(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012823
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】水硬性組成物硬化セット、及びそれを用いた硬化性ペースト施工方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20250117BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20250117BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20250117BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20250117BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20250117BHJP
C04B 24/18 20060101ALI20250117BHJP
C04B 24/02 20060101ALI20250117BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20250117BHJP
B28C 5/00 20060101ALI20250117BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20250117BHJP
B28C 7/02 20060101ALI20250117BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20250117BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20250117BHJP
E04B 1/41 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 Z
C04B22/14 A
C04B22/14 C
C04B24/38 B
C04B24/06 A
C04B24/18 A
C04B24/02
C04B22/10
B28C5/00
C04B20/00 B
B28C7/02
E01D22/00 B
E04G23/02 B
E04B1/41 503B
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115950
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000232922
【氏名又は名称】日油技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江藤 孝之
【テーマコード(参考)】
2D059
2E125
2E176
4G056
4G112
【Fターム(参考)】
2D059BB39
2D059GG40
2E125AA44
2E125AC01
2E125BA13
2E176AA01
2E176BB15
2E176BB17
4G056AA06
4G056CB28
4G056CC35
4G056CD01
4G112MB00
4G112MB06
4G112MB12
4G112MB13
4G112MB26
4G112PB05
4G112PB08
4G112PB10
4G112PB11
4G112PB15
4G112PB17
4G112PB23
4G112PB40
4G112PC04
4G112PC05
4G112PD03
4G112PE01
(57)【要約】
【課題】硬化性ペースト施工例えば小規模だけでなく中規模のアンカー素子定着工事や広範囲のひび割れ補修施工などにも適用でき、寒暖に応じて簡便かつ簡素に使用可能時間や凝結時間を調整でき、しかも水硬性組成物と水とを簡便な手法によって短時間で均一に混合及び混練できることにより、常に同じ品質の硬化性ペーストを調製でき、その硬化性ペーストによりアンカー素子を削孔に固定したり広範囲のひび割れ補修施工などを施したりするのに用いられる水硬性組成物硬化セットを提供する。
【解決手段】 水硬性組成物硬化セットは、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び急結剤を含有する水硬成分と、粘度調整剤と、第一の凝結調整剤と、細骨材とを含む水硬性組成物C
1を封入材110内に封入されている水硬性組成物封入体100と、水に溶解させ凝結調整剤水溶液にするための第二の凝結調整剤とからなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び急結剤を含有する水硬成分と、粘度調整剤と、第一の凝結調整剤と、JIS G5901(2016)に準拠した粒度区分を4~8号としている細骨材とを含む水硬性組成物を封入材内に封入されている水硬性組成物封入体と;
水に溶解させ凝結調整剤水溶液にするためのもので、前記水硬性組成物封入体中の前記水硬性組成物を前記凝結調整剤水溶液中の水成分で凝結させつつ、前記凝結調整剤水溶液中の凝結調整剤成分で凝結速度又はそれと硬化速度を調整させるようにするためのものである、第二の凝結調整剤と;
からなることを特徴とする水硬性組成物硬化セット。
【請求項2】
前記第一及び第二の凝結調整剤が、同一又は異なり、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、サリチル酸、m-オキシ安息香酸、及びp-オキシ安息香酸から選ばれる少なくとも何れかのオキシカルボン酸又はその塩;リグニンスルホン酸又はその塩;ソルビトール、ペンチトール、及びヘキシトールから選ばれる糖アルコール;炭酸塩;シリカ;から選ばれる少なくとも何れかを含有する使用可能時間・凝結時間調整剤であることを特徴とする請求項1に記載の水硬性組成物硬化セット。
【請求項3】
前記水硬性組成物が、前記ポルトランドセメント、前記アルミナセメント、前記急結剤、前記粘度調整剤、前記第一の凝結調整剤、及び前記細骨材を、20~60:30~70:10~40:0.1~1.0:1~10:10~40の質量比で、含んでいることを特徴とする請求項1に記載の水硬性組成物硬化セット。
【請求項4】
前記第二の凝結調整剤が、前記水に対して、1~10質量%となる量であることを特徴とする請求項1に記載の水硬性組成物硬化セット。
【請求項5】
前記粘度調整剤が、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロースから選ばれるセルロース誘導体;前記セルロース誘導体の少なくとも一種を含む天然多糖類誘導体;アクリルアミド;澱粉エーテル;高分子電解質;から選ばれる少なくとも何れかを含有する増粘剤であることを特徴とする請求項1に記載の水硬性組成物硬化セット。
【請求項6】
前記水硬性組成物が、遅延型流動化剤を含有していないことを特徴とする請求項1に記載の水硬性組成物硬化セット。
【請求項7】
前記封入材が、前記水硬性組成物封入体を浸漬させた前記凝結調整剤水溶液から透水させる紙含有製、及び/又は不織布含有製である透水性筒状容器であることによって、前記水硬性組成物封入体が、定着剤含有カプセルとなっており、若しくは
前記封入材が、前記凝結調整剤水溶液を注入する非透水性のプラスチック製の袋容器であることによって、前記水硬性組成物封入体が、定着剤含有パックとなっていることを特徴とする請求項1に記載の水硬性組成物硬化セット。
【請求項8】
アンカー素子定着用、ひび割れ補修用、レンガ、ブロック又はタイルの固定用又は目地埋め用、漏水箇所の止水用、地盤の改良用、空洞の充填用、表面の化粧モルタル塗工用、壁塗り用、若しくは造作物の製作用又は装飾用であることを特徴とする請求項1に記載の水硬性組成物硬化セット。
【請求項9】
請求項1に記載の水硬性組成物硬化セットを用いる硬化性ペースト施工方法であって、
前記第二の凝結調整剤を、水に溶解して、凝結調整剤水溶液を調製する工程と、
前記水硬性組成物が透水性筒状容器に封入されている前記水硬性組成物封入体である定着剤含有カプセルと前記凝結調整剤水溶液とを接触させることにより、前記水硬性組成物に前記凝結調整剤水溶液を吸収させて、前記硬化性組成物と前記凝結調整剤水溶液とが混合された硬化性ペーストにして前記水硬性組成物を凝集させる工程と、
前記硬化性ペーストを、前記透水性筒状容器から取り出して、先端に筒先と基端に開口とを有するシリンダカートリッジに入れた後、押圧に応じて前記シリンダカートリッジ内を前記筒先に向かって移動する蓋体を前記開口から入れる工程と、
前記蓋体を押圧して前記硬化性ペーストを前記筒先から押し出して、前記硬化性ペーストを施工箇所に吐出する工程と、
前記硬化性ペーストを硬化させる工程とを、
有することを特徴とする硬化性ペースト施工方法。
【請求項10】
前記施工箇所に吐出する工程が、コンクリート躯体に開けられた削孔に注入する過程を有するものであり、
前記硬化性ペーストを硬化させる工程が、前記硬化性ペーストに突き刺しながら前記削孔にアンカー素子を挿入する過程を有するものであることにより、
アンカー素子定着をすることを特徴とする請求項9に記載の硬化性ペースト施工方法。
【請求項11】
注入量指示マークを付した注入チューブを先端部に嵌めているノズルが前記筒先に取り付けられており、前記注入チューブを前記削孔に挿し込んで前記水硬性組成物を注入しつつ前記注入チューブを前記削孔から抜去する方向に前記シリンダカートリッジを移動させ、前記注入量指示マークが前記削孔から出没したときに、前記水硬性組成物の注入を終了することを特徴とする請求項9に記載の硬化性ペースト施工方法。
【請求項12】
凝集した前記水硬性組成物を、前記シリンダカートリッジ内で掻き回して撹拌し、前記水硬性組成物を分散させて前記硬化性ペーストを調製することを特徴とする請求項9に記載の硬化性ペースト施工方法。
【請求項13】
前記凝結調整剤水溶液と前記水硬性組成物封入体とを、3~10間接触させることを特徴とする請求項9に記載の硬化性ペースト施工方法。
【請求項14】
前記施工箇所に吐出する工程の後に、前記シリンダカートリッジの内壁面を洗浄する工程を有していることを特徴とする請求項9に記載の硬化性ペースト施工方法。
【請求項15】
請求項1に記載の水硬性組成物硬化セットを用いる硬化性ペースト施工方法であって、
前記第二の凝結調整剤を、水に溶解して、凝結調整剤水溶液を調製する工程と、
前記水硬性組成物が封入されている非透水性の袋容器と、外界と前記袋容器内空とをそれの上端辺部で連通させているポートとを有する前記水硬性組成物封入体である定着剤含有パックに、前記ポートから凝結調整剤水溶液を注ぎ込む工程と、
前記水硬性組成物及び前記凝結調整剤水溶液を遺漏させないキャップを前記ポートに取り付け、前記定着剤含有パックに外力を加えることにより、前記水硬性組成物と前記凝結調整剤水溶液とを混合して硬化性ペーストを調製する工程と、
前記キャップを除去した後、前記袋容器を潰すことによって、前記硬化性ペーストを前記ポートから押し出して前記硬化性ペーストを前記ポートから施工箇所に吐出する工程と、
前記硬化性ペーストを硬化させる工程とを、
有することを特徴とする硬化性ペースト施工方法。
【請求項16】
前記施工箇所に吐出する工程が、コンクリート躯体に開けられた削孔へ注入する過程を有するものであり、
前記硬化性ペーストを硬化させる工程が、前記硬化性ペーストに突き刺しながら前記削孔にアンカー素子を挿入する過程を有するものであることにより、
アンカー素子定着をすることを特徴とする請求項15に記載の硬化性ペースト施工方法。
【請求項17】
前記外力が、器具の押圧力及び/又は人力であることを特徴とする請求項15に記載の硬化性ペースト施工方法。
【請求項18】
注入量指示マークを付した注入チューブを先端部に嵌めている注入コネクタが前記ポートに取り付けられており、前記注入チューブを前記削孔に挿し込んで前記硬化性ペーストを注入しつつ前記注入チューブを前記削孔から抜去する方向に前記定着剤含有パックを移動させ、前記注入量指示マークが前記削孔から出没したときに、前記硬化性ペーストの注入を完了することを特徴とする請求項15に記載の硬化性ペースト施工方法。
【請求項19】
前記注入チューブの先端にまで前記硬化性ペーストを吐出しておき、前記注入チューブを前記削孔に挿し込んで前記硬化性ペーストを注入しつつ前記注入チューブを前記削孔から抜去する方向に前記定着剤含有パックを移動させ、注入チューブ自体を絞りながら引き上げていき、前記注入量指示マークが前記削孔から出没したときに、前記硬化性ペーストの前記注入を完了することを特徴とする請求項18に記載の硬化性ペースト施工方法。
【請求項20】
前記定着剤含有パックの内部と、その定着剤含有パックから前記注入チューブの注入量指示マークまでの内部との硬化性ペーストを、前記削孔に注入することを特徴とする請求項18に記載の硬化性ペースト施工方法。
【請求項21】
前記水硬性組成物を硬化させるための必要量の前記凝結調整剤水溶液が収容されているボトルの注ぎ口ノズルを、前記ポートに嵌入した後、前記パックに、前記凝結調整剤水溶液を注ぎ込むことを特徴とする請求項15に記載の硬化性ペースト施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばカルバート、ダム堤体、建物のようなコンクリート躯体や岩盤に、鉄筋やアンカーボルトのようなアンカー素子を定着させたり、ひび割れ補修、レンガ、ブロック又はタイルの固定、目地埋め、漏水箇所の止水、地盤の改良、空洞の充填、表面の化粧モルタル塗工、壁塗り、若しくは造作物の製作又は装飾をしたりするために用いられる水硬性組成物硬化セット、及びそれを用いた硬化性ペースト施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルバート、ダム堤体、トンネル、建物のような既存のコンクリート製人工構造物の耐震強度や耐久性を高めるために、せん断耐力を向上させる補強工事が行われている。また、法面を覆ってそれの崩落を防止するという所謂張コンクリートに、必要に応じて落石防護網や雪崩防止柵のような工作物を取り付ける工事が行われている。これらの工事は、コンクリート構造物を形成しているコンクリート躯体や岩盤に、ドリルやコアボーリングマシンのような回転工具で円筒形の削孔を形成し、そこへ硬化性組成物を入れ、さらに鉄筋やアンカーボルトのようなアンカー素子を打ち込んで定着させるというものである。
【0003】
このようなアンカー素子定着工事に用いられる硬化性組成物として、セメントを含む水硬性組成物が採用されている。アンカー素子定着工事においては、この水硬性組成物を水と接触させてペースト化し、この硬化性ペーストをアンカー素子と削孔の内壁面との間に注入し凝結を開始させて、養生を経てこれを硬化させて硬化物とする。硬化物が所望の強度を発揮するように、水硬性組成物に対する水の量は予め決められており、さらに両者を均一に混合することを要する。それによってアンカー素子がコンクリート躯体に定着し、既存のコンクリート構造物のせん断耐力を高めたり、これに工作物を取り付けたりすることができる。このようなアンカー素子の定着方法は、カートリッジ方式とパック方式とに分類できる。
【0004】
カートリッジ方式は、硬質のシリンダカートリッジに収容された水硬性組成物に水を注いで硬化性ペースト調製するという方法であり、パック方式は袋のようなパウチ容器に収容された水硬性組成と水とを、パウチ容器内で混合して硬化性ペーストを調製するという方法である。
【0005】
