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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025132573
(43)【公開日】2025-09-10
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/265 20060101AFI20250903BHJP
【FI】
H01L21/265 Z
H01L21/265 602A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024030235
(22)【出願日】2024-02-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 周平
(72)【発明者】
【氏名】長里 喜隆
(57)【要約】
【課題】加熱後イオン注入層の拡散を抑制できる半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化物半導体で構成され、一面10aを有する半導体基板10を用意することと、半導体基板10の一面10aから第1導電型または第2導電型の不純物をイオン注入することと、半導体基板10の加熱後イオン注入層31を形成する領域の酸素空孔補償を行うことと、不純物を活性化させて加熱後イオン注入層31を形成する加熱処理を行うことと、を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置の製造方法であって、
酸化物半導体で構成され、一面(10a)を有する半導体基板(10)を用意することと、
前記半導体基板の一面から第1導電型または第2導電型の不純物をイオン注入することと、
前記半導体基板における加熱後イオン注入層(31、34、35、36)を形成する領域の酸素空孔補償を行うことと、
前記不純物を活性化させて前記加熱後イオン注入層を形成する加熱処理を行うことと、を行う半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記酸素空孔補償を行うことでは、酸素が含まれる酸素含有イオンを注入する請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記不純物をイオン注入することでは、前記不純物が未活性の状態となる加熱前イオン注入層(32)が形成されるように前記不純物をイオン注入し、
前記加熱処理を行うことは、前記不純物をイオン注入することおよび前記酸素空孔補償を行うことの後に行う請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記酸素空孔補償を行うことの後、前記不純物が活性化する温度で前記不純物をイオン注入することにより、前記不純物をイオン注入することおよび前記加熱処理を行うことを同時に行う請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記不純物をイオン注入することおよび前記酸素空孔補償を行うことでは、注入濃度において、酸素濃度が不純物濃度に対して0.1倍以上の濃度となるように、前記酸素含有イオンを注入する請求項2ないし4のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記不純物をイオン注入することおよび前記酸素空孔補償を行うことでは、注入濃度において、前記半導体基板の深さ方向において、酸素濃度が不純物濃度よりも全領域で高くなるように、前記不純物をイオン注入すると共に前記酸素含有イオンをイオン注入する請求項5に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記不純物をイオン注入することおよび前記酸素空孔補償を行うことでは、注入濃度において、前記半導体基板の深さ方向において、前記不純物の終端深さより前記酸素含有イオンの終端深さの方が深くなるように、前記不純物をイオン注入すると共に前記酸素含有イオンをイオン注入する請求項2ないし4のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記不純物をイオン注入することおよび前記酸素空孔補償を行うことでは、注入濃度において、前記不純物をイオン注入する際にイオン注入する不純物の総量よりも、前記酸素