(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025013159
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】複合正極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1391 20100101AFI20250117BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250117BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20250117BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250117BHJP
【FI】
H01M4/1391
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024069396
(22)【出願日】2024-04-22
(31)【優先権主張番号】112126101
(32)【優先日】2023-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(31)【優先権主張番号】112139798
(32)【優先日】2023-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】517232729
【氏名又は名称】台湾立凱電能科技股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Advanced Lithium Electrochemistry Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】No. 2-1, Singhua Rd., Taoyuan Dist., Taoyuan City,330,Taiwan,
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】劉浩▲ウェン▼
(72)【発明者】
【氏名】鄭詩▲チィ▼
(72)【発明者】
【氏名】謝瀚緯
(72)【発明者】
【氏名】呉乃立
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA13
5H050EA01
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA24
5H050FA16
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】複合正極の製造方法を提供する。
【解決手段】ステップ(a):正極材料と固体電解質と導電性カーボンとアルコール溶媒とを提供し、正極材料は複数の第1の粒子を含み、正極材料の組成がLi[Ni
aCo
bMn
cAl
d]O
2、a+b+c+d=1、0.8<a≦1、0≦b<1、0≦c<1、0≦d<1であり、固体電解質の組成がLi
3InCl
xF
y、且つx+y≦6、0≦x≦6、0≦y≦3である。
ステップ(b):正極材料と固体電解質と導電性カーボンとアルコール溶媒とを混合し第1のスラリーを形成する。
ステップ(c):第1のスラリーとバインダとを混合して第2のスラリーを形成する。
ステップ(d):第2のスラリーを熱処理し、アルコール溶媒を除去して複合正極を形成し、複合正極は複数の第2の粒子を含み、各複数の第2の粒子は、複数の第1の粒子のうちの1つ第1の粒子と固体電解質とを含み、固体電解質が第1の粒子を覆う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合正極の製造方法であって、
正極材料と固体電解質と導電性カーボンとアルコール溶媒を提供し、前記正極材料は複数の第1の粒子を含み、前記正極材料の組成がLi[NiaCobMncAld]O2、 a+b+c+d=1、0.8<a≦1、0≦b<1、0≦c<1、0≦d<1であり、前記固体電解質の組成がLi3InClxFy、且つx+y≦6、0≦x≦6、0≦y≦3である、ステップ(a)と、
前記正極材料と前記固体電解質と前記導電性カーボンと前記アルコール溶媒とを混合し、第1のスラリーを形成する、ステップ(b)と、
前記第1のスラリーとバインダとを混合して第2のスラリーを形成する、ステップ(c)と、
