(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025013240
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル系樹脂組成物、該組成物を用いた液晶ポリエステル系フィルム、該フィルムを用いた金属ラミネートフィルム、回路基板
(51)【国際特許分類】
C08L 67/03 20060101AFI20250117BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20250117BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20250117BHJP
C08G 63/06 20060101ALI20250117BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20250117BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C08L67/03
C08J5/18 CFD
C08L67/02
C08G63/06
B32B15/08 J
B32B15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024108952
(22)【出願日】2024-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2023114693
(32)【優先日】2023-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】天野 詠一
(72)【発明者】
【氏名】安部 隆志
(72)【発明者】
【氏名】後藤 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】竹林 賢三
(72)【発明者】
【氏名】多田 修悟
(72)【発明者】
【氏名】池永 歩美
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4F071AA22
4F071AA45
4F071AA48
4F071AA50
4F071AA51
4F071AA60
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4F100AB01B
4F100AB01C
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4F100AB17B
4F100AB17C
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4J002CF05X
4J002CF16W
4J002FD010
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4J029AA06
4J029AB07
4J029AC02
4J029AD06
4J029CC05A
4J029CC06A
4J029EB04A
4J029EB05A
4J029EB08
4J029EC05A
4J029EC06A
(57)【要約】
【課題】インフレーション押出成形法等の押出成形においてフィルムの弛みやシワの発生を抑制するとともに、安定的なフィルムの製膜が可能な機械的特性、電気的特性、耐熱性に優れる液晶ポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】熱可塑性液晶ポリエステル(A)と非晶性コポリエステル(B)とを含む液晶ポリエステル系樹脂組成物であって、非晶性コポリエステル(B)は、ガラス転移温度が90℃以上200℃以下であり、熱可塑性液晶ポリエステル(A)と非晶性コポリエステルとの配合割合が(A):(B)=50~99重量%:1~50重量%であることを特徴とする液晶ポリエステル系樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性液晶ポリエステル(A)と非晶性コポリエステル(B)とを含む液晶ポリエステル系樹脂組成物であって、前記非晶性コポリエステル(B)は、ガラス転移温度が80℃以上200℃以下であり、前記熱可塑性液晶ポリエステル(A)と前記非晶性コポリエステルとの配合割合が(A):(B)=50~99.5重量%:0.5~50重量%であることを特徴とする液晶ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性液晶ポリエステル(A)は、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位、及び6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位からなる群より選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記非晶性コポリエステル(B)は、テレフタル酸系モノマー由来の構成単位と、1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位とを含むことを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記非晶性コポリエステル(B)は、テレフタル酸系モノマー由来の構成単位と、1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位と、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール由来の構成単位とを含むことを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性液晶ポリエステル(A)は、融点が250℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂組成物がインフレーション押出成形用であることを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の樹脂組成物からなることを特徴とする液晶ポリエステル系フィルム。
【請求項8】
請求項7に記載の液晶ポリエステル系フィルムの片面又は両面に金属層がラミネートされていることを特徴とする金属ラミネートフィルム。
【請求項9】
