(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001294
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】作業用装置、及び施工足場組立解体方法
(51)【国際特許分類】
E01D 21/00 20060101AFI20241225BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
E01D21/00 A
E01D22/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100800
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】508036743
【氏名又は名称】株式会社横河ブリッジ
(71)【出願人】
【識別番号】000176202
【氏名又は名称】三信工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 隆史
(72)【発明者】
【氏名】西尾 誠二
(72)【発明者】
【氏名】行川 友和
(72)【発明者】
【氏名】金子 隆
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059DD12
2D059EE10
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、橋脚を通過するたびに実施していた作業用装置の組替作業が不要で、しかも橋脚の橋軸直角方向の一方向側にのみ下部梁を配置した状態で、橋脚の一方側にのみ下部梁を配置した状態で橋軸方向に移動することができる作業用装置と、これを用いて足場を解体する施工足場組立解体方法を提供することにある。
【解決手段】本願発明の作業用装置は、上部梁と下部梁、側部梁、床構造を備えたものである。このうち床構造は、中央床と左側床、右側床を含んで構成される。左側床と右側床は、略水平な姿勢で配置されるとともに、略水平軸周りに外側下方に回転することで折り畳まれる。そして、左側床と右側床が折り畳まれた状態で、下部梁が橋軸直角方向に移動する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の床版の上方であって橋軸直角方向に配置される上部梁と、
前記床版の下方であって橋軸直角方向に配置される下部梁と、
前記床版の外側であって上下方向に配置される側部梁と、
前記下部梁の上面に設けられ、中央床、左側床、及び右側床を含んで構成される床構造と、
前記側部梁の下方に設けられ、前記下部梁を移動させるスライド機構と、を備え、
前記側部梁の上端は、前記上部梁に固定され、
前記下部梁は、前記側部梁に支持された状態で、前記スライド機構によって橋軸直角方向に移動し、
前記上部梁の下面に取り付けられた走行体が前記床版の上を橋軸方向に走行することによって、該上部梁、前記下部梁、及び前記側部梁が橋軸方向に移動し、
前記左側床と前記右側床は、水平又は略水平な姿勢で配置されるとともに、水平又は略水平軸周りに外側下方に回転することで折り畳まれ、
前記左側床と前記右側床が折り畳まれた状態で、前記下部梁が橋軸直角方向に移動する、
ことを特徴とする作業用装置。
【請求項2】
前記側部梁に設けられ、前記下部梁を鉛直又は略鉛直軸周りに回転させる回転機構を、さらに備え、
橋軸直角方向に移動した前記下部梁が前記回転機構によって回転することで、該下部梁は前記床版の外側であって橋軸方向に配置される、
ことを特徴とする請求項1記載の作業用装置。
【請求項3】
前記床構造は、前記中央床と前記左側床に設置される手摺を有し、
前記手摺は、鉛直又は略鉛直な姿勢で配置されるとともに、水平又は略水平軸周りに内側下方に回転することで折り畳まれ、
前記手摺が折り畳まれた状態で、前記下部梁が橋軸直角方向に移動する、
ことを特徴とする請求項1記載の作業用装置。
【請求項4】
一端が前記下部梁に取り付けられ、他端が前記左側床に取り付けられる左伸縮手段と、
一端が前記下部梁に取り付けられ、他端が前記右側床に取り付けられる右伸縮手段と、をさらに備え、
前記左伸縮手段と前記右伸縮手段が伸長すると、前記左側床と前記右側床は水平又は略水平な姿勢で配置され、
前記左伸縮手段と前記右伸縮手段が収縮すると、前記左側床と前記右側床は折り畳まれる、
ことを特徴とする請求項1記載の作業用装置。
【請求項5】
