(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025013042
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】電磁波吸収不織布、電磁波吸収不織布含有物品及び吸音材
(51)【国際特許分類】
D04H 3/007 20120101AFI20250117BHJP
D04H 1/4374 20120101ALI20250117BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20250117BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20250117BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20250117BHJP
D06M 15/63 20060101ALI20250117BHJP
D06M 101/20 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
D04H3/007
D04H1/4374
B32B5/26
H05K9/00 M
G10K11/16 120
D06M15/63
D06M101:20
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116318
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】523419521
【氏名又は名称】エム・エーライフマテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江角 真一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 信
(72)【発明者】
【氏名】市川 太郎
(72)【発明者】
【氏名】古家 幸雄
【テーマコード(参考)】
4F100
4L033
4L047
5D061
5E321
【Fターム(参考)】
4F100AK01
4F100AK01A
4F100AK07
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK07C
4F100AK42
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100DG01
4F100DG01A
4F100DG01B
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4F100DG15
4F100DG15A
4F100DG15B
4F100DG15C
4F100EJ39
4F100EJ42
4F100GB41
4F100JD02
4F100JD08
4F100JG01
4F100JG01A
4F100JG05
4F100JH01
4F100JK04
4L033AA05
4L033AB07
4L033CA58
4L047AA14
4L047AB03
4L047AB07
4L047AB10
4L047CA05
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4L047CB03
4L047CB08
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4L047CC14
4L047CC16
4L047EA08
5D061AA06
5D061AA22
5D061BB21
5E321AA23
5E321BB21
5E321BB41
5E321BB57
5E321GG11
5E321GH05
(57)【要約】
【課題】高い周波数帯域の電磁波に対する電磁波吸収性及び曲げ耐久性に優れる電磁波吸収不織布を提供する。
【解決手段】本開示の電磁波吸収不織布は、導電性ポリマーが付着している積層体を備える。前記積層体は、第1のスパンボンド層(A)と、第2のメルトブローン層(B)と、を有する。第1のスパンボンド層(A)の平均繊維径は、20μm~50μmである。第2のメルトブローン層(B)の平均繊維径は、前記第1のスパンボンド層(A)の平均繊維径よりも小さい。前記第1のスパンボンド層(A)は、前記積層体の一方の最外層である。通気度は、5.0[cc/cm2・sec]~48.0[cc/cm2・sec]である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ポリマーが付着している積層体を備え、
前記積層体が、
平均繊維径が20μm~50μmである第1のスパンボンド層(A)と、
前記第1のスパンボンド層(A)の平均繊維径よりも平均繊維径が小さい第2のメルトブローン層(B)と、
を有し、
前記第1のスパンボンド層(A)が、前記積層体の一方の最外層であり、
通気度が、5.0[cc/cm2・sec]~48.0[cc/cm2・sec]である、電磁波吸収不織布。
【請求項2】
目付比率(A)が、40%~96%であり、
前記目付比率(A)が、前記積層体の目付に対する、前記第1のスパンボンド層(A)の目付の比率を示す、請求項1に記載の電磁波吸収不織布。
【請求項3】
前記積層体の平均細孔径が、5.0μm以上である、請求項1に記載の電磁波吸収不織布。
【請求項4】
前記積層体が、前記第2のメルトブローン層(B)の前記第1のスパンボンド層(A)側とは反対側に積層された第3のスパンボンド層(C)を更に有し、
前記第3のスパンボンド層(C)の平均繊維径が、前記第1のスパンボンド層(A)の平均繊維径よりも小さい、請求項1に記載の電磁波吸収不織布。
【請求項5】
前記導電性ポリマーの付着目付量が、0.001g/m2~5.0g/m2であり、
前記第3のスパンボンド層(C)の導電性ポリマーの付着目付量が、他の層の導電性ポリマーの付着目付量よりも低く、
前記他の層が、前記積層体に含まれる複数の層のうち、前記第3のスパンボンド層(C)とは異なる層を示す、請求項4に記載の電磁波吸収不織布。
【請求項6】
前記積層体が、前記第1のスパンボンド層(A)と前記第2のメルトブローン層(B)との間に、第4のスパンボンド層(D)を更に有し、
前記第4のスパンボンド層(D)の平均繊維径が、前記第1のスパンボンド層(A)の平均繊維径よりも小さい、請求項1に記載の電磁波吸収不織布。
【請求項7】
目付比率(B)が、1%~35%であり、
前記目付比率(B)が、前記積層体の目付に対する、前記第2のメルトブローン層(B)の目付の比率を示す、請求項5に記載の電磁波吸収不織布。
【請求項8】
前記積層体が、複数のエンボス部を有し、
前記積層体のエンボス面積率が、5%~35%である、請求項1に記載の電磁波吸収不織布。
【請求項9】
前記複数のエンボス部の各々の面積が、0.1mm2~1.5mm2である、請求項8に記載の電磁波吸収不織布。
【請求項10】
前記積層体に使用する樹脂がポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波吸収不織布。
【請求項11】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の電磁波吸収不織布を備える、電磁波吸収不織布含有物品。
【請求項12】
請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の電磁波吸収不織布を備える、吸音材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電磁波吸収不織布、電磁波吸収不織布含有物品及び吸音材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器から発生する電磁波を吸収する電磁波吸収不織布が用いられている。
【0003】
特許文献1は、電磁波吸収接着シート(以下、「電磁波吸収不織布」ともいう)を開示している。特許文献1に開示の電磁波吸収不織布は、特定の基材と、軟磁性粒子を含有する第2樹脂層と、接着剤層と、を備える。第2樹脂層として、シリコーンゴムに軟磁性材を分散させた樹脂層(「バスタレイド(登録商標)」(品番FG1(50)、50μm厚、株式会社トーキン)(以下、「ノイズ抑制シート」ともいう)が具体的に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の電磁波吸収不織布に往復折り曲げを繰り返し行うと、往復折り曲げ回数が10,000回未満で電磁波吸収不織布が破断するおそれがあった。「往復折り曲げ」とは、試験片を同一線上に一回完全に表裏に折り曲げることを示す。つまり、特許文献1に開示の電磁波吸収不織布の曲げ耐久性は、十分ではないおそれがあった。そのため、特許文献1に開示の電磁波吸収不織布の用途は、限定的であった。
【0006】
更に、近年、第5世代移動通信システム(5G)の開発等が進められており、高い周波数帯域(例えば、5GHz)の電磁波に対する電磁波吸収性に優れる電磁波吸収不織布が求められている。
【0007】
例えば、導電性ポリマーに付着した不織布を含む電磁波吸収不織布は、不織布に導電性ポリマーを含む塗料を塗布して形成される。しかしながら、従来の構成の不織布では、塗料を塗布すると、不織布の複数の繊維間の隙間が塗料で充填されて、不織布の目詰まりが発生するおそれがある。そのため、従来の電磁波吸収不織布の通気度は、低いおそれがある。そのため、従来の電磁波吸収不織布の用途は、限定的であった。
【0008】
本開示の実施形態は、上記に鑑みてなされたものであり、高い周波数帯域の電磁波に対する電磁波吸収性及び曲げ耐久性に優れる電磁波吸収不織布、電磁波吸収不織布含有物品及び吸音材を提供することを課題とする。本開示の実施形態は、屈曲を生じうる環境においても良好な電磁波吸収性能と吸音機能を維持できる電磁波吸収不織布、及び電磁波吸収不織布含有物品及び吸音材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 導電性ポリマーが付着している積層体を備え、
前記積層体が、
平均繊維径が20μm~50μmである第1のスパンボンド層(A)と、
前記第1のスパンボンド層(A)の平均繊維径よりも平均繊維径が小さい第2のメルトブローン層(B)と、
を有し、
前記第1のスパンボンド層(A)が、前記積層体の一方の最外層であり、
通気度が、5.0[cc/cm2・sec]~48.0[cc/cm2・sec]である、電磁波吸収不織布。
<2> 目付比率(A)が、40%~96%であり、
前記目付比率(A)が、前記積層体の目付に対する、前記第1のスパンボンド層(A)の目付の比率を示す、前記<1>に記載の電磁波吸収不織布。
<3> 前記積層体の平均細孔径が、5.0μm以上である、前記<1>又は<2>に記載の電磁波吸収不織布。
<4> 前記積層体が、前記第2のメルトブローン層(B)の前記第1のスパンボンド層(A)側とは反対側に積層された第3のスパンボンド層(C)を更に有し、
前記第3のスパンボンド層(C)の平均繊維径が、前記第1のスパンボンド層(A)の平均繊維径よりも小さい、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の電磁波吸収不織布。
<5> 前記導電性ポリマーの付着目付量が、0.001g/m2~5.0g/m2であり、
前記第3のスパンボンド層(C)の導電性ポリマーの付着目付量が、他の層の導電性ポリマーの付着目付量よりも低く、
