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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012981
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】車速取得装置および異音診断システム
(51)【国際特許分類】
   G01H 3/00 20060101AFI20250117BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20250117BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20250117BHJP
【FI】
G01H3/00 A
G01M17/007 J
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116208
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 裕
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA15
2G064AA14
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】車両の位置情報と車両で発生する音のデータとから有用な車速のデータを取得可能にする。
【解決手段】本開示の車速取得装置は、予め定められた第1時間間隔で位置情報を取得すると共に、第1時間間隔よりも短い第2時間間隔で車両から発せられる音の音圧を取得し、取得した位置情報と第1および第2時間間隔とに基づいて、位置情報の取得タイミングにおける車速と、音圧の取得タイミングにおける車速を推定し、位置情報の取得タイミング間の車速の変化割合と、音圧の取得タイミング間の音圧の変化割合とに基づいて車速の推定精度を取得し、取得した推定精度を推定された音圧の取得タイミングにおける車速に紐付けする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の位置情報に基づいて前記車両の車速を取得する車速取得装置であって、
予め定められた第1時間間隔で前記位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記第1時間間隔よりも短い第2時間間隔で前記車両から発せられる音の音圧を取得する音圧取得部と、
前記位置情報取得部により取得された前記位置情報と前記第1および第2時間間隔とに基づいて、前記位置情報の取得タイミングにおける前記車速と、前記音圧の取得タイミングにおける前記車速を推定する車速推定部と、
前記車速推定部により推定された前記位置情報の取得タイミングにおける前記車速と前記第1時間間隔とに基づいて、前記位置情報の取得タイミング間の前記車速の変化割合を取得する車速変化割合取得部と、
前記音圧取得部により取得された前記音圧と前記第2時間間隔とに基づいて、前記音圧の取得タイミング間の前記音圧の変化割合を取得する音圧変化割合取得部と、
前記車速の前記変化割合と前記音圧の前記変化割合とに基づいて前記車速推定部による前記車速の推定精度を取得し、取得した前記推定精度を前記車速推定部により推定された前記音圧の取得タイミングにおける前記車速に紐付けする推定精度取得部と、
を備える車速取得装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車速取得装置において、
前記推定精度取得部は、前記車速の前記変化割合と前記音圧の前記変化割合との積値が正の値である場合、前記推定精度が高いことを示す情報を前記車速推定部により推定された前記音圧の取得タイミングにおける前記車速に紐付けする車速取得装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車速取得装置において、
前記推定精度取得部は、前記車速の前記変化割合と前記音圧の前記変化割合との一方を他方で除して得られる商が予め定められた範囲内に含まれる場合、前記推定精度が高いことを示す情報を前記車速推定部により推定された前記音圧の取得タイミングにおける前記車速に紐付けする車速取得装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車速取得装置において、