少なくとも1つの導体層と、請求項7に記載の液晶ポリエステル系フィルムとを備える回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性液晶ポリエステルを主成分とする液晶ポリエステル系樹脂組成物に関する。また、該樹脂組成物を用いた液晶ポリエステル系フィルム、及び該フィルムを用いた金属ラミネートフィルム、回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子・電気分野では機器の小型化・軽量化に対する要求が強まっており、電気的特性や機械的特性等に優れた絶縁用フィルムが求められている。しかし、従来の絶縁用フィルムの原料であるポリイミドやポリエチレンテレフタレート等では、高周波領域での電気的特性が不十分であるとともに、吸湿性が高いことに起因して電気的特性が悪化することや大きな寸法変化を生じる問題があり、上記の要求を満たすフィルムの実現が困難である。
【0003】
熱可塑性液晶ポリエステルは、耐熱性、剛性等の機械物性、耐薬品性、寸法精度等に優れるとともに、高周波領域(GHz帯)での電気特性(低誘電率、低誘電正接)に優れ、回路での伝送損失が少ないなどの特徴から、フレキシブルプリント配線(FPC)基板等の材料として注目されている。
【0004】
熱可塑性液晶ポリエステルは、種々の押出成形法によりフィルムを製膜することが可能である。しかしながら、Tダイ押出成形法により製膜したフィルムは、剛直な分子構造を有する熱可塑性液晶ポリエステルが溶融状態で流動方向に分子が配向し易いという性質から、引き取り方向(MD方向)とこれに直交する方向(TD方向)で分子鎖の配向に異方性を示すため、分子鎖の配向が等方性の熱可塑性液晶ポリエステルフィルムを得ることが困難である。
【0005】
これに対して、インフレーション押出成形法は、環状ダイスから押し出された溶融状態の熱可塑性液晶ポリエステルをMDとTDの2方向に延伸することが可能であるため、ブロー比を適宜調整し、分子鎖の配向を制御することにより等方性の熱可塑性液晶ポリエステルフィルムが得られやすい。
【0006】
しかしながら、熱可塑性液晶ポリエステルは、溶融粘度がせん断応力や温度に大きく依存し、せん断応力や温度の僅かな上昇により溶融粘度が著しく低下する特徴を有するため、インフレーション押出成形法により熱可塑性液晶ポリエステルを溶融押出しする際、ダイス部分で発生するせん断応力や温度上昇によって溶融粘度が急激に低下してバブルの形状を保つことが困難となることがあり、フィルムを安定的に製膜することが難しいという問題がある。
【0007】
特許文献1は、光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマー(熱可塑性液晶ポリマー)と、非晶性ポリマーとからなるポリマーアロイに関する発明であり、熱可塑性液晶ポリマーにポリアリレート樹脂を配合することにより、インフレーション法における製膜安定性を改良できること、詳しくは環状ダイから押出されたバブルの横揺れが防止され、変位量が小さくなり、安定した製膜が維持されることが記載されている。
【0008】
特許文献2は、液晶ポリマーとポリアリレート樹脂とを含有する液晶ポリマー組成物に関する発明であり、液晶ポリマーにポリアリレート樹脂を配合することにより、溶融張力が向上し、押出成形における製膜性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-290512
【特許文献2】特開2020-193261
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、熱可塑性液晶ポリエステルは、引張弾性率が高く、破断伸度が小さいため、剛直性が高く、インフレーション押出成形法にて製膜した際、フィルムにシワや弛みが発生し、平滑なフィルムが得られにくいという問題がある。
【0011】
例えば、インフレーション押出成形法は、環状スリットから溶融状態の樹脂をバブル状に押し出し、溶融状態の樹脂からなるバブルの内側から空気又は不活性ガスを吹き込むことにより、MD方向及びTD方向にバブルを膨張延伸させ、膨張延伸したバブルをMD方向の下流側が互いに近接するように傾斜する一対の安定板に接触させながら徐々に扁平に折り畳みつつピンチロールへ誘導し、一対のピンチロールによりバブルを平面状に折り畳むものであるが、円筒状のバブルを安定板に接触させながら扁平に折り畳み、ピンチロールで平面状に折りたたむ工程において、安定板の中心に位置するバブルと安定板の両端部に位置するバブルでは、幾何学的にバブルが安定板と直接接触する位置からピンチロールまでの直線距離が異なるため、樹脂の剛直性が高いとピンチロール間で平面状にニップする際にフィルムが変形できず、フィルムに弛みやMD方向のシワ(縦シワ)が発生する。
【0012】
このため、熱可塑性液晶ポリエステルをインフレーション押出成形法にて製膜する際は、ピンチロール間でバブルを平面状に折り畳む際のバブルの樹脂温度をフィルムが変形し易いよう軟化点付近に制御し、フィルムに弛みや縦方向のシワの発生を抑えることが有効である。一方、ピンチロール位置までバブルの樹脂温度を軟化点付近に制御すると、軟化点付近におけるバブルの摺動性が不足し、バブルと安定板との摩擦により、バブルのTD方向に三日月状のシワ(横シワ)が発生し、平滑なフィルムを得ることが難しいという新たな問題が発生する。
【0013】
本発明はこのような問題に鑑みなされたものであり、インフレーション押出成形法等の押出成形においてフィルムの弛みやシワの発生を抑制するとともに、安定的なフィルムの製膜が可能な機械的特性、電気的特性、耐熱性に優れる液晶ポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、熱可塑性液晶ポリエステルが有する機械的特性、電気的特性、耐熱性等を維持しつつ、フィルムの弛みやシワの発生を抑制し、安定的なフィルムの製膜が可能となる樹脂組成物について鋭意検討した結果、熱可塑性液晶ポリエステル中に、ガラス転移温度が80~200℃の非晶性コポリエステルを配合することにより、インフレーション押出製膜法等の押出成形においてフィルムの弛みやシワの発生を抑制しつつ、安定的に製膜可能であることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
本発明によると、
(1)熱可塑性液晶ポリエステル(A)と非晶性コポリエステル(B)とを含む液晶ポリエステル系樹脂組成物であって、前記非晶性コポリエステル(B)は、ガラス転移温度が80℃以上200℃以下であり、前記熱可塑性液晶ポリエステル(A)と前記非晶性コポリエステルとの配合割合が(A):(B)=50~99.5重量%:0.5~50重量%であることを特徴とする液晶ポリエステル系樹脂組成物が提供され、