カートリッジ方式として、例えば特許文献1に、一端に吐出口有するシリンダ内に予め収容されているセメント系組成物粉体である水硬性組成物に吐出口から水を注入した後、シリンダカートリッジを手に持って振盪したり、このシリンダカートリッジに機械で振動を与えたりして水硬性組成物と水とを撹拌し、それにより調製した高流動性のセメントペーストを吐出口から押し出しながら、コンクリート構造物に開けた削孔に注入し、そこへアンカー素子を挿入するという方法が記載されている。
【0006】
一方パック方式として、特許文献2に、仕切具で二つに区画されたパウチ容器の上側収納部に水硬性組成物を収容し、下側収納部に水を収容しているパウチ容器の上端部と下端部とを引っ張ることによって仕切具を外し、水硬性組成物を水に落下させた後、パウチ容器を手で揉んだり振ったり、また機械で振動を付与したりして両者を混合し、硬化性ペーストを調製するというパウチ容器の使用方法が記載されている。この方法によれば、大掛かりな混練装置が不要であるので、アンカー素子定着工事へ手軽に適用できる。
【0007】
本出願人は、既に特許文献3に、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び急結剤を含有する水硬成分と、粘度調整剤と、凝結調整剤と、JIS G5901(2016)に準拠した粒度区分を4~8号としている細骨材とを含んでいる水硬性組成物を開示し、またその水硬性組成物が透水性筒状容器に封入されている定着剤含有カプセルと水とを接触させることにより、前記水硬性組成物に前記水を吸収させて前記水硬性組成物を凝集させる工程と、凝集した前記水硬性組成物を、前記透水性筒状容器から取り出して、先端に筒先と基端に開口とを有するシリンダカートリッジに入れた後、押圧に応じて前記シリンダカートリッジ内を前記筒先に向かって移動する蓋体を前記開口から入れる工程と、前記蓋体を押圧して前記水硬性組成物を前記筒先から押し出して、前記硬化性組成物と前記水とが混合された硬化性ペーストを施工箇所に吐出する工程と、前記硬化性ペーストを硬化させる工程とを、有する硬化性ペースト施工方法を開示し、さらにこの水硬性組成物を収容している袋体と、外界と前記袋体の内空とをそれの上端辺部で連通させているポートとを有するパックに、前記ポートから水を注ぎ込む工程と、前記水硬性組成物及び前記水を遺漏させないキャップを前記ポートに取り付け、前記パックに外力を加えることにより、前記水硬性組成物と前記水とを混合して硬化性ペーストを調製する工程と、前記キャップを除去した後、前記袋体を潰すことによって、前記硬化性ペーストを前記ポートから押し出して前記硬化性ペーストを前記ポートから施工箇所に吐出する工程と、前記硬化性ペーストを硬化させる工程とを、有することを特徴とする硬化性ペースト施工方法を開示している。
【0008】
カートリッジ方式やパック方式によれば、削孔に充填されたセメントペーストは高い流動性を有しているので、打込機材を用いることなくセメントペーストが注入された削孔にアンカー素子を手で打込むことができる。また、多数の削孔へ流れ作業で次々とセメントペーストを注入できるので、短時間に多数箇所の施工が可能である。
【0009】
このようなセメント系組成物粉体や水硬性組成物等の組成物に水を含ませてペーストにして押し出して用いる施工方法は、これら組成物が規定成分とその規定量とであるという用時改変が利かない所為と、これら組成物に予め所定の凝結調整剤(硬化遅延剤)を含有しておりその量を用時改変が利かない所為で、夏季と冬季とで、又は温暖地域と寒冷地域とで、或いは屋外と室内とで、寒暖差を生じその温度や水温に応じて使用可能時間や凝結時間の相違を生じてしまっていた。特に極暑の夏場や温暖地域や日差しの強い屋外では、使用可能時間や凝結時間が短すぎるため、引き続くアンカー素子挿入などの諸工程を行う時間を確保し難いため、使用可能時間や凝結時間を延長したい場合がある。一方、極寒の冬場や寒冷地域や曇天又は雨天下では、使用可能時間や凝結時間を延長しないか僅かに延長する程度に留めたい場合もある。
【0010】
施工現場では、施工工程日程に応じ、使用可能時間や凝結時間を管理・調整し、ある程度一定にすることによって作業効率化・品質均質化を図ることが望ましいが、既存のこれら組成物では、寒暖に応じて使用可能時間や凝結時間を自在に調整することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013-147883号公報
【特許文献2】特開2011-25424号公報
【特許文献3】特開2021-80158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、硬化性ペースト施工例えば小規模だけでなく中規模のアンカー素子定着工事や広範囲のひび割れ補修施工などにも適用でき、寒暖に応じて簡便かつ簡素に使用可能時間や凝結時間を調整でき、しかも簡便な手法によって短時間で均一に硬化性ペーストへと混合及び混練できることにより、常に同じ品質の硬化性ペーストを調製でき、その硬化性ペーストによりアンカー素子を削孔に固定したり広範囲のひび割れ補修施工などを施したりするのに必要な使用可能時間や凝結時間を適切に確保できる水硬性組成物硬化セット、及びそれを用いた硬化性ペースト施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を解決するためになされた本発明の水硬性組成物硬化セットは、
ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び急結剤を含有する水硬成分と、粘度調整剤と、第一の凝結調整剤と、JIS G5901(2016)に準拠した粒度区分を4~8号としている細骨材とを含む水硬性組成物を封入材内に封入されている水硬性組成物封入体と;
水に溶解させ凝結調整剤水溶液にするためのもので、前記水硬性組成物封入体中の前記水硬性組成物を前記凝結調整剤水溶液中の水成分で凝結させつつ、前記凝結調整剤水溶液中の凝結調整剤成分で凝結速度又はそれと硬化速度を調整させるようにするためのものである、第二の凝結調整剤と;
からなる。
【0014】
この水硬性組成物硬化セットは、例えば前記第一及び第二の凝結調整剤が、同一又は異なり、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、サリチル酸、m-オキシ安息香酸、及びp-オキシ安息香酸から選ばれる少なくとも何れかのオキシカルボン酸又はその塩;リグニンスルホン酸又はその塩;ソルビトール、ペンチトール、及びヘキシトールから選ばれる糖アルコール;炭酸塩;シリカ;から選ばれる少なくとも何れかを含有する使用可能時間・凝結時間調整剤であるというものである。
【0015】
この水硬性組成物硬化セットは、例えば前記水硬性組成物が、前記ポルトランドセメント、前記アルミナセメント、前記急結剤、前記粘度調整剤、前記第一の凝結調整剤、及び前記細骨材を、20~60:30~70:10~40:0.1~1.0:1~10:10~40の質量比で、含んでいるというものである。
【0016】
この水硬性組成物硬化セットは、前記第二の凝結調整剤が、前記水に対して、1~10質量%となる量であるように調整されていることが好ましい。
【0017】
この水硬性組成物硬化セットは、例えば前記粘度調整剤が、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロースから選ばれるセルロース誘導体;前記セルロース誘導体の少なくとも一種を含む天然多糖類誘導体;アクリルアミド;澱粉エーテル;高分子電解質;から選ばれる少なくとも何れかを含有する増粘剤であるというものである。
【0018】
この水硬性組成物硬化セットは、前記水硬性組成物が、遅延型流動化剤を含有していないことが好ましい。
【0019】
この水硬性組成物硬化セットは、前記封入材が、前記水硬性組成物封入体を浸漬させた前記凝結調整剤水溶液から透水させる紙含有製、及び/又は不織布含有製である透水性筒状容器であることによって、前記水硬性組成物封入体が、定着剤含有カプセルとなっており、若しくは
前記封入材が、前記凝結調整剤水溶液を注入する非透水性のプラスチック製の袋容器であることによって、前記水硬性組成物封入体が、定着剤含有パックとなっているものであってもよい。
【0020】
この水硬性組成物硬化セットは、例えばアンカー素子定着用、ひび割れ補修用、レンガ、ブロック又はタイルの固定用又は目地埋め用、漏水箇所の止水用、地盤の改良用、空洞の充填用、表面の化粧モルタル塗工用、壁塗り用、若しくは造作物の製作用又は装飾用であるというものである。
【0021】
前記の課題を解決するためになされた本発明の硬化性ペースト施工方法は、
前記水硬性組成物硬化セットを用いる硬化性ペースト施工方法であって、
前記第二の凝結調整剤を、水に溶解して、凝結調整剤水溶液を調製する工程と、
前記水硬性組成物が透水性筒状容器に封入されている前記水硬性組成物封入体である定着剤含有カプセルと前記凝結調整剤水溶液とを接触させることにより、前記水硬性組成物に前記凝結調整剤水溶液を吸収させて、前記硬化性組成物と前記凝結調整剤水溶液とが混合された硬化性ペーストにして前記水硬性組成物を凝集させる工程と、
前記硬化性ペーストを、前記透水性筒状容器から取り出して、先端に筒先と基端に開口とを有するシリンダカートリッジに入れた後、押圧に応じて前記シリンダカートリッジ内を前記筒先に向かって移動する蓋体を前記開口から入れる工程と、
前記蓋体を押圧して前記硬化性ペーストを前記筒先から押し出して、前記硬化性ペーストを施工箇所に吐出する工程と、
前記硬化性ペーストを硬化させる工程とを、
有するというものである。
【0022】
この硬化性ペースト施工方法は、具体的には前記施工箇所に吐出する工程が、コンクリート躯体に開けられた削孔に注入する過程を有するものであり、
前記硬化性ペーストを硬化させる工程が、前記硬化性ペーストに突き刺しながら前記削孔にアンカー素子を挿入する過程を有するものであることにより、
アンカー素子定着をするというものである。
【0023】
この硬化性ペースト施工方法は、注入量指示マークを付した注入チューブを先端部に嵌めているノズルが前記筒先に取り付けられており、前記注入チューブを前記削孔に挿し込んで前記水硬性組成物を注入しつつ前記注入チューブを前記削孔から抜去する方向に前記シリンダカートリッジを移動させ、前記注入量指示マークが前記削孔から出没したときに、前記水硬性組成物の注入を終了するというものであってもよい。
【0024】
この硬化性ペースト施工方法は、凝集した前記水硬性組成物を、前記シリンダカートリッジ内で掻き回して撹拌し、前記水硬性組成物を分散させて前記硬化性ペーストを調製するというものであってもよい。
【0025】
この硬化性ペースト施工方法は、前記凝結調整剤水溶液と前記水硬性組成物封入体とを、3~10間接触させるというものであってもよい。
【0026】
この硬化性ペースト施工方法は、前記施工箇所に吐出する工程の後に、前記シリンダカートリッジの内壁面を洗浄する工程を有しているというものであってもよい。
【0027】
前記の課題を解決するためになされた本発明の別な硬化性ペースト施工方法は、
前記水硬性組成物硬化セットを用いる硬化性ペースト施工方法であって、
前記第二の凝結調整剤を、水に溶解して、凝結調整剤水溶液を調製する工程と、
前記水硬性組成物が封入されている非透水性の袋容器と、外界と前記袋容器内空とをそれの上端辺部で連通させているポートとを有する前記水硬性組成物封入体である定着剤含有パックに、前記ポートから凝結調整剤水溶液を注ぎ込む工程と、
前記水硬性組成物及び前記凝結調整剤水溶液を遺漏させないキャップを前記ポートに取り付け、前記定着剤含有パックに外力を加えることにより、前記水硬性組成物と前記凝結調整剤水溶液とを混合して硬化性ペーストを調製する工程と、
前記キャップを除去した後、前記袋容器を潰すことによって、前記硬化性ペーストを前記ポートから押し出して前記硬化性ペーストを前記ポートから施工箇所に吐出する工程と、
前記硬化性ペーストを硬化させる工程とを、
有するというものである。
【0028】
この硬化性ペースト施工方法は、前記施工箇所に吐出する工程が、コンクリート躯体に開けられた削孔へ注入する過程を有するものであり、
前記硬化性ペーストを硬化させる工程が、前記硬化性ペーストに突き刺しながら前記削孔にアンカー素子を挿入する過程を有するものであることにより、
アンカー素子定着をするというものであってもよい。
【0029】
この硬化性ペースト施工方法は、例えば前記外力が、器具の押圧力及び/又は人力であるというものである。
【0030】
この硬化性ペースト施工方法は、注入量指示マークを付した注入チューブを先端部に嵌めている注入コネクタが前記ポートに取り付けられており、前記注入チューブを前記削孔に挿し込んで前記硬化性ペーストを注入しつつ前記注入チューブを前記削孔から抜去する方向に前記定着剤含有パックを移動させ、前記注入量指示マークが前記削孔から出没したときに、前記硬化性ペーストの注入を完了するというものであってもよい。
【0031】
この硬化性ペースト施工方法は、前記注入チューブの先端にまで前記硬化性ペーストを吐出しておき、前記注入チューブを前記削孔に挿し込んで前記硬化性ペーストを注入しつつ前記注入チューブを前記削孔から抜去する方向に前記定着剤含有パックを移動させ、注入チューブ自体を絞りながら引き上げていき、前記注入量指示マークが前記削孔から出没したときに、前記硬化性ペーストの前記注入を完了するというものであってもよい。
【0032】
この硬化性ペースト施工方法は、前記定着剤含有パックの内部と、その定着剤含有パックから前記注入チューブの注入量指示マークまでの内部との硬化性ペーストを、前記削孔に注入するというものであってもよい。
【0033】
この硬化性ペースト施工方法は、前記水硬性組成物を硬化させるための必要量の前記凝結調整剤水溶液が収容されているボトルの注ぎ口ノズルを、前記ポートに嵌入した後、前記パックに、前記凝結調整剤水溶液を注ぎ込むというものであってもよい。
【発明の効果】
【0034】
本発明の水硬性組成物硬化セットは、硬化性ペースト施工用、特にアンカー素子定着用、ひび割れ補修用、レンガ、ブロック又はタイルの固定用又は目地埋め用、漏水箇所の止水用、地盤の改良用、空洞の充填用、表面の化粧モルタル塗工用、壁塗り用、若しくは造作物の製作用又は装飾用に適したものである。この水硬性組成物硬化セットによれば、所定濃度の凝結調整剤水溶液と水硬性組成物封入体中の水硬性組成物とを接触させることによって、揉んだり振ったり振動を与えたり捏ねたりしたときに混ざり易い高い流動性を有する硬化性ペーストを調製できる。
【0035】
本発明の水硬性組成物硬化セットによれば、水硬性組成物に含まれている固体の第一の凝結調整剤と、第二の凝結調整剤を水に溶解させた凝結調整剤水溶液との相乗効果により、凝結速度を有意に調整することができる。
【0036】
即ち、この硬化性ペーストが、元々硬性組成物に混合されている第一の凝結調整剤のみならず、第二の凝結調整剤の水溶液を用時調製して水硬性組成物に接触させて調製されていることにより、凝結速度を調整して、夏季と冬季とで、又は温暖地域と寒冷地域とで、或いは屋外と室内とで、寒暖差を生じていても、使用可能時間や凝結時間を調整して、使用可能時間や凝結時間を管理し、ある程度一定にすることによって作業効率化・品質均質化を図ることができるようになる。
【0037】
本発明の水硬性組成物硬化セットによれば、その硬化性ペーストによりアンカー素子を削孔に固定したり広範囲のひび割れ補修施工などを施したりするのに必要な使用可能時間や凝結時間を適切に確保することができる。
【0038】