橋梁を構築する際に設けられた施工足場を、請求項1記載の前記作業用装置を用いて組立、又は解体する方法であって、
前記上部梁が前記床版の上方となり、前記下部梁が該床版の下方となり、前記側部梁が該床版の外側となるように、前記作業用装置を設置する設置工程と、
前記走行体を走行させることよって、前記作業用装置を橋軸方向に移動する移設工程と、
移動後に前記作業用装置が配置された範囲内の前記施工足場を組み立て、又は解体する部分組立解体工程と、を備え、
前記部分組立解体工程で前記施工足場を組み立て、又は解体すると、再度、前記移設工程を行う、
ことを特徴とする施工足場組立解体方法。
【請求項6】
前記作業用装置は、前記側部梁に設けられ、前記下部梁を鉛直又は略鉛直軸周りに回転させる回転機構を、有し、
水平又は略水平な姿勢で配置された状態の前記左側床と前記右側床を、前記下部梁に接近するように折り畳む床部収納工程と、
前記左側床と前記右側床が折り畳まれた状態で、前記下部梁を橋軸直角方向に移動する下部梁スライド工程と、
橋軸直角方向に移動した前記下部梁を、前記回転機構によって回転させることで、該下部梁を前記床版の外側であって橋軸方向に配置する下部梁回転工程と、をさらに備え、
橋脚を通過するときの前記移設工程では、前記床部収納工程、前記下部梁スライド工程、及び前記下部梁回転工程を行ったうえで、前記作業用装置を橋軸方向に移動する、
ことを特徴とする請求項5記載の施工足場組立解体方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、足場の組立や解体など橋梁の建設工事に係る作業に関する技術であり、より具体的には、橋脚をかわしながら橋軸方向に移動することができる移動式の作業用装置と、これを用いて足場の組立や解体を行う施工足場組立解体方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁の建設工事は、橋台や橋脚などの下部工工事と、主に床版を構築する上部工工事に大別され、一般的には下部工工事の完成後に上部工工事が行われる。通常、上部工工事では足場(以下、本設用の足場のことを「施工足場」という。)が設置され、床版工、壁高欄工、塗装工などはこの施工足場を利用して施工される。そして橋梁の建設工事としてのいわば最終工程である床版工と壁高欄工が完了すると、それ以上は必要とされないため施工足場の解体が行われる。
【0003】
施工足場の解体作業は、作業者の墜落事故や工具等の落下といった危険が伴うことから難易度の高い作業とされていた。これまで、きめ細かい作業手順を定めたうえで作業を行ったり、高所作業車など安全な建設機械を導入したうえで作業を行ったりするなど、慎重な安全管理に取り組んできたものの、個人の勘違いや思い込み、あるいは未熟な経験などを原因とする墜落事故は完全に回避することができない。
【0004】
施工足場を解体するためには足場(以下、解体のための足場を「解体用足場」という。)が必要であり、単管足場や枠組足場といった従来の足場を設置することも考えられるが、渓谷に架設される橋梁など桁下高が大きいケースではその規模が巨大となり現実的ではない。また、床版上に配置されアームを床版の下側に延伸させることができる橋梁点検車の利用も考えられるが、この場合は作業効率が著しく低下するうえに、作業者の墜落や落下物を回避するという点においては安全性が十分とはいえない。
【0005】
従来の足場や高所作業車が利用できない場合、施工足場の解体作業において防護工を兼ねた解体用足場が設置されることがある。この解体用足場には施工足場の下方に配置される下部梁が設けられており、この下部梁が足場として機能するとともに、作業者の墜落や工具等の落下を防ぐわけである。この下部梁は、例えば床版上に載置された上部梁に吊り下げられるように支持することができる。
【0006】
通常、施工足場は概ね全スパンにわたって設置されることから、解体用足場を利用するケースではやはり概ね全スパンにわたってこの解体用足場を設置する必要がある。しかしながら、一度に全スパン分の解体用足場を設置するのは材料費(損料)や設置と解体にかかるコストが嵩むことから現実的ではない。そのため、橋軸方向に移動することができる解体用足場が利用されることがある。具体的には、走行体が設けられた上部梁が床版上を移動することによって、上部梁に吊り下げ支持された下部梁が橋軸方向に移動するわけである。
【0007】
橋梁の主桁は、その両端側に設置された橋台で支持され、スパン長によるものの多くの場合は
