(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001319
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】窓用透明日射調光フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 7/023 20190101AFI20241225BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20241225BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20241225BHJP
G02B 5/02 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
B32B7/023
B32B9/00 A
B32B5/18
G02B5/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100834
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】521177887
【氏名又は名称】株式会社ジェイトップライン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】清水 康二
(72)【発明者】
【氏名】上条 昌輝
(72)【発明者】
【氏名】鯨井 正見
【テーマコード(参考)】
2H042
4F100
【Fターム(参考)】
2H042BA02
2H042BA13
2H042BA16
4F100AA20B
4F100AK42A
4F100AT00A
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4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CB05B
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4F100JJ01B
4F100JN01A
4F100JN08
4F100JN18B
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】上部から入射する太陽光線だけではなく、低い位置から入射する太陽光線に対しても大きな遮蔽効果を示し、視認性が高く、かつ、廉価で、太陽光の方位に影響されない優れた調光性能を持つ窓用透明日射調光フィルムを提供する。
【解決手段】窓用ガラス基材に接合用の透明日射調光フィルムである窓用透明日射調光フィルムであって、太陽光線を透過させる基材フィルムの少なくとも片面に、内部空間が5nm~100nmの範囲に仕切られているシリカ殻のエアロゲルが分散した日射調光層であって、前記シリカ殻のエアロゲルが、前記日射調光層の、前記シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し0.02質量%~6.0質量%分散した日射調光層が形成されていることを特徴とする窓用透明日射調光フィルムである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓用ガラス基材に接合用の透明日射調光フィルムである窓用透明日射調光フィルムであって、太陽光線を透過させる基材フィルムの少なくとも片面に、内部空間が5nm~100nmの範囲に仕切られているシリカ殻のエアロゲルが分散した日射調光層であって、前記シリカ殻のエアロゲルが、前記日射調光層の、前記シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し0.02質量%~6.0質量%分散した日射調光層が形成されていることを特徴とする窓用透明日射調光フィルム。
【請求項2】
前記シリカ殻のエアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が0.2μm~20μmである請求項1に記載の窓用透明日射調光フィルム。
【請求項3】
前記シリカ殻のエアロゲルが、前記日射調光層の、前記シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し0.2質量%~6.0質量%分散している請求項1に記載の窓用透明日射調光フィルム。
【請求項4】
前記日射調光層の厚みが10~150μmである請求項1に記載の窓用透明日射調光フィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の窓用透明日射調光フィルムを用いた調光性能を高める方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窓用透明日射調光フィルムに関する。さらに詳しくいえば、本発明は、太陽高度が高い夏の太陽光は遮り、太陽高度が低い冬の太陽光は取り入れることができる調光機能を有する透明で視認性の高い窓用透明日射調光フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
建築や自動車分野等では、省エネルギー対策の観点から、日射による冷房負荷を減らすために窓ガラスから入射する太陽光線の透過を遮断する熱線成分を反射するような薄膜をコーティングしたフィルムや、金属薄膜をコーティングした熱線反射フィルムが開示されている。しかし、これらのフィルムは視認性が悪く、冬でも同様に機能するので暖房負荷が上昇するという問題があった。
【0003】
また、太陽光線を遮蔽するのに通常用いられるブラインドやカーテン等は、窓ガラスに対する太陽光線の入射角に対する選択性はなく、あらゆる角度で窓に入射する光をすべて一様に遮って調節する。
【0004】
このように、建物や自動車等の窓ガラスは、その冷暖房負荷を決定する大きな要因になっており、光や熱の出入りをコントロールすることのできる窓用フィルムが実現できれば、冷暖房負荷を大きく低減することができる。
【0005】
そこで、一対の平行な平面を持つ板状もしくはシート状のプラスチック材料からなる透明窓用部材の中に、一定厚みを有する平面形状のスリットからなる空気層が上下方向に複数、一定間隔で平面に対して傾斜して形成され、室外側の透明窓用部材と空気層との界面により、室外から所定角度より大きい角度で上方から入射する太陽光を全反射させ、室内への侵入を遮断する。室内から外側はほぼ完全に見ることができ、夏の太陽光は遮断し、冬の太陽光は取り入れることができる調光透明窓が特許文献1に開示されている。
【0006】
また、一対の平行な平面を持つ板状もしくはシート状のプラスチック材料からなる透明窓用部材の中に、スリットからなる空気層が上下方向に複数、一定間隔で前記平面に対して傾斜して形成され、室外側の板状透明窓用部材と前記空気層との界面により、冬場における室外から前記平面に垂直な方向に対し所定角度以下で入射する太陽光は室内に取り込み、夏場における室外から前記平面に垂直な方向に対し所定角度より大きい角度で上方から入射する太陽光を全反射させ、室内への侵入を遮断する調光透明窓用部材が特許文献2に開示されている。
