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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025013013
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】真空ポンプ、及び、調整方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20250117BHJP
   F16C 32/04 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
F04D19/04 A
F16C32/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116265
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100221372
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 信治
(72)【発明者】
【氏名】西村 太貴
【テーマコード(参考)】
3H131
3J102
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA06
3H131BA07
3H131CA11
3H131CA13
3J102AA01
3J102AA09
3J102BA03
3J102BA17
3J102CA17
3J102DA03
3J102DA07
3J102DA11
3J102DA18
3J102DA29
3J102DA35
3J102GA06
(57)【要約】
【課題】筐体の側面からでも上面からでも静止側磁石の位置を調整可能とする。
【解決手段】真空ポンプ1は、ロータ3を収容する筐体部2と、磁気軸受32と、磁石ナット46と、を備える。磁気軸受32は、マグネットホルダ部16の周囲に配置された第1永久磁石41と、第1永久磁石41と径方向において対向してロータ3に配置された第2永久磁石42と、を有する。磁石ナット46は、本体部51と、突出部52と、を有する。本体部51は、マグネットホルダ部16に対して回転することで第2永久磁石42に対する第1永久磁石41の位置を調整する。突出部52は、本体部51の上面51bから突出し、外周51c側に、本体部51の上面51b側から本体部51を回転させる第1治具61によって当接可能であり、かつ、本体部51の外周51c側から本体部51を回転させる第2治具62によって当接可能である被当接面53a、53bを有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能なロータと、
前記ロータを収容する筐体部と、
前記筐体部に固定されたマグネットホルダ部の周囲に配置された第1磁石と、前記第1磁石と径方向において対向して前記ロータに配置された第2磁石と、を有する磁気軸受と、
前記第2磁石に対する前記第1磁石の位置を調整する調整部材と、を備え、
前記調整部材は、
前記マグネットホルダ部の周囲に形成された第1ネジ形状に嵌る第2ネジ形状を内周面に有し、前記マグネットホルダ部に対して回転させることで前記ロータの回転軸に沿った方向に移動して、前記第2磁石に対する前記第1磁石の位置を調整する本体部と、
前記本体部の上面から突出する突出部と、を有し、
前記突出部は、前記本体部の外周側に、前記本体部の上面側から前記本体部を回転させる第1治具によって当接可能であり、かつ、前記本体部の側面側から前記本体部を回転させる第2治具によって当接可能である被当接面を有する、
真空ポンプ。
【請求項2】
前記突出部は、前記本体部の上面側からみたときに多角形形状を有している、請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記突出部は、前記本体部の上面に複数配置され、
複数の突出部は、前記多角形形状の一部を構成する、請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記複数の突出部のそれぞれは、前記本体部の前記上面において、前記多角形形状の頂点の位置に配置される、請求項3に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記第1治具及び前記第2治具は、複数の突出部のうちいずれかの突出部の被当接面と、当該突出部に隣接する突出部の被当接面と、に当接する、請求項3に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記第1治具は、前記突出部の被当接面のうち前記多角形形状の頂点に対応する部分に当接する、請求項4に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記本体部の前記上面における前記突出部の配置数は、六の倍数である、請求項3に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
請求項1に記載の真空ポンプの調整方法であって、
上部に設けられた開口と第3磁石とを有する調整用筐体に前記ロータと前記調整部材とを収容するステップと、
第1治具を前記開口から前記調整用筐体に挿入し、前記調整用筐体に収容した前記調整部材の前記被当接面に前記第1治具を当接させて前記調整部材を回転し、前記第2磁石に対する前記第3磁石の位置を調整するステップと、
側面に吸気口が形成された前記真空ポンプの前記筐体部に前記ロータと前記調整部材とを収容するステップと、
第2治具を前記吸気口から前記筐体部に挿入し、前記筐体部に収容した前記調整部材の前記被当接面に前記第2治具を当接させて前記調整部材を回転し、前記第2磁石に対する前記第1磁石の位置を調整するステップと、
を備える、調整方法。
【請求項9】
前記第2磁石に対する前記第3磁石の位置を調整ステップの後、前記ロータのバランスを調整するステップをさらに備える、請求項8に記載の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ、及び、その調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプは、超高真空用の真空ポンプ、およびリークディテクタ用の真空ポンプ等として使用される。例えば、特許文献1に示す真空ポンプは、筐体の内部にロータを収容し、ロータを数万回転で回転させることにより真空排気を行う。
【0003】