図13に示すようにスパン途中に設置された橋脚によって支持されている。そして、このようにスパン途中に橋脚がある橋梁において、上記した移動式の解体用足場を利用する場合、この橋脚が障壁となって解体用足場は橋軸方向に移動することができない。そこで特許文献1では、橋脚をかわしながら橋軸方向に移動することができる技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示される技術によれば、中央付近で分割される下部構造(左床面構造と右床面構造)の間に隙間を形成することができるため、橋脚をかわすことができる。具体的には、それぞれ外側下方に回転することによって左床面構造と右床面構造が分離され、これにより両者の間に隙間を形成することができるわけである。
【0010】
橋脚を通過するたびに解体用足場を解体して移動したうえで改めて組立作業を行うことを考えると、容易かつ迅速に橋脚を通過することができる特許文献1の発明は極めて有効な技術である。しかしながら、橋脚の両脇に左床面構造と右床面構造を配置した状態で移動するため、他の構造物が接近しているなどどちらかに空間的な制約があるようなケースでは、この発明を利用することができないこともある。
【0011】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、橋脚を通過するたびに実施していた作業用装置の組替作業が不要で、しかも橋脚の橋軸直角方向の一方向側にのみ下部梁を配置した状態で、橋脚の一方側にのみ下部梁を配置した状態で橋軸方向に移動することができる作業用装置と、これを用いて足場の組立や解体を行う施工足場組立解体方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、床構造を有する下部梁が橋軸直角方向に移動する構造とし、その際に下部梁の断面サイズをコンパクトにすべく床面を折り畳む、という点に着目してなされたものであり、従来にはない発想に基づいて行われた発明である。
【0013】
本願発明の作業用装置は、上部梁と下部梁、側部梁、床構造を備えたものである。このうち上部梁は橋梁の床版の上方であって橋軸直角方向に配置され、下部梁は床版の下方であって橋軸直角方向に配置され、側部梁は床版の外側であって上下方向に配置される。下部梁の上面に設けられる床構造は、中央床と左側床、右側床を含んで構成され、側部梁の下方に設けられるスライド機構は、下部梁を橋軸直角方向に移動させる。なお、側部梁の上端は、上部梁に固定される。また下部梁は、側部梁に支持された状態で、スライド機構によって橋軸直角方向に移動する。上部梁の下面に取り付けられた走行体が床版の上を橋軸方向に走行することによって、上部梁と下部梁、側部梁が橋軸方向に移動する。左側床と右側床は、略水平(水平を含む。)な姿勢で配置されるとともに、略水平(水平を含む。)軸周りに外側下方に回転することで折り畳まれる。そして、左側床と右側床が折り畳まれた状態で、下部梁が橋軸直角方向に移動する。
【0014】
本願発明の作業用装置は、回転機構をさらに備えたものとすることもできる。側部梁に設けられる回転機構は、下部梁を略鉛直(鉛直を含む)軸周りに回転させるものである。この場合、橋軸直角方向に移動した下部梁が回転機構によって回転することで、下部梁は床版の外側であって橋軸方向に配置される。
【0015】
本願発明の作業用装置は、中央床と左側床に手摺が設置されるものとすることもできる。 この手摺は、略鉛直(鉛直を含む)な姿勢で配置されるとともに、略水平(水平を含む。)軸周りに内側下方に回転することで折り畳まれる。この場合、手摺が折り畳まれ、さらに左側床と右側床が折り畳まれた状態で、下部梁が橋軸直角方向に移動する。
【0016】
本願発明の作業用装置は、左伸縮手段と右伸縮手段をさらに備えたものとすることもできる。左伸縮手段は、その一端が下部梁に取り付けられるとともに、他端が左側床に取り付けられ、右伸縮手段は、その一端が下部梁に取り付けられるとともに、他端が右側床に取り付けられる。この場合、左伸縮手段と右伸縮手段が伸長すると、左側床と右側床は水略水平(水平を含む。)な姿勢で配置され、左伸縮手段と右伸縮手段が収縮すると、左側床と右側床は折り畳まれる。
【0017】
本願発明の施工足場組立解体方法は、本願発明の作業用装置を用いて施工足場(橋梁を構築する際に設けられた足場)を組み立て、あるいは解体する方法であって、設置工程と移設工程、部分組立解体工程を備えた方法である。このうち設置工程では、上部梁が床版の上方となり、下部梁が床版の下方となり、側部梁が床版の外側となるように、作業用装置を設置する。また移設工程では、走行体を走行させることよって作業用装置を橋軸方向に移動し、部分組立解体工程では移動後に作業用装置が配置された範囲内の施工足場を組み立て、あるいは解体する。そして、部分組立解体工程で施工足場を組み立て、あるいは解体すると、再度、移設工程を行う。