含有イオンをイオン注入する際の酸素の総量の方が多くなるように、前記不純物をイオン注入すると共に前記酸素含有イオンを注入する請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記不純物をイオン注入することでは、Mg、Be、Ca、Zn、N、Ni、Cu、Si、Ge、Sn、C、Clの少なくともいずれか1つのイオンをイオン注入する請求項2ないし4のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記半導体基板を用意することでは、Ga系の材料で構成される前記半導体基板を用意する請求項1ないし4のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記半導体基板を用意することでは、Ga系の材料として、(AlInGa)で構成される前記半導体基板を用意する請求項10に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸化物半導体で構成される半導体基板を有する半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、酸化物半導体で構成される半導体基板を有する半導体装置が提案されている。例えば、特許文献1には、半導体装置として、酸化物半導体で構成される半導体基板を用いて構成したショットキーバリアダイオードが提案されている。具体的には、この半導体装置は、n型の基板上に、n型の半導体が積層されて半導体基板が構成されている。そして、半導体装置は、半導体層とショットキー接続される第1電極と、基板とオーミック接続される第2電極とを有している。また、この半導体装置では、半導体層のうちの第1電極と接続される部分の外縁部に、電界集中緩和構造としてのガードリング層が形成されている。
【0003】
このような半導体装置におけるガードリング層は、半導体層にp型不純物をイオン注入した後に加熱処理が行われ、p型不純物が活性化されることで構成される。つまり、ガードリング層は、加熱後イオン注入層で構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-39194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、酸化物半導体で構成される半導体基板にガードリング層等の加熱後イオン注入層を形成する場合、不純物が拡散することで所望の特性が得られないことが確認された。例えば、上記のようなショットキーバリアダイオードにガードリング層を形成する場合、ガードリング層が所望の範囲より広がって形成されてしまうと、所望の電界緩和機能を得られない可能性がある。
【0006】
本開示は、加熱後イオン注入層の拡散を抑制できる半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つの観点によれば、半導体装置の製造方法は、酸化物半導体で構成され、一面(10a)を有する半導体基板(10)を用意することと、半導体基板の一面から第1導電型または第2導電型の不純物をイオン注入することと、半導体基板の加熱後イオン注入層(31、34、35、36)を形成する領域の酸素空孔補償を行うことと、不純物を活性化させて加熱後イオン注入層を形成する加熱処理を行うことと、を行う。
【0008】
これによれば、加熱後イオン注入層を形成する領域の酸素空孔補償を行っている。このため、加熱後イオン注入層を構成する不純物が酸素空孔を介して拡散することが抑制され、半導体装置の特性が変動することを抑制できる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態における半導体装置の断面図である。
図2A図1に示す半導体装置の製造工程を示す断面図である。
図2B図2Aに続く半導体装置の製造工程を示す断面図である。
図2C図2Bに続く半導体装置の製造工程を示す断面図である。
図2D図2Cに続く半導体装置の製造工程を示す断面図である。
図3図5中のA-A線に沿った濃度であって、加熱処理前のMg濃度およびO濃度を示す図である。
図4図5中のA-A線に沿った濃度であって、加熱処理後のMg濃度およびO濃度を示す図である。
図5図3および図4の実験に用いた半導体基板を示す断面図である。
図6図5中のA-A線に沿った濃度であって、加熱処理前のMg濃度およびO濃度を示す図である。
