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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001299
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/00 20160101AFI20241225BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20241225BHJP
   B60K 6/24 20071001ALI20241225BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241225BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20241225BHJP
   F02B 67/06 20060101ALI20241225BHJP
   F01M 1/02 20060101ALI20241225BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
B60W20/00 900
B60K6/442 ZHV
B60K6/24
B60W10/08 900
B60W10/30 900
F02B67/06 A
F01M1/02 A
F01M1/06 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100807
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】北畑 剛
(72)【発明者】
【氏名】後藤 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】金山 武司
【テーマコード(参考)】
3D202
3G313
【Fターム(参考)】
3D202AA02
3D202BB11
3D202BB46
3D202CC45
3D202DD17
3D202EE00
3D202EE01
3G313AB10
3G313BB02
3G313BC16
3G313BD16
(57)【要約】
【課題】内燃機関の始動時に油圧保持部にオイルを充填しておくことができるハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】クランク軸に連結された機械式オイルポンプと、クランク軸に連動して回転するカムと、カムに押圧されて揺動することにより内燃機関に設けられたバルブを駆動するロッカーアームと、機械式オイルポンプから油圧が供給されることにより、カムがロッカーアームを押圧する荷重の反力を受けるラッシュアジャスタと、内燃機関に連結された第1電動機と、駆動輪にトルク伝達可能に連結された第2電動機とを備え、EV走行時におけるカムの回転角が、予め定められた所定角度の範囲内で停滞している時間が所定時間以上である場合に(ステップS2でYes)、第1電動機からトルクを出力して機械式オイルポンプを駆動する(ステップS7)。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関の出力軸に連結された機械式オイルポンプと、前記内燃機関の出力軸に連動して回転するカムと、前記カムに押圧されて揺動することにより前記内燃機関に設けられたバルブを駆動するロッカーアームと、前記機械式オイルポンプから油圧が供給されることにより、前記カムが前記ロッカーアームを押圧する荷重の反力を受けるラッシュアジャスタと、前記内燃機関にトルク伝達可能に連結された第1電動機と、駆動輪にトルク伝達可能に連結された第2電動機とを備えたハイブリッド車両の制御装置であって、
前記内燃機関を停止しかつ前記第2電動機から駆動トルクを出力して走行している間における前記カムの回転角を検出し、
