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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012789
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】材料、材料付きフィルタ
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/00 20060101AFI20250117BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20250117BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20250117BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20250117BHJP
   C01B 32/28 20170101ALI20250117BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
A01N59/00 Z
A01N25/34 Z
A01P1/00
C09D17/00
C01B32/28
C09D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115890
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】吉川 太朗
(72)【発明者】
【氏名】加賀 彬
(72)【発明者】
【氏名】間彦 智明
(72)【発明者】
【氏名】倉品 大輔
(72)【発明者】
【氏名】牛島 輝幸
(72)【発明者】
【氏名】マイ フォントゥ
(72)【発明者】
【氏名】藤木 賢治
【テーマコード(参考)】
4G146
4H011
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4G146AA04
4G146AC30B
4G146AD40
4G146CB17
4H011AA01
4H011AA03
4H011AA04
4H011BB18
4H011DA11
4H011DC10
4H011DD05
4J037AA01
4J037CA22
4J037EE02
4J037EE43
4J038AA011
4J038HA021
4J038HA551
4J038HA561
4J038KA06
4J038KA08
4J038MA06
4J038MA08
4J038MA14
4J038NA01
4J038NA02
(57)【要約】
【課題】様々なウイルスに対して、フィルタが実際に使用される条件として想定される、乾燥した表面上(気相中)においても、優れた抗ウイルス効果を有する材料及び材料付きフィルタを提供する。
【解決手段】材料3は、表面に凹凸形状を有する本体部4と、前記凹凸上に付着したナノダイヤモンド粒子5とを備える。また、材料付きフィルタ1は、フィルタ2に材料3が組み付けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸形状を有する本体部と、前記凹凸上に付着したナノダイヤモンド粒子とを備える、材料。
【請求項2】
前記本体部は、基材と、前記基材上に形成された皮膜とを含む、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記皮膜はリン酸亜鉛皮膜である、請求項2に記載の材料。
【請求項4】
前記ナノダイヤモンド粒子のゼータ電位がポジティブである、請求項1又は2に記載の材料。
【請求項5】
抗ウイルス効果、抗菌効果、及び防黴効果からなる群より選択される少なくとも1つの効果を有する、請求項1又は2に記載の材料。
【請求項6】
フィルタに請求項1又は2に記載の材料が取り付けられた、材料付きフィルタ。
【請求項7】
気相中で用いる請求項6に記載の材料付きフィルタ。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の材料の作製に用いられるナノダイヤモンド粒子分散液であり、
前記ナノダイヤモンド粒子分散液は前記ナノダイヤモンド粒子と前記ナノダイヤモンド粒子が分散した溶媒とを含み、
前記溶媒は少なくとも水を含み、
前記ナノダイヤモンド粒子分散液に含まれる前記ナノダイヤモンド粒子の濃度は0.01~10質量%である、ナノダイヤモンド粒子分散液。
【請求項9】
請求項8に記載のナノダイヤモンド粒子分散液を含む、塗工液、めっき液、及び化成処理液からなる群から選ばれる少なくとも1つの製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、材料及び材料付きフィルタに関する。より詳細には、本開示は、細菌やウイルスに対して除去効果、及び抗菌・抗ウイルス効果を有する材料及び材料付きフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルス等を原因とする、多くのウイルス性疾患は、飛沫感染や飛沫核感染、接触感染といった多様な感染経路で伝播する。中でも、飛沫核感染は患者から発生した、ごく細かい粒子が長い間空気中に浮遊し、患者と同じ空間にいる人がウイルスを吸入することによって感染する経路であり、特に、狭い密閉空間では感染拡大を引き起こすことがある。
【0003】
ところで、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスは、脂質性の膜であるエンベロープウイルスの一種であり、脂溶性のあるエタノールを用いた消毒が有効である等、比較的、抵抗性が低い。一方、ノロウイルスはエンベロープを持たないノンエンベロープウイルスの一種であるため、エタノール消毒だけでは十分な効果が得られず、さらに乾燥や加熱にも抵抗性を示す等、抵抗性が高いウイルスとして知られている。
【0004】
さらに、ノロウイルスは、100個以下のウイルス粒子でも感染するほど感染力が高いため、感染者の嘔吐物や糞便がごく少量、空気中に飛散したときに、それを媒体とした飛沫核感染が起こることが知られている。
【0005】
従来、このような飛沫核感染の予防対策として、空間に浮遊する菌やウイルスをフィルタによって捕捉し、除去する対策が行われている。しかし、菌やウイルスを捕捉するだけでは、フィルタ上の菌やウイルスが感染性を維持し、フィルタ自体が感染源になりうるという問題があった。