前記第2のスラリーを熱処理し、前記アルコール溶媒を除去して前記複合正極を形成し、前記複合正極は複数の第2の粒子を含み、各複数の第2の粒子は、前記複数の第1の粒子のうちの1つの第1の粒子と前記固体電解質とを含み、前記固体電解質は前記複数の第1の粒子のうちの1つの前記第1の粒子を覆い、前記導電性カーボンと前記バインダとが前記複数の第2の粒子の間に均一に分布する、ステップ(d)とを含む、ことを特徴とする複合正極の製造方法。
【請求項2】
前記第1の粒子の粒子径は0.5μm~30μmである、ことを特徴とする請求項1に記載の複合正極の製造方法。
【請求項3】
前記正極材料は単結晶の正極材料を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の複合正極の製造方法。
【請求項4】
0.85<a≦1である、ことを特徴とする請求項1に記載の複合正極の製造方法。
【請求項5】
前記アルコール溶媒はエタノールを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の複合正極の製造方法。
【請求項6】
前記第2のスラリーは、成形後に熱処理される、ことを特徴とする請求項1に記載の複合正極の製造方法。
【請求項7】
前記第2のスラリーは、第1のキャリア上に成形され、前記第1のキャリアは集電体または粘着防止材料を含む、ことを特徴とする請求項6に記載の複合正極の製造方法。
【請求項8】
前記第1のキャリアは、2つの第1のキャリアを含み、前記第2のスラリーは、前記2つの第1のキャリアの間に成形される、ことを特徴とする請求項7に記載の複合正極の製造方法。
【請求項9】
前記第2のスラリーは、第2キャリア上に熱処理され、前記第2キャリアはガラスまたは金属を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の複合正極の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理の温度は160℃~200℃である、ことを特徴とする請求項1に記載の複合正極の製造方法。
【請求項11】
前記熱処理の時間は10分~180分である、ことを特徴とする請求項1に記載の複合正極の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理は、非酸化性雰囲気中に行われる、ことを特徴とする請求項1に記載の複合正極の製造方法。
【請求項13】
前記導電性カーボンは、カーボンブラック、カーボンナノチューブまたは炭素繊維を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の複合正極の製造方法。
【請求項14】
前記バインダはポリテトラフルオロエチレンを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の複合正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用電極の製造方法に関し、特に、電気的性能を改善するためにアルコール溶媒を使用して固体電解質コーティングを得る、複合正極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、安全性やエネルギー密度を考慮して全固体電池の開発が主流となっている。従来のリチウム電池と比較すると、全固体電池にはさまざまな面で改善の余地があると言われている。そのなか、正極材料に関しては、ニッケル高含有正極材料が湿気(水分)に非常に敏感という欠点がある。また、固体電解質に関しては、機械的特性を改善しながら厚さをいかに薄くするかは、挑戦的な課題となっている。
【0003】
固体電解質の種類の中では、最も量産可能性が高いのは、酸化物固体電解質(Oxide solid electrolyte)、硫化物固体電解質(Sulfide solid electrolyte)、およびハロゲン化物固体電解質(Halide solid electrolyte)である。そのうち、ハロゲン化物固体電解質は、高い安定性、高い安全性、高いイオン伝導性および低い界面インピーダンスなどの特徴を有しており、近年広く話題になっている材料の一つである。しかしながら、ハロゲン化物固体電解質は、ニッケル高含有正極材料と同様に、湿気(水分)に非常に敏感である。
【0004】
