(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012986
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 21/14 20060101AFI20250117BHJP
H02P 25/022 20160101ALI20250117BHJP
【FI】
H02K21/14 M
H02P25/022
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116218
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北山 武志
(72)【発明者】
【氏名】服部 宏之
【テーマコード(参考)】
5H505
5H621
【Fターム(参考)】
5H505BB02
5H505DD08
5H505EE60
5H505FF08
5H621AA03
5H621PP10
(57)【要約】
【課題】 可動式のロータと弱め界磁制御の組み合わせによって銅損を低減する。
【解決手段】 電動機であって、ロータとステータと制御回路を有する。前記ロータが、シャフトと、ロータコアと、前記ロータの回転速度に応じて第1位置と第2位置の間で前記シャフトを中心に前記ロータコアに対して相対的に回動する可動部材を有する。前記可動部材が前記第2位置にあるときに、前記可動部材が前記第1位置にあるときよりも前記ロータコアの漏れ磁束が多い。前記可動部材が、前記回転速度が第1回転速度よりも小さいときに前記第1位置に配置され、前記回転速度が前記第1回転速度よりも大きいときに前記第2位置に配置されるように構成されている。前記制御回路が、前記回転速度が第2回転速度よりも大きいときに弱め界磁制御を実施する。前記第1回転速度が前記第2回転速度よりも小さい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機であって、
ロータと、
ステータと、
前記ステータに供給する電力を制御する制御回路、
を有し、
前記ロータが、
シャフトと、
前記シャフトに固定されたロータコアと、
前記シャフトに取り付けられており、前記ロータの回転速度に応じて第1位置と第2位置の間で前記シャフトを中心に前記ロータコアに対して相対的に回動する可動部材、
を有し、
前記可動部材が前記第2位置にあるときに、前記可動部材が前記第1位置にあるときよりも前記ロータコアの漏れ磁束が多く、
前記可動部材が、前記回転速度が第1回転速度よりも小さいときに前記第1位置に配置され、前記回転速度が前記第1回転速度よりも大きいときに前記第2位置に配置されるように構成されており、
前記制御回路が、前記回転速度が第2回転速度よりも大きいときに弱め界磁制御を実施し、
前記第1回転速度が前記第2回転速度よりも小さい、
電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、電動機に関する。
【0002】
特許文献1に開示のロータは、固定コアと可動コアを有している。可動コアは固定コアに対して相対的に回動可能とされている。可動コアには、半径方向に対して斜めに伸びる案内溝が設けられている。また、案内溝内には、ウェイトが配置されている。ロータの回転速度が高くなると、遠心力によってウェイトが半径方向外側に移動する。すると、案内溝の内面がウェイトによって押され、可動コアが固定コアに対して回動する。このように可動コアが固定コアに対して回動することで、ロータからステータまで伸びる磁束量(以下、ロータの磁束量という)が減少する。ロータの回転速度が高いときにロータの磁束量が減少することで、ステータで生じる逆起電圧が低減される。したがって、このロータを有する電動機は、高い回転速度で動作可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステータで生じる逆起電圧を低減する別の技術として、弱め界磁制御が知られている。弱め界磁制御では、ステータで生じる磁界によってロータの磁界が打ち消されるようにステータに流れる電流を制御することで、通常時(すなわち、弱め界磁制御を行っていない時)に比べてロータの磁界を弱める。これによって、ステータで生じる逆起電圧が低減され、ロータを高速で回転させることが可能となる。
図3(b)は、従来の弱め界磁制御を示している。