【0006】
そこで、上記問題を克服するため、捕捉した菌やウイルスに対して抗菌効果や抗ウイルス効果を有するフィルタ、もしくはフィルタに脱着可能な材料が知られている。
【0007】
特許文献1は、金属基材の表面に対してリン酸亜鉛化成処理を行い、当該表面にミクロンオーダーの凹凸を有するリン酸亜鉛皮膜を形成することで、上記リン酸亜鉛皮膜が防黴作用、殺菌作用、及び抗ウイルス作用を示すことを開示している。
【0008】
ところで、ナノダイヤモンド粒子は、比表面積が非常に大きい超微粒子のダイヤモンドであり、その特性から抗菌・抗ウイルス成分としても使用される。
【0009】
特許文献2は、ナノダイヤモンド粒子を含む分散液と、インフルエンザウイルスを含む溶液と、を混合したときに、上記ナノダイヤモンド粒子を含む分散液がインフルエンザウイルスを不活性化する効果を示すことを開示している。
【0010】
特許文献3は、銀微粒子、ダイヤモンド微粒子、エタノール、及び水を含むコーティング液が含浸された不織布シートを、壁、及び/又は天井に塗布することによって、抗ウイルス性を付与させる効果を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2021/193843号
【特許文献2】特開2022-161727号公報
【特許文献3】特開2023-7158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載の材料は、バクテリオファージQβに対する湿潤条件下(液相中)における抗ウイルス効果を開示しているが、それ以外のウイルスに対する効果や、フィルタが実際に使用される条件として想定される、乾燥した表面上(気相中)での効果については開示しておらず、更なる検討の余地がある。
【0013】
また、特許文献2に記載のナノダイヤモンド粒子を含む分散液は、インフルエンザウイルスに対する湿潤条件下(液相中)における抗ウイルス効果を開示しているが、それ以外のウイルスに対する効果や、フィルタが実際に使用される条件として想定される、乾燥した表面上(気相中)での効果については開示しておらず、更なる検討の余地がある。
【0014】
また、特許文献3に記載の抗ウイルス性不織布シートは、新型コロナウイルス以外のウイルスに対する具体的な効果や、フィルタが実際に使用される条件として想定される、乾燥した表面上(気相中)での効果について開示していない。
【0015】
従って、本開示の目的は、様々なウイルスに対して優れた抗ウイルス効果を示す材料及び材料付きフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示に係る発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、表面に凹凸形状を有する本体部と、上記凹凸上に付着したナノダイヤモンド粒子とを備えることで、上記材料が、様々なウイルスに対して優れた抗ウイルス効果を示すことを見いだした。本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0017】
すなわち本開示は、表面に凹凸形状を有する本体部と、上記凹凸上に付着したナノダイヤモンド粒子とを備える、材料を提供する。
【0018】
上記本体部は、基材と、前記基材上に形成された皮膜とを含むことが好ましい。
【0019】
上記皮膜は、リン酸亜鉛皮膜であることが好ましい。
【0020】
上記ナノダイヤモンド粒子のゼータ電位はポジティブであることが好ましい。
【0021】
また、本開示は、上記材料がフィルタ本体に取り付けられた材料付きフィルタを提供する。
【0022】
また、本開示は、上記材料の作製に用いられるナノダイヤモンド粒子分散液を提供する。
【0023】
また、本開示は、上記材料の作製に用いられる上記ナノダイヤモンド粒子分散液を含む、塗工液、めっき液、及び化成処理液からなる群から選ばれる少なくとも1つの製品を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本開示の材料は、上記構成を有することで、様々なウイルスに対して抗ウイルス効果を示すことができる。また、本開示によれば、上記材料がフィルタに組み付けられた、材料付きフィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本開示の一実施形態に係る材料付きフィルタの模式図である。
図2】本開示の一実施形態に係る材料の拡大模式図である。
図3】隣接する凸部の間隔を算出する手順を説明するための図である。
図4】本開示の一実施形態に係る材料の作製工程の模式図である。
図5】比較例1で作製した材料の走査電子顕微鏡写真である。
図6】実施例1で作製した材料の走査電子顕微鏡写真である。
図7】実施例2で作製した材料の走査電子顕微鏡写真である。
図8】実施例3で作製した材料の走査電子顕微鏡写真である。
図9】実施例4で作製した材料の走査電子顕微鏡写真である。
図10】実施例5で作製した材料の走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書において、上記材料がフィルタに組み付けられたものを「材料付きフィルタ」と称する場合がある。また、本明細書において、一般社団法人日本電機工業会規格JEM1467「家庭用空気清浄機」の附属書F「フィルタに捕捉したウイルスに対する抑制性能評価試験方法」を参考とした、後述の「ウイルスに対する抑制性能評価試験」によって評価された効果を「抗ウイルス効果」と称する場合がある。
【0027】
[材料及び材料付きフィルタ]
本開示の一実施形態に係る材料は、表面に凹凸形状を有する本体部と、上記凹凸上に付着したナノダイヤモンド粒子とを備える構成を有する。
【0028】
以下に、本開示の材料及び材料付きフィルタの一実施形態を、図面を参照して説明するが、本開示の材料及び材料付きフィルタは、本実施形態に限定されない。図1は、本開示の材料付きフィルタの一実施形態を示す模式図である。
【0029】
図1に示すように、材料付きフィルタ1は、矩形の箱状のフィルタ本体2と、このフィルタ本体2の少なくとも一部を覆うように、フィルタ本体2に組み付けられたメッシュ状の材料3と、を備える。なお、本実施形態では、材料3は、フィルタ本体2の一つの面の全部を覆うようにフィルタ本体2に組み付けた場合について説明するが、本開示はこれに限られない。フィルタ本体2は、少なくとも一部が材料3によって覆われていればよい。また、上記フィルタ本体は、特に限定されず、公知乃至慣用のフィルタを用いることができる。
