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特開2025-13205脱硫用マンガン系吸着剤及びその製造方法
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  • 特開-脱硫用マンガン系吸着剤及びその製造方法 図1
  • 特開-脱硫用マンガン系吸着剤及びその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025013205
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】脱硫用マンガン系吸着剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/06 20060101AFI20250117BHJP
   B01J 20/04 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
B01J20/06 B
B01J20/04
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024100421
(22)【出願日】2024-06-21
(31)【優先権主張番号】10-2023-0090144
(32)【優先日】2023-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】514079170
【氏名又は名称】ヒソン カタリスツ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】ハム、ヒョン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ホ ドン
(72)【発明者】
【氏名】ハン、ヒョン シク
(72)【発明者】
【氏名】カン、ドン グン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ミン シク
(72)【発明者】
【氏名】キム、ギ ジョン
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA13A
4G066AA15A
4G066AA15B
4G066AA26A
4G066AA26B
4G066AA61C
4G066AA66C
4G066CA22
4G066DA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アルミナ又はゼオライト担体にマンガン、銅、カリウムからなる複合酸化物が支持される脱硫用吸着剤、これを製造する方法、及びこれを用いて常温で有機硫黄を吸着する方法を提供すること。
【解決手段】脱硫用マンガン系吸着剤は、酸点の存在する担体にカリウム-マンガン-銅複合酸化物が支持される。前記担体は、水素フォームゼオライト、擬ベーマイト、又は水素フォームゼオライトと擬ベーマイトとの混合物である。前記カリウム-マンガン-銅複合酸化物の含有量は、吸着剤の総重量に対して、カリウムの含有量が1~3重量%、マンガンの含有量が60~85重量%、銅の含有量が5~15重量%である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸点の存在する担体にカリウム-マンガン-銅複合酸化物が支持される
ことを特徴とする脱硫用マンガン系吸着剤。
【請求項2】
前記担体は、水素フォームゼオライト、擬ベーマイト、又は水素フォームゼオライトと擬ベーマイトとの混合物である
請求項1に記載の脱硫用マンガン系吸着剤。
【請求項3】
前記カリウム-マンガン-銅複合酸化物の含有量は、吸着剤の総重量に対して、カリウムの含有量が1~3重量%、マンガンの含有量が60~85重量%、銅の含有量が5~15重量%である
請求項1に記載の脱硫用マンガン系吸着剤。
【請求項4】
脱硫用マンガン系吸着剤の製造方法であって、
a)酸化剤としてのカリウム前駆体溶液と担体との混合物を製造するステップ、
b)還元剤として銅及びマンガン前駆体溶液を製造するステップと、
c)銅及びマンガン前駆体溶液を担体混合物に投入し、熟成させて吸着剤を製造するステップと、を含む
ことを特徴とするマンガン系吸着剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載の脱硫用マンガン系吸着剤に燃料ガスを通過させて硫黄化合物を除去する