図7図5中のA-A線に沿った濃度であって、加熱処理後のMg濃度およびO濃度を示す図である。
図8】Mg濃度に対するO濃度の比と、Mg終端深さとの関係を示す図である。
図9】深さと、Mg濃度およびO濃度との関係を説明するための図である。
図10】深さと、Mg濃度およびO濃度との関係を説明するための図である。
図11】深さと、Mg濃度およびO濃度との関係を説明するための図である。
図12】深さと、Mg濃度およびO濃度との関係を説明するための図である。
図13】加熱前イオン注入層と酸素イオン注入層との関係を示す図である。
図14】第1実施形態の変形例における半導体装置の断面図である。
図15】第2実施形態における半導体装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。第1実施形態では、加熱後イオン注入層を含んで構成されるショットキーバリアダイオードが形成された半導体装置を例に挙げて説明する。まず、本実施形態の半導体装置の構成について説明する。
【0013】
半導体装置は、図1に示されるように、酸化物半導体で構成される半導体基板10を備えている。本実施形態の半導体基板10は、Sn(すなわち、スズ)がドープされたGa(すなわち、酸化ガリウム)で構成されるn型の基板11と、基板11上に配置され、Gaで構成されるn型の半導体層12を含んで構成されている。なお、本実施形態の半導体層12は、基板11上に成長させられたエピタキシャル層で構成されている。以下、半導体基板10において、半導体層12のうちの基板11と反対側の面を半導体基板10の一面10aとし、基板11のうちの半導体層12と反対側の面を半導体基板10の他面10bとして説明する。
【0014】
半導体基板10の一面10a側には、半導体層12とショットキー接続される第1電極21が配置されている。半導体基板10の他面10b側には、基板11とオーミック接続される第2電極22が配置されている。
【0015】
半導体層12には、第1電極21と接続される部分の外縁部に、p型不純物が活性化されて構成されるガードリング層31が形成されている。このガードリング層31は、第1電極21と半導体層12とが接続される部分の外縁部に電界が集中することを抑制する電界集中緩和構造を構成するものである。また、このガードリング層31は、後述するように、p型不純物がイオン注入された後、加熱処理によってp型不純物が活性化されることで構成される。本実施形態では、ガードリング層31が加熱後イオン注入層に相当する。
【0016】
以上が本実施形態の半導体装置の構成である。なお、本実施形態では、n型を第1導電型ということもでき、p型を第2導電型ということもできる。次に、上記半導体装置の製造方法について、図2A図2Dを参照しつつ説明する。
【0017】
まず、図2Aに示されるように、基板11上に半導体層12が積層された半導体基板10を用意する。
【0018】
次に、図2Bに示されるように、半導体層12上に、ガードリング層31の形成予定領域が開口した図示しないマスクを配置し、p型不純物をイオン注入して加熱前イオン注入層32を形成する。なお、p型不純物は、例えば、Mg(マグネシウム)、Be(ベリリウム)、Ca(カルシウム)、Zn(亜鉛)、N(窒素)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)等である。また、イオン注入は、例えば、500℃の条件で行われる。そして、不純物を500℃以下でイオン注入した場合、不純物は、活性化していない未活性の状態となっている。このため、この工程では、不純物が活性していない状態である加熱前イオン注入層32が形成される。
【0019】
ここで、図1に示すガードリング層31は、p型不純物をイオン注入した後、加熱処理を行ってp型不純物を活性化させることで構成される。しかしながら、p型不純物を活性化させる際には、p型不純物が拡散する可能性がある。そして、p型不純物が拡散し過ぎた状態でガードリング層31が形成されると、ガードリング層31の特性が変化することで半導体装置の特性が変化する可能性がある。このため、本発明者らは、ガードリング層31を形成する際のp型不純物の拡散について鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、p型不純物の拡散は、具体的には後述するが、酸化物半導体(すなわち、Ga)に含まれる酸素空孔を介して発生していると推定した。