前記推定精度取得部は、前記車速の前記変化割合と前記音圧の前記変化割合との積値が正の値であり、かつ前記車速の前記変化割合と前記音圧の前記変化割合との一方を他方で除して得られる商が予め定められた範囲内に含まれる場合、前記推定精度が高いことを示す情報を前記車速推定部により推定された前記音圧の取得タイミングにおける前記車速に紐付けし、前記積値が正の値であり、かつ前記商が前記範囲内に含まれない場合、および前記積値が正の値ではなく、かつ前記商が前記範囲内に含まれる場合、前記推定精度が中程度であることを示す情報を前記車速推定部により推定された前記音圧の取得タイミングにおける前記車速に紐付けし、前記積値が正の値ではなく、かつ前記商が前記範囲内に含まれない場合、前記推定精度が低いことを示す情報を前記車速推定部により推定された前記音圧の取得タイミングにおける前記車速に紐付けする車速取得装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の車速取得装置を含む異音診断システムであって、
前記位置情報および前記車両から発せられる音のデータを取得可能であると共に、前記車速取得装置を含む携帯端末と、
前記携帯端末から送信される前記音のデータおよび前記車速取得装置により所得された前記車速に基づいて前記車両で発生した異音を診断するように機械学習により構築された診断装置とを備え、
前記診断装置は、前記携帯端末からの前記車速に紐付けられた前記推定精度に基づいて、前記異音の診断に用いる前記車速を選択する異音診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の位置情報に基づいて当該車両の車速を取得する車速取得装置およびそれを含む異音診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、GPS衛星からの電波の受信結果に基づいて車両の車速を検出するナビゲーション装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このナビゲーション装置は、車両における所定位置で集音を行うと共に、車両の走行経路の傾斜角を取得し、車速の検出結果と集音結果とに基づいて、傾斜角ごとに、車速に対応する集音結果の特徴情報を抽出する。更に、当該ナビゲーション装置は、車速と特徴情報とを関連付けした集音特性情報を傾斜角ごとに分類して記憶し、車速を検出するために必要な数のGPS衛星からの電波を受信できない場合、集音結果、走行経路の傾斜角および集音特性情報を考慮して車速を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4972211公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のナビゲーション装置では、抽出された集音結果の特徴情報や取得された傾斜角が集音特性情報に含まれていない場合、車速を推定することができない。また、集音結果の特徴情報の抽出や、集音特性情報の生成・分類の処理負担は必ずしも軽いとはいえず、しかも、車両の使用時間と共に集音特性情報のデータ容量が増加してしまう。
【0005】
そこで、本開示は、車両の位置情報と車両で発生する音のデータとから有用な車速のデータを取得可能にすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の車速取得装置は、車両の位置情報に基づいて前記車両の車速を取得する車速取得装置であって、予め定められた第1時間間隔で前記位置情報を取得する位置情報取得部と、前記第1時間間隔よりも短い第2時間間隔で前記車両から発せられる音の音圧を取得する音圧取得部と、前記位置情報取得部により取得された前記位置情報と前記第1および第2時間間隔とに基づいて、前記位置情報の取得タイミングにおける前記車速と、前記音圧の取得タイミングにおける前記車速を推定する車速推定部と、前記車速推定部により推定された前記位置情報の取得タイミングにおける前記車速と前記第1時間間隔とに基づいて、前記位置情報の取得タイミング間の前記車速の変化割合を取得する車速変化割合取得部と、前記音圧取得部により取得された前記音圧と前記第2時間間隔とに基づいて、前記音圧の取得タイミング間の前記音圧の変化割合を取得する音圧変化割合取得部と、前記車速の前記変化割合と前記音圧の前記変化割合とに基づいて前記車速推定部による前記車速の推定精度を取得し、取得した前記推定精度を前記車速推定部により推定された前記音圧の取得タイミングにおける前記車速に紐付けする推定精度取得部とを含むものである。
【0007】
本開示の異音診断システムは、上記車速取得装置を含む異音診断システムであって、前記位置情報および前記車両から発せられる音のデータを取得可能であると共に、前記車速取得装置を含む携帯端末と、前記携帯端末から送信される前記音のデータおよび前記車速取得装置により所得された前記車速に基づいて前記車両で発生した異音を診断するように機械学習により構築された診断装置とを含み、前記診断装置が、前記携帯端末からの前記車速に紐付けられた前記推定精度に基づいて、前記異音の診断に用いる前記車速を選択するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の異音診断システムを示す概略構成図である。
