(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025013044
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】2次元コードの読取方法、読取装置、コンピュータプログラム、製造方法、及び2次元コード
(51)【国際特許分類】
G06K 7/14 20060101AFI20250117BHJP
G06K 19/06 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
G06K7/14 017
G06K19/06 037
G06K19/06 046
G06K7/14 039
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116321
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】道関 隆国
(72)【発明者】
【氏名】福水 洋平
(72)【発明者】
【氏名】倉ケ▲崎▼ 俊輝
(57)【要約】
【課題】円形ドットが小さくても、2次元コードの読取エラーを抑制する。
【解決手段】開示の方法は、複数の矩形セルが配置された2次元コードを表現するために、前記複数の矩形セルのうちの一部の各矩形セルに相当する領域内の中心に前記矩形セルよりも小さい単一の円形ドットを有する2次元コードの読取方法であって、2次元コードを撮影して得られた画像に対する整形処理を実行し、前記整形処理によって得られた画像に基づいて、2次元コードのデコードを実行する、ことを備え、前記整形処理は、前記画像中の前記円形ドットが前記矩形セルに相当する前記領域内において占める面積が増加するとともに、前記円形ドットが矩形に近づくように前記画像中の前記円形ドットを変形させる画像処理を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の矩形セルが配置された2次元コードを表現するために、前記複数の矩形セルのうちの一部の各矩形セルに相当する領域内の中心に前記矩形セルよりも小さい単一の円形ドットを有する2次元コードの読取方法であって、
2次元コードを撮影して得られた画像に対する整形処理を実行し、
前記整形処理によって得られた画像に基づいて、2次元コードのデコードを実行する、
ことを備え、
前記整形処理は、前記画像中の前記円形ドットが前記矩形セルに相当する前記領域内において占める面積が増加するとともに、前記円形ドットが矩形に近づくように前記画像中の前記円形ドットを変形させる画像処理を含む、
2次元コードの読取方法。
【請求項2】
前記画像処理は、前記画像中において前記円形ドットではない領域を収縮させるモルフォロジー演算によって行われる
請求項1に記載の2次元コードの読取方法。
【請求項3】
前記整形処理が実行される前における前記画像中における前記円形ドットの直径は、前記画像における50ピクセル相当長さ以下である
請求項1又は請求項2に記載の2次元コードの読取方法。
【請求項4】
前記円形ドットの直径をdとし、前記2次元コードにおいて隣接する矩形セルに相当する領域それぞれの円形ドット間のピッチをpとしたときに、p/dは、1.45以上である
請求項1又は請求項2に記載の2次元コードの読取方法。
【請求項5】
p/dは、1.6以上である
請求項4に記載の2次元コードの読取方法。
【請求項6】
前記整形処理が実行される前における前記画像中における前記円形ドットの直径は、前記画像における50ピクセル相当長さ以下であり、
前記円形ドットの直径をdとし、前記2次元コードにおいて隣接する矩形セルそれぞれの円形ドット間のピッチをpとしたときに、p/dは、1.45以上である
請求項2に記載の2次元コードの読取方法。
【請求項7】
前記画像処理において、前記モルフォロジー演算は複数回行われる
請求項2に記載の2次元コードの読取方法。
【請求項8】
前記画像処理において、前記モルフォロジー演算を行う回数を、前記円形ドットの直径及び前記2次元コードにおいて隣接する矩形セルそれぞれの円形ドット間のピッチに基づいて決定することを更に備える
請求項2に記載の2次元コードの読取方法。
【請求項9】
複数の矩形セルが配置された2次元コードを表現するために、前記複数の矩形セルのうちの一部の各矩形セルに相当する領域内の中心に前記矩形セルよりも小さい単一の円形ドットを有する2次元コードの読取装置であって、
2次元コードを撮影して得られた画像に対する整形処理を実行し、
前記整形処理によって得られた画像に基づいて、2次元コードのデコードを実行する、
よう構成され、
前記整形処理は、前記画像中の前記円形ドットが前記矩形セルに相当する前記領域内において占める面積が増加するとともに、前記円形ドットが矩形に近づくように前記画像中の前記円形ドットを変形させる画像処理を含む、
2次元コードの読取装置。
【請求項10】
複数の矩形セルが配置された2次元コードを表現するために、前記複数の矩形セルのうちの一部の各矩形セルに相当する領域内の中心に前記矩形セルよりも小さい単一の円形ドットを有する2次元コードを撮像して得られた画像に対する整形処理と、
前記整形処理によって得られた画像に基づいて、2次元コードのデコードと、
をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記整形処理は、前記画像中の前記円形ドットが前記矩形セルに相当する前記領域内において占める面積が増加するとともに、前記円形ドットが矩形に近づくように前記画像中の前記円形ドットを変形させる画像処理を含む、
コンピュータプログラム。
【請求項11】
請求項1に記載の2次元コード読取方法によって読み取られる2次元コードの製造方法であって、
2次元コードが形成される基材に対して、前記円形ドットを構成する穴を、フェムト秒レーザによって形成する工程を備え、
前記フェムト秒レーザによって形成される前記穴は、直径が10μm~100μmであり、
前記直径をdとし、前記2次元コードにおいて隣接する矩形セルに相当する領域それぞれに形成された穴のピッチをpとしたときに、p/dが1.45以上となるように前記ピッチが設定されており、コード縦横の各辺が0.1mm以上である、
2次元コードの製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の2次元コード読取方法によって読み取られる2次元コードの製造方法であって、
合成樹脂、皮革、及び生物由来材料からなる群から選択される少なくとも一つを含む基材に対して、前記円形ドットを構成する穴を、フェムト秒レーザによって形成する工程を備える、
2次元コードの製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載の2次元コード読取方法によって読み取られる2次元コードの製造方法であって、
合成樹脂、皮革、及び生物由来材料からなる群から選択される少なくとも一つを含む基材に対して、
前記円形ドットを構成する穴を、フェムト秒レーザによって形成する工程を備え、
前記フェムト秒レーザによって形成される前記穴は、直径が10μm~100μmであり、
前記直径をdとし、前記2次元コードにおいて隣接する矩形セルに相当する領域それぞれに形成された穴のピッチをpとしたときに、p/dが1.45以上となるように前記ピッチが設定されており、コード縦横の各辺が0.1mm以上である、
2次元コードの製造方法。
【請求項14】
請求項1に記載の2次元コード読取方法によって読み取られる2次元コードであって、
合成樹脂、ゴム、皮革、及び生物由来材料からなる群から選択される少なくとも一つを含む基材に対して形成されており、
複数の矩形セルが配置された2次元コードを表現するために、前記複数の矩形セルのうちの一部の各矩形セルに相当する領域内の中心に形成された単一の穴を備え、
前記穴の直径は、10μm~100μmであり、
前記直径をdとし、前記2次元コードにおいて隣接する矩形セルに相当する領域それぞれに形成された穴のピッチをpとしたときに、p/dが1.45以上となるように前記ピッチが設定されており、
コード縦横の各辺が0.1mm以上である、