特許文献1に示す真空ポンプでは、磁気軸受および転がり軸受によってロータが筐体に回転可能に支持されている。磁気軸受は、ロータに配置された回転体側磁石と、筐体に固定されたマグネットホルダ部に配置された静止側磁石と、を含む。転がり軸受は、回転の際のガタや異音の発生を低減するために予圧をかける必要がある。静止側磁石に対する回転体側磁石の位置を調整することによって、適切な予圧を転がり軸受にかけることができる。
【0004】
回転体側磁石の位置調整は、マグネットホルダ部に螺合された磁石ナットを回転することによって行われる。筐体には、磁石ナットの上部に吸気口が形成されており、作業者は、吸気口を介して磁石ナットの回転を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-122529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リークディテクタに用いられる真空ポンプでは、吸気口が磁石ナットの上部に設けられておらず、磁石ナットの側面に形成されている場合がある。また、真空ポンプでは、真空ポンプの筐体とは別の筐体(調整用筐体と呼ぶ)にロータを収容して、ロータの回転バランスを調整する場合がある。調整用筐体にも静止側磁石が設けられ、ロータを調整用筐体に収容する場合にも、磁石ナットによって静止側磁石の位置が調整される。
【0007】
従来の磁石ナットでは、磁石ナットを回転させるための治具が、側面又は上面のみからしか磁石ナットを保持できなかった。そのため、真空ポンプの筐体と調整用筐体とで共通の磁石ナットを使用できなかった。
【0008】
本発明は、静止側磁石を有する真空ポンプにおいて、筐体の側面からでも上面からでも静止側磁石の位置を調整可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る真空ポンプは、ロータと、筐体部と、磁気軸受と、調整部材と、を備える。ロータは、回転可能である。筐体部は、ロータを収容する。磁気軸受は、筐体部に固定されたマグネットホルダ部の周囲に配置された第1磁石と、第1磁石と径方向において対向してロータに配置された第2磁石と、を有する。調整部材は、第2磁石に対する第1磁石の位置を調整する。調整部材は、本体部と、突出部と、を有する。本体部は、マグネットホルダ部の周囲に形成された第1ネジ形状に嵌る第2ネジ形状を内周面に有し、マグネットホルダ部に対して回転させることでロータの回転軸に沿った方向に移動して、第2磁石に対する第1磁石の位置を調整する。突出部は、本体部の上面から突出する。突出部は、調整部材の外周側に、本体部の上面側から本体部を回転させる第1治具によって当接可能であり、かつ、本体部の側面側から本体部を回転させる第2治具によって当接可能である被当接面を有する。
【発明の効果】
【0010】
上記の真空ポンプでは、第1磁石の位置を調整する調整部材の本体部の上面から突出する突出部が、本体部を回転させる治具によって当接される被当接面を有している。この被当接面は、突出部において本体部の外周側に設けられ、本体部の上面側から本体部を回転させる第1治具によっても、本体部の側面側から本体部を回転させる第2治具によっても当接可能となっている。このように、調整部材は、本体部の上面側からでも側面側からでも治具を用いて回転させることができるので、調整部材の上面側からでも側面側からでも第1磁石の位置を調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】真空ポンプの断面図である。
図2】真空ポンプの上面斜視図である。
図3図1のS部拡大図である。
図4】磁石ナットの斜視図である。
図5】磁石ナットの上面図である。
図6】磁石ナットにおける突出部の配置状態を示す図である。
図7】バランス調整用筐体を示す図である。
図8】第1治具の構成を示す図である。
図9】第1治具により磁石ナットを保持した状態を示す図である。
図10】第2治具の構成を示す図である。
図11】第2治具により磁石ナットを保持した状態を示す図である。
図12】他の実施形態の第1治具を示す図である。
図13】他の実施形態の第1治具により磁石ナットを保持した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.第1実施形態
<1-1.真空ポンプの構成>
以下、図1及び図2を用いて、本開示にかかる実施の形態の真空ポンプ1について図面を参照しながら説明する。図1は、真空ポンプ1の断面図である。図2は、真空ポンプ1の上面斜視図である。真空ポンプ1は、筐体部2と、ロータ3と、モータ4と、複数のステータ翼ユニット5と、ステータ円筒部6と、を有する。
【0013】
筐体部2は、ロータ3と、モータ4と、複数のステータ翼ユニット5と、ステータ円筒部6とを収容する。筐体部2は、ケーシング7と、ベース8と、を有する。筐体部2は、アルミニウム合金または鉄等の金属によって形成されている。ケーシング7は、筒状の部材である。
【0014】
ケーシング7は、複数のステータ翼ユニット5と、ロータ3に設けられた複数段のロータ翼ユニット22と、を収容する。ケーシング7は、第1端部11と、第2端部12と、側面部13と、を有する。第1端部11は、ロータ3の軸Aに対して垂直にロータ3を覆うように配置されている。なお、図2では、第1端部11が省略されている。
【0015】
第2端部12は、ロータ3の軸A方向において、第1端部11と反対側に位置している。第2端部12は、ベース8に接続される。側面部13は、第1端部11と第2端部12を繋ぐ。ケーシング7の側面部13には、第1吸気口P11と、第2吸気口P12、P13が形成されている。第1吸気口P11は、側面部13の第1端部11近傍に形成されている。第1吸気口P11には、排気対象空間を含む排気対象装置が接続される。
【0016】
ベース8は、ケーシング7の第2端部12側の開口を塞ぐように配置されている。ケーシング7およびベース8は、ステータ円筒部6と、ロータ3に設けられているロータ円筒部23と、を収納する。ベース8は、ベース端部15を有する。ベース端部15は、ケーシング7の第2端部12に接続される。なお、ケーシング7とベース8の接続は、互いに別体の部材が接合されることを含むものとし、また、一体の部材において別々の部分が連なっていることを含むものとする。
【0017】
