圧センサ51、パージバルブ52、パージ圧センサ53及び記憶部8などが電気的に接続されている。記憶部8は、RAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)などを備えている。
【0030】
制御部7は、流量センサ31、入口圧センサ51及びパージ圧センサ53からの入力信号に基づいて、全流量バルブ32、スプリットバルブ41及びパージバルブ52の開度を制御する。このとき、制御部7は、流量センサ31、入口圧センサ51及びパージ圧センサ53からの入力信号を記憶部8に記憶されている閾値と適宜比較し、その比較結果に基づいて、全流量バルブ32、スプリットバルブ41及びパージバルブ52の開度を制御する。
【0031】
制御部7には、操作部9が電気的に接続されている。操作部9は、キーボード又はマウスを含む構成であり、ユーザなどの作業者は操作部9を操作することにより入力操作を行うことができる。例えば、上述した閾値は、作業者が操作部9を操作することにより記憶部8に記憶されてもよい。
【0032】
4.スプリットバルブの制御
図4は、スプリットバルブ41を制御する際の制御部7による処理の一例を示したフローチャートである。以下では、ガスクロマトグラフ100の動作を停止させる際の制御部7によるスプリットバルブ41の開度の制御について説明する。
【0033】
例えば、ガスクロマトグラフ100における装置立ち下げ時、ガスクロマトグラフ100の異常発生時、又は、ガスクロマトグラフ100の装置自己診断時などには、フローコントローラ200の動作の停止を要求するコマンドが生成される。当該コマンドは、操作部9の操作に基づいて生成されてもよいし、各種センサからの入力信号に基づいて自動的に生成されてもよい。
【0034】
「装置立ち下げ時」は、ガスクロマトグラフ100を停止させるときであり、ガスクロマトグラフ100の電源を落とすシャットダウン時が含まれる。また、「異常発生時」には、ガスクロマトグラフ100の内部の異常発生時だけでなく、ガスクロマトグラフ100に接続された他の装置(前処理装置など)の異常発生時も含まれる。「異常」とは、ガス漏れ、検知不良又は高温状態などの装置のあらゆる不具合を含む概念である。「装置自己診断」とは、ガスクロマトグラフ100又はガスクロマトグラフ100に接続された他の装置の動作状態(異常状態を含む。)を診断するため動作を意味している。
【0035】
フローコントローラ200の動作を停止させる際、試料気化室21内はキャリアガスの流入により加圧され、圧力が高い状態となっている。フローコントローラ200の動作の停止要求があった場合には(ステップS1でYes)、制御部7がスプリットバルブ41を開くことにより(ステップS2)、試料気化室21内の試料ガスをスプリット流路4から排出させる。
【0036】
このとき、制御部7は、第1圧力勾配で試料気化室21内の圧力が減少するようにスプリットバルブ41の開度を制御する(ステップS3)。第1圧力勾配は、試料気化室21内の試料ガスをスプリット流路4から排出させる際、ガスクロマトグラフ100に備えられた充填材が充填位置からずれる圧力勾配よりも小さい圧力勾配である。充填位置からの充填材のずれ量は、分析結果(分析再現性など)に影響を与えない範囲のずれ量、又は、構成部材(スプリットバルブ41など)が故障しない範囲のずれ量であれば許容されてもよい。すなわち、上記ずれ量の範囲内で第1圧力勾配が設定されてもよい。なお、本発明における「勾配」は、直線的な勾配に限らず、曲線的な勾配も含む概念である。
【0037】
上記充填材には、充填材26のように試料気化室21内の充填位置に充填される充填材、又は、充填材421のようにスプリット流路4内の充填位置に充填される充填材が含まれる。充填材の充填位置は、試料気化室21内又はスプリット流路4内であれば、各充填材26,421の充填位置に限定されるものではない。
【0038】
制御部7による第1圧力勾配での圧力制御は、例えば入口圧センサ51により検知される試料気化室21内の圧力が閾値以下になるまで継続される。上記閾値は、大気圧よりも大きい圧力であり、その後にスプリットバルブ41の開度を大きく(例えば全開)しても充填材が充填位置からずれない(移動しない)程度の圧力である。