2次元コード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、2次元コードの読取方法、読取装置、コンピュータプログラム、製造方法、及び2次元コードに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、フェムト秒レーザでダイヤモンド、ルビー及びサファイヤに穴を形成してQRコード(登録商標)を形成する方法を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Andre Jaques Batista1, PilarGregoryVianna, Henrique Bucker Ribeiro, Christiano Jose Santiago de Matos2, Anderson Stevens LeonidasGomes, “QR code micro-certified gemstones: femtosecond writing and Raman characterization in Diamond, Ruby and Sapphire”, SCIENTFIC REPORTS, 2019
【発明の概要】
【0004】
QRコード及びデータマトリックスなどの2次元コードは、それぞれが二値データ(バイナリーデータ)を表す複数のセルを備える。各セルの形状は、矩形である。一方、非特許文献1において形成された穴は、円形である。非特許文献1では、2次元コードの矩形セルを、円形の穴で表現している。円形の穴は、平面視において円形ドットとして認識され得る。
【0005】
矩形セルを円形ドットで表現する場合、2次元コードの読取精度を高めるためには、円形ドットは、矩形セルとほぼ同じ大きさを持つのが好ましい。しかし、円形ドットが、矩形セルとほぼ同じ大きさを持つ場合、2次元コード又は円形ドットが目立ってしまい、2次元コード又は円形ドットが、2次元コードが付与された基材の外観を損ねるおそれがある。
【0006】
そこで、2次元コード又は円形ドットが外観を損ねるのを抑制するために、円形ドットを矩形セルよりも十分に小さくすることが考えられる。しかし、円形ドットを小さくすると、矩形セルの大きさとかけ離れるため、2次元コードの読取エラーが生じやすくなる。
【0007】
したがって、円形ドットが小さくても、2次元コードの読取エラーを抑制する技術が望まれる。
【0008】
本開示のある側面は、2次元コードの読取方法である。開示の方法は、複数の矩形セルが配置された2次元コードを表現するために、前記複数の矩形セルのうちの一部の各矩形セルに相当する領域内の中心に前記矩形セルよりも小さい単一の円形ドットを有する2次元コードの読取方法であって、2次元コードを撮影して得られた画像に対する整形処理を実行し、前記整形処理によって得られた画像に基づいて、2次元コードのデコードを実行する、ことを備え、前記整形処理は、前記画像中の前記円形ドットが前記矩形セルに相当する前記領域内において占める面積が増加するとともに、前記円形ドットが矩形に近づくように前記画像中の前記円形ドットを変形させる画像処理を含む。
【0009】
本開示の他の側面は、2次元コードの読取装置、コンピュータプログラム、製造方法、及び2次元コードである。更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】
図3は、2次元コードのサイズ説明図である。
【
図5】
図5は、2次元コードの拡大なし読み取り率を示すグラフである。
【
図6】
図6は、拡大なし読み取り率を調べるために用いた2次元コードである。
【
図8】
図8は、モルフォロジー演算の構造要素の説明図
【
図9】
図9は、円形ドットの近似円を示す図である。
【
図10】
図10は、モルフォロジー演算の適用結果を示す図である。
【
図11】
図11は、モルフォロジー演算の適用結果を示す図である。
【
図12】
図12は、モルフォロジー演算の適用結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<1.2次元コードの読取方法、読取装置、コンピュータプログラム、製造方法、及び2次元コードの概要>
【0012】
(1)実施形態に係る方法は、複数の矩形セルが配置された2次元コードを表現するために、前記複数の矩形セルのうちの一部の各矩形セルに相当する領域内の中心に前記矩形セルよりも小さい単一の円形ドットを有する2次元コードの読取方法であり得る。読取方法は、2次元コードを撮影して得られた画像に対する整形処理を実行し、前記整形処理によって得られた画像に基づいて、2次元コードのデコードを実行する、ことを備え得る。前記整形処理は、前記画像中の前記円形ドットが前記矩形セルに相当する前記領域内において占める面積が増加するとともに、前記円形ドットが矩形に近づくように前記画像中の前記円形ドットを変形させる画像処理を含み得る。
【0013】
(2)前記画像処理は、前記画像中において前記円形ドットではない領域を収縮させるモルフォロジー演算によって行われ得る。
【0014】
(3)前記整形処理が実行される前における前記画像中における前記円形ドットの直径は、前記画像における50ピクセル相当長さ以下であり得る。
【0015】
(4)前記円形ドットの直径をdとし、前記2次元コードにおいて隣接する矩形セルに相当する領域それぞれの円形ドット間のピッチをpとしたときに、p/dは、1.45以上であり得る。
【0016】
(5)p/dは、1.6以上であり得る。
【0017】
(6)前記整形処理が実行される前における前記画像中における前記円形ドットの直径は、前記画像における50ピクセル相当長さ以下であり、前記円形ドットの直径をdとし、前記2次元コードにおいて隣接する矩形セルそれぞれの円形ドット間のピッチをpとしたときに、p/dは、1.45以上であり得る。
【0018】
(7)前記画像処理において、前記モルフォロジー演算は複数回行われ得る。
【0019】
(8)前記画像処理において、前記モルフォロジー演算を行う回数を、前記円形ドットの直径及び前記2次元コードにおいて隣接する矩形セルそれぞれの円形ドット間のピッチに基づいて決定することを更に備え得る。
【0020】
(9)実施形態に係る装置は、複数の矩形セルが配置された2次元コードを表現するために、前記複数の矩形セルのうちの一部の各矩形セルに相当する領域内の中心に前記矩形セルよりも小さい単一の円形ドットを有する2次元コードの読取装置であり得る。読取装置は、2次元コードを撮影して得られた画像に対する整形処理を実行し、前記整形処理によって得られた画像に基づいて、2次元コードのデコードを実行する、よう構成され得る。前記整形処理は、前記画像中の前記円形ドットが前記矩形セルに相当する前記領域内において占める面積が増加するとともに、前記円形ドットが矩形に近づくように前記画像中の前記円形ドットを変形させる画像処理を含み得る。
【0021】
(10)実施形態に係るコンピュータプログラムは、複数の矩形セルが配置された2次元コードを表現するために、前記複数の矩形セルのうちの一部の各矩形セルに相当する領域内の中心に前記矩形セルよりも小さい単一の円形ドットを有する2次元コードを撮像して得られた画像に対する整形処理と、前記整形処理によって得られた画像に基づいて、2次元コードのデコードと、をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであり得る。前記整形処理は、前記画像中の前記円形ドットが前記矩形セルに相当する前記領域内において占める面積が増加するとともに、前記円形ドットが矩形に近づくように前記画像中の前記円形ドットを変形させる画像処理を含み得る。
【0022】
(11)実施形態に係る方法は、前記(1)~(10)のいずれか1項に記載の2次元コード読取方法によって読み取られる2次元コードの製造方法であり得る。製造方法は、2次元コードが形成される基材に対して、前記円形ドットを構成する穴を、フェムト秒レーザによって形成する工程を備え、前記フェムト秒レーザによって形成される前記穴は、直径が10μm~100μmであり、前記直径をdとし、前記2次元コードにおいて隣接する矩形セルに相当する領域それぞれに形成された穴のピッチをpとしたときに、p/dが1.45以上となるように前記ピッチが設定されており、コード縦横の各辺が0.1mm以上であり得る。