前記他の層が、前記積層体に含まれる複数の層のうち、前記第3のスパンボンド層(C)とは異なる層を示す、前記<4>に記載の電磁波吸収不織布。
<6> 前記積層体が、前記第1のスパンボンド層(A)と前記第2のメルトブローン層(B)との間に、第4のスパンボンド層(D)を更に有し、
前記第4のスパンボンド層(D)の平均繊維径が、前記第1のスパンボンド層(A)の平均繊維径よりも小さい、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の電磁波吸収不織布。
<7> 目付比率(B)が、1%~35%あり、
前記目付比率(B)が、前記積層体の目付に対する、前記第2のメルトブローン層(B)の目付の比率を示す、前記<5>又は<6>に記載の電磁波吸収不織布。
<8> 前記積層体が、複数のエンボス部を有し、
前記積層体のエンボス面積率が、5%~35%である、前記<1>に記載の電磁波吸収不織布。
<9> 前記複数のエンボス部の各々の面積が、0.1mm2~1.5mm2である、前記<8>に記載の電磁波吸収不織布。
<10> 前記積層体に使用する樹脂がポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする<1>~<9>のいずれか1つに記載の電磁波吸収不織布。
<11> 前記<1>~<10>のいずれか1つに記載の電磁波吸収不織布を備える、電磁波吸収不織布含有物品。
<12> 前記<1>~<10>のいずれか1つに記載の電磁波吸収不織布を備える、吸音材。
【発明の効果】
【0010】
本開示の実施形態によれば、高い周波数帯域の電磁波に対する電磁波吸収性及び曲げ耐久性に優れる電磁波吸収不織布、電磁波吸収不織布含有物品及び吸音材が提供される。本開示の実施形態によれば、屈曲を生じうる環境においても良好な電磁波吸収性能と吸音機能を維持できる電磁波吸収不織布、電磁波吸収不織布含有物品及び吸音材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、本開示の第1実施形態に係る積層体の断面図である。
【
図1B】
図1Bは、本開示の第1実施形態に係る積層体の断面図である。
【
図1C】
図1Cは、本開示の第1実施形態に係る積層体の断面図である。
【
図1D】
図1Dは、本開示の第1実施形態に係る積層体の断面図である。
【
図2A】
図2Aは、導電性ポリマー塗料が塗布された直後の実施例1の電磁波吸収不織布の正面の画像である。
【
図2B】
図2Bは、導電性ポリマー塗料が乾燥した状態の実施例1の電磁波吸収不織布の正面の画像である。
【
図3】
図3は、実施例1の電磁波吸収不織布の第1のスパンボンド層(A)の表面のEPMA(電子線微小領域解析法)画像(撮影倍率:25倍)である。
【
図4】
図4は、実施例1の電磁波吸収不織布の厚み方向に切断した断面の走査型電子顕微鏡(SEM)-エネルギー分散型X線分析装置(EDX)画像(撮影倍率:150倍)である。
【
図5】
図5は、導電性ポリマー塗料が乾燥した状態の比較例2の電磁波吸収不織布の表面の画像である。
【
図6】
図6は、実施例9及び比較例6の電磁波吸収不織布において、周波数に対する垂直入射吸音率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示において、数値範囲を示す「~」はその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示において段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本開示において、「不織布」とは、製織,編成及び製紙を除く,物理的方法及び/又は化学的方法によって所定のレベルの構造的強さが得られている平面状の繊維集合体を示す。
本開示において、「ウェブ」とは、繊維だけで構成されたシートを示す。
本開示において、「PEDOT/PSS」とは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレン(PEDOT)と、ポリスチレンスルホン酸(PSS)とからなる複合物を示す。
【0013】
(1)電磁波吸収不織布
本開示の電磁波吸収不織布は、導電性ポリマーが付着している積層体を備える。前記積層体は、第1のスパンボンド層(A)(以下、「SB層(A)」ともいう)と、第2のメルトブローン層(B)(以下、「MB層(B)」)と、を有する。第1のスパンボンド層(A)の平均繊維径は、20μm~50μmである。第2のメルトブローン層(B)の平均繊維径は、前記第1のスパンボンド層(A)の平均繊維径よりも小さい。前記第1のスパンボンド層(A)は、前記積層体の一方の最外層である。通気度は、5.0[cc/cm2・sec]~48.0[cc/cm2・sec]である。
【0014】
本開示において、「導電性ポリマー」とは、導電性を有するポリマーを示す。「導電性」とは、電気が流れる状態を指し、JIS K 7194-1994の「導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法」に準拠した方法で測定したシート抵抗が1×108Ω/□より低いことを示す。導電性ポリマーは、高い周波数帯域(例えば、5GHz)の電磁波(以下、単に「電磁波」ともいう)が導電性ポリマーに入射すると、導電性ポリマーの電気抵抗により、電磁波を熱に変換する。つまり、導電性ポリマーは、電磁波を吸収する性質を有する。
「スパンボンド層」とは、スパンボンド不織布からなる層を示す。「スパンボンド不織布」とは、スピンレイ積層によって作られたウェブに、一つ又は二つ以上の結合方法で作られた不織布を示す。「スピンレイ積層」とは、溶融又は溶解されたポリマーをノズルから押し出し、フィラメントを動くスクリーン上に積層して、ウェブを作る方式を示す。
「メルトブローン層」とは、メルトブローン不織布からなる層を示す。メルトブローン不織布とは、メルトブロー積層によって作られたウェブに、一つ又は二つ以上の結合方法で作られた不織布を示す。「メルトブロー積層」とは、溶融ポリマーを、高速の高温ガス流中に押し出して繊維とし、動くスクリーン上に積層して、ウェブを作る方式を示す。
「通気度」とは、織物及び編物の生地試験方法(JIS L1096:2010)で規定されるA法(フラジール形法)によって測定される、電磁波吸収不織布を通過する空気量(cm3/cm2・s)を示す。
【0015】
本開示の電磁波吸収不織布は、上記の構成を有するため、高い周波数帯域(例えば、5GHz)の電磁波に対する電磁波吸収性及び曲げ耐久性に優れる。
この効果は、以下の理由によると推測されるが、これに限定されない。
導電性ポリマーは、通常、導電性ポリマーを含む液体(以下、「導電性ポリマー塗料」ともいう)を積層体に含浸させることによって、積層体に付着される。
本開示では、SB層(A)は、積層体の一方の最外層である。SB層(A)の平均繊維径は、20μm~50μmである。MB層(B)の平均繊維径は、SB層(A)の平均繊維径よりも小さい。通気度は、5.0[cc/cm
2・sec]~48.0[cc/cm
2・sec]である。つまり、積層体の内部のMB層(B)の繊維同士の隙間は、積層体の一方の最外層のSB(A)層の繊維同士の隙間よりも密である。
導電性ポリマー塗料をSB(A)層から含浸させると、積層体への導電性ポリマー塗料の過剰な浸透は、抑制される。そのため、積層体の内部において、導電性ポリマーは、繊維に均一に付着されやすい。その結果、本開示の電磁波吸収不織布は、電磁波に対する電磁波吸収性に優れると推測される。特に、導電性ポリマーである「PEDOT/PSS」は、従来からセンサー用途に用いられていたが、積層体表面もしくは内部において「PEDOT/PSS」が目詰まりをおこすと、繊維表面への付着状態に斑が生じ、連続性が低下することで電磁波吸収性能は低下する。しかしながら、本開示では、積層体が上述した構成を有するため、導電性ポリマーとして「PEDOT/PSS」を用いても、
図4に示すように、実施態様の電磁波吸収不織布の厚み方向に切断した断面の走査型電子顕微鏡(SEM)-エネルギー分散型X線分析装置(EDX)画像において導電性ポリマーは積層体の表面から内部にかけて各層の繊維表面に連続的に付着する。その結果、本開示の電磁波吸収不織布の電磁波吸収性は、優れると推測される。
更に、本開示では、積層体は、SB層(A)と、MB層(B)と、を有する。SB層(A)及びMB層(B)の各々の素材は、不織布である。毛羽立ちやすいMB層(B)は、比較的大きい繊維径を有するSB層(A)によって保護されている。SB層(A)平均繊維径が下限値以上であると、積層体の力学的特性が向上し圧縮加工時に積層体の厚み減少が抑制される。その結果、本開示の電磁波吸収不織布は、ノイズ抑制シートを含む従来の構成よりも、曲げ耐久性に優れると推測される。
以上より、本開示の電磁波吸収不織布は、高い周波数帯域(例えば、5GHz)の電磁波に対する電磁波吸収性及び曲げ耐久性に優れると推測される。
【0016】
本開示の電磁波吸収不織布は、上記の構成をするため、屈曲を生じうる環境においても良好な電磁波吸収性能と吸音機能を維持できる。
この効果は、上記の理由及び以下の理由によると推測されるが、これに限定されない。
積層体の通気度は5.0~48.0[cc/cm2・sec]を備える。この通気度の範囲において、音の入射面抵抗を小さくできる。また、第1のスパンボンド層(A)の平均繊維径20μm~50μmは一般的なスパンボンド不織布の中でも平均繊維径が比較的大きい。本構成も音の入射面抵抗の低減に効果を有すると推測される。さらに、第2のメルトブローン層(B)の平均繊維径が第1のスパンボンド層(A)の平均繊維径よりも小さいことで、広い周波数帯域にわたって吸音性を向上させ且つ前記周波数帯域における吸音率のばらつきを低減することに寄与すると推測される。更に、導電性ポリマー塗料を塗布した積層体がこれらの構成組合せをすべて備える場合、導電性ポリマーの積層体表面もしくは内部における目詰まりを抑制でき、繊維表面への付着状態に斑を生じることなく、結果として優れた電磁波吸収性能及び、吸音性能を達成できると推測される。
以上より、本開示の電磁波吸収不織布は、屈曲を生じうる環境においても良好な電磁波吸収性能と吸音機能を維持できると推測される。
【0017】
電磁波吸収不織布である積層体の通気度は、5.0[cc/cm2・sec]~48.0[cc/cm2・sec]である。導電性ポリマーが付着された積層体において上記範囲の通気度を有することで、電磁波吸収不織布の電磁波吸収性は優れる。更に、電磁波吸収不織布は、吸音機能や、フィルタ機能を更に有する。
電磁波吸収不織布の通気度は、上記範囲内であれば、電磁波吸収不織布の用途等に応じて適宜選択される。電磁波吸収不織布の通気度は、導電性ポリマーの目詰まりを抑制し、よりよい吸音機能を得る観点から、好ましくは6.0[cc/cm2・sec]~28.0[cc/cm2・sec]、より好ましくは8.0[cc/cm2・sec]~23.0[cc/cm2・sec]である。電磁波吸収不織布の通気度が6.0[cc/cm2・sec]~28.0[cc/cm2・sec]であれば、吸音材としても十分な性能を発現することができる。
