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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012801
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】X線透視装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/12 20060101AFI20250117BHJP
   A61B 6/00 20240101ALI20250117BHJP
【FI】
A61B6/12
A61B6/00 370
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115914
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【弁理士】
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】押川 翔太
(72)【発明者】
【氏名】柴田 基
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA01
4C093AA04
4C093AA25
4C093CA16
4C093FC13
4C093FF28
4C093FF37
(57)【要約】
【課題】連続的に取得されるX線透視画像の各々に対して適切にサーチエリアを設定することにより、マーカを正確かつ迅速に探索できるX線透視装置を提供する。
【解決手段】
X線透視画像Pの各々にサーチエリアSを設定するサーチエリア設定部22と、サーチエリアSの内部を探索してマーカ10を検出するマーカ検出部21と、マーカ10として検出された検出対象Fを判定する検出対象判定部23とを備える。所定の第1X線透視画像における検出対象Fがマーカ10と判定された場合、当該検出対象Fの位置に基づいて、その後に生成される第2X線透視画像にサーチエリアSを設定する。第1X線透視画像の検出対象Fが類似対象Rと判定された場合、第1X線透視画像より前に生成されており検出対象がマーカ10と判定されている第3X線透視画像の検出対象Fに基づいて第2X線透視画像にサーチエリアSを設定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体にX線を照射するX線管と、
前記被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、
前記X線検出器が出力する検出信号を用いて、前記被検体の体内に留置されたマーカまたは前記被検体の特定部位を含む複数のX線透視画像を生成する画像生成部と、
前記複数のX線透視画像の各々に対してサーチエリアを設定するサーチエリア設定部と、
前記X線透視画像の各々に設定される前記サーチエリアの内部を探索することにより、追跡対象である前記マーカまたは前記特定部位を検出する追跡対象検出部と、
前記複数のX線透視画像の各々において前記追跡対象検出部が前記追跡対象として検出した検出対象が、前記追跡対象であるか前記追跡対象とは異なる対象であるかを判定する検出対象判定部と、
を備え、
前記画像生成部が生成する前記複数のX線透視画像は、第1X線透視画像と、当該第1X線透視画像より後の時刻に生成される第2X線透視画像と、当該第1X線透視画像よりも前の時刻に生成されており前記検出対象判定部が前記検出対象を前記追跡対象と判定している第3X線透視画像とを含み、
前記サーチエリア設定部は、
前記検出対象判定部が前記第1X線透視画像における前記検出対象を前記追跡対象と判定した場合、前記第1X線透視画像における前記検出対象の位置情報に基づいて前記第2X線透視画像に前記サーチエリアを設定し、
前記検出対象判定部が前記第1X線透視画像における前記検出対象を前記追跡対象とは異なる対象であると判定した場合、前記第3X線透視画像における当該検出対象の位置情報に基づいて前記第2X線透視画像に前記サーチエリアを設定する、X線透視装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線透視装置において、
前記第1X線透視画像と前記第3X線透視画像との間において前記検出対象が移動した距離および移動した方向に基づいて、前記第1X線透視画像における前記検出対象の移動距離および移動ベクトルを算出する移動ベクトル算出部と、
前記移動ベクトルの情報に基づいて前記第1X線透視画像における前記検出対象が高速移動状態であるか低速移動状態であるかを判定する移動状態判定部と、
を備え、
前記検出対象判定部は、
前記第1X線透視画像における前記検出対象が前記高速移動状態であると判定された場合と前記低速移動状態であると判定された場合とでは、前記第1X線透視画像における前記検出対象が前記追跡対象であるか前記追跡対象とは異なる対象であるかを判定する基準がそれぞれ異なるように構成される、X線透視装置。
【請求項3】
請求項2に記載のX線透視装置において、
前記第1X線透視画像より前に生成されており、かつ前記検出対象判定部によって前記検出対象が前記追跡対象と判定されている複数の前記X線透視画像における前記検出対象の移動距離の平均値を算出する平均距離算出部を備え、
前記移動状態判定部は、
前記第1X線透視画像における前記検出対象の移動距離と前記平均距離算出部が算出した前記平均値とがいずれも所定値以上である場合に前記第1X線透視画像における前記検出対象が前記高速移動状態と判定し、
前記第1X線透視画像における前記検出対象の移動距離と前記平均距離算出部が算出した前記平均値とのいずれかが前記所定値未満である場合に前記低速移動状態と判定するように構成される、X線透視装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のX線透視装置において、
前記第1X線透視画像における前記検出対象が前記高速移動状態であると前記移動状態判定部が判定した場合、
前記検出対象判定部は、前記第1X線透視画像における前記検出対象の移動ベクトルと前記第3X線透視画像における前記検出対象の移動ベクトルとの内積がゼロ以上である場合は前記第1X線透視画像における前記検出対象が前記追跡対象であると判定する一方で、前記内積が負の値である場合は前記第1X線透視画像における前記検出対象が前記追跡対象とは異なる対象であると判定するように構成され、
前記第1X線透視画像における前記検出対象が前記低速移動状態であると前記移動状態判定部が判定した場合、
前記検出対象判定部は、前記第1X線透視画像における前記検出対象の移動距離と、前記平均距離算出部が算出した前記平均値との乖離率が第2所定値未満である場合は前記第1X線透視画像における前記検出対象が前記追跡対象であると判定する一方で、前記乖離率が前記第2所定値以上である場合は前記検出対象が前記追跡対象とは異なる対象であると判定するように構成される、X線透視装置。
【請求項5】
被検体にX線を照射するX線管と、
前記被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、
前記X線検出器が出力する検出信号を用いて複数のX線透視画像を生成する画像生成部と、
前記複数のX線透視画像の各々に対してサーチエリアを設定するサーチエリア設定部と、
前記X線透視画像の各々に設定される前記サーチエリアの内部を探索することにより、前記被検体の体内に留置されたマーカまたは前記被検体の特定部位を追跡対象として検出する追跡対象検出部と、
前記X線透視画像に設定された前記サーチエリアの一部が前記X線透視画像の外部に位置する状態であるフレームアウト状態の発生を検知するフレームアウト検知部と、
前記追跡対象が前記X線透視画像の外部から内部へ復帰した状態である追跡対象復帰状態の発生を検知する追跡対象復帰検知部と、
を備え、
前記サーチエリア設定部は、
前記フレームアウト状態が検知された場合、前記追跡対象復帰状態が検知されるまでの間は前記フレームアウト状態が検知された時点で生成された前記X線透視画像において検出された前記追跡対象の位置情報に基づいて前記サーチエリアを設定する、X線透視装置。
【請求項6】
請求項5に記載のX線透視装置において、
前記フレームアウト検知部は、
前記サーチエリアが前記X線透視画像の外縁部に当接または交差する場合に前記フレームアウト状態の発生を検知するように構成される、X線透視装置。
【請求項7】
請求項5に記載のX線透視装置において、
前記サーチエリア設定部は、
前記フレームアウト状態の発生が検知された場合、前記フレームアウト状態が検知された時点における前記サーチエリアの広さを所定の拡大率で拡大させるとともに当該サーチエリアが前記X線透視画像の外縁部に当接するように、次に生成される前記X線透視画像に前記サーチエリアを設定するX線透視装置。
【請求項8】
請求項5に記載のX線透視装置において、
前記サーチエリア設定部は、
前記フレームアウト状態が検知された場合、前記追跡対象復帰状態が検知されるまでの間は前記フレームアウト状態が検知された時点で生成された前記X線透視画像において検出された前記追跡対象の位置情報に基づいて前記サーチエリアを設定するエリア固定状態に移行し、
前記フレームアウト状態が検知された後に前記追跡対象復帰状態が検知されることによって前記エリア固定状態を解除し、最新の前記X線透視画像から検出される前記追跡対象の位置情報に基づいて前記サーチエリアが設定される状態を再開するように構成される、X線透視装置。
【請求項9】
請求項5に記載のX線透視装置において、
前記追跡対象検出部が前記追跡対象として検出した検出対象のマッチングスコアを前記X線透視画像の各々について取得するスコア取得部と、
第1の前記X線透視画像と当該第1の前記X線透視画像よりも前の時刻に生成されている第2の前記X線透視画像との間において前記検出対象が移動した距離および移動した方向に基づいて、前記第1の前記X線透視画像における前記検出対象の移動距離および移動ベクトルを算出する移動ベクトル算出部と、
を備え、
前記追跡対象復帰検知部は、
第1の前記X線透視画像における前記検出対象の移動ベクトルと前記フレームアウト状態が発生する際に算出された前記検出対象の移動ベクトルとが反対方向であり、かつ前記第1の前記X線透視画像における前記検出対象の前記マッチングスコアと前記フレームアウト状態が発生する際に算出された前記マッチングスコアとの比が第3所定値以上である場合に、前記第1の前記X線透視画像における前記追跡対象復帰状態の発生を検知するように構成される、X線透視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線撮影装置に関する。
【0002】
医療現場では、腫瘍を例とする患部に対してX線または電子線を例とする放射線を照射する放射線治療を行う場合がある。この場合、治療用の比較的強い放射線を患部へ正確に照射する必要がある。しかし、被検体の呼吸または拍動などが原因となって患部が移動することがある。このような患部の移動があっても放射線を正確に照射すべく、マーカを用いて動体追跡を行う放射線治療システムが提案されている。当該放射線治療システムでは、腫瘍または腫瘍の近傍に金属球を例とするマーカを留置させた後、当該マーカの位置をX線透視装置によって特定する。そして特定されたマーカの位置と治療計画の座標との距離が許容範囲内である場合、放射線治療装置から治療用放射線を被検体へ照射させる制御を行う(例えば、特許文献1)。
【0003】
このような放射線治療システムで用いられるX線透視装置は、第1のX線管および第1のX線検出器で構成される第1の撮像系と、第2のX線管および第2のX線検出器で構成される第2の撮像系とを備える。第1の撮像系および第2の撮像系は、それぞれ異なる方向からX線を照射するように構成されている。
【0004】
マーカの三次元位置を算出する場合、第1の撮像系と第2の撮像系とを用いて、被検体の体内に留置されたマーカを映す二次元のX線透視画像を取得する。そして各々のX線透視画像においてマーカを探索し、マーカの二次元位置情報を取得する。それぞれ異なる方向から撮影されたX線透視画像において得られたマーカの二次元位置情報を用いることにより、三次元におけるマーカの位置情報を算出できる。第1の撮像系および第2の撮像系を用いたX線透視を連続して行うことにより、移動を伴う患部に留置されたマーカの三次元位置をリアルタイムかつ高精度で検出できる。X線透視画像のフレームレートとして、1秒間に15フレームまたは30フレームなどが挙げられる。
【0005】
二次元のX線透視画像においてマーカを探索する手法としては、マーカのテンプレート画像を利用したテンプレートマッチング、または識別器を利用した機械学習によって画像認識を行う手法などが提案されている。またマーカの二次元位置を検出するための所要時間を短縮する手法として、X線透視画像の内部にサーチエリアを設定し、当該サーチエリア内に限定してマーカを探索する手法が提案されている。
【0006】
すなわちX線透視画像においてマーカの位置が検出された場合、一例として当該マーカの位置を中心とする所定の範囲をサーチエリアとして定める。そして定められたサーチエリアを、次のフレームで取得されるX線透視画像に設定する。設定されたサーチエリア内で探索を行うことで、当該次のフレームのX線透視画像においてマーカの位置を迅速に検出できる。そして検出されたマーカの位置情報は、さらに次のフレームにおけるサーチエリアに反映される。このようにX線透視画像を連続的に取得しつつ、各々のX線透視画像についてサーチエリアの位置を逐次更新していく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-170884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
【0009】
サーチエリアをX線透視画像に設定して当該サーチエリア内に限定してマーカを探索する場合、X線透視画像を連続して取得するにつれてサーチエリアが適切な位置に設定されなくなり、マーカの位置を検出することが困難になるという問題が懸念される。
【0010】
このような問題が発生する原因としては以下のようなものが考えられる。すなわち、X線透視画像には、追跡対象である真正のマーカに加えて、マーカに類似するが追跡対象とは異なる対象(以下「類似対象」とする)が映ることがある。そして連続して取得されるX線透視画像のうち、所定のフレームのX線透視画像において真正のマーカではなく類似対象がマーカとして検出される場合がある。
【0011】
真正のマーカではなく類似対象がマーカとして検出された場合、当該所定のフレームの次のフレームに係るX線透視画像では当該類似対象の位置に基づいて不適切な範囲にサーチエリアが設定されてしまう。すなわち類似対象の位置に基づいてサーチエリアが設定されると、以降に連続取得されるX線透視画像では当該類似対象を追跡するようにサーチエリアの位置が設定されるので、真正のマーカは当該サーチエリアの外部に位置する可能性が徐々に高くなる。その結果、以降のフレームに係るX線透視画像では真正のマーカがサーチエリアに含まれなくなることによって、真正のマーカを探索することが困難となる。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、連続的に取得されるX線透視画像の各々に対して適切にサーチエリアを設定することにより、マーカを正確かつ迅速に探索できるX線透視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち本発明の第1の態様は、被検体にX線を照射するX線管と、前記被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線検出器が出力する検出信号を用いて、前記被検体の体内に留置されたマーカまたは前記被検体の特定部位を含む複数のX線透視画像を生成する画像生成部と、前記複数のX線透視画像の各々に対してサーチエリアを設定するサーチエリア設定部と、前記X線透視画像の各々に設定される前記サーチエリアの内部を探索することにより、追跡対象である前記マーカまたは前記特定部位を検出する追跡対象検出部と、前記複数のX線透視画像の各々において前記追跡対象検出部が前記追跡対象として検出した検出対象が、前記追跡対象であるか前記追跡対象とは異なる対象であるかを判定する検出対象判定部と、を備え、前記画像生成部が生成する前記複数のX線透視画像は、第1X線透視画像と、当該第1X線透視画像より後の時刻に生成される第2X線透視画像と、当該第1X線透視画像よりも前の時刻に生成されており前記検出対象判定部が前記検出対象を前記追跡対象と判定している第3X線透視画像とを含み、前記サーチエリア設定部は、前記検出対象判定部が前記第1X線透視画像における前記検出対象を前記追跡対象と判定した場合、前記第1X線透視画像における前記検出対象の位置情報に基づいて前記第2X線透視画像に前記サーチエリアを設定し、前記検出対象判定部が前記第1X線透視画像における前記検出対象を前記追跡対象とは異なる対象であると判定した場合、前記第3X線透視画像における当該検出対象の位置情報に基づいて前記第2X線透視画像に前記サーチエリアを設定する、X線透視装置に関する。
【0014】
また、本発明の第2の態様は、被検体にX線を照射するX線管と、前記被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線検出器が出力する検出信号を用いて複数のX線透視画像を生成する画像生成部と、前記複数のX線透視画像の各々に対してサーチエリアを設定するサーチエリア設定部と、前記X線透視画像の各々に設定される前記サーチエリアの内部を探索することにより、前記被検体の体内に留置されたマーカまたは前記被検体の特定部位を追跡対象として検出する追跡対象検出部と、前記X線透視画像に設定された前記サーチエリアの一部が前記X線透視画像の外部に位置する状態であるフレームアウト状態の発生を検知するフレームアウト検知部と、前記追跡対象が前記X線透視画像の外部から内部へ復帰した状態である追跡対象復帰状態の発生を検知する追跡対象復帰検知部と、を備え、前記サーチエリア設定部は、前記フレームアウト状態が検知された場合、前記追跡対象復帰状態が検知されるまでの間は前記フレームアウト状態が検知された時点で生成された前記X線透視画像において検出された前記追跡対象の位置情報に基づいて前記サーチエリアを設定する、X線透視装置X線透視装置に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の態様におけるX線透視装置では、追跡対象検出部はサーチエリアの内部を探索することにより、追跡対象であるマーカまたは特定部位をX線透視画像から検出する。検出対象判定部は、複数のX線透視画像の各々において追跡対象検出部が追跡対象として検出した検出対象が、追跡対象であるか前記追跡対象とは異なる対象であるかを判定する。サーチエリア設定部は、検出対象判定部が第1X線透視画像における検出対象を追跡対象と判定した場合、第1X線透視画像における前記検出対象の位置情報に基づいて、第1X線透視画像より後の時点で生成される第2X線透視画像に対してサーチエリアを設定する。またサーチエリア設定部は、検出対象判定部が第1X線透視画像における検出対象を追跡対象とは異なる対象であると判定した場合、第3X線透視画像における検出対象の位置情報に基づいて、第2X線透視画像に前記サーチエリアを設定する。第3X線透視画像は、第1X線透視画像よりも前の時刻に生成されており検出対象が追跡対象と判定されている画像である。このような構成により、追跡対象検出部が追跡対象とは異なる対象を検出した場合であっても、当該非追跡対象を追跡するようにサーチエリアが更新されることを回避できる。よって、非追跡対象の影響を受けることなく追跡対象の位置に応じてサーチエリアを適切に設定し、マーカを例とする追跡対象を精度良く追跡することが可能となる。