【0018】
本願発明の施工足場組立解体方法は、床部収納工程と下部梁スライド工程、下部梁回転工程をさらに備えた方法とすることもできる。この床部収納工程では、略水平(水平を含む。)な姿勢で配置された状態の左側床と右側床を、下部梁に接近するように折り畳む。また下部梁スライド工程では、左側床と右側床が折り畳まれた状態で下部梁を橋軸直角方向に移動し、下部梁回転工程では、橋軸直角方向に移動した下部梁を回転機構によって回転させることで下部梁を床版の外側であって橋軸方向に配置する。この場合、橋脚を通過するときの移設工程では、床部収納工程と下部梁スライド工程、下部梁回転工程を行ったうえで、作業用装置を橋軸方向に移動する。
【発明の効果】
【0019】
本願発明の作業用装置、及び施工足場組立解体方法には、次のような効果がある。
(1)施工足場の組立作業や解体作業を行う際、床構造を足場として利用することができる。この結果、作業者の墜落事故といった労働災害や、特に都市部などにおいて工具等の落下による第三者被害の発生を抑制することができる。
(2)橋梁の全スパンのうち一部区間分に作業用装置を設置すれば足り、また橋脚を通過するたびに作業用装置の盛替え作業を行う必要がないことから、従来に比して安全かつ短時間で組立作業や解体作業を行うことができる。
(3)タッチアップ作業や本体塗装工事、床版の型枠組立・解体、足場の組立・解体、橋梁の点検作業、保全作業など、他の作業の足場として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】橋梁床版を支持する主桁の下部に設置された施工足場を模式的に示す断面図。
【
図2】本願発明の作業用装置を示す橋軸直角方向の断面図。
【
図3】(a)は本願発明の作業用装置を示す橋軸方向の断面図、(b)は本願発明の作業用装置を示す平面図。
【
図5】(a)は「使用時」とされた床構造を示す橋軸方向の断面図、(b)は右側が「収納時」とされた床構造を示す橋軸方向の断面図。
【
図6】(a)は使用状態とされた足場床を示す平面図、(b)は収納状態とされた足場床を示す平面図。
【
図7】側部梁の下端付近に取り付けられたスライド機構と回転機構を示す橋軸方向の断面図。
【
図8】スライド機構によって橋軸直角方向にスライド移動可能に支持される下部梁を模式的に示す橋軸直角方向の断面図。
【
図9】(a)はスライド機構によって把持される下部梁材を模式的に示す橋軸直角方向の断面図、(b)はスライド機構によって把持される下部梁材を模式的に示す橋軸方向の断面図。下部梁材120H
【
図10】側部梁の下端付近に取り付けられた回転機構を示す平面図。
【
図11】(a)は橋軸直角方向に配置された下部梁を示す平面図、(b)は回転することによって橋軸方向に配置された下部梁を示す平面図。
【
図12】本願発明の施工足場組立解体方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【
図13】主桁が橋台と橋脚によって支持された橋梁を模式的に示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願発明の作業用装置、及び施工足場組立解体方法の実施の例を、図に基づいて説明する。なお本願発明は、足場の組立・解体や本体塗装工事、タッチアップ作業、床版型枠の組立・解体、橋梁の点検作業、保全作業など、橋梁に関する様々な作業を対象として実施することができるが、便宜上ここでは
図1に示すような施工足場SF(上部工工事のための本設用の足場)の組立作業や解体作業を対象とした例で説明する。
図1は、橋梁床版DCを支持する主桁MGの下部に設置された施工足場SFを模式的に示す断面図である。
【0022】
1.作業用装置
本願発明の施工足場組立解体方法は、本願発明の作業用装置を用いて施工足場の組立や解体を行う方法である。したがって、まずは本願発明の作業用装置について説明し、その後に本願発明の施工足場組立解体方法について説明することとする。
図2と
図3は本願発明の作業用装置100を示す図であり、
図2は橋軸直角方向の鉛直面で切断した断面図、
図3(a)は橋軸方向の鉛直面で切断した断面図、
図3(b)は上方から見た平面図である。