【0023】
(12)実施形態に係る方法は、前記(1)~(10)のいずれか1項に記載の2次元コード読取方法によって読み取られる2次元コードの製造方法であり得る。製造方法は、合成樹脂、皮革、及び生物由来材料からなる群から選択される少なくとも一つを含む基材に対して、前記円形ドットを構成する穴を、フェムト秒レーザによって形成する工程を備え得る。
【0024】
(13)実施形態に係る方法は、前記(1)~(10)のいずれか1項に記載の2次元コード読取方法によって読み取られる2次元コードの製造方法であり得る。製造方法は、合成樹脂、皮革、及び生物由来材料からなる群から選択される少なくとも一つを含む基材に対して、前記円形ドットを構成する穴を、フェムト秒レーザによって形成する工程を備え、前記フェムト秒レーザによって形成される前記穴は、直径が10μm~100μmであり、前記直径をdとし、前記2次元コードにおいて隣接する矩形セルに相当する領域それぞれに形成された穴のピッチをpとしたときに、p/dが1.45以上となるように前記ピッチが設定されており、コード縦横の各辺が0.1mm以上であり得る。
【0025】
(13)実施形態に係る2次元コードは、前記(1)~(10)のいずれか1項に記載の2次元コード読取方法によって読み取られる2次元コードであり得る。2次元コードは、合成樹脂、ゴム、皮革、及び生物由来材料からなる群から選択される少なくとも一つを含む基材に対して形成されており、複数の矩形セルが配置された2次元コードを表現するために、前記複数の矩形セルのうちの一部の各矩形セルに相当する領域内の中心に形成された単一の穴を備え、前記穴の直径は、10μm~100μmであり、前記直径をdとし、前記2次元コードにおいて隣接する矩形セルに相当する領域それぞれに形成された穴のピッチをpとしたときに、p/dが1.45以上となるように前記ピッチが設定されており、コード縦横の各辺が0.1mm以上であり得る。
【0026】
<2.2次元コードの読取方法、読取装置、コンピュータプログラム、製造方法、及び2次元コードの例>
【0027】
図1は、実施形態に係る2次元コード10の読取方法を実行し得る読取装置100を示している。読取装置100は、コンピュータを備え得る。読取装置100を構成するコンピュータは、プロセッサ110及びプロセッサ110に接続された記憶装置120を備える。読取装置100は、2次元コード10を撮像するためのカメラ130を備える。カメラ130は、読取装置100に一体的に設けられていてもよいし、読取装置に外付けされていてもよい。
【0028】
記憶装置120は、例えば、例えば、一次記憶装置及び二次記憶装置を備える。一次記憶装置は、例えば、RAMである。二次記憶装置は、例えば、ハードディスクドライブ(HDD)又はソリッドステートドライブ(SSD)である。記憶装置120は、プロセッサ110によって実行されるコンピュータプログラム121を備え得る。プロセッサ110は、記憶装置120に格納されたコンピュータプログラム121を読み出して実行する。コンピュータプログラム121は、コンピュータを、実施形態に係る読取装置100として動作させるための命令を示すプログラムコードを有する。コンピュータプログラム121は、プロセッサ110に読取処理111を実行させる。
【0029】
図2は、実施形態に係る2次元コード10の一例を示している。なお、2次元コードの種類は特に限定されないが、2次元コードは、例えば、QRコード(登録商標)又はデータマトリックス(DataMatrix:登録商標)である。
【0030】
図2に示す2次元コード10は、複数の矩形セル11,12がマトリックス状に配置されて構成されている。なお、以下では、矩形セルを単に「セル」ということがある。なお、ここでの「矩形」は一例として正方形である。
【0031】
図2に示す2次元コードは、一例として、縦18セル×横18セルである。1つのセルは、一例として、縦50μm×横50μmである。したがって、
図2に示す2次元コードは、複数の矩形セル全体で、縦900μm×横900μmの大きさを持つ。なお、
図2では、各セル11,12を示す領域を示す枠線が縦及び横に格子状に描かれているが、これらの枠線は、セル11,12に相当する領域を示す仮想的なものであり、現実の2次元コードにおいて現れる必要はない。
【0032】
各セル11,12は、2値データを示す。2値は、例えば「0」及び「1」である。一般的な2次元コードにおいては、セル11,12のセルの明暗によって2値が表現される。例えば、全体が暗色(例えば、黒色)のセル(第1セル)は2値の一方の値を示し、全体が明色(例えば、白色)のセル(第2セル)は2値の他方の値を示す。これに対して、
図2に示す2次元コードにおいては、2値の一方の値を示す第1セル11は、第1セル11に相当する矩形領域内に配置された円形ドット11Aを有し、2値の他方の値を示す第2セル12は円形ドット11Aを有しない。
【0033】
円形ドット11Aを有する第1セル11は、一般的な2次元コードにおける「全体が暗色(例えば、黒色)のセル」に相当し、円形ドット11Aを有しない第2セル12は、一般的な2次元コードにおける「全体が明色(例えば、白色)のセル」に相当する。
【0034】
第1セル11において、円形ドット11Aは、矩形領域の中心に配置される。なお、円形ドット11Aの内側に矩形領域の中心が存在すれば、円形ドット11Aは矩形領域の中心に配置されているとみなされ得る。また、円形とは、完全に円である必要はなく、第1セル11に相当する矩形領域内において、矩形の角が欠けた丸みを帯びた形状であってもよい。また、2次元コードを構成する各セルのうち、どれが第1セル11となり、どれが第2セル12となるかは、2次元コードが表すデータによって異なる。
【0035】
第1セル11のドット11Aは、矩形領域よりも小さい。すなわち、ドット11Aの直径dは、第1セル11の1辺の長さよりも小さい。このため、第1セル11内において、ドット11Aの周囲には、第2セル12と同様の色が存在し得る。例えば、円形ドット11Aは、暗色(例えば、黒色)であり、第1セル11において円形ドット11Aの周囲には、明色(例えば、白色)が表れ得る。第2セル12は、全体として明色(例えば、白色)であり得る。
【0036】
図3は、2次元コード10の各部のサイズを示している。
図3では、説明の便宜のため、各セルは第1セル11であるものとして、円形ドット11Aが縦横に2次元マトリックス状に配置されている。
図3において、ドット11Aの直径は、d[μm]で表され、縦方向又は横方向に隣接するドット11A間のピッチは、p[μm]で表されている。なお、ピッチpは、あるドット11Aの中心から隣接する他のドット11Aの中心までの距離である。なお、ピッチpの長さは、セル11,12の1辺の長さに等しい。
【0037】
ここでのd及びpは、一例として、設計値とする。印刷によって2次元コード10が製造される場合、製造された2次元コードにおけるp及びdは、設計値に対する誤差はほとんどない。ただし、後述のようにドット11Aを穴などによって形成する場合、穴の形成時の製造誤差によって、穴の直径d及びピッチpの実際の値がばらつくことがある。したがって、設計値からの誤差を含み得るd及びpを評価する場合には、製造された2次元コード10全体でのd及びpそれぞれの平均値を、d及びpとして扱うものとする。後述の面積などの他の値についても同様である。
【0038】
実施形態に係る2次元コード10においては、
図3の式(1)に示すように、ピッチp[μm]は、直径d[μm]よりも大きい。すなわち、ドット11Aの直径は、矩形セル11の1辺よりも短い。したがって、ドット11Aは、矩形セル11よりも小さく、矩形セル11内に収まっている。
【0039】
2次元コード10の縦又は横の1辺の長さをL[μm]で表すと、
図3の式(2)に示すように、2次元コード10の大きさは、L×L[μm
2]で表される。ここで、Lは、