(2)前記熱可塑性液晶ポリエステル(A)は、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位、及び6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位からなる群より選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする(1)に記載の液晶ポリエステル系樹脂組成物が提供され、
(3)前記非晶性コポリエステル(B)は、テレフタル酸系モノマー由来の構成単位と、1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位とを含むことを特徴とする(1)に記載の液晶ポリエステル系樹脂組成物が提供され、
(4)前記非晶性コポリエステル(B)は、テレフタル酸系モノマー由来の構成単位と、1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位と、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール由来の構成単位とを含むことを特徴とする(1)に記載の液晶ポリエステル系樹脂組成物が提供され、
(5)前記熱可塑性液晶ポリエステル(A)は、融点が250℃以上であることを特徴とする(1)に記載の液晶ポリエステル系樹脂組成物が提供され、
(6)前記樹脂組成物がインフレーション押出成形用であることを特徴とする(1)に記載の液晶ポリエステル系樹脂組成物が提供され、
(7)(1)乃至(6)の何れかに記載の樹脂組成物からなることを特徴とする液晶ポリエステル系フィルムが提供され、
(8)(7)に記載の液晶ポリエステル系フィルムの片面又は両面に金属層がラミネートされていることを特徴とする金属ラミネートフィルムが提供され、
(9)少なくとも1つの導体層と、(7)に記載の液晶ポリエステル系フィルムとを備える回路基板が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の液晶ポリエステル系樹脂組成物は、ガラス転移温度が80~200℃の非晶性コポリエステルを含むことにより、樹脂組成物の溶融粘度の温度やせん断応力に対する依存性を小さくすることができるため、インフレーション押出成形法等の押出成形においてフィルムを製膜する際、ダイスから押し出されたバブルの横揺れを抑え、バブルに穴あきが発生すること抑制することができ、安定的にフィルムを製膜することが可能である。また、樹脂組成物の軟化点付近での摺動性を向上させることができるため、インフレーション押出成形法等の押出成形において、安定板との摩擦によるシワの発生を抑制し、弛みやシワのない平滑なフィルムを得ることが可能である。さらに、製膜加工性を改善しつつ、熱可塑性液晶ポリエステルが有する優れた機械的特性や電気的特性、耐熱性を維持することが可能である。よって、本発明の液晶ポリエステル系樹脂組成物からなる液晶ポリエステル系フィルム及び液晶ポリエステル系フィルムと金属層とを貼り合わせて得られる金属ラミネートフィルムは、優れた機械的特性、電気的特性、はんだリフロー性を備え、高速通信用途に適した回路基板用の積層板等の用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲において種々の形態とすることができる。
【0018】
[液晶ポリエステル系樹脂組成物]
本発明の液晶ポリエステル系樹脂組成物は、熱可塑性液晶ポリエステル(A)と非晶性コポリエステル(B)とを含む樹脂組成物からなるものであり、ガラス転移温度が80℃以上200℃以下の非晶性コポリエステル(B)をブレンドすることにより、インフレーション製膜等の押出成形において、平滑なフィルムを安定的に製膜することができる。この理由は定かではないが、樹脂組成物の溶融粘度の温度やせん断応力に対する依存性が小さくなるため、インフレーション押出成形法等の押出成形において、ダイスから押し出されたバブルの横揺れやバブルの穴あきを抑制することができ、安定的にフィルムを製膜することが可能となるものと推察される。また、ガラス転移温度が80℃以上200℃以下の非晶性コポリエステル(B)をブレンドすることにより、樹脂組成物の軟化点付近での摺動性が向上するため、インフレーション押出成形法等の押出成形において、安定板との摩擦を低減することができ、弛みやシワのない平滑なフィルムを得ることができるものと推察される。
【0019】
[熱可塑性液晶ポリエステル(A)]
本発明に用いられる熱可塑性液晶ポリエステル(A)は、溶融異方性を示す液晶ポリエステル(光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリエステル)である。溶融異方性の性質は直交偏光子を利用した慣用の偏光検査方法により確認することができる。具体的には、溶融異方性は、偏光顕微鏡(オリンパス(株)製等)を使用し、ホットステージ(リンカム社製等)にのせた試料を溶融し、窒素雰囲気下で150倍の倍率で観察することにより確認できる。溶融時に光学的異方性を示す液晶性の樹脂は、光学的に異方性であり、直交偏光子間に挿入したとき光を透過させる。試料が光学的に異方性であると、例えば溶融静止液状態であっても偏光が透過する。
【0020】
熱可塑性液晶ポリエステル(A)としては、溶融成形できる液晶ポリエステルであればその化学的組成については特に制限されず、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族もしくは脂肪族ジオール、芳香族もしくは脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン、及び、芳香族アミノカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1つに由来する繰り返し単位を有する熱可塑性液晶ポリエステルが挙げられる。
【0021】
芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、p-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、及び、4-(4-ヒドロキシフェニル)安息香酸が挙げられる。これらの化合物は、ハロゲン原子、低級アルキル基及びフェニル基等の置換基を有してもよい。なかでも、p-ヒドロキシ安息香酸、又は、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が好ましい。芳香族又は脂肪族ジオールとしては、芳香族ジオールが好ましい。芳香族ジオールとしては、ヒドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジメチル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジオール及びこれらのアシル化物が挙げられ、ヒドロキノン又は4,4’-ジヒドロキシビフェニルが好ましい。芳香族もしくは脂肪族ジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸が好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、及び、2,6-ナフタレンジカルボン酸が挙げられ、テレフタル酸が好ましい。芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン、及び、芳香族アミノカルボン酸としては、例えば、p-フェニレンジアミン、4-アミノフェノール、及び、4-アミノ安息香酸が挙げられる。
