IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本信号株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-提示システム 図1
  • 特開-提示システム 図2
  • 特開-提示システム 図3
  • 特開-提示システム 図4
  • 特開-提示システム 図5
  • 特開-提示システム 図6
  • 特開-提示システム 図7
  • 特開-提示システム 図8
  • 特開-提示システム 図9
  • 特開-提示システム 図10
  • 特開-提示システム 図11
  • 特開-提示システム 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012896
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】提示システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/02 20100101AFI20250117BHJP
【FI】
G01S5/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116070
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神山 一貴
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062AA08
5J062BB05
5J062CC18
5J062FF01
5J062FF04
5J062HH09
(57)【要約】
【課題】霧や砂煙等の悪条件下でもユーザの封鎖領域への接近状況を提示する。
【解決手段】加速度取得部211は、加速度センサ241から自端末の加速度の情報を取得する。回転角度取得部212は、ジャイロセンサ242から自端末の回転角度の情報を取得する。信号取得部213は、受信部が受信した無線電波の信号を取得する。方角特定部214は、信号取得部213が取得した信号に基づいて、推定装置1に対する移動端末2の方角を特定する。判断部215は、加速度、回転角度、及び方角の情報に基づいて、移動端末2を所持するユーザUの封鎖領域Rへの接近状況を把握し、ユーザUが危険であるか否かを判断する。提示制御部216は、接近状況に応じて、ユーザUが危険である、と判断部215が判断した場合に、提示部25を制御してユーザUに危険である旨を警告する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
封鎖領域を有する場に存在する推定装置、前記場を移動するユーザが所持する移動端末、及び提示装置を有し、
前記推定装置が前記移動端末と無線電波を送受信することにより、該移動端末のユーザ情報を生成し、
前記移動端末が、前記ユーザ情報を受信し、前記ユーザ情報に基づいて、前記ユーザの前記封鎖領域への接近状況を前記提示装置に提示させる提示システム。
【請求項2】
前記移動端末、又は前記提示装置が、前記接近状況に応じて前記ユーザが危険であると判断した場合に、該ユーザに警告する
請求項1に記載の提示システム。
【請求項3】
前記移動端末が、前記提示装置を備える
請求項1に記載の提示システム。
【請求項4】
前記ユーザ情報は、前記ユーザの位置、移動方向、及び視野の情報を含む
請求項1に記載の提示システム。
【請求項5】
前記移動端末が、自端末を識別する識別情報を前記無線電波に乗せて送信し、
前記推定装置が、受信した前記無線電波に含まれる前記識別情報が示す前記移動端末に向けて前記ユーザ情報を送信する
請求項1に記載の提示システム。
【請求項6】
前記移動端末、及び前記推定装置の一方が、前記無線電波を送信し、
他方が、前記無線電波を受信する、所定間隔で配列された複数の受信機を有し、該複数の受信機によりそれぞれ受信した前記無線電波の位相差又は強度差により前記ユーザの位置を推定して、該位置の情報を含む前記ユーザ情報を生成する
請求項4に記載の提示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封鎖領域へのユーザの接近状況を提示する提示システムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
土木工事現場等の作業場では、安全のために作業員等のユーザが接近しないように封鎖される領域(以下、封鎖領域という)が設けられることがある。封鎖領域が設けられた作業場では、ユーザが封鎖領域へ接近する状況(以下、接近状況ともいう)に応じて警告等の提示をする提示システムがあることが望ましい。例えば以下の特許文献1-2は、ユーザの位置(方向、距離)を監視して監視結果に応じて制御をするための技術である。
【0003】