図3の式(3)に示すように、p×(N-1)+dで表される。Nは、2次元コードの1辺のセルの数である。なお、複数の矩形セル全体で見た場合の2次元コード10の理論的な大きさは、p×Nであるが、実際の2次元コード10の1辺の長さは、
図3に示すように、1辺の一端側の円形ドット11Aから他端の円形ドット11Aまでの長さであるから、
図3の式(3)のようになり、p×Nよりはやや小さくなる。本明細書では、2次元コード10の1辺の長さLは、p×Nではなく、式(3)で表される実際の値とする。
【0040】
直径dは、10μmから100μmの範囲内であるのが好ましく、10μm~60μmの範囲内であるのがより好ましく、30μm~50μmの範囲内であるのがさらに好ましい。直径dがこの程度に微小であると、ドット11A(穴)が目立ちにくく、外観上好適である。また、ドットを、後述のように、レーザ加工によって形成する場合、穴が小さいと、レーザパルス幅を小さくでき、エネルギー強度も上げることができるため、熱損傷が少なくなり、加工コストも抑えることができ好適である。
【0041】
ドット11A(穴)を目立ち難くするという観点において、ピッチpは、p/dが1.25以上となるように、直径dに比べて十分に大きく設定するのが好ましい。換言すると、直径dは、p/dが1.25以上になるように、ピッチpに比べて十分に小さく設定するのが好ましい。直径dが小さいことで、ピッチpが大きい2次元コード(つまり、1つの矩形セルが大きい2次元コード)であっても、ドット11Aが目立ちにくく好適である。好ましくは、p/dは、1.45以上であり、、1.6以上であるのがより好ましい。1.6以上とすることで、外観上非常に良好となる。なお、p/dは、dが小さくなりすぎるのを回避するため、20以下であるのが好ましく、10以下であるのがより好ましく、5以下であるのがさらに好ましい。
【0042】
好適な2次元コード10のサイズの一例は、ドット11A(穴)の直径dが30μmから50μmの範囲内であり、p/dは1.45以上であり、Lは100μm(0.1mm)以上であり、Nは15以上である。かかる例において、Lは500μm(0.5mm)以上であるのがより好ましく、1000μm(1mm)以上であるのがさらに好ましい。Lが1000μm(1mm)程度以上の大きさを持つと、2次元コード10の存在を肉眼、簡易な拡大鏡の使用、又はカメラアプリケーション(ソフトウェア)の画像拡大機能(例えば、5~10倍程度の拡大機能)の使用によって認識することが可能となり、2次元コード10の読取のため、2次元コード10が存在する箇所へ読取装置100を近づけるのが容易となる。そして、p/dが1.45以上の大きさを持つと、ドット11A(穴)が小さくなり、2次元コード10が十分な大きさをもっていても、個々のドット11Aを肉眼で視認し難くなる。この結果、2次元コード10は、全体として、認識し得る程度大きさを持っても、2次元コード10が目立ちにくくなって、外観上良好となる。
【0043】
なお、Lは、必要に応じて、2次元コード10の大型化回避のため、30000μm(30mm)以下であるのが好ましく、20000μm(20mm)以下であるのがより好ましく、10000μm(10mm)以下であるのがさらに好ましい。Nは、50以下であるのが好ましく、30以下であるのがより好ましく、25以下であるのがさらに好ましい。
【0044】
以下、実施形態に係る2次元コード10の設計指針について説明する。2次元コード10の設計にあたっては、一例として、まず、1辺のセル数Nとドット11A(穴)の直径dとが決定される。Nは、2次元コード10によって表したいデータ長によって決定され得る。dは、例えばドット11Aを穴によって形成する場合、加工コスト等を考慮して決定される。また、コードが付される基材におけるスペースなど考慮して2次元コード10全体の1辺の長さLが決定される。N,d,Lが決まると、
図3の式(3)に基づき、ピッチpが決定される。
【0045】
例えば、N=18,d=30μmである場合に、ピッチpは次のようにして決まる。Lが7680μm(7.68mm)に決まった場合、p=(7680-30)/(18-1)=450μm(0.45mm)である。この場合、p/d=15である。
【0046】
同様に、Lが2580μm(2.58mm)に決まった場合、p=(2580-30)/(18-1)=150μm(0.15mm)である。この場合、p/d=5である。
【0047】
同様に、Lが880μm(0.88mm)に決まった場合、p=(880-30)/(18-1)=50μm(0.05mm)である。この場合、p/d=1.67である。
【0048】
また、N=18,d=60μmである場合に、ピッチpは次のようにして決まる。Lが7680μm(7.68mm)に決まった場合、p=(7680-60)/(18-1)≒448μm(0.448mm)である。この場合、p/d≒7.47である。
【0049】
同様に、Lが2580μm(2.58mm)に決まった場合、p=(2580-60)/(18-1)≒148μm(0.148mm)である。この場合、p/d≒2.47である。
【0050】
同様に、Lが880μm(0.88mm)に決まった場合、p=(880-60)/(18-1)≒48μm(0.048mm)である。この場合、p/dが1未満であるため、Lを880μmにするのは不適切であることわかる。
【0051】
さらに、N=18,d=90μmである場合に、ピッチpは次のようにして決まる。Lが7680μm(7.68mm)に決まった場合、p=(7680-90)/(18-1)≒446μm(0.446mm)である。この場合、p/d≒4.95である。
【0052】
同様に、Lが2580μm(2.58mm)に決まった場合、p=(2580-90)/(18-1)≒146μm(0.146mm)である。この場合、p/d≒1.62である。
【0053】
同様に、Lが880μm(0.88mm)に決まった場合、p=(880-90)/(18-1)≒46μm(0.046mm)である。この場合、p/dが1未満であるため、Lを880μmにするのは不適切であることわかる。
【0054】
図4は、読取装置100において実行される読取処理111の手順の一例を示している。読み取られる2次元コード10は、前述のように、セル11に相当する領域内にセル11よりも小さいドット11Aを有する。実施形態に係る読取処理111は、2次元コード10を撮像して得られた画像上のドット11Aを相対的に拡大(p/dが小さくなるように拡大)して、2次元コード10の読み取り率を向上させることができる。ドット11Aが小さくp/dが大きいと、前述のように、ドット11Aが目立ちにくくなり外観上有利であるが、2次元コードの読み取り率が低下する。しかし、読取処理111によって、ドット11Aを拡大してデコードすることで、読み取り率を向上することができる。
【0055】
ここで、
図5は、2次元コードを撮像して得られた画像におけるドット11Aを拡大することなく、撮像して得られた画像自体に基づいて2次元コードのデコード処理を実行した場合の読み取り率を、p/dを変化させて調べた結果を示している。ここでの2次元コードは、
図6に示すようにデータマトリックス(18セル×18セル。1辺30mm)を穴で表現したものである。ここで、2次元コードのデコードとは、オリジナルデータを符号化した2次元コードの画像から、オリジナルデータを復元することである。例えば、オリジナルデータである所定の文字列を符号化したデータをデコードすると、当該文字列が得られる。また、読み取り率とは、デコードに成功した割合を示す。デコードに失敗した場合は、読取エラーとなり、オリジナルデータは得られない。
【0056】
図5に示すように、p/dが1、1.1、1.2及び1.3のときは、直径dがピッチpとほぼ同じ大きさ又はやや小さいだけであり、100%の読み取り率が得られている。これは、円形ドット11Aが矩形セル11とほぼ同じ大きさ又はやや小さいだけであるため、各セルの値が正しく認識されたものと考えられる。一方、p/dが1.4になると直径dがピッチpに比べてやや小さくなるため読み取り率が70%に低下する。そして、p/dが1.5になると読み取り率が30%へ大幅に低下する。p/dが1.6及び1.7の場合、読み取り率は0%になった。このように、