【0039】
上記閾値は、作業者が操作部9を操作することにより記憶部8に予め記憶させてもよい。例えば、作業者が閾値を決定するための作業を行ったうえで、適切な閾値を記憶部8に記憶させてもよい。具体的には、異なるタイミングでスプリットバルブ41を全開に切り替える作業を複数回行うことにより、スプリットバルブ41を全開にしたときに充填材が充填位置からずれる圧力を特定し、当該圧力と同程度又は若干高い圧力を閾値として記憶部8に記憶させてもよい。
【0040】
第1圧力勾配(dp/dt)は、例えば以下の式(1)により算出することができる。
dp/dt=F×Ps/V ・・・(1)
なお、Fは制限流量、Psは標準大気圧(101.325kPa)、Vは制御系の体積である。制限流量は、充填材が充填位置からずれない程度の流量であり、例えば500~700ml/min、より具体的には600ml/min程度であるが、充填材の種類及び充填位置に応じて適宜設定される。このように、第1圧力勾配は制限流量に基づいて算出することができるが、第1圧力勾配の計算式は、式(1)に限られるものではない。
【0041】
第1圧力勾配での圧力制御(ステップS3)が維持された結果、入口圧センサ51により検知される試料気化室21内の圧力が閾値以下になった場合(ステップS4でYes)、制御部7は、第1圧力勾配よりも大きい第2圧力勾配で試料気化室21内の圧力が減少するようにスプリットバルブ41の開度を制御する(ステップS5)。第2圧力勾配は、例えばスプリットバルブ41の流路抵抗が最小となるようにスプリットバルブ41の開度を制御したとき(全開のとき)の圧力勾配である。ただし、第2圧力勾配は、スプリットバルブ41を全開にしたときの圧力勾配であることが好ましいが、スプリットバルブ41の流路抵抗を極力小さくすることができれば、全開に限られるものではない。
【0042】
制御部7による第2圧力勾配での圧力制御は、少なくとも入口圧センサ51により検知される試料気化室21内の圧力が大気圧になるまで行われる。第2圧力勾配での圧力制御は、入口圧センサ51からの入力信号に基づいて終了してもよいし、試料気化室21内の圧力が大気圧になるのに十分な一定時間が経過した時点で終了してもよい。
【0043】
5.試料気化室内の圧力変化の比較
図5Aは、制御部7による試料気化室21内の圧力制御の目標値を一定の勾配で維持した場合の圧力変化の一例を示した図である。また、図5Bは、制御部7による試料気化室21内の圧力制御の目標値の勾配を途中で切り替えた場合の圧力変化の一例を示した図である。
【0044】
図5Aの例では、入口圧の目標値を一定の勾配で減少するように設定して制御部7がスプリットバルブ41の開度を制御した場合を示している。図5Aに示すように、入口圧の目標値を一定の勾配で減少させた場合、入口圧が所定値以下に低下するまでは、入口圧センサ51により検知される入口圧の圧力勾配は直線的な一定値となる。しかしながら、入口圧が所定値以下まで低下した場合、スプリットバルブ41やスプリットフィルタ42などの構成部材の流路抵抗に起因して、入口圧の目標値と入口圧センサ51により検知される入口圧(実測値)との間に乖離が生じる。
【0045】
これに対して、本実施形態のように入口圧の圧力制御を第1圧力勾配から第2圧力勾配に切り替える場合、図5Bに示すように、入口圧の目標値と実測値が乖離する所定値まで入口圧が低下する前に、入口圧の目標値の勾配が切り替えられる。これにより、入口圧の目標値の勾配が切り替えられるまでは、入口圧センサ51により検知される入口圧の圧力勾配は直線的な一定値(第1圧力勾配)となる。
【0046】
その後、入口圧の目標値が大気圧に切り替えられる。この場合、入口圧センサ51により検知される入口圧に基づいてスプリットバルブ41の開度を制御するのではなく、スプリットバルブ41を全開にする制御を行ってもよい。このように、入口圧の圧力制御を第1圧力勾配よりも大きい第2圧力勾配に切り替えることにより、試料気化室21内のガス排出を迅速化することができる。
【0047】
6.変形例
