(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012980
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】オープン型イヤホン
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
H04R1/10 104A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116207
(22)【出願日】2023-07-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】522264087
【氏名又は名称】株式会社Move
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 礼路
(74)【代理人】
【識別番号】100174849
【弁理士】
【氏名又は名称】森脇 理生
(72)【発明者】
【氏名】保坂 明彦
【テーマコード(参考)】
5D005
【Fターム(参考)】
5D005BE03
(57)【要約】
【課題】 耳への圧迫感がなく、周囲の環境音を聞き取り易く、且つ、遮音性が高くて音漏れしないオープン型イヤホンを提供する。
【解決手段】 オープン型イヤホン1は、スピーカー5を内蔵したイヤホン本体2と、イヤホン本体2から斜めに延びて耳の外耳道11内に挿入される音響ダクト3と、音響ダクト3の外側面に取り付けられるイヤーリング4とを備えたオープン型イヤホンであって、音響ダクト3には、スピーカー5と耳の外耳道11とを連通させる第1連通路6と、大気と耳の外耳道とを連通させる溝7とが形成されており、音響ダクト3のイヤホン本体2に対する傾斜角度が50°~70°であり、イヤーリング4は、弾性材からなる2つのリング4A、4Bを連結一体化して構成されており、2つのリング4A、4Bの長手方向の一端側が音響ダクト3の外側面に取り付けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカーを内蔵したイヤホン本体と、
前記イヤホン本体から斜めに延びて耳の外耳道内に挿入される音響ダクトと、
前記音響ダクトの外側面に取り付けられるイヤーリングとを備えたオープン型イヤホンであって、
前記音響ダクトには、前記スピーカーと耳の外耳道とを連通させる第1連通路と、大気と耳の外耳道とを連通させる第2連通路とが形成されており、
前記音響ダクトの前記イヤホン本体に対する傾斜角度が50°~70°であり、
前記イヤーリングは、弾性材からなる2つのリングを連結一体化して構成されており、前記2つのリングの長手方向の一端側が前記音響ダクトの外側面に取り付けられている、
オープン型イヤホン。
【請求項2】
前記イヤーリングは、前記音響ダクトに着脱可能に取り付けられる、請求項1に記載のオープン型イヤホン。
【請求項3】
前記イヤーリングの長手方向の長さは、12~20mmである、請求項1または2に記載のオープン型イヤホン。
【請求項4】
前記イヤーリングの前記音響ダクトに対する傾斜角度は、60°~100°である、請求項1または2に記載のオープン型イヤホン。
【請求項5】
前記音響ダクトの中心軸上の長さは、5mm~13mmである、請求項1または2に記載のオープン型イヤホン。
【請求項6】
前記第2連通路は、前記音響ダクトの外側面に形成された溝によって構成される、請求項1または2に記載のオープン型イヤホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周囲の環境音も取り入れることができるオープン型イヤホンに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、空気によって伝達される音の振動は、耳の中にある鼓膜へ伝達され、鼓膜の振動は、鼓膜の中にある3つの耳小骨を介して蝸牛に伝達される。蝸牛にはリンパ液があり、このリンパ液の振動が電気信号に変換されながら聴覚神経へと伝達され、この電気信号を脳が音として認識する。