従来の製造方法では、ニッケル高含有正極材料またはハロゲン化物固体電解質を混合・焼結して複合正極を形成するのが一般的である。乾式混合と比較して、溶媒として水を使用した湿式混合は、製造コストが低く、高固体分散性を有する複合正極を得ることができるが、水分はハロゲン化物固体電解質およびニッケル高含有正極材料に悪影響を与えるため、複合正極の電気的な性能が低下する。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の欠点を解決するために、アルコール溶媒を使用して固体電解質コーティング層を形成することで、複合正極への水分の悪影響を回避でき、電気的な性能を向上させることができる、複合正極の製造方法を提供することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、複合正極の製造方法を提供することである。複合正極の製造方法は、以下のステップを含む。まず、正極材料、固体電解質およびアルコール溶媒を混合してスラリーを形成する。次に、スラリーを熱処理して複合正極を形成する。乾式混合と比較して、湿式混合の製造コストは低く、制御も容易且つ複合正極の固体分散性を改善することができる。固体電解質は、アルコール溶媒に溶解されて正極材料と均一に混合できるため、後過程の熱処理中に、正極材料粒子の表面でその場で合成(In-situ synthesis)することができ、均一なコアシェル構造を有する複合正極粒子を形成し、電気化学性能を改善することができる。アルコール溶媒を用いた湿式混合により、複合正極への水分の悪影響を回避でき、不純物相の少ない複合正極を得ることができる。熱処理の前に、スラリーは、例えば、キャリア上に塗布され、塗布されたスラリーが圧延されて成形される。キャリアは、例えば、成形後の剥離を容易にする粘着防止薄膜である。スラリーは、例えば、2つのキャリアの間に塗布されて圧延されることができ、ここでのキャリアは粘着防止薄膜および集電体であり、これによって、熱処理直後に複合正極を有する集電体が得られる。熱処理の温度は例えば160℃~200℃であり、これにより、エネルギー消費が少なく、製造コストが節約され、環境上の利点がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、複合正極の製造方法を提供しており、以下のステップを含み、ステップ(a):正極材料と固体電解質と導電性カーボンとアルコール溶媒とを提供し、正極材料は複数の第1の粒子を含み、正極材料の組成がLi[NiaCobMncAld]O2、a+b+c+d=1、0.8<a≦1、0≦b<1、0≦c<1、0≦d<1であり、固体電解質の組成がLi3InClxFy、且つx+y≦6、0≦x≦6、0≦y≦3である。ステップ(b):正極材料と固体電解質と導電性カーボンとアルコール溶媒とを混合して第1のスラリーを形成する。ステップ(c):第1のスラリーとバインダとを混合して第2のスラリーを形成する。ステップ(d):第2のスラリーを熱処理して複合正極を形成し、複合正極は複数の第2の粒子を含み、各複数の第2の粒子は複数の第1の粒子のうちの1つ第1の粒子と固体電解質を含有し、固体電解質が複数の第1の粒子のうちの1つの前記第1の粒子を覆う。
好ましくは、第1の粒子の粒子径は、0.5μm~30μmである。
好ましくは、正極材料は、単結晶の正極材料を含む。
好ましくは、0.85<a≦1。
好ましくは、アルコール溶媒は、エタノールを含む。
好ましくは、第2のスラリーは、成形後に熱処理される。
好ましくは、第2のスラリーは、第1のキャリア上に成形され、第1のキャリアは、集電体または粘着防止材料を含む。
好ましくは、第1のキャリアは、2つの第1のキャリアを含み、前記第2のスラリーは、前記2つの第1のキャリアの間に成形される。
好ましくは、第2のスラリーは、第2キャリア上に熱処理され、第2キャリアは、ガラスまたは金属を含む。
好ましくは、熱処理の温度は、160℃~200℃である。
好ましくは、熱処理の時間は、10分~180分である。
好ましくは、熱処理は、非酸化性雰囲気中で行われる。
好ましくは、導電性カーボンは、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、または炭素繊維を含む。
好ましくは、バインダはポリテトラフルオロエチレンを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明一実施形態の複合正極の製造方法のフローチャートである。
【
図3A】本発明の第1実施例の熱流量-温度曲線図である。
【
図4A】本発明の第1実施例のX線回折パターンである。
【
図5A】本発明の第1実施例の電圧-電容量曲線図である。
【
図5B】本発明の第2実施例の電圧-電容量曲線図である。
【
図5C】本発明の第3実施例の電圧-電容量曲線図である。
【
図6A】本発明の第2実施例の電容量-サイクル数曲線図である。
【
図6B】本発明の第3実施例の電容量-サイクル数曲線図である。
【