電磁波吸収不織布の通気度を5.0[cc/cm2・sec]~48.0[cc/cm2・sec]に調整する方法としては、不織布各層及び/又は積層体の平均繊維径、厚み、目付、及び平均細孔径の選定や、導電性ポリマーの塗布量、それらの組合せが挙げられる。特に、積層体の最外層に繊維径の比較的大きなSB層(A)を設定し、その平均繊維径を20μm~50μmとし、かつ、より小さな平均繊維径を有するMB層(B)を内層に備えることで、粘度が比較的大きな導電性ポリマーであっても、不織布に浸透しやすくなる。これにより、導電性ポリマーの目詰まりを抑制し、優れた電磁波吸収性能を得ることができる。また、吸音性能をも両立できる。
電磁波吸収不織布の通気度の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0018】
電磁波吸収不織布は、シート状物である。電磁波吸収不織布の厚みは、特に限定されるものではなく、電磁波吸収不織布の用途に応じて適宜選択される。電磁波吸収不織布の厚みは、柔軟性と導電性ポリマーの裏抜け抑制の観点から、0.1mm~1.5mm、または0.2mm~1.0mmであってもよい。上記範囲の場合、より柔軟なシートが得られ、湾曲した形状に沿う使用態様を可能とする。また、導電性ポリマーがシート裏面に染み出すことを防ぐことができる。
【0019】
電磁波吸収不織布である積層体の平均細孔径は、特に限定されるものではなく、好ましくは5.0μm~50.0μm、より好ましくは8.0μm~30.0μm、さらに好ましくは10.0μm~22.0μmである。電磁波吸収不織布の平均細孔径が8.0μm~30.0μmであれば、導電性ポリマーの目詰まりを抑制し、電磁波吸収不織布の通気度を所定の範囲に設計できる。結果として、
図4に示すように導電性ポリマーを繊維表面に連続的に分布させることができ、電磁波吸収性能を向上させることができる。電磁波吸収不織布の平均細孔径の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0020】
電磁波吸収不織布は、積層体自体であってもよいし、積層体の他に任意層を更に備えていてもよい。
【0021】
(1.1)積層体
電磁波吸収不織布は、導電性ポリマーが付着している積層体を備える。
【0022】
(1.1.1)導電性ポリマー
導電性ポリマーは、上述した導電性を有すれば特に限定されるものではなく、電磁波吸収不織布の用途及び積層体の材質等に応じて、適宜選択される。導電性ポリマーとしては、特に制限されるものではないが、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン等が挙げられる。中でも、導電性ポリマーは、PEDOT/PSSを含むことが好ましく、PEDOT/PSSであることがより好ましい。PEDOT/PSSは、親水性である。PEDOT-PSSとしては、例えば、国際公開第2013/073673号に記載されたPEDOT-PSSを用いることができる。PEDOT/PSSは、市販品であってもよい。
【0023】
積層体の導電性ポリマーの付着目付量は、特に限定されるものではなく、電磁波吸収不織布の用途等に応じて適宜選択される。積層体の導電性ポリマーの付着目付量は、電磁波吸収性能と通気度の観点から、好ましくは0.001g/m
2~5.0g/m
2、より好ましくは0.01g/m
2~4.0である。本発明の電磁波吸収不織布は導電性ポリマーの付着目付量が比較的高くとも
図4に示すように不織布積層体の繊維に連続的に導電性ポリマーを分散塗布できる。
【0024】
導電性ポリマーの付着の度合いは、電磁波吸収不織布の用途に応じて、適宜選択される。電磁波吸収不織布により優れた電磁波吸収性が要求される場合は、導電性ポリマーは、複数の繊維の各々の表面の全面を覆っていてもよいし、繊維同士の複数の隙間を塞いでいてもよい。
【0025】
導電性ポリマーは、例えば、導電性ポリマー塗料を、積層体のSB層(A)の表面に塗布し、乾燥することで、積層体に付着する。導電性ポリマーの付着の度合いは、導電性ポリマー塗料の濃度、導電性ポリマー塗料の塗布量、塗布回数等により調整され得る。
【0026】
「導電性ポリマーの付着目付量」とは、導電性ポリマーが付着している試料(a)の目付から、試料(a)から導電性ポリマーを除去して得られる試料(b)の目付を減算して得られる値を示す。例えば、電磁波吸収不織布の導電性ポリマーの付着目付量は、電磁波吸収不織布の目付から、電磁波吸収不織布から導電ポリマーを除去して得られる積層体の目付を減算して得られる値を示す。
【0027】
導電性ポリマー塗料の塗布方法及び乾燥方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法であればよい。塗布方法としては、特に制限されず、浸漬塗布(例えばディップコーティング)、噴霧塗布(例えばスプレーコーティング)、回転塗布(例えばスピンコーティング)、スリット塗布、カーテン塗布、グラビア塗布、フレキソ塗布等が挙げられる。
【0028】
導電性ポリマー塗料は、溶媒を含んでもよい。溶媒は、導電性ポリマーの種類に応じて適宜選択され、例えば、水、エタノール、プロピルアルコール等が挙げられる。溶媒は、1種単独の使用であってもよく、2種以上の併用であってもよい。
【0029】
導電性ポリマー塗料は、繊維への導電性ポリマーの定着性、安定性を向上させるために、公知のバインダー樹脂を含んでいてもよい。
【0030】
以下、導電性ポリマーがPEDOT/PSSである場合について、説明する。
【0031】
導電性ポリマーの濃度は、導電性ポリマー塗料の総量に対して、好ましくは0.001質量%~1.5質量%、より好ましくは0.1質量%~1.2質量%、さらに好ましくは0.5質量%~1.0質量%である。導電性ポリマー塗料の濃度が0.001質量%~1.5%であれば、塗工性を確保した上で電磁波吸収性能の発現させることができる。
導電性ポリマー塗料の塗布量は、好ましくは0.5g/m2~2.0g/m2、より好ましくは1.0g/m2~1.5g/m2である。導電性ポリマー塗料の塗布量が0.5g/m2~2.0g/m2であれば、より良好な電磁波吸収性能を発現させることができる。
導電性ポリマー塗料の粘度は、好ましくは30mp/s~140mp/sである。導電性ポリマー塗料の粘度が30mp/s~140mp/sであれば、均一に塗工できると共に通気性を確保することができる。
【0032】
(1.1.2)積層体
積層体は、シート状物である。積層体は、SB層(A)及びMB層(B)を少なくとも有する。積層体の層構成は、3層以上であってもよい。積層体を構成する層は、不織布からなる層であってもよい。積層体の層構成の詳細については、後述する。
【0033】
積層体の厚みは、特に限定されるものではなく、積層体の用途に応じて適宜選択される。積層体の厚みは、0.1mm~2.0mmであってもよく、0.3mm~1.0mmであってもよい。
【0034】
積層体は、複数のエンボス部を有し、積層体のエンボス面積率が、5%~35%であることが好ましい。積層体最外層の表面にエンボス部が適度に配されることにより、導電性ポリマー塗工時に塗液を保持することができ、塗液を積層体に均一に浸透させることができる。
積層体のエンボス面積率は、好ましくは10%~28%、より好ましくは15%~25%である。エンボス部は、積層体の表面の非エンボス部に対して、凹んでいる。エンボス面積率が10%~28%である場合、導電性ポリマー塗料の塗布物は、エンボス部上に一時に溜まって、界面張力によって、エンボス部の周りの非エンボス部の繊維に連続的に含浸し得る。その結果、繊維に付着した導電性ポリマーは、ネットワークを形成しやすい。これにより、繊維に付着した導電性ポリマーの電磁波吸収性能及び表面抵抗は、向上する。
【0035】
「エンボス部」とは、複数の繊維の一部が熱的に結合した、繊維の一部がフィルム状になった部位を示す。エンボス部の形状としては、円、楕円、長円、正方、菱、長方、四角やそれら形状を基本とする連続した形等が挙げられる。エンボス部は、積層体にエンボス処理(熱圧着加工処理)が施されることで、形成される。エンボス処理は、公知の方法である。
「エンボス面積率」とは、不織布から10mm×10mmの大きさの試験片を採取し、試験片のエンボスロールとの接触面を、電子顕微鏡(倍率:100倍)で観察し、観察した不織布の面積に対する、複数のエンボス部の総面積の割合を示す。
【0036】
積層体が複数のエンボス部を有し、かつ積層体のエンボス面積率が5%~35%である場合、複数のエンボス部の各々の面積(以下、「サイズ」ともいう)は、0.1mm2~1.5mm2であることが好ましい。これにより、導電性ポリマー塗工時に塗液を保持することができ、塗液を積層体に均一に浸透させることができる。
複数のエンボス部の各々の面積は、塗液保持性と均一浸透性の観点から、好ましくは0.1mm2~1.5mm2、より好ましくは0.3mm2~1.0mm2である。
【0037】
積層体の繊維を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂であれば特に限定されるものではなく、ポリオレフィン系樹脂、ポリアルキレンテレフタレート樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等)、ポリアミド系樹脂(例えば、ナイロン6、ナイロン66等)、ポリオキシメチレンエーテル系樹脂(例えば、ポリオキシメチレン等)、ポリケトン系樹脂(例えば、ポリエーテルケトン等)、熱可塑性ポリイミド樹脂等が挙げられる。これら樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0038】
中でも、積層体の繊維を構成する樹脂は、強度が高く、適度な溶融粘度に調整するのが容易であり、不織布及びその積層体の成形が容易である観点から、ポリオレフィン系の熱可塑性樹脂であることが好ましく、導電性不織布の抵抗を低減する観点から、ポリプロピレン系樹脂を含むことがより好ましく、ポリプロピレン系樹脂であることがさらに好ましい。また、疎水性のポリプロピレン系樹脂を用いる積層体に、PEDOT/PSSなどの親水性の導電性ポリマー(以下、親水性の導電性ポリマー塗料を「親水性導電性ポリマー塗料」ともいう。)を塗布する場合、積層体の繊維が親水性である場合(例えば、積層体の繊維がポリエチレンテレフタレートである場合)よりも、積層体の通気性を確保でき、結果として良好な電磁波吸収性能及び吸音機能をも有する導電性ポリマーの塗布された積層体となりうる。
【0039】
ポリオレフィン系樹脂としては、α-オレフィンの単独重合体、2種以上のα-オレフィンからなる共重合体、またはこれらから選ばれる2種以上の混合物である。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、イソペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。
ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体であってもよく、プロピレンと共重合可能な他のα-オレフィンとの共重合体であってもよい。α-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。α-オレフィンの炭素数は、2~8が好ましい。ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンとα-オレフィンとの共重合体である場合、共重合体のα-オレフィンは、上述したα-オレフィンから選択される1種又は2種以上であってもよい。