ベース8の側面には、排気口P21が形成されている。排気口P21には、補助ポンプが接続される。筐体部2の内部空間には、第1吸気口P11から排気口P21に至る排気経路が形成される。この排気経路に、複数の第2吸気口P12、P13が接続される。真空ポンプ1をリークディテクタとして用いる場合には、複数の第2吸気口P12、P13に、それぞれ試験体からの配管が接続される。第2吸気口P12は、タービン部Tとドラッグポンプ部Dの間に形成されている。第2吸気口P13は、ドラッグポンプ部Dの途中に形成されている。なお、第2吸気口P12、P13は、真空ポンプ1の用途によっては形成されていなくてもよい。
【0018】
ロータ3は、シャフト21と、複数段のロータ翼ユニット22と、ロータ円筒部23と、を有する。シャフト21は、ロータ3の軸A方向に延びている。以下の説明では、軸A方向のうちベース8からケーシング7に向かう方向を第1方向A1とし、その反対を第2方向A2とする。
【0019】
真空ポンプ1は、マグネットホルダ部16を有している。マグネットホルダ部16は、ケーシング7の内側に配置されている。マグネットホルダ部16は、ケーシング7の第1端部11からベース8に向かって配置されている。マグネットホルダ部16は、ケーシング7と一体に形成されている。一体に形成されているとは、例えば、同じ材料を用いて金型で成形することや、切削によって形成することである。
【0020】
マグネットホルダ部16は、外形が円柱状である。マグネットホルダ部16の第2方向A2側の端には、第1方向A1に向かって凹部16aが形成されている。凹部16aには、シャフト21の第1方向A1側の端が挿入されている。
【0021】
マグネットホルダ部16は、梁部16bを有する。梁部16bは、マグネットホルダ部16の円周方向に沿って、等間隔に3つ設けられている。梁部16bは、マグネットホルダ部16とケーシング7の側面部13とを架橋するよう形成されている。これにより、梁部16bは、側面部13にマグネットホルダ部16を支持できる。すなわち、梁部16bは、側面部13との間の距離を一定に保った状態でマグネットホルダ部16を固定する。
【0022】
ベース8の第2方向A2側の面の中央には、第1方向A1に向かって凹部8aが形成されている。真空ポンプ1は、蓋部9を有している。蓋部9は、ベース8の凹部8aを塞ぐように配置されている。
【0023】
ベース8の凹部8aの第1方向A1側の天井部分には、軸A方向に沿って貫通孔8bが形成されている。シャフト21は貫通孔8bに挿入されており、シャフト21の第2方向A2側の端は凹部8aの内側に突出している。
【0024】
真空ポンプ1は、保護軸受31と、磁気軸受32と、転がり軸受33と、を有している。
保護軸受31は、マグネットホルダ部16とシャフト21の間に配置されている。保護軸受31は、マグネットホルダ部16の凹部16aの内部に配置されている。保護軸受31は、シャフト21の第1方向A1側のラジアル方向の振れを制限するタッチダウンベアリングとして機能する。シャフト21が定常回転している状態では、シャフト21と保護軸受31は接触しておらず、大外乱が加わった場合や、回転の加速または減速時にシャフト21の振れ回りが大きくなった場合に、シャフト21が保護軸受31の内輪の内面に接触する。保護軸受31は、例えばボールベアリング等を用いることができる。
【0025】
磁気軸受32は、マグネットホルダ部16とロータ3の間に配置されている。磁気軸受32は、ロータ3を非接触支持する。磁気軸受32については後段にて詳しく説明する。
【0026】
転がり軸受33は、シャフト21とベース8の間に配置される。転がり軸受33は、ベース8に対してシャフト21を回転可能に支持する。転がり軸受33は、ベース8の貫通孔8bに配置されている。転がり軸受33は、例えばボールベアリングを用いることができる。真空ポンプ1は、シャフト21に固定されたスラストナット34を有している。スラストナット34は、シャフト21のうち貫通孔8bから突出して凹部8aの内部に位置する部分に配置されている。スラストナット34は、転がり軸受33の第2方向A2側に配置されている。後述する磁気軸受32を調整すると、ロータ3にケーシング7側に移動する力が付与されるため、スラストナット34が転がり軸受33に第1方向A1に向かって予圧を付与する。
【0027】
複数段のロータ翼ユニット22は、それぞれシャフト21に接続されている。複数段のロータ翼ユニット22は、軸A方向に互いに間隔をおいて配置されている。各々のロータ翼ユニット22は、複数のロータ翼25を含む、図示を省略するが、複数のロータ翼25の各々は、シャフト21を中心にして放射状に延びている。なお、図面においては、複数段のロータ翼ユニット22の1つ、および複数のロータ翼25の1つのみに符号が付されており、他のロータ翼ユニット22および他のロータ翼25の符号は省略されている。
【0028】
ロータ円筒部23は、シャフト21に接続されている。ロータ円筒部23は、ロータ翼ユニット22の下方に配置されている。ロータ円筒部23は、円筒状であり、軸A方向に延びている。ロータ円筒部23は、シャフト21の外周側においてシャフト21を囲むように配置されている。ロータ円筒部23の外周面は筒状の曲面である。
【0029】
モータ4は、ロータ3を回転駆動する。モータ4としては、例えば、ブラシレスモータが用いられる。モータ4は、モータロータ26と、モータステータ27と、を有する。モータロータ26は、シャフト21に取り付けられている。モータステータ27は、ベース8に取り付けられている。モータステータ27は、モータロータ26と向かい合って配置されている。
【0030】
複数段のステータ翼ユニット5は、ケーシング7の内面に接続されている。複数段のステータ翼ユニット5は、軸A方向において、互いに間隔を空けて配置されている。複数段のステータ翼ユニット5の各々は、複数段のロータ翼ユニット22の間に配置されている。各々のステータ翼ユニット5は、複数のステータ翼28を含む。図示を省略するが、複数のステータ翼28は、それぞれシャフト21を中心として放射状に延びている。
【0031】
複数段のロータ翼ユニット22と複数段のステータ翼ユニット5とは、タービン部T(ターボ分子ポンプ)を構成する。なお、図面においては、複数のステータ翼ユニット5の1つ、および複数のステータ翼28の1つのみに符号が付されており、他のステータ翼ユニット5および他のステータ翼28の符号は省略されている。
【0032】
ステータ円筒部6は、ロータ円筒部23の径方向外側に配置されている。ステータ円筒部6は、ベース8に接続されている。ステータ円筒部6は、ロータ円筒部23の径方向において、ロータ円筒部23と向かい合って配置されている。
【0033】
ステータ円筒部6の内周面には、らせん状のネジ溝が設けられている。ロータ円筒部23とステータ円筒部6は、ドラッグポンプ部D(ネジ溝ポンプ)を構成する。この真空ポンプ1では、排気対象装置の排気対象空間からのガスは、タービン部Tで排気された後、ドラッグポンプ部Dで排気され、真空ポンプ1の外に排気される。