【0016】
本発明の第2の態様におけるX線透視装置では、X線透視画像に設定されたサーチエリアの一部がX線透視画像の外部に位置する状態デ有るフレームアウト状態の発生を検知するフレームアウト検知部と、追跡対象がX線透視画像の外部から内部へ復帰した状態である追跡対象復帰状態の発生を検知するマーカ復帰検知部とを備える。フレームアウト状態が検知された場合、追跡対象復帰状態が検知されるまでの間、フレームアウト状態が検知された時点で生成されたX線透視画像から検出された追跡対象の位置情報に基づいてサーチエリアが設定される。このような構成により、マーカがX線透視画像の外部へ移動する場合、速やかにフレームアウト状態の発生が検知されてエリア固定状態へと移行する。そのためマーカがX線透視画像の外部へ移動することに起因して非追跡対象が追跡対象として検出され、当該非追跡対象の位置に基づいて不適切な位置にサーチエリアが設定されることを回避できる。よって、マーカが被検体の体動などによってX線透視画像の外部へと一時的に移動する場合であってもサーチエリアを適切に設定し、マーカを例とする追跡対象を精度良く追跡することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係るX線透視装置の全体構成を説明する斜視図である。
図2】第1実施形態に係るX線透視装置の構成を説明する機能ブロック図である。
図3】第1実施形態に係るX線透視装置の基本動作を説明するフローチャートである。
図4】第1実施形態に係るステップS1を説明する図である。
図5】第1実施形態に係るステップS2を説明する図である。
図6】第1実施形態に係るステップS3を説明する図である。
図7】X線透視画像から類似対象が検出される状態を説明する図である。
図8】従来構成において、類似対象を基準としてサーチエリアが更新される状態を示す図である。
図9】第1実施形態に係るステップS5の詳細を説明するフローチャートである。
図10】第1実施形態に係るステップS501を説明する図である。
図11】第1実施形態に係るステップS502を説明する図である。
図12】第1実施形態に係るステップS503を説明する図である。
図13】第1実施形態に係るステップS504を説明する図である。
図14】マーカが移動する軌跡を説明する図である。
図15】第1実施形態に係るステップS4の詳細を説明するフローチャートである。
図16】第1実施形態に検出対象の移動距離および移動ベクトルを説明する図である。
図17】第1実施形態に係るステップS404において、検出対象がマーカと判定される場合を説明する図である。
図18】第1実施形態に係るステップS404において、検出対象が類似対象と判定される場合を説明する図である。
図19】第1実施形態に係るステップS405において、検出対象がマーカと判定される場合を説明する図である。
図20】第1実施形態に係るステップS405において、検出対象が類似対象と判定される場合を説明する図である。
図21】第1実施形態に係るステップS5において、サーチエリアを拡大して更新する状態を示す図である。
図22】第2実施形態に係るX線透視装置の構成を説明する機能ブロック図である。
図23】第2実施形態に係るX線透視装置の基本動作を説明するフローチャートである。
図24】第2実施形態に係るステップS4の詳細を説明するフローチャートである。
図25】第2実施形態に係るステップS5の詳細を説明するフローチャートである。
図26】第2実施形態において、サーチエリアの一部がX線透視画像の外部に設定した状態を説明する図である。
図27】従来の構成における問題点を説明する図である。
図28】従来の構成における問題点を説明する図である。
図29】第2実施形態におけるエリア固定状態を説明する図である。
図30】第2実施形態におけるエリア固定状態の変形例を説明する図である。
図31】第2実施形態におけるエリア固定状態の変形例を説明する図である。
図32】第2実施形態におけるステップS5を説明する図である。
図33】第2実施形態において、X線透視画像の外部へ移動するマーカの位置とX線透視画像の内部へ移動するマーカの位置との関係を説明する図である。
図34】第1実施形態および第2実施形態の構成を備えるX線透視装置の構成を説明する機能ブロック図である。
図35】変形実施形態に係るX線透視装置の基本動作を説明するフローチャートである。
図36】第1実施形態におけるステップS405を説明するフローチャートである。
図37】第1実施形態におけるステップS406を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
以下、図面を参照してこの発明の第1実施形態を説明する。第1実施形態に係るX線透視装置1は、図示しない治療放射線照射装置とともに放射線放射線治療システムを構成する。
【0019】
<全体構成の説明>
第1実施形態に係るX線透視装置1は図1に示すように、天板3と、基台4と、第1のX線管5と、第1のX線検出器6と、第2のX線管7と、第2のX線検出器8とを備えている。天板3は被検体Mを載置させるものであり、床面に配設された基台4に支持されている。基台4は昇降移動可能に構成されており、基台4が昇降移動することによってz方向における天板3の位置が調整される。また図示しない天板駆動部によって、天板3はx方向(天板3の長手方向)、およびy方向(天板3の短手方向)に水平移動可能となるように構成されている。
【0020】
第1のX線管5および第2のX線管7は、被検体Mに対してそれぞれ異なる方向からX線を照射する。第1のX線検出器6は、天板3を挟んで第1のX線管5と対向配置されている。第1のX線検出器6は、第1のX線管5から照射されたX線を検出して電気信号に変換する。第1のX線管5と第1のX線検出器6とは、第1の撮像系L1を構成している。第2のX線検出器8は、天板3を挟んで第2のX線管7と対向配置されている。第2のX線検出器8は、第2のX線管7から照射されたX線を検出して電気信号に変換する。第2のX線管7と第2のX線検出器8とは、第2の撮像系L2を構成している。第1のX線検出器6および第2のX線検出器8の例としては、FPD(Flat Panel Detector)などが挙げられる。
【0021】
被検体Mの体内にはマーカ10が予め留置されている。マーカ10は一例として金属などのX線不透過材料で構成されており、被検体Mの患部または患部の近傍に留置される。本実施形態ではマーカ10を追跡対象として各種処理を行う。
【0022】
X線透視装置1は図2に示すように、さらに主制御部9と表示部11と、入力部13と、記憶部15とを備えている。主制御部9は、一例として中央処理演算装置(CPU:Central Processing Unit)などの情報処理手段を備えており、X線透視装置1における各種構成を統括制御する。主制御部9は第1の撮像系L1および第2の撮像系L2を例とする各構成と接続されている。
【0023】
主制御部9は図2に示すように、X線照射制御部17と、画像生成部19と、マーカ検出部21と、サーチエリア設定部22と、検出対象判定部23と、サーチエリア更新部25と、マーカ位置算出部26と、移動ベクトル算出部27と、平均距離算出部28と、移動状態判定部29とを備えている。
【0024】
X線照射制御部17は、第1のX線管5および第2のX線管7の各々を独立制御するように構成されている。X線照射制御部17は、第1のX線管5および第2のX線管7の各々に高電圧を出力させるように構成されている。X線照射制御部17の制御によって出力された高電圧出力に基づいて、第1のX線管5および第2のX線管7の各々が照射するX線量、およびX線を照射するタイミングが制御される。
【0025】
画像生成部19は、第1のX線検出器6および第2のX線検出器8の各々から出力されたX線検出信号に基づいて各種画像処理を行ってX線透視画像Pを生成する。画像生成部19は、第1のX線管5および第2のX線管7の各々から連続的にX線が照射されるタイミングに応じて、複数のX線透視画像Pを連続的に生成する。
【0026】
なお連続的に生成される複数のX線透視画像Pのうち、各々の撮像系において最初に生成されるX線透視画像についてはX線透視画像Pとし、各々の撮像系においてm番目に生成されるX線透視画像についてはX線透視画像Pとして他のX線透視画像Pと区別する。本実施形態において、最も新しく生成されたX線透視画像を「X線透視画像P」とする。すなわちX線透視画像Pの直近に生成されたX線透視画像は「X線透視画像Pn-1」であり、X線透視画像Pn-1の直近に生成されたX線透視画像は「X線透視画像Pn-2」である。そしてX線透視画像Pの次に生成される予定となるX線透視画像については「X線透視画像Pn+1」と符号を付すものとする。
【0027】
マーカ検出部21は、X線透視画像Pを走査することによってX線透視画像Pに映るマーカ10を検出する。本実施形態において、マーカ検出部21はテンプレートマッチングの手法によってマーカ10を探索する。すなわちマーカ10の画像を予めテンプレート画像Tpとして取得する。マーカ検出部21は、テンプレート画像Tpに映るマーカ10の像を参照してX線透視画像Pを探索する。そして、テンプレート画像Tpのマーカ10と類似度(マッチングスコア)が最も高い対象をX線透視画像Pから検出する。
【0028】
ここで、マーカ検出部21がマーカ10としてX線透視画像Pの各々から検出する対象を「検出対象F」とする。また、m番目に生成されるX線透視画像Pからマーカ検出部21が検出する検出対象Fについては「検出対象F」とし、他のX線透視画像Pから検出される検出対象Fと区別する。なお、マーカ検出部21がX線透視画像Pからマーカ10を検出する手法はテンプレートマッチングに限ることはなく、識別器を用いた機械学習による手法を例とする適宜の方法を用いてもよい。
【0029】
また、マーカ検出部21は検出対象Fを検出する際に、検出対象Fの位置に関する情報を検出対象位置Bとして取得する。なおX線透視画像Pから検出される検出対象Fの位置情報については「検出対象位置B」とし、他のX線透視画像Pにおける検出対象位置Bと区別する。本実施形態において、マーカ検出部21は追跡対象検出部に相当する。
【0030】
サーチエリア設定部22は、図5などに示すように、X線透視画像Pの各々にサーチエリアSを設定する。サーチエリアSは、X線透視画像Pのうちマーカ10が移動する可能性がある範囲として設定される。マーカ検出部21は、X線透視画像PのうちサーチエリアSの内部領域を走査する。マーカ検出部21が走査する領域をX線透視画像Pの全体ではなくサーチエリアSの内部に限定することにより、マーカ10の検出工程を短縮できる。なおm番目に生成されるX線透視画像Pに設定されるサーチエリアSについては「サーチエリアS」と符号を付し、他のX線透視画像Pから検出されるサーチエリアSと区別する。
【0031】
検出対象判定部23は、X線透視画像Pを走査することで検出した検出対象Fについて、真正のマーカ10および類似対象Rのいずれであるかを判定する。類似対象Rは、マーカ10と類似するがマーカ10とは異なる対象である。すなわち真正のマーカ10は追跡対象である一方、類似対象Rは非追跡対象である。類似対象Rの一例として、マーカ10とは異なる金属物、またはノイズなどが挙げられる。検出対象判定部23が検出対象Fの各々を判定する工程の詳細については後述する。検出対象判定部23は最新のX線透視画像Pが生成されると、マーカ検出部21がX線透視画像Pから検出した検出対象Fについて、真正のマーカ10および類似対象Rのいずれであるかを判定する。
【0032】
サーチエリア更新部25は、検出対象判定部23が検出対象Fについて判定した結果に基づいて、X線透視画像Pに設定されるサーチエリアSの情報を更新する。サーチエリア更新部25によって更新されるサーチエリアSの情報の一例として、X線透視画像PにおけるサーチエリアSの位置情報、サーチエリアSの広さに関する情報などが挙げられる。サーチエリア設定部22は、サーチエリア更新部25が更新した情報に基づいて、この後に生成されるX線透視画像Pに対してサーチエリアSを設定する。サーチエリア更新部25によって更新したサーチエリアSの情報は、後述するサーチエリア記憶部34に記憶される。
【0033】
マーカ位置算出部26は、第1の撮像系L1によって取得された第1のX線透視画像Pと第2の撮像系L2の各々によって取得された第2のX線透視画像Pとを用いて、三次元空間におけるマーカ10の位置を算出する。第1のX線透視画像Pと第2のX線透視画像PとはX線の照射方向が互いに異なる。そのため当該2枚の二次元画像におけるマーカ10の位置情報に基づいて、被検体Mにおけるマーカ10の三次元位置情報を取得できる。
【0034】
移動ベクトル算出部27は、X線透視画像Pの各々について検出対象Fの移動距離Gの情報と検出対象Fの移動方向Hの情報とを取得する。また移動ベクトル算出部27は、X線透視画像Pにおける移動距離Gの情報および移動方向Hの情報から、X線透視画像Pにおける検出対象Fの移動ベクトルVを算出する。なおX線透視画像Pに映る検出対象Fの移動距離G、移動方向H、および移動ベクトルVの各々については「移動距離G」、「移動方向H」、「移動ベクトルV」と符号を付し、他の検出対象Fについての移動距離G、移動方向H、および移動ベクトルVの各々と区別する。
【0035】
X線透視画像Pにおける検出対象Fの移動ベクトルVは、2枚のX線透視画像Pの間における検出対象Fの移動距離Gおよび移動方向Hに基づいて算出される。言い換えると移動ベクトルVは、所定のフレーム間において検出対象Fが移動した距離および方向に基づいて算出される。
【0036】
一例としてX線透視画像Pにおける検出対象Fの移動距離Gとは、X線透視画像Pと当該X線透視画像Pより前の時点で生成されたX線透視画像Pm-aとの間において検出対象Fが移動した距離に相当する。後述するように、X線透視画像Pm-aは検出対象Fm-aが真正のマーカ10と判定されたX線透視画像Pである。
【0037】
検出対象Fm-1が検出対象判定部23によってマーカ10と判定されている場合、X線透視画像Pm-1とX線透視画像Pとの間において検出対象Fが移動した距離を検出対象Fの移動距離Gとすることができる。この場合、検出対象Fの移動距離Gは、X線透視画像Pm-1における検出対象Fm-1の位置とX線透視画像Pにおける検出対象Fの位置との間の距離に相当する。
【0038】
また、検出対象Fm-1が類似対象Rと判定されている一方で検出対象Fm-2がマーカ10と判定されている場合、X線透視画像Pm-2とX線透視画像Pとの間において検出対象Fが移動した距離を検出対象Fの移動距離Gとすることができる。この場合、検出対象Fの移動距離Gは、検出対象Fm-2の位置と検出対象Fの位置との間の距離に相当する。
【0039】
平均距離算出部28は、近い過去におけるマーカ10の移動距離の平均値を平均移動距離Gavとして算出する。平均距離算出部28は、既に算出されている複数の移動距離Gのデータのうち、所定数の移動距離Gのデータを選択する。そして選択された移動距離Gのデータの平均値を平均移動距離Gavとして算出する。平均距離算出部28が選択する移動距離Gのデータの数は適宜変更してよい。本実施形態では4つの移動距離Gのデータから平均移動距離Gavを算出するものとする。一例として検出対象Fの移動距離Gに対応する平均移動距離Gavを算出する場合、近い過去における移動距離Gに相当する移動距離Gm-1~Gm-4のデータを選択して平均値を算出することが好ましい。
【0040】
平均距離算出部28によって選択される移動距離Gのデータは、マーカ10であると判定された検出対象Fの移動距離に限定される。すなわち一例として検出対象Fm-1~Fm-3の全てが検出対象判定部23によってマーカ10と判定されている場合、検出対象Fm-2から検出対象Fm-1までの移動距離Gm-1、および検出対象Fm-3から検出対象Fm-2までの移動距離Gm-2のデータはマーカ10が移動した距離に相当する。そのため移動距離Gm-1および移動距離Gm-2のデータは平均距離算出部28の選択対象となる。
【0041】
一方で検出対象Fm-3が検出対象判定部23によって類似対象Rと判定されている場合、検出対象Fm-3から検出対象Fm-2までの移動距離Gm-2のデータはマーカ10が移動した距離に相当しないので平均距離算出部28の選択対象とはならない。このようにマーカ10であると判定された検出対象F同士の移動距離Gを選択して平均値を算出することにより、平均距離算出部28はマーカ10の平均移動距離Gavを算出できる。
【0042】
移動状態判定部29は、X線透視画像Pに映る検出対象Fの移動状態を判定する。すなわち移動状態判定部29は、移動ベクトル算出部27が取得した移動距離Gの情報に基づいて、X線透視画像Pに映る検出対象Fが高速移動状態と低速移動状態とのどちらであるかを判定する。移動状態判定部29が検出対象Fの移動状態を判定する基準および工程の詳細については後述する。本実施形態では、移動状態判定部29が判定する結果に応じて、類似対象判定部が検出対象Fを判定する基準が変化する構成となっている。
【0043】
表示部11は、X線透視装置1に関する各種情報、X線透視に関する各種パラメータ情報、または画像処理部19によって生成されたX線透視画像Pなどを表示する。表示部11の一例として、液晶モニタまたは高精度ディスプレイなどが挙げられる。
【0044】
入力部13は、X線透視装置1の操作に関する操作者の指示を入力するものであり、術者が入力部13に入力する指示に従って主制御部9は各種制御を行う。入力部13に配設される操作用デバイスの例として、キーボード入力式のパネル、タッチ入力式のパネル、マウス、スイッチなどが挙げられる。