図5の結果によれば、p/dが1.45以上程度になると読み取り率が大幅に低下することが理解される。これは、ドット11Aが第1セル11全体に占める割合が小さくなり、デコードを行うデコーダが、ドット11Aを、本来の第1セル(例えば、セル全体が暗色のセル)と認識できなくなるためであると考えられる。
【0057】
このように、読み取り率の観点からはp/dは小さい方がよい。一方、ドット11A(穴)を目立たなくさせて外観上良好にするという観点からはp/dは大きい方がよく、1.25以上が好ましく、1.45以上がより好ましく、1.6以上がさらに好ましい。このように、外観の良好さと読み取り成功とは両立が困難な場合がある。とりわけ、外観が良好なp/d=1.4以上の場合、読み取り率が100%未満となり、外観の良好さが顕著なp/d=1.6以上又は1.7以上の場合、読み取り率は0%であり、2次元コード10として機能しなくなる。また、場合によっては、p/dが1.2程度から読み取り率が低下することもある。なお、
図5の結果は、データマトリックスについてのものであるが、QRコード及びその他の2次元コードでも同様の傾向が生じる。
【0058】
これに対して、実施形態の読取処理111は、読み取り率が小さくなるようなp/dを持つ2次元コードであっても、ドット11Aが第1セル11において占める面積が増大するように、画像上でドット11Aを拡大させるため、読み取り率を向上させることができる。また、読取時間も短くなる。
【0059】
図5の結果から、ドット11Aの拡大は、p/dが1.3以下になる拡大であるのが好ましく、1.2以下になる拡大であるのがより好ましい。なお、拡大しすぎるとかえって読み取り率が低下するため、拡大後のp/dは、0.8以上であるのが好ましく、0.9以上であるのがより好ましく、1以下であるのがさらに好ましい。
【0060】
なお、
図5の結果によれば、p/dが十分に大きい2次元コード10は、2次元コード10が表現する通常の2次元コードのための通常のデコーダではデコードできないものになる。したがって、実施形態の2次元コード10は、通常のデコーダを搭載した読取装置では読取できず、専用の読取装置100でなければ読み取れない、特殊用途の2次元コードとして好適である。特殊用途の2次元コード10は、一例として、p/dが1.45以上である。
【0061】
図7は、読取処理111において行われるドット11Aの整形の概念図である。なお、ここでの整形は、ドット11Aを拡大させるほか、ドット11Aを矩形に近づけることを含む。
図7に示すように、整形されたドット11Bは、一例として角が丸みを帯びた矩形状であり、矩形セル11の形状に近くなるとともに、セル11において占める面積が整形前に比べて大きくなる。このため、デコーダによる読み取り率が向上する。ドット11Aの整形(又は単なる拡大)は、整形されたドット11B(又はドット11C)がセル11中において占める面積が60%以上になる整形又は拡大であるのが好ましく、70%以上になる整形又は拡大であるのがより好ましく、80%以上になる整形又は拡大であるのが好ましい。なお、整形又は拡大前のドット11Aがセル11中において占める面積は50%以下であるのが好ましく、40%以下であるのが好ましく、30%以下であるのがさらに好ましい。
【0062】
整形されたドット11Bは、セル11よりも多少大きくなってもよい。すなわち、整形されたドット11Bは隣接するセルに一部重なる程度に拡大されてもよい。ただし、隣接するセルに大きく重なるまでドット11Bが拡大すると、読み取り率が低下するおそれがある。例えば、隣接するセルが第2セル12である場合に、ドット11Bが隣接する第2セル12に大きく重なるまで拡大すると、デコーダは、隣接する第2セル12を第1セル11であると誤って認識するおそれがある。したがって、ドット11Aの拡大は、そのような誤認識が生じない程度であるのが好ましい。
【0063】
また、実施形態に係る整形は、
図7に示すように、ドット11Aを単純に拡大するのではなく、矩形セル11に近づくようにドットを矩形に変形させつつ、拡大させる。この結果、セル11に示すドット11Bの面積を大きくしても、ドット11Bがセル11からはみ出すのを抑制することができる。逆に、
図7のドット11Cのように、ドット11Aを円形のまま単に拡大させてセル11内に占める面積を十分に大きくすると、セル11から一部はみ出てしまう。これに対して、
図7に示すように整形されたドット11Bは、矩形に近づくように拡大されるため、セル11内に占める面積を十分に大きくした場合であっても、セル11からドット11Bがはみ出ることが抑制される。
【0064】
ドット11Aを矩形に近づけつつ拡大するには、
図7に示すように、上下左右方向に比べて、斜め方向(矩形の角に向かう方向)の拡大率が大きくすればよい。このような整形は、例えば、画像中のドット11Aの位置を識別する処理を行い、識別されたドットを上下左右方向よりも斜め方向のほうが、拡大率が大きくなるように各ドット11Aを拡大する拡大処理によって達成され得る。なお、拡大と矩形への変形とは別々の処理によって行われてもよい。例えば、円形ドット11Aを、1辺の長さが円形ドット11Aの直径と同じである正方形に変形する変換処理を実行した上で、変換処理で得られた正方形を適切な倍率で拡大する拡大処理を実行してもよい。また、拡大処理を実行してから変換処理を実行してもよい。
【0065】
本発明者らは、前述のような整形を簡易に行うための方法の一つの例として、構造要素(Structuring Element)を処理対象の画像に適用するモルフォロジー演算(Morphology Operation)が利用可能であることを新たに見出した。モルフォロジー演算(モルフォロジー画像処理)を利用する場合、画像中のドット11Aを識別する必要はなく、構造要素を処理対象の画像に適用することで、ドット11Aを整形することができる。
【0066】
図4に戻り、実施形態の読取処理111は、モルフォロジー演算(ステップS45)を利用した読取手法の一例である。
図4の読取処理111では、まず、カメラ130(イメージセンサ)によって2次元コード10を撮像して画像を取得することが行われる(ステップS41)。読取装置100は、取得した画像をグレースケール変換してグレースケール画像を得て(ステップS42)、グレースケール画像を二値化して2値画像を得る(ステップS43)。また、読取装置100は、2値画像に対してガウスぼかし処理などの平滑化処理を行う(ステップS44)。なお、ガウスぼかしは、ガウス分布を利用して注目画素からの距離に応じて近傍の画素値に重みをかける平滑化手法である。
【0067】
読取装置100は、ステップS42~S44のような前処理を必要に応じて画像に対して実行した後、画像におけるドット11Aの整形又は拡大を、モルフォロジー演算を利用して行う(ステップS45)。画像に対するモルフォロジー演算(ステップS45)は必要に応じて複数回繰り返し実行され得る。モルフォロジー演算によって、円形のドット11Aを、矩形に近づけることができる。モルフォロジー演算の複数回の繰り返しによって、ドット11Aをより適切に整形又は拡大させることができる。また、モルフォロジー演算の前にガウスぼかし等の画像ぼかし処理をしておくことで、モルフォロジー演算による矩形への変形効果を向上させることができる。この点については後述される。
【0068】
モルフォロジー演算の繰り返し回数は、予め設定された所定回数でもよいが、読取装置100は、ドット11Aの直径d及びpを、2次元コード10を撮像した画像から求め、モルフォロジー演算の繰り返し回数を、直径d及びピッチpに基づいて決定し得る。読取装置100は、d及びpの値を、ユーザ入力又はその他の手段によって求めてもよい。読取装置100は、一例として、p/dの値(pとdとの比)に基づいて、モルフォロジー演算の繰り返し回数を決定し得る。読取装置100は、p/dが大きいほど、モルフォロジー演算の繰り返し回数を多くすることができる。
【0069】
読取装置100は、ドット整形(ステップS45)後、メディアンフィルタ処理などのノイズ除去処理を実行する(ステップS46)。メディアンフィルタによって、インパルスノイズ(孤立点)を除去できる。
【0070】