【0003】
ところで、ユーザの耳に装着されるイヤホンは、耳に近接配置されたスピーカーに音声信号を印加することによって音声を再生するものがあるが、このイヤホンには、大別してインナーイヤー型とカナル(耳栓)型との2タイプがある。
【0004】
インナーイヤー型イヤホン(例えば、特許文献1参照)は、耳の入口にある耳甲介と称される部分に引っ掛けて使用され、圧迫感がなく、周囲の環境音を聞き取り易いというメリットを有している。これに対して、カナル型イヤホン(例えば、特許文献2参照)は、耳栓型のイヤーピースを耳の中に入れて使用されるため、高い遮音性が得られ、音漏れしないというメリットを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-222492号公報
【特許文献2】特開2019-145962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、インナーイヤー型イヤホンは、遮音性が低く音漏れし易いというデメリットを有している。これに対して、カナル型イヤホンは、イヤーピースを耳の奥に入れ込むため、耳への圧迫感が強く、周囲の環境音を聞き取りにくいというデメリットを有している。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、耳への圧迫感がなく、周囲の環境音を聞き取り易く、且つ、遮音性が高くて音漏れしないオープン型イヤホンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、スピーカーを内蔵したイヤホン本体と、イヤホン本体から斜めに延びて耳の外耳道内に挿入される音響ダクトと、音響ダクトの外側面に取り付けられるイヤーリングとを備えたオープン型イヤホンであって、音響ダクトには、スピーカーと耳の外耳道とを連通させる第1連通路と、大気と耳の外耳道とを連通させる第2連通路とが形成されており、音響ダクトのイヤホン本体に対する傾斜角度が50°~70°であり、イヤーリングは、弾性材からなる2つのリングを連結一体化して構成されており、2つのリングの長手方向の一端側が音響ダクトの外側面に取り付けられている、オープン型イヤホンを提供する。
【0009】
本発明はまた、上記オープン型イヤホンにおいて、イヤーリングは、音響ダクトに着脱可能に取り付けられる、オープン型イヤホンを提供する。
【0010】
本発明はまた、上記オープン型イヤホンにおいて、イヤーリングの長手方向の長さは、12~20mmである、オープン型イヤホンを提供する。
【0011】
本発明はまた、上記オープン型イヤホンにおいて、イヤーリングの音響ダクトに対する傾斜角度は、60°~100°である、オープン型イヤホンを提供する。
【0012】
本発明はまた、上記オープン型イヤホンにおいて、音響ダクトの中心軸上の長さは、5mm~13mmである、オープン型イヤホンを提供する。
【0013】
本発明はまた、上記オープン型イヤホンにおいて、第2連通路は、音響ダクトの外側面に形成された溝によって構成される、オープン型イヤホンを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、音響ダクトには、スピーカーと耳の外耳道とを連通させる第1連通路と、大気と耳の外耳道とを連通させる第2連通路とが形成されているため、周囲の環境音が第2連通路を通ってユーザの耳の外耳道へと導入される。したがって、ユーザは、第1連通路を通って外耳道へと導入されるスピーカー音と共に第2連通路を通って外耳道へと導入される周囲の環境音も同時に聞くことができる。
【0015】
また、本発明において、スピーカー音が大気中に抜けて音漏れが生じる場合には、第1連通路を通過した後に、さらに第2連通路を通る必要がある。本発明のオープン型イヤホンの音響ダクトは、イヤホン本体から斜めに延びて耳の外耳道内に挿入される形状であるため、スピーカー音が大気中に抜けるまでの経路が長くなる。したがって、スピーカー音の外部への漏れ(音漏れ)を防ぐことができる。また、スピーカー音が音響ダクトを通って外耳道内に確実に導入されるため、ユーザは、環境音が大きな場所でもスピーカー音をはっきりと聞くことができるとともに、タッチノイズやユーザ自身の声が響いてしまうのを防ぐことができる。