図2】本開示の異音診断システムによる異音診断手順を説明するためのフローチャートである。
図3】本開示の異音診断システムを構成する携帯端末による車両の車速の取得手順を説明するためのフローチャートである。
図4】本開示の異音診断システムを構成する携帯端末による車両の車速の取得手順を説明するためのタイムチャートである。
図5】本開示の異音診断システムを構成する携帯端末による車速の推定精度の導出手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
図1は、本開示の異音診断システム1を示す概略構成図である。同図に示す異音診断システム1は、動力発生源としてエンジンのみを搭載した車両や、ハイブリッド車(HEV,PHEV)、電気自動車(BEV,FCEV)といった車両100で発生した異音の原因を診断するためのものであり、携帯端末10と、当該携帯端末10と通信により情報をやり取り可能なサーバ20とを含む。
【0011】
携帯端末10は、異音が発生した車両100のユーザ(所有者)への応対や、車道あるいはテストベンチ上で車両100を走行(作動)させて異音を再現する再現テストの実施に際して、車両販売店や整備工場等の作業者(異音診断システム1のユーザ)により利用されるものである。本実施形態において、携帯端末10は、いわゆるスマートフォンであり、SoC、ROM、RAM、GPSモジュール(位置情報取得部)G、補助記憶装置(フラッシュメモリ)M、タッチパネル式の表示部11、有線または無線通信を介してサーバ20や車両100の電子制御装置と各種情報をやり取り可能な通信モジュール12、図示しないマイクロフォン等を含む。また、携帯端末10には、異音診断支援アプリケーション(プログラム)がインストールされる。そして、携帯端末10は、図1に示すように、それぞれ異音診断支援アプリケーション(ソフトウェア)と、携帯端末10のSoCといったハードウェアとの協働により構築される、問診情報取得部13、音取得部14、車両状態取得部15、演算処理部16、抽出部17および表示制御部18を含む。
【0012】
問診情報取得部13は、表示部11を介して、車両100のユーザ等から提供される異音発生時における車両100の状態を示す情報(以下、「問診情報」という。)を取得する。問診情報は、車両識別番号(車台番号)等を含む車両識別情報、ご用命事項、発生日時、発生頻度、異音の発生箇所、音の種類(擬音語)、車速等の車両100の走行に際して変化する物理量、車両100の運転状態、エンジン搭載車両における暖機影響、車両100の運転中に運転者により選択される選択項目、車両100の走行環境情報等を含み、上記作業者または車両100のユーザ等により入力される。音取得部14は、作業者により再現テストが実施される際にマイクロフォンを介して音の時間軸データを取得する。
【0013】
車両状態取得部15は、再現テストが実施される際に音取得部14による音の時間軸データの取得に同期して車両100の状態を示す情報(以下、「車両状態データ」という。)を取得すると共に、取得した車両状態データに対する処理を実行する。車両状態データは、問診情報の項目に対応した例えば車速V、エンジン回転数Ne等の複数の物理量を含む。本実施形態において、車両状態取得部15は、ケーブル等を介して携帯端末10が接続された車両100の電子制御装置等から車両状態データを取得する。また、車両状態取得部15は、GPSモジュールGからの位置情報を取得し、取得した位置情報に基づいて、車両100の車速Vを取得することができる。演算処理部16は、音取得部14により取得された音の時間軸データの解析処理を実行する。抽出部17は、作業者の選択等に応じた演算処理部16による解析結果の絞り込み等を実行する。表示制御部18は、表示部11を制御する。
【0014】
異音診断システム1のサーバ20は、CPU、ROM、RAM、入出力装置、通信モジュール等を含むコンピュータ(情報処理装置)であり、例えば上記車両100を製造する自動車製造者により設置・管理される。サーバ20には、CPU等のハードウェアと、予めインストールされた異音診断アプリケーションとの協働により、車両100で発生した異音を診断する診断装置としての異音診断部21が構築されている。異音診断部21は、携帯端末10により取得された問診情報や音の時間軸データ、車両状態データ等に基づいて車両100で発生した異音の原因や異音の発生源となった部品を診断するように教師あり学習(機械学習)により構築されたニューラルネットワーク(畳み込みニューラルネットワーク)を含む。また、サーバ20では、車両100での新たな異音の発生が判明した場合、当該新たな異音について取得された音の時間軸データや上記問診情報の各項目の内容等を教師データとする異音診断部21の再学習が実行される。
【0015】