特許文献1は、ユーザの頭部に装着され、ユーザが視認する形態のディスプレイと、そのユーザからの操作内容を受け付ける操作内容受付部とを備え、ディスプレイには、レーザ光を用いた位置測定装置による測位用のターゲットの測位情報と、予め定められたターゲットの設置予定位置との位置関係が画像表示され、画像表示の座標系として、複数が用意され、操作内容受付部は、ユーザによる複数の座標系の中の一つの指定を受け付ける構成を有する眼鏡型表示装置を開示している。
【0004】
特許文献2は、第1の位置システムを使用して行われる第1の位置推定に基づいて、モバイルデバイスの位置を決定する方法であって、第1の位置推定よりも粗い第2の位置推定に基づいて、モバイルデバイスの位置の最初の推定値を取得するステップと、モバイルデバイスの位置の定義された近傍内にある第1のネットワークの無線基準ノードのサブセットを選択するために最初の推定値を使用するステップと、モバイルデバイスの位置特定モジュールがモバイルデバイスの位置のより細かい推定値を計算するために、第1の位置システムのサーバ上に保存された、無線基準ノードの各々についてのそれぞれの補助データのデータベースの中から、無線基準ノードのサブセットの各々についてのそれぞれの補助データを、モバイルデバイス上の位置特定モジュールに選択的に提供するステップと、を含む方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-169855号公報
【特許文献2】特表2018-512571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術はレーザ光を用いてユーザの頭部を測位するが、このような光学検知方式は、霧や砂煙等によって検知精度が大きく影響される。
特許文献2に記載の技術は個人の位置を特定する際のプライバシーに配慮して代替的な粗い測位システムを使用するが、封鎖領域をユーザの視野が捉えているか、封鎖領域に対してユーザの移動方向・速度は所定範囲内であるか等、ユーザの封鎖領域への接近状況を監視することがないため、ユーザを保護することができない。
【0007】
本発明の目的の一つは、霧や砂煙等の悪条件下でもユーザの封鎖領域への接近状況を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、封鎖領域を有する場に存在する推定装置、前記場を移動するユーザが所持する移動端末、及び提示装置を有し、前記推定装置が前記移動端末と無線電波を送受信することにより、該移動端末のユーザ情報を生成し、前記移動端末が、前記ユーザ情報を受信し、前記ユーザ情報に基づいて、前記ユーザの前記封鎖領域への接近状況を前記提示装置に提示させる提示システム、を第1の態様として提供する。
【0009】
第1の態様の提示システムによれば、霧や砂煙等の悪条件下でもユーザの封鎖領域への接近状況を提示することができる。
【0010】
第1の態様の提示システムにおいて、前記移動端末、又は前記提示装置が、前記接近状況に応じて前記ユーザが危険であると判断した場合に、該ユーザに警告する、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
【0011】
第2の態様の提示システムによれば、ユーザが危険であると判断した場合にそのユーザに向けて警告することができる。
【0012】
第1の態様の提示システムにおいて、前記移動端末が、前記提示装置を備える、という構成が第3の態様として採用されてもよい。
【0013】
第3の態様の提示システムによれば、ユーザが所持する移動端末に備えられた提示装置で直接、そのユーザに封鎖領域への接近状況を提示することができる。
【0014】
第1の態様の提示システムにおいて、前記ユーザ情報は、前記ユーザの位置、移動方向、及び視野の情報を含む、という構成が第4の態様として採用されてもよい。
【0015】
第4の態様の提示システムによれば、ユーザの位置、移動方向、及び視野に基づいて、ユーザの封鎖領域への接近状況を提示することができる。
【0016】
第1の態様の提示システムにおいて、前記移動端末が、自端末を識別する識別情報を前記無線電波に乗せて送信し、前記推定装置が、受信した前記無線電波に含まれる前記識別情報が示す前記移動端末に向けて前記ユーザ情報を送信する、という構成が第5の態様として採用されてもよい。
【0017】
第5の態様の提示システムによれば、複数のユーザのそれぞれについて、封鎖領域への接近を個別に提示することができる。
【0018】
第4の態様の提示システムにおいて、前記移動端末、及び前記推定装置の一方が、前記無線電波を送信し、他方が、前記無線電波を受信する、所定間隔で配列された複数の受信機を有し、該複数の受信機によりそれぞれ受信した前記無線電波の位相差又は強度差により前記ユーザの位置を推定して、該位置の情報を含む前記ユーザ情報を生成する、という構成が第6の態様として採用されてもよい。
【0019】