前記カムの回転角が予め定められた所定角度の範囲内で停滞している時間が所定時間以上である場合に、前記第1電動機からトルクを出力して前記内燃機関を回転させることにより前記機械式オイルポンプを駆動する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の出力軸に連結された機械式オイルポンプからオイルが供給される油圧保持部を備えたハイブリッド車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クランク軸から排気側カム軸や吸気側カム軸に動力を伝達するチェーンの張力を調整するためのテンショナに、内燃機関の出力軸に連結された機械式ポンプからオイルを供給するように構成されたハイブリッド車両の制御装置が記載されている。この制御装置は、内燃機関を停止した状態で電動機によって走行するEVモードが設定されている間にテンショナの油圧が低下することにより、内燃機関の始動後におけるチェーンの張力不足による異音の発生を抑制するとともに、内燃機関の始動後におけるPNの悪化を抑制するように構成されている。具体的には、EVモード時に内燃機関に作用するトルクによって回動したクランク軸の回転量を累積しておき、内燃機関を始動してから所定時間後に、上記累積されたクランク軸の回転量に基づく増加係数を、内燃機関の回転数に応じて定められる目標油圧に乗算することにより、テンショナに供給する油圧を調整するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2023-032264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された制御装置は、EVモード時のクランク軸の回転量が多い場合に、テンショナの油圧の低下量が大きいと判断している。一方、クランク軸が回転せずに、またはその回転量が微小である場合であっても、テンショナを構成する部材が振動するなどによってテンショナの油圧が低下する可能性がある。そのような場合には、特許文献1に記載された制御装置のようにEVモード時のクランク軸の回転量に基づいてテンショナの油圧の低下を判定するとすれば、EVモード時におけるクランク軸の回転量が少ないことにより、テンショナの油圧が低下していないと判断され、またはテンショナの油圧の低下量が少ないと判断される可能性があり、内燃機関の始動時におけるテンショナによる押圧力が不足して異音が発生する可能性がある。また、内燃機関の始動直後には、テンショナとオイルポンプとの間の油路内のオイルが漏洩している可能性があり、その場合には、内燃機関の始動直後におけるチェーンの押圧力が不足して異音が発生する可能性がある。
【0005】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、内燃機関の始動時に油圧保持部にオイルを充填しておくことができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明は、内燃機関と、前記内燃機関の出力軸に連結された機械式オイルポンプと、前記内燃機関の出力軸に連動して回転するカムと、前記カムに押圧されて揺動することにより前記内燃機関に設けられたバルブを駆動するロッカーアームと、前記機械式オイルポンプから油圧が供給されることにより、前記カムが前記ロッカーアームを押圧する荷重の反力を受けるラッシュアジャスタと、前記内燃機関にトルク伝達可能に連結された第1電動機と、駆動輪にトルク伝達可能に連結された第2電動機とを備えたハイブリッド車両の制御装置であって、前記内燃機関を停止しかつ前記第2電動機から駆動トルクを出力して走行している間における前記カムの回転角を検出し、前記カムの回転角が予め定められた所定角度の範囲内で停滞している時間が所定時間以上である場合に、前記第1電動機からトルクを出力して前記内燃機関を回転させることにより前記機械式オイルポンプを駆動することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明におけるハイブリッド車両の制御装置は、内燃機関を停止しかつ第2電動機の動力で走行している間におけるカムの回転角が、カムが揺動することによりラッシュアジャスタからオイルが漏洩する可能性がある所定角度の範囲内で停滞している時間が所定時間以上である場合に、第1電動機によって内燃機関を回転させて機械式オイルポンプを駆動する。したがって、第2電動機の動力で走行している間に、ラッシュアジャスタからオイルが漏洩したとしても、機械式オイルポンプが駆動されてラッシュアジャスタにオイルを供給することができ、内燃機関の動力で走行するモードに切り替わった時点で、ラッシュアジャスタにオイルを充填しておくことができる。そのため、内燃機関の始動時に、カムがロッカーアームに衝突するなどによる異音の発生を抑制できる。また、内燃機関に設けられたバルブの開閉タイミングや開弁量を適切に制御することができるため、燃費の悪化や排気の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】この発明の実施形態におけるハイブリッド車両の一例を説明するための模式図である。