【0007】
また、一方の面に凸部を有する少なくとも1枚の賦型樹脂シートを含む調光部材と、前記賦型樹脂シートの片方の面に配置される粘着層と、前記粘着層を介して前記賦型樹脂シートの片方の面に配置される透明な板部材とを含む、パネルであり、前記賦型樹脂シートの屈折率をAとし、前記粘着層の屈折率をBとするとき、前記屈折率Aと前記屈折率Bとの差の絶対値が0.2以下であるパネルが特許文献3に開示されている。
【0008】
さらにまた、熱伝導率の小さい中空微粒子をコーティングさせた断熱フィルムの一例として、フィルムの片側に赤外線遮蔽層を設けて遮熱させ、さらにその反対側に10nm~300nmの範囲内の外径を有するシリカ殻からなるナノ中空粒子を透明合成樹脂中に分散し、熱伝導率を2.5W/mK以下とした断熱層を設けた断熱フィルムが特許文献4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5493150号公報
【特許文献2】特許第5656147号公報
【特許文献3】特開2020-095276号公報
【特許文献4】特許第5810361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示された調光透明窓や特許文献1に開示された調光透明窓用部材は、平面に対し傾斜して形成されるために、その厚みが厚くなってしまう。その厚みを薄くするために上下方向に複数、一定間隔で前記平面に対して傾斜して形成されているが、それでもある程度の厚みが必要となり窓用部材としては使いづらいとの問題があった。また、入射光を透明窓用部材と空気層との界面で全反射させて室内への侵入を遮断するために視認性が落ちてしまうとの問題もあった。
【0011】
また、特許文献3に開示されたパネルは、調光透明窓、前記賦型樹脂シートと前記粘着層の屈折率の差を小さくし、屈折による反射を低減させ視認性を落とさないようにしており、すなわち、これらの調光部材は、板状もしくはシート状のプラスチック材料の中に、一定間隔で平面に対して傾斜した面を形成させて室外側に設置し、室内側の空気層との界面により、全反射させる構造になっている。つまり、傾斜した面を形成させることで、臨界角より大きい角度で太陽光線を入射させるように設計し、太陽光線を全反射させている。よって、正確な傾斜面を作成するために上段より下段の厚みが非常に厚くなり、窓用部材とはなりうるが、窓ガラスに貼付させる窓用フィルムとはなり得ないとの問題があった。また、傾斜面を多くさせると下段の厚みは薄くなるが、さらに正確な傾斜面の作成が技術的に難しくなり、製造コストが高くなるという問題もあった。さらにまた、この調光方法は、上部から入射する太陽光線だけに大きな遮蔽効果を示すというブラインドと同様な効果があるが、太陽光の方位が変わり太陽光線が低い位置から入射すると遮蔽効果が格段に小さくなる。すなわち、太陽高度が高い日中、南の窓では大きな遮蔽効果を示すが、太陽高度が低い朝方や夕方は太陽光が低い位置から入射するので遮蔽効果が大きく減少するという問題もあった。
【0012】
さらにまた、特許文献4に開示された断熱フィルムは、数μm程度といった、従来の分散層の厚さでは、熱伝導率をいくら小さくさせても大きな日射遮蔽効果を得ることは難しいという問題があった。
【0013】
そこで、本発明は、かかる不具合を解決すべくなされたものであって、本発明の主たる目的は、上部から入射する太陽光線だけではなく、低い位置から入射する太陽光線に対しても大きな遮蔽効果を示し、視認性が高く、かつ、廉価で、太陽光の方位に影響されない優れた調光性能を持つ窓用透明日射調光フィルムを提供することにある。
【0014】
上記課題を解決することで、夏の太陽光を効果的に遮断し、冬の太陽光は効果的に室内に取り込み、冷暖房負荷を大幅に低減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的の実現に向け鋭意検討した。その結果、一定の要件を満足する窓用透明日射調光フィルムによれば前記課題が解決し得ることを見いだし、本発明を完成するにいたった。
【0016】
すなわち、本発明の窓用透明日射調光フィルムは、窓用ガラス基材に接合用の透明日射調光フィルムである窓用透明日射調光フィルムであって、太陽光線を透過させる基材フィルムの少なくとも片面に、内部空間が5nm~100nmの範囲に仕切られているシリカ殻のエアロゲルが分散した日射調光層であって、前記シリカ殻のエアロゲルが、前記日射調光層の、前記シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し0.02質量%~6.0質量%分散した日射調光層が形成されていることを特徴とする。ここで、「内部空間が5nm~100nmの範囲に仕切られている」とは、「(透過型電子顕微鏡(FEI COMPANY製)で撮影した画像からランダムに30ヶ所選択して測定した前記「セル状の空間」の縦、横、高さが各5nm~100nmの範囲内である」ことを指す。
【0017】
本発明の窓用透明日射調光フィルムは、シリカ殻のエアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が0.2μm~20μmであることが好ましく、また、シリカ殻のエアロゲルが、前記日射調光層の、前記シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し0.2質量%~6.0質量%分散していることが好ましく、さらにまた、日射調光層の厚みが10~150μmであることが好ましい。なお、本発明において「シリカ殻のエアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離」とは、エアロゲルの大きさを表す指標であり、長軸、中軸、短軸の距離がすべて異なる楕円体であるエアロゲルの長軸、中軸、短軸の距離の平均値である。また、「シリカ殻のエアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値」とは、このようにして求めた「シリカ殻のエアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離」の平均値であり、具体的には、顕微鏡:マイクロスコープ(株式会社キーエンス製:型番・VHX-2000)で撮影した画像からランダムに30ヶ所選択したエアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離から算出した平均値を指す。
【0018】
また、本発明の調光性能を高める方法は、本発明の窓用透明日射調光フィルムを用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上部から入射する太陽光線だけではなく、低い位置から入射する太陽光線に対しても大きな遮蔽効果を示し、視認性が高く、かつ、廉価で、太陽光の方位に影響されない優れた調光性能を持つ窓用透明日射調光フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一好適な実施の形態に係る窓用透明日射調光フィルムの断面図である。