図6C】第1比較例の電容量-サイクル数曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の特徴及び利点を具体化するいくつかの典型的な実施形態は、以下の内容において詳細に説明する。本発明は、範囲を逸脱することなく、様々な変更を加えることができ、以下の説明及び図面は、本発明を説明するために使用されており、本発明を限定するためのものではない。また、本発明の詳細な説明において、第1特徴が第2特徴の上又は上方に配置されることとは、配置された前記第1特徴と前記第2特徴が直接に接続されている実施形態と、前記第1特徴と前記第2特徴との間に他の構造を介し前記第1特徴と前記第2特徴が直接に接続されていない実施形態とを含む。また、「第1」、「第2」、「第3」などの用語は、特許請求の範囲に記載された異なる構成を説明するために使用されており、これらの構成は当該用語に限定されず、実施形態に関する内容では、該当構成は異なる符号で表示さているが、第1構成は第2構成と表示され、また、第2構成は第1構成と表示されることも可能であり、本発明の実施形態から逸脱しない。また、「及び/又は」という用語は、一つおよび複数の関連要素またはその全部の組合せを意味する。また、「およそ」という用語は、当業者によって一般に受け入れられる標準誤差範囲内の平均値を指す。操作/動作に関する実施形態において明確に定義しない限り、本明細書に記載されているすべての数値範囲、量、数値およびパーセントなど(例えば、角度、維持時間、温度、操作条件、割合及びそれに相当するパーセントなど)はいずれも、すべての実施形態において用語の「約」または「実質的に」に理解すべきである。また、内容に記載されない限り、本発明及び特許請求の範囲の数値はいずれも、必要に応じて変化しえる近似値に取ることができる。例えば、各パラメーターは、少なくとも記載されている有効桁数に照らして、通常の丸めの原則を適用して解釈しても良い。また、本明細書での数値範囲は、一方の端点から他方の端点まで、または2つの端点の間の範囲として表することができる。本明細書に記載されているすべての範囲は、特に定義されていない限り、端点を含むことを留意されたい。
【0010】
図1を参照されたい。
図1は、本発明の一実施形態における複合正極の製造方法のフローチャートである。本実施形態では、複合正極の製造方法は、以下のステップを含む。まず、ステップS1に示すように、正極材料と、固体電解質と、導電性カーボンと、アルコール溶媒とを提供(用意)する。正極材料は、複数の第1の粒子を含む。正極材料の組成は、Li[Ni
aCo
bMn
cAl
d]O
2、a+b+c+d=1、0.8<a≦1、0≦b<1、0≦c<1、0≦d<1である。固体電解質の組成は、Li
3InCl
xF
y、且つx+y≦6、0≦x≦6、0≦y≦3である。本実施形態では、正極材料は、例えば、組成がLi[Ni
aCo
bMn
c]O
2であるニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(NCM)材料であり、且つa=0.83、b=0.12、c=0.05、すなわち、ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム材料におけるニッケル、コバルト、マンガンの比率が83:12:5である。別の実施形態では、正極材料は、例えば、組成がLi[Ni
aCo
bMn
cAl
d]O
2であるニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム酸リチウム(NCMA)材料であり、且つa=0.88、b=0.06、c=0.05、d=0.01である。もう一つ別の実施形態では、正極材料は、例えば、組成比率が異なるニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(NCM)材料またはニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム酸リチウム(NCMA)材料であり、または、組成がLi[Ni
aCo
bAl
d]O
2であるニッケル・コバルト・アルミニウム酸リチウム(NCA)材料である。とある実施形態では、正極材料は、例えば、組成がLiNiO