【0020】
このため、本実施形態では、p型不純物をイオン注入した後、図2Cに示されるように、加熱前イオン注入層32を含む領域の酸素空孔を補償する酸素空孔補償工程を行う。つまり、ガードリング層31を形成する領域の酸素空孔を補償する酸素空孔補償工程を行う。本実施形態では、加熱前イオン注入層32を含む領域に、酸素含有イオンとしての酸素イオンを注入することで酸素空孔補償工程を行う。つまり、本実施形態では、酸素イオンを注入して加熱前イオン注入層32の酸素空孔を減少させる酸素空孔補償工程を行う。なお、酸素含有イオンとしては、例えば、O、CO18O、MgO等が挙げられる。また、加熱前イオン注入層32を形成することと、酸素イオンを注入することとは、いずれを先に行ってもよい。
【0021】
続いて、図2Dに示されるように、1000℃以上の温度で加熱処理を行い、p型不純物を十分に活性化させてガードリング層31を構成する。その後は特に図示しないが、第1電極21および第2電極22を形成することで上記半導体装置が製造される。なお、ガードリング層31を形成するための加熱処理は、後の別工程で行われる加熱処理と共用するようにしてもよい。
【0022】
次に、酸素イオンとp型不純物の拡散との関係について説明する。本発明者らは、酸素イオンとp型不純物の拡散との関係について鋭意検討を行い、図3および図4に示される結果を得た。なお、図3および図4は、図5に示されるように、加熱前イオン注入層32を形成した後、加熱処理を行ってガードリング層31を形成した際のA-A線に沿った濃度と深さとの関係を示している。但し、図5では、ガードリング層31を簡易的に1つのみ示している。そして、ここでの加熱前イオン注入層32は、p型不純物としてのMgをイオン注入することで構成しており、酸素イオンは、加熱前イオン注入層32を含む領域にイオン注入されている。また、各イオン注入は、500℃で行っており、加熱処理は、1000℃以上で行っている。
【0023】
さらに、図3および図4では、半導体基板10の一面10aから他面10b側に向かう方向を深さとし、半導体層12の厚さを8.5μmとしている。このため、図3および図4中の深さが0μmは、半導体基板10の一面10aを意味している。また、図4中の加熱処理前Mg濃度は、図3中のMg濃度と同じである。図4中のSn濃度は、基板11にドープされているSnの濃度を示している。
【0024】
そして、図3は、加熱前イオン注入層32のMg濃度が1×1018cm-3となるように、Mgをイオン注入した結果であり、ここでは、加熱前イオン注入層32の深さが約0.5μmとなるようにしている。また、図3は、加熱前イオン注入層32とほぼ同じ深さまで濃度を変化させて酸素イオンをイオン注入したO濃度(すなわち、酸素濃度)の結果も示している。具体的には、図3では、O濃度が、1.25×1018cm-3、5×1018cm-3、1×1019cm-3となるように、酸素イオンを注入している。そして、図3および図4では、O濃度は、Mg濃度に対するO濃度の比として、O濃度が1.25×1018cm-3である場合を1:1.25とし、O濃度が5×1018cm-3である場合を1:5とし、O濃度が1×1019cm-3である場合を1:10として示している。また、図4では、比較例として、酸素イオンを注入していない場合をMg濃度とO濃度の比として1:0で示している。なお、ここでの酸素イオンをイオン注入する場合では、COガスを質量分離し、取り出した酸素イオンをイオン注入している。
【0025】
図4に示されるように、ガードリング層31を形成すると、酸素イオンを注入していない場合(すなわち、Mg:O=1:0)、Mgは、加熱処理前のMgに対して深さ方向に広く拡散していることが確認される。なお、この例では、Mgが8.5μmまで拡散しており、基板11との界面まで拡散していることが確認される。
【0026】
そして、酸素イオンを注入することにより、Mgの終端深さが浅くなることが確認される。つまり、酸素空孔を補償することにより、Mgが拡散し難くなることが確認される。なお、この例では、酸素イオンの注入量が多くなるほどMgの終端深さが浅くなることが確認される。つまり、Mg濃度に対するO濃度の比が大きくなるほど、Mgの終端深さが浅くなることが確認される。
【0027】