【
図2】本発明の他の好適な実施の形態に係る窓用透明日射調光フィルムの断面図である。
【
図3】太陽光線がシリカ殻のエアロゲルを通過するときの模式図である。
【
図4】太陽光線が本発明の窓用透明日射調光フィルムを通過するときの模式図である。
【
図5】太陽光線の入射角とシリカ殻のエアロゲルに衝突する回数に関する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の窓用透明日射調光フィルムは、窓用ガラス基材に接合用の透明日射調光フィルムである窓用透明日射調光フィルムであって、太陽光線を透過させる基材フィルムの少なくとも片面に、内部空間が5nm~100nmの範囲に仕切られているシリカ殻のエアロゲルが分散した日射調光層であって、前記シリカ殻のエアロゲルが、前記日射調光層の、前記シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し0.05質量%~5.0質量%分散した日射調光層が形成されていることを特徴とするものである。
【0022】
一般的に、太陽光線を反射や吸収で遮蔽させるために反射率や吸収率の大きい金属やセラミックスなどの物質を用いると、可視光線の波長域でも同じように反射・吸収するので、反射率や吸収率の大きい金属やセラミックスなどを用いて遮蔽を大きくさせると可視光線まで反射・吸収し、窓用フィルムとしての機能まで損なってしまう。
【0023】
そこで、近赤外線だけを選択的に遮蔽すれば可視光線の透明度や透過性を損なうことはないが、それを実現することは、現在の技術においては非常に難しい。
【0024】
なお、人間の視野には、視力や色弁別を行う弁別視野(約5°以内)、眼球運動だけで瞬時受容可能領域(水平30°、垂直約20°以内)の有効視野、中心窟を含む高密度情報を処理する範囲の中心視野があり、この範囲の透明度や透過性を損なわなければ視認性はほとんど悪くならない。
【0025】
そこで、可視光線帯域が透明な物質を用いて太陽光の角度により遮蔽する日射量を調整し、目の高さから上下左右、つまり視線から30°前後まではよく透過させ、それ以上の角度で入射する太陽光線を遮蔽すれば透明で視認性が良く、夏の太陽光を効果的に遮断し、冬の太陽光は効果的に室内に取り込み、冷暖房負荷を大幅に低減することができる、優れた日射調光性能を持つ窓用透明日射調光フィルムを検討し、本発明に至った。
【0026】
透明体の反射では、物質の持つ反射性能すなわち鏡面反射を利用した日射の反射方法、そして、前記文献1~3のように透明体界面の屈折率の差で起こる全反射を利用した日射の反射方法などが開示されている。
【0027】
全反射は、屈折率が大きい媒質から小さい媒質に光が入るときに、入射角が臨界角以上の場合、境界面を透過することができず、全反射がおこる。
【0028】
通常、太陽光線は、外気を透過し、そしてガラス板を透過・反射して室内に入射する。そこで、光線透過率が約90%の透明なガラス板を例として考えると、一般的に、透明なガラス板は屈折率が約1.5なのでスネルの法則から次のように表される。
外気からガラス板への入射 n1Sinθ1=n2Sinθ2
ガラス板から室内への入出射 n2Sinθ2=n1Sinθ1
媒質1(空気) 屈折率n1:1.0 媒質2(ガラス板) 屈折率n2:1.5
太陽光が60°でガラス板に入射すると屈折によりガラス内を35.3°で進み、室内へは、60°で出射する。つまり、太陽高度が60°のとき、ガラス板を透過して室内へ60°で入射する。
【0029】
そして、ガラス板から室内へ入射するときの臨界角は、Sinθm=n1/n2=1/1.5で表され、41.8°となる。臨界角とは、出射角が90のとき起こる現象をいう。よって、通常、太陽光が60°で入射し、屈折率が1.5のガラス板内を35.3°の角度で室内へ出射するので全反射は起こらない。
【0030】
文献1~3では、全反射させるために隔壁となるアクリル板の室内側を右下がりに傾斜させて、35.3°+X°≧41.8°となるようにX°を設計して全反射させている。しかし、これらの方法では、右下がりの傾斜面を作成するために上段より下段の厚みがかなり厚くなり、窓用部材とはなりうるが、窓用フィルムとはなり得ない。また、傾斜面を多くさせると下段の厚みは薄くなるが、さらに正確な傾斜面の作成が難しくなり、製造コストが高くなるという問題が発生する。また、この方法だと、夏の南面において、太陽高度の高い日中は大きな遮蔽効果を示すが、太陽高度の低い朝方や夕方には太陽光線が低い位置から入射されるので遮蔽効果が小さくなるという問題があった。本発明者らは、上記の方法とは異なる透明体で起こる反射つまりフレネルの式による反射による方法を用いて日射遮蔽効果に方向性のない日射調光性能を持つ窓用透明日射調光フィルムを開発した。
【0031】
フレネルの式によれば、光は、屈折率が異なる物質間の界面に入射すると、一部は反射し、一部は透過する。光の進む速さというものは、媒質の種類によって変わる。そして、ある媒質から別の媒質へと波が進む場合、進む速さが変わることによって、進む方向も変わる。境界面を境にして進行方向が変わることを屈折という。そして、屈折率とは、真空中の光速を物質中の光速で割った値である。光は二つの媒質の間で屈折するが、その屈折の度合の比率を示す数値を屈折率といい、真空の状態から媒質に入射した場合の屈折を測定して真空に対する比で表す。また、同じ物質であっても、屈折率は波長によって異なる。この性質を分散と言う。
【0032】
次に、フレネルの式を示す。
R=[(n1-n2)/(n1+n2)]2
R:反射率 n1:媒体1の屈折率 n2:媒体2の屈折率
I=I0[1-(n1-n2)/(n1+n2)]2
I0:入射光の強度 I:出射光の強度
【0033】
上記から明らかなように、媒体1の屈折率n1と媒体2の屈折率n2との差が大きいほど反射率は大きくなり、光の透過量も減少する。例として、太陽光線が、外気を透過し、そして厚さ3mmのガラス板を透過して室内に入射する場合、屈折率が約1.5のガラス板の表面で約4%、ガラス板から空気中に出射するときに約3.8%、合計で7.8%反射され透過率が約90%前後であることはよく知られている。空気の屈折率は、0℃、1気圧で1.000292である。ほぼ真空と同じである。そこで、フレネルの式から反射率を上げるためには、空気の屈折率より大きい物質を用いればよいことが分かる。
【0034】
また、フレネルの式による反射率を上げ透過率を小さくするためには、空気層と媒質を何層にも重ね合わせれば良いことが次の式からわかる。例えば、4層重ねた時には
I=I0[1-{(n1-n2)/(n1+n2)}2]4
となる。例えば、内部が中空になっているシリカ殻のエアロゲルは、空気をシリカ殻で囲んだ構造になっている。そして、その断面はシリカ殻、空気、シリカ殻の順になっている。
【0035】
特にナノオーダーの微細なシリカ粒子が繋がったネットワーク構造である多孔質なエアロゲルなどは、内部空間が5nm~100nmの範囲に仕切られている構造なので何度も反射・透過を繰り返す。つまり、フレネルの式による反射率を上げる物質として最適である。
【0036】