更に、サーバ20は、車両型式ごとに、当該車両で発生することが判明している複数の異音についての情報を格納したデータベースを記憶する記憶装置22を含む。当該データベースは、複数の異音の各々に、音の時間軸データ、異音の発生原因、発生源となる部品、ユーザ等から提供された問診情報の内容、異音を解消するための対策といった情報を紐付けして格納するものである。また、サーバ20は、車両100を含む多数の車両から取得される情報や、自動車製造者(開発者等)、車両販売店、整備工場等から送信される新たに判明した異音に関する情報等に基づいて当該データベースを更新する。
【0016】
続いて、図2を参照しながら、異音診断システム1による異音診断手順について説明する。車両販売店や整備工場等の作業者は、車両100のユーザ等からの異音の解消を依頼されると、当該ユーザ等から問診情報を聞き取った上で、異音の診断に必要な情報を取得すべく再現テストを実施する。再現テストの実施に際し、作業者は、携帯端末10を車両100の電子制御装置に接続するか、あるいは携帯端末10を車両100の電子制御装置に接続することなく、携帯端末10または当該携帯端末10に接続された外部マイクロフォンを車両100の適所に載置または固定する。また、作業者は、異音診断支援アプリケーションを起動させると共に、車両100のスタートスイッチをオンする。これに伴い、携帯端末10は、車両100の車両識別番号あるいは車台番号といった情報を当該電子制御装置から取得する。更に、作業者は、表示部11に表示される録音開始ボタンをタップすると共に、車道や試験台上で車両100を走行(作動)させ、当該車両100のユーザ等からの問診情報に基づいて異音が発生した走行状態を再現する。
【0017】
車両100が走行(作動)する間、携帯端末10の音取得部14は、車両100から発せられる音の時間軸データを取得して補助記憶装置Mに記憶させる。また、車両状態取得部15は、音取得部14による音の時間軸データの取得に同期して車両100の電子制御装置から問診情報に応じて作業者により指定された車両状態データを取得し、補助記憶装置Mに記憶させる。更に、携帯端末10が車両100の電子制御装置に接続されていない場合、GPSモジュールGにより予め定められた第1時間間隔Tp(例えば、0.5-1秒程度)で車両100の位置情報(自車位置情報)が取得され、取得された位置情報が補助記憶装置Mに記憶される。そして、作業者が表示部11に表示される録音停止ボタンをタップすると、音の時間軸データや車両状態データ等の取得が完了し、携帯端末10により図2に示す一連の処理が実行される。また、携帯端末10の車両状態取得部15は、携帯端末10が車両100の電子制御装置に接続されていない場合、録音停止ボタンがタップされた後、図2の処理が開始される前に、GPSモジュールGにより取得された位置情報に基づいて車両100の車速Vを取得(推定)する。
【0018】
図2に示すように、携帯端末10の演算処理部16は、再現テストの終了後、音取得部14により取得された音の時間軸データを取得し(ステップS100)、取得した音の時間軸データにSTFT(Short-Time Fourier Transform)を施して、時間と周波数と音圧との関係を示すスペクトログラム(音響スペクトログラム)を取得する(ステップS110)。また、携帯端末10の表示制御部18は、演算処理部16により取得されたスペクトログラムを表示部11に表示させる(ステップS120)。スペクトログラムは、横軸を時間軸とし、縦軸を周波数軸とし、音圧レベルを色分けすることにより周波数ごとに時間と音圧レベルとの関係を示すカラーマップである。
【0019】
携帯端末10の表示部11にスペクトログラムが表示されると、作業者は、表示部11で、スペクトログラムのうちの異音診断部21(サーバ20)により診断(解析)されるべき範囲(以下、「診断範囲」という。)を選択(指定)する。作業者の画面操作に応じて、抽出部17は、作業者が選択した診断範囲を取得し、当該診断範囲を表示部11に表示するように表示制御部18に指示を与える(ステップS130)。また、抽出部17は、診断範囲内における車両状態データ(位置情報に基づいて取得された車速Vを含む)を読み出し(ステップS140)、読み出した車両状態データから問診情報としてサーバ20に提供すべき情報を抽出する(ステップS150)。
【0020】
ステップS150の処理の後、表示制御部18は、問診情報の入力を指示するメッセージを表示部11に表示させ、問診情報取得部13は、作業者による問診情報の入力完了後に、ステップS150にて抽出された情報と作業者により入力された情報とを最終的な問診情報として確定する(ステップS160)。問診情報が確定され、作業者が表示部11に表示される情報送信ボタンをタップすると、携帯端末10の通信モジュール12から異音の診断に必要な情報がサーバ20へと送信される(ステップS170)。本実施形態において、携帯端末10からサーバ20へと送信される情報は、少なくとも、音の時間軸データと、問診情報と、車両状態データと、作業者により選択された診断範囲を規定する情報とを含む。