第6の態様の提示システムによれば、複数の受信機によりユーザの位置を推定してユーザ情報を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る提示システム9の全体構成の例を示す図。
図2】移動端末2の外観の例を示す図。
図3】移動端末2の構成の例を示す図。
図4】推定装置1の構成の例を示す図。
図5】受信部132が受信した無線電波の受信角度の例を示す図。
図6】送信部131が送信した無線電波の送信角度の例を示す図。
図7】移動端末2が特定するユーザの視野の例を示す図。
図8】推定装置1の機能的構成の例を示す図。
図9】移動端末2の機能的構成の例を示す図。
図10】推定装置1の動作の流れの例を示すフロー図。
図11】移動端末2の動作の流れの例を示すフロー図。
図12】変形例における提示装置3の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態>
<提示システムの全体構成>
以下に示す図において、各構成が配置される空間をxyz右手系座標空間として表す。また、図に示す座標記号のうち、円の中に点を描いた記号は、紙面奥側から手前側に向かう矢印を表す。空間においてx軸に沿う方向をx軸方向という。また、x軸方向のうち、x成分が増加する方向を+x方向といい、x成分が減少する方向を-x方向という。y、z成分についても、上記の定義に沿ってy軸方向、+y方向、-y方向、z軸方向、+z方向、-z方向が定義される。以下の図において、-z方向は重力が作用する方向、すなわち鉛直下方向である。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る提示システム9の全体構成の例を示す図である。この提示システム9は、工事現場等の場Gを移動するユーザUが封鎖領域Rへ接近する状況(接近状況)を提示するシステムである。場Gは、xy平面に平行な地表面上の所定の領域である。
【0023】
図1に示す提示システム9は、推定装置1、及び移動端末2を有する。図1の推定装置1は、封鎖領域Rに設置されている。なお、推定装置1は、封鎖領域Rの位置を特定していれば、封鎖領域Rに設置されていなくてもよい。移動端末2は、複数のユーザUのそれぞれが所持する端末装置である。
【0024】
<移動端末の外観>
図2は、移動端末2の外観の例を示す図である。図2に示す移動端末2は、ユーザUが頭部に装着する眼鏡型のウェアラブルデバイスである。この移動端末2は、例えば、レンズ201、リム202、ブリッジ203、及びテンプル204等で構成され、テンプル204の内部に後述する各種の構成部品を保持する。
【0025】
例えば、レンズ201は、ユーザUの両目の前にそれぞれ配置されて可視光を透過する透明部材である。リム202は、左右2つのレンズ201をそれぞれ固定する支持部材である。ブリッジ203は、左右2つのリム202を中央で繋ぐ支持部材であり、ユーザUの鼻に掛けられる。テンプル204は、ユーザUの左右の耳にそれぞれ掛けられて移動端末2の全体を支持する支持部材である。
【0026】
<移動端末の構成>
図3は、移動端末2の構成の例を示す図である。図3に示す通り、移動端末2は、例えば上述したテンプル204の内部に構成部品として、プロセッサ21、メモリ22、コントローラ23、センサ24、及び提示部25を有する。また、この移動端末2は、コントローラ23によって制御される送信部231、及び受信部232を有する。また、この移動端末2のセンサ24は、加速度センサ241、及びジャイロセンサ242を有する。
【0027】
メモリ22は、プロセッサ21に読み込まれるオペレーティングシステム、各種のプログラム、データ等を記憶する記憶手段である。メモリ22は、RAM(Random Access Memory)、又はROM(Read Only Memory)を有する。なお、メモリ22は、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブ等を有してもよい。
【0028】
プロセッサ21は、メモリ22に記憶されているコンピュータプログラム(以下、単にプログラムという)を読出して実行することにより移動端末2の各部を制御する。プロセッサ21は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。
【0029】
コントローラ23は、送信部231、及び受信部232をそれぞれ制御する制御装置である。送信部231は無線電波を送信する通信回路である。受信部232は無線電波を受信する通信回路である。なお、送信部231、及び受信部232は、電波を送受信するアンテナ部分を共有する構成でもよい。また、移動端末2は、送信部231、及び受信部232の少なくともいずれかを複数個、備えてもよい。
【0030】
センサ24は、移動端末2の運動状態(移動方向、移動速度、姿勢等)を感知するデバイス群である。加速度センサ241は、移動端末2の加速度を感知する。加速度センサ241は、圧電型、サーボ型、ひずみゲージ式、半導体式等が採用され得る。例えば、プロセッサ21は、加速度センサ241が感知した加速度を積分することにより移動端末2の移動距離、及び移動方向を計測する。
