(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012783
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】測定装置、測定方法、測定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3581 20140101AFI20250117BHJP
【FI】
G01N21/3581
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115880
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】谷内 華菜
(72)【発明者】
【氏名】村野 賢一
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA03
2G059AA05
2G059DD13
2G059EE01
2G059HH05
2G059JJ30
2G059LL01
(57)【要約】
【課題】測定用の電磁波ビームを測定対象であるサンプルに対して適切に位置決めできる測定装置等を提供する。
【解決手段】測定装置1は、サンプルSにテラヘルツ波ビームBを照射する照射部2と、サンプルSからのテラヘルツ波ビームBを検出する検出部3と、照射部2および検出部3の間に設けられ、テラヘルツ波ビームBが通過可能な開口51を有する開口部材5と、検出部3によって検出されるテラヘルツ波ビームBの強度が高くなるように、テラヘルツ波ビームBの進行方向に交差する方向に、開口部材5をサンプルSと一体的に駆動する駆動部6と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルに電磁波ビームを照射する照射部と、
前記サンプルからの前記電磁波ビームを検出する検出部と、
前記照射部および前記検出部の間に設けられ、前記電磁波ビームが通過可能な開口を有する開口部材と、
前記検出部によって検出される前記電磁波ビームの強度が高くなるように、前記電磁波ビームの進行方向に交差する方向に、前記開口部材を前記サンプルと一体的に駆動する駆動部と、
を備える測定装置。
【請求項2】
前記電磁波ビームに対する前記開口の実質的なサイズを制御する開口制御部を備える、請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記開口制御部は、前記開口の径を制御する、請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記開口制御部は、前記駆動部による前記開口部材の第1駆動の後に、前記開口のサイズを低減し、
前記駆動部は、前記開口制御部による前記開口のサイズの低減の後に、前記開口部材の第2駆動を行う、
請求項2に記載の測定装置。
【請求項5】
前記開口制御部は、前記開口のサイズを前記電磁波ビームのサイズより大きく設定し、
前記駆動部による前記開口部材の駆動の際に、前記開口によって回折した前記電磁波ビームの少なくとも一部は、前記検出部に照射されない、
請求項2に記載の測定装置。
【請求項6】
前記駆動部による前記開口部材および前記サンプルの前記電磁波ビームに対する第1位置決め処理において、
前記開口制御部は、前記駆動部による前記開口部材の第1駆動の後に、前記開口のサイズを低減し、
前記駆動部は、前記開口制御部による前記開口のサイズの低減の後に、前記開口部材の第2駆動を行い、
前記第1位置決め処理の後に実行される、前記駆動部による前記開口部材および前記サンプルの前記電磁波ビームに対する第2位置決め処理において、
前記開口制御部は、前記開口のサイズを前記電磁波ビームのサイズより大きく設定し、
前記駆動部による前記開口部材の駆動の際に、前記開口によって回折した前記電磁波ビームの少なくとも一部は、前記検出部に照射されない、
請求項2に記載の測定装置。
【請求項7】
前記駆動部によって前記開口部材および前記サンプルが前記電磁波ビームに対して位置決めされた後、前記開口制御部は前記開口のサイズを大きくし、前記検出部は前記開口からの影響が低減された前記電磁波ビームを検出する、請求項2から6のいずれかに記載の測定装置。
【請求項8】
前記開口部材は、前記照射部および前記サンプルの間に設けられる、請求項1から6のいずれかに記載の測定装置。
【請求項9】
前記電磁波は、テラヘルツ波である、請求項1から6のいずれかに記載の測定装置。