2であるリチウムニッケル酸化物である。なお、本発明はこれに限定されない。本実施形態では、正極材料は、例えば、単結晶の正極材料であり、且つ第1の粒子の粒子径が0.5μm~30μmであり、単結晶構造と小粒子径によって、複合正極の電気化学性能の強化を達成することができる。正極材料は、固相合成法(solid-state synthesis)またはゾルゲル法(Sol-gel process)により製造されることができる。なお、本発明の正極材料の種類、粒子径、組成比率および製造過程はこれらに限定されず、ここでは詳細を省略する。本実施形態では、アルコール溶媒は、例えば、エタノールであり、毒性がなく、入手が容易で、低コストであるという利点がある。本実施形態では、導電性カーボンは、カーボンナノチューブ、導電性グラファイト(Conductive graphite)、導電性カーボンブラック(Conductive carbon black)、アセチレンブラック(Acetylene black)または気相法成長炭素繊維(Vapor grown carbon fiber、 VGCF)などが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0011】
次に、ステップS2に示すように、正極材料と、固体電解質と、導電性カーボンと、アルコール溶媒とを混合し、第1のスラリーを形成する。乾式混合と比較して、湿式混合のコストが低く、制御が容易で且つ複合正極の固体分散性を改善できる。また、固体電解質は、正極材料の第1の粒子表面上でその場で合成(In-situ synthesis)することができ、均一なコアシェル構造を有する複合正極を形成し、電気化学性能を向上させることができる。アルコール溶媒を介して湿式混合するため、複合正極への水分の悪影響を回避でき、不純物相の少ない複合正極を得ることができる。
【0012】
さらに、ステップS3に示すように、第1のスラリーとバインダを混合し、第2のスラリーを形成する。本実施形態では、第1のスラリーおよびバインダは、酸化を避けるために、例えば、非酸化性雰囲気中で混合される。混合中に、第1のスラリーおよびバインダは、例えば、最初の室温から70℃~90℃まで徐々に加熱され、アルコール溶媒の揮発が促進され、粘稠な第2のスラリーを形成する。この状態は、後過程の複合正極の製造に有利である。本実施形態では、バインダは、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene、PTFE)である。
【0013】
最後に、ステップS4に示すように、第2のスラリーを熱処理して複合正極を形成する。複合正極は、複数の第2の粒子を含む。各複数の第2の粒子は、複数の第1の粒子のうちの1つの第1の粒子と固体電解質とを含み、且つ固体電解質は、複数の第1の粒子のうちの前記1つの第1の粒子を覆う(前記第2の粒子は、第1の粒子と固体電解質とを含み、前記固体電解質が前記第1の粒子を覆う)。湿式混合と熱処理を通じて、固体電解質は、正極材料の第1の粒子表面にその場で合成(In-situ synthesis)され、均一なコアシェル構造を有する複合正極の第2の粒子を形成でき、電気化学性能は向上される。本実施形態では、第2のスラリーを成形後に熱処理する。第2のスラリーは、例えば、第1のキャリア上に、または、2つの第1のキャリア間にロール圧延成形(Roll forming)される。第1のキャリアは、集電体(集流体)または粘着防止材料である。本実施形態では、第2のスラリーは、例えば、2枚のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)薄膜(フィルム)の間に塗布されて圧延され、これによって、後過程の熱処理のための圧延後の剥離が容易になる。別の実施形態では、第2のスラリーは、例えば、アルミニウム箔とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)薄膜との間に塗布されて圧延され、これによって、剥離および熱処理後、複合正極の集電体を直接に形成することができる。本実施形態では、成形後の第2のスラリーは、例えば、第2キャリア上に担持されて熱処理される。第2キャリアは、例えば、ガラスまたは金属を含む。熱処理の温度は、例えば、160℃~200℃の間であり、時間は、10分~180分の間である。好ましくは、熱処理の温度は、170℃~190℃の間である。これは、エネルギー消費が低く、製造コストが節約でき、且つ環境上の利点がある。熱処理は、例えば、アルゴン雰囲気や窒素雰囲気などの非酸化性雰囲気で行われる。
【0014】
以下、比較例および実施例を参照しながら本発明の製造過程および効果を詳細に説明する。
【0015】
第1実施例:
【0016】
第1実施例は、以下の方法で製造した複合正極である。まず、正極材料と、固体電解質と、導電性カーボンと、アルコール溶媒とを提供する。正極材料は、多結晶正極材料であり、組成がLi[Ni0.83Co0.12Mn0.05]O2である。言い換えれば、第1実施例の正極材料は、ニッケル、コバルト、マンガンのモル比が83:12:5の多結晶ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム材料である。固体電解質の組成がLi3InCl6である。導電性カーボンが気相法成長炭素繊維(VGCF)である。アルコール溶媒がエタノールである。