また、本発明者らは、Mg濃度を変更して同様の実験を行い、図6および図7に示される結果を得た。なお、図6は、Mg濃度が1×1019cm-3となるようにMgをイオン注入した結果であり、ここでは加熱前イオン注入層32の深さが約0.5μmとなるようにしている。そして、図6は、加熱前イオン注入層32とほぼ同じ深さまで濃度を変化させて酸素イオンをイオン注入した結果を示している。具体的には、図6では、18O濃度が、1×1018cm-3、1.25×1019cm-3、1×1020cm-3となるように、酸素イオンをイオン注入している。そして、図6および図7では、18O濃度は、Mg濃度に対する18O濃度の比として、18O濃度が1×1018cm-3である場合を1:0.1とし、18O濃度が1.25×1019cm-3である場合を1:1.25とし、18O濃度が1×1020cm-3である場合を1:10として示している。なお、ここでの酸素イオンをイオン注入する場合では、酸素含有イオンとしての18O(すなわち、酸素同位体)をイオン注入している。
【0028】
また、図7中の加熱処理前Mg濃度は、図6中のMg濃度と同じである。図7中の加熱処理前18O濃度は、図6中の加熱処理前18O濃度が1×1020cm-3(すなわち、Mg:18O=1:10)である場合と同じである。そして、図7中の加熱処理後18O濃度は、半導体基板10に含まれる全体の18O濃度である。
【0029】
図7に示されるように、ガードリング層31を形成すると、Mg濃度と18O濃度との比が1:0.1である場合においても、図4中の酸素イオンをイオン注入しない場合(すなわち、Mg:18O=1:0)と比較して、Mgの拡散が抑制されることが確認される。つまり、酸素イオンを注入することでMgの拡散を抑制することができ、少なくとも18O濃度がMg濃度の0.1倍以上であれば、十分にMgの拡散を抑制することができることが確認される。
【0030】
そして、この例では、Mg濃度と18O濃度との比が1:10である場合、MgおよびOがほとんど拡散しないことも確認される。なお、加熱処理後18O濃度は、半導体基板10に含まれる全体の18O濃度であり、深さが約0.5μm以下の範囲では、深さが0.5μmより深い場所と比較すると、イオン注入された酸素同位体が含まれるために酸素同位体の分だけ高くなっている。
【0031】
また、図7の結果では、Mg濃度と18O濃度との比が1:0.1の方が、Mg濃度と18O濃度との比が1:1.25よりMgが拡散しないことが確認される。これについては明確な理由は明らかでないが、本発明者らは、Mgの注入量と、酸素同位体(すなわち、酸素イオン)の注入量との関係について、Mgをイオン注入する際に形成され得る酸素空孔と、酸素同位体で酸素空孔が補償される量との関係の影響であると推定している。
【0032】
そして、図4および図7の関係を纏めると、図8に示されるようになる。図8に示されるように、Mg濃度に対するO濃度の比であるO/Mgが1.25より大きい範囲では、O/Mgを大きくするほどMgが拡散し難くなることが確認される。なお、図8中の加熱処理前Mg深さは、加熱処理を行う前のMgの終端深さであり、図3および図6では約0.5μmとなっている。
【0033】
また、以上の結果を纏めると、酸素空孔補償工程を行う場合、Mg濃度とO濃度との関係は、加熱処理前の状態において以下となるようにすることが好ましい。
【0034】
まず、図9に示されるように、p型不純物としてMgをイオン注入する場合、O濃度は、Mg濃度の0.1倍以上となるようにイオン注入されることが好ましい。これにより、Mgが拡散することを十分に抑制できる。なお、上記ではp型不純物としてのMgイオンを注入する例を説明したが、後述する他の不純物をイオン注入しても、O濃度が注入される不純物の濃度の0.1倍以上であれば同様の効果が得られる。
【0035】
そして、上記のように、Mgは、加熱処理されて活性化される際、酸素空孔を介して拡散されると推定される。このため、図10図12に示されるように、酸素イオンは、ガードリング層31を形成するための不純物よりも深くまでイオン注入されることが好ましい。つまり、加熱処理前の状態において、O濃度の終端深さは、Mg濃度の終端深さより深くされることが好ましい。これにより、Mgが深さ方向に拡散することを抑制し易くできる。この場合、図13に示されるように、酸素イオンが注入される領域を酸素イオン注入層33とすると、酸素イオン注入層33は、全体的に加熱前イオン注入層32を囲むように形成されることが好ましい。言い換えると、酸素イオン注入層33内のみに加熱前イオン注入層32がある状態とすることが好ましい。これにより、Mgが半導体基板10の面方向に拡散することも抑制できる。