【0040】
本開示に用いる熱可塑性樹脂(例えば、プロピレン系重合体等)は、バイオマス由来の原料であってもよい。バイオマス由来の原料はカーボンニュートラルな材料であるため、スパンボンド不織布の製造における環境負荷を低減することができる。
バイオマス由来熱可塑性樹脂の原料となるモノマーは、バイオマスナフサのクラッキングやバイオマス由来エチレンから合成することで得られる。バイオマス由来熱可塑性樹脂は、このようにして合成したバイオマス由来モノマーを、従来公知の石油由来熱可塑性樹脂を用いる場合と同様の方法により重合することによって得られる。
バイオ由来モノマーを原料として合成した熱可塑性樹脂の重合体は、バイオマス由来熱可塑性重合体となる。原料モノマー中のバイオ由来熱可塑性重合体の含量は、原料モノマーの総量に対して、0質量%超であり、100質量%であってもよいし、それ以下でもよい。
なお、「バイオマス度」は、バイオマス由来の炭素の含有率を示し、放射性炭素(C14)を測定することにより算出される。大気中の二酸化炭素には、C14が一定割合(約105.5pMC)で含まれている。そのため、大気中の二酸化炭素を取り入れて成長する植物(例えばトウモロコシ)中のC14含有量も約105.5pMC程度であることが知られている。化石燃料中にはC14が殆ど含まれていないことも知られている。したがって、重合体中の全炭素原子中に含まれるC14の割合を測定することにより、原料中のバイオマス由来の炭素の含有率を算出することができる。
本開示の原料として用いられる熱可塑性重合体は、リサイクルによって得られた熱可塑性重合体、いわゆるリサイクルポリマーを含んでいてもよい。
「リサイクルポリマー」とは、廃ポリマー製品のリサイクルにより得られたポリマーを含むものであり、例えば、DE102019127827(A1)に記載の方法で製造することができる。リサイクルポリマーは、リサイクルにより得られたことが識別できるようなマーカーを含んでいてもよい。
【0041】
(1.1.2.1)第1のスパンボンド層(A)
積層体は、連続繊維もしくは長繊維から構成されるSB層(A)を有する。SB層(A)は、積層体の一方の最外層である。
【0042】
SB層(A)の平均繊維径は、20μm~50μmである。SB層(A)の平均繊維径が20μm未満であると、導電性ポリマー塗料の浸透量が小さくなる傾向にあり、導電性ポリマーが積層体表面にまだら模様に付着するおそれがある。SB層(A)の平均繊維径が50μm超であると、SB層(A)に浸透しやすいものの、MB層(B)において導電性ポリマー塗料の浸透量が小さくなる傾向にあり、導電性ポリマーが積層体内部まで十分に浸透しないおそれがある。
SB層(A)の平均繊維径は、積層体の内部への親水性導電性ポリマーの過剰な浸透をより効果的に抑制する観点及び、積層体の通気性をより向上させる観点から、好ましくは20μm~50μm、より好ましくは25μm~45μmである。SB層(A)の平均繊維径の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0043】
SB層(A)は、通気性材料であってもよい。「通気性材料」とは、通気性を有する材料を意味し、JIS L 1096:2010に準じて測定される値を保有する材料である。通気度が20cc/cm2・sec~250cc/cm2・secを示す。
【0044】
SB層(A)の厚みは、特に限定されるものではなく、電磁波吸収不織布の用途により適宜選択される。SB層(A)の厚みは、塗液浸透性と曲げ耐久性(機械強度)の観点から、好ましくは0.1mm~1.0mm、より好ましくは0.2mm~0.8mmである。
【0045】
SB層(A)の目付は、特に限定されるものではなく、電磁波吸収不織布の用途により適宜選択される。SB層(A)の目付は、塗液浸透性と曲げ耐久性(機械強度)の観点から、好ましくは40g/cm2~200g/cm2、より好ましくは60g/cm2~160g/cm2である。SB層(A)の目付の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0046】
目付比率(A)は、40%~96%であることが好ましい。目付比率(A)は、積層体の目付に対する、前記第1のスパンボンド層(A)の目付の比率を示す。目付比率(A)が40%~96%であることで、積層体の力学的特性が向上し圧縮加工時に積層体の厚み減少が抑制され、十分な曲げ耐久性を発現させることができる。
目付比率(A)は、塗液浸透性と曲げ耐久性の観点から、より好ましくは50%~90%、曲げ耐久性をよりよくする観点からは、さらに好ましくは60%~85%である。また、SB層(A)は、SB層(A)の繊維径20μm~50μmと、目付比率(A)が40%~96%、50%~90%、又は60%~85%との組合せにより、よりよい効果を奏する。
【0047】
SB層(A)の平均細孔径は、11.0μm以上であることが好ましい。これにより、導電性ポリマー塗料を積層体に均一に浸透させることができる。
SB層(A)の平均細孔径は、導電性ポリマー塗料の均一浸透性の観点から、より好ましくは12μm~40μm、さらに好ましくは14μm~30μmである。SB層(A)の平均細孔径の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0048】
上述したSB層(A)の平均繊維径、厚み、目付、及び平均細孔径の各々は、導電性ポリマーが付着した状態のSB層(A)の平均繊維径、厚み、目付、及び平均細孔径の各々を示す。
【0049】
SB層(A)の繊維を構成する樹脂としては、積層体の繊維を構成する樹脂として例示したものと同様のものが挙げられる。強度が高く、適度な溶融粘度に調整するのが容易であり、不織布及びその積層体の成形が容易である観点から、ポリオレフィン系樹脂を含むことがより好ましく、導電性不織布の抵抗を低減する観点及び、親水性導電性ポリマー塗料の浸透制御の観点から、ポリプロピレン系樹脂であることがさらに好ましい。プロピレン系重合体は、メルトフローレート(MFR:ASTM D-1238、230℃、荷重2160g)が例えば1g/10分~500g/10分の範囲のものを用いることができる。
【0050】
SB層(A)の繊維の形態は、本開示の効果を損なわない範囲で、複合繊維、中空繊維、異型繊維、捲縮繊維、分割繊維等であってもよい。SB層(A)の繊維は、添加剤を含んでもいてもよい。添加剤としては、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、難燃剤、撥水剤、油剤、帯電防止剤、着色剤、無機物等が挙げられる。
【0051】
(1.1.2.2)第2のメルトブローン層(B)
積層体は、連続繊維もしくは、長繊維であるMB層(B)を有する。積層体が2層構造である場合、MB層(B)は、積層体の他方の最外層である。積層体が3層以上の構造である場合、MB層(B)は、積層体の他方の最外層でなくてもよい。
【0052】
MB層(B)の平均繊維径は、SB層(A)の平均繊維径よりも小さい。メルトブローン不織布の平均繊維径は、通常、10μm未満である。スパンボンド不織布の平均繊維径は、通常、10μm以上である。
【0053】
MB層(B)は連続繊維もしくは、長繊維で構成される不織布であり、BET比表面積が他の不織布よりも高い傾向にある。また、繊維同士が厚み方向、面方向に均一にくまなく自己融着している。これらの理由により、上記不織布がメルトブローン不織布であると、導電性不織布の抵抗がより低減される。
さらに、MB層(B)は繊維が略一方向へ配向している傾向があるため、特に繊維の配向方向の抵抗が低くなる。所定の通気度を得る観点から、積層体にMB層(B)を使用することが好ましい。
【0054】
発明者らは、MB層(B)の繊維を構成する樹脂がポリプロピレン系樹脂を含み、かつ導電性ポリマー塗料が親水性である場合、MB層(B)の繊維の平均繊維径が小さい(細い)ほど緻密であり撥水性に優れているが、その一方で、通気性の見地からは、繊維の平均繊維径が大きい(太い)ことが望ましいことを見出した。
【0055】
MB層(B)の平均繊維径は、特に限定されるものではなく、好ましくは0.5μm~5.0μm、より好ましくは1.0μm~4.0μmである。MB層(B)の平均繊維径が0.5μm~5.0μmであり、かつMB層(B)を構成する繊維が後述するポリプロピレン系樹脂である場合、MB層(B)の繊維は、疎水性を有する。導電性ポリマーがPEDOT/PSSである場合、導電性ポリマー塗料は親水性である。そのため、MB層(B)の繊維が親水性である場合(例えば、MB層(B)の繊維がポリエチレンテレフタレートである場合)よりも導電性ポリマー塗料の過剰な浸透が抑えられる。これにより、積層体の通気性を確保しつつ、積層体の内部により均一に付着し得る。その結果、電磁波吸収不織布の電磁波吸収性は、より優れる。MB層(B)の平均繊維径の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0056】
MB層(B)は、通気性材料であってもよい。
【0057】
MB層(B)の厚みは、特に限定されるものではなく、電磁波吸収不織布の用途により適宜選択される。MB層(B)の厚みは、導電性ポリマーの裏抜け抑制とシートの通気性確保の観点から、好ましくは0.02mm~0.40mm、より好ましくは0.05mm~0.30mmである。
【0058】
MB層(B)の目付は、特に限定されるものではなく、電磁波吸収不織布の用途により適宜選択される。MB層(B)の目付は、電性ポリマーの裏抜け抑制とシートの通気性確保の観点から、好ましくは2g/cm2~30g/cm2、より好ましくは5g/cm2~25g/cm2である。MB層(B)の目付の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0059】
目付比率(B)は、1%~35%であることが好ましい。目付比率(B)は、積層体の目付に対する、前記MB層(B)の目付の比率を示す。目付比率(B)が1%~35%であることで、導電性ポリマーの裏抜けを抑制すると共に必要な通気性を確保することができる。
目付比率(B)は、塗工性と通気性両立の観点から、好ましくは2%~25%、より好ましくは3%~15%である。
【0060】
MB層(B)の平均細孔径は、特に限定されるものではなく、電磁波吸収不織布の用途により適宜選択される。MB層(B)の平均細孔径は、塗工性と通気性両立の観点から、好ましくは5μm~50μm、より好ましくは10μm~40μmである。MB層(B)の平均細孔径の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0061】
上述したMB層(B)の平均繊維径、厚み、目付、及び平均細孔径の各々は、導電性ポリマーが付着した状態のMB層(B)の平均繊維径、厚み、目付、及び平均細孔径の各々を示す。
【0062】
MB層(B)の繊維を構成する樹脂としては、SB層(A)の繊維を構成する樹脂として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0063】
中でも、MB層(B)の繊維を構成する樹脂は、強度が高く、適度な溶融粘度に調整するのが容易であり、不織布及びその積層体の成形が容易である観点から、ポリオレフィン系樹脂を含むことがより好ましく、導電性不織布の抵抗を低減する観点及び、親水性導電性ポリマー塗料の浸透制御の観点から、ポリプロピレン系樹脂であることがさらに好ましい。MB層(B)の繊維を構成するプロピレン系樹脂としては、メルトフローレート(MFR:ASTM D-1238、230℃、荷重2160g)が例えば10g/10分~4000g/10分が好ましく、15g/10分~2000g/10分がより好ましい。