【請求項10】
照射部によって、サンプルに電磁波ビームを照射することと、
検出部によって、前記サンプルからの前記電磁波ビームを検出することと、
前記照射部および前記検出部の間に設けられ、前記電磁波ビームが通過可能な開口を有する開口部材を駆動する駆動部によって、前記検出部によって検出される前記電磁波ビームの強度が高くなるように、前記電磁波ビームの進行方向に交差する方向に、前記開口部材を前記サンプルと一体的に駆動することと、
を実行する測定方法。
【請求項11】
照射部によって、サンプルに電磁波ビームを照射することと、
検出部によって、前記サンプルからの前記電磁波ビームを検出することと、
前記照射部および前記検出部の間に設けられ、前記電磁波ビームが通過可能な開口を有する開口部材を駆動する駆動部によって、前記検出部によって検出される前記電磁波ビームの強度が高くなるように、前記電磁波ビームの進行方向に交差する方向に、前記開口部材を前記サンプルと一体的に駆動することと、
をコンピュータに実行させる測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、テラヘルツ波等の電磁波を使用する測定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、テラ(1012)ヘルツ領域の周波数を有する電磁波であるテラヘルツ波を使用してサンプルの内部状態を測定する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電波と光の中間的な性質を有するテラヘルツ波は、光としては波長が長い(または、周波数が低い)ため、従来の光測定で一般的に使用されている可視光や赤外光のように、特に光軸を目視または確認する手法が確立されていない。このため、測定用のテラヘルツ波ビームを測定対象であるサンプルに対して正確に位置決めすることが難しいという課題がある。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、測定用の電磁波ビームを測定対象であるサンプルに対して適切に位置決めできる測定装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の測定装置は、サンプルに電磁波ビームを照射する照射部と、サンプルからの電磁波ビームを検出する検出部と、照射部および検出部の間に設けられ、電磁波ビームが通過可能な開口を有する開口部材と、検出部によって検出される電磁波ビームの強度が高くなるように、電磁波ビームの進行方向に交差する方向に、開口部材をサンプルと一体的に駆動する駆動部と、を備える。
【0007】
本態様では、検出部によって検出される電磁波ビームの強度が高くなるように、電磁波ビームの進行方向に交差する方向に、開口部材がサンプルと一体的に駆動される。このため、開口部材における開口を通過して検出部によって検出される電磁波ビームが多くなるように、サンプルが電磁波ビームに対して適切に位置決めされる。
【0008】
本開示の別の態様は、測定方法である。この方法は、照射部によって、サンプルに電磁波ビームを照射することと、検出部によって、サンプルからの電磁波ビームを検出することと、照射部および検出部の間に設けられ、電磁波ビームが通過可能な開口を有する開口部材を駆動する駆動部によって、検出部によって検出される電磁波ビームの強度が高くなるように、電磁波ビームの進行方向に交差する方向に、開口部材をサンプルと一体的に駆動することと、を実行する。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本開示に包含される。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、測定用の電磁波ビームを測定対象であるサンプルに対して適切に位置決めできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】測定装置によるxyアライメントおよび測定の処理の例を示すフローチャートである。
【
図3】サンプルおよび開口部材の微小xy駆動によって生じうる、開口によるテラヘルツ波ビームの回折を模式的に示す。
【