【0017】
次に、正極材料と、固体電解質と、導電性カーボンと、アルコール溶媒とを混合して粉砕し、第1のスラリーを形成する。さらに、第1のスラリーとバインダとを混合して第2のスラリーを形成する。バインダがポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。第1のスラリーおよびバインダは、アルゴン雰囲気中で混合され、混合中に、温度が室温(25℃)から80℃まで徐々に上昇し、エタノールの揮発を促進して粘稠な第2のスラリーを形成する。
【0018】
その後、第2のスラリーを2枚のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)薄膜の間に塗布し、圧延する。最後に、第2のスラリーをポリテトラフルオロエチレン薄膜から剥離し、流通するアルゴン雰囲気中で、熱処理を行って第1実施例の複合正極を形成する。熱処理の温度が180℃であり、時間が120分である。
【0019】
第2実施例:
【0020】
第2実施例の製造方法は、第1実施例の製造方法と概ね同じである。第2実施例では、正極材料は単結晶の正極材料であり、組成がLi[Ni0.83Co0.12Mn0.05]O2である。言い換えれば、第2実施例の正極材料は、ニッケル、コバルト、マンガンのモル比が83:12:5の単結晶ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム材料である。
【0021】
第3実施例:
【0022】
第3実施例の製造方法は、第1実施例の製造方法と概ね同じである。第3実施例では、正極材料は多結晶正極材料であり、組成がLi[Ni0.88Co0.06Mn0.06]O2である。言い換えれば、第3実施例の正極材料は、ニッケル、コバルト、マンガンのモル比が88:6:6の多結晶ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム材料である。
【0023】
第1比較例:
【0024】
第1比較例は、以下の方法で製造した複合正極である。正極材料と、固体電解質と、導電性カーボンと、バインダとを提供する。正極材料は、多結晶正極材料であり、組成がLi[Ni0.83Co0.12Mn0.05]O2である。言い換えれば、第1比較例の正極材料は、ニッケル、コバルト、マンガンのモル比が83:12:5の多結晶ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム材料である。固体電解質の組成がLi3InCl6である。導電性カーボンが気相法成長炭素繊維(VGCF)である。バインダがポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
【0025】
次に、正極材料と、固体電解質と、導電性カーボンと、バインダとを混合して粉砕し、熱処理を行って第1比較例の複合正極を形成する。
【0026】
第2比較例:
【0027】
第2比較例の製造方法は、第1実施例の製造方法と概ね同じである。第2比較例では、溶媒として脱イオン水を使用した。
【0028】
図2Aおよび
図2Bを参照されたい。
図2Aは、本発明の第1実施例のSEM写真である。
図2Bは、本発明の第1比較例のSEM写真である。
図2Aおよび
図2Bに示すように、湿式混合によって製造された第1実施例は、乾式混合によって製造された第1比較例より著しく高い固体分散性を有し、すなわち、導電性カーボンとバインダが第2の粒子間に均一に分散している。
【0029】
図3A~
図3Bを参照されたい。
図3Aおよび
図3Bは、本発明の第1実施例および第2比較例の熱流量-温度曲線図である。
図3Aおよび
図3Bは、本発明の第1実施例および第2比較例について示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry、 DSC)を行ったものである。図に示すように、アルコール溶媒を用いた湿式混合の第1実施例では、180℃付近で熱流量の変化が見られる。これに対し、水を用いた湿式混合の第2比較例では、220℃付近で熱流量の変化が見られる。言い換えれば、アルコール溶媒を用いた湿式混合で得られたスラリーは、非比較的に低い温度で熱処理して複合正極を調整することができるため、エネルギー消費量を削減し、製造コストを節約することができる。