【0016】
また、本発明のオープン型イヤホンは、音響ダクトの外側面にイヤーリングが取り付けられている。イヤーリングは弾性材からなる2つのリングを連結一体化して構成されており、2つのリングの長手方向の一端側が音響ダクトの外側面に取り付けられている。そのため、本発明のオープン型イヤホンの装着時には、イヤーリングの一端が耳のトラガスに当接するとともに、他端が耳甲介の内壁、より具体的には耳甲介艇の内壁に当接することとなり、音響ダクトがイヤーリングにより耳のトラガスと耳甲介の内壁との間で挟持される。そのため、高い装着安定性が得られるとともに、音響ダクトが耳を圧迫することがなく、ユーザに快適な装着感を与えることができる。
【0017】
したがって、本発明に係るオープン型イヤホンによれば、インナーイヤー型イヤホンとカナル型イヤホンの各デメリットを解消しつつ、両イヤホンのメリットのみを享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係るオープン型イヤホンの一実施形態の側面図である。
【
図2】本発明に係るオープン型イヤホンの一実施形態を斜め上方から見た斜視図である。
【
図3】本発明に係るオープン型イヤホンの一実施形態を斜め下方から見た斜視図である。
【
図4】本発明に係るオープン型イヤホンの一実施形態を上から見た図である。
【
図5】本発明に係るオープン型イヤホンの一実施形態を前方向から見た図である。
【
図6】本発明に係るオープン型イヤホンの一実施形態を後方向から見た図である。
【
図7】本発明に係るオープン型イヤホンの一実施形態を下から見た図である。
【
図8】本発明に係るオープン型イヤホンの一変形例の破断側面図である。
【
図9】本発明に係るオープン型イヤホンの一変形例の使用状態を示すユーザの耳部分の破断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係るオープン型イヤホン1の側面図である。
図2は、本実施形態に係るオープン型イヤホン1を斜め上方から見た斜視図である。
図3は、本実施形態に係るオープン型イヤホン1を斜め下方から見た斜視図である。
図4は、本実施形態に係るオープン型イヤホン1を上から見た図である。
図5は、本実施形態に係るオープン型イヤホン1を前方向から見た図である。
図6は、本実施形態に係るオープン型イヤホン1を後方向から見た図である。
図7は、本実施形態に係るオープン型イヤホン1を下から見た図である。
【0020】
また、本実施形態のオープン型イヤホン1の一変形例を
図8および
図9に示す。
図8は、本実施形態に係るオープン型イヤホン1の一変形例の破断側面図である。
図9は、本実施形態に係るオープン型イヤホン1の一変形例の使用状態を示すユーザの耳部分の破断面図である。
図8および
図9に示す変形例は、
図1~
図7に示す実施形態とは、音響ダクト3の底面3Aの角度およびイヤーリング4の取り付けられる角度が異なっているが、それ以外の部分は
図1~
図7に示す実施形態とほぼ同様に構成される。本実施形態のオープン型イヤホン1を説明する際に、
図8および
図9に示す変形例との共通部分については、
図8および
図9を参照して説明することもある。
【0021】
以下の説明においては、
図1に示す矢印方向をそれぞれ「前後」方向および「上下」方向とする。
【0022】
「上下」方向は、ユーザがオープン型イヤホン1を耳に装着した状態において、オープン型イヤホン1とユーザの耳とを結ぶ方向、言い換えればオープン型イヤホン1を耳に挿入する方向あるいは取り外す方向である。オープン型イヤホン1からユーザの耳へ向かう方向、すなわちオープン型イヤホン1を耳に挿入する方向を「下」方向とし、ユーザの耳からオープン型イヤホン1へ向かう方向、すなわちオープン型イヤホン1を耳から取り外す方向を「上」方向とする。