【0064】
MB層(B)の繊維の形態は、本開示の効果を損なわない範囲で、SB層(A)の繊維の形態として例示したものと同様のものが挙げられる。また、MB層(B)の繊維は、添加剤を含んでもいてもよい。添加剤としては、SB層(A)の添加剤として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0065】
(1.1.2.3)第3のスパンボンド層(C)
積層体は、第2のメルトブローン層(B)の第1のスパンボンド層(A)側とは反対側に積層された第3のスパンボンド層(C)(以下、「SB層(C)」)を更に有することが好ましい。前記第3のスパンボンド層(C)の平均繊維径は、前記第1のスパンボンド層(A)の平均繊維径よりも小さい。積層体がSB層(C)を更に有することで、MB層(B)は保護され、曲げ耐久性試験においてMB層繊維が折れて抜け落ちる程度が改善される。ゆえに、SB層(C)は、電磁波吸収不織布の曲げ耐久性を向上させることができる。前記第3のスパンボンド層(C)の平均繊維径は、前記第1のスパンボンド層(A)の平均繊維径よりも小さいと、導電性ポリマーの裏抜けを抑制できる。
【0066】
SB層(C)の平均繊維径は、SB層(A)の平均繊維径に応じて適宜選択される。SB層(A)の平均繊維径からSB層(C)の平均繊維径を減算して得られる減算値(以下、「第1減算値」ともいう)は、5μm~10μmであってもよく、7μm~15μmであってもよい。SB層(C)の平均繊維径は、実施例に記載の方法と同様である。
【0067】
SB層(C)の平均繊維径は、好ましくは10μm~25μm、より好ましくは12μm~22μmである。SB層(C)の平均繊維径が12μm~22μmであれば、積層体の曲げ耐久性と塗工性はより優れる。
【0068】
SB層(C)は、通気性材料であってもよい。
【0069】
SB層(C)の厚みは、特に限定されるものではなく、電磁波吸収不織布の用途により適宜選択される。SB層(C)の厚みは、曲げ耐久性と生産性の観点から、好ましくは0.10mm~0.45mm、より好ましくは0.15mm~0.35mmである。
【0070】
SB層(C)の目付は、特に限定されるものではなく、電磁波吸収不織布の用途により適宜選択される。SB層(C)の目付は、曲げ耐久性と生産性の観点から、好ましくは5g/cm2~50g/cm2、より好ましくは10g/cm2~30g/cm2である。SB層(C)の目付の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0071】
目付比率(C)は、特に限定されるものではなく、電磁波吸収不織布の用途により適宜選択される。目付比率(C)は、積層体の目付に対する、SB層(C)の目付の比率を示す。目付比率(C)は、曲げ耐久性と生産性の観点から、好ましくは5%~30%、より好ましくは8%~25%である。
【0072】
上述したSB層(C)の平均繊維径、厚み、目付の各々は、導電性ポリマーが付着した状態のSB層(C)の平均繊維径、厚み、目付の各々を示す。
【0073】
積層体の導電性ポリマーの付着目付量は、電磁波吸収不織布である積層体の総量に対して、0.001g/m2~5.0g/m2であり、前記第3のスパンボンド層(C)の導電性ポリマーの付着目付量は、他の層の導電性ポリマーの付着目付量よりも低いことが好ましい。他の層は、前記積層体に含まれる複数の層のうち、前記第3のスパンボンド層(C)とは異なる層を示す。具体的に、積層体がSB層(A)、MB層(B)及びSB層(C)からなる場合は、「他の層」は、SB層(A)及びMB層(B)の各々を示す。積層体がSB層(A)、MB層(B)、SB層(C)及び後述する第4のスパンボンド層(D)(以下、「SB層(D)」ともいう)からなる場合は、「他の層」は、SB層(A)、MB層(B)及びSB層(D)の各々を示す。
積層体の導電性ポリマーの付着目付量が0.001g/m2~5.0g/m2であり、SB層(C)の導電性ポリマーのが、他の層の導電性ポリマーのよりも低いことで、導電性ポリマーの目詰まりを防止し、電磁波吸収不織布は所定の通気度を備えることができる。
【0074】
SB層(C)の繊維を構成する樹脂としては、SB層(A)の繊維を構成する樹脂として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0075】
中でも、SB層(C)の繊維を構成する樹脂は、強度が高く、適度な溶融粘度に調整するのが容易であり、不織布及びその積層体の成形が容易である観点から、ポリオレフィン系樹脂を含むことがより好ましく、導電性不織布の抵抗を低減する観点及び、親水性導電性ポリマー塗料の浸透制御の観点から、ポリプロピレン系樹脂であることがさらに好ましい。プロピレン系重合体は、メルトフローレート(MFR:ASTM D-1238、230℃、荷重2160g)が例えば1g/10分~500g/10分の範囲のものを用いることができる。
【0076】
SB層(C)の繊維の形態は、本開示の効果を損なわない範囲で、SB層(A)の繊維の形態として例示したものと同様のものが挙げられる。また、SB層(C)の繊維は、添加剤を含んでもいてもよい。添加剤としては、SB層(A)の添加剤として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0077】
(1.1.2.4)第4のスパンボンド層(D)
前記積層体は、前記第1のスパンボンド層(A)と前記第2のメルトブローン層(B)との間に、第4のスパンボンド層(D)を更に有することが好ましい。前記第4のスパンボンド層(D)の平均繊維径は、前記第1のスパンボンド層(A)の平均繊維径よりも小さい。
積層体がSB層(D)を更に有することで、導電性ポリマーの浸透がおこりやすく、積層体内部への導電性ポリマーの分布がより均一になり、より高い電磁波吸収性能を発現させることができる。
【0078】
SB層(D)の平均繊維径は、SB層(A)の平均繊維径に応じて適宜選択される。SB層(A)の平均繊維径からSB層(D)の平均繊維径を減算して得られる減算値(以下、「第2減算値」ともいう)は、5μm~10μmであってもよく、12μm~22μmであってもよい。SB層(D)の平均繊維径は、実施例に記載の方法と同様である。
【0079】
SB層(D)の平均繊維径は、好ましくは10μm~25μm、より好ましくは12μm~22μmである。SB層(D)の平均繊維径が12μm~22μmであれば、導電性ポリマーの浸透均一性はより優れる。更に、電磁波吸収不織布の曲げ耐久性は、より向上する。
【0080】
SB層(D)は、通気性材料であってもよい。
【0081】
SB層(D)の厚みは、特に限定されるものではなく、電磁波吸収不織布の用途により適宜選択される。SB層(D)の厚みは、導電性ポリマーの浸透均一性の観点から、好ましくは0.10mm~0.45mm、より好ましくは0.15mm~0.35mmである。
【0082】
SB層(D)の目付は、特に限定されるものではなく、電磁波吸収不織布の用途により適宜選択される。SB層(D)の目付は、導電性ポリマーの浸透均一性の観点から、好ましくは5g/cm2~50g/cm2、より好ましくは10g/cm2~30g/cm2である。SB層(D)の目付の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0083】
目付比率(D)は、特に限定されるものではなく、電磁波吸収不織布の用途により適宜選択される。目付比率(D)は、積層体の目付に対する、SB層(D)の目付の比率を示す。目付比率(D)は、導電性ポリマーの浸透均一性の観点から、好ましくは5%~30%、より好ましくは8%~25%である。
【0084】
上述したSB層(D)の平均繊維径、厚み、目付の各々は、導電性ポリマーが付着した状態のSB層(D)の平均繊維径、厚み、目付の各々を示す。
【0085】
SB層(D)の繊維を構成する樹脂としては、SB層(A)の繊維を構成する樹脂として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0086】
中でも、SB層(D)の繊維を構成する樹脂は、強度が高く、適度な溶融粘度に調整するのが容易であり、不織布及びその積層体の成形が容易である観点から、ポリオレフィン系樹脂を含むことがより好ましく、導電性不織布の抵抗を低減する観点及び、親水性導電性ポリマー塗料の浸透制御の観点から、ポリプロピレン系樹脂であることがさらに好ましい。プロピレン系重合体は、メルトフローレート(MFR:ASTM D-1238、230℃、荷重2160g)が例えば1g/10分~500g/10分の範囲のものを用いることができる。
【0087】
SB層(D)の繊維の形態は、本開示の効果を損なわない範囲で、SB層(A)の繊維の形態として例示したものと同様のものが挙げられる。また、SB層(D)の繊維は、添加剤を含んでもいてもよい。添加剤としては、SB層(A)の添加剤として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0088】
(1.1.2.5)好ましい態様
積層体に使用する樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。これにより、積層体に含まれる複数の繊維は、疎水性を有する。そのため、積層体に親水性導電性ポリマー塗料を塗布する際、積層体への導電性ポリマー塗料の過剰な浸透は、複数の繊維が親水性を有する場合よりも、抑制される。そのため、積層体の表面及び内部において、導電性ポリマーは、繊維に精緻に均一に付着しやすい。その結果、本開示の電磁波吸収不織布の電磁波吸収性は、より優れる。
【0089】
本開示において「積層体に使用する樹脂」とは、積層体を構成するすべての層に含まれる繊維を構成する樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であることを示す。積層体がSSMS構造である場合、SB層(A)、SB層(D)、MB層(B)、及びSB層(C)の各々に含まれる繊維を構成する樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であることを示す。積層体がSMS構造である場合、SB層(A)、MB層(B)及びSB層(C)の各々に含まれる繊維を構成する樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であることを示す。積層体がSSM構造である場合、SB層(A)、SB層(D)、及びMB層(B)の各々に含まれる繊維を構成する樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であることを示す。積層体がSM構造である場合、SB層(A)及びMB層(B)の各々に含まれる繊維を構成する樹脂が、ポリオレフィン系樹脂であることを示す。
【0090】
(1.1.2.6)第1実施形態
図1Aを参照して、本開示の積層体の一例について、説明する。本開示の第1実施形態に係る積層体10Aは、SSMS構造を有する。詳しくは、積層体10Aは、
