(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012982
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】植物の生長を促進する微生物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20250117BHJP
A01C 1/06 20060101ALI20250117BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/20 E
A01C1/06 Z
C12N15/11 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116209
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(71)【出願人】
【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108280
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】西條 雄介
(72)【発明者】
【氏名】木戸 將太
(72)【発明者】
【氏名】松谷 峰之介
【テーマコード(参考)】
2B051
4B065
【Fターム(参考)】
2B051AB01
2B051BA02
2B051BA04
2B051BB02
2B051BB14
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AC20
4B065CA47
(57)【要約】
【課題】 苗床におけるイネ苗の生長やストレス耐性が増強され、冷害・病害などに脆弱な田植え直後の苗の活着・生長を安定・増大させることにより、栽培期間を通してイネの生長促進効果をもたらし得る共生微生物を提供すること。
【解決手段】 イネ科植物の生長を促進する微生物であって、アクロモバクター属微生物である受託番号NITE BP-03938で寄託された微生物によって達成される。また、アクロモバクター属微生物を含有し、植物の生長促進効果を備える農業用組成物であって、配列番号1で表される塩基配列と95.0%以上の相同性を有する16SrRNA遺伝子を含むことを特徴とする農業用組成物によって達成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネ科植物の生長を促進する微生物であって、アクロモバクター属微生物である受託番号NITE BP-03938で寄託された微生物。
【請求項2】
アクロモバクター属微生物を含有し、イネ科植物の生長促進効果を備え、配列番号1で表される塩基配列と95.0%以上の相同性を有する16SrRNA遺伝子を含む農業用組成物。
【請求項3】
前記アクロモバクター属微生物が請求項1に記載のものである請求項2に記載の農業用組成物。
【請求項4】
請求項2または3に記載の農業用組成物を植物種子に処理する工程を含む植物の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生長を促進する微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
植物を育てるために化学肥料を用いると、その製造に大量のエネルギーを要し、温室効果ガスの排出量が大きくなることに留意すべきである。このため、化学肥料の使用量低減は、持続可能な農業の実現に向けた喫緊の課題である。その解決策の一つとして、共生微生物の活用によって、化学肥料の使用量を低減することが提案されている。
特にイネの栽培において、育苗した苗を圃場に移植するため、安定多収を実現するには健苗を育苗することが不可欠である。特に田植え直後は様々な生物・環境ストレスに影響されやすい時期であり、苗の定着・生育を円滑に進めることが、イネのストレス耐性を高めて安定多収に繋げる上で重要な位置付けにある。様々な共生微生物が植物の生長促進、環境ストレス耐性、耐病性に貢献することが知られており、持続可能な農業を推進するためにも共生微生物の農業への実装化が求められている。例えば、イネの共生微生物を用いて、コメの生産を安定化させようとする研究開発が行われている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】再表2005-040358
【特許文献2】特開平11-089563号公報
【特許文献3】特表2023-522007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら現在のところ、有用な共生微生物資源に対する知識が少ないことに加え、実験室環境において有意な効果が認められても、圃場では共生効果が安定しない事例も多く、潜在的に有用性を持つ微生物資源を活用できずに実装化が進んでいない。
そこで、微生物の共生効果を野外環境において安定的に発現させるための方策も併せて開発することが求められている。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、苗床におけるイネ苗の生長やストレス耐性が増強され、冷害・病害などに脆弱な田植え直後の苗の活着・生長を安定・増大させることにより、栽培期間を通してイネの生長促進効果をもたらし得る共生微生物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記事情に鑑み、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。こうして上記目的を達成するための発明に係る微生物は、イネ科植物の生長を促進するものであって、アクロモバクター(Achromobacter)属微生物である受託番号NITE BP-03938で寄託されたものであることを特徴とする。植物とは、草や木などのように根があって場所が固定されて生きている生物を意味する。