一般的に、微粒子が分散されている透明な物質中に光が入射したとき、光の波長が微粒子の大きさより短いときは微粒子により遮蔽される。しかし、その波長が微粒子より長くなると回析現象により物体の間を擦り抜ける。例えば、粒子径のごく小さな微粒子が分散されている紫外線カット剤は、光が照射されたとき直進性の強い紫外線は微粒子に衝突して遮蔽されるが、直進性の緩やかな可視光線は、回析現象により、その微粒子の裏側に回り込み透明に見える。しかし、この微粒子の粒子径が可視光線よりも大きくなると、少々曲がっても、その大きな微粒子の裏側に回り込むことが出来ないので、紫外線と同じく可視光線まで遮蔽されることになる。同様な現象、すなわち回折は音波、水の波、電磁波(可視光やX線など)を含むあらゆる波について起こる現象であり、太陽光線を遮蔽させるには、太陽光線の波長より大きい微粒子を用いればば良いことが分かる。
【0037】
通常、金属のような物体は、放射熱の一部を吸収して、他をすべて反射するので吸収率α、反射率ρの間に次の関係式「α+ρ=1」が成り立ち、可視光線、赤外線帯域において透過しないことが分かる。しかし、ガラスやプラスチックスなどの物体は、放射熱を一部吸収し、一部反射し、一部透過する灰色体である。このような灰色体の場合は、吸収率α、反射率ρおよび透過率τの間に次の関係式「α+ρ+τ=1」が成り立ち、可視光線、赤外線帯域において透過することが分かる。また、下記ランバート・ベールの法則によると、殻の厚みを薄くすれば透過率が高くなることが分かる。
吸光度A=-logT=εCL
(A:吸光度、T:透過率、ε:物質固有の値である吸光係数、C:セル溶液内の物質のモル濃度、L:セル長さ(照射方向の長さ))
【0038】
そこで、反射、吸収の大きい中実の微粒子の替わりに、膜厚を非常に薄くした殻の透明な中空微粒子を用いれば、中空微粒子表面での反射に加えて、殻を透過して中空微粒子の内部に入射した太陽光線も殻と内部の空気層の屈折率の差による反射を起こすので、透明で太陽光線に対し大きな遮蔽効果を得ることができる。特に、内部空間が5nm~100nmの範囲に仕切られている構造の多孔質なエアロゲルなどは、何度も反射・透過を繰り返すので大きな遮蔽効果を得ることができる。
【0039】
また、日射調光フィルムの視認性は、水平30°、垂直約20°以内の有効視野部分の光に対して、透明日射調光粘着層の厚みは薄く、光の透過する距離が短いので内部に略均一に分散させたエアロゲルに衝突する割合も少なく、可視光線透過率の低下は小さい。よって、透明度や透過性が損なわれることなく、視認性は本来のガラスとほとんど変わらない。
【0040】
また、冬季(秋分の日から春分の日まで)の太陽高度は低く、ほぼ45°以内であるので、エアロゲルを略均一に分散させた粘着層を透過する垂直約45°以内の光は、同様に光の透過する距離が短いのでエアロゲルと衝突する割合が少なく、日射遮蔽効果も小さくなり太陽光線を多く室内に取り入れることができる。
【0041】
それに対し夏季(春分の日から秋分の日まで)の太陽高度は高く、ほぼ60°以上でありエアロゲルを略均一に分散させた透明日射調光粘着層を透過する光の進む距離が長くなる。そして、内部に略均一に分散させたエアロゲルと衝突する割合が多くなり、遮蔽効果も大きくなる。
【0042】
なお、本発明の透明日射調光フィルムは、太陽高度の高さによる垂直方向だけでなく、水平方向に対しても入射角が60°以上であれば、透明日射調光粘着層を透過する光の透過する距離が長くなり、エアロゲルと衝突する割合も多くなるので日射遮蔽効果が大きくなる。すなわち、夏の朝方や夕方の太陽高度が低い時間帯でも、窓面に対し太陽光線が60°以上であたれば日射遮蔽効果が得られる。
【0043】
従って、4月から9月の暖かいあるいは暑い時期は太陽光を多く遮断し、10月から3月までの涼しいあるいは寒い時期は太陽光を多く透過させることができる。このような透明日射調光フィルムを窓ガラスに貼付させると、夏は太陽光を遮断し、冬は太陽光を取り入れるという機能が自動的に発現する透明で視認性の良い窓ガラス用透明日射調光フィルムを得ることができる。
【0044】
以下、本発明の窓ガラス用透明日射調光フィルムの好適な実施形態について添付図面を参照して説明する。ただし、本発明の窓用透明日射調光フィルムはこれらの実施形態になんら限定されるものではない。
【0045】
図1に、本発明の一好適な実施の形態に係る窓用透明日射調光フィルムの断面図を示す。窓用透明日射調光フィルム10は、基材フィルム1と粘着剤2にシリカ殻のエアロゲル3を分散させた透明日射調光粘着層4とを有したうえで、さらに基材フィルム1をはさんで透明日射調光粘着層4の反対側にハードコート層5を有しており、各層はこの順に積層されている。基材フィルム1と窓ガラス面は、透明日射調光粘着層4を介して密着させることができる。
【0046】
図2に、本発明の他の好適な実施の形態に係る窓用透明日射調光フィルムの断面図を示す。窓用透明日射調光フィルム20は、基材フィルム11と透明樹脂12にシリカ殻のエアロゲル13を分散させた透明日射調光樹脂層14とハードコート層15とを有したうえで、さらに基材フィルム11をはさんで透明日射調光樹脂層14とハードコート層15の反対側に粘着層16を有しており、各層はこの順に積層されている。基材フィルム11と窓ガラス面は、粘着層16を介して密着させることができる。
【0047】
図3に、太陽光線がシリカ殻のエアロゲルを通過するときの模式図を、
図4に、太陽光線が本発明の窓用透明日射調光フィルムを透過するときの模式図を示す。まず、太陽光線は、太陽から窓ガラスに向かって照射される。窓ガラスおよび粘着剤は、太陽光線(波長0.3μm~3.0μm)を多く透過させる。窓ガラス面を透過した太陽光線は、粘着剤も透過してシリカ殻のエアロゲルの隔壁31の外表面に到達する。粘着剤を透過してシリカ殻のエアロゲルに到達した太陽光線は、エアロゲルの隔壁31外表面と粘着剤との界面で屈折率の差により一部が反射し残りが透過する。シリカ殻を透過した太陽光線は、シリカ殻のエアロゲル内部の空気層に到達する。シリカ殻のエアロゲル内部の空気層に入射した太陽光線は、シリカ殻のエアロゲルの隔壁31の内表面と内部の空気層との界面で屈折率の差により一部が反射し残りが透過する。内部の空気層を透過した太陽光線は、シリカ殻のエアロゲルの隔壁32の内表面に到達する。内部の空気層とシリカ殻のエアロゲルの隔壁32の内表面との界面で屈折率の差により一部が反射し残りが透過する。シリカ殻のエアロゲルの隔壁32を透過した太陽光線は、シリカ殻のエアロゲルの隔壁32の外表面に到達する。シリカ殻のエアロゲルを透過して粘着剤に到達した太陽光線は、シリカ殻のエアロゲルの隔壁32の外表面で粘着剤との界面で屈折率の差により一部が反射し残りが透過する。
【0048】
図5に、太陽光線の入射角とシリカ殻のエアロゲルに衝突する回数に関する模式図を示す。図中、入射角をθで示す。太陽光線の入射角が大きいほどシリカ殻のエアロゲル3に衝突する回数が多くなり、遮蔽効果も大きくなることが分かる。
【0049】