【0031】
ジャイロセンサ242は、移動端末2の角速度を感知する。このジャイロセンサ242は、圧電方式、静電容量方式等を利用する振動方式のセンサであってもよいし、光学式、機械方式のセンサであってもよい。プロセッサ21は、ジャイロセンサ242が感知した角速度を積分することにより移動端末2の姿勢、向きを計測する。例えば、上述したレンズ201、ブリッジ203等の向きを予めメモリ22に記憶しておくことで、プロセッサ21は、ジャイロセンサ242の感知結果を使って、移動端末2を着用しているユーザUの視野の情報を生成することができる。
【0032】
提示部25は、プロセッサ21の制御の下、移動端末2を着用しているユーザUに画像を表示する。提示部25は、例えば、上述したレンズ201に画像を投影する液晶プロジェクタを有してもよいし、ユーザUの網膜に直接、レーザ光を投影して画像を見せる投影機を有してもよい。提示部25は、ユーザUがレンズ201を通して実際に見ている視野を遮らずに、その視野の景色に重畳して透過画像を表示することが望ましい。
【0033】
なお、図3に示す提示部25は、移動端末2に含まれる構成であるが、移動端末2のプロセッサ21による制御下で情報を提示する提示装置である。すなわち、この移動端末2は、提示装置を備える移動端末の例である。
【0034】
そして、提示部25を備える移動端末2と、推定装置1とを有するこの提示システム9は、封鎖領域を有する場に存在する推定装置、場を移動するユーザが所持する移動端末、及び提示装置を有する提示システムの例である。
【0035】
<推定装置の構成>
図4は、推定装置1の構成の例を示す図である。推定装置1は、移動端末2を着用(所持)しているユーザUの封鎖領域Rへの接近状況を推定する装置である。図4に示す推定装置1は、プロセッサ11、メモリ12、及びコントローラ13を有する。また、この推定装置1は、コントローラ13によって制御される送信部131、及び受信部132を有する。
【0036】
メモリ12は、プロセッサ11に読み込まれるオペレーティングシステム、各種のプログラム、データ等を記憶する記憶手段である。メモリ12は、RAM、又はROMを有する。なお、メモリ12は、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブ等を有してもよい。
【0037】
プロセッサ11は、メモリ12に記憶されているプログラムを読出して実行することにより推定装置1の各部を制御する。プロセッサ11は、例えばCPUである。
【0038】
コントローラ13は、送信部131、及び受信部132をそれぞれ制御する制御装置である。送信部131は無線電波を送信する通信回路である。受信部132は無線電波を受信する通信回路である。なお、送信部131、及び受信部132は、電波を送受信するアンテナ部分を共有する構成でもよい。また、推定装置1は、送信部131、及び受信部132の少なくともいずれかを複数個、備えてもよい。
【0039】
送信部131は、移動端末2の受信部232に無線電波を送信する。また、受信部132は、移動端末2の送信部231が送信した無線電波を受信する。送信部131、及び受信部132は、例えばBluetooth(登録商標)等のIEEE802.15に準拠した方式で移動端末2の送信部231、又は受信部232と互いに接続する機能を有していてもよい。また、送信部131、及び受信部132は、例えばLPWA(Low Power Wide Area)を用いた回線であってもよい。
【0040】
<無線電波の受信角度>
図5は、受信部132が受信した無線電波の受信角度の例を示す図である。推定装置1は、図5に示す通り、例えば所定間隔で配列された複数の受信部132を有する。すなわち、複数の受信部132は、いわゆるアレイアンテナである。なお、所定間隔とは、全て一定の間隔であってもよいが、既知であればそれぞれが異なっていてもよい。これら複数の受信部132は、移動端末2の送信部231が送信した無線電波をそれぞれの位置で受信する。この無線電波は、送信部231により予め決められた位相で送信される。なお、この無線電波は、正弦波信号、チャープ信号、パルス信号等である。
【0041】
推定装置1のプロセッサ11は、例えば、複数の受信部132がそれぞれ受信した無線電波の位相差に基づいて、この無線電波の受信角度θa(到来角度、入射角度ともいう)を推定する。この受信角度θaを推定する方式は、AoA(Angle Of Arrival)方式と呼ばれる。
【0042】