【0034】
<1-2.磁気軸受の構成>
以下、図1図3を用いて、磁気軸受32の構成を説明する。図3は、図1のS部拡大図である。磁気軸受32は、第1永久磁石41(第1磁石の一例)と、第2永久磁石42(第2磁石の一例)と、を有している。第1永久磁石41は、マグネットホルダ部16の外周面に配置されている。第2永久磁石42は、ロータ3の内周面に固定されている。第1永久磁石41と第2永久磁石42は径方向Bにおいて対向するように配置されている。
【0035】
第1永久磁石41と第2永久磁石42はリング状である。図1では、軸A方向に沿って第1永久磁石41が3個、第2永久磁石42が3個並んで配置されているが、第1永久磁石41および第2永久磁石42の個数は特に限定されるものではない。
【0036】
第1永久磁石41と第2永久磁石42の間には隙間が形成されている。第1永久磁石41と第2永久磁石42を構成する各々のリング状磁石要素は、軸A方向の一端がN極、他端がS極になるように配置されている。積層されている第1永久磁石41のリング状磁石要素は、N極同士、またはS極同士が軸A方向おいて向かい合うように配置されている。積層されている第2永久磁石42のリング状磁石要素は、N極同士、またはS極同士が軸A方向おいて向かい合うように配置されている。第1永久磁石41と第2永久磁石42は、同じ極同士が概ね向かい合うように配置されているが、軸A方向の位置ずれによって、シャフト21にケーシング7およびベース8に対して第1方向A1に移動する力が付与され、転がり軸受33にスラストナット34によって予圧力が付与される。第1永久磁石41の第2永久磁石42に対する軸A方向における位置ズレ量を調整することによって予圧力を調整することができる。
【0037】
真空ポンプ1は、固定部材43と、皿バネ44と、バネ支持部材45と、磁石ナット46と、を更に有する。
【0038】
固定部材43は、第2永久磁石42の第1方向A1側の面に配置されている。固定部材43はリング状である。固定部材43は、ロータ3に固定されている。固定部材43は、第2永久磁石42の位置を固定するための押さえ部材である。固定部材43は、焼きばめ・冷やしばめ等によってロータ3に固定されている。
【0039】
固定部材43の第1方向A1の端部、すなわち、固定部材43の上端部には、複数のバランス調整穴43aが設けられる。複数のバランス調整穴43aは、固定部材43の円周方向に沿って設けられている。複数のバランス調整穴43aのそれぞれには、ネジが螺合するネジ山が形成されている。複数のバランス調整穴43aのいずれかにネジを螺合することで、ロータ3の重心位置を調整できる。ロータ3の重心位置を調整することで、ロータ3が回転するときの振動を低減できる。
【0040】
皿バネ44は、第1永久磁石41の第2方向A2側に配置されている。皿バネ44の第1永久磁石41と反対側の端は、マグネットホルダ部16に固定されたバネ支持部材45によって支持されている。弾性体である皿バネ44は、第1永久磁石41の第1方向A1側の面に配置された磁石ナット46とバネ支持部材45との間で第1永久磁石41を弾性支持している。なお、皿バネ44と第1永久磁石41の間にシムリングが配置されていてもよい。
【0041】
<1-3.磁石ナットの構成>
磁石ナット46(調整部材の一例)は、リング状である。磁石ナット46は、第1永久磁石41の第1方向A1側の面に配置されている。磁石ナット46は、第1永久磁石41の軸A方向における位置を調整する。磁石ナット46は、転がり軸受33に加えられる磁石の反発力による予圧力の圧力を受けるための押さえ部材といえる。磁石ナット46は、マグネットホルダ部16の外周に移動可能に配置されている。
【0042】
以下、図4図6を用いて、磁石ナット46の具体的構成を説明する。図4は、磁石ナット46の斜視図である。図5は、磁石ナット46の上面図である。図6は、磁石ナット46における突出部52の配置状態を示す図である。磁石ナット46は、本体部51と、突出部52と、を有する。
【0043】
本体部51は、磁石ナット46のうち第1永久磁石41を押さえる部分である。本体部51は、リング状である。本体部51の内周51aには雌ネジ形状(第2ネジ形状の一例)が形成されている。マグネットホルダ部16の外周面には雄ネジ形状(第1ネジ形状の一例)が形成されている。本体部51の雌ネジ形状は、マグネットホルダ部16の外周面の雄ネジ形状に嵌っている。すなわち、本体部51は、マグネットホルダ部16と螺合し、マグネットホルダ部16に対して周方向に回転することで、軸A方向に沿って移動できる。なお、本体部51と第1永久磁石41の間に、第1永久磁石41を保護するためにスペーサを配置してもよい。
【0044】
本体部51がマグネットホルダ部16に対して軸A周りに回転すると、本体部51は軸A方向に移動する。本体部51の移動によって皿バネ44で弾性支持されている第1永久磁石41が軸A方向に沿って移動する。すなわち、本体部51を回転させることによって、第2永久磁石42に対する第1永久磁石41の位置を調整することができる。
【0045】
突出部52は、本体部51の上面51bから第1方向A1に突出する。突出部52には、本体部51の外周51c側(すなわち、ロータ3と対向する側)に、本体部51を回転させる治具(第1治具61、第2治具62)により当接される第1被当接面53aと第2被当接面53bとが形成されている。本実施形態において、突出部52は、本体部51の上面51bにおいて、本体部51の円周方向に沿って等間隔に6つ設けられる。
【0046】
第1被当接面53aは、上面51b側から見たときに、突出部52の外周51c側の頂点に対応する部分から、当該突出部52に隣接する2つの突出部52のうち一方の頂点に向けて延びる。第1被当接面53aは、本体部51の上面51bにおいて、本体部51の外周51c側から内周51a側へと斜めに延びる。
【0047】
第2被当接面53bは、上面51b側から見たときに、突出部52の外周51c側の頂点に対応する部分から、当該突出部52に隣接する2つの突出部52のうち他方の頂点に向けて延びる面である。第2被当接面53bは、本体部51の上面51bにおいて、本体部51の外周51c側から内周51a側へと斜めに延びる。
【0048】
第2被当接面53bは、当該第2被当接面53bが設けられた突出部52に隣接する突出部52の第1被当接面53aと隣接する。このため、第2被当接面53bとそれに隣接する第1被当接面53aは、6つの突出部52により構成される六角形の1つの共通する辺上に配置される。