本発明の水硬性組成物硬化セットは、硬化性組成物に含まれている第一の凝結調整剤の含有量を調整することなく、凝結調整剤水溶液の濃度を調整するだけで、使用可能時間や凝結時間を調整できるので、夏季と冬季とで、又は温暖地域と寒冷地域とで、或いは屋外と室内とで、寒暖差があっても、所期の使用可能時間や凝結時間に簡便かつ速やかに調整することが可能である。
【0039】
この水硬性組成物硬化セットは、水硬性組成物に粘度調整剤を有しているので、硬化性ペーストにした時に、削孔へ注入し易い適度な流動性と、上向きの削孔に注入しても流れ出ない適度な粘性とを有している。この組成物セットを用いれば、アンカー素子が抜け難くなり、確りと定着できるようになる。また、この組成物セットを用いれば、汎用性に富んでいるので、コンクリート構造体に生じたひび割れの補修、タイル、レンガ、及びブロックの固定やそれの目地埋め、漏水箇所の止水、地盤改良用や空洞充填のような土木工事用や建設工事用グラウトの調製、建造物の内装・外装のためにその表面の化粧モルタル塗工や壁塗り、並びに芸術作品制作や造作物装飾用のモルタル造形等、様々な施工や制作に適用することができる。
【0040】
この水硬性組成物硬化セットは、水硬性組成物に第一の凝結調整剤が入っているばかりか、第二の凝結調整剤の水溶液が浸漬するので、双方の凝結調整剤によって発熱を防止して膨張や冷却時のひび割れを生じさせなくすると共に、寒暖に応じ使用可能時間や凝結時間を調整しつつ、施工処置するまでは硬化し難いが注入して養生中は迅速に硬化するようになる。特にアンカー素子定着に用いられる場合、硬化を遅延させて硬化性ペーストが削孔に注入されるまでは硬化し難いが注入して養生中は迅速に硬化するようになる。
【0041】
また、得られたこの硬化性ペーストは、細骨材が粒度区分を4~8号とする比較的粗いものであるので、特にアンカー素子定着に用いられる場合、削孔である内側表面の凹凸やアンカー素子の凹凸で細骨材に引っ掛かり易くなって恰もくさびのように圧迫してアンカー素子を抜け難くして、寒暖に応じ使用可能時間や凝結時間を調整しつつ、確りと定着できるようにする。
【0042】
得られたこの硬化性ペーストは、カルバート、ダム堤体、建物のようなコンクリート躯体や岩盤に、鉄筋やアンカーボルトのようなアンカー素子を定着させるための削孔へ容易く注入できる。しかも、打込機材を用いることなく硬化性ペーストが注入された削孔にアンカー素子を手で打込むことができる。また、多数の削孔へ流れ作業で次々と硬化性ペーストを注入できるばかりか寒暖に応じ使用可能時間や凝結時間を調整できるので、効率的に短期間に多数箇所の施工が可能である。また、ひび割れ補修、レンガ、ブロック又はタイルの固定又は目地埋め、漏水箇所の止水、地盤の改良、空洞の充填、表面の化粧モルタル塗工、壁塗り、若しくは造作物の製作又は装飾など、広範囲又は大体積の施工をする際にも、短時間で行うことが可能である。
【0043】
本発明の硬化性ペースト施工方法、具体的にカートリッジ方式の硬化性ペースト施工方法によれば、上記のような水硬性組成物硬化セットを用いて透水性筒状容器に封入された定着剤含有カプセルを凝結調整剤水溶液水に接触させるだけで、水硬性組成物が所要量を過不足なくしかも全体にわたって均等に吸水するので、凝結調整剤水溶液を溢したり凝結調整剤水溶液の量を誤ったりするミスを生じさせず、寒暖に応じ所期に調整可能な使用可能時間や凝結時間で確実にアンカー素子定着方法を行うことができる。さらに水硬性組成物が均等に吸水しているので、それの撹拌作業に習熟していない不慣れな作業者であっても簡便にかつ確実に施工を行うことができる。
【0044】
この硬化性ペースト施工方法は、凝結調整剤水溶液に定着剤含有カプセルを浸漬させて、凝結調整剤水溶液を吸水することによって水硬性組成物が凝集し、それを含んでいる定着剤含有カプセルを手で掴むことによって、吐出口を有するシリンダカートリッジに入れるという簡素な工程を有しているので、特段の要領が不要で作業者の習熟度に依存せず、均質な注入方式のあと施工アンカー工法を行うことができる。そのため、常に所期の強度でアンカー素子をコンクリート躯体に定着させることができる。
【0045】
この硬化性ペースト施工方法は、凝集した水硬性組成物をシリンダカートリッジ内で掻き回して撹拌する工程を有しているものであると、凝集した水硬性組成物が均一に分散しつつ寒暖に応じ所期の使用可能時間や凝結時間に調整可能して、適度の流動性を有する硬化性ペーストを調製できるので、シリンダカートリッジからの硬化性ペーストの押し出し抵抗を格段に低減でき、作業者の負担を軽減することができる。
【0046】
この硬化性ペースト施工方法は、水硬性組成物を注入する工程が終了した後にシリンダカートリッジの内壁面を洗浄する工程を有していると、シリンダカートリッジを再使用できるので、廃棄物の削減とコストの低減とに資する。
【0047】
この硬化性ペースト施工方法は、水硬性組成物を封入した透水性筒状容器が紙含有、不織布含有等であることによって易破壊性を有していると、凝集した水硬性組成物を取り出すのに、手でこれを破るという簡素な操作で足り、工具を要しないので、作業者はスムーズにシリンダカートリッジに詰め替えて所期の使用可能時間や凝結時間に調整したまま、あと施工を行うことができる。
【0048】
本発明の別な硬化性ペースト施工方法、具体的にパック方式の硬化性ペースト施工方法によれば、凝結調整剤水溶液は予め定着剤含有パックに収容されておらず用時に所要量の凝結調整剤水溶液を定着剤含有パックに入れるため、仕切具で凝結調整剤水溶液と水硬性組成物とを区画することを要しないから、パックの構成を簡素にできるとともに、輸送時や保管時に仕切具が外れたり緩んだりして両者が接触してしまう不具合を生じない。また、仕切具が外れないよう慎重にパックを取り扱うことを要しないから、簡便に輸送したり保管したりできる。さらに仕切具の耐荷重を考慮することなく、小規模から中規模まで施工規模に応じた量の水硬性組成物をパックに収容しておき、所要量の凝結調整剤水溶液を注入することにより、適当な量の硬化性ペーストを調製できる。
【0049】
硬化性ペースト施工方法において、パックを踏んだり、揉んだり、振ったりするという極めて簡便な手法で、水硬性組成物と凝結調整剤水溶液とを混合して、所期の使用可能時間や凝結時間に調整した硬化性ペーストを調製できる。
【0050】
硬化性ペースト施工方法は、カートリッジ方式及びパック方式の何れにおいても、注入量指示マークが付された注入チューブを用いると、作業者がコンクリート躯体に開けられた削孔から注入チューブを抜去する方向へとシリンダカートリッジ又はパックを移動させながら硬化性ペーストを注入し、注入量指示マークが削孔の開口から出没した時点で注入を終了するだけという簡素な作業で、過不足なしで規定量の硬化性ペーストを削孔内に注入できる。それにより、硬化性ペーストが注入された削孔へアンカー素子を挿入する工程において、過剰量の硬化性ペーストが削孔の開口から溢れないので、経済的であり、廃棄物を削減できる。さらに硬化性ペーストの注入量不足が生じず、後の工程で不足分の硬化性ペーストを追加注入することを要さないから、アンカー素子定着工事を速やかに進めることができる。
【0051】
しかも、この注入量指示マークがあることによりそれを目印として、シリンダカートリッジ又はパックの内部と、そのシリンダカートリッジ又はパックから注入チューブの注入量指示マークまでの内部との硬化性ペーストを、前記削孔に注入すると、シリンダカートリッジ毎やパック毎や作業者毎に注入量がばらつかないので、均一な量を削孔に注入して、均質な施工を繰り返し行うことができるようになる。
【0052】
このような吐出量を均一にする管理については、施工者、施工業界での大きな課題となっているが、この硬化性ペースト施工方法によれば、それが解消できるとともに、所期の使用可能時間や凝結時間に調整することができる。吐出量の管理方法として、ホースに注入量指示マークを付して、手で定着剤含有パックを絞って自然に引き上げながら、注入量指示マークが削孔の開口から出没したら吐出完了と判断していた。このような方法では、引き上げるスピードが人によってばらついてしまい、マーキングが削孔の開口から出没したけど、削孔の中に硬化性ペーストが所定量だけ入っているかを担保できない。しかし、予め注入チューブの先端ギリギリまで硬化性ペーストを吐出しておいて、注入チューブを削孔の中に入れた後、注入チューブ自体を絞りながら引き上げていくという手法を採用することによって、注入チューブを絞った分だけ、削孔に入るため、硬化性ペーストが所定量だけ入れ得るので、優れた吐出管理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】本発明を適用する水硬性組成物硬化セットを用いた硬化性ペースト施工方法の一例(カートリッジ方式)によるアンカー素子定着方法の前半工程を説明する斜視図である。
【
図2】本発明を適用する水硬性組成物硬化セットを用いた硬化性ペースト施工方法の一例(カートリッジ方式)によるアンカー素子定着方法の後半工程を説明する斜視図である。
【
図3】本発明を適用する水硬性組成物硬化セットを有する硬化性ペースト用キット、及びそれを用いた硬化性ペースト施工方法の別な例(パック方式)によるアンカー素子定着方法の前半工程を説明する斜視図である。
【
図4】本発明を適用する硬化性ペースト施工方法の別な例(パック方式)によるアンカー素子定着方法の中盤工程を説明する斜視図である。
【
図5】本発明を適用する硬化性ペースト施工方法の別な例(パック方式)によるアンカー素子定着方法の後半工程を説明する模式部分断面図である。
【
図6】本発明を適用する水硬性組成物硬化セットを用いた硬化性ペースト施工方法の一例(カートリッジ方式)によるアンカー素子定着方法で得られた試作物の付着強度試験の結果のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0055】
本発明の水硬性組成物硬化セット、及びそれを用いた硬化性ペースト施工方法の一例、特にカートリッジ方式による硬化性ペースト施工方法について、
図1及び2を参照しながら詳細に説明する。
【0056】
先ず、本発明の水硬性組成物硬化セットについて説明する。水硬性組成物硬化セットは、水硬性組成物C
1を封入材内に封入されている水硬成分と粘度調整剤と第一の凝結調整剤と、細骨材を含む水硬性組成物封入体100と、水溶液(W)にして水硬性組成物封入体内の水硬性組成物に接触させるための第二の凝結調整剤とからなるものである。
図1(a)に示される水硬性組成物C
1は、透水性筒状容器110に収容されており、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び急結剤を含有する水硬成分と、粘度調整剤と、第一の凝結調整剤と、細骨材とを、含んでいる。一方、第二の凝結調整剤は、凝結調整剤水溶液Wにしてから水硬性組成物封入体内の水硬性組成物に接触させるもので、水溶液にするまでは固体、とりわけ粉末乃至粒子のまま分離しておくものである。
【0057】
この水硬性組成物硬化セットは、第一及び第二の凝結調整剤を用いるものであると、凝結調整剤水溶液と水硬性組成物との接触時での発熱を防止して膨張や冷却時又は硬化性ペーストの硬化時のひび割れを生じさせなくすると共に、硬化を遅延させて硬化性ペーストが削孔に注入されるまでは硬化し難いが注入して養生中は迅速に硬化するようになる。また、遅延型流動化剤を必要としなくてよくなる。
【0058】
第一及び第二の凝結調整剤は、例えば使用可能時間・凝結時間調整剤であり、硬化性ペーストC2が流動性を失う凝結始発から硬化を開始する凝結終結までの使用可能時間や凝結時間の長短を調整する。第一及び第二の凝結調整剤は、硬化性ペーストC2中の水硬成分の粒子に吸着してそれの表面を被覆し、水硬成分と水成分との接触を抑制する。それにより、水硬成分の水和反応を徐々に進行させて硬化性ペーストC2の瞬結を防止できる。第一及び第二の使用可能時間・凝結時間調整剤として、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、サリチル酸、m-オキシ安息香酸、及びp-オキシ安息香酸のようなオキシカルボン酸、並びにそれらの塩、より具体的には酒石酸カリウムナトリウムなど;無機炭酸塩;リグニンスルホン酸、又はその塩;ソルビトール、ペンチトール、及びヘキシトールのような糖アルコールが挙げられ、これらの一種又は複数種を用いることができる。使用可能時間・凝結時間調整剤は、炭酸、オキシカルボン酸やリグニンスルホン酸のリチウム塩、カリウム塩、及びナトリウム塩のようなアルカリ金属塩、並びにマグネシウム塩、及びカルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩であってもよく、なかでもクエン酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、ヒュームドシリカ(例えば、強度増進剤の役割も果たしているアエロジル(日本アエロジル株式会社製の商品名))が好ましく、クエン酸三ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムの何れか一つ又は二つ以上の組み合わせがより好ましい。
【0059】
水硬性組成物C1中、使用可能時間・凝結時間調整剤である第一の凝結調整剤は、1~10質量部、好ましくは1~8質量部、より好ましくは1~5質量部の用量が含まれている。一方、第二の凝結調整剤から調製される凝結調整剤水溶液Wの濃度は、1~10w/v%、好ましくは1~5w/v%、より好ましくは1~3w/v%、より一層好ましくは3w/v%に調整する。凝結調整剤水溶液Wの容量は、水硬性組成物封入体100の容積の少なくとも2倍以上にすることが好ましい。
用量や濃度が夫々この上限値10質量部又は10w/v%を超えると、使用可能時間や凝結時間が過度に長くなって凝結終結に達するまでの間に、例えば水硬成分と細骨材との分離を生じてしまう。一方、用量や濃度が夫々この下限値1質量部又は1w/v%未満であると、水硬成分の水和反応が急激に進行し、硬化性ペーストC2が凝結始発後に直ちに終結に達して硬化するので、硬化体C3にクラックが生じて外観上の美観を損なったり、止水材として用いてもクラックから漏水したりしてしまう。
【0060】
この水硬性組成物硬化セットの一例によるポルトランドセメント、アルミナセメント及び急結剤を含有する水硬成分と、粘度調整剤と、第一の凝結調整剤と、細骨材とを含む水硬性組成物の封入体に、第二の凝結調整剤を溶解した3w/v%濃度の凝結調整剤水溶液を接触させた場合では、水と接触させる場合に比べて使用可能時間(例えばカートリッジにモルタルを入れて、撹拌機で攪拌したところからスタートしカートリッジから吐出できなくなるまでの時間)や凝結時間(例えば凝結試験機で測定した凝結に要する時間)が遅くなり、具体的には40℃環境・及び水温での加速条件で使用可能時間が26分間であり、常温での養生1日目で圧縮強度が約43.8N/mm2となることから、凝結調整剤を遅延剤として水に溶解させ凝結調整剤水溶液にして多量に吸水させているにも関わらず、通常施工と比べて著しい強度低下がない。
それに対し、比較参考のため、この水硬性組成物硬化セットの第一の凝結調整剤に代えて第一の凝結調整剤の用量にさらに凝結調整剤水溶液が水硬性組成物封入体に吸収されたときの第二の凝結調整剤の吸収量相当分とを含有させて用いた水硬性組成物の封入体に、水を接触させた場合では、元来水硬性組成物に含有させた第一の凝結調整剤に加えて第二の凝集調整剤相当分が何れも固体状のまま加えて増量していることに起因して、同加速条件で使用可能時間が20分となるが、常温での養生1日目で圧縮強度が15.8N/mm2にしかならず約1/3になってしまう。