【0023】
「前後」方向は、「上下」方向と直交する方向であり、ユーザがオープン型イヤホン1を耳に装着した状態において、オープン型イヤホン1がユーザの耳のトラガスに当接する位置と耳甲介の内壁に当接する位置とを結ぶ方向である。オープン型イヤホン1から耳のトラガスへ向かう方向を「後」方向とし、オープン型イヤホン1から耳甲介の内壁へ向かう方向を「前」方向とする。
【0024】
ここで、
図10に、耳介の各部位の名称を示す。
図10に示すように、トラガス(耳珠ともいう)は、外耳道の入り口の顔側にある出っ張りである。耳介の外側の湾曲した部分は耳輪とよばれる。耳甲介は、
図10に示す耳甲介腔および耳甲介艇により構成される。耳甲介腔は、外耳道の入り口のすぐそばにあるくぼみである。耳甲介艇は、外耳道の入り口からみて耳甲介腔よりも外側にあり、耳甲介腔とは耳輪の一部によって隔てられたくぼみである。本発明のオープン型イヤホン1は、耳甲介のなかでも耳甲介艇の内壁に当接する。本明細書において、「耳甲介の内壁」または「耳甲介艇の内壁」とは、耳甲介または耳甲介艇を構成するくぼみの縁となる壁をさす。
【0025】
本実施形態に係るオープン型イヤホン1は、
図1~7に示すように、イヤホン本体2と、音響ダクト3と、イヤーリング4とを備えている。
【0026】
イヤホン本体2は、前後方向に長い平面視長円形状のケース体である。イヤホン本体2は、上下方向に分割可能なケース体であり、上ケース2Aと下ケース2Bとを接合一体化して構成される。イヤホン本体2には、少なくともスピーカー5が内蔵される。イヤホン本体2には、スピーカー5の他、各種電子部品およびそれらを実装した基板などが内蔵されてもよい。
【0027】
なお、本発明において、イヤホン本体は、スピーカーを内蔵できるケース体であれば、本実施形態に特に限定されない。本発明において、イヤホン本体は、たとえば前後方向に分割可能なケース体であってもよい。また、本発明において、イヤホン本体は、前後方向に長い長円形状に限定されず、上方向から見たときの形状が円形状であってもよいし、正方形、長方形または多角形などの任意の形状であってもよい。
【0028】
スピーカー5は、
図8に示すように、イヤホン本体2内の音響ダクト3の直上のユーザの耳に接触しない位置に配置されている。このような位置にスピーカー5を配置することによって、該スピーカー5の音質を良くするために該スピーカー5の口径を十分大きくしても、このスピーカー5が耳の邪魔になることがない。なお、本実施形態では、スピーカー5をイヤホン本体2内に水平に収容したが、このスピーカー5を垂直に配置して収容するようにしてもよい。
【0029】
音響ダクト3は、イヤホン本体2から斜めに延びてユーザの耳の外耳道内にトラガスよりも奥まで挿入される筒形状の部材である。音響ダクト3は、イヤホン本体2の前側の端(前端部)の底部から下方向に向かって、後方向に傾斜して延びるように形成される。音響ダクト3のイヤホン本体2に対する傾斜角度θ1(
図1に示す)は、たとえばθ1=60°に設定することができるが、本発明において、傾斜角度θ1はこれに限定されず、たとえば60°±10°(50°~70°)に設定されることができる。傾斜角度θ1が50°~70°であれば、オープン型イヤホン1がユーザの耳により確実にフィットし、より高い装着安定性を得ることができる。
【0030】
本実施形態において、音響ダクト3は、円筒形状となっており、スピーカー5の音を外耳道内に導入可能となっている。なお、本発明において、音響ダクトは、これに限定されず、長円形状の筒形状であってもよいし、多角形状の筒形状であってもよい。音響ダクトの断面の形状は、円形状、楕円形状およびかまぼこ型など、外耳道の形状に近い形状であることができる。また、音響ダクトは、イヤホン本体の底部から先端に向かって先細りとなるように構成されてもよいし、一定の太さにて構成されてもよい。
【0031】