【0045】
記憶部15は、画像生成部19が生成するX線透視画像P、画像処理部19による画像処理に関する情報、またはX線透視装置1の動作に関する各種情報などを記憶する。記憶された情報は適宜必要に応じて読み出され、主制御部9を介して表示部11などに出力される。記憶部15は、不揮発性メモリを例とする記憶媒体で構成されている。
【0046】
記憶部15は図2に示すように、テンプレート記憶部31と真正マーカ記憶部33とサーチエリア記憶部34とを備えている。テンプレート記憶部31は、マーカ10が映っている基本画像であるテンプレート画像Tpを予め記憶する。
【0047】
真正マーカ記憶部33は、検出対象判定部23の判定結果に応じて、最も新しく真正マーカと判定された検出対象Fの位置情報を記憶する。すなわち最新の検出対象Fについて検出対象判定部23が真正のマーカ10であると判定した場合、真正マーカ記憶部33に記憶される位置情報は、検出対象Fの位置情報である検出対象位置Bに更新される。最新の検出対象Fについて検出対象判定部23が類似対象であると判定した場合、真正マーカ記憶部33に記憶される検出対象位置Bの情報は、更新されることなく維持される。
【0048】
真正マーカ記憶部33に記憶される検出対象位置Bの情報は、サーチエリア設定部22が設定するサーチエリアSの基準位置の情報として用いられる。基準位置は、X線透視画像PにおけるサーチエリアSの位置を決定する基準として用いられる。本実施形態では基準位置を中心とする範囲として、サーチエリア更新部25は次に設定されるサーチエリアSの情報を更新する。
【0049】
サーチエリア記憶部34は、次に設定されるサーチエリアSの情報を記憶する。記憶されるサーチエリアSの情報の例として、サーチエリアSの形状および広さに関する情報、またはX線透視画像PにおけるサーチエリアSの位置に関する情報が挙げられる。サーチエリア記憶部34に記憶されるサーチエリアSの情報は、サーチエリア更新部25によって更新される。またサーチエリア設定部22は、サーチエリア記憶部34に記憶されているサーチエリアSの情報を用いて、以降に生成されるX線透視画像PにサーチエリアSを設定する。
【0050】
<基本動作の説明>
ここで、第1実施形態に係るX線透視装置1の基本動作について説明する。本実施形態では、X線透視装置1を用いてX線透視を行うことでマーカ10を追跡する。図3は、第1実施形態に係るX線透視装置1を用いてマーカ10を追跡する工程の概要を示すフローチャートである。概要として、X線透視では一例として30fps程度のフレームレートでX線透視画像Pを連続的に取得し、X線透視画像Pが取得されるたびにステップS1~S6の工程を繰り返すことでマーカ10の位置を断続的に特定する。ここではステップS1~S6の工程を(n-1)回繰り返しており、n回目の工程を実行する場合を例として説明する。
【0051】
ステップS1(X線透視画像の生成)
まず、予めマーカ10が体内に留置されている被検体Mを天板3に載置させ、第1の撮像系L1および第2の撮像系L2を用いてX線透視を行う。X線照射方向が異なる2つの撮像系により、それぞれ異なる方向から撮影された2枚のX線透視画像Pが画像生成部19によって生成される。図4は、ステップS1において取得されるX線透視画像Pを示す模式図である。X線透視画像Pには追跡対象であるマーカ10の他に、非追跡対象である類似対象Rが含まれているものとする。
【0052】
X線透視画像Pが生成されると、新しく生成された2枚のX線透視画像Pの各々に対して、以降のステップS2~S6の工程が行われる。なお以降の説明では、第1の撮像系L1によって生成されるX線透視画像Pに限定して説明するものとする。またここではX線透視がn回行われ、n番目のX線透視画像Pが最も新しく生成されている場合を例として説明する。また最初に生成されたX線透視画像Pから直近に生成されたX線透視画像Pn-1までの各々において、マーカ検出部21によって検出された検出対象Fは全て真正のマーカ10であったものとする。この場合、直近のX線透視画像Pn-1において検出された検出対象Fn-1の位置(検出対象位置Bn-1)が、直近におけるマーカ10の位置に相当する。そのため、真正マーカ記憶部33には検出対象位置Bn-1の情報が記憶されている。そしてサーチエリア記憶部34には、検出対象位置Bn-1を中心とするサーチエリアSの情報が記憶されている。
【0053】
ステップS2(サーチエリアの設定)
X線透視画像Pが新たに生成されると、当該最新のX線透視画像Pに対してサーチエリアSの設定を行う。ステップS2が開始されると、サーチエリア設定部22はサーチエリア記憶部34に記憶されている情報に基づいて、X線透視画像PにサーチエリアSを設定する。ここでは最新のX線透視画像PはX線透視画像Pであるので、サーチエリア設定部22はX線透視画像PにサーチエリアSを設定する。
【0054】
サーチエリア設定部22は、直近に取得されたマーカ10の位置情報に基づいてサーチエリアSを設定する。X線透視画像Pの前に生成されたX線透視画像Pにおいて、検出対象Fn-1は真正のマーカ10であると判定されている。そのため、直近に真正のマーカ10と判定された検出対象Fの位置情報は検出対象位置Bn-1の情報であるので、検出対象位置Bn-1の情報が真正マーカ記憶部33に記憶されている。そしてサーチエリア記憶部34には、真正マーカ記憶部33に記憶されている検出対象位置Bn-1を基準位置として、次に設定されるサーチエリアの情報が記憶されている。
【0055】
本実施形態では、サーチエリア記憶部34に記憶されるサーチエリアSは、直近に取得されたマーカ10の位置を中心とする矩形状の領域であるものとする。すなわちX線透視画像Pに設定されるサーチエリアS図5に示すように、検出対象位置Bn-1を中心とする矩形状の領域に相当する。なおサーチエリアSの幅Wおよび高さQは、一例として1フレームの間におけるマーカ10の最大移動距離などに応じて適宜設定される。この場合、1フレームの間にマーカ10が移動する可能性がある範囲としてサーチエリアSが設定される。
【0056】
ステップS3(マーカの探索)
X線透視画像PにサーチエリアSが設定されると、マーカ検出部21はX線透視画像Pにおいてマーカ10を探索する。本実施形態において、マーカ検出部21はテンプレートマッチングの手法を用いてマーカ10を探索する。すなわちマーカ検出部21は、テンプレート画像Tpに映るマーカ10の像を参照し、X線透視画像PのうちサーチエリアSの内部を走査する。そしてマーカ検出部21はサーチエリアSの内部において、テンプレート画像Tpのマーカ10と類似度が高い対象を探索する。そしてサーチエリアSの内部においてマーカ10を探索することにより、マーカ10との類似度が最も高いと判定された対象がマーカ検出部21によって検出される。すなわちマーカ検出部21がサーチエリアSの内部を走査することにより、検出対象Fが検出される。
【0057】
またマーカ検出部21は検出対象Fを検出する際に、検出対象Fの位置に関する情報を検出対象位置Bとして取得する。ここではX線透視画像Pに設定されているサーチエリアSを走査することにより、検出対象Fが検出されるとともに検出対象位置Bの情報が取得される。なお検出対象Fを検出する際に、テンプレート画像Tpのマーカ10と検出対象Fとの類似度の情報がマッチングスコアCとして記憶部15に記憶される。すなわちテンプレート画像Tpのマーカ10と検出対象Fとの類似度の情報がマッチングスコアCとして記憶部15に記憶される。
【0058】
ステップS4(検出対象の判定)
マーカ検出部21がマーカ10としてX線透視画像Pから検出する検出対象Fは、実際に真正のマーカ10である場合が多い。検出対象Fが真正のマーカ10である場合、当該検出対象Fを基準(ここでは中心)として次フレームのX線透視画像PにサーチエリアSを設定することで、適切にマーカ10の追跡を続行できる。しかしながらその一方で図7に示すように、マーカ検出部21は類似対象Rをマーカ10として検出する場合がある。すなわちマーカ検出部21によって検出される検出対象Fが、実際にはマーカ10ではなく類似対象Rである場合がある。
【0059】
検出対象Fが類似対象Rである場合、次に生成されるX線透視画像Pn+1に対して検出対象Fを中心とするサーチエリアSn+1を設定させると、図8に示すようにサーチエリアSn+1は類似対象Rを中心として設定されることとなる。この場合、X線透視画像Pn+1において真正のマーカ10がサーチエリアSn+1から外れる可能性が高くなる。マーカ10がサーチエリアSから外れるとX線透視画像Pn+1から類似対象Rがマーカ検出部21によって検出される頻度が高くなるので、結果として以降に取得されるX線透視画像Pにおいてマーカ10を適切に追跡することが困難となる。このように、テンプレートマッチングを例とする手法によって検出された検出対象Fをそのまま次に設定されるサーチエリアSの基準位置として用いると、検出対象Fが類似対象Rであることに起因してマーカ10の追跡精度が低下する事態が懸念される。
【0060】
そこで本実施形態では、マーカ検出部21によって検出対象FがX線透視画像Pから検出されると、ステップS4を開始して検出対象判定部23による検出対象Fの判定を行う。検出対象判定部23は、検出対象Fが真正のマーカ10と類似対象Rとのいずれに該当するかを判定する。検出対象判定部23は、検出対象Fの移動態様に基づいて検出対象Fを判定する。検出対象判定部23が検出対象Fを判定する基準および手法の詳細については後述する。検出対象判定部23の判定によって得られた、検出対象Fが真正のマーカ10と類似対象Rとのいずれに該当するかという情報はサーチエリア更新部25へ送信される。
【0061】
ステップS5(サーチエリアの更新)
検出対象判定部23によって検出対象Fが判定されると、当該判定の結果に基づいてサーチエリアSの情報を更新させる。すなわちサーチエリア更新部25は、次に生成されるX線透視画像Pn+1に対して設定されるサーチエリアSn+1の情報を決定する。
【0062】
図9は、ステップS5の詳細を説明するフローチャートである。ステップS5が開始されると、ステップS4において検出対象判定部23が検出対象Fを判定した結果に応じて、サーチエリア更新部25などの動作を分岐させる(分岐Q1)。すなわち検出対象Fが、追跡対象であるマーカ10と非追跡対象である類似対象Rとのいずれであるかという判定結果に応じてステップS5の工程が分岐する。
【0063】
図10および図11は、検出対象Fが真正のマーカ10であると判定された場合におけるステップS5を説明する図である。図10の上図に示すようにX線透視画像Pから真正のマーカ10がマーカ検出部21によって検出された場合、ステップS4において検出対象判定部23は検出対象Fが真正のマーカ10であると判定する。X線透視画像Pの検出対象Fが真正のマーカ10であると判定された場合、最も新しいマーカ10の位置情報は検出対象位置Bとなる。そのため図10の下図に示すように、真正マーカ記憶部33に記憶される情報は検出対象位置Bn-1から検出対象位置Bへと更新される(ステップS501)。検出対象位置Bは、X線透視画像Pにおいて検出対象F(マーカ10)が映っている位置に相当する。
【0064】
サーチエリア更新部25は、真正マーカ記憶部33に記憶されている検出対象位置Bの情報を基準位置として、次に生成されるX線透視画像Pに設定されるサーチエリアSの位置および広さを決定する。検出対象Fが真正のマーカ10であると判定された場合、真正マーカ記憶部33に記憶されている情報は検出対象位置Bに更新されている。そのためサーチエリア更新部25は検出対象位置Bを基準位置として、次に設定されるサーチエリアSの情報を更新する。すなわちX線透視画像Pn+1に設定されるサーチエリアは、図11に示すように、検出対象位置Bn-1を中心とするサーチエリアSから、検出対象位置Bを中心とするサーチエリアSn+1へと更新される。その結果、サーチエリア記憶部34に記憶される情報は、サーチエリアSからサーチエリアSn+1へ更新される(ステップS502)。サーチエリアSの情報が更新されることによってステップS5の工程は終了する。本説明においてX線透視画像Pは第1X線透視画像に相当し、X線透視画像Pn+1は第2X線透視画像に相当する。
【0065】
図12および図13は、検出対象Fが類似対象Rであると判定された場合におけるステップS5を説明する図である。図12の上図に示すようにX線透視画像Pから類似対象Rが検出された場合、検出対象判定部23は検出対象Fが類似対象Rであると判定する。X線透視画像Pの検出対象Fが類似対象Rであると判定された場合、直近に検出されたマーカ10の位置情報は検出対象位置Bではなく検出対象位置Bn-1である。そのため図12の下図に示すように、真正マーカ記憶部33に記憶される情報は検出対象位置Bn-1に維持される(ステップS503)。
【0066】
この場合、サーチエリア更新部25は真正マーカ記憶部33に記憶されている検出対象位置Bn-1を基準位置として、次に設定されるサーチエリアSn+1を決定する。すなわち図13に示すように、次に生成されるX線透視画像Pn+1に設定されるサーチエリアSn+1の位置は、検出対象位置Bn-1を中心とするサーチエリアSと同じである。その結果、サーチエリア記憶部34に記憶される情報は更新されることなく、サーチエリアSの情報に維持される(ステップS504)。
【0067】
このように、検出対象Fが類似対象Rであると判定された場合は検出対象位置Bの情報を用いず、直近に真正のマーカ10と判定された検出対象Fの位置情報(ここでは検出対象位置Bn-1)に基づいて、次に設定されるサーチエリアSの情報を更新する。すなわち検出対象Fが類似対象Rであると判定された場合、更新前後においてサーチエリアSの位置は変化しない。この場合、類似対象Rの位置情報はサーチエリアSの更新に影響しないので、類似対象Rを追跡するようにサーチエリアSの位置が更新されることに起因して、更新後のサーチエリアSから真正のマーカ10が外れてしまうという事態を回避できる。サーチエリアSの情報が更新されることによってステップS5の工程は終了する。
【0068】
ステップS6(三次元位置の算出)
ステップS1~S5の工程は、第1の撮像系L1によって取得されたX線透視画像Pと第2の撮像系L2によって取得されたX線透視画像Pとの各々において行われる。検出対象Fが真正のマーカ10と判定された場合、各々のX線透視画像Pにおいてマーカ10の位置が特定される。
【0069】
X線透視画像Pにおいてマーカ10の位置が特定されると、マーカ10の三次元位置を算出する。すなわちマーカ位置算出部26は、第1の撮像系L1および第2の撮像系L2によって取得された2枚のX線透視画像Pを用いて、マーカ10の三次元位置を算出する。2枚のX線透視画像PはそれぞれX線照射方向が異なるため、各々のX線透視画像Pにおけるマーカ10の二次元位置情報からマーカ10の三次元位置情報を取得できる。なおステップS6の工程はステップS5の後に行う場合に限ることはなく、ステップS5の前に行ってもよい。
【0070】
算出されたマーカ10の三次元位置と事前の治療計画によって決定されている三次元座標との距離が許容範囲内である場合、図示しない治療放射線照射装置に設けられている治療器から治療用放射線が被検体Mに照射される。
【0071】
ステップS1~S6の工程により、X線透視画像Pにおいてマーカ10を追跡する動作の一連の工程が完了する。その後、再度ステップS1~S6の工程を行い、さらにX線透視画像Pn+1を生成してマーカ10の三次元位置を算出する。すなわちn回目のステップS5においてサーチエリアSn+1が更新された後、(n+1)回目のステップS1が開始されてX線透視画像Pn+1が生成される。そしてX線透視画像Pn+1が生成されると(n+1)回目のステップS2が開始され、予め更新されていたサーチエリアSn+1の情報に基づいて、X線透視画像Pn+1にサーチエリアSn+1が設定される。以降、適宜ステップS1~S6の工程を繰り返し、連続的にX線透視画像Pを取得してマーカ10を追跡しつつ、治療用放射線による治療を行う。
【0072】
<類似対象判定工程の詳細>
ここで、ステップS4において検出対象判定部23が検出対象Fを判定する工程の詳細を説明する。検出対象判定部23は検出対象Fの移動態様の情報に基づいて、マーカ10の候補である検出対象Fが真正のマーカ10であるか否かを判定する。検出対象Fの移動態様は、X線透視画像Pのフレーム間において検出対象Fの位置が変化する態様によって特定される。
【0073】
発明者の鋭意検討により、当該検出対象Fが真正のマーカ10であるかどうかを判断する際に、検出対象Fの移動態様の情報を利用できるという知見が得られた。すなわち被検体Mの体内に留置されるマーカ10は、主に被検体Mの呼吸または拍動によって移動する。呼吸および拍動は、いずれも周期的な動作である。従って、被検体Mの体内に留置されたマーカ10は、一般的に所定の軌跡に沿って周期的に移動する。つまり、検出対象Fが真正のマーカ10であるならば、連続的に取得されるX線透視画像Pにおいて、検出対象Fの位置は当該周期的な軌跡に沿って変化するはずである。言い換えると、X線透視画像Pから検出される検出対象Fが当該周期的な軌跡から大きく外れた位置にある場合、検出対象Fはマーカ10ではなく類似対象Rであると判断できる。
【0074】
マーカ10の軌跡として、図14の左図に示すような線状の軌跡K1、または図14の右図に示すような楕円状の軌跡K2が挙げられる。前者の場合、マーカ10はx1方向に延びる線状の軌跡K1に沿って末端N1と末端N2との間を往復移動する。後者の場合、マーカ10はx1方向を長軸方向とする楕円状の軌跡K2に沿って、端部N3および端部N4と交互に通過するように移動する。
【0075】
さらに発明者は検討の結果、軌跡K1または軌跡K2のような周期的な軌跡を辿るマーカ10が移動する態様は、軌跡におけるマーカの位置によって2種類のパターンに分かれることを見出した。すなわち第1の移動パターンとして、マーカ10が軌跡K1または軌跡K2の中央部Ceを移動している場合、マーカ10の移動速度は比較的高い一方でマーカ10の移動方向の変化する可能性は低い。そして第2の移動パターンとして、マーカ10が軌跡K1または軌跡K2の端部Edを移動している場合、マーカ10の移動方向が変化する可能性が比較的高い一方で、マーカ10の移動速度は比較的低くなる。またマーカ10が端部Edを移動している場合、マーカ10の移動速度の変化が小さい。
【0076】
そこで本実施形態ではフレーム間における検出対象Fの移動速度に応じて2つのパターンに分類する。そして各々のパターンについて検出対象Fの移動態様がマーカ10の態様に近いか否かを判断することにより、検出対象Fが真正のマーカ10であるか否かを判定する。以下、図15に示すフローチャートを用いて、ステップS4の詳細を説明する。