一方、この水硬性組成物硬化セットに代えて、通常施工としてポルトランドセメント、アルミナセメント及び急結剤を含有する水硬成分と、粘度調整剤と、第一の凝結調整剤(第二の凝結調整剤の用量相当分含有せず)と、細骨材とを含む水硬性組成物である通常のモルタル組成物を含む封入体に、水を接触させた場合では、水硬性組成物硬化セットによる場合に比べ、使用可能時間や凝結時間が早く具体的には40℃の加速条件で使用可能時間が12分間であるが、常温での養生1日目で圧縮強度が約50.5N/mm2となっていた。
従って、この水硬性組成物硬化セットを用いると、使用可能時間や凝結時間を遅延させつつ、通常施工に比べ圧縮強度をほとんど低下させないという効果を奏する。
【0061】
この水硬性組成物硬化セットによれば、第二の凝結調整剤を溶解した凝結調整剤水溶液に水硬性組成物封入体を浸漬させた時に、単に水に浸漬させた時に比べ、凝結時間・使用可能時間が遅延し、通常施工に比べ圧縮強度が殆ど変わらないという理由の詳細は必ずしも明らかではないが、ポルトランドセメント、アルミナセメント及び急結剤を含有する水硬成分と、粘度調整剤と、第一の凝結調整剤と、細骨材とを含む水硬性組成物に、用時に第二の凝結調整剤を溶解した凝集調整剤水溶液が加えられると、その水溶液が第二の凝集調整剤成分共々、速やかに第一の凝集調整剤を含む水硬性組成物に遍く均一に行き渡り、第一及び第二の凝集調整剤を均等に拡散させることができるようになって、凝結を均等に調整して遅延させると共に均質に惹き起こさせる結果、通常施工に比べ圧縮強度が殆ど変わらないものと推察される。それに対し、従来のように水硬性組成物中にポルトランドセメント、アルミナセメント及び急結剤を含有する水硬成分と、粘度調整剤と、第一の凝結調整剤と、細骨材とを予め含有している水硬性組成物に水が加えられる通常施工であると、保存中に、凝集調整剤が周囲のその他の成分と化学的な何らかの相互作用を奏するようになって水と接触しても凝集調整剤が速やかに溶解して拡散ができなくなって十分な凝結遅延を生じないばかりか、不均一に分散することになる結果、凝結が不均一に進行してしまい、凝固しても硬化したときに強度が然程向上しないものと推察される。
【0062】
水硬性組成物C1中の含有量は、質量比で、ポルトランドセメント、アルミナセメント、急結剤、粘度調整剤、第一の凝結調整剤、及び細骨材が、20~60:30~70:10~40:0.1~1.0:1~10:10~40であることが好ましく、20~50:30~60:20~40:0.1~0.8:1~8:10~30であることがより好ましく、20~40:30~50:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30であることがより一層好ましい。
【0063】
例えば、ポルトランドセメントを基準とした場合、ポルトランドセメントの20、30、40、50、又は60質量部に対して、アルミナセメント:急結剤:粘度調整剤:第一の凝結調整剤:細骨材が、30~70:10~40:0.1~1.0:1~10:10~40質量部であることが好ましく、30~60:20~40:0.1~0.8:1~8:10~30質量部であることがより好ましく、30~50:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30質量部であることがより一層好ましい。
【0064】
アルミナセメントを基準とした場合、アルミナセメントの30、40、50、60、又は70質量部に対して、ポルトランドセメント:急結剤:粘度調整剤:第一の凝結調整剤:細骨材が、20~60:10~40:0.1~1.0:1~10:10~40質量部であることが好ましく、20~50:20~40:0.1~0.8:1~8:10~30質量部であることがより好ましく、20~40:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30質量部であることがより一層好ましい。
【0065】
急結剤を基準とした場合、急結剤の10、20、30、又は40質量部に対して、ポルトランドセメント:アルミナセメント:粘度調整剤:第一の凝結調整剤:細骨材が、20~60:30~70:0.1~1.0:1~10:10~40質量部であることが好ましく、20~50:30~60:0.1~0.8:1~8:10~30質量部であることがより好ましく、20~40:30~50:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30質量部であることがより一層好ましい。
【0066】
粘度調整剤を基準とした場合、粘度調整剤の0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、又は1.0質量部に対し、ポルトランドセメント:アルミナセメント:急結剤:第一の凝結調整剤:細骨材が、20~60:30~70:10~40:0.1~1.0:1~10:10~40質量部であることが好ましく、20~50:30~60:20~40:1~8:10~30質量部であることがより好ましく、20~40:30~50:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30質量部であることがより一層好ましい。
【0067】
第一の凝結調整剤を基準とした場合、凝結調整剤の1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10質量部に対し、ポルトランドセメント:アルミナセメント:急結剤:粘度調整剤:細骨材が、20~60:30~70:10~40:0.1~1.0:10~40質量部であることが好ましく、20~50:30~60:20~40:0.1~0.8:10~30質量部であることがより好ましく、20~40:30~50:20~30:0.1~0.5:1~5:15~30質量部であることがより一層好ましい。
【0068】
細骨材を基準とした場合、細骨材の10、15、20、又は30質量部に対し、ポルトランドセメント:アルミナセメント:急結剤:粘度調整剤:第一の凝結調整剤が、20~60:30~70:10~40:0.1~1.0:1~10質量部であることが好ましく、20~50:30~60:20~40:0.1~0.8:1~8質量部であることがより好ましく、20~40:30~50:20~30:0.1~0.5:1~5質量部であることがより一層好ましい。
【0069】
細骨材は、硬化性ペーストC2が凝結後に硬化する際に生じる収縮を低減し、これの硬化体C3へのクラック発生を防止する。また、水硬成分の水和反応に伴う発熱を緩和し、硬化性ペーストC2の温度上昇を抑えて過度な流動性増大や、使用可能時間や凝結時間の延長を防止する。珪砂、川砂、海砂、及び砕砂のような砂類;アルミナクリンカー、シリカ粉、及び石灰石のような無機材;ウレタン砕、EVA(ethylene vinyl acetate)フォーム、発泡樹脂の粉砕物から選ばれる少なくとも一種であり、なかでも珪砂が好ましい。
【0070】
細骨材は、1mm以上の粗粒子を含んでいないことが好ましい。具体的に、JIS G5901(2016)の表3に準拠した粒度区分を、4~8号とすることが好ましく、4~7号とすることがより好ましく、4~6号とすることが一層好ましい。細骨材の粒度区分がこの範囲であることにより、1mm以上の粗粒子を排除することができる。この粒度区分における具体的な粒度分布は、4号で600~1180μm、4.5号で425~850μm、5号で300~600μm、5.5号で212~425μm、6号で150~300μm、6.5号で106~212μm、7号で75~150μm、7.5号で53~106μm、8号で38~75μmである。
【0071】
粒度区分は、3種の公称目開きを有する網目ふるいによって求められる。細骨材の測定試料全質量に対する各網目ふるいの面上の細骨材の質量比は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが一層好ましい。
【0072】
また水硬性組成物C1中、細骨材は、10~40質量部、好ましくは10~30質量部、より好ましくは15~30質量部含まれている。この範囲の含有量である細骨材は、水硬性組成物C1全体に対し、下限値を8~38質量%、好ましくは8~25質量%とし、上限値を27~67質量%、好ましくは27~33質量%としている。このように、細骨材が、粒径1.2mm未満の細粒で、かつ水硬性組成物C1中に最大でも67質量%という低含有率であることによって、水硬性組成物C1の凝集が阻害されない。細骨材の粒径、含有量、及び含有率が上記の上限値を超えると、硬化性ペーストC2を用いて施工している間に水硬成分と細骨材とが分離し、硬化体C3が所期の強度を発揮できない。
【0073】
粘度調整剤は、例えば増粘剤であり、より具体的には、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース、並びにこれらの少なくとも一種を含んでいてもよい天然多糖類誘導体;アクリルアミド;澱粉エーテル;高分子電解質が挙げられる。これらの何れかを単独又は複数混合して用いてもよい。
【0074】
このような増粘剤である粘度調整剤は、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース、アクリルアミド、澱粉エーテル、高分子電解質として市販のものが挙げられ、例えば、天然多糖類誘導体であるESAMID HP(lamberti spa社製)、並びにリカルボン酸エーテルとポリアクリルアミドとの混合物であるSTARVIS S 5514 F及び澱粉エーテルであるSTARVIS SE 35 F(ともにBASFジャパン株式会社製)が挙げられる。
【0075】
また、高分子電解質としては、高分子鎖の主鎖中又は側鎖中に解離基を有し水中、とりわけ凝結調整剤水溶液中で解離して高分子イオンとなるものであれば特に限定されず、例えばカルボキシル基やスルホン酸基やリン酸や亜リン酸又はそれらの塩若しくは脂肪族・芳香族又は複素環基含有アミノ基若しくはそれらの塩酸塩又は硫酸塩のような無機酸塩や有機酸塩・アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩のような塩や第一~第四アンモニウム基又は有機アンモニウム基などの少なくとも何れかの解離基を有した炭化水素系、エーテル性基又はアミノ性基含有複素炭化水素系、芳香族系、複素環系、アミド系及び/又は有機酸系の高分子鎖を有する高分子イオン、具体的には、天然物ではアルギン酸やその塩、ペクチン(ポリガラクツロン酸)又はその塩、カルボキシメチルセルロース又はその塩、タンパク質乃至ポリペプチドが例示でき、合成高分子化合物としてはポリアクリル酸ナトリウム塩のようなポリアクリル酸又はその塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムのようなポリスチレンスルホン酸又はその塩、ポリ(アリルアミン)又はその塩酸塩、四級化ポリ(ビニルピリジン)又はその塩、ポリ(アクリルアミド/アクリル酸ナトリウム)コポリマーやポリ(アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウムのようなアニオン性ポリアクリルアミド、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)のようなアニオン基含有環状繰返単位含有ポリマー、ナフィオン(シグマ-アルドリッチ社製の商品名)のようなパーフルオロアルキルスルホン酸ポリマー、セミ-アロマティックアンモニウムロネン類、アリファティックアンモニウム、ヘテロサイクリックアンモニウムロネン類、アルキルエーテル アンモニウムロネン類、遊離基含有高分子化合物具体的にはSTARVIS 308F(BASFジャパン社製の商品名)、デュラマックス(Duramax)やタモール(Tamol)やロマックス(Romax)やダゥエックス(Dowex)(何れもダウ・ケミカル社製の商品名)、アキュゾル(Acusol)やアキュマー(Acumer)(何れもロームアンドハース社製の商品名)、ディスペックス(Dispex)やマグナフロック(Magnafloc)(何れもBASF社製の商品名)が例示される)が挙げられる。
【0076】
水硬性組成物C1中、粘度調整剤を有していると、水硬性組成物C1と凝結調整剤水溶液とを混合して硬化性ペーストにした時に、削孔へ注入し易い適度な流動性と、上向きの削孔に注入しても流れ出ない適度な粘性とを発現することにより、両者のバランスを取り、両効果を発現できるように調整することができる。しかも、粘度調整剤によって、硬化性ペーストが優れた濡れ性を示すので、細骨材に付着して流動性を高めると共にそれによって削孔である内側表面の凹凸やアンカー素子の凹凸に細骨材が入り込み易くなって引っ掛かったまま硬化することになる結果、硬化性ペーストを削孔に注入し鉄筋のようなアンカー素子を打ち込んだときに、アンカー素子が抜け難くなり、確りと定着できるようになる。
【0077】
水硬性組成物C1中、増粘剤である粘度調整剤は、0.1~1.0質量部、好ましくは0.1~0.8質量部、より好ましくは0.1~0.5質量部含まれている。含有量がこの上限値を超えると、硬化性ペーストC2パック10からの押し出し抵抗が著しく増大する上、十分な強度を有する硬化体C3を得ることができない。一方、含有量が下限値未満であると、硬化性ペーストC2の粘度が不足する。
【0078】
水硬性組成物C1の水硬成分は、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び急結剤を必須として含むM型の膨張系セメントである。ポルトランドセメントは、シリカ(SiO2)、及びカルシア(CaO)を主成分とし、例えば、シリカを20~25質量%、及びカルシアを60~70質量%を含んでいるものが挙げられる。その他にアルミナ(Al2O3)、マグネシア(MgO)、及び酸化鉄(Fe2O3)が、夫々1~6質量%含まれている。これらの成分は、例えばケイ酸カルシウム、アルミン酸カルシウム、及びカルシウムアルミノフェライトとして存在している。
【0079】
ポルトランドセメントとして、具体的に普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、及び白色ポルトランドセメントが挙げられる。なかでも早強ポルトランドセメントが好ましい。これらのポルトランドセメントの一種のみを用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。水硬性組成物C1中、ポルトランドセメントは、20~60質量部、好ましくは20~50質量部、より好ましくは20~40質量部含まれている。
【0080】
アルミナセメントは、アルミン酸カルシウム(CaO・Al2O3)を主成分とする特殊セメントであり、例えばカルシアを20~40質量%、アルミナを40~80質量%、夫々含んでいるものが挙げられる。水硬性組成物C1中、アルミナセメントは、30~70質量部、好ましくは30~60質量部、より好ましくは30~50質量部含まれている。
【0081】
ポルトランドセメント及びアルミナセメントは、微粉末状のセメント粉体であり、その平均粒子径を、10~50μmとするものであることが好ましく、20~40μmとするものであることがより好ましく、20~30μmとするものであることがより一層好ましい。なお平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法による体積基準分布をいう。このような平均粒子径の測定装置として、例えば、島津レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-3100-WJA1:V1.00(株式会社島津製作所製)が挙げられる。セメント粉体がこのような微粉末であることによって、吸水に起因するセメント粉体の水和による化学的凝集及びセメント粉体の表面電位による物理的凝集が生じ易くなる。その結果、化学的凝集若しくは物理的凝集、又は両者の相乗効果によって、例えばコンクリート構造物の天井や壁面に生じたひび割れに注入された硬化性ペーストC2が、そこから遺漏し難い。