本実施形態において、音響ダクト3の底面3Aは、
図1に示すように、音響ダクト3の断面と平行になるように形成されている。なお、本発明において、音響ダクトの底面は、これに限定されず、任意の角度であることができ、たとえば
図8および
図9に示す変形例に示されるように、イヤホン本体の底面と平行に形成されてもよい。
【0032】
音響ダクト3の長さは、ユーザの耳の外耳道内にトラガスよりも奥まで挿入可能な長さとなっている。音響ダクト3の中心軸上におけるイヤホン本体2の底面から音響ダクト3の先端までの長さは、ユーザの耳の外耳道内にスピーカー音を導入可能な長さであれば特に限定されないが、たとえば5mm以上であれば、ユーザの耳の外耳道内にスピーカー音を確実に導入することができる。また、音響ダクト3の中心軸上の長さは、たとえば8mm以上であれば、ユーザの耳の外耳道内にスピーカー音をより確実に導入することができる。音響ダクト3の中心軸上の長さは、特に限定されないが、たとえば13mm以下であることができ、これによりユーザに圧迫感を感じさせることなく、快適な装着感を与えることができる。また、音響ダクト3の中心軸上の長さは、たとえば10mm以下であれば、ユーザにさらに圧迫感を感じさせることなく、より快適な装着感を与えることができる。
【0033】
なお、本発明における音響ダクトの長さは、ユーザの耳の外耳道内のトラガスに当接する点から少なくとも10mm以上奥まで挿入される長さであることができる。この長さであれば、標準の大人の耳に装着した際に、ユーザの耳の外耳道内にスピーカー音を確実に導入することができる。
【0034】
本実施形態において、イヤホン本体2(上ケース2Aと下ケース2B)と音響ダクト3とは、剛性の高いABS樹脂などの硬質樹脂で構成されている。なお、本発明において、イヤホン本体および音響ダクトは、本実施形態に限定されず、硬質材料により構成されることができる。硬質材料には、たとえばABS樹脂だけでなく、ポリプロピレンおよびポリスチレン等の種々の樹脂を用いることができる。また、音響ダクト3は、イヤホン本体2(たとえば下ケース2B)と一体に形成されてもよいし、別々に形成されてもよい。
【0035】
本発明のオープン型イヤホンは、音響ダクトが硬質材料により構成されていても、音響ダクトに取り付けられたイヤーリングによって耳のトラガスと耳甲介の内壁との間で挟持されるため、安定して装着されることができる。また、本発明のオープン型イヤホンにおける音響ダクトは、外耳道内を完全に覆う必要がなく、外耳道の内壁との間に隙間が生じてもよい。したがって、本発明のオープン型イヤホンは、カナル型イヤホンの先端に取り付けられている、耳の奥に入れ込んで固定するために弾性変形するイヤーピースのような部材を必要としないため、耳を圧迫することなく快適な装着感を与えることができる。
【0036】
音響ダクト3の軸中心部には、
図8及び
図9に示すように、円孔状の第1連通路6が形成されている。第1連通路6は、オープン型イヤホン1をユーザが耳に装着した状態において、イヤホン本体2に内蔵されたスピーカー5と耳の外耳道11(
図9参照)とを連通させる通路である。第1連通路6の上端は、イヤホン本体2内に開口しており、第1連通路6の下端は、耳の外耳道11内に開口している。
【0037】
また、音響ダクト3の前面側(
図8の左側)の外側面には、音響ダクト3の長手方向に溝(第2連通路)7が形成されている。溝7は、装着時に、大気と耳の外耳道11内とを連通させる通路である。溝7は、
図3に示すように、音響ダクト3のイヤーリング4取り付け位置のすぐ下から音響ダクト3の先端まで、音響ダクト3の長手方向に形成された直線状の溝である。溝7が形成されることにより、ユーザがオープン型イヤホン1を装着した状態において、オープン型イヤホン1と外耳道との間に、第2連通路として機能する隙間が生じる。溝7が形成されることにより、ユーザは、第1連通路6を通って外耳道へと導入されるスピーカー音と共に、溝7で構成される第2連通路を通って外耳道11へと導入される周囲の環境音も同時に聞くことができる。