【0023】
図2に示すように本願発明の作業用装置100は、上部梁110と下部梁120、側部梁130、床構造140、スライド機構150を含んで構成され、さらに回転機構160や後述する伸縮手段(左伸縮手段と右伸縮手段)などを含んで構成することもできる。上部梁110と下部梁120、側部梁130は、断面寸法に比して軸方向寸法が卓越した梁材であり、このうち上部梁110は橋梁床版DCの上方であって橋軸直角方向に配置され、一方の下部梁120は橋梁床版DCの下方であって橋軸直角方向に配置される。また側部梁130は、橋梁床版DCの外側であって上下方向に配置される。ここで「橋梁床版DCの外側」とは、橋軸方向に見た橋梁床版DCから左右いずれかに離れた位置のことであり、換言すれば橋軸方向に見た橋梁床版DCと重複しない位置である。
【0024】
上部梁110の下面には走行体111が取り付けられており、この走行体111が橋梁床版DCの上面に載置されることによって上部梁110は橋梁床版DCに支持されている。また上部梁110の端部(
図2では右端)と側部梁130の上端は固定され、下部梁120は側部梁130によって吊り下げられるように支持されている。これにより上部梁110と下部梁120、側部梁130はそれぞれ連結され、後述するように走行体111が橋梁床版DC上を橋軸方向に走行すると、上部梁110と下部梁120、側部梁130も橋軸方向に移動する。なお下部梁120は、側部梁130のみによる片持ち形式の支持構造とすることもできるし、
図2に示すように上部梁110から垂下する吊ワイヤーWRや、主桁MGから垂下する吊ワイヤーWRとともに、両端で支持する構成とすることもできる。
【0025】
図3(a)に示すように、下部梁120の上面には床構造140が設けられる。この床構造140は、作業者が安全に施工足場SFを組み立てたり解体したりすることができる足場床141を備えており、さらに作業者の転落防止用の手摺142を備えることもできる。
【0026】
以下、本願発明の作業用装置100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0027】
(上部梁)
上部梁110は、既述したとおり方向寸法が卓越した梁材であり、橋梁床版DCの上方であって橋軸直角方向に配置される。この上部梁110は、側部梁130と下部梁120を橋梁床版DC上で支えるものであり、所定の曲げモーメントやせん断力などに抵抗し得る構造とされ、例えばトラス構造とすることができる。
【0028】
図4に示すように、上部梁110の下面には走行体111が取り付けられている。この走行体111は、橋梁床版DC上を、橋軸方向に移動することができるものである。この図では、走行体111として車輪を利用した例を示しており、橋軸方向に沿って敷設された軌条RLを利用して橋軸方向に移動する機構としている。具体的には、軌条RLの上に走行体111(車輪)を載置したうえで、上部梁110に連結されたワイヤーロープ等を牽引手段で牽引することによって作業用装置100を橋軸方向に移動するわけである。軌条RLは、角鋼管やH型鋼などの梁材の上に平鋼(フラットバー)を設置した構成とすることができ、牽引手段としては、チルホールやチェーンブロック、ホイスト、ウィンチなどを利用することができる。なお、軌条RLの適所には、作業用装置100の脱落を防止するためのストッパを設けるとよい。走行体111は、
図4に示す構成に限らず、動力とタイヤ(あるいはクローラ)の組み合わせからなる自走式とするなど、従来用いられてきたあらゆる技術を利用することができる。
【0029】
(側部梁)
側部梁130は、既述したとおり方向寸法が卓越した梁材であり、橋梁床版DCの外側であって上下方向に配置される。この側部梁130は、下部梁120を上方から吊り下げて支えるものであり、所定の曲げモーメントやせん断力などに抵抗し得る構造とされ、例えばトラス構造とすることができる。側部梁130の下端部(あるいは、その周辺)には、スライド機構150と回転機構160が設置されており、またこの下端部(特に、スライド機構150)で下部梁120を支持している。
【0030】
(下部梁)
下部梁120は、既述したとおり方向寸法が卓越した梁材であり、橋梁床版DCの下方であって橋軸直角方向に配置される。この下部梁120は、側部梁130によって上方から支えられるものであり、荷重(自重や、作業者等の重量)による曲げモーメントやせん断力などに抵抗し得る構造とされ、例えばトラス構造とすることができる。
【0031】