【0082】
急結剤は、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム、及び硫酸カルシウムのような硫酸塩が挙げられ、これらの一種又は複数種を用いることができる。硫酸カルシウムとして、無水石膏(CaSO4)、半水石膏(CaSO4・1/2H2O)、二水石膏(CaSO4・2H2O)のような石膏が、後述するエトリンガイトの生成量を増大させる観点から好ましい。これらの急結剤は、一種のみを用いても複数種を混合して用いてもよい。水硬性組成物C1中、急結剤は、10~40質量部、好ましくは20~40質量部、より好ましくは20~30質量部含まれている。
【0083】
水硬性組成物C1は、好ましくは遅延型流動化剤を含有していない。しかし強度増進剤を含有していてもよい。強度増進剤とは、シリカ微粒子であるシリカフューム、高炉スラグ粉末及び/又はフライアッシュのようなシリカ質粉末、カオリン(シリカ及びアルミナを含有するカオリン、焼成カオリンなど)である。遅延型流動化剤とは、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ポリスチレンスルホン酸、リグニンスルホン酸、及びこれらの塩のようなスルホン酸系流動化剤;ポリカルボン酸、及びこれらの塩のようなカルボン酸系流動化剤である。
【0084】
硬化性ペーストC2は時間の経過に伴って、水硬性分が水和反応を生じて凝結し、その後硬化する。具体的にアルミナセメント中のアルミン酸カルシウム、石膏、及び水の反応が進行し、アルミン酸硫酸カルシウム水和物であるエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)を生成する。さらに急結剤である石膏が消費されると、エトリンガイトはアルミナセメント中のアルミン酸カルシウム(アルミネート相)と反応してモノサルフェート水和物を生成する。エトリンガイトやモノサルフェート水和物のようなカルシウムサルフォアルミネート水和物は、かさ高く水に不溶な針状結晶であり、これの成長に伴って、硬化性ペーストC2が膨張しながら凝結して徐々に硬化する。しかも急結剤である石膏が、硫酸カルシウムの供給源となってエトリンガイトの生成量を増大させ、高強度の硬化体C3を形成する。
【0085】
硬化性ペーストC2は、アルミナセメント中のカルシアが水に溶解した水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を含んでいる。強度増進剤に含まれるシリカフュームやカオリンは、この水酸化カルシウムと、水に不溶な水和物を生成するという所謂ポゾラン反応を生じる。それにより、例えば、ケイ酸カルシウム水和物(3CaO・2SiO2・3H2O)や、アルミン酸カルシウム水和物(3CaO・Al2O3・6H2O)の微細で密な結晶が生成し、硬化性ペーストを高強度に硬化させる。特に、粉砕により粉末化される高炉スラグや、石炭灰であることにより比較的大きな球形をなしているフライアッシュに比べて、焼成カオリンの粒子は細かいので、単位質量当りに大きな表面積を有している。そのため、シリカフューム及び焼成カオリンは他のシリカ質粉末に比べて、遥かに高いポゾラン活性を有するので、緻密な水和物の結晶を生成し、硬化体C3により高い圧縮強度を付与する。
【0086】
このように水硬性組成物C1は、アルミナセメント、石膏のような急結剤、及びカオリンを主成分とする強度増進剤を含んでいることにより、それの硬化体C3は、施工後数時間~1日程度で高い強度を発現するという早強性を発現する。
【0087】
エトリンガイトの生成及びポゾラン反応に並行して、ポルトランドセメント中のケイ酸カルシウムの水和反応が進行し、トバモライト結晶のようなケイ酸カルシウム水和物の硬化体C3が生成する。それにより、ケイ酸カルシウムの水和反応は、アルミン酸カルシウムのそれに比較して遅いので、ポルトランドセメントは、施工後、例えば7日~数か月後以降の長期にわたる高強度維持に優れている。
【0088】
このように水硬性組成物C1が、ポルトランドセメント、アルミナセメント、急結剤、強度増進剤、細骨材、第一の凝結調整剤、及び粘性調整剤を含んでおり、かつこれらが一定範囲の組成比で組み合わされており、そこへさらに、第二の凝結調整剤が溶解された凝結調整剤水溶液が加えられることによって、凝結始発までの時間を長くして、施工に要する十分な時間を作業者に付与することができる。その結果、夏季や冬季、又は温暖地域や寒冷地域、或いは屋外や室内など様々な原因による寒暖差があってもそれに応じて凝結調整剤水溶液の濃度を調整することによって、第一の凝結調整剤の用量を調整せずとも、所期の使用可能時間や凝結時間にすることができるので、不慣れな作業者であっても、タイルの固定や目地埋め等を、余裕をもって行うことができる。
【0089】
この水硬性組成物C1から得られる硬化体C3の圧縮強度(JIS A1108(2006)に準拠)は、養生温度20~25℃で、施工後わずか1日後に50N/mm2に達し、7日後に70N/mm2、28日後に80N/mm2にまで向上する。
【0090】
なお、硬化性ペーストC2は、40~90秒の流下値(コンクリート標準示方書に規定するJSCE-F 541-2013充填モルタルの流動性試験方法(J14ロート試験)に準拠)を示す。またフロー試験(JIS R5201(2015)に準拠)で高い流動性を示す。このため作業者は、然程力を要さずとも袋体11から硬化性ペーストC2を手31,32で押し出すことができたり、硬化体C3に比較的高い強度が要求される、例えば建設工事用グラウトに好適に用いることができたりする。
【0091】
水硬性組成物C1は、増粘効果を発現するシリカ微粒子のような強度増進剤に加えて、増粘剤をさらに含んでいてもよい。増粘剤は、水硬成分の粒子同士を粘結させるバインダーのような増粘効果を発現する。さらに、硬化性ペーストC2に適度の粘度を付与して、硬化性ペーストC2中の水硬成分同士の比重差による分離や水硬成分の沈降による水との分離を防止する。それにより硬化性ペーストC2中、粒子同士の均一な分散を促進し、パック10からの押し出し抵抗を低減する。さらに、増粘剤によって硬化性ペーストC2がチキソトロピーを発現するので、外力が除かれるとそれの粘度が向上して流動性を低減させる。その結果、例えば、垂直な壁面に装飾を施すようなモルタル造形に用いた場合、硬化性ペーストC2が垂れないので、良好な施工性を示す。
【0092】
硬化性組成物として、セメントを含む水硬性組成物を例示したが、別な水硬性組成物として、水硬性スラグ(高炉水砕スラグ)、水硬性石灰(CaO・SiO2含有消石灰)、石膏、澱粉、タンパク、水硬性ウレタン(例えば、田島ルーフィング株式会社製のオルタックアクト(「オルタック」は登録商標))のような、水との混合によって調製された硬化性ペーストが硬化するものを挙げることができる。また硬化性組成物は、水硬性組成物に限られず、エピクロロヒドリンと反応して硬化し、ポリカーボネートを生成するビスフェノールAであってもよい。
【0093】
次いで、上記の水硬性組成物硬化セットを用いたカートリッジ方式の硬化性ペースト施工方法について説明する。
【0094】
水硬性組成物硬化セットは、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び急結剤を含有する水硬成分と、粘度調整剤と、第一の凝結調整剤と、JIS G5901(2016)に準拠した粒度区分を4~8号としている細骨材とを含む水硬性組成物を封入材内に封入されている水硬性組成物封入体と;水に溶解させ凝結調整剤水溶液にするための第二の凝結調整剤とからなる。
【0095】
この水硬性組成物硬化セットを用い、カートリッジ方式の硬化性ペースト施工方法によるアンカー素子定着方法を
図1及び
図2に示す。
図1は、カートリッジ方式による硬化性ペースト施工方法を用いたアンカー素子定着方法の前半工程の一例を示している。同
図1(a)に示す定着剤含有カプセル100は、透水性筒状容器110とこれに封入された粉状の水硬性組成物C
1とを有している。定着剤含有カプセル100は、窄まった両端を有する略円柱形をなしている。透水性筒状容器110は、例えば紙と樹脂繊維とで構成され、良好な透水性と易破壊性とを有する不織シート製である。
【0096】
透水性筒状容器110は、高い透水性と易破砕性とを有する不織シート製であることが好ましい。このような不織シートとして、例えば、上質紙、中質紙、クラフト紙、ケント紙、模造紙、クレープ紙、ヒートロン紙、コーン抄紙、及び和紙のような紙を挙げることができる。これらの原材料は、針葉樹を原材料とするパルプ・広葉樹を原材料とするパルプ等の木材パルプ、ミツマタ・ワラ・バガス・ヨシ・ケナフ・クワ等の非木材パルプ及び古紙パルプの何れか一つを用いてもよいし、複数を混合して形成してもよい。また紙は、レーヨン紙やアセテート紙のような化繊紙であってもよい。
【0097】
不織シートは、紙に加えて樹脂を含んでいてもよい。それによれば運搬・保管時や施工時に容易に破壊せず、内容物である水硬性組成物C1が遺漏しない。このような樹脂として、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンのようなポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリトリブチレンテレフタレートのようなポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66及びアラミドのようなポリアミド樹脂;アクリロニトリルを主成分とするポリアクリル樹脂が挙げられる。
【0098】
一方、凝結調整剤を水に溶解させて、凝結調整剤水溶液Wを調製する。
図1(a)に示すように、トレイ200に凝結調整剤水溶液Wを溜める。凝結調整剤水溶液Wに用いる水は、施工現場で容易に入手できることから水道水であることが好ましい。凝結調整剤水溶液Wの温度は、5~30℃であることが好ましく、15~25℃であることがより好ましい。凝結調整剤水溶液Wの温度がこの上限値を超えると、硬化性ペーストC
2の可使時間が極端に短くなり、硬化性ペースト施工方法の完了前に凝結終点に達してしまう(
図2参照)。一方、この温度が下限値未満であると、硬化性ペーストC
2の硬化物である硬化体C
3の養生の時間を長引かせたり(
図2(f)参照)、それの強度低下を招来したりする。凝結調整剤水溶液Wに定着剤含有カプセル100を浸漬し、水硬性組成物C
1に凝結調整剤水溶液Wを吸収させる。凝結調整剤水溶液Wは、透水性筒状容器110を通過して粉状の水硬性組成物C
1に浸入する。凝結調整剤水溶液Wが、水硬性組成物C
1に含まれる水硬成分の粒子間に入り込んだ水によって、これら同士が互いに粘着する。それにより、水硬性組成物C
1が凝集する。このとき、凝結調整剤水溶液Wによって、凝結速度が調整される。
【0099】
定着剤含有カプセル100の先端部から基端部までの長さLは、例えば100~400mm、具体的に200~400mmであることが好ましく、200~350mmであることがより好ましく、200~300mmであることが一層好ましく、250~300mmであることがより一層好ましい。このときの径Dは夫々、例えば10~40mm、具体的に20~40mmであることが好ましく、20~35mmであることがより好ましく、30~35mmであることが一層好ましい。長さLがこの範囲内であることにより、定着剤含有カプセル100の保管や運搬を簡便にでき、また良好なハンドリング性を付与して、手による取扱時に折れ曲がることによって生じる透水性筒状容器110の破損を防止できる。
【0100】
また、径Dの値を変更することにより水硬性組成物C1が所要量の凝結調整剤水溶液Wを吸収するのに要する時間、すなわち凝結調整剤水溶液Wへの浸漬時間を変更することができる。径Dが上記の範囲内であると浸漬時間を5分間以下、具体的に3~5分間という短時間にでき、このような短い浸漬時間であっても、25~32質量%の吸水率を得ることができる。吸水率は、凝結調整剤水溶液への浸漬前の重量を浸漬後の重量で除した百分率として表される。凝結調整剤水溶液Wの所要量は、水硬性組成物C1が吸収し得る凝結調整剤水溶液Wの上限量である。そのため、この浸漬時間を超えて定着剤含有カプセル100を凝結調整剤水溶液Wに浸漬したとしても、水硬性組成物C1は所要量を超えて凝結調整剤水溶液Wを吸収しない。また、少なくとも上記浸漬時間を経過すれば、凝結調整剤水溶液Wの吸収量が不足しない。しかも、水硬性組成物を収容したシリンダカートリッジへの注水のように、水硬性組成物中に凝結調整剤水溶液Wの偏在を生じず、水硬性組成物C1に満遍なく凝結調整剤水溶液Wを接触させることができる。
【0101】
凝結調整剤水溶液Wから定着剤含有カプセル100を取り出す。透水性筒状容器110は、樹脂繊維を含んでいるので、水濡れしていても水硬性組成物C
1を遺漏させないまま手で扱える程度の強度を保持している。
図1(b)に示すように、定着剤含有カプセル100の一端で透水性筒状容器110の一部を破り、さらに水硬性組成物C
1の凝集体Caが露出するように、他端に向かって透水性筒状容器110を捲りながら破ってこれを除去する。それによって凝集体Caを透水性筒状容器110から取り出す。凝集体Caは、あたかも偽凝結を生じているかのように固まっているので、透水性筒状容器110が除去されているにもかかわらず、略円柱形を保持できる。そのため、凝集体Caを手で掴んで取り扱うことができる。
【0102】
図1(b)に示すシリンダカートリッジ300は、円筒形をなし基端に開口330を有している筒体320と、筒体320の先端で開口330から離反する方向へ突き出ている筒先310とを、有している。筒先310は筒体320の内空につながっており、筒体320の内空と外界とを連通させている。筒先310の外周面に雄ねじが設けられており、雌ねじを内周面に有するキャップ310aが筒先310の雄ねじと螺合している。透水性筒状容器110から取り出した凝集体Caを、開口330から筒体320へ挿入する。
【0103】
図1(c)に、凝集体Caの撹拌工程を示す。撹拌機400は、先端部で突き出た二つの撹拌羽430を有する回転ロッド420と、この回転ロッド420の基端に接続しており、回転ロッド420を撹拌羽430ごと回転ロッド420の中心軸周りに回転させる回転工具410とを有している。撹拌羽430は、向かい合った直線状の二辺、並びにこの二辺の一端同士及び他端同士を繋いでいる弧状の二辺を有する小判形をなした板部430bと、弧状の二辺でこの弧に沿って夫々突き出た突出部430dと、板部430bで点対称に開けられた開口部430aと、開口部430aに一部でつながって突出部430dと離反方向に迫り出した舌片部430cとを有している。撹拌羽430は、開口部430aを挟んだ板部430bの中心を貫通した回転ロッド420に溶接によって固定されている。二つの撹拌羽430は、舌片部430cを向かい合わせつつ互いに交差するように回転ロッド420に直列に固定されている。
【0104】
撹拌羽430を回転ロッド420ごと筒体320内へ挿入する。回転工具410を動作させると、回転ロッド420及び撹拌羽430が回転する。シリンダカートリッジ300内の凝集体Caは、撹拌羽430と接触して掻き回されて撹拌される。撹拌時間は5~60秒間であることが好ましく、20~60秒間であることがより好ましく、20~40秒間であることがより一層好ましい。なお、凝集体Ca及び硬化性ペーストC2を撹拌する際、開口330から硬化性ペーストC2が遺漏しないように、開口330を上方へ、筒先310を下方へ夫々向けてシリンダカートリッジ300を垂直に固定してもよい。