図4】広帯域のテラヘルツ波ビームにおける周波数成分の分布を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態(以下では実施形態とも表される)について詳細に記述する。記述および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する記述を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、記述の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本開示の範囲を何ら限定するものではない。実施形態において提示される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本開示の本質的なものであるとは限らない。実施形態は、便宜的に、それを実現する機能毎および/または機能群毎の構成要素に分解されて提示される。但し、実施形態における一つの構成要素が、実際には別体としての複数の構成要素の組合せによって実現されてもよいし、実施形態における複数の構成要素が、実際には一体としての一つの構成要素によって実現されてもよい。
【0013】
図1は、本開示の実施形態に係る測定装置1の構成を模式的に示す。測定装置1は、サンプルSおよび/または当該サンプルSと同種の不図示の対象物(以下では、サンプルSと対象物を区別する必要がある場合を除いて、サンプルSと総称される)の特性や内部状態の検査等のために、任意の電磁波をサンプルSに対して照射して測定する。測定装置1による具体的な測定の手法や目的は任意であるが、例えば、電磁波のビーム(電磁波ビーム)BをサンプルSに照射することで、サンプルSにおける屈折率異方性および/または誘電率異方性を測定でき、当該サンプルSにおける残留応力、歪み、配向、劣化等の内部状態を評価できる。
【0014】
本実施形態の例では、テラ(1012)ヘルツ領域の周波数を有する電磁波であるテラヘルツ波のビーム(テラヘルツ波ビーム)Bが、サンプルSに照射される。テラヘルツ波は、低周波数の電波と高周波数の光の中間的な性質を有し、例えば、一般的な光が透過できない高分子材料も電波のように透過できる。また、テラヘルツ波は、生体分子その他の高分子材料における固有振動による吸収等の強い作用を受ける。このような特徴から、テラヘルツ波は、高分子材料の分光計測(スペクトル計測)に好適に使用される。但し、本開示に係る測定装置は、テラヘルツ波より周波数が高い任意の光や、テラヘルツ波より周波数が低い任意の電波(例えば、ギガ(109)ヘルツ領域の周波数を有するギガヘルツ波)を、テラヘルツ波に代えてまたは加えて使用できる。
【0015】
電磁波ビームとしてのテラヘルツ波ビームBを使用する測定装置1によれば、サンプルSに照射されたテラヘルツ波ビームBの検出を通じて、サンプルSの各種の特性や内部状態を測定できる。例えば、サンプルSにおける屈折率異方性、誘電率異方性、吸光度、残留応力、歪み、配向、内部構造、劣化等が、測定装置1によって測定されうる。なお、例えば、サンプルSの屈折率異方性や誘電率異方性の測定のためには、互いに異なる偏光(例えば、水平偏光と垂直偏光)を有する複数種類のテラヘルツ波ビームBを使用した偏光計測が行われてもよい。一方、例えば、サンプルSの吸光度の測定では、単一のテラヘルツ波ビームBが使用されてもよい。
【0016】
図1は、測定装置1がサンプルSに対して行う予備測定(あるいは、後述するように、予備測定の前に行われるテラヘルツ波ビームBおよびサンプルSのアライメント)に関する構成を模式的に示す。ここで、予備測定とは、サンプルSと同種の典型的には多数の対象物(不図示)に対する本測定に使用される各種の測定パラメータを適切に設定するために、サンプルSに対して予備的に行われる測定である。サンプルSと同種の対象物に対する本測定では、予備測定を通じて設定された各種の測定パラメータに基づいて、当該対象物に照射された後のテラヘルツ波ビームBを測定装置1が測定する。なお、
図1の構成は、測定装置1がサンプルSと同種の対象物に対して行う本測定(あるいは、後述するように、本測定の前に行われるテラヘルツ波ビームBおよび対象物のアライメント)に適用されてもよい。
【0017】
なお、サンプルSと対象物が「同種」であるとは、測定装置1における共通の測定パラメータを使用して有意な測定が行われうる程度に、両者が類似していることを意味する。例えば、サンプルSおよび対象物が実質的に同じ材料で、実質的に同じ形状や厚さ(テラヘルツ波ビームBが透過する寸法)に形成されている場合、両者は「同種」であるといえる。同様に、例えば、サンプルSおよび対象物が、実質的に同じ製造装置(例えば、射出成形機)および/または実質的に同じ製造方法によって製造された実質的に同じ製品(例えば、樹脂成形品)である場合、両者は「同種」であるといえる。このように、サンプルSおよび対象物は同じ製品群に属していてもよい。また、サンプルSは、当該製品群から予備測定のために抽出された一または複数の少数の製品でもよい。