【0049】
図4図6に示すように、突出部52は、本体部51と比較すると小さい。このように、治具が当接する被当接面53a、53bを小さな突出部52に形成することで、治具により磁石ナット46を保持できるとともに、磁石ナット46を小さくできる。磁石ナット46が小さくなることで、真空ポンプ1の固有値が低下せず、真空ポンプ1で大きな振動が生じにくくなる。さらに、ケーシング7において磁石ナット46が占める割合を小さくできるので、真空ポンプ1において大きな第1永久磁石41(及び大きな第2永久磁石42)を使用でき、真空ポンプ1の排気速度を大きくできる。
【0050】
本実施形態において、突出部52は、本体部51の上面51bにおいて、本体部51の円周方向に沿って等間隔に6つ設けられる。突出部52が本体部51の円周方向に沿って等間隔に6つ設けられることで、6つの突出部52は、図6に示すように、本体部51の上面51b側から見たときに、六角形の一部を構成する。具体的には、突出部52の外周51c側の頂点が六角形の頂点に対応し、突出部52に形成された第1被当接面53aと第2被当接面53bが六角形の頂点から延びる辺に対応する。
【0051】
以下、突出部52を本体部51の上面51bに6つ(6の倍数個)設ける理由を説明する。後述するように、本体部51の上面51b側から磁石ナット46を回転させる第1治具61(図8)は、マグネットホルダ部16に設けられた3つの梁部16bにより形成された3つの空間を通じて、突出部52の被当接面53a、53bと当接するための3つの当接部を有している。この第1治具により安定して磁石ナット46を保持するには、3つの当接部のそれぞれが、少なくとも1つの突出部52の被当接面53a、53bと当接していることが好ましい。このため、本体部51の上面51bに設ける突出部52の個数は、3の倍数であることが好ましい。
【0052】
その一方、本体部51の側面(外周51c)側から磁石ナット46を回転させる第2治具62(図10)は、突出部52の被当接面53a、53bと当接するための2つの当接部を有している。この第2治具により安定して磁石ナット46を保持するには、2つの当接部のそれぞれが、少なくとも1つの突出部52の被当接面53a、53bと当接していることが好ましい。このため、本体部51の上面51bに設ける突出部52の個数は、2の倍数であることが好ましい。
【0053】
これらの結果、第1治具と第2治具の両方により安定して磁石ナット46を保持するためには、本体部51の上面51bに設ける突出部52の個数は、2の倍数であり、かつ、3の倍数である、すなわち、6の倍数(2と3の公倍数)であることが好ましい。
【0054】
<2.バランス調整用筐体>
次に、バランス調整用筐体70を説明する。本実施形態において、ロータ3のバランス調整(重心位置の調整)は、バランス調整用筐体70にロータ3を収納した状態で行われる。以下、図7を用いて、バランス調整用筐体70の構成を説明する。図7は、バランス調整用筐体70を示す図である。
【0055】
バランス調整用筐体70は、筐体部2’に第1端部がなく、筐体部2’の内部空間にアクセス可能な開口OPが筐体部2’のケーシング7’の上面に設けられている以外、上記にて説明した真空ポンプ1と同様の構成を有している。従って、バランス調整用筐体70のその他の構成要素についての説明は省略する。
【0056】
ケーシング7’に開口OPが設けられることで、ユーザは、開口OPを介して、真空ポンプ1の上部から複数のバランス調整穴43aにアクセスして、いずれかのバランス調整穴43aにネジを挿入する、又は、いずれかのバランス調整穴43aに挿入されたネジを取り外して、ロータ3のバランスを調整できる。
【0057】
また、真空ポンプ1の上部の開口OPから第1治具61を挿入し、第1治具61により、本体部51の上面51b側から磁石ナット46を保持して回転させることができる。
【0058】
なお、以下の説明において、バランス調整用筐体70において、真空ポンプ1の第1永久磁石41に対応する部分を「第3永久磁石41’」と呼ぶ。また、バランス調整用筐体70において、真空ポンプ1のマグネットホルダ部16に対応する部分を「マグネットホルダ部16’」と呼び、梁部16bに対応する部分を「梁部16b’」と呼ぶ。
【0059】
<3.第1治具>
以下、図8を用いて、第1治具61を説明する。図8は、第1治具61の構成を示す図である。第1治具61は、磁石ナット46の本体部51の上面51b側から本体部51を回転させる際に用いられる治具である。第1治具61は、第1把持部61aと、3つの第1当接部61bと、を有する。
【0060】
第1把持部61aは、一方向に長い棒状部材である。第1把持部61aは、例えば、一方向に長い円筒形状を有する。第1把持部61aは、第1治具61により本体部51を回転させるときに、ユーザにより把持される。
【0061】
3つの第1当接部61bは、それぞれ、第1把持部61aの長手方向の一端から分岐し、第1把持部61aの長手方向に延びる部分である。3つの第1当接部61bは、第1把持部61aの周方向に対して等間隔に配置される。各第1当接部61bは、当接面611を有する。当接面611は、第1治具61を本体部51の上面51b側から挿入したときに、磁石ナット46の突出部52の第1被当接面53a及び第2被当接面53bと当接する。
【0062】
上記構成を有する第1治具61は、バランス調整用筐体70にロータ3を収納し、磁石ナット46を取り付けた際に、磁石ナット46の位置を調整する場合に用いられる。具体的には、筐体部2’の開口OPを介して、第1治具61を本体部51の上面51b側から挿入し、第1治具61の各第1当接部61bを、互いに隣接する2つの梁部16b’の間に形成される空間に挿入する。各第1当接部61bが挿入される各空間からは、磁石ナット46の本体部51の上面51bに設けられた6つの突出部52のうち、互いに隣接する2つの突出部52を目視できる。また、上記にて説明したように、互いに隣接する2つの突出部52のうち一方の第1被当接面53aと、他方の第2被当接面53bとは、互いに隣接し、6つの突出部52により構成される六角形の1つの辺上に配置される。従って、2つの梁部16b’の間に第1当接部61bを挿入した場合、図9に示すように、第1当接部61bの当接面611は、互いに隣接する2つの突出部52のうち一方の第1被当接面53aと他方の突出部52の第2被当接面53bとに当接する。図9は、第1治具61により磁石ナット46を保持した状態を示す図である。
【0063】