【0021】
携帯端末10から異音の診断に必要な情報がサーバ20に送信されると、当該サーバ20の異音診断部21は、携帯端末10から与えられた情報に基づいて車両100で発生した異音の原因を診断し、診断結果を携帯端末10に送信する。診断結果には、車両100で発生した異音の原因、異音の発生源となった部品および記憶装置22から読み出した当該異音を解消するための対策等が含まれる。そして、サーバ20からの診断結果が携帯端末10により受信されると(ステップS180)、表示部11に当該診断結果が表示され(ステップS190)、異音の診断に際して、携帯端末10で実行される一連の処理が終了する。図2に示す処理が実行されることで、作業者は、サーバ20からの診断結果を車両100のユーザ等に的確に説明して速やかに異音対策を進めていくことができる。
【0022】
図3は、上記再現テストが実施される間に取得された車両100の位置情報に基づいて車速Vを取得するために携帯端末10の車両状態取得部15により実行されるルーチンを示すフローチャートである。
【0023】
車両100の位置情報から車速V(単位:km/h)を取得する際、携帯端末10の車両状態取得部15は、まず、再現テストが実施される間にGPSモジュールGにより第1時間間隔Tpで取得された車両100の位置情報(自車位置情報)と、再現テストが実施される間に取得された音の時間軸データから抽出された音圧のデータとを取得する(ステップS200)。音圧は、再現テストの完了後に音取得部14あるいは演算処理部16により音の時間軸データから第1時間間隔Tpよりも短い予め定められた第2時間間隔Ts(例えば、数msec-50msec程度)おきに抽出されたオーバーオール値(単位:パスカル)である。ただし、ステップS200にて取得される音圧は、パーシャルオール値であってもよく、常用対数により表現されたものであってもよい。
【0024】
また、車両状態取得部15は、位置情報の取得順序を示す変数nを“1”に設定した上で(ステップS210)、ステップS200にて取得したn番目およびn+1番目の位置情報と第1時間間隔Tpとに基づいて、当該位置情報の取得タイミングtp(n),tp(n+1)間の車両100の平均車速Va(n)を算出する(ステップS220)。ステップS220において、車両状態取得部15は、n番目およびn+1番目の位置情報から当該位置情報の取得タイミングtp(n),tp(n+1)間の車両100の移動距離を算出すると共に、算出した移動距離を第1時間間隔Tpで除して平均車速Va(n)を算出する。
【0025】
続いて、車両状態取得部15は、位置情報の取得タイミングtp(n),tp(n+1)と、当該取得タイミングtp(n),tp(n+1)間に含まれる音圧の取得タイミングts(i)おける車速V(ただし、変数iは、位置情報の取得タイミングtp(n),tp(n+1)間における音圧の取得順序を示す。)を推定し、補助記憶装置Mに記憶させる(ステップS230)。本実施形態において、車両状態取得部15は、図4に示すように、位置情報の取得タイミングtp(n),tp(n+1)間に車両100が等加速度で走行すると仮定し、平均車速Va(n)と、取得タイミングtp(n)における車速(ステップS230の前回実行時の取得タイミングtp(n+1)における車速)とに基づいて取得タイミングtp(n),tp(n+1)間の加速度を算出する。更に、車両状態取得部15は、算出した加速度と平均車速Va(n)と第1および第2時間間隔Tp,Tsとから、位置情報の取得タイミングtp(n)およびtp(n+1)における車速Vと、当該取得タイミングtp(n),tp(n+1)間に含まれる音圧の取得タイミングts(i)における車速Vを推定する。なお、位置情報の取得タイミングtp(1),tp(2)間の加速度の算出に必要な位置情報の取得開始時における初速(図4における時刻tp1における車速)は、平均車速Va(1),Va(2),Va(3)と第1時間間隔Tpとから算出することができる。また、図4の例では、位置情報の取得タイミングtp(n),tp(n+1)が、音圧の取得タイミングに一致しているが、両者は一致していなくてもよい。
【0026】
更に、車両状態取得部15は、位置情報の取得タイミングtp(n),tp(n+1)間の車速Vの変化割合ΔV(n)を算出する(ステップS240)。ステップS240において、車両状態取得部15は、ステップS230にて推定された位置情報の取得タイミングtp(n+1)における車速Vから、ステップS230にて推定された位置情報の取得タイミングtp(n)における車速Vを減じ、得られた差を第1時間間隔Tpで除することにより車速Vの変化割合ΔV(n)を算出する。また、車両状態取得部15は、変数iを“1”に設定した上で(ステップS250)、音圧の取得タイミングts(i),ts(i+1)間の音圧の変化割合ΔSP(i)を算出する(ステップS260)。ステップS260において、車両状態取得部15は、取得タイミングts(i+1)における音圧から、取得タイミングts(i)における音圧を減じ、得られた差を第2時間間隔Tsで除することにより音圧の変化割合ΔSP(i)を算出する。