例えば、図5に示す複数の受信部132は、x軸方向に沿って等間隔に配置されている。例えば、+x方向は東方向である。そして、これら複数の受信部132の全てに対して十分に遠い位置に移動端末2が存在している場合、この移動端末2の送信部231が発する無線電波は、このx軸方向に対してほぼ一定の受信角度θaで受信部132のそれぞれに受信される。複数の受信部132はそれぞれ配置が異なるため、受信した無線電波には位相差が生じる。そこで、プロセッサ11は、この位相差と、予め決められた無線電波の周波数と、受信部132の間隔とに基づいて、受信角度θaを算出する。
【0043】
そして、プロセッサ11は、算出した受信角度θaに基づいて、推定装置1に対する移動端末2の方角を移動端末2のユーザに関する情報(以下、ユーザ情報という)として推定する。なお、プロセッサ11は、複数の受信部132のそれぞれが受信した無線電波の強度差に基づいて受信角度θaを算出してもよい。また、プロセッサ11は、受信した無線電波の強度差に基づいて推定装置1から移動端末2までの距離を推定してもよい。プロセッサ11は、推定した方角、及び距離の情報を、移動端末2のユーザ情報として生成する。
【0044】
<無線電波の送信角度>
図6は、送信部131が送信した無線電波の送信角度の例を示す図である。推定装置1は、図6に示す通り、例えばx軸に沿って所定間隔で配列された複数の送信部131を有する。なお、所定間隔とは、全て一定の間隔であってもよいが、既知であればそれぞれが異なっていてもよい。これら複数の送信部131は、それぞれの位置から予め決められた位相で無線電波を送信する。この無線電波は、正弦波信号、チャープ信号、パルス信号等である。
【0045】
移動端末2の受信部232は、これら複数の送信部131がそれぞれ送信した無線電波を受信する。そして、移動端末2のプロセッサ21は、例えば、受信したこれらの無線電波の位相差に基づいて、この無線電波の送信角度θd(放射角度、発信角度ともいう)を算出する。この送信角度θdを推定する方式は、AoD(Angle of Departure)方式と呼ばれる。プロセッサ21は、算出した送信角度θdに基づいて、推定装置1に対する移動端末2の方角を特定する。なお、プロセッサ21は、受信部232が受信した無線電波の強度差に基づいて送信角度θdを算出してもよい。また、プロセッサ21は、受信した無線電波の強度差に基づいて推定装置1から移動端末2までの距離を算出してもよい。
【0046】
移動端末2のプロセッサ21は、上述した動作により算出した推定装置1に対する移動端末2の方角、及び距離の情報をASK(Amplitude Shift Keying)、FSK(Frequency Shift Keying)、PSK(Phase Shift Keying)等の各種の変調方式を用いて信号にし、コントローラ23を用いて送信部231に供給する。送信部231は、これらの信号化された情報を無線電波に乗せて推定装置1へ向けて送信する。この無線電波を受信部132によって受信した推定装置1のプロセッサ11は、この無線電波からプロセッサ21において推定された上述の方角、及び距離の情報を抽出し、これに基づいて推定装置1から移動端末2までの方角、及び距離を推定する。プロセッサ11は、推定した方角、及び距離の情報を、移動端末2のユーザ情報として生成する。
【0047】
なお、上述した例において、推定装置1は、複数の送信部131、又は複数の受信部132を有し、これらが構成するアレイアンテナにより、AoA方式、又はAoD方式で自装置に対する移動端末2の方角を推定していたが、移動端末2が送信部231、及び受信部232のいずれかを複数備えてアレイアンテナを構成し、推定装置1に対する自端末の方角を推定してもよい。
【0048】
つまり、上述した提示システム9は、移動端末、及び推定装置の一方が、無線電波を送信し、他方が、無線電波を受信する、所定間隔で配列された複数の受信機を有し、これら複数の受信機によりそれぞれ受信した無線電波の位相差又は強度差によりユーザの位置を推定して、その位置の情報を含むユーザ情報を生成する提示システムの例である。
【0049】
<ユーザの視野>
図7は、移動端末2が特定するユーザの視野の例を示す図である。移動端末2は、上述したセンサ24により自端末の姿勢(例えば、自端末を着用しているユーザの視線の向き)と、移動方向、移動速度等の運動情報とを感知する。例えば、移動端末2のプロセッサ21は、上述したAoD等によって算出した推定装置1に対する移動端末2の方角、及び距離の情報とともに、その時点で感知された自端末の視線方向θs、移動方向a、移動速度等の情報を各種の変調方式を用いて信号にし、コントローラ23を用いて送信部231に供給する。送信部231は、これらの信号化された情報を無線電波に乗せて推定装置1へ向けて送信する。
【0050】
この無線電波を受信した推定装置1のプロセッサ11は、上述の方角、距離、視線方向、移動方向、移動速度等の情報を抽出する。プロセッサ11は、予め移動端末2における視線方向θsを中心としたユーザの視野角θrをメモリ12に記憶している。したがって、プロセッサ11は、抽出した情報と、視野角θrの情報とに基づいて推定装置1から見た移動端末2、すなわち、これを着用するユーザUの位置、移動方向、及び視野の情報をユーザ情報として生成する。