図4図6などに示すように、互いに隣接する2つの突出部52のうち一方の第1被当接面53aと他方の第2被当接面53bとは、互いに離れて存在する。このため、第1治具61の各第1当接部61bは、上記の互いに隣接する第1被当接面53aと第2被当接面53bとに当接することで、離れた2点で本体部51を保持できる。この結果、第1治具61は、本体部51(磁石ナット46)を安定して保持できる。
【0064】
<4.第2治具>
以下、図10を用いて、第2治具62を説明する。図10は、第2治具62の構成を示す図である。第2治具62は、磁石ナット46の本体部51の側面(外周51c)側から本体部51を回転させる際に用いられる治具である。第2治具62は、第2把持部62aと、2つの第2当接部62bと、を有する。
【0065】
第2把持部62aは、一方向に長い部材である。第1把持部61aは、例えば、一方向に長い板状部材である。第2把持部62aは、第2治具62により本体部51を回転させるときに、ユーザにより把持される。
【0066】
2つの第2当接部62bは、それぞれ、第2把持部62aの長手方向の一端から分岐し、第2把持部62aの長手方向に延びる。2つの第2当接部62bは、磁石ナット46の本体部51の内周51aの直径よりも大きく、外周51cの直径よりも小さい。各第2当接部62bは、当接面621を有する。当接面621は、第2治具62を本体部51の外周51c側から挿入したときに、磁石ナット46の突出部52の第1被当接面53a及び第2被当接面53bと当接する。
【0067】
上記構成を有する第2治具62は、真空ポンプ1の筐体部2にロータ3を収納し、磁石ナット46を取り付けた際に、磁石ナット46の位置を調整する場合に用いられる。具体的には、図11に示すように、真空ポンプ1の第1吸気口P11を介して、第2治具62を本体部51の外周51c側から挿入し、第2治具62の2つの第2当接部62bの間に4つの突出部52を挟み込む。2つの第2当接部62bの間に4つの突出部52を挟み込むことで、第2治具62の各第2当接部62bの当接面621は、挟み込んだ4つの突出部52のうち互いに隣接する2つの突出部52のうち一方の第1被当接面53aと他方の突出部52の第2被当接面53bとに当接する。このようにして、第2治具62は、2つの第2当接部62bの間に4つの突出部52を挟んだ状態で、磁石ナット46を保持できる。図11は、第2治具62により磁石ナット46を保持した状態を示す図である。
【0068】
上記のように、第2治具62の各第2当接部62bは、互いに隣接する第1被当接面53aと第2被当接面53bとに当接することで、離れた2点で本体部51を保持できる。この結果、第2治具62は、本体部51(磁石ナット46)を安定して保持できる。
【0069】
<5.真空ポンプの調整方法>
次に、真空ポンプ1の調整方法を説明する。真空ポンプ1の調整は、ロータ3のバランス調整と、バランス調整後のロータ3を筐体部2に収納した状態での真空ポンプ1の調整と、を含む。以下、真空ポンプ1の調整方法を詳細に説明する。
【0070】
まず、ロータ3のバランス調整を行うために、ロータ3をバランス調整用筐体70の内部空間に収納する。また、磁石ナット46を、バランス調整用筐体70のマグネットホルダ部16’に取り付ける。その後、磁石ナット46をマグネットホルダ部16’に対して回転させて、ロータ3の第2永久磁石42に対する、バランス調整用筐体70の第3永久磁石41’の位置を調整する。これにより、バランス調整用筐体70の転がり軸受33’に加えられる予圧力を調整できる。転がり軸受33’に加えられる予圧力は、例えば、バランス調整用筐体70のスラストナット34’に取り付けられたフォースゲージを用いて測定できる。
【0071】
上記で説明したように、バランス調整用筐体70には、ロータ3のバランス調整穴43aにアクセスするために、筐体部2’のケーシング7’の上面に開口OPが設けられている。従って、ロータ3のバランス調整時には、マグネットホルダ部16’に取り付けられた磁石ナット46を回転させるために、本体部51の上面51b側から磁石ナット46を回転させる第1治具61が用いられる。
【0072】
具体的には、上記で説明した第1治具61を、バランス調整用筐体70の上部の開口OPからバランス調整用筐体70の内部空間に挿入し、バランス調整用筐体70の内部空間に収容した磁石ナット46の被当接面53a、53bに第1治具61の第1当接部61bの当接面611を当接させる。具体的には、図9を用いて説明したように、第1治具61の各第1当接部61bを、バランス調整用筐体70の互いに隣接する2つの梁部16b’の間に形成される空間に挿入し、各第1当接部61bの当接面611を、互いに隣接する2つの突出部52のうち一方の第1被当接面53aと他方の突出部52の第2被当接面53bとに当接させる。
【0073】
上記のようにして第1治具61により磁石ナット46を保持した状態で、第1治具61の第1把持部61aを長手方向の軸周りに回転させることで、磁石ナット46をマグネットホルダ部16’に対して回転させて、ロータ3の第2永久磁石42に対する第3永久磁石41’の位置を調整できる。
【0074】
ロータ3の第2永久磁石42に対する第3永久磁石41’の位置を調整後、ロータ3のバランスを調整する。具体的には、ロータ3に設けられた複数のバランス調整穴43aのいずれかにネジを挿入する、又は、いずれかのバランス調整穴43aに挿入されたネジを取り外して、ロータ3の径方向(軸Aとは垂直な方向)及び周方向における重心位置を調整して、ロータ3の重心位置をロータ3の中心位置に一致させる。なお、ロータ3の重心位置は、例えば、ロータ3を軸A周りに回転させたときに発生する振動に基づいて推定できる。
【0075】
ロータ3のバランスを調整後、バランスを調整したロータ3と磁石ナット46を、真空ポンプ1に組み込む。具体的には、バランス調整後のロータ3を真空ポンプ1の筐体部2に収納し、磁石ナット46を真空ポンプ1のマグネットホルダ部16に取り付ける。その後、磁石ナット46をマグネットホルダ部16に対して回転させて、ロータ3の第2永久磁石42に対する、真空ポンプ1の第1永久磁石41の位置を調整する。これにより、真空ポンプ1の転がり軸受33に加えられる予圧力を調整できる。転がり軸受33に加えられる予圧力は、例えば、真空ポンプ1のスラストナット34に取り付けられたフォースゲージを用いて測定できる。
【0076】