【0027】
ステップS260の処理の後、車両状態取得部15は、ステップS240にて算出した車速Vの変化割合ΔV(n)と、ステップS260にて算出した音圧の変化割合ΔSP(i)との積値P(i)と、ステップS240にて算出した車速Vの変化割合ΔV(n)をステップS260にて算出した音圧の変化割合ΔSP(i)で除して得られる商Q(i)とを算出する(ステップS270)。更に、車両状態取得部15は、ステップS270にて算出した積値P(i)および商Q(i)に基づいて、ステップS230にて推定した音圧の取得タイミングts(i)における車速Vの推定精度を導出する(ステップS280)。
【0028】
図5に示すように、車両状態取得部15は、車速Vの推定精度の導出に際し、積値P(i)が正の値であるか否かを判定する(ステップS281)。積値P(i)が正の値である場合(ステップS281:YES)、車両状態取得部15は、商Q(i)が予め定められた下限値Q0以上かつ予め定められた上限値Q1以下であるか否かを判定する(ステップS282)。下限値Q0および上限値Q1は、実験解析を経て予め定められたものである。商Q(i)が下限値Q0から上限値Q1までの範囲内に含まれる場合(ステップS282:YES)、車両状態取得部15は、ステップS230にて推定した音圧の取得タイミングts(i)における車速Vの推定精度に、精度が高いことを示す“高”を設定する(ステップS283)。
【0029】
これに対して、積値P(i)が正の値であっても、商Q(i)が下限値Q0から上限値Q1までの範囲内に含まれていない場合(ステップS282:NO)、車両状態取得部15は、ステップS230にて推定した音圧の取得タイミングts(i)における車速Vの推定精度に、精度が中程度であることを示す“中”を設定する(ステップS285)。また、積値P(i)が正の値ではない場合(ステップS281:NO)、車両状態取得部15は、商Q(i)が下限値Q0以上かつ上限値Q1以下であるか否かを判定する(ステップS284)。商Q(i)が下限値Q0から上限値Q1までの範囲内に含まれる場合(ステップS284:YES)、車両状態取得部15は、ステップS230にて推定した音圧の取得タイミングts(i)における車速Vの推定精度に、精度が中程度であることを示す“中”を設定する(ステップS285)。更に、商Q(i)が下限値Q0から上限値Q1までの範囲内に含まれていない場合(ステップS284:NO)、車両状態取得部15は、ステップS230にて推定した音圧の取得タイミングts(i)における車速Vの推定精度に、精度が低いことを示す“低”を設定する(ステップS286)。
【0030】
すなわち、車両100が加速している場合、車速Vの変化割合ΔV(n)が正の値になり、音圧の変化割合ΔSP(i)は、車両100で発生する音の音圧の増加により正の値になる。従って、車両100が加速している場合、車速Vの変化割合ΔV(n)と音圧の変化割合ΔSP(i)との積値P(i)が正の値になる。また、車両100が加速している場合、車速Vの変化割合ΔV(n)を音圧の変化割合ΔSP(i)で除して得られる商Q(i)は、正の値となり、ステップS230にて音圧の取得タイミングts(i)における車速Vが精度よく推定されていれば、予め定められた下限値Q0から上限値Q1までの範囲内に含まれる。
【0031】
一方、車両100が減速している場合、車速Vの変化割合ΔV(n)が負の値になり、音圧の変化割合ΔSP(i)は、車両100で発生する音の音圧の減少により負の値になる。従って、車両100が減速している場合も、積値P(i)が正の値になる。また、車両100が減速している場合も、商Q(i)は、正の値となり、ステップS230にて音圧の取得タイミングts(i)における車速Vが精度よく推定されていれば、予め定められた下限値Q0から上限値Q1までの範囲内に含まれる。これにより、積値P(i)が正の値であり(ステップS281:YES)、かつ商Q(i)が下限値Q0から上限値Q1までの範囲内に含まれる場合(ステップS282:YES)、ステップS230にて音圧の取得タイミングts(i)における車速Vが精度よく推定されているとみなすことができる(ステップS283)。
【0032】