【0018】
図1において、測定装置1は、照射部2と、検出部3と、支持部4と、開口部材5と、駆動部6と、開口制御部7と、を備える。測定装置1が以下で説明する作用および/または効果の少なくとも一部を実現できる限り、これらの構成要素および/または機能ブロックの一部は省略されてもよい。これらの構成要素および/または機能ブロックは、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働によって実現されてもよい。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各機能ブロックは、単一のコンピュータのハードウェア資源によって実現されてもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源の組合せによって実現されてもよい。
【0019】
照射部2は、サンプルSに電磁波ビームとしてのテラヘルツ波ビームBを照射する。テラヘルツ波ビームBは、サンプルSにおける所定の測定エリアAに照射される。ここで、後述するように、点線によって模式的に図示されるテラヘルツ波ビームBの光軸または中心軸と、測定エリアAの中心位置である測定位置Pは、駆動部6によって位置合わせ(アライメント)されている。なお、図示は省略するが、テラヘルツ波ビームBは、その進路または進行方向を表す光軸を中心として略一定のビーム径まで広がっており、典型的には略円形の断面を有する。サンプルS上の測定エリアAは、このように光軸を中心として面状または円状に広がったテラヘルツ波ビームBが照射されるサンプルS上のエリアであると解釈されてもよい。なお、後述するように、サンプルSの前段には開口部材5が配置されうるが、サンプルSの測定時には、開口部材5における開口径がテラヘルツ波ビームBのビーム径より有意に大きく設定されるため、開口部材5はテラヘルツ波ビームBおよび/または測定エリアAに実質的な影響を及ぼさない。
【0020】
検出部3は、サンプルS上の測定位置Pおよび/または測定エリアAからのテラヘルツ波ビームBを検出する。図示の例における検出部3は、測定対象としてのサンプルSに関して照射部2と反対側に設けられるため、サンプルSを透過したテラヘルツ波ビームBを検出する。但し、検出部3は、サンプルSに関して照射部2と同じ側に設けられて、サンプルSで反射したテラヘルツ波ビームその他の電磁波ビームを検出してもよい。測定装置1は、照射部2によってサンプルSに照射したテラヘルツ波ビームBを検出部3によって検出することで、当該サンプルSの測定位置Pおよび/または測定エリアAにおける各種の特性や内部状態を測定または推定できる。
【0021】
支持部4は、測定対象としてのサンプルSと、後述する開口部材5を一体的に支持する。支持部4は、後述する駆動部6によって、図示の三次元直交座標系(xyz座標系)におけるx方向および/またはy方向(以下では、総称してxy方向とも表される)に、サンプルSおよび開口部材5を一体的に駆動可能なxyステージ(xy駆動部)41を備える。ここで、xy方向は、テラヘルツ波ビームBの進行方向であるz方向に交差または直交する方向である。このように、xyステージ41は、テラヘルツ波ビームBの進行方向に交差するxy方向に、サンプルSおよび開口部材5を一体的に駆動可能である。なお、xyステージ41または別のz駆動部(不図示)によって、サンプルSおよび開口部材5の一方または両方が、z方向に一体的または別体的に駆動可能であってもよい。
【0022】
xyステージ41の上部(+y側)では、サンプルホルダ42を介してサンプルSが保持され、開口部材ホルダ43を介して開口部材5が保持される。後述するように開口部材5には開口51が設けられるが、当該開口51の中心が、サンプルS上の測定エリアAの中心位置である測定位置Pと、z方向視(xy平面視)で一致するように、サンプルホルダ42および/または開口部材ホルダ43による保持位置が調整されている。後述するように、サンプルSおよび/または開口部材5は、駆動部6によって主にxy方向に駆動されるが、サンプルSにおける測定位置Pと開口部材5における開口51の中心がz方向視で一致しているという位置関係は、駆動部6による駆動時を通じて原則として保たれる。