【0030】
材料3は、平面視ではフィルタ本体2と略同形の矩形状の浄化部30と、この浄化部30の四辺のうち、互いに対向する長辺に沿って延びる帯状の第1脚部31及び第2脚部32と、を備える。材料3は、このような脚部を備えることで、フィルタ本体2に保持され、一体として使用することができる。
【0031】
図2は、上記材料3の一実施形態の拡大模式図である。上記材料3は、本体部4とナノダイヤモンド粒子5とを含む。本体部4は基材41及び皮膜42から構成されている。基材41は、例えばメッシュ状の金属基材であり、より具体的にはA5056を含むアルミニウム合金メッシュ基材である。基材41の表面には、皮膜42が形成されており、より具体的には後述するリン酸亜鉛化成処理によって、微細な凹凸を有するリン酸亜鉛皮膜が形成されており、その結果本体部4表面に凹凸形状が形成されている。さらに、皮膜42の表面(本体部4の凹凸表面)には、後述するナノダイヤモンド粒子付着処理によって、ナノダイヤモンド粒子5が付着している。以下では、基材41として上記アルミニウム合金メッシュ基材を、皮膜42として上記リン酸亜鉛皮膜を用いた場合について説明するが、本開示はこれに限らない。
【0032】
(本体部)
上記本体部は少なくとも基材を有することが好ましい。上記本体部は、上記基材と、上記基材上に形成された皮膜とを有することがより好ましい。上記基材及び上記皮膜は、それぞれ、一層のみであってもよいし、二層以上が積層していてもよい。
【0033】
上記基材は、特に限定されず、公知乃至慣用の金属基材又は樹脂基材を用いることができる。金属基材としては、例えば、アルミニウム、アルミニウムを主成分として銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、及びニッケル等を含むアルミニウム合金、鉄、ステンレス、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、チタン合金、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、クロム、クロム合金等によって構成される基材が挙げられる。樹脂基材としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリオレフィン系共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、スチレン系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂等によって構成される基材が挙げられる。上記基材を構成する材料は、一種のみであってもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0034】
上記基材は、耐久性や加工性の観点から、金属基材が好ましく、中でも、軽量性や加工性の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金によって構成される基材がより好ましく、アルミニウム合金によって構成される基材がさらに好ましい。
【0035】
上記基材の形状は、特に限定されず、例えばメッシュ状、平板状、不織布状等の形状を選択できる。中でも、フィルタ本体に組み付けた場合、フィルタ本体の機能を阻害しないという観点から、メッシュ状であることが好ましい。
【0036】
上記本体部は表面に凹凸形状を有するが、上記基材の表面は平滑であってもよいし、凹凸であってもよい。上記基材が表面に凹凸を有する場合、当該凹凸により本体部表面の凹凸を形成していてもよい。
【0037】
上記基材の厚さは特に限定されず、例えば0.1μm以上の厚みから選択できる。
【0038】
上記皮膜は、本体部に機能を付与する性能を有する皮膜である。上記機能としては、抗ウイルス効果、殺菌効果、防黴効果、ナノダイヤモンド粒子を付着させる効果などが挙げられる。
【0039】
上記皮膜は、特に限定されず、公知乃至慣用の皮膜を用いることができる。例えば、リン酸亜鉛皮膜、リン酸マンガン皮膜、リン酸鉄皮膜、リン酸カルシウム皮膜等のリン酸塩皮膜が挙げられる。中でも、抗ウイルス効果に優れる、凹凸の大きさの調整が容易、ナノダイヤモンド粒子を付着させやすいという観点から、リン酸亜鉛皮膜が好ましい。また、上記皮膜は、基材への密着性を向上させるために、亜鉛皮膜等の他の皮膜を介して上記基材上に設けられていてもよい。
【0040】
上記皮膜の厚さは、特に限定されず、例えば0.1μm以上の厚みから選択できる。
【0041】
上記本体部は表面に凹凸形状を有する。上記凹凸形状は、上記基材表面に有していてもよいし、上記皮膜に有していてもよい。上記基材表面に凹凸形状を有する場合、上記皮膜が上記基材表面の凹凸を維持するように凹凸に沿って形成されていてもよい。図2の本体部4は、基材41の平らな表面に凹凸形状を有する皮膜42が形成されている。
【0042】
上記本体部が有する上記凹凸における凸部の間隔は、抗ウイルス効果に優れる、凹凸の大きさの調整が容易、ナノダイヤモンド粒子を付着させやすいという観点から、0.5~50.0μmが好ましく、より好ましくは0.5~6.0μmである。上記凸部の間隔は後述する手順で算出することができる。
【0043】
図3は、隣接する凸部の間隔を算出する手順を説明するための図である。図3に示すように、リン酸亜鉛皮膜である皮膜42の表面には、その向きが不規則な無数の刃状の凸部42a(図3において明るく視える部分)が形成される。このため、リン酸亜鉛皮膜である皮膜42の表面には、これら無数の凸部42aによって区画される凹状の空間としての無数の凹部42b(図3において暗く視える部分)が形成される。
【0044】
本明細書において、平面視における凹部42bの一辺の長さを、隣接する凸部42aの平面視における間隔として定義する。より具体的には、リン酸亜鉛皮膜である皮膜42の表面に形成される各凹部42bの平面視における形状を、長手方向LD及びこれと直交する短手方向SDを定義可能な形状(例えば、矩形状や楕円状等)とみなし、これら凹部42bに対し長手方向LD及びこれと直交する短手方向SDを定義するとともに、これら長手方向LD及び短手方向SDに沿った凹部42bの長さを隣接する凸部42aの間隔として定義する。また以上のような定義のもとで各凹部42bの長手方向LD及び短手方向SDに沿った長さを算出し、短手方向SDに沿った長さの最小値を凸部42aの間隔の最小値とし、長手方向LDに沿った長さの最大値を凸部42aの間隔の最大値とする。