制御部7による第1圧力勾配での圧力制御は、例えば入口圧センサ51により検知される試料気化室21内の圧力が閾値以下になるまで維持される構成に限らず、例えば一定時間維持されるような構成であってもよい。この場合、上記一定時間は、作業者が任意に設定できてもよいし、過去のセンサ(入口圧センサ51など)からの入力信号の履歴に基づいて制御部7により算出されてもよい。
【0048】
また、制御部7による第2圧力勾配での圧力制御を省略し、第1圧力勾配での圧力制御のみが行われるような構成であってもよい。すなわち、入口圧センサ51により検知される試料気化室21内の圧力が大気圧になるまで、制御部7による第1圧力勾配での圧力制御が維持されてもよい。
【0049】
7.態様
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0050】
(第1項)一態様に係るガスクロマトグラフは、
液体試料が内部で気化されることにより試料ガスが生成される試料気化室と、
前記試料気化室内の試料ガスを排出させるスプリット流路と、
前記スプリット流路に設けられ、当該スプリット流路内を流れる試料ガスの流量を調整するために開閉されるバルブと、
前記試料気化室内又は前記スプリット流路内の充填位置に充填される充填材と、
前記試料気化室内の試料ガスを前記スプリット流路から排出させる際、前記充填材が前記充填位置からずれる圧力勾配よりも小さい圧力勾配で前記試料気化室内の圧力が減少するように前記バルブの開度を制御する制御部とを備えていてもよい。
【0051】
第1項に記載のガスクロマトグラフによれば、試料気化室内の試料ガスをスプリット流路から排出させる際、バルブの開度を制御することにより、試料気化室内又はスプリット流路内の充填材が充填位置からずれることを防止できる。
【0052】
(第2項)第1項に記載のガスクロマトグラフにおいて、
前記試料気化室内の圧力を検知する圧力センサをさらに備え、
前記制御部は、前記圧力センサにより検知される前記試料気化室内の圧力が閾値以下になるまで、前記充填材が前記充填位置からずれる圧力勾配よりも小さい第1圧力勾配で前記試料気化室内の圧力が減少するように前記バルブの開度を制御した後、前記第1圧力勾配よりも大きい第2圧力勾配で前記試料気化室内の圧力が減少するように前記バルブの開度を制御してもよい。
【0053】
第2項に記載のガスクロマトグラフによれば、圧力センサにより検知される試料気化室内の圧力が閾値以下になるまでは、第1圧力勾配で圧力制御することにより、試料気化室内又はスプリット流路内の充填材が充填位置からずれることを防止できる。その後は第1圧力勾配よりも大きい第2圧力勾配で圧力制御することにより、試料気化室内のガス排出を迅速化することができる。
【0054】
(第3項)第2項に記載のガスクロマトグラフにおいて、
前記第2圧力勾配は、前記バルブの流路抵抗が最小となるように前記バルブの開度を制御したときの圧力勾配であってもよい。
【0055】
第3項に記載のガスクロマトグラフによれば、試料気化室内の圧力制御を第1圧力勾配から第2圧力勾配に切り替えた後、試料気化室内のガス排出を最大限に迅速化することができる。
【0056】
(第4項)第1項に記載のガスクロマトグラフにおいて、
前記充填材は、前記試料気化室内に設けられたインサート内の充填位置に充填されてもよい。
【0057】
第4項に記載のガスクロマトグラフによれば、試料気化室内に設けられたインサート内に充填されている充填材が充填位置からずれることを防止できる。
【0058】
(第5項)第1項に記載のガスクロマトグラフにおいて、
前記スプリット流路内の充填位置に設けられたフィルタをさらに備え、
前記充填材は、前記フィルタに充填されてもよい。
【0059】
第5項に記載のガスクロマトグラフによれば、スプリット流路内に設けられたフィルタに充填されている充填材が充填位置からずれることを防止できる。
【符号の説明】
【0060】
1 カラム
2 試料導入部
3 ガス供給流路
4 スプリット流路
5 パージ流路
6 検出器
7 制御部
21 試料気化室
24 インサート
26 充填材
41 スプリットバルブ
42 スプリットフィルタ
51 入口圧センサ
100 ガスクロマトグラフ
200 フローコントローラ
421 充填材
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B