【0023】
開口部材5は、サンプルSと同様に照射部2および検出部3の間に設けられ、テラヘルツ波ビームBが通過可能な開口51を有する。テラヘルツ波ビームBに対する開口51の実質的なサイズは、後述する開口制御部7によって制御されてもよい。例えば、開口51の径(開口径)が開口制御部7によって制御されてもよい。このように開口径が制御可能な開口部材5は、アイリス(虹彩)や絞り機構と表されてもよい。あるいは、図示は省略するが、開口部材5および/または照射部2をz方向に相対駆動して両者間のz方向距離を制御することで、照射部2から照射されるテラヘルツ波ビームBに対する開口51の実質的なサイズを制御してもよい。
【0024】
開口51の形状は任意であるが、テラヘルツ波ビームBのxy断面形状と相似であるのが好ましく、典型的には略円形であるのが更に好ましい。以下の例示的な記述では、開口51の形状およびテラヘルツ波ビームBのxy断面形状が、いずれも円形であるものとする。このため、開口51の形状(または、開口サイズ)およびテラヘルツ波ビームBのxy断面形状(または、ビームサイズ)は、いずれも径(開口51については開口径とも表され、テラヘルツ波ビームBについてはビーム径とも表される)によって一意的に決まる。なお、ビームサイズおよび/またはビーム径は、テラヘルツ波ビームBにおけるz方向位置によって異なりうるが、以下では特に断らない限り、開口サイズおよび/または開口径との直接的な比較のために、開口51と同じz方向位置におけるビームサイズおよび/またはビーム径を指すものとする。
【0025】
図示の例では、開口部材5が、照射部2およびサンプルSの間(サンプルSの前段または直前)に設けられる。但し、開口部材5は、サンプルSおよび検出部3の間(サンプルSの後段または直後)に設けられてもよい。
【0026】
駆動部6は、テラヘルツ波ビームBの進行方向(
図1におけるz方向)に交差する方向(xy方向)に、開口部材5をサンプルSと一体的に駆動する。具体的には、駆動部6は、前述のようにサンプルホルダ42を介してサンプルSを保持し、開口部材ホルダ43を介して開口部材5を保持しているxyステージ41を、xy方向に駆動する。この際、サンプルSにおける測定位置Pと開口部材5における開口51の中心がz方向視で一致しているという位置関係が保たれた状態で、サンプルSおよび開口部材5が駆動部6によって一体的に駆動される。なお、xyステージ41または別のz駆動部(不図示)が、サンプルS(または、サンプルホルダ42)および開口部材5(または、開口部材ホルダ43)の一方または両方を、z方向に一体的または別体的に駆動してもよい。
【0027】
駆動部6によるサンプルSおよび開口部材5のxy方向の一体駆動(xy駆動)は、主に、測定用のテラヘルツ波ビームBを測定対象であるサンプルSに対して適切に位置決めするために行われる。例えば、駆動部6によるxy駆動によって、テラヘルツ波ビームBの光軸(点線)が、サンプルS上の測定エリアAの中心位置である測定位置Pに位置合わせ(アライメント)される。前述のように、サンプルSにおける測定位置Pと開口部材5における開口51の中心はz方向視で一致しているため、駆動部6によるxy駆動によって、テラヘルツ波ビームBの光軸と開口部材5における開口51の中心が一致する。換言すれば、駆動部6を通じたxyアライメントによって、サンプルSにおける測定位置Pと開口部材5における開口51の中心が、テラヘルツ波ビームBの光軸(z軸)上に整列配置される。
【0028】
以上のようなアライメントは、光軸を目視または確認する手法が確立されていないテラヘルツ波に関しては困難を伴う。そこで、本実施形態では、駆動部6によるxyアライメントにおいて、開口部材5や検出部3が利用される。具体例については後述するが、駆動部6は、検出部3によって検出されるテラヘルツ波ビームBの強度が高くなるように、テラヘルツ波ビームBの進行方向(z方向)に交差する方向(xy方向)に、開口部材5をサンプルSと一体的に駆動する。
【0029】
開口制御部7は、駆動部6を通じたxyアライメントの際に、開口部材5における開口51のテラヘルツ波ビームBに対する実質的なサイズを制御する。例えば、開口制御部7は、開口51の径(開口径)を制御する。あるいは、開口制御部7は、xyステージ41または別のz駆動部(不図示)によって、開口部材5および/または照射部2をz方向に相対駆動して両者間のz方向距離を制御することで、照射部2から照射されるテラヘルツ波ビームBに対する開口51の実質的なサイズを制御してもよい。