また、車速Vの変化割合ΔV(n)が正の値であって車両100が加速していると認められるにも拘わらず、音圧が減少している場合(例えば、図4における時刻tp2から時刻tp3までの間)や、車速Vの変化割合ΔV(n)が負の値であって車両100が減速していると認められるにも拘わらず、音圧が増加している場合には、ステップS230にて音圧の取得タイミングts(i)における車速Vが精度よく推定されていないおそれがある。従って、積値P(i)が正の値であり(ステップS281:YES)、かつ商Q(i)が下限値Q0から上限値Q1までの範囲内に含まれていない場合(ステップS282:NO)、および積値P(i)が正の値ではなく(ステップS281:NO)、かつ商Q(i)が下限値Q0から上限値Q1までの範囲内に含まれている場合(ステップS284:YES)、ステップS230にて音圧の取得タイミングts(i)における車速Vがさほど高くない精度(中程度の精度)で推定されているとみなすことができる(ステップS285)。そして、積値P(i)が正の値ではなく(ステップS281:NO)、かつ商Q(i)が下限値Q0から上限値Q1までの範囲内に含まれていない場合(ステップS284:NO)、ステップS230にて推定された音圧の取得タイミングts(i)における車速Vの推定精度が低いとみなすことができる(ステップS286)。
【0033】
車両状態取得部15は、ステップS280、すなわちステップS283,S285またはS286にて車速Vの推定精度を導出すると、導出した推定精度を示す情報をステップS230にて推定された音圧の取得タイミングts(i)における車速Vに紐付けして補助記憶装置Mに記憶させる(ステップS290)。更に、車両状態取得部15は、変数iが位置情報の取得タイミングtp(n),tp(n+1)間に含まれる音圧の取得タイミングts(i)の総数Imax以上であるか否かを判定する(ステップS300)。変数iが総数Imax未満である場合(ステップS300:NO)、車両状態取得部15は、変数iをインクリメントした上で(ステップS305)、ステップS260-S300の処理を再度実行する。
【0034】
また、変数iが総数Imax以上である場合(ステップS300:YES)、車両状態取得部15は、変数nがGPSモジュールGにより取得された位置情報の総数Nmax以上であるか否かを判定する(ステップS310)。変数nが総数Nmax未満である場合(ステップS310:NO)、車両状態取得部15は、変数nをインクリメントした上で(ステップS315)、ステップS220以降の処理を再度実行する。そして、変数nが総数Nmax以上になると(ステップS310:YES)、車両状態取得部15は、図3のルーチンを終了させ、それにより位置情報に基づく車速Vの推定が完了する。
【0035】
上述のように、異音診断システム1を構成する携帯端末10の車両状態取得部15は、位置情報に基づいて車両100の車速Vを取得する場合、再現テストが実施される間にGPSモジュールGにより第1時間間隔Tpで取得された車両100の位置情報と、再現テストが実施される間に取得された音の時間軸データから第2時間間隔Tsで抽出(取得)された音圧のデータとを取得する(ステップS200)。また、車速推定部としての車両状態取得部15は、取得した位置情報と第1および第2時間間隔Tp,Tsとに基づいて、位置情報の取得タイミングtp(n),tp(n+1)における車速Vと、取得タイミングtp(n),tp(n+1)間に含まれる音圧の取得タイミングts(i)における車速Vを推定する(ステップS220,S230)。
【0036】
更に、車速変化割合取得部としての車両状態取得部15は、推定した位置情報の取得タイミングtp(n),tp(n+1)における車速Vと第1時間間隔Tpとに基づいて、位置情報の取得タイミングtp(n),tp(n+1)間の車速Vの変化割合ΔV(n)を取得する(ステップS240)。また、音圧変化割合取得部としての車両状態取得部15は、取得した音圧と第2時間間隔Tsとに基づいて、音圧の取得タイミングts(i),ts(i+1)間の音圧の変化割合ΔSP(i)を算出する(ステップS260)。そして、推定精度取得部としての車両状態取得部15は、車速Vの変化割合ΔV(n)と音圧の変化割合ΔSP(i)とに基づいてステップS230における車速Vの推定精度を導出し(ステップS280、S281-S286)、導出した推定精度を推定した音圧の取得タイミングts(i)における車速Vに紐付けする(ステップS290)。
【0037】
すなわち、車両100が加速している場合、当該車両100で発生する音の音圧は増加する傾向にあるので、車速Vの変化割合ΔV(n)が正の値であって車両100が加速していると認められるにも拘わらず、音圧が減少している場合には、ステップS230にて車速Vが精度よく推定されていないおそれがある。また、車両100が減速している場合、当該車両100で発生する音の音圧は減少する傾向にあるので、車速Vの変化割合ΔV(n)が負の値であって車両100が減速していると認められるにも拘わらず、音圧が増加している場合には、ステップS230にて車速Vが精度よく推定されていないおそれがある。
【0038】