【0022】
熱可塑性液晶ポリエステル(A)は、下記式(1)~式(3)で表される繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも1つを有することが好ましい。
-O-Ar1-CO-(1)
-CO-Ar2-CO-(2)
-X-Ar3-Y-(3)
式(1)中、Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニレン基を表す。
式(2)中、Ar2は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表す。
式(3)中、Ar3は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基又は下記式(4)で表される基を表し、X及びYはそれぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。
-Ar4-Z-Ar5-(4)
式(4)中、Ar4及びAr5はそれぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表し、Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキレン基を表す。
上記フェニレン基、上記ナフチレン基及び上記ビフェニレン基は、ハロゲン原子、アルキル基及びアリール基からなる群より選択される置換基を有していてもよい。
【0023】
中でも、熱可塑性液晶ポリエステル(A)は、上記式(1)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し単位、上記式(3)で表され、X及びYがいずれも酸素原子である芳香族ジオールに由来する繰り返し単位、及び、上記式(2)で表される芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを有することが好ましい。
【0024】
また、熱可塑性液晶ポリエステル(A)としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を有することが好ましく、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位、及び6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを有することがより好ましく、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位、及び6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位を有することがさらに好ましい。
【0025】
他の好ましい態様として、熱可塑性液晶ポリエステル(A)としては、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位、芳香族ジオールに由来する構成単位、テレフタル酸に由来する構成単位、及び、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位からなる群より選ばれる少なくとも1つを有することがより好ましく、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位、芳香族ジオールに由来する構成単位、テレフタル酸に由来する構成単位、及び、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位をすべて有することがさらに好ましい。
【0026】
熱可塑性液晶ポリエステル(A)の合成方法は特に制限されず、上記化合物を、溶融重合、固相重合、溶液重合及びスラリー重合等の公知の方法で重合することにより、合成できる。熱可塑性液晶ポリエステル(A)としては、市販品を用いてもよい。熱可塑性液晶ポリエステルの市販品としては、例えば、ポリプラスチックス社製「ラペロス」、セラニーズ社製「ベクトラ」、上野製薬社製「UENO LCP」、住友化学社製「スミカスーパーLCP」、ENEOS社製「ザイダー」、及び、東レ社製「シベラス」が挙げられる。なお、熱可塑性液晶ポリエステル(A)は、任意成分である架橋剤又は相溶成分(反応性相溶化剤)等と、化学結合を形成していてもよい。
【0027】
熱可塑性液晶ポリエステル(A)は、融点が250℃以上であることが好ましい。融点が250℃を下回るとはんだリフロー性に劣る為、プリント回路基板などの用途に用いると、加工方法が制限されることとなる。熱可塑性液晶ポリエステル(A)の融点は、特に制限するものではないが、耐熱性や成形加工性等の観点から、例えば、好ましくは400℃以下であり、より好ましくは350℃以下であり、さらに好ましくは330℃以下であり、300℃以下であることが特に好ましい。融点の下限値は、より好ましくは260℃以上であり、さらに好ましくは270℃以上である。なお、熱可塑性液晶ポリエステル(A)の融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いてサンプルを10℃/分の速度で昇温して完全に溶融させた後、溶融物を10℃/分の速度で30℃まで冷却し、再び10℃/分の速度で昇温した時に現れる吸熱ピークの位置を融点とする。
【0028】
[非晶性コポリエステル(B)]
本発明に用いられる非晶性コポリエステル(B)は、多価カルボン酸と多価アルコールの重縮合体であり、示差走査熱量測定(DSC)を用いた熱分析測定において、明確な吸熱ピークを有さないものである。例えば、DSCを用いた熱分析測定において、階段状の吸熱変化のみを有するものであり、常温固体で、ガラス転移温度以上の温度において熱可塑化するものである。
【0029】