【0030】
図2は、本実施形態に係る測定装置1によるxyアライメントおよび測定の処理の例を示すフローチャートである。この図では、便宜的に、第1アライメントおよび第2アライメントを含むxyアライメントと、測定が一つのフローチャートにおける一連の処理として示されている。しかし、xyアライメントと測定は、例えば別の日時における別の処理として実行されてもよい。また、xyアライメントは、第1アライメントおよび第2アライメントのいずれかのみを含むものでもよい。なお、サンプルSについて実行されたxyアライメントの結果が、当該サンプルSと同種の対象物(不図示)にそのまま適用できる場合、当該対象物についてのxyアライメントは省略可能である。この場合、サンプルSについて実行されたxyアライメントの結果を使用して、当該サンプルSと同種の対象物がテラヘルツ波ビームBに対して位置決めされる。そして、そのまま当該対象物に対する(本)測定が実行される。
【0031】
図示のフローチャートにおける「S」は、ステップまたは処理を意味する。S1~S6が第1アライメントの処理(第1アライメントフェーズ)であり、S7~S9が第2アライメントの処理(第2アライメントフェーズ)であり、S10~S11が測定(サンプルSに対する予備測定またはサンプルSと同種の対象物についての本測定)の処理(測定フェーズ)である。
【0032】
第1アライメントフェーズにおけるS1では、サンプルSおよび開口部材5が整列配置される。具体的には、サンプルSはサンプルホルダ42を介して、開口部材5は開口部材ホルダ43を介して、xyステージ41の上面またはステージ面に取り付けられる。この際、前述のように、サンプルSにおける測定位置Pと開口部材5における開口51の中心がz方向視で一致している。このようなサンプルSおよび開口部材5のxy平面内における位置関係は、以降の処理S2~S11を通じて保たれる。また、整列配置されたサンプルSおよび開口部材5は、テラヘルツ波ビームBの設計上の光軸上に配置される。テラヘルツ波ビームBの実際の光軸は設計上の光軸とずれている可能性があるため、実際の光軸に対する後続の第1アライメントおよび/または第2アライメントが必要になる。
【0033】
S2では、開口制御部7が、開口部材5における開口51の径(開口径)を、所定の初期径または初期値に設定する。この初期径は任意に設定可能であるが、テラヘルツ波ビームBのビーム径以下であるのが好ましい。また、この初期径によって定まる開口51内には、テラヘルツ波ビームBの設計上の光軸(開口51の中心と一致)だけでなく、実際の光軸が含まれることが期待される。
【0034】
S3では、駆動部6が、S1で整列配置されたサンプルSおよび開口部材5ごと、xyステージ41をxy方向に駆動する。例えば、駆動部6は、xyステージ41を、第1駆動単位としてのΔd1ずつ(Δd1刻みで)xy方向に駆動または走査する。第1駆動単位Δd1は任意に設定可能であるが、ミリメートルのオーダー(例えば、1mmと10mmの間)とするのが好ましい。S3では、S2で設定された開口径によって定まる開口51の円形範囲に相当するxy範囲が走査されるのが好ましい。
【0035】
S4では、S3におけるΔd1刻みのxy走査を通じて、検出部3によって検出されたテラヘルツ波ビームBの強度が最大になったxy位置で、駆動部6がxyステージ41を停止させる。このように検出ビーム強度が最大のxy位置(サンプルSにおける測定位置Pおよび/または開口部材5における開口51の中心)に、テラヘルツ波ビームBの実際の光軸が存在する可能性が高い。
【0036】
S4で推定されたテラヘルツ波ビームBの実際の光軸の位置精度を更に高めるため、S5(後述するS6で「No」と判定された場合)では、開口制御部7が、開口部材5における開口51の径(開口径)を、S2で設定されたものからΔrだけ小さくする。このように、開口制御部7は、駆動部6による開口部材5の第1駆動(S3)の後に、開口のサイズを低減する。
【0037】
続いて、S3およびS4に戻り、より小さい開口範囲(開口径)について、テラヘルツ波ビームBの実際の光軸の位置が更に絞り込まれる。このように、駆動部6は、開口制御部7による開口のサイズの低減(S5)の後に、開口部材5の第2駆動(S3)を行う。
【0038】