図3(b)に示すように、ロータの回転速度Wが上昇するのに従ってステータで生じる逆起電圧が上昇する。逆起電圧が上限値に達する回転速度W3で弱め界磁制御を実行することで、逆起電圧が低減される。したがって、回転速度W3よりも高い回転速度でロータを回転させることが可能となる。図示するように、弱め界磁制御を実行する直前(すなわち、逆起電圧が上限値に達する直前)の回転速度帯Waおいては、ステータに流れる電流が高くなり、銅損が生じる。
【0005】
本明細書では、可動式のロータと弱め界磁制御の組み合わせによって銅損を低減する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する電動機は、ロータと、ステータと、前記ステータに供給する電力を制御する制御回路、を有する。前記ロータが、シャフトと、前記シャフトに固定されたロータコアと、前記シャフトに取り付けられているとともに前記ロータの回転速度に応じて第1位置と第2位置の間で前記シャフトを中心に前記ロータコアに対して相対的に回動する可動部材、を有する。前記可動部材が前記第2位置にあるときに、前記可動部材が前記第1位置にあるときよりも前記ロータコアの漏れ磁束が多い。前記可動部材が、前記回転速度が第1回転速度よりも小さいときに前記第1位置に配置され、前記回転速度が前記第1回転速度よりも大きいときに前記第2位置に配置されるように構成されている。前記制御回路が、前記回転速度が第2回転速度よりも大きいときに弱め界磁制御を実施する。前記第1回転速度が前記第2回転速度よりも小さい。
【0007】
なお、漏れ磁束は、ロータコアから生じる磁束のうちで可動部材を介してロータコアに戻る磁束を意味する。
【0008】
この電動機では、可動部材が作動する第1回転速度が、弱め界磁制御が実行される第2回転速度よりも低い。したがって、ロータの回転速度が上昇するときに、弱め界磁制御よりも先に可動部材が作動する。すなわち、ロータの回転速度が上昇するときに、可動部材が作動し、その後に、弱め界磁制御が実行される。ロータの回転速度が上昇する場合には、可動部材が第1位置から第2位置へ移動する。これにより、ロータの磁界(すなわち、ロータからステータに達する磁界)が低減され、ステータで生じる逆起電圧が低減される。このため、ステータに流れる電流の増加が抑制され、銅損が抑制される。以上に説明したように、この電動機では、ロータの回転速度が上昇するときに、弱め界磁制御よりも先に可動部材が作動することで、弱め界磁制御の実行前において銅損が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】回転軸に平行な方向に沿って見たときの可動部材40の位置の説明図。
【
図3】回転速度と逆起電圧とステータ電流の関係を示すグラフ。
図3(a)は実施形態を示す。
図3(b)は比較例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示す電動機10は、電動車に搭載されている。電動機10は、ロータ20とステータ50と制御回路90を備えている。制御回路90は、ステータ50に交流電力を供給することで、電動機10を作動させる。電動機10は、電動車の車輪を駆動する。ステータ50は、円筒形状を有している。ロータ20は、ステータ50の径方向内側に配置されている。ロータ20は、回転軸AXを中心に回転可能に配置されている。
【0011】
ロータ20は、シャフト22、ロータコア24、及び、2つの可動部材40を有している。シャフト22は、その中心軸が回転軸AXと一致するように配置されている。ロータコア24は、円筒形状を有している。ロータコア24は、高透磁率を有する材料により構成されている。ロータコア24の中心孔内にシャフト22が挿通されている。ロータコア24は、シャフト22に固定されている。図示していないが、ロータコア24の内部には複数の磁極が配置されている。磁極は、例えば永久磁石である。複数の磁極は、回転軸AXに対して回転対称に配置されている。複数の磁極の間には、非磁極部が存在している。
【0012】
可動部材40は、回転軸AXに沿う方向においてロータコア24の両側に配置されている。言い換えると、回転軸AXに沿う方向において、2つの可動部材40の間にロータコア24が配置されている。各可動部材40の構造は等しいので、以下では、一方の可動部材40について説明する。
【0013】
可動部材40は、円筒形状を有している。可動部材40は、高透磁率を有する材料により構成されている。可動部材40の中心孔内にシャフト22が挿通されている。可動部材40は、回転軸AXを中心にしてシャフト22に対して相対的に回動することができる。