(床構造)
図5は、床構造140を示す図であり、(a)は「使用状態」とされた床構造140を示す橋軸方向の断面図、(b)は右側が「収納状態」とされた床構造140を示す橋軸方向の断面図である。ここで「使用状態」とは、作業者が施工足場SFの組立作業や解体作業を行うときの状態であって、足場床141が一連の平面を形成する状態である。一方、「収納状態」とは、後述するように下部梁120が橋軸直角方向に移動するときの状態であって、足場床141の一部が折り畳まれた状態である。
【0032】
図5に示すように床構造140は、足場床141を備えたものであり、さらに手摺142を備えたものとすることもできる。この足場床141は、中央に配置される中央床141Cと、中央床141Cの左側に配置される左側床141L、中央床141Cの右側に配置される右側床141Rを含んで構成される。そして左側床141Lと右側床141Rは、略水平(水平を含む)な軸(
図5では、紙面奥行方向)周りに回転するようにヒンジ結合とされる。具体的には、
図5(b)に示すように右側床141Rはその左端部(中央側端部)を中心としてその右端部が円弧を描くように回転し、同様に、左側床141Lはその右端部(中央側端部)を中心としてその左端部が円弧を描くように回転する。すなわち、使用状態とされた足場床141は、左側床141Lが外側下方(図では反時計回り)に回転することで折り畳まれるとともに、右側床141Rが外側下方(図では時計回り)に回転することで折り畳まれることによって、収納状態とされるわけである。このとき左側床141Lと右側床141Rは、下部梁120に接近するように、略鉛直(鉛直を含む)下向きに垂れ下がる。
【0033】
左側床141Lと右側床141Rを回転させるには、例えばジャッキなどその一部が伸縮自在である「伸縮手段」を利用することができる。
図5の例では、左側床141Lを回転させる左伸縮手段171と、右側床141Rを回転させる右伸縮手段172が設けられている。左伸縮手段171は、その一端(図では下端)が下部梁120の一部に取り付けられ、その他端(図では上端)が左側床141Lの一部に取り付けられている。同様に、右伸縮手段172は、その一端(図では下端)が下部梁120の一部に取り付けられ、その他端(図では上端)が右側床141Rの一部に取り付けられている。これにより、左伸縮手段171と右伸縮手段172をそれぞれ伸長すると、左側床141Lと右側床141Rは略水平(水平を含む)姿勢で配置される使用状態とされ、一方、左伸縮手段171と右伸縮手段172をそれぞれ収縮すると、左側床141Lと右側床141Rは略鉛直(鉛直を含む)下向きに垂れ下がる収納状態とされる。
【0034】
また
図5(b)に示すように、左側床141Lや右側床141Rと同様、手摺142も略水平(水平を含む)な軸(図では、紙面奥行方向)周りに回転するようにヒンジ結合とすることができる。この場合の手摺142は、その下端部を中心としてその上端部が円弧を描くように回転する。すなわち、略鉛直(鉛直を含む)な姿勢で配置された(つまり、使用状態とされた)手摺142は、左側床141Lに取り付けられる手摺142が右側下方(図では時計回り)に回転することで折り畳まれるとともに、右側床141Rに取り付けられる手摺142が左側下方(図では反時計回り)に回転することで折り畳まれる。このとき手摺142は、左側床141Lと右側床141Rに折り重なるように配置され、このように手摺142と折り重なった状態で左側床141Lと右側床141Rは回転する。
【0035】
使用状態とされた足場床141をより安定させるため、
図5(a)に示すようにサポート材173を設けることもできる。左伸縮手段171と右伸縮手段172に加え、サポート材173によって下方から支持することによって、使用状態とされた足場床141をより安定させるわけである。しかしながら、足場床141を使用状態から収納状態とする際、このサポート材173が妨げとなってしまう。したがって、このサポート材173は、いずれか一方の端部をヒンジ結合したえうえで他方を取り外し可能な結合にするか、あるいは両端ともに取り外し可能な結合にするとよい。
【0036】
図6は、足場床141を上方から見た平面図であり、(a)は使用状態とされた足場床141を示す平面図、(b)は収納状態とされた足場床141を示す平面図である。この図からも分かるように、使用状態に比べ、収納状態とされた足場床141は断面寸法(幅寸法)が縮小されてコンパクトになる。
【0037】
(スライド機構)