【0038】
なお、本発明において、溝は、音響ダクトの外側面の任意の位置に形成されることができる。溝は、たとえば音響ダクトの外側面のイヤーリング取り付け位置より上から先端まで形成されてもよいし、イヤホン本体の底面に近い位置から音響ダクトの先端まで形成されてもよい。また、本発明において、溝は、音響ダクトの前側の側面以外の外側面に形成されてもよい。
【0039】
また、本発明において、第2連通路は、本実施形態のような溝に限定されず、たとえば音響ダクトの側面部に第1連通路とは別に形成された通路であってもよい。第2連通路が音響ダクトに形成された通路である場合、その上側の開口部は、音響ダクトの前側の側面部に形成された孔であって大気に開口していてもよく、下側の開口部は、音響ダクトの底面に形成された孔であって耳の外耳道に開口していてもよい。
【0040】
第2連通路が音響ダクトに形成された通路である場合、その上側の開口部は、音響ダクト3の前側の側面部の任意の位置に形成されることができる。第2連通路の上側の開口部は、音響ダクトのイヤーリング取り付け位置より下側または上側のいずれに位置してもよい。また、第2連通路の上側の開口部は、イヤホン本体の底面から近い位置に形成されてもよい。
【0041】
イヤーリング4は、弾性材からなる2つのリング4A、4Bを連結一体化して構成された部材であり、音響ダクト3の外側面に取り付けられる。2つのリング4A、4Bは、リング4Bがリング4Aの前側部分から外側に突出するように連結一体化して構成される。イヤーリング4は、長手方向の一端側となるリング4Aの後ろ側部分が音響ダクト3の外側面を外周方向に囲むように取り付けられる。イヤーリング4は、音響ダクト3から前方向(
図1の左方)に向かって延びるように取り付けられる。本実施形態において、リング4A、4Bは略円形であるが、本発明では特に限定されず、曲線または直線により囲まれた形であればよく、たとえば楕円形および多角形等であることができる。イヤーリング4が2つのリング4A、4Bを連結一体化して構成されることにより、イヤーリング4のバネ性が向上し、ユーザの耳の形に合わせて柔軟に弾性変形するため、どのような耳にも合わせやすくなるという効果を奏する。
【0042】
イヤーリング4は、
図9に示すように、ユーザがオープン型イヤホン1を装着した状態において、一端が耳のトラガス12に当接し、他端が耳甲介の内壁13に当接する。具体的には、イヤーリング4は、音響ダクト3の後方側の側面に当接するリング4Aの後ろ側部分(一端)が耳のトラガス12に当接し、前方向に延びたリング4Bの先端(他端)が耳甲介の内壁13、より具体的には耳甲介艇の内壁に当接する。これにより、音響ダクト3は、耳のトラガス12と耳甲介の内壁13との間でイヤーリング4によって挟持され、装着の高い安定性を得ることができる。
【0043】
イヤーリング4の長手方向の長さ、すなわちリング4Aの音響ダクト3に取り付けられる部分から、前方向に突出したリング4Bの先端までの長さは、耳の大きさなどに応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、装着の安定性から、たとえば12~20mmであることができる。また、イヤーリング4の長手方向の長さは、たとえば13~18mmであれば、装着の安定性をさらに高めることができる。
【0044】
イヤーリング4の音響ダクト3に対する傾斜角度θ2(
図1および
図8に示す)は、特に限定されないが、たとえば60~100°であれば、装着の安定性をより高めることができる。また、イヤーリング4の音響ダクト3に対する傾斜角度θ2がたとえば60~90°であれば、装着の安定性をさらに高めることができる。たとえば、傾斜角度θ2は、
図1に示すように略90°であってもよいし、
図8の変形例に示すように90°よりも小さくてもよい。
【0045】