図2(a)に示すように、可動部材40は、その外周面に複数の突出部40aを備えている。周方向において、複数の突出部40aはロータコア24の複数の磁極と同じ間隔で設けられている。
【0014】
図1に示すように、可動部材40を挟んでロータコア24と反対側の位置に、ハウジング42とフレーム44が設置されている。フレーム44は、可動部材40とハウジング42の間に配置されている。フレーム44は、可動部材40の側面に固定されている。したがって、フレーム44は、可動部材40と一体となってシャフト22に対して回動する。ハウジング42は、シャフト22に固定されている。すなわち、ハウジング42は、シャフト22を介してロータコア24に対して固定されている。このため、フレーム44はハウジング42に対して相対的に回動する。
【0015】
ハウジング42のフレーム44側の側面には、複数のガイド溝42aが設けられている。
図2(a)に示すように、各ガイド溝42aは、半径方向に沿って伸びている。また、フレーム44には、複数のガイド孔44aが設けられている。
図1に示すように、各ガイド孔44aは、回転軸AXと平行な方向においてフレーム44を貫通している。
図2(a)に示すように、各ガイド孔44aは、半径方向に対して傾斜する方向に沿って伸びている。すなわち、各ガイド孔44aは、半径方向外側に向かうにしたがって周方向に変位するように伸びている。
図1に示すように、ロータ20の内部には、ガイド溝42aからガイド孔44aに跨って棒状に伸びる錘46が設けられている。錘46は、ガイド溝42a内を半径方向にスライドすることができる。各ガイド溝42a内には、バネ48が配置されている。バネ48は、錘46を半径方向内側(すなわち、回転軸AX側)に付勢している。したがって、ロータ20が停止している状態では、
図2(a)に示すように、各錘46はガイド溝42aの内周側の端部に位置している。
【0016】
図2(a)は、各錘46がガイド溝42aの内周側の端部に位置している状態を示している。また、
図2(b)は、各錘46がガイド溝42aの外周側の端部に位置している状態を示している。
図2(a)に示す状態から各錘46がガイド溝42a内を半径方向外側に向かって移動すると、各錘46がガイド孔44aの内面を押すことによりフレーム44がハウジング42に対して回動する。したがって、
図2(b)に示すように、各錘46がガイド溝42aの外周側の端部まで移動すると、フレーム44のハウジング42に対する角度が変化する。このように、ガイド溝42a内を錘46が移動することによって、フレーム44がハウジング42に対して回動する。上述したように、フレーム44は可動部材40に固定されており、ハウジング42はロータコア24に固定されている。したがって、フレーム44がハウジング42に対して回動すると、可動部材40がロータコア24に対して回動する。
【0017】
可動部材40が
図2(a)の位置に存在する状態では、軸方向において各突出部40aがロータコア24の各磁極と重複しない。したがって、各磁極の間で積極的な短絡は生じず、漏れ磁束はほとんど発生しない。このため、
図2(a)の状態では、ロータコア24からステータ50に到達する磁束が多い。可動部材40が
図2(b)の位置に存在する状態では、軸方向において各突出部40aがロータコア24の各磁極と重複する。したがって、突出部40aを介して磁路が形成され、各磁極の間で短絡が生じる。このため、
図2(b)の状態では、漏れ磁束が多く、ロータコア24からステータ50に到達する磁束が少ない。以下では、
図2(a)に示す位置を非短絡位置といい、
図2(b)に示す位置を短絡位置という。
【0018】
電動機10が駆動すると、ロータ20の全体が回転軸AX回りに回転する。ロータ20の回転速度が低いと、各錘46に加わる遠心力が小さいので、バネ48によって各錘46は
図2(a)の位置に支持されている。このため、可動部材40は非短絡位置に配置されている。このため、ロータ20の漏れ磁束が少なく、ロータ20からステータ50に到達する磁束が多い。
【0019】
ロータ20の回転速度が上昇すると、各錘46に加わる遠心力が増大する。ロータ20の回転速度が一定値を超えると、
図2(b)に示すように、各錘46がバネ48に抗してガイド溝42a内を外周側へ移動する。したがって、フレーム44及び可動部材40がハウジング42及びロータコア24に対して回動する。これにより、可動部材40が短絡位置へ移動する。その結果、ロータ20の漏れ磁束が増加し、ロータ20からステータ50に到達する磁束が減少する。その後、ロータ20の回転速度が低下すると、バネ48によって各錘46が