図2】クランク軸から排気側カム軸および吸気側カム軸に動力を伝達する駆動機構の一例を説明するための模式図である。
図3】排気側カム軸から排気バルブに荷重を伝達する開閉機構の一例を説明するための模式図である。
図4】ラッシュアジャスタの一例を説明するための断面図である。
図5】この発明の実施形態における制御の一例を説明するためのフローチャートである。
図6】被駆動トルクと暗騒音との関係を示す図である。
図7】クランク軸を回転させ始めるために要するトルクの大きさを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明の実施形態を図を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態はこの発明を実施した場合の一例に過ぎないのであって、この発明を限定するものではない。
【0010】
この発明の実施形態におけるハイブリッド車両の一例を説明するための模式図を図1に示してある。図1に示すハイブリッド車両(以下、単に車両と記す。)Veは、エンジン1と二つのモータ2,3とを駆動力源として備えている。エンジン1は、従来の車両の駆動力源として設けられたエンジンと同様に構成することができる。すなわち、エンジン1は、図示しない吸気バルブを開弁することにより、空気を燃焼室内に取り込み、その空気と燃料とを燃焼室で混合し、その混合気を燃焼することにより動力を発生させる。また、混合気を燃焼することにより発生した排気は、図示しない排気バルブを開弁することにより、燃焼室から排出する。
【0011】
第1モータ2および第2モータ3は、従来のハイブリッド車両や電気自動車の駆動力源として設けられたモータと同様に構成することができる。すなわち、通電される電力に応じて駆動トルクを出力するモータとしての機能に加えて、出力軸が連れ回されることにより、その出力軸の動力の一部を電力に変換する発電機として機能することができるように構成されている。具体的には、永久磁石式の同期モータや誘導モータなどによって構成することができる。なお、第1モータ2が、この発明の実施形態における「第1電動機」に相当し、第2モータ3が、この発明の実施形態における「第2電動機」に相当する。
【0012】
図1に示すエンジン1の出力軸(以下、クランク軸と記す)4には、動力分割機構5が連結されている。この動力分割機構5は、エンジン1のトルクを、第1モータ2と駆動輪6とに分割するとともに、エンジン1、第1モータ2、および駆動輪6が差動回転することができるように構成されている。すなわち、動力分割機構5は、差動機構によって構成することができる。
【0013】
図1に示す動力分割機構5は、シングルピニオン型の遊星歯車機構によって構成されていて、そのキャリヤCにエンジン1が連結され、サンギヤSに第1モータ2が連結され、リングギヤRに駆動輪6が連結されている。そして、リングギヤRから駆動輪6に至るトルクの伝達経路内に、第2モータ3がトルク伝達可能に連結されている。
【0014】
なお、第1モータ2には、インバータやコンバータによって構成された第1パワーコントロールユニット7が接続され、同様に第2モータ3には、インバータやコンバータによって構成された第2パワーコントロールユニット8が接続されている。そして、第1パワーコントロールユニット7と第2パワーコントロールユニット8とが接続されるとともに、それらのパワーコントロールユニット7,8が蓄電装置9に接続されている。したがって、第1パワーコントロールユニット7と第2パワーコントロールユニット8とは、蓄電装置9との間で電力の授受を行うことができるとともに、第1パワーコントロールユニット7と第2パワーコントロールユニット8との間で蓄電装置9を介することなく、電力の授受を行うことができるように構成されている。
【0015】
上記のエンジン1は、クランク軸4の動力によって吸気バルブや排気バルブが開閉動作するように構成されている。図2および図3には、クランク軸4から吸気バルブや排気バルブに動力を伝達するための駆動機構10の一例を示してある。図2には、エンジン1の側面視を模式的に示してあり、図2に示すようにエンジン1のクランク軸4の動力は、チェーン11を介して排気側カム軸12と吸気側カム軸13とに伝達される。具体的には、クランク軸4の端部に駆動側スプロケット14が連結され、排気側カム軸12の端部に排気側スプロケット15が連結され、かつ吸気側カム軸13の端部に吸気側スプロケット16が連結され、それらのスプロケット14,15,16にチェーン11が巻き掛けられている。