読取装置100は、ドット11Aが整形された画像に基づいてデコードを実行する(ステップS47)。デコードによって、2次元コード10が示すオリジナルデータが復号される。ステップS47のデコードは、実施形態の2次元コード10に対応する標準的な2次元コードのデコードアルゴリズムに従って行われ得る。例えば、実施形態の2次元コード10が、QRコードをドット11Aで表したものであれば、QRコードのデコードアルゴリズムが利用される。また、実施形態の2次元コード10が、データマトリックスをドット11Aで表したものであれば、データマトリックスのデコードアルゴリズムが利用される。なお、デコードは、読取装置100外の装置(例えば、読取装置100にネットワークを介して接続されたサーバ)によって実行され、読取装置100は、読取装置100外の装置からデコード結果を取得してもよい。
【0071】
実施形態の読取処理111によれば、ドット11Aが画像処理によって拡大されるため、2次元コード10自体のドット11Aはセル11に比べて小さくてもよい。したがって、2次元コード10の外観の良好さと読み取り率向上とを両立させることができる。また、後述のように、ドットをレーザ加工による穴で表現する場合、ドット11Aを示す穴が小さければ、加工時間を短縮でき、低コスト化を図れる。また、レーザ加工による熱損傷も抑制できる。穴を小さくできることは、フェムト秒レーザにより微細な直径(例えば、10μm~100μm)の穴を形成する場合に特に有効である。
【0072】
以下、実施形態の読取処理111で利用されるモルフォロジー演算について説明する。前述のように、モルフォロジー演算は、構造要素を処理対象の画像に適用する画像処理のための演算である。なお、処理対象画像は、2値画像でもよいし、グレースケール画像でもよいし、カラー画像でもよいが、以下では、2値画像を例に説明する。
【0073】
図8(A)(B)は、モルフォロジー演算で用いられる構造要素(カーネル)の例を示している。
図8(A)は、中央の画素及びその4近傍(上下左右)の画素を有する構造要素を示す。
図8(B)は、中央の画素及びその8近傍の画素を有する構造要素を示す。構造要素は、処理対象画像の注目画素に、構造要素の中心をおき、構造要素の黒画素の方向において、処理対象画像に対する演算を行う。注目画素は、処理対象画像の各画素がなり得る。演算は、例えば、集合和演算又は集合積演算である。集合和演算は、膨張(Dilation)に用いられ、集合積演算は、収縮(Erosion)に用いられる。
【0074】
収縮(Erosion)の場合、構造要素の方向(4方向又は8方向)にある処理対象画像(2値画像)の画素が全て白画素であれば注目画素を白画素(1)にし、そうでなければ注目画素を黒画素(0)にする。この演算が処理対象画像の全体又は必要範囲に行われることで、処理対象画像の白画素(1)領域が収縮する。そして、その結果、黒画素領域は膨張する。
【0075】
したがって、黒画素で表されるドット11Aを有する画像に、収縮(Erosion)のためのモルフォロジー演算を適用すると、画像中のドット11Aを拡大・膨張させることができる。しかも、本発明者らは、ドット11Aを構成する画素数が十分に少ない場合等にモルフォロジー演算を適用すると、本来は円形であったドット11Aを、画像上で、矩形に近い角丸の四角形にすることができることを見出した。実施形態の読取処理111では、これを利用して、画像にモルフォロジー演算を適用することで、画像中のドット11Aを矩形に近づけつつ拡大するようドット11Aを整形する(ステップS45)。
【0076】
画像上において、円は、画素の集合によって近似的に表現される。したがって、画像においては、円の周縁の一部が直線で表現されることがある。円の周縁の一部が直線になるのは、ドット11Aを構成する画素数が少ない場合に特に生じやすい。実施形態のモルフォロジー演算は、画像上の円の周縁の一部が直線であることを利用して、円を矩形に近づけるようにドット11Aを整形することができる。かかる観点から、モルフォロジー演算が適用される前の画像におけるドット11Aの直径は、小さい方が好ましい。画像におけるドット11Aの直径は、例えば、50画素相当の長さ以下であるのが好ましく、30画素相当の長さ以下であるのがより好ましく、15画素相当の長さ以下であるのがさらに好ましい。なお、画像におけるドット11Aの直径は、5画素相当の長さ以上であるのが好ましく、10画素相当の長さ以上であるのがより好ましい。
【0077】
前述のように、実施形態の2次元コード10は、ドット11Aの直径dが非常に小さい微細なものであるため、通常の手法で、2次元コード10を撮影すると、画像上のドット11Aは、自然に、上記の程度に小さくなる。また、画像上のドット11Aが上記の程度よりも大きい場合には、画像全体を縮小してドット11Aを構成する画素数を少なくしてから、モルフォロジー演算を適用してもよい。この場合、モルフォロジー演算の適用後に画像全体を拡大してからデコードしてもよい。
【0078】
画像上の円の周縁の一部が直線であると、モルフォロジー演算によって、角丸の四角形が得られる理由は次のとおりである。まず、
図9の点線で示す円は、画像においては、画素の集合で表現されるため、例えば、
図9の黒領域で示す近似円形状となる。
図9の黒領域で示す形状の周縁には、上下左右に「平坦部」が存在し、左上、右上、左下、右下のコーナが段々形状となる。なお、これらコーナの段々形状を「角丸部」という。そして、モルフォロジー演算による収縮は、前述のように、構造要素内にある処理対象画像の画素が全て白画素であれば注目画素を白画素にするものであり、これを換言すると、構造要素内に1画素でも黒画素があれば注目画素は黒となる。このようなモルフォロジー演算を
図9の近似円に適用すると、角丸部はそのままの丸さが維持される一方、平坦部は伸びるように近似円が広がる。この結果、角丸部は相対的に小さくなり、近似円は、角(コーナ)が丸い矩形に近づく。
【0079】
図10は、モルフォロジー演算(収縮)を繰り返し適用した結果を示している。
図10(A)はモルフォロジー演算適用前のドット11A(近似円)を示す。
図10(A)に示すドット11Aは、直径dが20画素相当である。
図10(B)はモルフォロジー演算を1回適用した後のドット11Bを示し、
図10(C)はモルフォロジー演算を2回適用した後のドット11Bを示し、
図10(D)はモルフォロジー演算を3回適用した後のドット11Bを示す。
図10に示すように、モルフォロジー演算を適用すると、ドット11Aが拡大するとともに矩形に近づいていく。また、モルフォロジー演算を繰り返すほどドット11Aを大きく拡大でき、より矩形に近づけることができる。
【0080】
図11も、モルフォロジー演算(収縮)を繰り返し適用した結果を示す。
図11(A)は、
図10(A)と同様にモルフォロジー演算適用前のドット11Aを示す。
図11(A)に示すドット11Aも、直径dが20画素相当の近似円であるが、
図10(A)のドット11Aとは異なり、平坦部の中央に凸部が生じている。
図11(A)に示すドット11Aの方が、
図10(A)よりも、より円に近似している。
図11の場合のも、モルフォロジー演算を適用すると、凸部が広がるものの、全体としては、矩形に近づいていく。
【0081】
なお、2次元コード10をカメラで撮像した場合、多少のぼけが生じるため、
図11(A)のようなドット11Aが画像において得られることはほとんどなく、実際には、
図10(A)のドット11Aのようになる。仮に、
図11(A)のようなドット11Aが得られた場合でも、
図4のガウスぼかし(ステップS44)を適用することで、
図10(A)のドット11Aが得られる。また、
図10(A)のドット11Aが得られた場合でも、平滑作用のあるガウスぼかしを適用することで、平坦部を大きくすることができる。平坦部が大きくなることで、より矩形に近づけることができる。なお、撮像時に十分なぼかしが確保されている場合には、
図4のステップS44は省略してもよい。
【0082】
なお、モルフォロジー演算(収縮)によって、隣り合うドット11A(黒領域)の間にある白領域を削って、隣り合うドット11A同士を接続することもできる。また、画像中のインパルスノイズ(孤立した白)を除去することもできる。