【0105】
掻き回されることによって凝集していた凝集体Caの粒子は均一に分散し、凝集体Caは
図1(d)に示す硬化性ペーストC
2に変化する。硬化性ペーストC
2は、流動性を有している。凝集体Caを、予め硬化性ペーストC
2とすることにより、シリンダカートリッジ300から硬化性ペーストC
2を押し出して削孔に注入する際(
図2(c)参照)の押し出し抵抗を、凝集体Caをそのまま押し出すよりも、格段に減じることができ、作業者の負担を軽減できる。
【0106】
次いで
図1(d)に示すように、筒体320及び開口330の内径よりもわずかに小さな円盤形をなしている蓋体340を、開口330に嵌める。蓋体340は、筒先310に向かった押圧に応じて、筒体320内を移動することができる。次いで、基端側にキャップ310aと同一の雌ねじを、先端に開口した吐出口を、夫々有するノズル310bに、注入チューブ310cを接続する。注入チューブ310cと吐出口に向かって漸次窄まったノズル310bの先端部とを留め具310dで締付けて固定する。注入チューブ310cの中ほどに、ビニルテープを巻いて貼付し、注入量指示マーク310eを形成する。この注入量指示マーク310eは、張コンクリートのようなコンクリート躯体に開けられた削孔の体積とそこに挿入されるアンカー素子の挿入分の体積との差分を満たす量の硬化性ペーストC
2が削孔に注入された際に、削孔の開口から露出する位置に付されている(
図2(d)参照)。さらに、キャップ310aを取り外して、注入チューブ310cが接続されたノズル310bを、筒先310に螺合させて取り付ける。
【0107】
図1(e)に示す注入ガン500は、シリンダカートリッジ300の筒体320よりも幾分大きな径を有する湾曲した軒樋形をなしていてかつ筒体320を支持する筒体支持部520と、筒体支持部520の先端に立設し筒体320の先端側を支持する先端側支持部510と、筒体支持部520の基端に設けられた基端部550と、基端部550に固定された操作部540と、筒体支持部520上で先端側支持部510と基端部550との間を移動可能なピストン530と、一端でピストン530に連結し基端部550及び操作部540を貫通してその先へ延び他端で折り返すように湾曲した送出しロッド560とを、有している。
【0108】
先端側支持部510は、筒先310と接触せずかつ筒体320の先端側に接触してシリンダカートリッジ300を支持できるように、2本の爪を有している。操作部540は、作業者の掌と親指とで把持される把持部540bと、作業者の親指以外の指が掛けられるトリガー540aとを有している。トリガー540aと送出しロッド560とは、例えばラチェット機構を介して接続されている。トリガー540aが引かれて把持部540b側に移動することにより、送出しロッド560は先端側支持部510へ向かって送り出され、ピストン530が筒体支持部520上を移動する。ピストン530は、注入ガン500にセットされたシリンダカートリッジ300の開口330から筒体320内へ移動して蓋体340を押圧できるように、筒体320及び開口330より小さい径の円盤形をなしている。
【0109】
蓋体340を開口330に嵌め、送出しロッド560を先端側支持部510から離反する方向へ引いてピストン53を基端部550側へ移動させる。シリンダカートリッジ300を、筒先310が先端側支持部510の2本の爪の間で突き出るように、注入ガン500にセットする。次いでトリガー540aを複数回引いて、ピストン530が蓋体340に当接するまで先端側支持部510側へ移動させる。
【0110】
注入ガン500は、圧縮空気を生成するコンプレッサー(不図示)に繋がっており、トリガー540aの操作に応じてこの圧縮空気が送出しロッド560を送り出すものであってもよい。それによれば、トリガー540aを操作する作業者の負担を軽減できる。
【0111】
図2は、カートリッジ方式の硬化性ペースト施工方法を用いたアンカー素子定着方法の後半工程の一例を示す。同図はカートリッジ方式の硬化性ペースト施工方法によって、落石防護網を固定する支柱を張コンクリートに取り付ける工程を示している。
【0112】
図2(a)に示す張コンクリート61は、法面62へのコンクリート張工によって形成され、法面62を略均一な厚さで覆っている。そのため、張コンクリート61の表面61aは、傾斜している。作業者は、表面61aにコアボーリングマシン71をセットし、それの先端に取り付けられたコアドリル71aを回転させて円筒形状の削孔61bを形成する。
【0113】
図2(b)に示すように、作業者は注入チューブ310cの先端が削孔61bの底面61b
1に接触する位置まで注入チューブ310cを削孔61bに挿し込む。次いで作業者は同図(c)に示すように、トリガー540aを引く。硬化性ペーストC
2が押し出されて注入チューブ310cから削孔61b内に注入される。このとき作業者は、注入ガン500が削孔61bの開口から離反する方向Xへ、シリンダカートリッジ300とともに注入ガン500を少しずつ移動させつつ、注入チューブ310cの先端部と硬化性ペーストC
2の液面とを接触させながら硬化性ペーストC
2の注入を継続する。それにより、硬化性ペーストC
2の注入量が削孔61b内で増加することに応じて、注入チューブ310cが削孔61bから抜去される方向へと移動する。また作業者は、硬化性ペーストC
2の液面が削孔61bの開口へ向かって移動する際に生じる硬化性ペーストC
2の圧力を感知できる。それによって作業者は、硬化性ペーストC
2の順調な注入を認識できる。作業者がこの作業を継続すると、同図(d)に示すように、注入量指示マーク310eが削孔61bの開口で出没する。作業者は、この注入量指示マーク310eが、削孔61bの開口で出没したことを目視にて確認した時点で、トリガー540aを戻して注入を終了する。このように作業者は、硬化性ペーストC
2の注入工程において、注入ガン500を移動させながら削孔61bの開口を注視するという簡便で簡素な作業を行うだけで、アンカー素子の体積分の空間を削孔61bに残した硬化性ペーストC
2の注入を行うことができる。その結果、アンカー素子を削孔61bへ挿入した際に、硬化性ペーストC
2が削孔61bの開口から多量に溢れ出るという不経済を防止できる。
【0114】
このように、注入チューブ310cに注入量指示マーク310eが付されており、かつ上記のように注入工程を行うことにより、作業者は適切な量の硬化性ペーストC
2を、過不足なく削孔61bに注入することができる。特に、硬化性ペーストC
2の注入工程後に、アンカー素子であるアンカーボルト81を削孔61bに挿入する際(
図2(e)参照)、硬化性ペーストC
2が過剰注入されていることによって、硬化性ペーストC
2が削孔61bから多量に溢れ出るような無駄や注入不足による施工不良が防止されている。さらに、注入量指示マーク310eを目視するだけという簡便な管理によって、例えば、一つの削孔61b当たりに要する硬化性ペーストC
2の量を把握でき、シリンダカートリッジ1本当たりに注入・充填可能な削孔61bの数を決定できる。
【0115】
図2(e)にアンカー素子の打込工程を示す。アンカー素子であるアンカーボルト81は、長尺の略円柱形をなしており、それの中心軸に対して略垂直な面をなしている基端(同図(f)参照)と、この基端の面に対して傾斜していることによって楕円形の面を有している先端とを、有している。それによりアンカーボルト81の先端は鋭く尖っているため、硬化性ペーストC
2で満たされた削孔61bへ挿入し易い。アンカーボルト81の先端から中程まで、複数のリブ81aが出っ張っている。アンカーボルト81の基端部の表面に雄ねじ81bが設けられている。この雄ねじ81bに、落石防護網の支柱を固定するナット83が螺合される(同図(f)参照)。アンカーボルト81の全長は、規格に示されているアンカーボルトの定着長を満足し、かつ削孔61bに打ち込まれた際に雄ねじ81bが削孔61bの開口から突き出るように、削孔61bの削孔長(奥行)よりも長い。
【0116】
作業者は、アンカーボルト81の基端部を手31で握って、硬化性ペーストC2に空気が混入しないようにアンカーボルト81の中心軸周りに回転させながら、削孔61b内の硬化性ペーストC2に挿し込む。適度な流動性を有する硬化性ペーストC2と、アンカーボルト81の鋭利な先端とによって、作業者は然程、力を要さずとも、アンカーボルト81を硬化性ペーストC2で満たされた削孔61bに打込むことができる。作業者は、硬化性ペーストC2の吸水完了時から硬化性ペーストC2の凝結始発までの時間である可使時間内にこの工程を行う。可使時間を徒過すると、凝結始発に達した硬化性ペーストC2の流動性が、徐々に失われて、アンカーボルト81の打込抵抗が上昇し、これを手31による人力で打込むことが困難になってしまう。
【0117】
作業者は、削孔61b内でアンカーボルト81を所定の角度となるように手90で支持する。凝結終結に達した硬化性ペーストC2は硬化を開始するので、アンカーボルト81は作業者の支持を要さず所定の角度を保ったまま、削孔61b内に定着する。作業者は必要に応じて、削孔61bからわずかに溢れた硬化性ペーストC2を取り除く。
【0118】
図2(a)~(e)に示す工程を経た張コンクリート61を同図(f)に示す。硬化性ペーストC
2の硬化により生じた硬化体C
3が削孔61bの開口を塞いでいるとともに、削孔61bの内壁面とアンカーボルト81との間に密に充填されている。アンカーボルト81は、張コンクリート61に定着し、その基端部の雄ねじ81bにナット83が螺合して支柱82が固定されている。リブ81aのアンカー効果によってアンカーボルト81は、硬化体C
3からの引抜強度を向上させている。
【0119】
このように、本発明の水硬性組成物を用いたカートリッジ方式による硬化性ペースト施工方法によれば、定着剤含有カプセル100を凝結調整剤水溶液Wに所定時間浸漬するだけで、水硬性組成物C1に所要量の凝結調整剤水溶液Wを吸収させることができるので、水を溢したり計量ミスを生じたりする恐れがあるカートリッジへの注水や、注水後のカートリッジの振盪を要しない。その結果、不慣れな作業者であっても簡便にかつ確実に作業をすることができるので均質な施工が可能で、施工管理を簡素化できるとともに、施工効率を向上させることができる。
【0120】
その結果作業者は、定着剤含有カプセル100の凝結調整剤水溶液Wへの浸漬時間を厳密に管理せずに済む上、定着剤含有カプセル100の透水性筒状容器110の除去工程(
図1(b)参照)からアンカーボルト81の削孔61bへの挿入工程(
図2(e)参照)までを、時間的余裕をもって確実に行うことができる。
【0121】
なお、硬化性ペーストC
2の注入工程が終了し、かつシリンダカートリッジ300の筒体320内の硬化性ペーストC
2が注入チューブ310cからすべて排出されて筒体320内が空となった後に、筒体320の内壁面を洗浄する工程を行ってもよい。この場合、注入ガン500のピストン530が蓋体340を兼ねていることが好ましい。それによれば、作業者が送出しロッド560を引いてピストン530(蓋体340)を開口330から取り出した後、筒体320の内壁を洗浄できる(
図1(d)及び(e)参照)。さらにこの洗浄は、ノズル310bを筒体320から取り除いた後に行うことが好ましい。さらに留め具310dを緩めてノズル310bから注入チューブ310cを取り外し、ノズル310b及び注入チューブ310cも洗浄することがより好ましい。この洗浄工程において、水やブラシを用いて硬化性ペーストC
2をこそぎ落してもよい。洗浄工程によれば、筒体310、ノズル310b、及び注入チューブ310cを使い捨てとせずに再使用することができるので、廃棄物及び施工コストの低減に資する。この洗浄工程は、硬化性ペーストC
2の注入工程の直後に行っても、これに引き続くアンカーボルト81の挿入工程の終了後に行ってもよい。
【0122】
またアンカー素子の先端は、アンカー素子の基端面に平行な面を有しているという所謂寸切り形状、角錐形状、円錐形状、又は半球形状をなしていてもよく、アンカー素子先端部の互いに向かい合う弧からそれの先端の延長方向へ夫々延びて形成された二つの斜面が弧と向かい合う辺を共有しているという所謂両面カット形状をなしていてもよく、アンカー素子先端部の互いに向かい合う弧からそれの基端方向へ延びて形成された二つの斜面が弧と向かい合う辺を共有しているという所謂先端二又割れ形状をなしていてもよい。
【0123】
なお、凝結調整剤水溶液Wに所定時間浸漬した定着剤含有カプセル100を、そこから取り出してそのまま削孔に挿し込んでもよい。吸水後の定着剤含有カプセル100を削孔に挿し込み、その後、尖形をなしたアンカーボルトの基端部に打撃を加えながら、削孔にアンカーボルトを挿し込むと、透水性筒状容器110が突き破られ、硬化性ペーストC2が削孔内に流出する。アンカーボルトは、硬化性ペーストC2を押し退けながら削孔内を進む。硬化性ペーストC2の硬化により生じた硬化体C3が削孔の開口を塞いでいるとともに、削孔の内壁面とアンカーボルトとの間を密に充填する。
【0124】
さらに本発明の硬化性ペースト施工方法の別な例、具体的にパック方式の硬化性ペースト施工方法、及びそれに用いられる硬化性ペースト施工用キットを、
図3~5を参照しつつ説明する。
【0125】
パック方式の硬化性ペースト施工方法を用いたアンカー素子定着方法を
図3~
図5に示す。
図3は、パック方式による硬化性ペースト施工方法を用いたアンカー素子定着方法の前半工程を示している。
図3(a)に示すように、パック方式による硬化性ペースト施工方法には、袋体11に硬化性組成物としてセメントを含有する粉体である水硬性組成物C
1のみを収容したパック10と、水硬性組成物C
1を硬化させるのに要する液剤として凝結調整剤水溶液W入りの容器であるボトル21とを備える硬化性ペースト施工用キット1が、用いられる。水硬性組成物C
1は、凝結調整剤水溶液Wと接触した後混合されることによって硬化性ペーストC
2(
図4(b)参照)に変化し、さらに水和反応を生じて凝結・硬化して硬化体C
3(
図5(f)参照)を生成する。
【0126】
パック10は、略矩形をなしているフィルム同士がそれらの周縁で一定幅の帯状に溶着された溶着帯11aを有している袋体11と、この袋体11の上端辺部11a
1に固定されたポート12とを、有している。ポート12は袋体11の内空と外界とを連通させている筒部12aと、筒部12aの根元につながって上端辺部11a
1に溶着されている台部12bとを有する。筒部12aの外面に雄ねじが設けられており(
図3(c)参照)、キャップ13の内面の雌ねじと螺合している。それにより、キャップ13が筒部12aに取り付けられている。
【0127】
袋体11において、ポート12を有する上端辺部11a1及びこれに対向している下端辺部11a3の長さは、袋体11の側辺部11a2の長さよりも短いことが好ましい。具体的に、袋体11の外寸は、上端辺部11a1及び下端辺部11a3の長さ(横幅)は、50~300mmであることが好ましく、100~250mmであることがより好ましく、100~200mmであることがより一層好ましい。また、側辺部11a2の長さ(縦長)は、100~500mmであることが好ましく、250~500mmであることが好ましく、250~400mmであることがさらに好ましく、300~400mmであることがより一層好ましい。袋体11の外寸は、これらの範囲内において、収容する水硬性組成物C1の量(質量及び体積)と袋体11に注入される凝結調整剤水溶液Wの量(質量及び体積)に応じて決定される。なお、袋体11の直立時、平坦に均された水硬性組成物C1の上端面は、上端辺部11a1と下端辺部11a3との中間から下端辺部11a3寄り、即ち袋体11の縦方向の下半分に位置していることが好ましい