ことを特徴とする脱硫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硫用マンガン系吸着剤に係り、具体的には、マンガン、銅及びカリウムからなる複合酸化物がアルミナ又はゼオライト担体に支持される構造のマンガン系吸着剤であって、担体及びマンガン-銅-カリウム複合酸化物の相互作用に応じて電気的特性変化が確認されており、少量のマンガン及び銅を含んでも常温で三級ブチルメルカプタン(TBM、tertiary butyl mercaptan)などの硫黄化合物の除去効果に優れた吸着脱硫用マンガン系吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(Fuel cell)は、メタノール、エタノール、天然ガスなどの炭化水素系の物質内に含有されている水素と酸素の化学エネルギーを電気エネルギーに変換させる発電システムである。燃料電池の燃料処理装置では、触媒を用いて燃料ガスとしての炭化水素を改質して水素を発生させるが、炭化水素は、通常、被毒物質である硫黄化合物を含有するので、改質前に硫黄化合物を除去する必要がある。特に、燃料電池の供給燃料として使用される都市ガスには、付臭剤として作用する硫黄化合物であるTBM(tertiary butyl mercaptan)が含有されているので、燃料電池に使用するためには硫黄化合物の除去が必須である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
燃料ガスからTBMなどの硫黄化合物を除去するための様々な吸着剤が存在するが、依然として常温での高吸着特性を有する吸着剤が要求される。
【0004】
本発明の第1の目的は、少量のマンガン及び銅の活性金属で硫黄化合物を効率よく除去することができる脱硫用マンガン系吸着剤を提供することにある。
【0005】
本発明の第2の目的は、脱硫用マンガン系吸着剤の製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明の最後の目的は、脱硫用マンガン系吸着剤を用いて硫黄化合物を除去する脱硫方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題を達成するために、本発明は、マンガン-銅-カリウムの複合酸化物が酸点の存在する担体(carrier)に支持される(supporting)吸着脱硫用マンガン系吸着剤が提供される。
【0008】
好ましくは、担体は、ゼオライト又はアルミナを含み、より好ましくは、水素フォーム(proton form)ゼオライトY(H-Y-Zeolite)又は擬ベーマイト(pseudo-boehmite)アルミナを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゼオライトY又は擬ベーマイトアルミナは、前記複合酸化物との特有の化学的結合を介して相互作用するので、粘土(clay)又は結晶性アルミナでは確認されない吸着特性を示す。担体の含有量は、吸着剤の総重量に対して10~25重量%である。担体は、担持される複合酸化物の分散性を改善する機能の他にも、複合酸化物の電気的特性を変化させて硫黄化合物に対して吸着強度を高めるとともに、吸着性能を向上させる。理論に限定されないが、担体の影響により複合酸化物から電子が担体に移動するにつれて、電子不足のマンガン及び銅金属は、硫黄化合物に対する吸着強度が増強されるものと理解される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例及び比較例による吸着剤のTBM(tert-butyl mercaptan)常温吸着結果のグラフである。
図2】本発明の実施例及び比較例による吸着剤の紫外可視分光光度(UV-visible spectroscopy)分析結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「支持」という用語は、担体の表面上に又は担体細孔の内部に活性金属が蒸着される(deposition)か、含浸される(impregnated)か、或いは組み込まれる(incorporated)現象を意味し、コーティング(coated)という用語と相互交換的に使用できる。
【0012】