図1Aに示すように、SB層(A)11と、SB層(D)12と、MB層(B)13と、SB層(C)14とがこの順に積層されてなる。SB層(A)11は、積層体10Aの一方の最外層である。SB層(C)14は、積層体10Aの他方の最外層である。積層体10Aは、複数のエンボス部15を有する。複数のエンボス部15によって、積層体10Aは、一体となっている。
【0091】
SB層(A)11としては、SB層(A)として例示したものと同様のものが挙げられる。SB層(D)12としては、SB層(D)として例示したものと同様のものが挙げられる。MB層(C)13としては、MB層(B)として例示したものと同様のものが挙げられる。SB層(D)14としては、SB層(C)として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0092】
積層体10AがSSMS構造であると、MB層(B)の前後をSB層で保護することにより折り曲げ時にMB層(B)を保護することができ、曲げ耐久性を向上させることができる。また、親水性導電性ポリマー塗料は、積層体の内部に浸透しやすく、積層体の表面及び内部により緻密に塗布され得る。つまり、親水性導電性ポリマーは、積層体の内部により均一に付着し得る。その結果、電磁波吸収不織布の電磁波吸収性はより優れる。さらに、平均繊維径、目付、平均細孔径など各層の大小関係及びそれらの組合せは、電磁波吸収性能及び、吸音性能を向上しうる。
【0093】
(1.1.2.7)第2実施形態
図1Bを参照して、本開示の積層体の一例について、説明する。本開示の第2実施形態に係る積層体10Bは、SMS構造を有する。積層体10Bは、SB層(D)12を有しない他は、積層体10Aと同じ構成である。積層体10Bは、SB層(A)11と、MB層(B)13と、SB層(C)14とがこの順に積層されてなる。積層体10Bは、複数のエンボス部15を有する。複数のエンボス部15によって、積層体10Bは、一体となっている。
【0094】
積層体10BがSMS構造であると、他層に較べて平均繊維径の小さなMB層(B)の前後をSB層で保護することにより、積層体の力学的特性が向上し圧縮加工時に積層体の厚み減少が抑制され、曲げ耐久性を向上させることができる。
【0095】
(1.1.2.8)第3実施形態
図1Cを参照して、本開示の積層体の一例について、説明する。本開示の第3実施形態に係る積層体10Cは、SSM構造を有する。積層体10Cは、SB層(C)14を有しない他は、積層体10Aと同じ構成である。積層体10Cは、SB層(A)11と、SB層(D)13と、MB層(B)13とがこの順に積層されてなる。積層体10Cは、複数のエンボス部15を有する。複数のエンボス部15によって、積層体10Cは、一体となっている。
【0096】
積層体10CがSSM構造であると、最外層であるSB層(A)11、その隣りに位置するSB層(C)14、その隣に位置するMB層(B)13の順に、各層の平均繊維径が徐々に小さくなる。これにより、導電性ポリマーは、積層体の内部により浸透しやすくなり、連続繊維の表面により均一に付着し得る。その結果、電磁波吸収不織布の電磁波吸収性はより優れる。また、最外層であるSB層(A)11、その隣りに位置するSB層(C)14の順に、スパンボンド不織布の目付が小さくなる。繊維径勾配、目付勾配の各々、もしくはこれら組合せにより、導電性ポリマーは緻密な層を形成し、導電性の連続性を高めることができる。
【0097】
(1.1.2.9)第4実施形態
図1Dを参照して、本開示の積層体の一例について、説明する。本開示の第4実施形態に係る積層体10Dは、SM構造を有する。積層体10Dは、SB層(D)12及びSB層(C)14を有しない他は、積層体10Aと同じ構成である。積層体10Dは、SB層(A)11と、MB層(B)13とがこの順に積層されてなる。積層体10Dは、複数のエンボス部15を有する。複数のエンボス部15によって、積層体10Dは、一体となっている。
【0098】
積層体10DがSM構造であると、高い周波数帯域(例えば、5GHz)の電磁波に対する電磁波吸収性及び曲げ耐久性に優れる。
【0099】
(1.2)任意層
電磁波吸収不織布は、電磁波吸収不織布の用途等に応じて、任意層を更に備えていてもよいし、任意層を備えていなくてもよい。
【0100】
電磁波吸収不織布が吸音材に用いられる場合、電磁波吸収不織布は、任意層を備えることが好ましい。任意層としては、例えば、立体網目状構造を有する樹脂成形体、多孔フィルム、シート状物(例えば、紙、織物、編物、フェルト、無機繊維等)、発泡体等が挙げられる。
【0101】
「立体網目状構造を有する樹脂成形体」とは、三次元的な網目構造を有する樹脂成形体を示す。
【0102】
(1.2.1)立体網目状構造を有する樹脂成形体
立体網目状構造を有する樹脂成形体としては、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を立体網目状に成形した樹脂成形体が挙げられる。熱可塑性樹脂は、エチレン系重合体、プロピレン系重合体及びポリエステル系重合体の短繊維のいずれかを含むことが好ましい。
【0103】
(1.2.2)多孔フィルム
多孔フィルムとしては、微多孔膜、メソポーラス膜等が挙げられる。多孔フィルムとしては、例えば、樹脂多孔フィルム(例えば、充填剤や相分離したポリマーアロイを含む樹脂の延伸により多孔化したフィルム等)、無機多孔フィルム(例えば、セメント多孔体フィルム等)、孔開け加工(ニードルパンチ等)により孔が開けられたフィルム等が挙げられる。多孔フィルムの通気度は、例えば、厚み、密度、孔径等を調整することで制御できる。
【0104】
(1.2.3)無機繊維
無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、カーボンファイバー等が挙げられる。
【0105】
(1.2.4)発泡体
発泡体としては、例えば、ゴム発泡体、ポリオレフィン発泡体(例えばポリエチレン発泡体、ポリプロピレン発泡体等)、ポリウレタン発泡体、ポリスチレン発泡体、アクリル系共重合体の発泡体等が挙げられる。
【0106】
発泡体の通気度は、例えば、厚み、密度、独立気泡率等を調整することで制御できる。
発泡体は、高通気層の通気度を高める観点及び吸音材の吸音性を高める観点から、連続気泡構造を有することが好ましい。
【0107】
(1.3)用途
電磁波吸収不織布の用途としては、例えば、吸音材、電線、ロボット用配線、自動車用高圧ワイヤーハーネス、ウェララブルセンサー、おむつセンサー、医療用物品(例えば、注射器、点滴用容器、パイプ類、試験管、シャーレ類等)、フィルタ等が挙げられる。
【0108】
(2)電磁波吸収不織布含有物品
本開示の電磁波吸収不織布含有物品は、本開示の電磁波吸収不織布を備える。
【0109】
本開示において、「電磁波吸収不織布含有物品」とは、本開示の電磁波吸収不織布を備える物品を示す。
【0110】
本開示の電磁波吸収不織布含有物品は、上記の構成を有するので、高い周波数帯域(例えば、5GHz)の電磁波に対する電磁波吸収性及び曲げ耐久性に優れる。
【0111】
電磁波吸収不織布含有物品としては、吸音材、電線、ロボット用配線、自動車用高圧ワイヤーハーネス、ウェラブルセンサー、おむつセンサー、医療用物品、フィルタ等が挙げられる。
【0112】
吸音材は、音を吸収するとともに、高い周波数帯域(例えば、5GHz)の電磁波を吸収する。吸音材は、例えば、自動車、電子機器、建築物、住宅用などの様々な用途に適用可能である。吸音材の構成は、本開示の電磁波吸収不織布を備えることの他は、公知の吸音材の構成であればよい。
【0113】
電線用電磁波吸収不織布は、電線の周りに電磁波吸収不織布を被覆することで高い周波数帯域(例えば、5GHz)の電磁波を吸収する。電線の構成は、本開示の電磁波吸収不織布を備えることの他は、公知の電線の構成であればよい。
【0114】
ロボット用配線用電磁波吸収不織布は、ロボット用配線の周りに電磁波吸収不織布を被覆することで高い周波数帯域(例えば、5GHz)の電磁波を吸収する。ロボット用配線の構成は、本開示の電磁波吸収不織布を備えることの他は、公知のロボット用配線の構成であればよい。
【0115】
自動車用高圧ワイヤーハーネス用電磁波吸収不織布は、ワイヤーハーネスの周りに電磁波吸収不織布を被覆することでノイズ低減を目的とするとともに、高い周波数帯域(例えば、5GHz)の電磁波を吸収する。ワイヤーハーネスの構成は、本開示の電磁波吸収不織布を備えることの他は、公知の電線の構成であればよい。
【0116】
医療用物品は、手術用機器へのノイズ低減を目的とするとともに、高い周波数帯域(例えば、5GHz)の電磁波を吸収する。医療用物品の構成は、本開示の電磁波吸収不織布を備えることの他は、公知の医療用物品の構成であればよい。
【0117】
フィルタは、気体又は液体中の固形異物を捕獲することともに、高い周波数帯域(例えば、5GHz)の電磁波を吸収する。フィルタの構成は、本開示の電磁波吸収不織布を備えることの他は、公知のフィルタの構成であればよい。
【0118】
(3)吸音材
本開示の吸音材は、本開示の電磁波吸収不織布を備える。
【0119】
本開示の吸音材は、上記の構成を有するので、音を吸収するとともに、高い周波数帯域(例えば、5GHz)の電磁波に対する電磁波吸収性及び曲げ耐久性に優れる。
【0120】
吸音材の構成は、本開示の電磁波吸収不織布を備えることの他は、公知の吸音材の構成であればよい。吸音材は、例えば、自動車、電子機器、建築物、住宅用などの様々な用途に適用可能である。
【実施例0121】
以下、本開示を実施例に基づき更に詳細に説明する。ただし、本開示は、これら実施例に限定されるものではない。
【0122】
[1]各種物性の測定方法及び評価方法
各種物性の測定方法及び評価方法は、下記の通りである。
【0123】
[1.1]平均繊維径
SB層(A)については、10mm×10mmの試験片を10点採取し、顕微鏡(株式会社ニコン製、商品名:ECLIPSE E400)を用い、倍率50倍で、1試験片毎に任意の30箇所の径をμm単位で小数点第1位まで読み取り、その算術平均値をSB層(A)が含有する繊維の平均繊維径とした。
MB層(B)については、積層体からMB層(B)を剥離し、採取した試料片の構成繊維30本の繊維径(μm)を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、型式名:SU3500形)を用いて、倍率500倍又は1000倍で測定し、その算術平均値をMB層(B)が含有する繊維の平均繊維径とした。
【0124】
[1.2]目付
電磁波吸収不織布、SB層(A)、MB層(B)、SB層(C)及びSB(D)の各々から、100mm(繊維の流れ方向:MD)×100mm(繊維の流れ方向と直交した方向(CD方向))の試験片を、10点採取した。試験片の採取場所は、CD方向にわたって10箇所とした。次いで、採取した各試験片に対して上皿電子天秤(研精工業社製)を用いて、それぞれ質量〔g〕を測定して各試験片の質量の算術平均値を求める。上記で求めた平均値を1m2当たりの質量〔g〕に換算し、目付〔g/m2〕とした。
【0125】
[1.3]平均細孔径
電磁波吸収不織布、SB層(A)及びMB層(B)の平均細孔径は、各試験片を5点採取し、PMI社のパームポロメーターを用いて測定した。浸液として3M社製フロリナートFC-43を用い、ASTME1294-8に準拠し、ハーフドライ法により測定した。その算術平均値をシート及び各層の平均細孔径とした。