イヤーリング4は、音響ダクト3に着脱可能になっていてもよいし、音響ダクト3と一体に構成されていてもよい。着脱可能になっている場合、リング4Aの内周側を音響ダクト3の後方側の側面の取り付け位置にはめ込むことによって音響ダクト3に取り付けられるように構成されてもよい。また、本発明において、イヤーリングは、上述した態様に限定されず、リング4Aの内周部分に、音響ダクトの断面とほぼ同じ形状および大きさの穴が形成され、当該穴に音響ダクトを通して嵌めることにより音響ダクトに取り付け可能なように構成されてもよい。
【0046】
本発明において、イヤーリングが着脱可能になっている場合には、大きさの異なる複数種類のイヤーリングを用意することができ、ユーザが自身の耳の大きさに応じて適切な大きさのイヤーリングを選択することができる。
【0047】
イヤーリング4を音響ダクト3に取り付ける位置は、イヤホン本体2の底面から音響ダクト3の先端までの間の任意の位置であることができる。音響ダクト3において、イヤホン本体2の前端部からイヤーリング4取り付け位置までの長さと、イヤーリング4取り付け位置から音響ダクト3の先端までの長さは、特に限定されないが、たとえば1:9~9:1であれば、オープン型イヤホン1をユーザの耳に確実にフィットして装着させることができる。音響ダクト3において、イヤホン本体2の前端部からイヤーリング4取り付け位置までの長さと、イヤーリング4取り付け位置から音響ダクト3の先端までの長さは、好ましくは2:3~2:5であり、これによりオープン型イヤホン1をユーザの耳により確実にフィットして装着させることができる。
【0048】
イヤーリング4は、弾性材、すなわち弾性変形可能な材料によって構成される。イヤーリング4は、たとえば柔軟なシリコン、エラスマーおよびゴムなどによって構成されることができる。
【0049】
なお、以上はユーザの一方(左または右)の耳に装着されるオープン型イヤホン1の構成について説明したが、他方(右または左)の耳に装着されるオープン型イヤホン1の構成は一方のそれと全く同じまたは対称的であるため、これについての図示及び説明は省略する。
【0050】
ここで、本実施形態に係るオープン型イヤホン1がユーザの耳に装着されている状態を
図9に示す。オープン型イヤホン1は、イヤーリング4(リング4A)の後方側の端部が耳のトラガス(耳珠)12に当接する向きに装着される。すなわち、音響ダクト3が耳の外耳道11に挿入されることによって、当該オープン型イヤホン1がユーザの耳に装着されるが、このとき、イヤーリング4(リング4A)の後方側の端部が耳のトラガス12に当接する。すると、イヤーリング4がトラガス12によって押圧されるため、該イヤーリング4(リング4B)の前方側の端部が耳甲介の内壁13、より具体的には耳甲介艇の内壁に押し当てられ、リング4Bが弾性変形して円弧状に撓む。これにより、イヤーリング4が耳のトラガス12と耳甲介の内壁13との間で挟持されることにより、音響ダクト3は、イヤーリング4によって耳のトラガス12と耳甲介の内壁13との間で安定して挟持される。そのため、オープン型イヤホン1は、ユーザの耳にフィットした状態で確実に装着される。
【0051】
図9に示すように、本実施形態のオープン型イヤホン1は、イヤーリング4により耳のトラガス12と耳甲介の内壁13との間で音響ダクト3が挟持されるため、音響ダクト3を硬質材料で構成するとともに、その太さを外耳道よりも細くすることができる。そのため、音響ダクトに取り付けたイヤーピース等を耳に入れ込むことによって装着する従来の耳栓型のイヤホンとは異なり、音響ダクト3が外耳道11を圧迫することがない。すなわち、音響ダクト3は、外耳道11の内壁を圧迫することなく、イヤーリング4によって外耳道内にて安定して保持されることができる。そのため、ユーザは、圧迫感を感じることなく、快適な装着感を得ることができる。
【0052】
以上のように、オープン型イヤホン1がユーザの左右の耳にフィットして装着されると、スピーカー5から発せられる音声(スピーカー音)は、
図9に矢印aにて示すように、音響ダクト3の中心部に形成された第1連通路6を通って鼓膜を経て蝸牛へと伝わる。蝸牛に伝わった音の振動は、蝸牛内のリンパ液の振動となり、その振動が電気信号に変換され、聴覚神経を経て脳へと伝達され、音として認識される。また、周囲の環境音は、