【0045】
上記本体部の厚さは、特に限定されず、例えば0.1μm以上の厚みから選択できる。凹凸形状を安定して形成するという観点から、0.1μm以上が好ましく、0.25μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。
【0046】
(ナノダイヤモンド粒子)
本明細書において、「ナノダイヤモンド粒子」とは、一次粒子の大きさ(平均一次粒子径)が1000nm未満であるダイヤモンド粒子をいう。上記ナノダイヤモンド粒子の平均一次粒子径は、例えば100nm以下であり、好ましくは60nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。上記ナノダイヤモンド粒子の平均一次粒子径の下限は、例えば1nmである。
【0047】
上記ナノダイヤモンド粒子は、特に限定されず、公知乃至慣用のナノダイヤモンド粒子を用いることができる。上記ナノダイヤモンド粒子は、表面修飾されたナノダイヤモンド粒子であってもよいし、表面修飾されていないナノダイヤモンド粒子であってもよい。なお、表面修飾されていないナノダイヤモンド粒子は、表面にヒドロキシ基(-OH)やカルボキシ基(-COOH)を多く有する。また、ナノダイヤモンド粒子は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。
【0048】
上記表面修飾ナノダイヤモンド粒子において、ナノダイヤモンド粒子を表面修飾する化合物又は官能基としては、特に限定されず、例えば、水素基(C-H基)、シラン化合物、ホスホン酸イオン若しくはホスホン酸残基、末端にビニル基を有する表面修飾基、アミド基、カチオン界面活性剤のカチオン、ポリグリセリン鎖を含む基、ポリエチレングリコール鎖を含む基などが挙げられる。
【0049】
上記ナノダイヤモンド粒子としては、中でも、抗ウイルス効果の観点から、表面に少なくとも水素基又はヒドロキシ基又はカルボキシ基を有していることが好ましい。
【0050】
上記ナノダイヤモンド粒子のゼータ電位は、ネガティブであってもよいし、ポジティブであってもよい。なお、表面修飾されていないナノダイヤモンド粒子など、表面にヒドロキシ基やカルボキシ基を多く有するナノダイヤモンド粒子は、酸素系官能基に由来してゼータ電位がネガティブとなる傾向にある。一方、例えば、水素化処理等の還元処理によって、表面に水素基を多く有するナノダイヤモンド粒子は、水素で表面終端されることによってゼータ電位がポジティブとなる傾向にある。中でも、ナノダイヤモンド粒子のゼータ電位はポジティブであることが好ましい。ゼータ電位がポジティブのナノダイヤモンド粒子を用いることにより、幅広いウイルスに対して抗ウイルス効果が充分になりやすい傾向にある。
【0051】
本明細書において、上記ナノダイヤモンド粒子のゼータ電位がネガティブであるとは、例えばレーザードップラー式電気泳動法によって測定した、25℃で分散溶媒のpH5~9及びイオン強度1.0×10-4 Mにおけるゼータ電位の値がマイナスの値であるという意味である。上記ゼータ電位は、例えば-80~-5mVであり、好ましくは-70~-10mVであり、より好ましくは-60~-20mVである。
【0052】
本明細書において、上記ナノダイヤモンド粒子のゼータ電位がポジティブであるとは、例えばレーザードップラー式電気泳動法によって測定した、25℃で分散溶媒のpH5~9及びイオン強度1.0×10-4 Mにおけるゼータ電位の値がプラスの値であるという意味である。上記ゼータ電位は、例えば5~80mVであり、好ましくは10~70mVであり、より好ましくは20~60mVである。
【0053】
上記ナノダイヤモンド粒子の平均一次粒子径(D50)は、例えば100nm以下であり、好ましくは60nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。上記ナノダイヤモンド粒子の平均一次粒子径の下限は、例えば1nmである。上記一次粒子径が100nm以下であると、より密に上記ナノダイヤモンド粒子を上記皮膜表面に付着させることができる。上記平均一次粒子径は、粉体状態での画像解析(TEM、SEMなどの電子顕微鏡測定)やX線回折法により測定することができる。電子顕微鏡測定の場合、電子顕微鏡観察に基づく円相当径の粒度分布(個数基準)において、粒径が小さい側から積算50%に相当する粒径を上記平均一次粒子径とすることができる。なお、ナノダイヤモンド粒子がおおよそ球形である場合、最も長い直径の平均値を平均一次粒子径としてもよい。
【0054】
上記ナノダイヤモンド粒子が本体部の表面に付着する態様について、上記一次粒子が分散した状態で付着してもよいし、上記一次粒子が複数個凝集した二次粒子(凝集体)の状態で付着してもよい。二次粒子の大きさは一次粒子の平均粒径の10~200倍程度である。例えば50~1000nmであり、好ましくは50~500nm、より好ましくは50~200nmであり、さらに好ましくは50~100nmである。上記二次粒子径が上記範囲であると、後述するナノダイヤモンド粒子付着処理工程において二次粒子が沈殿しづらいため、上記皮膜表面に均一に付着させることができる。上記付着態様については、画像解析(TEM、SEMなどの電子顕微鏡測定)によって観察することができる。
【0055】
上記材料の、表面積あたりの上記ナノダイヤモンド粒子の塗布量(A)は、好ましくは0.02mg/cm2以上であり、より好ましくは0.05mg/cm2以上であり、さらに好ましくは0.1mg/cm2以上であり、特に好ましくは0.2mg/cm2以上である。また、上記材料の、表面積あたりの上記ナノダイヤモンド粒子の塗布量(A)は、好ましくは1mg/cm2以下であり、より好ましくは0.7mg/cm2以下であり、さらに好ましくは0.5mg/cm2以下であり、特に好ましくは0.4mg/cm2以下である。ここで、塗布量(A)は後述する手順によって算出される。また、上記塗布量は後述するナノダイヤモンド粒子付着処理におけるナノダイヤモンド粒子分散液中のナノダイヤモンド粒子の濃度や分散液の溶媒を変えることにより調整可能である。