【0128】
また、袋体11に収容されている水硬性組成物C
1の質量は、100~3000gである。収容量はこの間であればよく、例えば300g弱、500g、1000g、1500g、2000g、及び2500gのように施工箇所数や定着させるべきアンカー素子の太さ及び長さに応じて適宜選択できる。袋体11に収容されている水硬性組成物C
1の質量が3000gを超えると、後述するように、水硬性組成物C
1に凝結調整剤水溶液Wを加えて調製された硬化性ペーストC
2(
図5(b)~(d)参照)が重くなりすぎて人の手による作業性が低下する。
【0129】
例えば、袋体11に収容される水硬性組成物C1の重量は、100~2000gであることが好ましいがそれでも500gを超えると、一袋当たりの水硬性組成物C1の重量及びそれを硬化させるのに必要な水分量との合計重量が重くなり現場で用時に揉んだり踏んだりして混合する際にかなりの肉体的負担となってしまう。そこで、一袋当たりの水硬性組成物C1を500g以下、好ましくは200~400gにすると硬化させるのに必要な水分量との合計重量でも2倍程度にしかならないから、比較的軽量で持ち運び易く、比較的コンパクトとなるので然程の肉体的負担なしに現場で用時に、より短時間で、揉んだり踏んだりして均一に混合することができ、しかも吐出させ易くなる。例えば横幅150mm、縦長350mm程度の袋体11に780gの水硬性組成物C1を収容していると、所定量の水と混合するのに、1分半~3分間程度要してしまうのに対し、横幅100mm、縦長320mm程度の袋体11に280gの水硬性組成物C1を収容していると、所定量の水と均一に混合するのに、1分間以内しか要さないで済む。
【0130】
袋体11は、例えばポリアミドのような水を透過し難く高い強度を有する樹脂製で、かつ比較的厚いフィルムで形成されている。このフィルムの厚さは、100~250μmであることが好ましく、100~180μmであることがより好ましく、100~150μmであることがより一層好ましい。このような袋体11は運搬時や保管時に生じる振動や摩擦によって破損せず、また筒部12aの先端開口がキャップ13によって塞がれているので、水硬性組成物C1は不意に水と接触しない。
【0131】
なお、袋体11内の水硬性組成物C1、硬化性ペーストC2、及び凝結調整剤水溶液Wを、袋体11を通して視認できるように、フィルムは無色透明又は白色や青色のような任意の色に着色された半透明であることが好ましい。
【0132】
一方ボトル21に、水硬性組成物C1の質量に対応する規定量の凝結調整剤水溶液Wが収容されている。凝結調整剤水溶液W入りのボトル21として、例えば、アイザーピュアウォーター(250mL入り、株式会社アクシス製、商品名)が市販されている。しかし、水入りのボトル21を作業現場に搬送するのはかなりの手間である。そこで、空のボトル21を作業現場に搬送し、作業現場で水道水のような入手し易い水で凝結調整剤を溶解させて凝結調整剤水溶液Wを調製し、ボトル21に所定量だけ注ぎ込む方が簡便かつ効率的である。凝結調整剤水溶液Wが収容されたボトル21の筒口21aに、それの先端開口を液密に塞ぐキャップ(不図示)が使用される直前まで螺合して取り付けられている。またボトル21は、例えばポリプロピレンやポリエチレンテレフタラートのような硬質の樹脂で成型されているので定形性に優れ、凝結調整剤水溶液Wの流動によって変形せずに外形を維持でき、かつ振動や摩擦によって破損しない。そのため凝結調整剤水溶液Wは、運搬時や保管時にボトル21から不意に遺漏しない。
【0133】
このように、水硬性組成物C1と凝結調整剤水溶液Wとが袋体11及びボトル21へ夫々別々に収容されていることにより両者の不意な接触が確実に回避されている上、定形性を有するボトル21に凝結調整剤水溶液Wが収容されているので運搬時及び保管時の取扱性に優れる。また、必ずしも水硬性組成物C1と凝結調整剤水溶液Wとを同時に運搬することを要しないため、硬化性ペーストを調製するための材料を分散して任意の場所に持ち運ぶことができる。それによれば、多量の硬化性ペーストの調製を要する場合、それに要する重量の水硬性組成物と凝結調整剤水溶液とが分離不能に収容されたパウチ容器を運ぶことに比較して、運搬に要する労力を低減できる。
【0134】
作業者は、硬化性ペーストC
2の調製直前に筒口21aに取り付けられたキャップを取り外し、これに代えて注入ノズル22を注入口21aへ液密に取り付ける。注入ノズル22は、基端部でボトル21に螺合したキャップ状の取付部22aと、それの上面で上方に向かって漸次縮径しつつ伸びた円錐部22bとを有している。それにより円錐部22bは、テーパーを有する截頭円錐形の筒体をなしている。円錐部22bの外面で、それの先端と取付部22aの上面との間にリブ22cが出っ張っている。リブ22cは、円錐部22bの円形断面の直交する直径に沿って4方向に、かつ円錐部22bのテーパーに沿った一定の高さで突き出ている。なお、
図3中、リブ22cを有する例を示したが、有しなくてもよい。
【0135】
次いで
図3(b)に示すように、作業者はキャップ13を取り外した後、パック10が直立するようにこれを適当な平台(不図示)に載せる。作業者はポート12の筒部12aがやや下を向くように右手31でそこをつまみ、水硬性組成物C
1の上端面よりも上端辺部11a
1寄りで袋体11を折り曲げる。それにより、水硬性組成物C
1が筒部12aの先端開口から遺漏しない。次いで作業者はボトル21を左手32で握り、筒部12aの先端開口に円錐部22bをそれの先端部から挿し込む。このとき、円錐部22bの先端部をボトル21の底部よりも上側に位置させなければ、注入ノズル22をポート12に挿し込めないので、凝結調整剤水溶液Wが円錐部22bの先端開口から遺漏しない。
【0136】
円錐部22bのテーパー又は必要に応じ設けられるリブ22cが、筒部12aの開口部に食い込んで篏合する。このとき、リブ22cが円錐部22bの外面で突き出ているので、円錐部22bの外面と筒部12aの開口部との間に、リブ22cの高さに相当する隙間Sが形成される(同図(c)参照)。このようにポート12と注入ノズル22とが接続されることにより、パック10とボトル21とが連結される。
【0137】
図3(c)に示すように、作業者は、袋体11の上端辺部11a
1を右手31で挟むように支えてパック10を直立させながら、ボトル21の底部を上側に、注入ノズル22を下側に、それぞれ位置するようにボトル21を逆転させる。それにより、ボトル21内の凝結調整剤水溶液Wが注入ノズル22内を通って、袋体11内に注がれる。袋体11への凝結調整剤水溶液Wの流入に応じて袋体11内の空気が隙間Sから排出される。このように、パック10とボトル21とが、注入ノズル22によって一体に連結されているので、予め計量された規定量の凝結調整剤水溶液Wを、一切こぼすことなく確実に、しかも空気の排出によって速やかに水硬性組成物C
1に吸収させることができる。作業者はボトル21内の凝結調整剤水溶液Wの全量が袋体11内に注がれたことを目視にて確認した後、筒部12aから注入ノズル22を抜き、パック10とボトル21との連結を解除する。
【0138】
水硬性組成物C1の100質量部当たり凝結調整剤水溶液Wの量は、20~40質量部であることが好ましく、25~40質量部であることがより好ましく、25~35質量部であることがより一層好ましい。凝結調整剤水溶液Wの量がこの下限値未満であると、凝結調整剤水溶液Wの量が不足して適度な流動性を有する硬化性ペーストC2を調製できず、ひび割れの補修やタイルの目地埋め等の作業性が低下する。一方凝結調整剤水溶液Wの量がこの上限値を超えると、硬化性ペーストC2が過度の流動性を示し、ひび割れへの充填性に欠ける上、硬化するまでの養生時間を長引かせてしまう。また、水の温度は、3~50℃であることが好ましく、10~20℃であることがより好ましい。
【0139】
図4にパック方式の硬化性ペースト施工方法を用いたアンカー素子定着方法における中盤工程を示す。同図(a)に示すように、筒部12aにキャップ13を螺合して取り付けて袋体11を密封する。キャップ13が、筒部12aの先端開口を覆って液密に塞いでいるので、袋体11内の水硬性組成物C
1と凝結調整剤水溶液Wとが遺漏しない。作業者は、両手31,32でパック10を掴んで袋体11を揉んだり、押したりする。それにより袋体11が変形し、水硬性組成物C
1と凝結調整剤水溶液Wとが混合され、硬化性ペーストC
2が調製される。
【0140】
必要に応じて上端辺部11a1を下に、かつ下端辺部11a3上に向けるようにパック10を天地逆転させたり、パック10を水平又は垂直方向へ揺するように往復させたり、袋体11を折り曲げたりしてもよい。又は、凝結調整剤水溶液Wを入れた後、上下に10回程度強く振ってからパックをひっくり返して、再度、上下に10回程度強く振る1セット手順を、4~5セット繰り返して、凝結調整剤水溶液Wがセメント全体に行き渡るように予備混合してもよい。なお、水硬性組成物C1及び凝結調整剤水溶液Wとともに、空気Aが袋体11の内空の体積の一部を占めていてもよい。この工程において、水硬性組成物C1の上方から注入された凝結調整剤水溶液Wが下端辺部11a3付近に到達するほど強い力でかつ長時間、袋体11を揉んだり、押したりすることを要しない。後に必要に応じ、押圧用器具を用いてそれらを十分に混合できることに加え、作業者の負担が増大し、水硬性組成物C1と凝結調整剤水溶液Wとの混合物が凝結始発に到達し硬化を開始する恐れがあるからである。
【0141】
図4(b)に示すように、再びパック10が平台上で直立するように右手31でこれを支える。キャップ13を左手32で緩めて又これを取り外して、袋体11の密封を解く。それにより袋体11の内空と外界とを連通させる。次いで、右手31で袋体11を掴んだり押したりすることにより、袋体11を変形させる。それにより、袋体11の向かい合った内側面の少なくとも一部が互いに接触して、袋体11内の空気Aがポート12から排出される。このとき、袋体11上方の空気滞留部を右手31で挟み、そのまま右手31を上端辺部11a
1に向かってスライドさせると、空気Aを速やかに排出できる。空気Aの大部分が排出されたところで、作業者はキャップ13を再度締める。
【0142】
図4(a)に示す袋体11を揉む工程と、同図(b)に示す空気Aを排出する工程との順を逆に行ってもよい。この場合、具体的に、パック10に凝結調整剤水溶液Wを注入した後(
図3(c)参照)、キャップ13を筒部12aに取り付けて袋体11を密封する前に、パック10を変形させて空気Aをポート12から排出させる。次いでパック10を変形させたままキャップ13を筒部12aに取り付けて袋体11を密封し、両手31,32でパック10を掴んで袋体11を押したり揉んだりして、凝結調整剤水溶液Wと水硬性組成物C
1とを混合して硬化性ペーストC
2を調製する。
【0143】
混合の際にパック10に加える外力は、パック10を押したり揉んだりする他、踏んだり、振ったりするという人力であってもよい。この方法を採用する場合、手、肘、膝、及び足のような人の体の一部をパック10に接触させたり、手で掴んだりして、パック10に押圧力や振盪を加えることにより硬化性ペーストC2を調製することができる。人力を加える時間は、30~120秒が好ましく、30~90秒がより好ましく、30~60秒がより一層好ましい。なお、水硬性組成物と凝結調整剤水溶液との混合、及び/又は硬化性ペースの押出の際に、パック10に加える外力は、機械による動力であってもよく、押圧ローラー(不図示)の押圧力及び人力のいずれか一方であっても、両方であってもよい。
【0144】
袋体11を形成するフィルムは軟質で可撓性を有していることが好ましい。このフィルムの材料として、熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的に例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸、環状ポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、及びポリ塩化ビニルからなる群の少なくとも1つを含む単独重合体及び/又は共重合体及び/又はポリマーブレンドが挙げられる。
【0145】
フィルムの構造は、上記の熱可塑性樹脂の一種で形成された単層であってもよく、互いに同一又は異なる熱可塑性樹脂で形成された複数枚のフィルムが接着された多層であってもよい。フィルムが多層構造を有している場合、例えば、内層から外層へ向かってポリアミド(ナイロン)層(PA;15μm厚)/バリアポリアミド(ナイロン)層(バリアPA;15μm厚)/リニア低密度ポリエチレン層(LLDPE;130μm厚)の順に、積層した多層構造が挙げられる。また、多層構造は、内層から外層へ向かって内側:リニア低密度ポリエチレン層(LLDPE;130μm厚)/ポリアミド(ナイロン)層(PA;15μm厚)/バリアポリアミド(ナイロン)層(バリアPA;15μm厚)の順にであってもよい。さらに多層構造は、内層から外層へ向かって、ポリエチレンテレフタラート層(PET;12μm厚)/バリアポリアミド(ナイロン)層(バリアPA;15μm厚)/リニア低密度ポリエチレン層(LLDPE;130μm厚)の順であってもよい。特に最外層であるLLDPE層は少なくとも100μmの厚さを有していることが好ましい。それにより、手や足との摩擦やそれらによる押圧に起因する袋体11の内圧上昇が生じても、フィルムが破れたり裂けたりしない。一方、LLDPE層の厚さが150μmを超えると、フィルムが外圧によって変形し難いので、水硬性組成物C1と凝結調整剤水溶液Wとを十分に混合及び混練できず、均質な硬化性ペーストC2が得られない。また溶着帯11aは、熱溶着、超音波溶着、又は誘導溶着によって形成することができる。
【0146】
上記の熱硬化性樹脂は、ポート12の材料としても採用することができる。
【0147】
図4(c)のように、キャップ13と交換的に螺合可能な注入コネクタ23と、その注入コネクタ23の先端に嵌めることが可能な太さを有しつつ注入量指示マーク25のテープが貼付され又は注入量指示マーク25が印字されている注入チューブ24とを、準備する。注入コネクタ23は筒体であり、それの上端で円形の開口部を有している。また注入コネクタ23は、基端部の内壁面に筒部12aの雄ねじに螺合可能な雌ねじを有し、中ほどから先端部の外面に複数の鱗状環部23aを有している。各鱗状環部23aは、円形の開口部と同心に形成されており、基端部に向かって漸次広がった截頭形をなしている。それにより注入コネクタ23の外面に複数の段差が形成されている。このような外形を有するコネクタは、タケノコと呼ばれている。作業者はこの注入コネクタ23を筒部12aに螺合して取り付ける。
【0148】
次いで、
図4(c)に示すように、注入チューブ24の一端を注入コネクタ23に嵌め、これと注入コネクタ23とを留め具26で締付けて固定する。注入コネクタ23は、鱗状環部23aによる複数の段差を有している上、注入チューブ24は留め具26で締付けられているので、注入コネクタ23から容易に外れない。注入チューブ24の中ほどに、注入量指示マーク25であるビニルテープが巻かれてそこへ貼付されている。この注入量指示マーク25は、削孔61bの体積とそこに挿入されるアンカー素子の挿入部の体積との差分を満たす量の硬化性ペーストC