このように、反射と透過を繰り返した太陽光線は、一部が反射して外気に出射したり、一部が粘着剤2に吸収さたりして室内や外気に出射したりすると考えられる。また、内部空間が5nm~100nmの範囲に仕切られて多孔質なシリカ殻のエアロゲルは、中空な内部空間が連続して存在する構造になっており、屈折率の差が大きい空気層とシリカ殻による前記シリカ殻のエアロゲルの隔壁31の内表面と内部の空気層との界面での反射と透過と、内部の空気層とシリカ殻のエアロゲルの隔壁32の内表面との界面での反射と透過とを連続して起こすことができる。
【0050】
次に入射角による日射透過率について説明する。
ランバート・ベールの法則によると、層の厚みを厚くすれば透過率が低くなることが分かる。層の厚み、つまり太陽光線の透過距離は、次の式で示すことができる。
X=1/cosθ
X=太陽光線の透過距離 1=層の厚み θ=入射角
【0051】
従来のシリカ殻などの中空微粒子は、シリカ殻のかさ密度を小さくすることが極めて低い熱伝導率を得るために必要との知見から、ミクロ細孔を除いたシリカ殻のみの密度が非常に小さいシリカ殻のエアロゲルを樹脂に分散させて断熱フィルムを作成している。例えば、熱伝導率の小さい中空微粒子をコーティングさせた断熱フィルムの一例として、特許文献4に記載の断熱フィルムがあるが、前述の通り、数μm程度といった、従来の分散層の厚さでは、熱伝導率をいくら小さくさせても大きな日射遮蔽効果を得ることは難しい。
【0052】
日射すなわち太陽光線の波長は0.3μm~3.0μmであり、この範囲の波長を反射あるいは吸収させることで、より薄いフィルムでも日射遮蔽効果を得ることできることから、太陽光線の波長0.3μm~3.0μmよりシリカ殻を大きくさせることが好ましい。シリカ殻を太陽光線の波長0.3μm~3.0μmより大きくさせることで、シリカ殻のエアロゲルの表面および界面からよりよく反射させることができる。
【0053】
本発明のシリカ殻のエアロゲルは、反射による日射調光効果を得るために、その内部空間が略均一に仕切られていて、太陽光線の波長0.3μm~3.0μmより少し大きいシリカ殻のエアロゲルを用いることが好ましい。
本発明のシリカ殻のエアロゲルは、製造した製品をパウダー状に粉砕させたもので、複雑な形状をしており、長軸、中軸、短軸があり、すべての距離が異なる楕円体である。よって、本発明のシリカ殻のエアロゲルを分散させた粘着剤をフィルムにコーティングさせるとき、分散されたエアロゲルは、粘着剤内部で倒れ、短軸がフィルム基板に対し直角方向となり、中軸と長軸が水平方向になる傾向があり、つまり太陽光に対する面の面積が広くなり、太陽光を多く反射できる。そこで、1個のエアロゲルの長軸、中軸、短軸の距離を測定し、それらから算出した平均値を「長軸、中軸、短軸の平均距離」と表わし、エアロゲルの大きさを表わす指標とする。以下に示す、「シリカ殻のエアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値」とは、このようにして求めた「シリカ殻のエアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離」の平均値であり、具体的には、顕微鏡:マイクロスコープ(株式会社キーエンス製:型番・VHX-2000)で撮影した画像からランダムに30ヶ所選択したエアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離から算出した平均値を指す。
エアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値は、好ましくは0.2μm~20μm、より好ましくは0.3μm~10μmであり、0.3μm~5μmが最も好ましい。エアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が3μm以上であれば、本発明の日射調光効果を得ることができ、10μm以下であれば、視認性、透明性を高く維持することができる。
【0054】
また、本発明のシリカ殻のエアロゲルとしては、長軸、中軸、短軸の平均距離が、一定範囲のものを用いることが好ましい。本発明のシリカ殻のエアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離の範囲が0.2μm~20μmであれば、太陽光線の波長を有効に遮断でき、さらに日射調光粘着層に分散させやすく、日射調光粘着層の厚みを薄くすることができる。なお、上記「シリカ殻のエアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離の範囲は、太陽光線遮断に有効な平均距離の範囲を指すものである。
【0055】
<フィルム基材>
本発明の窓用透明日射調光フィルムに用いられる基材フィルムは、可視・近赤外線を透過させ、窓面への貼付作業に必要な強度を与えることができるものであれば特に限定されない。基材フィルムを構成する材料は特に限定されず、例えば、ポリエステル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリアクリル系フィルム等であってもよい。これらの中でも、汎用性があり、視認性、透明性に優れるという点からポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等のポリエステル系フィルムが好ましい。
【0056】
基材フィルムの厚さは、窓用透明日射調光フィルムが十分な強度を確保できる厚さであればよく、特に限定されないが、好ましくは10~200μm、より好ましくは20~150μmである。基材フィルムの厚さが10μm以上であれば窓用透明日射調光フィルムが十分な強度を確保でき、200μm以下であればガラス等に貼付させても高い視認性、透明性を維持し、かつ窓ガラスに簡便に貼付することができる。
【0057】
また、基材フィルムは単数又は複数の透明近赤外線遮蔽層を有するものであっても良い。
【0058】
<日射調光層>
本発明の窓用透明日射調光フィルムに用いられる日射調光層には、透明粘着層にシリカ殻のエアロゲルを分散させた透明日射調光粘着層、あるいは透明樹脂層にシリカ殻のエアロゲルを分散させた透明日射調光樹脂層があり、それらを窓ガラス用フィルムの片面、あるいは両面に形成させてもよい。なお、透明日射調光樹脂層は透明日射調光粘着層と窓ガラス用フィルムの間に形成させてもよく、透明日射調光粘着層と反対側の面に形成させても良い。また、日射調光層は一層でもよいが、必要があれば複層でもよい。
日射調光層の厚さは、定圧厚さ測定器(株式会社テクロック製、型番:PG-02A、最小表示量(mm)0.001)により測定した。
【0059】
本発明の日射調光層の厚さは、好ましくは10~150μm、より好ましくは20~100μm、最も好ましいのは25~50μmである。日射調光層の厚さが10μm以上であれば、本発明の日射調光効果を維持しつつガラス等との密着強度が確保され、150μm以下であれば高い視認性、透明性を維持することができる。
【0060】