非晶性コポリエステル(B)は、テレフタル酸系モノマー由来の構成単位と、1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位とを含むことが好ましい。テレフタル酸系モノマーは、テレフタル酸またはテレフタル酸の誘導体である。テレフタル酸の誘導体としては、例えば、テレフタル酸のハロゲン化物、エステル、半エステル、塩、半塩、無水物、混合無水物、これらの混合物当該挙げられる。テレフタル酸の誘導体としては、例えば、テレフタル酸のジアルキルエステル、ジアリールエステル等が挙げられ、その具体例としては、ジメチルテレフタレート(DMT)、ジエチルテレフタレート等が挙げられる。
【0030】
非晶性コポリエステル(B)は、その他のモノマー由来の構成単位をさらに含んでいてもよい。1つの実施形態においては、テレフタル酸系モノマー以外のジカルボン酸(その他のジカルボン酸)由来の構成単位をさらに含む。その他のジカルボン酸としては、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、スチルベンジカルボン酸等が挙げられる。シクロヘキサンジカルボン酸としては、1,3-および/または1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。非晶性コポリエステル(B)が、その他のジカルボン酸由来の構成単位を含む場合、テレフタル酸系モノマー由来の構成単位の含有割合は、ジカルボン酸全量(テレフタル酸系モノマー由来の構成単位およびその他のジカルボン酸由来の構成単位の合計量)に対して、好ましくは40モル%以上であり、より好ましくは40モル%~90モル%であり、さらに好ましくは50モル%~85モル%である。
【0031】
非晶性コポリエステル(B)は、1,4-シクロヘキサンジメタノール以外のジオール(その他のジオール)由来の構成単位をさらに含んでいてもよい。その他のジオールとしては、例えば、脂肪族または脂環式グリコール(好ましくは、炭素数2~20)が挙げられる。その他のジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール等が挙げられる。1つの実施形態において、非晶性コポリエステル(B)は、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール由来の構成単位をさらに含む。非晶性コポリエステル(B)が、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール(TMCD)由来の構成単位を含む場合、1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)由来の構成単位の含有割合は、TMCD由来の構成単位およびCHDM由来の構成単位の合計に対して、好ましくは10モル%~90モル%であり、より好ましくは20モル%~85モル%であり、さらに好ましくは30モル%~80モル%である。また、TMCD由来の構成単位の含有割合は、TMCD由来の構成単位およびCHDM由来の構成単位の合計に対して、好ましくは10モル%~90モル%であり、より好ましくは15モル%~80モル%であり、さらに好ましくは20モル%~70モル%である。
【0032】
非晶性コポリエステル(B)のガラス転移温度(Tg)は、80℃以上200℃以下であり、好ましくは85℃以上180℃以下であり、より好ましくは90℃以上160℃以下であり、さらに好ましくは95℃以上150℃以下であり、特に好ましくは100℃以上140℃以下である。なお、ガラス転移温度は、従来公知の方法により測定することができ、例えば、JIS K-7121:2012に準じて示差走査熱量測定により得ることができる。また、ガラス転移温度についてメーカーの公表値がある場合、メーカーの公表値としてもよい。
【0033】
本発明の液晶ポリエステル系樹脂組成物は、上述した熱可塑性液晶ポリエステル(A)と、非晶性コポリエステル(B)とを、(A):(B)=50~99.5重量%:0.5~50重量%の割合で含む。好ましくは、(A):(B)=70~99重量%:1~30重量%であり、より好ましくは、(A):(B)=80~98.5重量%:1.5~20重量%であり、さらに好ましくは、(A):(B)=85~98重量%:2~15重量%であり、特に好ましくは、(A):(B)=90~97.5重量%:2.5~10重量%である。非晶コポリエステル(B)の配合量が上記範囲より少ないと、液晶ポリエステル系樹脂組成物の溶融粘度の温度やせん断応力に対する依存性を小さくする効果に乏しく、また樹脂組成物の軟化点付近での摺動性を向上させる効果に乏しい為、インフレーション押出成形法によるフィルムの製膜加工によって平滑なフィルムを得ることが困難となる。非晶コポリエステル(B)の配合量が上記範囲よりも多いと液晶ポリエステル系樹脂組成物よりなる液晶ポリエステル系フィルムの耐熱性や機械特性が低下する恐れがある。
【0034】
本発明の液晶ポリエステル系樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、上述した熱可塑性液晶ポリエステル(A)と非晶性コポリエステル(B)以外の他の樹脂成分を含んでいてもよい。他の樹脂成分としては、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、エポキシ基含有オレフィン系共重合体、スチレン系樹脂、コポリエステルエラストマー等の熱可塑性樹脂が挙げられる。また本発明の液晶ポリエステル系樹脂組成物は、相溶化剤、滑剤、酸化防止剤、充填剤等の添加剤を含んでいてもよい。なお、本発明の液晶ポリエステル系樹脂組成物が他の成分を含む場合、熱可塑性液晶ポリエステル(A)と非晶性コポリエステル(B)の合計量を主成分として含むことが好ましい。ここで、主成分とは、樹脂組成物を構成する成分のうち、構成比率が50重量%以上であることを意味するものであり、好ましくは60重量%以上であり、より好ましくは80重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%以上であり、特に好ましくは95重量%以上である。
【0035】
[液晶ポリエステル系フィルムの製造方法]
本発明では、上述した樹脂組成物からなるフィルム、及び該フィルムの製造方法も提案する。本発明の液晶ポリエステル系フィルムは、上述した熱可塑性液晶ポリエステル(A)と非晶性コポリエステル(B)とを、公知の方法によりブレンドして製膜することにより得られる。なお、本発明の樹脂組成物は、非晶性コポリエステル(B)の配合割合が少なくなる場合は、安定した混錬状態を提供するため、製膜に先立ち、溶融混錬・造粒しておくことが好ましい。
【0036】