【0051】
なお、視野角θrは固定値であってもよいが、変動する値であってもよい。例えば、センサ24がユーザUの眼球の動きを感知するセンサを有している場合、視野角θrは、このセンサによって観測されたユーザUの眼球の動きに応じて決められてもよい。また、視野角θrは、感知された移動端末2の移動速度、移動加速度に応じて変化してもよい。
【0052】
つまり、上述した推定装置1は、移動端末と無線電波を送受信することにより、この移動端末のユーザ情報を生成する推定装置の例である。そして、上述した移動端末2のユーザ情報は、ユーザの位置、移動方向、及び視野の情報を含むユーザ情報の例である。
【0053】
また、図7に示す例において、視線方向θsと、移動方向aとは異なっているが、これはユーザUが必ずしも正面を見ながら正面に向かって移動するとは限らないからである。つまり、ユーザUが正面を見ながら正面に向かって移動している場合には、視線方向θsと、移動方向aとは一致する。
【0054】
プロセッサ11が生成したユーザ情報は信号化され、コントローラ13を介して送信部131から無線電波に乗せて送信される。移動端末2のプロセッサ21は、ユーザ情報を含んだ無線電波を受信し、これに基づいてユーザUの封鎖領域Rへの接近状況を特定する。そして、プロセッサ21は、特定した接近状況を提示部25により提示させる。すなわち、この移動端末2は、ユーザ情報を受信し、このユーザ情報に基づいて、ユーザの封鎖領域への接近状況を提示装置に提示させる移動端末の例である。
【0055】
<推定装置の機能的構成>
図8は、推定装置1の機能的構成の例を示す図である。図8に示す推定装置1のプロセッサ11は、メモリ12から読み込んだプログラムを実行することにより、取得部111、角度推定部112、距離推定部113、移動方向推定部114、視野推定部115、ユーザ情報生成部116、及び送信制御部117として機能する。
【0056】
取得部111は、コントローラ13を経由して、図4に示した受信部132が受信した無線電波の情報を取得する。角度推定部112は、上述した無線電波を発した移動端末2の自装置(推定装置1)に対する角度(方角)を推定する。距離推定部113は、上述した無線電波を発した移動端末2から自装置(推定装置1)までの距離を推定する。
【0057】
移動方向推定部114は、移動端末2の移動方向を推定する。視野推定部115は、移動端末2を所持(着用)しているユーザUの視野を推定する。
【0058】
ユーザ情報生成部116は、角度推定部112、距離推定部113、移動方向推定部114、及び視野推定部115がそれぞれ推定した角度、距離、移動方向、視野の情報に基づいて、移動端末2を所持するユーザUに関する情報である「ユーザ情報」を生成する。
【0059】
送信制御部117は、生成したユーザ情報を図4に示す送信部131から送信するようにコントローラ13に指示する。これにより、ユーザ情報は各種の変調方式によって無線電波に担持され送信部131から送信される。
【0060】
<移動端末の機能的構成>
図9は、移動端末2の機能的構成の例を示す図である。図9に示す移動端末2のプロセッサ21は、メモリ22から読み込んだプログラムを実行することにより、加速度取得部211、回転角度取得部212、信号取得部213、方角特定部214、判断部215、提示制御部216、及び送信制御部217として機能する。
【0061】
加速度取得部211は、センサ24が有する加速度センサ241から自端末の加速度の情報を取得する。回転角度取得部212は、センサ24が有するジャイロセンサ242から自端末の回転角度の情報を取得する。
【0062】
信号取得部213は、コントローラ23を経由して、図3に示した受信部232が受信した無線電波の信号を取得する。方角特定部214は、信号取得部213が取得した信号に基づいて、上述したAoA方式、又はAoD方式で推定された、推定装置1に対する移動端末2の方角を特定する。
【0063】
判断部215は、加速度取得部211、回転角度取得部212、及び方角特定部214から、それぞれ加速度、回転角度、及び方角の情報を取得する。そして、判断部215は、これらの情報に基づいて、移動端末2を所持するユーザUの封鎖領域Rへの接近状況を把握し、ユーザUが危険であるか否かを判断する。また、判断部215は、取得した加速度、及び回転角度の情報を送信制御部217に供給する。なお、判断部215は、方角特定部214が特定した方角の情報を送信制御部217に供給してもよい。
【0064】
提示制御部216は、上述した接近状況に応じて、ユーザUが危険である、と判断部215が判断した場合に、提示部25を制御してユーザUに危険である旨を警告する。
【0065】
すなわち、この提示制御部216として機能するプロセッサ21を有する移動端末2を含む提示システム9は、移動端末が、場を移動するユーザの封鎖領域への接近状況に応じてユーザが危険であると判断した場合に、そのユーザに警告する提示システム、の例である。