本発明の日射調光層は、シリカ殻のエアロゲルを、日射調光層の、シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し0.02質量%以上含む。シリカ殻のエアロゲルを、日射調光層の、シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し0.02質量%以上含むことで本発明の日射調光効果を得ることができる。また、シリカ殻のエアロゲルを、日射調光層の、シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し0.02質量%~6.0質量%含むことが好ましい。シリカ殻のエアロゲルの含有量が、日射調光層の、シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し6.0質量%以下であれば高い視認性、透明性を維持することができる。
【0061】
<透明日射調光粘着層および粘着剤>
本発明の窓用透明日射調光フィルムに用いられる透明日射調光粘着層を形成するために用いられる粘着剤は、太陽光線を透過させ透明である限り、種類は特に限定されず、窓用透明日射調光フィルムを窓面に接着可能なものであればよい。例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコン系粘着剤など任意のものを用いることができるが、シリカ殻のエアロゲルの分散性を考慮すると、これらのうちアクリル系粘着剤が特に好適に用いられる。
【0062】
粘着剤は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよく、また、本発明の目的が損なわれない範囲で、例えば、粘着付与剤、紫外線吸収剤、赤外線遮蔽剤、可塑剤、光重合性化合物、光開始剤、発泡剤、重合禁止剤、老化防止剤、充填剤、カップリング剤、帯電防止剤等のその他の成分を添加してもよい。なお、紫外線吸収剤、赤外線遮蔽剤等を、透明な樹脂に含有させて粘着剤の反対側の面または粘着剤とフィルム面の間に紫外線吸収剤層、赤外線遮蔽剤層等を形成させても良い。
【0063】
前記の通り、透明日射調光粘着層の厚さは、好ましくは10~150μm、より好ましくは20~100μm、最も好ましいのは25~50μmである。透明日射調光粘着層の厚さが10μm以上であれば、本発明の日射調光効果を維持しつつガラス等との密着強度が確保され、150μm以下であれば高い視認性、透明性を維持することができる。
【0064】
前記の通り、透明日射調光粘着層は、シリカ殻のエアロゲルを、透明日射調光粘着層の、シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し0.02質量%以上含む。シリカ殻のエアロゲルを、透明断熱粘着層の、シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し0.02質量%以上含むことで本発明の日射調光効果を得ることができる。また、シリカ殻のエアロゲルを、透明日射調光粘着層の、シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し0.02質量%~6.0質量%含むことが好ましい。シリカ殻のエアロゲルの含有量が、透明日射調光粘着層の、シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し6.0質量%以下であれば高い視認性、透明性を維持することができる。
【0065】
<透明日射調光樹脂層および透明樹脂>
本発明の窓用透明日射調光フィルムに用いられる透明日射調光樹脂層の透明樹脂としては、太陽光線を透過させ透明である限り、種類は特に限定されず、基材フィルム面に接着可能なものであればよい。例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂など任意のものを用いることができるが、シリカ殻のエアロゲルの分散性を考慮すると、これらのうちアクリル系樹脂が特に好適に用いられる。
【0066】
透明樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよく、また、本発明の目的が損なわれない範囲で、例えば、紫外線吸収剤、赤外線遮蔽剤、可塑剤、光重合性化合物、光開始剤、発泡剤、重合禁止剤、老化防止剤、充填剤、カップリング剤、帯電防止剤等のその他の成分を添加してもよい。
【0067】
前記の通り、透明日射調光樹脂層の厚さは、好ましくは10~150μm、より好ましくは20~100μm、最も好ましいのは25~50μmである。透明日射調光樹脂層の厚さが10μm以上であれば、本発明の日射調光効果を維持しつつガラス等との密着強度が確保され、150μm以下であれば高い視認性、透明性を維持することができる。
【0068】
前記の通り、透明日射調光樹脂層は、シリカ殻のエアロゲルを、透明日射調光樹脂層の、シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し0.02質量%以上含む。シリカ殻のエアロゲルを、透明日射調光樹脂層の、シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し0.02質量%以上含むことで本発明の日射調光効果を得ることができる。また、シリカ殻のエアロゲルを、透明日射調光樹脂層の、シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し0.02質量%~6.0質量%含むことが好ましい。シリカ殻のエアロゲルの含有量が、透明日射調光樹脂層の、シリカ殻のエアロゲルを除く固形分全量に対し6.0質量%以下であれば高い視認性、透明性を維持することができる。
【実施例0069】
(実施例1)
Luoyang Tongrun Info Technology Co. Ltd製のシリカ殻のエアロゲル「TR-W20」を、綜研化学(株)製の粘着剤「SKダイン」の固形分に対し0.05質量%、0.5質量%、1.5質量%、3.0質量%、5.0質量%、7.0質量%、10.0質量%、分散させたものを用意した。なお、シリカ殻のエアロゲル「TR-W20」は、屈折率が約1.46(632.8nm)のシリカで作成されており、長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が4.2μm、熱伝導率が約0.02W/m・Kの属性を有し、内部空間が5nm~100nmの範囲に仕切られている。
なお、上記「シリカ殻のエアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値」とは、前述の通り、1個のエアロゲルの長軸、中軸、短軸の距離を測定し、それらから算出した平均値である「シリカ殻のエアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離」の平均値であり、具体的には、顕微鏡:マイクロスコープ(株式会社キーエンス製:型番・VHX-2000)で撮影した画像からランダムに30ヶ所選択したエアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離から算出した平均値を指す。
【0070】