【0077】
ステップS401(移動距離の算出)
ステップS4が開始されると、検出対象Fの移動距離Gを算出する。X線透視画像Pにおける検出対象Fの移動距離Gを算出する場合、移動の基点となるX線透視画像PとX線透視画像Pとの間において、検出対象Fが移動した距離を移動距離Gとして算出する。以降、当該移動の基点となるX線透視画像Pを「基点画像」とする。
【0078】
本実施形態において、移動距離Gの算出対象となるX線透視画像P(ここではX線透視画像P)より前の時点で生成されており、かつかつ検出対象Fがマーカ10であると判定されているX線透視画像Pが基点画像として選択される。また検出対象の移動態様をより正確に判定するため、移動距離Gの算出対象となるX線透視画像Pの生成時点からより近い過去において生成されたX線透視画像Pを基点画像として選択することが好ましい。
【0079】
ここではX線透視画像Pより前の時点で生成されているX線透視画像P~Pn-1において、検出対象Fはいずれも真正のマーカ10であると判定されている。この場合、X線透視画像Pの直近に生成されているX線透視画像Pn-1が基点画像として選択される。すなわちX線透視画像Pにおける検出対象Fの移動距離Gは、X線透視画像Pn-1に映る検出対象Fn-1の位置とX線透視画像Pに映る検出対象Fの位置との間の距離に相当する。
【0080】
すなわち移動ベクトル算出部27は、現時点で得られたX線透視画像Pにおける検出対象Fの位置Bと、その直近にマーカ10であると判定されたX線透視画像Pn-1における検出対象Fn-1の位置とに基づいて、検出対象Fの移動距離Gを算出する。図16に示すように、検出対象Fn-1の位置から検出対象Fの位置までの距離が検出対象Fの移動距離Gに相当する。移動距離Gの情報は、記憶部15に適宜記憶される。本説明において、X線透視画像Pn-1は第3X線透視画像に相当する。
【0081】
なおこの時点において、検出対象Fn-1および検出対象Fn-2はマーカ10であると判定されているので、図16において検出対象Fn-1および検出対象Fn-2はマーカ10と同じ図形で示している。また検出対象Fはマーカ10と類似対象Rとのどちらであるかが不明であるので、図16では検出対象Fを黒丸の図形で示している。
【0082】
過去に行われたステップS401によって、過去における検出対象Fの移動距離Gの情報が記憶されている。すなわち検出対象Fn-2から検出対象Fn-1までの距離が移動距離Gn-1として記憶されており、検出対象Fn-3から検出対象Fn-2までの距離が移動距離Gn-2として記憶されている。
【0083】
ステップS402(移動ベクトルの算出)
移動ベクトル算出部27は、検出対象Fの移動距離Gを算出するとともに検出対象Fの移動ベクトルVを算出する。検出対象Fの移動ベクトルVは、移動距離Gに加えて検出対象Fの移動方向Hを特定することによって算出できる。検出対象Fの移動方向Hは、移動方向Hの算出対象であるX線透視画像Pと基点画像との間において検出対象Fが移動する方向である。すなわち移動ベクトル算出部27は、検出対象Fn-1から検出対象Fに向かう方向として、検出対象Fの移動方向Hを特定できる。
【0084】
移動距離Gと移動方向Hとの情報を得ることにより、移動ベクトル算出部27は、X線透視画像Pn-1からX線透視画像Pまでの1フレーム間における検出対象Fの移動ベクトルVを算出できる。このように、生成されるX線透視画像Pの各々について移動ベクトルVの情報が取得される。取得された移動ベクトルVの情報の各々は、逐次記憶部15に記憶される。
【0085】
ステップS403(平均移動距離の算出)
現時点で生成されたX線透視画像Pにおいて、検出対象Fの移動距離Gおよび移動ベクトルVが算出された後、現時点における検出対象Fの移動状態を判定するためにマーカ10の平均移動距離Gavを算出する。ここでは過去の検出対象Fはいずれも真正のマーカ10と判定されているので、最も新しく算出された移動距離Gから遡って複数個の移動距離Gの情報を取得し、取得された複数の移動距離Gの平均を平均移動距離Gavとして算出する。平均移動距離Gavを算出に用いる移動距離Gの数は適宜変更してよい。
【0086】
本実施形態では、現時点から過去に遡って4フレーム分の移動距離Gから平均移動距離Gavを算出するものとする。すなわち現時点の移動距離Gが移動距離Gである場合、移動距離Gn-1、移動距離Gn-2、移動距離Gn-3、および移動距離Gn-4の平均値を平均移動距離Gavとして算出する。移動距離Gn-1は、X線透視画像Pn-2からX線透視画像Pn-1までにおいて検出対象Fが移動した距離、すなわち検出対象Fn-2の位置から検出対象Fn-1の位置までの距離として記憶部15に記憶されている。同様に、移動距離Gn-2は、検出対象Fn-3から検出対象Fn-2までの距離として既に記憶されている。移動状態判定部29は、過去に算出された検出対象Fの移動距離Gの情報を記憶部15から読み出し、平均移動距離Gavを算出する。
【0087】
ステップS404(移動状態の判定)
検出対象Fの移動距離G、および直近の過去におけるマーカ10の平均移動距離Gavの情報が取得された後、検出対象Fの移動状態を判定する。移動状態判定部29は、移動距離Gおよび平均移動距離Gavの値を、予め定められた所定値T1と比較する。移動距離Gおよび平均移動距離Gavを所定値T1と比較した結果に応じて、移動状態判定部29は現時点における検出対象Fの移動状態、すなわち検出対象Fの移動状態を判定する。そして、検出対象Fの移動状態の判定結果に応じて以降の工程を分岐する(分岐Q2)。
【0088】
検出対象Fの移動距離Gおよびマーカ10の平均移動距離Gavの値がいずれも所定値T1以上である場合、移動状態判定部29は検出対象Fが高速移動状態であると判定する。移動距離Gおよび平均移動距離Gavのうち少なくとも一方が所定値T1未満である場合、移動状態判定部29は検出対象Fが低速移動状態であると判定する。検出対象Fが高速移動状態であると判定された場合、ステップS404からステップS405へ進む。検出対象Fが低速移動状態であると判定された場合、ステップS404からステップS406へ進む。検出対象判定部23は、移動状態判定部29の判定結果に応じて異なる判定条件を適用し、現時点のX線透視画像Pから検出された検出対象Fが真正のマーカ10と類似対象Rとのいずれであるかを判定する。なお所定値T1は一例として、1フレーム間にマーカ10が移動する距離として過去に得られているデータに基づいて決定される。
【0089】
ステップS405(ベクトルの内積を判定)
現時点の検出対象Fが高速移動状態にあると移動状態判定部29によって判定された場合、検出対象判定部23は現時点における検出対象Fの移動ベクトルVと基点画像におけるマーカ10の移動ベクトルとの内積を算出する。
【0090】
直近におけるマーカ10の移動ベクトルは、最も近い過去においてマーカ10が1フレーム間に移動した距離および方向に基づいて算出される。ここでは検出対象Fn-1、Fn-2…はいずれも真正のマーカ10であると判定されているので、基点画像としてX線透視画像Pn-1が選択されている。そのため基点画像におけるマーカ10の移動ベクトルは、X線透視画像Pn-1における検出対象Fn-1の移動ベクトルVn-1に相当する。検出対象Fn-1の移動ベクトルVn-1は、検出対象Fn-2から検出対象Fn-1までの移動距離および移動方向に基づいて算出される。
【0091】
すなわち現時点における検出対象Fが検出対象Fである場合、検出対象判定部23はステップS405において、検出対象Fの移動ベクトルVと移動ベクトルVn-1との内積を算出する。そして当該内積の値に応じて、検出対象判定部23は検出対象Fが真正のマーカ10であるか、または検出対象Fが類似対象Rであるかを判定する。
【0092】
現時点の検出対象Fが高速移動状態すなわち比較的高速で移動する状態である場合、検出対象Fが真正のマーカ10であるならば連続するフレーム間において検出対象Fの移動方向Hは大きく変更されないはずである。なぜならば、真正のマーカ10が移動する軌跡K1またはP2においてマーカ10が比較的高速で移動するタイミングとは、マーカ10が当該軌跡の中央部Ceを移動しているタイミングである。そして中央部Ceを移動するタイミングにおいて、マーカ10の移動方向は大きく変更されないと考えられるからである。言い換えると検出対象Fが高速移動状態である場合、検出対象Fの移動方向Hが近い過去におけるマーカ10の移動方向と大きく異なっているならば、現時点において検出された検出対象Fは真正のマーカ10ではなく類似対象Rであると判定できる。
【0093】
検出対象判定部23は、現時点の移動ベクトルVと直近の移動ベクトルVn-1との情報を読み出し、2つの移動ベクトルVの内積(V・Vn-1)を算出する。そして図15に示すように、内積(V・Vn-1)の値に応じて検出対象Fを判定する(分岐Q3)。
【0094】
移動ベクトルVと移動ベクトルVn-1との内積(V・Vn-1)が0以上の値である場合、検出対象判定部23は現時点の検出対象Fが真正のマーカ10であると判定する(判定A1)。内積(V・Vn-1)が0以上である場合、現時点における検出対象Fの移動ベクトルVと直近のマーカ10である検出対象Fn-1の移動ベクトルVn-1とのなす角度は90度以下である。すなわち内積(V・Vn-1)が0以上である場合、検出対象Fn-2、検出対象Fn-1、および検出対象Fの位置関係は図17に示すようなものとなる。つまりX線透視画像Pn-2の撮影時点からX線透視画像Pの撮影時点までの間において、検出対象Fは比較的高速で移動する一方で検出対象Fの移動方向Hは大きく変更していない。このような検出対象Fの移動態様は、周期的な軌跡の中央部Ceを移動するマーカ10の移動態様と同じである。従って内積(V・Vn-1)が0以上である場合、検出対象Fは真正のマーカ10であると判定できる。図17では当該判定結果に応じて、検出対象Fをマーカ10と同じ図形で示している。
【0095】
一方、移動ベクトルVと移動ベクトルVn-1との内積(V・Vn-1)が負の値である場合、検出対象判定部23は現時点の検出対象Fは類似対象Rであると判定する(判定A2)。内積(V・Vn-1)が負の値である場合、現時点における検出対象Fの移動方向Hと1フレーム前の時点における検出対象Fn-1の移動方向Hn-1とのなす角度は90度を超えている。すなわち内積(V・Vn-1)が0未満である場合、検出対象Fn-2、検出対象Fn-1、および検出対象Fの位置関係は図18に示すようなものとなる。つまり、移動ベクトルVと移動ベクトルVn-1との間の角度θは90度を超える。
【0096】
言い換えると内積(V・Vn-1)が負の値である場合、X線透視画像Pn-2の撮影時点からX線透視画像Pの撮影時点までの短い期間において、検出対象Fは比較的高速で移動し続けている一方で移動方向Hが大きく変更されていることになる。このような検出対象Fの移動態様は、周期的な軌跡の中央部Ceを移動するマーカ10の移動態様と大きく異なる。従って内積(V・Vn-1)が負の値である場合、検出対象Fは真正のマーカ10ではなく類似対象Rであると判定できる。図18では当該判定結果に応じて、検出対象Fを類似対象Rと同じ図形で示している。
【0097】
このように現時点の検出対象Fが高速移動状態にあると判定された場合、検出対象Fの移動方向Hが直近の移動方向Hから大きく変化したかどうかという判定条件に基づいて検出対象Fの判定を行う。移動方向Hの変化を判定する手法の一例として、本実施形態では現時点の移動ベクトルVと直近の移動ベクトルVn-1との内積を算出して検出対象Fを判定する。
【0098】
ステップS406(移動距離の乖離を判定)
次に、現時点の検出対象Fが低速移動状態にある場合の判定条件について説明する。現時点の検出対象Fが低速移動状態にあると移動状態判定部29によって判定された場合、検出対象判定部23は近い過去におけるマーカ10の平均移動距離Gavに対する、現時点における検出対象Fの移動距離Gの乖離率に基づいて、現時点における検出対象Fが真正のマーカ10であるかどうかを判定する。すなわち検出対象判定部23は平均移動距離Gavに対する移動距離Gの乖離率に基づいて、検出対象Fが真正のマーカ10であるかどうかを判定する。
【0099】
本実施形態では、検出対象Fの移動距離Gの値を直近の4フレーム分の期間における検出対象Fの平均移動距離Gavの値で除算することによって、平均移動距離Gavに対する移動距離Gの乖離率すなわち(G/Gav)の値を算出する。そして乖離率(G/Gav)の値を所定値T2と比較することにより、検出対象判定部23は検出対象Fが真正のマーカ10であるか、または検出対象Fが類似対象Rであるかを判定する。
【0100】
なお所定値T2は、マーカ10について過去に得られている移動距離の乖離率のデータなどに基づいて決定される数値である。また平均移動距離Gavの値が著しくゼロに近い値である場合、乖離率(G/Gav)の値が著しく大きい値となるので検出対象Fの移動状態を適切に判定することが困難となる。そのため平均移動距離Gavの値が閾値J以下である場合、平均移動距離Gavの値は閾値Jであるものとして乖離率を算出することが好ましい。この場合、乖離率(G/Gav)=(G/J)となる。閾値Jは所定の正の数として予め定められる。
【0101】
乖離率(G/Gav)の値がT2未満である場合、検出対象判定部23は現時点の検出対象Fが真正のマーカ10であると判定する(判定A3)。乖離率(G/Gav)の値がT2未満である場合、X線透視画像Pにおける検出対象Fn-5、検出対象Fn-4、検出対象Fn-3、検出対象Fn-2、検出対象Fn-1、および検出対象Fの位置関係は図19に示すようなものとなる。つまりX線透視画像Pn-5の撮影時点からX線透視画像Pの撮影時点までの間において、検出対象Fは比較的低速で移動する一方で、検出対象Fの移動距離Gは各フレーム間において大きく変化しない。このような検出対象Fの移動態様は、周期的な軌跡の端部Edを移動するマーカ10の移動態様と同じである。従って、乖離率(G/Gav)の値がT2未満である場合、検出対象判定部23は現時点の検出対象Fが真正のマーカ10であると判定できる。
【0102】
一方、乖離率(G/Gav)の値がT2以上である場合、検出対象判定部23は現時点の検出対象Fは類似対象Rであると判定する(判定A4)。乖離率(G/Gav)の値がT2以上である場合、検出対象位置Bn-5ないし検出対象位置Bの位置関係は図20に示すようなものとなる。つまりこの場合、近い過去における移動距離Gn-4ないし移動距離Gn-1と比べて、現時点における移動距離Gが大きく乖離していることになる。
【0103】
言い換えると乖離率(G/Gav)の値が所定値T2以上である場合、X線透視画像Pn-1の撮影時点までの間は移動距離Gが一定であるにも関わらず、X線透視画像Pn-1の撮影時点からX線透視画像Pの撮影時点までの短い期間において、検出対象Fの移動距離Gが急激に大きくなっていることになる。このような検出対象Fの移動態様は、周期的な軌跡の端部Edを移動するマーカ10の移動態様と大きく異なる。従って乖離率(G/Gav)の値が所定値T2以上である場合、検出対象Fは真正のマーカ10ではなく類似対象Rであると判定できる。
【0104】
このように現時点の検出対象Fが低速移動状態にあると判定された場合、検出対象Fの移動距離Gが直近の移動距離Gから大きく乖離したかどうかという判定条件に基づいて、検出対象Fの判定を行う。移動距離Gの乖離を判定する手法の一例として、本実施形態では直近の数フレーム分における平均移動距離Gavに対する、現フレームにおける移動距離Gの乖離率に基づいて検出対象Fを判定する。
【0105】
ステップS405またはステップS406において検出対象Fの判定結果が得られることによって、ステップS4に係る一連の工程は完了する。検出対象Fが真正のマーカ10であると検出対象判定部23が判定した場合、サーチエリア更新部25はステップS5において、検出対象Fの位置情報に基づいてサーチエリア記憶部34の情報などを更新する。その結果、サーチエリア記憶部34に記憶されている情報は、検出対象Fの位置を基準位置とするサーチエリアn+1の情報に上書きされる。
【0106】
検出対象Fが類似対象Rであると検出対象判定部23が判定した場合、サーチエリア更新部25は検出対象Fの位置情報を用いず、直近にマーカ10と判定された検出対象Fの位置情報を用いてサーチエリア記憶部34の情報を決定する。すなわちステップS4において検出対象Fが類似対象Rであると判定された場合、ステップS5においてサーチエリア記憶部34の情報は変化しない。言い換えると、検出対象Fが類似対象Rであると判定された場合、サーチエリア記憶部34に記憶されているサーチエリアの位置情報は変化しない。その結果、次のステップS2においてX線透視画像Pに設定されるサーチエリアSの位置は変化しない。
【0107】
なお、ステップS405において検出対象Fが類似対象Rであると判定された場合、ステップS5においてサーチエリア更新部25はサーチエリアSを拡大する更新を行うことが好ましい。すなわち図21に示すように、サーチエリア更新部25はサーチエリア記憶部34に記憶される情報をサーチエリアSからサーチエリアSnAへと更新する。更新前のサーチエリアSおよび更新後のサーチエリアSnAは、いずれも検出対象位置Bn-1を中心とする矩形状の範囲である。すなわちステップS5の前後において、真正マーカ記憶部33に記憶される基準位置の情報は検出対象位置Bn-1に維持される。その一方、更新後のサーチエリアSnA図21の上図に示すように、更新前のサーチエリアSと比べて範囲が拡大されている。サーチエリアSに対するサーチエリアSnAの拡大率Nは、1フレームにおけるマーカ10の移動速度を例とする条件に応じて適宜変更してよい。この場合、X線透視画像Pの後に生成されるX線透視画像Pn+1に対して設定されるサーチエリアSn+1は、拡大処理がなされたサーチエリアSnAとなる。
【0108】
ステップS405に分岐している場合、検出対象Fは高速移動状態であると判定されている。すなわち、近い過去の数フレーム間における移動平均距離Gavは所定値T1以上である。このことは、過去の数フレームのみならず現時点における真正のマーカ10の移動速度が比較的高い状態であることを意味する。従って、現時点のX線透視画像Pにおけるマーカ10の位置と、次に取得されるX線透視画像Pn+1におけるマーカ10の位置との距離は大きいと予想される。そのため、更新後のサーチエリアSn+1の広さを更新前のサーチエリアSの広さと同じにした場合、X線透視画像Pn+1に映るマーカ10の位置はX線透視画像Pn+1に設定されるサーチエリアSn+1から外れる可能性が懸念される。