溶融混錬するための設備としては、特に制限するものではないが、例えば、バッチ式混錬機、ニーダー、コニーダー、バンバリーミキサー、ロールミル、単軸又は二軸押出機等、公知の種々の押出機が挙げられる。これらの中でも、混錬能力や生産性に優れる点から、単軸押出機や二軸押出機が好ましく用いられる。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、非晶性コポリエステル(B)を配合することにより、温度やせん断応力などに対する樹脂組成物の溶融粘度の急激な低下或いは変化を抑制することができ、インフレーション押出成形によるフィルムの製膜加工性を改善することが可能となる。また、非晶性コポリエステル(B)をブレンドすることにより、樹脂組成物の軟化点付近での摺動性が向上し、インフレーション押出成形法等の押出成形において、安定板との摩擦によるシワの発生を抑制することができ、弛みやシワのない平滑なフィルムを得ることができる。
【0038】
インフレーション押出成形としては、例えば、上述した樹脂組成物を環状スリットのダイを備えた溶融押出機に供給して押出機の環状スリットから溶融状態の樹脂組成物をバブル状に上方又は下方へ押し出し、溶融状態の樹脂組成物からなるバブルの内側から空気又は不活性ガスを吹き込むことにより、流れ方向(MD方向)と直角な方向(TD方向)にバブルを膨張延伸させてフィルムを得る方法が挙げられる。溶融押出機のシリンダー温度は、通常260~400℃、好ましくは280~380℃である。環状スリットの間隔は、通常0.1~5mm、好ましくは0.2~2mmである。環状スリットの直径は、通常20~1000mmであり、好ましくは25~600mmである。
【0039】
インフレーション押出成形においては、ブロー比が1.5以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、4.0以上であることがさらに好ましく、4.5以上であることが特に好ましい。ブロー比の上限は特に制限するものではないが、例えば、ブロー比は10以下である。またドラフト比は1.5以上20以下が好ましく、1.5以上10以下がより好ましい。ここで、ブロー比は、TD方向の延伸倍率であり、ドラフト比はMD方向の延伸倍率である。ブロー比及びドラフト比が上記範囲であると、得られるフィルムの引張弾性率や引張強度の異方性(MD方向とTD方向の差)を改善することができる。しかしながら、液晶ポリエステル系樹脂組成物のインフレーション押出成形において、フィルムの異方性を改善するためにブロー比を高めることは溶融状態の樹脂組成物からなるバブルの形状保持を不安定にする方向へ働くため、バブルの振れや穴あきなどが発生し易くなる。これに対して、本発明の樹脂組成物は、非晶性コポリエステル(B)を配合することにより、温度やせん断応力などによる樹脂組成物の溶融粘度の急激な低下或いは変化を抑制することができるため、ブロー比が4.0以上であってもバブルに穴あきが発生することを抑制し、フィルムの異方性を改善しつつ、安定的にフィルムを製膜することができる。
【0040】
本発明の液晶ポリエステル系フィルムの厚みは、特に制限するものではないが、例えば、0.5μm以上1000μm以下であり、溶融押出時の取り扱い性や生産性等を考慮すると、5μm以上500μm以下であることが好ましく、10μm以上300μm以下であることがより好ましく、20μm以上200μm以下であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明の液晶ポリエステル系フィルムは、流れ方向(MD方向)と幅方向(TD方向)の引張強度が180MPa以上であることが好ましい。引張強度は、200MPa以上であることがより好ましく、220MPa以上であることがさらに好ましい。引張強度の上限は特に制限するものではないが、例えば、500MPa以下であることが好ましく、400MPa以下であることがより好ましく、350MPa以下であることがさらに好ましい。引張強度が上記範囲であれば、高速通信用途に適した回路基板用の積層板等に加工する際のハンドリング性に優れ、フィルムの端部に生じる欠損や割れなどを抑制することができる。
【0042】
本発明の液晶ポリエステル系フィルムは、流れ方向(MD方向)と幅方向(TD方向)の異方性が低いものであることが好ましい。詳しくはフィルム流れ方向の引張強度F(MD)に対するフィルム幅方向の引張強度F(TD)(即ち、F(TD)/F(MD))が0.5以上1.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.75以上1.25以下、さらに好ましくは0.85以上1.15以下であることが好ましく、特に0.90以上1.10以下であることが好ましい。フィルム流れ方向の引張強度F(MD)に対するフィルム幅方向の引張強度F(TD)が上記範囲であれば、フィルムの機械的特性や電気的特性の異方性が小さく、高速通信用途に適した回路基板用の積層板等の用途に好適に使用することができる。
【0043】
本発明の液晶ポリエステル系フィルムは、誘電正接が0.0025以下であることが好ましく、誘電正接は0.0024以下がより好ましく、0.0022以下がさらに好ましく、0.0020以下が特に好ましい。また、本発明の液晶ポリエステル系フィルムは、比誘電率が2.0~4.0であることが好ましい。比誘電率は、2.5~3.9がさらに好ましく、2.6~3.8がより好ましく、2.8~3.8がさらに好ましい。標準誘電正接及び比誘電率を含む誘電特性は、空洞共振器摂動法により測定することができる。
【0044】
本発明の液晶ポリエステル系フィルムは、さらに熱処理を施すことにより分子鎖の配向性を緩和させ、フィルム寸法安定性を向上させたものとすることができる。熱処理は、従来公知の方法を用いることができ、例えば、接触式の熱処理、非接触式の熱処理等が挙げられ、その種類は特に制限されない。
【0045】
[金属ラミネートフィルム]
本発明の液晶ポリエステル系フィルムは、これに金属層を積層して、金属ラミネートフィルムとして用いてもよい。金属層を積層するにあたって、液晶ポリエステル系フィルムの金属層を積層する面には、接着力を高めるため、コロナ放電処理、紫外線照射処理又はプラズマ処理を実施してもよい。
【0046】