S6において、S2またはS5で設定された開口径が所定の終了値以下であった場合(「Yes」)、第1アライメントが終了する。その直前のS4でxyステージ41が停止したxy位置(サンプルSにおける測定位置Pおよび/または開口部材5における開口51の中心)に、テラヘルツ波ビームBの実際の光軸が存在するとの推定結果が、第1アライメントによって得られる。前述のように、第1位置決め処理としての第1アライメントでは、例えばミリメートルのオーダーの第1駆動単位Δd1(S3)が使用されるため、最後のS4で推定されるテラヘルツ波ビームBの実際の光軸の位置精度も第1駆動単位Δd1と同等のミリメートルのオーダーになる。
【0039】
以上のような第1アライメントでは、S4において検出部3によって検出されるテラヘルツ波ビームBの強度が高くなるように、S3において駆動部6が開口部材5をサンプルSと一体的にxy駆動する。図示の例では、S5を通じて開口径を徐々に小さくしながら、テラヘルツ波ビームBの実際の光軸の位置を絞り込むため、誤推定の可能性を低減できる。但し、S2で設定された初期径の下でのS4における推定結果を、第1アライメントの最終的な推定結果としてもよい(S5における開口径の漸減処理は省略される)。
【0040】
第1アライメントフェーズに続く第2アライメントフェーズにおけるS7では、開口制御部7が、開口部材5における開口51の径(開口径)を、テラヘルツ波ビームBのビーム径より大きく設定する。ここで、開口径はビーム径より僅かに大きく設定されるのが好ましい。例えば、開口径とビーム径の差である微小量ε(すなわち、開口径=ビーム径+ε)は、第1位置決め処理としての第1アライメントにおける第1駆動単位Δd1や位置精度(例えば、ミリメートルのオーダー)より小さく、マイクロメートルのオーダーで設定されるのが好ましい。後述するように、この微小量εのオーダーは、第2位置決め処理としての第2アライメントにおける第2駆動単位Δd2や位置精度のオーダーと同等である。
【0041】
S8では、駆動部6が、S1で整列配置されたサンプルSおよび開口部材5ごと、xyステージ41をxy方向に駆動する。例えば、駆動部6は、xyステージ41を、第2駆動単位としてのΔd2ずつ(Δd2刻みで)xy方向に駆動または走査する。第2駆動単位Δd2は任意に設定可能であるが、第1駆動単位Δd1(例えば、ミリメートルのオーダー)より小さく、マイクロメートルのオーダー(例えば、1μmと100μmの間)とするのが好ましい。S8では、S7で設定された開口径によって定まる開口51の円形範囲に相当するxy範囲が走査されるのが好ましい。
【0042】
S7において開口径をビーム径より僅かに大きく設定したのは、後続のS8におけるサンプルSおよび開口部材5の微小なxy駆動において、開口51によるテラヘルツ波ビームBの回折の影響を効果的に顕在化させるためである。
図3は、サンプルSおよび開口部材5の微小xy駆動によって生じうる、開口51によるテラヘルツ波ビームBの回折を模式的に示す。
【0043】
図3の例では、照射部2および検出部3が、実質的に同じ構成の光伝導アンテナによって構成される。この光伝導アンテナは、例えば、半導体基板と、当該半導体基板に設けられる半球レンズや超半球レンズであるコリメーションレンズによって構成される。照射部2としての光伝導アンテナが発するテラヘルツ波ビームBは、二つの放物面ミラー81、82等の適切な光学系および開口部材5における開口51(
図3では不図示)を通じて、サンプルS上の測定エリアAおよび/または測定位置P(
図3では不図示)に集光および照射される。また、サンプルSを透過したテラヘルツ波ビームBは、二つの放物面ミラー83、84等の適切な光学系を通じて、検出部3としての光伝導アンテナに照射される。
【0044】
サンプルSを透過した後の実線で示されるテラヘルツ波ビームB’では、開口51(アイリス)の中心が当該テラヘルツ波ビームB’の光軸と一致しており、当該テラヘルツ波ビームB’が開口51の縁と実質的に干渉しないため、当該開口51の縁による回折が実質的に生じていない。このように、検出部3に照射されるテラヘルツ波ビームB’の広がりが抑えられるため、図示の例ではテラヘルツ波ビームB’の実質的に全部が検出部3によって検出される。
【0045】