【0109】
そこでステップS405において検出対象Fが類似対象Rであると判定された場合、ステップS5においてサーチエリア更新部25はサーチエリアSを拡大してサーチエリアSn+1に更新させることが好ましい。すなわちサーチエリアSについて、基準位置は検出対象位置Bn-1である状態を維持する一方で、広さを拡大する更新を行う。この場合、真正マーカ記憶部33に記憶される位置情報は、検出対象位置Bn-1から変更されない。一方、サーチエリア記憶部34に記憶されるサーチエリアの情報は、サーチエリアSからサーチエリアSnAに更新される。
【0110】
このように検出対象Fは高速移動状態であって類似対象Rであると判定された場合、次に設定されるサーチエリアSの情報について、基準位置を維持しつつ広さを拡大させる変更を行う。このような構成ではサーチエリアSの基準位置を変更させないため、後に生成されるX線透視画像Pにおいて、サーチエリアSが類似対象Rを追跡するような位置に設定されることを回避できる。その一方で次に設定されるサーチエリアSは広さが拡大されるため、後に生成されるX線透視画像Pにおいて、真正のマーカ10がより確実にサーチエリアSの内部に含まれるようにサーチエリアSを設定することができる。
【0111】
ここで、n回目のステップS4における判定結果の各々の場合について、次の(n+1)回目におけるステップS4に行われる判定工程の詳細を説明する。まず、n回目のステップS3において検出された検出対象Fがn回目のステップS4において真正のマーカ10であると判定された場合、(n+1)回目のステップS4で検出対象Fn+1の判定を行う工程は以下の通りである。すなわちステップS401において、検出対象Fの位置Bを起点として検出対象Fn+1の移動距離Gn+1を算出する。すなわちX線透視画像Pを基点画像として、X線透視画像Pn+1における検出対象Fn+1の移動距離Gn+1を算出する。その結果、検出対象Fの位置Bから検出対象Fn+1の位置Bn+1までの距離を、検出対象Fn+1の移動距離Gn+1として算出する。ステップS402では、検出対象Fの位置Bから検出対象Fn+1の位置Bn+1までの距離および方向に基づいて、検出対象Fn+1の移動ベクトルVn+1を算出する。
【0112】
ステップS403では、現時点の(最新の)X線透視画像Pn+1から遡って4フレーム分の移動距離Gから平均移動距離Gavを算出する。(n+1)回目のステップS403において、現時点の移動距離GとはX線透視画像Pn+1における検出対象Fn+1の移動距離Gn+1である。そのためステップS403では移動距離G、移動距離Gn-1、移動距離Gn-2、および移動距離Gn-3の平均値を平均移動距離Gavとして算出する。なお、検出対象Fはn回目のステップS4において真正のマーカ10と判定されているため、移動ベクトルVは検出対象Fn-1から検出対象Fまでの移動ベクトルVであり、移動距離Gは検出対象Fn-1から検出対象Fまでの移動距離Gに相当する。
【0113】
(n+1)回目のステップS404では、検出対象Fから検出対象Fn+1までの移動距離Gn+1と、移動距離Gn-3~Gの平均移動距離Gavとに基づいて、検出対象Fn+1の移動状態を判定する。検出対象Fn+1が高速移動状態と判定された場合、ステップS405に進む。ステップS405では、検出対象Fn+1の移動ベクトルVn+1と検出対象Fの移動ベクトルVとの内積(Vn+1・V)に基づいて、検出対象Fn+1の判定を行う。
【0114】
検出対象Fn+1が低速移動状態と判定された場合、ステップS406に進む。ステップS406では、検出対象Fn+1の移動距離Gn+1と(n+1)回目のステップS403において算出された平均移動距離Gavとの乖離率(Gn+1/Gav)と所定値T2とを比較することにより、検出対象Fn+1の判定を行う。以上のように、n回目のステップS4において検出対象Fが真正のマーカ10と判定された場合、(n+1)回目のステップS4において検出対象Fn+1を判定する工程では検出対象Fの位置Bと検出対象Fn+1の位置Bn+1との情報に基づいて、検出対象Fn+1の移動距離Gn+1および移動ベクトルVn+1を算出する。そして移動距離Gn+1および移動ベクトルVn+1を用いて、(n+1)回目に検出される検出対象Fn+1の判定を行うことができる。
【0115】
次に、n回目のステップS3において検出された検出対象Fがn回目のステップS4において類似対象Rであると判定された場合、(n+1)回目のステップS4で検出対象Fn+1の判定を行う工程は以下の通りである。図36は検出対象Fn+1が高速移動状態である場合を示しており、図37は検出対象Fn+1が低速移動状態である場合を示している。検出対象Fが類似対象Rである場合、検出対象Fから検出対象Fn+1までの移動方向Hおよび移動距離Gは真正のマーカ10の移動態様から逸脱している。そのため検出対象Fの位置と検出対象Fn+1の位置とに基づいて検出対象Fn+1の移動ベクトルVn+1および移動距離Gn+1を算出すると、検出対象Fn+1の判定精度が低下する。
【0116】
そのため検出対象Fが類似対象Rであると判定された場合、(n+1)回目のステップS401では、直近に真正のマーカ10であると判定された検出対象Fn-1を起点として検出対象Fn+1の移動距離Gn+1を算出する。すなわちX線透視画像Pn-1を基点画像として、X線透視画像Pn+1における検出対象Fn+1の移動距離Gn+1を算出する。その結果、検出対象Fn-1の位置Bn-1から検出対象Fn+1の位置Bn+1までの距離を、検出対象Fn+1の移動距離Gn+1として算出する。同様にステップS402では、検出対象Fn-1の位置Bn-1から検出対象Fn+1の位置Bn+1までの距離および方向に基づいて、検出対象Fn+1の移動ベクトルVn+1を算出する。この場合、X線透視画像Pn+1は第1X線透視画像に相当し、X線透視画像Pn-1は第3X線透視画像に相当する。X線透視画像Pn+1より後に生成されるX線透視画像Pn+2などは第2X線透視画像に相当する。
【0117】
この場合、移動ベクトルVn+1は2フレーム分の移動ベクトルVに相当するが、1フレームの時間は短いので1フレームの間における移動方向Hおよび移動距離Gの変化量は小さい。従って、2フレーム分の移動ベクトルVを用いた場合であっても検出対象Fn+1の判定精度が低下することを回避できる。
【0118】
(n+1)回目のステップS403では、直近の4フレーム分の移動距離Gから直近の過去におけるマーカ10平均移動距離Gavを算出する。平均移動距離Gavを算出する際に用いる移動距離Gは、連続する2フレームの検出対象Fがいずれも真正のマーカ10である場合の移動距離Gを用いる。すなわち一例として検出対象Fが類似対象Rである場合、検出対象Fp-1から検出対象Fまでの移動距離のデータと検出対象Fから検出対象p+1までの移動距離Gのデータは直近の過去におけるマーカ10の平均移動距離Gavの算出には使用しない。
【0119】
ここでは検出対象Fが類似対象Rであるので、検出対象Fn-1から検出対象Fまでの移動距離Gのデータは使用しない。そのため直近4フレーム分の移動距離Gとは、検出対象Fn-2から検出対象Fn-1までの移動距離Gn-1、検出対象Fn-3から検出対象Fn-2までの移動距離Gn-2、検出対象Fn-4から検出対象Fn-3までの移動距離Gn-3、および検出対象Fn-5から検出対象Fn-4までの移動距離Gn-4の4つである。これら4つの移動距離Gのデータを用いて平均移動距離Gavを算出する。
【0120】
ステップS404では、移動距離Gn-1~Gn-4の平均移動距離Gav、および検出対象Fn-1から検出対象Fn+1までの移動ベクトルVn+1を用いて検出対象Fn+1の移動状態を判定する。
【0121】
検出対象Fn+1が高速移動状態であると判定された場合、ステップS405に進む。そして、現時点における検出対象Fの移動ベクトルVと直近におけるマーカ10の移動ベクトルとの内積を算出する。現時点の移動ベクトルVは、検出対象Fn-1から検出対象Fn+1までの移動ベクトルVn+1に相当する。なお検出対象Fは類似対象Rであるので、検出対象Fn-1から検出対象Fまでの移動ベクトルVは直近におけるマーカ10の移動ベクトルとして用いることができない。一方、さらに近い過去に検出された検出対象Fn-1および検出対象Fn-2は、いずれも真正のマーカ10と判定されている。そのため、ここでは検出対象Fn-2から検出対象Fn-1までの移動ベクトルVn-1を直近におけるマーカ10の移動ベクトルとして用いる。
【0122】
すなわち検出対象判定部23は、検出対象Fn-1から検出対象Fn+1までの移動ベクトルVn+1と、検出対象Fn-2から検出対象Fn-1までの移動ベクトルVn-1との内積(Vn+1・Vn-1)に基づいて、検出対象Fn+1の判定を行う。内積(Vn+1・Vn-1)が0以上である場合は検出対象Fn+1が真正のマーカ10であると判定する。内積(Vn+1・Vn-1)が負の値である場合、は検出対象Fn+1が類似対象Rであると判定する。
【0123】
検出対象Fn+1が低速移動状態であると判定された場合、ステップS406に進む。そして検出対象判定部23は、現時点における検出対象Fの移動距離Gと直近におけるマーカ10の平均移動距離Gavとの乖離率に基づいて、現時点における検出対象Fを判定する。すなわち検出対象判定部23は、検出対象Fn+1の移動距離Gn+1と、直近にマーカ10と判定されている検出対象Fn-1~Fn-5の平均移動距離Gavとの比を乖離率(Gn+1/Gav)として算出する。そして乖離率(Gn+1/Gav)と所定値T2とを比較することによって、現時点における検出対象Fn+1が真正のマーカ10と類似対象Rとのいずれであるかを判定する。
【0124】
このように、所定のフレームにおいて検出対象Fが類似対象Rであると判定された場合、類似対象Rと判定された検出対象Fは移動ベクトルVおよび移動距離Gの算出対象から除外することにより、以降のフレームにおける検出対象Fの判定を行うことができる。なお、複数フレームにわたって検出対象Fが類似対象Rであると判定され続けると、移動ベクトルVの内積または移動距離Gの乖離率を用いて検出対象Fの判定を行うことが困難となる。
【0125】
そのため、所定数のフレームにわたって検出対象Fが類似対象Rであると判定され続けた場合、予め定められた範囲BFとなるようにサーチエリアSの範囲を更新する。範囲BFは、マーカ10が当該範囲BFに位置している場合において、治療用放射線の照射が許可されるように予め治療計画において定められた範囲である。なお所定数であるNの値は2以上の数を任意に用いてよい。すなわちNフレームにわたって検出対象Fが類似対象Rであると判定され続けた場合、マーカ10を追跡する動作を中断し、範囲BFにサーチエリアSを一時的に固定する。すなわちサーチエリア更新部25はサーチエリア記憶部34の情報を範囲BFに変更し、当該情報を維持させる。
【0126】
範囲BFにサーチエリアSを固定した後、サーチエリアSの更新を再開する処理について説明する。範囲BFにサーチエリアSが固定されている間、マーカ検出部21は当該範囲BFの内部を探索して検出対象Fを検出する。そして所定フレーム後に生成されるX線透視画像Pにおいて検出対象FのマッチングスコアCが所定の閾値T4以上となった場合、検出対象Fがマーカ10である蓋然性が高いと判断し、検出対象Fの追跡処理を再開する。すなわちサーチエリア更新部25は、真正マーカ記憶部33の情報を検出対象Fの位置情報に更新する。
【0127】
またサーチエリア更新部25は、検出対象Fの位置情報に基づいてサーチエリア記憶部34の情報を更新する。当該更新により、サーチエリア記憶部34の情報は、検出対象Fの位置を中心とするサーチエリアSj+1の情報に変更される。その結果、X線透視画像Pの次に生成されるX線透視画像Pj+1には検出対象Fの位置を中心とするサーチエリアSj+1が設定されるので、X線透視画像Pj+1以降のX線透視画像Pには検出対象Fを追跡するにサーチエリアSが設定されることとなる。
【0128】
第1実施形態に係るX線透視装置1では、マーカ検出部21がX線透視画像Pから検出した検出対象Fに対して、真正のマーカ10と類似対象Rとのいずれに該当するかを判定する検出対象判定部23を備えている。マーカ検出部21はテンプレートマッチングを例とする手法により、対象の形状などに基づいてX線透視画像Pに映る対象がマーカ10であるかどうかを判断して検出対象Fを検出する。その一方で検出対象判定部23は、検出対象Fの移動態様に基づいて当該検出対象Fがマーカ10であるかどうかを判定する。すなわち検出対象判定部23はマーカ検出部21とは異なる基準でマーカ10の特定を行うので、マーカ検出部21と検出対象判定部23とを備えることによってマーカ10の検出精度をより向上させることができる。
【0129】
また第1実施形態に係るX線透視装置1は、検出対象Fの移動状態が高速移動状態であるか低速移動状態であるかを判定する移動状態判定部29を備えている。そして検出対象判定部23は、検出対象Fが高速移動状態である場合と低速移動状態である場合との各々について、異なる判定基準を用いることによって検出対象Fがマーカ10であるかどうかを判定する。
【0130】
発明者は、被検体Mの呼吸などに起因するマーカ10の移動は周期的であり、当該周期的な移動において、マーカ10の移動速度に応じて2種類の移動パターンがあることに着目した。すなわちマーカ10が高速移動状態である場合は移動方向が一定であり、マーカ10が低速移動状態である場合は移動距離が一定であることに着目した。そこでマーカ検出部21が検出した検出対象Fが高速移動状態である場合、検出対象Fの移動方向Hが直近の移動方向Hから大きく変化しているかどうかという判断基準を適用することにより、検出対象Fの判定精度を向上できる。またマーカ検出部21が検出した検出対象Fが低速移動状態である場合、検出対象Fの移動距離Gが低速移動状態であるマーカ10の平均移動距離から大きく乖離しているかどうかという判断基準を適用することにより、検出対象Fの判定精度を向上できる。
【0131】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係るX線透視装置101について説明する。検出対象判定部23を備える第1実施形態と異なり、第2実施形態では後述するフレームアウト検出部103などを備えている。なお、第2実施形態に係るX線透視装置101のうち、第1の実施形態に係るX線透視装置1と同様の構成については同一符号を付すに留め、説明を省略する。
【0132】
図22は、第2実施形態に係るX線透視装置101の機能ブロック図である。第2実施形態において、制御部9はフレームアウト検出部103と、スコア取得部105と、マーカ復帰検出部107と、更新状態切換部108とを備えている。また第2実施形態において、記憶部15は基準位置記憶部109を備えている。フレームアウト検出部103は、サーチエリア設定部22が設定したサーチエリアSとX線透視画像Pの外縁部との位置関係に基づいて、フレームアウト状態の有無を検知する。本実施形態においてフレームアウト状態とは、マーカ10の位置がX線透視画像Pの撮影範囲内から撮影範囲外へ移動することが想定される状態を意味する。
【0133】
本実施形態では、検出対象Fが高速移動状態であり、かつサーチエリアSの一部がX線透視画像Pの外部に設定される場合にフレームアウト状態と判定する。なお検出対象Fが高速移動状態であり、かつサーチエリアSの境界線がX線透視画像Pの外周に接している状態もフレームアウト状態に含むものとする。フレームアウト状態の発生を判定する工程の詳細については後述する。
【0134】
スコア取得部105は、検出対象Fの各々について算出されたマッチングスコアCの情報を適宜取得する。本実施形態においてマッチングスコアCは、テンプレート画像Tpのマーカ10とX線透視画像Pの検出対象Fとの類似度を意味する。またスコア取得部105は、最も新しく検出された検出対象FのマッチングスコアCと過去に検出された検出対象FのマッチングスコアCとを比較することで、最も新しく検出された検出対象Fの判定を行う。
【0135】
マーカ復帰検知部107は、マーカ復帰状態の有無を検知する。本実施形態においてマーカ復帰状態とは、追跡対象であるマーカ10の位置がX線透視画像Pの撮影範囲外からX線透視画像Pの撮影範囲内へ復帰した状態を意味する。本実施形態では、マッチングスコアCおよび移動ベクトルVの情報に基づいて、マーカ復帰状態の発生を検知する。本実施形態において、マーカ復帰検知部107は追跡対象復帰検知部に相当する。
【0136】
更新状態切換部108は、サーチエリア更新部25を通常状態およびエリア固定状態のいずれかに切り換える。基準位置記憶部109は、サーチエリアSの基準位置に相当する位置情報を記憶する。本実施形態では基準位置を中心とする範囲として、サーチエリア更新部25は次のX線透視画像に設定されるサーチエリアSの情報を更新する。
【0137】
基準位置記憶部109に記憶される基準位置の情報を更新する態様は、サーチエリア更新部25の状態によって変化する。サーチエリア更新部25が通常状態である場合、最も新しく検出された検出対象Fの検出対象位置Bが基準位置として記憶される。すなわちサーチエリア更新部25が通常状態である場合、X線透視画像Pが生成されるたびに基準位置の情報が更新される。
【0138】
サーチエリア更新部25がエリア固定状態である場合、基準位置記憶部109に記憶される基準位置の情報は、サーチエリア更新部25がエリア固定状態に切り換えられた時点の基準位置に維持される。すなわちサーチエリア更新部25がエリア固定状態である間は基準位置の情報が変化しない。サーチエリア更新部25の状態を切り換える態様の詳細については後述する。
【0139】
<通常状態における基本動作>
ここで、第2実施形態に係るX線透視装置101の基本動作について説明する。図23は、第2実施形態に係るX線透視装置101を用いてマーカ10を追跡する工程の概要を示すフローチャートである。なお、図3に示す第1実施形態と同様の工程については詳細な説明を省略する。なおここではステップS1の開始時点において、サーチエリア更新部25は通常状態であるものとする。すなわちここではサーチエリア更新部25が通常状態である場合におけるX線透視装置101の基本動作を説明する。
【0140】
ステップS1(X線透視画像の生成)
第2実施形態におけるステップS1の工程は第1実施形態におけるステップS1と同様である。すなわち第1の撮像系L1および第2の撮像系L2を用いてX線透視を行い、それぞれ異なる方向から撮影された2枚のX線透視画像Pを生成する。また最新のX線透視画像PとしてX線透視画像Pが生成されるものとする。
【0141】