5cm×5cmで厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材(以下、PETフィルムと記す)に、用意した上記シリカ殻のエアロゲルを分散させた粘着剤を各々35μm、積層させた。そして、5cm×5cmで厚さ3mmの板ガラスに、上記シリカ殻のエアロゲルを分散させた粘着剤を各々35μm積層させたPETフィルムを次のとおり接着させたサンプルを用意した。
(1)厚さ3mmの板ガラス単体
(2)粘着剤に長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が4.2μmのシリカ殻のエアロゲルを0.05質量%含有させたPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
(3)粘着剤に長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が4.2μmのシリカ殻のエアロゲルを0.5質量%含有させたPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
(4)粘着剤に長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が4.2μmのシリカ殻のエアロゲルを1.5質量%含有させたPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
(5)粘着剤に長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が4.2μmのシリカ殻のエアロゲルを3.0質量%含有させたPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
(6)粘着剤に長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が4.2μmのシリカ殻のエアロゲルを5.0質量%含有させたPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
(7)粘着剤に長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が4.2μmのシリカ殻のエアロゲルを7.0質量%含有させたPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
(8)粘着剤に長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が4.2μmのシリカ殻のエアロゲルを10.0質量%含有させたPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
【0071】
このようにして得た(1)~(7)のサンプルに対して下記の評価を行なった。これらの結果を表1中に記す。
【0072】
(可視光線透過率および日射透過率)
可視光線透過率および日射透過率については、(株)島津製作所製測定装置SolidSpec-3700DUV(ダブルビーム方式)を用いて、入射光45度、直線偏光の条件で可視光透過率については入射角5°の分光透過率を、日射透過率については入射角5°、30°、45°、60°の分光透過率を測定した。可視光としては、380nm~780nm、日射光としては350nm~2100nmを測定した。また、表1中の「5度-T」とは、「入射角5°」を意味する。
【0073】
(視認性)
また、視認性として、そのときのヘーズ値を日本電色工業(株)製 分光ヘーズメータ(SH7000)を用いてJIS K7136により求めた。その結果を表1中に示す。
ヘーズ値を求める式 H=Td/Tt×100
H:ヘーズ(曇価)(%)
Td:拡散光線透過率(%)
Tt:全光線透過率(%)
【0074】
【0075】
シリカ殻のエアロゲルを分散させた厚さ50μmのPETフィルムを厚さ3mmの板ガラスに貼付させ日射透過率を測定すると、ガラス単体の日射透過率を100%とした場合のそれに対する相対値ベースで、入射角が5°のとき8.3%、入射角が30°のとき9.3%、入射角が45°のとき12.2%、入射角が60°ときに19.5%低下し、入射角による日射調光効果があることが分かる。同様に、エアロゲル分散率が異なる他のフィルムも日射調光効果があることが分かる。
そして、シリカ殻のエアロゲルの分散量が0.05質量%~6.0質量%であればヘーズ値も低く維持することができ、高い可視光線透過率、高い視認性および透明性を維持することができることが分かる。
【0076】
(実施例2)
内部空間が5nm~100nmに仕切られており、熱伝導率が0.2W/m・KのLuoyang Tongrun Info Technology Co. Ltd製のシリカ殻のエアロゲル「TR-W20」を篩にかけ、エアロゲルの大きさを長軸、中軸、短軸の平均距離平均距離の平均値が0.2μm、2.7μm、4.2μm、5.1μm、15.5μm、15.5μmに分類し、綜研化学(株)製の粘着剤「SKダイン」の固形分に対し各々1.5質量%分散させたものを用意した。
【0077】
5cm×5cmで厚さ50μmのPETフィルムに、用意した上記シリカ殻のエアロゲルを分散させた粘着剤を各々35μm、積層させた。そして、5cm×5cmで厚さ3mmの板ガラスに、上記シリカ殻のエアロゲルを分散させた粘着剤を各々35μm積層させたPETフィルムを次のとおり接着させたサンプルを用意した。
(1)厚さ3mmの板ガラス単体(表1中にも記載)
(9)長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が0.2μmのシリカ殻のエアロゲルを1.5質量%含有させた粘着剤をコーティングしたPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
(10)長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が2.7μmのシリカ殻のエアロゲルを1.5質量%含有させた粘着剤をコーティングしたPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
(4)長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が4.2μmのシリカ殻のエアロゲルを1.5質量%含有させた粘着剤をコーティングしたPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス(表1中にも記載)
(11)長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が5.1μmのシリカ殻のエアロゲルを1.5質量%含有させた粘着剤をコーティングしたPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
(12)長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が15.5μmのシリカ殻のエアロゲルを1.5質量%含有させた粘着剤をコーティングしたPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