【0036】
そして、図10に示されるように、O濃度は、深さ方向において、Mg濃度よりも全領域で高くされることが好ましい。但し、図11に示されるように、O濃度は、一部がMg濃度より低くても、酸素空孔を補償することでMgの拡散を抑制することができる。また、図12に示されるように、酸素イオンは、イオン注入される総量が、イオン注入されるMgの総量よりも多くされることが好ましい。これにより、酸素空孔を補償し易くなり、Mgの拡散を抑制することができる。
【0037】
なお、図10図12においては、ガードリング層31を形成するためのp型不純物としてMgを例に挙げて説明しているが、他のp型不純物をイオン注入する場合においても同様である。また、ここでは、p型不純物をイオン注入してガードリング層31を形成する例を説明したが、n型不純物をイオン注入して加熱後イオン注入層を形成する場合においても同様である。例えば、酸化物半導体で構成される半導体基板10に不純物をイオン注入して加熱後イオン注入層を形成する場合、採用される不純物としては、Mg、Be、Ca、Zn、N、Ni、Cu、Si、Ge、Sn、C、Clの少なくともいずれか1つが挙げられる。
【0038】
以上説明した本実施形態によれば、加熱処理を行ってガードリング層31(すなわち、加熱後イオン注入層)を形成する前に酸素空孔補償工程を行っている。このため、ガードリング層31を構成する不純物が酸素空孔を介して拡散することが抑制され、半導体装置の特性が変動することを抑制できる。
【0039】
また、本実施形態では、酸素空孔補償工程を行うことで不純物が拡散することを抑制できる。このため、加熱処理を行って不純物を活性化させる際、1000℃以上の高温で加熱処理を行うことができ、不純物を十分に活性化させることができる。
【0040】
(1)本実施形態では、酸素含有イオンをイオン注入することで酸素空孔補償工程を行っている。このため、容易な方法で酸素空孔補償を行うことができる。
【0041】
(2)本実施形態では、加熱後イオン注入層を形成する不純物として、Mg、Be、Ca、Zn、N、Ni、Cu、Si、Ge、Sn、C、Clの少なくともいずれか1つのイオンをイオン注入して加熱後イオン注入層を形成することができる。このため、不純物の選択自由度の向上を図ることができる。
【0042】
(3)本実施形態では、Mgをイオン注入してガードリング層31を形成する場合、加熱処理前のO濃度がMg濃度(すなわち、不純物の注入濃度)の0.1倍以上となるように酸素含有イオンをイオン注入することにより、加熱処理を行った際に十分にMgの拡散を抑制することができる。
【0043】
(4)本実施形態では、加熱処理前のO濃度が不純物濃度よりも全体的に高くすることにより、加熱処理を行った際に不純物の拡散を抑制し易くできる。
【0044】
(5)本実施形態では、加熱処理前の酸素含有イオンの終端深さの方が不純物の終端深さよりも深くなるようにすることにより、加熱処理を行った際に不純物の拡散を抑制し易くできる。
【0045】
(6)本実施形態では、加熱前イオン注入層32を形成する際にイオン注入する不純物の総量よりも酸素含有イオンをイオン注入する際の総量の方が多くなるようにすることにより、加熱処理を行った際に不純物の拡散を抑制し易くできる。
【0046】
(第1実施形態の変形例)
上記第1実施形態の変形例について説明する。上記第1実施形態において、半導体装置は、図14に示されるように、半導体層12のうちの第1電極21と接続される部分の内縁部に、ドナー補償層34を形成したジャンクションバリアショットキーダイオードが形成されて構成されていてもよい。この場合、ドナー補償層34は、ガードリング層31と同様に、p型不純物がイオン注入された後に活性化された加熱後イオン注入層で構成される。このため、ドナー補償層34が形成される部分についても酸素空孔補償工程を行うことにより、ドナー補償層34が拡散することを抑制できる。
【0047】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、半導体素子を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0048】