ステップS2(サーチエリアの設定)
X線透視画像Pが新たに生成されると、当該最新のX線透視画像Pに対してサーチエリアSの設定を行う。第2実施形態において、サーチエリア設定部22は基準位置記憶部109に記憶されている基準位置の情報を読み出し、基準位置を中心としてサーチエリアSを設定する。
【0142】
サーチエリア更新部25が通常状態である場合、最も新しく検出された検出対象Fの位置情報が基準位置記憶部109に記憶されている。ステップS2の開始時点において「最も新しく検出された検出対象F」とは、直近に生成されたX線透視画像Pn-1からマーカ検出部21が検出した検出対象Fn-1である。そのためサーチエリア設定部22は最新のX線透視画像Pに対して、検出対象位置Bn-1を中心とする範囲をサーチエリアSとして設定する。サーチエリア更新部25が通常状態である場合、X線透視画像Pに設定されるサーチエリアSの位置および広さは第1実施形態と同様であり、図5に示す通りである。
【0143】
ステップS3(マーカの探索)
第2実施形態におけるステップS3の工程は、第1実施形態におけるステップS3と共通する。すなわちX線透視画像PにサーチエリアSが設定されると、マーカ検出部21はテンプレート画像Tpに映るマーカ10の像を参照し、X線透視画像PのうちサーチエリアSの内部を探索する。そしてマーカ検出部21は、マーカ10との類似度(マッチングスコア)が最も高いと判定された対象を検出する。すなわちマーカ検出部21はマーカ10としてX線透視画像Pから検出対象Fを検出する。検出対象Fのマッチングスコアに関する情報は記憶部15に記憶される。
【0144】
ステップS4(サーチエリアの更新)
第2実施形態に係るX線透視装置101は検出対象判定部23を有しない。そのため第1実施形態と異なり、検出対象判定部23によって検出対象Fを判定する工程が省略される。そのためステップS3が完了してX線透視画像Pから検出対象Fが検出されると、ステップS4としてサーチエリアSを更新する動作が開始される。図24は、第2実施形態に係るステップS4の工程を示すフローチャートである。
【0145】
ステップS4が開始されると、サーチエリア更新部25の状態に応じて工程を分岐する(分岐Q5)。サーチエリア更新部25が通常状態である場合、ステップS4Aへ進む。一方、サーチエリア更新部25がエリア固定状態である場合はステップS4Cへ進む。ここではサーチエリア更新部25が通常状態である場合について説明しているため、ステップS4Aの工程が開始される。
【0146】
ステップS4Aが開始されると、基準情報の更新が行われる。すなわちステップS3において検出された検出対象Fの位置情報(検出対象位置Bの情報)は、基準位置記憶部109に上書き記憶される。すなわちサーチエリア更新部25が通常状態である場合、X線透視画像Pから検出対象Fが検出されることにより、基準位置記憶部109に記憶されている基準位置は検出対象位置n-1から検出対象位置Bに更新される。基準位置の情報が更新されることにより、ステップS4Aの工程は完了する。
【0147】
ステップS4Aが完了すると、ステップS4Bへと進む。ステップS4Bでは基準位置の情報に基づいて、次に生成されるX線透視画像Pに設定されるサーチエリアSが更新される。本実施形態において、基準位置はサーチエリアSの中心となる位置である。そしてサーチエリア更新部25が通常状態である場合、基準位置は検出対象位置n-1から検出対象位置Bに更新されている。そのため、サーチエリア更新部25は次に設定されるサーチエリアSの情報を、検出対象位置n-1を中心とするサーチエリアSから検出対象位置を中心とするサーチエリアSn+1へと更新する(図11を参照)。サーチエリア更新部25が通常状態である場合、サーチエリアの広さは更新前後で変化しない。すなわちこの場合、更新前のサーチエリアSと更新後のサーチエリアSn+1とは広さが同じである。サーチエリアSが更新されることによってステップS4の工程は完了する。
【0148】
ステップS5(更新状態の判定)
第2実施形態ではサーチエリアSを更新するステップS4の工程が完了すると、ステップS5において、更新状態の判定を行う。すなわち更新状態切換部108はフレームアウト状態の有無などに基づいて、サーチエリア更新部25の更新状態を判定する。そして更新状態切換部108は判定結果に応じて、サーチエリア更新部25の更新状態を通常状態またはエリア固定状態に切り換える。
【0149】
フレームアウト状態は、マーカ10の位置がX線透視画像Pの撮影範囲内から撮影範囲外へ移動することが想定される状態である。被検体Mに留置されているマーカ10は、被検体Mの呼吸などに起因して変位する。その結果、マーカ10がX線透視画像Pの撮影範囲外へと移動する場合がある。マーカ10がX線透視画像Pの撮影範囲外へ移動した状態でマッチングスコアに基づくマーカ10の探索を行うと、マーカ検出部21は類似対象Rをマーカ10として検出することとなる。すなわち検出対象Fが実際にはマーカ10ではなく類似対象Rであるという事態が発生する。
【0150】
サーチエリア更新部25が通常状態である場合、最新の検出対象Fの位置を中心として、X線透視画像Pが生成されるたびにサーチエリアSの位置が更新される。しかしながらマーカ10がX線透視画像Pの撮影範囲外へと移動した状態で、最新の検出対象Fの位置を基準位置としてサーチエリアSを更新すると、類似対象Rである検出対象Fの位置を中心としてサーチエリアSの位置が更新されてしまう。この場合、以後に生成されるX線透視画像Pにおいて、真正のマーカ10がサーチエリアSの外部に位置する可能性が高くなる。その結果、以後のX線透視画像Pにおいてマーカ10の検出精度が低下することが懸念される。
【0151】
そこで第2の実施形態では、フレームアウト状態が発生するとサーチエリア更新部25を通常状態からエリア固定状態へと切り換える制御を行う。サーチエリア更新部25がエリア固定状態になると、当該エリア固定状態が解除されるまでの間、基準位置記憶部109に記憶される基準位置の情報を維持させる。すなわちサーチエリア更新部25がエリア固定状態である間はサーチエリアSの位置が固定される。また第2の実施形態では、マーカ10がX線透視画像Pの外部から内部へ復帰した状態であるマーカ復帰状態が検知されると、更新状態切換部108はエリア固定状態を解除してサーチエリア更新部25を通常状態に切り換える制御を行う。フレームアウト状態およびマーカ復帰状態を検知する基準および手法の詳細については後述する。
【0152】
ステップS6(三次元位置の算出)
第2実施形態に係るステップS6の工程は、第1実施形態に係るステップS6と同様である。すなわちマーカ位置算出部26は、第1の撮像系L1および第2の撮像系L2によって取得された2枚のX線透視画像Pを用いて、マーカ10の三次元位置を算出する。算出されたマーカ10の三次元位置と事前の治療計画によって決定されている三次元座標との距離が許容範囲内である場合、図示しない治療放射線照射装置に設けられている治療器から治療用放射線が被検体Mに照射される。以降、適宜ステップS1~S6の工程を繰り返し、連続的にX線透視画像Pを取得してマーカ10を追跡しつつ、治療用放射線による治療を行う。
【0153】
<更新状態判定の詳細>
ここで、第2実施形態のステップS5においてサーチエリア更新部25の更新状態を判定する工程の詳細を説明する。図25は、第2実施形態のステップS5の詳細を示すフローチャートである。ステップS5は、開始時点においてサーチエリア更新部25が通常状態とエリア固定状態とのいずれであるかによって工程を分岐する(分岐Q6)。
【0154】
ステップS5の開始時点においてサーチエリア更新部25が通常状態である場合、ステップS501へ進む。一方、サーチエリア更新部25がエリア固定状態である場合はステップS504へ進む。
【0155】
まずはサーチエリア更新部25が通常状態である場合におけるステップS5の概要を説明する。サーチエリア更新部25が通常状態である場合、ステップS5ではサーチエリア更新部25を通常状態からエリア固定状態へ切り換えるか否かを判定する。すなわちステップS5A~S5Cの工程によってフレームアウト状態の有無を判定する。フレームアウト状態が検知されない場合、サーチエリア更新部25は通常状態に維持される(判定A5)。フレームアウト状態が検知された場合、サーチエリア更新部25は通常状態からエリア固定状態へ切り換えられる(判定A6)。以下、ステップS5A~S5Cの詳細について説明する。
【0156】
ステップS5A(移動距離の算出)
サーチエリア更新部25が通常状態である場合、まずは現時点において検出された検出対象Fが高速移動状態であるか否かを判定する。そのため、まずはX線透視画像Pから検出された検出対象Fの移動距離Gを算出する。すなわち移動ベクトル算出部27は、現時点で得られたX線透視画像Pにおける検出対象位置Bと、当該X線透視画像Pより前の時点で生成されたX線透視画像Pn-1における検出対象位置Bn-1とに基づいて、検出対象Fの移動距離Gを算出する。移動距離Gの情報は、記憶部15に適宜記憶される。
【0157】
ステップS5B(平均移動距離の算出)
最新のX線透視画像Pにおいて検出対象Fの移動距離Gが算出された後、過去の数フレーム分におけるマーカ10の平均移動距離Gavを算出する。検出対象判定部23を有しない第2実施形態では平均移動距離Gavを算出する場合、平均距離算出部28は各々のX線透視画像Pから検出される検出対象Fが真正のマーカ10であるものとして、X線透視画像Pより過去に得られたX線透視画像Pを適宜選択する。すなわち第2実施形態において平均移動距離Gavを算出する場合、最も新しく算出された移動距離Gから遡って複数個の移動距離Gの情報を取得し、取得された複数の移動距離Gの平均を平均移動距離Gavとして算出する。ここでは4フレーム分の移動距離Gn-4~Gn-1の平均値を平均移動距離Gavとして算出する。
【0158】
現時点における検出対象Fの移動距離G、および過去のマーカ10の平均移動距離Gavの情報が取得された後、移動状態判定部29は検出対象Fの移動状態を判定する。移動状態の判定基準は第1実施形態と同様である。すなわち移動距離Gおよび平均移動距離Gavの値がいずれも所定値T1以上である場合、現時点の検出対象Fが高速移動状態であると判定される。移動距離Gおよび平均移動距離Gavの値の少なくとも一方が所定値T1未満である場合、現時点の検出対象Fが低速移動状態であると判定される。
【0159】
ステップS5AおよびステップS5Bが完了した後、検出対象Fの移動状態によって工程を分岐する(分岐Q7)。現時点の検出対象Fが低速移動状態であると移動状態判定部29が判定した場合、更新状態切換部108はフレームアウト状態の条件を満たしていないと判定する。そして更新状態切換部108はサーチエリア更新部25を通常状態に維持させ、ステップS5を終了させる(判定A5)。
【0160】
一方、現時点の検出対象Fが高速移動状態であると移動状態判定部29が判定した場合、更新状態切換部108はフレームアウト状態の第1条件を満たしていると判定する。この場合、ステップS5Cの工程へと進む。
【0161】
ステップS5C(フレームアウト状態の判定)
ステップS5Cが開始されると、フレームアウト検知部103はサーチエリアSがX線透視画像Pの範囲外に到達したか否かを判定する。すなわち直近のステップS4において更新されたサーチエリアSn+1がX線透視画像Pの外縁部PLに当接または交差した場合、サーチエリアSがX線透視画像Pの範囲外に到達したと判定される。図26は、現時点の(最新の)検出対象Fの位置を基準として設定されたサーチエリアSn+1が、X線透視画像Pの外縁部PLに交差している状態を示している。
【0162】
図26のように、検出対象Fが高速移動状態であってサーチエリアSn+1がX線透視画像Pの外縁部PLに交差する場合、以下のような事態が予想される。検出対象Fを中心とするするサーチエリアSがX線透視画像Pの外縁部PLに交差しない一方で、検出対象Fを中心とするサーチエリアSn+1がX線透視画像Pの外縁部PLに交差する。このことから、X線透視画像Pにおいて検出対象Fすなわちマーカ10は、X線透視画像Pの外縁部PLへ近づくように移動していると考えられる。また検出対象Fが高速移動状態であることから、マーカ10はX線透視画像Pの外部へ向かって高速で移動していると考えられる。
【0163】
このような移動パターンを続けると、図27に示すように、tフレーム後のX線透視画像Pn+tにおいて、マーカ10はX線透視画像Pn+tの撮影範囲外に相当する、符号U1で示される位置へ移動することが予想される。マーカ10がX線透視画像Pn+tの撮影範囲外へ移動した状態でマーカ検出部21がテンプレートマッチングによるマーカ10の探索を行うと、マーカ10と異なる物体である類似対象Rがマーカ検出部21によって検出される。そしてサーチエリア設定部22は当該類似対象Rの位置を基準としてサーチエリアSを設定する。その結果、X線透視画像Pn+tの後に取得されるX線透視画像Pでは類似対象Rを追跡するようにサーチエリアSが設定され続ける。
【0164】
この場合、図28に示すように、マーカ10が後にX線透視画像Pの内部へ復帰して符号U2で示す位置へ移動しても、サーチエリアSは復帰したマーカ10から離れた位置にある類似対象Rを追跡するように設定される。そのため、復帰したマーカ10はサーチエリアSから外れる可能性が高くなる。その結果、真正のマーカ10がマーカ検出部21による探索の対象外となるので、マーカ10が画像内に復帰した場合であってもマーカ検出部21によって検出されなくなる。このように、マーカ10がX線透視画像Pの範囲外へ移動することに起因して、以降においてマーカ10の検出精度が低下するという問題が発生する。
【0165】
そこで第2実施形態では、マーカ10の位置がX線透視画像Pの撮影範囲内から撮影範囲外へ移動することが想定される状態をフレームアウト状態として検知する。そしてフレームアウト状態が検知されると、サーチエリア更新部25をエリア固定状態に切り換えてサーチエリア記憶部34の情報の更新を中断させる。すなわちサーチエリア更新部25がエリア固定状態に切り換えられることにより、以降に生成されるX線透視画像Pにサーチエリア設定部22が設定するサーチエリアSの位置が固定されることとなる。
【0166】
ステップS5Cが完了した後、直近に更新されたサーチエリアSに応じて工程を分岐する(分岐Q8)。直近のステップS4において更新されたサーチエリアSn+1の全領域がX線透視画像Pの撮影範囲内に含まれている場合、フレームアウト状態の第2条件を満たしていないのでフレームアウト検知部103はフレームアウト状態を検知しない。フレームアウト状態が検知されない場合、更新状態切換部108はサーチエリア更新部25を通常状態に維持させ、ステップS5を終了させる(判定A5)。
【0167】
一方、現時点の検出対象Fが高速移動状態であり、かつ更新されたサーチエリアSn+1がX線透視画像Pの範囲外に到達した場合、フレームアウト状態の条件を2つとも満たしている。そのため、フレームアウト検知部103はフレームアウト状態の発生を検知する。フレームアウト状態をフレームアウト検知部103が検知することにより、更新状態切換部108はサーチエリア更新部25を通常状態からエリア固定状態に切り換え、ステップS5を終了させる(判定A6)。そしてステップS6が完了すると再度ステップS1に戻り、サーチエリア更新部25がエリア固定状態となっている状態でステップS1~S6の工程を行う。
【0168】
サーチエリア更新部25がエリア固定状態に切り換えられると、サーチエリア更新部25はフレームアウト状態が検知された時点で検出されている検出対象Fの位置に基づいてサーチエリアSを更新し続ける。すなわちn回目のステップS5においてサーチエリア更新部25がエリア固定状態に切り換えられた状態で(n+1)回目のステップS1~S6を繰り返す場合、(n+1)回目のステップS3においてマーカ検出部21が検出する検出対象Fn+1の位置情報は基準位置記憶部109に記憶されない。すなわち(n+1)回目のステップS4が開始される時点において、基準位置記憶部109に記憶されている基準位置の情報は、検出対象位置Bn+1に上書きされるのではなく、フレームアウト状態が検知された時点で記憶されている検出対象位置Bに維持される(図24、ステップS4Cを参照)。その結果、サーチエリア記憶部34に記憶される情報は、検出対象位置Bを基準位置とするサーチエリアSn+1に維持される(図24、ステップS4Dを参照)。
【0169】
基準位置が検出対象位置Bに維持されることにより、(n+1)回目のステップS3において検出される検出対象Fn+1の位置と無関係に、サーチエリア更新部25は(n+1)回目のステップS4において検出対象位置Bを基準位置としてサーチエリアSを更新する。サーチエリア更新部25がエリア固定状態である間、基準位置記憶部109に記憶されている基準位置の情報は変更されない。その結果、エリア固定状態が解除されるまでの間、サーチエリア設定部22は以降に生成されるX線透視画像Pn+1、Pn+2、Pn+3などに対して、フレームアウト状態が検知された時点の直近に更新されていたサーチエリアn+1を設定し続ける。すなわちエリア固定状態が解除されるまでの間、X線透視画像Pに設定されるサーチエリアSの位置が固定される。
【0170】
エリア固定状態の具体例を図29に示す。tフレーム後に生成されるX線透視画像Pn+tに対するサーチエリアSを更新する場合、マーカ10がX線透視画像Pn+tの範囲外に移動しているにも関わらず、サーチエリアn+1と同じ位置となるように更新が行われてサーチエリアSn+tが設定される。サーチエリア更新部25がエリア固定状態となっているため、X線透視画像Pn+tに類似対象Rが映っている場合であっても類似対象Rを基準としてサーチエリアSn+tが更新されることを回避できる。従って、マーカ10がX線透視画像Pの撮影範囲外に移動することに起因して、以降に生成されるX線透視画像Pにおいてマーカ10の検出精度が低下することを防止できる。
【0171】
なおサーチエリア更新部25がエリア固定状態に切り換えられる場合、直近に更新されたサーチエリアSを拡大補正し、拡大補正されたサーチエリアSに更新した状態でサーチエリア更新部25がエリア固定状態に切り換えられることが好ましい。また、直近に更新されたサーチエリアSがX線透視画像Pの外縁部PLと交差している場合、直近に更新されたサーチエリアSの位置をX線透視画像Pの外縁部PLに当接させる位置に移動させる補正を行い、位置が補正されたサーチエリアSに更新した状態でエリア固定状態へ移行することがさらに好ましい。
【0172】