また、別の発明に係る農業用組成物は、アクロモバクター属微生物を含有し、イネ科植物の生長促進効果を備え配列番号1を備えた塩基配列と95.0%以上(好ましくは97.0%以上)の相同性を有する16S rRNA遺伝子を含むことが好ましい。また、このときアクロモバクター属微生物が、受託番号NITE BP-03938であることが好ましい。
【0006】
また、別の発明に係る植物の栽培方法は、上記発明の農業用組成物を植物種子に処理する工程を含むことを特徴とする。具体的には、例えば微生物を常法通り防カビ剤で処理したイネ種子または苗に同時に接種・供与することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、植物(特にイネ)の共生微生物を用いた農業用組成物、植物の栽培技術に関するものであり、省施肥農業の推進に資する。特に、幼苗の生長を促進することで、イネの栽培期間において環境変動やストレス、病害菌の影響を最も受けやすい田植え直後の苗の活着を促進し、その後のイネの生育を圃場において安定化させ、収量も増大させられる。
特に、本菌株の接種・共生効果は、施肥が十分な条件においても低栄養の省施肥条件においても顕著に認められ、野外無施肥圃場においてもその効果を確認済みであり、省施肥栽培の推進に資する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】低栄養土壌(培土50%)において、R2A7が与える影響を調べた結果を示す写真図(左側)及び棒グラフ(右側)である。写真図の左側(A)はmockと+R2A7で生育したイネの代表写真、右側上(B)はmock、右側下(C)は+R2A7の代表的な写真をそれぞれ示す。また、グラフの上側(D)はイネの全重量を、下側(E)はイネ根の重量をそれぞれ示す。mockはコントロール群、R2A7は微生物を与えた群をそれぞれ示す。図中、「*」はコントロール(mock)と比較して、p<0.05で有意差が認められたことを示す。
【
図2】野生型イネ(WT)、ccamk変異体イネ(ccamk)についての共生細菌R2A7の有(ccamk + R2A7)無(ccamk)における植物の生育状況を調べた結果を示す写真図(左側)及び棒グラフ(右側)である。写真図の左側(A)はccamkとccamk + R2A7の代表写真、右側上(B)はccamk、右側下(C)はccamk + R2A7の代表的な写真をそれぞれ示す。図中、「*」はコントロール(WT)と比べて、p<0.01で有意差が認められたことを示す。
【
図3】ヒノヒカリの生育に対して、R2A7が与える影響を調べた結果を示すグラフである。「mock」はコントロール群、「+R2A7」はR2A7を与えた群をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明する。本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。
<試験方法と試験結果>
1.植物材料と培養条件
イネ栽培品種である日本晴(Oryza sativa L. cv. Nipponbare)を野生型として用いた。収穫・乾燥後に、4℃で保管し、使用直前に脱えいをした。菌叢解析には、奈良先端科学技術大学院大学の温室(25-30℃, 明期10時間/暗期14時間)および日本各地の野外圃場(京都府、宮城県、静岡県)で収穫された日本晴の種子を用いた。京都府産の種子のうち、施肥圃場および無施肥圃場(20年以上無施肥でイネを継続栽培)については隣接する各圃場でイネを栽培して収穫したものを用いた。イネの根をサンプリングし、共生菌叢の調査対象とした。サンプリングしたイネの表面を殺菌し、植物の内部に居る共生菌のみを対象とした。
ccamk 変異体(ccamk-2)は、TOS17 挿入系統(東北大学 南澤究博士より分譲を受けた)の種子を京都府の無施肥圃場で栽培・収穫したものを用いた。
【0010】
2.イネの水耕栽培
種子微生物存在下での播種は、脱えいした種子を防カビ剤である0.25% GF ベンレート水和剤溶液(住友化学、有効成分:ベノミル)に浸漬させ、24時間暗期、28℃で吸水させて行った。完全滅菌播種は、20%次亜塩素酸ナトリウムで1時間殺菌処理した後、滅菌水で十分に洗浄し、23時間暗期、28℃で吸水させて行った。表1には、水耕栽培に用いた培地組成と終濃度を示した。
【0011】
【0012】
50mLチューブに水耕液をいれ、水面に園芸用鉢底ネットを浮かべた。水耕液には、リン十分(+Pi;200μM)またはリン欠乏(-Pi;20μM)KH2PO4のものを使用した。吸水種子を鉢底ネットの上に各チューブ5粒静置し、地上部は空中にとどまり根のみが水中に伸びる状態でイネを栽培した。
チューブの上部はラップで封をして、人工気象器(32℃, 明期14時間/暗期10時間)で4日間または7日間栽培した。
【0013】
3.細菌株の接種試験
水田圃場で生育し、表面殺菌されたイネの根から単離された細菌株を接種実験に用いた。単離菌のグリセロールストックから2mLのNBもしくはR2A液体培地に植菌し、28℃で約24時間振盪培養(前培養)した。100μLの培養液を5mLの新たな培地に加え、さらに一晩培養した(本培養)。菌濁液を遠心分離(2000 × g、15分、20℃)後、上澄みを捨て、OD600 = 0.1となるように滅菌水を加えて菌懸濁液を調製した。