図7は、側部梁130の下端付近に取り付けられたスライド機構150と回転機構160を示す橋軸方向の断面図である。この図に示すように下部梁120は、側部梁130の下端付近で吊り下げられるように支持され、より詳しくは
図8に示すようにスライド機構150によって橋軸直角方向にスライド移動し得るように支持される。
【0038】
図9は、下部梁120を構成する部材(以下、「下部梁材120H」という。)がスライド機構150によって把持された状態を模式的に示す断面図であり、(a)は橋軸直角方向の断面図、(b)は橋軸方向の断面図である。この図に示すようにスライド機構150は、下部梁材120Hの一部を把持することによって下部梁120を吊り下げるように支持する。このスライド機構150は、例えば
図9(a)に示すように橋軸直角方向に離れた2個所に設置するとともに、
図9(b)に示すようにそれぞれの設置個所で橋軸方向に離れた2個所に設置し、すなわち4個所に設置することができる。そして、それぞれのスライド機構150が下部梁材120Hの一部を把持している。このスライド機構150は、例えばローラーやタイヤといった回転体を備えており、上下の回転体で下部梁材120Hの一部を把持することによって、下部梁120は橋軸直角方向にスライド移動することができる。
図9の例では、スライド機構150として電動トロリーを利用しており、上下の回転体が下部梁材120H(この図では、H形鋼)の上フランジを把持している。
【0039】
(回転機構)
図10は、側部梁130の下端付近に取り付けられた回転機構160を示す平面図である。また
図11は、回転機構160によって下部梁120が回転する状況を模式的に示す平面図であり、(a)は橋軸直角方向に配置された下部梁120を示す平面図、(b)は回転することによって橋軸方向に配置された下部梁120を示す平面図である。回転機構160は、ターンテーブルのような装置を利用することができ、
図11に示すように略水平(水平を含む)な平面上で下部梁120を回転させるものである。
【0040】
(使用例)
本願発明の作業用装置100を用いた施工足場SFの組立作業や解体作業において、作業用装置100が橋脚PRをかわしながら橋軸方向に移動する手順の例について説明する。まず、左側床141Lに取り付けられる手摺142を折り畳むとともに、右側床141Rに取り付けられる手摺142を折り畳むことによって、左側床141Lと右側床141Rに折り重なるように手摺142を配置する。次いで、手摺142と折り重なった状態で左側床141Lと右側床141Rをそれぞれ回転し、床構造140を収納状態する。例えば、左伸縮手段171を収縮することによって左側床141Lを折り畳むとともに、右伸縮手段172を収縮することによって右側床141Rを折り畳み、左側床141Lと右側床141Rが略鉛直下向きに垂れ下がる配置とする。このとき、サポート材173によって足場床141が支持されているときは、事前にサポート材173を取り外したうえで、左側床141Lと右側床141Rを回転するとよい。
【0041】
床構造140が収納状態とされると、その収納状態のままスライド機構150によって橋梁床版DCから遠ざかるように下部梁120を移動させる。そして、例えば下部梁120の中央付近が側部梁130の下方に位置するまで移動すると、回転機構160によって下部梁120を回転させる。これにより下部梁120は、橋梁床版DCの外側で橋軸方向となるように配置され、橋脚PRがあってもこれをかわしながら作業用装置100は橋軸方向に移動することができる。なお、スライド機構150によって下部梁120全体が橋梁床版DCの外側まで移動することができる場合は、そのまま橋脚PRをかわしながら作業用装置100が移動することができ、すなわち回転機構160を省略することもできる。
【0042】
2.施工足場組立解体方法
続いて、本願発明の施工足場組立解体方法ついて
図12を参照しながら説明する。なお、本願発明の施工足場組立解体方法は、ここまで説明した作業用装置100を用いて施工足場を組み立てたり解体したりする方法である。したがって、作業用装置100について説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の施工足場組立解体方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.作業用装置」で説明したものと同様である。
【0043】
図12は、本願発明の施工足場組立解体方法の主な工程の流れを示すフロー図である。この図に示すように、まずは橋軸方向の所定位置(例えば、起点側)で本願発明の作業用装置100を橋梁床版DCに設置する(