【0016】
図2に示す例では、チェーン11の張力を所定の張力に維持するとともに、チェーン11の振動を抑制するための固定側ガイド17と駆動側ガイド18とが設けられている。具体的には、エンジン1の駆動時に駆動側スプロケット14から排気側スプロケット15に向けてチェーン11が進行し、吸気側スプロケット16から駆動側スプロケット14にチェーン11が進行するように設けられ、その駆動側スプロケット14と排気側スプロケット15との間の部分でチェーン11に接触するように、駆動側ガイド18が配置され、吸気側スプロケット16と駆動側スプロケット14との間の部分でチェーン11に接触するように、固定側ガイド17が設けられている。
【0017】
また、クランク軸4には、そのクランク軸4の動力によって駆動する機械式オイルポンプ(P)19が連結されている。機械式オイルポンプ19から出力されたオイルが流動する油路20には、オイルコントロールバルブ21が設けられている。そして、オイルコントロールバルブ21によって調圧されたオイルが、駆動側ガイド18に押圧力を付与するための図示しないテンショナや、後述するラッシュアジャスタ22に供給されるように構成されている。
【0018】
図3には、排気側カム軸12から排気バルブBに荷重を伝達するための開閉機構23の一例を説明するための模式図を示してあり、図3に示すように排気側カム軸12には、その軸線方向において、排気バルブBと同一位置にカム24が連結されている。上述したようにクランク軸4と排気側カム軸12とはチェーン11によって連結され、その排気側カム軸12にカム24が連結されている。したがって、カム24は、クランク軸4に連動して回転する。
【0019】
そのカム24の外周面(カム面)24aに当接するようにロッカーアーム25が配置されている。ロッカーアーム25は、カム24によって押圧されて揺動することにより、排気バルブBを押圧する部材である。ロッカーアーム25は、押圧部26と、当接部27と、反力部28とを備えている。押圧部26は、ロッカーアーム25の一方の端部であって、排気バルブBの後端部を押圧するように構成されている。当接部27は、ロッカーアーム25の長手方向における中央部分であって、外周面が円弧状に形成されかつカム面24aに当接するように構成されている。反力部28は、ロッカーアーム25の他方の端部であって、当接部27が押圧される荷重の反力を受けることによって、押圧部26が排気バルブBを押圧する荷重を発生させるように構成されている。
【0020】
なお、排気バルブBには、押圧部26から受ける荷重に対抗したバネ力を発生させるためのリターンスプリング29が設けられていて、排気バルブBの後端部と押圧部26とが常時接触する。
【0021】
反力部28による反力を発生させるためのラッシュアジャスタ22が設けられている。図4には、ラッシュアジャスタ22の構成の一例を説明するための断面図を示してある。図4に示すラッシュアジャスタ22は、図示しないシリンダヘッドに取り付けられた有底円筒状のボディ30と、そのボディ30の内部に挿入され、かつボディ30の軸線方向に往復動する有底筒状のプランジャ31とを備えている。このプランジャ31の内部には、低圧室32が形成されている。また、ボディ30の側面には、オイルコントロールバルブ21の出力側に連通する供給孔33が形成され、プランジャ31の側面には、供給孔33から流入したオイルを低圧室32に取り込むための連通孔34が形成されている。
【0022】
プランジャ31の頂部には、流出口35が形成され、流出口35を覆うようにプランジャ31の頂部にロッカーアーム25(反力部28)が当接している。したがって、低圧室32に供給されたオイルのうち余剰のオイルは流出口35から漏れ出る。また、ラッシュアジャスタ22には、プランジャ31の底部とボディ30の内壁とによって区画される高圧室36が形成されている。プランジャ31の底部には逆止弁37により開閉される弁孔38が形成されている。すなわち、プランジャ31の底部には、所定の間隔を空けて座面部39が連結され、その座面部39とプランジャ31の底部との間に収容されたスプリング40と、そのスプリング40によって弁孔38側に押圧される球状の弁体41とによって逆止弁37が構成されている。したがって、逆止弁37が開弁することにより低圧室32と高圧室36とが連通されて、低圧室32から高圧室36にオイルが流入する。