本実施形態の半導体装置は、図15に示されるように、MOSFETが形成されて構成されている。具体的には、この半導体装置は、第1実施形態と同様の半導体基板10を備えている。そして、半導体基板10には、一面10a側に、ドナー補償層としてのチャネル層35が形成されている。チャネル層35の表層部には、n型のソース層36が形成されている。
【0049】
なお、チャネル層35は、p型不純物がイオン注入された後にp型不純物が活性化されることで構成されている。ソース層36は、n型不純物がイオン注入された後にp型不純物が活性化されることで構成されている。このため、本実施形態では、チャネル層35およびソース層36が加熱後イオン注入層に相当する。
【0050】
また、半導体基板10の一面10a上には、チャネル層35上に、酸化膜等で構成されるゲート絶縁膜37が配置されている。そして、ゲート絶縁膜37上には、ドープトポリシリコン等で構成されるゲート電極38が配置されている。
【0051】
半導体基板10の一面10a上には、チャネル層35およびソース層36と接続され、ソース電極として機能する第1電極21が配置されている。半導体基板10の他面10b側には、基板11と接続され、ドレイン電極として機能する第2電極22が配置されている。
【0052】
このような半導体装置は、半導体基板10を用意した後、チャネル層35およびソース層36を形成すると共に、ゲート絶縁膜37、ゲート電極38、第1電極21、第2電極22等を形成することで製造される。
【0053】
そして、チャネル層35は、p型不純物がイオン注入された後にp型不純物が活性化されることで構成され、ソース層36は、n型不純物がイオン注入された後にn型不純物が活性化させることで構成される。このため、本実施形態では、チャネル層35を形成する際には、p型不純物をイオン注入すると共に酸素含有イオンを注入し、その後に加熱処理を行うことでチャネル層35を形成する。同様に、ソース層36を形成する際には、n型不純物をイオン注入すると共に酸素含有イオンを注入し、その後に加熱を行うことでチャネル層35を形成する。この場合、チャネル層35を形成する際の酸素含有イオンをイオン注入する工程と、ソース層36を形成する際の酸素含有イオンをイオン注入する工程とは、同じ工程で行ってもよい。
【0054】
以上説明した本実施形態のように、加熱後イオン注入層で構成されるチャネル層35およびソース層36を含む半導体装置としても、酸素空孔補償工程を行うことにより、チャネル層35およびソース層36を構成する不純物が拡散することを抑制できる。
【0055】
(他の実施形態)
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0056】
上記各実施形態では、加熱処理を1000℃以上で行う例について説明したが、加熱処理は、不純物が活性化されるのであれば1000℃未満で行ってもよく、例えば、500℃を超える温度であって、1000℃未満の温度で行ってもよい。
【0057】
また、上記各実施形態において、酸素空孔補償工程は、酸素含有イオンをイオン注入するのではなく、他の方法で行ってもよい。例えば、半導体基板10に不純物をイオン注入する前に、大気中で加熱処理を行い、大気中の酸素を半導体基板10に取り込むことで酸素空孔を補償するようにしてもよい。
【0058】
さらに、上記各実施形態において、酸素空孔補償工程を行った後、不純物をイオン注入することと加熱処理を行って不純物を活性化させることとを同時に行ってもよい。例えば、酸素空孔補償工程を行った後、1000℃の温度条件で不純物をイオン注入することにより、不純物をイオン注入しつつ、当該不純物を活性化させるようにしてもよい。これによれば、不純物を活性化させるためのみの加熱処理が不要となり、製造工程の削減を図ることができる。
【0059】
さらに、上記各実施形態では、半導体基板10がn型とされている例を説明したが、半導体基板10がp型とされ、n型不純物をイオン注入して加熱後イオン注入層を構成するようにしてもよい。
【0060】
また、上記各実施形態では、半導体基板10がGaで構成される例について説明した。しかしながら、半導体基板10は、酸化物半導体で構成されるものであればよく、例えば、Ga系の材料としての(AlInGa)等で構成されていてもよい。
【0061】