【0083】
図12(A)は、実施形態に係る2次元コード10の一例としてQRコードの暗セルを黒ドットで表したものを示している。
図12(B)は、
図12(A)の2次元コード10にモルフォロジー演算(収縮)を適用した後の画像10Aを示している。なお、
図12(A)において、ドットのピッチpは、1.429mmとし、ドットの直径d(平均値)は1.143mmとした。したがって、p/dは、約1.25である。
図12(A)のQRコード10のファインダーパターンを構成する黒ドットの直径は、誤差を模擬するため、ばらつかせた。したがって、ファインダーパターンを構成する黒ドットの大きさはそれぞれ異なる。
図12(A)のコード10を、通常のQRコードデコーダでデコードしても読み取り率は非常に低くなる。一方、
図12(B)のコードは、通常のQRコードデコーダを用いても読み取り率が高い(概ね100%)。したがって、モルフォロジー演算を利用した
図4の読取処理111が有効であることがわかる。
【0084】
なお、
図12(A)のコード10において、p/dが1になるようにドットの直径を大きくしたものに対してモルフォロジー演算を適用すると、p/dが1.25である場合に比べて、読み取り率がやや低下した。これは、モルフォロジー演算によって黒ドットが大きくなりすぎるためであると考えられる。また、直径dの平均値が十分に小さければ、直径dにばらつきが生じて多少大きなドットが生じても問題が少ない。したがって、モルフォロジー演算が適用される場合、元のコード10のp/dは1.25以上であるのが好ましく、1.45以上であるのがより好ましく、1.6以上であるのがさらに好ましい。また、p/dが大きすぎる(dが小さすぎる)と、モルフォロジー演算の繰り返し回数を多くする必要があり演算時間が増大する。また、演算時間の増大を抑えるために繰り返し回数を少なくすると読み取り率が低下する。したがって、p/dは大きすぎないのが好ましく、p/dは、3以下であるのが好ましく、2.5以下であるのがより好ましく、2以下であるのがさらに好ましい。
【0085】
さて、実施形態の2次元コード10のドット11Aは、
図13に示すように、基材20に形成された穴11Eによって形成することができる。穴11Eは、基材表面20Aの他の部分(穴11Eが形成されていない部分)よりも暗くなるため、2次元コード10を撮像した画像においては、ドット11Aは、暗領域(例えば、黒領域)として現れる。すなわち、穴11Eは、2次元コード10のドット11Aを表す。より詳細には、穴11Eの領域が、実施形態の2次元コード10の第1セル11内のドット11Aを表し、穴11Eが形成されていない基材表面20Aそのままの領域は、第2セル12又は第1セル11のドット11A周囲の範囲を示す。穴が形成されていない基材表面20Aそのままの領域は、明領域となる。なお、基材表面20Aは、単色、無模様、又は平坦である必要はなく、色彩を有していてもよいし、模様を有していてもよいし、穴に比べて微細又は緩やかな凹凸を有していてもよい。
【0086】
実施形態の2次元コード10が形成される基材20の材料は特に限定されない。ただし、本発明者らは、プラスチック若しくはエラストマーなどの合成樹脂又は皮革などが基材20として好適であるとの着想を得た。ここで、非特許文献1は、フェムト秒レーザによって、ダイヤモンドなどの耐熱性の高い基材に2次元コードを示す微小穴を形成することを開示しているが、プラスチック若しくはエラストマーなどの合成樹脂、又は皮革などの耐熱性の低い基材20に、2次元コードを示す穴を形成することを開示していない。しかも、非特許文献1では、穴の直径は、矩形セルにくらべてやや小さいものの、ほぼ同じ大きさである。
【0087】
合成樹脂は、広く一般に使われている材料であるため、そのような基材20に、穴11Eをあけて、実施形態の2次元コード10を作成できれば利便性が高まる。また、バッグなどの皮革製品も広く一般に使われているため、そのような皮革を基材として2次元コード10を作成できれば、利便性が高まる。しかし、合成樹脂・皮革は、耐熱性が低い。耐熱性が低いと、穴11Eをレーザ加工で形成する場合に、基材20が熱損傷を受けやすく不利である。また、合成樹脂・皮革以外にも、木材、紙、天然ゴム、歯牙、骨などの生物由来材料(動物由来材料又は植物由来材料)を有する基材20に穴11Eをあけて2次元コード10を作成できれば、やはり利便性が高まるが、これらの材料も耐熱性が低く、熱損傷を受けやすい。なお、合成樹脂は、例えば、プラスチック又はエラストマーである。プラスチックは、熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂であってもよい。エラストマーは、例えば、合成ゴム又は熱可塑性エラストマーである。皮革は、天然皮革であってもよいし、合成皮革であってもよいし、人工皮革であってもよい。
【0088】
プラスチックなどの熱に弱い基材20に穴11Eを形成する場合においても、基材20の熱損傷が他のレーザに比べて比較的少ないフェムト秒レーザが有効である。フェムト秒レーザは、パルス幅が非常に小さく、基材20に熱が伝わる前に熱照射が終了するため、熱損傷が少なくなり、穴11Eの直径が意図せず大きくなったり、穴11Eの形状が崩れたりすることを防止できる。
【0089】
ここで、穴11Eが、ドット11Aを示す暗領域として画像上に明瞭に現れるようにするには、穴11Eが十分に暗く見える必要がある。穴11Eが暗くなるには、穴11Eの深さを大きくするほうがよい。しかし、フェムト秒レーザ以外のレーザを利用して、深さのある穴11Eを形成しようとすると、穴11Eが上部開口ほど広がるすり鉢状になりやすく、
図13に示すように深さ方向にストレートな内側面11Fを有する穴11E(直径が穴深さ方向にほぼ一定である形状を持つ穴)を形成するのが困難である。
【0090】
これに対して、フェムト秒レーザを利用すると、深さ方向にストレートな側面を有する穴11Eを形成でき、穴11Eの中に光が届かなくなって穴11Eが十分に暗くなり好適である。穴11Eが十分に暗いと、基材表面20Aが黒色又は茶色などの暗色系の色であっても、穴11Eと穴以外の基材表面20Aとを画像上区別することが容易となる。穴以外の基材表面20Aには光が照射されると、基材表面20Aが暗色であってもある程度の光反射が期待できる。これに対して、穴11Eからの光反射は少ない。したがって、2次元コード10を撮像したした画像においては、穴11Eと穴以外の領域20Aとの明暗差が生じ得る。
【0091】
かかる観点から、穴11Eの深さdpthは、穴11Eの直径dの1.5倍以上あるのが好ましく、2倍以上あるのがより好ましく、3倍以上あるのがさらに好ましい。また、穴11Eは、基材表面20Aに対して略垂直の内側面11F(ストレートな内側面)を有するのが好ましい。
【0092】
しかし、フェムト秒レーザを使用しても、合成樹脂・皮革などの熱に弱い基材20の場合、基材20が熱損傷を受けてしまうことがある。特に、非特許文献1のように、穴の直径を矩形セルとほぼ同じ大きさに設定していると、2次元コードの読取においては有利であるものの、矩形セルの大きさが大きい場合には穴の直径も大きくなってしまう。レーザで形成される穴が大きい場合には、基材20が熱損傷を受けやすくなる。この結果、穴によって適切な2次元コードを形成できないことがある。
【0093】
そこで、本発明者らは、レーザで形成される穴11Eを十分に微小(例えば、直径dを10μm~100μm程度)にしておくことで、合成樹脂・皮革などの熱に弱い基材20であっても、基材20が受ける熱損傷を抑えることができるという着想を得た。このような微細な穴は、フェムト秒レーザによって好適に形成される。ただし、ドット11Aを表す穴11Eを微小にした上で、2次元コードの通常の読取ができるようにするには、穴の直径を矩形セルの大きさと同程度にする必要がある。すなわち、穴の直径dを穴のピッチpと同程度(p/d=1程度)にする必要がある。しかし、微小穴かつp/d=1程度とすると、2次元コード全体の大きさが非常に小さくなる。
【0094】
例えば、穴の直径dを10μmかつp/d=1にした場合、9×9セルの2次元コードであると、2次元コードの1辺の長さLは、