従って、車速Vの変化割合ΔV(n)と音圧の変化割合ΔSP(i)とから、ステップS230にて推定された車速Vの推定精度を、実態を良好に反映した適正なものとして導出することができる。そして、車速Vの変化割合ΔV(n)と音圧の変化割合ΔSP(i)とから導出された推定精度をステップS230にて推定された音圧の取得タイミングts(i)における車速Vに紐付けすることで、車両100の位置情報と車両100で発生する音のデータとから、有用な車速Vのデータを取得することが可能になる。この結果、携帯端末10では、車両100の位置情報に基づいて車速Vの取得をするために、音の特徴情報を抽出したり、音の特徴情報に関連付けされた車速の推定のための情報を生成、分類、記憶したりする必要がなくなる。
【0039】
また、推定精度取得部としての車両状態取得部15は、車速Vの変化割合ΔV(n)と音圧の変化割合ΔSP(i)との積値P(i)が正の値であり(S281:YES)、かつ車速Vの変化割合ΔV(n)を音圧の変化割合ΔSP(i)で除して得られる商Q(i)が予め定められた範囲Qo-Q1内に含まれる場合(S282:YES)、推定精度が高いことを示す情報をステップS230にて推定された音圧の取得タイミングts(i)における車速Vに紐付けする(S283,S290)。更に、車両状態取得部15は、積値P(i)が正の値であり(S281:YES)、かつ商Q(i)が範囲Qo-Q1内に含まれない場合(S282:NO)、および積値P(i)が正の値ではなく(S281:NO)、かつ商Q(i)が範囲Q0-Q1内に含まれる場合(S284:YES)、推定精度が中程度であることを示す情報をステップS230にて推定された音圧の取得タイミングts(i)における車速Vに紐付けする(S285,S290)。また、車両状態取得部15は、積値P(i)が正の値ではなく(S281:NO)、かつ商Q(i)が範囲Q0-Q1内に含まれない場合(S284:NO)、推定精度が低いことを示す情報をステップS230にて推定された音圧の取得タイミングts(i)における車速Vに紐付けする(S286,S290)。
【0040】
これにより、ステップS230にて推定された車速Vに紐付けされる推定精度の情報を、実態を良好に反映した適正なものにすることが可能になる。ただし、図5のステップS282の処理が省略されてもよく、積値P(i)が正の値である場合(S281:YES)、および商Q(i)が範囲Q0-Q1内に含まれる場合(S284:YES)に、推定精度が高いことを示す情報がステップS230にて推定された音圧の取得タイミングts(i)における車速Vに紐付けされてもよい。
【0041】
更に、異音診断システム1では、携帯端末10を車両100の適所に配置して当該車両100を走行させれば、携帯端末10を車両100の車速センサ等に接続することなく、車両100から発せられる音のデータと、位置情報に基づく車両100の車速Vとを携帯端末10により同期して取得することが可能になる。また、異音診断システム1を構成するサーバ20の異音診断部21は、携帯端末10から送信される音および位置情報に基づく車速Vのデータに基づいて車両100で発生した異音を診断する際に、携帯端末10により推定された車速Vに紐付けられている推定精度に基づいて、異音の診断に用いる車速Vを選択することができる。例えば、推定精度が低い車速Vおよび当該車速Vに対応した音圧を異音の診断対象から除外することが可能になる。これにより、異音診断部21に、車両100の位置情報から精度よく推定された車速Vに基づいて異音を診断させることができるので、異音の診断精度をより向上させることが可能になる。
【0042】
なお、図3のステップS270にて算出される商Q(i)は、音圧の変化割合ΔSP(i)を車速Vの変化割合ΔV(n)で除して得られるものであってもよい。更に、ステップS230における位置情報の取得タイミングtp(n),tp(n+1)と、当該取得タイミングtp(n),tp(n+1)間に含まれる音圧の取得タイミングts(i)おける車速Vの推定手順は、上述のものには限られない。すなわち、ステップS230では、取得タイミングtp(n),tp(n+1)における位置情報と、第1および第2時間間隔Tp,Tsとに基づいて、任意の推定手法により車速Vが推定されてもよい。また、図3および図4に示すルーチンは、再現テストにより音の時間軸データが取得される際にリアルタイムに実行されてもよく、再現テスト後にサーバ20の異音診断部21により実行されてもよい。
【0043】
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本開示の発明は、車両の製造産業等において利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 異音診断システム、10 携帯端末、14 音取得部、15 車両状態取得部、20 サーバ、21 異音診断部(診断装置)、100 車両、G GPSモジュール。
図1
図2
図3
図4
図5