【0023】
高圧室36には、プランジャ31をボディ30から突出する方向に押圧するスプリング42が設けられている。したがって、ロッカーアーム25における反力部28とプランジャ31の頂部とが常時接触するとともに、ロッカーアーム25における反力部28をカム24側に向けて押圧している。また、上述したようにロッカーアーム25における押圧部26は、カム24側に向けて押圧されている。したがって、ロッカーアーム25がカム24に押し付けられ、ロッカーアーム25とカム24とのクリアランスが零に調整される。
【0024】
また、図1に示す車両Veには、エンジン1、および各モータ2,3を制御するための電子制御装置(以下、ECUと記す。)43が設けられている。このECU43は、従来の車両に設けられたECUと同様に、マイクロコンピュータを主体に構成されていて、入力される信号と、予め記憶されているマップや演算式などとに基づいて、エンジン1や各モータ2,3に指令信号を出力するように構成されている。
【0025】
ECU43には、例えば、クランク軸4の回転角を検出するクランク角センサの信号、車速を検出する車速センサの信号、アクセル操作量を検出するアクセル開度センサの信号、蓄電装置9の充電残量(SOC)を検出するSOCセンサの信号、各モータ2,3の回転数(回転角)を検出するレゾルバの信号、各モータ2,3の温度を検出するモータ温度センサの信号、および蓄電装置9の温度を検出するセンサの信号が入力される。
【0026】
そして、ECU43は、入力された信号に基づいて走行モードを選択する。具体的には、比較的低車速である場合やアクセル開度に基づく要求駆動力が小さい場合には、エンジン1を停止し第2モータ3の動力のみで走行するEV走行モードを選択し、比較的高車速である場合やアクセル開度に基づく要求駆動力が大きい場合には、エンジン1と第2モータ3との動力を駆動輪6に伝達して走行するHEV走行モードを選択する。または、SOCが所定量以上の場合には、EV走行モードを選択し、SOCが所定量未満の場合には、HEV走行モードを選択する。
【0027】
上記のようにEV走行モードで走行している間には、エンジン1が停止しているから機械式オイルポンプ19も同様に停止している。したがって、ラッシュアジャスタ22からオイルが漏洩し、ロッカーアーム25とカム24との隙間を零にする押圧力が不足する可能性がある。そのため、この発明の実施形態における制御装置は、EV走行モード時にラッシュアジャスタ22のオイルの漏洩を推定し、オイルの漏洩が推定された場合に、第1モータ2の回転数を制御して機械式オイルポンプ19を駆動するように構成されている。
【0028】
その制御の一例を説明するためのフローチャートを図5に示してある。図5に示す制御例では、まず、クランク角を取得する(ステップS1)。ついで、クランク角が、予め定められた所定角度の範囲内に所定時間以上継続して停滞しているか否かを判断する(ステップS2)。このステップS2は、クランク角が揺動すること、言い換えると、カム24が揺動することに伴って、ラッシュアジャスタ22のプランジャ31が、ボディ30の軸線方向に往復動してラッシュアジャスタ22からオイルが漏洩している可能性があるか否かを判断するためのステップS2である。
【0029】
したがって、ステップS2における所定角度は、カム24における回転中心からの距離が長いノーズ部とロッカーアーム25とが接触することになるクランク角の範囲に定められている。なお、カム24の回転角(位相)は、クランク角に基づいて一義的に定まる。そのため、ステップS2では、クランク角が所定角度の範囲内であることを判断しているが、カム24の回転角を検出するための手段は、クランク角に限らず、そのカム24の回転角が所定角度の範囲内であるか否かを判断することができればよい。
【0030】
また、EV走行モードを設定して走行している場合には、動力分割機構5を介してクランク軸4にトルク(被駆動トルク)λが作用して、クランク軸4が正転と逆転とを繰り返す。すなわち、クランク軸4が回転方向に振動する。その被駆動トルクλは、動力分割機構5の運動方程式により、以下の式(1)ないし式(3)で求めることができる。
【数1】
【0031】