【0056】
上記ナノダイヤモンド粒子としては、例えば、爆轟法ナノダイヤモンド(すなわち、爆轟法によって生成したナノダイヤモンド)や、高温高圧法ナノダイヤモンド(すなわち、高温高圧法によって生成したバルクダイヤモンドを破砕してナノ粒子化したもの)、又は化学気相成長法ナノダイヤモンド(すなわち、化学気相成長法によって得られた薄膜状ダイヤモンドを破砕してナノ粒子化したもの)を使用することができる。中でも、一次粒子の粒子径が一桁ナノメートルである点で、爆轟法ナノダイヤモンドが好ましい。
【0057】
上記爆轟法ナノダイヤモンドには、空冷式爆轟法ナノダイヤモンド(すなわち、空冷式爆轟法によって生成したナノダイヤモンド)と水冷式爆轟法ナノダイヤモンド(すなわち、水冷式爆轟法によって生成したナノダイヤモンド)が含まれる。中でも、空冷式爆轟法ナノダイヤモンドが水冷式爆轟法ナノダイヤモンドよりも一次粒子が小さい点で好ましい。また、上記ナノダイヤモンド粒子は、ナノダイヤモンドの一次粒子であってもよく、上記一次粒子が複数個凝集(凝着)した二次粒子であってもよい。
【0058】
本開示の材料の実施形態において、公知乃至慣用のフィルタ本体に組み付けることで、材料付きフィルタとして用いてもよい。このような材料付きフィルタは自動車用空調装置、エアコン、空気清浄機などに用いてもよい。
【0059】
本開示の材料の実施形態において、上記材料付きフィルタの使用条件は特に限定されず、例えば、気相中、液相中、固相中のいずれの条件下でも使用できる。中でも、上記材料の効果が発揮されやすいという観点から、気相中で使用することが好ましい。また、上記の各相の状態は特に限定されない。例えば、気相中においては、気体の種類、温度、湿度、圧力のいずれについても何ら限定されないが、上記自動車用空調装置、エアコン、空気清浄機などに用いる場合、常温常圧の空気中での使用が挙げられる。
【0060】
本開示の材料は、ミクロンオーダーの凹凸を有する本体部と、ナノダイヤモンド粒子とを備えることによって、各種ウイルスに対して抗ウイルス効果を示す。ウイルスとしてはエンベロープウイルスやノンエンベロープウイルスが挙げられる。中でも、ノンエンベロープウイルスに対する抗ウイルス効果に優れ、特に、ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス効果に優れている。感染予防対策の観点から、後述するネコカリシウイルスに対する抑制性能評価試験方法において、対数減少値が1.0以上のものが好ましく、対数減少値が2.0以上のものがさらに好ましい。
【0061】
ミクロンオーダーの凹凸は、その形状に由来する物理的作用(例えば、菌が凹凸に刺さることで細胞壁自体が変形し、死滅する作用)によって殺菌効果を発揮すると考えられている。一方、例えば、インフルエンザウイルスは80~120nm、ネコカリシウイルスは27~35nmの大きさであり、一般的な菌の大きさ(0.5~2μm)の10分の1程度と菌より小さい。そのため、ウイルスはミクロンオーダーの凹凸には刺さりにくく、抗ウイルス効果が発揮されづらい可能性がある。そこで、本開示の材料は、上記凹凸による大きな比表面積を利用してナノダイヤモンド粒子を多く安定に付着させることで、凹凸の凹部に入り込んでしまったウイルスに対しても、ナノダイヤモンド粒子が作用する等、凹凸形状とナノダイヤモンド粒子に由来する複合的な効果を発揮できると考えられる。従って本開示の材料は、上記のような構成を有することで、様々な大きさの微生物に対しても優れた抗菌効果及び抗ウイルス効果を示すことができると考えられる。
【0062】
本開示の材料の実施形態において、抗ウイルス効果、抗菌効果、及び防黴効果の少なくとも1つの効果を有する材料を、特に「機能性材料」と称する場合がある。ここで、各効果の定義は当分野の一般的な定義を援用し得る。「抗ウイルス効果」は、例えば、ISO 21702:2019 Measurement of antiviral activity on plastics and other non-porous surfaces等によって評価された効果を意味する。「抗菌効果」は、例えば、JIS Z 2801:2012「抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果」等によって評価された効果を意味する。「防黴効果」は、例えば、JIS Z 2911:2018「かび抵抗性試験方法」等によって評価された効果を意味する。
【0063】
[材料の製造方法]
上記材料は、公知乃至慣用の方法で本体部にナノダイヤモンド粒子を付着させて作製することができる。上記材料は、例えば、本体部にナノダイヤモンド粒子分散液を塗布し乾燥することでナノダイヤモンド粒子を付着させ、作製することができる。上記本体部が上記基材及び上記皮膜を有する場合、上記基材に対して皮膜を形成するための処理を施すことによって、金属の表面に微細な凹凸を有する皮膜を形成した後、さらにナノダイヤモンド粒子分散液を塗布し乾燥することによってナノダイヤモンド粒子を付着させ、作製することができる。
【0064】
以下、図2に示す材料3の製造方法を例として説明する。図4は、材料3の一実施形態の作製工程の模式図である。図4に示すように、材料3は、例えば、基材41に対して、洗浄工程、表面調整工程、リン酸亜鉛化成処理、ナノダイヤモンド粒子付着処理を施すことによって作製できる。より具体的には、フィルタ本体に組み付け可能な形状に加工した基材41(例えばアルミニウム合金メッシュ基材)を洗浄し、脱脂及び水洗する工程と、表面調整液に浸漬し、その表面に結晶のきっかけとなる核を付ける表面調整工程と、リン酸亜鉛処理液を所定時間にわたり接触させるリン酸亜鉛化成処理を施すことによって、基材41の表面にミクロンオーダーの凹凸を有するリン酸亜鉛皮膜である皮膜42を形成する工程と、ナノダイヤモンド粒子分散液に所定時間にわたり浸漬させたのち、乾燥させることによって、皮膜42の表面に複数のナノダイヤモンド粒子5を付着させる工程と、を含む。
【0065】
図4には、リン酸亜鉛化成処理の場合を示すが、本開示はこれに限らない。例えば、その他のリン酸塩化成処理(リン酸マンガン化成処理、リン酸鉄化成処理、リン酸カルシウム化成処理)、べーマイト処理、クロメート処理、ジンケート処理等による化成処理等や、プラズマ処理、ブラスト処理等による表面処理等であってもよい。中でも、凹凸の大きさの調整のしやすさという点から、リン酸亜鉛化成処理が好ましい。