上記にて説明したように、真空ポンプ1においては、筐体部2のケーシング7の上面は第1端部11により閉じられている。このため、ロータ3を真空ポンプ1の筐体部2に収納した場合、第1治具61を用いて磁石ナット46にアクセスできない。その一方、筐体部2の側面部13には、第1吸気口P11が設けられている。この第1吸気口P11からは、本体部51の側面(外周51c)側から磁石ナット46にアクセス可能となっている。従って、バランス調整後のロータ3を真空ポンプ1に組み込む場合には、マグネットホルダ部16に取り付けた磁石ナット46を回転させるために、本体部51の外周51c側から磁石ナット46を回転させる第2治具62が用いられる。
【0077】
具体的には、上記で説明した第2治具62を、筐体部2の側面部13に設けられた第1吸気口P11から筐体部2の内部空間に挿入し、筐体部2の内部空間に収容した磁石ナット46の被当接面53a、53bに、第2治具62の第2当接部62bの当接面621を当接させる。具体的には、図11を用いて説明したように、第2治具62の2つの第2当接部62bの間に磁石ナット46の4つの突出部52を挟みこみ、それぞれの第2当接部62bの当接面621を、挟み込んだ4つの突出部52のうち互いに隣接する2つの突出部52のうち一方の第1被当接面53aと他方の突出部52の第2被当接面53bとに当接させる。
【0078】
上記のようにして第2治具62により磁石ナット46を保持した状態で、第2治具62の第2把持部62aを水平方向に移動させることで、磁石ナット46をマグネットホルダ部16に対して回転させて、ロータ3の第2永久磁石42に対する第1永久磁石41の位置を調整できる。以上のようにして、バランス調整後のロータ3及び磁石ナット46を真空ポンプ1へ組み込むことができる。
【0079】
上記の真空ポンプ1では、第1永久磁石41、第3永久磁石41’の位置を調整する磁石ナット46の本体部51の上面51bから突出する突出部52が、本体部51を回転させる治具によって当接される被当接面53a、53bを有している。この被当接面53a、53bは、突出部52において本体部51の外周51c側に設けられ、本体部51の上面51b側から本体部51を回転させる第1治具61によっても、本体部51の側面(外周51c)側から本体部51を回転させる第2治具62によっても当接可能となっている。このように、磁石ナット46は、本体部51の上面側からでも側面側からでも回転させることができるので、磁石ナット46の上面側からでも側面側からでも第1永久磁石41、第3永久磁石41’の位置を調整することができる。
【0080】
例えば、筐体部2’の上部に開口OPが設けられているバランス調整用筐体70にロータ3を収納する場合、すなわち、ロータ3のバランス調整時には、本体部51の上面51b側から本体部51を回転させる第1治具61を用いて、バランス調整用筐体70の上面から第3永久磁石41’の位置を調整できる。
【0081】
一方、側面部13に第1吸気口P11が設けられている真空ポンプ1の筐体部2にロータ3を収納する場合、すなわち、ロータ3を真空ポンプ1に組み込む時には、本体部51の側面(外周51c)側から本体部51を回転させる第2治具62を用いて、真空ポンプ1の側面から第1永久磁石41の位置を調整できる。
【0082】
2.他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0083】
上記実施形態では、磁石ナット46の本体部51の上面51bには、6つの突出部52が設けられているが、これに限られない。突出部52の数は、六の倍数であればよく、例えば、12、18などであってもよい。
【0084】
マグネットホルダ部16に梁部16bが設けられるか否か、又は、梁部16bの数(すなわち、梁部16bにより形成される空間の数)などにより、突出部52の個数、及び/又は、突出部52と被当接面53a、53bにより構成される多角形の形状(頂点の数)は任意とできる。
【0085】
上記実施形態では、複数個(6つ)の突出部52が、多角形形状の一部を構成するよう、本体部51の上面51bにおいて所定の間隔を空けて配置されていた。これに限られず、多角形の全体形状を有する1つの突出部52を、本体部51の上面51bに配置してもよい。
【0086】
本体部51の上面51b側から磁石ナット46を回転させる第1治具61は、図7及び図8を用いて説明した構成に限らない。例えば、第1治具61’は、図12に示すような構成を有してもよい。図12は、他の実施形態の第1治具61’を示す図である。第1治具61’は、第3把持部61a’と、3つの第3当接部61b’と、を有する。
【0087】
第3把持部61a’は、一方向に長い棒状部材である。第3把持部61a’は、第1治具61’により本体部51を回転させるときに、ユーザにより把持される。
【0088】
3つの第3当接部61b’は、それぞれ、第3把持部61a’の長手方向の一端から分岐し、第3把持部61a’の長手方向に延びる部分である。3つの第3当接部61b’は、第3把持部61a’の周方向に対して等間隔に配置される。各第3当接部61b’は、当接面611’を有する。当接面611’は、磁石ナット46の突出部52の頂点部分に対応した形状を有する。当接面611’は、第1治具61’を本体部51の上面51b側から挿入したときに、磁石ナット46の1つの突出部52の被当接面(第1被当接面53a、第2被当接面53b)のうち、六角形の頂点に対応する部分に当接する。すなわち、当接面611’は、1つの突出部52の頂点部分に当接する。
【0089】
上記構成を有する第1治具61’を用いて、バランス調整用筐体70に取り付けられた磁石ナット46を保持して回転させる場合、バランス調整用筐体70の開口OPを介して、第1治具61’を本体部51の上面51b側から挿入し、第1治具61’の各第3当接部61b’を、互いに隣接する2つの梁部16b’の間に形成される空間に挿入する。次に、図13に示すように、第3当接部61b’の当接面611’を、1つの突出部52の頂点部分に存在する第1被当接面53aと第2被当接面53bとに当接させる。図13は、他の実施形態の第1治具61’により磁石ナット46を保持した状態を示す図である。
【0090】
図13に示すように、第1治具61’の第3当接部61b’は、第1実施形態にて説明した第1治具61の第1当接部61bと比較して細くなっている。このため、第3当接部61b’は、互いに隣接する2つの梁部16b’の間の空間において、より大きく移動できる。この結果、第1治具61’は、第1治具61’を一旦バランス調整用筐体70に挿入すれば、磁石ナット46を保持し直すことなく、広い角度範囲で磁石ナット46を回転できる。すなわち、第1治具61’は、磁石ナット46を保持し直すことなく、磁石ナット46の位置(つまり、第3永久磁石41’の位置)を調整できる。
【0091】
3.態様