図30は、直近に更新されたサーチエリアSn+1の位置および広さを補正させたサーチエリアSn+1Aを示している。すなわちサーチエリアSn+1AはサーチエリアSn+1から所定の拡大率で拡大されている。またサーチエリアSn+1Aの中心位置は、サーチエリアSn+1の中心位置(検出対象Fの位置)から補正されている。サーチエリアSn+1Aの中心位置を補正する方向および距離は、サーチエリアSn+1AがX線透視画像Pの外縁部PLに当接する程度に適宜設定できる。サーチエリア更新部25は、サーチエリアSの情報をサーチエリアSn+1からサーチエリアSn+1Aに更新した状態で、エリア固定状態へ移行する。
【0173】
このような補正を行う構成を有する場合、検出対象Fの移動状態、および検出対象Fを基準位置とするサーチエリアSn+1についてフレームアウト状態が検知された後、サーチエリアSn+1の位置および広さを補正してサーチエリアSn+1Aの情報を算出する。そしてサーチエリア記憶部34に記憶される情報をサーチエリアSn+1Aに更新させた状態で、更新状態切換部108はサーチエリア更新部25をエリア固定状態に切り換える。その結果、エリア固定状態が解除されるまでの間、生成されるX線透視画像Pの各々にはサーチエリアSn+1Aが設定され続けることとなる。
【0174】
サーチエリアSをサーチエリアSn+1Aに拡大補正した状態で固定させることにより、図31に示すようにマーカ10が楕円状の軌道K2に沿ってX線透視画像Pの撮影範囲内に復帰する場合であっても、撮影範囲内に復帰したマーカ10をより確実にサーチエリアSn+1Aの内部に含めることができる。すなわちX線透視画像Pの外部へ移動する時点におけるマーカ10の位置とX線透視画像Pの内部へ復帰する時点におけるマーカ10の位置とが異なる場合であっても、復帰するマーカ10を確実にサーチエリアSn+1Aの内部に捉えることができる。このように、サーチエリアSを拡大補正した状態で固定させることによって、マーカ10の検出精度を向上できる。またサーチエリアSの全体がX線透視画像Pに含まれるように位置を補正することにより、X線透視画像PにおけるサーチエリアSの範囲がより広くなる。その結果、マーカ10の検出精度をさらに向上できる。
【0175】
次に、サーチエリア更新部25がエリア固定状態である場合におけるステップS5の概要を説明する。サーチエリア更新部25がエリア固定状態である場合、ステップS5ではサーチエリア更新部25をエリア固定状態から通常状態へ切り換えるか否かを判定する。すなわちステップS5D~S5Fの工程によってマーカ復帰状態の有無を判定する。マーカ復帰状態は、マーカ10がX線透視画像Pの範囲外から範囲内へ復帰した状態である。すなわち図27に示すように、検出対象F(マーカ10)は周期的な軌道K2に沿って移動することが一般的であるので、X線透視画像Pの範囲外へ移動した場合であっても(矢印W1を参照)、時間が経過すると再びX線透視画像Pの範囲内へと復帰する(矢印W2を参照)。
【0176】
マーカ復帰状態が検知されない場合、サーチエリア更新部25はエリア固定状態に維持される(判定A7)。マーカ復帰状態が検知された場合、サーチエリア更新部25はエリア固定状態から通常状態へ切り換えられる(判定A8)。以下、ステップS5D~S5Fの詳細について説明する。なお、ここではX線透視画像Pにおいてフレームアウト状態が検知された後、最も新しいX線透視画像PとしてX線透視画像Pが生成されているものとする。
【0177】
ステップS5D(移動ベクトルの算出)
サーチエリア更新部25がエリア固定状態である場合、ステップS5が開始されるとステップS5Dへ進む。ステップS5Dでは、現時点における検出対象Fの移動ベクトルVと、フレームアウト状態が検出された時点における検出対象Fの移動ベクトルVとを算出する。すなわち移動ベクトル算出部27は、検出対象Fの移動ベクトルVと検出対象Fの移動ベクトルVとを算出する。移動ベクトルVを算出する手法は、第1実施形態と同様である。すなわち移動ベクトルVは、検出対象Fn-1の位置情報と検出対象Fの位置情報とを用いて算出できる。また移動ベクトルVは、検出対象Fk-1の位置情報と検出対象Fの位置情報とを用いて算出できる。図32は、検出対象Fn-1、検出対象F、検出対象Fk-1、および検出対象Fの位置の例を示している。
【0178】
ステップS5E(スコアの取得)
移動ベクトルVと移動ベクトルVとを算出した後、現時点における検出対象FのマッチングスコアCと、フレームアウト状態が検出された時点における検出対象FのマッチングスコアCとを算出する。すなわちスコア取得部105は、検出対象FのマッチングスコアCの情報と、検出対象FのマッチングスコアCの情報とを取得する。マッチングスコアCは、マーカ検出部21がX線透視画像Pから検出対象Fを検出するステップS3の工程で算出され、記憶部15に記憶されている。スコア取得部105は、マッチングスコアCの情報を記憶部15から読み出して取得する。
【0179】
ステップS5F(マーカ復帰条件の判定)
移動ベクトルVおよびマッチングスコアCの情報が取得されると、移動ベクトルVおよびマッチングスコアCの情報を用いて、現時点の検出対象Fがマーカ復帰条件を満たしているか否かの判定を行う。そしてマーカ復帰検知部107は、マーカ復帰条件が2フレーム連続で満たされている場合、マーカ復帰状態の発生を検知する。
【0180】
本実施形態では、以下の2つの条件を満たした場合、マーカ復帰条件を満たしていると判定する。マーカ復帰条件における第1の条件として、現時点の移動ベクトルVとフレームアウト状態が検出された時点の移動ベクトルVとが反対方向であることが挙げられる。すなわち移動ベクトルVと移動ベクトルVとの内積(V・V)が、所定値D1の値を用いた(1)の式を満たす場合、第1の条件を満たしていると判定される。
-1≦(V・V)≦D1 ……(1)
【0181】
所定値D1は-1に近い所定の負の数であり、一例として-0.7から-0.8程度の数値が用いられる。内積(V・V)が(-1)に近い数値となる場合、フレームアウト状態が検知された時点で検出された検出対象Fの移動ベクトルVと、現時点における検出対象Fの移動ベクトルVとが形成する角度は180°に近い値であると判定される。マーカ10は被検体Mの呼吸などに起因して、周期的な軌道に沿って移動することが一般的である。そのため、X線透視画像Pの外部から内部へ復帰するマーカ10の移動方向は、X線透視画像Pの内部から外部へ移動するマーカ10の移動方向との角度が180°に近い値になると考えられる。そのため、内積(V・V)が(1)の式を満たす場合、マーカ復帰条件における第1の条件を満たしていると判定できる。
【0182】
マーカ復帰条件における第2の条件として、現時点のマッチングスコアCとフレームアウト状態が検出された時点のマッチングスコアCとが近い数値であることが挙げられる。すなわち、現時点におけるマッチングスコアCとフレームアウト状態が検出された時点のマッチングスコアCとの比であるスコア比(C/C)が、所定値D2の値を用いた(2)の式を満たす場合、第2の条件を満たしていると判定される。
D2≦(C/C)≦1 ……(2)
【0183】
所定値D2は1に近い所定の正の数であり、所定値D2の一例として0.7~0.9程度の数値が挙げられる。スコア比(C/C)が(2)の条件式を満たす場合、フレームアウト状態の後に検出された検出対象Fは、X線透視画像Pの外部へ移動する前に検出された検出対象Fと同様にマッチングスコアCが高い。そのため、検出対象Fは類似対象Rではなく真正のマーカ10である可能性が高いと判定できる。
【0184】
マーカ復帰検知部107は、内積(V・V)が(1)の条件式を満たし、かつスコア比(C/C)が(2)の条件式を満たす場合、k番目に取得されたX線透視画像Pにおいて検出対象Fはフレーム復帰条件を満たしていると判定する。
【0185】
ただし、1枚のX線透視画像Pにおいてフレーム復帰条件が満たされた場合であっても、マーカ10がX線透視画像Pの内部に復帰するフレーム復帰状態が確実に発生したと判定するには不十分である。一例として、マーカ10ではない検出対象Fの移動ベクトルVが、偶然にマーカ10であった検出対象Fの移動ベクトルVと反対方向となっていた可能性が考えられる。そのためマーカ10ではない物体が偶然にフレーム復帰条件を満たしたという可能性を排除するため、複数枚の連続するX線透視画像Pにおいてフレーム復帰条件を確認することが好ましい。
【0186】
本実施形態では、サーチエリア更新部25がエリア固定状態に切り換えられた後に連続して取得される2枚のX線透視画像Pにおいてフレーム復帰条件が満たされた場合、フレーム復帰状態はフレーム復帰状態の発生を検知する。X線透視画像Pにおいてフレーム復帰条件が満たされた場合、次に行われるステップS5においてマーカ復帰検知部107はX線透視画像Pk+1においてフレーム復帰条件を満たすか否かを判定する。
【0187】
すなわち(k+1)回目のステップS5を開始すると、k回目のステップS5と同様にステップS5Dに進む。そして移動ベクトル算出部27は検出対象Fの位置情報と検出対象Fk+1の位置情報とに基づいて、検出対象Fk+1の移動ベクトルVk+1を算出する。ステップS5Dが終了するとステップS5Eへ進み、スコア取得部105は検出対象Fk+1のマッチングスコアCk+1のデータを読み出して取得する。
【0188】
移動ベクトルVk+1およびマッチングスコアCk+1の情報が取得されるとステップS5Fに進む。マーカ復帰検知部107は、検出対象Fの移動ベクトルVと検出対象Fk+1の移動ベクトルVk+1との内積(V・Vk+1)を算出するとともに、検出対象Fと検出対象Fk+1とのスコア比(C/Ck+1)を算出する。そして下記の(3)および(4)の条件式を満たす場合、マーカ復帰検知部107は2回連続でマーカ復帰条件が満たされたと判定する。
-1≦(V・Vk+1)<D1 ……(3)
D2<(C/Ck+1)≦1 ……(4)
【0189】
ステップS5Fが完了した後、2回連続でマーカ復帰条件が満たされたか否かに応じて工程を分岐する(分岐Q9)。2回連続でマーカ復帰条件が満たされた場合、マーカ復帰検知部107はマーカ復帰状態の発生を検知する。言い換えると連続して生成される2枚のX線透視画像Pの各々において、マーカ復帰条件が満たされた場合、マーカ復帰検知部107はマーカ復帰状態の発生を検知する。現時点のステップS5ではマーカ復帰条件が満たされていない場合、または現時点ではマーカ復帰条件を満たしたが前回のステップS5ではマーカ復帰条件が満たされていない場合、マーカ復帰検知部107はマーカ復帰状態を検知しない。マーカ復帰検知部107がマーカ復帰状態を検知しない場合、更新状態切換部108はサーチエリア更新部25をエリア固定状態に維持させ、ステップS5を終了させる(判定A7)。
【0190】
一方でマーカ復帰状態の発生が検知された場合、更新状態切換部108はサーチエリア更新部25をエリア固定状態から通常状態に切り換えてステップS5を終了させる(判定A8)。サーチエリア更新部25を通常状態に切り換えることにより、次回に行われるステップS1~S6の工程では、基準位置記憶部109に記憶される基準位置の情報を更新できるようになる。その結果、次回に行われるステップS4において、サーチエリアSはステップS3において検出された検出対象Fが中心となる新たな位置に更新される。
【0191】
このように、第2実施形態ではステップS5においてフレームアウト状態およびマーカ復帰状態の有無を検知する。そしてフレームアウト状態またはマーカ復帰状態の発生に応じてサーチエリア更新部25を通常状態とエリア固定状態との間で適宜切り換える。
【0192】
フレームアウト状態を検知すると、サーチエリア更新部25は通常状態からエリア固定状態へ移行する。サーチエリア更新部25がエリア固定状態になると、新たにX線透視画像Pが生成されてもサーチエリアSの基準位置は更新されない。フレームアウト状態が検知されると、その後にマーカ10がX線透視画像Pの外部へ移動することが想定される。そのためフレームアウト状態の発生後にマーカ10がX線透視画像Pの外部へ移動した場合であっても、サーチエリアSはフレームアウト状態の発生時点の位置に固定される。従って、マーカ10が映っていないX線透視画像Pの探索によって類似対象Rが検出され、当該類似対象Rを基準としてサーチエリアSが不適切な位置に設定されることを回避できる。
【0193】
フレームアウト状態が検知された後にマーカ復帰状態が検知されると、サーチエリア更新部25はエリア固定状態から通常状態へ移行する。サーチエリア更新部25が通常状態になると、基準位置の更新が再開される。すなわち最新のX線透視画像Pからマーカ検出部21が検出する検出対象Fの位置に応じて、サーチエリアSの基準位置が更新されるようになる。マーカ10がX線透視画像Pの内部に復帰すると、マーカ検出部21はX線透視画像Pからマーカ10を正確に検出できる。そのためサーチエリア更新部25を通常状態に切り換えることにより、新たなX線透視画像Pに映るマーカ10を追跡する工程を再開できる。
【0194】
被検体Mの体内に留置されたマーカ10は、主に被検体Mの呼吸または拍動に起因して移動する。すなわちマーカ10は一般的に、線状または楕円率が小さい楕円状の軌跡に沿って周期的に移動する。よって図33に示すように、マーカ10がX線透視画像Pの外部へ一時的に移動する場合、X線透視画像Pの外部へ移動するマーカ10AがX線透視画像Pの外縁部PLに交差する位置Foutは、X線透視画像Pの内部へ復帰するマーカ10BがX線透視画像Pの外縁部PLに交差する位置Finの近傍となる。そしてマーカ復帰状態が検知されるまでの間、サーチエリアSの位置はフレームアウト状態が検知された時点の位置で固定されている。そのためX線透視画像Pの内部に復帰するマーカ10は、位置が固定されているサーチエリアSの内部へより確実に含まれる。従って、X線透視画像Pの内部に復帰したマーカ10を迅速かつ精度よく追跡することが可能となる。
【0195】
<実施形態の構成による効果>
(第1項)第1の実施形態に係るX線透視装置1は、被検体MにX線を照射するX線管(5、7)と、被検体Mを透過したX線を検出するX線検出器(6、8)と、X線検出器(6、8)が出力する検出信号を用いて、被検体Mの体内に留置されたマーカ10または被検体Mの特定部位を含む複数のX線透視画像Pを連続して生成する画像生成部19と、当該複数のX線透視画像Pの各々に対してサーチエリアSを設定するサーチエリア設定部22と、X線透視画像Pの各々に設定されるサーチエリアSの内部を探索することにより、追跡対象であるマーカ10または特定部位を検出する追跡対象検出部21と、複数のX線透視画像Pの各々において追跡対象検出部21が追跡対象として検出した検出対象Fが、追跡対象であるか類似対象Rであるかを判定する検出対象判定部23と、を備え、画像生成部が生成する複数のX線透視画像Pは、第1X線透視画像(P)と、当該第1X線透視画像より後の時刻に生成される第2X線透視画像(Pn+1)と、当該第1X線透視画像よりも前の時刻に生成されており検出対象判定部23が検出対象Fを追跡対象と判定している第3X線透視画像(Pn-1)とを含み、サーチエリア設定部22は、検出対象判定部23が第1X線透視画像(P)における前記検出対象(F)を追跡対象と判定した場合、第1X線透視画像(P)における検出対象(F)の位置情報に基づいて第2X線透視画像(Pn+1)にサーチエリア(Sn+1)を設定し、検出対象判定部23が第1X線透視画像(P)における検出対象(F)を類似対象Rであると判定した場合、第3X線透視画像(Pn-1)における当該検出対象(Fn-1)の位置情報に基づいて第2X線透視画像(Pn+1)にサーチエリア(Sn+1)を設定する。
【0196】
第1項に記載のX線透視装置によれば、第1X線透視画像において追跡対象検出部が検出した検出対象Fが、追跡対象であるか類似対象Rであるかを判定する検出対象判定部23を備える。検出対象判定部23が検出対象Fを追跡対象と判定した場合、サーチエリア設定部は、第1X線透視画像における検出対象の位置情報に基づいて、第1X線透視画像より後の時刻に生成される第2X線透視画像にサーチエリアを設定する。検出対象判定部23が検出対象Fを類似対象Rと判定した場合、サーチエリア設定部は、第3X線透視画像における検出対象の位置情報に基づいて、第2X線透視画像にサーチエリアを設定する。第3X線透視画像は、第1X線透視画像よりも前の時刻に生成されており検出対象判定部23が検出対象Fを追跡対象と判定しているX線透視画像である。このような構成により、第1X線透視画像において追跡対象検出部21が非追跡対象である類似対象Rを検出した場合であっても、第1X線透視画像より後に生成される第2X線透視画像において、当該第1X線透視画像の類似対象Rを追跡するようにサーチエリアSが更新されることを回避できる。よって、類似対象Rの影響を受けることなく追跡対象の位置に応じてサーチエリアSを精度良く設定し続けることが可能となる。
【0197】
(第2項)また第1項に記載のX線透視装置において、第1X線透視画像と第3X線透視画像との間において検出対象Fが移動した距離および移動した方向に基づいて、第1X線透視画像における検出対象Fの移動距離Gおよび移動ベクトルVを算出する移動ベクトル算出部27と、当該移動ベクトルの情報に基づいて第1X線透視画像における検出対象が高速移動状態であるか低速移動状態であるかを判定する移動状態判定部29と、を備え、検出対象判定部23は、第1X線透視画像における検出対象が高速移動状態であると判定された場合と低速移動状態であると判定された場合とでは、第1X線透視画像における検出対象Fが追跡対象であるか類似対象Rであるかを判定する基準がそれぞれ異なるように構成される。
【0198】
第2項に記載のX線透視装置によれば、移動ベクトル算出部27は第1X線透視画像における検出対象Fの移動ベクトルVを算出する。移動状態判定部29は検出対象Fの移動ベクトルVの情報に基づいて、第1X線透視画像における検出対象Fが高速移動状態であるか低速移動状態であるかを判定する。マーカ10を例とする追跡対象は、高速で移動する状態と低速で移動する状態との2種類の移動パターンがあり、各々の移動パターンにおいて移動距離または移動方向などの態様が異なる。そのため、検出対象Fが高速移動状態であるか低速移動状態であるかを判定し、検出対象Fが高速移動状態であると判定された場合と低速移動状態であると判定された場合とにおいて異なる判定基準を適用することで、検出対象Fをより精度良く判定できる。
【0199】
(第3項)また第2項に記載のX線透視装置において、第1X線透視画像Pより前に生成されており、かつ検出対象判定部によって検出対象が追跡対象と判定されている複数のX線透視画像Pn-1~Pn-4における検出対象Fの移動距離Gの平均値Gavを算出する平均距離算出部28を備え、移動状態判定部29は、第1X線透視画像Pにおける検出対象Fの移動距離Gと平均距離算出部28が算出した平均値Gavとがいずれも所定値T1以上である場合に第1X線透視画像Pにおける検出対象Fが高速移動状態と判定し、第1X線透視画像Pにおける検出対象Fの移動距離Gと平均距離算出部28が算出した平均値Gavとのいずれかが所定値T1未満である場合に低速移動状態と判定するように構成される。