なお、式(1)におけるJsは、サンギヤSと一体に回転する第1モータ2を含む部材の慣性モーメント、θsは、第1モータ2の回転角、Tsは、サンギヤSのトルクを示し、式(2)におけるJcは、キャリヤCと一体に回転する部材の慣性モーメント、θcは、キャリヤC(すなわちクランク軸4)の回転角、Tcは、キャリヤCのトルクを示し、式(3)におけるJrは、リングギヤRと一体に回転する部材の慣性モーメント、θrは、リングギヤRの回転角、Trは、リングギヤRのトルクを示し、式(1)ないし式(3)におけるρは、動力分割機構5のギヤ比を示している。
【0032】
そのため、例えば、サンギヤSと一体に回転する第1モータ2を含む部材の予めECU43に記憶された慣性モーメントJsと、レゾルバによって検出された第1モータ2の回転角θsを二回微分した回転角速度と、サンギヤSのトルクTsとなる第1モータ2の出力トルクと、動力分割機構5のギヤ比ρとに基づいて、被駆動トルクλを算出することができる。
【0033】
したがって、クランク角が、所定角度の範囲内に所定時間以上継続して停滞していることによりステップS2で肯定的に判断された場合は、その検出されたクランク角の信号をFFT解析し(ステップS3)、所定の周波数成分のスペクトルが所定値以上であるか否かを判断する(ステップS4)。このステップS4は、クランク角の振動(すなわち、被駆動トルクλの脈動)によってプランジャ31や弁体41が共振して、ラッシュアジャスタ22からオイルが漏洩することを推定するためのステップである。したがって、ステップS4における所定の周波数成分は、スプリング42のばね定数とプランジャ31の質量とに基づく固有振動数や、スプリング40のばね定数と弁体41の質量とに基づく固有振動数に一致する周波数成分に設定することができる。
【0034】
クランク角の振動における所定の周波数成分のスペクトルが所定値以上であることによりステップS4で肯定的に判断された場合は、ラッシュアジャスタ22からオイルが漏洩する可能性があるため、機械式オイルポンプ19を駆動することにより、機械式オイルポンプ19からラッシュアジャスタ22に至る油路20や、ラッシュアジャスタ22における低圧室32や高圧室36にオイルを充填する。
【0035】
一方、機械式オイルポンプ19を作動させることによって不可避的に異音が発生する。具体的には、被駆動トルクλが大きいほど、エンジン1を構成する部材が振動するなどによって暗騒音が大きくなる。図6には、被駆動トルクλと暗騒音との関係を示してあり、被駆動トルクλが正の領域、すなわちエンジン1の駆動時と同一方向にクランク軸4を回転させるように被駆動トルクλが作用する領域では、被駆動トルクλに比例して暗騒音が大きくなる。また、被駆動トルクλが負の領域、すなわちエンジン1の駆動時とは反対方向にクランク軸4を回転させるように被駆動トルクλが作用する領域では、そのトルクの大きさが所定トルク以下では、被駆動トルクλの増加に伴って相対的に小さい変化率で暗騒音が増加するのに対して、所定トルクよりも高トルクの領域では、車両Veのブレーキが作動することによって、その変化率が大きくなる。
【0036】
したがって、図5に示す例では、暗騒音が大きくなる場合に、機械式オイルポンプ19を駆動するように構成されている。具体的には、所定の周波数成分のスペクトルが所定値以上であることによりステップS4で肯定的に判断された場合には、続いて、被駆動トルクλが、所定トルク以上であるか否かを判断する(ステップS5)。このステップS5における所定トルクは、図6に示す暗騒音が、機械式オイルポンプ19を駆動した場合に発生する異音よりも大きくなるトルクに定めることができる。
【0037】
被駆動トルクλが、所定トルク以上であることによりステップS5で肯定的に判断された場合は、機械式オイルポンプ19を駆動するために第1モータ2からトルクを出力して(ステップS6)、このルーチンを一旦終了する。具体的には、機械式オイルポンプ19と一体に回転するクランク軸4やキャリヤCなどの部材の負荷トルク(抵抗トルク)と、それらの部材の摩擦トルクとを加算するとともに、被駆動トルクλを減算したトルク以上のトルクがクランク軸4に伝達されるように第1モータ2のトルクを制御する。
【0038】
なお、上述したステップS2、ステップS4、およびステップS5で否定的に判断された場合は、ラッシュアジャスタ22からオイルが漏洩する可能性が低く、または機械式オイルポンプ19を駆動することが適していない状況であるため、ステップS6を実行することなく、このルーチンを一旦終了する。
【0039】