本発明の液晶ポリエステル系フィルムに金属層を積層する方法としては、例えば、(1)液晶ポリエステル系フィルムを加熱圧着により金属箔に貼付する方法、(2)液晶ポリエステル系フィルムと金属箔とを接着剤により貼付する方法、(3)液晶ポリエステル系フィルムに金属層を蒸着により形成する方法が挙げられる。中でも、(1)の積層方法は、プレス機又は加熱ロールを用いて液晶ポリエステルフィルムの流動開始温度付近で金属箔と圧着する方法であり、容易に実施できることから推奨される。(2)の積層方法において使用される接着剤としては、例えば、ホットメルト接着剤、ポリウレタン接着剤が挙げられる。中でもエポキシ基含有エチレン共重合体が接着剤として好ましく使用される。(3)の積層方法としては、例えば、イオンビームスパッタリング法、高周波スパッタリング法、直流マグネトロンスパッタリング法、グロー放電法が挙げられる。中でも高周波スパッタリング法が好ましく使用される。
【0047】
金属層に使用される金属としては、例えば、金、銀、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金などが挙げられる。タブテープ、回路基板用途では銅が好ましく、コンデンサー用途ではアルミニウムが好ましい。このようにして得られる金属ラミネートフィルムの構造としては、例えば、液晶ポリエステル系フィルムと金属層との二層構造、液晶ポリエステル系フィルム両面に金属層を積層させた三層構造、液晶ポリエステル系フィルムと金属層を交互に積層させた五層構造が挙げられる。なお、積層体には、高強度発現の目的で、必要に応じて、熱処理を行ってもよい。金属層の厚さは、特に制限するものではないが、例えば、1.5~1000μmが好ましく、2~500μmがより好ましく、5~150μmがさらに好ましく、7~100μmが特に好ましい。当該範囲よりも薄いと機械的強度に劣り、上記範囲より厚いとハンドリング性や加工性に劣る。
【0048】
本発明の回路基板は、少なくとも1つの導体層と、少なくとも1つの絶縁体(または誘電体)層とを含んでおり、本発明の液晶ポリエステル系フィルムを絶縁体(または誘電体)として用いる限り、その形態は特に限定されず、公知または慣用の手段により、各種高周波回路基板として用いることが可能である。また、回路基板は、半導体素子(例えば、ICチップ)を搭載している回路基板(または半導体素子実装基板)であってもよい。
【0049】
本発明の回路基板に用いられる導体層は、例えば、少なくとも導電性を有する金属から形成され、この導体層に公知の回路加工方法を用いて回路パターンが形成される。導体層を形成する導体としては、導電性を有する各種金属、例えば、金、銀、銅、鉄、ニッケル、アルミニウムまたはこれらの合金金属などであってもよい。また、上述した金属ラミネートフィルムの金属層部分に回路パターンを形成してもよい。
【実施例0050】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
実施例、比較例において用いた樹脂としては下記のものを用いた。
(熱可塑性液晶ポリエステル)
・LCP(1):p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位と、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位と、からなる熱可塑性液晶ポリエステル(ポリプラスチックス株式会社製 LAPEROS A950RX、融点:280℃、軟化点:266℃)
・LCP(2):p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位と、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位と、テレフタル酸に由来する構成単位と、からなる熱可塑性液晶ポリエステル(ポリプラスチックス株式会社製 LAPEROS C950RX、融点:320℃、軟化点:303℃)
(非晶性ポリマー)
・非晶性ポリマー(1):テレフタル酸由来の構成単位と、1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位と、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール由来の構成単位とを含む非晶性コポリエステル(イーストマンケミカル社製 TraitanTX2001、Tg:116℃)
・非晶性ポリマー(2):テレフタル酸由来の構成単位と、1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位と、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール由来の構成単位とを含む非晶性コポリエステル(イーストマンケミカル社製 TraitanTX1001、Tg:108℃)
・非晶性ポリマー(3):テレフタル酸由来の構成単位と、1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位と、エチレングリコール由来の構成単位とを含む非晶性コポリエステル(イーストマンケミカル社製 PETG GN001、Tg:90℃)
・非晶性ポリマー(4):テレフタル酸由来の構成単位と、1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位と、エチレングリコール由来の構成単位とを含む非晶性コポリエステル(イーストマンケミカル社製 PCTG DN011、Tg:90℃)
・非晶性ポリマー(5):テレフタル酸由来の構成単位と、1,4-シクロヘキサンジメタノール由来の構成単位と、イソフタル酸由来の構成単位とを含む非晶性コポリエステル(イーストマンケミカル社製 PCTA AN004、Tg:90℃)
・非晶性ポリマー(6):ポリアリレート樹脂(ユニチカ株式会社製 Uポリマー U-100、Tg:193℃)
・非晶性ポリマー(7):ポリサルフォン樹脂(BASF社製 Ultrason S3010、Tg:187℃)
・非晶性ポリマー(8):ポリサルフォン樹脂(ソルベイ社製 ユーデルP-1700 NT11、Tg:185℃)
・ 非晶性ポリマー(9):ポリエーテルイミド樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂のポリマーアロイ(SABIC社製 ULTEM DU319、Tg:185℃)
・非晶性ポリマー(10):ポリカーボネート樹脂(SABIC社製 LEXAN XHT3143T、Tg:175℃)
・非晶性ポリマー(11):ポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン樹脂のポリマーアロイ(SABIC社製 NORYL EFN4230S、Tg:175℃)
・非晶性ポリマー(12):ポリメチルメタクリレート樹脂(三菱ケミカル社製 アクリペット VH001、Tg:100℃)
(添加剤)
・ポリエステルエラストマー:ポリブチレンテレフタレートとポリテトラメチレングリコールのブロック共重合体(PBT/PTMG)