担体に支持される金属酸化物は、カリウム酸化物、マンガン酸化物及び銅酸化物であり、特に本明細書において、マンガン酸化物及び銅酸化物は、活性金属とも呼ばれる。金属酸化物は、担体に順次含浸でき、含浸される順序は吸着性能を決定しないが、カリウム前駆体、並びにマンガン及び銅前駆体の順に含浸されることが好ましい。金属酸化物は、酸化還元反応によって担体に支持される。酸化剤としてカリウム前駆体溶液が使用され、還元剤としてマンガン及び銅前駆体溶液が適用される。酸化還元法によって製造される吸着剤は、固相沈殿法(Solvent deficient precipitation)などの他の製法で形成される吸着剤よりも吸着性能に優れる。金属酸化物の含有量は、吸着剤の総重量に対して、カリウム酸化物の場合には1~3重量%、マンガン酸化物の場合には60~85重量%、銅酸化物の場合には5~15重量%である。
【0013】
本発明は、前記第2の技術的課題を達成するために、
a)カリウム前駆体溶液と担体との混合物を製造するステップと、
b)銅及びマンガン前駆体溶液を製造するステップと、
c)銅及びマンガン前駆体溶液を担体混合物に投入し、熟成させて吸着剤を製造するステップと、を含む、マンガン系吸着剤の製造方法を提供する。
【0014】
活性金属の分散性を改善し、電気的特性を変化させて硫黄化合物への吸着性を改善するための担体は、ゼオライト又はアルミナを含む。カリウム前駆体は、酸化剤として過マンガン酸カリウムを使用することができ、銅及びマンガン前駆体は、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩などの様々な形態で実現でき、還元剤として使用される。前記前駆体は、酸化還元反応に従って担体に複合酸化物を形成する。本発明によれば、最適な酸化還元反応のために、前記a)、b)及びc)ステップにおける、反応温度は40~120℃、攪拌速度は60~500rpmであることが好ましく、前記c)ステップにおける、投入速度は0.5~5mL/分、熟成時間は2~50時間にして、酸化還元反応が行われて最適な複合酸化物が形成される。
【0015】
前記c)ステップの後、選択的に吸着剤を濾過過程によって得るステップと、得られた物質を乾燥させて最終的に得るステップと、をさらに含んでもよい。
【0016】
本発明は、最後の技術的課題を達成するために、脱硫用マンガン系吸着剤に燃料ガスを通過させて硫黄化合物を除去する脱硫方法を提供する。
【0017】
マンガン系吸着剤を用いて脱硫する方法は、硫黄化合物を含んでいる燃料ガス(fuel gas)を本発明のマンガン系吸着剤に通過させることである。硫黄化合物は、チオフェン(thiphene)類、メルカプタン(mercaptan)類、ジスルフィド(disulfide)類が代表的であるが、これに限定されるものではない。また、マンガン系吸着剤を用いて脱硫するのに適した温度範囲は15~50℃である。周辺温度が上昇すると、吸着剤の吸着性能が減少するため、30℃以下で使用することが好ましい。
【0018】
以下、具体的な実施例及び比較例を用いて本発明の構成及び効果をより詳細に説明するが、これらの実施例は、本発明をより明確に理解させるためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0019】
<実施例1>
6.14gの硝酸銅三水和物と23.7gの酢酸マンガン四水和物を67mLの脱イオン水に溶解させて硝酸銅と酢酸マンガンとの混合水溶液を調製した(水溶液A)。別に、12.7gの過マンガン酸カリウムを67mLの脱イオン水に溶解させた後、予め120℃で水分を除去した3.4gの擬ベーマイトアルミナを混合して水溶液を調製した(水溶液B)。水溶液Bを60℃で撹拌しながら水溶液Aを水溶液Bに3mL/分の速度で添加し、さらに6時間撹拌を続けて沈殿物を生成、熟成させた。その後、当該沈殿物を濾過し、脱イオン水で洗浄した後、回収して120℃で一晩乾燥させた。乾燥後の沈殿物を粉砕して吸着剤1を得た。
【0020】
<実施例2>
6.14gの硝酸銅三水和物と23.7gの酢酸マンガン四水和物を67mLの脱イオン水に溶解させて硝酸銅と酢酸マンガンとの混合水溶液を調製した(水溶液A)。別に、12.7gの過マンガン酸カリウムを67mLの脱イオン水に溶解させた後、予め120℃で水分を除去した3.4gの水素フォームのYゼオライト(SiO/Al=5)を混合して水溶液を調製した(水溶液B)。水溶液Bを60℃で撹拌しながら水溶液Aを水溶液Bに3mL/分の速度で添加し、さらに6時間撹拌を続けて沈殿物を生成、熟成させた。その後、当該沈殿物を濾過し、脱イオン水で洗浄した後、回収して120℃で一晩乾燥させた。乾燥後の沈殿物を粉砕して吸着剤2を得た。