図12のStep201)。具体的には、上部梁110が橋梁床版DCの上方となり、下部梁120が橋梁床版DCの下方となり、側部梁130が橋梁床版DCの外側となるように、作業用装置100を設置する。そして、作業用装置100を橋軸方向に移動する。このとき、予定する移動区間に橋脚PRがあるとき(
図12のStep202のYes)は床部収納工程(
図12のStep203)を実施し、一方、橋脚PRがないとき(
図12のStep202のNo)は後述する移設工程(
図12のStep206)と部分組立解体工程(
図12のStep208)を実施する。
【0044】
床部収納工程(
図12のStep203)では、床構造140を収納状態とする。具体的には、左側床141Lに取り付けられる手摺142を折り畳むとともに、右側床141Rに取り付けられる手摺142を折り畳むことによって、左側床141Lと右側床141Rに折り重なるように手摺142を配置する。次いで、手摺142と折り重なった状態で、左伸縮手段171を収縮することによって左側床141Lを折り畳むとともに、右伸縮手段172を収縮することによって右側床141Rを折り畳み、床構造140を収納状態とする。
【0045】
床構造140を収納状態にすると、その収納状態のままスライド機構150によって橋梁床版DCから遠ざかるように下部梁120を移動させる(
図12のStep204)。そして、例えば下部梁120の中央付近が側部梁130の下方に位置するまで移動すると、回転機構160によって下部梁120を回転させる(
図12のStep205)。これにより下部梁120は、橋梁床版DCの外側で橋軸方向となるように配置され、橋脚PRがあってもこれをかわしながら作業用装置100は橋軸方向に移動することができる(
図12のStep206)。
【0046】
作業用装置100が橋脚PRを超える位置まで橋軸方向を前進すると、施工足場SFの組立作業や解体作業が可能となるように下部梁120の配置を元に戻す(
図12のStep207)。具体的には、回転機構160によって回転させることによって下部梁120を橋軸直角方向となるように配置し、スライド機構150によって橋梁床版DCの下方に位置するまで下部梁120を移動させる。そして、左伸縮手段171を伸長することによって左側床141Lを略水平姿勢に配置するとともに、右伸縮手段172を伸長することによって左側床141Lを略水平姿勢に配置し、さらにそれぞれの手摺142を略鉛直姿勢に配置することによって床構造140を使用状態とする。
【0047】
床構造140を使用状態にすると、移動後に作業用装置100が配置された範囲内の施工足場SFを組み立てたり解体したりする(
図12のStep208)。まだ組み立てたり解体したりすべき施工足場SFが残っているとき(
図12のStep209のNo)はStep202~Step208を繰り返し行い、一方、すべての施工足場SFが組み立てられ、あるいは解体されたとき(
図12のStep209のYes)は作業用装置100を組み立てたり解体したりして橋梁床版DCから取外す(
図12のStep210)。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本願発明の作業用装置、及び施工足場組立解体方法は、道路橋や鉄道橋といったあらゆる用途の橋梁に利用でき、河川を跨ぐ橋、跨道橋、跨線橋など種々のものを越える橋梁に利用することができる。本願発明によれば、作業者の墜落災害や工具落下などによる第三者被害を従前より回避することができ、すなわち本願発明がより安全な作業を提供することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0049】
100 本願発明の作業用装置
110 (作業用装置の)上部梁
111 (作業用装置の)走行体
120 (作業用装置の)下部梁
120H (下部梁の)下部梁材
130 (作業用装置の)側部梁
140 (作業用装置の)床構造
141 (床構造の)足場床
141C (足場床の)中央床
141L (足場床の)左側床
141R (足場床の)右側床
142 (床構造の)手摺
150 (作業用装置の)スライド機構
160 (作業用装置の)回転機構
171 (作業用装置の)左伸縮手段
172 (作業用装置の)右伸縮手段
173 (作業用装置の)サポート材
DC 橋梁床版
MG 主桁
PR 橋脚
RL 軌条
SF 施工足場
WR 吊ワイヤー