そして、上記第2実施形態では、プレーナゲート型のMOFETが形成された半導体装置を説明したが、半導体装置は、トレンチゲート型のMOSFETが形成されて構成されていてもよい。また、半導体装置は、MOSFET以外に、同様の構造のIGBTが形成されて構成されていてもよい。IGBTの場合、上記第1実施形態におけるn型の基板11をp型の基板(すなわち、コレクタ層)に変更する以外は、上記第2実施形態と同様の構成である。
【0062】
[本発明の開示]
上記した本開示については、例えば以下に示す観点として把握することができる。
【0063】
[第1の観点]
半導体装置の製造方法であって、
酸化物半導体で構成され、一面(10a)を有する半導体基板(10)を用意することと、
前記半導体基板の一面から第1導電型または第2導電型の不純物をイオン注入することと、
前記半導体基板における加熱後イオン注入層(31、34、35、36)を形成する領域の酸素空孔補償を行うことと、
前記不純物を活性化させて前記加熱後イオン注入層を形成する加熱処理を行うことと、を行う半導体装置の製造方法。
【0064】
[第2の観点]
前記酸素空孔補償を行うことでは、酸素が含まれる酸素含有イオンを注入する第1の観点に記載の半導体装置の製造方法。
【0065】
[第3の観点]
前記不純物をイオン注入することでは、前記不純物が未活性の状態となる加熱前イオン注入層(32)が形成されるように前記不純物をイオン注入し、
前記加熱処理を行うことは、前記不純物をイオン注入することおよび前記酸素空孔補償を行うことの後に行う第2の観点に記載の半導体装置の製造方法。
【0066】
[第4の観点]
前記酸素空孔補償を行うことの後、前記不純物が活性化する温度で前記不純物をイオン注入することにより、前記不純物をイオン注入することおよび前記加熱処理を行うことを同時に行う第2の観点に記載の半導体装置の製造方法。
【0067】
[第5の観点]
前記不純物をイオン注入することおよび前記酸素空孔補償を行うことでは、注入濃度において、酸素濃度が不純物濃度に対して0.1倍以上の濃度となるように、前記酸素含有イオンを注入する第2ないし第4の観点のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【0068】
[第6の観点]
前記不純物をイオン注入することおよび前記酸素空孔補償を行うことでは、注入濃度において、前記半導体基板の深さ方向において、酸素濃度が不純物濃度よりも全領域で高くなるように、前記不純物をイオン注入すると共に前記酸素含有イオンをイオン注入する第5の観点に記載の半導体装置の製造方法。
【0069】
[第7の観点]
前記不純物をイオン注入することおよび前記酸素空孔補償を行うことでは、注入濃度において、前記半導体基板の深さ方向において、前記不純物の終端深さより前記酸素含有イオンの終端深さの方が深くなるように、前記不純物をイオン注入すると共に前記酸素含有イオンをイオン注入する第2ないし第4の観点のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【0070】
[第8の観点]
前記不純物をイオン注入することおよび前記酸素空孔補償を行うことでは、注入濃度において、前記不純物をイオン注入する際にイオン注入する不純物の総量よりも、前記酸素含有イオンをイオン注入する際の酸素の総量の方が多くなるように、前記不純物をイオン注入すると共に前記酸素含有イオンを注入する第7の観点に記載の半導体装置の製造方法。
【0071】
[第9の観点]
前記不純物をイオン注入することでは、Mg、Be、Ca、Zn、N、Ni、Cu、Si、Ge、Sn、C、Clの少なくともいずれか1つのイオンをイオン注入する第2ないし第8の観点のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【0072】
[第10の観点]
前記半導体基板を用意することでは、Ga系の材料で構成される前記半導体基板を用意する第1ないし第9の観点のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【0073】
[第11の観点]
前記半導体基板を用意することでは、Ga系の材料として、(AlInGa)で構成される前記半導体基板を用意する第10の観点に記載の半導体装置の製造方法。
【符号の説明】
【0074】
10 半導体基板
10a 一面
31 ガードリング層(加熱後イオン注入層)
32 加熱前イオン注入層
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15