【0021】
担体の有無による吸着性能効果を確認するために、比較例1を行った。
【0022】
<比較例1>
6.14gの硝酸銅三水和物と23.7gの酢酸マンガン四水和物を67mLの脱イオン水に溶解させて硝酸銅と酢酸マンガンとの混合水溶液を調製した(水溶液A)。別に、12.7gの過マンガン酸カリウムを67mLの脱イオン水に溶解させて水溶液を調製した(水溶液B)。水溶液Bを60℃で撹拌しながら水溶液Aを水溶液Bに3mL/分の速度で添加し、さらに6時間撹拌を続けて沈殿物を生成、熟成させた。その後、当該沈殿物を濾過し、脱イオン水で洗浄した後、回収して120℃で一晩乾燥させた。乾燥後の沈殿物を粉砕して吸着剤3を得た。
【0023】
複合酸化物及び担体との化学的結合の有無による吸着性能効果を確認するために、比較例2及び比較例3を行った。
【0024】
<比較例2>
比較例1で製造した吸着剤3を、予め120℃で水分を除去した3.4gの擬ベーマイトアルミナと物理的に混合して吸着剤4を得た。
【0025】
<比較例3>
比較例1で製造した吸着剤3を、予め120℃で水分を除去した3.4gの水素フォームのYゼオライトと物理的に混合して吸着剤5を得た。
【0026】
最後に、製法による吸着性能効果を確認するために、酸化還元反応ではなく固相沈殿法で比較例4及び比較例5を行った。
【0027】
<比較例4>
6.14gの硝酸銅三水和物と43.7gの酢酸マンガン四水和物、予め120℃で水分を除去した3.4gの擬ベーマイトアルミナを粉砕し、混合して準備した。33.8gの炭酸水素ナトリウムを前記混合物に加えた後、粉砕、混合して均一な混合物を製造した後、18.5gの脱イオン水を加えて沈殿を行わせた。脱イオン水の添加後に泡がもはや発生しなくなるまで粉砕、混合して沈殿物を生成、熟成させ、当該沈殿物を脱イオン水で洗浄した後、回収して120℃で一晩乾燥させた。乾燥後の沈殿物を粉砕して吸着剤6を得た。
【0028】
<比較例5>
6.14gの硝酸銅三水和物と43.7gの酢酸マンガン四水和物、予め120℃で水分を除去した3.4gの水素フォームのYゼオライトを粉砕、混合して準備した。33.8gの炭酸水素ナトリウムを前記混合物に加え、粉砕、混合して均一な混合物を製造した後、18.5gの脱イオン水を添加して沈殿を行わせた。脱イオン水の添加後に泡がもはや発生しなくなるまで粉砕、混合して沈殿物を生成、熟成させ、当該沈殿物を脱イオン水で洗浄した後、回収して120℃で一晩乾燥させた。乾燥後の沈殿物を粉砕して吸着剤7を得た。
【0029】
一方、吸着性能評価のために、実施例及び比較例で得た吸着剤を、120℃で水分を除去した後に0.1g計量して直径15mmのクォーツ反応管に装入し、次いで窒素雰囲気に内部を切り替えた後、175ppm TBM(Nバランス)ガスを39sccmで流して吸着性能を評価した。吸着性能は、PFPD GCを活用して最初にTBMを流した瞬間から硫黄成分が検出される瞬間までの時間を測定して硫黄吸着量を計算した。
【0030】
図1は、本発明の実施例及び比較例による吸着剤のTBM常温吸着結果であり、吸着剤1及び2は、担体が含まれていない吸着剤3(比較例1)と比較して吸着量が改善されたことを確認することができる。図2を参照すると、比較例1の吸着剤は、約1.8eVのバンドギャップエネルギー(band gap energy)を有するが、酸性担体を適用する実施例1及び実施例2の場合、複合酸化物から電子が担体に移動して(shifting)バンドギャップエネルギーがさらに大きくなり、これにより吸着強度は増加すると判断される。また、担体が含まれるものの、複合酸化物との化学的結合が欠けている比較例2及び比較例3の吸着剤は、実施例1及び実施例2の場合に比べて、バンドギャップエネルギーが小さく、これにより吸着性能効果は低いことが確認される。
【0031】
本発明の脱硫用マンガン系吸着剤は、従来の脱硫用吸着剤に比べて活性金属の電気的状態を変更させる担体が含まれ、これにより、活性金属の電子欠乏状態が誘導されることにより、硫黄化合物に対する吸着性が改善される。したがって、本発明の脱硫用マンガン系吸着剤は、少量の活性金属が適用されても、常温で燃料ガスの硫黄化合物を効率よく除去することができるという効果がある。
図1
図2