これに対して、サンプルSを透過した後の点線で示されるテラヘルツ波ビームB’’では、開口51(アイリス)の中心が当該テラヘルツ波ビームB’’の光軸と僅かに(例えば、マイクロメートルのオーダーで)ずれており、当該テラヘルツ波ビームB’’が開口51の縁と実質的に干渉するため、当該開口51の縁による回折が実質的に生じている。このように回折を伴うテラヘルツ波ビームB’’は、回折を伴わないテラヘルツ波ビームB’より広がった状態で検出部3に照射される。図示の例ではテラヘルツ波ビームB’’の外周側の一部が検出部3に照射されない。この結果、アライメント不足による回折を伴うテラヘルツ波ビームB’’の検出部3による検出強度は、回折を伴わないテラヘルツ波ビームB’の検出部3による検出強度より顕著に低下する。
【0046】
以上のように、サンプルSおよび開口部材5の微小xy駆動によって生じるテラヘルツ波ビームBの回折を利用することで、上記の微小量εや第2駆動単位Δd2のオーダーであるマイクロメートル等のオーダーでのアライメントを実現できる。
【0047】
具体的には、S9において、S8におけるΔd2刻みのxy走査を通じて、検出部3によって検出されたテラヘルツ波ビームBの強度が最大になったxy位置で、駆動部6がxyステージ41を停止させる。このように検出ビーム強度が最大のxy位置(サンプルSにおける測定位置Pおよび/または開口部材5における開口51の中心)に、テラヘルツ波ビームBの実際の光軸が存在するといえる。このS9において、第2アライメントが終了する。以上のような第2アライメントでは、前述の第1アライメントと同様に、S9において検出部3によって検出されるテラヘルツ波ビームBの強度が高くなるように、S8において駆動部6が開口部材5をサンプルSと一体的にxy駆動する。
【0048】
テラヘルツ波は、可視光や赤外光より波長が長いことから、回折しやすいという特徴を有する。このため、以上のような回折を利用するアライメント手法は、テラヘルツ波ビームBに好適であり、より高いアライメント精度を実現できる。また、
図4に模式的に示されるように、広帯域のテラヘルツ波ビームBにおいては、低周波数成分ほど外周側に分布する傾向がある。例えば、一番左の「1-3THz」のビームと真ん中の「1.5-3THz」のビームの差である「1-1.5THz」の低周波数成分は、一番左の「1-3THz」のビームにおける三つの領域のうち最も外周側の円環領域に主に分布する。ここで、低周波数成分は長波長成分であるため、回折しやすい長波長成分がテラヘルツ波ビームBの外周側に存在することになる。このため、
図3に示される手法によれば、テラヘルツ波ビームBにおける外周側の長波長成分の大きな回折を利用して、高精度なアライメントを実現できる。
【0049】
xyアライメントフェーズ(第1アライメントフェーズおよび/または第2アライメントフェーズ)に続く測定フェーズにおけるS10では、S4および/またはS9で駆動部6によって開口部材5およびサンプルSがテラヘルツ波ビームBに対して位置決めされた後、開口制御部7が開口部材5における開口51のサイズを大きくする。これは、開口51の縁が、後続のS11において測定されるテラヘルツ波ビームBと干渉しないようにするためである。そこで、S10における開口51のサイズは可能な限り大きくされるのが好ましく、例えば、開口径が最大値まで大きくされる。また、S10における開口51のサイズは、最小でもテラヘルツ波ビームBのサイズに設定される。なお、測定フェーズでは開口部材5は不要であるため、xyアライメントフェーズの完了後に開口部材5は開口部材ホルダ43から取り外されてもよい。
【0050】
S11では、検出部3が、S10でサイズが大きくされた開口51からの影響が低減されたテラヘルツ波ビームBを検出する。
【0051】
以上のような本実施形態では、検出部3によって検出されるテラヘルツ波ビームBの強度が高くなるように、テラヘルツ波ビームBの進行方向(z方向)に交差する方向(xy方向)に、開口部材5がサンプルSと一体的に駆動される。このため、開口部材5における開口51を通過して検出部3によって検出されるテラヘルツ波ビームBが多くなるように、サンプルSがテラヘルツ波ビームBに対して適切に位置決めされる。
【0052】
以上、本開示を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本開示の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0053】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0054】
1 測定装置、2 照射部、3 検出部、5 開口部材、6 駆動部、7 開口制御部、41 xyステージ、51 開口。