2が削孔61bに注入された際に、削孔61bの開口から露出する位置に付されている(
図5(d)参照)。
【0149】
本発明の硬化性ペースト施工方法の一例であるパック方式による硬化性ペースト施工方法を用いたアンカー素子定着方法の後半工程を
図5に示す。同図は落石防護網を固定する支柱を張コンクリートに取り付ける工程を示している。
【0150】
図5(a)に示す張コンクリート61は、法面62へのコンクリート張工によって形成され、法面62を略均一な厚さで覆っている。そのため、張コンクリート61の表面61aは、傾斜している。作業者は、表面61aにコアボーリングマシン71をセットし、それの先端に取り付けられたコアドリル71aを回転させて円筒形状の削孔61bを、二十から三十箇所形成する。
【0151】
削孔61bの奥行(長さ)及び直径は、張コンクリート61の厚さや、定着させるアンカー素子の長さ及び径に応じて決定される。特に削孔61bの奥行は、アンカー素子の直径の少なくとも5~10倍であることが好ましい。例えば、アンカー素子がD25鉄筋(JIS G3112(2010)に規定された異形棒鋼の呼び名:公称直径25.4mm)である場合、削孔61bの奥行を125~250mm、具体的には175~200mm、さらに具体的には175~180mmとし、直径を27~38mm、具体的には30~35mm、さらに具体的には30~33mmとする削孔61bが挙げられる。
【0152】
図5(b)に示すように、作業者は注入チューブ24の先端が削孔61bの底面61b
1に接触する位置まで注入チューブ24を削孔61bに挿し込む。次いで作業者は同図(c)に示すように、袋体11を、例えば左手32で握ることによって、袋体11の内側面同士が接するように、袋体11の両面で対抗する方向に圧力を掛けて圧縮する。それにより袋体11内の硬化性ペーストC
2が注入チューブ24から吐出されて削孔61b内に流れ込む。このとき、下端辺部11a
3から注入チューブ24に向かって手31,32で扱きながら硬化性ペーストC
2を吐出させることが好ましい。また下端辺部11a
3からポート12に向かって袋体11を手31,32で徐々に巻き取ることにより、袋体11内の硬化性ペーストC
2に圧力を掛けて注入コネクタ23及び注入チューブ24からこれを吐出させてもよい。
【0153】
図5(c)に示すように作業者は、硬化性ペーストC
2を削孔61bに注入しながら、削孔61bの開口から離反する方向Xへ、パック10を少しずつ移動させる。このとき、作業者は注入チューブ24の先端部と硬化性ペーストC
2の液面とを接触させながら硬化性ペーストC
2の注入を継続する。それにより、硬化性ペーストC
2の注入量が削孔61b内で増加することに応じて、注入チューブ24が削孔61bから抜去される方向へと移動する。また作業者は、硬化性ペーストC
2の液面が削孔61bの開口へ向かって移動する際に生じる硬化性ペーストC
2の圧力を感知できる。それによって作業者は、硬化性ペーストC
2の順調な注入を認識できる。
【0154】
作業者がこの作業を継続すると、
図5(d)に示すように、注入量指示マーク25が削孔61bの開口で出没する。作業者は、この注入量指示マーク25が、削孔61bの開口で出没したことを目視にて確認した時点で、前記袋体11の内部と、その袋体11から注入チューブ24の注入量指示マーク15までの内部との硬化性ペーストC
2を、注入量指示マーク15まで、扱いて押出し、一つの削孔61bに対する硬化性ペーストC
2の注入作業を終了する。このように作業者は、硬化性ペーストC
2の注入工程において、パック10を移動させながら削孔61bの開口を注視するという簡便で簡素な作業を行うだけで、アンカー素子のうち削孔61bに挿入される部分の体積だけを削孔61b内に残して、硬化性ペーストC
2の注入を終えることができる。その結果、アンカー素子を削孔61bへ挿入した際に、硬化性ペーストC
2が削孔61bの開口から多量に溢れ出るという不経済を防止できる。
【0155】
図5(e)にアンカー素子の打込工程を示す。アンカー素子であるアンカーボルト81は、長尺の略円柱形をなしており、それの中心軸に対して略垂直な面をなしている基端(同図(f)参照)と、この基端の面に対して傾斜していることによって楕円形の面を有している先端とを、有している。それによりアンカーボルト81の先端は鋭く尖っているため、硬化性ペーストC
2で満たされた削孔61bへ挿入し易い。アンカーボルト81の先端から中程まで、複数のリブ81aが出っ張っている。アンカーボルト81の基端部の表面に雄ねじ81bが設けられている。この雄ねじ81bに、落石防護網の支柱を固定するナット83が螺合される(同図(f)参照)。アンカーボルト81の全長は、規格に示されているアンカーボルトの定着長を満足し、かつ削孔61bに打ち込まれた際に雄ねじ81bが削孔61bの開口から突き出るように、削孔61bの削孔長(奥行)よりも長い。なお、アンカーボルト81の先端は、尖っていなくてもよく、略円形の端面を有する、所謂寸切り品であっても問題なく十分に挿入できる。
【0156】
アンカーボルト81の寸法について、特に限定されないが、例えばJIS G3112(2010)に規定されている異形棒鋼の呼び名D4~D51のものを用いることができる。また、アンカーボルト81は、M6~M100の呼び径を有する全ねじボルトであってもよい。
【0157】
作業者は、アンカーボルト81の基端部を右手31(若しくは左手32、又は両手)で握って、硬化性ペーストC2に空気が混入しないようにアンカーボルト81の中心軸周りに回転させながら、削孔61b内の硬化性ペーストC2に挿し込む。適度な流動性を有する硬化性ペーストC2と、アンカーボルト81の鋭利な先端とによって、作業者は然程、力を要さずとも、アンカーボルト81を硬化性ペーストC2で満たされた削孔61bに打込むことができる。作業者は、硬化性ペーストC2の調製完了時から硬化性ペーストC2の凝結始発までの時間である可使時間内にこの工程を行う。可使時間を徒過すると、凝結始発に達した硬化性ペーストC2の流動性が、徐々に失われて、アンカーボルト81の打込抵抗が上昇し、これを右手31(及び/又は左手32)による人力で打込むことが困難になってしまう。
【0158】
作業者は、削孔61b内でアンカーボルト81を所定の角度となるように手31,32で支持する。凝結終結に達した硬化性ペーストC
2は硬化を開始するので、アンカーボルト81は作業者の支持を要さず所定の角度を保ったまま、削孔61b内に定着する。作業者は必要に応じて、削孔61bからわずかに溢れた硬化性ペーストC
2を取り除く。作業者は引き続き、別な削孔61bの前に移動して
図5(b)~(e)の作業を繰り返す。
【0159】
パック10内に100~3000gの水硬性組成物C1から調製された十分な量の硬化性ペーストC2が収容されているので、作業者は逐一別なパック10を用いて新たな硬化性ペーストC2の調製作業を要しない。そのためこの硬化性ペースト施工方法は、数十箇所の削孔61bにアンカー素子を定着させるような中規模の工事において、硬化性ペーストC2の注入作業とアンカー素子の挿入作業とを、中断することなく連続的な流れ作業として行うことができるので、作業者の負担を軽減できるとともに作業時間の短縮に資する。
【0160】
図5(a)~(e)に示す工程を経た張コンクリート61を同図(f)に示す。硬化性ペーストC
2の硬化により生じた硬化体C
3が削孔61bの開口を塞いでいるとともに、削孔61bの内壁面とアンカーボルト81との間に密に充填されている。アンカーボルト81は、張コンクリート61に定着し、その基端部の雄ねじ81bにナット83が螺合して支柱82が固定されている。リブ81aのアンカー効果によってアンカーボルト81は、硬化体C
3からの引抜強度を向上させている。
【実施例0161】
以下、本発明を適用した水硬性組成物硬化セット、それを用いた硬化性ペースト施工方法によるアンカー素子定着方法の例について、詳細に説明する。
【0162】
(実施例1)
(実施調製例1-1:水硬性組成物の調製)
原材料である早強ポルトランドセメント(宇部三菱セメント株式会社製、早強ポルトランドセメント)の30質量部と、アルミナセメント(デンカ株式会社製、デンカアルミナセメント1号溶融品)の50質量部と、急結剤として無水石膏(株式会社ノリタケカンパニーリミテッド製、無水石膏D-101A)の28質量部と、粘性調整剤としてSTARVIS 308F(BASFジャパン株式会社製の商品名)の0.2質量部と、第一の凝結調整剤として酒石酸カリウムナトリウムKNA TARTRATE P(BASFジャパン株式会社製の商品名)の1.8質量部と、細骨材として珪砂7号(日瓢礦業株式会社製、N70)の25質量部とを、量りとり、ミキサーに投入して撹拌し、調製実施例の水硬性組成物を調製した。
(実施調製例1-2:定着剤含有カプセルの作製)
得られた水硬性組成物の450gを、坪量40g/m2でヒートロン紙からなる不織シート製透水性筒状容器に封入して、長さ300mmで径34mmである定着剤含有カプセルを、水硬性組成物硬化セット中の水硬性組成物封入体として、得た。
(実施調製例1-3:凝結調整剤水溶液の調製)
第二の凝結調整剤として酒石酸カリウムナトリウムKNA TARTRATE P(BASFジャパン株式会社製の商品名)の240gを水8Lに溶解して、3w/v%酒石酸カリウムナトリウム水溶液を調製し、水硬性組成物硬化セット中の凝結調整剤水溶液として、得た。
【0163】
(比較例1)
(比較調製例1-1:水硬性組成物の調製)
実施例1中の実施調製例1の水硬性組成物として、実施調製例1-1と同様にして、水硬性組成物を調製した。
(比較調製例1-2:定着剤含有カプセルの作製)
比較調製例1-1の水硬性組成物を用いたこと以外は、実施調製例2と同様にして、水硬性組成物封入体を、得た。
(比較調製例1-3:水の準備)
実施調製例1-3で凝結調整剤水溶液を調製したのに代えて、何も添加していない水道水を用いた。
【0164】
(実施例試験1-1及び比較例試験1-1:凝結による使用開始時間の計測試験)
実施例1で得た水硬性組成物硬化セットを用いた実施例試験1-1として、実施調製例1-2で得た定着剤含有カプセルを40℃雰囲気下で、実施調製例1-3で得て40℃にした3w/v%酒石酸カリウムナトリウム水溶液に5分間浸漬してから、モルタルを取り出し、カートリッジ内でかき混ぜた後に専用吐出ガンにセットし、使用可能開始時間として計測した。
一方、比較例1で得た水硬性組成物封入体を用いた比較例試験1-1として、比較調製例1-2で得た定着剤含有カプセルを、比較調製例1-3で得た水に浸漬したこと以外は、実施例試験1-1と同様にして使用可能開始時間を計測した。
それらの結果をまとめて表1に示す。
【0165】
(実施例試験1-2及び比較例試験1-2:圧縮試験)
実施例試験1-2として、実施例1中の実施調製例1-2で得た定着剤含有カプセルを実施調製例1-3で得た凝結調整剤水溶液に5分間浸漬させてから、定着材含有カプセルの透水性筒状容器を破壊し、凝集した定着剤を取り出して、先端にキャップを嵌めた筒先と基端に開口とを有するシリンダカートリッジに入れた。回転ロッドの先端部に撹拌羽を有している撹拌棒(藤原産業株式会社製、製品名:ペイントミキサーSPM-4)の基端部を回転工具である電動インパクトドライバーに接続させた撹拌機を用い、開口から撹拌羽をシリンダカートリッジに挿し入れて1分間掻き回して撹拌し、凝集した定着剤をシリンダカートリッジ内で分散させて実施例の硬化性ペーストを調製した。実施例1の硬化性ペーストを型枠に流し入れ、JIS A1108(2006)に準拠して実施例1の硬化体を作製した。この硬化体について同規格に準拠して圧縮強度試験を行い、養生1日後、及び7日後の圧縮強度(N/mm2)を測定した。その結果、なお、すべての養生条件を20℃、相対湿度85%、とした。その結果を表1に示す。
一方、比較例試験1-2として、比較調製例1-2で得た定着剤含有カプセルを、比較調製例1-3で得た水に浸漬したこと以外は、実施例試験1-2と同様にして圧縮強度を測定した。
【0166】
(参考例1)並びに(参考例試験1-1:凝結による使用開始時間の計測試験)及び(参考例試験1-2:圧縮試験)
なお比較参考のため、実施例1の水硬性組成物硬化セットを用いて、同種の第二の凝結調整剤を溶解させた凝結調整剤水溶液に、水硬性組成物封入体を浸漬させたときの重量増加量から、水硬性組成物封入体へ吸収された第二の凝結調整剤を算出し、実施例1中、水硬性組成物中に、第一の凝結調整剤の用量に代えて、その第一の凝結調整剤の用量と共に吸収されるものとして算出された第二の凝結調整剤の用量との粉末を水硬性組成物に含有させたことと、凝結調整剤水溶液に代えて水を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、調製したものを参考例1とした。また、実施例試験1-1及び1-2と同様にして試験を行った。
それらの結果をまとめて表1に示す。
【0167】
【0168】
一般的には、水硬性組成物中の凝結調整剤の量が増えるほど、水を加えたときに、使用可能時間・凝結時間が遅延するが、圧縮強度が低下する。しかし、表1から明らかな通り、実施例1及び比較例1との対比から明らかな通り、実施例1のように第一の凝結調整剤を含む水硬性組成物の封入体である定着剤含有カプセルを、第二の凝結調整剤が溶解した凝結調整剤水溶液に浸漬させて、定着剤含有カプセルに凝結調整剤水溶液を浸透させると、使用可能時間が2倍以上も遅延するだけでなく、圧縮強度が殆ど低下せず影響を与えない。また、実施例1と参考例1との対比から明らかな通り、使用可能時間は、実施例1の方が若干短いにも拘わらず、圧縮強度は高い傾向にあった。
【0169】
(実施例2及び比較例)並びに(実施例試験2及び比較例試験2:付着強度試験)
実施例試験2は、実施例1の水硬性組成物硬化セットを用いたものであり、比較例試験2は、イニシャルとも称するもので、実施例1の水硬性組成物硬化セットの水硬性組成物封入体を用いたが第二の凝結調整剤を溶解した凝結調整剤水溶液に代えて水を用いて実施例試験1-1及び1-2に準じて調製したものである。
試験方法は、何れも下記の方法で行い、試験条件を表2に示すものとする。
(1)コンクリート(縦1000×横1000×高さ300mm)を用い、表2の穿孔径および穿孔長で穿孔した。
(2)穿孔した孔内に、実施例1で調製し、実施例試験1-1~1-2で使用した硬化性ペースト(凝結調整剤水溶液として第二の凝結調整剤を3w/v%としたものとし、それに定着剤含有カプセルを5分間浸漬して調製したもの)を定着剤含有カプセルによって硬化性ペースト施工方法を施した時に、アンカー筋(呼び径がM16で、高温用合金鋼ボルト材:SNB7)を手挿入にて打設した。
(3)常温下で7日間養生して硬化させた。
(4)養生後、反力板を用いて拘束し、引抜試験装置により付着試験を行った。
【0170】
【0171】
なお、準備計算として、JCAA認証基準の付着応力度については、以下の通りである。
Τa(JCAA)=10√(σB/21)=10√(30.6/21)=12.1N/mm2
【0172】
付着強度試験の結果をまとめて、表3、及び
図6に示す。
【0173】
【0174】
表3から明らかな通り、実施例2のように施工すると、比較例2のように凝結調整剤を水硬性組成物のみに用いた場合と比較すると、付着強度が1割程度低下したが、それでもJCAA認証基準の12.1N/mm2以上であり、アンカーとして十分な強度を有していることが確認できた。
本発明の水硬性組成物硬化セット、及びそれを用いた硬化性ペースト施工方法は、既存のコンクリート製人工構造物のせん断耐力を高めたり、それに工作物を取り付けたりする際、アンカーボルトや鉄筋のようなアンカー素子を定着させるのに用いられる。