接種に用いた種子は上記方法に従い、防カビ剤もしくは20%次亜塩素酸ナトリウムで処理した。その後、滅菌水に浸漬した状態で2日間吸水させた(途中1回水交換)。育成ポットは、オートクレーブ済みの植物培養用プラントボックス(75×75×100 mm、VWR)を上下に重ねて使用した。水耕液に寒天9 g/Lを加えることで育成寒天培地とし、オートクレーブ後にプラントボックスに100 mL入れた。寒天が完全に固まった後、1ボックスにつき9個ずつ種子を播種した。その後、人工気象器(30℃、明期14時間/暗期10時間)で7日間栽培した。さらに、7日間栽培したイネの根を用いて、細菌数(CFU)の測定を行った。10 mM MgCl2でイネの根をすり潰し、破砕液から段階希釈により希釈液を調製した。R2A寒天培地に希釈液を塗布し、28℃で3日間培養してコロニー形成数(CFU)を測定した。
【0014】
【0015】
5.メタ16sシーケンス解析
防カビ剤で処理した野生型イネ種子を水耕液に播種した。4日後、根を滅菌水ですすぎ、植物体から根を切り離し、3個体以上の根を集めて1サンプルとして液体窒素により瞬間凍結させた。サンプルを凍結破砕し、NucleoSpin(登録商標)Soil(MACHERRY-NAGEL)を用いて微生物のDNAを抽出した。その後、KOD FXNeo(TOYOBO)と 515 forward、806 reverseプライマー(表2)を用いて、タッチダウンPCRによって細菌および古細菌の16S rRNA遺伝子領域を増幅した。プライマーおよびPCR サイクルは、既報(Edwards et al. 2015。Structure, variation, and assembly of the root-associatedmicrobiomes of rice. Proc Natl Acad Sci 112:E911-E920. doi:10.1073/pnas.1414592112)を参考にした。アガロースゲル電気泳動で目的のDNAのバンドを切り出し、ゲル/PCR 抽出キット(Fast Gene)を用いて精製した。以下の手順では、Illumina Miseq のプロトコル(https://support.illumina.com/documents/documentation/chemistry_documentation/16s/16s-metagenomiclibrary-prep-guide-15044223-b.pdf)に従ってサンプルDNAを調製し、MiSeq Reagent KitV3を用いてMiseqでペアエンドシーケンスを行った。
【0016】
Miseqによってシーケンスした配列は、既報(Utami et al.(2018)Phylogenetic diversity and single-cell genome analysis of “melainabacteria”, anon-photosynthetic cyanobacterial group, in the termite gut. Microbes Environ33:50-57. doi: 10.1264/jsme2.ME17137)の方法を参考に解析を行った。DADA2 v1.10.0 パッケージ(Callahan et al. 2016。DADA2: High resolution sample inference from Illumina amplicon data.Nat Methods 13:581-583. doi: 10.1038/nmeth.3869.DADA2)を用いて、トリミングおよびフィルタリングし、増幅配列の相違(ampliconsequence variants; ASVs)に基づいて分類した。得られた ASV 配列は、SINA v1.2.11(Pruesse et al.2012。SINA: Accurate high-throughput multiple sequence alignment ofribosomal RNA genes. Bioinformatics 28:1823-1829. doi:10.1093/bioinformatics/bts252)およびデータベース SILVASSURef NR99 release 132(Quast et al. 2012。The SILVA ribosomal RNA gene database project: improved dataprocessing and web-based tools. Nucleic Acids Res 41:D590-D596.doi: 10.1093/nar/gks1219)を用いて、80%以上の相同性に基づき系統的に分類した。ASV配列のうち、真核生物、ミトコンドリア、プラスチドに由来する配列およびデータベース配列に照合されなかった配列は解析から除いた。菌叢の多様性解析には、QIIME v.1.9.1(Caporaso et al. 2010。QIIME allows analysis of highthroughput community sequencing data.Nat Methods 7:335-336. doi: 10.1038/nmeth.f.303.QIIME)と、R パッケージ vega および ggplot2 を用いた。なお、メタ 16S rRNA 解析では細菌および古細菌の配列が含まれているが、一般的な呼称に則り便宜上、細菌叢解析と言う。
【0017】
6.バイオインフォマティクスによる解析