図3Aに示すように、本発明の第1実施例の反応温度のピーク値(peak value)は180℃、ピーク幅(peak width)は20℃である。このため、本発明の熱処理の温度は、好ましく、170℃~190℃である。
【0030】
図4A~
図4Bを参照されたい。
図4Aおよび
図4Bは、本発明の第1実施例および第2比較例のX線回折パターンである。
図4Aおよび
図4Bは、本発明の第1実施例および第2比較例について、180℃の温度、60分のX線回折分析を行った結果である。
図4Aと
図4Bを比較すると、第2比較例のX線回折パターンは、酸化インジウム(In
2O
3)の(222)面、(440)面、および(622)面の回折ピーク、塩化リチウム(LiCl)の(101)面の回折ピークを有することが明らかである。言い換えれば、溶媒として水を用いて湿式混合を行うことで、製造された複合正極には酸化インジウムと塩化リチウムの不純物相が多く含まれることなる。これに対し、アルコール溶媒を用いた湿式混合によって製造された複合正極の純物相は低い。
【0031】
図5A~
図5Eを参照されたい。
図5A~
図5Cは、本発明の第1実施例、第2実施例および第3実施例で製造されたボタン電池を測定して得られた電圧-電容量曲線図である。
図5D~
図5Eは、第1比較例および第2比較例で製造されたボタン電池を測定して得られた電圧-電容量曲線図である。ボタン電池の正極は、第1実施例、第2実施例、第3実施例、第1比較例および第2比較例の複合正極であり、負極は、リチウム金属である。電圧ウィンドウ(ウインドウボルテージ、Voltage Window)が2.5V~4.4Vであり、充放電レート(C-rate)が0.1Cであり、定電流(Constant current、CC)方式で充電し、定電流定電圧(Constant current constant voltage、CCCV)方式で放電する。定電流定電圧方式放電は、放電中は一定の電流を維持し、上限電圧を達した後は放電が完了するまで一定の電圧を維持することを意味する。充放電測定の温度は55℃である。
図5A~
図5Eに示すように、第1実施例の放電容量は176mAh/g、第2実施例の放電容量は193mAh/g、第3実施例の放電容量は204mAh/g、第1比較例の放電容量は67.9mAh/g、第2比較例の放電容量は44.4mAh/gである。これにより、乾式混合または水を用いた湿式混合で製造された複合正極は、アルコール溶媒の湿式混合で製造された複合正極よりも比較的に高い電容量を有することが分かる。また、単結晶Li[Ni
0.83Co
0.12Mn
0.05]O
2の第2実施例の放電容量は、多結晶Li[Ni
0.83Co
0.12Mn
0.05]O
2の第1実施例よりも著しく大きい。言い換えれば、単結晶の正極材料は、複合正極の電容量性能をさらに改善することができる。
【0032】
図6A~
図6Cを参照されたい。
図6A~
図6Cは、本発明の第2実施例、第3実施例および第1比較例で製造されたボタン電池を測定して得られた電容量-サイクル数曲線図である。下記の表は、第2実施例、第3実施例および第2比較例で製造されたボタン電池の第1回サイクルと第100回サイクルの放電容量および電容量維持率を示している。ボタン電池の正極は、第2実施例、第3実施例および第1比較例の複合正極であり、負極は、リチウム金属である。
図6A~
図6Cおよび表1に示すように、第2実施例の第1回サイクルの放電容量は192mAh/g、第100回サイクルの放電容量は118.8mAh/g、電容量維持率は61.9%である。第3実施例の第1回サイクルの放電容量は204.9mAh/g、第100回サイクルの放電容量は164.5mAh/g、電容量維持率は80.3%である。第1比較例の第1回サイクルの放電容量は171.5mAh/gであり、且つ第4回サイクルから放電容量が急激に低下し始め、第8回サイクルでは、電容量が0.2mAh/gを下回った。これにより、乾式混合で製造された複合正極と比較して、アルコール溶媒の湿式混合で製造された複合正極は比較的に高い初期電容量性能およびサイクル性能を有することが分かる。また、正極材料組成がLi[Ni
0.83Co
0.12Mn
0.05]O
2の第2実施例と比較して、正極材料組成がLi[Ni
0.88Co
0.06Mn
0.06]O
2の第3実施例は、電容量性能およびサイクル性能が優れる。言い換えれば、組成がLi[Ni
aCo
bMn
c]O
2、0.85<a≦1の正極材料は、複合正極の電容量性能およびサイクル性能をさらに改善することができる。
【0033】
第4実施例:
【0034】
第4実施例の製造方法は、第1実施例の製造方法と概ね同じである。第4実施例では、固体電解質の組成がLi3InCl5.19F0.81である。
【0035】
第5実施例:
【0036】
第5実施例の製造方法は、第1実施例の製造方法と概ね同じである。第5実施例では、固体電解質の組成がLi3InCl4.77F1.23である。
【0037】
第6実施例:
【0038】
第6実施例の製造方法は、第1実施例の製造方法と概ね同じである。第6実施例では、固体電解質の組成がLi3InCl4.35F1.65である。
【0039】
表二は、第1実施例、第4実施例、第5実施例および第6実施例で製造されたボタン電池の第1回サイクルおよび第45回サイクルの放電容量を示している。ボタン電池の正極は、第1実施例、第4実施例、第5実施例および第6実施例の正極材料であり、負極はリチウム金属である。電圧ウィンドウは2.5V~4.4Vであり、充放電レート(C-rate)は0.1Cであり、定電流(Constant current、CC)方式で充電し、定電流定電圧(Constant current constant voltage、CCCV)方式で放電する。定電流定電圧方式放電は、放電中は電流を一定に維持し、上限電圧を達した後、放電が完了するまで電圧を一定に維持することを意味する。充放電測定の温度は55℃である。表二に示すように、第1回サイクル時の塩素とフッ素の比が4.77:1.23の第5実施例の放電容量は196.18mAh/gであり、第1実施例の放電容量よりわずかに高く、塩素とフッ素の比が5.19:0.81の第4実施例の放電容量は189.49mAh/gであり、第1実施例の放電容量よりわずかに低いであるが、その差は著しくない。第45回サイクルでは、第4実施例の放電容量は160.21mAh/gであり、第1実施例の放電容量の147.91mAh/gに比べて8.31%増加した。第5実施例の放電容量は166.90mAh/gであり、第1実施例の放電容量の147.91mAh/gに比べて12.83%増加した。これにより、塩素とフッ素を使用して構成された固体電解質は、正極材料の放電容量を大幅に増加させることができ、塩素とフッ素との比が5.3:0.7~4.5:1.5の固体電解質はより優れる効果を発揮できることが分かる。
【0040】
表三は、第1実施例、第4実施例、第5実施例および第6実施例で製造されたボタン電池の第45回サイクルの放電容量維持率を示している。表三に示すように、第45回サイクルでは、第4実施例の放電容量維持率は84.55%であり、第1実施例の放電容量維持率の76.65%に比べて10.31%増加した。第5実施例の放電容量維持率は85.07%であり、第1実施例の放電容量維持率の76.65%に比べて10.98%増加した。第6実施例の放電容量維持率は78.44%であり、第1実施例の放電容量維持率の76.65%に比べて2.34%増加した。これにより、塩素とフッ素を使用して構成された固体電解質は、正極材料の放電容量維持率を大幅に増加させることができ、塩素とフッ素との比が5.3:0.7~4.5:1.5の固体電解質はより優れる効果を発揮できることが分かる。
【0041】
上述したように、本発明の目的は、複合正極の製造方法を提供することである。複合正極の製造方法は、以下のステップを含む。まず、正極材料、固体電解質およびアルコール溶媒を混合してスラリーを形成する。次に、スラリーを熱処理して複合正極を形成する。乾式混合と比較して、湿式混合の製造コストが低く、制御も容易且つ複合正極の固体分散性を改善することができる。さらに、固体電解質をアルコール溶媒に溶解して正極材料と均一に混合する。これによって、後過程の熱処理中に正極材料粒子の表面でその場で合成(In-situ synthesis)でき、均一なコアシェル構造を有する複合正極粒子を形成し、電気化学性能を向上させることができる。アルコール溶媒を用いた湿式混合は、複合正極への水による悪影響も回避でき、その結果、不純物相の少ない複合正極を得ることができる。熱処理の前に、スラリーは、例えば、キャリア上に塗布されてから圧延されて形成されることができる。キャリアは、例えば、成形後の除去を容易にする粘着防止薄膜である。スラリーは、さらに、例えば、2つのキャリアの間に塗布さて、圧延されて成形されることもでき、この場合、キャリアは、粘着防止薄膜と集電体であり、これによって、熱処理直後に複合正極を有する集電体を得ることができる。熱処理の温度は例えば160℃~200℃であり、これにより、エネルギー消費が少なく、製造コストが節約され、環境上の利点がある。
【0042】
本発明は、技術分野に精通した者によって様々な方法で変更することができるが、その変更はすべて本願の特許請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
S1、S2、S3、S4:ステップ
【外国語明細書】