上述したようにクランク角が所定角度の範囲内で停滞していることを条件として、機械式オイルポンプ19を駆動することにより、EV走行モードからHEV走行モードに切り替わる時点にもラッシュアジャスタ22にオイルを充填しておくこと、すなわちカム24とロッカーアーム25とを接触した状態にしておくことができる。そのため、HEV走行モードに切り替わったことによるエンジン始動時に、カム24がロッカーアーム25に衝突するなどによる異音の発生を抑制することができる。また、吸気側バルブや排気側バルブの開閉タイミングや開弁量を適切に制御することができるため、燃費の悪化や排気の悪化を抑制することができる。
【0040】
一方、停止時におけるクランク角に応じて、クランク軸4を回転させ始めるために要するトルクが図7に示すように異なる。具体的には、図7に示すようにエンジン始動時から、クランク角が所定角度までの間は、クランク軸4を回転させるために要するトルクが異なる。なお、図7には、所定の基準角を基準としたクランク角が0度である状態からクランク軸4を回転させるために要するトルクを実線で示し、クランク角が40度である状態からクランク軸4を回転させるために要するトルクを破線で示し、クランク角が80度である状態からクランク軸を回転させるために要するトルクを一点鎖線で示してある。
【0041】
上記のように停止したクランク軸4の角度に応じて、クランク軸4を回転させるために要するトルクが異なるため、ステップS7によって定められる第1モータ2の出力トルクは、クランク角に応じたエンジン1の負荷トルクと、機械式オイルポンプ19の負荷トルクと、キャリヤCなどの部材の負荷トルクとを合算し、かつ被駆動トルクλを減算して定めてもよい。
【0042】
上記のようにクランク角や被駆動トルクλに応じて、機械式オイルポンプ19を回転させるための第1モータ2のトルクを制御することにより、機械式オイルポンプ19を適切に回転させることができる。したがって、機械式オイルポンプ19の回転不良によってラッシュアジャスタ22におけるオイルの充填量が不足することを抑制できる。または、ラッシュアジャスタ22に十分なオイルを充填するために機械式オイルポンプ19を長期間に亘って駆動することを抑制でき、機械式オイルポンプ19を駆動することによって異音が生じる期間を短縮することができる。そのため、機械式オイルポンプ19を駆動することによって運転者が違和感を抱く期間を短縮することができる。あるいは、機械式オイルポンプ19が過剰に回転することを抑制できるため、機械式オイルポンプ19やエンジン1の回転数の増加に伴って異音が増加することを抑制でき、運転者が違和感を抱くことを抑制できる。
【0043】
また、蓄電装置9のSOCが許容下限値まで低下すると、EV走行モードからHEV走行モードに切り替えられるため、その時点でラッシュアジャスタ22にオイルが充填されていることが好ましい。そのため、SOCに応じて機械式オイルポンプ19の駆動開始を判定する閾値を変更してもよい。具体的には、SOCが小さいほど、上記ステップS5における所定トルクを小さい値に変更してもよい。
【0044】
このようにSOCに応じて機械式オイルポンプ19の駆動開始を判定する閾値を変更することにより、SOCの低下に伴ってEV走行モードからHEV走行モードに切り替わった時点でラッシュアジャスタ22にオイルを充填しておくことができ、エンジン始動時に異音が発生することを抑制できる。なお、ラッシュアジャスタ22にオイルが充填されていない状態でエンジン1を始動した際に発生する異音は、EV走行モード時に機械式オイルポンプ19を駆動することにより発生する異音よりも大きい。
【符号の説明】
【0045】
1 エンジン
2,3 モータ
4 クランク軸
6 駆動輪
10 駆動機構
11 チェーン
12 排気側カム軸
13 吸気側カム軸
14 駆動側スプロケット
15 排気側スプロケット
16 吸気側スプロケット
19 機械式オイルポンプ
22 ラッシュアジャスタ
23 開閉機構
24 カム
24a カム面
25 ロッカーアーム
26 押圧部
27 当接部
28 反力部
29 リターンスプリング
31 プランジャ
32 低圧室
36 高圧室
37 逆止弁
40,42 スプリング
41 弁体
43 電子制御装置(ECU)
B 排気バルブ
C キャリヤ
R リングギヤ
S サンギヤ
Ve 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7