【0126】
[1.4]エンボス部の融着面積率及びサイズ
エンボス面積率は、以下の手順により3点測定し、その平均値をエンボス率とした。
(1)電磁波吸収不織布の中でエンボス率が最も高い部分を選定し、測定対象の電磁波吸収不織布を10cm×10cmに裁断し、測定試料を作製する。測定対象の電磁波吸収不織布として10cm×10cmの大きさを取り出せない場合には、なるべく大きいサイズで取り出す。
(2)測定試料を水平に静置した状態で、観察画像を撮像する。観察画像に対し50mm×50mm四方におけるフィルム化している部分の面積率をエンボス面積率として測定する。なお、エンボスロールの規則的なパターンに配置された複数の凸部の頂面の面積率は、前述のエンボス面積率に代替できる。
【0127】
[1.5]導電性ポリマー塗料の粘度
導電性ポリマー塗料の溶液粘度は、B型粘度計(コーンプレート型粘度計CPA-52Z、英弘精機社)を用いて20℃、剪断速度2.0N/secで測定した。3点測定し、その平均値を導電性ポリマー塗料の粘度とした。
【0128】
[1.6]通気度
織物及び編物の生地試験方法(JIS-L1096:2010)に準拠し、フラジール通気度測定機を用いて、A法(フラジール法)により、電磁波吸収不織布を通過する空気量(cm3/cm2・s)を測定した。空気量(cm3/cm2・s)の測定値を、電磁波吸収不織布の通気度とした。
測定対象の層を吸音材から剥離し、試験片を10点採取した。採取した各試験片について、荷重が7g/cm2の厚さ計を使用して中央及び四隅の5点の厚みを測定した。測定した50点の厚みの平均値を算出し、各層の厚み(mm)とした。なお、吸音材全体の合計厚みについては、各層の総和とした。
【0129】
[1.7]伝送減衰率(5GHz)
IEC規格62333-1,2に準じて、マイクロストリップライン法によって、電磁波吸収不織布の伝送減衰率(5GHz)を測定した。詳しくは、10cm×5cmの試料を作製し、マイクロストリップライン上に測定試料を乗せ、上から500gの荷重をかけ、マイクロストリップライン上にネットワークアナライザから高周波信号(5GHz)を入射し、測定試料によってどれだけ信号が減衰したかを評価した。伝送減衰率(Rtp)は、入射と反射の差(マイクロストリップラインの真の入力量)をとり、その値と透過量との比で求めた。伝送減衰率(5GHz)の許容可能な測定結果は、8dB以上である。
【0130】
[1.8]曲げ耐久性
MIT試験機法(JIS P 8115:2001)に準拠して、電磁波吸収不織布に往復折り曲げを繰り返し行った。電磁波吸収不織布が破断するまでの往復折り曲げ回数を測定した。往復折り曲げ回数の測定値に基づき、電磁波吸収不織布の曲げ耐久性を、下記の基準で評価した。曲げ耐久性の許容可能な評価結果は、「A」又は「A-」である。
【0131】
[1.8.1]曲げ耐久性の評価基準
「A」 :往復折り曲げ回数が100,000回以上であった。
「A-」:往復折り曲げ回数が10,000回以上100,000回未満であった。
「B」 :往復折り曲げ回数が10,000回未満であった。
【0132】
[1.9]判定
電磁波吸収不織布に対し、通気度、平均細孔径、伝送減衰率(5GHz)及び曲げ耐久性の評価を行い、4項目全てについて最も良好な評価である場合「A+」とした。4項目全てについて良い評価である場合「A」とした。4項目のうち曲げ耐久性と通気度の評価を重視して「A-」を付した。4項目の内、1項目でも許容可能な評価を満たさなかった場合「B」とした。判定の許容可能な評価結果は、「A+」、「A」又は「A-」である。
【0133】
[1.9.1]判定の評価基準
「A+」:通気度、平均細孔径、伝送減衰率(5GHz)及び曲げ耐久性評価が全て最も良好であった。
「A」 :通気度、平均細孔径、伝送減衰率(5GHz)及び曲げ耐久性評価が全て良い評価であった。
「A-」:曲げ耐久性、通気度が基準値上下限近傍であった。
「B」 :通気度、平均細孔径、伝送減衰率(5GHz)及び曲げ耐久性評価において、許容可能な評価を満たさない評価があった。
【0134】
[2]実施例及び比較例
本実施例では、次のようにして、電磁波吸収不織布を得た。
【0135】
[2.1]実施例1
[2.1.1]SBウェブ(C-1)の作製工程
230℃、2.16kg条件下で測定したメルトフローレート(MFR)が60g/10分のプロピレン単重合体を用い、紡糸口金を有するスパンボンド不織布成形機で、スピンレイ積層によって、スクリーン上に、SBウェブ(C-1)を形成した。紡糸口金の直径は、直径0.6mmであった。スピンレイ積層のノズルの設定温度は、230℃であった。SBウェブ(C-1)は、SB層(C)の素材である。SBウェブ(C-1)の平均繊維径は、15μmであった。SBウェブ(C-1)の目付は、10g/m2であった。
【0136】
[2.1.2]MBウェブ(B-1)の作製工程
次に、230℃、2.16kg条件下で測定したMFRが400g/10分のプロピレン単重合体を、押出機を用いて280℃にて溶融した。得られた溶融物を、メルトブロー積層によって、SBウェブ(C-1)上に、MBウェブ(B-1)を形成した。メルトブロー積層の加熱空気の温度は、280℃であった。MBウェブ(B-1)は、MB層(B)の素材である。MBウェブ(B-1)の平均繊維径は、3μmであった。MBウェブ(B-1)の目付は、5g/m2であった。
【0137】
[2.1.3]SBウェブ(D-1)の作製工程
次に、SBウェブ(C-1)の作製工程と同様にして、MBウェブ(B-1)上に、SBウェブ(D-1)を形成した。SBウェブ(D-1)は、SB層(D)の素材である。SBウェブ(D-1)の平均繊維径は15μmであった。SBウェブ(D-1)の目付は、10g/m2であった。これにより、3層構造の重ね合わせ体が得られた。3層構造の重ね合わせ体は、SBウェブ(D-1)、MBウェブ(B-1)及びSBウェブ(C-1)が、この順に積層されてなる。
【0138】
[2.1.4]第1エンボス処理工程
次に、3層構造の重ね合わせ体をエンボスロールとミラーロールとの間に挟んで、一体化した。エンボスロールの刻印面積率は、18%であった。エンボスロールの設定温度は、145℃であった。ミラーロールの設定温度は、150℃であった。これにより、3層構造(以下、「SMS構造」ともいう)の不織布を得た。SMS構造の不織布は、SB層(D)、MB層(B)及びSB層(C)がこの順に積層されてなる。SMS構造の不織布の目付は、25g/m2であった。
【0139】
本開示において、「エンボスロールの刻印面積率」とは、エンボスロールの表面積に対する。エンボスロールに形成された凸部の面積率を示す。エンボスロールの刻印面積率と、積層体のエンボス面積率とは、略同一である。
【0140】
[2.1.5]SBウェブ(A-1)の作製工程
次に、230℃、2.16kg条件下で測定したMFRが60g/10分のプロピレン単独重合体を用い、紡糸口金を有するスパンボンド不織布成形機で、スピンレイ積層によって、SMS構造の不織布のSB層(D)上に、SBウェブ(A-1)を形成した。スピンレイ積層のノズルの設定温度は、230℃であった。SBウェブ(A-1)は、SB層(A)の素材である。SBウェブ(A-1)の平均繊維径は、30μmであった。SBウェブ(A-1)の目付は、100g/m2であった。SBウェブ(A-1)の平均細孔径は、16μmであった。これにより、4層構造の重ね合わせ体が得られた。4層構造の重ね合わせ体は、SBウェブ(A-1)、SB層(D)、MB層(B)及びSB層(C)が、この順に積層されてなる。
【0141】
[2.1.6]第2エンボス処理工程
次に、4層構造の重ね合わせ体を、エンボスロールと、ミラーロールとの間に挟んで、一体化した。エンボスロールの刻印面積率は、18%であった。エンボスロールのエンボス柄は、0.9mm角であった。エンボスロールの設定温度は、155℃であった。ミラーロールの設定温度は、160℃であった。これにより、4層構造(以下、「SSMS構造」ともいう)の不織布からなる積層体を得た。SSMS構造の積層体は、SB層(A)、SB層(D)、MB層(B)及びSB層(C)が、この順に積層されてなる。
【0142】
[2.1.7]導電性ポリマーの付着工程
導電性ポリマー塗料の原料として、クレバ(株)製の製品名「CV501-1.0」を準備した。「CV501-1.0」の成分は、下記の通りである。
【0143】
<「CV501-1.0」の成分>
・導電性ポリマー:PEDOT/PSS(Poly(3,4-EthyleneDiOxyThiophene/Poly(4-StyreneSulfonate)
・固形分濃度 :1.3質量%
・形状 :微粒子
・溶媒 :水
・粘度 :50mPa・s~150mPa・s
【0144】
導電性ポリマー塗料の原料に溶媒として、水、イソプロピルアルコール、及びジエチレングリコール混合液を加えて溶融させ、バインダー樹脂成分を添加して、導電性ポリマー塗料を得た。導電性ポリマーの濃度は、1%であった。導電性ポリマー塗料の粘度は、62.8mp/sであった。
【0145】
SSMS構造の積層体のSB層(A)の表面上に、導電性ポリマー塗料をグラビアコーターで塗布した。導電性ポリマー塗料の塗布量は、25g/m2であった。次いで、導電性ポリマー塗料を乾燥して、電磁波吸収不織布を得た。
【0146】
SSMS構造の積層体の表面上に導電性ポリマー塗料が塗布された直後の電磁波吸収不織布の正面画像を
図2Aに示す。「導電性ポリマー塗料が塗布された直後」とは、導電性ポリマー塗料の塗布が終了した時点から30秒経過する前を示す。SSMS構造の積層体の表面上に導電性ポリマー塗料が乾燥した状態の電磁波吸収不織布の正面の画像を
図2Bに示す。
図2A及び
図2B中、黒色部分を含む色の暗い部分は、導電性ポリマー塗料の塗布物を示し、白色部分を含む色の明るい部分は、積層体の繊維を示し、規則的に形成された複数のドット部は、エンボス部を示す。
図2Aから、エンボス部に塗料が溜まり、そこから積層体表面全体に塗料が均一に付着していることがわかった。
図2Bから、積層体表面全体に導電性高分子が均一に付着していることがわかった。
【0147】
[2.1.8]EPMA表面元素分析
実施例1の電磁波吸収不織布のSB層(A)の表面のEPMA(電子線微小領域解析法)画像を
図3に示す。
図3は、導電性ポリマー塗料に含まれる「PEDOT/PSS」の硫黄成分のマッピング結果を示す。色の明るい領域(白色領域)が、硫黄成分を示している。画像中の色々の矩形領域は、エンボス部を示す。
図3から、積層体の表面において、導電性ポリマーは、格子状にきれいにつながっていることがわかった。
【0148】
[2.1.9]SEM-EDX断面元素分析
得られた電磁波吸収不織布の厚み方向に切断した断面のSEM-EDX画像を
図4に示す。
図4は、導電性ポリマー塗料に含まれる「PEDOT/PSS」の硫黄成分のマッピング結果を示す。色の明るい領域(白色領域)が、硫黄成分を示している。
図4から、導電性ポリマーがきれいにつながっていることがわかった。導電性ポリマーは、従来とは異なりメッシュ状に分布していた。
【0149】
[2.2]実施例2~実施例5、実施例8、及び比較例1~比較例4
SB層(A)、SB層(D)、MB層(B)、SB層(C)、エンボス部及び導電性ポリマーの材質等を表1に示す材質等に変更したことの他は、実施例1と同様にして、実施例2~実施例5、実施例8、及び比較例1~比較例4の電磁波吸収不織布を得た。