【0066】
本明細書において、ミクロンオーダーの凹凸とは、図3で説明した手順によって算出される隣接する凸部の間隔が、0.1~1000μの範囲内であり、そのような凸部によって形成される凹凸が無数に形成されている状態を意味する。
【0067】
(表面調整工程)
上記表面調整工程は、特に限定されず、公知乃至慣用の表面調整液を用いることができる。例えば、日本パーカライジング株式会社製の「PL-X」、「PL-XG」等を所定の濃度[g/L]に調整したものが用いられる。表面調整液の濃度を変えることにより、金属基材の表面に形成される凹凸を荒いものと細かいものとに変化させることが可能である。表面調整液の濃度を高くするほど、凹凸は細かくなる傾向がある。表面調整液の濃度は、ミクロンオーダーの凹凸を形成させるという観点から、0.1g/L以上が好ましく、1.0g/L以上がより好ましく、2.0g/L以上がさらに好ましい。表面調整液の濃度は、費用対効果の観点から、10g/L以下が好ましく、5.0g/L以下がより好ましい。
【0068】
(リン酸亜鉛化成処理)
上記リン酸亜鉛化成処理は、特に限定されず、公知乃至慣用のリン酸亜鉛処理液を用いることができる。例えば、日本パーカライジング株式会社製の「PB-LA37」、「パルボンド880」、又は「フェリコート7」等が用いられる。
【0069】
(ナノダイヤモンド粒子付着処理)
上記ナノダイヤモンド粒子付着処理で用いられるナノダイヤモンド粒子分散液は、ナノダイヤモンド粒子と溶媒とを含む。ナノダイヤモンド粒子分散液中のナノダイヤモンド粒子の濃度は、0.01~10質量%であることが好ましく、0.05~5質量%であることがより好ましく、0.1~2質量%であることがさらに好ましい。ナノダイヤモンド粒子分散液中のナノダイヤモンド粒子の濃度が0.01質量%以上であると、ナノダイヤモンド粒子の付着量が充分となり、抗ウイルス効果が充分に得られやすい。
【0070】
上記ナノダイヤモンド粒子分散液の溶媒は、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、2-メトキシエタノール、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルメトキシアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホン、炭酸プロピレンなどが挙げられる。これらの溶媒は、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。安全性、取り扱い性、分散性などの点から、少なくとも水を含むことが好ましく、水及びエタノールの混合溶媒がより好ましい。
【0071】
上記ナノダイヤモンド粒子分散液は、各種の製品に含まれてもよい。例えば、塗工液、めっき液、化成処理液などが挙げられる。上記製品中に含まれるナノダイヤモンド粒子の濃度は、0.01~10質量%であり、0.05~5質量%であることが好ましく、0.1~2質量%であることがより好ましい。ナノダイヤモンド粒子分散液中のナノダイヤモンド粒子の濃度が0.01質量%以上であると、ナノダイヤモンド粒子の付着量が充分となり、抗ウイルス効果が充分に得られやすい。
【0072】
上記ナノダイヤモンド粒子付着処理において、ナノダイヤモンド粒子を付着させる方法(コート方法)は、特に限定されず、公知乃至慣用のコート方法を用いることができる。例えば、ディップコート法、スプレーコート法、ローラーコート法、スリットコート法、スピンコート法等が挙げられる。中でも、付着効率の良さなどの点から、ディップコート法が好ましい。
【0073】
上記ナノダイヤモンド粒子付着処理において、乾燥方法は特に限定されず、公知乃至慣用の乾燥方法を用いることができる。例えば、自然乾燥、真空乾燥、特定ガス環境下での乾燥(ガスの種類は特に限定されず、例えばアルゴンや窒素等)、エアブロー、加熱乾燥等が挙げられる。溶媒を乾燥させることが目的のため、自然乾燥でよいが、基材の耐熱性に応じて100℃程度で加熱乾燥してもよい。
【0074】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の趣旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本開示に係る各発明は、実施形態や以下の実施例によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0075】
以下に、実施例に基づいて本開示の一実施形態をより詳細に説明する。
【0076】
比較例1
(材料の作製方法)
A5056を含むアルミニウム合金メッシュ基材に対して、図4の模式図で示した工程を施し、材料を作製した。より具体的には、線径は0.25μmであり、メッシュ孔径は0.596μmであり、ピッチは0.8467μmであるアルミニウム合金メッシュ基材を洗浄後、濃度を3g/Lとした表面調整液に浸漬させる表面調整工程と、リン酸亜鉛処理液「PB-LA37」に浸漬させるリン酸亜鉛化成処理と、を施し、材料を作製した。
【0077】
実施例1
比較例1で作製した材料に対して下記工程を施し、材料を作製した。
【0078】
(ナノダイヤモンド粒子分散液の調製工程)
ζ(+)ナノダイヤモンド原料液(商品名「ディノベア」、株式会社ダイセル製、当該原料液に含まれるナノダイヤモンド粒子濃度:2.91質量%、pH3.0におけるゼータ電位:+40mV)103.4gを容器に量り取り、溶媒として水1.9g、及びエタノール45.0gを添加し、室温で撹拌することにより、ナノダイヤモンド粒子が均一に分散したナノダイヤモンド粒子分散液150gを調製した。このとき、ナノダイヤモンド粒子分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子濃度は2.0質量%であった。
【0079】
(ナノダイヤモンド粒子付着処理)
得られたナノダイヤモンド粒子分散液150gを底が平坦な金属容器に入れ、比較例1の手順で作製した材料1枚を含侵させ、10秒間ディップし、ナノダイヤモンド粒子分散液から取り出して空気中で傾けて30秒間静置させ、過剰に付着した分散液を除去してから、室温で3時間風乾させることにより、ナノダイヤモンド粒子が付着した材料を作製した。
【0080】
実施例2~5