上述した例示的な実施例は、以下の態様の具体例であることが当業者より理解される。
(第1態様)真空ポンプは、ロータと、筐体部と、磁気軸受と、調整部材と、を備える。ロータは、回転可能である。筐体部は、ロータを収容する。磁気軸受は、筐体部に固定されたマグネットホルダ部の周囲に配置された第1磁石と、第1磁石と径方向において対向してロータに配置された第2磁石と、を有する。調整部材は、第2磁石に対する第1磁石の位置を調整する。調整部材は、本体部と、突出部と、を有する。本体部は、マグネットホルダ部の周囲に形成された第1ネジ形状に嵌る第2ネジ形状を内周面に有し、マグネットホルダ部に対して回転させることでロータの回転軸に沿った方向に移動して、第2磁石に対する第1磁石の位置を調整する。突出部は、本体部の上面から突出する。突出部は、調整部材の外周側に、本体部の上面側から本体部を回転させる第1治具によって当接可能であり、かつ、本体部の側面側から本体部を回転させる第2治具によって当接可能である被当接面を有する。
【0092】
第1態様に係る真空ポンプでは、第1磁石の位置を調整する調整部材の本体部の上面から突出する突出部が、本体部を回転させる治具によって当接される被当接面を有している。この被当接面は、突出部において本体部の外周側に設けられ、本体部の上面側から本体部を回転させる第1治具によっても、本体部の側面側から本体部を回転させる第2治具によっても当接可能となっている。このように、調整部材は、本体部の上面側からでも側面側からでも治具を用いて回転させることができるので、調整部材の上面側からでも側面側からでも第1磁石の位置を調整できる。
【0093】
(第2態様)第1態様に係る真空ポンプにおいて、突出部は、本体部の上面側からみたときに多角形形状を有していてもよい。第2態様に係る真空ポンプでは、治具を用いて調整部材を安定して保持し回転できる。
【0094】
(第3態様)第2態様に係る真空ポンプにおいて、突出部は、本体部の上面に複数配置されてもよい。この場合、複数の突出部は、多角形形状の一部を構成してもよい。第3態様に係る真空ポンプでは、突出部を小さくしつつ、治具を用いて調整部材を安定して保持し回転できる。
【0095】
(第4態様)第3態様に係る真空ポンプにおいて、複数の突出部のそれぞれは、本体部の上面において、多角形形状の頂点の位置に配置されてもよい。第4態様に係る真空ポンプでは、突出部を小さくしつつ、治具を用いて調整部材を安定して保持し回転できる。
【0096】
(第5態様)第3態様又は第4態様に係る真空ポンプにおいて、第1治具及び第2治具は、複数の突出部のうちいずれかの突出部の被当接面と、当該突出部に隣接する突出部の被当接面と、に当接してもよい。第5態様に係る真空ポンプでは、治具により調整部材を離れた二点で保持できるので、調整部材を安定して保持し回転できる。
【0097】
(第6態様)第4態様に係る真空ポンプにおいて、第1治具は、突出部の被当接面のうち多角形形状の頂点に対応する部分に当接してもよい。第6態様に係る真空ポンプでは、第1治具を用いて、調整部材を保持し直すことなく、広い範囲で調整部材の位置を調整できる。
【0098】
(第7態様)第3態様~第6態様のいずれかに係る真空ポンプにおいて、本体部の上面における突出部の配置数は、六の倍数であってもよい。第7態様に係る真空ポンプでは、例えば、第1治具を用いて突出部を三箇所で安定して保持できるとともに、第2治具を用いて突出部を二箇所で安定して保持できる。
【0099】
(第8態様)第1態様~第7態様のいずれかに係る真空ポンプの調整方法は、以下のステップを備える。
◎上部に設けられた開口と第3磁石とを有する調整用筐体にロータと調整部材とを収容するステップ。
◎第1治具を開口から調整用筐体に挿入し、調整用筐体に収容した調整部材の被当接面に第1治具を当接させて調整部材を回転し、第2磁石に対する第3磁石の位置を調整するステップ。
◎側面に吸気口が形成された真空ポンプの筐体部にロータと調整部材とを収容するステップ。
◎第2治具を吸気口から筐体部に挿入し、筐体部に収容した調整部材の被当接面に第2治具を当接させて調整部材を回転し、第2磁石に対する第1磁石の位置を調整するステップ。
【0100】
第8態様に係る真空ポンプの調整方法では、上部に開口が設けられている調整用筐体にロータと調整部材を収納する場合には、本体部の上面側から調整部材を回転させる第1治具を用いて、調整用筐体の上面から第3永久磁石の位置を調整できる。一方、側面に吸気口が設けられている真空ポンプの筐体部にロータと調整部材を収納する場合には、本体部の側面側から本体部を回転させる第2治具を用いて、真空ポンプの側面から第1磁石の位置を調整できる。
【0101】
(第9態様)第8態様に係る調整方法は、第2磁石に対する第3磁石の位置を調整ステップの後、ロータのバランスを調整するステップをさらに備えてもよい。第9態様に係る調整方法では、ロータのバランスを調整して、真空ポンプの運転時における振動を抑制できる。
【符号の説明】
【0102】
1 :真空ポンプ
2、2’ :筐体部
3 :ロータ
4 :モータ
5 :ステータ翼ユニット
6 :ステータ円筒部
7、7’ :ケーシング
8 :ベース
8a :凹部
8b :貫通孔
9 :蓋部
11 :第1端部
12 :第2端部
13 :側面部
15 :ベース端部
16、16’ :マグネットホルダ部
16a :凹部
16b、16b’ :梁部
21 :シャフト
22 :ロータ翼ユニット
23 :ロータ円筒部
25 :ロータ翼
26 :モータロータ
27 :モータステータ
28 :ステータ翼
31 :保護軸受
32 :磁気軸受
33、33’ :転がり軸受
34、34’ :スラストナット
41 :第1永久磁石
41’ :第3永久磁石
42 :第2永久磁石
43 :固定部材
43a :バランス調整穴
44 :皿バネ
45 :バネ支持部材
46 :磁石ナット
51 :本体部
51a :内周
51b :上面
51c :外周
52 :突出部
53a :第1被当接面
53b :第2被当接面
61、61’ :第1治具
61a :第1把持部
61a’ :第3把持部
61b :第1当接部
61b’ :第3当接部
62 :第2治具
62a :第2把持部
62b :第2当接部
70 :バランス調整用筐体
611、611’、621 :当接面
A :軸
A1 :第1方向
A2 :第2方向
B :径方向
T :タービン部
D :ドラッグポンプ部
P11 :第1吸気口
P12 :第2吸気口
P13 :第2吸気口
P21 :排気口
OP :開口
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