【0066】
送信制御部217は、判断部215から供給された加速度、及び回転角度の情報を送信部231(図3参照)から送信するようにコントローラ23に指示する。これにより、加速度、回転角度、及び方角の情報は各種の変調方式によって無線電波に担持され送信部231から送信される。なお、送信制御部217は、方角の情報を取得して、これを送信するようにコントローラ23に指示してもよい。
【0067】
<推定装置の動作>
図10は、推定装置1の動作の流れの例を示すフロー図である。推定装置1のプロセッサ11は、移動端末2から無線電波を受信したか否かを判断し(ステップS101)、無線電波を受信していない(ステップS101;NO)、と判断する間、このステップを続ける。一方、プロセッサ11は、移動端末2から無線電波を受信したと判断すると(ステップS101;YES)、複数の受信部132がそれぞれ受信した無線電波の位相差に基づいて、この無線電波の受信角度θaを推定する(ステップS102)。なお、プロセッサ11は、複数の受信部132がそれぞれ受信した無線電波の強度差に基づいて、この無線電波の受信角度θaを推定してもよい。
【0068】
また、プロセッサ11は、受信した無線電波の位相差又は強度差に基づいて、この無線電波を送信した移動端末2から推定装置1までの距離を推定する(ステップS103)。
【0069】
そして、プロセッサ11は、推定結果を示す情報を各種の変調方式を用いて符号化し、コントローラ13によって無線電波に重畳させて、送信部131から移動端末2へ送信し(ステップS104)、処理を終了する。なお、プロセッサ11は、ステップS104の後に処理をステップS101に戻してもよい。
【0070】
<移動端末の動作>
図11は、移動端末2の動作の流れの例を示すフロー図である。移動端末2のプロセッサ21は、推定装置1から無線電波を受信したか否かを判断し(ステップS201)、無線電波を受信していない(ステップS201;NO)、と判断する間、このステップを続ける。一方、プロセッサ21は、推定装置1から無線電波を受信したと判断すると(ステップS201;YES)、センサ24の加速度センサ241が感知した加速度の情報を取得する(ステップS202)。また、プロセッサ21は、センサ24のジャイロセンサ242が感知した回転角度の情報を取得する(ステップS203)。
【0071】
そして、プロセッサ21は、複数の受信部232がそれぞれ受信した無線電波の位相差、又は強度差に基づいて、この無線電波の送信角度θdを特定する(ステップS204)。なお、プロセッサ21は、推定装置1から受信した無線電波に重畳された情報に基づいて、送信角度θdを特定してもよい。例えば、推定装置1が上述した受信角度θaの情報を無線電波に重畳して移動端末2へ送信している場合、プロセッサ21は、この情報を抽出してこれを送信角度θdとして特定してもよい。
【0072】
上述した処理により、プロセッサ21は、自端末の移動方向、移動距離、移動速度・加速度、及び姿勢(すなわち、自端末を着用しているユーザUの視線方向・視野)を特定する。また、プロセッサ21は、推定装置1に対する自端末の位置を特定する。封鎖領域Rと推定装置1との位置関係は、予めメモリ22に記憶されている。したがって、プロセッサ21は、これらの情報に基づいて、自端末を着用しているユーザUが封鎖領域Rに接近しているか否かを判断する(ステップS205)。ユーザUが封鎖領域Rに接近していない、と判断する場合(ステップS205;NO)、プロセッサ21は、処理を終了する。
【0073】
一方、ユーザUが封鎖領域Rに接近している、と判断する場合(ステップS205;YES)、プロセッサ21は、封鎖領域RがユーザUの視野内にあるか否かを判断する(ステップS206)。封鎖領域RがユーザUの視野内にある、と判断する場合(ステップS206;YES)、プロセッサ21は、ユーザUが封鎖領域Rに接近中である旨の表示をして(ステップS207)、処理を終了する。この場合、封鎖領域Rが視野に入っているためユーザUは危険ではないと判断されるが、接近中であることを知らせることでユーザUの不注意による事故を防止することができる。
【0074】
一方、封鎖領域RがユーザUの視野内にない、と判断する場合(ステップS206;NO)、プロセッサ21は、提示部25に指示をしてユーザUが危険である旨をこのユーザU自身に向けて警告し(ステップS208)、処理を終了する。
【0075】
以上に示した通り、この提示システム9は、ユーザUがそれぞれ着用している移動端末2と推定装置1とが無線電波を送受信することで、ユーザUの封鎖領域Rへの接近状況を把握するため、霧や砂煙等の光学的な悪条件がある場合でも、ユーザUに向けて接近状況を提示することができる。