図2(a)の位置へ戻され、可動部材40が非短絡位置へ戻される。
【0020】
以上に説明したように、実施形態のロータ20では、高速回転時に漏れ磁束が増加し、低速回転時に漏れ磁束が減少する。高速回転時には、漏れ磁束が増加してステータ50に達する磁束が減少するので、ステータ50で生じる逆起電圧を低減することができる。したがって、ロータ20の最高回転速度を向上させることができる。
【0021】
図3(a)の第1回転速度W1は、可動部材40が非短絡位置と短絡位置との間で回動するときのロータ20の回転速度を示している。ロータ20の回転速度Wが第1回転速度W1よりも低いときは、可動部材40は非短絡位置に配置される。ロータ20の回転速度Wが第1回転速度W1以上のときは、可動部材40は短絡位置に配置される。第1回転速度W1は、錘46の質量とバネ48のばね係数等によって調整することができる。
【0022】
制御回路90は、ステータ50に交流電流を供給してロータ20を回転させる。制御回路90は、ステータ50に供給する交流電流の周波数と振幅を制御することで、ロータ20に加わるトルクとロータ20の回転速度を制御する。また、制御回路90は、通常制御と弱め界磁制御を行うことができる。通常制御では、ロータ20に対して高いトルクが加わるように電気角が制御される。弱め界磁制御では、ステータ50で生じる磁界によってロータ20の磁界が打ち消されるように電気角が制御される。このため、弱め界磁制御では、通常制御に比べてステータ50で生じる逆起電力が小さい。したがって、弱め界磁制御を行うと、ロータ20に加わるトルクが小さくなる一方で、ロータ20をより高速で回転させることが可能となる。
【0023】
図3(a)の第2回転速度W2は、通常制御と弱め界磁制御の間で制御を切り換えるときのロータ20の回転速度を示している。制御回路90は、ロータ20の回転速度Wが第2回転速度W2よりも低いときは、通常制御を実行する。制御回路90は、ロータ20の回転速度Wが第2回転速度W2以上のときは、弱め界磁制御を実行する。
【0024】
図3(a)は、実施形態の電動機10の動作を示している。また、
図3(b)は、ロータが可動部材40を有さない電動機の動作を示している。まず、比較例として、
図3(b)に示す電動機の動作について説明する。
図3(b)では、ロータの回転速度Wが回転速度W3以上のときに弱め界磁制御が実行される。
図3(b)に示すように、ロータの回転速度Wが上昇するのに従って、ステータで生じる逆起電圧が上昇する。逆起電圧が上限値に達するとそれ以上ロータの回転速度を上昇させることができなくなる。したがって、
図3(b)では、逆起電圧が上限値に達したタイミングで弱め界磁制御が開始される。弱め界磁制御が実行されると、逆起電圧が減少し、ロータの回転速度を上昇させることが可能となる。ステータに流れる電流は、逆起電圧が上限値に達する直前の回転速度帯Waにおいて上昇する。このため、回転速度帯Waにおいて高い銅損が発生する。このように、比較例では、弱め界磁制御を開始する前に高い銅損が発生するという問題が生じる。
【0025】
図3(a)に示すように、実施形態の電動機10では、可動部材40が作動する第1回転速度W1が、弱め界磁制御が開示される第2回転速度W2よりも小さい値に設定されている。したがって、ロータ20の回転速度Wが上昇するときに、逆起電圧が上限値に達するよりも早い段階(すなわち、第1回転速度W1)で可動部材40が非短絡位置から短絡位置へ移動し、ロータ20の磁束が減少する。したがって、第1回転速度W1において逆起電圧が減少する。このため、第1回転速度W1からさらにロータ20の回転速度Wを上昇させても、ステータ50に流れる電流の増加が生じない。これにより、銅損が抑制される。ロータ20の回転速度Wが第2回転速度W2に達すると、制御回路90によって弱め界磁制御が実行される。したがって、ロータ20をよりも高い回転速度で回転させることが可能となる。
【0026】
以上に説明したように、実施形態の電動機10では、弱め界磁制御の実行前のタイミングでステータ50に流れる電流の増加を抑制できる。したがって、銅損を抑制できる。このため、実施形態の電動機10は、高効率で動作することができる。
【0027】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0028】
10 :電動機
20 :ロータ
22 :シャフト
24 :ロータコア
40 :可動部材
42 :ハウジング
44 :フレーム
46 :錘
48 :バネ
50 :ステータ
90 :制御回路