上記で得られた塩基配列について、バイオインフォマティクスを用いて、菌叢データの機械学習を行い、イネの健康状態・イネの生育に重要な共生菌の特定を行った。
7.共生菌の単離
上記で得られた解析結果により、イネの生育に重要と考えられる共生菌を単離した。この段階で600株以上の菌が得られた。
得られた共生菌について、イネ接種試験を行い、各菌について植物生長促進効果を確認した。試験には、土壌接種試験法を用いた。簡単に説明すると、次の通りであった。
イネ種子を70%アルコールにて1分間滅菌した後、室温にて2日間吸水させた。この種子を32℃にて2日間に渡って催芽させ、トレイの試験土壌(培土:赤玉土:鹿沼土=5:4:1で混合したもの。貧栄養条件)に播種した。7日後に菌液(OD600=0.1)500μLを接種し、28℃、14時間明期/10時間暗期の条件にて4週間生育した。育成後にイネの生重量を測定し、写真撮影を行った。
【0018】
8.細菌のゲノム解析
上記までの試験により、R2A7株を特定した。R2A7株のグリセロールストックから2mLのR2A液体培地に植菌し、28℃で約24時間振盪培養(前培養)した。100μLの培養液を5mLの新たな培地に加え、さらに一晩培養した(本培養)。1.5mLの菌濁液を遠心(2000×g、15分、20℃)し、沈殿した菌体からNucleoSpin(登録商標) Micronial DNA(MACHERRY-NAGEL)を用いて、ゲノムDNAを抽出した。抽出したDNAをゲノム解析に供し(東京農業大学生物資源ゲノム解析センター)、Illumina(ショートリード)を用いたアセンブリにより、全長コンティグ配列を取得した。
細菌R2A7の情報を得ることを目的に、16s rRNAのV3-V4領域の約760bpを含むDNA配列をサンガーシーケンス法によって決定した。その結果を配列番号1に示した。BLAST検索したところ、R2A7はアクロモバクター属の一種であることが分かった。
【0019】
9.R2A7の効果確認試験(1)
アクロモバクターの一部は、イネの育成を促進する微生物として知られている。但し、その詳細な情報については、十分に分かっていない。
そこで、R2A7を常法に従って防カビ剤で処理したイネ種子または発芽後1週間ほどの苗に同時に接種・供与した。苗1セルあたり、細菌株の培養懸濁液50μLずつ投与した。
図1には、低栄養土壌(培土50%)を用い、微生物無添加(mock)または微生物添加(R2A7)でイネを生育した結果を示した。左側の写真図から分かるように、定性的には、R2A7の接種によってイネの生育が良好となるように認められた。また、定量的には、イネの全体重または根重量を調べた結果、R2A7接種群はコントロールに比べ、有意に(p<0.05)生育が良好となることが分かった。
【0020】
10.R2A7の効果確認試験(2)
次に、野生型イネとccamk変異体イネとを用いて試験を行い、R2A7のCCaMK依存性について調べた。
試験方法は、上記9の方法に従い、野生型イネ(WT)、ccamk変異体イネ(ccamk)についてのR2A7接種の有無に対する効果を調べた。
図2には、野生型イネ(WT)、ccamk欠損変異体イネ(ccamk)についての共生細菌R2A7の有(ccamk + R2A7)無(ccamk)の植物の生育状況を調べた結果を示した。図表に示すように、ccamk変異体イネにR2A7を接種すると、野生型イネに比べ、有意に(p<0.01)生育が抑制されることが分かった。
CCaMK(Calcium- and calmodulin-dependent protein kinase)は、共生制御因子として知られており、菌根共生とマメ科植物に特徴的な根粒共生とに共通して必要であることが知られている。但し、CCaMKが共生微生物叢の制御に果たす役割は十分には分かっていない。今回の試験の結果、R2A7によるイネの生長促進効果は、イネのCCaMK遺伝子に依存していることが分かった。
【0021】
11.R2A7の効果確認試験(3)
次に、ヒノヒカリを用いて、R2A7が植物生育に与える影響を調べた。評価群として、コントロール群(mock)とR2A7接種群(+R2A7)を用いた。
試験方法は、上記9の方法に従った。
図3には、低栄養土壌(培土50%)を用いて、ヒノヒカリの生育状況を調べたときの接種4週間後の結果を示した。データは各群についてn = 18とし、全データと平均値(横バー)で示した。また、群間についてt検定を行い、5%未満の危険率(p < 0.05)で有意差が認められたものを「*」で示した。
今回の試験で特定されたR2A7株については、コントロール群に対して有意に育成促進効果が認められた。
上記試験の結果、R2A7は、リン欠乏土壌など低栄養土壌において、苗床から田植え直後の苗に対して顕著な生長促進効果を示した。
なお、同共生苗を無施肥水田圃場において栽培したところ、田植え直後から登熟期に至るまでイネの生長が促進される一方で収量等には負の影響は与えなかった。
【0022】
このように本実施形態によれば、苗床におけるイネ苗の生長やストレス耐性が増強され、冷害・病害などに脆弱な田植え直後の苗の活着・生長を安定・増大させることにより、栽培期間を通してイネの生長促進効果をもたらし得る微生物を提供できた。
R2A7株は、栄養素の十分・欠乏条件にかかわらず幼苗の生長を促進した。その結果、イネの栽培期間においても最も環境変動やストレス、病害菌の影響を受けやすい、田植え直後の苗の活着を促進し、イネの生育を圃場において安定化させる効果が認められた。本菌株の接種・共生効果は、無施肥水田圃場においてもその効果を確認済みであり、省施肥栽培の推進に資すると考えられた。
【配列表】