なお、軟化点はJIS K 7196(1991)に準拠し、縦5mm、横5mm、厚さ0.05mmのサンプルを準備し、測定装置として熱機械分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、型番:TMA/SS 7100)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度5℃/分、30℃~350℃の温度範囲の条件で5枚重ねにしたサンプルに透明石英ピン(先端の直径φ0.5mm)を50gfの荷重をかけて針入れすることにより測定した。ガラス転移温度は、メーカーのカタログ値を利用した。
【0052】
(1) 射出成型における成型品の製造
熱可塑性液晶ポリエステル系樹脂組成物を表1に記載の割合で予備混合後、射出成型機(株式会社東洋精機製作所 ハンドトゥルーダ M-1)を用いて、シリンダー温度300℃で押出し、短冊状試験片(長さ82mm、幅10mm、厚さ4mm)を得た。得られた短冊状試験片について発泡の有無並びに外観を目視評価した。評価結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
射出成型品での基礎評価の結果、非晶性ポリマーとして、ポリカーボネート樹脂を配合した参考例7の樹脂組成物は、射出成型時に発砲が発生するとともに、得られた射出成型品が黄変し、外観が悪い結果を示した。また、非晶性ポリマーとして、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン樹脂のポリマーアロイを配合した参考例8の樹脂組成物、及び非晶性ポリマーとしてポリメチルメタクリレート樹脂を配合した参考例9の樹脂組成物は射出成型時に発砲が発生する結果を示した。参考例1乃至6の樹脂組成物は射出成型における評価において、加工性及び外観に問題は見られなかった。
【0055】
(2)インフレーション押出成形によるフィルムの製造
熱可塑性液晶ポリエステル系樹脂組成物を表2に記載の割合で予備混合後、単軸押出機で加熱混錬し、環状インフレーションダイ(直径25mm)から吐出量3kg/hでバブル状に溶融押出し、バブルをドラフト比=2、ブロー比=5の条件で延伸し、インフレーション押出成形法により厚み50μmの液晶ポリエステル系フィルムを得た。製膜におけるバブルの樹脂温度は安定板との接触位置からピンチロールに至るまで軟化点-40℃以上となるよう制御した。以下の評価方法により得られたフィルムの製膜性、物性を表2に示す。
【0056】
(製膜性:バブルの安定性)
インフレーション押出成形法によりフィルムを製膜した際に、溶融状態のバブルが膨張を完了した位置におけるバブル端部のTD方向への横揺れを目視にて下記基準で評価した。
○:バブルの揺れがほとんどない
○△:バブルがTD方向に小さく揺れることを繰り返し、安定しない
△:バブルがTD方向に大きく揺れることを繰り返し、安定しない
(製膜性:バブルの穴あき)
インフレーション押出成形法によりフィルムを製膜した際に、ダイスから押し出された溶融状態の樹脂からなるバブルの外観を目視にて下記基準で評価した。
○:バブルに穴あき無し
○△:バブルに小さな穴あきが稀に発生
△:バブルに小さな穴あきが複数発生(バブル内部のエア抜けにより、バブル形状に影響)
×:バブルに穴あきが多発し、連続的なフィルム製膜不可
(製膜性:フィルムのシワ)
得られたフィルムの弛み、TD方向のシワ(横シワ)を目視にて下記基準で評価した。
○:フィルムに弛みやシワが見られない
○△:フィルムにうっすらとしたシワが見られる
△:フィルムにうっすらとしたシワが複数見られ、弛みが見られる
△×:フィルムにうっすらとしたシワとくっきりとしたシワとが複数見られ、弛みが見られる
×:フィルムにくっきりとしたシワが複数見られ、弛みが見られる
【0057】
(物性:引張強度)
ASTM D882に準拠し、190mm×15mmの大きさに切断したサンプルを、オートグラフAGS-500NX(株式会社島津製作所製)を用いて引張速度12.5mm/分、チャック間距離を125mmとして測定した。測定温度は23℃である。なお、フィルムの流れ方向(MD方向)と幅方向(TD方向)の双方を測定した。
(物性:比誘電率、誘電正接)
空洞共振器(エーイーティー社製10GHz共振器)及びネットワークアナライザ(アンリツ社製 MS46122B)を用いて、温度23℃及び湿度65%RHの環境下において、周波数10GHz帯における比誘電率、誘電正接を測定した。なお、フィルムの流れ方向(MD方向)と幅方向(TD方向)の双方を測定した。
【0058】
【0059】
表2に示すように、ガラス転移温度が80~200℃の非晶性コポリエステルを含む実施例1乃至12の液晶ポリエステル系フィルムは、ダイスから押し出されたバブルの穴あき、横揺れを抑え、安安定的なフィルムの製膜が可能であるとともに、弛みやシワのない平滑なフィルムが得られる結果を示した。また、実施例1乃至12の液晶ポリエステル系フィルムは、製膜加工性を改善しつつ、熱可塑性液晶ポリエステルが有する優れた機械的特性や電気的特性を維持する結果を示した。
【0060】
一方、非晶性ポリマーとしてポリアリレートを含む比較例1の液晶ポリエステル系フィルムは、バブルの安定性及びバブルの穴あきには一定の効果を示すものの、フィルムに弛みや横シワが発生する結果を示し、平滑なフィルムが得られなかった。この結果が示すところによると、ガラス転移温度が80~200℃の非晶性コポリエステルを配合することが軟化点付近におけるバブルの摺動性の向上に重要である。
【0061】
非晶性ポリマーとしてポリサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂のポリマーアロイを含む比較例2乃至4の樹脂組成物は、バブルの安定性及びバブルの穴あきには一定の効果を示すものの、フィルムには弛みと横シワが多発する結果を示し、物性評価が困難なフィルムしか得られなかった。また、熱可塑性液晶ポリエステルのみで製膜した参考例10は、バブルに穴あきが多発し、連続的にフィルム製膜することができず、フィルムを得ることができなかった。
以上の如く、本発明により得られる液晶ポリエステル系フィルムは、その優れた機械特性、電気特性、寸法安定性や耐熱性等を活かし、モーター・トランスの電気絶縁用途、フレキシブル太陽電池の素子形成膜用途等にも利用されている。また表面保護フィルムや、振動板等の音響分野においても利用できる。
本発明の金属ラミネートフィルムは、回路基板やコンデンサー、電磁波シールド材等に用いることもできる。本発明の回路基板は、各種伝送線路やアンテナ(例えば、マイクロ波またはミリ波用アンテナ)に用いられてもよく、また、アンテナと伝送線路が一体化したアンテナ装置に用いられてもよい。