図3の式(3)より、90μm(0.09mm)となり、非常に微細となる。非特許文献1では、ダイヤモンドなど大きく拡大して観察されるのが通常である宝石にQRコードを形成しているため、そのような微細なQRコードであっても良いかもしれないが、微細なコードだけでは汎用性に欠ける。このため、穴を微小にしつつも、2次元コード自体は、ある程度の大きさを持つことが望まれる。例えば、2次元コードの1辺の長さLは、0.1mm以上であるのが好ましく、0.5mm以上であるのがより好ましく、1mm以上であるのがさらに好ましい。
【0095】
本発明者らは、穴を微小にすること、及び、2次元コード自体大きさを大きくすることを両立させるため、p/dに着目した。すなわち、前述のようにp/dを1よりも大きくすることで、穴11Eを微小にしつつ、2次元コード10を大きくすることができる。
【0096】
例えば、dが10μmであっても、p/d=1.45にすると、p=14.5μmとなり、N=9の場合、Lは、126μmとなる。また、N=25の場合、Lは、358μmとなる。さらに、dが30μm、p/d=1.5、p=45、N=18の場合、Lは、795μmとなる。さらにまた、dが30μm、p/d=1.5、p=45、N=25の場合、Lは、115μmとなり、1mm以上になる。このように、dを微小にしても、p/dを適宜大きくすることで、1辺のセル数Nをさほど大きくしなくても、2次元コード10の大きさを大きくすることができる。なお、p/dが大きい場合でも、画像上の穴11Eを拡大することで、読取も可能になる。
【0097】
Lが、ある程度の大きさを持つと、2次元コード10の存在を肉眼、簡易な拡大鏡の使用、又はカメラアプリケーション(ソフトウェア)の画像拡大機能(例えば、5~10倍程度の拡大機能)の使用によって容易に認識することができ、2次元コード10の読取のため、2次元コード10が存在する箇所へ読取装置100を近づけるのが容易となる。そして、p/dが1よりも十分に大きいと、穴が小さくなり、2次元コード10が十分な大きさをもっていても、個々の穴を肉眼で視認し難くなる。この結果、2次元コード10は、全体として、認識し得る程度大きさを持っても、2次元コード10が目立ちにくくなって、外観上良好となる。かかる観点において、p/dは、1.45以上、特に1.6以上であるのが好適である。
【0098】
実施形態の2次元コード10は、上記のように、比較的大きなp/dを持つように設計される。2次元コード10の製造においては、2次元コード10の第1セル11の位置に直径dの穴が形成されるように、フェムト秒レーザがコントロールされる。フェムト秒レーザは、隣接する第1セル11に対応する穴同士は、ピッチpを持つようにコントロールされる。例えば、フェムト秒レーザのコントローラには、2次元コードのセルパターン(第1セル11と第2セル12の配置)、直径d、及びピッチpが与えられる。コントローラは、当たられたセルパターン、直径d、ピッチpに基づいて穴を基材に形成する。
【0099】
このような2次元コード10は、例えば、バッグ又は財布などの皮革製品に付与される2次元コードとして好適である。本発明者らの実験では、茶色の皮革製品及び黒色の皮革製品それぞれに、穴直径d=30μm、p/d=1.8、穴深さdpth=100μm、L=3mm程度の2次元コード10をフェムト秒レーザによって形成し、実施形態に係る読取装置100によって、それらの2次元コード10を読み取ることに成功した。同様の2次元コードをプラスチック板に形成した場合にも、読み取りに成功した。
【0100】
図14は、実施形態の2次元コード10において、穴深さdpthと2次元コード読取時間の関係を調べた結果を示している。ここでは、A-1,A-2,A-3,A-4の4種類の2次元コード10を用いた。ここでの、読取時間は、2次元コード10を撮影してからデコード結果が得られるまでの時間である。
図14において、縦軸は、読取時間[秒]を示している。A-1,A-2,A-3,A-4のサイズは、
図14に示すとおりであり、それぞれ深さdpthだけが異なだけで、他のサイズは共通である。
【0101】
図14に示すように、A-1,A-2,A-3,A-4のいずれの場合も、読取時間は概ね0.05秒から0.15秒の範囲内に収まっており、短時間での読取が可能であった。ただし、A-1では0.25秒付近の外れ値Xが生じ、A-2では、0.29秒付近のはずれ値Xが生じ、A-3では0.11秒付近のはずれ値Xが生じた。A-4でははずれ値は生じなかった。
【0102】
図14に示すように、A-1,A-2では、比較的大きな外れ値が生じている。A-1,A-2は、深さdpthが比較的小さく、光の影響等によって、穴をドットとして認識し難くなることがある程度の確率で生じ、そのため、外れ値が生じているものと考えられる。なお、A-3では、外れ値Xが生じているが、0.15秒未満であり、ほとんど問題ない。したがって、大きな外れ値が生じにくいという観点において、A-3,A-4が好適であり、A-4がさらに好適である。穴の深さdpthと直径dとのアスペクト比dpth/dでいえば、dpth/dは、1.5以上であるのが好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましい。
【0103】
本開示は、以下の(1)~(6)の態様を含む。以下の態様においては、フェムト秒レーザによって形成される穴を目立ち難くすることができる。
【0104】
(1)複数の矩形セルが配置された2次元コードを表現するために、前記複数の矩形セルのうちの一部の各矩形セルに相当する領域内の中心に前記矩形セルよりも小さい単一の穴を有する2次元コードの製造方法であって、
2次元コードが形成される基材に対して、前記穴を、フェムト秒レーザによって形成する工程を備え、
前記フェムト秒レーザによって形成される前記穴は、直径が10μm~100μmであり、
前記直径をdとし、前記2次元コードにおいて隣接する矩形セルに相当する領域それぞれに形成された穴のピッチをpとしたときに、p/dが1.45以上となるように前記ピッチが設定されており、コード縦横の各辺が0.1mm以上である、
2次元コードの製造方法。
【0105】
(2)複数の矩形セルが配置された2次元コードを表現するために、前記複数の矩形セルのうちの一部の各矩形セルに相当する領域内の中心に前記矩形セルよりも小さい穴を有する2次元コードの製造方法であって、
合成樹脂、皮革、及び生物由来材料からなる群から選択される少なくとも一つを含む基材に対して、前記穴をフェムト秒レーザによって形成する工程を備える、
2次元コードの製造方法。
【0106】
(3)前記穴は、穴の直径の1.5倍以上の穴深さを有する。
【0107】
(4)前記穴は、前記基材表面に対して略垂直の内側面を有する。
【0108】
(5)前記穴は、前記基材表面に対して略垂直の内側面を有するとともに、穴の直径の1.5倍以上の穴深さを有する。
【0109】
(6)合成樹脂、皮革、及び生物由来材料からなる群から選択される少なくとも一つを含む基材に対して形成された2次元コードであって、
複数の矩形セルが配置された2次元コードを表現するために、前記複数の矩形セルのうちの一部の各矩形セルに相当する領域内の中心に形成された単一の穴を備え、
前記穴の直径は、10μm~100μmであり、
前記直径をdとし、前記2次元コードにおいて隣接する矩形セルに相当する領域それぞれに形成された穴のピッチをpとしたときに、p/dが1.45以上となるように前記ピッチが設定されており、
コード縦横の各辺が0.1mm以上である、2次元コード。
【0110】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0111】
10 :2次元コード
10A :画像
11 :矩形セル
11A :円形ドット
11B :ドット
11C :ドット
11E :穴
11F :内側面
12 :第2セル
20 :基材
20A :基材表面
100 :読取装置
110 :プロセッサ
111 :読取処理
120 :記憶装置
121 :コンピュータプログラム
130 :カメラ
N :セル数
X :ずれ値
d :穴直径
dpth :穴深さ
p :ピッチ