【0200】
第3項に記載のX線透視装置によれば、平均距離算出部28は、第1X線透視画像Pより前に生成されており、かつ検出対象判定部によって検出対象が追跡対象と判定されている複数のX線透視画像Pn-1~Pn-4における検出対象Fの移動距離Gの平均値Gavを算出する。すなわち平均値Gavは、第1X線透視画像Pより前の時点における追跡対象の移動距離の平均に相当する。移動状態判定部29は、平均値Gavと、第1X線透視画像Pにおける検出対象Fの移動距離Gとの値に基づいて、第1X線透視画像Pにおける検出対象Fが高速移動状態であるか低速移動状態であるかを判定する。この場合、X線透視によりX線透視画像Pを生成するたびに最新の移動距離Gと追跡対象の移動距離の平均値Gavとを算出できるので、検出対象Fの移動状態をより容易かつ迅速に判定できる。
【0201】
(第4項)また第2項または第3項に記載のX線透視装置において、第1X線透視画像Pにおける検出対象Fが高速移動状態であると移動状態判定部29が判定した場合、検出対象判定部23は、第1X線透視画像Pにおける検出対象Fの移動ベクトルVと第3X線透視画像Pn-1における検出対象Fn-1の移動ベクトルVn-1との内積(V・Vn-1)がゼロ以上である場合は第1X線透視画像Pにおける検出対象Fが追跡対象であると判定する一方で、当該内積(V・Vn-1)が負の値である場合は第1X線透視画像Pにおける検出対象Pが類似対象Rであると判定するように構成され、第1X線透視画像Pにおける検出対象Pが低速移動状態であると移動状態判定部29が判定した場合、検出対象判定部23は、第1X線透視画像Pにおける検出対象Fの移動距離Gと、平均距離算出部28が算出した平均値Gavとの乖離率(G/Gav)が所定値T2未満である場合は第1X線透視画像Pにおける検出対象Fが追跡対象であると判定する一方で、当該乖離率(G/Gav)が所定値T2以上である場合は検出対象Fが類似対象Rであると判定するように構成される。
【0202】
第4項に記載のX線透視装置によれば、第1X線透視画像Pにおける検出対象Fが高速移動状態であると判定された場合、第1X線透視画像Pにおける検出対象Fの移動ベクトルVと第3X線透視画像Pn-1における検出対象Fn-1の移動ベクトルVn-1との内積(V・Vn-1)に基づいて検出対象判定部23は判定を行う。すなわち当該内積(V・Vn-1)がゼロ以上である場合は第1X線透視画像Pにおける検出対象Fが真正の追跡対象であると判定する一方、当該内積が負の値である場合は検出対象Fが追跡対象とは異なる類似対象Rであると判定する。内積が負の値である場合、第1X線透視画像Pにおける検出対象Fの移動ベクトルVと第3X線透視画像Pn-1における検出対象Fn-1の移動ベクトルVn-1とのなす角度が90°を超える。真正の追跡対象は高速移動状態において移動方向は大きく変化しない。よって、移動ベクトルVの内積を判定基準とすることで、検出対象Fが真正の追跡対象であるか否かをより確実に判定できる。
【0203】
また、検出対象Fが低速移動状態であると判定された場合、第1X線透視画像Pにおける検出対象Fの移動距離Gと、平均値Gavとの乖離率(G/Gav)に基づいて検出対象判定部23は判定を行う。平均値Gavは追跡対象の移動距離の平均に相当する。そして真正の追跡対象は低速移動状態において移動距離は大きく変化しない。そのため乖離率が所定値を超えることにより、第1X線透視画像Pにおける検出対象Fの移動態様は真正の追跡対象の移動態様と異なると判断できる。よって乖離率(G/Gav)を判定基準とすることで、検出対象Fに対する判定精度を向上できる。
【0204】
(第5項)第2の実施形態に係るX線透視装置101は、被検体にX線を照射するX線管(5、7)と、被検体を透過したX線を検出するX線検出器(6、8)と、X線検出器(6、8)が出力する検出信号を用いて複数のX線透視画像Pを生成する画像生成部19と、複数のX線透視画像Pの各々に対してサーチエリアSを設定するサーチエリア設定部22と、X線透視画像Pの各々に設定されるサーチエリアSの内部を探索することにより、被検体Mの体内に留置されたマーカ10または被検体の特定部位を追跡対象として検出する追跡対象検出部21と、X線透視画像Pに設定されたサーチエリアSの一部がX線透視画像Pの外部に位置する状態であるフレームアウト状態の発生を検知するフレームアウト検知部103と、追跡対象がX線透視画像Pの外部から内部へ復帰した状態である追跡対象復帰状態の発生を検知する追跡対象復帰検知部107と、を備え、サーチエリア設定部22は、フレームアウト状態が検知された場合、追跡対象復帰状態が検知されるまでの間はフレームアウト状態が検知された時点で生成されたX線透視画像Pにおいて検出された追跡対象の位置情報に基づいてサーチエリアSを設定する。
【0205】
第5項に記載のX線透視装置によれば、サーチエリアSの一部がX線透視画像Pの外部に設定されるフレームアウト状態の発生を検知するフレームアウト検知部103と、マーカ10などの追跡対象がX線透視画像Pの外部から内部へ復帰する追跡対象復帰状態の発生を検知する追跡対象復帰検知部107とを備える。フレームアウト状態が検知された場合、追跡対象復帰状態が検知されるまでの間、サーチエリア設定部22はフレームアウト状態が検知された時点で生成されたX線透視画像Pにおいて検出された追跡対象の位置情報に基づいてサーチエリアSを設定する。このような構成により、追跡対象がX線透視画像Pの外部へ移動する場合、速やかにフレームアウト状態の発生が検知されてエリア固定状態へと移行する。そのため追跡対象がX線透視画像Pの外部へ移動することに起因して類似対象Rが追跡対象検出部21によって検出され、当該類似対象Rの位置に基づいて不適切な位置にサーチエリアSが設定されることを回避できる。よって、マーカ10などの追跡対象が被検体の体動などによってX線透視画像Pの外部へと一時的に移動する場合であっても、サーチエリアSは適切な位置に設定されるので追跡対象を精度良く追跡することが可能となる。
【0206】
(第6項)また第5項に記載のX線透視装置において、フレームアウト検知部103は、サーチエリアSがX線透視画像Pの外縁部PLに当接または交差する場合にフレームアウト状態の発生を検知するように構成される。この場合、サーチエリアSとX線透視画像Pの外縁部PLとの位置関係を検出することで、フレームアウト状態の発生をより正確に検知できる。そのため、追跡対象がX線透視画像Pの外部へ移動することに起因して不適切な位置にサーチエリアSが更新されることをより確実に回避できる。
【0207】
(第7項)また第5項に記載のX線透視装置において、サーチエリア設定部22は、フレームアウト状態の発生が検知された場合、前記フレームアウト状態が検知された時点におけるサーチエリアSの広さを所定の拡大率で拡大させるとともに当該拡大されたサーチエリアSがX線透視画像Pの外縁部PLに当接するように、次に生成されるX線透視画像PにサーチエリアSを設定する。この場合、フレームアウト状態が検知された時点のサーチエリアSを拡大および変位させる補正が行われる。そして次に生成されるX線透視画像Pには、拡大および変位の補正が行われたサーチエリアSが設定される。当該補正により、後に生成されるX線透視画像Pに設定されるサーチエリアSの範囲がより広くなる。その結果、後にX線透視画像Pの内部へ復帰する追跡対象をより確実にサーチエリアSの内部に捉えることができる。従って、追跡対象の検出精度をさらに向上できる。
【0208】
(第8項)また第5項に記載のX線透視装置において、サーチエリア設定部22は、フレームアウト状態が検知された場合、追跡対象復帰状態が検知されるまでの間はフレームアウト状態が検知された時点で生成されたX線透視画像Pにおいて検出された追跡対象Fの位置情報に基づいてサーチエリアSを設定するエリア固定状態に移行し、フレームアウト状態が検知された後に追跡対象復帰状態が検知されることによってエリア固定状態を解除し、最新のX線透視画像Pから検出される追跡対象Fの位置情報に基づいてサーチエリアSが設定される状態を再開するように構成される。
【0209】
第8項に記載のX線透視装置によれば、フレームアウト状態が検知されるとエリア固定状態に移行する。エリア固定状態では、フレームアウト状態の検出時点における追跡対象Fの位置情報に基づいてサーチエリアSを設定する。エリア固定状態に移行することで、追跡対象がX線透視画像Pの外部へ移動した場合であっても、類似対象Rの位置に基づいて不適切な位置にサーチエリアSが設定されることを回避できる。フレームアウト状態が検知された後に追跡対象復帰状態が検知されることによって当該エリア固定状態が解除され、最新の追跡対象Fの位置情報に基づいてサーチエリアSが設定される状態が再開される。追跡対象復帰状態が検知される時点において、追跡対象はX線透視画像の範囲内に復帰している。そのためエリア固定状態を解除することにより、復帰した追跡対象を精度よく追跡する処理を迅速に再開できる。
【0210】
(第9項)また第5項に記載のX線透視装置において、追跡対象検出部21が追跡対象として検出する検出対象FのマッチングスコアCをX線透視画像Pの各々について取得するスコア取得部105と、第1の前記X線透視画像と当該第1のX線透視画像よりも前の時刻に生成されている第2のX線透視画像との間において検出対象が移動した距離および移動した方向に基づいて、第1のX線透視画像における検出対象Fの移動距離Gおよび移動ベクトルVを算出する移動ベクトル算出部27と、を備え、追跡対象復帰検知部107は、第1のX線透視画像における検出対象Fの移動ベクトルとフレームアウト状態が発生する際に算出された検出対象の移動ベクトルとが反対方向であり、かつ第1の前記X線透視画像における検出対象のマッチングスコアとフレームアウト状態が発生する際に算出されたマッチングスコアCとの比が所定値D2以上である場合に、第1のX線透視画像における追跡対象復帰状態の発生を検知するように構成される。
【0211】
第9項に記載のX線透視装置によれば、検出対象FのマッチングスコアCを取得するスコア取得部105と、検出対象Fの移動ベクトルVを算出する移動ベクトル算出部27とを備えている。追跡対象復帰検知部107は、フレームアウト状態の発生時点における検出対象Fの移動ベクトルVと第1のX線透視画像における検出対象Fの移動ベクトルVとが反対方向であり、かつ第1のX線透視画像におけるマッチングスコアCとフレームアウト状態の発生時点におけるマッチングスコアCとの比が所定値D2以上である場合、マーカ復帰状態の発生を検知する。このような条件を満たす場合、第1のX線透視画像における検出対象Fの挙動はX線透視画像Pの内部に復帰する追跡対象の挙動と類似するので、追跡対象復帰状態が発生していると判断できる。よって、追跡対象復帰状態の検知精度を向上できるとともに、より容易に追跡対象復帰状態を検知することができる。
【0212】
<他の実施例>
なお、今回開示された実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲、並びに、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。例として、本発明は下記のように変形実施することができる。
【0213】
(1)上述したX線透視装置において、第1実施形態と第2実施形態とは独立した構成に限ることはなく、第1実施形態の構成と第2実施形態の構成とを兼ね備えてもよい。すなわち検出対象判定部23などを備えており検出対象Fの判定を行う第1実施形態の構成と、更新状態切換部108などを備えておりフレームアウト状態およびマーカ復帰状態を検知することでサーチエリア更新部25の状態を切り換える第2実施形態の構成との両方を備えてもよい。
【0214】
図34は、第1実施形態の構成と第2実施形態の構成とを備えたX線透視装置201を示す機能ブロック図である。当該変形実施形態に係るX線透視装置201の主制御部9には、第1実施形態および第2実施形態に共通する構成に加えて、第1実施形態に特徴的な構成である検出対象判定部23、および第2実施形態に特徴的な構成であるフレームアウト検知部103、スコア取得部105、マーカ復帰検知部107、および更新状態切換部108を備えている。またX線透視装置201の記憶部15には、テンプレート記憶部31、真正マーカ記憶部33、サーチエリア記憶部34、および基準位置記憶部109が設けられている。
【0215】
変形実施形態に係るX線透視装置201において、サーチエリア更新部25が通常状態である場合、基準位置記憶部109は真正マーカ記憶部33に記憶されている直近の真正マーカの位置情報を基準位置として記憶する。サーチエリア更新部25がエリア固定状態である場合、真正マーカ記憶部33に記憶される真正マーカの位置情報が更新された場合であっても、基準位置記憶部109は基準位置の情報を維持する。
【0216】
図35は、変形実施形態に係るX線透視装置201を用いてマーカ10を追跡する工程の概要を示すフローチャートである。変形実施形態に係るX線透視装置201では、マーカ検出部21がマーカ10として検出した検出対象Fに対する判定を行うとともに(ステップS4)、サーチエリア更新部25が更新したサーチエリアSに基づいてサーチエリア更新部25の状態を通常状態またはエリア固定状態に切り換える動作を行う(ステップS6)。
【0217】
変形実施形態ではステップS4において検出対象Fを検出対象判定部23で判定する。そのため第1実施形態と同様に、マーカ検出部21がマーカ10であるとして類似対象Rを検出した場合であっても、類似対象Rの位置情報は真正マーカ記憶部33に記憶されない。すなわち類似対象Rの位置情報はサーチエリアSの基準位置として用いられることがない。従って、類似対象Rが誤って検出される場合であってもサーチエリアSは類似対象Rを追跡するように更新されることを回避できる。
【0218】
また変形実施形態ではステップS6において、フレームアウト状態およびマーカ復帰状態の有無を判定する。そして更新状態切換部108は当該判定結果に応じて、サーチエリア更新部25を通常状態またはエリア固定状態に切り換える。そのため、マーカ10がX線透視画像Pの外部へ移動する事態が発生しても、予めフレームアウト状態を検知することによってサーチエリア更新部25はエリア固定状態に切り換えられている。すなわちマーカ10がX線透視画像Pの外部へ移動している間はサーチエリアSの位置が固定される。従って、X線透視画像Pに真正のマーカ10が映っていないことに起因して類似対象Rがマーカ10と誤って検出され、サーチエリアSが当該類似対象Rを追跡するように更新されるという事態を回避できる。
【0219】
そしてマーカ10が再びX線透視画像Pの内部へ復帰した場合、速やかにマーカ復帰状態が検知されてサーチエリア更新部25のエリア固定状態が解除される。エリア固定状態が解除されることにより、マーカ10の位置を基準としてサーチエリアSを更新する通常状態にサーチエリア更新部25が切り換えられる。従って、精度が高いマーカ10の位置情報を迅速に取得できる。
【0220】
(2)上述したX線透視装置において、検出対象Fの移動状態を判定する際に移動距離Gおよび平均移動距離Gavの値の各々を同じ所定値T1と比較しているがこれに限ることはなく、それぞれ異なる値を閾値として比較してもよい。一例として現時点における検出対象Fの移動距離Gが所定値T1以上であり、かつ直近の過去におけるマーカ10の平均移動距離Gavの値が所定値M1以上である場合に、検出対象Fは高速移動状態であると判定してもよい。
【0221】
(3)上述したX線透視装置において、マーカ10を追跡対象として用いる構成を例示したが追跡対象はマーカ10に限られない。すなわち被検体Mの特定部位Bcを追跡対象としてステップS1~S6の工程を繰り返してもよい。特定部位Bcを追跡対象とする構成は、いわゆるマーカレストラッキングとも呼ばれる。特定部位Bcの例として、腫瘍または特定の臓器などが挙げられる。特定部位Bcを追跡対象とする変形例の場合、テンプレート画像Tpとして特定部位Bcが映る画像を用いる。またマーカ検出部21はX線透視画像PにおけるサーチエリアSの内部を走査して、テンプレート画像Tpに映る特定部位BcとのマッチングスコアCが最も高い対象を検出対象Fとして検出する。マーカ10の代わりに特定部位Bcを追跡対象とする場合、被検体Mの体内にマーカ10を留置する必要がないので、被検体Mに対する負担をより低減できる。
【0222】
(4)上述した第2実施形態に係るX線透視装置において、フレームアウト状態を検知する工程を実行するタイミングはステップS5に限ることはなく、適宜変更してもよい。一例として、X線透視画像Pに対してサーチエリアSを設定するステップS2の完了後にフレームアウト状態の有無を検知してもよい。この場合、X線透視画像Pに対して設定されたサーチエリアSの少なくとも一部がX線透視画像Pの外縁部PLに当接または交差している場合、フレームアウト状態の第2条件を満たしていると判断できる。
【0223】
(5)上述した第2実施形態に係るX線透視装置において、検出対象Fが高速移動状態であることをフレームアウト状態が発生する第1条件とする場合を例示しているがこれに限られない。すなわち検出対象Fが高速移動状態であることをフレームアウト状態の必須条件とせず、サーチエリアSの少なくとも一部がX線透視画像Pの外縁部PLに当接または交差している場合にフレームアウト状態が発生していると判定してもよい。
【符号の説明】
【0224】
1 …X線透視装置
3 …天板
4 …基台
5 …X線管
6 …X線検出器
7 …X線管
8 …X線検出器
9 …主制御部
10 …マーカ(追跡対象)
11 …表示部
13 …入力部
15 …記憶部
17 …X線照射制御部
19 …画像生成部
21 …マーカ検出部
22 …サーチエリア設定部
23 …類似対象判定部
25 …サーチエリア更新部
26 …マーカ位置算出部
27 …移動ベクトル算出部
28 …平均距離算出部
29 …移動状態判定部
31 …テンプレート記憶部
33 …真正マーカ記憶部
34 …サーチエリア記憶部
103 …フレームアウト検知部
105 …スコア取得部
107 …マーカ復帰検知部
108 …更新状態切換部
109 …基準位置記憶部
P …X線透視画像
S …サーチエリア
F …検出対象
R …類似対象
B …検出対象位置
Tp …テンプレート画像
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