【0076】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさ及び配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。したがって、本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【0077】
<変形例>
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例は組み合わされてもよい。
【0078】
<1>
上述した実施形態において、提示部25は、移動端末2に含まれる構成であったが、移動端末2は、提示部25を有しなくてもよい。この場合、提示システム9は、移動端末2の提示部25に代えて、移動端末2と別体の提示装置3を有してもよい。図12は、変形例における提示装置3の例を示す図である。移動端末2は、提示部25に代えてインタフェース25aを有する。このインタフェース25aは、ユーザUが所持する提示装置3と無線又は有線により通信可能に接続する通信回路である。
【0079】
提示装置3は、液晶ディスプレイ等の表示画面、スピーカ等の放音デバイスを有する装置であり、例えば、タブレットPC、スマートフォン等である。ユーザUが着用する移動端末2のプロセッサ21は、インタフェース25aを経由して提示装置3に指示を出し、ユーザUの封鎖領域Rへの接近状況を提示すればよい。
【0080】
<2>
上述した実施形態において、移動端末2のプロセッサ21は、接近状況に応じて、ユーザUが危険であるか否かを判断する判断部215として機能していたが、この判断はプロセッサ21と異なる構成によって行われてもよい。例えば、上述した変形例において提示装置3のプロセッサ(図示せず)が行ってもよい。この場合、提示装置3のプロセッサは、インタフェース25aを経由してユーザUの封鎖領域Rへの接近状況の情報を取得し、これらの情報に基づいてユーザUが危険であるか否かを判断すればよい。そして、提示装置3のプロセッサは、ユーザUが危険である、と判断した場合にその接近状況を提示して警告すればよい。なお、提示装置3のプロセッサは、移動端末2が特定した接近状況の情報を取得してもよいが、接近状況の基となる情報を取得してもよい。ここでいう「接近状況の基となる情報」とは、例えば、座標系における推定装置1に対する移動端末2の位置、移動方向、移動距離、移動速度・加速度、及び移動端末2の姿勢等の情報である。
【0081】
すなわち、この提示システム9は、提示装置が、場を移動するユーザの封鎖領域への接近状況に応じてこのユーザが危険であると判断した場合に、このユーザに警告する提示システム、の例である。
【0082】
<3>
上述した実施形態において、複数の移動端末2は、それぞれ自端末を識別可能にする識別情報が割り当てられていてもよい。この場合、移動端末2のそれぞれは、自端末を識別する識別情報を無線電波に乗せて推定装置1に送信してもよい。そして、推定装置1は、受信した無線電波に含まれる識別情報を抽出すればよい。推定装置1は、受信した無線電波を、その無線電波の送信元である移動端末2ごとに区別する。そして、推定装置1は、それらの無線電波から抽出した識別情報を、移動端末2ごとに生成したユーザ情報に付加して符号化し、無線電波に重畳して送信すればよい。複数の移動端末2は、推定装置1が送信した無線電波に自端末を示す識別情報が含まれている場合に、その無線電波を自端末に向けたものとして利用すればよい。
【0083】
すなわち、この変形例における提示システム9は、移動端末が、自端末を識別する識別情報を無線電波に乗せて送信し、推定装置が、受信した無線電波に含まれる識別情報が示す移動端末に向けてユーザ情報を送信する提示システム、の例である。
【0084】
<4>
上述した実施形態において、推定装置1、及び移動端末2は、それぞれプロセッサとしてCPUを用いていたが、他のプロセッサを用いてもよい。他のプロセッサは、プログラマブル論理デバイス、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等であってもよいし、これらを含んだものであってもよい。
【符号の説明】
【0085】
1…推定装置、11…プロセッサ、111…取得部、112…角度推定部、113…距離推定部、114…移動方向推定部、115…視野推定部、116…ユーザ情報生成部、117…送信制御部、12…メモリ、13…コントローラ、131…送信部、132…受信部、2…移動端末、201…レンズ、202…リム、203…ブリッジ、204…テンプル、21…プロセッサ、211…加速度取得部、212…回転角度取得部、213…信号取得部、214…方角特定部、215…判断部、216…提示制御部、217…送信制御部、22…メモリ、23…コントローラ、231…送信部、232…受信部、24…センサ、241…加速度センサ、242…ジャイロセンサ、25…提示部、25a…インタフェース、3…提示装置、9…提示システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12