比較例4では、導電性ポリマーの付着は実施されなかった。
【0150】
比較例2において、導電性ポリマー塗料が乾燥した状態の電磁波吸収不織布の表面の画像を
図5に示す。
図5中、黒色部分を含む色の暗い部分は、導電性ポリマー塗料の塗布物を示し、白色部分を含む色の明るい部分は、積層体の繊維を示し、規則的に形成された複数のドット部は、エンボス部を示す。実施例1の電磁波吸収不織布の画像(
図2B参照)との対比から、比較例2の電磁波吸収不織布の表面には、複数の黒色の島部が存在していることがわかる。この島部は、積層体の繊維同士の複数の隙間に充填された導電性ポリマー塗料の塗布物の集合体である。表1に示すように、比較例2の通気度は、実施例1の通気度よりも低い。これは、
図2Bと
図5との対比から、導電性ポリマー塗料の塗布物が、積層体の繊維同士の複数の隙間に詰まっていることが主要因であることがわかった。
【0151】
[2.3]実施例6
[2.3.1]MBウェブ(B-1)の作製工程
実施例1のMBウェブ(B-1)の作製工程と同様にして、スクリーン上にMB層(B)を形成した。
【0152】
[2.3.2]SBウェブ(A-1)の作製工程
次に、実施例1のSBウェブ(A-1)の作製工程と同様にして、MB層(B)上にSBウェブ(A-1)を形成した。これにより、2層構造の重ね合わせ体が得られた。2層構造の重ね合わせ体は、SBウェブ(A-1)及びMBウェブ(B-1)が、この順に積層されてなる。
【0153】
[2.3.3]第2エンボス処理工程
次に、実施例1の第2エンボス処理と同様にして、2層構造の重ね合わせ体を、一体化した。エンボスロールの刻印面積率は、28%であった。エンボスロールのエンボス柄は、0.7mm角であった。エンボスロールの設定温度は、155℃であった。ミラーロールの設定温度は、160℃であった。これにより、2層構造(以下、「SM構造」ともいう)の不織布からなる積層体を得た。SM構造の積層体は、SB層(A)及びMB層(B)がこの順に積層されてなる。
【0154】
[2.3.4]導電性ポリマーの付着工程
実施例1の導電性ポリマーの付着工程と同様にして、SM構造の積層体のSB層(A)の表面上に導電性ポリマー塗料を塗布し、乾燥して、電磁波吸収不織布を得た。
【0155】
[2.4]実施例7
[2.4.1]MBウェブ(B-1)の作製工程
実施例1のMBウェブ(B-1)の作製工程と同様にして、スクリーン上にMB層(B)を形成した。
【0156】
[2.4.2]SBウェブ(D-1)の作製工程
次に、実施例1のSBウェブ(D-1)の作製工程と同様にして、MBウェブ(B-1)上に、SBウェブ(D-1)を形成した。
【0157】
[2.4.3]SBウェブ(A-1)の作製工程
次に、実施例1のSBウェブ(A-1)の作製工程と同様にして、SBウェブ(D-1)上にSBウェブ(A-1)を形成した。これにより、3層構造の重ね合わせ体が得られた。3層構造の重ね合わせ体は、SBウェブ(A-1)、SBウェブ(D-1)及びMBウェブ(B-1)が、この順に積層されてなる。
【0158】
[2.4.4]第2エンボス処理工程
次に、実施例1の第2エンボス処理と同様にして、3層構造の重ね合わせ体を、一体化した。エンボスロールの刻印面積率は、28%であった。エンボスロールのエンボス柄は、0.7mm角であった。エンボスロールの設定温度は、155℃であった。ミラーロールの設定温度は、160℃であった。これにより、3層構造(以下、「SSM構造」ともいう)の不織布からなる積層体を得た。SSM構造の積層体は、SB層(A)、SB層(D)、及びMB層(B)がこの順に積層されてなる。
【0159】
[2.4.5]導電性ポリマーの付着工程
実施例1の導電性ポリマーの付着と同様にして、SSM構造の積層体のSB層(A)の表面上に導電性ポリマー塗料を塗布し、乾燥して、電磁波吸収不織布を得た。
【0160】
[2.5]比較例5
電磁波吸収不織布として、株式会社トーキン製のノイズ抑制シート(製品名「バスタレイドFG1」、材質:金属磁性体粉末及び樹脂、厚さ:0.05mmt)を用いた。
【0161】
[2.6]実施例9
[2.6.1]SBウェブ(C-2)の作製工程
230℃、2.16kg条件下で測定したメルトフローレート(MFR)が60g/10分のプロピレン単重合体を用い、紡糸口金を有するスパンボンド不織布成形機で、スピンレイ積層によって、スクリーン上に、SBウェブ(C-2)を形成した。紡糸口金の直径は、直径0.6mmであった。スピンレイ積層のノズルの設定温度は、230℃であった。SBウェブ(C-2)は、SB層(C)の素材である。SBウェブ(C-2)の平均繊維径は、20μmであった。SBウェブ(A-2)の目付は、20g/m2であった。
【0162】
[2.6.2]MBウェブ(B-2)の作製工程
次に、230℃、2.16kg条件下で測定したMFRが400g/10分のプロピレン単重合体を、押出機を用いて280℃にて溶融した。得られた溶融物を、メルトブロー積層によって、SBウェブ(C-2)上に、MBウェブ(B-2)を形成した。メルトブロー積層の加熱空気の温度は、280℃であった。MBウェブ(B-2)は、MB層(B)の素材である。MBウェブ(B-1)の平均繊維径は、3μmであった。MBウェブ(B-2)の目付は、25g/m2であった。
【0163】
[2.6.3]SBウェブ(A-2)の作製工程
次に、SBウェブ(C-2)の作製工程と同様にして、MBウェブ(B-2)上に、SBウェブ(A-2)を形成した。SBウェブ(A-2)は、SB層(A)の素材である。SBウェブ(A-2)の平均繊維径は20μmであった。SBウェブ(A-2)の目付は、40g/m2であった。これにより、3層構造の重ね合わせ体が得られた。3層構造の重ね合わせ体は、SBウェブ(A-2)、MBウェブ(B-2)及びSBウェブ(C-2)が、この順に積層されてなる。
【0164】
[2.6.4]第2エンボス処理工程
次に、実施例1の第2エンボス処理と同様にして、3層構造の重ね合わせ体を、一体化した。エンボスロールの刻印面積率は、10%であった。エンボスロールのエンボス柄は、0.5mm角であった。エンボスロールの設定温度は、155℃であった。ミラーロールの設定温度は、160℃であった。これにより、3層構造(以下、「SMS構造」ともいう)の不織布からなる積層体を得た。SMS構造の積層体は、SB層(A)、MB層(B)、及びSB層(C)がこの順に積層されてなる。
【0165】
[2.6.5]導電性ポリマーの付着工程
実施例1の導電性ポリマーの付着と同様にして、SMS構造の積層体のSB層(A)の表面上に導電性ポリマー塗料を塗布し、乾燥して、電磁波吸収不織布を得た。
【0166】
[2.6.6]吸音率の測定
このサンプルについて、任意層1を積層させることで吸音材を作製し、吸音性能を測定した結果を
図6に示す。5000Hz時の吸音率は0.92であり、1000Hz~6300Hzの平均吸音率は0.73だった。
【0167】
[2.7]比較例6
比較例6では、導電性ポリマーの付着は実施されなかった。
【0168】
[2.7.1]吸音率の測定
このサンプルについて、任意層1を積層させることで吸音材を作製し、吸音性能を測定した結果を
図6に示す。5000Hz時の吸音率は0.96であり、1000Hz~6300Hzの平均吸音率は0.74だった。
【0169】
<任意層の作製>
任意層として、立体網目状構造を有する樹脂成形体である短繊維不織布を作製した。プロピレン系重合体の短繊維(宇部エクシモ株式会社製、商品名:UCファイバー、平均繊維径21μm、平均繊維長51mm)5質量部、及びポリエチレンテレフタレート系樹脂の短繊維(平均繊維径35μm、平均繊維長51mm)65質量部と、バインダー繊維であるポリエチレンテレフタレート系樹脂の短繊維(ユニチカ株式会社製、商品名:メルティ4080、平均繊維径14μm、平均繊維長51mm)30質量部とを混合し、開繊機、カード機にてウェブを形成した後、クロスレイヤー機にて多層積層し、約15mmのギャップ間距離に設定された熱風エアー処理機にて処理し、プロピレン系重合体の短繊維とポリエチレンテレフタレート系樹脂の短繊維とを含む約15mm厚のシート状不織布成形体(任意層1)を得た。
【0170】
<吸音材の作製>
SMS構造積層体と任意層1のサイズを、MD方向300mm、CD方向300mmに調整した。積層体及び任意層1の順で、300mm角からずれが生じないように積層し、これら2層を重ねた状態で、超音波シーラー(本多電子(株)超音波溶着機SONAC-37)で端部を融着し、吸音材を得た。
【0171】
[吸音性能の評価]
・吸音率の測定
作製した吸音材について、吸音材の任意の部分から29mmφの円形の試験片を採取した。そして、内径29mmの音響管を用いて、ASTM E 1050に準拠し、垂直入射吸音率測定装でnン時は置(ブリュエル&ケアー社製、TYPE4206)により、周波数1000Hz~6300Hzの平面音波が試験片に垂直に入射するときの垂直入射吸音率を測定した。得られた1000Hz~6300Hzの吸音率カーブから、1000Hz、1250Hz、1600Hz、2000Hz、2500Hz、3150Hz、4000Hz、5000Hz及び6300Hzそれぞれの垂直入射吸音率(以下単に「吸音率」とも称す。)を求め、平均吸音率を算出した。
【0172】
[式1]平均吸音率=(1000Hzの吸音率+1250Hzの吸音率+1600Hzの吸音率+2000Hzの吸音率+2500Hzの吸音率+3150Hzの吸音率+4000Hzの吸音率+5000Hzの吸音率+6300Hz)/9
【0173】
【0174】
表1中、「ノイズ抑制シート」とは、株式会社トーキン製のノイズ抑制シート(製品名「バスタレイドFG1」)を示す。
【0175】
比較例1では、SB層(A)の平均繊維径が20μm~50μmの範囲外であった。比較例2では、SB層(A)の平均繊維径が20μm~50μmの範囲外であり、電磁波吸収不織布の通気度が5.0[cc/cm2・sec]~48.0[cc/cm2・sec]の範囲外であった。比較例3では、電磁波吸収不織布の通気度が5.0[cc/cm2・sec]~48.0[cc/cm2・sec]の範囲外であった。比較例4及び比較例6では、積層体に導電性ポリマーが付着していなかった。そのため、比較例1~比較例4、及び比較例6の電磁波吸収不織布の伝送減衰率(5GHz)は、8dB未満であった。
比較例5では、電磁波吸収不織布は、導電性ポリマーが付着している積層体を備えていなかった。そのため、比較例5の電磁波吸収不織布の曲げ耐久性の評価は「B」であった。
これらの結果、比較例1~比較例6の電磁波吸収不織布は、高い周波数帯域の電磁波に対する電磁波吸収性及び曲げ耐久性に優れる電磁波吸収不織布ではないことがわかった。
【0176】
実施例1~実施例9では、電磁波吸収不織布は導電性ポリマーが付着している積層体を備えていた。積層体は、SB層(A)と、MB層(B)とを有していた。SB層(A)は、前記積層体の一方の最外層であった。通気度は、5.0[cc/cm2・sec]~48.0[cc/cm2・sec]であった。そのため、実施例1~実施例5の電磁波吸収不織布の伝送減衰率(5GHz)は、8dB以上であった。実施例1~実施例5の電磁波吸収不織布の曲げ耐久性の評価は「A」であった。
これらの結果、実施例1~実施例9の電磁波吸収不織布は、高い周波数帯域の電磁波に対する電磁波吸収性及び曲げ耐久性に優れる電磁波吸収不織布であることがわかった。