図9に矢印bにて示すように、音響ダクト3に形成された溝7を通って鼓膜を経て蝸牛へと伝わり、蝸牛内のリンパ液の振動が電気信号に変換され、聴覚神経を経て脳へと伝達され、音として認識される。
【0053】
また、本実施形態に係るオープン型イヤホン1においてば、音響ダクト3には、スピーカー5と耳の外耳道11とを連通させる第1連通路6と、大気と耳の外耳道11とを連通させる溝7とが形成されているため、周囲の環境音が溝7により構成される第2連通路を通ってユーザの耳の外耳道11へと導入される。したがって、ユーザは、第1連通路6を通って外耳道へと導入されるスピーカー音と共に溝7を通って外耳道11へと導入される周囲の環境音も同時に聞くことができる。そして、スピーカー音が大気中に抜ける場合には、第1連通路6を通過してさらに第2連通路である溝7を通る必要があるため、その経路が長くなり、該スピーカー音の外部への漏れ(音漏れ)が防がれる。さらに、環境音が大きな場所でもスピーカー音をはっきりと聞くことができるとともに、タッチノイズやユーザ自身の声が響くことがない。
【0054】
また、本実施形態に係るオープン型イヤホン1は、音響ダクト3がユーザの耳の外耳道にトラガスよりも奥まで挿入した状態で挟持される。そのため、スピーカー音が音響ダクト3を通って外耳道11内に確実に導入されるため、ユーザは、環境音が大きな場所でもスピーカー音をはっきりと聞くことができるとともに、タッチノイズやユーザ自身の声が響いてしまうのを防ぐことができる。
【0055】
また、イヤーリング4を音響ダクト3(イヤホン本体2)に対して着脱可能に構成した場合には、イヤーリング4をユーザの耳の各部位や外耳道11の大きさや形状に適合するものに簡単に交換することができる。
【0056】
以上の結果、本実施形態に係るオープン型イヤホン1によれば、インナーイヤー型イヤホンとカナル型イヤホンの各デメリットを解消しつつ、両イヤホンのメリットのみを享受することができる。
【0057】
なお、本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
1:オープン型イヤホン、2:イヤホン本体、2A:上ケース、2B:下ケース、
3:音響ダクト、4:イヤーリング、
4A,4B:リング、5:スピーカー、6:第1連通路、7:溝(第2連通路)、
11:外耳道、12:トラガス、13:耳甲介の内壁
【手続補正書】
【提出日】2023-11-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカーを内蔵したイヤホン本体と、
前記イヤホン本体から斜めに延びて耳の外耳道内に挿入される音響ダクトと、
前記音響ダクトの外側面に取り付けられるイヤーリングとを備えたオープン型イヤホンであって、
前記音響ダクトには、前記スピーカーと耳の外耳道とを連通させる第1連通路と、大気と耳の外耳道とを連通させる第2連通路とが形成されており、
前記音響ダクトの前記イヤホン本体に対する傾斜角度が50°~70°であり、
前記イヤーリングは、弾性材からなる2つのリングを連結一体化して構成されており、前記2つのリングの長手方向の一端側が前記音響ダクトの外側面に取り付けられており、
前記第2連通路は、前記音響ダクトの外側面に形成された溝によって構成され、
耳の奥に入れ込んで固定するための弾性変形する部材を備えていない、
オープン型イヤホン。
【請求項2】
前記イヤーリングは、前記音響ダクトに着脱可能に取り付けられる、請求項1に記載のオープン型イヤホン。
【請求項3】
前記イヤーリングの長手方向の長さは、12~20mmである、請求項1または2に記載のオープン型イヤホン。
【請求項4】
前記イヤーリングの前記音響ダクトに対する傾斜角度は、60°~100°である、請求項1または2に記載のオープン型イヤホン。
【請求項5】
前記音響ダクトの中心軸上の長さは、5mm~13mmである、請求項1または2に記載のオープン型イヤホン。