表1に示すナノダイヤモンド粒子分散液を用いた以外は、実施例1と同様の方法でナノダイヤモンド粒子が付着した材料を作製した。実施例4~5では、ナノダイヤモンド原料液として、ζ(-)ナノダイヤモンド原料液(商品名「ディノベア」、株式会社ダイセル製、当該原料液に含まれるナノダイヤモンド粒子濃度:5.68%、pH9.0におけるゼータ電位:-35mV)を用いた。なお、表1におけるナノダイヤモンド粒子分散液の組成の数値は「g」を意味する。
【0081】
上記工程によって作製した上記材料の表面状態を、後述の「表面状態の観察方法」によって観察した結果を図5図10に示す。なお、いずれも20000倍の反射電子像である。比較例1の図5ではミクロンオーダーの凹凸を有するリン酸亜鉛皮膜が形成している様子が確認され、実施例1~5の図6図10では、リン酸亜鉛皮膜の凹凸上に、さらにナノダイヤモンド粒子が付着している様子が確認された。
【0082】
上記工程によって作製した、上記材料を、後述の「ウイルスに対する抑制性能評価試験」で評価した結果を表1に示す。
【0083】
[評価]
(ウイルスに対する抑制性能評価試験)
材料表面に捕捉されたウイルスに対する抗ウイルス効果について評価するため、一般社団法人日本電機工業会規格JEM1467「家庭用空気清浄機」の附属書F「フィルタに捕捉したウイルスに対する抑制性能評価試験方法」を参考として、下記の条件で試験を行った。いずれの試験においても、以下の材料を試験品又は対照品として用いた。
【0084】
・試験品:各実施例又は比較例1の材料の切片(5×5cm)
・対照品:ガラス板(5×5cm)
【0085】
ウイルスは上記「フィルタに捕捉したウイルスに対する抑制性能評価試験方法」にて、指標ウイルスと指定されているA型インフルエンザウイルス、及び大腸菌ファージと、ノロウイルスの代替として公知であるネコカリシウイルスと、を用いた。ここで、ヒトに感染するノロウイルスは培養が困難であり、実験的に評価する方法が未だ確立されていないため、ノロウイルスと構造が類似し、近縁関係にあるネコカリシウイルスを用いた。
【0086】
(A型インフルエンザウイルスに対する抑制性能評価試験方法)
ウイルスと宿主細胞は以下のものを用いた。
・A型インフルエンザウイルス:Influenza A virus,H1N1,A/PR/8/34(ATCC VR-1469)
・宿主細胞:MDCK細胞(イヌ腎細胞)(ATCC CCL-34)
(1)対照品上に、A型インフルエンザウイルス液を0.1mL滴下した。
(2)(1)の対照品をただちに、MEM(Minimum Essential Medium)、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)、又は滅菌イオン交換水で洗い出し、対照品上のウイルスを回収した。この工程により得られた溶液を対照品の0秒作用ウイルス溶液とした。
(3)(2)の対照品を試験チャンバー内で静置し、24時間経過した後、MEM、PBS、又は滅菌イオン交換水で洗い出し、対照品上のウイルスを回収した。この工程により得られた溶液を対照品の24時間作用ウイルス溶液とした。
(4)各実施例及び比較例に係る試験品上に、A型インフルエンザウイルス液を0.1mL滴下した。
(5)(4)の試験品を試験チャンバー内で静置し、24時間経過した後、MEM、PBS、又は滅菌イオン交換水で洗い出し、対照品上のウイルスを回収した。この工程により得られた溶液を試験品の24時間作用ウイルス溶液とした。
(6)回収した対照品の0秒作用ウイルス溶液、対照品の24時間作用ウイルス溶液、試験品の24時間作用ウイルス溶液を試料原液として、MEM、PBS、又は滅菌イオン交換水で10倍段階希釈列を作製した。
(7)その試料原液又は希釈液100μLとMDCK細胞用培地に懸濁したMDCK細胞100μLを96ウエルプレートに植え込んだ。
(8)(7)を炭酸ガスふ卵器で培養後、顕微鏡下で細胞変性効果(CPE:cytopathogenic effect)を確認し、Reed-Muench法を用いて、洗い出し液1mL当たりのA型インフルエンザウイルス感染価を求めた。
【0087】
(ネコカリシウイルスに対する抑制性能評価試験方法)
ウイルスと宿主細胞は以下のものを用いた。
・ネコカリシウイルス:Feline calicivirus,F-9(ATCC VR-782)
・宿主細胞:CRFK細胞(ネコ腎由来株化細胞)(ATCC CCL-94)
(1)対照品上に、ネコカリシウイルス液を0.1mL滴下した。
(2)(1)の対照品をただちに、MEM、PBS、又は滅菌イオン交換水で洗い出し、対照品上のウイルスを回収した。この工程により得られた溶液を対照品の0秒作用ウイルス溶液とした。
(3)(2)の対照品を試験チャンバー内で静置し、24時間経過した後、MEM、PBS、又は滅菌イオン交換水で洗い出し、対照品上のウイルスを回収した。この工程により得られた溶液を対照品の24時間作用ウイルス溶液とした。
(4)各実施例及び比較例に係る試験品上に、ネコカリシウイルス液を0.1mL滴下した。
(5)(4)の試験品を試験チャンバー内で静置し、24時間経過した後、MEM、PBS、又は滅菌イオン交換水で洗い出し、対照品上のウイルスを回収した。この工程により得られた溶液を試験品の24時間作用ウイルス溶液とした。
(6)回収した対照品の0秒作用ウイルス溶液、対照品の24時間作用ウイルス溶液、試験品の24時間作用ウイルス溶液を試料原液として、MEM、PBS、又は滅菌イオン交換水で10倍段階希釈列を作製した。
(7)その試料原液又は希釈液100μLとCRFK細胞用培地に懸濁したCRFK細胞100μLを96ウエルプレートに植え込んだ。
(8)(7)を炭酸ガスふ卵器で培養後、顕微鏡下で細胞変性効果(CPE:cytopathogenic effect)を確認し、Reed-Muench法を用いて、洗い出し液1mL当たりのネコカリシウイルス感染価を求めた。
【0088】
(大腸菌ファージに対するウイルス抑制性能評価試験)
ウイルスと宿主菌は以下のものを用いた。
・大腸菌ファージ:Escherichia coli phage MS2(NBRC 102619)
・宿主菌:Escherichia coli(NBRC 3012)
(1)対照品上に、大腸菌ファージ液を0.1mL滴下した。
(2)(1)の対照品をただちに、MEM、PBS、又は滅菌イオン交換水で洗い出し、対照品上のウイルスを回収した。この工程により得られた溶液を対照品の0秒作用ウイルス溶液とした。