(13)長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が21.4μmのシリカ殻のエアロゲルを1.5質量%含有させた粘着剤をコーティングしたPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
【0078】
このようにして得た(1)、(4)および(9)~(13)のサンプルに対して(実施例1)中に記載の(可視光線透過率および日射透過率)および(視認性)の評価を行なった。これらの結果を表2中に記す。
【0079】
【0080】
長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が0.2μm~21.4μmのシリカ殻のエアロゲルを粘着剤に1.5質量%分散させ、それをコーティングさせた厚さ50μmのPETフィルムを厚さ3mmの板ガラスに貼付させて可視光線透過率と日射透過率を測定すると、ガラス単体の日射透過率を100%とした場合の、それに対する相対値ベースで、長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が0.2μmの場合、入射角が5°のとき4.7%、入射角が30°のとき6.8%、入射角が45°のとき8.2%、入射角が60°ときに11.7%低下し、入射角による日射調光効果があることが分かる。同様に、エアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が異なる他のフィルムも日射調光効果があることが分かる。
【0081】
そして、シリカ殻のエアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が0.2μm~20μmであれば可視光線透過率も高く、高い視認性、透明性ならびに低いヘーズ値を維持することができる。シリカ殻のエアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値がとしては、好ましくは0.2μm~20μm、より好ましくは0.3μm~10μmであり、0.3μm~5μmが最も好ましい。
【0082】
(実施例3)
長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が0.7μmで内部空間が5nm~100nmに仕切られており、熱伝導率が0.02W/m・KのLuoyang Tongrun Info Technology Co. Ltd製のシリカ殻のエアロゲル「TR-W20」を綜研化学(株)製の粘着剤「SKダイン」の固形分に対し1.5質量%分散させたものを用意した。
【0083】
5cm×5cmで厚さ50μmのPETフィルムに、用意した用意した上記シリカ殻のエアロゲルを分散させた粘着剤を各々25μm、35μm、45μm、70μm、100μm、200μm積層させた。そして、5cm×5cmで厚さ3mmの板ガラスに、上記シリカ殻のエアロゲルを分散させた粘着剤を各々の厚さに積層させたPETフィルムを次のとおり接着させたサンプルを用意した。
(1)厚さ3mmの板ガラス単体(表1、表2中にも記載)
(14)長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が0.7μmのシリカ殻のエアロゲルを1.5質量%含有した粘着剤を25μmコーティングさせた。そのPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
(15)長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が0.7μmのシリカ殻のエアロゲルを1.5質量%含有した粘着剤を35μmコーティングさせた。そのPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
(16)長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が0.7μmのシリカ殻のエアロゲルを1.5質量%含有した粘着剤を45μmコーティングさせた。そのPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
(17)長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が0.7μmのシリカ殻のエアロゲルを1.5質量%含有した粘着剤を70μmコーティングさせた。そのPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
(18)長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が0.7μmのシリカ殻のエアロゲルを1.5質量%含有した粘着剤を100μmコーティングさせた。そのPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
(19)長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が0.7μmのシリカ殻のエアロゲルを1.5質量%含有した粘着剤を200μmコーティングさせた。そのPETフィルムを貼付させた厚さ3mmの板ガラス
【0084】
このようにして得た(1)および(14)~(19)のサンプルに対して(実施例1)中に記載の(可視光線透過率および日射透過率)および(視認性)の評価を行なった。これらの結果を表3中に記す。
【0085】
【0086】
粘着剤に長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が0.7μmのシリカ殻のエアロゲルを1.5質量%分散させ、それを厚さ25μm~200μmコーティングさせた厚さ50μmのPETフィルムを厚さ3mmの板ガラスに貼付させ可視光線透過率、日射透過率を測定すると、ガラス単体の日射透過率を100%とした場合のそれに対する相対値ベースで、厚さ25μmの場合、入射角が5°のとき3.9%、入射角が30°のとき4.7%、入射角が45°のとき6.2%、入射角が60°ときに7.8%低下し、入射角による日射調光効果があることが分かる。同様に、エアロゲルの長軸、中軸、短軸の平均距離の平均値が異なる他のフィルムも日射調光効果があることが分かる。
【0087】
そして、シリカ殻のエアロゲルを分散させた透明日射調光樹脂層の厚みが150μm以下であれば可視光線透過率も高く、高い視認性、透明性ならびに低いヘーズ値を維持することができる。シリカ殻のエアロゲルを分散させた透明日射調光樹脂層の厚みとしては、10μm~150μmが好ましく、より好ましくは20~100μm、最も好ましいのは25~50μmである。
【0088】
以上のように本発明によれば、上部から入射する太陽光線だけではなく、低い位置から入射する太陽光線に対しても大きな遮蔽効果を示し、視認性が高く、かつ、廉価で、太陽光の方位に影響されない優れた調光性能を持つ窓用透明日射調光フィルムを提供することができる。