(3)(2)の対照品を試験チャンバー内で静置し、24時間経過した後、MEM、PBS、又は滅菌イオン交換水で洗い出し、対照品上のウイルスを回収した。この工程により得られた溶液を対照品の24時間作用ウイルス溶液とした。
(4)各実施例及び比較例に係る試験品上に、大腸菌ファージ液を0.1mL滴下した。
(5)(4)の試験品を試験チャンバー内で静置し、24時間経過した後、MEM、PBS、又は滅菌イオン交換水で洗い出し、対照品上のウイルスを回収した。この工程により得られた溶液を試験品の24時間作用ウイルス溶液とした。
(6)回収した対照品の0秒作用ウイルス溶液、対照品の24時間作用ウイルス溶液、試験品の24時間作用ウイルス溶液を試料原液として、MEM、PBS、又は滅菌イオン交換水で10倍段階希釈列を作製した。
(7)その試料原液又は希釈液と、大腸菌を培養した大腸菌液体培地を混合し、35±1℃で10~20分間静置した。
(8)(7)の液に、45~50℃の軟NB寒天培地を添加混合し、角型シャーレ下層培地へ重層し、固定化させた。
(9)(8)を上下逆さにし、35±1℃で16~24時間程度培養後、培地上に発生したプラークを数え、洗い出し液1mL当たりのファージ数を求めた。なお、洗い出し液はろ過滅菌した。
【0089】
(抗ウイルス効果の評価)
上記試験結果に基づき、下記の数式(1)により、抗ウイルス効果の指標としてウイルス感染価又はファージ数の対数減少値を算出した。
R=Log(B/A) (1)
R:ウイルス感染価又はファージ数の対数減少値(抗ウイルス効果)
A:対照品(ガラス板)の24時間作用後のウイルス感染価又はファージ数
B:試験品(各実施例のナノダイヤモンド粒子含有カバー又は比較例のカバーの切片)の24時間作用後のウイルス感染価又はファージ数
【0090】
本明細書においては、下記の基準に基づき、抗ウイルス効果について判定した。すなわち、評価Aは「十分な抗ウイルス効果あり」、評価Bは「抗ウイルス効果あり」、評価C「抗ウイルス効果なし」と判定した。
A:対数減少値が2.0以上(十分な抗ウイルス効果あり)
B:対数減少値が1.0以上2.0未満(抗ウイルス効果あり)
C:対数減少値が1.0未満(抗ウイルス効果なし)
【0091】
JEM1467「家庭用空気清浄機」の附属書F「フィルタに捕捉したウイルスに対する抑制性能評価試験方法」(細菌・カビは本規格参考)では、いずれの微生物試験においても、試験品上に各微生物液を滴下し直ちに試験開始前に自然乾燥させ、微生物液を乾燥させた状態で24時間作用させたため、この試験によって得られた結果を、乾燥した表面上(気相中)での抗ウイルス(または抗菌、防黴)効果とする。
【0092】
(ゼータ電位の測定方法)
上記ナノダイヤモンド粒子分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子のゼータ電位は、Malvern社製の装置(商品名「ゼータサイザー ナノZS」)を使用して、レーザードップラー式電気泳動法によって測定した。ゼータ電位を測定するときは、ナノダイヤモンド粒子分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子の平均粒子径(D50)が100nm以下になるように分散処理(例えば超音波処理)を施したものを用いた。また、ナノダイヤモンド粒子分散液のpHは、pH試験紙(商品名「スリーバンドpH試験紙」、アズワン株式会社製)を使用して確認した。
【0093】
(表面状態の観察方法)
上記材料の表面は、株式会社日立ハイテク製の走査電子顕微鏡(SEM)(商品名「SU5000」)を使用して観察した。測定条件は、加速電圧:3.0kV、スポット強度:30、導電処理:Ptとした。
【0094】
(ナノダイヤモンド粒子の塗布量の算出方法)
上記材料の、表面積あたりの上記ナノダイヤモンド粒子の塗布量(A)は下記数式(2)の通り、重量増加値(X)及び材料の表面積(Y)から算出される。なお、重量増加値(X)はナノダイヤモンド粒子付着処理における塗布後の重量(ここで塗布後の重量とは、塗布処理後の上記材料が乾燥した後の重量のことを指す)から、塗布前の重量を差し引くことによって算出される。また、材料の表面積(Y)は表面が平滑であると仮定して算出される表面積である。すなわち、例えば材料が長方形の平板である場合、長方形の短辺に長辺を乗ずることで求められる長方形の面積が材料の表面積(Y)にあたる。
A=X/Y (2)
【0095】
【表1】
【0096】
表1より、本開示の材料は、様々なウイルスに対して、フィルタが実際に使用される条件として想定される、乾燥した表面上においても、優れた抗ウイルス効果を示すことが分かった。
【0097】
以下、本開示に係る発明のバリエーションを記載する。
[付記1]表面に凹凸形状を有する本体部と、前記凹凸上に付着したナノダイヤモンド粒子とを備える、材料。
[付記2]前記本体部は、基材と、前記基材上に形成された皮膜とを含む、付記1に記載の材料。
[付記3]前記皮膜はリン酸亜鉛皮膜である、付記2に記載の材料。
[付記4]前記ナノダイヤモンド粒子のゼータ電位がポジティブである、請求項1又は2に記載の材料。
[付記5]抗ウイルス効果、抗菌効果、及び防黴効果からなる群より選択される少なくとも1つの効果を有する、付記1~4のいずれか1つに記載の材料。
[付記6]フィルタに付記1~5のいずれか1つに記載の材料が取り付けられた、材料付きフィルタ。
[付記7]気相中で用いる付記6に記載の材料付きフィルタ。
[付記8]付記1~5のいずれか1つに記載の材料の作製に用いられるナノダイヤモンド粒子分散液であり、前記ナノダイヤモンド粒子分散液は前記ナノダイヤモンド粒子と前記ナノダイヤモンド粒子が分散した溶媒とを含み、前記溶媒は少なくとも水を含み、前記ナノダイヤモンド粒子分散液に含まれる前記ナノダイヤモンド粒子の濃度は0.01~10質量%である、ナノダイヤモンド粒子分散液。
[付記9]付記8に記載のナノダイヤモンド粒子分散液を含む、塗工液、めっき液、及び化成処理液からなる群から選ばれる少なくとも1つの製品。
【符号の説明】
【0098】
1 材料付きフィルタ
2 フィルタ本体
3 材料
30 浄化部
31 第1脚部
32 第2脚部
4 本体部
41 基材
42 皮膜
42a 凸部
42b 凹部
5 ナノダイヤモンド粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10